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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

地方で進むBIM-地場ゼネコンによる設計事務所とのBIM連携-

2022年11月8日

はじめに

わが社は沖縄県に本社を置く総合建設業、いわゆる地場ゼネコンである。
私は建築積算と工事部支援が主な業務の工務部に所属している(写真-1)。
 
工務部では2016年からBIMを施工に使用するために導入し、事業計画の迅速化、施工計画の効率アップ、問題の早期解決を目的に活用している。
私が管理し、他5名のメンバーがBIM入力を担当している。
 
BIM専門の部署はなく、設計部では福井コンピュータアーキテクト(株)の「GLOOBE」を、工務部ではグラフィソフトジャパン(株)のBIMソフト「Archicad」を導入し業務に活用している。

金秀建設株式会社 BIM入力メンバー

写真-1 BIM入力メンバー



 

設計事務所とのBIM連携に至る経緯

グラフィソフトジャパン(株)が公認したArchicadユーザーグループが全国各エリアにある。
その全国ユーザーが集まるイベントが2019年に開催され、施工分野での実行委員として参加した(写真-2)。
 
私はそれまで、設計と施工ではBIM活用の目的の違いもあり、BIM連携はメリットがないのでは…という視野の狭い考えを持っていた。
実際に全国のBIM活用実状を体験したことで、BIM連携の効果と重要性を学ぶことができた。
以降、管理者である私の無知がBIM推進を妨げていたことを反省し、設計とのBIM連携を率先して行うようにしている。

Archicadユーザーイベント「USERFEST2019志賀島」

写真-2 Archicadユーザーイベント「USERFEST2019志賀島」



 

BIM連携事例:保育園改修工事

前項のイベントにて出会った鹿児島県の設計事務所(株)ixreaの吉田氏より、沖縄県那覇市での保育園改修工事のご依頼をいただいた。
 
テナントビル2Fの元居酒屋を保育園に改修する工事で、補助金の関係で短工期、施主は東京と問題が多々あった。
工程を調整し、本見積を経て別途内装解体も目処が見えてきた頃、新たな問題が発生した。
 
①内装解体後、現場を確認すると、柱・窓開口などの位置や形状が図面と違う
②天井裏からさまざまな配管・配線が出てきた(写真-3
③東京・沖縄に緊急事態宣言発令。設計・施主ともに沖縄への来県が困難に
 
30年程前に完成した建物で、竣工図と建物でくい違いが多く、30年の間に改修された可能性もあった。
鹿児島県~沖縄県と距離があり、確認しながらの作図には限界があるので、竣工図を元に作図するしかなかったと考えられる。
 
工期:71日間(図面受取から102日間)という短工期で、くい違いの確認~変更提案~承認を施主・設計共現場立会が困難な中で対応する必要があり、早期の問題解決が急務だった(図-1)。
 
そこで、引き継いだ設計BIMデータを活用し、早期の問題解決を行った。

 
 

①現場と図面の食い違いの把握
喫緊の対応が必要な状況で、図面を見ながら現場を確認するのは非効率的で、計測間違いによる手戻りの恐れもあった。
そこで、BIMモデルにiPadProのLiDAR機能で撮影した現場の点群データを「重ね合わせ」ることでくい違いの把握を行うことにした(図-2、3)。
 
問題発覚から点群取得、BIM化までを2日で行い、翌日に鹿児島の設計へ送信。
その後、設計より東京の施主へ問題の説明~提案することで、早期の回答を得ることができた。

 
 

②既設配管の把握および新設配管のBIM納品
貸主側の配管を取り除くことは不可で、引き渡し後に隠蔽部での不具合があった場合に責任範囲が不明確になる恐れがあった。
そこで、新設配管を隠蔽前に点群取得し、BIM化し竣工データとして納品した。
既設天井配管は細く、点群取得が困難だったため、360°カメラにて撮影し納品した。
 
竣工図で、隠蔽前の写真と点群+BIMデータを並べて納品した(図-4)。
無料BIMビューアソフト「BIMx」に設計図BIM・施工図BIM・隠蔽写真類をまとめて納品したことで、竣工後、BIMソフトがなくても施設管理に活用することが可能になった。

柱の形状違い・既設配管類

写真-3 柱の形状違い・既設配管類

柱の形状違い・既設配管類

図-1 全体工程表



 

丸柱が廊下に飛び出る

図-2 丸柱が廊下に飛び出る

完成時丸柱

図-3 完成時丸柱



 

隠蔽前写真+BIM

図-4 隠蔽前写真+BIM



 

BIM連携の効果

1.設計BIM引き継ぎのメリット
・設計時に3Dで細かな範囲まで施主合意を得られたため、スイッチ位置などを総合図での確認が不要(図-5)。
 とても分かりやすい展開図で、現場からも好評だった。
 これは今回短工期で工事を完成させられた主な要因である。
・設計BIMデータを元に、数量算出や点群重ね合わせなど、目的に応じて活用できる。
 
現在、自社設計部がGLOOBEでモデリングしたBIMデータをIFCに変換し引き継ぎ、数量算出に活用している。
別ソフトでもBIM連携することは十分に可能である。
 
ArchicadではIFCデータに含まれる「情報」を検索~集計するのが容易で、他BIMソフトデータでも目的に活用することができる。

設計展開

図-5 設計展開



 

2.施工BIM納品の重要性
・設計BIMを引き継いで施工図化し納品することで、現場とのくい違いや修正範囲を記録し共通認識するとこができる。
・明細な施工図(竣工図)が、実際に施工された隠蔽部の配管位置の根拠にはならない。
 隠蔽部の配管を点群にして取り込むことで、確実な配管位置が分かる。

 
 

BIMを実務に活用するための参考

私が実務でBIMを活用してきた中での重点項目をまとめたので、僭越ながら掲載させていただく。
参考になれば幸いです。
 
1.モデリングは目的を明確に
「全部BIMで」は危険。
「とりあえずモデリング」はムダになる。
 
2.モデリングする時間がない?→スタートを早めればよい
資料が全て揃うのを待つ必要はない。
現段階・目的を把握し、必要な資料のみを受け取りモデリングを開始する。
 
3.アウトプットが重要。結果が出なければ結局ムダに
目的を持ったBIMは、承認につながる。
BIMだけにこだわらない。
BIM+αでうまく提案。
 
4.育成は入力者も大事だが、BIM管理者が重要である
若い担当に責任と権限を持たせる。
管理者と入力者が「共育」できる体制づくり。
 
5.プレイングマネジャーは避けた方がよい
本人が入力した物が「正」と考える心理が働く。
客観的な判断が必要。
 
6.全体の物件(現在、過去、今後の物件)を把握し、今後を見据えた管理が必要
ソフト・アドオンの進化を取り込む技術が必要。
ユーザー会で情報収集。
 
7.入力者は「オペレーター」にせず「エンジニア」を見据えた育成を
「物件の目的」に対し、どう入力するか、どのBIM効果を活用するかを一緒に考える。
講習会などに行かせるだけでは受け身になる。
習ったことをすぐ実践で試させる。
OJTが効果的。概算物件は生きた教材。
 
8.難しい物件こそBIM導入するべき。無難な物件で試しても効果は出ないし分からない
 
9.まず、やってみる姿勢が大切

 
 

さいごに

今回、保育園改修工事が短期間で納期内に完成できたのは、設計者をはじめ、現場代理人と技術員の技術力、協力業者の協力や施主の対応のおかげだと考えている。
その上で、BIM連携による問題の早期解決や遠距離間での早期合意が、現場の負担を軽減させ、業務の効率化に貢献できたと実感している。
普段から問題解決にBIMを活用していたからこそ、喫緊の問題にもBIMを活用して解決できたと思う。
 
物件規模の小さな、小回りがきく地場ゼネコンこそBIMを活用し、効率化を図り、地域に根差した進化を目指すべきだと考えている。

 
 
 

 

金秀建設株式会社 工務部 課長
大木 篤史

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



中国整備局におけるBIM/CIMの取り組み

2022年11月1日

はじめに

国土交通省では、デジタル技術を駆使して業務や働き方などの改革を目指す「インフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)」が動き出しました。
そのインフラ分野のDXの取り組みの一つがBIM/CIM(Building Information Modeling/Construction Information Mo deling)であり、令和5年度までに小規模なものを除く全ての公共事業におけるBIM/CIM原則適用に向けて、段階的に適用拡大しています。
 
中国地方整備局においてもBIM/CIM活用の取り組みも含めた「生産性向上」と「働き方改革」をより強力に推進するため、「中国地方整備局i-Construction推進本部」を改編した「中国地方整備局インフラDX推進本部」を令和3年10月12日に設置しました。
 
本稿では、これからの建設業の「生産性向上」に欠かせないBIM/CIMの活用について、中国地方整備局の取り組みを紹介します。

 
 

中国地方整備局のBIM/CIM活用状況

令和5年度までに小規模なものを除く全ての公共事業におけるBIM/CIM原則適用に向けて中国地方整備局においてもBIM/CIM活用業務および工事の活用拡大を進めています。
 
BIM/CIM活用の対象業務は、令和元年度が大規模構造物詳細設計、令和2年度は詳細設計に加え予備設計も原則適用としました。
 
BIM/CIM活用の対象工事は、詳細設計のBIM/CIM成果品がある工事について原則適用としました。
 
業務および工事のBIM/CIM活用の対象事業を拡大したことによってBIM/CIM活用が増えております(表-1)。
 
令和3年度からは大規模構造物以外の道路設計や河川構造物設計などの詳細設計もBIM/CIM原則適用とし、さらなる活用拡大に取り組んでいます。

BIM/CIM活用件数(令和元・2年度)

表-1 BIM/CIM活用件数(令和元・2年度)



 

国道2号大樋橋西高架橋(3次元情報活用モデル事業)の事例

集中的、継続的にBIM/CIMを活用し、3次元データの活用やICTなどの新技術の導入を加速化する『3次元情報活用モデル事業』の対象である国道2号大樋橋西高架橋の事例を紹介します。
 
国道2号大樋橋西高架橋工事(工事延長L=約640m)は国道2号の慢性的な交通渋滞の緩和を目的に国道2号の立体化を行う工事です。
また、本工事はECI方式で発注を行いました。

(1)ECI方式の活用

交通量の非常に多い交差点で行われる工事であり、かつ、道路占用物件の移設や交差点内の建築限界確保、既設水路および架空送電線との離隔確保、施工ヤードの用地制約など、設計与条件が多いため、早い段階から施工者の意見を聞きながら詳細設計を進めていくECI方式を採用しました。
 
ECI方式の活用により、設計段階から施工者の意見を反映した3次元モデルでの設計や施工計画の検討が行えたことにより、BIM/CIM成果が施工にスムーズに引き継ぐことができました。

(2)施工を見据えたBIM/CIMモデルの構築

設計者のモデル作成段階で施工者の意見(上部工のブロック分割(図-1)、付属物のモデル化(図-2)など)を取り入れたことにより、施工者が新たにモデル化する手間が省け、効率化が図れました。

上部工架設時のブロック割を考慮したモデル作成

図-1 上部工架設時のブロック割を考慮したモデル作成


付属物確認(検査路等)

図-2 付属物確認(検査路等)


(3)3Dモデルを活用したWeb工場検査を実施

CIM-LINKを活用してデータの重い3次元モデルを画面上に表示させ、遠隔臨場検査を実施しました(写真-1)。
工場での仮組検査はウエアラブルカメラなどを装着した受注者の担当者に測定箇所を指示して実施することができ、移動時間の短縮また、新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策としても有効でした。

遠隔臨場による工事検査

写真-1 遠隔臨場による工事検査


(4)BIM/CIMを用いた施工計画

交通量の非常に多い場所で、かつ、限られた施工ヤードでの施工となるため、施工計画は十分に検討して計画する必要がありました。
 
そこで、設計段階から施工ステップや重機・仮設材の配置および安全対策などを3次元に時間軸を加えた4Dモデルで表現し、施工計画の共有を行いました(図-3)。
さらに施工段階では、設計段階で作成した4Dモデルを用いて、切廻し時の一般車両の通行を再現した走行シミュレーションやクレーン付近に監視員、出入り口に警備員のモデル配置を反映したクレーン仮設アニメーションをVRで確認することで警備員や仮設材の配置計画など、施工内容がより視覚的に表現され、従来では分かりにくい施工内容も理解することが可能となりました。

BIM/CIMを用いた施工計画

図-3 BIM/CIMを用いた施工計画


(5)関係者間での情報連携

3次元情報共有クラウドサービスCIM-LINKを導入し発注者・設計者・施工者でBIM/CIMモデルなどを共有し情報連携を行いました。
その結果、発注者・設計者・施工者の三者間で合意形成がスムーズに行え、問題の早期発見、対応を検討することができました。

 
 

BIM/CIM活用拡大に向けた人材育成

BIM/CIMの活用促進に向けて、発注者である中国地方整備局の職員に対しても、BIM/CIMに関する講習や3次元CADソフトを使った操作の実演などを実施し、3次元情報を利活用できる職員の育成に取り組んでいます(写真-2)。
 
さらに、中国地方整備局の職員に対して行った講習を地方自治体職員に対しても実施したところです。

BIM/CIM活用研修

写真-2 BIM/CIM活用研修



 

おわりに

令和5年度までに小規模を除く全ての公共工事についてBIM/CIMを原則活用する目標に向け、業務および工事のBIM/CIM活用が進んでおりますが、一方で3次元測量データの設計段階への活用や後工程を見据えた3次元データの詳細度の設定など、調査、設計、施工の各段階で作成している3次元データ活用の課題もあります。
 
そのため、中国地方整備局内に「BIM/CIM活用検討会」を設け、BIM/CIM活用の課題解決や効果的、効率的な有効活用の検討に取り組んでいきます。

 
 

国土交通省 中国地方整備局 企画部 技術管理課 建設専門官
村上 友章

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 
 



北海道開発局におけるBIM/CIMの取り組み

はじめに

地域の産業・暮らしや生産空間の維持などに不可欠なインフラ整備のみならず、激甚化・頻発化する災害への対応などを担う建設業の役割は極めて重要であり、地域の守り手としての期待も増している。
しかしながら、北海道では全国を上回るペースで生産年齢人口が減少する中、建設業の担い手不足は喫緊の課題であり、働き方改革や生産性向上によって建設業の魅力アップを図ることが求められている。
また、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、デジタル化による社会の変革が求められる中、インフラ分野のデジタル化・スマート化を、スピード感を持って強力に推進していく必要がある。

 
 

北海道開発局におけるBIM/CIMの取り組み

北海道開発局では、地域を支える建設業の健全な発展を後押しし、建設業などの働き方改革の実現と建設現場の生産性向上に向けた取り組みを行うため、「北海道開発局建設業等の働き方改革実施方針」を策定している。
また、令和3年度からは新たに、データとデジタル技術を活用した、非接触・リモート型の働き方への転換と抜本的な生産性や安全性向上を図るため、『北海道開発局インフラDX・i-Construction推進本部』を設置し、北海道開発局インフラDX・i-Constructionアクションプラン』を策定したところである。

(1)令和3年度 北海道開発局建設業の働き方改革実施方針の策定

「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」、「新・担い手3法」などを踏まえ、北海道開発局では働き方改革および生産性向上を推進する取り組みを実施している。
 
①取り組みⅠ:働き方改革の推進
適正な工期設定・施工時期の平準化などの取り組みを方針として掲げ、働き方改革の実現に向け、現場レベルでの意識の浸透および実施の徹底を図っている。
 
②取り組みⅡ:生産性向上の推進
BIM/CIM活用工事・業務の段階的な拡大を推進といったICTの全面的な活用や、全体最適の導入などを方針として掲げている。
生産性向上の取り組みに当たっては、インフラDXの取り組みと連携して推進している。

(2)令和3年度北海道開発局インフラDX・i-Constructionアクションプラン

インフラDX・i-Construction推進にあたり、アクションプランを策定し、「i-Constructionの推進」、「BIM/CIMの推進」、「インフラDXの推進」、「フォローアップ活動」について、具体的な取り組み項目を設定している(図-1)。
 
「BIM/CIMの推進」の中では、「BIM/CIM活用工事・業務のモデル事務所の取組を他開発建設部にも展開」を掲げ、BIM/CIM拡大に向けた取り組みを実施している。
 

令和3年度北海道開発局インフラDX・i-Construction アクションプラン

図-1 令和3年度北海道開発局インフラDX・i-Construction アクションプラン


(3)i-Constructionモデル事務所での取り組み

北海道開発局では小樽開発建設部(小樽道路事務所)が、i-Constructionの取り組みを先導する「i-Constructionモデル事務所」となっており、一般国道5号倶知安余市道路について、調査・設計から維持管理までBIM/CIMを活用しつつ、3次元データの活用やICTなどの新技術の導入を加速化させる『3次元情報活用モデル事業』を実施し、集中的かつ継続的に3次元データを利活用することで、事業の効率化を目指している(図-2)。
 
設計業務においては、橋梁の詳細設計にてBIM/CIMモデル化を実施、また、事業区間全体の航空測量を実施するなど取り組みを進めている。
 
工事においては、地盤改良工事におけるICTの全面的活用として、深層混合処理における「施工履歴データを用いた出来型管理要領」などに沿ったICT技術の活用を行っている。
 
トンネル掘削工事では、施工開始前の3次元モデルによる施工計画や安全性に関する詳細な検討を行っている。
これらの取り組みをはじめ、地山性状の3次元モデル化、内空変異の計測結果をモデル上に表示する危険性の可視化に関する取り組みを行っている。
また、鋼橋の上部工事では工場製作用の3次元プロダクトモデルを作成し、照査に活用したほか、3次元モデルに時間軸を導入し架設順序をシミュレートする4次元モデルとして施工計画に活用するなど、各工事でBIM/CIMが活用されている(図-3)。

倶知安余市道路

図-2 倶知安余市道路


4次元モデルによる橋梁架設計画

図-3 4次元モデルによる橋梁架設計画


(4)北海道開発局インフラDX・i-Construction先導事務所の設置

令和3年度のアクションプランの取り組みのひとつである「BIM/CIM活用工事・業務のモデル事務所の取組を他開発建設部にも展開」を推進するため、各開発建設部に「インフラDX・i-Construction先導事務所」を設置し、「i-Constructionモデル事務所」である小樽開発建設部(小樽道路事務所)のノウハウを全道に展開する取り組みを令和3年8月に開始した(図-4)。
 
全道14の先導事務所での取り組みとして、直轄工事・業務での取り組み推進や、高スペックPCなどの環境整備・研修受講などを優先的に実施している。
まずは先導事務所職員のスキルアップを図り、先導事務所から開発建設部内全体へ波及させ、将来的には各地域の地方公共団体や地域企業(工事・業務)の取り組みのサポートなどを目指している(表-1)。

北海道開発局インフラDX・i-Construction 先導事務所の設置

図-4 北海道開発局インフラDX・i-Construction 先導事務所の設置


先導事務所一覧

表-1 先導事務所一覧


(5)講習会や研修の取り組み

人材育成推進や地方公共団体・民間企業への情報共有を図るため、講習会や研修、セミナーなどを開催し、北海道開発局職員、地方公共団体職員、民間企業担当者を対象として、インフラDX・i-Construction・BIM/CIMの取り組みなどについて説明を行っている。
また、3次元測量機器の実習や3次元CADソフトの操作説明なども実施し、3Dデータを活用できる人材育成を推進している。
 
令和3年度はコロナ禍の影響もあり、講習会や研修の内容に応じて、全道の担当者を対象としたオンライン形式での講習会も実施している。

 
 

おわりに

北海道開発局では、地域を支える建設業の健全な発展を後押しするため、建設業などの働き方改革の実現と、建設現場の生産性向上に向け、引き続きBIM/CIM活用に関する取り組みを推進していく。

 
 

国土交通省 北海道開発局 事業振興部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 
 



BIMデータで積算できるのか?-BIM-積算のデータ連携について-

2022年10月24日

はじめに

建築の業界で、BIMが普及してきたように感じる昨今ですので、実際に基本計画や、基本設計でBIMを使用して積算までを行えるような仕組みを構築している企業もあるかと思います。
 
しかし、われわれのような積算事務所の立場で行う積算業務においてどれほどBIMを使用しているかと言われると、全体から見ればほんの一握りであるというのが現状だと感じます。
 
設計事務所やゼネコンの設計者からは、「積算に使うのはまだまだ先」「今後は積算につなげたい」「一度実際に検証も行ったが、そこからは進んでいない」といった意見を耳にすることもあれば、積算事務所側においても「BIMで積算は難しい」「BIMデータを利用したとして、数量の責任の所在はどうするのか」などの意見もあり、設計・施工では各社BIM化への取り組みが進んでいる中、積算という分野は取り残された存在になりつつあります。
 
実務でBIMデータを積算に利用するという点では、懐疑的な意見が飛び交うところではありますが、あくまで積算事務所の、そして、積算ソフトのユーザーである立場から「本当にBIMデータで積算はできるのか」にフォーカスを当ててお話しすることとします。

 
 

データ連携

まず従来、建築積算を行うには建築数量積算基準にのっとった数量の算出が必要となり、その作業に特化したものが積算ソフトです。
 
またBIMには集計表などの機能がありますが、それを使用したとしても、基準どおりの数量算出はできません。
 
BIMデータにさまざまな情報が入力され、積算に必要な情報を積算ソフトへ連携できれば、効率化・省力化が十分に図れ、それと同時に設計図書との情報の相違もなくなるため、より精度の高いアウトプットを出すことが期待できます。
 
もちろんBIMが持つ全ての情報を連携することは、現状困難ではありますが、建築モデルからは、仕上・間仕切・建具などの開口情報、構造モデルからは躯体や鉄骨のデータ連携が可能です。
 
設計BIMでは、実施設計までをフルBIM化することは、まだまだ多くはないように感じますが、情報が全て入力されていない段階のBIMモデルであっても、その入力された情報を利用することがBIM積算連携を進める第一歩になると考えます。
 
躯体・鉄骨については、構造計算ソフトや構造モデルから各積算ソフトへのデータ連携がある程度できることが周知されつつあるため、今回は建築モデルの積算データ連携にスポットを当てたいと思います。
 
多くの会社で採用されている代表的なBIMソフトであるRevitとArchicadと、弊社でも採用しているBIM連携積算ソフトであるΗΕΛΙΟΣとのデータ連携について、検証を含めた実例を紹介します。
 
ΗΕΛΙΟΣへのデータ連携では、BIMデータ標準形式であるIFCデータで連携する方法(以下、IFC連携)と、ΗΕΛΙΟΣのローカルファイルであるTSVデータを使用して連携する方法(以下、ダイレクト連携)の2通りの方法が存在します。

 
 

実例(1)Revitモデル

まずは、Revitで作成された延べ床面積が約6,000m²、4階建ての庁舎を実例としてご紹介します。
 
はじめに、標準形式であるIFC連携でのデータ連携を試みました。
 
Revitから出力したIFCデータを読み込むと、「階情報が正しくありません」「処理が正常に終了しませんでした」と表示され、読み込むことすらできませんでした。
 
エラー表示だけでは原因の見当が付かないため、モデリングしている要素(以下、モデル要素)に原因があると仮定し、不具合を起こしていそうな要素から順に削除しながら検証を行いましたが、モデル要素が全て削除された状態であっても読み込むことはできませんでした。
 
残るモデル要素は通り芯のみとなり、通り芯の中で原因となり得そうな箇所を探したところ、この案件では斜めの通り芯が存在し、仮にこの通り芯を削除した結果、読み込みが可能となりました。
 
しかし、通り芯を削除する方法ではBIMデータに影響が起こる可能性もあるため、もう一つの連携方法であるダイレクト連携を使用すると、該当する通り芯を削除することなく連携することができました(図-1)。
 
この後に紹介するモデル要素の連携を一通りIFC連携で行いましたが、不具合が多く、データ変換にかかる時間もダイレクト連携の方が圧倒的に早いことを考慮し、以降はダイレクト連携での検証を紹介します。
 
ダイレクト連携を行った結果、建築モデルのデータがΗΕΛΙΟΣにおおむね連携ができているように見えましたが、一部連携されていない壁があり、その壁をRevitで確認すると、曲面の壁でした。
 
しかし、この他に存在している曲面の壁は連携できていたため、当該の壁との相違点を調べた結果、連携された壁は円弧上に配置されており、連携されていない壁は自由曲面で配置されている壁であることが分かりました(図-2)。
 
自由曲面のように、特殊な形状の壁はBIMソフトで表現することができますが、積算ソフトでは、現状連携は難しいようです。
 
そのため、そういった壁に関しては、連携後に積算ソフト上で配置するなど手を加える必要があります。
 
先ほど取り上げたような特殊な形状の壁などは反映されないため、その壁に面している部屋にも影響があるのではないかと考えましたが、部屋自体は連携されていることが確認できました。しかし、部屋の輪郭線には影響が起きていました。
 
その他のモデル要素として、ドアや窓(以下、建具)を連携させる場合、建具の内法寸法の情報を持つパラメータを出力時に設定し連携を行いましたが、一部連携できていないものが見られました。
 
それらをRevitで確認すると、建具によって異なるパラメータを使用しており、一方ΗΕΛΙΟΣの設定では読み込むパラメータが一種類しか設定ができないためにおこる不具合であることが分かり、連携させるためにはパラメータ名の統一が必須であるということも明らかになりました。
 
ここまでの修正を行ったことで、通り芯、壁、部屋、建具の連携可能な部分について連携することができました。

通り芯のIFC連携とダイレクト連携

図-1 通り芯のIFC連携とダイレクト連携


曲面壁のモデリングによる連携

図-2 曲面壁のモデリングによる連携



 

実例(2)Archicadモデル

では次に、Archicadで作成された延べ床面積が約3,000㎡、9階建ての事務所ビルを実例としてご紹介します。
 
まずはRevit同様に、IFC連携で試みた結果、おおむね読み込むことができましたが、ここでも一部の通り芯が反映されない現象が発生しました。
 
Revitでは、ダイレクト連携を行うことでBIMデータを修正することなく連携できたため、同様にダイレクト連携で行ったところ、こちらも全ての通り芯が反映されました。
そのため、ここからはRevitと同様にダイレクト連携での検証を紹介します。
 
ダイレクト連携を行った結果、Archicadでは円弧の壁が、ΗΕΛΙΟΣではその円弧の始点と終点を結ぶ直線の壁となる現象が発生しました。
そのため連携後に修正するなどの手を加える必要があります。
その他にも位置がずれた状態で反映されている壁がありましたので、Archicadで確認すると、断面形状マネージャを使用して作成した壁であることが分かりました。
 
断面形状マネージャとは、壁などの断面を自在に作成することができるArchicad特有のツールであり、それを使用していると壁芯位置がずれて反映されてしまうことが判明しました(図-3)。
 
Revitと同様に、壁の表現はBIMソフトでの形状をそのまま積算ソフトへ連携できないものが存在します。
 
部屋への影響はArchicadに関しても現れ、連携できない壁に面している部屋自体は連携されましたが、部屋の輪郭線には影響が起きました。
 
建具を連携させる場合、ドアまたは窓ツールで配置されている必要がありますが、このBIMデータは、全てドアまたは窓ツールを使用していたため、問題なく連携されました。
 
ここまでの修正を行ったことで、通り芯、壁、部屋、建具の連携できる部分については連携することができました。
 
 
2つの実例を紹介しましたが、上記の要因のみが連携における主なエラーの原因であるとは言えず、BIMデータはプロジェクトごとにさまざまなツールやソフトを駆使して作成するため、連携のエラーを起こす原因も多岐にわたってしまうことが予想されます。
 
すなわち、BIMデータごとにエラーの原因を究明し、修正・調整を行うことは必然になるといえるでしょう。

断面形状マネージャによる不具合

図-3 断面形状マネージャによる不具合



 

仕上情報について

最後に、仕上情報の連携について紹介します。
 
これまでの実例では、モデル自体の連携を主に紹介しましたが、BIMで最も重要なI(インフォメーション)の部分についても、連携が可能です。
 
まず壁の仕上情報については、Revit、Archicadともに、下地と構造体を一体とした壁(以下、複合壁)を配置することで連携可能です(図-4)。
 
部屋の仕上情報は、Revitなら部屋の「インスタンスパラメータ」、Archicadなら「ゾーンスタンプ」か「分類とプロパティ」に仕上(例えばビニールクロス)の情報を与えることで連携が可能となります。
 
紹介した各モデルはパラメータに仕上情報が設定されており、ダイレクト連携を行うことで、複合壁の構造体のみが間仕
切として連携され、部屋の仕上と複合壁の下地が部屋情報として連携されました(図-5)。
 
積算上、間仕切として計上するのは構造体のみで、下地については部屋の下地として計上することが多いため、このような連携状況は理想的だといえます。
 
BIMモデルは外壁、屋根、建具の仕上情報も持っていましたが、それらの連携は現状ではまだ課題も多いと言わざるを得ません。
 
外壁と屋根を連携するためには、元より積算連携を意識した作成方法をとる必要があることが分かっていますが、これはBIMデータを作成する設計者を含めたモデラー側への足枷となってしまう上に、情報の連携なども不具合が発生しやすく、得られるメリットが小さいと感じます。
 
建具についても、モデリング方法によって員数の相違が発生する場合や、表面仕上などの情報に関しては連携できないといった点も課題が残ります。
 
こちらについては、今後の積算ソフトのバージョンアップなどを期待したい部分です。

複合壁

図-4 複合壁


間仕切と部屋の仕上情報

図-5 間仕切と部屋の仕上情報



 

まとめ

実例を通して、モデル自体の連携や仕上情報の連携について紹介してきましたが、これらのBIMデータを弊社で連携可能な形に調整するために要した時間と、従来の積算業務時間から連携によって削減された時間は相殺され、効率化という点でメリットが劇的にあるとはまだ言い切れません。
 
しかし、情報を正確に積算へつなぐ精度の向上という点においては十分メリットを感じられます。
 
効率化についても、検証事例が増加することでノウハウは確実に蓄積され、エラー要因の傾向をつかむことや、今後の連携精度が向上するとともに大いに期待できるものと考えています。
 
BIMデータに含まれる情報がいかに多くあったとしても、現時点では限定的な範囲での連携にはなりますが、BIMソフトと積算ソフト双方の理解があれば、「BIMデータで積算はできるのか」の問いに対しては、「できる」と答えます。
 
BIMデータごと、プロジェクトごとに連携できる範囲の見極めは必要であり、またその効果も一定には得られないことも多く、あくまで2D図面が正となる現状では、本来のBIMの概念と違うかもしれませんが、それであっても各社で取り組んだBIMデータを積算に活用していくことは必然と考えます。

 
 

今後に向けて

従来のように各社各様のルールで書かれていた設計図書で積算を行っていたように、各社各様のルールでBIMが作られること、同じ社内であっても作成者によって作り方が違うことは問題ではありません。
 
もちろん情報の入れ方、パラメータの命名、使い方やモデリング方法などを、ある程度のルールに基づいて行う方が連携の可能性は高まりますし、国内でBIMの標準化に対する動きが見受けられるので、そちらもさらに進めば、なおデータ連携の可能性は高まることになるでしょう。
 
しかし、BIMを積算のために作成するのではなく、あくまでも本来の目的を変えることなく、その上で積算にもデータ連携を行えるようになることが、本来のBIMのあるべき姿ではないでしょうか。
 
そして、それを実現するためには、連携をスムーズに行うための設計BIMと積算をつなぐ、BIMソフト・積算ソフト双方に精通した橋渡し役の存在が必要不可欠になろうかと考えています。
 
その役目をわれわれが担いモデリングする前段階からの支援、各社で現在まで蓄えられたオブジェクトなどの整理を行えば、BIMデータの有効活用へつながり、これからのさらなるBIM推進および普及の一端を担うことができると考えています。
 

 
 
草苅 秀和
DX推進室長 /1980年兵庫生まれ
一級建築士・建築コスト管理士
近畿大学卒業。入社後、構造積算に従事し、10年以上構造統括マネジャーを経験後、意匠積算へ異動し、プロジェクトマネジャーを経て、2020年11月のDX推進室立ち上げより現職。
 
 
 
 

株式会社 エステム建築事務所 DX推進室長
草苅 秀和

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



設計事務所にとってのBIMとは?

BIMの良いところ

2008年からBIM(Archicad:図-1)を使用して設計の仕事をしてきて思ったこと。
 
良いところ
・各図面が連動しているから便利(図-2)。
・コミュニケーションツールとして優秀、クライアントだけでなく社内スタッフ、社外パートナーとのイメージ共有が非常に楽(図-3)。
 

困るところ
・BIMが便利過ぎてBIM以外で仕事をすることが嫌になる、よって協力してもらえる社外パートナーが限られてしまう。
・スタッフの育成が大変。
 
これらをもとに良いところについてはもちろんですが、困るところをそのまま話して終わるのではなく、それらを解決するためにやっていること(これからやること)をお話しさせていただきます。

 
 

Archicad

図-1

BIMの良いところ

図-2


BIMの良いところ

図-3



 

設計、デザイン検討ツールとしてのBIM

今となっては当たり前のことですが、各図面が連動しています。
 
これは非常に便利です。
自分が建物を企画デザインしている際に、2Dと3Dを行き来しながらあらゆる角度で確認することができる。
 
2Dでモデルを入力して3Dに切り替えて、そのモデルがかっこいいのか悪いのか、視認性や安全性など、BIMモデル内を歩き回って点検して、気になることを修正しながらモデルを整えていく。
 
これを大量にスピーディーに繰り返しブラッシュアップさせていく。
 
これは2Dと3Dが連動しているから可能なことで、2DCAD+モデリングソフトの組み合わせだと、スピードと手間によってパフォーマンスはとても落ちてしまいます。
 
自分の頭で想像したモデルが本当にいいものなのか自問自答を繰り返す設計、デザイン作業にとって絶対必要なアイテムだと考えています(図-4、5)。
 
さらに歩を進めた基本設計、実施設計でもその連動性とスピードはもちろん、シミュレーションによる開口部の検討、詳細な納まりの検討、CGによる仕上げ材の検討は素晴らしい効果を発揮します(図-6、7、8)。

設計、デザイン検討ツールとしてのBIM

図-4

設計、デザイン検討ツールとしてのBIM

図-5


設計、デザイン検討ツールとしてのBIM

図-6

設計、デザイン検討ツールとしてのBIM

図-7


設計、デザイン検討ツールとしてのBIM

図-8



 

コミュニケーションツールとしてのBIM

自社で検討した設計案、デザインをクライアントに正確に伝えることは何より大切だと考えます。
 
自分自身でどんなに良い設計をしている認識があっても、クライアントにとっての最高の設計ではない可能性があります。
 
建物をお試しで建てることはできませんが、図面とBIMモデルを使用して体験をしてもらうことは可能です。
 
なるべくたくさんの情報をクライアントにお伝えして見てもらい、気に入るところや気に入らないところ、さまざまな意見やコメントをいただきながら案をブラッシュアップさせていき、設計案をクライアントにとっての最高の状態に近づけていきます。
 
このコミュニケーションを取るためにBIMのモデルベースの設計はシンプルに『見える』ので非常に便利です。
 
きれいにレンダリングをかけてもいいし、あえてスピード重視でArchicadの作業画面を見て編集しながら打合せを行うこともあります。
 
とにかく大量の情報を分かりやすくキャッチボールしていくことが大切だと考えています(図-9、10)。

コミュニケーションツールとしてのBIM

図-9

コミュニケーションツールとしてのBIM

図-10



 

Zoomなどの遠隔コミュニケーションに役立つBIM

コロナ禍でリモート打合せが浸透してきましたが、BIMとZoomの親和性は非常に素晴らしいです。
 
設計の打合せではArchicadの画面を共有してクライアントと打合せを行います。
 
オフラインではノートPCでArchicadの画面を一緒に見ながら打合せをしているので、基本的にはほぼ一緒です。
 
むしろ大人数の場合はオフラインよりオンラインの方が見やすいです(各自の目の前に画面があるので)。
 
これによって遠隔地の仕事でも、こまめにクライアントとコミュニケーションを取りながら設計打合せを進めていくことが可能になりました。
施工中の現場打合せまでZoomというわけにはいきませんが(図-11)。

Zoomなどの遠隔コミュニケーションに役立つBIM

図-11



 

スタッフの成長、仕事の共有について

社内で若いスタッフを見ていて思うこと。
 
3D(BIM)をベースで仕事をしていると、実際に形を見ながら仕事をしているので理解が早く(分かりやすいから)成長が早い。
 
もともと設計(2D)は、【頭の中で想像する(3D)→図面化する(2D)→実際に建てる(3D)】というプロセスなので、頭の中の内容を2Dに変換するというスキルが必須です。
 
BIM設計(3D)は、【頭の中で想像する(3D)→モデル化する(3D)図面化する(2D)→実際に建てる(3D)】とモデル化・図面化を一緒に行うことができるので、プロセスがシンプルです。
なので、今の若いスタッフは成長が早いのではないかと思っています。
 
ただし、正確なモデルを作ったり、いろいろな寸法を押さえたりするためには、従来の建築の知識は必須のため、【BIMができる=設計ができる】にならないので、従来どおりの教育もとても大切です。
 
また、社内で仕事を共有する際にもBIMの『見える』ところが非常に活躍します。
 
図面はもちろん、モデルを見ながら打合せすることで、その仕事の概要を簡単に伝達することが可能です。
 
僕たちは3拠点(東京、栃木、新潟)をリモートでつないで活動しているので、『見える』コミュニケーションは仕事を共有する上で必須になります。

 
 

テンプレ化

一人でArchicadを使用して仕事をしていくのであれば、自分だけがモデルの内容を理解していればよいのですが、複数の人間が関わって仕事をするためには秩序が必要になります。
 
ArchicadにはBIM特有の大量の設定があります。
それらを整理してシステム化を行い、運営をルール化することは非常に手間と時間がかかります。
 
ですが、そこをアバウトにしてしまうと仕事の進め方がそれぞれのスタッフに依存してしまうので、協力や引き継ぎなどが非常に煩雑になってしまいます。
 
BIMマネージャー的立場のスタッフと打合せを繰り返しながら、自社テンプレートの作成を進めています。
これにより社内のBIM標準化だけでなく、外部パートナーとの連携も強化していこうと考えています(図-12)。

テンプレ化

図-12



 

教育について

僕たちはBIMをメインツールとして仕事をしているので、新しくスタッフが入った際に通常の仕事の進め方に加えてBIMツールの教育が必要になります。
 
これまでは先輩スタッフがあれこれ教えながら習得させていましたが、技術を標準化させることが大変なので、テンプレートに加え、マニュアルと教材の開発を進めています。
 
テンプレートを整備することで、レイヤーなどの各種設定や一覧表などの機能を初心者段階から混乱せずに仕事を進めていけるようにしています。
 
マニュアルを整備することで、各種ツールの操作で困った際になるべく他のスタッフの手を止めずに進めることができるようにしています。
 
そして、教材を整備することによって、意匠設計事務所として2008年から積み上げてきたノウハウを、新人や中途スタッフに使えることはもちろんですが、自分たちでも整理した上で再理解を進めています(図-13、14)。

教育について

図-13

教育について

図-14



 

社外とのネットワーク

仕事を進めていく上でさまざまなパートナー企業との連携が必要となります。
 
パートナーとの意思共有のためにはBIMの『見える』ところは非常に有効ですが、実際に全ての仕事をパートナーと一緒にBIMで進めていくとなると、途端にハードルが上がります。

 
 

[BIMを全く使用していないパートナーの場合]
そもそも普段からBIMを使用していないので、こちらがBIMで作成した図面を編集したり、プロットしたりという作業になります。
 
複数のCADソフトを使用して仕事を進めていくことになるので、パースなどで意思共有できてはいるけれど、図面は連動していないという状態になります。
この状態からBIMで一緒に仕事ができるようにするためには自力で覚えていただくか、僕たちがレクチャーするかになりますが、どちらにせよ時間とコストがかかるので現実的にはすぐに解決しません。

 
 

[BIMをすでに使用しているパートナーの場合]
通常からBIMを使用されているパートナーとの協業であれば、モデリングから図面化まで問題なく進めていくことが可能です。
 
問題点を挙げるとすれば(これは仕方のないことでもあるのですが)各社モデルの作り方や、データの作り方は自社ルールがあるのでおのおの違ってきます。
他社が作成したBIMデータを編集することは、正直言ってかなり大変です。
なので、協業する上で仕事の分担や頼み方をルール化するか、そもそものデータの作成方法をテンプレート含めルール化するかのどちらかが必要だと思います。
 
自社の中でのネットワークや教育を整えることは大切ですが、さらに広がっていくためにはパートナーとのさまざまな共有が重要だと考えています(図-15)。

社外とのネットワーク

図-15



 

解決するためのBIMスクール(2022年8月オープン予定)

僕はもともとGRAPHISOFT(Archicadの会社)で講師をしたり、専門学校でBIMを教えていたりしたので教えることは楽しいと考えています。
また、常務取締役である弟は今も専門学校でBIMを教えています。
 
これまで社内の教育、標準化やパートナーとの協業など、仕事を進めていく上で作成した教材をベースに、BIMのスクールを作ることになりました。
 
内容としては、各種基本操作、企画設計、基本設計、実施設計、プレゼン資料作成という内容をオンライン、オフライン両方で学べるように準備しています。
スクールを整備することによって社内の学習はもちろん、社外のパートナーとの連携も向上させていきます。
 
また、それ以外の方にもArchicadでの仕事の進め方を習得できる機会の一つとしてお役に立てればうれしいなぁと思っています。
まだ、内容はこれからですが、サイトを用意していますので、ご興味がある方はぜひご登録お願いいたします(図-16)。

解決するためのBIMスクール(2022年8月オープン予定)

図-16



 

 

株式会社 横松建築設計事務所 代表取締役
横松 邦明

横松 邦明
IT製造ベンチャー企業在職中に3DCADを使用したデザインに興味を持ち多数のモデリングソフトのスキルを身につける。
その後、横松建築設計事務所に入社。3Dでの設計(BIM)を黎明期(2008年)より取り入れ、新しい設計スタイルを確立する。
現在は東京、栃木を拠点とし国内外で設計活動を行う。本業以外では専門紙等での執筆や各地での講演活動や教育活動を展開している。


 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



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