欧州グリーンディール
グリーンに貢献するということに関してBIMデータの役割と、デジタル技術を活用する行動自体がグリーンに貢献するのではないかと思い、設備に関する話題を紹介します。
半年に一回ぐらい、定期的にbuilding SmartJapanのサミットに参加させていただく機会あります。
今年の春ローマで行われたサミットで、クロージングのところで、パトリックスさんが、「グリーンに貢献するんだよ、私たちの活動は」というお話をされていたことが非常に印象に残っています(図-1)。
図-1 BSIサミットクロージングセッションの様子
設備環境小委員会の発足時は、設備FM分科会という名前でした。
環境小委員会という名前に変更した時に、強い意志を持って、私たちは環境をテーマに、環境負荷低減に貢献できるエンジニアリングを実現するためにIFCを運用していこうと、当時のメンバーと共有した記憶があります。
10月のオスロサミットではヨーロッパグリーンディールという言葉を聞きました(図-2)。
図-2 ヨーロッパグリーンディール (WEBにて詳細説明)
ディール、投資、環境負荷を低減するために、政策として建設業ばかりではなく、運送業マニファクチャー教育など、多くの産業全体にデジタルデータを効率よく回して、データ書式を整えて、計算書式を整えて運用のルールを決めて、仕事で最適な選択肢を導き出すことでデジタルデータを使うことが環境に貢献する。
設備に限らず産業全体でグリーンに貢献する。
現行の業務を改善する選択肢を持っていこうと、ディスカッションしていたことは大きく印象に残っています。
推進、加速化というプロセスを経て義務を伴う規制につながっているということを、ヨーロッパのグリーンディール政策で実施されていることが確認できました(図-3)。
図-3 エコデザイン規則 条文
IFCをつなぐデータにする
建設業というのは、具体的な成果を構築するには、設置場所に資材を運んで、建設資材を組み立て、建築物をつくるという業務で成り立っています。
つくるための「完成する形状や機能」をデジタル化したBIMモデル、設計の意図伝達の段階においても詳細度が異なるモデルも含めて、完成予想BIMモデルがスタートにあって、そのBIMモデルにデータが約束されたルールどおり仕込まれてあれば、そのデータを製造組み立て部分に渡せる、運送の皆さんにも渡せる。
もちろん、私たち建設業にも渡せるので、完成後はオペレーティングの部分にフェーズが移ります。
実際に建物を使う部分にも渡せます(図-4)。
図-4 建設デジタルデータの活用場面
最後には解体廃棄という、建設のライフサイクルは終焉を迎えます。
いろいろな場面で選択肢を導き出すための算出やシミュレーションができるデータになっている、デジタルデータの鍵になるものがIFCから派生したもの、データを関連付けたものとなっています。
今回のヨーロッパで聞いたインパクトの中で、基本データとしてのIFCは、他の産業との結び付きや、他の産業へのマッピングという可能性を非常に大きく持つものということが印象付けられました。
なおかつ、データが寸断されて渡らなかったことによって、今まで大きな損失をしていた、寸断されたデータをつなげる可能性がある、IFCの利用があるということを確認しました(図-5)。
図-5 ノルウェーオスロにおける水道インフラで使われるデータ基準
環境、グリーンに寄与する活動
IFCは、Industry Foundation Classインダストリー=産業、建設業ばかりではなく運送業、製造業などと多くのデータをつなげるだけではなく、何に成果を見いだすか?その成果の一つがLCAの評価、これはIFCが流れるからこそ効率的にできると言えます(図-6)。
図-6 LCA評価を算出するフロー (国際標準クラスを採用)
Life Cycle Assessmentは、低炭素社会を実現するための取り組みと言われています。
CO2をいかに抑制するか、材料を製造する時にどれぐらいCO2を出すのか、運ぶ時にどれぐらいCO2を出すのか、建設のプロセスにどんな重機・工具を使うか、どれぐらいの電気量を使うのか。
設備が大切なことは実際に運転する際の状態です。
どう運転するか、制御や運転の工夫でCO2を放出する量を削減できるのか、最後に廃棄、つまり材料が処分された時にどれぐらいCO2を排出するのかということを算出するに当たって使われるのは建設資材単位のデータです(図-7)。
図-7 CO
2排出量を算出するために必要な原単位
材料の分類がしっかりとできて、それに対する原単位の扱いが大切です。
日本においてはイディア(IDEA)という原単位がよく使われていますが、数量へ原単位をかけることによって、どれぐらいのCO2が出るか、工場から運ぶ運送過程でどのような運送手段を使ったのか、どこの工場で作ったものでどんなトラックで運ぶか、をトラックの台数を少なくできる運び方としてロジスティックのデータと組み合わせることがあります。
春にサミットでヨーロッパに行ったら、切符を買おうとしてWebサイトにアクセスしたところ、この電車だとCO2がどれぐらい、飛行機だとどれくらい、バスだとどれぐらい、などと丁寧に表示されます。
なるべく低炭素に貢献できる選択をしなさいということです。
設備計画でも削減活動は同じです。
この設備の仕組みを作ると、例えば塩ビ配管でやりました、ステンレス配管でやりました、このポンプを採用しました。
省エネの機器を選びました。
それによってCO2排出量が大きく変わってきます(図-8)。
図-8 塩ビライニング鋼管の材料構成をBIMデータで分析
当然、労務も変わってきます。
私たちが判断に使いたい結果がBIMデータとuniclassや、さまざまなIDEA、いろいろなデータをマッピングすることで算出できるようになります。
BIMの最大の効果は「見える化」です。
設備環境性能の見える化にBIMデータが使われていますが、LCA評価は、一般的にはコンクリートと鉄骨しか出していません。
細かいところまで手間暇をかけて評価することに対して、時間が割けないことが現実です(図-9)。
図-9 分類を計算につなげるためにデータマッピング
BIMデータを組み合わせて運用する仕組みにおいて、設計や施工計画の段階で作られるBIMモデルが存在し、LCAの評価を半自動的に出すことができれば、グリーンに貢献できるBIMの成果ということにつながるのではないでしょうか。
設備IFCにできること
BIMオブジェクトデータを設備の機器・機材から出す、つまり運転も含めたものをLCAとして出せるような仕組みが、設備のIFCを使えばできると思います。
構成材料をスプレッドシートで仕分けして、どのデータベースに絡めたらいいのかなど、LCAの計算するときに工夫をしています。
このデータを計算に移行するために、他のデータとどうマッピングしたのかを示したものが下記の図です。
この部屋にある材料をどれぐらい、系統ごとに算出できるかというニーズに対して、BIMデータであれば答えを出すことができます。
一つの部屋にある製品について、この機械一つにどれぐらいCO2が発生するのかという判定したい単位ごとのLCAの評価を出すことも、BIMワークフローで発生するデータをつなげて実現できます(図-10、11)。
図-10 特定の部屋に設置された建設資材のLCA
図-11 特定の材料ごとに仕分けされたLCA
私たち設備環境小委員会メンバーは集計のツールにbuildingSMARTの設備IFCデータ利用標準に包含したIFCデータを、クラウド上のデータベースにインポートすることで、積算の見積書がViewerとともに出てくる仕組みを作ろうと活動しています。
要件を定義したり、そこの要件が回るためのルールセットというものを定めたりしています。
分類の書式に、いかにマッピングできているのかというところは、ワークフローを備えて要件定義をしたRFPを作っているところです。
積算をWeb環境で実施するために作っているのはRFPですが、ツール開発のための要件定義書を作っています。
要件定義書を作るためには、今のデータはどんな構造になっているのか理解していないとなりません。
ツールが出来上がった暁にはただ積算ができるばかりではなく、積算とはモノを特定して、どれぐらい数がどこの空間にあるのかによって、他の箇所の積算ができれば他の技術計算が行えます。
静圧計算、圧力損失計算、エアバランス。
さらにライサイクルアセスメントに代表される環境評価、どれぐらいのマテリアルがどこまでの材料に使われてどう運ばれてきたか?どう運転されたかといったことも、積算の基本情報があれば算出することができます(図-12)。
図-12 積算で使われる分類を技術計算にも活用
機器メーカーとの連携
設備構成において、機器は非常に大きなインパクトがあります。
その機器データ(BIMデータ)が回っていくのかが大切であると、ヨーロッパのグリーンディールにおいても大きなテーマとして取り上げられていました。
例えば、見積りの状況、積算の時の状態、実際に施工する時の状態、あと完成引き渡しの状態のデータは非常に重要で、機器の形状が変わるということではなく、データの中身がどんどん成長していくのです。
BIMライブラリ技術研究組合の部会2で、BIMオブジェクト利用標準2.0という電気・空調・衛生を包含した機器の利用標準を策定してリリースしています。
そのリリースしたものは、国内にある多くの空調機メーカー、送風機メーカー、ポンプメーカー、照明メーカーなどが保持しているデータです。
それらを流通する活動を同組合でやっているのですが、それらのデータをIFCにインポートすることをイメージしています(図-13)。
図-13 製造メーカーのカタログ情報 (製造情報を活用)
製造業が持っているデータをExcel形式で提供していただき、値をわれわれの検証にダイレクトに使うことができれば大きな社会貢献となります。
適切な機器の選定計算がBIMデータと製造者からもたらされる値によって計算が完結するからです。
生産現場で監理者が機器の能力仕様の確認を行うのに多くの時間を費やしており、デジタル確認が施工現場で実現でき、効率化と同時にグリーンに貢献できているシステム選択を確認できることがグリーン貢献であるのではないでしょうか。
グリーンなデザイン
スマートなビジネスを産業として実施してもらいたいとの思いで、日本においては建築BIM推進会議加速化事業が行われています。
標準データを整備して、標準ソリューションを使う、標準を運用できる人材を評価して産業をグリーンに貢献する形に回していくことが目的です。
BIMツールを扱う環境を増やしていくことも大切ですが、グリーンに貢献できる人材を育成して産業で活躍してもらうことが本来の目標です。
道具を売って、補助金が切れた途端に誰も使わないような道具を展開することが目標ではないはずです。
シンガポールで8年前に多くの補助金でBIMツールを使える状態にしましたが、現在シンガポールではIFCSGに代表される標準フォーマットを運用することで行政に係る申請確認などを実施することに集約しています(図-14)。
図-14 シンガポール政府 (IFCSGを採用)
補助をして標準を推進している先には、官民合意で作り上げた標準を用いることが法的な義務を伴って実装されることが見えてきます。
ヨーロッパのグリーンディールDPPデジタルプロダクトパスポートに見られる、標準データで認証された確認検証計算ツールでグリーンのための計算を経たものしか、建設資材、製品を市場に投入できないということです。
建設ICTは、生産性を高めるという価値は十分果たしていると思われます。
一方で、設計・施工計画の立案過程で作られるBIMデータを使い、グリーンに貢献できる環境を作り上げることが大切な局面における判断のよりどころになるのではないでしょうか(図-15)。
図-15 BIER 建設情報環境責任という活動が活発になっている
一般社団法人buildingSMART Japan設備環境小委員会
谷内 秀敬
【出典】
建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM