書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。
設備会社におけるBIM・DX推進― BIMを「マネジメント」として活用し、独自のデータエコシステムを構築する —
2026.07.27はじめに
建設業界は今、大きな変革期を迎えている。
2026年には建築確認におけるBIM図面審査が開始され、2029年にはBIMデータによる審査が本格化する。
また、CDE(共通データ環境)の具体的な運用案も示され始めており、ゼネコンのみならず、専門工事業者に対してもBIM・DXへのより高度な対応が迫られている。
このような状況の中、設備工事業である弊社、三建設備工業も、全社を挙げてBIM・DXの推進に取り組んでいる。
本稿では、弊社の技術統括本部が中心となって進めているBIM・DXの活動について、そのポリシーと具体的な取り組みを紹介する。
三建設備工業、技術統括本部のBIM・DXポリシー
弊社の技術統括本部が掲げるBIM・DXポリシーは、明確な指針に基づいている。
パッケージされた製品は使用しない
特定のベンダーが提供するオールインワンのソリューションに依存するのではなく、複数のデバイスやソフトウエアを積極的に採用する。
組み合わせ使用し、自社として最適解を見つける
アジャイル(俊敏)に試行錯誤を繰り返し、現場の実態に即した最適なワークフローを構築し続ける。
BIMの「M」の再定義
一般的にBIMとは「Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)」の略であるが、このMを「Modeling(モデリング)」から「Management(マネジメント)」として活用することに重きを置いている。
これは、単なる3Dモデルを用いた関係者の干渉調整のフェーズから、建築物に関わるあらゆる情報(データ)の利用(マネジメント)フェーズへと移行していることを示している。
BIMモデル、点群データ、各種センサーデータ、維持管理履歴など、多種多様でありながらも基本は同じ情報を統合し、その「情報・データの多次元利用」を目的とする、独自の「情報のエコシステム」の構築を目指している。
BIMマネジメントシステム: ISO19650の取り組み
弊社のBIM・DX推進において、プロセスの標準化は不可欠な要素。
その基盤として、BIMに関する国際標準規格「ISO19650」の認証取得に取り組んでいる。
2024年3月に「受託組織(Appointed Party)」としての認証を取得。
続く2025年11月には、より上位の「元請受託組織(Lead Appointed Party)」へステータスアップ認証、本年の2026年にはベトナムのグループ会社であるSanken SCUBEでの受託組織認証も計画している(図-1)。
本取り組みは、単に認証を取得することが目的ではなく、今後の急速な変化に対応し続けるための「柔軟な制度を構築する」ことにある。
一例としてISOに規定される「詳細責任分担表」は、タスクを厳密に細分化し、プロジェクトの仕組みを構築する上での基本構造を示す。
これは、建設プロセスにおける「フロントローディング」の実現に直結する。
少子高齢化による人手不足が深刻化する中、本格的なBIM導入は、既存の制度設計を根本から見直す契機となり。
優秀な人材が豊富であった時代に構築された旧来のシステムを再検証する必要があると考える。
自社、海外の標準を単純に移植するのではなく、これまで培ってきたやり方を慎重に分析し、日本の建設業界が持つ「協調性」という良さを残しつつも、標準化に求められる「明確な役割分担」を取り入れ、変化に対応し続ける体制を構築していく。
施工図BIMのVR・AR活用
BIMデータの多次元利用の一環として、VR(仮想現実)およびAR(拡張現実)技術の施工管理への活用検証を進めている。
モデル現場での検証
千葉県某所のモデル現場にて、施工図BIMをVR・AR化し、施工管理手法としての有効性検証を実施。
VRを活用した施工図の事前確認
施工図BIMをVR空間で活用する手法の確立を進めている。
具体的には、作業者が3D空間にアバターとして入り込み、機器類やバルブなどの位置関係を、身体的な感覚でチェックすることを可能にする(図-2)。
特に、バルブのハンドルの向きやメンテナンススペースといった「使い勝手」に直結する要素は、従来のモニター上での3D画面では事前の確認が困難であった。
この課題に対し、ゲームエンジンを基盤とした「Revizto」の優れた3D処理能力が大きく貢献している(Reviztoを採用した理由の一つ)。
VRによる詳細な事前確認は、現場での手戻りや再加工を削減し、施工品質の向上に直結する。
ARを活用した現場情報の可視化
ARの活用では、建築図面ではBIM化が困難、あるいは記載されていない情報を可視化する。
例えば、仮置き材料、仮設用足場、構造図にない補強材、スライディングウォール用指示材、天井吊りモニターの天井内指示材、隠蔽シャッターボックスなどがある。
これらを、現実空間と施工図BIMとを合成することで仮想的に事前チェックし、現場での予期せぬ調整や手配を減らし、工程の円滑な進行を可能にする(図-3)。
VR・ARのトレーニングツールとしての利用
近年の建設業界では、ワーク・ライフ・バランスの実現が強く求められており、かつてのように時間外労働に頼った技術教育は困難な状況である。
特に、専門性の高い施工図作成のスキルを次世代へ継承していく上で、効率的かつ効果的な教育手法の確立は喫緊の課題であった。
この課題に対し、VR・AR技術を活用したトレーニングツールは、極めて有効な解決策となり得る。
仮想空間上で実践に近い形で繰り返し学ぶことで、時間や場所の制約を受けることなく、個々のペースに合わせたスキルアップが可能となる。
本ツールは、若手技術者の育成を加速させ、建設業界全体の生産性向上に貢献できる重要なファクターになると考えている。
点群データ:改修工事における活用
改修工事は、BIM・DXの活用が特に効果を発揮する分野である。
改修工事における問題点
改修工事の最大の課題は、「現物に即した図面がない」ことである。
配管やダクトが複雑に入り組み、設計当時の図面と現状が大きく異なるケースが多々である。
従来は、写真撮影や現地でのメジャー等による手動採寸に頼っていたが、これには膨大な作業時間と人員が必要であり、高所や狭所の採寸は困難かつ危険を伴っていた。
また、採寸漏れやヒューマンエラーによる手戻りリスクも常に内在していた。
3Dスキャンによる改善と新たな課題
この課題は、LiDAR(3Dレーザースキャナー)による3Dスキャンで大きく改善した。
現場をスキャンして点群データを取得することで、迅速かつ高精度に現状をデジタルデータ化でき、採寸漏れのリスクも大幅に低減した。
しかし「固定式スキャナー」にも課題があった。
レーザーの死角が発生しやすく、特に天井裏や高所の配管・ダクト上部など、レーザーが届かない箇所のスキャニングが困難であったのだ。
死角をなくすために足場が必要になる場合もあり、コストと危険が伴った。
ドローンを含めた「4+1 Structure」
この課題を解決するために、弊社はドローンを含めた「4+1 Structure」という独自のシステムを構築した。
固定式スキャナーが苦手とする上部や狭所を、ドローンを含む複数のデバイス群でスキャニングし、固定式スキャナーのデータ(地上・壁面)と合成する。
これにより、足場不要で安全かつ効率的に高所データを取得でき「地上」、「閉所」、「空中」、「裏側」の多方面からのスキャンで、現場全体の点群データを網羅することが可能となった。
「4+1 Structure」とは
「4+1 Structure」とは、点群データの取得からBIM化までを一気通貫で実現する、弊社独自のエコシステムである。
「4」は四つのデバイス群から成るMPS(Multi-Platoon System:マルチ-プラトーン・システム)と呼ぶ、特性の異なる四つのデバイス群を指している(図-4)。
- LiDER(ライダー:Light Detection And Ranging)系
・Z+F社製:超高精度スキャンが必要な場合に使用。
・Matterport社製:高精度かつ効率的なスキャンに使用。
・PIX4D(I-phone):即時性を求められる場合や、閉所・裏側での撮影に使用。 - SfM(エスエフエム:Structure from Motion)系
LAPIS(ドローン):高所、局所、または人が入れない閉所へのアプローチに使用。
これらを現場の状況に応じて使い分けることで、あらゆる状況に対応する。
「1」は一つの海外グループ会社によるBIM化ベトナムのグループ会社「Sanken SCUBE」を指す。
取得した点群データを同社に送り、専門チームがBIM化作業を行う(図-5)。
エコシステム
統合技術(ノウハウ)このエコシステムの要(かなめ)は、各デバイスで取得した点群データを統合する技術である。
特性の異なるデータを扱うには、デバイスごとに最適な組み合わせのソフトウエアを選択・運用するノウハウが必須となる。
弊社は、この統合タスクにおけるノウハウを取得した。
また、画像から点群データに変換するに当たり、複数の異なる前処理ソフトウエアを併用することが効果的であるとの知見も得ている。
さらに、数日間に及ぶ画像処理演算のために最新GPUを搭載したワークステーションを導入し、処理能力の向上と期間短縮を図っている。
施設管理プラットフォームの開発:「BUP」
BIMを「マネジメント」として活用する取り組みの集大成の一つが、自社開発の施設管理プラットフォーム「BUP(BIM Unification Platform)」である(図-6)。
開発背景と「BUP」の概要
近年、施設管理においては、維持管理コストの最適化や資産価値の最大化が重要な経営課題となっている。
しかし、従来の管理システムは情報が分断され、効率的なデータ活用が困難であった。
「BUP」は、この課題を解決するため、設備工事会社である弊社が持つ、建物や設備の構造、そして運用・維持管理における現場の課題に対する深い知見を最大限に生かして開発された。
メーカーでも、単なるソフトウエア会社でもない「設備工事会社」という独自の立ち位置だからこそ提供できる、サードパーティーとしての強みを発揮している。
本プラットフォームは、BIMデータに加え、中央監視システム(SCADA)、施設情報台帳(FMDB)、メンテナンス情報など、施設に関するあらゆるデータを統合(Unification)するデータベースを構築した。
これにより、施設のライフサイクル全体にわたる多角的なデータ分析と将来予測を可能にし、最適な維持管理を実現する(図-7~11)。
外部デバイスと三建独自アプリで実現する現場力
「BUP」の最大の特長は、外部デバイスと、弊社が自社開発したオリジナルのアプリケーションを組み合わせている点である。
高性能なハンディーターミナルを「情報収集・搬送の核」として活用する(図-12)。
これに、QRコード読み取り機能と、設備工事会社ならではの視点で開発された弊社独自のソフトウエアを搭載。
現場の作業員が直感的かつ効率的に機器のメンテナンスデータを入力・収集できるようにした(図-13)。
無線LANなどの追加設備が不要なローコストなシステム構築も、この組み合わせによって可能となった。
現場の「生の声」が凝縮された独自アプリ
このオリジナルアプリは、弊社の設備技術者がプログラミングを学び、実際のメンテナンス業務の課題やノウハウを反映させて開発したものである。
これにより、単なる情報入力ツールではなく、現場作業を最適化し、ミスのない確実なデータ収集を可能にする、現場の「声」が詰まったシステムが完成した。
さらにRPA(Robotic Process Automation)ツールも活用し、収集したデータを自動的にプラットフォームへ連携。
データの入力作業を大幅に削減し、ヒューマンエラーを防ぐことができる。
これらの連携により、「BUP」は現場とバックオフィス間のシームレスな情報連携を実現し、施設管理業務全体の生産性を飛躍的に向上させる。
おわりに
三建設備工業は、BIM・DXという建設業界の大きな変革の波に対し、BIMを単なる「モデリング」のツールとしてではなく、「マネジメント」の基盤として捉え直すことで、独自の道を切り開いていく所存である。
本稿でご紹介した、ISO19650を基軸としたプロセス改革、VR・ARによる施工管理の高度化、改修工事における「4+1 Structure」による点群データ活用、そして自社開発のFMプラットフォーム「BUP」に至るまで、全ての取り組みが「情報・データの多次元利用」というポリシーに基づいている。
人手不足や技術承継といった建設業界が直面する厳しい課題に対し、現場を熟知する「設備工事会社」だからこそできるデータ活用のアプローチで、新たな価値を創出していく。
今後も、独自のデータエコシステムの構築を進化させ、建設業界のDX時代をリードする存在となるべく、挑戦を続けていく。
【出典】
最終更新日:2026-07-27
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