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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

海外におけるBIM動向 BIM情報マネジメント国際標準ISO19650におけるopenBIMの役割とは

2024年7月29日

はじめに

一般社団法人buildingSMART Japan(以下、bSJ)は、建設業界におけるデータ流通・相互運用の促進を目的として、国際組織buildingSMART International(bSI)の日本支部として1996年に設立され、BIMデータの国際標準規格であるIFC(Industry Foundation Classes)や、BIM推進に関連する標準化活動を、国際標準化機構(ISO)、欧州標準化委員会(CEN)などと協調しながら推進してきている。
2023年には、初の南米大陸からブラジル支部、BIMのビジネスアウトソーシング企業が多く、人口増加と経済成長が注目されているインド支部が、新たにbSIに加盟している。

図-1 buildingSMART支部の状況(2023)
図-1 buildingSMART支部の状況(2023)

 
2023年9月には、世界各地のBIM関係者がノルウェー・リレストロムに集い、建設産業におけるデジタル化についての標準化や実用化に向けての情報共有、議論を行うbSIサミット会議が開催された(図-2)。

図-2 buildingSMARTサミット会議の全体会議場
図-2 buildingSMARTサミット会議の全体会議場

 
bSIサミット会議では、ISO19650に基づいたBIMワークフローの事例研究、建築確認、サステナビリティ、デジタルツイン、デジタルサプライチェーン分野など、さまざまなテーマについての基調講演、パネルディスカッション、分科会、アワード表彰などが行われ、最新情報の共有、相互理解、気づきの場として発展してきている。
 
本報告では、bSIサミットの最新情報を基に、世界各地域におけるISO19650に基づいたBIMプロジェクト推進の状況、共通データ環境(CDE:Common Data Environment)におけるopenBIMの役割、建築確認へのIFC活用の最新状況について紹介する。
 
 

bSI Awards 2023

bSIでは、IFC、BCF(BIM Collaboration Format)、IDS(Information Delivery Specification)などbuildingSMARTが策定している標準を活用したopenBIMの普及促進を目的に、2014年からbuildingSMART Awardを年一回実施している。
春に応募を開始して、秋のサミット国際会議において設計、施工、運用・維持運営、学生、研究などの部門ごとの表彰を行っている。
2023年度も、全世界から137の応募があり、サミットではファイナリスト22チームが発表を行い、最終的に9の分野別優秀賞が発表された(図-3)。

図-3 bSI Awards 2023各カテゴリー優秀賞(bSIホームページから)
図-3 bSI Awards 2023各カテゴリー優秀賞(bSIホームページから)

 

各部門優秀賞9チーム
  • 資産管理部門:HOCHTIEF ViConおよびHOCHTIEF PPP Solution(ドイツ):「高速道路維持運営のためのデジタルツイン」
  • 建築施工部門:Tecklenburg GmbH(ドイツ):「警察署建築プロジェクトにおける持続可能な計画と施工」
  • 土木インフラ建設部門:中国鉄道科学アカデミー有限公司(中国):「杭州西駅におけるopenBIM活用」
  • 建築設計部門:Finavia Corporation(フィンランド):「ヘルシンキ空港開発プロジェクト2013~2023」
  • 土木・インフラ設計部門:ILFチューリッヒ(スイス):「鉄道トンネルへのopenBIM CDE活用」
  • ハンドオーバー部門:中国鉄道第一測量設計研究所集団有限公司および中国鉄道科学アカデミー有限公司(中国):「鉄道のマルチドメインopenBIMデジタルエンジニアリング認証およびハンドオーバー(引き渡し)」
  • プロフェッショナル研究部門:清華大学(中国):「openBIMに基づく自然言語処理技術による自動設計チェック」
  • 学生研究部門:ミュンヘン工科大学(ドイツ):「IFCとAI自然言語処理学習モデルを活用した初期設計段階での自動LCA設計意思決定支援システム」
  • テクノロジー部門:清華大学(中国):「openBIMおよび中国国家基準に基づいたカスタマイズ可能なBIM自動チェック」

 

ISO19650に基づくBIMプロジェクト推進

bSI Awardsにおける各チームのプロジェクト推進は、ISO19650に準拠して行うことが基本となる。
ISO19650は、BIMを活用した建設ライフサイクルにおける情報管理について規定している国際標準で、openBIMと密接な関連性を持っている。
ISO19650では、プロジェクト体制における発注者、受注者、タスクチームの構成の定義、役割を明確にし、次に示される情報要件の定義と運用が求められ、bSI Awardsの資料を理解するにも、これらの用語についての理解が必須となる。
 

  • OIR(Organisational Information Requirements):組織情報要:資産管理のニーズを満たし、組織内の高度な戦略的目標を達成するために必要な情報の要件。
  • PIR(Project Information Requirements):プロジェクト情報要件:発注者の意思決定に必要なプロジェクト情報への要件定義。
  • AIR(Asset Information Requirements):資産情報要件:プロジェクトの引き渡し時に、プロジェクトチームが運用とFMのために提出する情報の要件。
  • EIR(Exchange Information Requirements):交換情報要件(発注者情報要件):発注者がBIMプロジェクトに関する要件をまとめた文書。
    OIR、PIR、AIRの内容を直接、間接的に引き継ぐ。
  • BEP(BIM Execution Plan):BIM実行計画:EIRの内容に基づいてBIMプロセスを定義するためにプロジェクトチームが作成する文書。
    プロジェクト期間中の情報PIM(Project Information Model) が作成され、資産管理プロセスの情報AIM(Asset Information Model)へ引き継がれる。

 
BIMプロジェクトにおいて、特にEIRとBEPは密接に関連しており、これら情報要件の明確な定義は、発注者と受注者のBIM活用のゴール設定、竣工後のデータ活用などの成否に関わるため、bSI Awardsの評価ポイントの一つである。
今回のbSI Awardsにおいても、これらISO19650に準拠した文書定義がどのように活用されたかの事例を見ることができる(図-4、5)。

図-4 ISO19650の各種情報要件定義の事例(bSI Awards 2023資料から)
図-4 ISO19650の各種情報要件定義の事例
(bSI Awards 2023資料から)
図-5 EIRとBEP・LOD(LOG、 LOI)の関連性について(bSI Awards 2023資料から)
図-5 EIRとBEP・LOD(LOG、 LOI)の関連性について
(bSI Awards 2023資料から)

 

ISO19650実現におけるopenBIMの役割

ISO19650で規定されているBIMプロ ジェクト推進方法論に従い、各プロジェクトに固有のBIM活用ユースケースを選択してBEPを策定し、BIM推進の効果を最大限に発揮させるのが、BIMマネジメントにおいて重要な要素である。
BEP策定において、openBIMアプローチを活用することで、BIMユースケースを体系的かつ効率的に行う取り組みが、bSI Awardsの事例から見出すことができる。
ここで、ISO19650とopenBIMの関連性について、概要を示したい。
 
欧州標準化委員会のBIM部会(CENTC442)の発行したopenBIMに関するガイダンス資料を基に、ISO19650とopenBIMの関連性を示したのが図-6である。

図-6 ISO19650のBIMプロセスにおけるopenBIMの役割
図-6 ISO19650のBIMプロセスにおけるopenBIMの役割

 
openBIMとは、建設ライフサイクル全体において多種多様な関係者をつなげることを目的とした、「国際標準を活用」、「多種多様なソフトウエア、ソリューションが参加できる」、「長期的かつ持続可能な相互運用性を実現する」という特長を持つオープンなBIM推進手法を意味する。
関連する国際標準にはISO19650および、次に示すbSIが策定している国際標準が関係する。
 

    • IDM(Information Delivery Manual:ISO29481-1)とは、BIMプロセスにおける異なるソフトウエア間の情報受け渡し手順を定めたドキュメント形式。
      プロセスマップと交換情報要件から構成される。
    • MVD(Model View Definition)とは、IDMにより定義されたBIMデータ連携に対応する、IFCのデータ定義仕様範囲(サブセット)の定義。
    • IFC(Industry Foundation Classes:ISO16739):BIMのプロジェクト情報のデータ構造、データ形式の標準。
      2024年には、土木・インフラ分野に拡張されたバージョンが国際標準となる予定。
    • IFD(International Framework for Dictionaries:ISO12006-3)とは、オブジェクト指向に基づく建設分野辞書データ表現の標準。
      IFDを活用した建設辞書サービスはbSDD(buildingSMART Data Dictionary)と呼ばれ、IFCやプロパティセットなどのクラス・属性情報定義、OmniClass、Uniclass2015などの建設分野の分類体系情報が格納されており、WebやAPIを通しての検索が可能である。

     
     

    共通データ環境(CDE)におけるopenBIMの役割

    共通データ環境CDEは、ISO19650においてBIMライフサイクル全体における情報管理の要とされている概念である。
    国土交通省のBIM標準ワークフローガイドライン(第2版)には、建築生産ライフサイクルにおいて設計・施工・製造・運用・維持管理などの各段階の関係者が、設計・施工情報(2次元、3次元、その他関連情報)を共有し受け渡すための手続きや環境、とされている。
    bSI AwardsにおいてもCDEの活用方法が重要な評価ポイントの一つとなっている。
     

    openBIMとCDEの4つのステータス

    CDEに格納される情報には①「作業中」、②「共有」、③「公開」、④「アーカイブ」の4つのステータス(状態)が定義されている。
     
    ①「作業中」:タスクチーム(受注者の作業チーム)が他のタスクチームからはアクセスできない未承認の情報を扱う状態。
    ②「共有」:作業が完了した後にプロジェクト内の他タスクチームと共有した状態で、参照される情報。
    ③「公開」:確定・承認された情報を別の新しいプロジェクトや資産運用などで利用するためプロジェクト外に公開した状態。
    ④「アーカイブ」:全てのトランザクションおよび変更要求を含むプロジェクト履歴の記録を格納する。

    図-7 ISO19650におけるCDEの4つのステータス
    図-7 ISO19650におけるCDEの4つのステータス

     
    「作業中」状態の場合、通常各チームは業務に最適な特定のBIMオーサリングツー ル(モデリングソフトウエア)を活用し、ネイティブBIMデータの作成・修正を行う、いわゆるlittle bimによるBIM推進を行う。
    一方、「共有」以降のBIMプロセスでは、複数分野のプロジェクト関係者が関わることになるため、openBIMを活用したBIG BIMの状況となる。
     

    little bim/BIG BIM(リトルBIMとビッグBIM)

    「little bim」は、BIMプロセスが一つの会社または専門部署(タスクチーム)に限られ、自社・自部署特有の設計プロセスのニーズに合わせてカスタマイズされた手法・ソリューションを活用するBIMプロセスを指す。
    一方、「BIG BIM」は、プロジェクト全体の共同作業のための情報交換を行うBIMプロセスを意味する。
    BEPの策定において、この両方をどのように効率的に組み合わせるかがプロジェクトの成否に関わってくると言える。
     

    Single Source of Truthの実現

    SSOT(Single Source of Truth:信頼できる唯一の情報源)とは、組織内の全員が同じデータに基づいてビジネスの意思決定を行うことを保証するため、情報の一貫性と正確性を確保する慣習のことを意味する用語である。
    BIMプロジェクトの情報管理においては、CDE上における共同作業を通じてSSOTを実現することになる(図-8)。

    図-8 共通データ環境CDEにおけるプロジェクトメンバーの情報フロー例(bSI Awards 2023資料から)
    図-8 共通データ環境CDEにおけるプロジェクトメンバーの情報フロー例(bSI Awards 2023資料から)

     

    重ね合わせモデルの手法について

    CDEの「共有」以降のBIMプロセスにおいては、重ね合わせモデル(Federated model)作成をどのように行うかが、BIM総合調整(BIM Coordination)を成功に導く重要な鍵となる。
    小規模なBIMモデルの場合、BIMオーサリングツールで統合する単一モデル方式を選択することもできるが、ある程度の規模のプロジェクトの場合、openBIMによりSolibriやNavisworksのようなモデルチェック専用ソフトウエアによる重ね合わせモデル方式が有効である(図-9)。
     
    bSI Awardsにおいては、IFC,BCF,openCDE APIといったopenBIMを構成する標準を採用したCDEソリューション(例:Catenda Hub)により、クラウド上における重ね合わせモデル機能による効率的なコラボレーション運用を行う事例も出てきている(図-10)。

    図-9 重ね合わせモデルの構成例(bSI Awards 2023資料から)
    図-9 重ね合わせモデルの構成例
    (bSI Awards 2023資料から)
    図-10 openBIMに準拠したCDEによる重ね合わせモデル表示例(bSI Awards 2023資料から)
    図-10 openBIMに準拠したCDEによる重ね合わせモデル表示例
    (bSI Awards 2023資料から)

     
     

    建築確認におけるIFC活用

    日本国内では国土交通省が公開した「建築BIMの将来像と工程表(増補版)」において、2025年から「BIMによる確認申請」が位置付けられ、まず「BIM図面審査」が開始され、その後「BIMデータ審査」に発展していく。
    「BIM図面審査」についてはBIMソフトウエアから出力された整合性の担保された図面(PDF)を審査対象とし、BIMデータは参考扱いとしながらもIFC形式として提出することになる。
     

    海外の建築確認へのIFCとAIの活用

    bSIサミット会議においても、世界各国のIFC形式のBIMデータを審査対象とする建築確認プロセスへの取り組みが報告されてきている。
    今回のサミットでフィンランド、ノルウェー、オーストリア・ウィーン市、シンガポールにおけるopenBIMによる建築確認プロセスの試みの最新状況を確認することができた。
    bSI Awardsにおいてもテクノロジー部門、研究部門などで、IFCとAI自然言語処理学習モデルを組み合わせたBIMモデル自動チェック手法に注目が集まった。
     

    シンガポールCORENET X

    2000年代からBIMの建築確認への活用を行ってきているシンガポールにおいては、2023年中にこれまでの建築確認BIMプラットフォームCORENETを、CORENET Xとして更新し、openBIMに基づく建築確認プロセスに取り組んでいる状況である。
    CORENET Xは、申請側と審査側の行政機関のコミュニケーションを活性化させる建築確認CDEとして機能する。
    シンガポールでは、建築申請に必要な情報要件をIFC-SG(図-11、12)として定義し、CORENET X上でのコミュニケーションにはBCFの活用、提出側の事前チェックにはモデルチェッカー、建築審査側では自動法規チェックの仕組みを取り入れるとしている。

    図-11 IFC-SG:属性情報マッピング表(Industry Mapping 20 Oct 2023)
    図-11 IFC-SG:属性情報マッピング表
    (Industry Mapping 20 Oct 2023)
    図-12 建築確認機関側が要求するIFCに基づく情報要求の事例(防火扉の例)
    図-12 建築確認機関側が要求するIFCに
    基づく情報要求の事例(防火扉の例)

     

    今後の展望

    本稿では、BIM標準化団体bSIのサミット国際会議における、ISO19650活用事例、建築確認へのIFC活用の動向を紹介し、openBIMがどのようにISO19650と連携しているかについて述べた。
    これらの事例が日本のBIM展開へ取り込まれ、さらにはbSI標準策定への国内からの参画が活性化することを期待している。
    bSJとしては、今後も各国のopenBIMの最新動向を把握し、広く共有していくことで、我が国のBIM推進に貢献していきたいと考えている。
     

    参照情報:

     
     
     

    一般社団法人buildingSMART Japan理事(技術フェロー)鹿島建設株式会社
    足達 嘉信 博士(工学)

     
     
    【出典】


    建設ITガイド 2024
    特集2 建築BIM
    建設ITガイド2024


     



「維持管理」新時代の到来見えてきた課題に対して、新技術を導入して試すことが最初の第一歩

2024年7月22日

はじめに

5年に一度の点検業務も2024年度で3巡目に突入する。
1巡目、2巡目と実施され、順々に多くの橋梁やトンネルの延命措置が行われてきた。
しかしながら、維持点検における課題点は非常に多い。
2014年より始まった定期点検だが、いまだに打音調査がマストの状態にあるのもその一つだ。
確かにうきの有無の顕在化や位置確認に関して、現地で打音すること以上の技術はない。
しかし、多くの企業がアイデアを出しているにもかかわらず、打音調査をやらずに済むような点検はいまだ皆無であるのだ。
 

維持管理の方向性=新技術の活用

国土交通省では、これからの維持管理について「定期点検における新技術活用の方向性(案)」を2020年に提示している。
これは1巡目、2巡目を経過して分かってきた課題点から、次世代の新技術開発のヒントを示した形だ。
 
内容としては、「部位、部材の状態把握は目的に応じて最適な技術を組み合わせて効率的に実施すること」「健全性の診断は AIなどの技術を活用しつつ、人(知識と技能を有する者)が実施すること」が挙げられており、具体的には「AIによる診断の仕組みづくりと定量化」「どこがどれだけ変わったか、壊れた損傷部の動きの変化の可視化」「現場における点検の効率化と状態把握の質の向上」の3つのポイントについて注目していることが分かる。
このことからも今までの維持点検の業務が大きく革新され、技術的にも飛躍することが期待されていることは明白だ。
維持点検の需要が高まる中、これから始まる第3巡目以降の道筋、すなわち新技術の活用が、維持管理の本流となることは間違いない。

現在の定期点検における技術活用
現在の定期点検における技術活用

 

新技術の現在地

もちろん1巡目、2巡目の間にまったくの技術革新がなかったわけではない。
遠望目視および近接調査としては赤外線サーモグラフィー画像解析が浸透し、打音調査を支援する技術として多くの現場やインフラ現場の点検に使用されている。
これは浅い内部の空洞部やうきを検出するには最適な技術である反面、現場の気温や環境の影響を受けやすいという弱点もある。
計測時の対策等が必要であることを考えても、状況や人員に左右されないさらなる新技術の登場が求められているのは想像に難くない。
 
 

現在の課題を考える

ここで、今までの点検現場に立ち返り、長年点検の現場でその苦労を味わってきた一人としての視点から、どのような課題があったのかを検証してみたい。
初めに結論を言ってしまえば、課題とは時間制約と作業者の技術格差によって肝心の作業のクオリティーが低下する懸念があることだ。
その原因を大きく二つの観点から見ていこう。
 
まず前提として、点検を必要とするインフラ構造物は大量にある。
そのため発注規模として1業務当たりの構造物の施設点検数が多くなる。
一つの現場にかけられる時間は限られており、慌ただしく作業が行われ、危険が伴うこともある。
現場環境や交通事情によっては、夜間しか作業が行えない場合もあり、常に現場は緊迫感に満ちあふれていた。
一つ一つ慎重に点検することが絶対条件となるが、正直なところ特徴も違えば損傷の程度も異なる構造物を一つ見るだけでも大変な作業である。
 
そして最盛期に比べればわずかではあるが新設構造物も増えており、点検はやってもやっても終わらないというのが実情なのだ。

 

熟練でも難しい打音調査

このような状況下で、まず現場で特に注意を払われてきた印象が強い作業は、打音調査である。
なぜなら叩き漏れがあった場合、その後にうきが進行して剥離し、第三者被害を招いたという事例が少なくないからだ。
加えて音の変化でうきや内部空洞の有無を判断する技術でもあるが、熟練でも経験が浅い者でも、うきの領域判定をすることは極めて難しい。
触診して常に健全部の音で耳をリセットするなど細心の注意を払った点検を行う姿勢が求められている。
これだけでも簡単にできる業務ではないことは明らかで、特に時間を要する作業であることは否めない。
 
この点検をおろそかにするとインフラの長寿命化はおろか、私たちの生活も保障されないことにつながっていく。
だからこそ、この作業の背景に、私たちの生活やライフラインが常に表裏一体の状態であることを忘れてはならない。

 

損傷図作成における落とし穴

また現場から帰ってきてからの資料整理も大変な苦労を要する作業だ。
その中でも損傷図の作成については、地域性があるため必要がない都道府県があるのも事実だが、記録に残している自治体の方が依然として多い現状としては、注目すべき作業であろう。
 
まず、帰社後に資料をまとめ上げるには、打音検査の合間を縫って損傷図や写真撮影などの記録作業を行う必要がある。
これはただでさえ忙しい現場では大きな負担だ。
しかし記録がおざなりであれば、残せる資料も精度の低いものとなってしまう。
 
さらに記録者によって精度にばらつきが出ることも大きな問題点である。
この作業はただスケッチするだけではなく、寸法や長さ、位置関係がとても重要な情報となる。
しかし実寸とは言いにくいアバウトな損傷図となってしまっているのが現実である。
実はこれが正確に書かれていないため、
1巡目と2巡目の定期点検を行った際の損傷図を比較することは困難とされている。
一部では1巡目のデータに追記するケースがあると言われているが、1巡目のデータが正しく書かれていなかった場合、2巡目で修正しようとしても、時間も手間もかかるため、実用化された現場は少ないと聞く。
ここから読み解くと過去の損傷図の正確さと精度については二の次であった感は否めない。
これから始まる3巡目やその後の維持管理においても何らかの措置が必要であり、抜本的な改革が必要だ。
 
 

維持管理の未来は

これらの現状に加え、実際にはこれから間違いなく到来する人手不足や点検施設量の増加に伴い、作業面と内業の負担軽減をもたらす新技術の登場が必要なことは明白だ。
冒頭で述べた赤外線技術の他にも、最近ではロボットやAIを用いた点検支援技術で手間や時間短縮につなげる技術が多く開発されている。
これによりヒューマンエラーや人手の確保の必要性が改善されたのも事実だ。
今後もAI学習の効果が進めば、さらに業務改善につながることは確実だろう。

新技術 差分解析システム(写真データベース)
新技術 差分解析システム(写真データベース)

 

新技術の積極的な導入は不可欠

新技術はいまだ発展途上にある。
その中で今できることは、積極的に新しい技術を取り入れていくことだ。
どんな些細な技術であっても現場の効率化や作業の能率アップが図れるものであれば、まずは試していかなくては始まらない。
例えばいきなり「3次元化」といわれても、対応できるかどうかはやってみなくては分からないからだ。
もちろんそれを実行するためには人材確保や教育、計測機材の導入など前準備が必要となってくる。
すぐに人は育たないし、計測技術もすぐに上がるものでもない。
また何が有用な技術であるかは各会社の体制によっても違ってくるだろう。
自社に当てはまるものはどれか、どんな技術であっても自分たちで試してみて現場で使えるかどうかを検証することが必要不可欠なのである。
 
やってみて業務改善につながればそれが維持管理の答えなのだと私は考えている。
まずは、昔の技術にとらわれず、新しい技術があれば積極的にとりいれながら業務を改善していく。
その繰り返しこそが維持管理にとってのベストアンサーである。
われわれもソフト開発メーカーとして新技術開発に微力ながら貢献できるように、現場の声と業界の動きに注目しながらイノベーションを加速させていきたい。
 
 
 

株式会社アイ・エス・ピー 代表取締役

波場 貴士

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



土木におけるAI活用の現状と将来

2024年7月17日

第3次AIブーム

現在は、1956年に開催されたダートマス会議で「人工知能(AI)」という言葉が登場して以来3回目のAIブームと言われています。
第1次ブームでは、それまでは人間しかできないと考えられていた探索や推論が可能となり、コンピューターが数学の定理証明や簡単なゲームのような特定の問題に対して、答えを出せることが分かりました。
当時としては画期的なことでしたが、複雑な現実の問題を解くまでには至りませんでした。
 
第2次ブームでは、知識をルールの形で表してコンピューターに推論させる「エキスパートシステム」が登場し、より現実的な問題が解けるようになります。
知識を表現したルール自体は人間が作る必要がありますから、一般的な問題を解こうとすると膨大なルールが必要になります。
そこで、専門性の高い比較的限られた問題への適用が進められました。
 
AIの別の流れとして、脳内の神経細胞をコンピューター上で模擬した人工ニューロンを組み合わせて、人間のような思考を実現しようとする「ニューラルネットワーク」の考え方があります。
第3次ブームでは、コンピューターの進歩や、インターネットなどによって大量のデータが得やすくなってきたことを背景に、多層化したニューラルネットワークを用いる「深層学習」が発展します(図-1)。
2012年の国際画像認識コンペで、ヒントンのグループが深層学習を用いて画期的な精度の向上を実現(文献1)したことを契機に急速に進展しました。
同じ年に、大規模なニューラルネットワークに多数の画像を読み込ませることで、教師データを与えなくても「猫」を検出する人工ニューロンが現れたことが発表されたこともあり(文献2)、社会的な関心も高まりました。

図-1 深層学習に使われる多層化したニューラルネットワーク
図-1 深層学習に使われる多層化したニューラルネットワーク

 
2016年にはAIがトッププロの囲碁棋士を破ったことが話題になりました。
それには「強化学習」という考え方が用いられています。
囲碁のようなゲームでは明確な勝ち負けがありますから、人間が教えなくても、 AIが自分自身と膨大な対局をすることで勝ちにつながる手筋を学習し、自ら強化していくことができます。

さらに、2022年には、画像や対話を生成するAIが登場し、今なお大きな話題となっています。
その仕組みは、あらかじめ膨大な文章をトランスフォーマー(Transformer)と呼ばれるAIに読み込ませた「大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)」です。
大規模言語モデルは、規模を大きくすればするほど精度が向上していくことが知られており、ますます規模を拡大しています。
 
このように、第3次AIブームでは、新しい技術が次々と生まれ、実社会での応用が進んでいます。
もはやブームとは言えないほどAIが日常的なものとなっていると言ってよいでしょう。
土木における応用も広がっています。
 
 

画像認識

第3次AIブームの端緒となったのが「畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Networks)」と呼ばれる深層学習の方法を用いた画像認識です。
CNNの原型は福島邦彦氏によるネオコグニトロンであることは広く知られています(文献3)。
土木の実務では、現場や図面などを目で見て判断する業務が随所にありますから、画像認識AIの活躍の場も大きいと考えられます。
 
典型的なAIの応用として、点検の際の画像から、ひび割れを見つける問題があります。
一口にひび割れを見つけると言っても、図-2に整理したように、いくつかのレベルが考えられます(文献4)。
左図は、ひび割れの含まれる画像と含まれない画像を「分類」することで、ひび割れのある画像を検出するものです。
中央の図は、ひび割れのある領域を「バウンディングボックス」で囲んで検出しています。
右図は、ひび割れの箇所を画素レベルで分類して検出しているもので、「セマンティックセグメンテーション」と呼ばれます。
画像の中のひび割れの有無が分かればいい場合もあれば、ひび割れの長さや幅まで知りたい場合もあるでしょう。
画像認識の目的や用途によって異なる方法が用いられます。

図-2 分類・バウンディングボックス・セグメンテーションと教師データ作成コスト(文献4)
図-2 分類・バウンディングボックス・セグメンテーションと教師データ作成コスト(文献4)

 
この図の下に、AIに学習させるための教師画像を作成するコストのイメージが示されています。
左の画像分類では、画像ごとにラベルを付ける「アノテーション」をすればよいのですが、右のひび割れの画素を検出する場合は画素ごとにアノテーションする必要がありますから、手間が大きく異なります。
中央のバウンディングボックスはその中間くらいでしょう。
画像認識のAIを作るに当たっては、ニーズや用途とコストのバランスを考えて最適な方法を考えることになります(図-2)。
 
画像による物体検出は、建設現場でも有効です。
図-3は、移動中のクレーンのフックに吊り下げた重量計測用のクレーンスケールと鉄筋を検出した例です(文献5)。
安全管理を考えると、クレーンに吊られた重量物などはリアルタイムで検出することが望まれるので、ここでは「YOLO」と呼ばれる高速な手法が用いられています。
YOLOは「“You only look once(”一目見るだけでいい)」の頭文字で、ラップの YOLO「“You only live once”(人生一度きり)」の語呂合わせになっています。
AIの手法の名前には特長を端的に表したしゃれたものも多いです。
物体検出は、交通の計測や、廃棄物の検出などへの応用も進められています。

図-3 建設現場での物体検出(文献5)
図-3 建設現場での物体検出(文献5)

 
 

打音検査・異常検出

AIで分類できるのは画像だけではありません。
コンクリートの健全性を調べるために、打音検査が用いられますが、コンクリートを打撃する際の音響データを健全部と異常部に分類するのにもAIが適用可能です。
一例として、文献6では、図-4-1のように実際の構造物で録音した打音のデータに対して、「オートエンコーダ(自己符号化器)」(図-4-2)と呼ばれる深層学習を適用しています。
オートエンコーダは、入力と出力に同じデータ(この場合は打音の波形)を用いて学習することで、入力と同じ出力を再現する仕組みです。
正常音でオートエンコーダを学習させると、異常音を入力した場合にはオートエンコーダでは再現されないことが分かりました。
その性質を応用することで、打音の判別に成功しています。
オートエンコーダでは、人間がアノテーションして教師データを作る必要がないのも一つのメリットです。

図-4-1 打音の録音状況(文献6)
図-4-1 打音の録音状況(文献6)
図-4-2 オートエンコーダによる深層学習(文献6)
図-4-2 オートエンコーダによる深層学習(文献6)

 
ほとんどの構造物は健全ですから、異常のデータというものはそもそも少ないものです。
健全データと異常データをそのまま学習して、異常を検知しようとすると、異常データの方が圧倒的に少ないため、単に当てずっぽうで「健全」と判定するだけでも、高い正解率となってしまうことがあります。
そこで、この打音の事例のように健全を再現するAIによる予測値と実測値のずれから異常を検知したり、図-5のように多い方の健全データを減らすアンダーサンプリング、少ない方の異常データを増やすオーバーサンプリングなど、「サンプルバランシング」の手法などを用いたりすることもあります。
その他、シミュレーションでデータを生成したり、物理的知見を反映するしたりするなど、いろいろな解決法の研究が進められています(文献7)。

図-5 異常時データなどの不均衡なデータの取り扱い(文献7)
図-5 異常時データなどの不均衡なデータの取り扱い(文献7)

 
このように不均衡があるデータの場合にAIの性能を評価するには、単に全体的な精度のみならず、異常の見逃しにつながる未検出や、誤検出による空振りにも注意する必要があります。
AIの評価では、未検出に関する指標である「適合率(precision)」や、誤検出に関する指標である「再現率(recall)」が用いられるのが一般的です(文献8)。

 
 

AIはどこを見ているのか

AIはブラックボックスと言われますが、ある程度は、AIの根拠を示すことができます。
AIの推論結果を人間が解釈可能な形で出力する技術は「説明可能AI(XAI:eXplainable AI)」と呼ばれ、図-6のようなヒートマップもその一つです。

図-6 鋼主桁の腐食とAIの着目領域のヒートマップ(文献9)
図-6 鋼主桁の腐食とAIの着目領域のヒートマップ(文献9)

 
図-6は橋の点検時に撮影された写真から、健全あるいは損傷が軽微なものと、損傷が大きく補修などの検討が必要なものに分類するAI(文献9)で分類された、損傷が大きな場合の例です。
右のヒートマップは、画素ごとにAIの判定に寄与した度合いを表しています。
腐食が進んでいる主桁補剛材下端付近が赤色になっており寄与が大きくなっています。
点検写真を分類するAIでも、人間と同様の着目箇所の情報を使って判定していることが分かります。

 
 

大規模言語モデル

ヒートマップのようにAIが着目している領域の情報を利用するのが、「アテンション(注意機構、Attention)」と呼ばれる方法です。
アテンションを中心に据えたAIが、近年提案されたトランスフォーマーで、ChatGPTなどの大規模言語モデルや現在のAIの基本になっています(文献10)。
トランスフォーマーを提案した論文は「Attention Is All You Need」というタイトルで、アテンションの重要性が強調されています。
ビートルズの「All You Need Is Love 」を思い起こさせます(文献11)。
 
言語のアテンションは、文章の前後関係や翻訳や会話などの対となる文章から、単語間の関連度や注目度を抽出するものです。
文献12では、トランスフォーマーの一種であるBERTという手法を、SNSの投稿に適用して、災害に関係のあるものを抽出しています。
図-7は、災害に関係あると分類された投稿について、各単語のアテンションを、関連性が強いほど赤色が濃くなるように可視化したものです。
時間や住宅が水に浸かっている様子など、人間にとって重要な単語に注目していることが分かります。

図-7 災害に関係があると分類された投稿とアテンション(文献12)
図-7 災害に関係があると分類された投稿とアテンション(文献12)

 
大規模言語モデルでは、膨大な文章のパターンを事前に学習することで、人間に近い自然な受け答えが実現されています。
さらに、「プロンプト」と呼ばれる問いかけの方法を工夫したり、追加的な学習を行うことでモデルを微調整する「ファインチューニング(fine tuning )」を行ったりすることで、専門的な問題に対する回答を生成する試みも進められています(文献13)。
また、図-8は、別のユースケースとして、大規模言語モデルによってNETISの新技術を分類した例で(文献13)、点が近いほど類似性が高くなっています。
赤の工法と、青の製品や紫の材料に関する技術は入り乱れて表示されていて、関連性が強いことが分かります。

図-8 大規模言語モデルを用いた新技術の分類例(文献13)
図-8 大規模言語モデルを用いた新技術の分類例(文献13)

 
 

デジタルトランスフォーメーションに向けて

トランスフォーマーは、言語のみならず画像にも適用可能です。
画像の場合でも、専門分野の画像を追加してファインチューニングをすることができます。
インフラ点検の損傷画像などデータ数が限られる場合にも有望なアプローチであると考えられます。
 
図-9は、点検画像と、その画像に対応するアテンションを表示したアテンションマップの例です。
剝落やひび割れなど、損傷に関連する領域が強調されるようにアテンションが高くなっています(文献14)。

図-9 点検画像とアテンションマップ(文献14)

 
大規模言語モデルのベースとなるトランスフォーマーは、言語のみならず、画像などの多様なデータに適用できます。
言語、画像、センサーデータなどを組み合わせたマルチモーダルなデータへの拡張も可能です。
例えば、GPT-4Vでは、画像を言語で説明するなどの機能が大幅に強化されています(文献15)。
土木の実務では、特に、画像と言語からなるデータを用いる場面も多く、橋梁点検調書作成の省力化(文献16)に向けた研究や、土砂災害の画像から危険度を判定する研究(文献17)などが行われています。
 
文献18では、図-10のように点検時の変状画像に対する所見の生成を試みています。
技術者の所見を完全に再現するには至っていませんが、赤字の部分のポイントについては整合していることが分かります。

図-10 技術者とAIによる所見の比較(文献18)
図-10 技術者とAIによる所見の比較(文献18)

 
大規模言語モデルの土木への応用は始まったばかりですが、画像の利活用と合わせて、実際のさまざまな業務の場面で、直接、仕事に取り入れることのできるユースケースが考えられています。
AIによるデジタルトランスフォーメーションの一層の進展が期待されます。
 
 

文献

(1)Olga Russakovsky,Jia Deng,Hao Su,Jonathan Krause,Sanjeev Satheesh,Sean Ma,Zhiheng Huang,Andrej Karpathy,Aditya Khosla,Michael Bernstein,Alexander C.Berg,Li Fei-Fei:Image Net Large Scale Visual Recognition Challenge
https://doi.org/10.48550/arXiv.1409.0575
(2)Jeff Dean,Andrew Ng:Using large-scale brain simulations for machinelearning and A.I.
https://blog.google/technology/ai/using-large-scale-brain-simulations-for/
(3)福島 邦彦:深層畳み込み神経回路ネオコグニトロン,認知科学,2022年29巻1号p.14-23.https://doi.org/10.11225/cs.2021.061
(4)泉 翔太,全 邦釘:Attention機構を用いたDeep Learningモデルによるひび割れ自動検出,AI・データサイエンス論文集,2021年2巻J2号p.545-555.https://doi.org/10.11532/jsceiii.2.J2_545
(5)楠本 雅博,Ayiguli AINI,全 邦釘:建設現場における人工知能の活用事例,AI・データサイエンス論文集,2020年1巻J1号
p.301-306.https://doi.org/10.11532/jsceiii.1.J1_301
(6)江本 久雄,馬場 那仰,浅野 寛元,長瀬 大和:AI手法による打音検査の浮き判定の検討,AI・データサイエンス論文集,2020年1巻J1号p.514-521.https://doi.org/10.11532/jsceiii.1.J1_514
(7)宮本 崇,浅川 匡,久保 久彦,野村 泰稔,宮森 保紀:防災応用の観点からの機械学習の研究動向,AI・データサイエンス論文集,2020年1巻J1号p.242-251.https://doi.org/10.11532/jsceiii.1.J1_242
(8)“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト【第13回】土砂崩落やインフラ点検など、用途ごとで最適化するためにAI性能を評価するには?https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2207/11/news024.html
(9)西尾 真由子,栗栖 雄一:橋梁点検部材損傷度判定CNNの可視化による判断根拠の理解と活用,AI・データサイエンス論文集,2020年1巻J1号p.92-99.https://doi.org/10.11532/jsceiii.1.J1_92
(10)杉崎 光一,阿部 雅人,全 邦釘:大規模言語モデルの専門領域への適用に関する検討,AI・データサイエンス論文集,2023年4巻3号p.474-481.https://doi.org/10.11532/jsceiii.4.3_474
(11)Attention Is All You Need.https://doi.org/10.48550/arXiv.1706.03762
(12)泉 翔太,堀 太成,山根 達郎,全 邦釘,藤森 祥文,森 脇亮:Deep Learningを用いたマイクロブログ投稿文の災害情報分類,AI・データサイエンス論文集,2020年1巻J1号
p.398-405.https://doi.org/10.11532/jsceiii.1.J1_398
(13)菅田 大輔,箱石 健太,一言 正之:土木・建設分野における大規模言語モデルの利活用に向けた検証と考察,AI・データサイエンス論文集,2023年4巻3号p.670-676.https://doi.org/10.11532/jsceiii.4.3_670
(14)櫻井 慶悟,前田 圭介,藤後 廉,小川 貴弘,長谷山 美紀:地下鉄トンネル点検時の一人称視点映像を用いたVision Transformerに基づく変状検出,AI・データサイエンス論文集,2022年3巻J2号p.470-478.https://doi.org/10.11532/jsceiii.3.J2_470
(15)Zhengyuan Yang,Linjie Li,Kevin Lin,Jianfeng Wang,Chung-Ching Lin,Zicheng Liu,Lijuan Wang:The Dawnof LMMs:Preliminary Explorations with GPT-4V(ision).https://doi.org/10.48550/arXiv.2309.17421
(16)青島 亘佐,宮内 芳維:大規模言語モデルの活用による橋梁点検調書作成の省力化に関する検討,AI・データサイエンス論文集,2023年4巻3号p.274-284.https://doi.org/10.11532/jsceiii.4.3_274
(17)稲富 翔伍,山根 達郎,金崎 裕之,全 邦釘:大規模言語モデルと画像セグメンテーションによる専門知識融合型土砂災害危険性判断手法,AI・データサイエンス論文集,2023年4巻3号p.507-514.https://doi.org/10.11532/jsceiii.4.3_507
(18)渡邉 優宇人,小川 直輝,前田 圭介,小川 貴弘,長谷山 美紀:Visual language modelを用いた変状画像に対する所見の自動生成̶類似画像検索によるFew-shot learningの導入̶,AI・データサイエンス論文集,2023年4巻3号p.223-232.https://doi.org/10.11532/jsceiii.4.3_223
 
 
 

公益社団法人土木学会 構造工学委員会 AI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長
阿部 雅人

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



新潟県中山間地域発!建設DXチャレンジ事例雪深い地域の受注の半数が下請け工事である小さな会社が進める建設DXとは?

はじめに

会社紹介

当社は、新潟県上越市浦川原区に事務所を置く社員が32名の小さな会社で、令和6年で創業70年を迎えます。
事業内容は、土木一式工事であり、主な受注先は、国土交通省、新潟県、上越市であります。
その年の受注状況により変動はあるものの、おおよそ5割近くが新潟県の工事であり、残りの5割近くが公共工事の下請けとなる、いわゆる地方の中小企業です。
 

建設DXへの取り組み

建設DXとは、さまざまなデジタル技術を複合的に活用することで、業務プロセスをあらゆる角度から変革し、建設生産プロセス全体を最適化することで新たな強みを生み出す取り組みとのことですが、さらに突っ込んだ言い方をすれば、建設産業そのものの在り方を根本から改革的に変えることと言えます。
とはいえ、では何をどうすれば良いのかということですが、これについては正解がなく、企業ごとに違いがあって当然であると思われます。
大手ゼネコンや準大手ゼネコンといった大企業は、独自の取り組みを既に行っておりますが、中小企業にとっては、独自に取り組むことはハードルが高く、建設DXに対してどのように取り組むべきかと悩むところだと思われます。
 
そこで当社ではまず、対象と目的をはっきりさせるために3つの基本方針を立てました。
 
 

①現場における生産性の向上

1つ目が現場における生産性の向上「現場の建設DXについて」です。
図-1に示すのが、当社が現在行っている建設DX全体のイメージです。
技術者、ワーカー、それから現場情報や本社にある情報をクラウド活用により常に情報共有し、効率化を図れることを考え、実施しています。
また、われわれの地域では、今で言う建設ディレクターに似たような職種が古くから活躍しているため、竣工書類の7割弱を技術者以外の女性職員や総務にて作成するバックアップ体制が整っていることが特長の一つとなっています。

図-1 当社の建設DX全体のイメージ
図-1 当社の建設DX全体のイメージ

 

工事の3Dデータ化

令和4年より全ての工事において3D化を徹底することとし、実施に移行しています。
特に、3D起工測量と3D施工データを作成することで、例えば現状に合った縦横断図を簡単に作成できたり、土量計算を簡単に行えたりと作業の効率化が図れることを実感しており、3D化することを当たり前の作業として技術者に捉えていただけるよう努めています。

図-2 3D施工データ
図-2 3D施工データ

 

3D施工データの活用

3D施工データの作成が平準化となると、必ず3D施工データがあるため、このデータを建設システム社(KENTEM)の「快測ナビ」に入力することで現場における丁張設置作業の効率化が劇的に変わります。
どの断面においてもリアルタイムにて確認できることが可能となるので非常に便利です。

図-3 現場の建設DXのイメージ
図-3 現場の建設DXのイメージ

 

EARTH BRAINアプリの活用

EARTH BRAIN社のアプリケーションを導入し、「土工の見える化」や「ダンプの動態管理による位置情報の見える化」「過積載防止の見える化」を図り、ここで得た情報を有効に活用することで現場全体の効率化を図っています。
令和2年からは全ての現場でこのアプリケーションを導入しており、冬場にはダンプではなく、除雪車の動態管理としても活用しています。

図-4 SCFleetによるダンプ動態管理の概要
図-4 SCFleetによるダンプ動態管理の概要
図-5 ペイロードメーターによる過積載防止の概要
図-5 ペイロードメーターによる過積載防止の概要

 

クラウドサービスの活用

KENTEMの「電子小黒板 Site-Box 」と「KSデータバンク」を活用することで、現場で撮影した写真がクラウドを通じた同期によりあらかじめ用意されたフォルダに自動振り分けされるシステムにより、事務所での写真の共有と写真整理の効率化を実現しています。
また、Dropbox社のクラウドサービスにて設計書などのデジタルデータをいつでもどこでもスマホやタブレット、PCにて閲覧、編集、作成できるシステムとしています。
それから、Microsoft社のTeamsの活用により、チャットや共同作業はもちろん、リモートワークとしても活用できるようにしています。
 

ネットワークカメラの活用

ネットワークカメラを各現場に設置し、「現場の見える化」に努めています。
これについては、特に河川工事や地すべり対策工事や除雪のパトロールなどに活用すると非常に便利です。

図-6 ネットワークカメラ

 

Web会議の実施

現場とオフィスを結び、毎日13:00より現場代理人との打合せを行っています。
また、現場にて緊急事態などが発生した場合にもすぐにWeb会議を行うことができるようになったため、現場状況を把握して、的確な指示がオフィスよりすぐに行えることで、初期対応までの時間の大幅な短縮にもつながることが期待できます。

図-7 Web会議室
図-7 Web会議室

 
 

②ワーカーへの情報伝達の効率化

2つ目がワーカーへの情報伝達の効率化と環境整備「ワーカーへの建設DXについて」です。
 

クラウドサービスの活用

これも①同様にクラウドサービスを活用した情報提供を実施しています。
主に人員配置や工事情報、施工上の留意点や工法動画などの当社オリジナルの情報がワーカーのスマホにて閲覧できます(図-8)。
また、ブラウザでも簡単に当社オリジナルの情報が閲覧できるようなシステムを作成し、使用しています(図-9)。
これらは既に実施済みですが、これらの情報をワーカーがどのように活用するか、現在検討しています。
これらの情報を現場入場前の予習として活用できるようになると作業効率の向上も期待できるため、ここを当たり前のように捉えていただけるよう努めています。

図-8 ワーカーへの建設DXのイメージ
図-8 ワーカーへの建設DXのイメージ
図-9 社員専用サイトの一部
図-9 社員専用サイトの一部

 
 

③オフィスと現場をつなぐデジタル技術

3つ目がオフィスと現場とをデジタル技術でつなぎ、さらなる効率化を図る「オフィスの建設DXについて」です。
 
建設業ですので、どうしても現場で働く技術者やワーカーにスポットが当てられがちです。
またそこでの結果は生産性に直結するため当然のことですが、オフィス環境についてあらためて目を向けると、現在の働き方に合っていない部分に気付かされます。
そこで計画したのがスマートオフィスです。
 

スマートオフィスの導入

スマートオフィスとは、オフィスで働く従業員が快適に、効率良く、そして室内の温度や湿度、照度などのオフィス環境を自動制御することで省エネを実現したオフィスを言うようですが、当社では単純に環境に優しく、時代に合った賢いオフィスと捉えています。
従来のデジタル機器の能力をさらに強化し、高度な処理能力と通信機能を持つオフィスとなるように改築を行い、令和4年4月より活用しています。

図-10 スマートオフィス内部
図-10 スマートオフィス内部

 

最先端ミーティングルームの設置

スマートオフィス導入において非常にこだわったのが、このミーティングルームです。
このミーティングルームにインタラクティブボードを導入し、質の高い会議が効率良くできるよう防音機能を完備しています。
また、災害などの発生により電力を失っても、3日間72時間は発電機によって、通常どおりに稼働できる電気設備を別系統にて完備していることが最大の特長です。
こうした取り組みにより、新たなICT技術にも対応でき、さらに緊急時でも対応できるオフィス、つまり危機管理サテライトオフィスとしても対応ができるよう工夫をしています。

 

集中できる個室の設置

3D施工データの作成や点群処理、 BIM/CIMの作成など容量の大きいデータを作成する機会が今後さらに増えることが想定できるため、作成時の負担軽減を図る目的で高性能スペックのパソコンを設置し、今後増えるWeb 会議にも対応した防音設備を完備した、作業に集中できる個室を2部屋、新たに設置しました。
なかなかスポットの当たらないところですし、効果が見えづらいところではありますが、集中できる個室の増設で、技術者の負担軽減、さらには作業効率の向上につながってほしいと考えております。
 
 

当社が進める建設DXまとめ

当社が考え、現在実施している建設DXの内容が図-11の通りです。
取りあえず、いわゆるデジタル化についてはある程度できていますが、問題はこのデジタルデータをどう生かすかということです。
まだまだDXとは言えないため、これらのデータをどう活用するかが非常に重要であると考えています。
とはいえ、正直な話、われわれ規模の建設業における建設DXについて、参考にできる事例がほぼないというのも現状であるため、今後についても常に社会や行政の動向を注視して取り組んでいきたいと思っております。

図-11 当社の考える建設DXのまとめ
図-11 当社の考える建設DXのまとめ

 
 

おわりに

今現在、ICT技術やBIM/CIMなど非常に覚えることが多く、技術者にとってまさに過渡期であり、大きな負担となっていると感じていますが、将来的にこれらの技術の導入により、技術者の負担が少なくなり、ワクワクするような魅力ある建設産業となってほしいと思います。
 
ホームページ
http://www.k-fujimura.co.jp
Instagram
fujimuragumi_joetsu
YouTube
@fujimuragumi_joetsu
 
 
 

株式会社郷土建設藤村組 代表取締役
藤村 英明

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



BIM/CIM原則適用における設計・施工BIM/CIMの留意点
建設コンサルタント・建設会社のBIM/CIMを支援してきたMalmeが見ている原則適用下での留意点や内製化に悩む組織について共有します

2024年7月12日

生産性向上2割を目指すBIM/CIM原則適用

国土交通省は2023年から、BIM/CIM原則適用をスタートしました。
これまでは業務での3次元活用に主眼が置かれてきましたが、今後はプロセス間のデータシェアリングを活用した全体最適化への取り組みが活性化することが期待されます。
 
しかし、原則適用とはいっても、BIM/CIMをフルに活用できるような仕組みやルールが、施設管理者側やベンダーなどで整備途中であるのが現状です。
 
その中で各組織がBIM/CIMを進める上での注意点や、活用できている組織やそうでない組織を、われわれのような外部の組織から見た情報を共有させていただきます。
株式会社Malmeは2021年2月に創業した建設系スタートアップ企業になります。
“ドボクをアップデートする”を合言葉に、BIM/CIMを基盤とした建設DXサービスを提供する会社です。
 
もうすぐ3年を迎えようとする弊社ですが、多くの建設会社および建設コンサルタント様より、BIM/CIM支援サービスを通じて、モデリングサポートのほかにも、内製化支援や講習会の相談を全国から多く相談をいただいているところです。
その中で、BIM/CIMの浸透がうまくいっている組織とうまくいっていない組織の共通点や、BIM/CIMを活用するに当たっての注意点を紹介させていただきます。
 
われわれが着目している当面の課題としては、以下の通りです。
 
【早期に解決すべき問題】

  • BIM/CIMを活用した事業プロセス間連携
  • BIM/CIM技術者の育成

 
これについて、弊社の視点から見えてきている課題や注意点を共有させていただきます。
 
 

BIM/CIMを活用した事業プロセス間連携

Malmeから見たBIM/CIM活用の実態

建設コンサルタント様や建設会社様より設計・施工BIM/CIMのモデリングや活用検討支援、内製化支援をご協力させていただいています。
 
その中で、設計BIM/CIMと施工BIM/CIMでの活用目的は、下記と捉えています。

表-1 設計段階と施工段階のBIM/CIM実態
表-1 設計段階と施工段階のBIM/CIM実態

 

設計段階の実態

設計段階におけるBIM/CIM活用は、原則化前までは、国土交通省案件や先進的
に取り組んでいる都道府県において、大手建設コンサルタントや自主的に取り組む建設コンサルタントが対応するような状況でしたが、現在は地場コンサルまで取り組む組織が多い印象を受けています。
しかし、BIM/CIM原則化とはいっても、設計段階における最終的な成果品は2次元ベースの図面・数量でありBIM/CIM成果品は参考図書となるため、発注者の予算の都合や、プロジェクトメンバーの姿勢などでBIM/CIM活用に至らない事例が多い印象を受けます。
 

  • 予備設計段階では、パラメトリックモデリングや3次元モデルを活用した合意形成が役に立っているが、詳細設計では効果が少ない。
  • 設計検討や図面数量計算など、本来の設計成果では活用できていない。
  • 自動化ツールの活用やうまく設計プロセスに取り入れて効率化に成功しているのは一部の会社のみである。
  • 効率化できたとしても、求められる成果品が2次元図面・数量計算書なので、効率化の効果は小さい。
  • 設計段階で作成したモデルが、施工段階で使えないと言われる事例が多い。
  • 設計成果品が図面となるため、3次元データも活用目的とは無関係に、LODが高くなってしまう事例が多くモデルが細かくなる事例が多い。

 

施工段階の実態

施工段階においては、大手建設会社は積極的に活用(デジタルツインや自動施工、シミュレーションなど)されていますが、大半の建設会社は、3次元モデル活用にあまり価値を感じていない印象を受けます。
一方で、BIM/CIMに対して価値を感じている組織については、発注方式に限らず積極的に3次元データを活用しております。
 
また、施工現場において施工全体を把握する技術者は限られていること、資料作成などに時間を割かれることから、3次元の活用を検討・指示できる人材も時間も足りないのが実態です。
そのため、施工現場において効果的に3次元モデルを活用するには、現場を理解するBIM/CIM専属のチームが必要であり、そのチームを構築できている組織が非常に少ないように感じます。
 

  • 大半の建設会社は、3次元モデル活用に価値を感じていないが、価値を感じている組織は、発注方式に限らず積極的に活用している。
  • 施工時におけるBIM/CIMメリットを享受できる事業者が少ない。
  • 施工時の問題発見につながるため、施工全体としては効率化するが、施工計画時点では作業および検討事項が増えている。
  • CADソフトのみならず、ICTや点群測量などによって、機械損傷の増大に対する効果は少ない。

 

設計―施工間の連携について

ここまでは、個別のプロセスに対する実態を述べましたが、設計―施工間の連携についてはどうでしょうか。
 
従来プロセスでは、設計―施工間の連携方法は、報告書・図面・数量計算書でしたが、BIM/CIMでの連携となると、3次元モデルと属性情報がベースとするような動き(LODやLOI)の整備がありますが、施工段階では設計段階で作成したBIM/CIMモデルが十分に活用されていないのが実態です。
 
設計―施工間のデータ連携がうまくいっていない原因としては、後工程での活用目的が明確になっていないまま、設計成果品が収められていることが大きいといえます。
 
設計段階では、合意形成や図面数量の参考図書としてBIM/CIMが活用されていますが、施工段階ではICT施工や施工計画などで活用されており、活用目的が大きく異なります。
 
図-1の通り、BIM/CIMの普及が進むにつれて、設計データは後工程で使えないといった声が聞こえてきますが、目的が明確になっていないままデータを作成していることが原因であり、目的がないデータが使えないのは当然です。

図-1 不明瞭な活用目的による無意味な3次元データ交換
図-1 不明瞭な活用目的による無意味な3次元データ交換

 
では、事業プロセス間で運用するにはどうすればよいでしょうか。
それは、“施工時における活用目的を、設計段階で決定する”のが効果的だと考えています。
すなわち、設計段階から施工業者を選定し、施工業者が選定した活用目的に必要なデータを設計段階で作成するといったイメージです(ISO19650の観点では、プロジェクトの初期段階において、維持管理フェーズでのデータ活用にも言及することが重要となります)。
 
ただし、上記については発注方式などの改善が必要であるため、設計会社や施工会社が解決できない部分であります。
まずは、最低限活用する3次元データ(線形・土工データ・構造物データ)をJ-landXMLやIFCファイルで確実に引き継ぎ、それらのデータをベースに施工段階でのBIM/CIMデータを作成していくことが重要です。
それさえあれば、作り直しになることはあっても、3次元のベースの材料があるので、後工程にとっては効果的なデータとなります。
 

現時点は各プロセスでやるべきことをやる

BIM/CIMを活用とした生産性向上については、事業全体でプロセスを見直すことが重要ですが、これまで述べたように、事業プロセス全体でBIM/CIMを活用するには、解決すべき課題や技術がまだまだ多いのが実態です。
そのため、現在の業務の中でBIM/CIMをどれだけ活用できるか、組織のワークフローの中に落とし込めるかが重要となります。
 

設計段階でやるべきこと

設計段階で頻発する設計検討や図面作成などの繰り返し作業が多くなるケースにおいては、3次元設計は効果的です。
構造解析から図面出力まで全てのプロセスを 3次元で対応すれば、工種や業務内容にもよりますが、作業の大幅な効率化が期待できます。
 
しかし、現在の設計プロセスは2次元設計がベースであること、業務執行体制(協力会社やCADオペレーター含めて)などを踏まえると、いきなり3次元設計を始めるのは現実的ではありません。
まずは一部のプロセスから始めてみて、組織体制やスキルなどを考慮しながら徐々に3次元でできることを増やしていくのが現実的と考えています。

 

施工段階でやるべきこと

施工段階では、BIM/CIMの活用によって、見えないコストと向き合うことが重要であると考えます。
 
施工段階でのBIM/CIMの活用は、施工計画や出来形管理などで利用される事例を多く見ますが、それらは直接作業効率の向上にはつながりません。
ただし、施工計画モデルを活用することによるコミュニケーションコストの削減やミスの事前防止など、数値には表れないコストが削減できることが期待できます。
 

Autodesk製品はただの図面作成、モデリングソフトではなくなった

世界的な動きとして、ISO19650をベースにOpenBIMに向けた製品開発やルール化が進んでいます。
弊社でもAutodesk製品を利用する機会が多いですが、建設業界全般でもAEC Collectionを利用している組織が多いです。
その中で、「3次元CADソフトは高い!」とよく聞きますが、その理由として、モデリングソフトだけでしか認識できていないことが理由だと考えられます。
Autodesk製品の中身を見ると、点群処理やフォトグラメトリー、3次元ベースの構造解析など、多様な製品がパッケージ化されています。
特に、近年サービス化されたAutodesk Construction Cloud(以下、ACC)についてはISO19650に準拠したクラウドベースのデータ管理サービスとなっており、業務の生産性だけではなく、組織全体に利点をもたらすコンセプトとなっております。
ここまで述べたように、これまでのBIM/CIMの話では3次元モデルを活用することが主たるテーマとして挙げられますが、本来のBIM/CIMの目指す概念として、BIM/CIMデータを核にしたデータドリブンなプロジェクト管理が理想であるため、設計や施工を担う生産チームのみならず、管理・経営チーム全体でのデータマネジメントを検討することが、BIM/CIMを最大限活用する上で効果的な製品の活用方法
であると考えます。
 
ここまでで、設計と施工の現状でのBIM/CIM活用方法および留意点を整理しました。
 
まずは個別のプロセスで、自らの組織に見合った3次元設計や活用を取り組んでいくことが重要です。
 
なお、工種や内容によっては、2次元設計や従来プロセスの方が効率的な場合もありますので、そのあたりは社内の組織ごとに十分な検証が必要でしょう。
 
 

BIM/CIM技術者の育成

次に、2つ目の大きな問題である技術者の育成について述べます。
 
BIM/CIM活用を行うに当たって、3次元CADソフトの活用は必須になるでしょう。
建設コンサルタントや施工会社では、比較的後ろ向きな見方(ソフトウエアの価格や習得)によって導入に踏み切れない企業が多い印象を受けます。
導入に踏み切ったとしても、扱える人材が限られるため、組織内で普及しない状況となるケースが多くみられます。
 
弊社では、モデリングサービスのみならず、BIM/CIM内製化の相談なども多くいただきます。
その中で、内製化がうまくいっている組織とうまくいっていない組織の共通点が見えてきたので、ご紹介させていただきます。

図-2 BIMCIM推進に当たっては課題認識の広さが異なる
図-2 BIMCIM推進に当たっては課題認識の広さが異なる

 

導入が進む会社の共通点

導入が進む会社の共通点は以下の通りです。
 

  • 会社全体の課題として取り組んでいる。
  • BIM/CIMを理解する技術者が若手・中堅で増えている。
  • 技術者である若手もしく中堅技術者が、設計案件におけるBIM/CIMの活用を理解している。
  • BIM/CIM推進室と執行チームとの連携がうまく取れている。
    執行チームだけでは現況の業務と3次元モデル作成と並行することが難しいことを認識しているため、ミニローテーションによる人材配置を適切に実施している。

 
一方で、内製化がうまく進んでいない組織の共通点は以下の通りです。
 
【内製化がうまく進んでいない組織】

  • BIM/CIMを推進する体制になっていない。
    個人に依存している。
    社内技術共有が図られていない。
  • 強力な協力会社(ベテラン技術者)が存在するため、ワークフローを変えなくても困っていない。
  • BIM/CIMの効果が低い分野、2次元設計で最適化されている案件に従事している組織。

 
また、国内では、新卒入社時点でBIM/CIMに親しい技術者がおらず、配属された組織にて設計・施工技術とBIM/CIMを新しい技術として並行して学ばなければなりません。
現況の仕事に加え、3DCADソフトやBIM/CIMの概念を学ぶのは、自身の関心もついてこないとできるものではありません。
 

諸外国の育成事例

諸外国や一部の教育機関では、建築学科や土木学科のカリキュラムにBIMが取り込まれており、卒業する頃にはモデリングスキルと一定のプログラミングスキルが備わっています。
 
欧州や中東では、先進事例として、政府や施設管理者が、BIMの活用目的を定めた上で、デジタルツインによる維持管理
(BIMやGISのモデルを、IOTを活用した施設管理手法)を採用している事例の背景には、教育機関との連携による幅広いBIM技術者の育成が影響しているものだと想定されます。
具体的には、道路トンネル内の異常発生を、CO2排出量で検知し、それをBIMの部材IDや位置情報と紐付けて施設管理する仕組みなどが挙げられます。
維持管理フェーズを見据えると、やはりBIM/CIMをマネジメントする立場として、施設管理者の理解が重要となりますが、官公庁の業務内容やPC環境の実態から、施設管理者によるBIM/CIMの管理を行うことは、ハードルが高い課題と言えます。
BIM/CIMで全体最適化を目指す運用を実施していくには、BIM/CIMに精通した技術者を産学連携で着実に育てていく必要があるといえます。

 

内製化に向けた取り組み

BIM/CIMを活用できるチームの作り方として、下記の4点が重要であると考えます。
 

  • 会社全体で考えること:BIM/CIMを推進することによる評価制度やチームまたは部署の設置。
    チームを設置して一部のチームに委ねるのではなく、組織全体で調整できるリーダーシップが必要。
  • 社内での積極的な情報共有:大手の会社であれば、年間でBIM/CIMに取り組む案件が多いため問題ありませんが、中堅規模となると、年間でBIM/CIM活用をするプロジェクトは、1桁台になることが想定されます。
    個別で対応できるのも、年間2~3件程度と思われるため、情報共有を積極的に行わないと、知見が蓄積されるスピードは遅くなってしまいます。
  • 若手などの個人に委ねるのではなく、チームで取り組むこと。
    新しいことを一人で取り組むには、相応のエネルギーが必要です。
    BIM/CIMに関心のあるメンバーは複数人集める必要があります。
  • モデラーとマネージャーを育てること:前段で述べたように、プロジェクトにおけるBIM/CIM成功のカギは、目的を定めることにあります。
    単純にガイドラインやマニュアルに基づいた3次元モデルを作成するのではなく、設計・施工において効果的なポイントやコストを見据えて、発注者とマネジメントできる人材が必要です。

 

本当に必要なのはBIM/CIMマネージャー

今後、より効果的なBIM/CIM活用をプロジェクトに導入していくには、これまで申しているように、プロジェクトにおける正しい目的設定が重要となります。
 
プロジェクト全体および後工程での活用を見据えて、プロジェクト計画段階から必要なデータや活用効果が高いBIM/CIM活用を協議できる人材が必要となります。
そのためには、社内での事例だけではやはり少ないため、社内外での事例を収集して、業務に生かせるような仕組みが必要であると考えます。
 
弊社でも勉強会の相談を受けておりますが、これまでは初学者向けのモデリング勉強会に関する需要が多かったのですが、2023年度は中級者向けの講習会や活用や留意点にフォーカスした講習会が増えてきているように感じます。

 
 

さいごに

以上、設計―施工間のBIM/CIMの実態から、組織内製化の共通点について述べさせていただきました。
 
BIM/CIMの理想を達成するために、業界が一体となって取り組んでいるところであり、それは諸外国も同じ状況であると言えます。
土木業界の全体最適化に向けたBIM/CIM活用を実現するには、業界全体で取り組んでいくべき課題が多く残されていますが、会社・チームからやれることは多く存在します。
 
弊社も、これまで蓄積してきた知見を生かし、分かりやすく、そして業界がもっとおもしろくなるように、建設業界を支援できる企業と評価いただけるよう、先進的な取り組みを行っていきたい組織から、これからBIM/CIMを推進したい組織まで幅広くサポートしていきますので、モデリングから組織解決まで困りごとがありましたら、ご相談ください。
 
 
 

株式会社Malme
野田 敏雄

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



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