書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。
都市再生機構におけるBIM活用の取り組み― 集合住宅設計BIMガイドラインの策定 —
2026.08.17はじめに
都市再生機構(以下、UR)は、大都市や地方都市において、市街地の整備改善、賃貸住宅の供給支援および賃貸住宅などの管理を主な業務とする国土交通省所管の独立行政法人である。
URでは「住生活基本計画(令和3年3月19日閣議決定)」に定める「新技術を活用した住宅の生産・管理プロセスのDXの推進」を実現するため、工学院大学建築学部岩村雅人教授および株式会社日本設計と集合住宅へのBIM導入による生産性向上に向けた共同研究を実施し、その成果として、集合住宅では初となる集合住宅設計BIMガイドラインおよびガイドライン準拠のBIMデータ類(Autodesk Revit版、Vectorworks版、NYKシステムズ社製の建築設備専用3次元CADソフトRebro版およびダイテック社製の統合設備CADソフトCADWe’ll Tfas版)を作成し公開している。
集合住宅設計へのBIM活用により、関係者間の意思疎通の円滑化、図面の整合性確保などの効果のほか、仕様、性能情報、部材、機器情報などの属性データを保持するデータベースとしての活用も可能であり、導入による建設生産プロセスにおける生産性向上を期待している。
本稿では、URが建設・供給するUR賃貸住宅の新築設計におけるBIM活用の取り組みについて紹介する。
BIM活用の位置付け
URは、国土交通省所管の法人として、政策実施機関の役割を持つ。
住宅政策に関する政府方針のひとつである住生活基本計画の目標として「DXの進展等に対応した新しい住まい方の実現」に向けた「新技術を活用した住宅の契約・取引プロセスのDX、住宅の生産・管理プロセスのDXの推進」が掲げられており、これを実現するための基本的な施策として、「URにおいて、賃貸住宅の建て替え等におけるBIMの導入の試行などを通じた、生産性向上に向けたDXの推進」が示されている。
また、第五期中期計画の中では、国の施策などに対応した取り組みおよび成果の社会還元の項において、研究開発の実施により急速なAI・IoTなどの技術革新や社会情勢の変化にも柔軟に対応すべき項目の一つとして、BIM・CIM(Construction Information Modeling/Management)推進への対応に言及しており、「国の研究機関、学識者、民間事業者等との共同研究や社会実装に向けた協調など、関係者と連携しつつ積極的に推進すること」としている。
BIMを取り巻く国内外の動向
2000年頃にCADソフトベンダーを中心に開発されたBIMの技術は、アメリカ・北欧から使われ始めた。
当初から、その活用が順調に進んだわけではなく、BIMへの取り組み方を試行錯誤していく中で、BIM業務における契約の重要性が指摘され、やがて、州や大学などの事業でBIMを活用するために必要な設計情報に関する取り決め、すなわち、BIM実行計画書(BEP=BIM Execution Plan)が整備されていった。
これは、BIMはそれ以前のツールとは異なり、単なるツールではなく、業務自体の進め方に深く関わるものであるため、業務契約段階からその活用を考えていく必要があるものであるということを意味している。
2011年には英国が本格的にBIM推進へとかじを切り、既存の標準ワークフローをベースとしたBIMを活用したワークフローを新たに整備した。
この新たなワークフローに合わせて、BIM基準書(ガイドライン)や契約書のひな型、テンプレートやオブジェクトといったBIMに必要な標準類、さらに、仕様書との連携ツールが開発・整備されていった1)。
このような地道な整備が実を結び、英国でのBIM活用は着実に効果を上げていった。
英国のBIM推進の成功が起爆剤となり、BIM推進が遅れていた国々でもBIM推進へ向かうこととなり、世界各国で、英国基準が参照され、各国・各地域の事情に合わせたBIMワークフローが整備される動きになっている2)。
今現在、諸外国においては、既にBIMは特別なものではなく通常の道具であり、BIMワークフローが設計業務を進める際の当然の前提になりつつある。
一方、わが国では、2019年6月に、国土交通省により「建築BIM推進会議」3)が発足、BIM推進の動きが本格化し、2020年3月には、「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(以下、推進会議BIMガイドライン。2022年に第2版発行4))が、推進会議の下、設置された環境整備部会において取りまとめられた。
また、推進会議を構成する関係団体においても、建築設計三会(建築士会連合会、日本建築家協会、日本建築士事務所連合会)が、推進会議BIMガイドラインの内容を設計者の視点で深化させ、実務的な内容を中心とした「設計BIMワークフローガイドライン建築設計三会(第1版)」(以下、設計三会ガイドライン)が2021年3月に発行された5)。
集合住宅設計でのBIM活用に向けた課題
推進会議BIMガイドラインでは、「実際のBIMの活用においては、個々のプロジェクトの背景、特徴、用途、施設規模等の諸条件やBIMの活用に対する目標設定および業務内容に応じて、各関係者がそれぞれの立場で活用方策について判断」することが重要と記載されており、具体的な実務でのガイドラインの活用方策を検討する作業は、活用を希望する者に委ねられており、設計三会ガイドラインでも同様の考え方である。
また、これまでの取り組みは一般事務所ビル用途での検討を主としており、集合住宅用途でのBIMワークフローやBIMデータとしての成果物のあり方は、さらなる検討が必要な状況であった。
URでは、これらの検討課題に焦点を当て、BIMの研究実績を有する工学院大学建築学部岩村雅人教授の協力の下、設計者の視点を取り入れるため㈱日本設計と、2021年から2022年度にかけて共同研究を実施、集合住宅の特長・用途を考慮した、集合住宅設計に特化したフローの検討およびこれを反映したガイドラインの策定およびデータ類作成に着手した。
この研究によって得られた知見に基づき、集合住宅では初となる、設計BIMにおける標準的なワークフローを定めた集合住宅設計BIMガイドライン(以下、ガイドライン)を策定するとともに、成果物の一例としてBIMデータ類を作成、2023年5月に公表した。
ガイドライン策定時のスタンス
(1)発注者として
URは公共工事の発注者という立場であるため、透明性・公平性を確保した上で、個々の公共工事に最適な設計者・施工者などを選定することが求められる。
加えて、業務の実施に当たってはコンプライアンス、品質確保のための技術的な対話を相手方と十分に行うとともに、関係法令や契約書などに規定された発注者の責務などを適切に果たす必要がある。
発注者の責務を果たすため、URでは職種ごとに専門技術者が分担して対応を行っており、担当者数が多くなり職種間調整などに時間を割いている現状がある。
また、URは発注者として設計業務を設計事務所へ委託する立場であり、自らBIMを使用した設計業務は行わない。
こうした背景から、発注者としてBIMを推進するにあたり、自らの発注に係る業務の効率化とともに、受注者の設計工期の短縮、設計品質の向上を意図し、その実現に向けた検討を行った。
まず、検討初期段階に設計事務所数社へBIMによる設計業務受注時の実務に関してヒアリングを行った。
既にBIMを導入している設計事務所からは、「受発注者間で、BIM業務仕様書(EIR=Employer’s Information Requirements)やBEPのような情報要件等に関する書面のやり取りは行っておらず、発注者に対しどのようにBIM活用に当たりBIMデータの表現やBIMの詳細度について丁寧に説明を行い、共通認識を持った上で実施している」、また「集合住宅用途では、BIM活用は進んでいない」などの意見があった。
他方、まだBIM導入に踏み切っていない設計事務所からは「どのようなBIMモデルを作成するのか具体的なイメージができない」「BIMデータ類を用意してもらえないと、中小設計事務所では業務を完遂することができない」といった意見があった。
URでは、業務受注者は基本的に公募により決定することから、契約前に相手方とBIMでの業務仕様を協議することができない。
また標準的なBIMデータが存在しないと、成果品のイメージを共有できないことから、BIM活用により設計業務を発注するには、標準的な成果物などの指標の策定が必要であることを認識、ガイドラインの策定を行うこととするとともに、成果品のイメージを明確化するため、BIMデータ類も併せて整備することが、発注者と受注者の共通理解の上で契約し、円滑な業務実施のため重要と考えた。
(2)発注者・設計者双方にメリットを生み出す
同じく検討初期段階のヒアリングにおいて、BIMを設計に導入すると、効率的に精度の高い設計図書ができるというBIMベンダー・BIMコンサルなどの専門家の意見から、当初は、積算業務の効率化を模索したが、実施設計の詳細度を数量拾いのために上げる必要がある、積算基準に合わせた数量算出が別途必要となり二度手間となる、といった理由から、設計者の負担増ひいては設計委託料増になることが判明し、発注者としてメリットを感じにくいものであった。
そのため、活用方法として、設計者の業務も効率化し、かつ発注者の業務も効率化することができるメリットを探ることから再スタートした。
設計BIMを実施するに当たって、発注者、設計者の双方にメリットがある指標でなければ、発注者は使わず、設計者もついてこられない。
しかしながら、UR独自の指標の設定はできないことから、日本の商習慣、設計の業務内容、報酬基準と照らし合わせた上で、BIMの特性を生かし、BIMを活用した場合の発注者のメリット、設計者のメリットを検討してきた。
(3)UR業務にしか使えないものにしない
設計者にBIMを活用してもらわないとメリットが発現しないが、URにおける賃貸住宅の建設戸数は、昭和40年代後半のピークから社会情勢の変化・政策の変更などに伴い減少しており、現在では年間1,000戸前後の供給量となっている(図-2)。
そのため、UR独自の基準では活用の幅は広がらないため、集合住宅として汎用性の高いもの、他の発注者も理解でき、扱いやすいもの、かつ設計者の技術力、BIMスキルなどの向上につながるものを目指した。
集合住宅設計BIM ガイドラインの主な特長
ガイドラインは設計者がBIMを使うための手引書であるとともに、発注者と設計者の双方が円滑に設計業務を進めるためにワークフローを整流化することも意図している。
推進会議BIMガイドラインでは、BIMでは情報の管理が最重要項目であり、情報を的確に管理するためのBIMにおける設計業務区分(ステージ)とその確認の考え方が示されている。
本ガイドラインが参照している設計三会ガイドラインにおいても同様の考え方であり、本ガイドラインでも、設計業務を企画段階(S0)から設計段階(S4)までの5つのステージに区分する考え方を同じく踏襲した上で、集合住宅設計の特長を考慮し、ワークフローの活用方策について検討を行った。
検討に当たり、これまでのワークフローの実態把握と点検を行ったところ、一般的な建物を設計する場合、ステージが進むにつれて検討の縮尺が大きくなり、それに合わせて細部の納まりが検討されていく。
しかし、集合住宅を設計する場合には、設計の検討初期から、大きく2つの縮尺、小さな縮尺の「全体・共用部分の計画」、大きな縮尺の「住戸計画」の両検討を並行して行われていることが改めて認識された(図-3)。
さらに細かく手順の点検をしたところ、両検討相互の見直しやデータ粒度の変換に時間を要し、調整や打合せが続いた結果、作図作業へ影響が生じ、工事段階へ課題が持ち越されている実態が判明し、業務手順を整流化するワークフローが必要ということになった。
次に、既往の成果物を改めてBIMで作図し、2Dで作成した場合との業務量比較を行った。
今回のケースでは、BIMで作図した場合、設計業務全体のうちBIMを使用する部分は10%程度であり、このことから、BIMの機能だけでの効率化による効果はそれほど大きくはないことが判明した。
これらの結果を受け、集合住宅用途の特性を生かし、①全体・共用部分と②住戸計画、住戸計画の中でさらに、標準住戸プランと特殊住戸プラン、のそれぞれを分けて検討を行うワークフローとして設計ステージを整理したのが大きな特長である(図-3)。
①については、前述の通り、大きな縮尺で検討される細かい詳細に引きずられて、大きな部分が何度もやり直しになるという「繰り返し」が生じていることがたびたび見られる。
こうしたやり取りは、より良い設計をするには必要なことではあるが、どちらかの検討が遅れると、1回で済むはずの調整が何度も必要になる、という検討の非効率が発生することにつながる。
②についても、本来、次の検討段階に進むことのできるはずの「標準プラン」部分で「特殊プラン」の検討を待つ手待ちの空白期間が生じたり、本来「標準プラン」の繰り返し部分については、少ないチェックで済むところを「特殊プラン」と混在してチェックを行うため、必要以上に繰り返しのチェックを行う、ということも見られた。
本ガイドラインではこうした点にも留意し、企画から実施設計までを一貫したBIM活用のワークフローとしてまとめている。
また、BIMデータ類もワークフローに合わせて作成している。
BIMデータ類の構成
設計BIMでは、作成するBIMデータの詳細度によって業務の質・量・作業時間が大きく異なる。
また、成果物の内容についても、その成果物がBIMデータから作成されるものか、2D-CADなど、ほかのソフトウエアで作成されるものかによって、業務量が異なってくる。
以上を踏まえ、ガイドラインでは、設計BIM遂行上必要となる決め事をEIR・BEPとして整理し、業務委託契約書を構成する添付文書の一つとしてまとめるとともに、その内容に基づくデータ類を整備している。
また、データ類の構成は、前述のワークフローに基づき「全体・共用」と「住戸」のデータを重ね合わせてBIMデータを構築している。
ステージごとに構築されたデータ類の概要(図-4)は以下の通りである。
企画(S0)、基本計画(S1)段階での検討に適した空間ボリュームとし面積などを事前に準備したのが住棟ボリュームモデルである。
また、ワークフロー改善策として、特に実用性の面で有効なのが、標準住戸モデルである。
住棟と住戸の設計を分けて検討できるように、住戸部分に特化したBIMモデルを設計ステージごとに作成している。
これらのモデルを活用することで、各図面の作成業務を無駄なく早く実行することが可能となる。
加えて、デザインや導入設備の検討を容易にするため、意匠標準住戸モデルとともに設備標準住戸モデルを作成している。
住戸の設計総合図は、建築モデルの情報、意匠躯体モデルの構造躯体寸法情報、設備モデルの情報を統合したものである。
これまで、各設計事務所で作成方法が異なっていたが、標準化を図るべく、一般的なUR賃貸住宅を標準タイプとしたモデルデータを作成した。
基本設計段階(S2)では、住戸概要(部屋タイプ名、面積、標準プラン、メニュープラン、特殊プランの別、標準からの変更点など)、平面図、仕上げ概要に加えて、設備モデルを重ね合わせ、スイッチ・コンセント、換気スリーブなどの整合性確認、実施設計段階(S3・S4)では、住戸概要平面詳細図、面積、仕上げに加えて、矩計図、天井伏図、展開図、断熱案内図、設備モデルの重ね合わせによる詳細状況、整合性確認が可能である。
今後の展望
今回の成果をガイドラインとデータ類として公開したのは、URのBIM推進、国の施策に対応し社会還元の一助になることを期待するものである。
前述の通り、URの業務に特化したものではなく、集合住宅一般で活用できる内容となっており、EIR、BEPの標準ひな形もURとの契約に限らず、集合住宅や類似用途の設計BIM契約一般に用いることが可能であり、広く活用されることを期待するものである。
公表したガイドラインおよびデータ類については継続して改定しており、今後もより活用しやすいものへブラッシュアップしていきたい。
併せて、URの設計業務での早期のBIM実装を目指して、設計業務の公募においてBIM活用の技術提案での評価を2023年度より開始している。
この動きに伴い、発注者側もBIMを効果的に活用できるワークフローの見直し、研修による啓発が不可欠であり、リテラシーを高めていく手だてを継続して実施していくものである。
さらに将来的には、施工段階・維持管理段階への情報連携と情報活用の検討、設計資料のデジタル化による設計BIMのさらなる効率化・高度化の検討を進めていければと考えている。
BIMの本格活用にはまだ解決すべき課題が多いが、今般の社会情勢において、その有効活用は重要であり、着実に取り組みを進めていきたい。
【参考文献】
1)Industrial strategy: Government and Industry in partnership,UK Government,2012
2)BIM adoptation around the world,Shimonti Paul,GE spatial world,12.2018
3)国土交通省:「建築BIM推進会議」HP
4)建築BIM推進会議:建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第2版)
5)建築設計三会:設計BIMワークフローガイドライン(第1版)
■UR都市機構のBIM・CIMの取組みhttps://www.UR-net.go.jp/rd_portal/UR-BIM/index.html
(集合住宅設計BIMガイドラインおよびデータ類がダウンロード可能)
【出典】
最終更新日:2026-08-17
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