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i-Construction 2.0をはじめとしたインフラ分野のDX展開の取り組み

2025年6月9日

i-Construction 2.0、インフラ分野のDXの経緯

国土交通省では、2016年4月にi-Construction委員会(委員長:小宮山宏 株式会社三菱総合研究所理事長)から「i-Construction ~建設現場の生産性革命~」を提言いただき、建設現場の生産性向上の取り組みとして、ICT建設機械や無人航空機(UAV)等を活用したICT施工、設計・施工におけるデジタル技術の積極的な活用など、i-Constructionを進めてきました。
 
2020年からは、「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」(本部長:国土交通省技監)を設置し、i-Constructionの目的である建設現場の生産性向上に加え、インフラ関連の情報提供やサービスを含めて、デジタル技術を活用し働き方を変革するインフラ分野のDXを推進、業務、組織、プロセス、文化・風土や働き方の変革を目的として取り組みを進めてきました。
2022年3月には国土交通省の取り組みを「インフラ分野のDXアクションプラン」として取りまとめて公表し、2023年8月に第2版(以下、インフラDXアクションプラン2)を公表しました。
 
インフラDXアクションプラン2においては、目指す姿として、建設現場を含めた20~30年後の将来の社会イメージを示すとともに、「インフラの作り方の変革」、「インフラの使い方の変革」、「データの活かし方の変革」という3つの観点で分野網羅的、組織横断的に取り組みを進めることとしています(図-1)。

図-1 建設現場の将来の社会イメージ
図-1 建設現場の将来の社会イメージ

 
「インフラの作り方の変革」ともいえるi-Constructionに着手して以降、社会資本整備を巡る状況は大きく変化してきています。
生産年齢人口の減少や高齢化により、特に地方都市において暮らしを支える各種サービス提供機能の低下・損失が懸念される中、気候変動の影響による自然災害の激甚化・頻発化、高度成長期以降に集中的に建設されたインフラの老朽化が進行しています。
 
一方で、AI、5G、クラウド等に至る革新的なデジタル技術の開発・社会実装も進んでおり、国土交通省においても、i-Constructionの取り組み以降、3次元データやICT建設機械などのデジタル技術の活用が一般化しつつあります。
2023年度からは、直轄土木業務・工事において、建設事業で取り扱う情報をデジタル化し、建設生産プロセス全体の効率化を図るBIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling、 Management )に取り組むことを原則化するなど、データやデジタル技術を活用し、業務のあり方を変革していく体制は整ってきています。
 
このため、i-Constructionの取り組みを加速し抜本的な省人化対策を進める時と捉え、「施工のオートメーション化」、「データ連携のオートメーション化」、「施工管理のオートメーション化」を3本の柱とし、少ない人数で、安全に、快適な環境で働く生産性の高い建設現場の実現を目指し建設現場のオートメーション化に、2024年4月より、i-Construction 2.0として取り組むこととしました。
 
i-Construction 2.0の取り組みは、インフラDXアクションプラン2で定めた建設現場の将来の社会イメージに向けた取り組みともいえます。
 
本稿ではインフラ分野のDXにおける取り組みの方向性を説明した後に、「インフラの使い方の変革」として、i-Construction 2.0の取り組みや、「データの活かし方の変革」として、国土交通データプラットフォームの取り組みについて説明します。
 
 

インフラ分野のDXの方向性

インフラ分野のDXの方向性として、インフラに関わるあらゆる分野で網羅的に変革する、「分野網羅的な取り組み」という視点を掲げています。
 
分野網羅的な取り組みを進めるに当たり、①インフラの作り方、②インフラの使い方、③データの活かし方という3分野に分類し、DX(変革)を進めることとしています(図-2)。

図-2 インフラ分野のDXにおける3分野
図-2 インフラ分野のDXにおける3分野

 
①「インフラの作り方の変革」は、インフラの建設生産プロセスを変革する取り組みが対象となります。
データとデジタル技術を活用し、建設生産、管理プロセスをより良いものにしていく取り組みです。
i-Construction 2.0の取り組みも、この中に含まれています。
 
②「インフラの使い方の変革」では、インフラの「運用」と「保全」の観点が対象となります。
「運用」では、インフラ利用申請のオンライン化や書類の簡素化に加え、デジタル技術を駆使して利用者目線でインフラの潜在的な機能を最大限に引き出すことなどが挙げられます。
「保全」では、最先端の技術等を駆使した、効率的・効果的な維持管理などが挙げられます。
これらの取り組みを通じて、賢く(Smart)かつ安全(Safe)で、持続可能(Sustainable)なインフラ管理の実現(3S)を目指します。
 
③「データの活かし方の変革」は、上記2つはフィジカル空間を対象としている一方で、「データの活かし方の変革」はサイバー空間を対象とした変革です。
インフラまわりのデータを活かすことにより、仕事の進め方、民間投資、技術開発が促進される社会の実現を目指します。
具体的には、 IoTデバイス等の機器の普及により、フィジカル空間で取得したデータを大量にサイバー空間に移すことが可能となりました。
これらのデータをサイバー空間において予測や検証を行い、フィジカル空間にフィードバックすることで新たな価値を創出するという考え方です。
取り組みの一つとして、国土交通省では、国土交通データプラットフォームをハブに国土に関するデータの収集・蓄積・連携を進め、そのユースケースの創出を進めています。
 
 

i -Construction 2.0が目指す目標と取り組み

Construction 2.0では、デジタル技術を最大限活用し、建設現場のあらゆる生産プロセスのオートメーション化に取り組み、今よりも少ない人数で、安全に、できる限り屋内など快適な環境で働く生産性の高い建設現場を実現することを目指しています。
 
具体的には2040年度までに、建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性を1.5倍以上に向上することを目指します。
省人化3割とは、2040年度には生産年齢人口が約2割減少するという予測がある中で、災害の激甚化・頻発化、インフラ老朽化への対応増などを考慮し、設定したものです(図-3、4)。

図-3 i-Construction 2.0 建設現場のオートメーション化
図-3 i-Construction 2.0 建設現場のオートメーション化
図-4 i-Construction 2.0 目標設定の考え方
図-4 i-Construction 2.0 目標設定の考え方

 
抜本的な省人化対策に取り組むためには、一人で複数台の機械を操作することや、設計・施工の自動化、海上工事における作業船の自動施工など、これまで人が手作業で実施している内容をAIやシステムを活用して自動化し、人はマネジメント業務に特化していくよう変革していく必要があります。
併せて、抜本的な変革が実現するまでの対応として、近年社会全体で進展しているDXの取り組みや、BIM/CIM原則化によるデジタルデータの活用、新型コロナウイルスの感染拡大を契機として急速に進んだリモート技術など、業務の効率化・省人化につながる取り組みを加速していく必要があります。
さらに、省人化対策の推進に当たっては、気候変動に伴い激甚化・頻発化する災害への対応や積雪寒冷環境下のような厳しい現場条件、地域特性も考慮する必要があります。
 
このため、国土交通省ではこれまで進めてきたi-Constructionの取り組みを深化し、さらなる抜本的な建設現場の省人化対策を「i-Construction 2.0」として、「施工のオートメーション化」、「データ連携のオートメーション化」、「施工管理のオートメーション化」に取り組むことで、建設現場のオートメーション化の実現を目指していくこととしています。
 
これらの省人化・生産性向上を通して、建設産業に携わる方々の賃金水準の大幅な向上も期待しています。
 
なお、i-Construction 2.0やインフラ分野のDXを進めていくためには、多様な人材に建設産業に関心を持ってもらうことが重要です。
横軸にインフラまわりの関係者、縦軸に整備や管理の高度化、さらにはインフラ利活用という観点を加えて、次のようなイメージで関係を整理しています(図-5)。

図-5 i-Construction 2.0とインフラ分野のDX
図-5 i-Construction 2.0とインフラ分野のDX

 
 

i-Construction 2.0-3本の柱-

(1) 施工のオートメーション化

現在、建設現場では経験豊富な技術者の指揮の下、施工計画を作成し、工事工程を定めた上で、指示を受けたオペレータが建設機械に搭乗し操作を行っています。
今後、一人当たりの生産能力を向上するため、各種センサーにより現場の情報を取得し、AIなどを活用して自動的に作成された施工計画に基づき、一人のオペレーターが複数の建設機械の動作を管理する「施工のオートメーション化」を推進します。
 
「施工のオートメーション化」に当たっては、自動施工の標準的な安全ルールなどの環境整備や異なるメーカー間の建設機械を制御可能な共通制御信号の策定、人の立ち入らない現場において安全かつ効率的な作業を可能にする遠隔建設機械の普及促進等を実施します。
 
また、さまざまなシステムが活用されている建設現場において、異なる建設機械メーカーであってもリアルタイムの施工データを円滑に取得・共有することで、建設現場のデジタル化・見える化を進め、建設機械の最適配置を瞬時に判断し、効率的な施工を実現します。
さらに、海上工事における作業船の操作の自動化を実現します。
 
「施工のオートメーション化」により、建設現場の省人化に加え、生産年齢人口減少下においても必要な施工能力を確保していきます。
 

(2) データ連携のオートメーション化

(デジタル化・ペーパーレス化)
調査・測量、設計、施工、維持管理といった建設生産プロセス全体をデジタル化、3次元化し、必要な情報を必要な時に加工できる形式で容易に取得できる環境を構築するBIM/CIMなどにより「データ連携のオートメーション化」を推進します。
これにより同じデータを繰り返し手入力することをなくし、不要な調査や問い合わせ、復元作業を削減するとともに、資料を探す手間や待ち時間の削減を進めます。

建設生産プロセスにおいて作成・取得するデータは多量にある一方、現時点ではデータを十分に活用できていないことから、各段階で必要な情報を整理した上で、関係者間で容易に共有できるよう、情報共有基盤を構築し、円滑なデータ連携を進めます。
 
データの活用に当たっては、設計データを施工データとして直接活用することや、デジタルツインの構築による施工計画の効率化など、現場作業に関わる部分の効率化に加え、BIツール等の活用により、紙での書類は作成せず、データを可視化し、分析や判断ができるよう真の意味でのペーパーレス化(ASP(情報共有システム)の拡充といった現場データの活用による書類削減)などバックオフィスの効率化の両面から進めていきます。
 

(3) 施工管理のオートメーション化(リモート化・オフサイト化)

建設現場全体のオートメーション化を進めるためには、施工の自動化やBIM/CIM等によるデジタルデータの活用に加え、部材製作、運搬、設置や監督・検査等あらゆる場面で有用な新技術も積極的に活用しながら「施工管理のオートメーション化」を推進します。
 
これまで立会い、段階確認等の確認行為において活用していた遠隔臨場を検査にも適用するとともに、コンクリート構造物の配筋の出来形確認においては、デジタルカメラで撮影した画像解析による計測技術も適用します。
また、小型構造物や中型構造物を中心に活用していたプレキャスト製品について、大型構造物についてもVFM(Value for Money)の評価手法の確立等を進めながら導入を推進することにより、リモート化・オフサイト化を進めます。
 
 

おわりに

人口減少社会やインフラの老朽化が進む中、社会水準を維持・向上させていくためには、より多くの付加価値を生み出していくことが必要です。
この鍵となるのがデジタル技術(D:Digital)と、日常生活や経済活動の基盤となるインフラを守り、改善し、より良くしていこう、という変革(X:Transformation)であり、この変革には、業務のあり方や働き方も含まれています。
 
将来に当たって建設業は欠くことのできない業界であり、インフラ分野のDXをとおして多様な人材にとって魅力あるものにしてまいりたいと考えています。
 
 
【参考】
本稿の詳細については、国土交通省ホームページなどを参照いただければ幸いです。
1)国土交通省報道発表
「i-Construction2.0」を策定しました~建設現場のオートメーション化による生産性向上
(省人化)~
https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001085.html
2)国土交通省ホームページインフラ分野のDX
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000073.html
 
 
 

国土交通省 大臣官房 参事官(イノベーション)グループ 課長補佐
大谷 彬

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



BIMオブジェクト標準とBIMライブラリ技術研究組合の活動

2025年5月23日

設立目的

BIMライブラリ技術研究組合(BLCJ)は、BIMライブラリコンソーシアム(BLC)(2015年10月設立)を母体として、技術研究組合法に基づく組織として、2019年8月に国土交通大臣の認定を受けて設立された。
技術研究組合は、産業活動において利用される技術に関して、組合員が自らのために共同研究を行う相互扶助組織(非営利共益法人)で、各組合員は、研究者、研究費、設備などを出し合って共同研究を行い、その成果を共同で管理し、組合員相互で活用することとされている。
研究開発終了後には会社化などにより研究成果の円滑な事業化が可能になっており、目的のために活動する時限的組織が本質である。
 
 

試験研究の目的

設立時の目的として、「BIMによる円滑な情報連携の実現のため、繰り返し利用される建築物の部材・部品の形状や性能などのデータ(BIMオブジェクト)を標準化し、その提供や蓄積を行うBIMライブラリを構築・運用するとともに、現在BIM導入を検討・開発中でその効果が大きい分野との連携を図ることにより、効率的な建築物のプロジェクト管理などを実用化することを試験研究の目的とする。
(以下省略)」とし、定款第1条では、主たる事業として以下を掲げて、効率的な建築プロジェクト管理の実用化に資することとしている。
 
①建築物の部材・部品の形状や性能などのデータ(BIMオブジェクト)の標準化
②BIMライブラリの構築・運用
③BIM導入の効果が大きい領域との連携(建築確認・標準仕様書とBIMとの連携を想定)
 
また2023年度から「BIMを用いた建築確認の実施に向けた検討」(実務のツール開発)を関連事業として追加した。
 
 

研究体制

2024年11月現在でBLCJに参加する組合員は、77企業、18団体、5個人であり、図-1に研究体制を示す。

図-1 研究体制
図-1 研究体制

 
 

BLCJ BIMオブジェクト標準Ver.2.0

BLCJは、設立において目標の一つとしてきた「BLCJ BIMオブジェクト標準Ver.2.0(略称BLCJ標準Ver.2.0)」を当組合のホームページ(https://blcj.or.jp)で2023年12月に公開した。
この成果は、多くの関係者の長年のご尽力と建築研究所からの官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)予算の支援によるものである。
BLCJ標準Ver.2.0は、BIMの活用が拡大する中で課題となっている「円滑な情報伝達の実現」を目的として、BIMの属性情報の標準化を図ったものである。
これは建築BIM推進会議の工程表でも目標の一つとして示されている。
 
この標準の主な特長は、
①英国NBSオブジェクト標準の構造を保持しつつ、日本のきめ細やかなものづくりの技術基準に対応していること。
②実務者の視点から、設計・施工・製造段階の主要な情報を属性情報に取り込み、標準化することで、2025年度に予定されるBIMを用いた建築確認に関連する活動を支援すること。
③分類コードは国内用のCI-NETコードとグローバルな対応を視野にUniclass、OmniClassとの対応していること。
④対象品目を拡大し、太陽光発電装置や建築確認に必要なダンパーなどの設備機器などを加えていること。
 
標準の整備において、用語・定義などを共通化することで、設計・施工・製造などの建築生産プロセスでの情報伝達を、より正確に、よりスピーディーに、またミスの削減を図ることによって、生産性の向上を図ることと、BIM関連デジタル技術の開発促進も大いに期待できる。
 
現在建築BIM推進会議のもとに設置された標準化TFで、その他の標準も含めて整理が進行しており、特に構造と設備に関してはBLCJ標準Ver.2.0が全面的に採用される見通しである。
 
標準を整理した範囲を表-1に示す。

表-1 標準を整理した範囲
表-1 標準を整理した範囲

 
 

建築領域の検討

BLCJ標準Ver.2.0の拡充として、窓、シャッター、ドア、トイレについてタイプの追加(例:車いす使用者トイレなど)検討を実施し、属性情報WG(空間オブジェクト)を設置し、空間オブジェクト[ S1 ~ S7]の属性情報の検討を実施している。
「空間オブジェクト」は設計BIMワークフローガイドラインにおける、ボリュームモデル、ゾーニングボリュームモデル、空間要素の総称であり、壁などのオブジェクトに囲まれた空気のかたまりのようなもので、BIMモデルに不可欠な主要部材であるが、実際の建物においては空間として認識され目には見えない。
「シンプルな空間に内蔵されて伝達される情報」は発注者、設計者、施工者、メーカー、維持管理者の立場を超えて共有の資産になる可能性がある。
また設計から維持管理などにおける業務の合理化や外部データ連携の円滑化を目的に属性情報WGにおいて、BLCJ標準に掲載する情報の整理を実施する(図-2、3)。

図-2 建築関係の検討
図-2 建築関係の検討
図-3 空間オブジェクトの検討
図-3 空間オブジェクトの検討

 
構造関係では、BLCJ構造標準<改訂 6版>として、免震装置の属性情報を検討。
制振装置、耐震スリットも検討予定しており、また公共建築工事標準仕様書のデジタル化の検討を進めている(図-4)。

図-4 構造関係の検討
図-4 構造関係の検討

 
 

設備関係の検討

設備関係の標準を図-5に示す。

図-5 設備標準(抜粋)
図-5 設備標準(抜粋)

 
 

BLCJ標 準Ver.2.0に基づくオブジェクト

BLCJ標準Ver.2.0に基づく設備オブジェクトの例を図-6に示す。

図-6 設備オブジェクトの例
図-6 設備オブジェクトの例

 
 

BIMライブラリ

試験用のBIMライブラリの概要を示す。
現在組合員によるさまざまな検証を行っている段階である(図-7、8)。

図-7 BIMライブラリ(1)
図-7 BIMライブラリ(1)
図-8 BIMライブラリ(2)
図-8 BIMライブラリ(2)

 
 

円滑な情報連携

(「BIMを用いた建築確認の実施に向けた検討」)
BIM図面審査の申請に必要な提出データはPDF図面とIFCモデルである。
しかしこれだけでBIMによる整合性の担保をどうすべきかを検討した結果、審査者がネーティブデータを見ないのであれば、審査者がPDFとIFCを見ただけでは、整合性の根拠を確認することができない。
また、「テンプレート」は柔軟性のある作業環境であって、設計者が入力しやすくすることによる「誘導力」はあっても一意に定める「拘束力」はない。
このため、「BIMデータの整合性を設計者が宣言する」方向の、「入出力基準・設計者チェックリスト」の作成となり、パブコメを経て、内容の整理がされている段階である。
 
入出力基準・設計者チェックリスト(抜粋)を図-9、10に示す。
 
パブコメ、その他の技術的な検討を踏まえ、入出力基準・設計者チェックリストの改定版を作成する予定である。

図-9 入出力基準・設計者チェックリスト(抜粋)(1)
図-9 入出力基準・設計者チェックリスト(抜粋)(1)
図-10 入出力基準・設計者チェックリスト(抜粋)(2)
図-10 入出力基準・設計者チェックリスト(抜粋)(2)

 
 
 

BIMライブラリ技術研究組合 専務理事
寺本 英治

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



地方発! 建設DXチャレンジ事例「DXは難しくない!」若手による意識変革で建設DXが次々に実現

生産性の向上に向けてi-Constructionへ

和歌山県有田市にある木下建設株式会社は、1956年の創立で70年近い歴史を刻むが、下請けによる重機土木工事を長らく行ってきており、元請工事の経験は10年ほどと言う。
築き上げた信頼の力で、現在では、約60億の売上高の半分を元請け工事が占めるようになった。
社員数は70名弱を数え、その内で重機土工のオペレーターが半数の35名程度在籍している。
 
同社がICT施工の導入を開始したのは8年前、社長より生産性の向上が経営課題に挙げられてからだ。
8年間の取り組みの成果は、一人当たりの生産性が2倍近くに上がった実績が証明している。
それを可能にした改革を中心となってけん引してきた山田裕明専務取締役本部長に伺った。
 
「生産性向上に向けた施策を始める前は、ICTに全く関心のない会社だったのです。
国土交通省が『i-Construction』を提唱したのが2016年ですので、ほとんど同時期にスタートしました。
自社のみで全てを進めるのは容易ではないので、まずはパートナーシップを結んでくれる会社を探しました。
時の企業動向から、コマツが『i-Construction』を主導していくのでは、という読みでコマツに相談し、今では、コマツの子会社であるEARTHBRAINとの協業にまでつながっています」
 
 

若手社員を対象にしたICT施工の講習会を開始

木下建設では、同じく民間企業とのパートナーシップにより、建設業3Dプリンターの活用や現場のイメージアップ施策も実施していったが、そうした積極的な姿勢が実を結んだのが令和2年度「i-Construction大賞」優秀賞受賞だ。
こうした事績を上げる原動力になったのがICTへの積極的なチャレンジだ。
当初はICTの取り組みは社内でも一部の社員に限られていたが、やがて、コマツ・EARTHBRAINの両社による講習会へと発展していった。
山田専務は、開始時の状況を次のように語る。
 
「当初は、EARTHBRAINの各種ICTソリューションを用いた講習会を社歴上位のベテラン社員を対象に行っていきました。
しかし参加者が不在で講習会自体が開かれないこともあるなど、取り組みの効果がなかなか広がっていかなかったのです。
そこで2023年11月から若手中心の講習会に方針転換し、19歳~27歳の7人の社員を対象に、各現場の実際の課題をテーマにした習得機会を設けました。
1年間で10回開催しましたが、それまで多数を占めていた「難しい」という感想が、若手に替えてから「意外に簡単」という感想に変わったのです。
それぞれが興味をもって臨んでいて、現場で使ってみて分からない点を講習会の場で質問するなどして習熟度を上げています」

座学でソフトウエアの操作を学ぶ
座学でソフトウエアの操作を学ぶ
現場ヤードでドローン実習
現場ヤードでドローン実習

 
 

現場をケーススタディーに。新技術にチャレンジ!

若手中心の講習会の効果は既に現場で成果を上げている。
山間部で遠隔臨場・ICT施工に必要な通信電波が微弱な「有田川河川災害復旧外合併工事」の現場もその一つだ。
ここではStarlink Wi-FiにEARTHBRAINの通信不感地対策Wi-Fiパックを組み合わせて不感地を解消し、遠隔臨場・ICT施工に加え電話連絡やLINE・Skypeなどの通話アプリも使える環境を整備。
さらに、EARTHBRAINの「Smart Construction Edge 」などで現状を点群化しデジタルツインの施工現場を作成、並行して発注者である和歌山県と情報共有の場を設けながら、災害復旧に求められる短時間で効率的な仮設計画をわずか4日間で完了した。
本工事は2023年12月に着工しており、参加した若手社員は、前述の講習会を2度受講しただけで、現場からの要請に学んだ内容を生かしつつ対応し実地でさらに経験を重ねた。
山田専務は「講習会はただ受け身で聞くのではなく、自分の現場の課題を頭に置きながら自分事として主体的に取り組んでもらうようにしています。講習会で学んだ内容を元に、実際に運搬計画を立てる際に『Smart Construction Simulation 』で適正なダンプトラック台数を算出したり、『Smart Construction Fleet 』の位置情報発信デバイスをダンプトラックに後付けで搭載し、運搬上の問題や滞留の解消を解決していきました。それぞれの現場の課題に合わせて異なるICT施工手法を用いています。あたかも現場を講習会のケーススタディーの場のように使いながら十分な対応ができています。若手が操作する時にベテランが経験に基づいた意見を言う場面もあって、相乗効果も出ていますね」と期待以上の成果について説く。
 
講習会で学んだ内容を現場でそのまま試せるため、学ぶ際も自ずと真剣さが増し、
「この課題は、このソリューションを使って解決できる」と、現場さながらに意見を交わしながら講習会自体も熱気を帯びていると言う。

低軌道周回衛星(Starlink)を活用したICT建機による施工
低軌道周回衛星(Starlink)を活用したICT建機による施工
Smart Constructionの各ソリューションを使用し施工計画を効率化
Smart Constructionの各ソリューションを使用し施工計画を効率化

 
 

協業パートナーとともに新たな建設DXに挑む

現場と直結した講習会が人材の質的向上につながり、経営課題である生産性向上に結実するサイクルが確立しつつある木下建設。
次年度の講習内容が重要になるが、山田専務はこう考えている。
 
「次は、中堅社員にICTソリューションの活用を広げる講習会を考えています。
内容的には、ICTソリューションを習得した若手社員を中心において社内横展開の仕組みづくりをしていくつもりです」
現在、講習はコマツとEARTHBRAINによるチームワークで、クラウドを活用しながら実施。
測量など対面によるレクチャーが必要な場合は現地で行う。
 
また、前述しているICT活用について、同社は土工以外での活用にも積極的に挑戦している。
その大きな取り組みの一部が在来工法に比べて格段の工期短縮になる3Dプリンターへの取り組みだ。
 
株式会社Polyuse(東京都港区)は建設用3Dプリンターを開発しているベンチャー企業であり、従来は現場打ちコンクリート工で対応していた構造物を、3Dデータを用いて現地にて自動で積層造形できる技術を持っている。
数年前からパートナーシップを結んでおり、交流を深めてきた(NETIS登録番号:KT-230174-A「建設用3Dプリンティング」)。
 
直近の国土交通省直轄工事においても、通常は現場で作成・設置すると1カ月ほどかかる歩道階段を、3Dプリンターの活用により4日間で仕上げたことで大幅な工期短縮につながった。
現状の公共工事においては採用ハードルが高いため、付帯構造物に限られているが、今後は対象範囲を広げて、さまざまな構造物を現場で活用できるように挑戦するつもりだ。
 
ICT施工の幅をますます広げる木下建設。
一人当たりのさらなる生産性向上とともに、2社による協業パートナーシップが同社のDX戦略をより高みに導くに違いない。

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
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BIM/CIMによる設計と施工の連携― 設計の3Dモデルは施工で活用できるか? ―

はじめに

国土交通省のBIM/CIM原則適用から2年近くが経ち、多くの設計・施工においてBIM/CIM、i-Constructionの考え方による成果が作成されている。
 

BIM/CIMの目的

ここで改めてBIM/CIMの目的を、開始時にまでさかのぼって考えてみる。
土木学会誌2015年6月号において、「CIMは、計画・調査・設計段階から3次元モデル(Modeling)を導入し、その後の施工、維持管理の各段階においてもそれらの3次元モデルと連携させ、建設事業(Construction)で発生する情報(Information)をライフサイクル全体で共有・活用(Management)して建設生産性を向上させようという考え方である」1)とされている。
これは、従来のように設計、施工、維持管理だけの最適化を図るのではなく、連携して協働していくことで全体の生産性向上を目指すということである。
 

現状のBIM/CIMによるデータの流れ

原則適用が開始されてから、どのくらいの設計データが施工に連携され、生産性の向上が図られているであろうか。
 
2024年9月に開催された第79回土木学会年次学術講演会の発表においても、設計と施工の連携に関する発表は、筆者らの発表2)以外には見当たらない。
すなわち、本来の目的に到達せずに、相変わらず、設計データは施工に届いていないと考えられる。
 

現状のBIM/CIMの課題

現状のコンサルタント業務における詳細設計は「工事発注に必要な平面図、縦横断面図、構造物などの詳細設計図、設計計算書、工種別数量計算書、施工計画書などを作成するもの」3)とされている。
このため、実際どのように施工するかは、施工業者に委ねられている。
 
従来の2Dの設計図面を用いている段階では検証を含めて、施工側で再検討が行われてきた。
一方、BIM/CIMでは、2Dで設計した図面から3Dモデルが作成され、この3Dモデルが発注者経由で施工側に渡され、そのまま施工されることになる。
積算のための施工検討が、そのまま施工される形になり、かなり無理があるのではないだろうか。
 
構造物では作成されるものは、ほとんど同じ形状となるので問題は少ないと思われるが、地形が関係するもの、特に排水計画などでは大きく変更しなければならない場合がある。
 
構造物に関しても、設計側では最終の完成形モデルを作成しているだけで、どのように施工していくかは、施工業者が決定してからではないと分からない。
こうした状況では、当初考えられているライフサイクルをわたった生産性の向上は難しいと思われる。
 
 

BIM/CIMデータ活用

BIM/CIMデータの活用は、設計・施工・維持管理までを考えているが、実際に活用されているのは、i-ConstructionにおけるICT活用工事のためのデータとして以下のような場面で利用されている場合が多い。
 

ICT基礎工

設計の3Dモデルをベースに、構造物基礎を3Dで管理するもので、杭の出来形管理などが策定されている。
 

ICT構造物工(橋脚・橋台)

設計の3Dモデルをベースに、構造物躯体を3Dで管理するもので、橋脚・橋台の出来形管理などが策定されている。
 

配筋の確認

設計の3Dモデルを活用し、鉄筋の干渉チェックを行っている。
また、デジタルデータを活用した出来形計測などが策定されている。
 
 

対象工事

対象工事の概要

当該工事は、一般国道7号栗ノ木・紫竹山道路事業における立体化事業の一環として、栗ノ木道路の高架橋下部工の橋脚4基を構築する工事である。
 

詳細設計

詳細設計は、八千代エンジニヤリング株式会社の北陸支店がBIM/CIM受注者希望型業務として図-1に示す区間を担当した。
作成の目的は、事業計画検討のため の形状モデルと施工計画であり、以下のBIM/CIMモデルを作成している。
 
作成したBIM/CIMモデルは、Autodesk社のdwg形式を用いて、Autodesk Navisworksによって施工計画を構築していた。

図-1 設計区間と対象範囲
図-1 設計区間と対象範囲
  • 現況地形と周辺の建築物
  • 河川構造物
  • 道路土工
  • 橋梁構造物
    (上部工7連+ランプ2連)×上下線の計18連下部工A1 ~ A2の64基+ランプ6基
  • 全体の施工計画

 
このうち、株式会社 植木組の施工は、PU15、PU16、PU17、OFFP1の4つの橋脚である。
 

施工上の課題

現場は、国道7号道路に接し、流入交通量約2,700台/12hと非常に交通量が多く、さらに、施工ヤードは国道と栗ノ木川に挟まれた幅約20m程の狭隘な場所の中で、各橋脚の施工を同時に、ほぼ並行して作業する必要がある。
そのため、資機材の搬入・搬出の制約、重機や資材の配置にも工夫した施工計画を立て、施工ステップごとに確認する必要があった。
 
また、施工管理においてICT基礎工、ICT構造物工(橋脚・橋台)や段階確認の鉄筋出来形検査など従来手法に比べ生産性向上および品質向上につながるような手法にも対応する必要があった。
 
 

施工側で必要とするデータ

前述のようなICT施工を行っていくためには、設計側から受領したBIM/CIMモデルに対して、以下のような要望を行った。
 

下部工のロット割

施工時のコンクリートの打ち込みロットに分割する。
これにより、施工ステップ検討に活用する他、1ロットごとのコンクリート打ち込み量、型枠など数量計算を行う。
 

配筋モデル

設計時は、全体の景観、形状、施工計画の確認を主な目的とし、配筋モデルを作成していなかったため、配筋モデルを作成する必要があった。
 
配筋モデルは、現場での組み立てを考慮して、移動が難しい太径鉄筋(D25以上)がある場合、全て干渉がないように作成する。
D25未満のラップなど鉄筋の干渉は無視して構わないが、物理的に配筋不可となる干渉の場合は修正を行う。
 
配筋モデルを用いて、配筋検査、組立方法の検討など、さまざまな場面で活用する。
 

仮設計画モデル

設計時の土留・仮締切工は、「標準」的な施工方法で検討しているため、実際の施工現場では、設計変更が多い。
 
足場、作業土工、工事用道路、建機配置などは、施工を開始しないと分からないため、設計時での作成困難である。
このため、両社で打合せにより、施工方法の検討を実施し、各ステップで作成を行う。
 

統合モデル

設計は図-1に示した事業全体の統合モデルとして作成されているが、施工範囲の統合モデルを作成する。
 
このモデルをベースに、施工範囲の施工ステップモデル(4Dモデル)を作成する。
 
 

施工のためのBIM/CIMモデル作成

施工側からの要望を受け、地形データの更新、下部工モデル・施工計画の詳細化、重機配置検討を追加することが必要であり、表-1のようなモデルを新規に作成する必要があった。

表-1 施工時のBIM/CIMモデル
表-1 施工時のBIM/CIMモデル

 

施工ステップモデル

現況地形モデルは国土地理院の5mメッシュ標高を用いて作成し、このモデルに各工程における掘削モデル、工事用道路工モデルを新規で作成し、これらを元に施工ステップモデルを構築した(図-2)。
詳細設計時に設計範囲全体の施工ステップも作成していたが、工程は1カ月単位で重機の種類、配置場所についても実際の施工計画とは異なることから、対象となる施工範囲の部分の施工ステップの変更を行った。
また、測量データ・航空写真は周辺の道路形態が切り替わるステップごとに施工者より提供され、重機や軌跡図といったモデルを統合モデルへ反映することで、地形の改変も含めた現場状況をリアルタイムで確認・更新することを可能とした。

図-2 施工ステップモデル
図-2 施工ステップモデル

 

下部工モデル

施工段階では下部工の配筋モデル生成の他、属性情報の付与が提案されていた。
おのおのの橋脚に対して、鉄筋モデル、ロット割の情報、支承部モデルを新たに追加する必要があることから、パラメトリックなモデル作成が可能で、標準で配筋に対応しているAutodesk Revitにより新たにモデルを作成した(図-3)。

図-3 下部工モデルの変更
図-3 下部工モデルの変更

 

その他のモデル

この他に、図-4に示すような施工時に設計変更が多いモデルに対して、実施工程に合わせて新規にモデルを作成した。
足場・工事用道路・重機配置は施工時に決定されるため、設計時では作成できない。
施工区間外の下部工モデルおよび上部工モデルは詳細設計時に作成したモデルをそのまま活用した。

図-4 新規に作成したモデル
図-4 新規に作成したモデル

 

現場での活用

配筋モデルは、2次元で検討された詳細設計の図面どおりにモデルを作成すると下部工1基につき5,000カ所以上が干渉していた。
これら全ての干渉を回避することは困難であるため、D25以上の主鉄筋については干渉しないように鉄筋位置の変更を行った(図-5)。
これらのモデルは施工現場でARシステムによる検査データとして活用された。
しかしながら、モデル作成者が移動した方向へ施工現場でも鉄筋を組み立てるとは限らないため、鉄筋モデルの位置には相違が生じてしまう。
このため、全ての鉄筋同士が干渉しないモデルを作成する必要性はなく、本数、配筋ピッチ、鉄筋径といった優先度の高い情報を引き継ぐことが重要である。
 
特に施工上現場での対応が難しい鉄筋径D25以上同士の干渉は避けたモデルの作成が必要であり、どの程度まで干渉しないモデルとして作成し利用するか、今後の議論が待たれる。

図-5 配筋モデル
図-5 配筋モデル

 
 

施工への適用結果

施工ステップ

早期に、現況地形の3次元起工測量を行い、着手前に現場の担当者を含め、設計者と一緒に施工方法を検討することで、モデルの修正・作成はスムーズに進めることができた(図-6)。

  • 工事進捗に伴い変化する、仮設および建機などの配置に活用
  • 現場作業員への説明、打合せに活用
  • 地元説明に活用
図-6 施工ステップモデル
図-6 施工ステップモデル

 

統合モデル

全体の配置などの統合モデルは、工区内の進捗に合わせて更新した(図-7)。

  • コンクリート打ち込み時の生コン車の待機位置の検討(大型車の通行想定)
  • コンクリート打ち込み時の資材搬入路の検討
  • 場内土砂運搬時の10DT運行の検討
図-7 統合モデル
図-7 統合モデル

 

ARによる完成形の確認

出来上がった橋脚躯体や鉄筋モデルなどをモニターで閲覧やAR技術にて現場に投影し、作業員へ構築物のイメージの共有に努めた(図-8)。
 
その結果、作業方法の工夫改善の意見が出てきたことで、安全性と施工性の向上も見られた。

図-8 ARによる完成形の確認
図-8 ARによる完成形の確認

 

ICT基礎工

地上型レーザースキャナーにより場所打ち杭の位置を計測し、計測結果を3D CADにより基準高・杭芯・杭径を計測して出来形管理を行った(図-9)。

図-9 ICT基礎工
図-9 ICT基礎工

 

ICT構造物工(橋脚・橋台)

ICT基礎工と同様に、地上型レーザースキャナーによる橋脚の計測を行い、3D CADにより形状の計測、ヒートマップによる出来形の管理を行った(図-10)。

図-10 ICT構造物工 出来形ヒートマップ
図-10 ICT構造物工 出来形ヒートマップ

 

配筋の出来形管理

iPadを活用した鉄筋出来形検査技術の活用とAR技術による従来の人手による計測を自動化して、鉄筋ピッチの自動計測、帳票の自動作成により省力化を図った(図-11、12、13)。

図-11 iPadを活用した出来形計測風景
図-11 iPadを活用した出来形計測風景
図-12 鉄筋ピッチの自動算出
図-12 鉄筋ピッチの自動算出
図-13 ARによる配筋の確認
図-13 ARによる配筋の確認

 
 

連携の効果

モデル作成期間の2割短縮

モデルの作成・修正に当たり、現場の担当者、設計者と一緒に施工方法を検討ができたため、スムーズに作業が進んだ。
設計を担当した会社は、事業全体を理解、オリジナルのモデルも作成しているので、詳細な作業指示も必要なく、モデル作成期間は、施工者自らが自社で作成した場合に比べて約2割短縮できた。
 

余裕を持った工程管理

3Dモデルをフル活用することで、手戻りや段取り間違えなどの発生がほとんどなく、計画工程より余裕をもって完了することができた。
 

施工管理でのメリット

各モデルをモニターで確認したりやAR技術で投影することで、作業員へ構築物のイメージの共有ができ、作業方法の工夫改善の提案があり、安全性と施工性が向上した。
 
また、ICT基礎工、ICT構造物工(橋脚・橋台)の出来形管理により、
基礎 1基杭9本当たり約20時間
橋脚 1基当たり約56時間
鉄筋出来形検査は、おおむね1回当たり
1.5時間×16回現場職員の作業時間が短縮できた。
 
 

まとめ

設計側の成果

施工側との連携により、橋梁下部工施工で活用するために必要となるモデルが明確となった。
 
施工段階にならないと条件が決まらず、作成できないモデルも多く、事業関係者による情報の修正、変更、更新が適切に引継がれることが必要である。
 
該当範囲だけでなく、隣接された工区のモデルも重要であり、周囲のモデルがないと施工段階での利活用が制限されてしまうこともある。
 
真に生産性向上を図るためには、今回のような施工が決まってから改めて別に受注するか、詳細設計付き施工など、工事の発注形式などを業界全体で検討していくことも必要であろう。
 

施工側の成果

設計と施工が協働することにより、事前に課題を解決することができ、事業全体の効率化につながることが確認できたことから、これからも設計と施工の協働が生産性向上には必要である。
 

これからに向けて

設計モデルを真に活用するためには、施工時の情報が必要であり、現在の設計・施工分離から、設計・施工協調へと変更することが重要である。
さらには、設計・施工データを維持管理へと引き継いでいくための方策の検討も必要である。

図-14 完成形
図-14 完成形

 
 
〈参考文献〉
1) 土木学会誌第100巻第6号(2015.6)
2) 土木学会令和6年度土木学会全国大会第79回年次学術講演会VI-76、77
3) 国土交通省 土木設計業務等共通仕様書(案)第1編 共通編
 
 
 

八千代エンジニヤリング株式会社 技術管理本部CIM推進室
藤澤 泰雄 金光 都
株式会社植木組 技術開発部長 星野 和利 土木技術部
陶山 直人

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



建築学科における情報技術の教育における課題と展望

2024年9月19日

大学教育と一級建築士の認定におけるカリキュラム上の制約

わが国の大学教育では、1年時に教養科目を設置し、学年が上がるごとに専門教育に切り替えていく方式が主流である。
例えば、早稲田大学建築学科の場合、語学や教養、自然科学などの理工系学部の学生が共通して取得すべき科目として、48単位が設置されている。
これは、一般教育科目と専門教育科目などの分類に分けて設置することを求めた旧大学設置基準の名残である。
旧大学設置基準では一般教育科目36単位、外国語科目8単位、保健体育科目4単位を設置することとなっていた。
なお、1991年の大学設置基準の大綱化と呼ばれる規制改革により、現在ではこのような規制は存在しないが、多くの大学で類似の制度を踏襲している。
 
これに加えて、一級建築士の受験時に求められる単位数が明確に定められているため、建築学科においては、こちらの基準も満たす必要がある。
ここでは、建築設計製図、建築計画、建築環境工学、建築設備、構造力学、建築一般構造、建築材料、建築生産、建築法規の9分類に関して、最低限取得すべき単位数が定められている。
この9つの科目分類の下限の単位の合計が30単位となっている。
なお、一級建築士の受験資格に関連する科目に関しては、シラバスの提出が定期的に求められ、審査を受ける必要がある。
筆者は10年ほど前、構法系の科目でパラメトリックモデリングに関する演習を行うためにプログラミングの基礎を含む演習を取り入れたシラバスにした際に、「建築一般構造の科目としてふさわしくない」という指摘を受け、科目分類を変更したことがある。
このように厳格な審査が存在することもあり、この9つの科目分類の下限の単位の合計が30単位部分に関しては、多くの建築学科で共通のカリキュラムとなる。
なおこれら科目の認定においては、手書き製図である必要はないため、CADやBIMソフトウエアを用いての製図教育に関しては規制されていない。
また、実務経験2年で一級建築士の免許登録を行うためには建築系の専門科目の単位取得数が60単位を超える必要がある。
 
大学の建築学科においては、大学教育に求められる教養を涵養するための共通科目と一級建築士の受験資格を取得するための専門教育という2つの条件を満たす必要がある。
そのため、多くの大学において卒業単位に含められる科目の過半は類似したカリキュラムとなることとなる。
 
このような条件下で情報技術の取得を目指す新たな科目を設置することはかなり難しいと筆者は感じている。
そのため、製図科目を始めとした既存の科目に情報技術の演習を組み込むことが必要になる。
 

早稲田大学建築学科における情報技術教育の状況

本学の建築学科においては、図-1に示すように1年生から4年生まで一貫した製図教育を行っており、全学年で必修の設計系科目が存在する。
このうち、1年時の製図系科目を中心に、授業の一部を3次元CADを用いた演習としている。
表-1に3次元CADやBIMソフトウエアを授業で用いる科目を示す。

図-1 製図教育の構成と3次元データの作成
図-1 製図教育の構成と3次元データの作成
表-1 3次元データの作成に関連するソフトウエアの利用状況
表-1 3次元データの作成に関連するソフトウエアの利用状況

 
通常の製図教育や建築学の専門教育がある中で、多くの回数を3次元CAD教育には避けないことから、自主的に勉強できる環境を構築することを重視している。
そこで、筆者は以下の方針で3次元CADなどの情報教育を実施している。
 
(1)できるだけ入学直後に3次元CADなどに触れさせる
(2)学生所有のPCにソフトウエアをインストールさせ、自宅でも自習できるようにする
(3)操作例などのオンデマンド動画を用意し、それぞれのペースで学べるようにする
(4)友人とソフトウエア操作を教え合える環境を用意する
 
この4つの方針を満たすために、1年生が全員受講する製図科目である建築表現Ⅰの2回目の講義において、Rhino7を用いた演習科目を実施している(図-2)。
ここでは、建築学科で購入したRhino7アカデミックライセンスを学生に付与した上で、自分のノートPCへのインストール、Rhino7を使った3次元モデルの演習を行っている。
ここでは、MacやWindowsなどOSが不統一のノートPCとなり、PCスペックも異なるため、インストールにかかる時間に大きく差が出ることとなる。

図-2 学生の自主学習ページの例
図-2 学生の自主学習ページの例

そこで、全ての学生にノートPCを持参させ、MacユーザーとWindowsユーザーで座席を分けた上で、学生に座席を詰めて座らせることで、隣り合う学生同士、話がしやすい状況を作り出している。
また、インストールが早めに終わった学生には、先に演習に進めるようにオンデマンド動画を用意し、Rhino7を使った3次元モデルの作成方法を教室内で自習できるようにした。
 
これにより、入学後、早期に最低限の3次元CAD操作を行えるようにしている。
次頁の図-3は入学後、3週目の授業において提出を求める3次元モデルである。

図-3 1年生の初めの演習で作成する3次元モデル
図-3 1年生の初めの演習で作成する3次元モデル

 
このほか、いくつかの授業で数回、3次元CADを用いる科目を設置している。
また、全学生が3次元CADを用いる課題は、以下の課題も含め、前期1課題、後期1課題の全2課題となっている。
 
 

継続的な利用状況

前述のように1年生の初めにRhino7を中心とした演習を経験した上で、その後の利用は学生の自主性に任せている。
ただ、入学直後に3次元CADに触れさせ、学生のノートPCにソフトウエアをインストールさせることは、情報リテラシーの涵養において良い効果があると感じている。
 
図-4は、ある年度の3年生のRhino7の利用状況である。
フローティングライセンスの契約としたため、建築学科で保有するライセンスの範囲内であれば授業外でも全学生が利用を行える。
また、契約ライセンス数の利用となるため、アクティブ化されたRhino7の数が確認できるようになっている。
2年生以降の科目ではCADソフトウエアを指定して用いる科目は存在しないため、コンピューターを用いた表現も手書きや模型による表現も学生の判断で変更できるようになっている。
そのため、Rhino7を用いた演習科目は特に設定されていないが、自主的に利用している学生が一定数、存在することが確認できる。

図-4 ある年度の3年生のRhino7の利用状況
図-4 ある年度の3年生のRhino7の利用状況

 
学生の進路や関心の範囲によりBIMソフトウエアや3次元CADの重要度が変わるため、建築学科の学生全員がこれらスキルを収める必要は必ずしもない。
一方で、このような情報技術群を習得して社会で活躍することを目指す学生も数多く存在する。
そのため、それぞれの学生が自分のPCでこれらソフトウエアを利用できるような環境を構築するとともに、背中を一押しすることが重要だと感じている。
 
 
 

早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 建築学科 准教授
石田 航星

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



 


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