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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

設備BIMはエコを目標にしています

2025年6月23日

BIER(建築情報環境責任)

2024年9月、BIMのイベントへ参加するために、北極経由の航空機に搭乗しました。

 
グリーンランド海岸線を並走している際、窓から氷壁が見えました。
なんとなく見ていましたが、地球全体での気温の上昇、温室効果ガスによる影響があり、氷壁が減退しているとのことを思いながら、産業界としての役割の一部としてICT、DX、BIMなどのデジタルテクノロジーの果たす役割の一端が、あるのではないかと思っています。

 
「BIER(建設情報環境責任)」、ビルディングインフォメーションには環境に対して責任がある、という活動をしています。
具体的にどんな活動をしていますか?と問われることがあります。
 
基本的には「環境にやさしいことにつなげたい」と「災害を発生させる要因を少なくしたい」ということを大前提として、仕事のやり方を工夫することを通じて価値を作りたいという活動です。
 
何がエコなんですかと質問されたことがありました。
建設業の設計施工の手法でエコデザインという考えもありますね。
製品やサービスの生産から廃棄までのライフサイクル全体で環境への影響を低減する、適切な設計手法を確立することです(図-1)。

図-1 BSIサミット資料より
図-1 BSIサミット資料より

 
エコデザインを実現するには、次のような課題をクリアにする必要があると一般的には言われています。
 
①環境負荷が少ない材料を選ぶこと
②材料の使用方法使用量を減らすこと
③製造方法に対して最適な方法を選ぶこと
④効率が良い流通の経路を確保(物流トランスフォーメーションを効率化)すること
⑤環境負荷の影響を軽減する使い方(省エネルギーな運転)をすること
⑥製品の寿命を長くすること
 
もう一つ、エコという言葉に対してエコノミーということがあります。
経済的に優位に進めるということでしょうか、さまざまな活動を通しても、最後には経済を支えるマネーという指標で高い評価が得られるものではないといけないと思います。
遠回しに言いましたが金もうけがないとエコモ不安定と言う人もいます。
 
 

BIMを取り巻く現状

われわれ建設業において、ICTやDX、BIMを活用して環境に配慮しようという取り組みが盛んに行われています。
今一度その活動を振り返ってみると、本当に「BIER」はエコを達成しているのかという疑問も持ちながら活動しています。
 
国土交通省の建築BIM推進会議の目標は、BIMを推進することは一つのお題目ではありますが、日本という国全体が経済的に発展するという考えで建設業のICT、DX、BIMが活用・推進されなければなりません。
しかしながら、現在はBIMのために今までになかった追加の仕事が生じ、今までになかった労力が投入されているにもかかわらず、成果物として得られるものが今までと何ら変わらないと言う人もいます。
 
いわゆる通過点だから、現状の仕事の仕方を分析して、BIM環境で再現し、同じ仕事の方法、手順、役割をICT、DX、BIMで再現し、同等レベルの仕事量と経済的にエコになるように、そのリターンが同じになることをまず目指しているところでしょうか。
 
つまり、「BIMをやっている」というブランドを得るために行っているということです。
途中過程ではあるかもしれませんが、大きくエコに反している結果であると思っています。
BIM環境にしっかりと配慮された仕事の環境、エコなデザインやエコな仕事の仕方を実現するための方策として、本来の目標設定を定めたBIMが求められていると思います。
 
私はその中で、三つエコ環境費用対効果という観点で効率化をもたらす具体的なワークフローを提案できればと思っています。
 
 

BIMの新たなワークフロー

一つ目は、環境負荷のない材料を効率的に選ぶため、ライフサイクルアセスメント評価のプロセスにBIMデータを用いることです(図-2)。

図-2 BIMモデルデータ
図-2 BIMモデルデータ

 
言い換えれば、BIMによりデータの価値を作っていくことです。
建築モデルの構成は、建築資材のデジタル空間への描画です。
建設資材が複合的に配置されて、建築物が作られます(図-3)。

図-3 BSIサミット資料より
図-3 BSIサミット資料より

 
建築資材がどのようなもので、どこの製造者が作ったものか、空間としてどこに配置されるか…IFCやUniclassなどで分類されたことが、BIMオブジェクトと関連付けられます(図-4)。

図-4 プロジェクトデータ、設備、電気
図-4 プロジェクトデータ、設備、電気

 
BIMモデルオブジェクトにUniclassやIFCが関連付けられることで、LCAなどの環境評価テーブルに入力する項目名と数量単位などが均一に入力できます。
均一で信憑性の高いデータとして、標準的なBIMオーサリングツールから出力されたデータが、建築環境負荷の評価に活用するためにワークフローを整備、提案していきます(図-5)。

図-5 BIMデータパラメータ、マッピング
図-5 BIMデータパラメータ、マッピング

 
なお、信憑性の高いデータの値は、製造者から提供されています。
データの書式を整え、一定のルールで流通させることで、大きな効果を得られます、日本では周知段階ですが、欧州のグリーンディール政策の関連規制としてDPPというものがあります(図-6)。

図-6 BSIサミット資料より
図-6 BSIサミット資料より

 
つまり、工業製品はデジタルデータをある一定の書式でデータベースとして登録しなければなりません。
デジタルプロダクトパスポートという規制が厳格に実施されているのです。
これにより、BIMデータを活用して低炭素に貢献できる建設資材を選択していく、無駄のない性能を担保した建築設計を実施することに貢献することができます。
 
二つ目は、設備機器を選定する際のワークフローを最適化する検討をしています。
一つの目標としては、なぜこの機器が選ばれたかという設計の本質的な役割に対して、建築の空間情報と空間要件を連携させた空調機器選定システムを、BIMデータドリブンにより最適化することです。
 
まず、空間要件を計算します。
空調設計ではペリメータとインテリアで要件が異なります。
大空間で生産機器が局部的に大きな放熱を行うことがあり、パーシャル空調が必要な場合があります。
空間ということを定義してデータ連携を行うことが必要です(図-7)。

図-7
図-7

 
設備機器の最適運転を担保するには、セグメント内部の圧力を最適にする計算が必要です。
水系統の場合、搬送機器が運転する状態が変化します、台数運転、インバーターによる回転数を制御することで、運転の状態が変わります。
BIMモデルに配置されているオブジェクトの名前、性能、設置場所を正確に圧力計算に使うことで、配管の圧力内部の状態を把握し、最適な運転ができる設備機器を選定して設計していきます(図-8、9)。

図-8
図-8
図-9
図-9

 
搬送機器の選定を最適化することは、最適な動力を選択することです。
ダクトは断面積が大きく、ダクト搬送経路を最適化する、エンジニアとしての工夫があります。
最適なサイズ選定、局部的に抵抗が大きくならないような無駄のない断面計画が必要です(図-10)。

図-10
図-10

 
空間調整が効率的に行われるかで、エコに直結する機器選定が最適に行われるかということにつながります。
 
3次元の空間調整は干渉やメンテナンス空間の有無などの形状で判断できるエンジニアリングを行います。
BIMモデルドリブンの設計では、ダクト内の圧力を計算し、最適なダクト内部の風速を担保できる設計を行います(図-11)。

図-11
図-11

 
最適なということは、目的と場所によって要件が変わります。
コンサートホールに設置される換気設備のダクト内風速と、火災時の煙を排出する排煙設備では風速や振動、耐火に必要な要件が異なります(図-12)。

図-12
図-12

 
ダクト経路内部の圧力を簡易的に見えるようにするための、BIMデータを工夫する仕組みを通して、省電力、省資源、加えて無駄な作業を削減させることにデータを活用することでエコを目指しています(図-13)。

図-13
図-13

 
三つ目は、積算の効率化を目指しています。
現在BIMデータを使った積算や、先ほど紹介した技術計算においてもBIMデータが持つデータのありようをきちんと定義できていない現状が見受けられます。
 
建築積算においては、建築資材がどれだけの数があるのか、その材料は何なのか、どういう役割なのかということに対して、建設資機材の性能やメーカーの製造者などの情報や耐用年数など、いろいろな情報が必要です。
他にも位置情報が加わることによって施工手順も加味された積算数量を算出することが求められています(図-14)。

図-14 配管ユニット工法は有効
図-14 配管ユニット工法は有効

 
いわゆる労務費や仮設費、養生費、仮設の計画、建設プロセスは完成品としては発生しませんが、途中のプロセスをデジタルツインによる施工シミュレーションで再現して建設工事費用を算出することが求められています(図-15)。

図-15 空間予約することでライザーが実現
図-15 空間予約することでライザーが実現

 
建設資材、設備機材は建設後にも残りますが、途中のプロセスに対して建築BIM積算は、BIMデータドリブンとして予想の確からしさとして、計算される仕組みがあります。
そのプロセスにおいて、何がどこに設置されているのか、何をするための役割なのか、ということが明確な文法が必要であると思います(図-16)。

図-16 IDSの概念
図-16 IDSの概念

 
分類体系やIFCのclass分類など、いろいろな仕様策定団体が建設資材=製品として、どのような仕様なのかを定義しています。
この定義しているものをコンピューター環境で、目的に達成するような名前にマッピングする仕組みを検討しているところです(図-17)。

図-17 IFC-SG シンガポール属性マッピング
図-17 IFC-SG シンガポール属性マッピング

 
 

おわりに

情報要件を満足するデータのありようを定義して、オーサリングツールが要件を満たすデータをエクスポートするIDSという仕組みに注目が集まっています。
日本ではONESTRUCTIONのOpenAECで運用が始まっています。
 
データを使う段階で、解析ツール、シミュレーションツール、積算ツールに要件どおりのありようで渡せないため、モデルの効果がないと言われています。
使わないデータを時間かけて、費用をかけて作るプロセスが削減されれば、ライフサイクル全般でエコが達成されますね。
 
以上のように、効率化・エコな社会、地球環境に配慮した仕事の仕方を達成するべく行っているにもかかわらず、現在はBIMモデルを作ること自体が目標になっているのです。
BIMモデル自体を目標にしていると、何も効果がもたらされない、エコにもなってないということも鑑みながら、現在いろいろな部会や関係各位との共同作業でエコな体制を推進していることを紹介いたしました。
 
マネーの価値と、ブランディングという価値も合わせて、BIM活動を含むデジタル社会の成果を地球環境の健全化につなげる、エコ活動としていきたいと思っています。
目標と手段が混合している現状も踏まえ、エコという目標に対してBIMによる成果が大きく発揮されることになるように、関係各位のお力が使われることを願っています。
 
 
 

BIM BI(建築情報)ER(環境責任)の会
谷内 秀敬

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



地方建設会社の現場におけるBIMとデジタルツインの実践的活用-「建設DX」としての点群データ活用と測量業務を低コストかつ内製化するMatterportソリューション活用の取り組み-

はじめに

当社は山陰地方の建設業界で売上規模1位のゼネコンです。
創業66年、ダイヤモンド社調べの「勢いのある建設会社」ランキングでは44位のご評価をいただいております。
 
地方ゼネコンの中では、当社はBIM導入に早い時期から取り組んでいます。
Autodesk Revitの日本での販売開始がその契機でした。
2018年にはBIM戦略部を発足させ、設計・施工におけるBIMのさらなる活用を模索しています。
ISO 19650認証も取得済みです。
 

デジタル技術活用の狙いと目的

当社では「分かりやすい情報を顧客へ提供すること」は建設会社の使命であると考えており、その目的達成を目指して建設DXに積極的に取り組んでいます。
建設業のプロ同士であれば平面図のみで通じる会話も、非専門家である顧客側の担当者への説明ではそうはいきません。
情報を視覚的に分かりやすくする(可視化する)ことで意思疎通やコミュニケーションの質が劇的に向上します。
当社ではBIM戦略部が中心となって、BIMデータの活用を推進しています。
 
 

改修工事でのBIM活用における課題

BIMは新築だけでなく、改修工事においても効力を発揮します。
しかし、竣工以後に発生した改修がBIMデータに反映されていなかったり、図面/データが現況と異なっていたりすることも少なくありません。
つまり、改修工事案件では竣工当時の図面やBIMデータをそのまま使えないケースが多いのです。
 
当社では改修工事案件の際は現場を測量し、新たにBIMモデルを作成する工程を入れています。
とはいえ測量・採寸の作業には移動費や人件費といったコストに加え、手作業での測量による誤差や作業漏れといった問題も生じます。
一方で高精度なレーザースキャナーは非常に高価かつ、運用者のスキル習熟も必要です。
測量専門会社へ依頼するにしても地方都市では出張費・滞在費といったコストが発生しますし、各種の調整による業務負荷の増大も避けられません。
 
上記の論点を整理すると、当社が求めているのは①安価な導入・運用コスト、②自分たちで扱えるシンプルな操作性、③点群データを取得できる性能といった要件を満たすソリューションであったといえます。
さまざまな製品・サービスを比較検討した結果、当社の課題解決が可能なソリューションとしてMatterport(マーターポート)を採用しました。
現在では、当社案件の8割以上の現場でMatterportを利用しています(図-1)。

図-1 当社が採用しているMatterport Pro3カメラ
図-1 当社が採用しているMatterport Pro3カメラ

 
 

1日がかりの測量も2時間で完了

具体的な効果を列挙すると、下記のような点が当社での実際のケースです。
費用対効果の面では特に優れていると言えます。
 

  • 実機の操作に高度な専門スキルは不要です。
    30分~1時間ほどの練習で、デジタル機器に詳しくないスタッフでも扱えました。
    直感的に操作できるなど、UI/UXの点でも洗練されています。
  • Matterportの使い方を覚えたスタッフは、OJTで他のスタッフに使い方を説明できます。
    本社側のIT部門が機器操作のレクチャーを行う必要がなく、手間は最小限で済みます。
  • Matterportのコストは、高機能なレーザースキャナーの5分の1程度でした。
  • 従来の方法で測量した場合は丸1日を要する現場(約160平米の旅館の改築工事)も、Matterportを使ったところ約2時間で完了。
    原則として撮り漏れが発生しないため、追加撮影・測量のための再訪問が起こりません。
  • 従来の測量では、意匠担当や電気工事担当、設備工事担当など、専門別の担当者がチームとなって訪問する必要がありました。
    しかしMatterportは写真と点群データで3Dのデジタルツインを作成するため、現場を訪問するのは撮影担当者1名のみで済みます。
  • 建物内部を写真データとしても残すため、施工前と施工後の両方を視覚化できます。
    施工による変化を説明しやすく、顧客からも「分かりやすい」と高評価です。
    例えば上記の旅館改装工事の案件では、Matterportでの撮影(3Dスキャン)に2時間、モデリング作業に約3日を掛けました。
    配管も点群データを使用してモデリングしています。
  • Matterportは、データを直接インポート可能なAutodesk Revitプラグインを提供しており、データ連携もスムーズです(図-2、3、4)。
図-2 米子市内でのリフォーム現場をデジタルツイン化
図-2 米子市内でのリフォーム現場をデジタルツイン化
図-3 Matterportの点群データと画像を元にデータ化
図-3 Matterportの点群データと画像を元にデータ化
図-4 測量・寸法測定も高精度
図-4 測量・寸法測定も高精度

 
 

BIMで業務効率化を実現

BIMの導入や活用へのハードルとして、BIM作成には時間や手間がかかるといった声も少なくありません。
しかし当社では、かけたコスト・時間・手間以上の大きなリターンを得ていると実感しています。
 
BIMを使うことで平面図だけではイメージしにくい箇所も確認が容易になります。
既存の建物がある案件(改修工事など)では、スキャンした3D画像(デジタルツイン)によって施工方法の検討も行いやすくなります。
単なるモデリングだけでなく、デジタルツインと掛け合わせることで、メリットを何倍にも拡大できるといえます。
 
 

デジタルツインは若手育成に有効

当社に限らず、若手人材の不足や技能継承の問題は業界全体の構造的課題です。
平面図を見るだけで、頭の中で立体化してイメージできるようになるには何十年という経験が必要でしょう。
しかし当社では、BIMで作成した3DとMatterportで作成したデジタルツインを組み合わせて可視化したことで、若手社員の理解や技能習熟も早くなりました。
 
 

デジタル化で人々の思い出・地域の記憶を残す

当社では、BIMに関連するデータや機器の管理をBIM戦略部にて一元化しています。
現況写真はMatterportで作成したデジタルツインがあれば完了でき、正しい情報・データの現場提供もリンクURLを送るだけで可能となっています。
 
天井や床下なども隠蔽前にスキャンしておけば、後日の保守工事を検討する際に利用できます。
また、解体する建物もスキャンしておくことで、デジタルツインの中で恒久的な保存が可能になります。
 
ある小学校校舎の解体工事を受注した際も、足場配置や動線確認のために作成したデジタルツインを保存して自治体や卒業生に提供しました。
「校舎は取り壊されたが、自分たちの思い出が保存されていて、いつでも見られるのでうれしい」とお喜びいただけました(図-5、6)。

図-5 取り壊し前にデジタルツイン化された校舎の内部
図-5 取り壊し前にデジタルツイン化された校舎の内部
図-6 地域の人々の思い出を恒久的に保存
図-6 地域の人々の思い出を恒久的に保存
デジタルツイン化した「啓成小学校 管理教室棟」へのアクセス↑
↑デジタルツイン化した「啓成小学校 管理教室棟」へのアクセス

 
 

おわりに

当社では「BIM+M(マネジメント)」を提唱しています。
これは、設計・施工を含めた建築プロセスの包括的なマネジメントをBIMと融合させて利用しようという考え方です。
特に、現場が求める正しい情報を、着工前に提供できることが重要です。
当社では「BIM×デジタルツイン」こそが、建設DXにおける具体的なアプローチ方法の1つであると考えています。
 
 
 

美保テクノス株式会社 建築本部BIM戦略部 主任
寺本 弘志

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



現場に重点を置いたBIM推進策-現場作業に直結した講習会と3Dモデルの提供による効率化-

2025年6月18日

松村組のBIM推進を担う大阪支店に取材

株式会社松村組は、1894年の創業から130年の歴史を刻む建設会社。
パナソニック株式会社、トヨタ自動車株式会社、三井物産株式会社の出資で設立されたプライム ライフ テクノロジーズ株式会社のグループ企業の建設会社として、「これまでにないまちづくり」を担う。
 
今回取材したのは、同社大阪本店。
同社のBIM推進の中核となって活動する建築部BIM推進課の3名(小松 哲幸・大阪本店建築部建築課担当課長兼BIM推進課担当課長、東田 雅夫・同見積課担当課長兼BIM推進課、中西 裕輝子・建築部BIM推進課)に、これまでの経緯と課題について伺った。
 
 

時代の流れを捉えたBIM推進課の創設

同社では2017年に大阪本店建築部建築課および設計課にてBIM導入を開始。
当初はパースの作成や仮設計画などにArchicadを使用していた。
 
BIM推進課の創設は2022(令和4)年、国土交通省が直轄の業務・工事でのBIM/CIMの原則適用を開始する前年で、BIM推進の流れが業界全体でますます高まっていた。
そうした流れに乗るため、BIMの本格活用を進めるべく設置された。
現在、大阪本店が専属2名と兼務による7名体制。
東京本店も専属と兼務を合わせて7名、これとは別に建築本部に3名が在籍する。
兼務でBIMに携わる人員がいることで、各部署でのBIM活用に波及することも考えられている。
大阪本店は、本店内での浸透はもちろん、建築課と連携することで特に現場でのBIM活用に重点を置いて活動中だ。

松村組におけるBIM推進体制の変遷
松村組におけるBIM推進体制の変遷

 
 

現場に直結したテーマでBIM講習会を実施

BIM推進課の主な役割は、現場でのBIM活用の推進と、業務サポートによる現場作業の省力化や現場監督の負担軽減である。
 
現場でのBIM活用を進めるには、まずその操作を知ってもらう必要がある。
そのためにスタートしたのが講習会だ。
その内容は、「Archicad」の基本操作に始まり、仮設計画をはじめ現場寄りのテーマを掲げる。
小松課長は「受講のみを目的に強制する のではなく、例えば現場で掘削が始まる前に掘削工事計画図の描き方を学ぶとか、コンクリート打設前にBIMでコンクリートの数量を拾ってみるなど、実際の現場の工程に合わせて実施し実効性を高めるのを狙いとしています。やはり必要に迫られないと覚えないですからね。まずは基本操作の5プログラムの受講を目標に、具体的な現場を想定して講習テーマを設定しています」と語る。
 
中西氏は「Archicad」の活用が進まなかった時期に、「Archicad」経験者として途中入社した。
実は現場管理の経験はないのだが、他業務を行いながら現在は講師も務める。
 
「最初は、初心者のための入門書『Archicad Magic』を使って行っていたのですが、現場で使われる操作に結び付きにくいため単なる勉強会のようになって、関心の高まりを感じられませんでした。
そこで課内で相談し現場寄りの方針に変更しました。
 
例えば『smartCON Planner』を使って『こんな足場が置けて、立面・断面も見られる』と提示し、次に実際に操作してもらうことで興味を持ってもらい、さらには今動いている現場で実際に使ってもらうことで、より実務的なスキルに磨きをかけてもらう3ステップをイメージして行っています。
そのため練習用のモデルではなく、現場に即したモデルで行うのが必須になります」
 
講習会の効果は、入社4~5年の若手社員を中心に徐々に表れている。
現場でBIMを活用し、それで得た成果や疑問を先輩社員にぶつけてみる動きも見られるようになった。
講習を受けた社員から、中西氏に質問が寄せられるケースも多く、確かな反響を感じている。
 
「やはり『1回、講習が終わってノルマ完了』のように思われては困りますし、逆に週1回の講習会で操作を自分のものにするのは困難です。
従って講習後に訪れる実作業を逃さず『すぐに現場で使って覚えて、分からない点はどんどん聞いてください』と伝えています。
 
現場作業と講習テーマを合致させながら行うので、定期的に開催できない課題があるが、確かな手応えも感じている。
小松課長は「講習会開始当初は、『忙しいから、できない』という声もありましたし、現場所長 が『どんどん使って覚えろ』と言ってくれる現場と、そうでない現場との差が生じていました。
でも現在は、現場所長もBIMの存在は認識しているので、現場間の格差もなくなりつつあります。
最近は『色決めしたいから、パースを作って』など、現場からの依頼も多くなっていて、当初と比べれば着実に理解は進んできていますね」と語る。
これを受けて中西氏は「『Archicad』の講習も、若手社員にはしっかりと操作方法を身に付けてほしいのですが、中堅以上のキャリアの社員は基本操作や全体の仕組みを理解してもらった上で部下に指示したり、課の方にBIMモデルを依頼したりできるようになるなど、階層別に講習内容を変えてもいいと思っています」と構想を語る。
 
現場へのBIM理解の推進には、まだまだ試行錯誤が続くが、現場からの反応が浸透度を実感させてくれている。

BIM講習会の変遷
BIM講習会の変遷
BIM講習会の様子
BIM講習会の様子
BIM講習会で使用したモデル(掘削)
BIM講習会で使用したモデル(掘削)
BIM講習会で使用したモデル(鉄骨建方)
BIM講習会で使用したモデル(鉄骨建方)

 
 

AI StructureとBI Structureの連携

一方、現場の業務サポートには課題もある。
 
「3Dモデルを現場に提供するスピードがなかなか間に合わないのが実情です。
施工の案件では、BIMモデルを提供するのが理想なのですが、専属が2名という状況の中で、なかなか思うようにできていません」と小松課長は語る。
 
そこでスピードアップという課題の解決に向けて期待を寄せるのが、株式会社U‘s Factoryの「AI Structure」と「BI Structure」だ。
実際に業務で使用する中西氏は、その利便性を次のように語る。
 
「構造3Dモデル(RC・S・SRC)を作成する専用ツールである『BI Structure』を使っていたのですが、まず部材を定義するために部材リストの鉄筋径・本数などを手打ちで行う作業をしなければならず、かなりストレスを感じていました。
『AI Structure』を使えるようになってからは、PDFの図面データの配筋リストなどを、AIが自動的に読み取ってくれるので、手作業の時間が約3分の1以下に削減されました。
そのまま『BI Structure』で統合して鉄筋モデルを作成できるので、現在は仮に見積り案件であっても最初から『AI Structure』で情報を読み取って簡単に『Archicad』に変換して提出することが多いです。
受注できればそれ以降もスムーズに進行できます。
 
U’s Factoryのプレゼンテーション時に『簡単に使いこなせます』と言われていて、『それなら活用しなければ』と思ったのですが、神経を使っていた図面を読み込む作業も減って実際その通りだなと思います」前述の通り、建築現場経験のない中西 氏であるが、操作を覚えるだけで3Dモデルが作成できる「AI Structure」のメリットを十分に感じている。
 
それだけでなく、「AI Structure」と「BI Structure」「BI for ac」の連携が業務になくてはならない利便性を生んでいる背景には明らかな差別化があるからだ。
小松課長は他ソフトとの違いを次のように語る。
「いま分かっている範囲では、鉄筋の仕様や本数が自動で正確に出せるのは『BI for ac』だけです。
同種の他社ソフトでは結局、部材リストを見ながら梁1本1本を入力し、定着も自動で出ないので、自分で計算する必要があるなど手間もかかりますね。
また、一度『BI for ac』でBIMモデルを作成すればライセンスをたくさん持たなくても「Archicad」によって共有できるので、その点でも活用しやすいです」

AI StructureとBI Structureの連携 「AI」が図面内容を読み取り自動で部材定義作業を行ってくれるため、手作業の時間が半分以下に短縮
AI StructureとBI Structureの連携
「AI」が図面内容を読み取り自動で部材定義作業を行ってくれるため、手作業の時間が半分以下に短縮
BI for acとの連携 AI Structureが自動作成したデータはBIにインポートされ、さらにBI for acで鉄筋を自動発生させることができる
BI for acとの連携
AI Structureが自動作成したデータはBIにインポートされ、
さらにBI for acで鉄筋を自動発生させることができる

 
 

「BI for ac」も現場サポートで活用

BIM推進課創設時には、設計から見積り、施工までBIMによる一気通貫が話題に上がっていたと言うが、現在は目標を一つひとつ設定しながら進んでいる状況だ。
見積り作業には、今のところ「BI for ac」を使用するに至っていない。
東田課長に、その理由を伺った。
 
「『BI for ac』はどちらかと言えば、現場の施工寄りのソフトで、施工用の実施数量が正確に出てくるのですが、見積り用に使用する以上に細部まで計算し過ぎてしまっているため、再度見直す必要も生じてしまうのです。
ただし、部材の発注時など現場での見積りには有効であろうと考えています」小松課長は、見積り業務の仮設計画に関連して「仮設の配置は『smartCON Planner』が、課内ではこのほか「BI for ac」も活用しています」と述べた。
中西氏に現場サポートでの活用状況について聞いた。
 
「現在使用しているソフトではライセンスがないと3Dモデルが見られなかったのですが、『BI for ac』は『Archicad』で3Dモデルを出せば現場に送って共有できる点が便利です。
ライセンスは現在、一つしかないので操作は課内でしかできませんが、操作性の面でも『Archicad』で一からモデリングするよりはスムーズなのでスピードアップにもつながります。
ただ、本来は現場で配筋検討ができる施工図が望ましいのですが、現在は図面を3D化して現場に渡している段階ですね。
まずはできる範囲で、構造図ベースのモデルを全現場に提供するという目標を立てています」。
これに対し小松課長は「3D化することで干渉している箇所がチェックできるので手戻りも減ります」と現段階での効果を語った。
 
 

着実な成果を踏まえてさらなるBIM活用へ

「BI for ac」をはじめとするBIMソフトに対する要望も聞いた。
最も使用する立場にある中西氏は、次のような体験を語る。
 
「現場からの掘削図の依頼に、どう出せばいいのか分からず自動発生させた寸法で作図して送ったところ寸法を全てチェックされて返ってきました。
依頼者に確認すると『その寸法は必要なかったのです。そのために私が図面を修正しました』と言われてしまったことがあります。
私の建築知識の不足もありますが、仕様をカスタマイズできる機能があればと思いました」
東田課長も「現在、非常に多くの機能が搭載されているのですが、例えば簡単なモデリングで足りる人もいれば、詳細なモデルが欲しい人もいる。
何が欲しいかユーザー側のニーズやレベルが違うので、不要な機能を排除したシンプルなメニューがあるといいですね」と、やはり使う側の選択肢が増えることを希望した。
 
発足からの2年間でさまざまな試みを行い、BIM推進課の活動が大阪本店のBIM活用を徐々に広げている。
小松課長に次の目標について聞いた。
 
「効率化を見据えながら、これまで進めてきた成果を伸ばしていくことはもちろん、全現場でのBIMデータ活用による現場効率化を目指します」
松村組大阪本店のBIM活用は着実に進化していく。

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



ICT利活用推進とキャズム(溝)を乗り越えて

2025年6月16日

はじめに

情報通信技術(ICT)の利活用が進む現代社会において、企業や組織が直面する大きな課題の一つが「キャズムの乗り越え方」です。
キャズムとは、新技術や製品が初期採用者から主流市場へと広がる際に直面する大きな溝を指します。
この溝を越えるためには、単なる技術革新だけでなく、戦略的なマーケティングやユーザーエクスペリエンスの向上が不可欠です。
本コラムでは、ICT利活用の推進とキャズムを乗り越えるための具体的な方法について紹介します。
 
 

LIVE配信「渋谷で5時」

ここで、当社の取り組み事例を紹介します。
まずは「渋谷で5時」です。
 
50歳代の私にはとても懐かしい曲名ですが、タイトルどおり、渋谷に本社のある当社が午後5時からLIVE配信を実施する取り組みです。
当社の会議室の一室を利用してスタジオを作成しました(図-1)。
また、実際の配信は内製で実施しております。
現在までの取り組み内容を紹介します。

図-1 studio写真
図-1 studio写真

 
2022年3月より配信を開始し現在まで26回を実施、視聴者数312人、アーカイブ視聴者数843人に至ります。
番組構成は「渋谷で5時」ですので17時より30分間の構成としております。
 
毎回、テーマを決めて、ベンダー担当者を呼んで、対話形式でさまざまなICTツールを紹介しております。
また、見逃し配信も翌日より実施することにより、ICTツール関連の説明、利活用促進に大きな力となっております。
2年近く実施してきた今、ようやく認知度も向上し、社内全体に浸透しつつあり、他部所の視聴者も増えてきております。
 
ここで興味深い事実があります。
 
「渋谷で5時」をアーカイブ配信することにより、さまざまな問い合わせが増えた事実です。
ツールの内容にもよりますが、間違いなく視聴者数も増えて興味があるツールについては直接説明が聴きたい、導入をしたいとの要望を多くいただいています。
これは、YouTubeなどで、情報を得ることが多い時代にマッチしていていると感じております。
 
さらに、30分動画を切り抜き、3分程度のダイジェスト版を作成する試みにも今後、チャレンジしたいと思います。
 
 

建築DX通信の発刊

続いて毎月発行している、建築DX通信の発行です。
A4で2枚にて作成し、現在24号まで発刊しております(図-2)。
コンセプトは一目で分かる広告、イメージは電車の中づり広告です。
ちょっとこれも、古い例えになっておりますが、若い世代は一目で目に付いて、分かりやすく端的に表現されていることを好んでいると理解しています。
まずは、建築DX通信の発行でICTツールに興味を持ってもらい、HPに誘導する狙いです。

図-2 DX通信
図-2 DX通信

 
この事案では、建築DX通信発行後の当社ICTグループ ホームページの閲覧数が138ビューとなり、前週より65%UPしています。
ここでのDXはデジタルトランスフォーメーションとは少し違った、今、業務で直面している課題会を解決できるICTツールの紹介でまさに、デジタイゼーションを実施していることとなります。
 
このデジタイゼーションをきっかけにデジタライゼーションにつながる他社との差異化を図り、リスクに挑戦し続ける取り組みを実施していきたいと考えております。
 
 

建築ICTスタイルの運用

最後に建築ICTスタイルの運用について説明します。
ICTツールにはさまざまな機能があり、何ができるの?どうすればいいの?の疑問が多くあります。
そこで、電子カタログをイメージした建築ICTスタイルの登場です(図-3)。

図-3 建築ICTスタイル
図-3 建築ICTスタイル

 
デジタルBOOK形式として、できることなどの操作関連説明をしています。
また、印刷するだけで簡単なBOOK型冊子ができるよう作成しました。
本棚形式にツールを配置して、一目で目を引くような表紙と文字表現を実施しております(図-4)。

図-4 建築ICTスタイル本棚
図-4 建築ICTスタイル本棚

 
3つの大きな取り組みを簡単に紹介しましたが、これで溝を超えた感覚はあまりないのが現実、しかしながら、この取り組みは諦めずに継続していくことになります。
なぜ、そう思うのか?溝を超える取り組みはこれを実施すれば利活用が進むなどの答えがないのです。
これらは個社ごとに、ICTリテラシーや風土も違い、求められているツールも違ってくるでしょう。
 
溝を乗り越えるには、現場へ足を運んで、一人一人にツールを個別に説明することが、反応も分かり手応えを感じ取ることができます。
 
その場で、操作で詰まったことを解消することにより、さらなる利活用が進むこととなるのです。
 
 

今後の取り組み

ドローンの活用

ドローンは、建設現場の監視や測量において大きな効果を発揮しています。
高所や危険な場所の点検を安全かつ迅速に行うことができるため、作業員の安全確保と作業効率の向上に寄与します。
また、ドローンによる空撮データを活用することで、現場の進捗状況をリアルタイムで把握し、適切な対応を行うことが可能となるので、採用を推進したいと考えています。
 

AI(人工知能)の活用

AI技術は、建設業界においても多岐にわたる応用が進んでいます。
例えば、AIを活用した画像認識技術により、現場の安全管理が強化されます。
作業員のヘルメットや安全帯の着用状況を自動で検知し、未着用の場合にはアラートを発するシステムが導入されています。
また、AIを用いたデータ分析により、施工計画の最適化やリスク予測が可能となり、AI現場監督を創出していきたいと思います。
 

VR(仮想現実)・AR(拡張現実)の導入

VRやAR技術は、建設業界においても新たな可能性を広げています。
例えば、VRを活用した仮想現実空間での設計レビューにより、設計段階での問題点を事前に発見し、修正することができます。
また、ARを活用することで、現場での施工指示や設計図の確認が容易になり、作業効率の向上が図られます。
また、デジタルアーカイブ(作業マニュアル)を整備したいと考えています。
 

さいごに

さまざまな業界でICTの急速な普及と進化および、AI関連、ロボット技術の革新により異業種からの参入もあると感じています。
しかしながら、各ツールの利活用推進や使用者の腹落ち感がなくては、キャズムは超えられません。
 
さらに、企業の組織の熟成によりトップダウンでの発信なども重要な施策ではあるが、私たちが実施しているのは、“チームワーク”で、小さなグループでの活動であります。
溝を越える施策は多様であるが、一番重要なことは“習慣化”にあると感じています。
 
私事ですが、早くて・安価・おいしいが好きなのです。
ICTツールも誰でも簡単に・直観的に・便利になる、これが腹落ちして習慣化できることだと感じています。
さらに、ICTツールで、働く喜び・ワクワク感・スマートで効率的・外国人と意思共有・遠隔リモート業務など多岐にわたり魅力が沸いてきます。
 
実現するには、協力会社(ベンダー)の存在が大きく寄与しています。
 
LIVE配信や建築DX通信・建築ICTスタイルなどの取り組みは、協力会社の協働なくして実現しない、協働して建設業の明るい未来を築いていきたいと考えています。
 
 
 

東急建設株式会社 建築事業本部 事業統括部 建築企画部ICTグループ
小松 準二

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



脱炭素化に向けた積算データの活用について-BIM対応建築積算システム「ΗΕΛΙΟΣ」の新たな挑戦-

はじめに

株式会社日積サーベイでは、BIM対応建築積算システム「ΗΕΛΙΟΣ(ヘリオス)」を開発・提供しており、2024年12月には、最新版「ΗΕΛΙΟΣ 2025」をリリースした。
この「ΗΕΛΙΟΣ 2025」では、「高速化・省力化・新機能」を3本柱として全25項目の機能追加・機能改良を実装している。
主に「高速化」では、「PDFデータ取り込みの高速化」、「起動時の高速化」、「Excel出力時の高速化」の3つを改良している。
次に「省力化」では、「自動計上項目の追加」をはじめ、操作性の向上を目的とした「初期値設定機能」、「ショートカットキーの追加」、「範囲配置機能の追加」を実装している。
最後に「新機能」として、ペーパーレス化に向けた取り組みの一つとして「PenPlus」との連携機能(オプション機能)、今回の主題となる「One Click LCA」との連携機能を実装している。
ここで「PenPlus」とは、株式会社プラスソフトが開発・販売しているソフトウエアである。
今回の連携は、このソフトウエア上で、PDFデータの計測を行い、計測したデータをΗΕΛΙΟΣへ取り込む機能になる。
「PenPlus」の主な特長として、動きが軽く、操作性に優れている点、複数ページ含まれているPDFファイルに対して計測作業が可能である点である。
次に、「One Click LCA」とは、住友林業株式会社が2021年にフィンランドのOne Click LCA社と日本市場における単独販売代理店契約を締結した、建物が一生涯に排出するCO2などを見える化するソフトウエアである。
今回、住友林業株式会社が提供する「One Click LCA日本版」との連携を実現している。
 
 

「One Click LCA」との連携に至った背景

今回の連携に至った主な背景として、CO2排出量の算定において、内訳書を基に資材数量を把握していることから積算業務との親和性が高い点、CO2排出量の算定を今後、積算技術者が担うことが想定される点である。
また、国土交通省が2022年12月に「ゼロカーボンビル推進会議」を設置、2023年5月の報告書にて、「2030年エンボディドカーボン算定義務化」について言及したこともあり、建設時CO2排出量の算定に向けた取り組みも今後増えてくることが想定される。
 
 

エンボディドカーボン算定とは?

現在、世界のCO2の約37%が建設セクターから排出されている。
建設セクターの内訳として、約70%が居住時・使用時に発生する(オペレーショナルカーボン)、約30%が一連の建設プロセスで発生する(エンボディドカーボン)になる(図-1)。
 
オペレーショナルカーボンについては、ZEHやZEBにより削減が進んでいるが、エンボディドカーボンの削減については今後重視される傾向にある。
そのため、エンボディドカーボンの算定が必要になる(図-2)。

図-1 出典:住友林業株式会社提供資料
図-1
出典:住友林業株式会社提供資料
図-2 出典:住友林業株式会社提供資料
図-2
出典:住友林業株式会社提供資料

 
 

「One Click LCA」の特長

「One Click LCA」は世界170カ国以上で導入され、11カ国語に対応しているソフトウエアである。
主な特長として、「CO2排出量の精緻な算定を実現」、「国際認証との高い適合性」、「効率的なデータ算定が可能」の3点である。
「CO2排出量の精緻な算定を実現」では、ISO準拠の汎用データ、環境認証ラベルEPD、プライベートデータの利用が可能であり、輸送・施工など実データに基づき算定し、さまざまな企業努力を結果に反映することが可能である。
「国際認証との高い適合性」では、国際規格ISOや70以上の世界のグリーンビルディング認証に適合している。
「効率的なデータ算定が可能」では、資材データはBIMをはじめ、Excelから取り込むことが可能であり、ライフステージごとのCO2を自動計算で効率よく算定できる。
 
 

「One Click LCA連携」の全体図

「One Click LCA連携」の流れとしては、まず、住友林業株式会社が提供している原単位コード一覧表をΗΕΛΙΟΣへ取り込む。
 
次に、従来どおりΗΕΛΙΟΣで数量算出を行い、ΗΕΛΙΟΣの内訳書内で原単位コードの仕分け作業、単位換算作業を行う。
最後に「One Click LCA取込用フォーマット」に出力を行い、「One Click LCA」に取り込むことでCO2を見える化することが可能になる(図-3)。

図-3
図-3

 
 

「One Click LCA連携」機能の特長

今回の機能の特長として、「原単位コードの仕分け作業の省力化」、「単位換算作業の省力化」、「出力除外設定機能」の3点になる。
「原単位コードの仕分け作業の省力化」では、原単位コードを検索する機能をはじめ(図-4)、科目に応じた可能性のある原単位コードを初期表示する機能を実装している。

図-4
図-4

また、原単位コードとして「コンクリート」を選択する場合において、摘要表現からコンクリート強度を取得し、可能性の高い原単位コードを初期表示する機能も併せて実装している(図-5)。

図-5
図-5

次に「単位換算作業の省力化」では、明細上の単位「ton」、原単位コードの単位「kg 」の場合に換算値を自動入力する機能、ΗΕΛΙΟΣで数量算出を行っている場合において、建具本体のW寸法、H寸法を換算値として自動入力する機能を実装している(図-6)。

図-6
図-6

最後に「出力除外設定機能」では、「One Click LCA取込用フォーマット」へ出力したくない項目(CO2算定除外項目)について、科目単位、明細項目単位で設定できる機能も実装している。
 
 

CO2算定における今後の展開

「One Click LCA連携」においては、「原単位コードの仕分け作業」、「単位換算作業」の省力化につながる機能開発を進める予定である。
「原単位コードの自動入力機能」を最終目標として、今後も継続して取り組みたいと考えている。
また、別ツール製品との連携も状況に応じて前向きに検討していきたい。
「One Click LCA」でのCO2算定業務の際には、ぜひこの「One Click LCA連携」機能をご利用いただきたい。
 
 
会社概要
会社名:株式会社日積サーベイ
所在地:大阪市中央区大手前1-4-12大阪天満橋ビル8F
創業:1964年(昭和39年)10月
URL:https://www.nisseki-survey.co.jp/
資本金:2,000万円
従業員数:47名(2024年4月現在)
主な事業内容:建築積算、コスト算出、コンピューターシステムの開発
 
 
 

株式会社日積サーベイ システム開発部
田川 彰

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
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