はじめに
BIM/CIM原則適用化が令和5年度にスタートして、まもなく2年が経とうとしています。
弊社は2013年度の実証実験段階からBIM/CIMモデル作成の業務委託を行っている会社ですが、令和2年頃に基準が策定されてから現在までの間、さまざまな変化を見てきました。
今回、われわれがお客さまとともにさまざまな試行錯誤を行ってきた中で、ともに成長してきた理由を整理して、BIM/CIMがまだ思うように進んでいない会社の方々へのこれからの一助になればと思い、執筆します。
柔軟なツール選定と運用
2000年初頭の手書きからCAD化への変革の時代(2次元図面だけの時代)では、どのソフトを選定すれば自社にとって費用対効果があるかを考えればよく、一つのCADソフトウエアを選定すればよいという時代がありました。
BIM/CIMが始まった数年前は、2次元CADと3次元CADでは、運用の違いがあるという知識が足りず、うまくいく会社とそうでない会社の違いは、かつての2次元CAD選定と同様に一つのCADに絞り込もうとしていたという差があったように思います。
私はコンサルタント時代に、2次元CADにおいても、必要に応じて別のソフトでも便利な機能があったら一部でもそれを使い、データ変換によって自分の使っているCADへ取り込む、ということを意識して作業をしてきました。
それはなぜか、自分の作業を早く終わらせたかったからです。
ソフトウエアはあくまでツールであり、やりたいことが全てできるものではありません。
やりたいのは業務を正確にかつ迅速に終わらせることなので、今で言う、生産性向上の視点で見たときに、必要に応じてソフトを使い分けるのは、必須だと思っています。
分かりやすく言うと、Microsoft製品でも、Word、Excel、PowerPointなどの複数のソフトがあります。
どのソフトでも表を作成できますが、計算式を入れて随時計算する際はExcelで行い、発表資料を作成するためにはPowerPointを使います。
発表資料に挿入する表はExcelで作成してからPowerPointへ貼った方が修正することを考えると便利です。
このように以前は全てExcelなんていうこともやっていたりしたと思いますが、必要に応じてソフトを使い分けた方が生産性は向上するのは皆さんも認識していると思います。
3次元モデルも同様にすべきです。
さまざまなソフトウエアを知って、必要に応じてソフトを使い分けることができる会社はBIM/CIMに対してもうまくいきます。
必要に応じて使い分ける、ということに関して、もう少し掘り下げます。
土木の現場は、土工事がメインの現場、下部工の現場、橋梁上部工の現場、トンネルの現場、道路や河川の現場というように多岐にわたります。
現場によって効率化が図れるソフトウエアも異なるのです。
そのため、会社として一つ軸のソフトウエアを決めることも必要ですが、ここでも「必要に応じて選定すること」が大切だということです。
現実的な視点と段階的な導入
セミナーなどでBIM/CIMの概要や事例を聞くと、BIM/CIMは3次元モデルを作成することにより今まで見えてこなかったものが見えてきたり、効率化や効果があったりすることが頭の中でイメージはつかめます。
しかし自分の会社に当てはめた場合、実際はどこから手をつければよいか分からないというのが現状だと思います。
うまくいく会社は、スモールスタートによって成功体験を積み重ねていきます。
その第一歩としては、具体的に「自分の現場」で、「簡単そうなこと」を整理して実行します。
自分の現場だと施工前に現場を見た際に問題となりそうな部分は、頭の中に描かれていますが、自分の頭の中にはあっても、他人は気付いていなかったり、認識のズレがあったりします。
そこで現況地形の点群を取得し、まずは自分の現場を3次元化します。
設計分野においては、現況図ではなく、現場の点群があることにより、周辺道路の高低差や橋梁の位置関係を事前に正確に確認でき、現地に行かなくてもデータを3次元で閲覧することにより、調査漏れもなく、延長や高さを測って確認することができます。
施工段階においては、設計された3次元モデルがあれば、施工手順を事前に重機の稼働や資材の配置をシミュレーションすることで最適化することが可能になります。
頭の中で浮かんでいることを言葉だけで関係者に説明するよりも3次元データも同時に利用することで、注意点を記載したり、その情報を残したりすることができるようになります。
何度も測量を行う必要もなくなり、図化の必要もなくなるため協議用の資料を作成するのも非常に楽になります。
さらには施工途中の状況を点群化することにより、施工した路面の高さや平坦性の確認、簡単な仮置土の土量計算、変状観測にも役立てることができます。
これらを実現するには、点群上で情報を扱えるソフトウエアが必要になってきます。
これから施工する構造物に関しても同様です。
最も簡単なのは、取得した現況の点群データ上に重機を配置して施工計画を立てるだけでも十分です。

BIM/CIM事例集Ver2国総研より抜粋
これを実現するには、点群データを読み込み、ソフトウエアに登録されている重機を必要な位置に配置するだけで済みます。
構造物を3次元化する場合、スモールスタートとして最適なのは、杭施工や橋梁下部工です。
作成するモデルは単純な形状ですので、モデリングも簡単に行えますし、矢板や山留は部品として配置する程度で済むからです。
以上のように単純に設計や施工の前に3次元モデルがあることだけでもメリットがあります。
そうしていくうちに、やりたいことや効果がありそうなことが次々と自然に見つかるようになります。
このように段階的な導入を行えば、スキル向上し、徐々にターゲットを拡大することが可能です。
「そう言われても、いきなり3次元ソフトを触るなんて無理だからできない」と自分でハードルを上げてしまう方がほとんどです。
そこで私はよく「実は3次元CADの(構造物作図は)2次元CADより簡単です」と言います。
2次元CADはもう皆さんが使えるのが普通になっていると思いますが、初めの頃は寸法や引出線のきれいな書き方、レイヤ分けなど2次元CADの機能を覚える際は相当な苦労をしたと思います。
それに比べて3次元は構造物外形線だけ描ければよいし、(現状では)寸法表記は必須ではありません。
ですので、2次元図面があれば、外形線を利用して高さ情報だけ与えれば3次元モデルを作成することができます。
操作もブロックを組み立てるようなゲーム感覚で3次元化されていきます。
ガラケーからスマホに移行した時に多少操作に手間取ったのも思い出してください。
感覚が違うだけで、すぐにできるようになりましたよね?便利になって、なくてはならないものになりましたよね?3次元モデルもこれからそうなっていきます。
ぜひ簡単なことからチャレンジをしてみてください。
BIM/CIMは、3次元設計という要素が含まれており、新たな設計条件(図面には出てこない現場条件)なども加味して現場を作るという新しい技術であるという見方が必要です。
経営層の理解とサポート
部署を作って取り組んでいるけど、うまくいかない会社の例として、「上司が指示できないにもかかわらず、3次元CADのオペレーションを誰かに押し付けようとしたり、派遣会社に3次元ができるオペレーターを紹介してもらい、オペレーターさえいればできると思ったりしている」ということが挙げられます。
一番良くないのは、上司が部下に、会社として取り組まなければならないから、PCが得意そうだから任せるね、という一言だけでスタートしている場合です。
それは(裏命題で)BIM/CIMをやって効果までしっかり出してねと言って、作業から責任まで全てを押し付けているのと同じです。
現実にそのような状況になってしまっている会社では、最初は若手が頑張ってやるものの、そのうち面倒を見てくれないことが分かった時に、退職して独立しているパターンが非常に多くなってしまっています。
私は50代ですが、会社に入った頃はPCがやっと一人一人に与えられた時代でした。
その時代の人たちは、2次元CADの操作はできるけど、3次元CADまでは取り組めないという方がほとんどだと思いますし、現在の役職では、もっと重要な職務を担っているので、3次元モデルを自由自在に作成することまでは必要はないと思います。
ただし上長は、部下が作成した3次元モデル、発注者から受領した3次元モデルを「ソフトで開いて見ることができない」ことは大きな問題だということに気付かなければなりません。
3次元モデルは可視化することで事前の検証や認識を合わせることができるツールなので、データができた後の活用が重要となります。
上長は、データができた後の「指示」ができることが重要なのです。
担当している現場で、現場の指示ができない上司がいたら、仕事が回らないのと同じです。
うまくいく会社は、部長以上の役職でも 3次元モデルの「閲覧」ができるのです。
受領したファイルをどのソフトで開くか知っていて、開いた後に3次元空間をぐるぐる回して閲覧することができます。
そうすると、部下が作った3次元空間上で、現場の問題点(例えば、危険予知の場所を伝えるとか、段取り確認)などの指摘もできますし、ここの施工はこうした方が良いという指示ができるようになります。
上司が、部下の作成した3次元モデルを活用してくれれば、部下もやる気も出ますし、3次元で育っている世代は喜んで夢中になって対応してくれるはずです。
ソフトウエア利用の勘違い
上記のメリットを実現する際に勘違いしてはいけないのは、ソフトウエアさえ導入すればよいという感覚です。
例えば、形状が同じで寸法だけが異なる場合に、寸法だけ変えれば自動的に形状が変わる「パラメトリック処理」という機能によって3次元モデルが簡単に作成できるソフトウエアがあります。
確かにパラメトリック処理は楽になる構造物もありますが、そうでない場合もあるのです。
形状が同じパターンが数百回あればパラメトリック化の意味がありますが、数回しか出てこないパターンの場合は設定する作業の方が大変なので、効果を発揮できませんし、形状が「ほぼ同じ」は自動化にはなりません。
要するにそのような機能を持ったソフトが必要な現場もあれば、不要な現場もあるのです。
また、点群の場合は、点群データさえあれば、ソフトウエアで自動的に3次元モデルができるとしているソフトウエアなどもあります。
かつて紙図面からスキャニングして画像データ(ラスターデータ)からCADデータに自動処理をしてくれるソフトができた時代、とても便利だと話題になりました。
しかしこれも実際にやってみるとソフトで全て思ったような自動処理ができるわけではありませんでした。
それはなぜかというと、直線の途中に分岐点がある場合に、途中の分岐点を無視して直線にしてほしいのに、分岐点でデータが意図しない方に曲がってしまったり、管渠を自動トレースしても管渠という認識ではないので、両サイドの線が平行に描けなかったりするのです。
結局のところ手動で作図した方が正確だし、実際は寸法どおり書きたいので、自動でトレースした線のチェックが必要になるのです。
最近ではAIも登場し、AIにより利用する直径を登録して近い値で修正するようなソフトウエアもありますが、これも同様にチェックは必要になります。
このようにソフトウエアは、作業を効率化するツールであって、全てのことに使えるわけではないのです。
これらの事例は一部にしか過ぎませんが、これに気付けるのは作業担当者であり、理論でしか考えていないと、ソフトを導入すれば対応できると思ってしまうことに注意が必要です。
理論と実務の違いまで理解して推進していないと、BIM/CIMがうまくいく会社にはなれないと思っています。
3次元は目的で使い分ける
BIM/CIMがうまくいっていそうでも、実際はそうでない事例もあります。
一つの事例としては、BIM/CIMにおいて一般的には、3次元モデルに属性が入っていれば、維持管理の際の情報抽出や損傷箇所の解析、維持管理計画は、検索・着色などをして利用でき、BIM/CIMにより生産性向上が図れるといったことが言われています。
これを実際に作業する立場ごとに考えると、コンサルの場合は、概略検討の複数案の作成が容易になり、受発注者間のイメージの共有に効果を発揮しますが、施工会社の場合は、出来上がりの形状の3次元モデルよりも施工途中の施工計画や配置計画のために作ることが有効な活用になります。
発注者の場合は施工計画や配置計画は不要で、維持管理や発注時の積算を容易にして生産性向上を図ろうとしています。
これらの活用の視点で見ると、発注者のためのBIM/CIM対応と自分たちのための3次元モデリングは活用目的にバラつきがあるため、データという視点で考えた場合、詳細度や作り方、利用するソフトの視点で言うと、必ずしも一緒にできない状態になっていて、同じレベルのモデル作成・活用の考え方でデータの共有が実現可能かどうかを整理して考えるべきです。
例えば、BIM/CIMモデルが細かい詳細度でデータを作成して全ての部品に属性が入っていたとします。
延長が長いものをPCの画面で見たときに、道路幅が100mある場合でも、十数kmを表示すれば「線」にしか見えません。
属性の「検索」した際には該当範囲はクローズアップできますが、属性検索の結果から「着色」をした際も、色すら分からないのです。
さらに、高低差は延長よりも微小なものですので、もっと分からないのです。
もちろん、拡大すれば色が分かるようになりますが、分かるようになるのは、せいぜい延長数百mの表示になったときになります。
広大な範囲を管理する場合に注意する事項は、地図を想像すればすぐに分かります。
地図は、日本全体を表示する場合は、道路でいうと主要な高速道路すら極細の線で描かれます。
拡大率によって徐々に情報が見えてきます(下図)。
このように大切なのは、範囲の大きさによって管理する情報(表示する情報)を変えていくことが必要だということです。
ただでさえ3次元モデルはデータサイズが膨大なので、なおさらのこと3次元モデルの活用方法をよく考える必要があるのです。
GoogleEarthは、誰でもインターネットがあれば、全世界を3次元で見るという目的のものだと思います。
これはモデルの詳細度を落とすことにより、目的を果たしています。
もしこれが詳細に作成されて、全ての属性が見えるものになったら、目的が果たせなくなってしまうのは容易に想像がつきます。
私個人の考えですが、BIM/CIMにおける属性管理は3次元モデルに直接付与するのではなく、位置情報を持ったポイントデータを平面の地図上にプロットしてデータベース管理をして、必要な場合のみ3次元モデルで確認するなどの運用とするなどの工夫が必要になるのではないでしょうか。
積算と2次元図面抽出問題
もう一つの事例としては、3次元モデルに属性を入れれば今までと同様の積算ができ、2次元図面も切り出せるという理屈を前面にしてBIM/CIMを推進しようとしている場合です。
確かに理論的にはできますが、実際には問題点が多くあります。
まず属性に関していえば、建築のように窓、ドア、スイッチ、というような部品の場合は、部品に種別が入っている場合は、3次元モデルに配置すれば積算が可能です。
土木で部品のような素材があるとすれば、鉄筋やL型側溝、転落防止柵などです。
これらは、鉄筋を除けば積算上で10m当たりの個数、本数などで積算しています。
さらに10m当たりといっても実際は縦断勾配がある箇所に設置するのが普通ですが、その10mとは、平面投影された平面図上の距離であり、実際の傾斜なりの長さではありません。
そのような理由で理屈上では建築と同様の積算ができそうですが、まだまだ議論が必要です。
2次元図面の切り出しも同様です。
土木の現場は地形なりに施工するので、橋梁下部工や樋門などの構造物を除き、常に縦断方向も横断方向も傾斜があります。
断面図は傾斜なりでなく鉛直方向に切る図面ですが、実際の図面は舗装厚で言えば、傾斜に対して垂直に切った場合の断面が記載されています。
3次元モデルから単に切り出すことをすれば、設計された厚さより厚く表示されてしまいます。
これらは一つの例でしかありませんが、投影して表現している例はまだまだ多くあり課題といえます。
簡単に3次元モデルから2次元図面を抽出するというのが現状の目的であるのならば、もう少し時間がかかる要素だといえます。
3次元モデルから寸法線を自動生成するのも問題点があります。
寸法線は必要な部分に必要な寸法を記載するのですが、構造物が複雑になると2段3段と寸法線を描く必要があります。
2段目の寸法線は、どこをまとめて表示するべきかは、定石はあっても決まりがありませんので、自動化は今のところ困難です。
まとめ
以上の通り、BIM/CIMにおける3次元モデルに関しては、さまざまな課題が多く残っています。
とはいえ、全ての課題が解決してから取り組むのでは業界から取り残されてしまいます。
この時代、3次元モデルを利用してリモートでの施工ができるようになったり、LiDARの活用が進んだり、OpenAIが出現して点検などが可能になったり、情報の変化はとても激しいのは皆さんもお分かりだと思います。
情報取得も全員体制でいくことがとても大切なことだと思います。
BIM/CIMを推進する際に、勘違いしてほしくないこととしては、3次元モデルは、あくまでもツールであって、全てのことに使えるわけではありませんし、2次元図面も情報量の多さ、扱いやすさという観点から、なくなることもないと思います。
既存の技術とともに今までになかった視点を加え、ツールを活用することによって生産性の向上が図れるものにしていっていただければ幸いです。
株式会社デバイスワークス 代表取締役
加賀屋 太郎
【出典】
建設ITガイド2025