書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。
橋梁エンジニア会社の溝橋調査ロボット開発への挑戦!
2026.08.31はじめに
弊社は東京都江戸川区に本社を置き橋梁維持管理の専門技術を提供する社員20名の企業です。
2005年に会社設立以来、設計コンサルタント様や建設会社様より仕事を頂き、橋梁を中心にコンクリートおよび鋼構造物の調査・診断、補修・補強設計などの維持管理関連の仕事を行っている会社です。
溝橋調査ロボット開発のきっかけは、今から3年ほど前から、溝橋の詳細調査の依頼が来るようになり、非常に狭隘な場所での調査となるため、調査員の安全確保と調査精度の向上を目的とし、水陸両用車の開発を始めたものです。
当初は汎用性の高い1タイプの開発を目指しましたが、実際に現場に行くと、現場ごとに条件が異なるため、そう簡単に調査できないことが分かり、フロートタイプ、クローラータイプと現在も開発を継続しています。
溝橋点検
橋梁点検での橋の分類としては、橋長が2.0m以上あれば橋であり、5年ごとの定期点検が義務づけられています。
その中には従来の橋の構造でないカルバート構造も含まれています。
一般的にこのような小さな橋は溝橋とも呼ばれており、桁下高さも1mに満たないものや、河床が流砂や塵などが堆積や、水深が深いものや浅いものなど、さまざまな条件があります。
人がその中に入って調査を行うには、物理的に困難なものや、危険を伴う場合が多く、人が行う調査環境としてはよい状態とは言えません(写真-1、2)。
発生している損傷の状態としては、小さな橋ではありますが、橋の上を車両が通行しているのは他の橋と同様であり、中には竣工から現在に至るまで内部を点検したことがないものもあり、損傷が著しく進展している溝橋も多く見受けられます。
また、橋梁点検の対象となる全橋梁数73万橋のうち、約40%が溝橋に当たります。
これは都市部に比べ地方に行くほど溝橋の占める割合が高くなり、いくら小さな構造物といっても、財源の小さい地方にとっては数が多い分、大きな負担となります。
溝橋ではありますが、陥没などを引き起こせば影響範囲は大きくないものの、第三者被害を招く可能性は大きく、点検で状況を把握しておくことは重要なことです。
溝橋ロボットの開発
水陸両用車の開発
写真-3、4が最初に開発した溝橋点検ロボット第1号(水陸両用車)です。
開発といっても駆動の仕組みや機能を立案し、実際の製作は専門の会社に委託しました。
製作の過程で車輪に付いている水をかくためのフィンをどの程度の大きさにしたらよいか、モーター出力の大きさ、直進性を高めるにはなど、製作会社と一緒に実験し部材を決めていきました。
ボディは3Dプリンターで製作していただきました。
この過程は私たちにとって子どもの頃に帰ったような感覚で、非常に楽しい経験をさせていただきました。
水陸両用車の開発コンセプトは、
1.水上、陸上どちらでも移動ができること
2.旋回、横移動ができること
3.パン・チルトカメラが装備できること
4.前方下に水中を確認できるカメラを設置すること でした。
写真-5は現場での使用状況の写真です。
フロートタイプの開発
写真-6~9がフロートタイプの溝橋点検ロボットです。
フロートタイプを製作したきっかけは、溝橋とは関係なく「都内の河川にかかる橋梁で、桁下の点検にUAVを使用して点検を行えないか」との相談がきっかけでした。
その橋梁を下見したところ、河川敷に遊歩道や公園などが設置してあり、橋梁上下ともに自転車や歩行者が往来する橋梁でした。
また、街中の河川であるため、桁下~水面までの高さが3m程度しかなく、UAVを適用できないことはありませんが、UAVを適用するには飛行以外の安全面などにかかる費用面が非常に高価となることが分かりました。
水陸両用車の適用も考えましたが、データの取得に非常に時間がかかり現実的ではありませんでした。
そこで、フロートタイプに一眼レフを積めば効率的に橋梁下面の写真撮影が行えると考え、急遽、フロートタイプの製作に取りかかりました。
このフロートタイプの製作に関しては、水陸両用車の製作時の楽しさに味を覚えてしまい、初めての試みで自社製作してみました。
弊社でも以前より3Dプリンターを3台保有しており、調査で使用する治具の製作やレーザースキャナーを使用する場合に用いる基準球、説明用の模型の製作などに使用していました。
今回は電子部品のほとんどをネットで注文し、本体のオレンジ色の部分を自社でデザイン、3Dプリンターで製作しました、部品の注文から製作まで約30日で製作し、その後、2度の改良を加えて、溝橋の調査においても活用をしています。
クローラータイプの開発
半年ほど前より、今度はクローラータイプの溝橋点検ロボットの製作を行っています。
それまでは、水陸両用車とフロートを使い分けて溝橋の点検を行っていました。
その中で、フロートタイプを利用する場合は、水位が20cm以上ある場合に使用しており、ほぼ問題なくデータを取得できます。
水陸両用車は基本的には水位が低い場合や土砂が露出している場合に使用しているのですが、そのような水路にはゴミが散乱し、土砂や石で河床の凹凸が激しいなど、橋によって適用条件が変わってきます。
そのような場合、データ取りに何回も往復させなければならず時間を要し、目標地点まで辿り着けないなど、調査橋梁の約半数はそのような問題に悩まされていました。
そのような中、展示会で知り合った建設業以外のモノづくりの専門家の方々の協力を得てクローラータイプの溝橋点検ロボットの開発に取りかかりました。
クローラータイプのコンセプトとしては、
1.起動力の強化
2.低水位(15cm程度)でも走行が可能
3.悪路に強い構造
4.シンプルな構造
5.一往復でデータ取得が完了する撮影システムの開発でした。
約半年をかけてプロト1の試作段階を経て、現在プロト2で調査に活用をしています(写真-10 ~ 13)。
なぜ自社開発か?
弊社は溝橋ロボット開発以前も、3Dレーザースキャナーによる点群の活用、UAV、SfMソフトの利用による画像からの現況の3次元モデルの利用など、さまざまな技術を取り入れ、調査、診断、維持管理工事での活用方法を模索してきました。
これは新技術を使うために取り入れているのではなく、私どものような素人集団でもプロ以上の成果を作り上げるにはどうしたらよいか、を考えて追求してきたものです。
これらの技術を取り入れながら、感じてきたことは、日本製がないということでした。
ソフト、ハードともに気が付けばほぼ全てが外国製でした。
気になりながら使用してきましたが、ここ数年、その心配が表面化してきました。
具体的には、
1.ソフトは維持費がここ数年で倍程度になり、維持が困難になってきている。
2.機材の修理に高額な費用や長い期間が発生してしまう。
3.世界情勢の変化により、ソフト、ハードともに入手が困難なケースが発生。
4.相手が外国企業であり、ユーザーとしての要望がほぼ通らない場合が多い。
このような状況の中、私たちが維持管理業務の中で、業務の変革を目指し取り入れていく機材やソフトウエアは、ある程度は日本で開発、製作したものでないと、われわれが描いている将来の維持管理は実現できないと考えるようになりました。
現状のままでは志も業績も流行に流され経営も安定せず、維持管理業務にとって最も大事な方々、実際に歩いて目で見て数々の点検を行っている方々まで浸透せず、開発と現場の乖離が一層激しくなると思います。
結果として現場は従来どおりのやり方にあまり変化はなく、経験豊富な高齢技術者は現場を去り、若手は興味すら持たなく、将来、点検はできなくなると考えています。
それは遠い先ではなく、あと10年もすればそのような事態が発生してくると思います。
このような状態を回避するべく、自ら使用する道具は自らでつくろうと開発を始めました。
モノづくりのプロたちの協力
溝橋点検ロボットの開発は前に述べたような背景の下、3年前から開発をスタートしました。
また、その1年後より画像診断支援ソフト(AI版)の開発にも着手しました。
溝橋ロボットの開発を進める中で、最初はプロの方にお願いしましたが、携わっていくうちに、元々、難しい物を作ろうとしているのではなく、ラジコンの延長線上のものだと思い、自分たちでも作れるのではないかと勘違いをし、フロートタイプは自社で作成してみました。
プロトではありますが、途中何度か失敗し作り直しましたが、自社で使用するには十分でした。
クローラータイプは、頑丈さと撮影システムの開発が主眼であり、弊社のみでは開発は難しく、展示会で知り合った社外のハード・ソフトの専門家(写真-14)の方々に協力をしていただきました。
その過程でパーツ選びにいろいろな会社を訪問させていただき、パーツそのものや製作過程を見せていただいたり、アイディアを出し合い議論したり、大変楽しい経験をさせていただき、モノづくりの過程を勉強させていただきました。
現在でも、私たちの業界で起きているさまざまな問題に対して、どのような物を開発したらよいか、常に情報交換をしています。
画像診断支援ソフト(AI版)の開発は、ほぼ終盤にさしかかり、2026年春頃にはリリースできる予定です。
スマートなソフトではありませんが、ユーザーの立場に立ってどのようなメニューがあったら効率化を図れるかを十分検討し開発しています。
弊社は開発も行っていますが、その前に維持管理業務の実務者集団でありますので、ユーザーの立場で考えることは最も得意なところですので期待してお待ちいただければと思います。
溝橋点検のアウトプット
現状の溝橋(橋長2.0m、延長10m~50m程度)の成果物としては、溝橋内面の3Dデータを作成し、側面、頂版の各面のオルソ画像を抽出し、損傷図の作成まで行う場合と、損傷部のスナップ写真撮影を行い損傷位置、写真を提出する場合があります。
対象物の特性や依頼主のご要望に応じて、その都度アウトプットの内容を決めています(写真-15、16)。
溝橋以外への活用
溝橋以外に下水道、農水路、街中にある集水路、発電施設の水路、共同溝など、ちょっとした改良や他の機材を組み合わせれば、さまざまな狭所での活用ができると思っています。
弊社で以前に実験的にLiDARを車のルーフに搭載して会社の周りの街並みを撮った点群データに3D-CADで架空の地下水路を重ね合わせ、過去に溝橋ロボットで撮影した損傷写真を結合し、模擬で地下水路調査デモデータを再現してみました(写真-17~19)。
これは架空のものですが、地上および水路内をデータ連結することにより、損傷要因の推定や損傷の影響度合い、緊急時の対応方法など、さまざまなデータの活用方法が考えられます。
このようにデータを一元管理することにより、今後の維持管理コストを抑え、正確な変化をとらえることにより、重大事故を未然に防ぐことが可能と考えています。
おわりに
私は40年間、橋のエンジニアとして現場、設計、維持管理に携わってまいりました。
あっという間の40年でした。
後半の20年は経営者として自分の思うように仕事ができたのは、社員をはじめ皆さまのおかげと感謝しています。
溝橋ロボットの開発を通じて、専門外の分野の方々とも知り合いになり、素人ではありますが一層勉強し、専門である橋梁維持管理分野がさらに未来へステージアップができるよう、橋梁維持管理、ハード、ソフト、モノづくりが融合した会社、仲間づくりを推進したいと思っています。
そして早い時期に、点検・調査において現場で苦労なされてる方々、高齢者にも若者にも楽しみながら安心して使用していただける製品を提供できるよう精進してまいります。
また、3D技術とロボットを融合させデジタルツインを実現させたいと思います。
よろしくお願いいたします。
最後にロボット、ソフト開発に関わってくださって、私たちに希望をくださっている技術者の方々に深く感謝いたします。
[技術協力会社]
RYAN ROBOTICS SYSTEMS株式会社
バイトム株式会社
【出典】
最終更新日:2026-08-31
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