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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

建設業におけるドローン活用の現状-工事写真の撮影から土量計算、CIMモデルの作成まで-

2016年11月1日

建設業の現場では最近、ドローン(無人飛行体、UAV)の活用が急激に進んできた。従来のラジコンヘリコプターに比べて安定性が格段に優れ、操縦も簡単なためだ。その用途は工事の進ちょく管理や既存構造物の点検をはじめ、空撮写真を利用した現場の3Dモデル作成、さらには道路工事や造成工事などの切り土、盛り土の度量計算などさまざまな場面で施工管理や維持管理の業務を効率化している。ドローンの飛行に当たっては、墜落事故などを防ぐために細心の注意を払うことも重要だ。
 
 

高所からの工事写真撮影にドローンを活用

最近、工事現場で複数の回転翼を持ったドローンの活用が急速に普及してきた。
 
工事現場では、工事の進ちょく記録を定点観測するために、高い視点から全景を撮りたいことが多い。現場内に高い場所がなく、近くのマンションやビルなどに頼んで撮らせてもらうことも多いが、あまり良い角度から撮影できないこともある。
 
高所作業車や空中写真撮影会社に頼むと、費用がかかるし、最適なタイミングで撮れないこともある。そんなとき、ドローンは強力な武器となる。
 
新潟県胎内市の地方ゼネコン、小野組では「PHANTOM」というドローンを2014年10月に購入し、その機動力を生かして現場の空撮に使っている。機体と送受信機、カメラなど一式を含めて20 万円程度と、価格もかなり下がっていた。
 

ドローンを操縦する小野組の小野貴司氏(左)と現場上空を飛行するドローン(右)(写真:小野組)




 
例えば、胎内市桃崎浜の荒川河口付近における川底の砂を取り除く浚渫(しゅんせつ)工事の依頼を受けた小野組では、砂を取る前と後の状況をドローンに取り付けたデジタルカメラで空撮。その結果、打ち合わせや検証をスムーズに行うことができた。
 

台風などの影響で川底に砂がたまり、船が通 れなくなって地元の人が困っていた荒川河 口の様子(写真:小野組)




 

浚渫後の荒川河口。水深もよく分かる(写真: 小野組)




 
 
胎内市で建設中の体育館建設工事でも、進ちょく状況を記録してほしいと発注者からの依頼があった。そこで小野組は現場の真上や東西南北の上空から空撮を行った。
 

体育館の工事進ちょく状況。完成までを空中 からの定点観測記録として残せそうだ(写真: 小野組)




 
 
この他、農業用の排水路を見渡した写真撮影などでもドローンを活用している。
 

堀川排水路を上空から見渡した写真(写真: 小野組)




 
 

ドローンによるパトロールで安全管理を徹底

大手ゼネコンの竹中工務店は、大阪府吹田市の千里万博公園内に建設した市立吹田サッカースタジアムの施工時にドローンを導入し、品質管理や安全管理 に活用した。
 
このスタジアムは縦160m× 横210m×高さ40mと巨大で、基礎やスタジアムの柱や梁の部材をプレキャストコンクリート(PC)化した。躯体工事や大屋根設置工事では足場や作業床を必要最低限しか使わない工法を採用している。また、広い現場で同じ並行的に作業が行われているため、施工管理者は多くの作業場所を満遍なく管理する必要がある。
 
そこで現場内をスピーディーに移動できるドローンからの映像で品質管理や安全管理の状況を確認した。また、大屋根の設置工事では、ハトなどの鳥対策や枯れ葉による雨どいの状況確認が必要となったが、こうした安全管理や効率化にもドローンは活用できる。
 

ドローンから撮影した市立吹田サッカースタ ジアムの現場全景写真(この項の写真:竹中 工務店)




 

現場を飛行するドローンと操縦者(手前)




 
ドローンにはGPS(全地球測位システム)が搭載されており、飛行経路の位置データを入力すると所定のルートを自動的に飛行して戻ることができる。この機能を使って、 現場の夜間巡回警備を行ったり、スタジアム内で異常が発生したときに急行し、早期の状況確認を行ったりというパトロール業務にも活用が可能だ。
 

市立吹田サッカースタジアムの完成予想図




 
 

足場が不要な構造物の維持管理を可能に

橋梁などのインフラ点検手段としても、ドローンが注目されている。工事現場と違って供用中の道路やダムなどの近くでドローンを飛行させる必要があるため、心配なのは部材とプロペラが接触することによる墜落事故だ。
 
そのため、プロペラの周囲にカバーを付けたドローンも増えている。それでも、機体の上下から橋の部材などがプロペラに接触するリスクは残る。そこでドローンによる空撮の総合コンサルティング会社、PAUI(パウイ、福岡市中央区)は、点検用飛行ロボット「PAUI Oasis」を2015 年3月に発売した。
 

点検用飛行ロボット「PAUI Oasis」(この項 の写真:PAUI)




 
特徴的なのは、機体の周りを回転球体フレーム ですっぽり覆ったことだ。そのため、ドローンのプロペラと障害物の接触を上下左右とも360 度防げるのだ。
 
フレームの直径は約75cm。空中で障害物に当たっても、ボールのようにコロコロ転がってクリアできるので、トラス橋などでも部材の間をくぐり抜けながら点検できそうだ。
 

部材が交錯する橋梁の裏側なども、部材の 間を通り抜けてしっかり点検できそうだ




 
機体には、4K画質で毎秒30フレーム、フルHD画質で毎秒120フレーム、1200 万画質の静止画を毎秒30 枚撮影できる小型デジタルカメラ「GoProHERO4 BLACK」を搭載している。そのため、橋梁点検の近接目視で求められる幅0.2mmのクラックなども発見できる。
 

機体から見た映像。フレームが写り込んでい るが幅0.2mmのクラックも見つけられる




 
 

大規模な造成現場を短時間で高精度に航空測量

大成建設は高知県安芸郡で施工中の和食(わじき)ダムの現場をドローンで空撮し、その写真データから盛り土の3Dモデルを自動作成し、土量計算を行った。
 

ドローンで撮影した和食ダムの写真(この項 の写真、画像:大成建設)




 
 
この手法はオートデスクと米イリノイ大学が共同開発したものだ。まず、ドローンで空撮した現場の連続写真をイリノイ大が開発したソフトに取り込み、3Dの点群データを作成する。その点群データをオートデスクの点群処理クラウドシステム「ReCap 360」や「AutoCAD Civil 3D」に取り込んで、約200m四方のCIMモデルを作成する。
 
前日に作成したCIMモデルと、今日作成したCIMモデルとの差を取ることで、盛り土や切り土などの体積を自動的に計算できる。
 

前日の3Dモデルと比較して当日の盛り土量 を算出




 
土量の管理には3Dレーザースキャナーがよく使われているが、この規模の計測を行って土量を計算するのは約1週間かかる。一方、ドローンを使った計測だと、約半日という短時間でできるのが特徴だ。
 
使用したドローンはDJI社のF550という機種で、GPSやカメラの向きを一定に保つジンバルなどを入れても総額約30万円。数百万~数千万円する3Dレーザースキャナーに比べて大幅に安い。
 
計測精度は、最大誤差でも±10cmだ。従来の土量計算は地表面を10 ~25m間隔で断面を計測し、その間を直線的に補間する「平均断面法」が使われているが、これだと測線の間を正確に把握できない。
 
これに対してドローンを使った方法は地表面を数センチメートル間隔で管理できるため、高精度な土量計算が可能だ。施工管理を3D化することにより、土捨て場や重機の移動、車両用道路の変更などの検討をビジュアルに行えるようになり、協力会社とのコミュニケーションの質も改善されたという。
 
現場の空撮はお昼休みなどに行っているので、万一、墜落しても事故の可能性はほとんどない。
 
また、鹿島も現場の昼休みを利用してドローンを飛ばし、空撮写真を基に作成した3Dモデルで、造成現場などの施工管理を行っている。使用しているシステムは、鹿島とリカノス(本社:山形市)が共同開発したものだ。
 
ドローンで空撮した写真をパソコンソフトで合成し、造成現場などの高精度な3D図面を作成。そのデータを3次元CADソフトなどに読み込んで土量計算や進ちょく管理を行うものだ。2ha程度の現場なら空撮は約10 分で完了する。
 
計測精度は、簡単に使えるドローンだと±10cmとやや大きい。そこで両社は、搭載するカメラなどの機器選定、使用ソフトの組み合わせ、補正プログラムの高度化、作業方法の最適化といった改良を積み重ねることで、 誤差を±6cmまで向上させることに成功した。
 
 

3次元CADを使わずに土量計算

大林組の造成現場では、ドローンによる現場の空撮から3D点群データ作成、そして土量計算までを、3次元CADなしで行えるシステムを導入した。3次元CADの代わりに使ったのが、福井コンピュータの3D点群処理システム「TREND-POINT」だ。
 
ドローンによる空撮写真をコンピューターで処理して3D点群データを作るまでは同じだが、そのデータを3 次元CADの代わりに「TRENDPOINT」に読み込むところが違う。TREND-POINTには点群データの“ノイズ”とよばれる不要データを取り除き、点群データに三角形の面を張った「TI N」というデータを作って土量計算までを行う機能が付いている。
 

「TREND-POINT」に2つの点群データを読み込み、切り土量と盛り土量を 計算したところ(この項の写真・資料:大林組)




 
これまでの土量計算は、地上を移動して測量する作業が必要だったため4人で7日間かかっていたが、ドローンとTREND POINTを使う方法に変えたところ、2人で1日に効率化できたという。
 
土量計算に使う点群データを作成する過程では、点群の“副産物”として「オルソ画像」という地表面を垂直に見下ろした地図のような画像データも得られる。この画像データは精度が数センチ~ 20センチ前後と高いので、施工管理にも活用している。このオルソ画像をCAD図面と重ね合わせることにより、現場の進ちょく状況が一目瞭然に分かるからだ。
 

点群データの副産物として得られた高精度のオルソ画像。CAD 図面に重ねると現場の進ちょく状況がよく分かる




 
 

墜落事故防止のための安全対策も本格化

このように工事現場での写真撮影などに手軽に使えるようになったドローンだが、墜落事故も時々発生しているようだ。
 
前出の小野組ではドローンの運用ルールを決めて絶対に事故を起こさないように注意している。坂詰組も風の日は飛行を控え、市街地での使用には注意を払うなど、安全に配慮しながら使っている。
 
ある専門家は「趣味用に販売されているドローンは、ローターを駆動するモーターに電力を供給する部品の寿命が30~50時間と短いものもある。メーカーも”おもちゃ”と割り切って製造している」と語る。つまり使える時間は30時間程度で、それを超えた機体は安全性が求められる場所では使用しない方が安心ということだ。
 
この専門家によると、プロ用の機種は、この部品の使用時間が定めてあり、一定時間飛行した後は内蔵するソフトウエアによってモーターが起動しなくなる仕組みが搭載されたものもあるという。
 
ドローンによる空撮を事業として行っている岩崎(札幌市中央区)は、実物の軽飛行機と同様に、離陸前はチェックリストに従って機体各部の状態やバッテリーの充電量を確認し、風速や風向も定量的に計測している。そしてGPSと連動したパソコンソフトに飛行ルートを入力し、飛行中はドローンから送られてくる位置情報をパソコンのモニターで確認しながら、予定していた飛行区域から逸脱しないように入念なチェックを行っている。
 

離陸前にはチェックリストによる確認を入念に行う(以下の写真:家入 龍太)




 
ドローンの飛行自体にかる時間は数分程度と短くても、飛行前の準備には約1時間をかけることも珍しくない。こうした徹底した安全対策があってこそ、ドローンによる墜落事故の危険を最小限に抑えることができる。
 
2015 年12月10日に改正航空法が施行された。家屋が密集する町中などで、ドローンを飛ばすためには国土交通省に事前に申請を行い、許可が必要となった。許可の条件には、機体の安全性やパイロットの技量、安全確保の体制などが求められる。
 
一見、大変になったようだが逆にこれだけの対策をきちんととり、飛行申請して許可が下りれば、町中でも堂々とドローンを飛ばして、空撮や測量などに使えるのだ。
 
工事写真の撮影や、施工中の現場の3Dモデリングなど、業務でドローンを使う機械が多い建設業こそ、他の業界に先駆けてドローンの安全飛行をリードしていくべきではないだろうか。こうした取り組みは、建設業界に対する評価を高めるものになるに違いない。
 

戻ってきたドローン。ここからは手動モードで着陸させる




 

著者プロフィール

家入 龍太(いえいり・りょうた)
1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。
家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/。ツイッターやfacebookでも発言している。


 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集3「建設ITの最新動向」
建設ITガイド 2016
 
 



工事写真は新たな時代へ -写真管理の現在、過去、そして未来-

2016年10月25日

 

NPO法人 建設スクエア北海道 理事 ダットジャパン株式会社
執行役員営業部長 柿崎 保生

 

はじめに

スマートデバイスの普及により、従来のメタデータだけではなく、撮影時にその他の情報を、EXIF(Exchangeable image file format エクスチェンジャブル・イメージ・ファイル・フォーマット)に自ら登録し、写真を高度利用することが可能になってきた。その恩恵を最も利用しようというのが、以前より実証実験が行われてきた工事黒板の電子化である。
 
本稿では、近年急速に進化、発展してきたデジタル工事写真のあらましについて述べていきたい。
 
 

デジタル写真黎明期のPC環境

今でこそ当たり前になっているデジタル写真の閲覧や編集操作が一般に普及し始めたのは、今から20年ほど前になる。それまでの主流だったMSDOSに代表されるCUIの味気ないOSから、MachintoshやWindows3.0、3.1等のGUIを装備したOSへと進化した1990年代から、写真をデータ化しパソコンで処理できるようになってきた。
 
この頃のWindowsOSは、MSDOS上で動作するランチャー的なイメージが強く、ロースペックのCPUに相まって、搭載メモリも少ないこともあり、今でこそ当たり前のマルチタスクも十分に機能せず、万一ソフトウェアがフリーズしてしまった際には、OSそのものをリセットしなければならないなど、不安定で信頼性も低い物であった。
 
当時主役であったNECのPC98シリーズのユーザーは、こぞってODP(オーバードライブプロセッサ=CPUアクセラレータ)に換装したり、CPUのクロックアップを行ったりと、少しでも快適にしようとしたが、実行速度はなんとなく早くなったという程度で、根本的な解決には新しいPCに買い替えるより他になかった。特に搭載可能なメモリの上限がわずかに14.6MBではOS自身を動かすのが精いっぱいで、複数のアプリケーションを動作させるには容量が不足していた。
 
ビジネスで写真データを扱うようになったのは、1995 年に登場したWindows95からといえよう。筆者もその頃からソフトウェア開発会社であるダットジャパン(株)に勤務しているため、その狂想曲は秋葉原等で目の当りにした。発売時にはまるでお祭りのような騒ぎになり、新しい時代を迎えたかのように感じたものだ。
 
PCのシェアも、それまでのNECの独壇場から、IBMによるPC/AT互換機へのシフトが急速に進んだのもこの頃からである。
 
 

写真をデジタルデータにする

デジタルカメラが普及する前は、写真をデジタル化するためには高額なイメージスキャナー(フラットベッド、フィルムスキャナー等)で読み取るより方法がなかった。それらの機材を持っていない人は、フィルムメーカー各社がサービスを開始した「フォトCD」を利用するのが唯一の手段であった。フォトCDとは、米国コダック社等が策定した写真をデジタル化するシステムで、ネガフィルムをサービス店に持ち込み、データ化したいコマを指定し、別売りのCD-RにPCDフォーマットで焼き付けてもらうというものだ。コダック以外にも富士フイルム、コニカ(現在のコニカミノルタ)などでもサービスが行われた。
 
さっそく、工事写真をこのフォトCD にし、工事アルバム作成をパソコンで行えるようにする試みを行ったが、1枚のフォトCDに100 枚の写真しか保存することができない他、設備投資にも莫大な費用がかかることから、この時点では実験の域を出ることはなかった。なぜなら写真クオリティの出せる安価なプリンターがまだ世の中に存在しなかったためだ。
 
 

写真画質のインクジェットプリンター登場

写真をデジタルデータにすることはできたが、最終的には写真(アルバム)を出力しなければならない。きれいな印刷を行うには、高額な昇華型プリンターを利用するよりなかった。価格が高いのは本体だけではなく、インクリボンも大変に高価なもので、さすがにこのランニングコストに耐えられるわけがなかった。
 
最終的な写真帳(アルバム)の印刷、作成が目的だったため、事業化を断念することも頭をよぎったが、1996 年秋になって救世主が現れることとなった。EPSONから「PM-700C」が、初めて写真品質の印刷できるプリンターとして登場したのだ。画期的であり、大変に安価だったこともあって爆発的に売れることになったが、恐らくは建設業界でも相当の台数が使われたであろう。この機種の登場により、工事写真をパソコンで編集し印刷をするという一連の流れがほぼ確立したと見て良いだろう。
 
 

進歩を遂げるデジタルスチルカメラ

この1995年から1996年かけては、とてもエポックメイキングな年になった。
 
Windows95の発売とPM-700Cの発売が重要な要素になることは先に述べたが、残るデバイスであるデジタルカメラにも大きな動きが出た年である。1995年から低画素数ながら低価格なものが登場することとなった。例えば、カシオ計算機、リコー、コダック、キヤノン、ニコン、ミノルタ等から続々と発売され、100万画素以上のデジカメも価格は高いもののハイエンド用として発売が始まっている。低画素数のデジタルカメラはサービス版程度の印刷であっても、銀塩写真よりは若干見劣りがしたものの、十分に将来の可能性を見出せるものであった。これにより、デジタルカメラで撮影した写真をパソコンに取り込み、帳票を作成し印刷をするという現在に至る業務体系の基礎ができたことになる。ただし、実運用可能かといえば実際には困難であった。例えば、写真を10 枚程撮ると電池が切れてしまい、替えの電池を常時持ち歩かなければならなかったり、フラッシュが付いていなかったり、今では当たり前の液晶画面がないもの等、本格的に使えるようになるには、もう2年待たなければならなかった。
 
なお、1996 年には、建設省(当時)のCALS/ECアクションプログラムが策定され、電子データの利活用がうたわれるようになっている。これを踏まえて、各地方建設局(当時)で、デジタル写真の利活用も含めての実証実験等が行われるようになった。ちなみに、最初のデジタル写真管理情報基準(案)が策定されたのは、今から16年前の1999年(平成11年)8月である。
 

建設現場向けデジタルカメラの例




 
 

保存先としての記録メディア

初期のデジタルカメラは外部メディアがなく、内臓メモリに写真データを保存するだけであったが、その後複数の媒体規格が開発され利用されるようになった。中でも、スマートメディア(SmartMedia)は、多くのカメラメーカーで採用され、デファクトになると思われたが、その後に登場したSDメモリーカード(SDMemory Card)にその地位を完全に奪われ、現在では市場に存在しない。その他、コンパクトフラッシュやメモリースティック等も発売されたが、互換性のなさが嫌われ、いずれも市場からの撤退を余儀なくされている。変わり種としては、FD(FlopyDisk)に写真を保存するデジタルカメラ(SONYマビカ)も発売されたことがあるが、ディスク1枚に対し、写真が4枚しか保存できない他、巨大な筐体が必要だったこと等により、さすがに実用的とはいえず、すぐに後継製品へバトンタッチする形で消えている。
 
デファクトスタンダードになったSDメモリーカードは、その後miniSDやmicroSDなどの小型化したものや、大容量化、WriteOnceメモリーカード(改ざん防止機能付き)等の派生型が多数登場し、デジタルカメラ以外にも携帯電話等の外部ストレージとして幅広く利用されているのは周知の通りである。
 
 

飛躍的に進歩した解像度

データの保存先として、外部メディアを必要とする理由として、デジタルカメラの有効画素数が飛躍的に大きくなったことが上げられる。1995 年当時にわずか20万画素だったものが、2015 年では最大で5000 万画素を超えているものがあり、実に250 倍にもなっている。
 
なお、デジタルカメラの解像度は近年頭打ちになりつつあり、行きつくところに行きついたと認識する人もいるようだ。
 
もっとも5000 万画素では、写真1 枚で約10MBになり、RAWでは57MBにもなるため、工事写真用としては間違いなくオーバースペックとなる。建設省(現国土交通省)では、工事写真は100 万画素以上であれば良いとしているので、いたずらに大きなサイズで撮影をしてしまうと、電子納品時等に大変困ることになる。そのため、工事専用のデジタルカメラはリコー、オリンパスともにCALSモードが備わっており、あらかじめ設定をしておくことにより扱いやすい最適な写真サイズにて保存されるので大変便利である。
 
 

動く写真

昨年発売されたiPhone6Sでは、「LivePhoto」という機能が搭載されている。これは、撮影の1.5 秒前から撮影後の1.5秒の計3秒間の動画ファイルを同時に保存することにより実現しているもので、厳密にいえば写真が動くわけのではなく、写真(Jpegファイル)と動画(MOVファイル)の切り替えがiPhone6S上でシームレスに行われるというものだ。
 
非常に面白い機能だが、当然のことながらデータの容量が極めて大きくなるため、ストレージ容量の少ない機種の場合には、まめにiCloud等へデータを退避する必要がある。また3秒の動画をWindowsPCで再生することは可能だが、動画ファイルとして扱うには短すぎである。やはりiPhone6S上での写真をより楽しく閲覧するためのものとして考えるのが妥当だろう。また、解像度が高すぎるため、1枚当たりの写真の容量は約2.5MBにもなり、電子納品データとして利用するにはいささか大きすぎる。提出用メディアへの焼き付けに苦労することになるので注意が必要だ。
 
 

自動仕分けと電子黒板

昨今、写真管理業務の効率化を目的として、撮影時にExifファイルへ工事関係の情報を埋め込むことにより、仕分け整理の自動化を図る試みが進んでいる。リコーの業務用デジタルカメラが一早く実装していたもので、筆者の所属するダットジャパン(株)でも、その対応を行ってきた。デジタルカメラに直接情報を入力するのは非常に困難であることと、撮影メモ情報を事前に用意する手間がかかることから、その普及が限定的になっていたことは否めないが、あらかじめ撮影する部位や項目が明確な業務においては大変に喜ばれている。
 
また、スマートフォンアプリでも同等かそれ以上のことが可能となってきている。
 

スマートフォンによる状況写真撮影シーン


 
 

スマートフォンで撮影したトンネル内の写真




 
特に、電子小黒板機能付きの撮影アプリの場合には、黒板の記述そのものが仕分け情報になるため、事後の仕分け整理だけではなく、撮影そのものも楽になる等のメリットがある。連動する写真管理ソフトが別途必要とはなるが、スマートデバイス用のアプリには無料のものもあり、テスト利用ができるのであれば一度は試してみる価値はあるだろう。
 
なお、自動仕分け整理については、近い将来には電子納品を目的とした写真整理そのものが不要となる可能性がわずかながらある。撮影後に写真を直接サーバ(情報共有サーバ等)へアップロードすれば、それ自体が納品するのと同義になるためだ。業務効率からみる限りは良い方法と思えるが、一方で撮影した写真は一度大きな画面で確認し、最も良い写真を選別し納品したいという声もあるため、一足飛びにそこまで行くかどうかは今後の業界内アンケート等の結果次第だろう。
 

写真管理ソフトによる自動仕分け整理の例




 
 

自動振り分け整理時の確認メッセージ例




 
 
いずれにしろ、電子黒板の利用についてはさまざまなベンダーから提案があるはずだ。その中から自社に合ったものをチョイスすることになるだろう。なお、電子黒板付アプリにも、写真のサイズをCALSモード(100 万画素相当)に設定できる機能が当然必要となるので確認が必要だ。
 

電子黒板付カメラアプリ(現場DEカメラ無償版)の撮影画面




 
 

複眼カメラ(ステレオカメラ)の活用

昨年度より、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施している「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」において、複眼カメラによるロボット橋梁点検システムが開発されている。これは、ステレオ画像から距離の計測や損傷部の抽出を行うことができるもので、実現すれば橋梁の点検業務が大幅に省力化されるメリットがある。ただ、今日現在でまだステレオカメラは発売されていないので、2台のカメラを組み合わせる等の対処が必要となっている。今後、一つの筐体に収まった複眼カメラが発売されれば、各種点検業務において有効利用ができるものと思われる。また、座標情報等を持たせることにより、3次元モデルデータへのテクスチャマッピング等も実現可能であろう。最終的にはこれらの写真はBIM/CIMと結びつき、写真に埋め込まれた属性情報の利活用ができるようになると考えられる。
 
 

おわりに

ここまで、大まかな分類ごとに工事写真関わる概略をまとめてきた。時系列にしてみると、各種のルールは技術の進歩と概ね歩調が合っていることがあらためて見えてくる。電子黒板についても同様の流れで来ているため、工事写真をスマホやタブレットPC等で撮影する時代がすぐにやってくるだろう。
 
これからもさまざまな先進的な取り組みが行われていくと思うが、最も重要なことは、手段と目的を取り違えないことではないだろうか。電子納品、情報化施工、CIM等、いずれも建設ICT(Information and CommunicationTechnology)の利用により、施工の効率化、高度化、生産性の向上に寄与する取り組みだとされているが、現実的には強者と弱者の振り分けツールであり、規模の小さな業者にとってはただの負担でしかない場合が多いようだ。一部からは、その負担の原因は次々とシステムを開発し提供しようとしているソフトウェアベンダー側の策略にあるとの恨みの声も聞こえてくる。
 
従ってこれら一連の新しい取り組みの目的が、施工業者にとっても大きなメリットがあるということをはっきりと示せるよう、施政者は施工業者側の目線に立って考えていく必要があるだろう。
 
私はソフトウェアの開発側の人間ではあるが、これからも常にユーザー目線で考え、利用者に喜んでもらえる便利なツールを提供していきたいと考えている。
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集3「建設ITの最新動向」
建設ITガイド 2016
 
 



BIMソフトの実践テクニック講座 Revit編

2016年10月20日

 

高取 昭浩

 
 Autodesk RevitはBIM(Building Information Modeling)を的確に表現したソフトウェアです。基本的にはエンジニアリングのツールであり、建築物をデータベースとして表すための手段として、非常に優れています。また、部品(ファミリ)をユーザー自身でパラメトリックに作成できる、スケーラビリティ(大規模データへの対応力)など他にない特徴を持っています。Revitを用いる真の目的は、建築情報をデータベース化し、設計業務の生産性を飛躍的に向上させることであり、決してCGをセルフサービスで作成することではありません。
 
BIMとはB=I+M、つまりビルディングを属性情報と形状情報の集積として表すことです。今までのBIM導入期はどうしてもMに目が奪われがちでしたが、これからはIを活用して業務を変革していく時代です。Revitはデスクトップに「デジタル現場」を構築するため、将来作業所で起こるだろう問題点が設計段階で把握できます。アメリカで開発されたRevitは設計者が建設全体を掌握するための強力な武器として幅広い支持を得ています。Revitを上手に使いこなせば、設計者自身が建物の全ての状況を明瞭に把握しながら、プロジェクトを推進することができるでしょう。今回はRevitを使いこなすための、いくつかのTipsをご紹介しますが、一番重要なTipsは設計者自身がワークフローを変えていく必要性を認識することでしょう。
 

●プロフィール

高取 昭浩(たかとり あきひろ)
Revit User Group Japan 開発部会長。1965年生まれ。大阪大学工学研究科建築工学専攻卒。大成建設設計本部BIMソリューション室室長。ブログRevitPeeler(http://revitpeeler.blogspot.jp/) ではRevitのさまざまなTipsを紹介しています。
 
 

包絡

正確なモデリングは美しい図面を作成する基本ですが、包絡の仕組みを理解しておくこともまた重要です。基本的には要素同士が、
(1) 結合している
(2)-簡略 塗りつぶしパターンが一致している。
(2)-標準・詳細 マテリアルが一致している
ことが条件です。
 
表示モードが「簡略」の場合
(2)の塗り潰しパターンとは、床・壁・天井・屋根の場合はタイプパラメータの簡略尺度塗り潰しパターン(01)であり、その他の要素の場合はマテリアルの切断パターン(02)です。
 
これらの塗りつぶしパターンの名前が一致しており、結合されている場合は、包絡されます(03)。
 



 
表示モードが「標準・詳細」の場合
床・壁・天井・屋根のマテリアルは各レイヤに割り当てられたマテリアルを示します(04)。このマテリアルが一致して結合されている要素は包絡されます(05)。
 
マテリアルは内容ではなく、名前が一致する必要があります。梁のマテリアルを複製して割り当ててみると図のように包絡されません(06)。
 



 

梁型や庇を平面図に表示する

カーテンボックス、梁型や庇などを、平面図に表したいときは、以下の手順を実行します。
 
ビューのプロパティ「下敷参照図(アンダーレイ)」に平面図と同じレベルを指定
 
①下敷き参照図の方向に天井伏図を指定(01)
②修正タブ-表示-ラインワークで<オーバーヘッド>を選択(02)
 



 
③平面図に表示したい線を選択(03)
 



 
④ビューのプロパティ下敷参照図をなしに戻す(04)
 



 
この方法で表示した上方の要素は、形状の変更に追随して更新されます(05)。
 
 

マテリアルの作成

マッピング画像の保存
オリジナルのマテリアルを作成するには「マッピング画像」を準備します。画像は256×256~1024×1024ピクセル程度です。この画像を任意のフォルダに保存します。次にアプリケーションマークから「オプション」を選択し、レンダリングの追加のレンダリング外観のパスに保存先フォルダを追加します(01)。
 
新しいマテリアルを作成する
管理タブ-マテリアル
アイデンティティタブの「名前」に任意の名前を設定(02)
 
外観タブの情報ラベルを展開し、アセットを任意の名前に変更し、一般ラベルのイメージをクリックし保存したマッピング画像を選択(03)。
 



 
再度イメージをクリックし、テクスチャエディタのサンプルサイズをマッピング画像の実サイズに設定(04)
 
同様にバンプも指定して、適用するとリアリスティック以上で表示されます(05)。
 



 
 

目隠しルーバー

手すりで目隠しルーバーを作成します。
 
横ルーバー
①[アプリケーションマーク(右上のR)]-[新規作成][- ファミリ]
②プロファイル – 手すり(メートル単位).rftを選択し開く
③図のようにルーバーの形状をスケッチする(01)
④名前を付けて保存し、プロジェクトにロードして閉じる
 
支柱
100×100の支柱を作成します。建築テンプレートの場合、すでにロードしている手すり子のファミリを利用できます。
 
①[プロジェクトブラウザ]-ファミリ- 手すり「- 手すり子 - 正方形」のタイプを複製(02)
②タイププロパティで名前、マテリアル、幅を設定する(03)
 



 
手すりタイプ
[プロジェクトブラウザ]-[ファミリ]-[手すり]-[手すり]の任意のノードを右クリックして複製する。
 
タイププロパティの[手すりの構造(非連続)]をクリックし、作成したプロファイルを使った手すりを必要数だけ作成する(05)。
 



 
[手すり子の位置]で手すり子ファミリとして、支柱として作成したファミリタイプを主パターンと手すり柱(始端・コーナー・終端)に設定する(06)。目隠しルーバーを手すりで作成すると、高さや始点を正確に設定できます。
 



 

CADデータの断面

Revitでは
DWG/DXF/DGN/SAT/SKPのファイルを読み込むことができますが、直接読み込んだ場合、カテゴリが決まらないので断面を切っても、全体が表示されてしまいます。
 
これらのファイルは直接読み込むのではなく、いったん切断可能なカテゴリのファミリに取り込んでから、プロジェクトにロードすれば、切断面を表示することができます。
 
一般モデルカテゴリのファミリ作成
 
①[アプリケーションマーク(右上のR)]-[新規作成][- ファミリ]
②一般モデル(メートル単位).rftを選択し開く
③[挿入]-[CADデータを読み込む]でCADデータを読み込む。このとき3Dモデルとして読み込むので、「現在のビューのみ」のチェックは解除しておく(02)
④名前を付けて保存。
 
プロジェクトにロードして断面を作成
 
作成したファミリをプロジェクトにロードします。図(03)の青のカテゴリは一般モデル、赤のカテゴリは点景カテゴリで同様に作成たファミリです。(04)両方の要素の断面図を作成してみると図(05)のように、青(一般モデル)は断面が描画されますが、点景は描画されません。
 




 

集計表を使って選択する

 
集計表を使えば、目的の条件に合った要素だけを選択することができます。
 
集計表の作成
壁を例に説明します。サンプルプロジェクトを開きます。
 
①[表示]タブ[- 作成]パネル[- 集計]-[集計表/数量](01)
②[カテゴリ]で「壁」を選択し[OK](02)
③[フィールド]タブの[使用可能なフィールド]から、必要なプロパティを[追加]する(03)
④[並べ替え/グループ化]タブで目的に応じた並べ替えキーを設定する(この例では、ファミリとタイプを第一キーとして並べ替えている)
 



 
ファミリとタイプで選択
 
集計表の任意のタイプをドラッグして選択し、3Dビューや平面図ビューなどに切り替えると、選択されている要素が入ら意図されます(04)。
 
長さで選択
集計表のプロパティ[並べ替え/グループ化]で長さを第一キーに設定します(05)。
 
例えば長さが2000mm以下の壁を選択することが容易に可能です(06)。
 



 

面積の小数点第3位以下を切り捨てる

部屋面積をまとめる時、小数点以下第3位を切り捨てるなどの桁処理を行うことはよくあります。集計表に計算式を追加して計算します。
 



これらのフィールドをまとめて



とすることもできます。面積に戻すのは書式を設定するためです。
 
①集計表のプロパティのフィールドで「計算式」をクリック(01)
②名前に「切捨処理」、タイプを「面積」、計算式に
 「((ROUNDDOWN(((面積 / 1 ㎡) * 100))) / 100)* 1 ㎡」と入力しOK(02)
③書式タブで「切捨処理」を選択し、「形式」をクリック(03)
④プロジェクト設定を使用のチェックを外し、丸目を適切に設定する
 
図(04)は結果を示しています。合計が桁処理後の面積の合計になっていることを確認してください。
 



 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集2「海外のBIM動向&BIM実践」
建設ITガイド 2016
 
 



 


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