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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

中堅ゼネコンにおけるBIM推進正確に自動化されたシステムがBIM省力化のパートナーに

2024年8月27日

共立建設株式会社は、1956年、公衆電気通信事業を担う電電公社の外郭団体である電気通信共済会の職員宿舎建設・保守・運営事業を請け負う建設会社として誕生。
 
職員宿舎以外に基地局をはじめ電話局舎・庁舎・保養所・病院・集合住宅まで領域を広げている。
 
今回は、より正確でスムーズな工程管理で建設現場の効率化を目指す同社「i-Construction」の取り組みにおけるBIMへの対応について、i-コンストラクション推進室でBIM活用を担う伊東瑠那・課長代理に訊いた。
 
 

現場での打合せにBIMモデルを活用

共立建設株式会社のBIM導入の歴史は、2015(平成27)年、当時の技術部による日本製BIMソフトウエアの使用開始に始まる。
このとき唯一「Archicad」を使える人材だったのが伊東瑠那氏だ。
当時は社内のBIM認知がある程度向上したものの操作性の面では課題があった。
その後、より効果的なBIMの活用を目指した取り組みが継続して行われ、i-コンストラクション推進室の活動につながる。
 
現在は、人員や時間が限られる現場でのBIMモデル作成は行わず、伊東氏が作成して提供し、現場の打合せなどで活用するスタイルを基本としている。
当然ながらBIMの効果は2D図面では表現しきれない内容を分かりやすく立体化することで、設計者と現場はもちろん施主とも完成イメージを共有しやすくなる点にある。
だからこそ伊東氏は「3Dモデルを見ながら打合せを行うだけでも違いが分かるはずなので、そこから現場の担当者が『自分でもやってみたいな』と関心を持ってくれればいいなと思います」と期待する。
一般的に「デスクで腰を据えて建設工事の勉強をしたかったが、現場でずっと作業していては勉強ができない」という思いを抱えている若手社員は多い。
そうした層がBIMを知ることで「自分が現場で学んできたことが、果たして建築の基準に則っているのか確かめたい」というモチベーションになれば、人材の質的向上にも期待できる。
 
 

モデル作成の効率を上げる「BI Structure」

BIM活用を主導する伊東氏の具体的な作業は、受注が決まって図面が来た段階でBIMモデルの作成を開始し、基礎周りの配筋検討と仮設の山留め計画など考えられるモデルを順次、作成していくことにある。
 
「『BI Structure』で入力するのがスタートとなっています。例えば、かぶり厚だけ図面で確認し入力しておけば、勝手に段取り筋まで組み上げてくれて、必ず基準を満たすモデルができます」と伊東氏。
それだけ高い信頼を寄せる「BI Structure」とは、部材配置を行いながら3Dモデルを作成できる「BI for Archicad」内専用の構造モデル作成ツールで、株式会社U’sFactoryが開発・販売する。
 
伊東氏の作業を劇的に変えたのは、その画期的な操作性である。
「配筋検討には時間がかかると言われていますが、『BI Structure』を使うことでBIMモデルの作成が圧倒的にスムーズに、しかも大幅な省力化と時間短縮ができました。これまでは自分が今どの部分の鉄筋を扱っているのか分かりにくかったのですが、例えば2段目の何本目を触っていると把握しながら作業でき、確認と指示操作するだけですぐモデルに反映されます」。
 
i-コンストラクション推進室には現在6名が在籍するが、他の現場支援ソフトも使われていて担当が分かれるため、BIMを進めるのは伊東氏を含め2名(内1名は設備)のみだ(取材時)。
同社全支店をトータルすると年間約30物件が動くので、当然のことながら業務の大幅な省力化や効率化が実現できなければ、とても業務をこなすことはできず、BIM推進も絵に描いた餅で終わってしまう。
配筋検討を行わない場合や躯体の数量検討をしない案件など、外注も適宜行っているが、後述する構造計算データの入力などは、構造計算をある程度理解していないと行えないため自力による作業が中心となる。

 
 

鉄筋専門工の技術を再現する正確性

これまで人間が行っていた面倒な作業が自動化されるメリットも大きい。
「設計変更があった場合は、コンクリートの位置がずれてしまいますが、このとき、コンクリートが動いた箇所を自分で探して鉄筋を動かすとミスが生じてかねません。『BI Structure』では、どのコンクリートから鉄筋が発生しているか全て紐付いていますので、コンクリートの始点と終点に合わせて鉄筋の始点と終点が違う箇所をボタン一つで検索できます。また、同一径だと鉄筋を1本につなげてくれるので、ずれの見落としもありません。これを人間が行うと個人差も生じますしミスの可能性に常に悩まされますが、(鉄筋コンクリート造)配筋指針通りにさえ正しく入力すればコンピュータが行うので間違いがないです」。
ちなみに「BI Structure」には最低限の指針が網羅されているので、現場ごとの状況に合わせて必要な指針の入力だけでよい。
 
伊東氏が“間違いがない”と言い切る正確性は、鉄筋専門工がそのノウハウをもって頭脳をフル回転させて行っていた、言わば目に見えないプログラムコードを書くような作業が、実際にロジカルなプログラムで再現されているからと言えよう。
 
同様に干渉チェックも人間が行う作業に影響を与えそうだ。
伊東氏は「BIMモデルチェックソフトを使うと5~10mm当たっても検知されて多数のチェックリストが挙がってきますが、実際の現場にはほとんど関係ありません。実際の現場ではミリ単位の配筋は難しく、例えば主筋と主筋の間に何本通るかが分かればいいのです。
『BI Structure』はその判断を数字でコントロールし、指定すれば鉄筋を通す位置を示してくれるので干渉チェックも任せられます」と語る。
 
ときに数十人規模で行われる干渉チェック確認会も見かけるが、今後はそのための時間とコストも見直しが図られるかもしれない。
「BI Structure」によるモデルを参考に、鉄筋をかわすための調整を該当する現場の数名で話し合えば解決することになるからだ。
これだけでも相当の業務時間削減や省力化を実現できる。
 
ほとんどの鉄筋施工図ソフトは、フックの位置や継ぐ位置などを大まかな段階で留めている。
これは、あまり詳細にするとデータ量が大きく、重くなるからだが、「BI Structure」は「鉄筋だから全部組み上げるのが当たり前」という思想で、まさに鉄筋専門工が行う精緻な作業まで想定して開発されている。
「以前は鉄筋検討を行う場合、1本1本組み立てていましたが、『BI Structure』を使うと本当に一部分だけの作業で全て行えます。しかも最上階まで作りましたが、データは本当に軽かったです。最初の入力さえ間違わなければ正確なモデルができます」と伊東氏。
そうした正確性が、高い信頼を生み出している。

 
 

手間のかかる構造データ入力作業

構造計算データは提供されるのが当然のように思われているが、実際は提供されない場合の方が多い。
伊東氏は「提供されるまで待つ時間や他者が作業した入力データにある誤りをチェックする手間を考えたら、私が入力した方が速いのです。結局チェックが欠かせないのであれば、自分で入力した方が情報の正確性の担保が取れるので進行してしまいます」と語る。
 
また、BIMを導入すれば作業が簡素化されるという誤解もまだあるが、2次元の構造図からExcelへの入力作業は、相当な労力を要していた。
伊東氏は、その状況を次のように語る。
「構造図のリストを見ながら入力すると自分が今、建物全体のどの階のどの部位を入力しているのか分からず、迷子のような気持ちになってしまうのがストレスでした。また、断面寸法や上端筋などの数値、あるいは鉄筋の本数、通り芯ごとに符号が異なる場合など、一度数字を頭に入れてから入力先を探して入力する煩わしさを常に感じていました。階数によって数字が異なれば1階から最上階まで全て入力しなければならず、どの階を入力したかが分かるように紙へ出力してマーカーで色分けするなど多くの労力を費やしていました」。
 
こうした入力の手間には、1週間程度はかかっていた。
もちろん入力の誤りがないようチェックもしなければならず、物件によっては300行という膨大な入力作業を行うケースもあり、相当な負担となっていた。
 
 

入力作業を大幅に省力化&効率化

多くの時間を占めていた入力作業から伊東氏を解放したのは、同じくU’sFactoryから2023年に発売された「AI Structure」である。
「このソフトを使い始めてから、1週間かかっていた入力作業が15~20分で終わるようになりました。しかもマニュアルすら不要の簡単さでした」と伊東氏は笑顔でその効果を伝えた。
 
「AI Structure」は構造部材リスト図をまず登録し、基礎梁や大梁、柱などがそれぞれ何ページにあるかを登録すれば、直ちにAIが解析し始めて20分弱で入力が完了する。
ラベル表示もあるので作業もスムーズだ。
万が一、読み漏れがある場合はカラー表示で知らせてくれるので、そこだけ手入力すればよい。
その後「BI Structure」へのインポートが可能になっていて、BIMモデルの作成が始められる。
少数精鋭で業務をこなす共立建設にとって、これだけの省力化の実現は非常に重要な要素だ。
また、注目すべきはそのインターフェイスで、紙の帳票で行うのと同じ感覚でオペレーションができる。
同タイプの製品で、いきなり最終画面を出すシステムも見られるが、それでは何が抜け落ちたかは分からないし、そもそもどのデータから抽出されたのかも理解できない。

 
 

おわりに

Archicadのデータをそのまま使って見積書を短時間で作成できる「BI For ARCHICAD」を伊東氏が知ったのが2018年。
このとき以来、U’sFactoryから「BI Structure」「AI Structure」の提供を受けつつ、改善ポイントの要求を送り対応してもらう関係が続いている。
毎日のように更新が行われるU’sFactory社製品は、1週間アクセスしないとそのバージョンアップに頭が追いつけないほどだが、そこに魅力を感じてもいる。
 
現場におけるBIM活用を広げるために、共立建設i-コンストラクション推進室でBIMモデルを作り続ける伊東氏は、誰よりもその効果を知る人の一人でもある。
 
「現場が大事だと言われますが、BIMモデルを作っていても現場の勉強はできるのです。現場経験だけではBIMは扱えないので、むしろ知識量では上回っているのかもしれないとも思います。建築基準法もよく見ますし、配筋指針を見ないと配筋を設定できません。現場に出ていれば分かることも、現場に出なくても自分で調べています。BIMモデルで建築物を一から建てているので、現場に必要な理解はできていると思っています」。
BIMの素晴らしさをこれほど実感している伊東氏は、BIMのより効果的な活用を進めるのに最適な存在だと言えるだろう。

 
 
共立建設株式会社
所在地: 東京都渋谷区
創業:1956年8月
資本金:10億円
事業内容: 建設、土木ならびに附帯設備工事、建築物および附帯設備の修繕・保守ほか
https://www.kyoritsu-con.co.jp/
 
 
 

共立建設株式会社

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



BIMを超えた建設DXの実現とデジタルデータの標準化

2024年8月26日

BIMとDXの関係

建設データの標準化とプロセス改革

当社では標準化された建設データの構築およびプロセス変革を実現するために、BIMの推進を行っている。
 
建設データの標準化とは、プロジェクトで発生するデータをマスター化されたデータベース構造にすることに他ならない。
BIMはマスター化されたデータベースを構築することを主眼においた場合、最も優位性のあるプラットフォームであるといえる。
 
当社では2017年よりBIMツールをRevitで統一し、デジタルデータからものづくりをする「作るBIM」、作成したデータを次工程に連携し、施工計画に使う「使うBIM」として日々拡大をしている。
これらデジタルデータを「使う」には、共通のルールにのっとって入力する“標準化された建設データ”が必要である。
 
なお、”標準化”は”詳細化”とは異なることを先にお伝えしておく。
設計段階から詳細度を高めた重いデータを作成しようとすると、特にBIM導入期に生産性を落としてしまう。
当社では導入期の施策として、部門に合わせたBIM標準の整備と教育、または作業性を上げる便利ツール開発を行い、大幅に生産性を落とすことなくBIM活用期へ進めてきた(図-1)。

図-1 BIM導入期と活用期の生産
図-1 BIM導入期と活用期の生産

 

当社のデジタル戦略

当社のデジタル戦略を表すメビウスループを紹介する。
設計BIMから始まり、施工・製造・維持管理とデータをつなぎ、共通データ環境であるCDEでデータを管理。
デジタルなモノづくり(デジタルコンストラクション)へつなぎ自動設計・自動施工へ進める。
 
これらのデータをBIMへフィードバックし、循環させていく。
この「BIM」と「デジタルコンストラクション」の両輪で当社は建設DXへ向かっている(図-2)。

図-2 建設プロセスにおけるデジタル戦略のメビウスループ
図-2 建設プロセスにおけるデジタル戦略のメビウスループ

 

「守りのDX」と「攻めのDX」の両立

「2024年問題」、将来的な人員の不足など、建築業界で解決すべき多くの課題がある。
当社ではこれらの課題解決策の一つとしてDXを重視しており、「守りのDX」と「攻めのDX」を両立することを目指している(図-4)。
 
「守りのDX」は社内の業務効率化・標準化と位置付けている。
BIMにおいてはすでに全関係者が標準ルールに準拠した中でBIMを活用し、作図時間や確認作業の短縮を図っている。
 
現在、蓄積されたデジタル情報を活用して収益向上やサプライチェーンの向上などに結び付ける「攻めのDX」にも取り組んでいる。
 
攻めに転じるためのデジタルデータの連携には利活用する仕組みに適した属性情報の格納や現実に即した形状情報の担保が必要であり、それらの情報を手入力だけで行うことはかえって設計者への負荷になってしまう(図-3)。
 
「利活用するためにモデルを作る」という考えだけでなく、設計作業の延長でスムーズに利活用できる情報の器を整備し、連携の仕組みを構築することが重要なポイントであり、当社は川上の業務効率化を前提にツール開発を行っている。
川上から川下まで利活用できるモデルを作ることと、利活用範囲を広げることで「攻めのDX」を実現していく。

図-3 設計モデル≠利活用できるモデル
図-3 設計モデル≠利活用できるモデル
図-4 「守りのDX」と「攻めのDX」の両立
図-4 「守りのDX」と「攻めのDX」の両立

 

データの一元管理

デジタル戦術のメビウスループの中心に据えているCDE環境について、データ保管場所として当社では適切な場所に適切なアクセス権限を有した者がデータを共有し管理するために、「BIM360」を採用し、BIMをはじめとした各種データの一元管理を行っている。
 
さらに2021年からはBIM360の承認機能を強化しデータを「いつ」「だれが」「なにを」「何の目的で」、承認したかを管理する仕組みとして当社独自の機能を付加した「BIM360Extension」(以下、Ext)の運用を開始した。
Extは「守りのDX」に位置付けられ、「攻めのDX」を下支えする仕組みとして展開を進めている。
従来業務に潜在していたリスクの排除や業務時間の削減、セキュリティー強化も同時に実現している。
 
Extは確実にデジタルエビデンスを残し、後工程に正しいデータを共有するために当社にとって不可欠となっている。
適切なデータ提供、データ交換の礎を盤石とするためISO19650の認証取得を行っている。
 

当社のISO19650認定取得状況

ISO19650とは、BIMを使用して構築された資産のライフサイクル全体にわたって情報管理を行うための国際規格であり、デジタルデータ管理の仕方が世界標準として明確化されている。
ISO19650で定義されているものを簡単にまとめると、以下の3つとなる。
 
①施主要求事項と受託組織の実行計画
②情報生産の5W1H
③情報納品の5W1H

 
上記それぞれに含まれるべき事項と、実際に情報交換をした記録が残っていることが定義されている。
 
このISO19650の認証を取得することで、国際規格レベルで自社のBIMが正しく運用できていることを証明し、改善していくための道しるべとなる。
当社がISO19650の認証取得へ取り組む理由も当社の目指す「攻めと守りのDX」の実現とお客さまを含めた情報マネジメント体制を整えていくためには取得が必要と判断したためである(図-5)。
 
当社の現在までの認証取得状況は、2020年度にISO19650-1&2の認証を日本で初めて取得して以降、毎年認証を継続している。
2022年度にはプロジェクト関係者間の情報セキュリティーに関するISO19650-5についても日本で認証が可能になったことから既存認証に加え、追加取得した。
3年連続で認証取得を継続する中で新たな知見を得ることができ、BIM実施体制をより盤石なものへと強化している(図-6)。

図-5 ISO19650の活用
図-5 ISO19650の活用
図-6 ISO19650の取得ステップアップ
図-6 ISO19650の取得ステップアップ

 
 

設計部門

デジタルデータ標準化の取り組み

設計部門では意匠・構造・設備BIMを統合し、見積り・工場・工事などへBIMデータを連携してその部門で必要な情報を付加して活用している(図-7)。
 
BIMは建設業界の中でも市民権を得つつあるが、BIMデータの活用に関してはさまざまな解釈や方策が生まれており、今後のデジタルジャーニーはますます分かりづらくなっている。
社内の経営層にも理解できる伝え方や現場の人にも新たなチャレンジを進めてもらう分かりやすいビジョンが必要である。
 
そこで、どのようにしてBIMのプラットフォームをよりシンプルでクリアにできるかを「つくる」「ためる」「活用する」の3つのキーワードで定義した。
BIMを作るだけでなく、どのようにためて、どのように使うかまで見据え、BIM標準化のフェーズへと挑戦を進めている。
 

BIMの標準化

BIMの標準化を説明するため、ここでは構造部門の鉄骨梁の情報を例に挙げる。
鉄骨梁の情報を属性情報と位置情報に分けたとき、構造部門に必要な情報は図-7の左に記載しているパラメータがあれば定義することが可能である。
ただし、部門連携する際は図-7右に記載しているように部門ごとに必要とする情報が別に必要となる。
現状では、当社の構造BIMを各部門へ連携後、部門ごとに構造BIMデータを適宜加工して使用している(図-8)。

図-7 鉄骨梁の情報
図-7 鉄骨梁の情報
図-8 建築系BIMの連携フロー
図-8 建築系BIMの連携フロー

 
「構造BIMのココに情報がこう入っていれば、こういった結果を返す」というマスターやマッピングを組んでいるが、構造BIMの仕様が少しでも変わると情報が紐付かなくなるため各部門マスターも変更が必要となる。
また、対応に時間と人手がかかり、既存の仕様との共存も難しくなる。
そのため「連携する情報とは何か」が定義できたら、次はそれらの扱い方が必要となり、各部門間で部門連携が定着すれば「情報の扱い方」が定まってくる。
部門ごとの「情報の扱い方」を合体すればデータの統合管理(情報マネジメント)は可能である。
 
つまり、BIM普及後の次のステップとしてBIMデータを活用するための「情報マネジメント」体制を整えることが標準化への道筋となる。
BIMに情報マネジメントが合わさることで「BIMの標準化」が実現できる。
 
この情報マネジメントは、次に示す5つの要素で構成される。
 
① BIM監視:BIM品質を一定化する
② コード化:BIMの部品構成の定義化
③ データ加工:マスタ化、ロジック化
④ データベース化:データを蓄積する
⑤ BI化:データを分析、可視化する

BIMの標準化
BIMの標準化2

 
この5つの要素をそれぞれ構築し実務で使用可能とすれば、BIMの標準化が達成できると考える。
 
当社では、この情報マネジメント体制を「つくる」「ためる」「活用する」システムと同義と考え、BIMをキーとして各部門が必要とする情報の形へ加工、可視化しようとしている。

 
BIMをルービックキューブ(マス=情報、色=部門)に例えてみると、各部門が欲しい情報を整えようとすると非常に苦労する(図-9)。
情報マネジメントは各部門が欲しいタイミングで欲しい色に組み替えて表示するプロセスを定義・自動化するイメージである。
 
ここで、構造部門の実現例として情報マネジメントを構成する1つ目の要素である
「①BIM監視:BIM品質を一定化する」を紹介する。
BIMでは2017年のスタート以降、年次ごとに品質改善の取り組みを行い、2020年には商業施設、事業施設の設計におけるBIM実施率100%を達成した。
次ステップとしてルービックキューブの中の「マス」を埋めるため、構造BIM情報の品質を連携前にチェックし各部門に対して一定以上の品質を担保するため構造BIMの精度レポート運用を始めた(図-10左)。
本取り組みにより、連携先による構造BIMの精度評価が35%から95%へ向上した(図-10)。
 
精度品質は常に同じ品質であることが重要であり、連携先が活用できる構造化データをそろえることがBIM品質の一定化といえる。
 
ここで、この精度確認を設計者の手作業で行っていては現状より負担が増加してしまうため、当社では自動モデルチェックツールを開発し、自動でBIMを点数化できるようにした(図-11)。
建物の特徴はそれぞれ異なるため、レポートの点数は決して100点満点でなくてもよい。
重要なことは、モデルのどこに注意すべきか申し送り事項を伝え担当者間のコミュニケーションを促すことにある。
 
BIMを標準化することは、全社DX実現への足がかりとなると考えている。
デジタルデータをBIMソフトの中で扱うだけでなくデータベース化し、プラットフォーム化することでさまざまなデータ活用の道を開いていくことができる(図-12)。

図-9 BIMをルービックキューブで表現
図-9 BIMをルービックキューブで表現
図-10 部門連携における構造BIMの品質向上の取り組み
図-10 部門連携における構造BIMの品質向上の取り組み
図-11 自動モデルチェックツールの開発
図-11 自動モデルチェックツールの開発
図-12 情報マネジメントを踏まえたプラットフォーム
図-12 情報マネジメントを踏まえたプラットフォーム

 
 

施工部門

施工のデジタル化

設計から始まる「つくる」「ためる」「活用する」デジタルデータは、施工部門においても同様に適用される。
 
図-13は当社施工部門がDXに向かうためのデジタル情報の関連性を表現している。
白い矢印であるDXを実現するにはデジタルデータが必要なことは明白である。
しかしながら、特に施工管理においては 有象無象の紙ファイルがあり、その整理に右往左往させられている現状がある。
まずはデジタルシフトを巻き起こす際のデジタルアレルギーを抑え、分かりやすい効果を示す必要がある。
その観点ではペーパーレスは効果的なアプローチであるといえるが、単にデジタルファイルにするだけではその先のDXにつながるデジタルデータにはならない。
デジタルジャーニーの実現にはデジタルデータこそが重要である。

図-13 コンストラクションデータの基本コンセプト
図-13 コンストラクションデータの基本コンセプト

 
初期段階ではデジタルシフトはブレークスルーの第一歩である。
しかし、デジタルシフトとデジタルデータの間には大きな壁があり、デジタルファイル化はDXにつながらない。
デジタルデータをどう集めていくかのみがデジタルジャーニーを成功させるポイントである。
 
ここでは「つくる」「ためる」「活用する」の3原則を現場巡視の「Autodesk Build」活用例で紹介する。
 
「つくる」に関して、現場巡視をする場合、従来はあらかじめ図面をPDF変換しExcel巡視シートを準備する必要があり多くの時間を浪費していたが、「Autodesk Build」では必要なデータは既にDocsの中で管理されている。
そのデータにモバイルデバイスからアクセスするだけで現場巡視に必要な情報を取得できる。
指摘事項は図面上の地点をタップして追加し、現場写真を撮影し、担当業者、期日、ステータスなどをその場で入力する。
これら全ての情報は「Autodesk Build」内で関連付けられ一元管理されている。
従来のように現場巡視の後に、Excelシートに整理する作業も必要ない。
これらのデータはクラウド上で管理されているため、現場事務所、オフィス、外出先であっても最新の正しい情報で打合せを行い、その場で出た指示伝達事項があれば追加して、すぐに関係者と情報共有することができる。
 
レポート書出機能を利用すれば、図面、図面上の位置、指摘内容、ステータス、写真といった情報が一括で書き出すことができ、専門工事業者への作業指示、作業報告として活用することも可能である。
さらに「Autodesk Construction Cloud」(以下、ACC)(図-14)を使用することでデータが蓄積され、ダッシュボードで視覚化して活用することができる。
未達事項の数、期限超過、担当業者ごとといった情報をプロジェクト全体に確認することも可能である。
 
続いて「ためる」に関しては、先述したCDE同様に設計のコンストラクションデータもACCにためている。
設計のエンジニアリングデータと施工のコンストラクションデータが同じ環境に蓄積されていることが重要である。
 
「活用する」については、データを集めることにより、未達事項の割合、問題発生件数の多い原因を見つけたり、プロジェクトタイプごとの傾向を判断したりすることができる。
 
また、直接ダッシュボードから該当する「Autodesk Build」の指摘事項に飛び、作業を継続することも可能となる(図-15)。
つくり、集めたデータは「見える化」の先に「分析、予測、対策」といった本社部門から工事現場にデータの効果を還元することができるようになる。
重要なことは明確な視点を持ち、デジタルジャーニーの中で「その部分最適のデジタル化は有効か、それは次につながるデータか」ということを判断することにある。

図-14 ACCダッシュボード
図-14 ACCダッシュボード
図-15 ACCによる複数ツールデータの集約
図-15 ACCによる複数ツールデータの集約

 

注釈
Autodesk Build:現場施工とプロジェクト管理の施工管理ソフトウエア
Autodesk Construction Cloud:建設業者向けの幅広く、奥深い、業務に関連したツールのセットを提供する包括的な現場管理およびプロジェクト管理ソフトウエア
Docs:Autodesk Construction Cloudでドキュメントを管理できるクラウドベースの共通データ環境

 

BIM活用の拡がり

「つくる」「ためる」「活用する」プラットフォームとデジタルデータ標準化の整備を進めることで今後さらなるデータ活用へ挑戦することができる。
 
データ活用の事例を2つ紹介する。
 
1つ目の事例は建材データベース(以下、建材DB)の活用である。
当社はメーカー横断の総合Webカタログである「truss」を建材DBとして採用し、BIMとインタラクティブに連携可能な建材DBがあることにより循環型のワークフローの構築と+αのメリットが出てきている。
環境配慮設計を例として紹介する。
 
当社としては中期経営計画で2030年度には、バリューチェーン全体で2015年度比40%以上のCO2の削減に加え、国内ではZEB・ZEH率100%を目指すとともに、原則全ての新築する建物の屋根上に太陽光発電システムを設置し、再生可能エネルギーの普及拡大に貢献する計画としている。
 
この中のZEB率100%に向けて現状設計部門はBEI計算手法を原則標準入力法で行い、ZEB率を向上させているが、設計者へ負荷がかかる。
 
BIMを建材DBと連携することでBEI計算に必要な情報がデータとしてしかるべき器にしかるべき形で自動入力されるため、標準入力法による計算結果をスピーディーに取得することができる。
ケーススタディーにも活用でき、提案の質も向上している。
さらにはコスト情報と紐付けることにより、コストと環境配慮を見える化し、顧客への提案の質も向上させている(図-16)。
 
2つ目の事例は超概算システムである。
初期計画段階では建築計画粒度の粗い状態から事業計画を立てるためのコストを算出しなければならない。
そのような業務を効率化および平準化すべく、当社の過去のBIMやシステムに登録されたデジタルデータを活用し、工種別になっている見積り項目をAIにより部位別に分類し、粒度の粗い計画段階でも過去データを活用し仕様などの調整を容易にした概算算出を可能にした。

図-16 建材DB+BIMで実現する将来像
図-16 建材DB+BIMで実現する将来像

 

まとめ

ここまで、BIMの先にあるものを定義してきたが、当社がこの視座に立つことができたのは、2017年からBIM全社導入を合言葉に日々自分事として旗を振る経営層とそれを実行した技術者集団、建設プロセスに革命を起こす使命を持ったDX推進集団の三位一体のたまものである。
新しいプロセスを定着するにはこの三位一体も重要なカギとなる。
 
前述した建材DB、超概算見積や3D設計・施工レビューによる業務効率化を推進しており、最終的にはグループ企業を含んだ集中購買の取り組みへと接続し、全ての建設プロセスおける革命とバリューチェーンで社会貢献を図っていく(図-17)。

図-17 建築系BIM活用の広がり
図-17 建築系BIM活用の広がり

 
 
 

大和ハウス工業株式会社 技術統括本部建設DX推進部 次長
宮内 尊彰

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



生成AIによる建築デザインの可能性 建築設計アシストAIツール「AiCorb」の開発を通して

2024年8月19日

はじめに

建築設計の初期段階では、設計者は複数のデザイン案を用意した上で発注者との合意形成の場に臨むのが一般的である。
発注者はこの合意形成を通して自身の要望を明確化しながら、理想の形に近づけることができる。
これは発注者にとっては望ましい状況であるのに対し、設計者にとっては望ましい合意形成の在り方にならないケースもある。
設計者は、合意形成を円滑に進めるために、合意形成の場で提示する設計案以上にさまざまなパターンを検討する必要がある。
また、合意形成の場で提示した複数のデザイン案のうち選ばれるのは多くて2つであり、次の合意形成の場では発注者から選ばれたデザイン案をベースにしたバリエーションを提示する、というプロセスを繰り返す。
用意した提案が採用されず、別の切り口でデザインを検討し直すということも少なくない。
 
建築設計初期段階における合意形成は、このように発注者が求めるデザインの探索が目的であり、最終的に採用する設計方針が見つかるまでは非常にやり直しの多いプロセスである。
当然のことながらこのプロセスには時間の制約がある上、設計のやり直しやバリエーションの作成は非常に時間を要する。
結果として、求められる要求に対し、考えられる時間が少ないというアンバランスな関係となっている。
 
大林組では上記のような課題の解決に向け、建築設計業務をアシストするAI「AiCorb」の開発に2018年から取り組んでいる(図-1)。
本プロジェクトでは、探索できるデザインの幅や深さを広げるために生成AIの活用を検討している。
ここでは、AiCorbの紹介と、建築設計における生成AI活用の課題・展望について述べる。

図-1 AiCorbで生成したファサードデザイン案
図-1 AiCorbで生成したファサードデザイン案

 
 

設計業務における生成AIへの期待

設計業務の分類

設計にはさまざまな段階があり、大きく分けると概念設計・基本設計・実施設計に分類できる。
概念設計では敷地条件などを満たす範囲で、いくつかの設計案を素早く検討し、施主の要求に応える案を提案することが優先される。
ここでは大まかな建物形状、間取り、外観のデザインが要求される。
これに対して、基本設計以降では設計案を一つに絞り込んだ上で徐々に各要素を具体化し、仕様を確定しながら細部の検討へと移る。
また、建築法規や構法、各種製品への知見が重要となり、これらを参照しながら設計案を最終的に施工できる形まで具体化していく。
 

建築設計における生成AI利用の現状

2022年を境に生成AIの利用は急速に一般化し始めており、今では話題にならない日はないほどである。
チャット形式でAIと対話できるChatGPTやテキスト入力に沿った画像を生成できるMidjourneyなどさまざまなサービスが既に提供されており、建築設計でもファサードデザインや設計コンセプトの検討のほか、建築パース作成の補助ツールなどへの応用が進んでいる。
 

現在の生成AIの課題

急激な成長を遂げている生成AIではあるが、現状ではまだ概念設計までの段階が適していると思われる。
その理由として、今のAIはまだ具体的な寸法や形状の扱いに課題があり、さまざまな条件を考慮する必要がある基本設計以降では適用が難しいことが多いことが挙げられる。
また、説明性の面でもまだ課題がある。
ChatGPTをはじめとするLLM(Large Language Models)は会話形式の学習をしているため、説明を求めれば回答として説明文が得られる。
問いの投げかけ方にもよるが理論立てた正確な回答が得られることも多く、一見すればAIが説明性を獲得としたとも解釈できる。
しかしながら、実際のふるまいとしては問いに続くもっともらしい説明文を生成しているに過ぎず、どのような前提知識があり、何の情報を参照した上でその回答が得られたかを正確に把握することは難しい。
 

本プロジェクトにおける生成AI利用

これらの課題は、業務への生成AIの組み込み方によってその影響が大きく変わってくるため、一概に基本設計以降で生成
AIの利用ができないということではない。
また、現状の生成AIでも命令の仕方により得たい回答に近づけることもできるため、今後もさまざまな作業への応用提案が続くと思われる。
 
本プロジェクトではこれまでに述べてきた技術的課題なども考慮した上で、以下の2つの実現に生成AIを活用することが有効であると考えた。
 
①設計者が探索できるデザインの幅と深さを広げる手助け
②合意形成において発注者が言語化できていないデザインの要望を明らかにする手助け

 
上記から、AiCorbを設計者をアシストするツールとして位置付けている。
 
 

建築設計アシストAI「AiCorb」

開発の経緯

大林組は2017年にシリコンバレーにオープンイノベーションを活性化することを目的とした新拠点Obayashi SVVL( Silicon Valley Ventures and Laboratory)を創設し、Obayashi Challengeと称したイベントを実施した
(写真-1)。

写真-1 開発着手前のワークショップ
写真-1 開発着手前のワークショップ

ここでは建設業が解決すべき課題に対して現地スタートアップなどからソリューションを募集し、「AIを活用した自動設計」という課題に対して選ばれたのが本プロジェクトである。
大林組とシリコンバレーを拠点とする研究機関SRI Internationalとの共同開発としてスタートし、実現可能性の検証が終わった段階で建築設計向けWebプラットフォームを提供しているHyparも加わり、3社で共同開発に取り組んできた。
2018年の開発着手時点では生成AIという言葉もなく、「AIは創造性を持つのか」というのが最初の問いであった。
そこで、図-2のような完成形のモックアップを最初に作成しメンバー間で目標を共有した上で、研究開発をスタートした。

図-2 開発着手時に作成したモックアップ
図-2 開発着手時に作成したモックアップ

 

AiCorbの使い方

本プロジェクトでは、AiCorbと名付けた建築設計アシストAIツールを開発している。
AiCorbは2つのAIで構成されており、それぞれファサードデザイン案の検討とそのデザイン案の3Dモデル化する補助を行う。
 
図-3にAiCorbを利用する場合のワークフローを示す。

図-3 AiCorb利用時のワークフロー
図-3 AiCorb利用時のワークフロー

現在構築しているAiCorbを取り入れた設計業務としては、顧客からの要望を受けた後、まずHyparでボリュームスタディーを行う。
これが完了したのち、AiCorbを利用してファサードデザインを検討する。
これを補助するAI(Designer AI)では、スケッチでデザインのベースとなる形状的特徴を指示し、さらにテキストで作風や仕上げなどを指示することで、瞬時にさまざまなファサードデザイン案を生成できる。
図-4にさまざまスケッチ・建物用途に対する生成結果を示す。
意図したデザイン案が得られたところで、3Dモデル化を補助するAI(Modeler AI)で、そのデザインの窓の大きさや配置などの特徴を読み取り、Hypar上のボリュームモデルのファサードに反映する。
これにより、設計者は画像のみではなく3Dモデルとしても設計案を提示できるようになる(図-5)。

図-4 さまざまなスケッチ・建物用途に対する生成バリエーション
図-4 さまざまなスケッチ・建物用途に対する生成バリエーション
図-5 入力画像のファサード特徴を3Dモデルに反映するAIの結果例
図-5 入力画像のファサード特徴を3Dモデルに反映するAIの結果例

 

AiCorbに期待する効果

以上のようなプロセスにより、設計者は効率よくさまざまな案を可視化しながら検証することができ、発注者側も具体的な形として設計案を確認できるようになるため、従来よりも早期に発注者の具体的な要望を引き出すことができる。
これにより、従来ではやり直しにかけていた時間を最終案のブラッシュアップのためのデザイン作業に利用できるようになり、品質の高い設計案の提案につながると考えている。
 
また、多くの生成AIは画像生成までを対象としているが、AiCorbではBIMデータ化までを対象としている。
BIMデータには各部材の具体的な寸法や材質などの情報を付与することができるため、これを利用した各種性能評価などの活用も視野に入れている。
 
 

実用に向けた課題と今後の展望

建築設計利用における生成AIの課題

生成AIは急速な発展を遂げており、今後も継続的な性能向上が実現されていくことが予想される。
しかしながら、汎用的な目的で学習された生成AIでは、建築設計における微細なニュアンスを伝えるのが難しいなどといった課題は今後も残ると考えている。
もちろん、現在公開されているサービスでもアイデア検討は可能であり、既に多数の利用報告がある。
一方で、現在の技術では任意の結果を得るためには非常に多くの試行錯誤が必要である。
画像生成AIはChatGPTなどと同様、入力するプロンプトにより得られる結果が大幅に変わるため、ユーザーは利用するAIごとの生成傾向を探るところからスタートする必要がある。
加えて、ある程度そのAIの特性がつかめたとしても、最終的に得られる結果をユーザーが完全にコントロールすることは困難であり、くじ引きのように運任せとなる側面もある。
この偶発性をセレンディピティとして好意的に見ることもできるが、設計者の創造性を引き出すために利用するのであれば、より意図した通りの生成を可能とした上で偶発性をコントロールできるようにすることが望ましい。
 
また、ある程度コントロール性が高まったとしても、生成AIはこれまでのペンやCADなどといった手の延長にあったツールとは異なる性質を持つ。
実用に向けては、このような生成AIの特性を理解した上で最も高い利用効果が得られるような新たな建築設計のワークフローを確立することも重要だろう。
 

AiCorbの今後の展望

本プロジェクトでは、建築設計特化の生成AIを開発しており、現在のところ特にスケッチからさまざまなデザインを提案することに主眼を置いている。
詳細なスケッチだけではなくラフスケッチからでも設計の意図を読み取れるようにAIを独自に学習したほか、スケッチを忠実に読み取るAIや忠実性よりも生成結果の品質を重視したAIなど複数のAIモデルを用意するなどし、設計者の利用目的に応じた使い方ができるようなツールを目指している。
 
また、建築設計特化ではあるが、適宜汎用型AIの利用も必要だと考える。
汎用型AIと特化型AIのどちらが高い性能が得られるのかについては議論されているところではあるが、建築設計においては歴史・文化・慣習・地域などさまざまな事柄が設計案に影響を与えることから、汎用型AIが持つ知識の上に建築的な専門性を与えるべきである。
このような考えから本プロジェクトでは、汎用型AIの統合も検証しながら開発に取り組んでいる。
 
2023年7月には社内試験利用を開始した。
既に社内で延べ70名以上の設計者がAiCorbを試用しており、現在は課題やニーズの収集を行っている。
先に述べた生成結果のコントロール性は社内試行を通して得られた代表的な要望であり、コントロール性とセレンディピティのトレードオフに関する懸念も一部では見られたものの、総意としては既存をサービス含め、より任意の結果が得やすくなることが望ましいとの意見であった。
今後は収集した意見を反映しながら、早期に実用できるよう改良を続けていく。
 
 

おわりに

ChatGPTなど一部の生成AIは既に企業で活用されるまでになったが、画像生成AIに端を発した高性能な生成AIの一般公開は、始まってからまだ1年程度しかたっていない。
わずか1年で生成AIの実用方法が日々議論されるまでに至ったことは驚異的ではあるが、今後も「従来ではできなかったこと」の常識が次々と覆される状況が続くと予想される。
 
生成AIだけでなく、AIの活用は建設業の生産性向上における中核をなす。
建築設計におけるAI活用はまだ萌芽段階であり、試行錯誤を経て徐々に一般化が進むと思われる。
今後も本プロジェクトを通じ、積極的に試行結果を共有し、建築設計でのAI活用の発展に貢献していきたい所存である。
 
 
 

株式会社大林組 技術研究所 生産技術研究部 副課長
中林 拓馬
設計本部 アジア建築設計 部長
辻 芳人

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



設備BIMはグリーンに貢献している

2024年8月13日

欧州グリーンディール

グリーンに貢献するということに関してBIMデータの役割と、デジタル技術を活用する行動自体がグリーンに貢献するのではないかと思い、設備に関する話題を紹介します。
 
半年に一回ぐらい、定期的にbuilding SmartJapanのサミットに参加させていただく機会あります。
今年の春ローマで行われたサミットで、クロージングのところで、パトリックスさんが、「グリーンに貢献するんだよ、私たちの活動は」というお話をされていたことが非常に印象に残っています(図-1)。

図-1 BSIサミットクロージングセッションの様子
図-1 BSIサミットクロージングセッションの様子

 
設備環境小委員会の発足時は、設備FM分科会という名前でした。
環境小委員会という名前に変更した時に、強い意志を持って、私たちは環境をテーマに、環境負荷低減に貢献できるエンジニアリングを実現するためにIFCを運用していこうと、当時のメンバーと共有した記憶があります。
10月のオスロサミットではヨーロッパグリーンディールという言葉を聞きました(図-2)。

図-2 ヨーロッパグリーンディール (WEBにて詳細説明)
図-2 ヨーロッパグリーンディール (WEBにて詳細説明)

 
ディール、投資、環境負荷を低減するために、政策として建設業ばかりではなく、運送業マニファクチャー教育など、多くの産業全体にデジタルデータを効率よく回して、データ書式を整えて、計算書式を整えて運用のルールを決めて、仕事で最適な選択肢を導き出すことでデジタルデータを使うことが環境に貢献する。
設備に限らず産業全体でグリーンに貢献する。
現行の業務を改善する選択肢を持っていこうと、ディスカッションしていたことは大きく印象に残っています。
推進、加速化というプロセスを経て義務を伴う規制につながっているということを、ヨーロッパのグリーンディール政策で実施されていることが確認できました(図-3)。

図-3 エコデザイン規則 条文
図-3 エコデザイン規則 条文

 
 

IFCをつなぐデータにする

建設業というのは、具体的な成果を構築するには、設置場所に資材を運んで、建設資材を組み立て、建築物をつくるという業務で成り立っています。
つくるための「完成する形状や機能」をデジタル化したBIMモデル、設計の意図伝達の段階においても詳細度が異なるモデルも含めて、完成予想BIMモデルがスタートにあって、そのBIMモデルにデータが約束されたルールどおり仕込まれてあれば、そのデータを製造組み立て部分に渡せる、運送の皆さんにも渡せる。
もちろん、私たち建設業にも渡せるので、完成後はオペレーティングの部分にフェーズが移ります。
実際に建物を使う部分にも渡せます(図-4)。

図-4 建設デジタルデータの活用場面
図-4 建設デジタルデータの活用場面

 
最後には解体廃棄という、建設のライフサイクルは終焉を迎えます。
いろいろな場面で選択肢を導き出すための算出やシミュレーションができるデータになっている、デジタルデータの鍵になるものがIFCから派生したもの、データを関連付けたものとなっています。
 
今回のヨーロッパで聞いたインパクトの中で、基本データとしてのIFCは、他の産業との結び付きや、他の産業へのマッピングという可能性を非常に大きく持つものということが印象付けられました。
なおかつ、データが寸断されて渡らなかったことによって、今まで大きな損失をしていた、寸断されたデータをつなげる可能性がある、IFCの利用があるということを確認しました(図-5)。

図-5 ノルウェーオスロにおける水道インフラで使われるデータ基準
図-5 ノルウェーオスロにおける水道インフラで使われるデータ基準

 
 

環境、グリーンに寄与する活動

IFCは、Industry Foundation Classインダストリー=産業、建設業ばかりではなく運送業、製造業などと多くのデータをつなげるだけではなく、何に成果を見いだすか?その成果の一つがLCAの評価、これはIFCが流れるからこそ効率的にできると言えます(図-6)。

図-6 LCA評価を算出するフロー (国際標準クラスを採用)
図-6 LCA評価を算出するフロー (国際標準クラスを採用)

 
Life Cycle Assessmentは、低炭素社会を実現するための取り組みと言われています。
CO2をいかに抑制するか、材料を製造する時にどれぐらいCO2を出すのか、運ぶ時にどれぐらいCO2を出すのか、建設のプロセスにどんな重機・工具を使うか、どれぐらいの電気量を使うのか。
設備が大切なことは実際に運転する際の状態です。
どう運転するか、制御や運転の工夫でCO2を放出する量を削減できるのか、最後に廃棄、つまり材料が処分された時にどれぐらいCO2を排出するのかということを算出するに当たって使われるのは建設資材単位のデータです(図-7)。

図-7 CO2排出量を算出するために必要な原単位
図-7 CO2排出量を算出するために必要な原単位

 
材料の分類がしっかりとできて、それに対する原単位の扱いが大切です。
日本においてはイディア(IDEA)という原単位がよく使われていますが、数量へ原単位をかけることによって、どれぐらいのCO2が出るか、工場から運ぶ運送過程でどのような運送手段を使ったのか、どこの工場で作ったものでどんなトラックで運ぶか、をトラックの台数を少なくできる運び方としてロジスティックのデータと組み合わせることがあります。
 
春にサミットでヨーロッパに行ったら、切符を買おうとしてWebサイトにアクセスしたところ、この電車だとCO2がどれぐらい、飛行機だとどれくらい、バスだとどれぐらい、などと丁寧に表示されます。
なるべく低炭素に貢献できる選択をしなさいということです。
 
設備計画でも削減活動は同じです。
この設備の仕組みを作ると、例えば塩ビ配管でやりました、ステンレス配管でやりました、このポンプを採用しました。
省エネの機器を選びました。
それによってCO2排出量が大きく変わってきます(図-8)。

図-8 塩ビライニング鋼管の材料構成をBIMデータで分析
図-8 塩ビライニング鋼管の材料構成をBIMデータで分析

 
当然、労務も変わってきます。
私たちが判断に使いたい結果がBIMデータとuniclassや、さまざまなIDEA、いろいろなデータをマッピングすることで算出できるようになります。
BIMの最大の効果は「見える化」です。
設備環境性能の見える化にBIMデータが使われていますが、LCA評価は、一般的にはコンクリートと鉄骨しか出していません。
細かいところまで手間暇をかけて評価することに対して、時間が割けないことが現実です(図-9)。

図-9 分類を計算につなげるためにデータマッピング
図-9 分類を計算につなげるためにデータマッピング

 
BIMデータを組み合わせて運用する仕組みにおいて、設計や施工計画の段階で作られるBIMモデルが存在し、LCAの評価を半自動的に出すことができれば、グリーンに貢献できるBIMの成果ということにつながるのではないでしょうか。
 
 

設備IFCにできること

BIMオブジェクトデータを設備の機器・機材から出す、つまり運転も含めたものをLCAとして出せるような仕組みが、設備のIFCを使えばできると思います。
 
構成材料をスプレッドシートで仕分けして、どのデータベースに絡めたらいいのかなど、LCAの計算するときに工夫をしています。
このデータを計算に移行するために、他のデータとどうマッピングしたのかを示したものが下記の図です。
この部屋にある材料をどれぐらい、系統ごとに算出できるかというニーズに対して、BIMデータであれば答えを出すことができます。
一つの部屋にある製品について、この機械一つにどれぐらいCO2が発生するのかという判定したい単位ごとのLCAの評価を出すことも、BIMワークフローで発生するデータをつなげて実現できます(図-10、11)。

図-10 特定の部屋に設置された建設資材のLCA
図-10 特定の部屋に設置された建設資材のLCA
図-11 特定の材料ごとに仕分けされたLCA
図-11 特定の材料ごとに仕分けされたLCA

 
私たち設備環境小委員会メンバーは集計のツールにbuildingSMARTの設備IFCデータ利用標準に包含したIFCデータを、クラウド上のデータベースにインポートすることで、積算の見積書がViewerとともに出てくる仕組みを作ろうと活動しています。
要件を定義したり、そこの要件が回るためのルールセットというものを定めたりしています。
分類の書式に、いかにマッピングできているのかというところは、ワークフローを備えて要件定義をしたRFPを作っているところです。
 
積算をWeb環境で実施するために作っているのはRFPですが、ツール開発のための要件定義書を作っています。
要件定義書を作るためには、今のデータはどんな構造になっているのか理解していないとなりません。
ツールが出来上がった暁にはただ積算ができるばかりではなく、積算とはモノを特定して、どれぐらい数がどこの空間にあるのかによって、他の箇所の積算ができれば他の技術計算が行えます。
静圧計算、圧力損失計算、エアバランス。
さらにライサイクルアセスメントに代表される環境評価、どれぐらいのマテリアルがどこまでの材料に使われてどう運ばれてきたか?どう運転されたかといったことも、積算の基本情報があれば算出することができます(図-12)。

図-12 積算で使われる分類を技術計算にも活用
図-12 積算で使われる分類を技術計算にも活用

 
 

機器メーカーとの連携

設備構成において、機器は非常に大きなインパクトがあります。
その機器データ(BIMデータ)が回っていくのかが大切であると、ヨーロッパのグリーンディールにおいても大きなテーマとして取り上げられていました。
 
例えば、見積りの状況、積算の時の状態、実際に施工する時の状態、あと完成引き渡しの状態のデータは非常に重要で、機器の形状が変わるということではなく、データの中身がどんどん成長していくのです。
 
BIMライブラリ技術研究組合の部会2で、BIMオブジェクト利用標準2.0という電気・空調・衛生を包含した機器の利用標準を策定してリリースしています。
そのリリースしたものは、国内にある多くの空調機メーカー、送風機メーカー、ポンプメーカー、照明メーカーなどが保持しているデータです。
それらを流通する活動を同組合でやっているのですが、それらのデータをIFCにインポートすることをイメージしています(図-13)。

図-13 製造メーカーのカタログ情報 (製造情報を活用)
図-13 製造メーカーのカタログ情報 (製造情報を活用)

 
製造業が持っているデータをExcel形式で提供していただき、値をわれわれの検証にダイレクトに使うことができれば大きな社会貢献となります。
適切な機器の選定計算がBIMデータと製造者からもたらされる値によって計算が完結するからです。
生産現場で監理者が機器の能力仕様の確認を行うのに多くの時間を費やしており、デジタル確認が施工現場で実現でき、効率化と同時にグリーンに貢献できているシステム選択を確認できることがグリーン貢献であるのではないでしょうか。
 
 

グリーンなデザイン

スマートなビジネスを産業として実施してもらいたいとの思いで、日本においては建築BIM推進会議加速化事業が行われています。
標準データを整備して、標準ソリューションを使う、標準を運用できる人材を評価して産業をグリーンに貢献する形に回していくことが目的です。
 
BIMツールを扱う環境を増やしていくことも大切ですが、グリーンに貢献できる人材を育成して産業で活躍してもらうことが本来の目標です。
道具を売って、補助金が切れた途端に誰も使わないような道具を展開することが目標ではないはずです。
シンガポールで8年前に多くの補助金でBIMツールを使える状態にしましたが、現在シンガポールではIFCSGに代表される標準フォーマットを運用することで行政に係る申請確認などを実施することに集約しています(図-14)。

図-14 シンガポール政府 (IFCSGを採用)
図-14 シンガポール政府 (IFCSGを採用)

 
補助をして標準を推進している先には、官民合意で作り上げた標準を用いることが法的な義務を伴って実装されることが見えてきます。
 
ヨーロッパのグリーンディールDPPデジタルプロダクトパスポートに見られる、標準データで認証された確認検証計算ツールでグリーンのための計算を経たものしか、建設資材、製品を市場に投入できないということです。
 
建設ICTは、生産性を高めるという価値は十分果たしていると思われます。
一方で、設計・施工計画の立案過程で作られるBIMデータを使い、グリーンに貢献できる環境を作り上げることが大切な局面における判断のよりどころになるのではないでしょうか(図-15)。

図-15 BIER 建設情報環境責任という活動が活発になっている
図-15 BIER 建設情報環境責任という活動が活発になっている

 
 
 

一般社団法人buildingSMART Japan設備環境小委員会
谷内 秀敬

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



BIM/CIM・Plateau 連携デジタルツインによる資産価値創造

2024年8月5日

なぜBIM/CIMの普及が進展しないのか

建築物・構造物(以下、建築物など)の施工後の所有者は、施主と、分譲所有者の集合体という2つの形態が存在する。
現状では、この両者が施工後にBIM/CIMが提供する建築物のデジタルツインの利活用の方法とその価値を認識することができていない。
また、国外においては施工の工程表・計画の作成と管理にBIM/CIMが利用されることは常識となりつつあり、施工工程のデジタル化による効率化と迅速化が実現されている。
さらに、施工後の建築物などの運用開始後から解体までの「ライフタイムでの管理」が実現されつつある。
ライフタイムでの管理には、建築物などの運用管理だけではなく価値管理が含まれている。
建築物などは、施工後も改修や機器などの増設や入れ替えが行われるし、建築物ではテナントも変化することが一般的である。
すなわち、施工後も建築物などの構造・構成が変化することで要求・要望される新しい機能への対応が必要となる。
この新しい要求・要望への対応は、建築物などの経済的価値(資産価値)に反映されることになる。
日本においては、建築物などの経済的価値は、施工時がピーク(最大)であり、その後は、単純に減少すると考えるのが一般的であるようである。
適切な「ライフタイムでの管理」が行われれば、施工後よりも高い経済的価値を建築物などが持つことも可能であるし、経済的価値の減少度合を小さくすることも可能となる。
このような、BIM/CIMを用いた建築物などのデジタルツインが、ライフタイムでの経済的価値の最大化に貢献することと、その具体例(=ユースケース)を、施主と、分譲所有者の集合体が理解できていないことが、日本においてBIM/CIMが利活用されない最大の理由であると考えられる。
 
もう一つの理由としては、特に中小規模の建設関係事業者におけるデジタル化への移行に伴うコスト負担と労力、さらに人材確保・教育面でのコスト負担と業務変革の実現性への懸念である。
「鶏と卵問題」でもあるが、上述したBIM/CIM利活用の効果が認識されず、建築物などの設計・施工のみでの利用であれば、やはり、コスト・投資の回収を見込むことが難しいのは当然であろう。
また、BIM/CIMの適用が一部の案件にとどまっているという現状も原因として考えられる。
 
 

BIM/CIM利活用の効果

BIM/CIMの利活用に関して、「つくる段階」での短期的かつスポット的な効果としての、建築物などの「見える化」により、関係者間での合意形成が容易となり、設計の効率化が図られることは認識されている。
しかし加えて、以下で述べる「つかう段階」での長期的・継続的かつ広範囲への効果も広く認識されなければならない。
具体的には、以下の2つがその代表的なユースケースである。
 

(1)建築物などの効率的・効果的な{自動・自律的}運営・運用・維持管理

長期にわたる総合的な運用コスト削減が、デジタル技術とデジタル機器の付加的な導入によって実現される。
特に、少子高齢化が進展する日本および多くの先進国においては、ロボットやIoT機器の導入や人手による作業のデジタル化・人工知能を利用した高度な自動化によって、建築物などのデジタル技術を活用した自律的な機能の導入とそのアップデートが前提の建築物などの管理運用が可能となる。
「ファシリティ・マネジメント(FM:Facility Management)」のDX(デジタル・トランスフォーメーション)である(図-1)。

図-1 BIM CIMを活用したLCA(Life Cycle Assessment)
図-1 BIM CIMを活用したLCA(Life Cycle Assessment)

 

(2)資産価値の向上

「アセット・マネジメント(AM:AssetManagement)」、すなわちDCF(Discounted Cash Flow)に関する「資産価値創造のエコシステムの形成・創成」の実現である。
BIM/CIMを活用したDXをAMに関して実現させなければならない。
建築物などにとってFMは建築物などの経営・財務的において基本的には「コスト」とみなされる。
従って、FMはコスト(=キャッシュアウト)の削減である。
一方、AMはキャッシュインの増加を目指す施策である。
建築物などが産み出す価値を増加させる(あるいは減少させない)、すなわち建築物などの利用価値を向上させ、家賃や便益を増加させる(あるいは減少させない)施策・投資である。
建築物のテナントに対して、より快適な居住・就業環境を提供することが必要である。
そのためには、静的な躯体環境だけではなく、施工後に導入される各種の機器を利用して提供されるサービスが重要な要素となる。
スマートビルである。
スマートビルは、機能の追加やアップデートが可能な環境を持った建築物であり、ライフタイムでの建築物の持続的で継続的な進化を提供する。
スマートビルの実現には、ビルのデジタルツイン化が必須であり、そのためには、BIM基盤の活用が前提となる(図-2)。

図-2 デジタルツイン活用による資産価値創造
図-2 デジタルツイン活用による資産価値創造

 
 

今後の展開

国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)において1997年に合意された「京都議定書」は、2015年の「パリ協定」でその具体化が進められ地球温暖化に対する関心が高まり、同年9月に開催された国連総会でのSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の17の国際目標(169の達成基準と232の指標)へと進展することになった。
SDGsへの関心は、コロナ禍を契機として、また、自然災害の甚大化が顕著となり、急速に高まりを見せている。
 
われわれは、BIM/CIMに象徴されるデジタル技術を用いたSDGsに資する建築物などに関するDXを実現することで、地球環境の維持・改善に資する建築物など、さらには、キャンパス、街を創成しなければならない。
SDGsを実現・継続するという資産価値である。
 
建築物に関する全ての資源に関するエネルギー消費量の削減(=エネルギーの生産性効率(EP:Energy Productivity)の向上)の手法を考えてみよう。
すなわち、近年注目されているProduct Carbon Footprintの削減である。
この実現には、EP100では2つの柱がある。
EMS(エネルギーマネジメントシステム)の導入エネルギー生産性目標のため、10年以内にEMS導入を目指すとともに、企業が所有しているビルの「ZEB(ゼブ:Net Zero Energy Building)化」を目指すべきであると考える。
これらの実現のためにBIM/CIMに代表・象徴される対象とするシステムのデジタルツインの作成が前提となる。
 

(1)「新規に必要とするモノ」を「過去に製造したモノ」で代替する

リサイクルあるいはサーキュラーエコノミーと呼ばれる資源や部品の再利用・再生利用である。
産業革命以降、特に日本においては、Scrap&Buildを基本としてきた。
しかし、基本原料を製造するため(+資源から基本原料を製造するため)に必要となるエネルギーを、既に、製造済みの基本原料を再利用することができれば、大きなエネルギーおよび物理資源の削減が可能となる。
このような、「モノ」を再利用(リサイクル)する構造は、少子高齢化と人口増加の停滞・停止による“物理”経済の成長が鈍化・停滞あるいはマイナス成長となっている国や都市・地域に有効な構造であり、このような現象は、特に多くの先進国で加速することになるとともに、新興国や発展途上国においても地球温暖化を減少させるために有効な方策となると考えられる。
建築の領域においては、1960年代にMITのProf.Nicolaas John Habrakenが提唱した「Skelton&Infill」がこれに当たると言えよう。
Skelton(躯体)とInfill(内装)を分離して考えることで、耐久性のある構造体を保持しつつ、室内を作り替えて何世代に渡っても建物を使用することができるアーキテクチャである。
躯体を解体して、再構築する必要がないので、廃棄物(含産業廃棄物)の削減、再構築に必要な資源とエネルギーの削減を実現することになり、地球温暖化ガスの減少に大きな貢献を行うことになる。
 

(2)「新規に必要とするモノ」をデジタル&シェアリングエコノミーによって削減する

広義のデジタル化の導入によって、人類は排他的な物理資源の専用利用ではなく、物理資源の共有を行わなかった複数のサービス提供者間で物理資源を共用利用するシェアリングエコノミーを編み出した。
これにより、必要な資源(Resource)量の削減だけではなく、資源を作成するために必要となるエネルギー量も削減することになる。
Resource ProductivityとEnergy Productivityの飛躍的な向上である。
 
さらに、「物理的モノの移動」エネルギー(含電力)の移動≫デジタルビット(デジタル化されたモノとコト)の移動」を意識したデジタル化を実現するべきである。
物理的なモノを可能な限り利用しないようにデジタルビットを用いて、既存と等価あるいは新しいサービスを実現するシステム構造・アーキテクチャを実現することで、大きなProduct Carbon Footprintの削減が可能となる。
 
 

むすび

スマートなビル・キャンパス、そしてシティーの実現には、対象物の正確なデジタルツインが必須であり前提となる。
このデジタルツインを用いた建築物などや街のDXは、①キャッシュアウト削減だけではなくキャッシュインの増加、②Product Carbon Footprintの削減を含むSDGsおよびGXの実現、を可能にする。
なお、情報処理推進機構デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)のスマートビルプロジェクトでは、本稿で述べた、デジタルツインの活用と社会実装、さらに産業競争力、国際競争力の強化を目指した活動を行っており、2025年度にはコンソーシアムの組成を目指している。
 
 
 

東京大学/デジタル庁
江崎 浩
株式会社竹中工務店/IPA DADC
粕谷 貴司
株式会社日建設計/IPA DADC
中村 公洋
株式会社三菱総合研究所
長谷川 専
株式会社三菱地所設計
石橋 紀幸
株式会社シムックスイニシアティブ
中島 高英

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



 


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