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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

海外におけるインフラBIMの最近の動向

2026.08.27

はじめに

国土交通省では2023年度から小規模を除く全ての直轄土木工事・業務においてBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling,Management)の原則適用を開始している。
JR東日本は10年程前からBIMを利活用しており、NEXCO中日本も2025年7月から土木設計と工事にBIM/CIMの原則適用を始めた。
こうした動きは、他のインフラ事業者や地方自治体にも波及しており、BIM/CIMが全国に広まりつつある。
 
一方、海外、とりわけBIM先進国の現状は気になるところである。
海外では日本と異なり、BIMを土木と建築という切り口では分けておらず、あえてインフラ構造物を対象としたBIMに限定する場合は、英語で「BIM for infrastructure」、「InfraBIM」などと言うことがある。
本稿では欧米のBIM先進国の「インフラBIM」について最近の動向を紹介する。
 
 

英国EA(環境庁)

英国のBIM

英国政府は2011年にBIMの義務化という施策を公表し、2016年から官庁が発注する一定規模以上の土木建築の設計と施工を対象にBIMを義務化した。
それから10年経過した現在、世界で最もBIMが進んでいる国は英国だと、恐らく自他共に認めていることだろう。
英国はBIMを3次元モデルの作成と活用という単純な枠に止めず、設計、施工、維持管理にわたる受発注者間の情報マネジメントのあり方の標準化にまで拡張し、2007年にBS(British Standard:英国規格)1192:2007を発行した。
この中で、CDE(Common Data Environment:共通データ環境)という概念が記述された。
その後、BS 1192はシリーズ化され、多くはPAS(Publicly Available Specification:公開仕様書)となり、2018年から発行され始めた国際標準ISO 19650シリーズの基礎となっている。
英国は自国でのプロジェクトにCDEを適用させるだけでなく、官民で世界中に広める戦略的な活動を実施している。
 

英国EA

英国のEA(Environment Agency:環境庁)は省に属さない政府組織で、環境保護に関する法律などの整備と洪水などのリスク対策、関連ルールの整備が主な役割である。
約1,000件の洪水・海岸リスク対策プロジェクトが進行中である。
BIM採用および義務化の歴史は長く、現在はISO 19650シリーズにのっとって情報マネジメントを実施している。
 

CDF(フレームワーク契約)

EAでは、大規模な建設プロジェクトについては、CDF(Collaborative Delivery Framework:ここでは短く「フレームワーク契約」と呼ぶ)と命名された仕組みにより、英国の南半分の調達エリアを6個のハブ(Hub)に区分し、各ハブで一つの建設コンサルタント会社と一つの施工会社によって構成されるIDT(Integrated Delivery Team:統合デリバリーチーム)と6年間で60億ポンドの固定契約を結んでいる(図-1)。
6年間経過すると、ハブのローテーションを実施する。
図-1の会社リストを見ると、ほとんどが英国の会社でJacobs UK Ltdのみが米国の会社の英国法人である。
なお、小規模なプロジェクトについては、従来の競争入札で設計者、施工者を決定している。

図-1 EAのフレームワーク契約(CDF):6個のハブ地域における設計者(Lot 1)と施工者(Lot 2)[ 1]
図-1 EAのフレームワーク契約(CDF):
6個のハブ地域における設計者(Lot 1)と施工者(Lot 2)[1]

 
一般的に競争入札が常識という公共事業の世界で、このように受注業者を固定化するとは驚きであるが、EAではBIMを適用したこれまでの経験から、競争によるDBB(Design Bid Build:設計施工分割発注方式)では設計者と施工者でBIMモデルデータの円滑な受け渡しによる効率的な利用が難しいことと、DB(Design-Build:設計施工一括発注方式)では思ったような結果が出なかったことなどから、フレームワーク契約(CDF)を採用することにしたという。
この方が競争させるよりもBIMの効果が大きく、効率が格段に良くなるので、結局、安く、速く、良いものができるとのことである。
設計についてはコストチェックを外部機関に委託している。
また、設計と施工は別々に契約している。
費用対効果をKPI(Key Performance Index)により評価して、適切にプロジェクトが遂行されているかを監視している。
フレームワーク契約(CDF)は、米国で2005年から建築工事で採用され始めたIPD(Integrated Project Delivery)方式を、ハブ内の大規模プロジェクト全てに一定期間適用したようなプロジェクト契約方式で、BIMの効果を最大化する可能性の観点から大変興味深い。
 

CDE(共通データ環境)

EAのBIMプロジェクトにおいて、CDE(Common Data Environment:共通データ環境)は発注者EAサイドのE-CDEと受注者サイドのS-CDEによって構成されている。
図-2 の右側の箱がE-CDEで、E-はEmployer’s(発注者の)の略であり、左側の箱がS-CDEで、S-はSupplier’s(サプライヤーの、受注者の)の略である。
このように2つに分けることにより、双方が使いたいCDEシステムを選択することができる。
EAでは、市販のAsite社のAsite CDEをカスタマイズして利用している。
受注者は自組織内で使用しているCDEを利用できるが、E-CDEとの情報のやり取りができることを担保しなければならない。

図-2 EAのBIMプロジェクトにおけるCDEの構成
図-2 EAのBIMプロジェクトにおけるCDEの構成

 
CDEでは、情報は 1)WIP(Work in Progress:作業中)、2)Shared(共有)、3)Published(公開)、4)Archive(アーカイブ)の4段階があり、順番に進んでいく。
基本的にISO 19650シリーズに準拠している。
受注者のWIPの段階にある情報は、EA側からは見に行くようなことはせず、SharedとPublishedの段階で情報を確認する。
両者の間にあるContract Line(契約境界)を明確にしており、受注者は納品の際にのみ、E-CDEにアクセスして全ての成果情報を納品する。
 

DRL(データ要件ライブラリー)

EAでは、DRL(Data Requirements Library:データ要件ライブラリー)を整備している。
DRLとはEAが管理する資産、施設などを分類し記述するための用語とカテゴリーを記したものである。
EAが管理する施設の諸元や維持管理計画についてAPIで情報提供をしており、全ての受注者に対して具体的にどのデータが必要かを示している。
また、自動設計を行う業者などを対象に、機械判読可能な形式で提供しているほか、UI上での検索環境も提供しており、広く一般に使えるようにしている。
 
EAでは、工事が完成し維持管理段階に進む際、維持管理で必要となるデータを、3次元モデルの標準IFC(Industry Foundation Classes)形式のファイルから自動的に抽出し、COBie(Construction Operations Building Information Exchange)の規格にのっとってスプレッドシートとして出力されるように整備している。
そのために必要なのがDRLなのである。
自動化するためには用語分類体系が整備されていなければならないが、英国の建設分野ではUniclassとして昔から整備されていることが大きい。
わが国では、建築では多少検討をしたことがあるが、土木分野では未検討である。
なお、米国ではOmniclassという別の用語分類体系を設けてCOBieを展開したため、英国のUniclassを中心とした国々と互換性がない。
 
 

フランスSGP

フランスのインフラBIM

フランス政府は、2014年からインフラの共有可能な3次元モデルデータに関する研究開発プロジェクトMINnD(Modélisation des informations interopérables pour les infrastructures durables:「マインド」と読む)に巨額の資金を投入し、BIMを推進してきている。
大手建設コンサルタントのEGIS(イージス)、世界最大手の建設会社のVinci(ヴァンスィ)やBouygues(ブイグ)、国立建築土木研究所CSTB、国立トンネル研究所CETUなどがインフラBIMの推進役を担い、3DCADのCATIAのダッソーシステムズ社と連携しながら進めている。
 

フランスSGP

SGP(Société des Grands Projets)はフランス政府によって2010年に設立された公社で、設立当初はSociété du Grand Parisで、パリ周辺を含む広い地域の交通網の整備が目的であったが、2023年から法改正により、地方自治体や地方の交通機関の要請に応じて都市圏交通再編プロジェクトへ参加できるようになり、現在の名称(文字通りに訳すと「大規模プロジェクト公社」)になっている。
 
目下SGPは、GPE(Grand Paris Express:グランパリエクスプレス)と呼ばれる鉄道開発事業を実施しており、既存路線の延伸や環状線の新設により、パリ市内を経由せずに郊外をつなぐ交通網を形成するとともに、駅周辺の再開発を行う事業を行っている。
GPEの総延長は200kmの路線(その内180kmはトンネル区間)や68の駅を新設し、駅周辺の再開発も実施する。
2024年から2030年にかけて、段階的に運航開始を予定している。
 
SGPではGPEプロジェクトにBIMを全面的に導入し活用している。
BIM活用の目的として、1)技術的なマネジメント(品質、健康、環境および企業の社会的責任)、2)コストと工程管理、3)BIMマネジメント、4)意思決定の支援、5)資産管理の5項目を挙げている。
設計段階から可能な限り正確に表現されるモデルを作成し、BIMモデルを工事契約時の入札書類とすることで、施工段階での活用を促進する。
施工段階では、さらに施工段階を反映させて異なる工種や異なる関係者との協調作業を可能とする。
 
SGPは、GPEプロジェクトにおけるCO2排出量を25%削減(約110万トン)することを目標に掲げている。
建設材料(コンクリートや鋼材)や土砂運搬などの主要な排出源を対象に、例えば低炭素材料に置き換えること、粘土くずを代替アスファルトとして使用すること、電動トラックを使用することなどが検討されている。
図-3に3次元モデルからコンクリートと鋼材の数量を出力し、排出量原単位を掛け合わせることでCO2排出量を算出した例を示す。
視覚化の結果、環境への負荷が低い材料の検討を実施する場合もある。

図-3 BIMを活用したCO2排出量の算定と可視化の事例 [2]
図-3 BIMを活用したCO2排出量の算定と可視化の事例 [2]

 
SGPでは、他に、4Dモデルによる施工計画や施工管理に利用したり、出来形検査に3次元モデルとレーザースキャナーによる点群データの比較による差分を活用したり、設計で作成したBIMモデルをデジタルツインの構築に使用したりしている。
 
 

ドイツ

ドイツのインフラBIM

ドイツも2010年代半ば頃にトンネルの機械化施工に向けて巨額の研究開発資金を大学に拠出するなど、インフラBIMを推進している。
以下、ドイツ連邦交通デジタルインフラ省、ドイツ連邦国防省、TenneT Germanyの3つの組織におけるインフラBIMの取り組みを紹介する。
 

BMDV(ドイツ連邦交通デジタルインフラ省)

BMDVは2013年に発足し、職員数は約1,300名で、デジタルインフラの拡充や交通インフラの整備、管理を所管している。
 
2015年に設計と施工にBIM活用を開始し、2017年以降のDXへの投資額は5,000万ユーロ以上で、デジタルツイン、GIS、AI、センシング技術の導入促進を図ってきた。
今後はデジタルツインの構築と維持管理への拡充を図っていく。
 
BIM関連では、BIM-Portalを2022年から提供開始しており、入札書類の作成から3次元モデルの納品までの受発注者の作業を次の4つの機能のモジュールで支援している。
1)属性と属性グループの一覧ができる属性モジュール、2)発注者のEIR(Exchange Information Requirements)作成支援を行うAIA(EIR)モジュール、3)モデル編集ツールに読み込むためのオブジェクトテンプレートモジュール、4)納品されたBIMモデルが発注仕様の要件を満たしているかを検査するテストツールモジュール。
なお、AIAはEIRをドイツ語で表したものである。
 

ドイツ連邦国防省

ドイツ連邦国防省では、SAP社のCDEであるSAPをベースに共同で国防省用にCDEを構築し、アクセス権を受注者に提供することにより関係者で共同利用している。
全てのプロジェクト関係者に対して、当該CDEを使用することを義務付けている点が、英国のEAのCDEと異なる。
このようなCDEは「セントラルCDE」とも呼ばれる。
 
個々の使用ツールを指定しない代わりに、CDEにおいてデータを一元化して統合することが重要である。
プロジェクト期間を通じて同じCDEを使うことで、データの移行なく利用可能であることはメリットである。
ステータスがメタデータとして付与されていることで、確実なデータ検索が可能であり、また、ファイル検索方法が一貫していることで、CDEの作業が容易である。
 
セントラルCDEに集約されたデータを元に、1)複数プロジェクトの工程管理、2)モデルに紐づいたドキュメント管理、3)プロジェクト状況のダッシュボード表示、4)CDE状で3次元モデルを表示し、モデルオブジェクトに紐づけたタスク設定などの充実した機能を実現している。
 

TenneT Germany

TenneT Germany(テネット・ドイツ)は、ドイツにおける主要な送電系統運用会社の一つであり、高圧・超高圧送電網の運用、維持、開発を担っている。
欧州の国際送電網開発をリードし、北海と欧州本土を結ぶ再生可能エネルギーのパイオニアでもあるTenneTホールディング(TenneT Holding B.V.所在地:オランダ)の傘下にある。
 
洋上風力発電設備からの海底送電線や陸上の送変電設備などの数多くの建設プロジェクトを同時に進めていくためには、BIMが必要である。
しかし、昔からのアナログ情報も多く、DXを推進するためには、組織的な文化を変えていくことが前提となった。
そこで、日本のトヨタのLean TechnologyとISO 19650を全面的に導入して、システムを構築するとともに、仕事のやり方を変革することにしたという。
構築したシステムとデータの流れを図-4に示す。

図-4 Tennet GermanyのISO 19650に基づいたBIM活用システム構成とデータの流れ
図-4 Tennet GermanyのISO 19650に基づいたBIM活用システム構成とデータの流れ

 
 

米国

米国のインフラBIM事情

米国では1988年、まだBIMという言葉がなかった時、スタンフォード大学はCIFE(Center for Integrated Facility Engineering:統合化された施設工学センター)を設立し、3次元CAD、AI、データベース、ロボティクスを駆使して、生産性の低い建設業の生産性を飛躍的に向上させる研究を開始し、その成果が2004年頃にBIMとして花開いた。
建築物の実務では、BIMを使って設計し、デジタルツインで施工を行い、COBieに変換して維持管理を行うことが当然になっている。
米国では世界に先駆けて2007年から連邦政府が発注する土木建築プロジェクトの設計、施工について、BIMデータの納品を義務化した。
従って、米国陸軍工兵隊(US Army Corps of Engineers)が発注するミシシッピ川や防衛上重要な港湾工事の設計、施工においては、BIMモデルを納品する必要がある。
 
しかし、橋梁、トンネル、道路などのインフラBIMに関する話は、あまり聞こえてこないようである。
その一つの原因は、連邦政府のインフラ工事の発注量は、州の発注量に比べて少ない上に、各州で法律が異なるくらいに裁量が大きいため、BIMの義務化については州によって対応がまちまちであることが考えられる。
もう一つの原因は、道路に特化して言えば、米国ではBentley Systems社、次いでAutodesk社の土木設計用BIMソフトウエアが業界標準になり、IFCのようなプロダクトモデルの国際標準の必要性をあまり感じなかったからかもしれない。
 

橋梁と構造物のためのopenBIM米国標準

そうした状況の中、米国の23の州のDOT(Department of Transportation:運輸局)とFHWA(Federal Highway Administration: 米国連邦道路局)が中心となり、民間団体の協力を得て、橋梁と構造物のためのopenBIM米国標準の構築を開始し、bSI(buildingSMARTInternational)の2025年9月のサミット会議(ドイツのベルリンで開催)で発表を行った。
実は、米国のAASHTO(American Association of State Highway and Transportation Officials:米国全州道路交通運輸行政官協会)が2022年からIFCに関心を持ち、bSIのInfrastructure Domainの運営委員会にも参加し始めている。
 
彼らが発表した内容は、ペンシルバニア州の2つの橋梁とアイオワ州の一つの橋梁の3DモデルをBIMソフトで作成し、IFCにexportし、IDM(Information Delivery Manual)、IDS(Information Delivery Specification)、bSDD(buildingSMART Data Dictionary)などのopenBIMツールを使っていろいろ検討したという内容であった(図-5)。

図-5 米国が紹介した3つの橋梁BIMのユースケース[ 3]
図-5 米国が紹介した3つの橋梁BIMのユースケース[3]

 
橋梁、道路、鉄道、港湾、水路などのインフラのIFCを含むIFC 4.3は2024年にISO 16739-1:2024として承認されているが、なかなか市販のBIMソフトウエアがきちんと対応していない。
米国がもっと積極的にIFCの構築や標準化に参加するようになれば、せっかくスキーマが完成したIFC TunnelがISO化されていない問題を含めて、解決の道が見えてくるかもしれない。
米国のこの取り組みを、期待しながら見守っていきたいと考えている。
 
 

おわりに

本稿では、インフラBIMの先進的な取り組みをしている英国、フランス、ドイツ、米国の4つの国の最近の動向について概説した。
この他にも、フィンランド、スイス、アイルランド、カナダ、香港、シンガポールなども紹介したかったが、紙面の都合で割愛した。
 
インフラBIMを推進している諸兄やこれから取り組もうとされている方々にとっては、自分が取り組む内容や方向性にずれがないかと不安に思うことがあるかもしれない。
そうしたときには、先進諸外国がどういう取り組みをして、結果はどうだったのかを調査することは価値がある。
本稿が多少なりとも参考になれば幸甚である。
 
 
参考文献
[1]https://www.gov.uk/government/news/environment-agency-announces-new-green-legacy-for-26bn-flood-and-coastal-risk-management-programme
[2]国土交通省第13回BIM/CIM推進委員会参考資料2、令和6年度BIM/CIM海外調査報告書、2025.
[3]Mitchell, A., Application of U.S.BIM for Bridges and Structures National openBIM Standards, 2025.
 
 
 

東京都市大学 総合研究所 特任教授(大阪大学 名誉教授)
矢吹 信喜

 
 
【出典】


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最終更新日:2026-08-27

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