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BIM人材育成の指針・目標となる新たな資格制度「BIM利用技術者試験」の創設

2024年7月2日

BIM利用技術者試験創設の意義

大手ゼネコンやハウスメーカーを中心に、即戦力となるBIM人材の需要が高まってはいますが、社内における人材育成には時間がかかり、教育環境を整えるのは企業にとって大きな負担となります。
また、人材派遣企業においても既存の登録人材にはBIMに精通した人材は少なく、登録者に対するBIMの教育が進められている状況です。
 
一方、将来的に貴重な戦力となる人材を輩出すべき教育機関においては、BIM教育(オペレーション教育)がようやく進み始めた段階で、BIMソフトが基本的に無償で導入できる一方、BIMを教育できる人材が少なく、販社や教育関連企業などの外部に頼っている状況です。
また、大学においては、BIMを含めた建築の情報化に積極的な指導者の有無で、その取り組みが大きく異なっています。
 
このような状況の中、BIMの技術や知識を体系化し、企業がBIM人材を獲得する際にどの知識や技術を求めているかを視覚化する=資格制度の利用が求められています。
さらには、建築業界に長く従事しているベテラン社員や定年後のシルバー人材へのリスキリング・リカレント教育(学びなおし)のコンテンツとしてのBIM活用においても、知識や技術の資格化は有用です。
 
一般社団法人コンピュータ教育振興協会(以下、ACSP)では、30年に及ぶCAD資格の主催・運営を通じて得たノウハウをベースに、BIM人材育成の指針・目標となる新たな資格制度として、「BIM利用技術者試験」を2023年6月より開始いたしました。
 
 

第一歩は「建築系の3次元CAD試験」

ACSPが建築系の3次元試験の検討を始めたのは、2005年のことです。
翌2006年に向けて、2次元のCAD利用技術者試験制度を機械系と建築系の専門分野に分け、より実務的な試験制度へと改訂することを当時の試験委員会へ提案した際、委員のメンバーであった渡辺仁史先生(早稲田大学理工学部建築学科教授=当時)より、「新たに建築分野に取り組むのであれば、2次元ではなく3次元を取り上げるべきではないか」とのご意見をいただいたのがきっかけでした。
 
渡辺先生は、教育現場においていち早く3次元CADによる建築設計を取り込んでおり、今後の建築界は3次元設計が主流になるとの考えから、CADの試験制度においても3次元を取り入れた方が良いとのお考えでした。
すでに2003年度から製造系・機械系の「3次元CAD利用技術者試験」が開始されていたことも、「次は建築系も」というご意見を後押ししたものと思われます。
 
ただ当時は、2次元CADの試験を機械系と建築系に分けるための準備に追われていたことや、当時の建築系3次元CADの機能がソフトによって大きく異なっていたこともあり、ACSPが信条としていた「特定のベンダー、ソフトによらない試験」という制約の下では、具体的な計画までは進みませんでした。

 
 

建築系3次元試験の創設

建築系3次元CADの試験化が具体的に動き出したのは、国土交通省が「官庁営繕事業におけるBIM導入プロジェクトの開始」を宣言した2010年のことです。
といっても、この段階で「BIM」の試験を標榜していたわけではなく、「特定のベンダー、ソフトによらない試験」という制約下でできる当時の最大限の共通機能が、「プレゼンテーション」「パース」であったことから、翌2011年の開始に向けて建築系・汎用系の3次元CADシステムやCG /グラフィックソフトを用いた建築3Dパースの評価・表彰制度、「建築3Dパース検定」制度を立ち上げました。
 
検討段階から「建築」「3次元」「パース」という3つのキーワードを試験名に盛り込むことを決めていましたが、当時のパンフレットやWebページにも「BIM」という言葉は一切見当たりません。
もし試験の開始が1~2年遅くなっていたら、「BIM」という言葉を使った試験名称になっていたかもしれません。
 
「課題提出型」という新たな方法で開始した「建築3Dパース検定」はその後、「Space Designer検定試験」というインテリアのプレゼンテーション・パースを評価する制度へ姿を変え、現在も行われています。

パース検定のパンフレット、表彰作品
パース検定のパンフレット、表彰作品
パース検定のパンフレット、表彰作品2
Space Designer検定パンフレット
Space Designer検定パンフレット

 
 

いよいよ「BIM」の検定試験創設へ

2011年に「建築3Dパース検定」を立ち上げ実施していく中で、建築系の3次元が「BIM」という新たな概念で進化し、「BIMソフト」なるものが市場に出てきたことは認識していました。
しかし、ソフトの種類が限られ、またCADの試験でお世話になっている教育機関でのBIMへの取り組みはまだ進んでおらず、「いつかはBIM」と思いながらも時期尚早との判断から、具体化は進みませんでした。
 
そんな状況を一変させたのが、2018年 8月にbuildingSMART Japan(以下bSJ)の「BIM個人能力認証(現「プロフェッショナル認証制度」)」に関するワーキングへのオブザーバー参加でした。
ワールドワイドで展開されるこの認証制度を日本国内で展開するにあたり、認定制度の運営に関するノウハウを持つACSPに対して意見を求められたのです。
 
このワーキングへの参加をきっかけに、ACSPとしてもBIMについての情報収集を改めて開始し、2019年には教育機関や派遣会社などへのヒアリング、2020年初頭には建築関係のカリキュラムを持つ全国570校の教育機関への調査を実施し、具体的な試験化への検討を行いました。
 
教育機関へのヒアリングや調査を通じBIM試験に求められたことは、
①会社ごとに異なるBIMの「ルール」の認識
②企業側の採用基準の指標となる
③「学びなおし」への対応
の3点です。
①については、「企業ごとにルールが異なる」ことを実務を知らない学生へ意識付けする必要があり、②についてはBIMの技術や知識を体系化し、企業がどの知識や技術を求めているかを視覚化することの必要性、そして③については、建築業界に長く従事しているベテラン社員(定年間近の)への再教育のコンテンツとしてのBIM活用=枯れた人材が貴重な戦力となる、という点でした。
 
実施に向けた裏付けとなる資料も調い、いよいよ2021年度には試験化をと意気込んでいた矢先、コロナ禍に行く手を阻まれてしまいました。
 
 

コロナ禍からの再始動、そして試験体系の構築へ

2020年度は、CADの試験制度創設以来初めて全国一斉で試験を中止とするなど、前例のない状況に戸惑うばかりの1年でした。
新しい事業を始めるような余裕もなく、せっかく進みかけていたBIMの試験制度もペンディングを余儀なくされましたが、約1年半のブランクを経て、2021年10月にBIMの試験制度実施に向けた「検討会」を実施しました。
 
ACSPのBIM試験制度が目指したものは、「単にBIMのオペレーション技能を評価するばかりでなく、BIMを活用した建築・建設業務において基本的なコミュニケーションができる能力を評価する」というものでした。
BIMの技術や知識を体系化し、受験者が保有している知識や技術を視覚化する。
そして受験対象者は、BIMオペレーター/モデラーやBIMマネジャーを目指す建築・建設業務既職者および学生、つまり企業へのBIMの導入を後押しできる人材の育成としました。
現在BIMを学んでいる学生や、すでにBIMオペレーター/モデラーとして活躍しながらも、将来的にBIMマネジャーやBIMスペシャリストを目指している既職者、さらには建築業界に長く従事し、建築の知識は十分持ちながら、BIMを学ぶことで新たな戦力として活躍できるベテラン層を対象とし、上記を実現するため、 CAD利用技術者試験で培った「知識+技能」を問う試験とすることも、当初より想定していました。
 
合格者像は「建築の基本的な知識を持ちつつ、BIMソフトのオペレーション能力と、 BIMモデルの利活用に関する基本的な幅広い知識を有する人材」とし、知識試験では建築の基本的な知識はもちろん、BIMの用語や各ワークフローにおけるBIMの活用手法、メリット、IFCなどのデータの知識を含めた運用に関する基本的な知識を問う筆記試験=2級試験、実技試験ではBIMソフトを利用したオペレーション能力と建築の基礎知識(図面の読み描き)を2段階のレベルで評価する試験=準1級、1級としました。

受験対象者と試験体系の図
受験対象者と試験体系の図

 
 

知識試験(2級試験)への取り組み

2級=知識試験を検討するに当たりまず取り組んだのは、BIMの知識を体系化し、学習用のテキストを用意することでした。
そのための執筆者の選定を進める中で出会ったのが、2020年8月に出版された「建築・BIMの教科書BasicⅠ」という書籍でした。
「BIM教育研究会」を編著者として日刊建設工業新聞社から出版されたこの書籍は、その名の通り、建築分野におけるBIMをゼロから学ぶ人のために必要な知識が1冊の書籍に網羅されており、監修者や編著者に名を連ねている方々も、建築教育界の著名人です。
「BIMの知識を体系化」という点で、この書籍に匹敵するACSPのオリジナルテキストの作成は難しいと判断し、この書籍を2級試験の「推奨書籍」として利用できないか打診し、出版社ならびにBIM教育研究会からの承諾を得ることができました。
 
この研究会は、その後「一般社団法人BIM教育推進機構(以下、BIMEO)」へ移行し、2023年5月には、ACSPの大髙代表理事とBIMEOの佐野理事長の協議により、検定試験を通じてBIMの人材育成への取り組みを開始、さらにACSPの「2次元CAD利用技術者試験」の1級(建築)試験委員会の委員長であり、BIMEOの理事でもあるエーアンドエー株式会社の木村謙氏にBIM利用技術者試験委員会の委員長へ就任いただき、体制固めを行いました。

BIMの教科書
BIMの教科書

 
 

「BIMらしさ」をどう実技試験へ盛り込むか?

2級試験の準備が着々と進む中、実技試験である1級・準1級の準備は困難を極めました。
CADの検定試験を長く実施してきたACSPですが、BIMが単なる設計・モデリングツールではなく、企画から設計・施工・維持管理までの情報を一元化したデータベースである点、出図機能やシミュレーション機能などを持つ点、さらにソフトによって微妙に機能が異なるという点を実技試験に盛り込むとなると、これまでのノウハウだけで実現できるものではありません。
作問会社を選定し、サンプル問題を作成しては検討会でダメ出しされ、結局、作問会社は1社、2社とギブアップする始末。
なんとか形が出来上がったサンプル問題を使い、実際にソフトを使用している方々にサンプル問題を解いていただくという「トライアル」を2023年1月に実施しましたが、期待していたような評価は得られませんでした。
 
検討会やトライアルで出された意見として、最も難しかったのが、「BIMらしさ」の実現です。
前述の通り、BIMソフトはCADソフトとは異なり、非常に複雑な機能を有します。
受験者のBIMオペレーション能力を評価するためには、これらの機能を試験の中に網羅し、解答結果としてアウトプットしてもらう必要があるのですが、 1級、準1級それぞれにBIMのどの機能を試験に盛り込み、どのような形でアウトプットしてもらうか、そもそもそれで試験問題が成立し、採点ができるのかなど、多くの問題点を抱えていたのです。
 
これらを解決するためには、できるだけ多くの方、そしてソフトごとの機能を熟知している方に作問に関わっていただく必要がありました。
最終的にRevit、ArchiCAD、Vectorworks、GLOOBEの4製品を受験対象ソフトとして選定し、各ソフトのスペシャリストの方にお集まりいただき、過去に作成したサンプル問題をベースにして1級、準1級それぞれの対象となる建築物の規模、提供する図面などの情報、そして受験者からのアウトプット(解答などの提出物)を検討いただきました。
 
度重なる検討、そして修正の結果、2023年10月に改めてサンプル問題案が完成し、12月の公式Webサイトでの公開に向けてさらなるブラッシュアップを図っています。
12月に公開するサンプル問題では、準1級の問題とテンプレート、そして1級の問題、課題モデル、テンプレートを用意。
2024年度から開始する実際の試験の問題と同形式でサンプルを提供し、試験に向けた学習の参考としていただきます。

実技試験のサンプル問題の一部
実技試験のサンプル問題の一部

 
 

長いトンネルの先に見えたもの

複数ソフトによる実技試験の実現という難題をようやく克服し、なんとか形を作り上げましたが、試験の運用方法については、まだまだ検討すべき事項が残っています。
また、実際に試験を開始しても、試験として安定するまでには、かなりの時間を要することになるでしょう(現状の3次元CAD利用技術者試験がそうであったように……)。
 
また、国土交通省も、2025年以降の建築申請におけるBIMデータの具体的な利活用に向けた準備を進めていることから、こうした国の動きに合わせて、試験問題の傾向も見直しを図っていく必要があるかもしれません。
 
ただ、約10年にわたって取り組んできた建築系3次元の試験化が、「BIM利用技術者試験」として一応の結実を見た今、達成感とともに、多くの関係者からのこの試験制度へ期待する声をいただき、改めて背筋が伸びる思いがいたしました。
5年後、10年後にBIMの定番資格となっているか、ご期待ください。

 
 

「BIM」を担う技術者の育成に向けて

本試験にはCAD利用技術者試験の「建築版」を立ち上げるところから関わらせていただいており、当時は「BIM」という言葉もなかったと思いますが、そのときに目指していたものが形となって現れ始めたのを見ると感慨深いものがあります。
当時の問題意識としては、産業別にソフトウエア利用の技能が異なるだろうということ、三次元的な可視化技術がより一般的になるだろうということで、3次元CAD利用技術者試験の建築版ということから始まっていたように記憶しています。
 
BIMという言葉が登場し、設計のために使うソフトウエアが「CADソフト」から「BIMソフト」へと変わると言われるようになり、そうした趨勢に呼応して準備が進められることになりました。
BIMと銘打つと、そこに期待される内容は幅広いのですが、まずは基礎となるモデルや図面を作るためのソフトウエアを操作する技術と、その技術を使う職場で必要とされる知識背景を身につけることを試験制度の目標としています。
 
人材育成やBIM技術者の資格については、建築BIM推進会議の当初の工程表に含まれています。
しかし、現在はBIMを利用した建築確認に焦点を当てているため、これに関する議論はまだ公にはされていないようですが、その実現のためにはより多くの技術者の育成が必要となります。
「BIM利用技術者試験」としても、一人でも多くの技術者育成につながるよう、引き続き関係する皆さまと「建築BIMの将来像」へ向けた活動を続けていく所存です。
 

 
 
 
BIM利用技術者試験委員会委員長 木村 謙 氏
エーアンドエー株式会社プロダクト本部 本部長
一般社団法人BIM教育普及機構 理事
2次元CAD利用技術者試験 1級(建築)試験委員会 委員長
木村 謙 氏

 
 
 

一般社団法人 コンピュータ教育振興協会(ACSP)

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



官庁営繕におけるBIM活用の取り組み

はじめに

官庁施設(国家機関の建築物)には、庁舎をはじめ、研究施設、図書館、博物館、社会福祉施設など、さまざまなものがあります。
国土交通省大臣官房官庁営繕部では、官庁施設を整備するとともに、それらが適切に保全されるよう各省庁への指導を行っています。
 
国土交通省では、インフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向け、建築BIM推進会議を設置しています。
本会議では、建築分野におけるBIMの進展を目指して幅広い検討が進められています。
 
官庁営繕部では、それらの検討成果を踏まえ、官庁営繕事業におけるBIM活用、活用結果を踏まえた技術基準の制定・改定など、BIM活用による生産性向上に向けた取り組みを進めています。
 
 

これまでの取り組み

官庁営繕部では、2010年度から新営設計業務においてBIMの試行に着手し、試行を通じて得られた知見を踏まえ、「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成および利用に関するガイドライン」(以下、BIMガイドライン)を2014年3月に策定・公表しました。
BIMガイドラインは、官庁営繕事業における設計業務または工事の受注者によるBIMモデルの作成および利用に当たっての基本的な考え方、留意事項などを示したものになります。
 
その後も設計業務や工事においてBIMの試行を継続し、試行を通じて得られた知見を踏まえ、受発注者双方がBIM活用を円滑かつ効率的に実施できるよう技術基準の制改定を行ってきました。
 
2022年度には、「官庁営繕事業における一貫したBIM活用に関する検討会」(座長:芝浦工業大学 蟹澤宏剛教授)においてご意見をいただきながら、「官庁営繕事業におけるBIM活用ガイドライン」の改定を行い、ガイドライン名称を変更するとともに、BIM活用の考え方に関する記載を追加しました。
また、「官庁営繕事業におけるBIM活用実施要領」の新規制定を行い、ガイドラインに基づきBIM活用する場合の実施上の手続き、EIRの作成要領、EIRの様式を示しました。
 
これらの技術基準は、官庁営繕部HPに公表するとともに、各省庁や地方公共団体の関係者に参照いただけるよう周知しております。
 
 

2023年度の取り組み

2023年度は、これまでの取り組みを踏まえ、全ての新営設計業務および新営工事に、BIMに関する発注仕様書であるEIR(Employer’s Information Requirements)を原則適用し、本格運用に向けた取り組みを開始しました(図-1)。

図-1 EIRを適用した設計業務、工事
図-1 EIRを適用した設計業務、工事

 
EIRでは、延床面積3,000m²以上の新営設計業務にはBIM活用を指定する項目を、全ての新営設計業務および新営工事にはBIM活用の取り組みを推奨する項目を設定しています。
また、工事受注者へ設計業務成果品のBIMデータ(設計BIMデータ)を説明した上で貸与する旨を記載しています。
 
図-2に、EIRに設定するBIM活用の項目を掲げています。

図-2 EIRの記載事項
図-2 EIRの記載事項

3,000m²以上の設計業務では赤字の2項目、基本設計の外観・内観の提示、実施設計の一般図などの作成を指定項目とし、それ以外では表に掲げる項目を推奨項目として設定しています。
また成果品については、設計業務において指定項目として実施設計図書の作成を設定した場合に、設計BIMデータおよびBIMデータ説明資料の提出を求めています。
設計BIMデータの工事受注者への貸与については、BIM伝達会議を開催し工事受注者へ設計BIMデータを説明する運用としています。
 
また、2023年度より、BIMデータの形状情報や属性情報などから取得した情報に、積算に必要となる条件やデータなどを追加して積算数量の算出を行う「BIM連携積算」の試行に着手しました(図-3)。

図-3 BIM連携積算の試行イメージ
図-3 BIM連携積算の試行イメージ

 
対象は、延床面積3,000m²以上の新営設計業務のうち、官庁営繕部が指定する業務としています。
また実施項目は、試行要領において構造体や非構造部材の数量算出などを定めていますが、全て実施することを求めておらず、契約後、計画書に基づき調査職員と協議し実施項目を決定することとしています。
 
今後、試行により効果や課題を把握するとともに、効率的なBIM連携積算の実施に向けたBIMデータの入力ルール、設計担当者と積算担当者のワークフロー(役割分担)などを整理することを予定しています。
 
 

おわりに

官庁営繕部では、業界団体とも連携し、引き続きBIM活用を推進することで、設計業務および工事の品質確保および事業円滑化を図っていく予定です。

※(参考)官庁営繕部HP
(参考)官庁営繕部HP

 
 
 

国土交通省 大臣官房 官庁営繕部 整備課施設評価室

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
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BIM積算の現状と課題

はじめに

近年、BIM積算の相談や業務が増加しており、関心の高まりと期待の大きさを感じます。
 
BIMはモデリングしたオブジェクトの数量が集計表に即時反映されます。
この特性から、「積算の自動化や大幅な効率化が図れるのではないか」、「設計しながらコストシミュレーションができるのではないか」といった期待を抱く人も多いのではないでしょうか。
 
中小規模の積算事務所である私たちは、期待というより、積算業務がなくなるかもしれないという不安からBIM積算の検証を始めたというのが正直なところです。
 
「2020年頃にはBIM積算が定着しているだろう」と予測していましたが、幸か不幸か、現在も従来の積算業務と並行してBIM積算の普及に努めています。
当初は出口の見えない混沌とした状況でしたが、ここ数年でようやく輪郭と道筋が見えてきました。
 
しかし、画一的なワークフローでBIM積算を行うのはまだ難しく、そこには「標準化の壁」が立ちはだかっていると考えます。
 
 

標準化への動き

2023年度に、国土交通省が「官庁営繕事業におけるBIMデータを活用した積算業務」の試行を開始し、BIMデータの積算活用について効果検証を行うことを発表しました。
積算対象として指定されている部位は限定的ですが、躯体のほか、間仕切下地や外壁、外部開口、内部開口などの仕上げや建具も含まれています。
 
この取り組みは、BIM積算において大変意義深いことです。
国が主導して検証を進めることで、標準化への動きがさらに加速化することを期待しています。
 

なぜ標準化が必要なのか

2023年3月に国土交通省が提示した「建築BIMの将来像と工程表」では、「横断的活用の円滑化による協働の実現」として、「属性情報の標準化」や「BIM積算手法の策定」といった具体的な取り組みが明示されています。
社会全体で共有するBIMデータの基準が確立されることで、事業者間やプロジェクト間でのスムーズなデータ共有や引き継ぎが可能になります。
 
「属性情報の標準化」の利点について、 BIM積算の視点でもう少し詳しく説明していきます。

出典:国土交通省
出典:国土交通省

 
 

無秩序なデータベースを体系化する

BIMデータは、建築物の形状や仕様などの膨大な属性情報を集約した「データベース」です。
 
これをExcelのような2次元の表型データベースに置き換えるとイメージしやすいかもしれません。
BIMにモデリングされた部材一つ一つの識別子がExcelの列タイトルに当たり、属性項目名が行タイトル、属性データが各セルの値に相当します。
BIMモデルに新しい部材をモデリングするたびに、列が増えてくイメージです。
列タイトルの識別子(項目名)の付け方は、基準(ルール)がなければ、設計者に委ねられます。
例えば部位が「柱」であれば、識別子は “構造柱”、“column”、“C1”…と、設計者によってさまざまな表現が使われます。
 
寸法も、幅や高さといった文字で表現する人もいれば、Dx、Dyというように記号で表現する人もいるでしょう。
このように、統一された基準がないとデータベースの利用者は柱の情報がどの列に格納されているのかを特定できません。
つまり、データベースの設計仕様(規則)がないと、それぞれの列の値が何を意味しているのか分からず、利用しづらくなります。
 
そこで、まずデータベースを正規化します。
正規化とは、データベースにどのような規則で何の情報が含まれているのかを整理し、目的のデータを識別できるように体系化することです。
 
利用者が、この正規化の作業を省略して、すでに整理体系化されたデータベースで作業できれば、その後の作業のワークフローを定型化できるため、大幅な効率化や自動化が可能になります。
 
規模や用途の異なる多種多様な建築物を、全て同じデータベース仕様で作ることは現実的に不可能ですが、一部の共通的な部位や利用価値の高い属性情報を共通エリアとして標準化すれば、プロジェクトや事業者の枠を超えて横断的なデータ連携がしやすくなります。
 
BIMデータの標準化は、積算活用に限らず、BIMデータを利用する全ての関係者にとって大きな利点をもたらします。

標準化への動き

 

モデリングガイドラインの動向

では、BIMの標準化はどこまで進んでいるのでしょうか。
 
BIMモデリングルールの標準化に向けて、国土交通省や各団体、民間企業によって、ガイドラインが公開されています。
 
2021年3月、日本建築士連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会(設計三会)による「設計BIMワークフローガイドライン(第1版)」が公開されました。
 
UR都市機構は、2023年5月に集合住宅設計BIMのガイドラインとBIMデータ類を公開しています。
 
民間企業では、2023年1月に株式会社大林組が自社のBIMモデリングルールである「Smart BIM Standard(SBS)」を一般公開しました。
自社独自のBIMモデリングルールを策定している企業は多数ありますが、社外に公開するというケースは珍しく、他社との壁を越えたBIM活用促進への並々ならぬ熱意が伝わってきます。
 
負荷と価値のバランスで効率性を確保するこれらのガイドラインに積算を考慮したルールを盛り込むことで、積算しやすいBIMデータになるでしょう。
しかし、ルールが複雑化し、BIMのデータ容量が大きくなることで、かえって生産性が低下する恐れがあります。
 
積算フェーズだけではなく、建築プロジェクト全体での効率性を考慮し、モデリングの負荷をいかに抑えて効率性を確保するか、作業負荷と利用価値のバランスをとりながら基準づくりを進めていくことが重要と考えます。
 
 

BIM積算の方法

次に、現状行われているBIM積算の具体的な方法について見ていきます。
 
国土交通省の「官庁営繕部における官庁営繕事業におけるBIM活用ガイドライン」に、数量算出について次の記載があります。
 

BIMモデルを利用して数量算出を行う場合、BIMソフトウェアの自動算出機能を利用する方法のほか、BIMモデルのデータ連携によって数量計算の省力化が図れる機能を搭載した積算用ソフトウェアを利用する方法が考えられる。

 
この2通りの手法を、弊社では前者を「直接型」、後者を「連携型」と呼んで区別しています。
 

直接型BIM積算

直接型とは、BIMモデルにあるデータを、 BIMソフトウエアの集計機能や出力機能、アドインツールなどを使い、BIMソフトウエアだけで積算する方法です。
 
設計変更による数量の変動は即座に集計表に反映されるため、コストシミュレーションを目的とした積算に適しています。
また、不足項目や単価情報などは、BIMモデルに追加データを直接付加するため、積算フェーズでBIMデータベースの価値が高まるというメリットがあります。
 
一方で、数量の正確性はBIMモデルの精度に依存するため、BIMモデルの確からしさをどのように担保するかを検討する必要があります。
また、数量は部材の形状から得られる実数であり、建築数量積算基準は考慮されない数量となるため、公共工事には不向きです。

直接型 BIM積算

 

連携型BIM積算

連携型とは、BIMデータから、積算に必要な部材の属性情報を取り出し、積算ソフトウエアにデータを連携する手法です。
積算ソフトウエア側で部材を配置する作業を軽減できるため、効率化が可能です。
不足情報や、BIMから連携できないデータは、積算ソフトウエアで積算者が付加します。
運搬費や整理清掃後片付けなど、部材としてBIMには入力しづらい項目も、積算に特化したソフトウエアではスムーズに入力することができますし、建築数量積算基準に基づいた数量を自動集計機能で算出することが可能です。
 
連携した後は、BIMからは分断されるため、積算フェーズで付加したデータはBIMには反映されません。
BIMで設計変更した内容も、積算ソフトウエアには同期されません。
 
また、BIMデータの精度や詳細度が低い場合、連携後のデータのチェックや補正が必要になるため、効率性が確保できない場合があります。
 
先に紹介した「官庁営繕事業におけるBIMデータを活用した積算業務」の試行要領の中で、「BIM連携積算」の定義は「官庁営繕事業においてBIMデータの全てまたは一部を活用し、『公共建築工事積算基準』などに基づき積算業務を行うことをいう。」とされています。
ここでいう「BIM連携積算」には直接型も含まれており、手法は指定されていません。
しかし、公共建築工事積算基準に準拠する積算が要求されるため、公共事業においては、連携型での積算が主流となっていくことが予想されます。

連携型 BIM積算

 
 

積算手法の選択

弊社では、積算を行う際にそのフェーズに適した手法を選択しています。
直接型と連携型、両方の手法を組み合わせて数量を算出することもあります。
 
設計フェーズごとに要求される積算を①坪単価概算、②歩掛概算、③積上げ概算、④精積算の4つに分類しています。
 
①坪単価概算、②歩掛概算では、企画、計画段階のためBIMモデルの詳細度も低くなります。
それでも直接型でのBIM積算は可能で、坪単価概算ではBIMモデルの延床面積の数量を利用し、歩掛概算ではエリア面積の数量から算出していきます。
 
③積上げ概算では、内訳形式を部分別で作成したい場合には直接型が適しています。
一般的に、床、巾、壁、天井の仕上材は、基本段階では独立したオブジェクトとしてモデリングしません。
このため、これらの仕上材の数量は、各部屋(エリア)オブジェクトの面積や周長から取得します。
この集計を手動で行う場合、BIMで部屋数量を集計した後、各部位に仕上材を対応付けていきます。
この作業は大変負荷が高く、ヒューマンエラーも発生しやすいため、弊社ではアドインツール「COST BIM S2」を開発して自動算出を可能にしました。
 
BIMで概算を出力するアドインツールは、他にもいくつか販売されています。
このようなアドインツールを活用すれば、積算の専門的な知識がなくても、設計しながら概算コストを把握することができるので大変便利です。
 
工種別の内訳書を作成する場合は、連携型が適しています。
BIMオブジェクトには工種という概念がないため、BIMから出力した数量を工種ごとに分類する作業が必要です。
この作業を積算者が手動で行うのは非常に負荷が高いため、積算ソフトウエアを使います。
 
④精積算も求められる内訳形式は工種別なので、基本的には連携型で積算します。
とくに構造はBIMデータから鉄筋や型枠の数量を取得するのが難しく、直接型では効率化が図れないため、連携型が適しています。
民間プロジェクトの場合は、建築積算基準の縛りがないため、意匠積算は直接型で行い、ハイブリッドで効率化を図ります。
意匠積算ソフトウエアに連携できる部材が限られているため、連携した後に入力する情報が多くなります。
このため、BIMモデルから取得できる数量をそのまま使う方が効率的なケースが多いです。
 
このように、BIMデータを活用した積算の手法は、どの組み合わせが最も効率的かを考えて選択することが大切です。

積算手法の選択
積算手法の選択2

 
 

BIM積算の課題

第10回建築BIM推進会議で、「BIMデータを活用した積算業務の取組推進に向けた課題」として4つの課題が提示されました。

出典:国土交通省
出典:国土交通省
出典:国土交通省
出典:国土交通省

 

[ワークフロー]役割分担の壁

いつ、どのタイミングで誰が何を入力するのか、BIM積算のワークフローが確立しておらず、設計者や積算者の対応範囲が定まっていません。
集計作業や連携作業はどちらが行うのか、設計者はどこまで情報入力するのかなどの取り決めや合意がないまま進めてしまうと、品質や数量の責任所在も曖昧になります。
 

[モデリング・入力ルール]標準化の壁

標準化の重要性は前項で述べた通りで、 BIMデータを積算で利用する上で標準化は喫緊の課題です。
現状ではBIM積算の前にBIMデータの整理体系化の工程が必要ですが、標準化が進むことでさらにBIM積算による効率化が期待されます。
 

[積算基準]積算基準の壁

従来の積算では、積算基準に基づいて数量を算出します。
例えば、間仕切下地の開口が0.5㎡以下の場合、欠除はないものとされます。
BIMはオブジェクトの形状から実数量を算出しているため、積算基準には整合しません。
 
弊社は、国土交通省 の「令和4年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」において、「BIMモデルを活用した数量積算の有効性検証と提言」に取り組みました。
その中で、公共建築数量積算基準(平成29年度改訂)に準じた従来積算の数量と、BIMモデルから算出した数量を比較して差分要因などを明らかにしました。
検証の結果、コストインパクトの観点では全体コストに影響を与える程の差分はなく、BIMの数量は可用性があると評価しました。
しかし、公共事業などで積算基準類との整合を求められる場合は、 BIMから算出した数量を、積算基準に合わせて調整する必要があります。
 

[技術力]人材不足の壁

2022年度の国土交通省調べによると、 BIMを導入している積算事務所は35%でした。
BIM積算を実施している積算事務所はまだ少ないというのが実情です。
BIMソフトウエアは、導入や維持の費用負担が大きく、普及のブレーキとなっています。
 
また、積算とBIM、両方の専門知識と技術力を習得するには、人材育成や雇用にも時間と費用がかかるため、BIM積算の担い手不足が懸念されています。
 

BIMモデル精度の壁

以上4つの他に、もう一つ加えておきたいのがBIMモデル精度の壁です。
BIMモデルの誤りは、数量やコストにも影響します。
このため、積算する前に、BIMモデルの精度(確からしさ)を誰がいつどのように担保するかを検討する必要があります。
従来の積算で、数量調書がその役割を担っているように、BIMモデルの信頼性を公的に証明する仕組みなどが確立すれば、BIMデータ利用価値はさらに高まるのではないでしょうか。
 
「建築BIMの将来像と工程表」で、2024年度に概算手法の策定、2025年には実装、試行が始まり、2026年から2027年にかけてコストマネジメント手法の確立というロードマップが提示されました。
 
将来像の実現に向けて、弊社では今後も建築BIMの推進に貢献してまいります。
 
 
 

株式会社フジキ建築事務所BIMソリューション部 部長
郡山 恵子

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



建築BIM推進会議における検討や建築BIMの推進に向けた取り組みの状況について

2024年7月1日

はじめに

Society5.0の社会へ

デジタル技術がもたらす社会像として「Society5.0」があります。
「Society5.0」は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として平成28年に提唱されたものです。
Society5.0の社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。
また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要なときに提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。
社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります」とあり、これらデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性について提唱されています。
 

i-Constructionの推進

わが国は、現在、人口減少社会における働き手の減少への対応や潜在的な成長力の向上、産業の担い手の確保・育成などに向けた働き方改革の推進などの観点から、生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、 ICTの活用などにより調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指す「i-Construction」の取り組みを進めています。
 
さらに、「成長戦略フォローアップ」(令和元年6月21日 閣議決定)において国・地方公共団体、建設業者、設計者、建物所有者などの広範な関係者による協議の場を設置し、直面する課題とその対策や官民の役割分担、工程表などを令和元年度中に取りまとめることとされたことを踏まえ、i-Constructionのエンジンとして先行して土木分野で重要な役割を担ってきた「BIM/CIM推進委員会」の下に、建築分野のBIMについて拡充を図るため、令和元年度からWGとして、後述する「建築BIM推進会議」を設置し、建築分野におけるBIM活用に向けた市場環境の整備について具体的な検討が開始されました。
 
 

建築BIM推進会議の設置と取り組み状況

建築BIM推進会議の設置(令和元年6月)

国土交通省では、前述の「成長戦略フォローアップ」に基づき、建築物のライフサイクルにおいて、BIMを通じデジタル情報が一貫して活用される仕組みの構築を図り、建築分野での生産性向上を図るため、官民が一体となって「建築BIM推進会議」(以下、推進会議)を令和元年6月に設置しました。
 
推進会議では、官民が連携し、建築業界全体が一丸となって今後の建築BIMの活用・推進について幅広く議論し、対応方策をとりまとめていくラウンドテーブルとなり、BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスなどの「将来像」とそれを実現するための「ロードマップ」(官民の役割分担と工程表など)の検討・策定、当該「ロードマップ」に基づく官民それぞれでの検討などが進められました。
 
なお、推進会議は、松村秀一早稲田大学理工学術院総合研究所研究院教授を委員長とし、学識者のほか、建築分野の設計、施工、維持管理、発注者、調査研究、情報システム・国際標準に係る幅広い関係団体により構成されています。
国土交通省においても、住宅局建築指導課、不動産・建設経済局建設業課、大臣官房官庁営繕部整備課の3課で事務局を務めています。
 

「建築BIMの将来像と工程表」の策定

令和元年6月に第1回推進会議が開催され、同年9月の第3回の推進会議において、「建築BIMの将来像と工程表」が了承されました。
特に「将来像」として、「いいものが」(高品質・高精度な建築生産・維持管理の実現)、「無駄なく、速く」(高効率なライフサイクルの実現)、「建物にも、データにも価値が」(社会資産としての建築物の価値の拡大)の3つの視点で整理されるとともに、その将来像を実現するための「ロードマップ」が、次の①~⑦の7項目に整理され、連携しつつ検討していくこととされました。
 
①BIMを活用した建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
②BIMモデルの形状と属性情報の標準化
③BIMを活用した建築確認検査の実施
④BIMによる積算の標準化
⑤BIMの情報共有基盤の整備
⑥人材育成、中小事業者の活用促進
⑦ビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携
 
①のワークフローの検討など、さまざまな業界間の調整が必要な部分については国が主体的に事務局を務める部会「建築BIM環境整備部会」を設置することとし、
②~⑤については既に民間の関係団体などにおいて検討が進められていることから、それらの各団体の活動を部会と位置付け、個別課題に対する検討などを進めることとされました(令和元年10月~)。
 
現在も、これら部会において官民が一体となってBIMに関する議論を進めています(図-1)。

図-1
図-1

 

ガイドライン(第1版)の策定(令和2年3月)

①の検討を行う「建築BIM環境整備部会」(以下、環境整備部会)は、志手一哉芝浦工業大学建築学部建築学科教授を部会長とし、推進会議と同様に幅広い関係団体などにより構成されています。
令和元年10月から環境整備部会において、BIMのプロセス横断的な活用に向け、関係者の役割・責任分担などの明確化などをするため、標準ワークフロー、BIMデータの受け渡しルール、想定されるメリットなどを内容とする「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(以下、ガイドライン)の検討が行われ、推進会議での承認を経て、令和2年3月にガイドラインが策定、公表されました。
 

モデル事業の実施・ガイドラインの改訂

令和2年度から、第1版であるガイドラインの実証などを行うため、ガイドラインに沿って試行的にBIMを導入し、コスト削減・生産性向上などのメリットの定量的把握・検証や、運用上の課題抽出を行う、「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」を実施しました。
本事業では、ガイドラインの実証だけでなく、BIMを活用した場合の具体的メリットを明らかにするとともに、BIM実行計画書(BEP(BIM Execution Plan))、BIM発注者情報要件(EIR(Employer’s Informaion Requirements))を含む検討の成果物を公表することとしています。
 
特に令和3年度からは、「先導事業者型」、「パートナー事業者型」、「中小事業者BIM試行型」の3つの枠に分けて募集をしています。
 
「先導事業者型」は、発注者メリットを含む検証など過年度に検証されていないもの、もしくは発展させたものであることを応募の要件として募集を行い、7件を採択しました。
「パートナー事業者型」は、推進会議に連携・提言を行っていただく事業として募集を行い、5件を選定しました。
「中小事業者BIM試行型」は、BIMの普及に向けた取り組みの一環として、中小事業者が事業者間でグループを形成し、試行的にBIMを活用し、BIMの普及に向けた課題解決策の検証などを行うものであることを応募の要件として募集を行い、9件を採択しました。
 
これらの事業等による検証の結果、標準ワークフローの大きな枠組みについては、汎用的に各プロジェクトで適用され、標準ワークフローに基づく運用上の留意点などや、BIMの定量的な活用メリットなどが提言されました。
 
これを受け、環境整備部会において議論を行い、令和4年3月にガイドライン(第2版)への改訂を行いました。
改訂のポイントとしては、これまでの建築BIM推進会議の活動成果、モデル事業の成果などから得られた知見を盛り込むとともに、実務者の意見を踏まえた記載順整理などの構成の改善、以下の8点についての記載の充実化などが挙げられます。
 
①発注者メリットと発注者の役割
②EIRとBEP
③ライフサイクルコンサルティング
④維持管理・運用BIM
⑤各ステージの業務内容と成果物
⑥標準ワークフローのパターン
⑦データの受け渡しの方法
⑧各部会などの取り組み
 
 

令和5年度の取り組みと今後の展開・展望

モデル事業の実施など(令和4年度)

令和4年度に、昨年度までの成果などを踏まえ、「先導事業者型」、「パートナー事業者型」、「中小事業者BIM試行型」の3つの枠に分けて募集を行い、「先導事業者型」は8件、「パートナー事業者型」は3件、「中小事業者BIM試行型」は4件を採択しました。
これらの事業については、BIMの活用による生産性向上などのメリットや課題の検証を行うWG(先導型BIMモデル事業WG)と、BIMの導入や普及に向けた課題解決策の検証などを行うWG(中小型BIMモデル事業WG)において、検討の進捗状況や成果について報告・議論いただきました。
これらの成果については、報告書として広く公表されるだけでなく、成果報告会を開催いたしました。
また、令和2・3年度の取り組みについては検証・分析事例集として取りまとめを行いました。
事例集では、各事業者の取り組みを総覧でき、読み手にとって知りたいことと各事業の実施内容が紐付くように、BIMガイドライン(第2版)の節に沿ったキーワードによるカテゴライズ・マッピングを行い、一覧表として作成し、国交省のHPで公開を予定しました。
 
令和4年度分に関しても作成しており、同じく国交省HPで公開予定です。
 

将来像と工程表の改定

令和4年6月に閣議決定された新しい資本主義実行計画グランドデザイン・フォローアップ(令和4年6月7日閣議決定)において、「ガイドライン(第2版)に基づき官民が発注する建築設計・工事などにBIMを試行的に導入するとともに、建築物のライフサイクルを通じたBIMデータの利用拡大に向けて、2022年度中にロードマップを取りまとめる」とされたことを踏まえ、「建築BIMの将来像と工程表」の改定について、環境整備部会で検討しました。
 
改定に当たっては、これまでの推進会議各部会における検討やモデル事業の成果を踏まえ、BIMの普及により目指す姿とその実現に向けた取り組みの全体像および将来像の実現に必要な検討事項や現在の到達イメージについて、現状に合わせた見直しを行うとともに、社会実装に向けたさらなる成果を生むために、部会間の連携や調整を図り、BIM推進に係る具体的なロードマップとして取りまとめることを基本方針としました。
具体的には、直面する社会課題に対して建築BIMにより生産性・質の向上を実現し、さらにはBIMデータを他分野のデータと連携して活用できる社会の構築を見据えたとき、3つの重要課題に取り組む必要があると位置付けました。
 
1つ目は、設計から施工へ至る際に必ず通る確認申請を、建築BIMを用いて行えるようにすること。
2つ目は、設計・施工段階において建築BIMデータを円滑にやり取りして横断的に活用するための環境整備を行うこと。
3つ目は、BIMデータを他分野のデータ等と連携させていくことを目指して維持管理・運用段階の高度化を図ることです。
これら3点について、いつまでに何に取り組むかについて、ロードマップとして取りまとめました。
また、これらを具体化していくためには、部会を横断した取り組みが必要になることから、アウトプットを明確にしたTF(タスクフォース)において取り組むこととし、工程表に沿ったTFの取り組みに関する進捗管理を行うために、環境整備部会に戦略WGを設け、必要な調整や方針決定を行うことで、全体として工程表に沿った取り組みが進められる体制を新設しました。
さらに、2023年度予算では、建築BIMの社会実装を加速化するための基盤を整備する取り組みに対する支援措置として、建築BIM活用総合支援事業(国費3.03億円)を創設したところです(図-2)。

図-2
図-2
図-2
図-2

 

建築BIM加速化事業の実施(令和4年度第二次補正予算)

「建築分野のBIMの活用・普及状況の実態調査」(令和3年1月国土交通省調べ)によると、1,000人以上の企業におけるBIM導入率は7割以上である一方、10人以下の企業では3割以下となっており、特に中小事業者にとっては、導入・運用に係る初期投資や習熟人材の不足といった課題がBIM導入の障壁として挙げられます。
 
そこで、国土交通省では、建築BIMの社会実装のさらなる加速化を図ることを目的に、中小事業者が建築BIMを活用する建築プロジェクトについて建築BIMモデル作成費を上限として支援する「建築BIM加速化事業」が令和4年度第二次補正予算にて成立しました。
本事業の活用により、建築BIM導入における障壁の解消に寄与することが期待されます。
 

今後の展開・展望

建築BIMの推進においては、官民一体となって個別課題に対する検討などを進めるとともに、共通する課題に横断的に取り組むことが重要となります。
 
このため、部会間の連携をさらに深め、共通する課題への取り組みを進めるとともに、各部会だけでなく、推進会議に参加している各団体においても、ガイドラインを踏まえた検討が進められています。
さらに、建築分野にとどまらず、PLATEAU・不動産ID、と連携し、建築・都市・不動産分野の情報と他分野(交通、物流、観光、福祉、エネルギーなど)の情報が連携・蓄積・活用できる社会の構築を目指した検討も行っているところです。
 
こうした継続的な取り組みにより、マーケットのさまざまな事業でBIMが広く活用され、関係団体の検証も進み、将来的にはさまざまな人材の育成や幅広い事業者への普及、さらにはビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携などに広がっていくことを期待します。
 
 
 

国土交通省 住宅局 建築指導課 係長
平牧 奈穂

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



JR東日本における建設DXの取り組み―JRE-BIMの推進―

2024年6月17日

はじめに

国土交通省では、令和5年度より小規模工事を除く全ての公共工事の詳細設計においてBIM/CIM原則適用となった。
JR東日本においても建設工事の推進において、調査・計画、設計、発注、施工、維持管理までの一連のフローを「JRE-BIMサイクル」と称し、BIM/CIMを活用することで生産性向上を図る取り組みを各種実施してきている(図-1)。
本稿では、これまでの取り組み内容とともに、今後の方向性について概説する。

図-1 JR東日本におけるBIM CIMの取り組み
図-1 JR東日本におけるBIM/CIMの取り組み

 
 

これまでの取り組み

概要

図-2に、これまでのJR東日本におけるBIM/CIMの取り組みの概要を示す。

図-2 これまでのJRE-BIMの取り組み
図-2 これまでのJRE-BIMの取り組み

2016年に受発注者相互の共通データ環境となる「BIMクラウド」を試行開始し、2018年には3Dレーザースキャナーによる地形測量の原則化、JRE-BIM研修をスタートした。
2020年には「JRE-BIM」の推進方法をまとめたJRE-BIMガイドラインを制定し、2021年には設計段階におけるBIMモデル作成の原則化などを実施してきた。
最近では、後述する三次元点群クラウド「TRANCITY」の開発と、このサービスを提供する関連会社「CalTa」の設立などを行い、点群とBIMの活用促進を図っている。
 

BIMクラウド(環境)

BIMクラウドの概要を図-3に示す。
受発注者でのデータ共有のほか、ワークフロー機能を備え、電子納品箇所としての活用を行っている。
2016年の試行開始からこれまでに33TBを超える工事関連のデータが蓄積されており、加速度的にデータ登録数も増え活用が加速している。

図-3 BIMクラウド
図-3 BIMクラウド

 

ガイドライン(ルール)

ルール面での整備も進めている。
JRE-BIMの標準的な進め方をまとめたJRE-BIMガイドラインは2020年に初版を制定以降、毎年改訂を重ねている。
2023年度は、動画から生成した三次元データでの工事写真の納品方法や、点群による構造物の計測方法などをとりまとめた施工編の拡充を主に行った(図-4)。
図-4 JRE-BIMガイドライン
図-4 JRE-BIMガイドライン
 

研修(人)

研修による社員のスキル向上も図っている(図-5)。
2018年からスタートし2022年には延べ380名以上の社員が基礎編は受講し、モデリングなどを行う応用編や実務編といったニーズに即した研修なども用意し、受講者も募っている。

図-5 JRE-BIM研修の受講者数
図-5 JRE-BIM研修の受講者数

 

主な活用事例

図-6に土木、建築、電気などの系統をまたがる工事での干渉や整合確認への活用事例を示す。
建築で施工する人工地盤鉄骨と電気で施工する電化柱の離隔の確認や、土木で施工するホーム舗装と建築で施工するエレベーターとの取り合いなどを、BIMモデル上で事前に確認することで、事後の手戻りなどを軽減させた。

図-6 主な活用事例 (干渉・整合確認)
図-6 主な活用事例 (干渉・整合確認)

 
図-7に駅改良工事での駅係員(立ち番)配置位置の検討への活用例を示す。
新設するホーム上で、駅係員(立ち番)からの見え方をVR上に再現し、駅社員などが事前に確認することで、立ち番設置位置の変更に要する合意形成の省力化などを図った。

図-7 主な活用事例 (合意形成の省力化)
図-7 主な活用事例 (合意形成の省力化)

 
図-8に線路近接作業時の安全性・施工性の確認への活用例を示す。
現地を計測した点群に、新設する構造物や重機類のBIMモデルを配置し、事前の施工検討会などで活用することで、工事関係者の理解の促進を図るとともに、安全な工事推進に役立てた。

図-8 主な活用事例 (安全性・施工性の確認)
図-8 主な活用事例 (安全性・施工性の確認)

 
さらには、線路切換工事など時々刻々変わる施工現場を、時間軸を加えた4Dのモデルで再現・検討することで、施工ステップ資料の作成時間の削減を図った事例もある(図-9)。

図-9 主な活用事例 (切換工事当夜の施工計画)
図-9 主な活用事例 (切換工事当夜の施工計画)

 
 

さらなる活用に向けた取り組み(三次元点群クラウドの活用)

これまで述べてきたようにBIMモデルの活用は積極的に進めてきたが、BIMモデル作成費に比して得られる効果が十分とは言い難い。
「3DCAD」としての活用から、「BIM(Building Information Modeling )」へ脱皮すべく、以下の取り組みを推進している。
 

デジタルツインソフトウエア「TRANCITY」の開発と活用

さまざまなBIM/CIMの活用を進めていく中で、活用推進を阻害している要因
を分析すると、「高機能なPCでなくても BIMや点群が扱える」「高度なスキルがなくても扱える」「建設関係者でない人にでも閲覧くらいはできる」というソフトウエア環境が求められていることが分かった。
そこで、BIMモデルおよび点群データを簡易に扱えるデジタルツインソフトウエア「TRANCITY」の開発に着手した。
TRANCITYの概要を図-10に示す。
ユーザーはカメラやスマートフォン、ドローンなどのデバイスで撮影した動画をWeb上にアップロードするだけで、点群や3Dメッシュデータが生成される。
Webブラウザーにアクセスできるユーザーであれば、誰でもどこでも閲覧が可能であることから、関係者でのデータ共有を容易に行うことができる。
点群や3Dメッシュと、動画から切り出された静止画が重畳表示させることができるため、画像での確認も可能な上、各箇所の寸法計測も可能である(図-11)。

図-10 デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」の概要
図-10 デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」の概要
図-11 「TRANCITY」の特徴
図-11 「TRANCITY」の特徴

 
このTRANCITYを用いて目指す工事管理のイメージを図-12に示す。

図-12 目指す姿(TRANCITYによる)
図-12 目指す姿(TRANCITYによる)

工事開始時点で作成したBIMモデルは3D地図上に地理座標を付与して配置し、工事完成時などには地上レーザースキャナーなどで作成した点群データと重ねることで設計情報との乖離箇所を視覚的に把握する。
日々の工事進捗などは、カメラやスマートフォンで撮影した動画から生成された点群と3Dメッシュを記録することで、工事着手前、工事途中などの状況を3D地図上で保存が可能である。
点群などを保持しているため必要な箇所の計測も可能であるため、従来の工事写真撮影時に配置していたメジャーやリボンテープといった計測道具も不要となる。
建設工事の着工から完成までの一連の流れが地理座標とともに保存が可能となるため、竣工後の維持管理場面での利活用にも大きく貢献するものと考えている。
現在は、従来の工事写真の代替の試行を行っているが、検測記録などの帳票類の置き換えなども視野に取り組んでいる(図-13)。
地下に埋設された貯留槽の新設工事、RC高架橋の地中梁の新設工事などに試行しており、各時点では動画の撮影とアップロードのみで従来の写真整理といった内業が軽減するとともに、完成した後でも当該箇所の施工中状況がスケールや座標値を持った高度利活用が可能なデータが蓄積できるようになった(図-14)。

図-13 工事写真の代替の試行
図-13 工事写真の代替の試行
図-14 試行例
図-14 試行例

 

点群による完成検査の推進

BIM/CIMの活用の重点的な取り組みのもう一つとして、点群データによる完成検査記録の置き換えを推進している。
構造物の完成時には、従来は手計測により帳票をまとめ、数回に渡り実施される段階的な検査を実施していた。
検査の都度、計測・確認を要するため、必要な人・時間は多く労力を要していた。
そこで、地上型レーザースキャナーで取得した点群上での計測結果を記録の代替とする取り組みを実施してきた(図-15)。
 
寸法値の確認が必要になるため精度の証明方法が重要になる。
精度については、用いるレーザースキャナー個々の精度の確認とともに、複数回に渡って取得された点群を合成して得られた点群での精度の確認の、2通りで確認することで必要な計測許容誤差内での寸法精度が確保されていることを証明した(図-16)。

図-15 点群を用いた完成検査
図-15 点群を用いた完成検査
図-16 精度の証明方法
図-16 精度の証明方法

 
図-17が、実際の点群データの一例である。
従来、現地で手計測で実施していた箇所を点群上で計測し記録することで、現地での計測や帳票への転記作業などが軽減されるとともに、高所作業や夜間作業などの軽減にもつながっている。
ただ、ここでのやり方はBIMモデルが設計図相当として作成活用できるようになるまでの過渡期の取り扱いと考えており、将来的には設計のBIMモデルと点群を、座標を合わせて重畳することで、許容値を超える箇所について自動で抽出できるような検査方法への転換をしたいと考えている(図-18)。
これによりBIMモデルの設計データとしての活用とともに、計測するという行為から脱却し、本来やりたかった確認方法が実現できるものと考えている。

図-17 実際の点群データ
図-17 実際の点群データ
図-18 点群を使った完成検査のビジョン
図-18 点群を使った完成検査のビジョン

 
 

究極のBIM/CIMの姿の実現に向けて(3Dプリンティング)

BIM/CIMが進んだ究極の姿は、調査・計画、設計、発注、施工、維持管理の全てのフェーズでBIMモデルデータのみで業務が完結することかと思われる。
せっかくBIMモデルで渡してきたデータを施工のフェーズで二次元の図面を起こし、型枠を作成したりしていてはBIMによる効果を全てのフェーズでの担当者が享受しているとは言い難い。
そこで、BIMモデルをそのまま構造物としてしまう究極の姿として、3Dプリンティングによるコンクリート構造物の構築の実現に向けて取り組みを進めている(図-19)。
3Dプリンティングの技術については、国内においてはまだ事例や技術基準も少なく、課題も多いことから土木学会等と連携しながら取り組んでいる。

図-19 コンクリート3Dプリンターの取り組み図
図-19 コンクリート3Dプリンターの取り組み図

 
取り組みの一つとして、土木学会の「3Dプリンティング技術の土木構造物への適用に関する研究小委員会(364委員会)」および東京大学等の学生と連携して、内房線の太海駅の駅舎建て替え工事に合わせて設置されるベンチのデザインからプリント、設置までの一連の流れを「ベンチプロジェクト」として実施した。
図-20は学生が考えたデザイン原案である。
3Dプリンティング技術の特長である自由な造形が可能であることを生かして、人間工学に基づき座り心地を追求した形状にするなど、従来のコンクリート工事では難しかった形状のプリントに挑んだ。
事前に耐荷性のシミュレーションなども実施するとともに、JIS基準に準じた載荷試験なども事前に行い、安全性を確認した(図-21)。
図-22に完成したベンチの設置状況を示す。
デザインから設置までの一連のフローを実施することで、3Dプリンティング技術のみならず、3Dモデルの受け渡しから始まり、寸法や設置位置の確認方法、設置箇所に合わせた形状の微修正、などさまざまは課題が抽出された。
これらは、BIMモデルのみで設計から施工までの一連の流れを実施する際に直面する課題であり、今後、改善に向けて取り組んでいかなければならない課題だと考えている。

図-20 学生のデザイン原案
図-20 学生のデザイン原案
図-21 耐荷性シミュレーションと載荷試験等による確認
図-21 耐荷性シミュレーションと載荷試験等による確認
図-22 完成したベンチの設置状況
図-22 完成したベンチの設置状況

 
 

おわりに

以上のように、さまざまなBIM/CIMに関する取り組みを実施してきたが、BIM/CIMを活用して効果を享受するためには、プロジェクトの計画段階でどのようにBIMモデルを活用しようとするかを考えて始めるのが重要だと考えている。
活用方法が明確であればBIMモデルの整備方針も明確になり、後工程で失敗を感じるようなことが少なくなる。
また、「人(スキル)」、「モノ(環境)」、「ルール」の3つの要素をバランスよく伸ばすことを心掛ける必要がある。
しかも、計画、設計、施工、維持管理、の全てのフェーズで、である。
どこかの人が頑張る、だけではダメで、全ての関係者の頑張りなくして、BIM/CIMの真の効果を享受することは難しいと考える。
ぜひ、設計者、施工者、受注者、発注者、管理者など、いろいろな立場の関係者で協力しあって推進していけたらと思う。
 
 
 

東日本旅客鉄道株式会社 東京建設プロジェクトマネージメントオフィス
企画戦略ユニット マネージャー 井口 重信

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



 


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