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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

官庁営繕事業におけるBIMの展開

2023年9月26日

はじめに

官庁施設(国家機関の建築物)には、庁舎をはじめ、研究施設、図書館、博物館、社会福祉施設など、さまざまなものがあります。
国土交通省大臣官房官庁営繕部では、官庁施設を整備するとともに、それらが適切に保全されるよう各省庁への支援を行っています。
 
国土交通省には、i-Constructionの一環としてBIM/CIM推進委員会を、そのWGとして建築BIM推進会議を設置しています。
本会議では、建築分野におけるBIMの進展を目指して幅広い検討が進められています。
 
官庁営繕部では、それらの検討成果を踏まえ、官庁営繕事業におけるBIMの試行、試行結果を踏まえたガイドラインの策定、改定など、BIM活用による生産性向上に向けた取り組みを進めています。
 
 

これまでの取り組み

官庁営繕部では、2010年度から新築設計においてBIMの試行に着手し、試行を通じて得られた知見を踏まえ、「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成および利用に関するガイドライン」(以下、BIMガイドライン)を2014年3月に策定、公表しました。
BIMガイドラインは、官庁営繕事業における設計業務または工事の受注者によるBIMモデルの作成および利用に当たっての基本的な考え方、留意事項などを示したものになります。
 
その後も設計業務や工事においてBIMの試行を継続しており、2020年度には、長野第1地方合同庁舎の設計業務において、工事受注者への引き継ぎを視野に入れたBIMデータの作成、BIMデータからの設計図面(一部)の作成などの試行を行いました。
 
2021年度には、PFI事業である名古屋第4地方合同庁舎整備事業において、施工段階に加え、維持管理段階における活用を前提としたBIMデータの作成などの試行に着手しました。
 
また、これらの試行と並行して、「官庁営繕事業における一貫したBIM活用に関する検討会」(座長:芝浦工業大学蟹澤宏剛教授)のご意見をいただきながら、BIM活用のワークフローとBIMに関する発注仕様書となるEIR(発注者情報要件)の試案を作成するとともに、BIMガイドラインの改定を本年3月に行いました。
 
BIM活用のワークフローは、受発注者が参照する資料として、新築事業における設計から施工段階までのBIM活用に関する作業の流れを整理したものです。
官庁営繕事業の特徴である、設計と施工の分離、設備工事の分離発注、第三者監理などを前提に作成しています(図-1)。

図-3 2022年度 官庁営繕事業におけるBIM活用の取り組み
図-1 官庁営繕事業におけるBIMのワークフロー

 
EIRの試案は、BEP(BIM実行計画書)の作成、BIMデータの納品、BIM活用の対象項目などの項目を設定しており、この試案を参考に、発注者として求めるBIMの活用内容を個別事業ごとに明示することを想定しています。
BIM活用の対象項目については、実施を必須とする指定項目、実施を受注者の任意とする推奨項目に分類して記載することとしています(図-2)。

図-2 設計業務にかかるEIR(例) 抜粋
図-2 設計業務にかかるEIR(例) 抜粋

 
また、BIMガイドラインについて、EIRの作成に関する事項を拡充するとともに、発注者が求める要件はEIRに記載することとし、BIMガイドラインは適用する資料から参照する資料へと役割を見直しています。
 
 

2022年度の取り組み

2022年度は、上記ワークフローに沿って、EIR試案を活用したBIMの試行を行います(図-3)。

図-3 2022年度 官庁営繕事業におけるBIM活用の取り組み
図-3 2022年度 官庁営繕事業におけるBIM活用の取り組み

 
設計業務では、契約後にBEPの提出、業務完了時にBIMデータと工事受注者への引継資料の提出を求めることとしています。
 
設計段階で作成されたBIMデータは、工事発注に当たり競争参加者に提示して工事目的物の完成イメージの共有などに役立てることとしています。
また、工事契約後に発注者、設計者、施工者などをメンバーとするBIM調整会議を実施し、施工におけるBIMデータの活用について調整を行うこととしています。
 
これらの手順を踏むことで、設計段階のBIMデータを施工段階で活用するための課題が明らかになり、それを解決していくことによってBIM活用が進むものと期待しています。
 
また、EIR試案を活用した試行結果を踏まえ、「官庁営繕事業におけるEIR作成の手引き(仮称)」を策定することで、官庁営繕事業および事務の効率化に役立てるほか、地方公共団体などの公共建築発注者にも周知して参照いただけるようにしたいと考えています。
 
このことにより、設計業務や工事の発注においてEIRの作成が普及し、公共建築分野におけるBIM活用の進展に寄与できると考えています。
 
 

おわりに

官庁営繕部では、引き続き各省庁、地方公共団体、業界団体と連携し、BIM活用に取り組んでまいります。
 
先にご紹介したBIMガイドライン等の資料は、官庁営繕部HPに掲載しておりますので、ご参照ください。
 
※(参考)官庁営繕部HP
 
 
 

国土交通省 大臣官房 官庁営繕部 整備課 施設評価室

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 



官庁営繕事業におけるBIM試行-長野第1地方合同庁舎設計業務における活用と施工段階に向けて-

はじめに

官庁営繕事業では、平成22年度よりBIMを導入したプロジェクトの試行を実施することにより、設計業務および工事におけるBIM導入の効果や課題について検証してきた。
 
その結果も踏まえ、国土交通省官庁営繕部において、「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成および利用に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)が平成26年3月に策定・公表された。
 
その後も設計業務や工事においてBIMの試行を継続しており、令和2年度からは、関東地方整備局営繕部発注の長野第1地方合同庁舎の設計業務において、工事受注者への引き継ぎを視野に入れたBIMデータの作成、BIMデータからの設計図面(一部)の作成などの試行を行っている。
さらに令和3年度からは、中部地方整備局発注のPFI事業において、施工段階に加え、維持管理段階における活用を前提としたBIMデータの作成などの試行に着手している。
 
これらの試行と並行して、国土交通省官庁営繕部において、設計・施工分離を前提としたBIM活用のワークフローとBIMに関する発注仕様書となるEIR(発注者情報要件)の試案が作成・公表された。
また、ガイドラインにおいてEIRの作成に関する事項を拡充する改定が令和4年3月に行われた。
 
本稿では、上記の長野第1地方合同庁舎設計業務の取り組みについて紹介するとともに、令和4年度に工事発注予定の長野第1地方合同庁舎A棟(仮称)の建築工事における施工EIRについて紹介する。
 
 

長野第1地方合同庁舎の設計段階におけるBIM試行の内容

長野第1地方合同庁舎 事業概要

本事業は、一団地の官公庁施設として整備された施設群の建替計画であり、設計業務の主の業務内容は、3棟の新築庁舎の基本計画、うち2棟の設計・積算、仮庁舎等の設計・積算、2棟の現庁舎の取り壊しなどである。
 
本事業の概要を以下に示す。
 
【設計業務】

  • 履行期間 R2.9~R5.3(予定)

【敷地】

  • 工事場所 長野県長野市
  • 敷地面積 約15,000m²

【新築庁舎】
A棟(仮称)※R4 年度工事発注予定

  • 計画面積 約5,200m²
  • 構造規模 RC造地上6階
  • 入居官署数 2官署

B棟(仮称)※基本計画のみ

  • 計画面積 約6,300m²
  • 構造規模 RC造地上6階
  • 入居官署数 7官署 K棟(仮称)
  • 計画面積 約5,100m²
  • 構造規模 RC造地上4階
  • 入居官署数 1官署
図-1 長野第1地方合同庁舎(仮称)
図-1 長野第1地方合同庁舎(仮称)
3棟整備後のイメージパース
(左奥:A棟、右奥:B棟、
左手前:K棟)

 

本業務におけるBIM試行の目的

本業務では、別途発注される工事受注者にデータを引き継ぐことを前提とした設計BIMの実施を試行し、設計BIMにおいて属性情報の入力および活用ならびに設計BIMデータの納品を行うことの効果・課題などを検証することを目的としている。

 

本業務における主な試行実施内容

本業務では、業務発注時に発注者から「BIMを用いた設計図書の作成および納品に関する特記仕様書(試行)」を示し、契約締結後に、業務受注者と合意したBIM実行計画書(以下、BEP)の提出を受けている。
 
BEPに記載された主なBIM試行項目の目標およびこれまでの実施内容を以下で紹介する。
 
①法令上の諸条件の調査、設計条件などの整理
【目標】
建築可能範囲をマスモデルとして可視化する。
部屋ごとに属性情報の入力、壁に区画条件の入力を可視化する。
 
空間オブジェクト(部屋)に必要な属性情報を入力し、集計表・色塗り図などで整理・確認する。
 
【実施内容】
基本計画段階での検討に際し、法規上の集団規定などを鳥かご上に表現し可視化した(図-2)。
これにより、設計事務所の作成した設計案が建築可能範囲を逸脱していないことを確認した。

図-2 建築可能範囲のマスモデルでの可視化
図-2 建築可能範囲のマスモデルでの可視化

 
部屋ごとの性能については、基本設計段階で入居官署にヒアリングを行い調整・作成した各室性能表(各室に対する諸条件)の情報をExcelデータで整理し(図-3)、その情報をBIMの部屋オブジェクトに属性情報として読み込み、色塗り図などを出力できるようにした(図-4)。

図-3 各室性能表のイメージ(一部)
図-3 各室性能表のイメージ(一部)
図-4 ある属性情報に関する色分け図
図-4 ある属性情報に関する色分け図

 
②解析シミュレーションの実施・連携
【目標】
構造解析との連携、環境シミュレーションを行う。
 
【実施内容】
構造解析ソフトとの連携を行うとともに、配置計画検討時に環境シミュレーションを行い、各配置案の比較検討に活用した。

図-5 風環境シミュレーション
図-5 風環境シミュレーション

 
③上下水道、ガス、電力、通信などの供給状況の調査
【目標】
所定の供給位置から建物までの配管オブジェクトを配置し、引き込み状況を可視化する(各オブジェクトにはインフラ種別の属性情報を入力)。
 
【実施内容】
既存図面などから読み取れる情報を基に既設のインフラの情報をBIMモデルに入力し、立体的に可視化した。
 
建物の配置計画検討やその後の設計検討に活用している。

図-6 インフラ情報の可視化
図-6 インフラ情報の可視化

 
④設計方針の策定
【目標】
整備施設外観、当該敷地形状、周辺の建物が確認できるBIMモデルを作成し比較検討する。
 
【実施内容】
庁舎の外観の検討に当たりBIMモデルで作成したパースでの見え方の比較を行い景観計画検討に活用した(図-7)。
 
また、敷地のボーリング情報を元に、地質コンサルの協力を得て敷地形状だけでなく地盤情報まで3Dで可視化し(図
-8)、基礎計画や地盤改良の設計などに活用した。

図-4 ある属性情報に関する色分け図
図-4 ある属性情報に関する色分け図
図-8 地盤情報の可視化
図-8 地盤情報の可視化

 
⑤設計図書の作成
【目標】
BIMモデルから図面を切り出し、設計図書として活用する。
 
【実施内容】
平面図、立面図、断面図、建具表、天井伏図、柱梁リスト図などにおいてBIMモデルから図面を作成している。
 
図面作成に当たっては、BIMモデルとの連携を考慮し、できる限り2D加筆しない表現を取り入れた。
例えば、柱リスト図であれば、従来は柱ごとの断面図を記載していたが、本業務では凡例用の断面のみを示し、他は表形式で情報を表現することとした(図-9)。

図-9 柱リスト図のイメージ 上
図-9 柱リスト図のイメージ 下
図-9 柱リスト図のイメージ
(上:従来の表現、下:BIM連携考慮の表現)
 
⑥発注者へのBIMを用いた設計内容の説明など
【目標】
打合せ時の3Dモデル活用、クラウドシェアリングによるモデルの共有・指摘事項の確認を行う。
 
【実施内容】
基本計画段階では、各棟の配置検討に当たって、VRを用いた確認を行い、見え方を確認した。
 
基本設計、実施設計段階の受発注者の打合せなどでは、BIMモデルから作成したパースなどで設計内容を確認した。
入居官署に対しても、合意形成の円滑化のため、BIMモデルや動画を併用し、基本設計内容、実施設計内容の説明を行った。
 
また、本業務では受注者から提案のあった有償ビューア(クラウド)を用いている。
これにより、受注者がクラウド上にアップロードしたBIMモデルを発注者が自席のPCから確認できる環境が構築されている。
このビューアには「指摘事項」という機能があり、クラウド上のモデルに対して受発注者間で設計内容の確認などを行うことができる。

図-11 VRによる確認の様子
図-11 VRによる確認の様子
図-12 有償ビューアにおける指摘事項画面のイメージ
図-12 有償ビューアにおける指摘事項画面のイメージ

 

効果・課題などについて

以下に今回の試行による効果・課題などについて、実務担当者としての個人的見解、感想を記載する。
 
・[効果]BIMモデル3Dビューの活用による効率化
審査用図面を発注者が確認する際に、従来は2次元図面から想像力を働かせて読み取る必要があった3次元形状について、3DビューでBIMモデルを確認することで空間の理解が早まり、効率的に審査できると考える。
 
例えば、外構の高低差が大きい敷地の場合、外構からの建物の見え方について、従来の2次元図面では配置図、外構図などの図面の外構地盤高さを基に外からの執務室の見え方を想像し、外からの視線を気にする室であれば外部建具のガラスの仕様を建具表などで確認するなどしている。
これがBIMであれば、図-13のように、外構からの見え方は3Dビューで一目瞭然であり、ガラスの仕様も右クリックで属性情報を確認することで速やかに確認できる。

図-13 傾斜のある外構と建物の関係の確認(外構からの執務室の見え方)
図-13 傾斜のある外構と建物の関係の確認(外構からの執務室の見え方)

 
・[課題]設計・確認方法がある程度マニュアル化される内容の確認
設計・確認方法がある程度マニュアル化される内容で、かつBIMの機能を用いることで確認が効率化される場合があると考えられる。
また、ドライエリアなどの落下の危険性がある部分の確認の場合、2次元図面に比べて、図-14のような3Dビューの方が直感的に「危険」と感じやすいと考えられる。
BIMモデルを活用することで、経験がなくても直感的に空間を把握しやすくなり、効率的に図面の確認ができると考えられる。

図-14 傾斜のある外構と建物の関係の確認(ドライエリアの安全性)
図-14 傾斜のある外構と建物の関係の確認(ドライエリアの安全性)

 
例えば、地下ピットの防水範囲の確認に当たって、BIMモデル上で、ピットなどの空間オブジェクトに対して「止水性」という属性情報を付与する。
また、ピットなどの壁オブジェクトに対しても「防水」という属性情報を付与する。
これらの属性情報の有無を色塗り図などで可視化できるようにすることで、空間オブジェクトと壁のそれぞれの属性情報で止水性【有】・防水【有】の色塗り図を出力すれば防水範囲が正しいかの確認が可能と考える。

図-15 遮音区間の確認のためのビューイメージ 上
図-15 遮音区間の確認のためのビューイメージ 下
図-15 遮音区間の確認のためのビューイメージ

 
・[課題]複数図面にまたがる情報の確認
複数図面にまたがる情報の確認は、BIMモデルの作り方やビューの切り方をあらかじめ指定しておくことで、効率的な確認が可能と考えられる。
 
例えば、遮音が求められる室の建具にガラリやフロートガラスが入っていないか確認する場合、従来は平面図、建具表などを見比べ確認する必要がある。
もしBIMモデルを3Dビューで見る時に建具オブジェクトの窓・ガラリの有無と部屋オブジェクトの遮音区画の有無を確認できるようにあらかじめ指定しておけば、一目で確認が可能になると考える。
 

・[課題]設計プラン決定経緯などの確認への活用
「指摘事項」機能は有償ビューア特有のものであるが、設計プラン決定経緯などの確認に活用できる可能性があると考える。
営繕部の設計業務では、入居官署へのヒアリング内容を基本的には一つのExcelデータで管理しており、実施設計段階での審査用図面の確認の際に、Excelと図面を見比べながらヒアリング内容を満たしているか確認している。
 
例えば、このExcelデータのヒアリング内容を設計受注者がモデルに指摘事項として登録する。
発注者は作成された指摘事項をクリックすることで、ヒアリング内容とモデルを一目で確認ができる。
ヒアリング内容が反映されていれば「完了」(指摘事項を承認して終了)を押すことで記録として残る。
 
これにより、従来Excelと図面を行ったり来たりしながら確認していた行為が、モデル上で指摘事項のボタンクリックだけとなり確認作業が効率化されると考えられる。
一度確認した内容は記録として残るため、いつでも確認することが可能となる。
Excelデータの内容を最初にモデルに入力する作業は増えるが、業務全体としては効率化する可能性があると考えられる。
 
 

施工段階におけるBIM活用検討

長野第1地方合同庁舎のA棟(仮称)は、令和4年11月現在、工事発注手続き期間中である。
工事の発注に当たって、建築工事では、発注者情報要件として「長野第1地方合同庁舎A棟(仮称)建築工事にかかるEIR(発注者情報要件)」(以下、長野施工EIR)を現場説明書に添付している。
 
以下、長野施工EIRの概要について紹介する。

 

長野施工EIRの構成

長野施工EIRは、長野第1地方合同庁舎A棟(仮称)建築工事の施工に係るBIM活用に関して発注者として求める要件を示すものである。
 
長野施工EIRの構成は以下のとおり。
 
1. 目的
2. 基本的事項
2.1 BEP(BIM実行計画書)の提出
2.2 BIMデータの作成
2.3 BIMデータ等の提出
3. BIM活用の対象項目とその目的など
4. データの共有
5. 参考
5.1 発注者のBIMデータ閲覧等環境
5.2 参照資料
 
長野施工EIR におけるBIM 活用の対象項目
本工事においてEIRに記載している BIM活用の対象項目、目的などを以下に示す。
 
なお、BIM活用の対象項目は、工事受注者による自主的な取り組みを【推奨】する項目としている。
【推奨】項目についてもBEPに何らかの記載(「対応しない」「対応予定」「対応未定」「○○の方針で実施」など)を求めることとしているが、記載することによる履行の義務は生じないものとしている。
 

①施工計画、施工手順などの検討【推奨】
施工計画、施工手順などの検討を行い、施工に関わる者の理解を促進するなどし、事業の円滑化を図ることを想定している。
 
②干渉チェック【推奨】
干渉チェックを行い、施工の手戻りを防止するなどし、事業の円滑化を図ることを想定している。
 
③デジタルモックアップ【推奨】
内外装についてBIMモデルを用いて、監督職員への承諾に先立ち、事前に確認を行い、合意形成の円滑化を図ることを想定している。
 
④3次元による建物内観、外観(一部)の提示・調整【推奨】
スイッチ・コンセントなどの位置や外観の色調について、監督職員への承諾、現地での色決めに先立ち、事前に発注者・入居官署にビューアで説明し、合意形成の円滑化を図ることを想定している。
 
⑤中間ファイルの活用【推奨】
設計者から提供する図面情報について、設計BIMモデルから書き出した2Dデータを専門工事業者への情報伝達に活用し、事業の円滑化を図ることを想定している。
 

設計BIMの施工段階への引き継ぎ

工事受注者への引き継ぎについては本業務において現在検討途中である。
 
建築BIM推進会議の成果などを取り入れることも視野に検討している。
例えば、建築BIM推進会議の部会2「BIMモデルの形状と属性情報の標準化検討会」の成果物として「BLCJ構造標準」(構造設計業務で必要な属性項目と、その際に使いやすい属性項目名称を整理したもの)が公表されている。
このBLCJ構造標ac準と設計BIMモデルの属性情報との対応表
(マッピングテーブル)を作成することで工事受注者にとってBIMモデルが活用しやすくなると考えている。
 
 

おわりに

本稿では、長野第1地方合同庁舎の設計業務におけるBIM試行の実施内容、効果・課題など、施工段階における活用検討について紹介した。
 
長野第1地方合同庁舎の設計業務におけるBIM活用による効果・課題等や設計BIMの施工段階への引き継ぎについては、建築BIM推進会議の動向も注視しながら、引き続き検討してまいりたい。
 
 

参考 官庁営繕部HP(官庁営繕事業におけるBIMの活用)
m官庁営繕部Hm
https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk6_000094.html

 

 
 
 

国土交通省 関東地方整備局 営繕部 整備課 営繕技術専門官
福田 隼登

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 



設計BIMワークフローにおけるガイドラインの策定

2023年9月18日

はじめに

令和元年建築BIM推進会議が発足し、建築BIM推進会議の建築BIM環境整備部会(部会1)にて「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(以下、建築BIM推進会議ガイドライン)が令和2年3月に取りまとめられた。
 
日本建築士会連合会・日本建築士事務所協会連合会・日本建築家協会の三団体(以下、設計三会)から構成される建築設計三会設計BIMワークフロー検討委員会(以下、設計三会検討委員会)では、建築BIM推進会議ガイドラインの「別添参考資料(たたき台)」2)の検証と深度化を行い、「設計BIMワークフローガイドライン設計三会提言」(以下、設計三会BIMガイドライン)をまとめた。
設計三会検討委員会には、設計三会の意匠設計者に加えて構造・電気設備・機械設備の設計者も参加し、設計実務でのBIM活用を見据えた詳細な検証を行った。
 
本稿では建築BIM推進会議ガイドラインの概略と設計三会BIMガイドラインの内容について記述する。
 
 

建築BIM推進会議ガイドライン

建築BIM推進会議ガイドラインについて

「本文」1)と各ステージのBIMによる成果物「別添参考資料(たたき台)」2)から構成されており、BIMを活用するためのワークフローに関わる内容を整理・定義している。
 

業務区分

BIMによる業務では従来のCADなどの作業と異なり、各作業段階でさまざまなデータが混在し、複数関係者が同時並行的に作業するため、業務の手戻りが生じると、従来の作業に比べて影響範囲が大きく、手戻り・修正により多くの時間を費やすことになる。
そこで、世界のBIM先進国の事例も参照しつつ、従来よりも業務区分(ステージ)を細分化しS0~S7までの8つの業務ステージが定められた。
 
BIMの形状と情報の詳細度に応じた業務ステージを図-1のように定義している。
図-1に示されるように従来の実施設計をS3(機能・性能に基づいた一般図(平面、立面、断面)の確定)とS4(工事を的確に行うことが可能な設計図書の作成)に分けた点、維持管理BIM作成業務(維持管理段階に向けたBIMの入力・管理および竣工後の発注者へのBIM引き渡し業務)が定義された点が特徴として挙げられる。
各ステージで行うべき業務が終わったことを確認し、次のステージに進むことで、BIMでの影響が大きい業務の手戻りを防ぐことを狙いとしている。
このため、“成果物”と“オブジェクト別のモデリングガイド”も実務で有用との声がある。

図-1
図-1

 

成果物

「別添参考資料(たたき台)では、BIMを用いた業務における成果物を「BIMデータ(3D形状と属性情報からなるBIMモデルと、BIMから直接書き出した図書※BIM上で2D加筆して作成した2Dおよび図書を含む)」と「2D図書(CADで作成した2Dおよびプレゼンテーションソフトウエアや表計算ソフトウエアなどで作成した図書)」と定義するとともに、各ステージにおける意匠・構造・設備の成果物を示している(図-2)。

図-2
図-2

 

オブジェクト別のモデリングガイド

BIM活用においては、各ステージの業務内容、すなわち、いつ、誰が、どのような詳細度で、どのような情報をBIMに入力し確認すればよいかを整理することが重要となる。
そのため、「別添参考資料(たたき台)」では、各ステージでモデリングする内容の一例をオブジェクト別(空間要素および間仕切壁、設備機器のみを例として)に解説している。
 
 

設計三会BIMガイドライン

ガイドラインの前提

設計三会ガイドラインは、「別添参考資料(たたき台)」を継承しながら、BIM業務のワークフローと必要なルールについて、一つの標準例を示したものである。
いまだBIM業務案件が必ずしも多くはない日本において、「BIM業務のワークフロー」は、人それぞれイメージが異なっていることが多い。
BIMの議論では、議論がかみ合わないということも起こりがちである。
そこで、BIMの標準的なワークフローを考えるに当たっては、告示98号の「標準業務」を参照し、そこにBIM業務ならではのルールを加える形とした。
広く使われている告示98号にできるだけ沿うことにより、BIMの標準的なワークフローに対する共通認識を作りやすいと考えた。
 
そして、ここで言う「標準」は、BIM業務を行う際に、必ずこの「標準」に基づいて行わなければならないという決まりではない。
あくまで案件ごとの調整をする際の目安として機能することを考えている。
この点は、従来の業務においても、告示98号「標準業務」に対して追加的業務を加える、または、一部の業務を省くなど、案件の特性により調整しており、同様に考えていただきたい。
 

ガイドラインの位置付け

設計三会ガイドラインでは、建築BIM推進会議ガイドライン「別添参考資料(たたき台)」の業務区分を継承しながら、各ステージの業務内容と、各ステージで必要となるBIMデータ・図書の内容を検証し、「設計段階で作成したBIMに維持管理BIM 作成業務の実施段階で必要な情報を加えて、維持管理段階での活用に必要かつ十分なBIMを、円滑につくり上げること」を目標として、大きく以下の3点に取り組んだ。
 
1) 各ステージにおける主なオブジェクトの形状情報と属性情報量の整理
2) オブジェクトレベルの整理を基に、設計から施工へ引き渡す具体的な内容と、引渡し時に残すべき具体的内容を整理・検証
3) EIR(BIM業務仕様書)とBEP(BIM実行計画書)のひな型の検討・作成以下、ガイドラインの内容について記述する。
 

オブジェクト別のモデリングガイド

建築BIM推進会議ガイドラインのオブジェクト別モデリングガイドが空間要素および間仕切壁、設備機器を対象としていたのに対し、設計三会ガイドラインでは表-1に示す通り、対象としてプロジェクト情報(建物基本情報)・空間要素・意匠要素・構造要素・電気設備要素・機械設備要素を追加した。

表-1
表-1

 

設計から引き継ぐデータ

プロジェクト情報は、敷地や建物の主要用途・延床面積・構造形式などの建物の基本となる情報である。
設計、施工、維持管理・運用のライフサイクルに渡って必須となる情報で、都市基盤データにつなげる可能性がある情報でもある。
BIMモデルを構成するオブジェクトは、「モデル要素」および「注釈要素」で構成される。
「モデル要素」は、「空間要素」と「意匠要素・構造要素・電気要素・設備要素」に分類される。
「空間要素」は、壁、床、屋根、天井などの要素や境界線に基づいて室を区分する要素である。
例えば、レベル・名前・仕上げ高さ・スラブ高さ・天井高さ・床、壁、天井の仕上げ・下地情報を空間要素の持つ「情報項目(Parameter)」に「情報値(ParameterValue)」入力することで集計機能を使い、内部仕上げ表を作成することが可能となる。
一方、「意匠要素・構造要素・電気要素・設備要素」は、床、壁、天井、ドア、窓など基本的な要素を指し、「形状情報」と「属性情報」から構成される。
3D形状と2D形状を組み合わせてモデル形状と図面表現を可能にする。
情報を変更することで形状を変形させることもできる。
設計三会ガイドラインでは図-3に示すように、いつ、どのような詳細度で情報を入力するかの例を示した。
また、BIMデータ実際に扱う入力者にとっては、さらに細かい「データ入力上の形式」についてもルールが重要である。
そこで、設計三会ガイドラインでは、ルールの標準設定例として「パラメータリスト」を添付している。

図-3
図-3

 

設計から施工、維持管理に引き継ぐBIMデータ

建築分野での生産性向上を図るためには、企画・基本計画から維持管理・運用等を含めた建築物のライフサイクルにおいて、BIMでデジタル情報の一貫性を確保し生産性の向上などにつながるかたちで、設計-施工-維持管理の各プロセス間で必要なデジタル情報を適切に受け渡す仕組みを構築することが求められる。
ただし、BIMモデル構築の目的が異なるため、設計BIMモデルをそのまま施工や維持管理用のBIMモデルに流用できる訳ではないことに留意しておく必要がある。
BIMのデジタル情報は、目的に応じて「設計から維持管理BIM作成、そして維持管理段階に受け渡される流れ」と「設計から施工に受け渡される流れ」の2つがあり、前者は建築物を使うためのデータの流れで、後者は建築物をつくるためのデータの流れになる(図-4)。

図-4
図-4

設計ステージでは、建築物の規模や用途、グレード設定などのプロジェクト情報と、必要諸室や室諸元などを、BIMの空間要素に設定した属性情報として管理し、確認していくことになるが、そうした空間要素の属性情報はそのまま維持管理段階で必要となる情報としてつなげることができる。
この空間要素の属性情報は、壁・窓・ドアなどの建築要素や、空調機器・照明器具などの設備要素の仕様を定める与条件であり、相互に連動しながら定まる。
設計段階で入力された建築要素や設備要素に、施工段階で決まった製造者情報などを反映し、家具や什器などを付け加えれば、これが大まかな、建築物を使うためのデータになる。
前述したようにBIMモデル構築の目的が異なるため、設計段階では、施工方法や納入メーカーを確定できないこともあり、BIMデータの形状情報や属性情報を全て決定できる訳ではなく、BIMデータにはさまざまな形状や属性の情報を組み込めるが故に、そのモデリングや入力方法は如何ようにもカスタマイズ可能である。
また、設計図書とBIMモデルが整合したものになっていないと、設計で作成したBIMデータを施工者が引き継ぐことは難しくなる。
そのため、設計から施工に設計BIMデータを円滑に引き継ぐためには、BIMデータや図書の引き継ぎだけではなく、以下についても併せて整理した上で施工者に伝える必要がある。
 
①図面とBIMモデルの整合性確保
②設計内容として確定している範囲
③BIMのモデリング・入力ルール
設計三会ガイドラインでは、設計から施工に受け渡すBIMデータや図書と、施工者に引き継ぐための①~③の項目について、図-5のような参考例を示している。

図-5
図-5

 

EIRとBEPのひな型

BIM業務仕様書(Employer’s information requirements/EIR)は、プロジェクトにおいて発注者として求める業務委託仕様書の中でBIMに関する業務仕様を定めるもので、BIMを活用するためのスケジュール、目的、システム要件、データ環境、会議体、各ステージで必要なBIMデータの形状と情報の詳細度、契約上の役割分担などを示しBEPの作成を求める発注要件である。
発注者により作成され、受注者選定や契約に先立って受注候補者に提示されるものを指す。
BIM実行計画書(BIM Execution Plan/BEP)はプロジェクトにおいて、受注候補者がEIRに基づき、業務委託仕様書の中で、BIMに
関する業務仕様を提案するもので、BIMを活用するための体制表、スケジュール、目的、システム要件、データ環境、会議体、各ステージで必要なBIMデータの形状と情報の詳細度などを定め文書化するものである。
受注候補者は契約前に発注者とBEPに関する協議を行い、双方合意した上で受注者として契約を締結する。
EIRとBEPは、BIMを活用する上で発注者、受注者間の認識違い、手戻りなどがないよう契約前に発注者、受注者間で合意し取り交わすことが必要となる。
BEPの更新・変更があった場合には、双方協議の上、発注者、受注者間で合意し、再度取り交わすことが必要となる(図-6)。
設計三会ガイドラインでは官庁営繕のBIM試行プロジェクトなどを参考に、標準的なEIRのひな型(案)とBEPのひな型(案)を示している。
現時点では、BIMを活用する業務とBIMを活用しない業務が混在することを考慮し、BIMに関する事項で、業務委託仕様書(共通仕様書)に記載されていない事項をEIR、BEPに記載することにしている。
ひな型は、中規模の業務ビルを想定し、必要最小限の項目とした。
用途や規模、BIM活用に対する目標設定および業務内容に応じ項目を追加して使用する想定である(表-2)。

図-6
図-6
表-2
表-2

 

BIMに係るライフサイクルコンサルティング/維持管理BIM作成業務

設計三会ガイドラインでは、維持管理・運用に必要なデジタル情報を適切につなげていくためのBIMに係る業務(BIMに係るライフコンサルティング業務)および、維持管理用BIMデータ作成のための業務(維持管理BIM作成業務)を整理するとともに、両業務の仕様書(案)を示している。
 
BIMに係るライフコンサルティング業務は、維持管理・運用で必要と想定されるBIMの情報を事前に検討し、設計・施工・維持管理段階のそれぞれで、必要と想定されるBIMおよびそのモデリング・入力ルールを契約前に検討し、EIRとBEP(ひな型)の策定を支援するとともに、各業務の実施者から提出されるEIRに基づいたBEPを確認し、設計BIM、施工BIM、維持管理BIMそれぞれに求められるモデリング・入力ルールを共有(例:詳細な形状情報は不要だが各設備機器の品番・型番は引き継ぐなど)することなどにより、発注者を総合的に支援する業務として整理している。
維持管理BIM作成業務は、EIR・BEPに基づき、プロジェクトのS5・S6段階において、同業務を行う者
(業務区分(ステージ)における「維持管理BIM作成者」)が、維持管理・運用に必要なBIMの成果物を、設計BIMをベースとして入力・情報管理し、竣工後、発注者(維持管理者)に内容を適切に説明し、円滑に受け渡す業務として整理している。
 
 

おわりに

設計三会ガイドラインは、国土交通省、有識者、関係部会、関係団体等における知見などを踏まえて取りまとめたものである。
ガイドラインを実際に活用することにより得られる知見などを、あらためて建築BIM推進会議および建築BIM環境整備部会にフィードバックすることにより、設計者などが具体的に活用できるように、今後も関係部会、団体などとの意見交換、調整を行っていきたいと考えている。
 
 
参考文献
1)建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)本文、国土交通省。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content001351965.pdf
2)建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)別添参考資料、国土交通省。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001351966.pdf
 
 
 

公益社団法人 日本建築家協会 BIM特別委員会

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 



ゼネコンにおけるBIM活用の現状- 日建連「BIM活用の実情把握に関するアンケート」の実施報告-

2023年9月14日

はじめに

近年、建設業界においては「生産性向上」や「働き方改革」などに注目が集まり、多くの企業においてBIMの推進に取り組む部門が設置され、BIMの取り組みが拡大・多様化しています。
こうした状況は、試行段階の課題を解決して実務に定着させ、効果を享受する段階に来ていると言えます。
 
そのような社会的要請を踏まえ、日建連では、会員企業(建築)におけるBIM活用・展開状況や導入後に抱えている課題などを把握し、会員企業おのおののBIM推進施策に役立つものにするため、アンケート調査を実施しました。
調査は、施工BIMを中心に設計や設備を含めた全体の調査とし、プロジェクトを通したBIM推進状況を把握しました。
 
 

調査の概要

(1)実施概要

実施概要は以下のとおりです。
 

  • 実施時期:2021年12月10日~2022年3月10日
  • 実施対象:日建連建築本部会員企業
  • 実施方法:eメールにて発信、回収
  • 回答状況:対象72社に対し回答40社で、回答率56%

 
今回のアンケートの特長として、プロジェクトにおけるBIMの目的別の活用と展開度合いに関する定量的なモニタリングを実施しました。
 

(2)回答企業の属性

会社規模について、従業員1,000名超の企業の回答数は25社でした(図-1)。
今回のアンケートに回答した企業は全てBIM導入済みです(図-2)。
BIM導入6年未満の企業は1/3の14社、導入6年以上の企業は2/3の26社です(図-3)。

図1~3

 
 

BIM推進の方針と基盤整備の状況

(1)BIM適用条件

BIM適用案件の選定方法は、設計も施工もプロジェクト条件に応じた適用が多いです(図-4)。

図-4 BIM適用案件の選定方法
図-4 BIM適用案件の選定方法

 

(2)BIMワークフローとデータ連携方法

標準となるBIMワークフローは半数以上が未設定です(図-5)。
 
主たるデータ連携方法は統合モデルが多く約60%を占めています。
重ね合わせモデルはBIM導入6年未満では1社ですが、導入6年以上では9社(約35%)に増加しています(図-6)。

 

(3)BIM推進組織

BIM推進組織のある企業は、回答した企業の85%を占めています(図-7)。

図5~7

 

(4)作業所長の配置時期とBIMマネージャーの配置1

作業所長の配置時期は着工前またはケース・バイ・ケースがほとんどで、仕組みとして設計段階での配置を定めている企業は限られます(図-8)。
 
BIMマネージャーについては指定または複数プロジェクトでの統括配置が多く、全プロジェクトでの配置は限られます(図
-9)。

図8~9
(5)BIMモデラーの確保

BIMモデラーについて、全体では約60%が確保できているが将来不足を予想しています(図-10)。

図-10 BIMモデラ―の確保
図-10 BIMモデラ―の確保
(6)BIMの教育

BIMの教育は全体としてほぼ何らかの取り組みを行っており、特に社内研修が多く実施されています(図-11)。

図-11 BIMの教育
図-11 BIMの教育

 

(7)モデル作成のマニュアル・ガイドの整備

モデル作成のマニュアルやガイドについて、設計では意匠が高く全体で約60%が設定していて、構造と施工では半数近く設定しています(図-12)。

図-12 モデル作成のマニュアル・ガイド
図-12 モデル作成のマニュアル・ガイド

 

(8)BIM実行計画書の運用

BIM実行計画書は全体では85%が全てまたは必要に応じて作成・運用していますが、BIM適用プロジェクトの全てで作成・運用しているのは3分の1にとどまっています(図-13)。

図-13 BIM実行計画書の運用
図-13 BIM実行計画書の運用

 
 

設計のBIM活用状況

(1)意匠・構造・設備3部門での活用度合い

(1) 意匠設計でのモデル作成は35%、モデルによる整合確認とモデルから設計図作成は20%程度の活用率です(図-14)。
構造設計でのモデル作成は30%程度、モデルから設計図作成は20%程度の活用率です(図-15)。
設備設計でのモデル作成は20%程度、モデルから設計図作成は10%程度の活用率です(図-16)。

図-14 意匠設計での活用度合い
図-14 意匠設計での活用度合い
図-15 構造設計での活用度合い
図-15 構造設計での活用度合い
図-16 設備設計での活用度合い
図-16 設備設計での活用度合い

 

(2)設計施工間でのモデル連携度合い

設計施工一貫方式の工事では、施工での設計モデルの継続活用は20%程度、引継書と設計モデルの発行はいずれも15%です。
設計施工分離方式の工事では、全ての項目で数%にとどまっています(図-17)。

図-17 設計施工間でのモデル連携度合い
図-17 設計施工間でのモデル連携度合い

 

(3)積算(見積部門)での活用度合い

モデルから躯体見積数量の算出は全体で10%程度、仕上見積数量算出と設備見積数量算出は数%の活用率に限られています(図-18)。

図-18 積算(見積部門)での活用度合い
図-18 積算(見積部門)での活用度合い

 
 

施工のBIM活用状況

(1)施工BIMの活用シーン

施工BIMの活用シーンとしては、施工期間中の各種会議で広く活用されている状況がうかがえます(図-19)。

図-19 施工BIMの活用シーン
図-19 施工BIMの活用シーン
(2)施工計画・事前検討での活用度合い

施工モデル作成は全体でほぼ半数で実施されています。
全体では、施工計画、工法・施工性検討、干渉チェック・納まり確認での活用が30%程度であるのに比べ、数量把握での活用度合いは低いです(図-20)。

図-20 施工計画・事前検討での活用度合い
図-20 施工計画・事前検討での活用度合い

 

(3)施工図作成での活用度合い

施工図作成での活用について全体では、モデルから躯体図、平面詳細図、設備施工図作成が10%程度の活用率です(図-21)。
 

図-21 施工図作成での活用度合い
図-21 施工図作成での活用度合い
(4)施工管理での活用度合い

施工管理での活用について全体では、打合せ・合意形成での活用率が35%と高く、共通データ環境の活用が20%程度
で、そのほかの活用は数%にとどまっています(図-22)。

図-22 施工管理での活用度合い
図-22 施工管理での活用度合い

 

(5)工種別の専門工事会社との連携状況

仮設、鉄骨、衛生、空調、電気の各工事での活用率が高く、過半数で活用されています(図-23)。

図-23 BIMモデル連携を実施することがある工種
図-23 BIMモデル連携を実施することがある工種

 

(6)専門工事会社との連携度合い

モデルの重ね合わせによるBIMモデル合意が躯体・設備で20%程度、仕上げで10%程度、発注や製作への活用は数%にとどまっています(図-24)。

図-24 専門工事会社との連携度合い
図-24 専門工事会社との連携度合い

 
 

今後の活動

アンケート調査の結果より、課題の抽出と今後の対応をまとめました(表-1)。

表-1 課題の抽出と今後の対応
表-1 課題の抽出と今後の対応

 
日建連では、これらの対応について、今後の建築BIM定着に向けた取り組みとして活動していき、建設業界におけるBIMのさらなる推進につなげていきます。
 
https://nikkenren.com/kenchiku/bim/pdf/bim_questionnaire_2021.pdf
 
 
 

一般社団法人 日本建設業連合会 建築生産委員会 BIM部会 BIM啓発専門部会主査 

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 



BIM教育機構のビジョン

デジタルが変える社会:それを担う人材育成

スマートな社会を支えるデジタル化の動きが活発になってきている。
単純に生産性を高める目的以上に、誰にでもアクセスしやすく、多様な才能が活躍でき、新しい価値やビジネスを生み出す社会を目指すならば、それを支えるデジタルの基盤づくりはさらに加速しなければならない。
しかし、ハードの整備自体は真の目的ではなく、デジタルを有効に活用できる人材づくりこそが重要ではないか。
すでに進行中ではあるが、こうした観点から、義務教育段階でデジタル・リテラシーを確立させ、さまざまな分野の専門教育でデジタル活用を深度化させ、それらを指導できる教員の層を厚くするといった政策が積極化するだろう。
 
一方で、絶え間なく進化するデジタルについて、社会の構成者全てがキャッチアップするための継続学習がさらに重要である。
とりわけ、専門業務に携わる実務者が、向き合っている任務における課題、社会に生じている課題を乗り越え続けるためには、デジタル能力のスキルアップは必須となる。
例えば、近年注目されている「リスキリング」の実行メニューには、<デジタル能力を活用して新しい価値を生み出すことができるよう、能力やスキルを再開発する>ことが重視されている。
おそらく、継続する学び、デジタルの学びは社会全体にも好ましい影響をもたらすのではないだろうか。
 
こうした流れを踏まえて建築実務の現在を見渡すならば、設計から施工に至る建築生産の効率化、カーボンニュートラルに関わる目標の達成、誰にとっても快適で安全な場の実現、建築や都市の維持管理あるいは資産管理といった多様な社会課題解決に対してBIM( Building Information Modeling )への期待は大きなものがある。
そして、それを的確に活用・運用できる実務人材の育成が急務であることは論を俟たない。
その認識に立って、2021年10月に「一般社団法人BIM教育機構」(https://bimeo.or.jp/index.html)が設立されたという次第である。
BIM教育機構は、BIMの普及だけでなく、BIMを活用して業務が社会的な責任を果たすために、その業務の質の向上を支援する団体を標榜している。
活動目標には、<BIM技術者の教育・啓蒙・人材育成等に関する活動およびBIMに関する普及活動を行うことにより、BIMによる建設プロジェクトの質的向上、発展に寄与する>ことを掲げている。
すなわち、一部の限られた人材にとどまらない、BIM人材の層の広がりを展望しつつ、リスキリングの趣旨と重なるレベルアップの活動という趣旨である。

BIM教育機構のビジョン

 
 

BIMの使命、BIM教育機構が目指すもの

さてBIMは、建築生産と維持に関わるさまざまな場面で生成されたデータを統合し、公共目標達成のための活用される使命を有している。
これは、米国でのBIMが2000年代初頭から目指してきた方向である。
今や世界に広がったBIMは、それぞれの地において建築生産改革に不可欠なツール、またグローバルビジネスに有用なツールと認識されるようになってきている。
今後さらにBIMが普及定着することで、より良い社会の構築を支える力となるだろう。
日本においても民間からBIMの活用が始まり、2010年に国土交通省の営繕業務での取り組み開始へと駒が進んだ。
2018年には同省が建築BIM推進会議を設置し、こうしたBIMの胎動を国としてさらに発展させる動きが進んできた。
ここではBIM環境整備、BIMによる確認検査の検討・積算の標準化などの項目での議論を進め、またモデル事業の採択と実施を通じて実効性の検証を行っている。
 
一般社団法人BIM教育機構が最初に取り組んでいるのは、こうした国内外の動きと議論を背景としながらの、BIMの教育基盤づくりと継続的な学習の支援である。
BIMを扱う人材あるいはBIMを支える層が広がってゆく中で、着実・確実にBIMが普及するためには、基礎的な理解がばらばらでは真の基盤にはならない。
BIMを共通の言語で使えるよう体系付け、さらに最新の知識を提供し、そのアクションを通じて業務全体の質を高めてゆく着実さである。
 
そこでBIM教育機構では、専門家一人ひとりの目標、あるいはBIMを活用している組織の目的に対応しながら、BIMの入門からスキルアップ、継続学習、新たな技術の研修など、多様なメニューの提供を目指してゆくこととしている。
一方で、実際の社会課題と向き合うには、建築分野以外の知見も加え、応用力の養成にも力を入れたい。
例えば地域行政における統合的なデータベース構築、不動産業における総合的価値判断、交通事業におけるTODなどといった場面でBIMの活用が期待できるが、建築BIMの能力を備
えた技術者が、大きなテーマのまとめ役として役割を発揮できるよう、単なる教材提供を越えた能力開発をビジョンとしてゆく。
 
 

基盤づくりの取り組み-「BIMの教科書」から研修制度構築へ-

ここからは現在、BIM教育機構が推進している項目について紹介する。
活動は「1.BIMに関する普及事業」、「2.BIMに関する教育・啓発事業」、「3.BIMに関する出版事業」、「4.BIMに関する資格試験の実施・資格認定・資格更新・証明に関する事業」、「5.その他当法人の目的達成のために必要な事業および前各号に付帯または関連する一切の事業」に分かれている。
BIMとは情報共有のツールである、との視点に立てば、あらゆるBIM活用者が基礎を固めて同じ知識レベルに達するのは極めて重要であり、この目的が活動項目1から3に該当する。
この認識は、BIM教育機構の源流として2018年頃から始まったBIM教育研究会の活動で育んできたもので、2020年に成果として「BIMBASICⅠ建築・BIMの教科書」(日刊建設通信新聞社)発刊で結実に至った(図-1、2)。

図-1 『BIM BASIC Ⅰ 建築・BIMの教科書』 
図-1 『BIM BASIC Ⅰ 建築・BIMの教科書』 
図-2  『BIM BASIC Ⅰ 建築・BIMの教科書』の内容例
図-2  『BIM BASIC Ⅰ 建築・BIMの教科書』の内容例

この教科書の継続的な改良・成長を含む「BIMに関する出版」事業は、教科書をテキストとする「BIM研修」事業・「BIM基礎知識診断」事業へと歩みを進めるための、BIM教育機構のゼロマイル・ポストとなっている。
この教科書では、1:BIMの基礎、2:BIMの実践、3:BIMと人材、4:BIMの発展といったカテゴリーに分けて基礎知識を盛り込み、最新のBIMの趨勢を見渡している。
その中で、教科書の巻頭に記した「BIMという道具を使って、私たち一人ひとりが何をするか、何を考えるのかを考える」点は、基本的な主張である。
教科書ではBIMのスペシャリスト育成を一方で目指しながら、技術の健全な理解の上に立つ「ジェネラリスト的視点」を併せて盛り込んでおり、これはBIM教育機構の理念の基調を成している。
この教科書については改訂を進めるとともに、2022年度内には続編「BIM BASICⅡ」の発刊を目指し準備中で、さらに知識を拡充し、業務遂行に資する工夫を加え、最近のBIMの動向についてページを割き、この理念をさらに掘り下げてゆく予定である。
 
この「BIM BASIC Ⅰ 建築・BIMの教科書」を教材にして、2022 年1月から、BIMの知識をどの程度まで身に付けているかを自分自身で診断・確認できるツール、オンラインでの「BIM基礎知識診断」をスタートしている(図-3、4)。
BIMの初学者、すでに業務に活用している人などさまざまな段階・職階に属する人を対象としている。
今後は参加者の意見を加えながら、さらに診断のレベルを少しずつ精緻に分けてゆきたい。
実はこの運営を、後ほど述べる資格制度検定のモデルにつなげようと考えている。

図-3 BIM 基礎知識診断の概要
図-3 BIM 基礎知識診断の概要
図-4 BIM 基礎知識診断の受診の流れ
図-4 BIM 基礎知識診断の受診の流れ

 
併せて、教科書の内容について時間集中型研修や幹部研修などの実施に取り組む計画がある。
対面・オンライン両面でスタートできるよう、最新のセミナースタイルを取り入れながら準備を進めている。
それぞれの組織の目標、具体的なBIM導入計画に即してカスタマイズした研修実施にも取り組んでゆく予定である。
 
 

学習と資格の将来をめぐって

ところで、建築設計3会(日本建築士会連合会・日本建築士事務所協会連合会・日本建築家協会)でも、実務者へのBIMの普及・導入促進に取り組んできた。
3会の共同作業の成果として「設計BIMワークフローガイドライン」があり、団体それぞれも独自の取り組みが行われている(日本建築士事務所協会連合会では、
BIMのポータルサイト「BIMGATE」や、BIM活用のアイデアコンペ運営などを実施)。
それぞれの構成単位が異なることによる角度の違いを生かしながら推進を始めているので、この3会をはじめ国土交通省建築BIM推進会議に加わっている各団体が同じ概念でBIMを使えることが望ましいと考える。
その目的に沿っての「BIMの教科書」や「BIM基礎知識診断」の活用は有効であり、BIM教育機構は多様なアクションを支える基盤の役割を果たしたい。
 
冒頭で述べた基盤づくりについて言えば、教育機関におけるBIM教育課程との連携は重要なテーマである。
現在各大学で進められているBIM教育には、設計能力の育成に資するとともに、建築生産の流れの中でデータを生かすという視点があるが、そこでの深い理解を促すには、機構が有する知恵と情報の教育機関への提供が可能であるし、また卒業後にバトンを受け継いでの継続学習も有効である。
例えば各企業がリスキリングに取り組む中で、機構が大学や大学院と連携したサービス提供も想定できるのではないか。
これからの多様な学びのスタイル、日本ならではの人材育成、産学連携での基盤づくりのモデルとしても検討を進める。
 
またBIM教育機構は、中期的に「BIM資格者」の制定を視野に入れている。
想定するのは「建築生産プロセスのどの分野でもBIMを正しく扱うことができ、それによって公共工事に関する調査や設計などの品質確保に資する技術者資格」との定義である。
BIM教育機構は、当面の目標に向かって活動する中で、あるべき制度の骨組みを組み立ててゆく。
当然ながら、機構が提唱する<継続性のある基盤づくり、人材づくり>という観点に沿って、取得すること自体が目標となる資格というよりも、学習を継続しながらスキルアップしてゆく内実を盛り込むものとしたい。
 
この資格については、国土交通省も資格制定の趣旨には賛同の意を表している。
ただし建築士資格にある「業務独占」の性格よりも、その資格の定着がBIM基盤の強化につながり、BIMを活用する人材の背中を押し、日本国内だけでなく国際的な競争を勝ち抜くモチベーションを高める資格でありたいと考えている。
BIM教育機構の活動をベースにしつつ、国や教育機関との意見交換を進め、国土交通省建築BIM推進会議での検討も呼び掛けてゆく。
スピードを上げて取り組もうと考えており、各方面との意見交換ができれば幸いである。
 
 

最後に BIMデータとともにある未来へ

以上述べたように、デジタルの基盤づくり、とりわけBIMの定着は、設計・施工プロセスをより信頼性を高めるものであり、それを支える人材の育成、あるいは各自の脱皮は急務である。
さらに、データを生かす局面においては、建築に関わるプレーヤーがBIMデータの生かし方を能動的に捉える必要があるだろう。
例えば、竣工後の可変性やフィードバックをどう建築が受け止めてゆくかはBIMデータが鍵となるが、それらの中から設計・施工プロセスや建築のあり方が変わってゆく可能性があるからだ。
 
例えば、スポーツ施設には、高みを目指すアスリートがいる一方で、市民スポーツ、さらに新たなスポーツの創成など、さまざまなありようが背景にある。
コミュニティー施設も似たものだろうか。
これらは利用者の動きと展開によって、竣工後の建築の形態やランドスケープに影響が及ぶことを想定しておく必要がある。
ライブな情報を取り込む建築の作り込みや場のあり方は、BIMを用いることによって、より「民主的な」可能性を切り拓くと言えるかもしれない。
 
しかしながら、こうした想像の先に、建築に関わる全てが自動化してしまう未来が待っているわけではない。
そのような単純な着想では少し危うい印象さえある。
あくまで建築をつくる専門家は、その建築を使うユーザーのためにリーダーシップを取り、BIMデータを能動的に活用する積極性、そして見識を備えているべきなのである。
 
いずれにしても、BIMデータは、建築のプロフェッショナルが建築の価値判断と方針選択を行うために、最良の材料となる。
その観点からBIMを使いこなすための教育基盤づくりと継続的な学習の支援を進めてゆきたい。
 
 
(参考)
「一般社団法人BIM教育機構の目指すもの」
(佐野吉彦、建設マネジメント技術2022年6月号)
「BIM教育機構のミッションとは」
(佐野吉彦、鉄道建築ニュース2022年11月号)
 
 
 

一般社団法人 BIM教育機構 理事長 
佐野 吉彦

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 



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