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JR東日本における建設DXの取り組み―JRE-BIMの推進―

2024年6月17日

はじめに

国土交通省では、令和5年度より小規模工事を除く全ての公共工事の詳細設計においてBIM/CIM原則適用となった。
JR東日本においても建設工事の推進において、調査・計画、設計、発注、施工、維持管理までの一連のフローを「JRE-BIMサイクル」と称し、BIM/CIMを活用することで生産性向上を図る取り組みを各種実施してきている(図-1)。
本稿では、これまでの取り組み内容とともに、今後の方向性について概説する。

図-1 JR東日本におけるBIM CIMの取り組み
図-1 JR東日本におけるBIM/CIMの取り組み

 
 

これまでの取り組み

概要

図-2に、これまでのJR東日本におけるBIM/CIMの取り組みの概要を示す。

図-2 これまでのJRE-BIMの取り組み
図-2 これまでのJRE-BIMの取り組み

2016年に受発注者相互の共通データ環境となる「BIMクラウド」を試行開始し、2018年には3Dレーザースキャナーによる地形測量の原則化、JRE-BIM研修をスタートした。
2020年には「JRE-BIM」の推進方法をまとめたJRE-BIMガイドラインを制定し、2021年には設計段階におけるBIMモデル作成の原則化などを実施してきた。
最近では、後述する三次元点群クラウド「TRANCITY」の開発と、このサービスを提供する関連会社「CalTa」の設立などを行い、点群とBIMの活用促進を図っている。
 

BIMクラウド(環境)

BIMクラウドの概要を図-3に示す。
受発注者でのデータ共有のほか、ワークフロー機能を備え、電子納品箇所としての活用を行っている。
2016年の試行開始からこれまでに33TBを超える工事関連のデータが蓄積されており、加速度的にデータ登録数も増え活用が加速している。

図-3 BIMクラウド
図-3 BIMクラウド

 

ガイドライン(ルール)

ルール面での整備も進めている。
JRE-BIMの標準的な進め方をまとめたJRE-BIMガイドラインは2020年に初版を制定以降、毎年改訂を重ねている。
2023年度は、動画から生成した三次元データでの工事写真の納品方法や、点群による構造物の計測方法などをとりまとめた施工編の拡充を主に行った(図-4)。
図-4 JRE-BIMガイドライン
図-4 JRE-BIMガイドライン
 

研修(人)

研修による社員のスキル向上も図っている(図-5)。
2018年からスタートし2022年には延べ380名以上の社員が基礎編は受講し、モデリングなどを行う応用編や実務編といったニーズに即した研修なども用意し、受講者も募っている。

図-5 JRE-BIM研修の受講者数
図-5 JRE-BIM研修の受講者数

 

主な活用事例

図-6に土木、建築、電気などの系統をまたがる工事での干渉や整合確認への活用事例を示す。
建築で施工する人工地盤鉄骨と電気で施工する電化柱の離隔の確認や、土木で施工するホーム舗装と建築で施工するエレベーターとの取り合いなどを、BIMモデル上で事前に確認することで、事後の手戻りなどを軽減させた。

図-6 主な活用事例 (干渉・整合確認)
図-6 主な活用事例 (干渉・整合確認)

 
図-7に駅改良工事での駅係員(立ち番)配置位置の検討への活用例を示す。
新設するホーム上で、駅係員(立ち番)からの見え方をVR上に再現し、駅社員などが事前に確認することで、立ち番設置位置の変更に要する合意形成の省力化などを図った。

図-7 主な活用事例 (合意形成の省力化)
図-7 主な活用事例 (合意形成の省力化)

 
図-8に線路近接作業時の安全性・施工性の確認への活用例を示す。
現地を計測した点群に、新設する構造物や重機類のBIMモデルを配置し、事前の施工検討会などで活用することで、工事関係者の理解の促進を図るとともに、安全な工事推進に役立てた。

図-8 主な活用事例 (安全性・施工性の確認)
図-8 主な活用事例 (安全性・施工性の確認)

 
さらには、線路切換工事など時々刻々変わる施工現場を、時間軸を加えた4Dのモデルで再現・検討することで、施工ステップ資料の作成時間の削減を図った事例もある(図-9)。

図-9 主な活用事例 (切換工事当夜の施工計画)
図-9 主な活用事例 (切換工事当夜の施工計画)

 
 

さらなる活用に向けた取り組み(三次元点群クラウドの活用)

これまで述べてきたようにBIMモデルの活用は積極的に進めてきたが、BIMモデル作成費に比して得られる効果が十分とは言い難い。
「3DCAD」としての活用から、「BIM(Building Information Modeling )」へ脱皮すべく、以下の取り組みを推進している。
 

デジタルツインソフトウエア「TRANCITY」の開発と活用

さまざまなBIM/CIMの活用を進めていく中で、活用推進を阻害している要因
を分析すると、「高機能なPCでなくても BIMや点群が扱える」「高度なスキルがなくても扱える」「建設関係者でない人にでも閲覧くらいはできる」というソフトウエア環境が求められていることが分かった。
そこで、BIMモデルおよび点群データを簡易に扱えるデジタルツインソフトウエア「TRANCITY」の開発に着手した。
TRANCITYの概要を図-10に示す。
ユーザーはカメラやスマートフォン、ドローンなどのデバイスで撮影した動画をWeb上にアップロードするだけで、点群や3Dメッシュデータが生成される。
Webブラウザーにアクセスできるユーザーであれば、誰でもどこでも閲覧が可能であることから、関係者でのデータ共有を容易に行うことができる。
点群や3Dメッシュと、動画から切り出された静止画が重畳表示させることができるため、画像での確認も可能な上、各箇所の寸法計測も可能である(図-11)。

図-10 デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」の概要
図-10 デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」の概要
図-11 「TRANCITY」の特徴
図-11 「TRANCITY」の特徴

 
このTRANCITYを用いて目指す工事管理のイメージを図-12に示す。

図-12 目指す姿(TRANCITYによる)
図-12 目指す姿(TRANCITYによる)

工事開始時点で作成したBIMモデルは3D地図上に地理座標を付与して配置し、工事完成時などには地上レーザースキャナーなどで作成した点群データと重ねることで設計情報との乖離箇所を視覚的に把握する。
日々の工事進捗などは、カメラやスマートフォンで撮影した動画から生成された点群と3Dメッシュを記録することで、工事着手前、工事途中などの状況を3D地図上で保存が可能である。
点群などを保持しているため必要な箇所の計測も可能であるため、従来の工事写真撮影時に配置していたメジャーやリボンテープといった計測道具も不要となる。
建設工事の着工から完成までの一連の流れが地理座標とともに保存が可能となるため、竣工後の維持管理場面での利活用にも大きく貢献するものと考えている。
現在は、従来の工事写真の代替の試行を行っているが、検測記録などの帳票類の置き換えなども視野に取り組んでいる(図-13)。
地下に埋設された貯留槽の新設工事、RC高架橋の地中梁の新設工事などに試行しており、各時点では動画の撮影とアップロードのみで従来の写真整理といった内業が軽減するとともに、完成した後でも当該箇所の施工中状況がスケールや座標値を持った高度利活用が可能なデータが蓄積できるようになった(図-14)。

図-13 工事写真の代替の試行
図-13 工事写真の代替の試行
図-14 試行例
図-14 試行例

 

点群による完成検査の推進

BIM/CIMの活用の重点的な取り組みのもう一つとして、点群データによる完成検査記録の置き換えを推進している。
構造物の完成時には、従来は手計測により帳票をまとめ、数回に渡り実施される段階的な検査を実施していた。
検査の都度、計測・確認を要するため、必要な人・時間は多く労力を要していた。
そこで、地上型レーザースキャナーで取得した点群上での計測結果を記録の代替とする取り組みを実施してきた(図-15)。
 
寸法値の確認が必要になるため精度の証明方法が重要になる。
精度については、用いるレーザースキャナー個々の精度の確認とともに、複数回に渡って取得された点群を合成して得られた点群での精度の確認の、2通りで確認することで必要な計測許容誤差内での寸法精度が確保されていることを証明した(図-16)。

図-15 点群を用いた完成検査
図-15 点群を用いた完成検査
図-16 精度の証明方法
図-16 精度の証明方法

 
図-17が、実際の点群データの一例である。
従来、現地で手計測で実施していた箇所を点群上で計測し記録することで、現地での計測や帳票への転記作業などが軽減されるとともに、高所作業や夜間作業などの軽減にもつながっている。
ただ、ここでのやり方はBIMモデルが設計図相当として作成活用できるようになるまでの過渡期の取り扱いと考えており、将来的には設計のBIMモデルと点群を、座標を合わせて重畳することで、許容値を超える箇所について自動で抽出できるような検査方法への転換をしたいと考えている(図-18)。
これによりBIMモデルの設計データとしての活用とともに、計測するという行為から脱却し、本来やりたかった確認方法が実現できるものと考えている。

図-17 実際の点群データ
図-17 実際の点群データ
図-18 点群を使った完成検査のビジョン
図-18 点群を使った完成検査のビジョン

 
 

究極のBIM/CIMの姿の実現に向けて(3Dプリンティング)

BIM/CIMが進んだ究極の姿は、調査・計画、設計、発注、施工、維持管理の全てのフェーズでBIMモデルデータのみで業務が完結することかと思われる。
せっかくBIMモデルで渡してきたデータを施工のフェーズで二次元の図面を起こし、型枠を作成したりしていてはBIMによる効果を全てのフェーズでの担当者が享受しているとは言い難い。
そこで、BIMモデルをそのまま構造物としてしまう究極の姿として、3Dプリンティングによるコンクリート構造物の構築の実現に向けて取り組みを進めている(図-19)。
3Dプリンティングの技術については、国内においてはまだ事例や技術基準も少なく、課題も多いことから土木学会等と連携しながら取り組んでいる。

図-19 コンクリート3Dプリンターの取り組み図
図-19 コンクリート3Dプリンターの取り組み図

 
取り組みの一つとして、土木学会の「3Dプリンティング技術の土木構造物への適用に関する研究小委員会(364委員会)」および東京大学等の学生と連携して、内房線の太海駅の駅舎建て替え工事に合わせて設置されるベンチのデザインからプリント、設置までの一連の流れを「ベンチプロジェクト」として実施した。
図-20は学生が考えたデザイン原案である。
3Dプリンティング技術の特長である自由な造形が可能であることを生かして、人間工学に基づき座り心地を追求した形状にするなど、従来のコンクリート工事では難しかった形状のプリントに挑んだ。
事前に耐荷性のシミュレーションなども実施するとともに、JIS基準に準じた載荷試験なども事前に行い、安全性を確認した(図-21)。
図-22に完成したベンチの設置状況を示す。
デザインから設置までの一連のフローを実施することで、3Dプリンティング技術のみならず、3Dモデルの受け渡しから始まり、寸法や設置位置の確認方法、設置箇所に合わせた形状の微修正、などさまざまは課題が抽出された。
これらは、BIMモデルのみで設計から施工までの一連の流れを実施する際に直面する課題であり、今後、改善に向けて取り組んでいかなければならない課題だと考えている。

図-20 学生のデザイン原案
図-20 学生のデザイン原案
図-21 耐荷性シミュレーションと載荷試験等による確認
図-21 耐荷性シミュレーションと載荷試験等による確認
図-22 完成したベンチの設置状況
図-22 完成したベンチの設置状況

 
 

おわりに

以上のように、さまざまなBIM/CIMに関する取り組みを実施してきたが、BIM/CIMを活用して効果を享受するためには、プロジェクトの計画段階でどのようにBIMモデルを活用しようとするかを考えて始めるのが重要だと考えている。
活用方法が明確であればBIMモデルの整備方針も明確になり、後工程で失敗を感じるようなことが少なくなる。
また、「人(スキル)」、「モノ(環境)」、「ルール」の3つの要素をバランスよく伸ばすことを心掛ける必要がある。
しかも、計画、設計、施工、維持管理、の全てのフェーズで、である。
どこかの人が頑張る、だけではダメで、全ての関係者の頑張りなくして、BIM/CIMの真の効果を享受することは難しいと考える。
ぜひ、設計者、施工者、受注者、発注者、管理者など、いろいろな立場の関係者で協力しあって推進していけたらと思う。
 
 
 

東日本旅客鉄道株式会社 東京建設プロジェクトマネージメントオフィス
企画戦略ユニット マネージャー 井口 重信

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



中部地方整備局における BIM/CIMの取り組み

2024年6月8日

はじめに

国土交通省では令和5年度よりBIM/CIMの原則適用(表-1)を進めており、国土交通省職員はもちろんのこと国土交通省の業務や工事を受注する民間企業も含めて、BIM/CIMを活用できるような環境整備を進めている。

表-1 BIM/CIM原則適用について
表-1 BIM/CIM原則適用について

 
BIM/CIMを活用するには測量・調査、設計段階から3次元モデルを導入することにより、その後の工事現場での施工、維持管理・更新の各段階においても3次元モデルを連携・発展させ、事業全体にわたって関係者の情報共有を図ることが可能となる。
 
i-Constructionモデル事務所においては、建設生産・管理システム全体の効率化に向け、BIM/CIMやi-Constructionの取り組みについて、トップランナーとして活用推進や普及拡大を図っているところである。
 
また令和5年3月に中部地方整備局の各部、建設業界をはじめ、関係機関が協調してインフラDXの取り組みを進められるよう、「中部インフラDX行動計画2023」を作成した。
 
 

中部地方整備局のi-Constructionモデル事務所の取り組み

中部地方整備局のi-Constructionモデル事務所は現在、新丸山ダム工事事務所、設楽ダム工事事務所、紀勢国道事務所の 3事務所であり、それぞれのBIM/CIMの活用状況を紹介していく。
 
新丸山ダムでは、関係者協議や広報で、地形データと堤体データ、機械設備データ、地質データなどを重ね合わせた統合モデルを活用している。
これを基に、ダム本体工事での自律施工も検討中である。
また、地質モデル(図-1)は、鉱脈硬線帯などを含めた新モデルを構築したことで、土捨て場や、本体工事に必要な骨材の選定などに活用範囲を広げた。
その他、ドローンで撮影した写真を組み合わせて3Dモデルを作成し、バーチャル見学ツアーも実施している。

図-1 地質3Dモデル(原石山)の作成【新丸山ダム】
図-1 地質3Dモデル(原石山)の作成【新丸山ダム】

 
設楽ダムでも、ダム本体と付替道路などで統合モデルを作成している。
対外向けの事業説明や、設計照査時の関連構造物との干渉確認などに活用している。
また、ダム事業の広報手法として、過去・現在・未来を映し出すプロジェクトマッピング(図-2)も作成した。

図-2 プロジェクションマッピングへの活用【設楽ダム】
図-2 プロジェクションマッピングへの活用【設楽ダム】

 
紀勢国道事務所では、国道42号熊野道路の整備で3次元データを活用している。
クリティカルパスとなる事業区間で、施工ステップの妥当性や用地内施工の確認、工事用道路の検討などを実施した。
施工ステップや事業スケジュールの照査(図-3)を行うことで、手戻りが生じない、効率的な事業執行を進めている。

図-3 工事着手段階の活用事例【紀勢国道】
図-3 工事着手段階の活用事例【紀勢国道】

 
 

中部インフラDX行動計画の策定

中部地方整備局では、これまでドローン測量やICT建機の活用など、さまざまなデジタル技術を積極的に導入・活用し、建設現場の安全確保、生産性の向上などに努めてきた。
しかし、自然災害の激甚化・頻発化、デジタル技術の急速な進展など社会経済情勢は大きく変化している。
このような状況の変化に応じたインフラ整備や公共サービスの提供を行うとともに、建設現場の生産性の向上、働き方改革を進めるためには、インフラ分野のDXの取り組みを一層加速する必要がある。
このため、中部地方整備局の各部、建設業界をはじめ、関係機関が協調して取り組みを進められるよう、①DX推進の背景、②地域住民、建設業界、職員、それぞれの観点からの目指す姿(表-2)、③おおむね5年間の主な取り組みを「中部インフラDX行動計画2023」(表-3)として整理し公表している。

表-2 中部地方整備局インフラDXの目指す姿
表-2 中部地方整備局インフラDXの目指す姿

表-3 中部インフラDX行動計画2023
表-3 中部インフラDX行動計画2023

 
 

おわりに

令和5年度よりBIM/CIMの原則適用となり、3次元情報の利活用ができる人材の育成は急務である。
 
建設現場の生産性向上を図るためには、i-Constractionの取り組みを国の直轄工事以外にも拡大していくことが重要である。
地方公共団体や地域企業の取り組みのサポートや、職員・作業員への研修も行い連携しながら取り組みを進めていく。
 
また、中部インフラDX行動計画を通して、最新のDXツールを活用して時代の変化、社会のニーズに応じた行政サービスを提供し、地域住民のQOLが高い魅力的な地域作りを目指す。
 
加えて、社会の基盤を支える重要な役割を担う建設業が持続的に発展できるよう若者や女性にも魅力的な職場環境とし、労働生産性の向上、職員の仕事とプライベートが充実するような働き方改革を進めていく。
 
 
 

国土交通省 中部地方整備局 企画部 技術管理課 建設情報係長
大鹿 貴也

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



中国地方整備局における BIM/CIMの取り組み

はじめに

中国地方整備局では、「中国地方整備局インフラDX推進計画」にBIM/CIMによる建設生産システムの効率化・高度化を位置付けて、3次元モデルの活用を推進してきたところですが、令和5年度から業務・工事においてBIM/CIM原則適用となり、さらなる活用を推進しているところです。
 
本稿では、これからの建設業界の生産性向上に欠かせないBIM/CIM の活用について、中国地方整備局の取り組みを紹介します。

 
 

中国地方整備局における取り組み状況

中国地方整備局のこれまでの取り組みとして、大規模構造物などを中心にBIM/ CIMを活用、順次対象を拡大しながら事例を収集し、「BIM/CIM活用の手引き(案)」や「BIM/CIM活用事例集」を作成・公表しています。
山陰西部国道事務所では、調査、設計、施工のプロセスを意識した3次元ベクトルデータを測量成果として作成することにより道路設計の効率化および高度化を図ることを目的に、ガイドラインを作成し運用しているところです。
令和5年度から業務・工事においてBIM/CIM原則適用を受け、この取り組みを他の事務所へ横展開し、BIM/CIMのさらなる活用推進を図っていきます。
 
受注者については、特に中小企業においてBIM/CIMがまだ十分に浸透していない現状も見られるため、中国地方整備局では、業団体が参加する講演会や勉強会などにおいてBIM/CIMに関する説明を積極的に行っています。
また、BIM/CIMを含むDXの取り組みに関する最新の事例を収集し、中国5県や業団体などへ定期的に提供するなど、外部への情報発信にも取り組んでいます。
 
BIM/CIMを効果的に活用し、建設生産・管理システムの効率化を図っていくためには、建設事業に関わる発注者および受注者における人材育成が不可欠です。
中国地方整備局では、幅広い関係者がDXに関する専門性の高い研修や技術体験ができる人材育成の拠点として、令和4年度より中国技術事務所に「中国インフラDXセンター」の整備を進めており、令和5年7月18日に暫定運用を開始したところです。
建設生産・管理システムのプロセスにおいて活用可能なDX技術のうち、AR・VRコンテンツなど(図-1)の体験が可能となっています。
今後も、DXセンターで体験できる技術メニューや研修コンテンツの充実を図り、BIM/CIM活用促進を支える人材育成の環境整備に取り組むこととしています。

図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ1
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ2
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ3
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ4
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ5
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ

 
 

フロントローディングの取り組み事例

中国地方整備局では、早期段階から一貫したBIM/CIM導入に向けて、測量、設計、施工の各段階でフロントローディングを実践しています。
 
測量段階では、点群測量成果を単に地形図成果として使用するのではなく、道路設計の効率化および高度化を図るため、点群測量に合わせて現地補備測量を実施し、自由に縦横断地形図が作成できる3次元ベクトルデータ(図-2)を測量段階の成果とする「点群データ活用ガイドライン(案)」を作成しました。

図-2 3次元ベクトルデータ
図-2 3次元ベクトルデータ

 
令和3年度新規事業から本格的に活用を開始しており、測量段階での作業は増加するものの、自由に縦横断面図が作成可能なことから通常実施する現地縦横断測量(応用測量)を省略でき、これまでの測量設計プロセスを見直すことで一連の作業効率化が図られることが可能となっています。
 
設計段階では、道路設計で作成された CIMモデルを、後工程となる、トンネル設計や橋梁設計を実施後に再度モデルの更新(接合)を行う必要があります。
しかし、設計業者ごとにCIMモデルの着色や、モデル化範囲が異なるため(図-3)、モデル更新に時間を要していることから、令和5年度に一定のルールを作成する取り組みを実施しています。
 
施工段階では、ICT土工用データを発注者が作成し、受注者に貸与する試行を行っています。
また、地質調査の検尺で一般化されつつある遠隔臨場を発展させ、遠方から現場をリアルタイムで見学するバーチャル現場見学会を令和4年度から実施しており、令和5年度はバーチャル現場見学会を応用した用地・幅杭遠隔立会(図-4)を試行するなど、新たな取り組みにチャレンジしやすい環境整備を行っています。

図-3 CIMモデルの着色違いの事例
図-3 CIMモデルの着色違いの事例
図-4 用地・幅杭遠隔立会
図-4 用地・幅杭遠隔立会

 
 

おわりに

中国地方整備局では、建設業界の生産性向上を図りつつ、整備局職員を含めた建設業界の働き方改革を実現することを目指し、各種の取り組みを実施しています。
 
実施に当たっては、社会情勢の変化や 建設業界、職員からのニーズなどを踏まえた上で、「中国地方整備局インフラDX推進計画」を毎年度策定し、それらを実施、点検、分析・評価し、インフラ分野のDXを推進してまいります。
 
 
 

国土交通省 中国地方整備局 企画部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



九州地方整備局における BIM/CIMの取り組み

はじめに

国土交通省では、建設現場の生産性向上を図るi-Constructionの取り組みの一つの施策として、BIM/CIM活用を推進しており、令和5年度から発注される直轄土木業務・工事をBIM/CIM原則適用の対象としております。
BIM/CIM原則適用の実施に当たっては「活用目的に応じた3次元モデルの作成・活用」と「発注者によるデータ引き継ぎ」が示されており、発注者はBIM/CIMの目的である、データの活用・共有を行い、受発注者の生産性の向上を念頭に置きBIM/CIMを活用する必要があります。
 
今回は九州地方整備局におけるBIM/CIM活用に向けた取り組み、および人材育成について紹介します。
 
 

九州地方整備局における BIM/CIMの取り組み

(1)九州地方CIM導入検討会

九州地方整備局独自の取り組みとして、 CIM導入の促進、生産性の向上、働き方改革の推進を目指すため、2013年7月に「九州地方CIM導入検討会」(委員長:小林一郎熊本大学名誉教授)を設置し、河川、ダム、道路、砂防の4分科会で、CIM活用に向けた課題、対応策の検討を各事務所と連携しながらCIM活用の推進に取り組んでおります。
 
各分科会の令和5年度の検討概要は以下のとおりです。
 
1)河川分科会
河川管理の効率化・高度化を目的として、流域や管理区間の三次元地形情報や河川に関わる各種情報をGISなどで可視化して提供し、各種の河川・河道データを取り扱う「三次元河川管内図」の整備を行い、より使い勝手がよいシステム構築の検討を進めています(図-1)。

図-1 システム構築の検討
図-1 システム構築の検討

 
2 )ダム分科会
ダムCIMを推進するため、調査・測量・計画、設計、施工、試験湛水、管理と事業の進捗ごとに段階分けを行い、各段階における用途や効果を達成するために必要なモデルの内容や、モデルに取得・蓄積するデータを選定の上、モデルを作成することで、情報把握の迅速化や施行の高度化を図るなど、業務の効率化を目指したダムCIM活用計画について検討を実施しています(図-2)。

図-2 ダムCIM活用の検討1
図-2 ダムCIM活用の検討
図-2 ダムCIM活用の検討2

 
3)道路分科会
道路事業における各業務・工事にて BIM/CIMの活用に取り組んでいますが、さらなる活用を推進するため、BIM/CIM活用に関する好事例や最新の情報を収集し、勉強会を通じて活用事例などの水平展開を行うとともに、職員のCIM活用の意識向上を図るなど、人材育成の強化を進めています(図-3)。

図-3 データ活用の好事例を用いた勉強会
図-3 データ活用の好事例を用いた勉強会

 
4)砂防分科会
砂防事業において、砂防CIMの基本フレームとして大規模(水系を広域に把握)・中規模(渓流域)・小規模(構造部)の3段階を設定し、各規模に応じた設計や地元説明会などへの活用に向けた検討を進めています。
なお、2023年度は大規模フレームにおいて河川分科会で作成される流域全体の三次元管内図と連携してモデルを作成するための砂防事業における基礎情報の整理を開始します。
また、中・小規模フレームでは、引き続きCIMデータを用いた除石工事の実施を行い、課題などの意見を抽出し、砂防CIMのさらなる活用の検討を進めます(図-4)。

図‐4 CIMデータを活用した除石工事における検討1
図‐4 CIMデータを活用した除石工事における検討
図‐4 CIMデータを活用した除石工事における検討2

 

(2)BIM/CIM人材育成の取り組み

BIM/CIM原則適用に関する実施方針では、業務・工事の発注に際し、BIM/CIMの活用についてリクワイアメント(要求事項)から、発注者が活用内容を特記仕様書へ明確に記載することとなり内容が大きく改定されました。
そのため、発注者として後工程(設計であれば工事など)を考慮した適切な発注を実施できるよう、令和5年3月に新たな実施方針について説明会を開催しております。
 
また、今後BIM/CIMを活用していくためには、発注者自らがBIM/CIMを体験し、その効果を理解することが重要です。
そのため、九州地方整備局の職員(一部地方自治体職員も含む)を対象に研修を行い、 BIM/CIM未経験の職員や基礎操作の復習を希望する職員などに対して、BIM/CIMの施策概要や、発注者としてどのようなBIM/CIMデータが納品されて、それをどのように確認・活用できるかを体験することでBIM/CIMの基礎を理解し、整備局の将来を担う職員の育成に努めています。

図-5 発注者を対象とした人材育成
図-5 発注者を対象とした人材育成

 
 

おわりに

生産性向上は建設業界の長年の課題であり、その背景には、一品生産・屋外生産で労働集約型生産の構造的問題があり、さらには長時間労働や高齢化による人手不足問題などがあります。
そのため、九州地方整備局では、これら諸課題の解決の一つの施策としてBIM/CIM活用・普及の推進に取り組んでいきます。
 
また、建設分野の生産性向上に向けて、従来のi-Constructionによる働き方改革をさらに拡大する必要性が生じており、九州の地域特性に特化したDXを実現するための行動指針などとして「九州インフラDXアクションプラン」を令和4年度に策定し、メタバースの活用や災害調査のデジタル化、UAVやAIの利活用などのデジタル技術を積極的に活用し、さまざまな分野で産・学と連携した改革を目指し、今後も一層推進していきます。
 
 
 

国土交通省 九州地方整備局 企画部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
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