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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

北海道開発局における建設DX、i-Construction、BIM/CIMの取り組み

2024年3月6日

はじめに

北海道開発局では、地域を支える建設業の健全な発展を後押しし、建設業などの働き方改革の実現を図るため、「北海道開発局建設業等の働き方改革推進本部」を設置し、「北海道開発局建設業等の働き方改革実施方針」を策定しています。
また、建設現場の生産性向上を図るため、「北海道開発局インフラDX・i-Construction推進本部」を設置し、「北海道開発局インフラ DX・i-Constructionアクションプラン(以下、アクションプラン)」を策定しており、「i-Constructionの推進」、「BIM/CIMの推進」、「インフラDXの推進」、「フォローアップ活動」について取り組んでいます。
 
アクションプランの1つである「BIM/CIMの推進」については、令和5年度 BIM/CIM原則適用となったことで、業務・工事の実施増加が見込まれます。
しかしながら、原則適用はゴールではなく、これから業務・工事の実施(図-1)が徐々に増え続けていくもので、やっとスタートラインに立ったと考えております。

図-1 北海道のBIM/CIM活用状況
図-1 北海道のBIM/CIM活用状況

 
 

デジタル人材の育成

BIM・CIMは原則適用になりましたが、業務と工事単位で考えると令和4年度で10%程度しか活用できていない状況です。
 
担当者単位では、業務と工事の中でも、対応できる人は限定されており、誰でも使用できるツールとなるためには、デジタル人材を育成し増やしていくことが重要で不可欠です。
 
 

i-Construction先導事務所

北海道におけるインフラDX・i-Constructionの取り組みを推進するため、各開発建設部に「インフラDX・i-Construction 先導事務所」として14事務所を設置し、「i-Constructionモデル事務所」である小樽開発建設部(小樽道路事務所)のノウハウを全道的に展開する取り組みを令和3年度から先導事務所会議として実施(図-2、表-1、写真-1)しています。

図-2 i-Construction先導事務所
図-2 i-Construction先導事務所
表-1 先導事務所一覧
表-1 先導事務所一覧
写真-1 先導事務所会議web
写真-1 先導事務所会議web

 
令和3年度5回700人、令和4年度5回900人、令和5年度は4回500人が参加し、11月に第5回目の開催を予定しています。
 
近年は、先導事務所の取り組み紹介(図-3、4)および情報共有し全道各地で活用が促進される取り組みとして定着してきています。
 
 

研修や講習

建設DX、i-Construction、BIM/CIMに関係する研修や講習(写真-2、3)を令和4年度は約40回開催し、約6,300人が参加しました。
 
内容は、事例や取り組みなどを紹介するシンポジウムやセミナー、3DCADなどを実際に操作する研修、講習などとなっています。

写真-2 DX・i-Conセミナー
写真-2 DX・i-Conセミナー
写真-3 DX・i-Con研修
写真-3 DX・i-Con研修

 
 

北海道開発局 i-Con奨励賞

北海道開発局が所管する工事および業務に関し、建設現場における生産性向上の優れた取り組みを行った受注者を表彰することにより、建設業に携わる企業の i-Construction導入に向けた意欲向上を図るとともに、優れた取り組み事例を広く収集し周知することで、より一層の i-Construction推進を図っています(写真-4、図-5、6)。

写真-4 i-Con奨励賞
写真-4 i-Con奨励賞
図-5 ICT技術の活用
図-5 ICT技術の活用
図-6 ICT活用工事
図-6 ICT活用工事

 
 

身近なDXの普及

今まで、建設DX、i-Construction、BIM/ CIMを実施できるところは、建設現場などの予算規模が大きく大企業が受注した案件でしたが、近年は、維持工事や小規模工事(図-7、8)でも、利用が徐々に増えてきており、本当の意味で普及が進んできたと感じています。
 
活用が進んだ要因としては、今までの取り組みにより、活用事例が増えたことで、建設DX、i-Construction、BIM/CIMが特別なものではなくなり、身近な存在となったことや、調達可能な機器が普及していることだと考えております。

図-7 GISを利用したDX
図-7 GISを利用したDX
図-8 小規模工事でもAR活用
図-8 小規模工事でもAR活用

 
 

おわりに

BIM/CIMは原則適用になりましたが、全工事や業務で活用されるほど一般的になったとは言えません。
 
まだまだ、使用する機器は高額で、操作ができるか分からないものを調達するのに、二の足を踏む人も多いと思います。
 
現在、絶賛PR中の「DXデータセンタ」は、高性能PCや3DCADを安価に利用できることから、操作できる人が増えることを期待しており、操作できる人が増えることで機器の調達を促し、調達する人が増加すれば、機器の価格も下がることから、相乗効果で爆発的に普及するのも目前に近づいていると感じています。
 
これらの取り組みが浸透し、一般的なものとなったとき、次の新しい技術へ挑戦していくステップへと結びついていくことから、挑戦し続けることが、より一層の建設業の魅力へつながることを期待しています。
 
 
 

国土交通省 北海道開発局 事業振興部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



国土交通省におけるBIM/CIMの取り組みについて― 令和5年度BIM/CIM原則適用と今後の展開―

はじめに

BIM/CIMとは

BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)とは、建設事業で取り扱う情報をデジタル化することにより、受発注者のデータ活用・共有を容易にし、建設事業全体における一連の建設生産・管理システムの効率化を図る思想である。
情報共有の手段として、 3次元データと属性情報、3次元モデル以外の情報を使用する(図-1)。

図-1 BIM/CIMとは
図-1 BIM/CIMとは

 
国土交通省では、BIM/CIMの普及、定着、効果の把握やルール作りに向けて、2012年度から取り組みを進めている。
 
2020年は新型コロナウイルス感染症を契機とし、建設現場における新たな働き方への転換、デジタル技術を駆使したインフラ分野の変革が急速に進み、政府を挙げてデジタル化による社会の変革が求められているところである。
国土交通省においても2022年3月に「インフラ分野のDXアクションプラン(第1版)」を策定し、インフラ分野のデジタル化・スマート化を、スピード感を持って強力に推進している。
さらに2023年8月に「インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)」を公表し、「インフラの作り方の変革」、「インフラの使い方の変革」、「データの活かし方の変革」という3つの柱に分類し、分野網羅的・組織横断的にインフラ分野のDXを進めることとしている。
 
なお、建設業界では、i-Constructionの推進を通じて、ICT 建設機械や無人航空機(UAV)などを活用したICT 施工など、設計・施工におけるデジタル技術の積極的な活用を進めてきたところである。
インフラ分野のDXは、これまでの i-Constructionの取り組みを中核とし、インフラ関連の情報提供やサービス(各種許認可など)を含めてDXによる活用を推進していく「インフラの利用・サービスの向上」と、建設業界以外(通信業界、システム・ソフトウエア業界など)や占用事業者を含め業界内外がインフラを中心に新たなインフラ関連産業として発展させる「関連する業界の拡大や関わり方の変化」の2つの軸により、i-Constructionの目的である建設現場の生産性の向上に加え、業務、組織、プロセス、文化・風土や働き方を変革することを目的とした取り組みである。
 
その施策の一つであるBIM/CIMは、 2023年4月1日以降に入札契約手続きを開始する原則として全ての直轄土木詳細設計(実施設計含む)および工事において、適用することとしている。
 
本稿では、これまでのBIM/CIMの導入に向けた取り組みと、今後の取り組みについて紹介する。
 

BIM/CIM実施状況

国土交通省では、業務については2012年度から、工事については2013年度から BIM/CIMの試行を進めている。
2022年度のBIM/CIM活用実績は994 件(業務549件、工事445件)となり、前年度の757件(業務483件、工事274件)を大きく上回り、BIM/CIMの活用が進んでいることが分かる(図-2)。

図-2 BIM/CIM活用業務・工事の推移
図-2 BIM/CIM活用業務・工事の推移

 
さらなるBIM/CIMの活用に向けて、2019年3月、i-Constructionモデル事務所(以下、モデル事務所)を10事務所、 i-Constructionサポート事務所(モデル事務所を含む)を53事務所設置した。
モデル事務所においては先導的に3次元モデルを活用し、各地方整備局等内のリーディング事務所として3次元情報活用モデル事業を推進しており、i-Constructionサポート事務所では地方自治体からの相談対応などを行っている。
2020年度にはモデル事務所として新たに3事務所追加し、取り組みを進めている。
各事務所におけるBIM/CIMの活用事例は「BIM/CIM事例集」として活用効果や課題をとりまとめ、公開している(図-3)。

図-3 モデル事務所の取り組み
図-3 モデル事務所の取り組み

 
 

令和5年度BIM/CIM原則適用の実施内容について

前述のとおり、2023(令和5)年度から原則として全ての直轄土木詳細設計(実施設計含む)および工事において、BIM/ CIMを適用することとしており、以下において取り組む内容を紹介する。
 

3次元モデルの活用について

BIM/CIMといえば、3次元モデルを思い浮かべる方も多いと思う。
これまでの BIM/CIMの取り組みにおいても試行事業などを通じて、3次元モデルの活用を中心として、検討を重ねてきている。
3次元モデルを有効に活用するに当たっては、活用目的を見据えた上で、3次元モデルを作成・活用することが効率的である。
令和5年度原則適用においては、3次元モデルの活用目的を「義務項目」と「推奨項目」に分け実施する。
「義務項目」については、原則として全ての直轄土木詳細設計(実施設計含む)および工事において活用することとし、「出来上がり全体イメージの確認」など、視覚化による効果を中心に、未経験者でも取り組み可能なものを設定している。
「推奨項目」については、業務・工事の特性に応じて活用することとしており、「施工ステップの確認」や「鉄筋の干渉チェック」など、大規模な業務・工事および条件が複雑な業務・工事について活用が有効である内容を一覧として整理し提示している。
提示した内容に限らず、生産性向上に資する内容については積極的に検討し、活用したいと考えている。
 
なお、設計図書は従来どおり2次元図面を使用し、3次元モデルは2次元図面を理解しやすくするための参考資料として取り扱うものである。
 

義務項目の概要(詳細設計)について

詳細設計においては、「出来上がり全体イメージの確認」、「特定部の確認」を活用目的として3次元モデルを作成・活用する。
 
「出来上がり全体イメージの確認」は、住民説明、関係者協議などの説明機会での利用や景観検討において、設計対象の全体の完成イメージを確認することを目的とするものである(図-4、5)。

図-4 遊水地完成イメージ
図-4 遊水地完成イメージ
図-5 砂防堰堤完成イメージ
図-5 砂防堰堤完成イメージ

 
「特定部の確認」は、一言でいうと2次元図面では分かりづらい箇所を3次元モデルで作成することにより、設計内容を確認するものである。
特定部とは例えば、複雑な立体形状の部分、地下埋設物・構造物や電線などの近接施工の部分、土木工事と設備工事など複数工種の取り合い部分などが該当する。
なお、鉄筋などの内部構造の干渉については、3次元モデル作成の手間が大きくなることから義務項目の対象からは除いている(図-6)。
 
3次元モデルの作成に当たっては、詳細度200(構造形式が分かるモデル)から詳細度300(主構造の形状が分かるモデル)を目安に活用目的に応じて必要な精度とする。
また、3次元モデルに付与する属性情報(部材などの名称、規格、仕様などの情報)についても、オブジェクト分類名(道路土構造物、橋梁などの分類の名称)のみ入力し、その他は作成者の任意で入力することとしている(図-7)。
 
前述のとおり、3次元モデルは参考資料という位置付けであり、活用目的の部分以外の箇所は、重要ではなく、受発注者ともに3次元モデル作成に過度な労力をかけないように留意して取り組んでもらいたい。

図-6 電線との離隔確認
図-6 電線との離隔確認
図-7 3次元モデルの詳細度
図-7 3次元モデルの詳細度

 

義務項目の概要(工事)について

工事における活用は、設計段階で作成された3次元モデルを閲覧することにより、2次元図面の照査、施工計画の検討に役立てるほか、現場作業員などへの説明に利用する。
なお、義務項目においては、3次元モデルの閲覧のみを対象とし、作成・加工などを伴うものは推奨項目としている。
特に、工事においては中小企業が多く、BIM/CIM(3次元モデル)に初めて取り組む者も多い。
3次元モデルの活用の第一歩として、義務項目を設定している。
 

推奨項目の概要について

推奨項目については、義務項目より発展した項目として、以下のようなものを例示している。
 
【視覚化による効果の例】
・歩行者、車などの視点からの視認性の確認(図-8)

図-8 交差点の視認性確認
図-8 交差点の視認性確認

・維持管理、保守点検などの作業スペース、点検通路などの確認
・官民境界、建築限界、地質(支持層、湧水帯)などを重ね合わせての位置関係の確認( 図-9、10、11)

図-9 桁下の建築限界の確認
図-9 桁下の建築限界の確認
図-10 トンネルと地質の確認
図-10 トンネルと地質の確認
図-11 杭と支持層の位置確認
図-11 杭と支持層の位置確認

・3次元モデル上に重機などを配置し、近接物の干渉など、施工に支障がないか確認(図-12)

図-12 建機の施工範囲の確認
図-12 建機の施工範囲の確認

・AR、VRなどを用いて、現地に完成形状などを投影して比較・確認(図-13、14)

図-13 ARと重ね合わせて確認
図-13 ARと重ね合わせて確認
図-14 埋設物を表示させて確認
図-14 埋設物を表示させて確認

・一連の施工工程のステップごとの3次元モデルにより施工可能かどうか確認
・3次元モデルで複数の設計案を作成し、最適な事業計画の検討
 
【省力化・省人化の効果の例】
・3次元モデル上で体積、面積、員数などの自動数量算出(図-15)

図-15 盛土の数量自動算出

・3次元モデルとGNSSなどの位置情報を組み合わせた施工位置の確認(図-16)

図-16 配筋位置の重ね合わせ
図-16 配筋位置の重ね合わせ

・コンクリートなどの打設日ごとに色分けし、施工手順の明確化や進捗確認に活用(図-17)

図-17 護岸工の打設日で色分け
図-17 護岸工の打設日で色分け

 
【精度の向上の効果の例】
・3次元モデルで日影、騒音などをシミュレーションによる解析(図-18)

図-18 日影の確認
図-18 日影の確認

 
【情報収集などの容易化の例】
・3次元モデルに写真、品質情報などを紐付け、情報を探しやすくする(図-19)

図-19 3次元モデルに情報紐付け
図-19 3次元モデルに情報紐付け

・アンカー、埋設物などの施工後不可視となる部分を3次元モデルで可視化
 
例示したもの以外にも、多様な活用方法があり、推奨項目を発展させていくことを予定している。
 

発注者によるデータ引き継ぎ

ここまで3次元モデルの活用を中心に記載しているが、3次元モデルに関わらず前工程のデータを後工程に引き継ぐことが重要である。
建設事業においては、事業期間が長く、また、調査・測量、設計、施工などの多数の関係者が協力し進めている。
その中心には発注者がおり、発注者が各受注者の成果を管理し、別の受注者に必要なデータを提供するなどデータマネジメントを担っている。
 
そこで、令和5年度BIM/CIM原則適用に合わせて、発注者として当然の責務ではあるが、業務・工事の契約後速やかに、発注者が受注者に設計図書の作成の基となった情報を説明し、受注者が希望する参考資料(電子データを含む)を貸与することを、説明に使用する資料の記載例も示した上で義務付けた。
業務成果が古い場合や、修正(変更、追加)が多数行われている場合であっても、最新のデータを漏れなく後段階の受注者に確実に共有することは非常に重要であり、データ共有がなされないことに起因する手戻りをなくしていきたいと考えている。
また、成果品を一元管理す る「電子納品保管管理システム」が、令和4年11月から受注者もアクセスできるようになり、オンラインによる成果品の貸与が可能となった。
受注者において成果品を検索し、必要な成果が取得できるようになったことで、CDなどの電子媒体の受け渡し
の手間や時間が削減され、作業の効率化が図られている(図-20)。

図-20 電子納品保管管理システム概要

 
 

今後に向けた検討

令和5年度BIM/CIM原則適用が開始したことを鑑み、BIM/CIMの実施状況やデータシェアリングの現状・あり方などについてフォローアップしていく。
また、さらなる活用の高度化や維持管理も含めた段階での利用など、モデル事務所などを通じて得られた知見を一般化し、より効率的な事業実施を目指している。
さらに、令和5年度では推奨項目としているものを令和6年度以降に義務項目に移行するなど段階的なレベルアップを図りたいと考えている。
 

生産性向上の可能性(発注者の視点)

建設事業全体における一連の建設生産・管理システムにおいて、発注者における主な課題(時間がかかる作業)として、「積算に必要な数量の確認」、「設計変更協議の内容確認」がある。
そこで、BIM/CIMを活用し、発注者の積算関係作業の効率化が図られれば、生産性向上が期待される。
詳細設計で求めている詳細度200から300では全ての施工プロセスをモデル化されるわけではないため、数量算出されない項目があるものの、数量算出作業の簡略化につながる可能性があることは分かっている。
 
将来的には、発注者が設定しなければならない項目を除き、自動的に数量算出作業が完了している状態を目指し、BIM/ CIMを活用した効率的な数量算出の検討やソフトウエアにおける自動数量算出機能の正確性の担保について調査をしていきたいと考えている。
 

中小企業などへの普及拡大

これまでBIM/CIM(3次元モデル)の活用は、大企業を中心に活用されており、だんだんと中小企業にも裾野が広がっているところであるが、まだまだ未経験者も多く、令和5年度原則適用をきっかけに初めて取り組む者も多くいる。
未経験の者も円滑に取り組めるように、国土交通省では研修資料を公開したり、各業団体などの講習会要請に応じたり、普及拡大に努めたいと考えている。
 
また、地方公共団体などに対して、発注関係者の集まる発注者協議会などの場を通じて国土交通省の取り組みを紹介するなど、連携して進めたいと考えている。
 
 

おわりに

最後にインフラDX、i-Construction、 BIM/CIMの取り組みの普及、進展を図ることで建設現場における生産性向上をより一層実感できる環境の整備を進めていきたい。
 
 
 

国土交通省 大臣官房参事官(イノベーション)グループ 課長補佐
潮 逸馬

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



国土交通省のインフラ分野のDXの取り組み ―アクションプラン第2版の策定―

2024年3月5日

はじめに

災害対策やインフラの老朽化対策の必要性は高まる一方、インフラ分野において、今後深刻な人手不足が進むことが懸念されることから、国土交通省では平成28年よりICT技術の活用等による建設現場の生産性向上を目指すi-Constructionを推進してきたところです。
 
コロナ禍による非接触・リモート型の働き方を契機に、近年のデータやデジタル技術の普及・拡大も相まり、建設現場の生産性向上に加え、国民の安全・安心で豊かな生活の実現という目標を掲げ、「インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」を開始しました。
 
令和4年3月には、インフラ分野のDXを推進するための取り組みや実現のための具体的な工程( 2025年度まで)などを取りまとめた「インフラ分野のDXアクションプラン(第1版)」を策定しました。
 
令和5年8月には、インフラ分野のDXの一層の推進に向け、「インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)」を策定し、「インフラの作り方の変革」、「インフラの使い方の変革」、「データの活かし方の変革」という三つの観点で分野網羅的、組織横断的に取り組みを進めることとしています。
本稿では、DXの意味や取り組みの背景などを説明した後、インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)の内容を中心に、インフラ分野のDXの取り組みについて説明します。
 
 

わが国が抱える背景と将来像

ご承知のとおり、わが国では、少子高齢化が急速に進展しています。
令和5年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、総人口は50年後に現在の7割に減少し、65 歳以上の人口はおよそ4割を占めるようになると推計されています1)
このような少子高齢化の進展、生産年 齢人口の減少により、先述したインフラ分野に限らず、他産業などでも労働力不足が懸念され、社会水準を維持・向上させていくためには、より多くの付加価値を生み出していくことが必要です。
 
近年、ICT技術はより進化しています。
スマートフォンやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)デバイスなどの機器の普及により、それらの機器を通じた大量のデータ(ビッグデータ)の集積が進むようになりました。
これらのデータを分析するAIなどの活用もさまざまな分野で進んでいます。
 
このようなデジタル化が進んだ社会像として、Society5.0が提唱されています。
Society5.0は、内閣府の第5期科学技術基本計画2)において、わが国が目指すべき未来社会の姿として、平成28年に公表されたものです。
社会全般にDXという言葉が浸透しつつある現在から見ても、大変勉強になります。
ご興味がございましたら、ぜひご一読ください。
 
 

インフラ分野のDXとは何か

経済産業省が公表している「DX推進指標」とそのガイダンスでは、DXについて次のとおり定義しています。
 

【「DX推進指標」における「DX」の定義】3)
企業がビジネス環境の激しい変化 に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

 
また、国土交通省では、インフラ分野のDXを次のように位置付けています。
 

【インフラ分野のDX】4)
社会経済状況の激しい変化に対応し、インフラ分野においてもデータとデジタル技術を活用して、国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革し、インフラへの国民理解を促進するとともに、安全・安心で豊かな生活を実現すること

 
公共性などのインフラ分野の特徴を生かし、安全・安心の向上といった価値創出を目指している点を位置付けているのがポイントです。
 

インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)について

⑴国土交通省のインフラ分野のDXの取り組み体制

国土交通省では、令和2年度より国土交通省インフラ分野のDX推進本部5)を開催しています。
 
令和5年4月には、国土交通省に大臣官房参事官(イノベーション)グループが誕生しました。
この組織は、国土交通省総合政策局で機械関係の施策を担当する施工企画室と、大臣官房技術調査課で電気通信関係の施策を担当する電気通信室、そしてi-Constructionなどの施策を担当する土木分野の担当職員ら、総勢約40名の職員で構成され、国土交通省のインフラ分野のDXの旗振り役として、インフラ分野の DX推進本部の事務局を担っています。
 
8月には、インフラ分野のDX推進本部において議論を行い、インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)を策定しました。
具体的にはインフラ分野のDXの実現に向けて、国土交通省の各分野における施策を洗い出し、個別施策(アクションプラン、施策数合計:86)として、「インフラ分野のDX推進のための取組」、その実現のための「具体的な工程」や取り組みにより
「利用者目線で実現できる事項」を取りまとめています(図-1)。
また、国土交通省としてのインフラ分野のDXの取り組み方針を具体化するとともに、それにより実現する社会の姿を明確化しています。

図-1 アクションプランに位置付けた個別施策の一つの除雪現場の生産性・安全性向上「i-Snow」
図-1 アクションプランに位置付けた個別施策の一つの
除雪現場の生産性・安全性向上「i-Snow」

 

⑵インフラ分野のDXの目指す将来像

インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)において、インフラ分野のDXにより目指す将来像を明確化しました。
具体的には、国土交通省における技術政策の基本方針等を示した第5期国土交通省技術基本計画6)を参考としています。
この計画の中で、今後5年間の技術政策の前提として、20~30年先(おおむね2040~2050年頃)の将来を想定し、長期的な視点で実現を目指す将来の社会イメージを作成しています(図-2)。
 
国土交通省が推進するインフラ分野のDXにおいても、第5期国土交通省技術基本計画に掲げた、「国土、防災・減災」、「交通インフラ、人流・物流」、「くらし、まちづくり」、「海洋」、「建設現場」、「サイバー空間」の六つの将来社会のイメージ実現を目指すべき将来像として位置付けました。
なお、この将来の社会イメージは、先に挙げた国土交通省の分野におけるSociety5.0といえるものとなっています。

図-2 将来の社会イメージ[建設現場]第5期国土交通省技術基本計画(令和4年4月)
図-2 将来の社会イメージ
[建設現場]第5期国土交通省技術基本計画(令和4年4月)

 

⑶目指す将来像に向けたインフラ分野のDXの方向性

インフラ分野のDXの方向性として、インフラに関わるあらゆる分野で網羅的に変革する、「分野網羅的な取組」という視点を掲げています。
 
国民目線・利用者目線に立って、進んでいる他分野の取り組みを参考にして、DXのさらなる取り組み強化が求められている分野があるのではないかという視点で、検討しています。
この検討を進めるための参考として、取り組みを「インフラの作り方」、「インフラの使い方」、「データの活かし方」という三つの分野に分類し、DX(変革)を進めることとしています(図-3)。

図-3 インフラ分野の DX における3分野
図-3 インフラ分野の DX における3分野
  1. 「インフラの作り方の変革」は、インフラの建設生産プロセスを変革する取り組みが対象となります。
    データとデジタル技術を活用し、建設生産、管理プロセスをより良いものにしていく取り組みです。
    i-Constructionの取り組みもこの中に含まれています。
  2. 「インフラの使い方の変革」では、インフラの「運用」と「保全」の観点が対象となります。
    「運用」では、インフラ利用申請のオンライン化や書類の簡素化に加え、デジタル技術を駆使して利用者目線でインフラの潜在的な機能を最大限に引き出すことなどが挙げられます。
    「保全」では、最先端の技術などを駆使した、効率的・効果的な維持管理などが挙げられます。
    これらの取り組みを通じて、賢く(Smart)かつ安全(Safe)で、持続可能(Sustainable)なインフラ管理の実現(3S)を目指します。
  3. 「データの活かし方の変革」は、上記二つはフィジカル空間を対象としている一方で、サイバー空間を対象とした変革です。
    インフラまわりのデータを活かすことにより、仕事の進め方、民間投資、技術開発が促進される社会を実現することを目指します。
    具体的には、IoTデバイスなどの機器の普及により、フィジカル空間で取得したデータを大量にサイバー空間に移すことが可能となりました。
    これらのデータをサイバー空間において予測や検証を行い、フィジカル空間にフィードバックすることで新たな価値を創出するという考え方です。
    取り組みの一つとして、国土交通省では、国土交通データプラットフォームをハブに国土に関するデータの収集・蓄積・連携を進めており、国土交通データプラットフォームのユースケースの創出を進めています。

 

⑷インフラ分野のDXを進めるためのアプローチ

国土交通省では、インフラ分野のDXを進めるに当たり、民間企業などで一般に用いられているアプローチも活用しながら、職員に対する業務・意識の変革を進めていきます。

  1. チェンジ・マネジメント
    職員の意識、動機付け、行動様式、組織文化といった人的・心理的側面への組織的対応により「変化に対する心理的抵抗」を緩和することを中心に、変革による混乱を早期に収束させることで、業務変革の効果を一層高めます。
  2. リーン・マネジメント
    工程単位ではなく全体最適を目指し、徹底的に無駄を省くことにより、生産性を極限まで高めます。
  3. アジャイル・マネジメント
    意思決定の権限を分散した自律型組織において、明確な目標に基づき小規模・短期間の変革と改善および方向転換を素早く何度も繰り返すことにより、結果的に大きな変革の達成を目指します。
  4. ナレッジ・マネジメント
    個人の持つ暗黙知を組織での共有が可能な形式知(データ、システム)に置き換えることで、生産性の向上を目指します。

 

インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)は、各部局で利用されているデジタル技術を網羅的に把握し、デジタル技術の導入が進んでいる分野や今後よりデジタル技術を活用・浸透させていく分野の特定を目的として、各施策に対するデジタル技術の活用状況を分析しています。
具体的には、個別施策(施策数合計:86)について、「インフラの作り方の変革」、「インフラの使い方の変革」、「データの活かし方の変革」という分野網羅的の三つの観点で分類を行った上で、各施策にどのデジタル技術が利用されているのかを「インフラDXマップ」として整理しています(図-4)。

図-4 インフラDXマップ
図-4 インフラDXマップ

 
このインフラDXマップを確認することで、例えば、ドローンやセンシング、人工衛星などを活用し、高精度・高頻度な「データを取得する技術」が、「インフラの作り方」や「インフラの使い方」(特に交通施設の運用や自動運転、災害把握・復旧)に関連した多くの施策で活用されていることを認識できます。
デジタル技術とインフラ分野を網羅的に整理していることにより、どのようなデジタル技術がインフラ分野と親和性が高いのか、また、デジタル技術を取り扱う民間の方々に、インフラ分野のどの分野にビジネス機会があるのか、といった視点で見ていただくこともできると考えています。
 
なお、今回ご紹介できませんでしたが、インフラDXマップの基となっている各分野の個別施策(施策数合計:86)とデジタル技術の関係については国土交通省ホームページに掲載していますので、ご覧いただければ幸いです。
 
【参考】国土交通省ホームページ https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000073.html
 
 

おわりに

以上のように、わが国が抱える背景や将来像、インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)の内容を中心に説明してきました。
DXというと、「D:Digital(デジタル)」の観点に注力しがちですが、「X:Transformation(変革)」の観点も重要だと考えています。
変革とは顧客視点での新しい価値創出であって、インフラ分野では安全や安心、サービス水準の向上が挙げられます。
 
読者の皆さまにおかれましては、日々、多くの課題に直面され大変なご苦労をされているかと思いますが、ぜひともインフラ分野の新しい価値創出を目指していただければ幸いです。
 
国土交通省大臣官房参事官(イノベーション)グループもインフラ分野のDXの旗振り役として、皆さまの取り組みの参考になるよう、引き続き取り組んでまいります。
 
 

【出典】

1)日本の将来推計人口(令和5年推計)(令和5年4月、国立社会保障・人口問題研究所)
https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp
2)科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)
https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf
Society5.0(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/
3)「DX推進指標」とそのガイダンス(令和元年7月、経済産業省)
https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/ug65p90000001j8i-att/dx-suishin-guidance.pdf
4)第1回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議資料
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000074.html
5)国土交通省インフラ分野のDX推進本部
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000073.html
6)第5期国土交通省技術基本計画
https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_000891.html
 
 
 

国土交通省 大臣官房 参事官(イノベーション)グループ 課長補佐 
大谷 彬

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
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