建設ITガイド

トップ >> 特集記事 >> 2025年7月 特集記事

書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

自治体におけるBIM活用事例|八幡市役所-BIMFMによる庁舎管理の省力化-

2025年7月28日

はじめに

2023年1月、八幡市は新庁舎を開庁しました。
この新庁舎の設計、施工、維持管理にはBIM(Building Information Modelling)の活用が必須条件となりました。
本寄稿では、八幡市と日建設計および日建設計コンストラクション・マネジメントが行った「BIMを活用した維持管理システムのデジタル化」(以下、BIMFM)に関する業務や今後の庁舎管理についてまとめています。
 
現在、維持管理のデジタル化に関する公開事例は少ない状況です。
また、公共施設は民間企業と異なり、BIM業務の発注に関する専門部署を持っていないことが一般的です。
このため、この取り組みは新しい事例と言えるでしょう。
市区町村はさまざまな規模や築年数の施設を抱えていますが、用途としては特殊なものではありません。
そのため、管理ノウハウは市区町村間で比較的容易に情報共有ができると考えています。
さらに、他の市区町村や同様用途の民間施設においても参考となるでしょう。
この記事が今後の維持管理のデジタル化に関する議論に役立てば幸いです。
 
※BIMFM=BIMを活用したFM(ファシリティマネジメント/ 施設管理)
 

国土交通省の動向

国土交通省は、2019年に建築BIM推進会議を設立し、国内でのBIMの推進を行っています。
そして、2023年3月に開催された建築BIM推進会議では、建築BIMの将来像と工程表(増補版)が示されました。
この中で、維持管理・運用手法のデジタル化として、BIMデータの活用により、新築・既存建築物の維持管理業務の効率化や、デジタルツインの実現による他の分野との連携が可能となることが述べられています。
このように、BIMFMは注目されている技術と言えます。
 
 

八幡市新庁舎管理マネジメントシステム

新庁舎建設事業

八幡市新庁舎建設事業に当たっては、基本計画を安井建築設計事務所、基本設計を山下設計、実施設計・施工を奥村組・山下設計特定建設工事共同企業体(図-1)、新庁舎管理マネジメントシステム構築業 務(以下、本業務)を日建設計が担いました。
各発注の条件にBIMが入っていましたが、新庁舎管理マネジメントシステム構築業務は設計・施工にも関係する業務であったたため、国土交通省が定義する「ライフサイクルコンサルティング」に近い進め方となりました。
ライフサイクルコンサルティングとは建築生産プロセスだけでなく、維持管理や運用段階も含めたライフサイクルを通じ、建築物の価値向上の観点からマネジメントする手法と、そのために発注者を支援する業務です。

図-1 八幡市新庁舎外観パース(奥村組・山下設計特定建設工事共同企業体)
図-1 八幡市新庁舎外観パース(奥村組・山下設計特定建設工事共同企業体)

 

新庁舎管理マネジメントシステム構築業務の目的

本業務は八幡市新庁舎のランニングコストの縮減と効率的な庁舎の維持管理を行うために、新たにFMシステムを構築することを目的としました。
システム構築に当たっては、BIMにて作成したモデルを用い、BIMデータの持つ属性と3次元形状を連携させ、視覚的に分かりやすいシステムとして構築することになりました。
なお、システムおよびデータの構築と運用方法は、可能な限り汎用性を重視し、庁舎管理業務において、委託業者のみならず、職員が容易に使用でき、職員の負担を軽減するようできる限り簡便なものを目指しました。
結果として、施設管理コストを縮減し、将来、他の公共施設管理への展開、拡張も視野に入れるものとなりました。
本業務により、BIMを用いたFMを簡易で汎用なシステムで実現することで、BIMの可能性を示し、社会貢献につながることを目指しています。
 

新庁舎管理マネジメントシステム

図-2左は実際の維持管理BIMモデルを示しており、日建設計コンストラクション・マネジメントが提唱する「やさしいBIM」で構築されました。
図-2右は維持管理ソフトウエアの画面でArchibusを採用しました(図-3)。
ArchibusはIWMSの代表的なソフトウエアの一つです。
IWMSはIntegrated Workplace Management Systemの略称で日本語では統合型職場管理システムとなり、従来型の維持管理よりも大きな範囲をターゲットとする概念です。

図-2 維持管理BIM(左)と維持管理ソフトウェア(右)
図-2 維持管理BIM(左)と維持管理ソフトウェア(右)
図-3 Archibus データフロー図
図-3 Archibus データフロー図

 

FMの機能①|建築情報

FMの機能①、スペースコンソールは登録した建物の部屋情報を確認することができる機能です(図-4)。
竣工情報を元に、部屋ごとに「部屋名」「仕上げ」などの情報を入力しています。
登録スペース数は324個。
仕様項目は各種コード、ルーム名、ルームカテゴリ、ルームタイプ、テナント管理、利用者、利用時間帯、各種仕上げ、最終調査日、写真、仕様などです。

図-4 FMの機能①|建築情報
図-4 FMの機能①|建築情報

 

FMの機能②|資産情報

FMの機能②、資産ライフサイクルコンソールは登録した資産、すなわち設備の情報を確認することができる機能です(図-5)。
設備ごとに「名称」「設備コード」「製造メーカー」「ドキュメント」「価格」などを設定します。
Archibusに凡例(シンボルマーク)として表示できます。
管理対象機器数は3244個。
機器仕様項目は各種コード、分類、寸法、製造メーカー、価格、法定耐用年数、機器情報、設置年数、各種ドキュメント、仕様、個数です。

図-5 FMの機能②|資産情報
図-5 FMの機能②|資産情報

 

FMの機能③|メンテナンス管理

FMの機能③、メンテナンス管理機能は法定点検など予定されている保全業務を管理できる予防保全機能や建物内で発生した問題について管理が行える事後保全機能があり、それら登録された保全業務はあらかじめ定めたSLA(Service Level Agreement)に則り、業務フローを管理することが可能です。
 
 

八幡市がBIMFMに期待すること

建物情報のデジタル化

従来の建物情報は竣工時に図面や機器リストという形で別々に引き渡されました。
そのため、運用時に必要な情報にたどり着くまでに時間がかかりました。
BIMFMではシステムに建物情報が分かりやすく整理されているため、施設管理の効率化を可能にすることができます(図-6)。

図-6 八幡市がBIMFMに期待することー建築情報のデジタル化
図-6 八幡市がBIMFMに期待すること|建築情報のデジタル化

 

運用情報のデジタル化

従来の施設管理では数年ごとに異動のある技師や施設管理を委託している外注委託業者など、運用情報が属人的にならざるを得ませんでした。
どのフェーズ、どの担当者であっても同じBIMFMに記録することにより、運用ノウハウをデータベースに蓄積することが可能にできます(図-7)。

図-7 八幡市がBIMFMに期待することー運用情報のデジタル化
図-7 八幡市がBIMFMに期待すること|運用情報のデジタル化

 

多棟管理による効率化

八幡市では約160の施設を管理しています。
また、棟ごとに管理する人や部署が異なる場合もあります。
施設の大小によらず、同じBIMFMで管理することで、備品の一括発注や施設管理の集約化による効率化が可能になると考えています。
生産人口の減少、働き方の変化などにより、業務の効率化が求められる今日、設計や運用の情報や履歴をデータベースとして蓄積し、引き継いで行けることが重要です。
長期的な視点に立った「建物・運用情報のデジタル化」と「市施設全体の多棟管理」による維持管理の効率化を行いたいと考えています(図-8)。

図-8 八幡市がBIMFMに期待することー多棟管理による効率化
図-8 八幡市がBIMFMに期待すること|多棟管理による効率化

 

将来へ向けた維持管理のデジタル化

八幡市では将来的に若い働き手が減少し、熟練技術者の減少することで施設管理能力の低下が問題視されています。
技術者がいるうちに熟練技術者からノウハウを蓄積し、多棟管理に生かそうと考えています(図-9)。

図-9 将来へ向けた維持管理のデジタル化
図-9 将来へ向けた維持管理のデジタル化

 
 

総括

八幡市新庁舎管理マネジメントシステムで目指したもの(八幡市)

近年、国土交通省は建物の維持管理にBIMの活用を推進しているところですが、本市において本業務を企画していた平成30年(2018年)当時、BIMを導入する効果は業界では注目されていたものの、国内事例はまだ少ない状況でした。
 
そのような中、BIMによる庁舎管理の在り方を想像し、維持管理への活用を実装するという業務はユースケースが少ないながら、手探り状況でスタートしました。
 
100年に一度の機会と言える大きな事業である新庁舎建設に合わせ、長期的な視点に立ち、先進的な取り組みを行いたいとの思いから発想されたBIMを活用したシステム構築業務は挑戦的な取り組みでありました。
結果として、業務を進めていくうちに、多くの気づきや新庁舎建設において副産物的に得られた情報があり有益なものとなりました。
 
BIMの利用促進を考えた面においては、利用者のメリットを示した使い方の提言ができました。
 
これまでの日本の建設計画は、設計者、施工者の技術力によって支えられ、設計、施工がなされ、竣工後も設計者、施工者との関係が継続することから、発注者側では細かな建築情報を知らずとも、いざとなれば設計者、施工者に問い合わせることができるという関係のもと、建物を運用してきました。
 
BIMを活用することで設計、施工中にどのような建物になるか発注者と受注者間で 3次元での認識を含め、建築情報の理解が可能になることで設計や施工をより信頼できるということに気付きました。
 
また、維持管理において、従来の管理手法とは異なることが分かりました。
 
これまで設計図書にて省エネルギーの設計思想や中長期保全計画などを竣工時に引き渡されていましたが、発注者側にも専門知識が必要であったり、担当者の変更によって情報が引き継がれなかったりして、当初の設計思想を長期的に運用するのは難しいこともありました。
 
一方、BIMデータに基づく運用の場合、設計段階から設計者の思想が反映された適正な情報が分かりやすくシステムの中に整理されていますので、設計思想どおりの管理が可能になります。
 
設計時の思想、施工時の資産情報、計画に即した運用がデジタル技術を活用することで連携し、省エネルギーやライフサイクルコスト抑制につながるという価値は社会的にも注目に値すると考え、このような維持管理のデジタル化(BIMFM)により環境に配慮した建築や運用を官公庁での建築において、積極的に取り組んでいく必要があります。
 
ビルメンテナンスにおいては、担当部署・担当者の省人化という検討も行いましたが、本市においては、すでに老朽化が進行する建物も多く、かつ管理棟数に対して技術者数も少ないため新庁舎でシステム導入を行っただけでは省人化までは行えないという結論に至っています。
また、公共機関という立場において、事業遂行に関して果たすべき説明責任について「意思決定プロセス等」、一概に合理化することが必ずしも良いとは限らないという議論も行ってまいりました。
将来的に多棟管理を行った場合などにおいては、省人化とまでは行かずとも担当者の省力化には寄与するものと期待しています。
 
当初、本市では維持管理のデジタル化は維持管理費の削減や省人化に直結すると考えがちでしたが、まずは施設運用、ビルメンテナンスの業務を徐々にデジタル化、その効果を検証することで、初めて省人化の議論が始められると考えるようになりました。
 
このようにさまざまな議論を重ね作り出されてきたBIMFMシステムは、今まさに完成したばかりのシステムではありますが、プロポーザルにおいて日建設計様よりご提案された「Archibus 」は、将来にわたり長く利用可能な基盤システムとしていること、誰もが分かりやすい「やさしいBIM」といった概念を取り入れていることからも長く成長を続けていくことができるシステムであります。
引き続き本市において、新庁舎で本システムを運用しながら時代の流れを見極めつつ、改善点やより良い運用方法などを検討することが次の目標となり、さらにその先には他の公共施設に展開することによる効率化の道が拓かれるものと考えています。
 
今後、本システムの理解が広がりBIMの発展に寄与できることを期待しております。
 

八幡市新庁舎管理マネジメントシステムに期待されること(日建設計)

八幡市新庁舎管理マネジメントシステム構築業務はBIMを活用した維持管理を公共施設で取り組んだ国内でも新しい事例です。
当業務が①多棟管理を背景にしていること、②比較的簡易な管理方法をベースにしており汎用性が高いこと、③公共施設であり公開しやすいことなどから、国土交通省建築BIM推進会議で推進されている「維持管理のデジタル化」のユースケースとしても有益であると考えます。
 
欧米に比べて日本の維持管理は属人的、非効率的であり、特に公共施設はその傾向が強いと言われています。
そのため、八幡市役所の維持管理がBIMをベースに発注され、維持管理のデジタル化に踏み込んだことは業界的にも注目されました。
公共施設は施設数が多いことや日本中に点在することから、標準化との相性が良い建築用途といえます。
当システムが公共施設管理マネジメントの標準形となるような運用と公開が期待されます。

図-10 八幡市新庁舎
図-10 八幡市新庁舎

 
 
 

京都府八幡市役所 総務部総務課
株式会社日建設計BIMマネジメント部
安井 謙介

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



実技試験の開始で本格始動した「BIM利用技術者試験」制度

実技試験開始への取り組み

多くの課題を抱えたままの実技試験

2024年7月28日(日)、記念すべき第1回のBIM利用技術者試験1級・準1級が実施されました。
トライアルの実施から1年半、検討段階から数えると約3年。
ようやく実技試験の実施にこぎつけたのです。
 
試験日まで半年となった2024年1月の段階で試験問題の構成にめどが立ったものの、この試験をどのような形で実施・運営するのかについては、不透明なまま時間が過ぎていきました。
試験時間についても、試験問題の内容が固まっていく中で当初想定していた2時間では到底問えない(解答できない)ものとなり、「これ以上は無理」と考えていた最長の4時間にせざるを得なくなりました。
 

内容の充実とコストとのせめぎあい

試験問題、運営の両面で大きな問題となったのは、そのコストです。
試験問題については、「BIMの知識やモデリング技術を体系化し、企業がBIM人材を獲得する際にどの知識や技術を求めているかを視覚化する=資格制度」というコンセプトに基づいた課題の規模や「なにを、どのように問うか」を検討いただくとりまとめ役に加え、図面や仕様書などの建築図書の作成者、そしてArchicad、GLOOBE、 Revit、Vectorworksの4種類の対象ソフトそれぞれにおいて、課題の解答の可否や解答への負荷の検討、提供データの作成などを担っていただく各ソフトの専門家と検証者、テスターが必要であり、そのためのコストは、従来から実施してきたCADの試験とは比較にならない大きなものとなってしまいました。
 
一方、運用面においても、4時間という試験時間に対応した試験会場の確保や試験監督官の派遣、20ページを超える試験問題の印刷、試験申込のためにシステム開発などの費用が膨らみ、想定していた受験料と受験者数ではとても事業としては成立しない高コストな試験となりました。
「試験の実施」を前提に進めてきただけに、コスト面だけで足踏みはできない状況であり、課題を抱えたままスタートせざるを得ない状況だったのです。
 
 

問題だらけの「問題作り」

「マルチベンダー」に悩まされる

4種類の対象ソフトで受験ができる、というコンセプトは、試験直前までわれわれを悩ませました。
当協会が実施している「3次元CAD利用技術者試験」は、1つの問題を複数の対象ソフトで解くという「マルチベンダー」方式を実現し、20年以上にわたって実施してきた試験制度で、BIM利用技術者試験においても、そのノウハウは活用できると考えていました。
しかし、実際ふたを開けてみると、ソフトごとの機能差やモデルならびに切り出せる2次元図面の表現など、違いが多岐にわたっており、「同じ課題に取り組んで同じ解答を導き出す」という試験制度の根本の部分からの見直しが求められたのです。
結局、課題は同じでも、解答はソフト別に用意することになり、ソフトごとの表現の違いを明示するために、ソフト別の参考解答図を問題に掲載。
つまり、「解答」をあらかじめ公開しておくことで、解答の2次元図面の編集作業を回避したわけです。
さらには、同じソフトでもバージョンが変わるとデータの互換性が完全ではない=必ずしも上位互換ではないという問題にも直面し、提供するデータはソフトによってバージョンごとに用意することとなりました。
マルチベンダーには対応できたものの、ソフト別の4種類の試験を同時に行う状況となり、膨大な手間=高コストに悩まされることになりました。
 
さらなる問題も発覚しました。
1級試験をGLOOBE Architectで受験する際に、基本プログラムのほかに「実施設計オプション」が必要だということが分かったのです。
福井コンピュータアーキテクト株式会社へ相談したところ、GLOOBEで受験を申し込んだ方に対して、期間限定でソフトをお貸し出しいただくことになりました。
福井コンピュータアーキテクト株式会社様にはこの場を借りて御礼申し上げます。

前期試験問題の正解モデル例(Revit)。RC造4階建てのマンション
前期試験問題の正解モデル例(Revit)。RC造4階建てのマンション

 
 

試験運営における新たな試みと課題

解答データ提出に立ちはだかるセキュリティーの壁

運用面において従来の試験と大きく変わったのが、解答データの提出方法です。
 
「3次元CAD利用技術者試験」では、早い段階でデータ提出型から数値読み取りによるマークシート方式に切り替えており、2次元CAD利用技術者試験では、解答DXFデータをUSBメモリで提出いただく方法を採用しています(15年ほど前まではフロッピーディスクでした)。
BIM利用技術者試験では、数値の読み取りだけの解答方法ではなく、各ソフトのネーティブモデルデータと、そこから吐き出したDXFデータ、数値(面積)を解答するためのPDF(PDFのフォーム機能を利用し、入力された数値データを一括でcsvデータとして処理できるという便利な機能を利用しました)の3つを提出いただく形としているため、自ずと2次元CAD利用技術者試験同様に、USBメモリを使うことを想定して運用計画を立てていました。
ところが、試験に先立って実施したアンケートで、昨今の企業コンプライアンスの問題から、セキュリティー上の対策としてUSBメモリを利用できない環境が多いことが分かったのです。
そこで検討したのが、インターネットを使用したデータアップロードによる解答データ回収でした。
 
試験会場でのネットワークの使用を許可するということは、暗にメールなどによる解答データのやり取りが可能になるということであり、試験の厳格さの維持という点では、リスクを伴うものです。
しかし、昨今のソフトが利用時にオンラインによるアクティベーションを必要とするものが多く、その対応のために、これまでの2次元/3次元CAD試験においても受験者自身が用意したWi-Fiポケットルーターやスマートフォンのテザリングを使ったネットワークアクセスを許可していたという流れもあり、BIMの試験においてもネットワーク環境は受験者自身が用意する前提で、解答データの試験会場でのアップロードを採用することにしました。
もちろん、試験中にWeb検索やメールの利用は禁止し、違反した受験者は失格としました。
これはわれわれ主催団体にとっても大きな決断となりました。

前期試験問題の1級正解例①(Archicad)
前期試験問題の1級正解例①(Archicad)
前期試験問題の1級正解例②(Archicad)
前期試験問題の1級正解例②(Archicad)
前期試験問題の準1級正解例(GLOOBE Architect)
前期試験問題の準1級正解例(GLOOBE Architect)

 

いっそのこと自宅受験にしようか?

一方で、運用面での大幅なコスト削減を実現できる方法として、試験会場を使わない試験=ネットによる自宅受験という大胆な方法も検討を行いました。
これはソフト+PC環境を試験会場へ持ち込むという、実技試験の大きな障害を回避するための方法として、かれこれ20年近く検討してきた方法なのですが、「本人認証」という高い壁に阻まれて、具体的な実施は見送ってきた方法でもありました。
今回、新しい試験としてBIMの試験を開始するに当たり、改めて最新の個人認証の手法を調査しましたが、PCのカメラを使った認証方式が完全ではなく、それが試験の厳格さを損なう恐れがあるということから、断念せざるを得ませんでした。
ほかにも、試験問題をPDFなどで配布する際の制限(データとしてダウンロードできないとか、印刷制限をかけるなど)が受験者にとって不便であり、負担になる点も、断念に至る問題点でもありました。
 
 

いよいよ申し込みを開始。しかし……

予測を下回る受験者数にため息

数々の難問を乗り越え、ようやく試験問題や運営面での見通しが立った2024年5月、いよいよ第1回の実技試験となる「2024年度前期試験」の受験申し込みを開始しました。
この時点で、1級/準1級の受験要件となる2級の合格者は600名ほどおり、1級/準1級の受験者は200名を超えるであろうと予想しておりましたが、なかなか数字が伸びません。
最終的には1級が99名、準1級が49名で合計148名にとどまり、厳しい船出となりました。
 

やはり事前情報の少なさが要因か?

受験者数が伸びなかった要因としては、事前の情報が乏しかったことがやはり大きかったようです。
サンプル問題を公開することで事前の対策を立てやすくし、試験の方法などについてもできる限り公式Webページに公開して情報提供に努めてはきましたが、初めての試験で、相応の受験料を支払うということになれば、今後試験の情報がより公開されて、対策なども進むまでは待とう、と考える方が多いのも致し方ないところです。
 
準1級よりも1級の受験者が多かったというのは、どうせ高価な受験料を払うのであれば、最初から1級を受けた方が効率的である、と考えた方が多かったためでしょう。
さらには、初回の試験に挑む方々は、やはりBIMソフトの扱いに自信を持って臨まれた方が多かった、ということもあるかもしれません。
 
 

ドキドキの試験当日。トラブルは……

準備は万端。でも初めての試験は不安だらけ

運命の試験当日。
考えられることはひと通り考え、準備を進めてはきたものの、全国7カ所の協会指定会場と数カ所の認定会場での実施となると、想定外のことが起きても不思議ではありません。
試験運営の仕事を20年以上携わってはきましたが、このドキドキ感は決してなくなることはなく、実際、これまでにもいろいろなことが起きました。
地震や洪水などの災害をはじめ、公共交通機関の乱れ、受験票に記載の会場の間違い、試験資材の到着遅れ……。
ましてや、初めての試験、初めての4時間、初めてのネットワークによる解答の回収と、不安要素はたっぷりと用意されています。
運営する側も受験する側も、みんな初体験。
私のドキドキ感は、過去最高潮に達していました。
 
午後1時の試験開始に向けて、朝から試験センター本部である協会事務所に詰めていましたが、事前ダウンロードが必要だった課題のダウンロードを忘れ、試験当日にダウンロードしようとしたところできなかったというシステムトラブルがあっただけで、静かに時間が過ぎていきました(システムトラブルは短時間で解決できました)。
 
その後は何事もなく試験の開始時間が迫り、いよいよその時が。
4時間に及ぶ試験の開始です。

前期試験1級の問題表紙。実施済みの問題は公式Webページにて公開中
前期試験1級の問題表紙。実施済みの問題は公式Webページにて公開中

 

あっけないほど順調な試験当日

事務所の電話が鳴ると心臓がバクバクし、会場の監督官からの運営上の質問と分かるとひと安心。
1時間が過ぎ、2時間、3時間と過ぎる中で、私のドキドキはだいぶ収まっていました。
試験システムの管理ページを見ると、何名か解答データのアップロードが終わっています。
そして午後5時、試験は無事に終了しました。
 
解答データのアップロードは、試験終了後、1時間のバッファをもって対応しますので、ここからは受験者全員が無事に解答データをアップロードできることを祈るばかりです。
会場から、解答データがうまくアップロードできないという問い合わせが数件あり、管理ページを見ながらアップロードの可否を対応し、どうしてもマイページからアップロードできない場合は、協会のファイルサーバーへ直接アップロードしてもらうなどを対応し、出席者と試験を中止して退出された方以外の全ての受験者の解答データのアップロードを確認したところで、本日の試験は全て終了。
各会場の監督官からの終了報告をもって、大きなトラブルはなく、運用は完了しました。
 
 

ことさら慎重を求められる採点作業

神経を使う採点調整作業

試験日の翌日から、採点に向けた準備が始まりました。
受験者からアップロードされた解答データをダウンロードし、提出状況を確認すると、受験時に指定した「モデルデータ」「DXF(モデルから切り出した 2次元データ)」「面積表PDF」の3点セットがそろっていない方が1級、準1級合わせて2割近くに上り、「採点対象外」として処理しなければならなくなりました。
DXFデータだけを見ると採点可能なデータも多く見られたため、非常に残念な結果です。
主たる採点は、DXFの2次元データを「自動採点システム」を用いて行います。
これは、当協会が30年以上にわたって実施している「2次元CAD利用技術者試験」の採点に用いているシステムで、事前に採点システムに設定した線の有無を基準に、解答データを読み取る、というものです。
基準となる正解データには、線ごとに配点を行い、最終的に配点合計を100%として、何%できているかを結果として取り出します。
今回は初めての採点ということもあり、自動採点システムでの採点に先立って、全ての解答データを作問者が事前に確認し、全体的な出来不出来を確認した上で、採点システムでの配点を調整しました。
 

ソフトごとに異なる線の処理

ここでも大きな障害となったのが、ソフトごとの線の処理の違いです。
モデルデータを2次元図面へ吐き出す際に、間に壁を挟んだ内壁などの断面を表す線を1本で表すか、または間の壁の左右で2本で表すかなどが、ソフト側の処理によって異なっているのです。
このため、採点システムに取り込む正解データも4種類のソフトごとに作成し、配点も調整してソフトの違いによる有利不利をなくすために、多くの時間を費やすことになりました。
作問から採点まで、4種類のソフトに対応することによる手間は、当初の予想を大幅に上回るものでした。
 
 

合否発表、そして後期試験に向けて

大きなバラつきが見られた1級の解答

試験日から約2カ月後の9月27日、ようやく合否結果を公開しました。
結果は以下の通りです。
 
1級 申込者数:99名
受験者数:93名
合格者数:24名
合格率 :25.8%
 
準1級 申込者数:49名
受験者数:44名
合格者数:22名
合格率 :50.0%
 
全体的に、かなり厳しい結果となりましたが、70%の合格ラインに対して平均得点率は1級が46.9%、準1級が65.1%と特に1級の得点に大きなバラつきが見られました。
 
ちなみに最高得点率は1級が94.3%、準1級が95.6%でしたので、出来不出来の差がはっきりと出たようです。
 

期待の声にモチベーションアップ

合否発表後の「合格者アンケート」では、

  • BIMに関する資格を持つことが市場価値になる社会であるといいと思います
  • 建築に関わるさまざまな面でメリットがあると思うので、もっと広がるべきと思います
  • 今後BIMを始める人にとって、資格という目安があるのは良いと思う。
    この資格が会社も手当など与えることにより、よりBIM利用者を増やし、将来へとつながることを希望する
  • 合格率もかなり低く価値ある資格だと感じ自信を持つことができました
  • この検定試験がBIMの利用推進に寄与すればいいなと思います。
    そのためには受験する人の数が増え、またその社会的価値が認められることを期待しております
  • 認知度、知名度が上がり、国家資格試験同等の試験になることを願います
  • 自身のスキルを認められたのかなと感じ、実務でも活用できる自信もつきました
  • 技術は常に進化しているので、1級技術者としてふさわしい技術を身につけ続けられるよう向上心を持ちBIMの可能性、魅力を追い求めたいです

─などなど、好意的かつ将来への期待の声が多く聞かれ、私たちのモチベーションも大いに上がることになりました。
 
 

楽しみも苦しみもともに抱えて

BIMに積極的な専門学校の動き

前期試験の終了とほぼ同じタイミングで、休む間もなく後期試験に向けた作問作業が始まりました。
前期試験終了直後に実施した「受験者アンケート」で得られた出題内容や解答方法などへの指摘をできる限り反映させ、運用も含めて広範囲に改良を行いました。
 
後期試験に向けたプロモーションと試験対策を兼ねて、前期試験の合否公開に合わせて前期試験問題をWebにて公開し、プレスリリースを配信したところ、わずか数日で数百件のダウンロードがあり、注目度の高さを改めて実感。
より良い試験を作ろうと、作問関係者の気合も自ずと高まります。
それとともに、責任の重大さや、より多くの受験者の獲得という課題に対して、プレッシャーも大きくなりました。
 
前期試験の合否公開から約2週間後の10月10日から後期試験の受験申し込みを開始。
申し込みの結果は、以下の通りとなりました。
 
1級:109名(前期:99名)
Archicad 27名(25%)※前期:29名
GLOOBE 18名(16%)※前期:7名
Revit 62名(57%)※前期:61名
Vectorworks 2名(2%)※前期:2名
 
準1級:102名(前期:49名)
Archicad 11名(11%)※前期:9名
GLOOBE 2名(2%)※前期:1名
Revit 89名(87%)※前期:39名
Vectorworks 0名(0%)※前期:0名
 
1級は10%ほどの小幅な増加となりましたが、準1級は倍増。
前期からの増加分のほとんどが専門学校の学生という結果です。
実は前期試験の実施前後から、全国の専門学校から「認定会場(団体受験実施会場)」の登録希望や問い合わせが急増し、積極的な学校はこの後期試験から早速実技試験への挑戦が始まったのです。
「3次元CAD利用技術者試験」の教育機関での実施は、試験の開始から数年かかりましたから、教育機関におけるBIMの取り組みが非常に早く進んでいることの現れといえるでしょう。

2024年度前期試験と後期試験の受験者年齢分布(試験日の年齢)
2024年度前期試験と後期試験の受験者年齢分布
(試験日の年齢)

 

BIM資格のスタンダードへの挑戦

2026年春から始まる建築確認申請のBIM化と歩調を合わせ、「BIM利用技術者試験」もさらに進化させていきたい、そしていずれ、この試験制度をBIMのスタンダード資格として成長させたい、それが私たちの望みであり目標です。
そのためにも、より多くの方にこの試験制度を認知いただき、そして受験いただきたい。
受験者の皆さんの声が、この試験制度をより価値のあるものへと高めていただけるものと信じております。
 
 
 

一般社団法人コンピュータ教育振興協会(ACSP)常務理事
佐藤 文武

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



「建築仕様書の研究」から「BIM時代の建築仕様書」へ

ICISの概要

ICIS(国際建設情報協議会)は、主に各国のマスター仕様書や、コスト情報システムを開発・供給している組織が参加する国際ネットワークとして1993年に設立された。
この組織はスイスの民法に基づいた国際団体であり、建設に携わる全ての人・組織間のコミュニケーションを国際的レベルまで高めるとともに、参加組織間の協力体制を強化することを目的としている。
現在参加国は、日本を初めとして米国、英国、カナダ、欧州、オセアニアの13カ国14機関である。
なお、日本からは、IIBH(一般社団法人 建築・住宅国際機構)が正式メンバーとして参加している。
 
ICIS国内委員会は、2002年6月に「建築仕様書の研究」を公表し、2024年3月には「BIM時代の建築仕様書」(電子版)を公表した。
この20年間の建築生産の情報化はBIMなどを中心に大きく変化しており、タイトルもそれにふさわしく、「BIM時代の建築仕様書」となっている。
 
この活動の背景として、日本以外のICIS参加国には、スペックライターという職能があり、「標準的な仕様書」から「プロジェクトごとの仕様書」を作成している過程があることをご理解いただきたい。
 
 

「BIM時代の建築仕様書」の概要

建築物を生産するには、発注者や設計者をはじめとする各生産主体がどのような建築物を造るのかを明確にする必要があり、その完成イメージや造り方を技術的に示したものが設計図書である。
その設計図書の内容は、通常、設計図と仕様書で構成される。
簡単に言えば、設計図は、建築物の形状や寸法などを表示し、一方、仕様書は、設計図では表現しにくい内容を文書や数値などで記述する補完的役割を持つ。
 
「BIM時代の建築仕様書」では、建築仕様書を対象に、現在活用されている各種の仕様書の役割や問題点などを分析し、今後の仕様書の在り方について考察する書物とするよう配慮している。
今回、今後の仕様書の在り方について取り上げた背景にあるのが、建設業界における社会状況が第1章から第4章の項目を中心に大きく変化している点にある。
また補章では、古代から現代に至るまでこれまでのわが国における建築仕様書の移り変わりを理解する上で、建築仕様書の歴史的変遷を考察しており、これまでの仕様書の在り方を見直し、さらには今後の仕様書の有様について考えていく良い機会でもあると言える。
 
今や建築生産に関わる情報の電子化が大幅に進展しており、設計図書情報の伝達の手段として今後はBIM活用拡大の方向にますます加速する気配である。
以下に概要を示すので、ぜひ「BIM時代の建築仕様書」(電子版)を一読されることをお勧めする。
本書が、次世代の建築業界における最適な仕様書の在り方について考えていく一助になれば幸いである。
 
以下に各章の概要と電子版サイトを示す。
 

第1章 仕様書とは

(執筆者:佐藤 隆良 (株)サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役)
[建築生産に関わる法規・規格・基準等の性能規定化の進捗について記述]

  • 仕様書の基本的役割について/仕様書の役割とは/仕様書の構成
  • 仕様書の実務的運用方法について/仕様書の実務での運用/設計図書の優先順位/標準仕様書の記載内容/仕様書の記述方法
  • 我が国と欧米諸国との仕様書に関する違い/仕様書の形態の違い/欧米主要国における仕様書/部位別仕様書と工種別仕様書について/部位別仕様書/工種別仕様書/性能規定による仕様書の運用/国土交通省における性能規定の在り方/性能規定のデメリット/建築基準法における性能規定化の取り扱い/欧米における性能仕様(Performance Specification)の考え方/欧米主要国の建設情報の分類体系/米国のOmniclassによる建設情報の分類体系/英国のUniclassによる建設情報の分類体系
  • 建築生産環境の変化と仕様書の動向/発注方式の多様化と仕様書のタイプ/発注方式とは/発注方式の多様化/性能発注方式とは/仕様書としての要求水準書/DX技術の加速と仕様書の対応/デジタル化とDX技術の加速/英国におけるITの発展と仕様書の進展/我が国のBIM導入の現状と将来像 (図-1)
  • 図-1 日本と米国などの仕様書の構成の違い
    図-1 日本と米国などの仕様書の構成の違い

 

第2章 建設情報の分類体系について

(執筆者:志手 一哉 芝浦工業大学 建築学部建築学科 教授)
[外国発注者の国内建設投資や海外資材や部品調達機会の増大による国際化の進展・拡大について記述]

  • 分類とは/・建設情報分類体系とは/・建設情報分類体系の仕組み
  • 主要な建設情報分類体系の概説/OmniClassの概説/UniFormatの概説/MasterFormatの概説/Uniclassの概説/EF(Elements/Functions)とSs(Systems)の関係/Pr(Products)の使い方
  • BIMにおける建設情報分類体系の使い方/BIMデータへの分類番号の入力(Autodesk Revitの例)/BIMオブジェクトの仕分け/メタデータとしての利用/営繕積算システム(RIBC2)の細目コードとUniclassのマッピング例/公共建築工事標準仕様書の目次とUniclassのマッピング例/建築生産に関わる法規・規格・基準等の性能規定化の進捗 (図-2、3)(表-1)
  • 図-2 海外の各種資料に記載された建設情報分類の例
    図-2 海外の各種資料に記載された
    建設情報分類の例
    図-3 Autodesk Rvitにおける分類番号入力機能
    図-3 Autodesk Rvitにおける分類番号入力機能
    表-1 ISO12006-22:015に定義されているテーブルのクラス
    表-1 ISO12006-2:2015に定義されているテーブルのクラス

 

第3章 BIM利用機会の拡大への対応

(執筆者:寺本 英治BIMライブラリ技術研究組合 専務理事)
[BIMを中心とするICTの活用をはじめとする急速な情報化社会の進展について記述]

  • 仕様書とBIMとの連携とは/・BIMの可能性に関するBIM先進国における展望/英国の状況/シンガポールの状況/・日本の状況/建築確認に関する動向/公共建築分野の動向
  • BIMの属性情報に幅広く関連する分野のデジタル化/仕様情報等のデジタル化/仕様書のデジタル化の考察/デジタル仕様書等を利用する場合のデータフロー・ワークフロー/仕様書からとりだされるBIM属性情報の相当項目とIFCプロパティとの関連の検討/建具表・仕上表・設備機器表のデジタル化/・日本におけるBIM進展の課題 (図-4、5)
  • 図-4 英国BIM建設2025の目標(コスト削減、工期短縮、温室効果ガス削減、輸出促進)
    図-4 英国BIM建設2025の目標(コスト削減、工期短縮、温室効果ガス削減、輸出促進)
    図-5 デジタル仕様書などを利用する場合のデータフロー・ワークフロー
    図-5 デジタル仕様書などを利用する場合のデータフロー・ワークフロー

 

第4章 入札契約方式の多様化

(執筆者:戸塚 晃 (株)保全工学研究所技術顧問、山田 剛(執筆時)国土交通省 大臣官房官庁営繕部 整備課 建築技術調整室 室長)
[発注方式の多様化も仕様書の在り方に影響を及ぼしていることについて記述]

  • 海外の傾向について/英国/米国
  • 日本の状況(民間、公共)/民間工事/公共工事
  • 各種入札方式における仕様書/英国/米国/日本
  • 図面の表現レベルから見た入札方式の分類と仕様書の関係/ Plan of workの記述/設計段階と仕様書の記述方法/設計のレベルと発注方式 (表-2、3)
  • 表-2 JCT(*)による調達方式の種類
    表-2 JCT(*)による調達方式の種類
    表-3 多様な入札契約方式一覧
    表-3 多様な入札契約方式一覧

 

補章

日本における建築仕様書の歴史的変遷(執筆者:岩松 準(一財)建築コスト管理システム研究所 研究部 総括主席研究員、長谷川直司(公財)文化財建造物保存技術協会 理事)
[古代から現代に至るまでの我が国における建築仕様書の移り変わりを理解する上で歴史的変遷について記述]
 

電子版サイト 「BIM時代の建築仕様書」(電子版)サイト https://www.iibh.org/icis.htm

 
 
 

ICIS(国際建設情報協議会)国内委員会 事務局

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



大学のBIMセンターと産官学連携からみた台湾のBIM技術者育成

2025年7月23日

はじめに

建設産業全体としてBIMの普及・活用を進めるためには、BIM技術者育成に要する費用だけでなく、教える側の体制や教えるべき知識・技術体系の整備が必要である。
個々の企業や大学が提供し得る教育内容にはばらつきがあり、BIMのような広範に導入が急がれる技術については、本来は産官学が連携し、学生と実務者の双方が教育訓練の機会を得られることが望ましい。
 
そこで本稿では、台湾における産官学連携によるBIM技術者育成について紹介する。
とりわけその中核的な役割を担う、大学に設置されたBIMセンターに着目したい。
台湾では、2009年に国立台湾大学(台北市)の土木工学科(土木工程學系)にBIM研究センター(工程資訊模擬與管理研究中心)が開設され、BIMの導入や開発、教育訓練、実務への応用に関わるサービスを提供してきた。
同時にこのBIMセンターは、産官学の連携を推進し、継続的な連携の場を提供している。
 
 

産官学の連携方法

BIM技術者育成における産官学連携には、大別すると、学校の教育に対する企業の協力、大学によるBIM導入支援・業務提供、定期的な情報共有と課題への取り組み、BIM活用の環境づくりの4つがある。
それぞれの方法を具体的に見ていきたい。
 

学校の教育に対する企業の協力

産学の連携として、まず、学校の教育に対する企業の協力が挙げられる。
具体的には、企業で実際にBIMを活用している技術者が外部講師として授業に参加したり、企業が学生のインターンシップを受け入れたり、企業が学生の見学を受け入れて最新のBIM活用の状況を伝えたりしている。
これらの主な対象は大学生であるが、学生の企業見学は大学生だけでなく高校生向けサマープログラムの一環としても実施されている(図-1)。
また、企業の技術者が大学のBIMセンターに出向して学生に知識を共有するという方法もある。

図-1 高校生向け企業見学会におけるVR体験
図-1 高校生向け企業見学会におけるVR体験

 

大学によるBIM導入支援・業務提供

次に、大学が実務におけるBIM導入を支援し、業務を提供するという方法がある。
事例として、大学のBIMセンターによるBIM導入の支援、大学と実務者団体による実務者教育、BIMセンターによるコンサルティング業務の提供が挙げられる。
 
国立台湾大学のBIMセンターが初めてBIM導入の支援を行ったのは2011年頃で、支援先は国内の建設業者である。
この企業が高雄市に新築される3次元曲面の大屋根を持つ国立芸術センター(図-2)を受注することになったため、意匠・構造・設備の技術者がRevitを活用できるように、4カ月間にわたり毎週3日間のトレーニングを実施した。
さらに、BIM実行のための新しいプロセスを作成するべく、週2回の半日のコンサルティングも行われた。
同BIMセンターでは、企業だけでなく地方自治体に対しても同様のトレーニングを提供している。
 
台中市を中心とする台湾中部エリアでは、建築師法に基づく設計・監理などの国家資格である建築師の実務者団体が、近隣の複数の大学の協力を得て、実務者向けにBIMのトレーニングプログラムを提供している。
2023年は1日8時間のトレーニングを週1回、8週間にわたり実施した。
Revitの基本的な操作に始まり、建築プロジェクトの設計および施工段階におけるプロジェクトマネジメントとBIM活用や環境評価のためのシミュレーション、点群データの利用など幅広い内容を学ぶ。
講師は主に主催団体のメンバーが務めるが、大学の教員や、建築設計事務所・建設会社を経営しながら大学で教鞭を執る実務家教員が登壇することもある。
 
各大学のBIMセンターは企業の依頼を受けてプロジェクトに参加し、BIM業務を実施している。
高雄市にある大学のBIMセンターでは、パートナー企業に対し、BIMモデリングやIoTを用いた運営段階における空調などの自動化、VRを用いた危機対応の訓練など、BIMとその他のICT技術を統合したサービスを提供している。
またBIM活用プラットフォームを開発しており、複数の大手民間企業に導入されている。
このプラットフォームの使用方法に関する研修も提供しているという。

図-2 大学のBIM導入支援を受けて建設された芸術センターの大屋根
図-2 大学のBIM導入支援を受けて建設された芸術センターの大屋根

 

定期的な情報共有と課題への取り組み

これらの産官学連携を継続的に推進するためには、個々の企業・自治体と大学・ BIMセンターの連携だけでなく、産官学連携に関わる組織の横のつながりが必要である。
 
台湾BIM連盟(Taiwan BIM Alliance)は、国立台湾大学のBIMセンターが設立・運営するBIM推進のための産官学の協同体である。
この協同体にはメンバーシップフィーを支払う54の企業(建設業者、建設コンサルティング会社、BIM・情報サービス会社、不動産開発会社、建築設計事務所など)とフィーを支払わない27のパートナー組織(大学や行政組織、公的団体)が参加している。
 
メンバー間のネットワーク構築や産官の議論・課題抽出の場として、コロナ禍までは年1回、コロナ禍以降は四半期ごとの成果報告会を開催しているほか、BIMセンターでトピックを設定し、月に1回の朝食会を実施している。
パンデミックの期間中に対面での活動をオンラインに切り替えるために、メンバーの年間成果に関する番組を制作してYouTubeチャンネルで配信し、メンバーの最新の研究開発成果を一般に共有し始めた。
また不定期でセミナー・シンポジウムの開催やメンバーによる報告会、オンラインでの情報発信などを行っている(図-3)。
BIMセンターの取り組みに対しても、多くの協同体メンバーが協力している。

図-3 筆者が参加した台湾BIM連盟のメンバー向けフォーラム
図-3 筆者が参加した台湾BIM連盟のメンバー向けフォーラム

 

BIM活用の環境づくり

最後に、建設産業全体としてのBIM活用の環境づくりである。
技術者がBIMを習得し企業がBIMを導入しようとする動機付けや、産学連携の後押しの役割は官(公共発注者や公的な制度)が担う。
 
台湾では2017年に行政院公共工程委員會(PCC:Public Construction Commission)が発注する一定規模以上のプロジェクトにおいてBIMの導入が必須とされた経緯があり、公共工事を多く受注する企業は早い段階からBIM活用に取り組んできた。
そのプロジェクトに配属された社員も必要性を感じて積極的にBIMを習得しようとする。
また、プロジェクトにおけるBIMの活用を推進し、そこで得られた成果について積極的に公開している地方自治体もある。
 
 

中間的組織としてのBIMセンター

本稿で紹介している産官学連携の方法はいずれも特異なものではなく、日本ですでに実践されているものも多い。
しかし、全体として見たときに、台湾では継続的な産官学連携により、ボトムアップでBIM技術者の育成・BIM推進が行われている。
その鍵を握るのが、人・組織・情報(技術・知識)のプラットフォームたるBIMセンターの存在である。
 

大学のBIMセンターの役割

3大学のBIMセンターの事例をもとに整理すると、BIMセンターが担う役割は6つある。
すなわち、①学内の教育、②学外の教育、③BIMコンサルティング・サービス業務、④研究開発、⑤情報発信・情報共有、⑥連携の場づくりである。
もちろん、大学により、どの役割に力点を置くか、またその実践方法は少しずつ異なっている(表-1、図- 4、5)。

表-1 大学のBIMセンターの役割
表-1 大学のBIMセンターの役割
図-4、5 国立台湾大学BIM研究センターが発刊しているテキストの例

図-4、5 国立台湾大学BIM研究センターが発刊しているテキストの例2

図-4、5 国立台湾大学BIM研究センターが発刊しているテキストの例
 

中間的な組織としてのBIMセンター

国立台湾大学のBIMセンターは、設立以来、主として産学連携プロジェクトの資金により運営されてきた。
同センターが運営する台湾BIM連盟は、2015年の設立以来、産業界の支援を行っている。
2022年以降は企業メンバーのフィーのみで運営されているが、設立から6年ほどは企業メンバーのフィーと合わせて政府の助成を得ていた。
すなわち、大学を台湾の産業を支援するためのサービスプラットフォームとして機能させる構想のもと、国家科学及技術委員会(当時の科学技術省)が資金を提供していた。
現在は3名の常勤スタッフを擁し、独立採算となっている。
 
大学のBIMセンターは学内の組織でありながら、既存の部署に対して比較的自由な位置付けにある。
大学という基盤を持ちながら、学内外から最適なメンバーを集めることができ、自分たちの取り組みに関する決定権限が大きく、柔軟な試行と中長期的な取り組みの双方が可能である。
 

中間的組織の役割

このような中間的な組織はBIMに限らず台湾の大学に多く設置されている。
また、公的な団体がBIMデータプラットフォームを提供したり、BIM活用に関わる産官学の検討会を設置したりしている事例もある。
これらの団体は完全な行政機関ではなく、大学のBIMセンター同様に中間的な位置付けにある。
 
中間的な組織がそれぞれメンバーや関係者間の連携の場をつくって情報共有・情報提供を行いつつ、それらの中間的組織同士がさらに連携・協力できる基盤があることが、継続的・効果的な産官学連携の推進に大きく寄与しているのだろう。
 

産官学連携の全体像

台湾のBIM技術者育成においては、主に官は公共発注や中間的組織への助成などでBIM活用を奨励し、産は技術者を育成してプロジェクトを実施し、学は直接的・
間接的な教育と技術支援、連携の基盤づくりを担っている。
とはいえ、産官学が固定的な役割を担うのではなく、それぞれの地域や組織の特性に応じた役割や方法を採って連携している。
 
そして多様な機能を有する中間的組織が連携の場を提供して継続的な情報共有や関係性の維持を可能にし、その中間的組織がさらに中間的組織同士の連携・協力の基盤となっている。
台湾の産官学連携によるBIM技術者の育成を日本で参照する場合、台湾の中間的組織と同じ役割をどの組織が担うか、担いうるかが課題となるだろう(図-6)。

図-6 産官学連携における中間的組織
図-6 産官学連携における中間的組織

 
 

BIM推進の先へ

カーボンニュートラルとBIM

BIM推進を積極的に進めている自治体の担当者にお話をお聞きしたところ、今後の課題は、長期的な運営管理に関する情報伝達とシステム開発において、世界的なカーボンニュートラルの流れに対応するためにICT技術活用の取り組みを続けることだという。
 
台湾ではBIMがGreen DXの推進役として期待されている。
政府が2022年3月に発表した「2050年ネットゼロ排出ロードマップ」がGreen DXを牽引し、BIMがGreen DXを推進するという構図である。
目標地点が明快であるため、公共発注者がGreen DXを推奨するだけでなく、民間発注者に対してもGreen DXやBIMのメリットに関する普及・啓発が進む。
それとともに、BIMに関する業務を外注していた
小規模な建設業者でも、BIM業務の内製化に踏み切っているという。
 

大学のBIM教育とESG

実務分野だけでなく、大学の教育でも同様の問題意識が見られる。
例えば学部 1年生向けの授業では、Revitを用いた実際の校舎1棟の改修・増築設計の前に、SketchUp( Trimbleのモデリングソフト)を用いて持続可能性のためのインフラ設計を行う。
また、修士課程の学生向けの授業では、Rhino、Grasshopper、Ladybug・Honeybee( Grasshopperの環境解析ツール)を使用し、サステナブルなコーヒーショップを設計するという課題に取り組む。
課題では低炭素フットプリントを実現するために環境に配慮した建材を用いたり、エネルギー使用量の削減と業務・体験の質の向上を両立させたりすることが求められる。
 
台湾におけるBIM活用は、導入の次の段階へと歩みを進めている。
 
最後に、本稿の作成および本稿に関する調査について多大なご協力をいただいた、国立台湾大学BIM研究センターの謝尚賢所長(同大学土木工程学系教授)およびスタッフの皆さまに御礼申し上げます。
 

〈参考文献〉
  • 西野佐弥香:台湾における産官学連携によるBIM技術者の育成、日本建築学会第39回建築生産シンポジウム論文集、pp.61- 66、2024.7
  • 家入龍太:BIMでの確認申請の義務化も!アジアで進む活用、イエイリ建設IT戦略、日経XTECH、2012.8.22
    https://xtech.nikkei.com/kn/article/it/column/20120817/579790/
  • 家入龍太:産官学を牽引!台湾大学BIM研究センターの行動力、イエイリ建設IT戦略、日経XTECH、2015.6.24 https://xtech.nikkei.com/kn/article/it/column/20150618/703673/
  • Jyh-Bin Yang,Hung-Yu Chou: Mixed approach to government BIM implementation policy: An empirical study of Taiwan, Journal of Building Engineering,vol.20,pp.337-343,2018.11

 

〈写真提供〉

図-1・図-3:国立台湾大学BIM研究センター
 
 
 

京都大学大学院工学研究科 准教授
西野 佐弥香

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



地方ゼネコンによるBIM活用の取り組みと展望-BIM連携の活用でパートナーシップの強化を目指す-

2025年7月21日

はじめに

静岡県静岡市に本社を構える木内建設は、2020年に創業100周年を迎えた地方ゼネコンである。
2015年にArchiCADを導入し意匠設計を中心にBIMを使用していたが、2019年の国土交通省によるBIM/CIMなどの普及拡大の動きを受け、社内でプロジェクトチームを立ち上げ、専門部署を持たずに建築部門と土木部門それぞれでBIM/CIMの推進活動を行っている。
本稿では、地方ゼネコンによるBIM推進の一貫として行っている連携の取り組みと、それに伴って明らかになってきている課題と展望について紹介したい。
 

今までのBIM活用と現在

意匠設計を中心に行われていたBIM活用は、主に「事業主との合意形成」や「工事関係者とのイメージ共有」であった。
2D図では表現しきれない空間を再現することによりイメージの共有が可能で、意匠性や品質・安全における関係者の理解度の向上によって、プロジェクトをよりスムーズに進めることが可能になっている。
最近の取り組みでは事業主に空間のボリューム感を確認してもらうためにBIMデータをVR化し、VRゴーグルで実際の空間を疑似体験してもらい最終的に合意に至ったケースもあった。
 
しかしながらこれらの取り組みを通じて感じていたのは「イメージ」という言葉以上のものを得られず、緻密な精度を求められる現場からすれば、BIMは少し遠い存在であることであった。
そのような流れを受けて現在では、意匠はArchiCAD、構造・土木はRevit、設備はRebro、施工ではSmartCON Planner for ArchiCADを採用し、おのおのの部門で使いやすいBIMの活用を進めるという方針を重視して、現状の業務に則した形でBIMを試験的に用いている。
また、業務フロー全体としてはデータの連携によって、部門を越えたBIM活用を意識した動きが始まっている。
 
 

BIM推進の課題

イメージの共有を中心としてBIM推進を行ってきた一方で、それらが関係者の業務の省力化や効率化に直結する成果を生み出していたかといえば、そこまで大きな共感を得るまでには至っていない。
普段の業務の中で日常的にBIM活用されることをBIM推進とするならば、なかなかBIMが推進されていないのが本音である。
全ての関係者・パートナーが実効性を伴った形で、BIM活用による担当業務への貢献・成果を感じられることが必要不可欠であると考え、BIMの連携を強く意識した取り組みが重要であると考えている。
 
 

連携の取り組み

点群データの活用

GNSS付SLAMLiDARハンディスキャナーを用いて計画敷地の点群データを収集し、施工条件の把握をはじめとした施工計画に活用している。
スキャンは敷地の広さ、死角の有無にもよるが、敷地内外を歩いて15~30分程度で測量可能である。
 
収集したデータ(.las)を点群処理ソフトに読み込むことで、計画敷地の点群データを確認できる。
敷地の起伏、隣地建物の高さ、周辺道路幅、架空線の位置・高さといった現地の正確な情報を1回の測量で取得できるようになった。
その結果、これまでは部署ごとに必要なタイミングでおのおのが現地調査を実施していたが、取得した点群データから必要な情報を容易に取得することができるようになり、現地調査業務の効率化につながった(図-1)。

図-1 さまざまな情報が得られる点群データ
図-1 さまざまな情報が得られる点群データ

 

点群データ+BIM

取得した点群データのBIM連携活用としては土量の算出を行っている。
当初は取得した点群データをBIMソフトに取り込み、差分により土量を求めようと試みた。
しかし点群データのデータ量が膨大で、それらをBIMソフトで処理できるデータ量に整えることに手間がかかり、決して効率的な作業と言えるものでなかった。
 
そこで、膨大なデータを扱うことができる点群処理ソフトにBIM敷地モデルのIFC変換データを取り込むことで扱いやすさが格段に向上し、敷地の点群データとの差分を求めることにより効率的に掘削土量の算出を行うことが可能となった(図-2)。

図-2 点群データ×BIMモデル 土量算出
図-2 点群データ×BIMモデル 土量算出

 
正確な敷地のデータから今まで不明瞭であった掘削土量を正確に求めることが可能になったことから、緻密な工程管理につながった。
また、工事関係者に根拠が伝わりにくい土量というものを明確な形で提示できることで、コストや工程をはじめとする合意形成に対しても大きな効果があった。
 

協力業者とのデータ重ね合わせ連携

これまでのデータの重ね合わせは各工種のモデルをゼネコン側で集め、ゼネコンがSolibriなどのソフトで統合して干渉チェックを行い、チェックの結果共有については、レポートを作成し確認する形式が主流であった。
この方法は協力業者からしたら、重ね合わせの結果が断片的にしか見えない状況であって、ゼネコン側にしかBIM活用の実感が湧いていなかった。
 
そこで新たな取り組みとして共通データ環境(以下、CDE環境)を利用しゼネコンおよび各協力業者のBIMモデルをIFCデータに変換してインターネット上へアップロードし、共有や干渉確認を行った。
各社から集めたIFCデータをオープンな場所で重ね合わせることにより、同一のソフトウエアを保有していなくても、お互いの干渉箇所の抽出や調整を容易に行うことが可能となり、ゼネコンと協力業者、また協力業者同士の連携を深めるきっかけとなる手応えを感じている(図-3)。

図-3 CDE環境内で各モデルの干渉確認
図-3 CDE環境内で各モデルの干渉確認

 
関係者全員がハイスペック機能を有するPCを保有せずとも快適にBIMを扱うことができるCDE環境の構築は、現場でのBIM活用には不可欠なものになりそうである。
 

鉄筋の自動加工

鉄筋専門工事業者との連携として、構造設計者が設計段階で作成した構造的に整合性が取れているリアルな鉄筋BIMモデルを活用し、BIMモデルが持っている鉄筋情報から直接鉄筋の自動加工へ結び付けることでデジタルファブリケーションとなるような取り組みを行っている。
 
鉄筋の加工において、加工工場では従来から工場のICT化が進んでいる。
加工帳を元に強度・径といった使用材料や加工寸法、工区・搬入日などの情報を持った絵符を工場の生産システム内で作成するが、電子化された加工帳からそれらの情報を持った2次元バーコードを生成し、それを鉄筋の自動加工機に読み込んで自動加工することも行われている。
また、加工した鉄筋の数量や工区分け・出荷時期なども2次元バーコードを読み込むことでデジタル管理され、加工工程内での省力化や効率化が進められている(写真-1、2)。

写真-1 自動加工機に読み込む2次元バーコード
写真-1 自動加工機に読み込む2次元バーコード
写真-2 鉄筋自動加工機
写真-2 鉄筋自動加工機

 
しかしながら加工帳を電子化する過程においては、現在でも鉄筋業者の職長が構造図と施工図から手書きで加工帳を作成し、それを加工工場のオペレーターが手入力でデータ化するのが実情であり、この部分をデジタル化することは鉄筋業者としても大きな省力化につながる可能性がある。
 
手入力による加工帳作成を省力化し、鉄筋の加工までの一連の流れをデジタル化するために、具体的には以下のような手順でデータ連携を行った。
 
①Revitで配筋モデルを作成して配筋の納まりなどの事前検討を行い、問題点の早期解消を図った上で、鉄筋加工に必要な加工ルールに基づいたリアルな鉄筋BIMモデルを作成する(図-4)。

図-4 Revit鉄筋BIMモデル
図-4 Revit鉄筋BIMモデル

 
②鉄筋BIMモデルから径・寸法などの鉄筋加工情報を加工リストとしてcsvデータで出力する(図-5)。

図-5 Revit加工リスト出力
図-5 Revit加工リスト出力

 
③csvデータを加工工場で取り込み、工場の生産システムに合う形にデータを調整した上で、デジタルデータのまま直接加工帳へリンクさせる。
 
この手順でBIMデータから手入力を介さずに電子化された加工帳を作成し、鉄筋の自動加工までをデジタル化することができた。
また、リアルな鉄筋BIMモデルを作成する過程の中で、配筋納まりやさまざまな問題点を事前に解消することが可能となり、施工現場においては間違いを防止し、手戻りを発生させないという点でも品質向上に寄与している。
 
 

今後の展望

現在の建設業界を取り巻く大きな問題の一つとして人手不足がある。
BIM連携を行うに当たりさまざまな協力業者と意見交換を行っているが、そのほとんどが問題の深刻さを危惧していると同時に、BIM活用・データ連携により現場作業の省力化や効率化が進むことで、人手不足の問題解決の一助になるのではないかという大きな期待が寄せられているのを感じる。
 
現状は、BIM連携による鉄筋の自動加工においてようやく一定の成果を得られたところである。
今後は型枠工事・鉄骨工事をはじめとするその他協力業者との連携を進め、その有益性を共有していきたい。
 
実効性のあるBIM活用には、フロントローディングを意識した既存ワークフローの見直しなど、さまざまな課題はあるものの協力業者とのパートナーシップが最も重要であると考えている。
全ての関係者が必要とする、情報連携できるBIMモデルを追及していくことを通じて協力業者との強固なパートナーシップを構築し、連携データの整合性からくる確実性によって、より品質の高い建築物の提供につなげたい。
そのためにも共に取り組む協力業者のBIM活用への理解を深めることや、互いのメリットを見い出しながら共に取り組むための環境をゼネコンと協力業者が一体となって整備していくことが必要である。
 
 
 

木内建設株式会社 建築部 工事課
鈴木 慎太朗
設計部 構造課
佐藤 克弥
設計部 構造課
上野 良樹

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



前の10件
 


新製品ニュース

「SKYINSPECT AI」「SKYINSPECT AI」


建設ITガイド 電子書籍 2025版
建設ITガイド2025のご購入はこちら

サイト内検索

掲載メーカー様ログインページ



  掲載をご希望の方へ


  土木・建築資材・工法カタログ請求サイト

  けんせつPlaza

  積算資料ポケット版WEB

  BookけんせつPlaza

  建設マネジメント技術

  一般財団法人 経済調査会