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建設コンサルタント・建設会社のBIM/CIMを支援してきたMalmeが見ている原則適用下での留意点や内製化に悩む組織について共有します
特集記事

書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

BIM/CIM原則適用における設計・施工BIM/CIMの留意点
建設コンサルタント・建設会社のBIM/CIMを支援してきたMalmeが見ている原則適用下での留意点や内製化に悩む組織について共有します

2024年7月12日

生産性向上2割を目指すBIM/CIM原則適用

国土交通省は2023年から、BIM/CIM原則適用をスタートしました。
これまでは業務での3次元活用に主眼が置かれてきましたが、今後はプロセス間のデータシェアリングを活用した全体最適化への取り組みが活性化することが期待されます。
 
しかし、原則適用とはいっても、BIM/CIMをフルに活用できるような仕組みやルールが、施設管理者側やベンダーなどで整備途中であるのが現状です。
 
その中で各組織がBIM/CIMを進める上での注意点や、活用できている組織やそうでない組織を、われわれのような外部の組織から見た情報を共有させていただきます。
株式会社Malmeは2021年2月に創業した建設系スタートアップ企業になります。
“ドボクをアップデートする”を合言葉に、BIM/CIMを基盤とした建設DXサービスを提供する会社です。
 
もうすぐ3年を迎えようとする弊社ですが、多くの建設会社および建設コンサルタント様より、BIM/CIM支援サービスを通じて、モデリングサポートのほかにも、内製化支援や講習会の相談を全国から多く相談をいただいているところです。
その中で、BIM/CIMの浸透がうまくいっている組織とうまくいっていない組織の共通点や、BIM/CIMを活用するに当たっての注意点を紹介させていただきます。
 
われわれが着目している当面の課題としては、以下の通りです。
 
【早期に解決すべき問題】

  • BIM/CIMを活用した事業プロセス間連携
  • BIM/CIM技術者の育成

 
これについて、弊社の視点から見えてきている課題や注意点を共有させていただきます。
 
 

BIM/CIMを活用した事業プロセス間連携

Malmeから見たBIM/CIM活用の実態

建設コンサルタント様や建設会社様より設計・施工BIM/CIMのモデリングや活用検討支援、内製化支援をご協力させていただいています。
 
その中で、設計BIM/CIMと施工BIM/CIMでの活用目的は、下記と捉えています。

表-1 設計段階と施工段階のBIM/CIM実態
表-1 設計段階と施工段階のBIM/CIM実態

 

設計段階の実態

設計段階におけるBIM/CIM活用は、原則化前までは、国土交通省案件や先進的
に取り組んでいる都道府県において、大手建設コンサルタントや自主的に取り組む建設コンサルタントが対応するような状況でしたが、現在は地場コンサルまで取り組む組織が多い印象を受けています。
しかし、BIM/CIM原則化とはいっても、設計段階における最終的な成果品は2次元ベースの図面・数量でありBIM/CIM成果品は参考図書となるため、発注者の予算の都合や、プロジェクトメンバーの姿勢などでBIM/CIM活用に至らない事例が多い印象を受けます。
 

  • 予備設計段階では、パラメトリックモデリングや3次元モデルを活用した合意形成が役に立っているが、詳細設計では効果が少ない。
  • 設計検討や図面数量計算など、本来の設計成果では活用できていない。
  • 自動化ツールの活用やうまく設計プロセスに取り入れて効率化に成功しているのは一部の会社のみである。
  • 効率化できたとしても、求められる成果品が2次元図面・数量計算書なので、効率化の効果は小さい。
  • 設計段階で作成したモデルが、施工段階で使えないと言われる事例が多い。
  • 設計成果品が図面となるため、3次元データも活用目的とは無関係に、LODが高くなってしまう事例が多くモデルが細かくなる事例が多い。

 

施工段階の実態

施工段階においては、大手建設会社は積極的に活用(デジタルツインや自動施工、シミュレーションなど)されていますが、大半の建設会社は、3次元モデル活用にあまり価値を感じていない印象を受けます。
一方で、BIM/CIMに対して価値を感じている組織については、発注方式に限らず積極的に3次元データを活用しております。
 
また、施工現場において施工全体を把握する技術者は限られていること、資料作成などに時間を割かれることから、3次元の活用を検討・指示できる人材も時間も足りないのが実態です。
そのため、施工現場において効果的に3次元モデルを活用するには、現場を理解するBIM/CIM専属のチームが必要であり、そのチームを構築できている組織が非常に少ないように感じます。
 

  • 大半の建設会社は、3次元モデル活用に価値を感じていないが、価値を感じている組織は、発注方式に限らず積極的に活用している。
  • 施工時におけるBIM/CIMメリットを享受できる事業者が少ない。
  • 施工時の問題発見につながるため、施工全体としては効率化するが、施工計画時点では作業および検討事項が増えている。
  • CADソフトのみならず、ICTや点群測量などによって、機械損傷の増大に対する効果は少ない。

 

設計―施工間の連携について

ここまでは、個別のプロセスに対する実態を述べましたが、設計―施工間の連携についてはどうでしょうか。
 
従来プロセスでは、設計―施工間の連携方法は、報告書・図面・数量計算書でしたが、BIM/CIMでの連携となると、3次元モデルと属性情報がベースとするような動き(LODやLOI)の整備がありますが、施工段階では設計段階で作成したBIM/CIMモデルが十分に活用されていないのが実態です。
 
設計―施工間のデータ連携がうまくいっていない原因としては、後工程での活用目的が明確になっていないまま、設計成果品が収められていることが大きいといえます。
 
設計段階では、合意形成や図面数量の参考図書としてBIM/CIMが活用されていますが、施工段階ではICT施工や施工計画などで活用されており、活用目的が大きく異なります。
 
図-1の通り、BIM/CIMの普及が進むにつれて、設計データは後工程で使えないといった声が聞こえてきますが、目的が明確になっていないままデータを作成していることが原因であり、目的がないデータが使えないのは当然です。

図-1 不明瞭な活用目的による無意味な3次元データ交換
図-1 不明瞭な活用目的による無意味な3次元データ交換

 
では、事業プロセス間で運用するにはどうすればよいでしょうか。
それは、“施工時における活用目的を、設計段階で決定する”のが効果的だと考えています。
すなわち、設計段階から施工業者を選定し、施工業者が選定した活用目的に必要なデータを設計段階で作成するといったイメージです(ISO19650の観点では、プロジェクトの初期段階において、維持管理フェーズでのデータ活用にも言及することが重要となります)。
 
ただし、上記については発注方式などの改善が必要であるため、設計会社や施工会社が解決できない部分であります。
まずは、最低限活用する3次元データ(線形・土工データ・構造物データ)をJ-landXMLやIFCファイルで確実に引き継ぎ、それらのデータをベースに施工段階でのBIM/CIMデータを作成していくことが重要です。
それさえあれば、作り直しになることはあっても、3次元のベースの材料があるので、後工程にとっては効果的なデータとなります。
 

現時点は各プロセスでやるべきことをやる

BIM/CIMを活用とした生産性向上については、事業全体でプロセスを見直すことが重要ですが、これまで述べたように、事業プロセス全体でBIM/CIMを活用するには、解決すべき課題や技術がまだまだ多いのが実態です。
そのため、現在の業務の中でBIM/CIMをどれだけ活用できるか、組織のワークフローの中に落とし込めるかが重要となります。
 

設計段階でやるべきこと

設計段階で頻発する設計検討や図面作成などの繰り返し作業が多くなるケースにおいては、3次元設計は効果的です。
構造解析から図面出力まで全てのプロセスを 3次元で対応すれば、工種や業務内容にもよりますが、作業の大幅な効率化が期待できます。
 
しかし、現在の設計プロセスは2次元設計がベースであること、業務執行体制(協力会社やCADオペレーター含めて)などを踏まえると、いきなり3次元設計を始めるのは現実的ではありません。
まずは一部のプロセスから始めてみて、組織体制やスキルなどを考慮しながら徐々に3次元でできることを増やしていくのが現実的と考えています。

 

施工段階でやるべきこと

施工段階では、BIM/CIMの活用によって、見えないコストと向き合うことが重要であると考えます。
 
施工段階でのBIM/CIMの活用は、施工計画や出来形管理などで利用される事例を多く見ますが、それらは直接作業効率の向上にはつながりません。
ただし、施工計画モデルを活用することによるコミュニケーションコストの削減やミスの事前防止など、数値には表れないコストが削減できることが期待できます。
 

Autodesk製品はただの図面作成、モデリングソフトではなくなった

世界的な動きとして、ISO19650をベースにOpenBIMに向けた製品開発やルール化が進んでいます。
弊社でもAutodesk製品を利用する機会が多いですが、建設業界全般でもAEC Collectionを利用している組織が多いです。
その中で、「3次元CADソフトは高い!」とよく聞きますが、その理由として、モデリングソフトだけでしか認識できていないことが理由だと考えられます。
Autodesk製品の中身を見ると、点群処理やフォトグラメトリー、3次元ベースの構造解析など、多様な製品がパッケージ化されています。
特に、近年サービス化されたAutodesk Construction Cloud(以下、ACC)についてはISO19650に準拠したクラウドベースのデータ管理サービスとなっており、業務の生産性だけではなく、組織全体に利点をもたらすコンセプトとなっております。
ここまで述べたように、これまでのBIM/CIMの話では3次元モデルを活用することが主たるテーマとして挙げられますが、本来のBIM/CIMの目指す概念として、BIM/CIMデータを核にしたデータドリブンなプロジェクト管理が理想であるため、設計や施工を担う生産チームのみならず、管理・経営チーム全体でのデータマネジメントを検討することが、BIM/CIMを最大限活用する上で効果的な製品の活用方法
であると考えます。
 
ここまでで、設計と施工の現状でのBIM/CIM活用方法および留意点を整理しました。
 
まずは個別のプロセスで、自らの組織に見合った3次元設計や活用を取り組んでいくことが重要です。
 
なお、工種や内容によっては、2次元設計や従来プロセスの方が効率的な場合もありますので、そのあたりは社内の組織ごとに十分な検証が必要でしょう。
 
 

BIM/CIM技術者の育成

次に、2つ目の大きな問題である技術者の育成について述べます。
 
BIM/CIM活用を行うに当たって、3次元CADソフトの活用は必須になるでしょう。
建設コンサルタントや施工会社では、比較的後ろ向きな見方(ソフトウエアの価格や習得)によって導入に踏み切れない企業が多い印象を受けます。
導入に踏み切ったとしても、扱える人材が限られるため、組織内で普及しない状況となるケースが多くみられます。
 
弊社では、モデリングサービスのみならず、BIM/CIM内製化の相談なども多くいただきます。
その中で、内製化がうまくいっている組織とうまくいっていない組織の共通点が見えてきたので、ご紹介させていただきます。

図-2 BIMCIM推進に当たっては課題認識の広さが異なる
図-2 BIMCIM推進に当たっては課題認識の広さが異なる

 

導入が進む会社の共通点

導入が進む会社の共通点は以下の通りです。
 

  • 会社全体の課題として取り組んでいる。
  • BIM/CIMを理解する技術者が若手・中堅で増えている。
  • 技術者である若手もしく中堅技術者が、設計案件におけるBIM/CIMの活用を理解している。
  • BIM/CIM推進室と執行チームとの連携がうまく取れている。
    執行チームだけでは現況の業務と3次元モデル作成と並行することが難しいことを認識しているため、ミニローテーションによる人材配置を適切に実施している。

 
一方で、内製化がうまく進んでいない組織の共通点は以下の通りです。
 
【内製化がうまく進んでいない組織】

  • BIM/CIMを推進する体制になっていない。
    個人に依存している。
    社内技術共有が図られていない。
  • 強力な協力会社(ベテラン技術者)が存在するため、ワークフローを変えなくても困っていない。
  • BIM/CIMの効果が低い分野、2次元設計で最適化されている案件に従事している組織。

 
また、国内では、新卒入社時点でBIM/CIMに親しい技術者がおらず、配属された組織にて設計・施工技術とBIM/CIMを新しい技術として並行して学ばなければなりません。
現況の仕事に加え、3DCADソフトやBIM/CIMの概念を学ぶのは、自身の関心もついてこないとできるものではありません。
 

諸外国の育成事例

諸外国や一部の教育機関では、建築学科や土木学科のカリキュラムにBIMが取り込まれており、卒業する頃にはモデリングスキルと一定のプログラミングスキルが備わっています。
 
欧州や中東では、先進事例として、政府や施設管理者が、BIMの活用目的を定めた上で、デジタルツインによる維持管理
(BIMやGISのモデルを、IOTを活用した施設管理手法)を採用している事例の背景には、教育機関との連携による幅広いBIM技術者の育成が影響しているものだと想定されます。
具体的には、道路トンネル内の異常発生を、CO2排出量で検知し、それをBIMの部材IDや位置情報と紐付けて施設管理する仕組みなどが挙げられます。
維持管理フェーズを見据えると、やはりBIM/CIMをマネジメントする立場として、施設管理者の理解が重要となりますが、官公庁の業務内容やPC環境の実態から、施設管理者によるBIM/CIMの管理を行うことは、ハードルが高い課題と言えます。
BIM/CIMで全体最適化を目指す運用を実施していくには、BIM/CIMに精通した技術者を産学連携で着実に育てていく必要があるといえます。

 

内製化に向けた取り組み

BIM/CIMを活用できるチームの作り方として、下記の4点が重要であると考えます。
 

  • 会社全体で考えること:BIM/CIMを推進することによる評価制度やチームまたは部署の設置。
    チームを設置して一部のチームに委ねるのではなく、組織全体で調整できるリーダーシップが必要。
  • 社内での積極的な情報共有:大手の会社であれば、年間でBIM/CIMに取り組む案件が多いため問題ありませんが、中堅規模となると、年間でBIM/CIM活用をするプロジェクトは、1桁台になることが想定されます。
    個別で対応できるのも、年間2~3件程度と思われるため、情報共有を積極的に行わないと、知見が蓄積されるスピードは遅くなってしまいます。
  • 若手などの個人に委ねるのではなく、チームで取り組むこと。
    新しいことを一人で取り組むには、相応のエネルギーが必要です。
    BIM/CIMに関心のあるメンバーは複数人集める必要があります。
  • モデラーとマネージャーを育てること:前段で述べたように、プロジェクトにおけるBIM/CIM成功のカギは、目的を定めることにあります。
    単純にガイドラインやマニュアルに基づいた3次元モデルを作成するのではなく、設計・施工において効果的なポイントやコストを見据えて、発注者とマネジメントできる人材が必要です。

 

本当に必要なのはBIM/CIMマネージャー

今後、より効果的なBIM/CIM活用をプロジェクトに導入していくには、これまで申しているように、プロジェクトにおける正しい目的設定が重要となります。
 
プロジェクト全体および後工程での活用を見据えて、プロジェクト計画段階から必要なデータや活用効果が高いBIM/CIM活用を協議できる人材が必要となります。
そのためには、社内での事例だけではやはり少ないため、社内外での事例を収集して、業務に生かせるような仕組みが必要であると考えます。
 
弊社でも勉強会の相談を受けておりますが、これまでは初学者向けのモデリング勉強会に関する需要が多かったのですが、2023年度は中級者向けの講習会や活用や留意点にフォーカスした講習会が増えてきているように感じます。

 
 

さいごに

以上、設計―施工間のBIM/CIMの実態から、組織内製化の共通点について述べさせていただきました。
 
BIM/CIMの理想を達成するために、業界が一体となって取り組んでいるところであり、それは諸外国も同じ状況であると言えます。
土木業界の全体最適化に向けたBIM/CIM活用を実現するには、業界全体で取り組んでいくべき課題が多く残されていますが、会社・チームからやれることは多く存在します。
 
弊社も、これまで蓄積してきた知見を生かし、分かりやすく、そして業界がもっとおもしろくなるように、建設業界を支援できる企業と評価いただけるよう、先進的な取り組みを行っていきたい組織から、これからBIM/CIMを推進したい組織まで幅広くサポートしていきますので、モデリングから組織解決まで困りごとがありましたら、ご相談ください。
 
 
 

株式会社Malme
野田 敏雄

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 

最終更新日:2024-07-22



 


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