2024年3月5日
はじめに災害対策やインフラの老朽化対策の必要性は高まる一方、インフラ分野において、今後深刻な人手不足が進むことが懸念されることから、国土交通省では平成28年よりICT技術の活用等による建設現場の生産性向上を目指すi-Constructionを推進してきたところです。 わが国が抱える背景と将来像ご承知のとおり、わが国では、少子高齢化が急速に進展しています。 インフラ分野のDXとは何か経済産業省が公表している「DX推進指標」とそのガイダンスでは、DXについて次のとおり定義しています。
【「DX推進指標」における「DX」の定義】3)
企業がビジネス環境の激しい変化 に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
【インフラ分野のDX】4)
社会経済状況の激しい変化に対応し、インフラ分野においてもデータとデジタル技術を活用して、国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革し、インフラへの国民理解を促進するとともに、安全・安心で豊かな生活を実現すること インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)について⑴国土交通省のインフラ分野のDXの取り組み体制国土交通省では、令和2年度より国土交通省インフラ分野のDX推進本部5)を開催しています。
⑵インフラ分野のDXの目指す将来像インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)において、インフラ分野のDXにより目指す将来像を明確化しました。
⑶目指す将来像に向けたインフラ分野のDXの方向性インフラ分野のDXの方向性として、インフラに関わるあらゆる分野で網羅的に変革する、「分野網羅的な取組」という視点を掲げています。
⑷インフラ分野のDXを進めるためのアプローチ国土交通省では、インフラ分野のDXを進めるに当たり、民間企業などで一般に用いられているアプローチも活用しながら、職員に対する業務・意識の変革を進めていきます。
インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)は、各部局で利用されているデジタル技術を網羅的に把握し、デジタル技術の導入が進んでいる分野や今後よりデジタル技術を活用・浸透させていく分野の特定を目的として、各施策に対するデジタル技術の活用状況を分析しています。 おわりに以上のように、わが国が抱える背景や将来像、インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)の内容を中心に説明してきました。 【出典】1)日本の将来推計人口(令和5年推計)(令和5年4月、国立社会保障・人口問題研究所) 国土交通省 大臣官房 参事官(イノベーション)グループ 課長補佐
大谷 彬
建設ITガイド 2024 特集1 建設DX、BIM/CIM |
2023年9月26日
はじめに官庁施設(国家機関の建築物)には、庁舎をはじめ、研究施設、図書館、博物館、社会福祉施設など、さまざまなものがあります。 これまでの取り組み官庁営繕部では、2010年度から新築設計においてBIMの試行に着手し、試行を通じて得られた知見を踏まえ、「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成および利用に関するガイドライン」(以下、BIMガイドライン)を2014年3月に策定、公表しました。 2022年度の取り組み2022年度は、上記ワークフローに沿って、EIR試案を活用したBIMの試行を行います(図-3)。 おわりに官庁営繕部では、引き続き各省庁、地方公共団体、業界団体と連携し、BIM活用に取り組んでまいります。 国土交通省 大臣官房 官庁営繕部 整備課 施設評価室
建設ITガイド 2023 特集2 建築BIM |
はじめに官庁営繕事業では、平成22年度よりBIMを導入したプロジェクトの試行を実施することにより、設計業務および工事におけるBIM導入の効果や課題について検証してきた。 長野第1地方合同庁舎の設計段階におけるBIM試行の内容長野第1地方合同庁舎 事業概要本事業は、一団地の官公庁施設として整備された施設群の建替計画であり、設計業務の主の業務内容は、3棟の新築庁舎の基本計画、うち2棟の設計・積算、仮庁舎等の設計・積算、2棟の現庁舎の取り壊しなどである。
【敷地】
【新築庁舎】
B棟(仮称)※基本計画のみ
本業務におけるBIM試行の目的本業務では、別途発注される工事受注者にデータを引き継ぐことを前提とした設計BIMの実施を試行し、設計BIMにおいて属性情報の入力および活用ならびに設計BIMデータの納品を行うことの効果・課題などを検証することを目的としている。
本業務における主な試行実施内容本業務では、業務発注時に発注者から「BIMを用いた設計図書の作成および納品に関する特記仕様書(試行)」を示し、契約締結後に、業務受注者と合意したBIM実行計画書(以下、BEP)の提出を受けている。 図-9 柱リスト図のイメージ (上:従来の表現、下:BIM連携考慮の表現) ⑥発注者へのBIMを用いた設計内容の説明など 【目標】 打合せ時の3Dモデル活用、クラウドシェアリングによるモデルの共有・指摘事項の確認を行う。 【実施内容】 基本計画段階では、各棟の配置検討に当たって、VRを用いた確認を行い、見え方を確認した。 基本設計、実施設計段階の受発注者の打合せなどでは、BIMモデルから作成したパースなどで設計内容を確認した。 入居官署に対しても、合意形成の円滑化のため、BIMモデルや動画を併用し、基本設計内容、実施設計内容の説明を行った。 また、本業務では受注者から提案のあった有償ビューア(クラウド)を用いている。 これにより、受注者がクラウド上にアップロードしたBIMモデルを発注者が自席のPCから確認できる環境が構築されている。 このビューアには「指摘事項」という機能があり、クラウド上のモデルに対して受発注者間で設計内容の確認などを行うことができる。
効果・課題などについて以下に今回の試行による効果・課題などについて、実務担当者としての個人的見解、感想を記載する。 ・[課題]設計プラン決定経緯などの確認への活用 施工段階におけるBIM活用検討長野第1地方合同庁舎のA棟(仮称)は、令和4年11月現在、工事発注手続き期間中である。
長野施工EIRの構成長野施工EIRは、長野第1地方合同庁舎A棟(仮称)建築工事の施工に係るBIM活用に関して発注者として求める要件を示すものである。 ①施工計画、施工手順などの検討【推奨】 設計BIMの施工段階への引き継ぎ工事受注者への引き継ぎについては本業務において現在検討途中である。 おわりに本稿では、長野第1地方合同庁舎の設計業務におけるBIM試行の実施内容、効果・課題など、施工段階における活用検討について紹介した。
国土交通省 関東地方整備局 営繕部 整備課 営繕技術専門官
福田 隼登
建設ITガイド 2023 特集2 建築BIM |
2023年9月18日
はじめに令和元年建築BIM推進会議が発足し、建築BIM推進会議の建築BIM環境整備部会(部会1)にて「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(以下、建築BIM推進会議ガイドライン)が令和2年3月に取りまとめられた。 建築BIM推進会議ガイドライン建築BIM推進会議ガイドラインについて「本文」1)と各ステージのBIMによる成果物「別添参考資料(たたき台)」2)から構成されており、BIMを活用するためのワークフローに関わる内容を整理・定義している。 業務区分BIMによる業務では従来のCADなどの作業と異なり、各作業段階でさまざまなデータが混在し、複数関係者が同時並行的に作業するため、業務の手戻りが生じると、従来の作業に比べて影響範囲が大きく、手戻り・修正により多くの時間を費やすことになる。
成果物「別添参考資料(たたき台)では、BIMを用いた業務における成果物を「BIMデータ(3D形状と属性情報からなるBIMモデルと、BIMから直接書き出した図書※BIM上で2D加筆して作成した2Dおよび図書を含む)」と「2D図書(CADで作成した2Dおよびプレゼンテーションソフトウエアや表計算ソフトウエアなどで作成した図書)」と定義するとともに、各ステージにおける意匠・構造・設備の成果物を示している(図-2)。
オブジェクト別のモデリングガイドBIM活用においては、各ステージの業務内容、すなわち、いつ、誰が、どのような詳細度で、どのような情報をBIMに入力し確認すればよいかを整理することが重要となる。 設計三会BIMガイドラインガイドラインの前提設計三会ガイドラインは、「別添参考資料(たたき台)」を継承しながら、BIM業務のワークフローと必要なルールについて、一つの標準例を示したものである。 ガイドラインの位置付け設計三会ガイドラインでは、建築BIM推進会議ガイドライン「別添参考資料(たたき台)」の業務区分を継承しながら、各ステージの業務内容と、各ステージで必要となるBIMデータ・図書の内容を検証し、「設計段階で作成したBIMに維持管理BIM 作成業務の実施段階で必要な情報を加えて、維持管理段階での活用に必要かつ十分なBIMを、円滑につくり上げること」を目標として、大きく以下の3点に取り組んだ。 オブジェクト別のモデリングガイド建築BIM推進会議ガイドラインのオブジェクト別モデリングガイドが空間要素および間仕切壁、設備機器を対象としていたのに対し、設計三会ガイドラインでは表-1に示す通り、対象としてプロジェクト情報(建物基本情報)・空間要素・意匠要素・構造要素・電気設備要素・機械設備要素を追加した。
設計から引き継ぐデータプロジェクト情報は、敷地や建物の主要用途・延床面積・構造形式などの建物の基本となる情報である。
設計から施工、維持管理に引き継ぐBIMデータ建築分野での生産性向上を図るためには、企画・基本計画から維持管理・運用等を含めた建築物のライフサイクルにおいて、BIMでデジタル情報の一貫性を確保し生産性の向上などにつながるかたちで、設計-施工-維持管理の各プロセス間で必要なデジタル情報を適切に受け渡す仕組みを構築することが求められる。 設計ステージでは、建築物の規模や用途、グレード設定などのプロジェクト情報と、必要諸室や室諸元などを、BIMの空間要素に設定した属性情報として管理し、確認していくことになるが、そうした空間要素の属性情報はそのまま維持管理段階で必要となる情報としてつなげることができる。
EIRとBEPのひな型BIM業務仕様書(Employer’s information requirements/EIR)は、プロジェクトにおいて発注者として求める業務委託仕様書の中でBIMに関する業務仕様を定めるもので、BIMを活用するためのスケジュール、目的、システム要件、データ環境、会議体、各ステージで必要なBIMデータの形状と情報の詳細度、契約上の役割分担などを示しBEPの作成を求める発注要件である。
BIMに係るライフサイクルコンサルティング/維持管理BIM作成業務設計三会ガイドラインでは、維持管理・運用に必要なデジタル情報を適切につなげていくためのBIMに係る業務(BIMに係るライフコンサルティング業務)および、維持管理用BIMデータ作成のための業務(維持管理BIM作成業務)を整理するとともに、両業務の仕様書(案)を示している。 おわりに設計三会ガイドラインは、国土交通省、有識者、関係部会、関係団体等における知見などを踏まえて取りまとめたものである。 公益社団法人 日本建築家協会 BIM特別委員会
建設ITガイド 2023 特集2 建築BIM |
2023年9月14日
はじめに近年、建設業界においては「生産性向上」や「働き方改革」などに注目が集まり、多くの企業においてBIMの推進に取り組む部門が設置され、BIMの取り組みが拡大・多様化しています。 調査の概要(1)実施概要実施概要は以下のとおりです。
(2)回答企業の属性会社規模について、従業員1,000名超の企業の回答数は25社でした(図-1)。 BIM推進の方針と基盤整備の状況(1)BIM適用条件BIM適用案件の選定方法は、設計も施工もプロジェクト条件に応じた適用が多いです(図-4)。
(2)BIMワークフローとデータ連携方法標準となるBIMワークフローは半数以上が未設定です(図-5)。
(3)BIM推進組織BIM推進組織のある企業は、回答した企業の85%を占めています(図-7)。
(4)作業所長の配置時期とBIMマネージャーの配置1作業所長の配置時期は着工前またはケース・バイ・ケースがほとんどで、仕組みとして設計段階での配置を定めている企業は限られます(図-8)。 (5)BIMモデラーの確保BIMモデラーについて、全体では約60%が確保できているが将来不足を予想しています(図-10)。 (6)BIMの教育BIMの教育は全体としてほぼ何らかの取り組みを行っており、特に社内研修が多く実施されています(図-11)。
(7)モデル作成のマニュアル・ガイドの整備モデル作成のマニュアルやガイドについて、設計では意匠が高く全体で約60%が設定していて、構造と施工では半数近く設定しています(図-12)。
(8)BIM実行計画書の運用BIM実行計画書は全体では85%が全てまたは必要に応じて作成・運用していますが、BIM適用プロジェクトの全てで作成・運用しているのは3分の1にとどまっています(図-13)。 設計のBIM活用状況(1)意匠・構造・設備3部門での活用度合い(1) 意匠設計でのモデル作成は35%、モデルによる整合確認とモデルから設計図作成は20%程度の活用率です(図-14)。
(2)設計施工間でのモデル連携度合い設計施工一貫方式の工事では、施工での設計モデルの継続活用は20%程度、引継書と設計モデルの発行はいずれも15%です。
(3)積算(見積部門)での活用度合いモデルから躯体見積数量の算出は全体で10%程度、仕上見積数量算出と設備見積数量算出は数%の活用率に限られています(図-18)。 施工のBIM活用状況(1)施工BIMの活用シーン施工BIMの活用シーンとしては、施工期間中の各種会議で広く活用されている状況がうかがえます(図-19)。 (2)施工計画・事前検討での活用度合い施工モデル作成は全体でほぼ半数で実施されています。
(3)施工図作成での活用度合い施工図作成での活用について全体では、モデルから躯体図、平面詳細図、設備施工図作成が10%程度の活用率です(図-21)。 (4)施工管理での活用度合い施工管理での活用について全体では、打合せ・合意形成での活用率が35%と高く、共通データ環境の活用が20%程度
(5)工種別の専門工事会社との連携状況仮設、鉄骨、衛生、空調、電気の各工事での活用率が高く、過半数で活用されています(図-23)。
(6)専門工事会社との連携度合いモデルの重ね合わせによるBIMモデル合意が躯体・設備で20%程度、仕上げで10%程度、発注や製作への活用は数%にとどまっています(図-24)。 今後の活動アンケート調査の結果より、課題の抽出と今後の対応をまとめました(表-1)。 一般社団法人 日本建設業連合会 建築生産委員会 BIM部会 BIM啓発専門部会主査
建設ITガイド 2023 特集2 建築BIM |