書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。
中小ゼネコンでもここまでできる―生成AIが切り開くBIM活用と実務改革の最前線—
2026.07.07はじめに─生成AIが中小ゼネコンにもたらす新しい可能性
生成AIが中小ゼネコンにもたらす新しい可能性
建設業界ではBIM/CIMを中心にデジタル活用が進む一方、地方の中小規模ゼネコンでは「人手不足」「属人化」「BIM活用の停滞」といった課題が依然として残っている。
当社も従業員約200名規模の地方ゼネコンとして、限られた人員で高品質な成果物を提供し続けるには、従来の働き方だけでは対応しきれない場面が増えていた。
こうした状況の中、2023年以降の生成AIの急速な進化は、むしろ中小企業にこそ大きな機会をもたらしたと感じている。
専門人材が潤沢ではない環境において、AIは作業の一部を補完し、表現力・分析力・作業速度を一度に引き上げることができる。
「人材が限られている地方ゼネコンだからこそ、生成AIの効果はより大きく現れる」と当社では考えている。
特に2024~2025年にかけては、画像生成AI、動画生成AI、3Dモデル生成AI、自動プログラミングなどが実務レベルに達し、これらをBIM活用と組み合わせることで、作業フロー改善に向けた取り組みを進めてきた。
BIM内部のAI機能に依存せず、外部AIツールを柔軟に併用する点は当社の特色であり、大規模投資をせずとも生産性を高められる手応えを得ている。
本稿では、当社が実務で進めてきた生成AI活用を、四つのステージとMCPの動向から紹介する。
Stage1:生成AI“単体”活用による業務効率化と基盤づくり
1.文書生成・情報整理の自動化で業務効率を改善
当社が生成AI活用を始めた初期段階で、最も即効性が高かったのは「文書生成・情報整理の自動化」である。
BIMマニュアルの読み込み・設計提案に伴う説明資料、議事録の整理、PDF図面の読み取りなど、日常的に発生するが工数を要する作業は、業務の属人化や時間的制約の要因となっていた。
生成AIを活用することで、図面PDFから提案項目を自動抽出したり、分散した設備資料を再編成して説明文にまとめたりといった作業が、短時間かつ一定の品質で処理できるようになった。
結果として、担当者は本来注力すべき設計検討や品質向上に時間を割くことができ、業務プロセス全体の底上げにつながっている(図-1)。
2.提案の質を高めるクリエーティブ生成
生成AIは業務効率化だけでなく、提案の質を高める面でも効果を発揮している。
当社では、2D図面から空間イメージを生成したり、パースやロゴなどのクリエーティブ素材を短時間で作成したりすることで、視覚的な訴求力を持つ提案資料を容易に整えられるようになった。
従来は特定の担当者のスキルに依存していた作業も、生成AIにより一定の品質で再現できるため、誰でも複数案を短時間で提示できる環境が整っている。
その結果、施主との初期検討が進めやすくなり、企画段階の合意形成や意思決定のスピードが向上した。
3“. プログラム生成文化”の確立
Stage1の中で、当社のAI活用を象徴する成果となったのが「非エンジニアによるPythonスクリプト生成の定着」である。
DX推進部の半数以上が生成AIを活用してプログラムを作成できるようになり、日常の細かな業務改善を現場主導で進められる体制が整った(図-2)。
生成したスクリプトの例としては、
・Archicadのプロジェクト情報を確認申請書用Excelへ自動転記する仕組み
・メッシュ頂点を抽出し、座標オブジェクトを自動配置するツール
・データ整理やファイル構成を自動化する処理
などが挙げられる。
この“プログラム生成文化”は、中小企業における技術的ハンディキャップを補い、業務改善を継続的に加速させる基盤となっている。
生成AIによって専門技術の壁が下がったことで“現場起点で改善を行える自律的な組織への転換”が進みつつある。
Stage 2:複数AIを“掛け合わせる”ことによる表現力と生産性の飛躍
画像生成AI×3Dモデル生成AIによるモデリング業務の高速化
Stage 2では、複数の生成AIを組み合わせて業務の精度とスピードを高める取り組みを進めた。
当社ではAdobe Fireflyで作成したイメージ画像をTripo AIに読み込ませ、短時間で3Dオブジェクト化するワークフローを活用している。
この手法により、BIMソフトの標準ライブラリには存在しない「特殊機器」「工場設備」「デザイン性の高い家具」などを手早く生成でき、外部データ探しや追加モデリングの手間を大幅に削減できるようになった。
生成したオブジェクトをモデル内に配置することで、施主が空間イメージをつかみやすくなり、説明資料の説得力も向上する。
特に専門施設や特徴的なインテリアを扱うプロジェクトでは、現実に近いモデルを短時間で提示できる点が大きな利点となっている(図-3)。
Twinmotion×動画生成AIによるプレゼンテーションの高度化
Twinmotionで作成したレンダリング画像を動画生成AI(Google Veo3など)に読み込ませることで「短時間でアニメーション化できるワークフロー」を試行している。
従来もレンダラーで動画制作は可能だったが、カメラワークや質感調整には工数がかかり、表現の幅にも限界があった。
動画生成AIを併用することで、光の動きや自然物の揺れ、複雑なカメラワークなどを自動生成でき、よりリアルで説得力のある映像を短時間で作成できるようになった。
また、画像生成AIで加工したイメージを動画化することで、従来では難しかったデザイン表現も容易に試せるようになり、施主とのイメージ共有がスムーズになっている(図-4)。
Stage 3:生成AIがBIMを“直接操作”する段階へ
1.Archicad×Notion×Claudeによるデータ連携の自動化
Stage 3では、生成AIがBIMモデルの情報を直接扱える可能性を探るため、試行的にArchicad・Notion・Claudeを連携させる取り組みを進めている。
現在は、Archicadのゾーン情報をAIが取得し、Notionに内部仕上表として自動生成させる実験的ワークフローを構築している段階である。
また、Notion側の更新内容をArchicadに反映させる仕組みについても、実現可能性を検証しているフェーズである。
これらが安定運用できれば、転記作業の削減や情報整合の自動化が期待できるが、まだ一定の調整や検討が必要であり、実務での全面活用には至っていない。
それでも、このようなAI連携の試みは、BIMを起点とした情報一元化の未来像を描く上で重要なステップとなっている(図-5)。
2.Revit×Claudeによるモデル情報の資料化と作業自動化
Revitモデルと生成AIを組み合わせ、モデル情報から説明資料を自動生成できるかを検証する取り組みも進めている。
AIがモデル要素の情報を読み取り、文章化すること自体は十分に可能であり、資料作成の初稿を短時間で生成する実験には成功している。
ただし、情報の精度・表現の適切さ・用途に応じた文章構成など、実務でそのまま使うには改善の余地も多く、現段階では部分的に試行しながら最適な活用方法を探っている状況である。
この取り組みは、モデル作成者と資料作成者が必ずしも一致しない中小企業において、将来的に業務負担を軽減できる可能性を示すものでもある。
BIMモデルを基点とした情報活用が、AIによってさらに広がる兆しを感じさせる試みといえる(図-6)。
3.BIMを“データハブ”へと近づけるAI活用の意義
AIがBIMモデルや外部データと直接連携する取り組みを進める中で、BIMが将来的に「社内データを統合するハブ」として機能し得る可能性が見え始めている。
現状は一部工程での試行にとどまるものの、モデル情報を起点に資料化や情報連携が行える兆しがあり、部門間の共有がスムーズになる場面も確認できている。
こうした方向性が成熟すれば、
・モデルを中心にした一貫したデータ管理
・部門間の情報連携の効率化
・BIMを軸にした業務プロセスの再編成といった効果が期待でき、中小企業でも高度なDX基盤を構築できる可能性がある。
一方で、現時点ではBIMソフト側のAI機能は発展途上であり、外部AIとの連携も試行段階にあるため、すぐに全面的な実運用へ移行できる状況ではない。
それでも当社としては、こうした技術動向を見据えつつ、BIMがAIエコシステムの中心として成長し得る未来を視野に入れ、検証と改善を続けていく方針である。
Stage 4:AIエージェントによる自律的成果物生成と業務構造の変革
1.AIエージェントの登場がもたらす“自律性”という新たな価値
Stage 4では、従来の生成AIとは異なる「AIエージェント」を活用した取り組みを検証している。
AIエージェントは、指示に応じて作業を行うだけでなく、目標達成のために自らタスクを分解し、実行手順を組み立てる“自律性”を持つ点が特長である。
当社ではManusやGensparkを用い、複数工程にまたがる作業の一部を自動化できるか検証している段階である。
現時点では安定運用に至ってはいないが、単純作業を超えた工程管理や資料作成の支援に発展する可能性を感じている(図-7)。
2.BIMマニュアル自動生成など、成果物生成の実験的取り組み
AIエージェントの可能性を探る試行として、当社ではBIMマニュアル(約50ページ)を自動生成させる実験を行った。
プロンプトを与えるだけで、BIM作業フローやBEPとの関係整理、属性管理基準、レイヤー命名規則、使用ソフトの役割など、マニュアル構成の骨子が約10分で生成された。
本来であれば数週間かかる作業の“初稿部分”をAIが短時間で提示できたことで、担当者は確認・修正といった上流工程に専念できる可能性が見えてきた。
この取り組みは、AIが単に文書を作成するだけでなく“業務の構造化や標準化を支援する存在になり得る”ことを示している。
初期作業が自動化されれば、人はより付加価値の高い判断業務に集中しやすくなり、将来的には生産性向上につながると考えている。
3.人の役割の変化─“作業者”から“監督者”へのシフト
AIエージェントの検証を進める中で、当社では業務の役割分担が変わり始めている兆しを感じている。
従来、資料作成や構成検討などは担当者が全て手作業で行っていたが、試験的にAIエージェントを導入したところ、AIが初稿や骨子を生成し、人が確認・修正を行う流れが見え始めた。
これは単なる効率化ではなく「作業者から監督者へ役割が移る」という構造的な変化を示唆している。
中小企業では一人あたりの担当範囲が広く、属人化しやすいという課題がある。
初期作業をAIが補助することで、
・業務負担の軽減
・作業品質の安定
・経験差によるばらつきの抑制
といった効果が期待され、限られた体制でも生産性を保ちやすくなる可能性がある。
もっとも、現段階では精度や安全性の面で検証が必要であり、実運用には至っていない。
それでも、AIが前工程を担い、人が監督・判断を行う形が確立すれば、中小ゼネコンの働き方や組織運営そのものが変わる可能性を感じている。
MCPが導く未来─BIMはAIエコシステムの中心へ
1.AIが外部システムとつながる基盤─ MCPという新しい“共通言語”
AI活用の将来像を考える上で、MCP(Model Context Protocol)は重要な技術である。
MCPは、AIがソフトウエアやデータベースにアクセスするための“共通言語”として機能し、外部データを安全かつ標準化された方法で扱えるようにする仕組みである。
従来は、AIと各アプリケーションを連携させるためには個別のAPI開発が必要だったが、MCPが普及すれば、AIが外部ツールを統一的な方法で操作し、情報取得から処理までを一貫して行える可能性が高まる。
これにより、複数のAIが協調しながらタスクを進める“エコシステム型”の業務フローが現実味を帯びてくる。
オートデスク社も2025年にMCPサーバー提供を発表しており、主要ツールが順次対応していくことが予想される。
MCPは建設DXを再構築し得る技術基盤として注目されている(図-8)。
2. “AIがAIを動かす時代”におけるBIMの役割の変化
MCPが普及すると、生成AI・設計AI・積算AIなどが相互に連携し、業務が自動的につながる仕組みが形成される可能性がある。
その中心となるのが、建物情報を構造化して保持するBIMモデルである。
AIがBIMへ直接アクセスできれば、設計・数量・属性情報の統合点として機能し、他システムと連携するための“ハブ”として役割を広げ、図面作成ツールから“AIエコシステムの核”へと位置付けが変わると考えられる。
当社が外部AI(Claude、ChatGPT、Firefly、TripoAIなど)を積極的に活用しているのも、このような将来像を見据え、BIMを中心にAI活用の幅を拡張できる体制づくりを進めているためである。
現状、BIM内蔵AIは発展途上にあるものの、外部AIとの組み合わせによって実務に有効な成果が得られ始めている。
MCPによるAIエコシステムが発展すれば、中小規模のゼネコンでも少人数体制で生産性を維持しやすくなり、属人化しがちな業務の標準化や自動化が進む可能性がある。
外部AIを柔軟に取り込みながら最新技術を活用できる点も大きい。
人材確保が難しい地方企業にとって、“AIが人を補完する仕組み”は組織運営を支える新たな基盤となり得る。
当社としても、外部AIやAIエージェントを試行しつつ、急速に進化するAI技術をどのように取り入れていくかを継続的に検討している。
まとめ─生成AIとともに成長する組織へ
生成AIの活用を進める中で当社は、文書作成や情報整理といった基礎業務の効率化から、複数AIによる表現力の向上、BIMとの連携を通じた情報統合の試行、さらにAIエージェントが関与する新たな働き方の可能性まで、段階的に取り組みを広げてきた。
発展途中の要素も多いものの、中小企業でも生成AIにより業務の質と速度を同時に高められることが見えつつある。
外部AIを柔軟に組み合わせるアプローチは当社のような中小規模の組織に適しており、BIMが“データを起点とした業務基盤”として機能し始めている点は大きな変化である。
今後MCPが発展すれば、AI同士が連携して業務を自律的につなぐ新たなワークフローが生まれる可能性もある。
ただし、本稿の内容は2025年12月時点の技術状況に基づくものであり、生成AI、とくにAIエージェント分野は進化が速い。
出版時にはさらに高度なサービスが登場している可能性がある。
重要なのは特定技術に固執せず、変化を前提に柔軟に対応できる組織であることだ。
当社としても、技術進化を踏まえながら最適な活用方法を探り、AIとともに成長できる体制を模索していきたい。
本稿が同様の課題を抱える中小企業にとって、生成AI活用の一助となれば幸いである。
【出典】
最終更新日:2026-07-07
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