書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。
BIMモデルから環境性能と環境シミュレーションを一発算出! -建築GXを当たり前にするツール開発-
2026.07.21はじめに─GXは「一部の先進事例」から「全ての設計行為」へ
日本は2050年カーボンニュートラルの実現を掲げ、住宅・建築物分野にも大きな役割を期待している。
建物の建設から解体までのライフサイクル全体で見た二酸化炭素排出量、いわゆるライフサイクルカーボン(LCCO₂)は、国内排出量のかなりの割合を占めるとされており、「建築のGX」はもはや一部の環境配慮型プロジェクトだけの課題ではない。
制度面の動きもそれを裏付けている。
2025年4月からは、原則として全ての新築住宅・建築物で省エネ基準への適合が義務化された。
これまで特定の規模の建物に限られていた省エネ計算は、今後は多くの一般的な建物にとっても避けられない「標準業務」になっていく。
さらに、建築BIMの活用とLCAの実施を一体的に支援する「建築GX・DX推進事業」のような枠組みも立ち上がり、BIMを前提とした環境性能評価を後押しする動きが加速している。
こうした背景を踏まえると、いま現場に求められているのは「GXに取り組むべきかどうか」ではなく、普段の設計・施工プロセスの中に、どうGXを組み込むか、という問いだと言える(図-1)。
現場で起きている「ずれ」─データ・タイミング・人材
とはいえ、実務の現場でGX対応が自然に回っているかというと、まだ道半ばと言わざるを得ない。
特に中小規模の設計事務所や地方ゼネコン、建設コンサルの担当者と話をすると、いくつか共通した感触が見えてくる。
一つは、データのずれである。
意匠・構造・設備のBIMモデルとは別に、省エネ計算用のスプレッドシートやLCA用の集計表が存在し、同じ情報を二重三重に入力している。
BIMで図面や数量をつくっていても、計算書側との整合は最終的に人手でチェックせざるを得ない。
その結果、「BIMを使っているのに、肝心な省エネやLCAは別世界で回っている」という無駄な構造が生まれがちである。
もう一つは、タイミングのずれである。
設計がかなり進んだ終盤になってから省エネ計算やLCAを行い、その段階で初めて「基準を満たしていなかった」「想定よりも環境負荷が大きかった」と分かる。
外皮や設備の仕様を大きく見直すことになり、図面やコスト調整を含めた手戻りが発生する。
本来であれば、ボリュームや外皮の構成を決めるもっと早い段階で、環境性能のおおよその見通しを持っておきたいところだが、それを支える仕組みがない-という声は少なくない。
さらに、人材のずれもある。
環境性能の評価や申請実務に詳しい人が社内の一部に偏り、その人に業務が集中する。
ほかのメンバーから見ると、「省エネはあの人の専門領域」と映り、日常の設計判断の中にGXの視点が入り込みにくい。
結果として、BIMもGXも、一部の詳しい人の話として扱われてしまう懸念がある。
こうした「データ・タイミング・人材」のずれが重なることで、「BIMは使っているが、GXのための定量評価や環境シミュレーションにはつながっていない」というギャップが生じているのではないか。
本稿では、このギャップを埋めるための一つの試みとして、フローワークスによるBIM連携型GXプラグインの取り組みを紹介したい(図-2)。
BIMモデルを「環境性能の基盤」にする
フローワークスは、このギャップを埋めるための基本方針として、BIMモデルそのものを環境性能の基盤にする、という考え方をとっている。
一つのBIMモデルから、図面や数量だけでなく、省エネ計算用のデータ、LCA算定に必要な数量、さらには環境シミュレーションの入力データまでを一気に取り出せるようにする。
そのために、共通ルールやテンプレート、プラグインをあらかじめ整え、設計者が日常のモデリングを行うだけでGXに必要な情報が自動的にそろっていく状態を目指している。
ここで重要なのは「特別な環境プロジェクトのためのBIM」ではなく、どのプロジェクトでも同じ作り方をしていれば、自然とGXの土台になるBIMにしていくことである(図-3)。
FLOWWORKS GX プラグイン─数値評価とシミュレーションの両輪
この考え方を具体化した取り組みが、フローワークスが開発する「FLOWWORKS GXプラグイン」である。
汎用的なBIMソフト(現時点ではVectorworksを主対象)で構築された建築BIMモデルを前提に、省エネ性能(BEI)算定サービスやLCAの算定ツール(J-CAT)と、環境シミュレーションツール(Ladybug Tools)とをつなぐ役割を担う。
前半の機能は、環境性能の算定自動化である。
外壁や屋根、床、開口部、設備機器といった部位に対して、断熱仕様や熱貫流率、材料種別、仕上げ、厚みなどの情報を整理した「標準属性」を用意し、「BIM-GX標準テンプレート」としてプロジェクトに組み込む。
設計者は、通常のモデリング作業の中で、壁の種類や窓の仕様を選んでいくだけでよく、どの属性が一次エネルギー消費量やLCAのどの項目に対応するかはプラグイン側が管理する。
BIMモデル内にある部位の面積・体積・設備容量などは、「BEI/LCAオートエクスポート機能」によって自動的に集計され、省エネ計算に必要な入力値として整理される。
結果は、省エネ計算用のExcelシートやWebツールにそのまま読み込める形で出力されるため、BIMモデルが正しく作られれば、BEIの値をすぐに確認することができる。
同様に、LCA算定のための数量もBIMモデルから抽出し、既存のLCAツール(J-CAT)に渡しやすいフォーマットに整形する。
後半の機能が、2025年12月から本格対応を予定しているLadybug Toolsとの連携である。
Ladybug Toolsは、Rhino/Grasshopperを中心とした環境シミュレーション・プラットフォームとして広く知られているが、導入にはある程度のスキルや時間が必要だった。
そこでフローワークスは、「Ladybug連携モジュール」として、BIMモデル側で整理したジオメトリと標準属性の情報を、Ladybug Toolsが扱いやすい形で書き出す仕組みを開発している。
設計者は、いつもどおりBIMで建物をモデリングし、必要な標準属性を付与した上で、「Ladybug用に書き出す」という操作を行うだけで、日照や放射、日射取得、温熱環境などのシミュレーションに使えるデータセットを得られるようになる。
Grasshopperの操作に精通していなくても、BIM側から「環境シミュレーションの入り口」までを短い距離でつなげることが狙いである(図-4)。
環境性能算出ツールおよび環境シミュレーションツールとの連携がもたらす意味
この連携には、単に操作が簡単になる以上の意味がある。
一つは、「数値評価」と「空間性能の感覚的な理解」のギャップが縮まることである。
省エネ計算やLCAは、どうしても数値や表を相手にする作業になりがちだ。
設計者からすると「BEIが0.8から0.7に下がった」と言われても、その差が空間のどのような変化として現れるのかが直感的にはつかみにくい場面も多い。
環境シミュレーションツールを通じて日照分布や放射環境、室内の温熱分布といった情報が色分けされた図として返ってくると「この庇を伸ばしたことで、この時間帯の直達日射がここまで減った」「この窓配置を選んだことで、冬場の日射取得がこれだけ増えた」といった感覚的な理解が生まれる。
同じBIMモデルから、BEIやLCCO₂といった数値と、環境シミュレーションによる空間性能についての感覚的なフィードバックの両方が得られるようになる点は、設計者にとって大きい。
もう一つは「環境配慮型の設計」が特別な専門領域ではなく、日常的な設計行為の中に入り込んでくることである。
BIMモデルさえきちんと整えておけば、いくつかの案について簡単かつ素早くシミュレーションを回し、日射や天空率、外皮性能の違いを比較できる。
これは、環境配慮型の設計にとって大きなアドバンテージとなる。
従来は「環境シミュレーションをしたいが、外部の専門家に頼むほどでもない」「ソフトやスクリプトを覚える時間が取れない」といった理由で見送っていた検討が、BIMモデルとFLOWWORKS GXプラグインの組み合わせによって、現実的な選択肢として日常業務の射程に入ってくるのである(図-5)。
GXプラグインとBIMテンプレートがもたらす設計の未来
GXプラグインと「BIM-GX標準テンプレート」、そして簡単な研修を組み合わせて導入すれば、設計フローそのものが少しずつ変わり始めていくと考えられる。
これまで「意匠をまとめてから省エネ計算に回す」という直線的な流れだったプロセスは、もっと循環的なものに変わっていくだろう。
敷地条件やボリュームを検討する段階で、まずは大まかなBIMモデルをつくる。
標準属性を付与し、GXプラグインでBEIの概算値を出してみる。
いくつかの案について日射や温熱環境のシミュレーションを回してみる。
その結果を踏まえて、もう一度ボリュームや窓の位置、庇の出を調整する-そうした「試行錯誤のループ」が、ふだんの設計の中に自然に組み込まれていくイメージである。
このとき、設計者の役割も少しずつ変わっていく。
紙の上でエスキースを重ねるのと同じ感覚で、BIMモデルを使いながら環境性能の手応えを確かめる。
数字だけでなく、シミュレーション結果の色の分布として空間の性格を感じ取りながら、意匠・性能・コストのバランスを探っていく。
そうした「環境を身体感覚として扱える設計者」が、これからの現場では当たり前になっていくかもしれない。
また、組織の学び方も変わる。
各プロジェクトで得られたBEIやLCCO₂、日射や温熱のシミュレーション結果をBIMモデルと紐づけて蓄積していけば「こういう敷地条件・用途・規模のときには、この程度の外皮性能と設備構成で、これぐらいの性能が期待できる」という社内知見が少しずつ貯まっていく。
それは、個々の担当者の経験則を超えた、組織としての「環境設計のベースライン」になっていくはずである。
さらに長い目で見れば、こうした「数値評価」と「空間性能の感覚的な理解」の組み合わせは、建物単体の設計だけでなく、街区や地区レベルの環境検討にも広がっていく可能性がある。
複数の建物モデルを並べ、日影や風の流れ、外構の植栽計画などを含めてシミュレーションすることで「敷地全体としてどの程度の快適性やエネルギー性能が期待できるか」を早い段階で共有できるようになるかもしれない。
GXプラグインは、そのための入り口にすぎない。
そして「BIMモデルさえきちんと作れば、数値評価もシミュレーションも一気に見通せる」という体験は、設計者のものの見方や、組織の設計プロセスを静かに、しかし着実に変えていく力を持っていると考えられる(図-6)。
おわりに─BIMを「GXのインフラ」に育てていく
官公庁施設をはじめとする公共建築では、ZEB化やライフサイクルカーボン削減に向けたロードマップが示されつつあり、LCAやGX対応は今後、地方の公共施設や民間の中規模建築にも確実に広がっていくはずだ。
そのとき、BIMは「3次元で図面を描くための便利なツール」という枠を超えて、建物の一生にわたる環境負荷を見える化し、設計・施工・維持管理をつなぐGXインフラとしての役割を担うようになるだろう。
フローワークスは、BIMモデルからBEIやLCAを自動算定する「FLOWWORKS GXプラグイン」と「BIM-GX標準テンプレート」、そしてLadybug Toolsを通じた環境シミュレーションの連携を組み合わせることで、数値と空間的な感覚の両面からGXを支えることを目指している。
これらのツール群を支える共通ルールやテンプレート、人材育成の仕組みを通じて、中小設計事務所や地域の建設プレーヤーとともに、建築GX・DXの「現場への社会実装」を進めていきたい。
2025年7月のBEI/LCA自動算出対応、12月の環境シミュレーション対応は、その流れの中で一つの大きな節目になると考えられる。
環境シミュレーションをごく自然に設計プロセスに組み込める時代を、BIMの現場からつくっていけるかどうか。
本稿が、その一歩を考えるきっかけになれば幸いである(図-7)。
【出典】
最終更新日:2026-07-21
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