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地方発!建設DXチャレンジ事例中小企業による次世代のICT施工に向けた展望と取り組み

2024年7月8日

はじめに

i-Constructionがスタートした2016年からICT施工に積極的に取り組み、最初の3年はICT建機による土木施工を行うことを重点に据えていた。
一方でUAV測量から3D設計データの作成、完成時の出来形測定までの一連の作業は外注に頼っていたため、国土交通省が目指す真の意味での生産性向上までは達成することができなかったのが実情である。
 
2020年、次世代のi-Constructionに対応すべく、自社内で3D設計データを作成するDX推進室を立ち上げ、高度な実績を持つ中堅および若手技術者を配置した。
測量会社から点群データを受け取りその点群から、設計変更に伴う2D図面の作成や、受注時に受け取る2D図面の3D設計データ変換やICT建機へのシームレスなデータ連携を自社内で対応できるようになった。
 
近年、BIM/CIM原則適用やICT施工StageⅡが提唱される中、さらなる生産性向上を目指すべく、紙ベースの図面を3Dに置き換え、業務改善による時間の有効活用、若手技術者の現場理解の促進、社内の省力化・省人化に取り組んでいる。
また北陸地方整備局阿賀川河川事務所を巻き込み勉強会の設立を提案、先日、第1回目を開催したところである。
 
 

3D土木技術者の育成

国土交通省による建設DXの推進やBIM/CIM原則適用に対応すべく、請負企業として責任ある施工を確保するために、先述のDX推進室の専属技術者がICT現場のサポートを行えるよう、会社の組織体制を見直した。
 
そもそも、彼らは道路・河川等工事の設計施工を熟知した土木技術者であり、新たに建設DXの技術を身に着けるべく、6カ月にわたり、これまで外注に頼っていたUAV測量、点群データ処理、3D設計、 ICT出来形管理の知識をゼロから習得した(図-1)。
 
これによりDX推進室では、土木工事の点群データの取得・3D設計データの作成・出来形測量まで全て自社内で実施できるレベルになり、利益向上につながった。

図-1
図-1

 
 

新たな時代(BIM/CIM原則適用・ICT施工StageⅡ)に向けて新技術の導入

2021年、株式会社EARTHBRAINとパートナーシップ契約を締結した。
これは国内トップクラスのICT 技術を保有する企業と協働することで、国土交通省が目指す真の意味での生産性・効率性のアップをより短時間で実現するための選択である。
 
 

若手技術者への伝承

これまで熟練技術者が培ってきたノウハウを、若手技術者へ伝えるための取り組みも始めた。
現場条件ごとの適正な機械配置や、ダンプ運行状態などを予測できるデジタルシミュレーション(図-2)を活用し、建機の種類や台数・運行ダンプの台数・ルートなどの諸条件を変えながら、最適な施工計画を確認した。
 
本来は建機や運行ダンプごとのサイクルタイムを計算し、最適な計画を立てるのが一般的であるが、サイクルタイムの予測をゲーム感覚で行え、かつ経験の少ない若手技術者でも最適な計画を検討できることは有意義であった。
普段から、これらの取り組みを進めておくことで、緊急災害時の資材の調達・機械などの選定にも活用できると考えている。

図-2
図-2

 
 

施工段階におけるフロントローディング

ICT建機用の3D設計データ作成においては、これまでのノウハウを生かし、自社内で作成を進めている。
一方、詳細な3Dモデルの作成は、通常の3D設計に加え、それぞれ表現したい構造物などの追加横断図を作成し構造物ごとに連携させる必要がある。
このような追加横断図の作成は、比較的、時間を要する作業となるが、人材育成に投資した結果、自社内での作業が可能となったため、思ったほど労力は必要としていない。
また、表現したいものが、地中の土質(図-3)だったり、補強土壁のように背面に長い部材を設置する構造物(図-4)だったりする場合、入力すると現況地山および隣接する構造物との取り合いが多方向から「見える化」により確認できるので、設計上の不具合・取り合いの問題点(図-4)を現場着手前に確認できる。
結果として問題などが発生した場合でも事務所に戻ったり、図面を確認したりするなどの現場での手戻り作業が軽減できた。

図-3
図-3
図-4
図-4

 
 

3Dモデル活用による課題発見・解決

熟練した技術者でも2D図面から着手前に全ての現場条件を把握し、施工箇所の取り合いなどの不具合を発見するは困難である。
 
昨今、全国の建設会社では中堅技術者が不足している。
そのため、若手技術者を確保、育成している会社がほとんどであると思われる。
 
当社も例に漏れず、中堅の30代後半~40代が極端に少なく、現在職場環境を改善し、若手技術者の確保・育成をしている段階である。
今後はこれらの若手技術者が活躍できるよう、3Dモデルを積極的に活用し、担当工事の着工段階から完成形までを確認でき、その過程で管理する工程、資材の調達、作業員の確保、発注者担当への不具合説明などが容易にできるように、これまで使用していた2D図面から3Dモデルへの変換を図っている。
このようにちょっとしたひと手間をかけることで、若手技術者があたかも熟練技術者のように現場の課題に気付き、説明あるいは解決策を検討することができる点で3Dモデルの活用は非常にメリットが高いと考えている。
 
 

BIM/CIMの取り組み①

:電子データの工事間連携

工事着手時・民間からの見積り依頼時など、現況の地形データがあらかじめ手元にあれば、わざわざ現況測量しなくても、早期に仮設計画・見積り作成対応ができる。
当社では、そのような観点で、現場完了時にICT施工ではない現場でもUAV測量により受注現場を含むエリアを中心に少し広げる形で点群データを取得し、担当工事以外の技術者でも活用できるよう情報共有環境を構築している。
 
今回、阿賀川河川事務所発注工事において、偶然にも隣り合う工事を連続して受注ができ、前工事の点群データ(図-5)を新規工事で取得した点群データと合成(図-6)することで、一部の除草・伐採の作業とUAV測量の簡素化が実現できた。

図-5
図-5
図-6
図-6

 
 

BIM/CIMの取り組み②

:5DViewerによる広域管理

自社で受注している複数の現場状況を日々把握することは困難である。
各現場は、広域に点在しており、数㎞または100㎞程度の離れているため、現場間の移動は有料道路を利用しても1時間以上かかることが常である。
生産性向上の一貫として、この移動時間を軽減すべく、採用したのが5DViewerである。
これは、現場ごとの進捗状況(図-7)、重機の稼働、運行ダンプの走行場所および渋滞状況(図-8)を事務所にいながらパソコンでリアルタイムに把握でき、何か問題や調整事項が発生する場合、現場担当者に改善の指示ができる。
また、各現場の3Dモデルもこのシステムを介して共有でき、別現場での3Dモデルの作成の軽減、いち早く発注者への説明に活用できるなど、移動時間以外にも効果があることが確認できた。

図-7
図-7

 
 

おわりに

建設業は高齢化が進み、有能な作業員・労働者が減る中、社会インフラ、とりわけ地域のインフラ基盤を支えるには弊社のような地場の建設会社の経営力、技術力向上は必須であると考えている。
今回、ご紹介した弊社の取り組みは、各担当者の工数削減という観点では効果が高かったと感じている、今後の持続性のある生産性向上のためには、限りある若手技術者を早急に育て、これまでの慣習にとらわれない、無駄の少ない新しい発想で実施できる建設工事になるように日々創意工夫とチャレンジ精神を持って、取り組んでいく所存である。
 
 
 

会津土建株式会社 DX室長
後藤 健一

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



自治体における建設DX―広島デジフラ構想とDoboXの構築―

2024年7月4日

はじめに

広島県では、2020年10月に策定した県の総合戦略である「安心▷誇り▷挑戦ひろしまビジョン」において、「県民一人一人が『安心』の土台と『誇り』の高まりにより、夢や希望に『挑戦』できる社会」の実現を目指している。
その実現に向けた施策横断的な視点の一つとして、「先駆的に推進するDX(デジタル・トランスフォーメーション)」を位置付けており、さまざまな分野でDXの推進に取り組んでいる。
 
具体的には、2019年7月に「広島県DX推進本部」を設置し、たちまち(取りあえず)始めてみるという考えのもと、実践意欲の向上に向けた機運醸成や、「仕事・暮らしDX」、「地域社会DX」、「行政DX」を柱とした、各分野におけるDX関連施策を実施している。
 
このような中、土木建築局においては、建設分野における調査、設計、施工から維持管理のあらゆる段階において、デジタル技術を最大限に活用し、官民が連携してインフラを効果的・効率的にマネジメントしていくため、目指す姿や具体な取り組み案をまとめた「広島デジフラ構想」を2021年3月に策定し、現在50の取り組み(県土全体の3次元デジタル化、個人ごとに異なる災害リスク情報のリアルタイム発信、AIなどを活用した地形改変箇所などの抽出、除雪作業における支援技術の構築、建設分野におけるデジタルリテラシー向上に係る研修の実施、DX推進のための官民協働体制の構築など)を進めている。
 
本稿では、広島デジフラ構想に掲げる取り組みの一つである「インフラマネジメント基盤(DoboX:ドボックス)※1」の取り組みについて紹介する。(※1:インフラマネジメント基盤の呼称。「土木」と「DX」を掛け合わせた造語)
 
 

DoboXの概要

DoboXとは

DoboXは、公共土木施設等に関するあらゆる情報を一元化・オープンデータ化し、外部システムとのデータ連携を可能とするデータ連携基盤であり、2022年6月に運用を開始した。
 
主な機能として、データの「公開機能」・「集約機能」・「管理機能」があり、「公開機能」では、浸水想定区域や土砂災害警戒区域などの災害リスク情報、公共土木施設の情報などを、2Dや3Dのマップ上で重ね合わせて確認することや、これまで行政内部で利用していた情報を、オープンデータとして誰でも利用することが可能である。
「集約機能」では、既存システムからデータを自動で取得することやDoboX内に手動で登録が可能である。
「管理機能」では、データ公開範囲や利用者の閲覧権限などの設定が可能である(図-1)。

図-1 システム概要図
図-1 システム概要図

 

DoboX構築のきっかけ

広島デジフラ構想における取り組みの方向性を検討する中で、インフラデータの活用に着目した。
 
例えば、激甚化・頻発化する自然災害への対応である。
本県では、平成30年7月豪雨により、県内全域で土砂災害や河川の氾濫が多数発生し、多くの尊い命が奪われたほか、県民生活や経済活動の基盤となるあらゆるインフラにも多大な被害が生じた。
このような大規模災害などによる被害を防止または軽減させるためには、デジタル技術やデータを活用し計画的なハード整備や維持管理をより効果的・効率的に推進することに加え、災害リスク情報などの的確な発信や防災教育の高度化など、ソフト対策のさらなる充実・強化が必要となった。
 
続いて、行政分野におけるデジタル化やデータ利活用の遅れへの対応である。
 
土木建築局では、これまで個々の業務においてシステム導入などによる効率化を進めてきたが、いまだ書面・対面で行う業務が多く残っていた。
また、インフラデータに関しても、個々の業務ごとに構築されたシステムなどの要因により、道路・河川などの分野間や国、市町などの施設管理者間でのデータ連携ができておらず、オープンデータ化も進んでいなかった。
 
このような状況を改革し、安全・安心や利便性などの県民サービスのさらなる向上、新たなビジネスモデルへの転換につなげるために、インフラデータを官民で利活用できる仕組みが必要と判断し、全国に先駆けてインフラ分野に特化したデータ連携基盤を構築することとした。
 

DoboX運用開始までの流れ

DoboXは、広島デジフラ構想に掲げるさまざまな取り組みを進める上で核となる基盤であることから、早期に運用を開始する必要があった。
そのため、構想策定と同時並行で構築に必要となる検討を実施し、構築期間を含めて約2年という短期間で運用を開始することができた。
 
DoboX構築に当たって実施した検討業務などの内容は、次のとおり。
 
①基本事項検討業務
DoboXが具備すべき機能などを明確にするため、保有データの棚卸しや先行事例などの調査を実施した。
具体的には、土木建築局内全課およびインフラデータと親和性が高いデータを保有している企業局や農林水産局、危機管理監も含めた18課が保有する、49システム・データについてヒアリングを実施し、システム構成や運用状況、データ形式などの現状と連携に当たっての課題をとりまとめた。
また、国内外の先行事例60件を調査し、データプラットフォームの活用事例や運営体制などを整理するとともに、本県の目指す取り組み像に近い5事例を選定し、システムの詳細やデータ連携の可能性などに関する個別ヒアリングを実施した。
 
これらの調査結果を踏まえて、DoboXを活用した取り組みの全体像(図-2)をとりまとめ、データカタログ機能やアプリケーション機能など、基盤に必要となる機能を整理した。

図-2 DoboXを活用した取組の全体像
図-2 DoboXを活用した取組の全体像

 
②仕様など検討業務
基本事項検討の結果を踏まえ、先行して一元化を進める21システム・データの詳細調査やデータ連携方式の検討、システム機能要件やシステム構成などの詳細な仕様の検討、DoboX 構築等に対する意見募集やRFIを実施し、DoboXの調達仕様書を作成した。
 
③DoboX 構築業務
さまざまなデータの相互連携・共有を可能とするためには、変化に柔軟に対応できるオープンなデータ連携基盤を構築する必要がある。
DoboXの構築に当たっては、セキュリティーの確保を大前提に、アジャイル・オープン・UI/UX・などを基本理念として掲げ、プロポーザル方式により構築事業者を選定した。
提案書の評価に当たっては、特定の事業者の技術や製品、非標準的な形式や技術仕様などに依存しないシステムの実現可能性が評価の決め手となった。
 
業務着手後は、データ提供元システムとの連携調整や直前の機能追加要望などに苦労しながらも、アジャイルに対応し、2022年6月28日に運用を開始した。
 

システム構成など

DoboXは、スマートシティリファレンスアーキテクチャの設計に従い、汎用的なオープンソースのソフトウエア(Swagger、laravel、FIWARE、CKAなど)を使ってパブリッククラウド(AWS)環境上にスクラッチで開発しており、拡張性が高い(ベンダロックがかからない)基盤としている。
 
DoboXに一元化したインフラデータをサービス利用者へデータ提供する。
 
手段としては、カタログサイトからの提供に加え、オープンAP(IRESTAPI)でのデータ提供が可能である。
データはJsonに加え、県が有するインフラデータの形式(Shape、txt、jpegなど)で提供する(図-3)。

図-3 システム構成図
図-3 システム構成図

 
また、将来的に他の都市OSとの連携に備え、NGSIに準拠したAPIを有するFIWARE Orionを基盤導入しているが、利用シーンと対象データは検討中である。
 
 

DoboXの利用状況およびDoboXを活用した新たなサービスの提供

DoboXの利用状況

DoboXの運用開始後の利用状況(2022/6/28~2023/10/31)として、3Dマップなどの可視化コンテンツの閲覧が16,465回、オープンデータのダウンロードが536,003回となっている。
また、オープンデータの具体的な利用方法をアンケート調査などにより確認した結果、地域の防災活動や民間企業が所有する設備の被災リスクの確認、大学での研究などで利用されていることが確認できたほか、民間企業において、災害リスク情報などのデータを利活用したアプリケーションの開発も進んでおり、一部地域において試行運用されている。

表 公開データの利用状況
表 公開データの利用状況

 

DoboXを活用した新たなサービスの提供

データの利活用を進めるためには、保有データを公開するだけでなく、実際のサービスにつなげていく取り組みを実践することが肝要である。
DoboXでは、デジタル田園都市国家構想推進交付金を活用し、次のサービスの提供を開始しており、引き続き、新たなサービスの実現に取り組むこととしている(図-4)。

図-4 DoboX を活用したサービス提供のイメージ
図-4 DoboX を活用したサービス提供のイメージ

 
ア.建設事業者をターゲットとした3次元地形データの提供
DoboXで公開した3次元地形データなどを工事図面の作成や建設現場での施工管理などで活用し、生産性向上につなげていく。
2022年度には、中国地方整備局が構築した「3次元点群データ共有プラットフォーム」と「DoboX」をデータ連携することで、広島県内全域の3次元地形データ(グリッドデータ、等高線データなど)を取得することが可能となった※2(※2:国データは、当面の間、建設事業者のみを対象に公開)。
 
イ.自主防災組織をターゲットとした災害図上訓練アプリの提供
自主防災組織による避難の呼びかけ体制構築を支援するため、危機管理部局と連携して、一元化したデータの可視化機能を活用した災害図上訓練を実施した。
当時、災害図上訓練はコロナ禍で実施することが難しくなっていたが、現地での開催に加え、オンラインでの実施も可能となり、防災意識の醸成や体制強化につながった。

図-5 災害リスクマップを活用した取り組み事例
図-5 災害リスクマップを活用した取り組み事例

 
ウ.瀬戸内海島しょ部の観光客をターゲットとした航路情報などの提供
瀬戸内海島しょ部における観光ニーズに即した交通インフラやサービスを提供するため、民間観光MaaSアプリにDoboXから瀬戸内海の航路情報を連携し、官民データを組み合わせて観光客に発信できるようになった。
加えて、旅客船事業者と連携して観光クルーズ船の利用者データを継続してDoboXで公開することとしており、観光関連事業者や旅行アプリサービス事業者による新たな旅行企画の造成やおもてなし体制の強化などにつながった。
 

DoboXを活用した新たなサービスの創出

データ利活用の重要性・有用性の発信や次世代を担うデジタル人材の育成などを目的として、DoboXにて公開しているデータを用いて製作した地域課題の解決に有効なアプリケーションやアイデアについて、コンテストを開催し、優秀作品を選考した(作品募集:2023年10月2日~11月30日)。

図-6 データ利活用コンテスト
図-6 データ利活用コンテスト

 
また、コンテストの開催に先立ち、プログラミングの経験のない方でも気軽に応募できるようアプリケーションの開発などを支援するイベントであるハッカソンを2023年9月16、17日に開催した。
このイベントには、IT関連事業者や、建設事業者、学生など22名が参加し、参加者と職員が協働して地域の課題解決に取り組み、アプリケーションやアイデアが提案された。
 
その他にも、大学の講義でデータ利活用のアイデアソンを開催するなど、次年度以降も継続的にデジタルリテラシーの向上や新たなサービス・付加価値の創出などにつながる取り組みを推進していくこととしている。

図-7 ハッカソン
図-7 ハッカソン

 
 

おわりに

DoboXの運用開始後、多くの自治体や民間企業の方からDoboXに関するお問い合わせがあり、本稿でご紹介した内容を中心に、ざっくばらんに情報提供させていただいている。
本稿でご紹介できなかった公開データや実際の機能については、DoboXポータルサイトからご確認いただきたい。
 
DoboXはインフラ分野に特化したデータ連携基盤であるが、基本クラウドネイティブ(AWS上の機能で実現)、加えて、ベンダ固有技術・ソフトウエアを利用しない(オープンソースソフトウエア利用)、OpenAPIでの連携、共通語彙基盤や標準データセットに準じたデータカタログとすることなどにより、連携(取得・公開)機能やカタログ・可視化機能において高い柔軟性や拡張性を確保しており、汎用的にデータ連携できる基盤となっている。
政府が進めるデジタル田園都市国家構想の実現に向け、今後、さまざまな自治体でデータ連携基盤の構築が進むことが想定されることから、本稿が、基盤構築を検討される皆さまの一助となれば幸いである。
 
今後も、オープンデータの充実、データ連携の拡大を進めるとともに、さらなるデータの利活用につながる取り組みを推進するなど、建設分野のDXの先導役を果たしていきたい。
 

 

 
 
 

広島県 土木建築局 建設DX担当 主任
岡本 建人

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



BIM人材育成の指針・目標となる新たな資格制度「BIM利用技術者試験」の創設

2024年7月2日

BIM利用技術者試験創設の意義

大手ゼネコンやハウスメーカーを中心に、即戦力となるBIM人材の需要が高まってはいますが、社内における人材育成には時間がかかり、教育環境を整えるのは企業にとって大きな負担となります。
また、人材派遣企業においても既存の登録人材にはBIMに精通した人材は少なく、登録者に対するBIMの教育が進められている状況です。
 
一方、将来的に貴重な戦力となる人材を輩出すべき教育機関においては、BIM教育(オペレーション教育)がようやく進み始めた段階で、BIMソフトが基本的に無償で導入できる一方、BIMを教育できる人材が少なく、販社や教育関連企業などの外部に頼っている状況です。
また、大学においては、BIMを含めた建築の情報化に積極的な指導者の有無で、その取り組みが大きく異なっています。
 
このような状況の中、BIMの技術や知識を体系化し、企業がBIM人材を獲得する際にどの知識や技術を求めているかを視覚化する=資格制度の利用が求められています。
さらには、建築業界に長く従事しているベテラン社員や定年後のシルバー人材へのリスキリング・リカレント教育(学びなおし)のコンテンツとしてのBIM活用においても、知識や技術の資格化は有用です。
 
一般社団法人コンピュータ教育振興協会(以下、ACSP)では、30年に及ぶCAD資格の主催・運営を通じて得たノウハウをベースに、BIM人材育成の指針・目標となる新たな資格制度として、「BIM利用技術者試験」を2023年6月より開始いたしました。
 
 

第一歩は「建築系の3次元CAD試験」

ACSPが建築系の3次元試験の検討を始めたのは、2005年のことです。
翌2006年に向けて、2次元のCAD利用技術者試験制度を機械系と建築系の専門分野に分け、より実務的な試験制度へと改訂することを当時の試験委員会へ提案した際、委員のメンバーであった渡辺仁史先生(早稲田大学理工学部建築学科教授=当時)より、「新たに建築分野に取り組むのであれば、2次元ではなく3次元を取り上げるべきではないか」とのご意見をいただいたのがきっかけでした。
 
渡辺先生は、教育現場においていち早く3次元CADによる建築設計を取り込んでおり、今後の建築界は3次元設計が主流になるとの考えから、CADの試験制度においても3次元を取り入れた方が良いとのお考えでした。
すでに2003年度から製造系・機械系の「3次元CAD利用技術者試験」が開始されていたことも、「次は建築系も」というご意見を後押ししたものと思われます。
 
ただ当時は、2次元CADの試験を機械系と建築系に分けるための準備に追われていたことや、当時の建築系3次元CADの機能がソフトによって大きく異なっていたこともあり、ACSPが信条としていた「特定のベンダー、ソフトによらない試験」という制約の下では、具体的な計画までは進みませんでした。

 
 

建築系3次元試験の創設

建築系3次元CADの試験化が具体的に動き出したのは、国土交通省が「官庁営繕事業におけるBIM導入プロジェクトの開始」を宣言した2010年のことです。
といっても、この段階で「BIM」の試験を標榜していたわけではなく、「特定のベンダー、ソフトによらない試験」という制約下でできる当時の最大限の共通機能が、「プレゼンテーション」「パース」であったことから、翌2011年の開始に向けて建築系・汎用系の3次元CADシステムやCG /グラフィックソフトを用いた建築3Dパースの評価・表彰制度、「建築3Dパース検定」制度を立ち上げました。
 
検討段階から「建築」「3次元」「パース」という3つのキーワードを試験名に盛り込むことを決めていましたが、当時のパンフレットやWebページにも「BIM」という言葉は一切見当たりません。
もし試験の開始が1~2年遅くなっていたら、「BIM」という言葉を使った試験名称になっていたかもしれません。
 
「課題提出型」という新たな方法で開始した「建築3Dパース検定」はその後、「Space Designer検定試験」というインテリアのプレゼンテーション・パースを評価する制度へ姿を変え、現在も行われています。

パース検定のパンフレット、表彰作品
パース検定のパンフレット、表彰作品
パース検定のパンフレット、表彰作品2
Space Designer検定パンフレット
Space Designer検定パンフレット

 
 

いよいよ「BIM」の検定試験創設へ

2011年に「建築3Dパース検定」を立ち上げ実施していく中で、建築系の3次元が「BIM」という新たな概念で進化し、「BIMソフト」なるものが市場に出てきたことは認識していました。
しかし、ソフトの種類が限られ、またCADの試験でお世話になっている教育機関でのBIMへの取り組みはまだ進んでおらず、「いつかはBIM」と思いながらも時期尚早との判断から、具体化は進みませんでした。
 
そんな状況を一変させたのが、2018年 8月にbuildingSMART Japan(以下bSJ)の「BIM個人能力認証(現「プロフェッショナル認証制度」)」に関するワーキングへのオブザーバー参加でした。
ワールドワイドで展開されるこの認証制度を日本国内で展開するにあたり、認定制度の運営に関するノウハウを持つACSPに対して意見を求められたのです。
 
このワーキングへの参加をきっかけに、ACSPとしてもBIMについての情報収集を改めて開始し、2019年には教育機関や派遣会社などへのヒアリング、2020年初頭には建築関係のカリキュラムを持つ全国570校の教育機関への調査を実施し、具体的な試験化への検討を行いました。
 
教育機関へのヒアリングや調査を通じBIM試験に求められたことは、
①会社ごとに異なるBIMの「ルール」の認識
②企業側の採用基準の指標となる
③「学びなおし」への対応
の3点です。
①については、「企業ごとにルールが異なる」ことを実務を知らない学生へ意識付けする必要があり、②についてはBIMの技術や知識を体系化し、企業がどの知識や技術を求めているかを視覚化することの必要性、そして③については、建築業界に長く従事しているベテラン社員(定年間近の)への再教育のコンテンツとしてのBIM活用=枯れた人材が貴重な戦力となる、という点でした。
 
実施に向けた裏付けとなる資料も調い、いよいよ2021年度には試験化をと意気込んでいた矢先、コロナ禍に行く手を阻まれてしまいました。
 
 

コロナ禍からの再始動、そして試験体系の構築へ

2020年度は、CADの試験制度創設以来初めて全国一斉で試験を中止とするなど、前例のない状況に戸惑うばかりの1年でした。
新しい事業を始めるような余裕もなく、せっかく進みかけていたBIMの試験制度もペンディングを余儀なくされましたが、約1年半のブランクを経て、2021年10月にBIMの試験制度実施に向けた「検討会」を実施しました。
 
ACSPのBIM試験制度が目指したものは、「単にBIMのオペレーション技能を評価するばかりでなく、BIMを活用した建築・建設業務において基本的なコミュニケーションができる能力を評価する」というものでした。
BIMの技術や知識を体系化し、受験者が保有している知識や技術を視覚化する。
そして受験対象者は、BIMオペレーター/モデラーやBIMマネジャーを目指す建築・建設業務既職者および学生、つまり企業へのBIMの導入を後押しできる人材の育成としました。
現在BIMを学んでいる学生や、すでにBIMオペレーター/モデラーとして活躍しながらも、将来的にBIMマネジャーやBIMスペシャリストを目指している既職者、さらには建築業界に長く従事し、建築の知識は十分持ちながら、BIMを学ぶことで新たな戦力として活躍できるベテラン層を対象とし、上記を実現するため、 CAD利用技術者試験で培った「知識+技能」を問う試験とすることも、当初より想定していました。
 
合格者像は「建築の基本的な知識を持ちつつ、BIMソフトのオペレーション能力と、 BIMモデルの利活用に関する基本的な幅広い知識を有する人材」とし、知識試験では建築の基本的な知識はもちろん、BIMの用語や各ワークフローにおけるBIMの活用手法、メリット、IFCなどのデータの知識を含めた運用に関する基本的な知識を問う筆記試験=2級試験、実技試験ではBIMソフトを利用したオペレーション能力と建築の基礎知識(図面の読み描き)を2段階のレベルで評価する試験=準1級、1級としました。

受験対象者と試験体系の図
受験対象者と試験体系の図

 
 

知識試験(2級試験)への取り組み

2級=知識試験を検討するに当たりまず取り組んだのは、BIMの知識を体系化し、学習用のテキストを用意することでした。
そのための執筆者の選定を進める中で出会ったのが、2020年8月に出版された「建築・BIMの教科書BasicⅠ」という書籍でした。
「BIM教育研究会」を編著者として日刊建設工業新聞社から出版されたこの書籍は、その名の通り、建築分野におけるBIMをゼロから学ぶ人のために必要な知識が1冊の書籍に網羅されており、監修者や編著者に名を連ねている方々も、建築教育界の著名人です。
「BIMの知識を体系化」という点で、この書籍に匹敵するACSPのオリジナルテキストの作成は難しいと判断し、この書籍を2級試験の「推奨書籍」として利用できないか打診し、出版社ならびにBIM教育研究会からの承諾を得ることができました。
 
この研究会は、その後「一般社団法人BIM教育推進機構(以下、BIMEO)」へ移行し、2023年5月には、ACSPの大髙代表理事とBIMEOの佐野理事長の協議により、検定試験を通じてBIMの人材育成への取り組みを開始、さらにACSPの「2次元CAD利用技術者試験」の1級(建築)試験委員会の委員長であり、BIMEOの理事でもあるエーアンドエー株式会社の木村謙氏にBIM利用技術者試験委員会の委員長へ就任いただき、体制固めを行いました。

BIMの教科書
BIMの教科書

 
 

「BIMらしさ」をどう実技試験へ盛り込むか?

2級試験の準備が着々と進む中、実技試験である1級・準1級の準備は困難を極めました。
CADの検定試験を長く実施してきたACSPですが、BIMが単なる設計・モデリングツールではなく、企画から設計・施工・維持管理までの情報を一元化したデータベースである点、出図機能やシミュレーション機能などを持つ点、さらにソフトによって微妙に機能が異なるという点を実技試験に盛り込むとなると、これまでのノウハウだけで実現できるものではありません。
作問会社を選定し、サンプル問題を作成しては検討会でダメ出しされ、結局、作問会社は1社、2社とギブアップする始末。
なんとか形が出来上がったサンプル問題を使い、実際にソフトを使用している方々にサンプル問題を解いていただくという「トライアル」を2023年1月に実施しましたが、期待していたような評価は得られませんでした。
 
検討会やトライアルで出された意見として、最も難しかったのが、「BIMらしさ」の実現です。
前述の通り、BIMソフトはCADソフトとは異なり、非常に複雑な機能を有します。
受験者のBIMオペレーション能力を評価するためには、これらの機能を試験の中に網羅し、解答結果としてアウトプットしてもらう必要があるのですが、 1級、準1級それぞれにBIMのどの機能を試験に盛り込み、どのような形でアウトプットしてもらうか、そもそもそれで試験問題が成立し、採点ができるのかなど、多くの問題点を抱えていたのです。
 
これらを解決するためには、できるだけ多くの方、そしてソフトごとの機能を熟知している方に作問に関わっていただく必要がありました。
最終的にRevit、ArchiCAD、Vectorworks、GLOOBEの4製品を受験対象ソフトとして選定し、各ソフトのスペシャリストの方にお集まりいただき、過去に作成したサンプル問題をベースにして1級、準1級それぞれの対象となる建築物の規模、提供する図面などの情報、そして受験者からのアウトプット(解答などの提出物)を検討いただきました。
 
度重なる検討、そして修正の結果、2023年10月に改めてサンプル問題案が完成し、12月の公式Webサイトでの公開に向けてさらなるブラッシュアップを図っています。
12月に公開するサンプル問題では、準1級の問題とテンプレート、そして1級の問題、課題モデル、テンプレートを用意。
2024年度から開始する実際の試験の問題と同形式でサンプルを提供し、試験に向けた学習の参考としていただきます。

実技試験のサンプル問題の一部
実技試験のサンプル問題の一部

 
 

長いトンネルの先に見えたもの

複数ソフトによる実技試験の実現という難題をようやく克服し、なんとか形を作り上げましたが、試験の運用方法については、まだまだ検討すべき事項が残っています。
また、実際に試験を開始しても、試験として安定するまでには、かなりの時間を要することになるでしょう(現状の3次元CAD利用技術者試験がそうであったように……)。
 
また、国土交通省も、2025年以降の建築申請におけるBIMデータの具体的な利活用に向けた準備を進めていることから、こうした国の動きに合わせて、試験問題の傾向も見直しを図っていく必要があるかもしれません。
 
ただ、約10年にわたって取り組んできた建築系3次元の試験化が、「BIM利用技術者試験」として一応の結実を見た今、達成感とともに、多くの関係者からのこの試験制度へ期待する声をいただき、改めて背筋が伸びる思いがいたしました。
5年後、10年後にBIMの定番資格となっているか、ご期待ください。

 
 

「BIM」を担う技術者の育成に向けて

本試験にはCAD利用技術者試験の「建築版」を立ち上げるところから関わらせていただいており、当時は「BIM」という言葉もなかったと思いますが、そのときに目指していたものが形となって現れ始めたのを見ると感慨深いものがあります。
当時の問題意識としては、産業別にソフトウエア利用の技能が異なるだろうということ、三次元的な可視化技術がより一般的になるだろうということで、3次元CAD利用技術者試験の建築版ということから始まっていたように記憶しています。
 
BIMという言葉が登場し、設計のために使うソフトウエアが「CADソフト」から「BIMソフト」へと変わると言われるようになり、そうした趨勢に呼応して準備が進められることになりました。
BIMと銘打つと、そこに期待される内容は幅広いのですが、まずは基礎となるモデルや図面を作るためのソフトウエアを操作する技術と、その技術を使う職場で必要とされる知識背景を身につけることを試験制度の目標としています。
 
人材育成やBIM技術者の資格については、建築BIM推進会議の当初の工程表に含まれています。
しかし、現在はBIMを利用した建築確認に焦点を当てているため、これに関する議論はまだ公にはされていないようですが、その実現のためにはより多くの技術者の育成が必要となります。
「BIM利用技術者試験」としても、一人でも多くの技術者育成につながるよう、引き続き関係する皆さまと「建築BIMの将来像」へ向けた活動を続けていく所存です。
 

 
 
 
BIM利用技術者試験委員会委員長 木村 謙 氏
エーアンドエー株式会社プロダクト本部 本部長
一般社団法人BIM教育普及機構 理事
2次元CAD利用技術者試験 1級(建築)試験委員会 委員長
木村 謙 氏

 
 
 

一般社団法人 コンピュータ教育振興協会(ACSP)

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



官庁営繕におけるBIM活用の取り組み

はじめに

官庁施設(国家機関の建築物)には、庁舎をはじめ、研究施設、図書館、博物館、社会福祉施設など、さまざまなものがあります。
国土交通省大臣官房官庁営繕部では、官庁施設を整備するとともに、それらが適切に保全されるよう各省庁への指導を行っています。
 
国土交通省では、インフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向け、建築BIM推進会議を設置しています。
本会議では、建築分野におけるBIMの進展を目指して幅広い検討が進められています。
 
官庁営繕部では、それらの検討成果を踏まえ、官庁営繕事業におけるBIM活用、活用結果を踏まえた技術基準の制定・改定など、BIM活用による生産性向上に向けた取り組みを進めています。
 
 

これまでの取り組み

官庁営繕部では、2010年度から新営設計業務においてBIMの試行に着手し、試行を通じて得られた知見を踏まえ、「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成および利用に関するガイドライン」(以下、BIMガイドライン)を2014年3月に策定・公表しました。
BIMガイドラインは、官庁営繕事業における設計業務または工事の受注者によるBIMモデルの作成および利用に当たっての基本的な考え方、留意事項などを示したものになります。
 
その後も設計業務や工事においてBIMの試行を継続し、試行を通じて得られた知見を踏まえ、受発注者双方がBIM活用を円滑かつ効率的に実施できるよう技術基準の制改定を行ってきました。
 
2022年度には、「官庁営繕事業における一貫したBIM活用に関する検討会」(座長:芝浦工業大学 蟹澤宏剛教授)においてご意見をいただきながら、「官庁営繕事業におけるBIM活用ガイドライン」の改定を行い、ガイドライン名称を変更するとともに、BIM活用の考え方に関する記載を追加しました。
また、「官庁営繕事業におけるBIM活用実施要領」の新規制定を行い、ガイドラインに基づきBIM活用する場合の実施上の手続き、EIRの作成要領、EIRの様式を示しました。
 
これらの技術基準は、官庁営繕部HPに公表するとともに、各省庁や地方公共団体の関係者に参照いただけるよう周知しております。
 
 

2023年度の取り組み

2023年度は、これまでの取り組みを踏まえ、全ての新営設計業務および新営工事に、BIMに関する発注仕様書であるEIR(Employer’s Information Requirements)を原則適用し、本格運用に向けた取り組みを開始しました(図-1)。

図-1 EIRを適用した設計業務、工事
図-1 EIRを適用した設計業務、工事

 
EIRでは、延床面積3,000m²以上の新営設計業務にはBIM活用を指定する項目を、全ての新営設計業務および新営工事にはBIM活用の取り組みを推奨する項目を設定しています。
また、工事受注者へ設計業務成果品のBIMデータ(設計BIMデータ)を説明した上で貸与する旨を記載しています。
 
図-2に、EIRに設定するBIM活用の項目を掲げています。

図-2 EIRの記載事項
図-2 EIRの記載事項

3,000m²以上の設計業務では赤字の2項目、基本設計の外観・内観の提示、実施設計の一般図などの作成を指定項目とし、それ以外では表に掲げる項目を推奨項目として設定しています。
また成果品については、設計業務において指定項目として実施設計図書の作成を設定した場合に、設計BIMデータおよびBIMデータ説明資料の提出を求めています。
設計BIMデータの工事受注者への貸与については、BIM伝達会議を開催し工事受注者へ設計BIMデータを説明する運用としています。
 
また、2023年度より、BIMデータの形状情報や属性情報などから取得した情報に、積算に必要となる条件やデータなどを追加して積算数量の算出を行う「BIM連携積算」の試行に着手しました(図-3)。

図-3 BIM連携積算の試行イメージ
図-3 BIM連携積算の試行イメージ

 
対象は、延床面積3,000m²以上の新営設計業務のうち、官庁営繕部が指定する業務としています。
また実施項目は、試行要領において構造体や非構造部材の数量算出などを定めていますが、全て実施することを求めておらず、契約後、計画書に基づき調査職員と協議し実施項目を決定することとしています。
 
今後、試行により効果や課題を把握するとともに、効率的なBIM連携積算の実施に向けたBIMデータの入力ルール、設計担当者と積算担当者のワークフロー(役割分担)などを整理することを予定しています。
 
 

おわりに

官庁営繕部では、業界団体とも連携し、引き続きBIM活用を推進することで、設計業務および工事の品質確保および事業円滑化を図っていく予定です。

※(参考)官庁営繕部HP
(参考)官庁営繕部HP

 
 
 

国土交通省 大臣官房 官庁営繕部 整備課施設評価室

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



BIM積算の現状と課題

はじめに

近年、BIM積算の相談や業務が増加しており、関心の高まりと期待の大きさを感じます。
 
BIMはモデリングしたオブジェクトの数量が集計表に即時反映されます。
この特性から、「積算の自動化や大幅な効率化が図れるのではないか」、「設計しながらコストシミュレーションができるのではないか」といった期待を抱く人も多いのではないでしょうか。
 
中小規模の積算事務所である私たちは、期待というより、積算業務がなくなるかもしれないという不安からBIM積算の検証を始めたというのが正直なところです。
 
「2020年頃にはBIM積算が定着しているだろう」と予測していましたが、幸か不幸か、現在も従来の積算業務と並行してBIM積算の普及に努めています。
当初は出口の見えない混沌とした状況でしたが、ここ数年でようやく輪郭と道筋が見えてきました。
 
しかし、画一的なワークフローでBIM積算を行うのはまだ難しく、そこには「標準化の壁」が立ちはだかっていると考えます。
 
 

標準化への動き

2023年度に、国土交通省が「官庁営繕事業におけるBIMデータを活用した積算業務」の試行を開始し、BIMデータの積算活用について効果検証を行うことを発表しました。
積算対象として指定されている部位は限定的ですが、躯体のほか、間仕切下地や外壁、外部開口、内部開口などの仕上げや建具も含まれています。
 
この取り組みは、BIM積算において大変意義深いことです。
国が主導して検証を進めることで、標準化への動きがさらに加速化することを期待しています。
 

なぜ標準化が必要なのか

2023年3月に国土交通省が提示した「建築BIMの将来像と工程表」では、「横断的活用の円滑化による協働の実現」として、「属性情報の標準化」や「BIM積算手法の策定」といった具体的な取り組みが明示されています。
社会全体で共有するBIMデータの基準が確立されることで、事業者間やプロジェクト間でのスムーズなデータ共有や引き継ぎが可能になります。
 
「属性情報の標準化」の利点について、 BIM積算の視点でもう少し詳しく説明していきます。

出典:国土交通省
出典:国土交通省

 
 

無秩序なデータベースを体系化する

BIMデータは、建築物の形状や仕様などの膨大な属性情報を集約した「データベース」です。
 
これをExcelのような2次元の表型データベースに置き換えるとイメージしやすいかもしれません。
BIMにモデリングされた部材一つ一つの識別子がExcelの列タイトルに当たり、属性項目名が行タイトル、属性データが各セルの値に相当します。
BIMモデルに新しい部材をモデリングするたびに、列が増えてくイメージです。
列タイトルの識別子(項目名)の付け方は、基準(ルール)がなければ、設計者に委ねられます。
例えば部位が「柱」であれば、識別子は “構造柱”、“column”、“C1”…と、設計者によってさまざまな表現が使われます。
 
寸法も、幅や高さといった文字で表現する人もいれば、Dx、Dyというように記号で表現する人もいるでしょう。
このように、統一された基準がないとデータベースの利用者は柱の情報がどの列に格納されているのかを特定できません。
つまり、データベースの設計仕様(規則)がないと、それぞれの列の値が何を意味しているのか分からず、利用しづらくなります。
 
そこで、まずデータベースを正規化します。
正規化とは、データベースにどのような規則で何の情報が含まれているのかを整理し、目的のデータを識別できるように体系化することです。
 
利用者が、この正規化の作業を省略して、すでに整理体系化されたデータベースで作業できれば、その後の作業のワークフローを定型化できるため、大幅な効率化や自動化が可能になります。
 
規模や用途の異なる多種多様な建築物を、全て同じデータベース仕様で作ることは現実的に不可能ですが、一部の共通的な部位や利用価値の高い属性情報を共通エリアとして標準化すれば、プロジェクトや事業者の枠を超えて横断的なデータ連携がしやすくなります。
 
BIMデータの標準化は、積算活用に限らず、BIMデータを利用する全ての関係者にとって大きな利点をもたらします。

標準化への動き

 

モデリングガイドラインの動向

では、BIMの標準化はどこまで進んでいるのでしょうか。
 
BIMモデリングルールの標準化に向けて、国土交通省や各団体、民間企業によって、ガイドラインが公開されています。
 
2021年3月、日本建築士連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会(設計三会)による「設計BIMワークフローガイドライン(第1版)」が公開されました。
 
UR都市機構は、2023年5月に集合住宅設計BIMのガイドラインとBIMデータ類を公開しています。
 
民間企業では、2023年1月に株式会社大林組が自社のBIMモデリングルールである「Smart BIM Standard(SBS)」を一般公開しました。
自社独自のBIMモデリングルールを策定している企業は多数ありますが、社外に公開するというケースは珍しく、他社との壁を越えたBIM活用促進への並々ならぬ熱意が伝わってきます。
 
負荷と価値のバランスで効率性を確保するこれらのガイドラインに積算を考慮したルールを盛り込むことで、積算しやすいBIMデータになるでしょう。
しかし、ルールが複雑化し、BIMのデータ容量が大きくなることで、かえって生産性が低下する恐れがあります。
 
積算フェーズだけではなく、建築プロジェクト全体での効率性を考慮し、モデリングの負荷をいかに抑えて効率性を確保するか、作業負荷と利用価値のバランスをとりながら基準づくりを進めていくことが重要と考えます。
 
 

BIM積算の方法

次に、現状行われているBIM積算の具体的な方法について見ていきます。
 
国土交通省の「官庁営繕部における官庁営繕事業におけるBIM活用ガイドライン」に、数量算出について次の記載があります。
 

BIMモデルを利用して数量算出を行う場合、BIMソフトウェアの自動算出機能を利用する方法のほか、BIMモデルのデータ連携によって数量計算の省力化が図れる機能を搭載した積算用ソフトウェアを利用する方法が考えられる。

 
この2通りの手法を、弊社では前者を「直接型」、後者を「連携型」と呼んで区別しています。
 

直接型BIM積算

直接型とは、BIMモデルにあるデータを、 BIMソフトウエアの集計機能や出力機能、アドインツールなどを使い、BIMソフトウエアだけで積算する方法です。
 
設計変更による数量の変動は即座に集計表に反映されるため、コストシミュレーションを目的とした積算に適しています。
また、不足項目や単価情報などは、BIMモデルに追加データを直接付加するため、積算フェーズでBIMデータベースの価値が高まるというメリットがあります。
 
一方で、数量の正確性はBIMモデルの精度に依存するため、BIMモデルの確からしさをどのように担保するかを検討する必要があります。
また、数量は部材の形状から得られる実数であり、建築数量積算基準は考慮されない数量となるため、公共工事には不向きです。

直接型 BIM積算

 

連携型BIM積算

連携型とは、BIMデータから、積算に必要な部材の属性情報を取り出し、積算ソフトウエアにデータを連携する手法です。
積算ソフトウエア側で部材を配置する作業を軽減できるため、効率化が可能です。
不足情報や、BIMから連携できないデータは、積算ソフトウエアで積算者が付加します。
運搬費や整理清掃後片付けなど、部材としてBIMには入力しづらい項目も、積算に特化したソフトウエアではスムーズに入力することができますし、建築数量積算基準に基づいた数量を自動集計機能で算出することが可能です。
 
連携した後は、BIMからは分断されるため、積算フェーズで付加したデータはBIMには反映されません。
BIMで設計変更した内容も、積算ソフトウエアには同期されません。
 
また、BIMデータの精度や詳細度が低い場合、連携後のデータのチェックや補正が必要になるため、効率性が確保できない場合があります。
 
先に紹介した「官庁営繕事業におけるBIMデータを活用した積算業務」の試行要領の中で、「BIM連携積算」の定義は「官庁営繕事業においてBIMデータの全てまたは一部を活用し、『公共建築工事積算基準』などに基づき積算業務を行うことをいう。」とされています。
ここでいう「BIM連携積算」には直接型も含まれており、手法は指定されていません。
しかし、公共建築工事積算基準に準拠する積算が要求されるため、公共事業においては、連携型での積算が主流となっていくことが予想されます。

連携型 BIM積算

 
 

積算手法の選択

弊社では、積算を行う際にそのフェーズに適した手法を選択しています。
直接型と連携型、両方の手法を組み合わせて数量を算出することもあります。
 
設計フェーズごとに要求される積算を①坪単価概算、②歩掛概算、③積上げ概算、④精積算の4つに分類しています。
 
①坪単価概算、②歩掛概算では、企画、計画段階のためBIMモデルの詳細度も低くなります。
それでも直接型でのBIM積算は可能で、坪単価概算ではBIMモデルの延床面積の数量を利用し、歩掛概算ではエリア面積の数量から算出していきます。
 
③積上げ概算では、内訳形式を部分別で作成したい場合には直接型が適しています。
一般的に、床、巾、壁、天井の仕上材は、基本段階では独立したオブジェクトとしてモデリングしません。
このため、これらの仕上材の数量は、各部屋(エリア)オブジェクトの面積や周長から取得します。
この集計を手動で行う場合、BIMで部屋数量を集計した後、各部位に仕上材を対応付けていきます。
この作業は大変負荷が高く、ヒューマンエラーも発生しやすいため、弊社ではアドインツール「COST BIM S2」を開発して自動算出を可能にしました。
 
BIMで概算を出力するアドインツールは、他にもいくつか販売されています。
このようなアドインツールを活用すれば、積算の専門的な知識がなくても、設計しながら概算コストを把握することができるので大変便利です。
 
工種別の内訳書を作成する場合は、連携型が適しています。
BIMオブジェクトには工種という概念がないため、BIMから出力した数量を工種ごとに分類する作業が必要です。
この作業を積算者が手動で行うのは非常に負荷が高いため、積算ソフトウエアを使います。
 
④精積算も求められる内訳形式は工種別なので、基本的には連携型で積算します。
とくに構造はBIMデータから鉄筋や型枠の数量を取得するのが難しく、直接型では効率化が図れないため、連携型が適しています。
民間プロジェクトの場合は、建築積算基準の縛りがないため、意匠積算は直接型で行い、ハイブリッドで効率化を図ります。
意匠積算ソフトウエアに連携できる部材が限られているため、連携した後に入力する情報が多くなります。
このため、BIMモデルから取得できる数量をそのまま使う方が効率的なケースが多いです。
 
このように、BIMデータを活用した積算の手法は、どの組み合わせが最も効率的かを考えて選択することが大切です。

積算手法の選択
積算手法の選択2

 
 

BIM積算の課題

第10回建築BIM推進会議で、「BIMデータを活用した積算業務の取組推進に向けた課題」として4つの課題が提示されました。

出典:国土交通省
出典:国土交通省
出典:国土交通省
出典:国土交通省

 

[ワークフロー]役割分担の壁

いつ、どのタイミングで誰が何を入力するのか、BIM積算のワークフローが確立しておらず、設計者や積算者の対応範囲が定まっていません。
集計作業や連携作業はどちらが行うのか、設計者はどこまで情報入力するのかなどの取り決めや合意がないまま進めてしまうと、品質や数量の責任所在も曖昧になります。
 

[モデリング・入力ルール]標準化の壁

標準化の重要性は前項で述べた通りで、 BIMデータを積算で利用する上で標準化は喫緊の課題です。
現状ではBIM積算の前にBIMデータの整理体系化の工程が必要ですが、標準化が進むことでさらにBIM積算による効率化が期待されます。
 

[積算基準]積算基準の壁

従来の積算では、積算基準に基づいて数量を算出します。
例えば、間仕切下地の開口が0.5㎡以下の場合、欠除はないものとされます。
BIMはオブジェクトの形状から実数量を算出しているため、積算基準には整合しません。
 
弊社は、国土交通省 の「令和4年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」において、「BIMモデルを活用した数量積算の有効性検証と提言」に取り組みました。
その中で、公共建築数量積算基準(平成29年度改訂)に準じた従来積算の数量と、BIMモデルから算出した数量を比較して差分要因などを明らかにしました。
検証の結果、コストインパクトの観点では全体コストに影響を与える程の差分はなく、BIMの数量は可用性があると評価しました。
しかし、公共事業などで積算基準類との整合を求められる場合は、 BIMから算出した数量を、積算基準に合わせて調整する必要があります。
 

[技術力]人材不足の壁

2022年度の国土交通省調べによると、 BIMを導入している積算事務所は35%でした。
BIM積算を実施している積算事務所はまだ少ないというのが実情です。
BIMソフトウエアは、導入や維持の費用負担が大きく、普及のブレーキとなっています。
 
また、積算とBIM、両方の専門知識と技術力を習得するには、人材育成や雇用にも時間と費用がかかるため、BIM積算の担い手不足が懸念されています。
 

BIMモデル精度の壁

以上4つの他に、もう一つ加えておきたいのがBIMモデル精度の壁です。
BIMモデルの誤りは、数量やコストにも影響します。
このため、積算する前に、BIMモデルの精度(確からしさ)を誰がいつどのように担保するかを検討する必要があります。
従来の積算で、数量調書がその役割を担っているように、BIMモデルの信頼性を公的に証明する仕組みなどが確立すれば、BIMデータ利用価値はさらに高まるのではないでしょうか。
 
「建築BIMの将来像と工程表」で、2024年度に概算手法の策定、2025年には実装、試行が始まり、2026年から2027年にかけてコストマネジメント手法の確立というロードマップが提示されました。
 
将来像の実現に向けて、弊社では今後も建築BIMの推進に貢献してまいります。
 
 
 

株式会社フジキ建築事務所BIMソリューション部 部長
郡山 恵子

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



 


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