書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。
山口県における建設DXの取り組み― 持続可能な建設産業の構築へ地域におけるチャレンジ —
2026.09.15はじめに
社会資本整備の担い手である建設産業は、災害発生時には最前線で地域社会の安全・安心の確保を担う「地域の守り手」として重要な役割を担っています。
一方で、他産業に比べて若い世代の入職・定着が進んでおらず、依然として就業者の減少が続いていることから、建設業がその役割を果たしつつ、今後も魅力ある産業としてあり続けるためには、長時間労働の是正を始めとした働き方改革の推進や、建設現場の業務効率化による生産性の向上が喫緊の課題となっています。
山口県では、県の総合計画である「やまぐち未来維新プラン」の重点施策に、持続可能な建設産業の構築を位置付け、その実現に向けた取り組みの一つとして建設DXの推進を掲げ、建設現場の生産性向上や、AIなどのデジタル技術の活用によるインフラメンテナンスの高度化・効率化の推進など、さまざまな取り組みを進めています。
建設DXの推進
建設DX推進班の設置
令和4年4月に技術管理課内へ「建設 DX推進班」を新設しました。
土木技術職員4名を専任で配置し、情報通信技術の活用の促進に関する施策の総合企画と調整を担っています。
また、「既成概念にとらわれない、関係者と連携して取り組む、失敗を恐れない」という三つの理念を掲げ、日々大胆かつ柔軟に取り組みを進めています。
産学官による連携
デジタル技術の活用を一層促進し、県内建設産業の生産性向上や、効果的・効率的なインフラマネジメントの実現につなげるため、山口県では公共事業の関係者間の連携強化を目的として、令和4年8月に「山口県建設DX推進連絡協議会」を発足しました。
本協議会では、会員相互によるデジタル技術を活用した取り組みの情報共有や意見交換を積極的に行うとともに、デジタル技術のさらなる活用促進に向けた課題の抽出と、その対応策の検討を進めています。
山口県建設DX推進計画
建設産業は、少子高齢化の進行を背景とする就業者数の減少、自然災害の激甚化・頻発化、インフラの老朽化、デジタル技術の急速な進展、さらにはデータ利活用の遅れなど、深刻な課題に直面しています。
このため、デジタル技術を活用し、これらの課題に的確に対応するため、山口県では令和5年2月に「山口県建設DX推進計画(第零版(初版))」を策定しました。
本計画では、前述の三つの理念を基本姿勢とし「建設産業の生産性向上」「インフラメンテナンスの高度化・効率化」「データ利活用環境の実現」「新たな魅力発信と人材育成」の四つの柱を設定しています。
これらを通じて、県民の安全・安心で豊かな暮らしの実現を目指し、具体的な取り組みを体系的に示しています。
また、デジタル技術は日々進化しており、建設産業のニーズも刻々と変化しています。
そのため本計画は、策定後も柔軟に見直しを行う方針としており、国や他県の先進事例、新たな技術動向などを積極的に取り込みながら、毎年1回、具体的な施策をアップデートして内容の充実を図っています。
建設維新ICT
ICT活用工事の普及促進
山口県では、平成29年からICT活用工事の試行運用を開始し、これまで対象工事の工種拡大を順次進め、令和6年10月から本格導入し、国土交通省に準じ全ての工種を対象としました。
さらに、発注時に3次元測量または3次元設計データが付与されている工事や、河川浚渫工、路盤工を含む工事については、発注者指定型としてICT活用を必須とするなど、取り組みの強化を図っています。
こうした取り組みの結果、ICT活用工事の実施件数・実施企業数は着実に増加しています。
令和6年度の実績では、実施件数は、前年度から50件増加し142件に達し、実施企業数は、新たに46社が取り組みを開始したことで、累計194社となりました。
県内におけるICT活用の裾野が広がりつつあり、生産性向上に向けた取り組みが着実に前進しています。
一方で、ICT活用工事の実施件数は増加傾向にあるものの、全体の対象工事数に対する実施率は約2割程度にとどまっており、依然として低い状況にあります。
また、地域間で活用状況に大きな差が見られるほか、比較的規模の小さな事業者における活用が十分に進んでいないことも、ICT活用のさらなる促進に向けた課題となっています。
建設現場の生産性を爆上げするイベント
建設現場の生産性向上の鍵となるのは、デジタル技術のさらなる普及と、それを支える人材育成です。
しかし、建設産業は長年の経験や慣習に基づく伝統的なプロセスに依存しているため、新技術への移行に対して組織的な抵抗感が根強く、導入が思うように進まないのが現状です。
そこで山口県では、従来の専門家が一方向に説明する講義形式から、参加者自身の体験を重視した「伴走型セミナー」へと移行しました。
現場で共に汗を流しながら支援する形式を採用することで、実際の作業の中でデジタル技術の有効性を体感してもらうことを重視しています。
以下では、建設DX推進班の発足した令和4年4月以降に開催してきた、建設現場の「生産性爆上げ」に向けた各種体験イベントの取り組みをいくつか紹介します。
- 小規模現場向け建設維新ICTセミナー
「小規模現場でもICT技術は活躍する」というメッセージを広く伝えるため、山口県では令和2年から開催してきた建設維新ICTセミナーを、令和5年に「小規模現場向けセミナー」としてリニューアルしました。
本セミナーでは「ICT活用工事は必ずしもICT建機が必要ではない」「小規模現場においてもICT活用は十分な効果を発揮する」ことへの理解を深めることを目的としています。
小規模現場で有効なICT技術の紹介に加え、実際に体験できる内容とすることで、参加者がその有用性を実感できる内容としています。
さらに令和7年度からは、ICT活用工事の発注者指定型工種を対象とした河川土工と路盤工に焦点を当て「カセタイシュウ編」「ロバミミ編」と題した新たなセミナーを展開しています。
これらのセミナーでは、TLS(地上型レーザースキャナー)やICT建機を用いず、TS等光波方式を活用した効率化手法を体験するプログラムにしており、参加者から高い評価を得ています。 - 維新ICT相談会と「私たちはできる型」
建設会社の方々に「私たちにもできる!」と実感してもらうことを目的として、山口県では3次元設計データの内製化に焦点を当てたICT相談会を実施し、企業とともにICT活用工事への取り組みを進めており、多くの建設会社から高い関心が寄せられています。
さらに、令和6年2月に実施した「私たちはできる型」の報告会には47名が参加し、これまでの成果や実践事例を共有する場となりました。
参加者同士が成功体験を学び合い、新たな一歩を踏み出す後押しとなりました。 - i-Conフェアin山口~極みの一歩体験会~
「はじめの一歩」「ホンキの一歩」に続く取り組みとして、山口県では「極みの一歩」体験会と題した「i-Conフェアin山口」を、令和6年7月と令和7年9月に開催しました。
本体験会では、建設会社の経営者層に向けてICT活用の重要性を訴えるメッセージを発信するとともに、実際に技術を体験できるゾーンを設け、多くの参加者にICT活用工事の効果を肌で感じてもらいました。
多数の方々に参加いただいたことで、ICT技術の有効性がより広く共有され、県内における建設DXのさらなる普及に向けた大きな契機となりました。
こうした取り組みにより、山口県が発注する工事においてICT活用工事などの普及は進んできており、一部の建設会社では、積極的にデジタル技術を導入し、生産性向上の成果が現れてきたとの声も聞かれるようになっています。
今後は引き続き体験会を開催しつつ、取り組みをまだ始めていないグループ向けと、さらなる生産性向上を目指すグループ向けのイベントの企画が必要と考えています。
BIM/CIMの推進
3次元データ活用の広がり
山口県では、測量、設計、施工、維持管理の一連のプロセスで生産性向上を図るため、3次元モデルを積極的に活用することとし、令和4年度から試行に取り組んできました。
試行では、3次元データを使った測量・設計業務を行い、その成果を基にICT活用工事を実施しました。
試行検証の結果、測量作業の効率化や省力化、設計精度の向上、建設現場における省人化や施工日数の短縮などの効果が確認できたところであり、検証結果を踏まえて県のガイドラインを作成し、令和7年度から道路、砂防事業などにおいて本格導入しました。
BIM/CIMの3次元モデルについては、ICT活用工事で使用する3次元設計データにそのまま利用できないことなど、現時点で課題もありますが、3次元モデルの活用方法を明確にし、事業の初期段階から事業説明会や関係者の情報共有などに活用することで業務効率化を図ることが可能です。
BIM/CIMの導入は、建設産業の将来にとって不可欠な取り組みであり、継続的に推進していく考えです。
ここでは、BIM/CIMを進める上で重要となる3次元点群データの活用や内製化に係る取り組みをいくつか紹介します。
3次元点群データ利活用セミナー
3次元点群データの利活用を広めるため、山口大学地域レジリエンス研究センターの協力を得て、県内の測量設計コンサルタントや建設会社を対象に砂防や橋梁をモデルとしたBIM/CIM講習会を開催しました。
参加者が利活用のスキルを楽しく学び、3次元点群データの活用に向けた意識が高まりました。
3次元点群データ利活用体験会atUAVやまけんカップ
県や市町の職員にも3次元点群データを身近に感じてもらうため、令和4年から始めたドローン操作の競技大会に合わせ、関係団体などの協力を得て体験会を開催しました。
大会に参加した200名以上の職員が競技の合間に3次元点群データの取得や編集を実際に体験し、3次元点群データへの理解を深めました。
3次元点群データで現場をポケットにセミナー
県および市町の職員を対象にした、モバイル端末を用いた3次元点群データの取得方法と3DCADを活用した横断図の作成手法を習得することを目的にセミナーを開催しました。
3次元点群データを利活用することで、災害復旧業務などの行政土木業務の生産性向上に役立つと考えています。
いんふらまるごとマネジメントの構築
山口県では、推進計画の四つの柱の一つ「データ利活用環境の実現」の核となる「いんふらまるごとマネジメント(略して「ふらまる」)」を構築し、令和7年4月から運用を開始しました。
ここでは、この取り組みについてご紹介します。
システム構築の背景
公共土木施設などの維持管理は地方自治体にとって重要な課題であり、山口県でも道路や橋梁、河川などの老朽化が進む中、効率的で透明性の高い管理が求められています。
従来は管理情報が担当課や個別システムに分散し、迅速な情報取得が困難で、民間企業等の外部での活用も十分ではありませんでした。
こうした課題を解決するため、県は施設データを一元的に管理する基盤として「ふらまる」を構築しました。
「ふらまる」では、施設に関する情報を集約し、共有・利活用を可能にすることで、インフラ管理の高度化とオープンデータの推進を図っています。
「ふらまる」って何?
「ふらまる」は、施設の情報を分かりやすく整理し、誰もが活用しやすい環境を実現するために構築したシステム基盤です。
道路、橋梁、河川、港湾など、これまで担当課が個別のシステムで管理していたデータを一元的に連携し、同一地図上で確認できる点が最大の特長です。
連携した情報は、洪水浸水想定区域や土石流警戒区域などのリスク情報、また観測データやカメラ映像など約70種類(90データ)と重ね合わせることができ、現状把握や意思決定の迅速化に役立ちます。
さらに「ふらまる」に蓄積したデータは順次オープンデータとして公開し、透明性の向上とともに民間企業や研究機関、県民を含めた幅広い主体による利活用を促進します。
隣接する広島県が運用する「DoboX」の成功例も参考にしながら、地域課題の解決につながるデータ活用を進めていきます。
また、本システムは内部の管理情報だけでなく、外部の関連システムや他自治体、国が保有するデータベースとも連携が可能で、災害時の迅速な情報共有や、施設管理の高度化に寄与します。
加えて、問い合わせやアンケート機能を備えており、利用者の声をいつでも収集できることから、継続的な改善によって、常に使いやすいシステムへとアップデートしていく考えです。
「ふらまる」は、効率的で透明性の高いインフラ管理を実現し、県民の安全・安心な暮らしを支える基盤として、今後も機能拡充とデータ利活用の深化を図っていきます。
SNS×戦略的広報
山口県では、推進計画に掲げる四つの柱の一つ「新たな魅力発信と人事育成」の取り組みとして、SNSを活用した情報発信を積極的に行っており、その取り組みについてご紹介します。
山口県土木建築部は、令和3年にInstagramアカウントを開設し、新たな情報発信をスタートさせました。
この取り組みの背景には、建設産業は地域を支える基盤として欠かせない存在である一方、専門性が高く、一般の方々にはその魅力が十分に伝わりにくいという課題がありました。
このため、Instagramを活用し、分かりやすく、視覚的に印象に残る形で情報を発信することで、この「認識のギャップ」の解消を狙ったものです。
Instagramの活用は、単なる情報提供にとどまらず、建設産業全体を盛り上げるための大きな取り組みの一つとして位置付けています。
普段、建設産業に触れる機会が少ない方々にも関心を持ってもらい、業界全体のイメージ向上につなげることを目指しています。
また、山口県土木建築部が発信する内容には、具体的なプロジェクト、業務の様子、仕事のやりがいなども含まれており、若い世代にとって身近なInstagramを活用することで、建設産業への興味を持つ人を増やし、将来の担い手の育成・確保につながることを期待しています。
実際にフォロワー数は年々増加し、令和7年9月には3,000人を超えるなど多くの方々に関心を持っていただけるアカウントになってきており、今後も「情報発信も大事な仕事!」と捉え、未来の仲間を増やすためにも積極的に情報発信していきたいと考えています。
リモート・ペーパレス×働き方
建設産業では、担い手不足や高齢化が深刻化しており、山口県においても土木職の入職希望者の減少が大きな課題となっています。
特に女性の希望者離れが顕著であったことから、県ではリクルート活動やインターンシップの強化に取り組み、近年その成果が徐々に表れつつあります。
一方、県内の建設業者においても、長時間労働の解消やICT活用の促進に向けた取り組みが進展しています。
具体的には、建設ディレクターの導入や働き方改革の推進により、若年層や女性、専門知識を持たない方々など、多様な人材の確保につながっています。
さらに、業務効率化や費用縮減、多様で柔軟な働き方を実現するため、ペーパーレス会議やオンライン化、リモートワークの推進は不可欠です。
山口県では令和5年に新たな働き方改革「やまぐちワークスタイルシフト」を開始し、業務効率化・高度化による県民サービスの向上を図るとともに、職員がやりがいを持ち、充実した生活を送れる環境づくりにも取り組んでいます。
令和7年10月から全ての土木関係工事において、情報共有システムとオンライン電子納品の使用を原則必須化したところであり、受発注者双方の働き方改革に資する環境整備を進めています。
おわりに
山口県では、社会情勢の変化や技術開発の進展などを踏まえ、推進計画の取り組みを見直すなどアップデートし、「県民の安心・安全で豊かな生活」の実現のため今後もチャレンジしていきます。
【出典】
最終更新日:2026-09-15
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