建設ITガイド

トップ >> 特集記事 特集記事

書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

BIM積算の現状と課題

2024年7月2日

はじめに

近年、BIM積算の相談や業務が増加しており、関心の高まりと期待の大きさを感じます。
 
BIMはモデリングしたオブジェクトの数量が集計表に即時反映されます。
この特性から、「積算の自動化や大幅な効率化が図れるのではないか」、「設計しながらコストシミュレーションができるのではないか」といった期待を抱く人も多いのではないでしょうか。
 
中小規模の積算事務所である私たちは、期待というより、積算業務がなくなるかもしれないという不安からBIM積算の検証を始めたというのが正直なところです。
 
「2020年頃にはBIM積算が定着しているだろう」と予測していましたが、幸か不幸か、現在も従来の積算業務と並行してBIM積算の普及に努めています。
当初は出口の見えない混沌とした状況でしたが、ここ数年でようやく輪郭と道筋が見えてきました。
 
しかし、画一的なワークフローでBIM積算を行うのはまだ難しく、そこには「標準化の壁」が立ちはだかっていると考えます。
 
 

標準化への動き

2023年度に、国土交通省が「官庁営繕事業におけるBIMデータを活用した積算業務」の試行を開始し、BIMデータの積算活用について効果検証を行うことを発表しました。
積算対象として指定されている部位は限定的ですが、躯体のほか、間仕切下地や外壁、外部開口、内部開口などの仕上げや建具も含まれています。
 
この取り組みは、BIM積算において大変意義深いことです。
国が主導して検証を進めることで、標準化への動きがさらに加速化することを期待しています。
 

なぜ標準化が必要なのか

2023年3月に国土交通省が提示した「建築BIMの将来像と工程表」では、「横断的活用の円滑化による協働の実現」として、「属性情報の標準化」や「BIM積算手法の策定」といった具体的な取り組みが明示されています。
社会全体で共有するBIMデータの基準が確立されることで、事業者間やプロジェクト間でのスムーズなデータ共有や引き継ぎが可能になります。
 
「属性情報の標準化」の利点について、 BIM積算の視点でもう少し詳しく説明していきます。

出典:国土交通省
出典:国土交通省

 
 

無秩序なデータベースを体系化する

BIMデータは、建築物の形状や仕様などの膨大な属性情報を集約した「データベース」です。
 
これをExcelのような2次元の表型データベースに置き換えるとイメージしやすいかもしれません。
BIMにモデリングされた部材一つ一つの識別子がExcelの列タイトルに当たり、属性項目名が行タイトル、属性データが各セルの値に相当します。
BIMモデルに新しい部材をモデリングするたびに、列が増えてくイメージです。
列タイトルの識別子(項目名)の付け方は、基準(ルール)がなければ、設計者に委ねられます。
例えば部位が「柱」であれば、識別子は “構造柱”、“column”、“C1”…と、設計者によってさまざまな表現が使われます。
 
寸法も、幅や高さといった文字で表現する人もいれば、Dx、Dyというように記号で表現する人もいるでしょう。
このように、統一された基準がないとデータベースの利用者は柱の情報がどの列に格納されているのかを特定できません。
つまり、データベースの設計仕様(規則)がないと、それぞれの列の値が何を意味しているのか分からず、利用しづらくなります。
 
そこで、まずデータベースを正規化します。
正規化とは、データベースにどのような規則で何の情報が含まれているのかを整理し、目的のデータを識別できるように体系化することです。
 
利用者が、この正規化の作業を省略して、すでに整理体系化されたデータベースで作業できれば、その後の作業のワークフローを定型化できるため、大幅な効率化や自動化が可能になります。
 
規模や用途の異なる多種多様な建築物を、全て同じデータベース仕様で作ることは現実的に不可能ですが、一部の共通的な部位や利用価値の高い属性情報を共通エリアとして標準化すれば、プロジェクトや事業者の枠を超えて横断的なデータ連携がしやすくなります。
 
BIMデータの標準化は、積算活用に限らず、BIMデータを利用する全ての関係者にとって大きな利点をもたらします。

標準化への動き

 

モデリングガイドラインの動向

では、BIMの標準化はどこまで進んでいるのでしょうか。
 
BIMモデリングルールの標準化に向けて、国土交通省や各団体、民間企業によって、ガイドラインが公開されています。
 
2021年3月、日本建築士連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会(設計三会)による「設計BIMワークフローガイドライン(第1版)」が公開されました。
 
UR都市機構は、2023年5月に集合住宅設計BIMのガイドラインとBIMデータ類を公開しています。
 
民間企業では、2023年1月に株式会社大林組が自社のBIMモデリングルールである「Smart BIM Standard(SBS)」を一般公開しました。
自社独自のBIMモデリングルールを策定している企業は多数ありますが、社外に公開するというケースは珍しく、他社との壁を越えたBIM活用促進への並々ならぬ熱意が伝わってきます。
 
負荷と価値のバランスで効率性を確保するこれらのガイドラインに積算を考慮したルールを盛り込むことで、積算しやすいBIMデータになるでしょう。
しかし、ルールが複雑化し、BIMのデータ容量が大きくなることで、かえって生産性が低下する恐れがあります。
 
積算フェーズだけではなく、建築プロジェクト全体での効率性を考慮し、モデリングの負荷をいかに抑えて効率性を確保するか、作業負荷と利用価値のバランスをとりながら基準づくりを進めていくことが重要と考えます。
 
 

BIM積算の方法

次に、現状行われているBIM積算の具体的な方法について見ていきます。
 
国土交通省の「官庁営繕部における官庁営繕事業におけるBIM活用ガイドライン」に、数量算出について次の記載があります。
 

BIMモデルを利用して数量算出を行う場合、BIMソフトウェアの自動算出機能を利用する方法のほか、BIMモデルのデータ連携によって数量計算の省力化が図れる機能を搭載した積算用ソフトウェアを利用する方法が考えられる。

 
この2通りの手法を、弊社では前者を「直接型」、後者を「連携型」と呼んで区別しています。
 

直接型BIM積算

直接型とは、BIMモデルにあるデータを、 BIMソフトウエアの集計機能や出力機能、アドインツールなどを使い、BIMソフトウエアだけで積算する方法です。
 
設計変更による数量の変動は即座に集計表に反映されるため、コストシミュレーションを目的とした積算に適しています。
また、不足項目や単価情報などは、BIMモデルに追加データを直接付加するため、積算フェーズでBIMデータベースの価値が高まるというメリットがあります。
 
一方で、数量の正確性はBIMモデルの精度に依存するため、BIMモデルの確からしさをどのように担保するかを検討する必要があります。
また、数量は部材の形状から得られる実数であり、建築数量積算基準は考慮されない数量となるため、公共工事には不向きです。

直接型 BIM積算

 

連携型BIM積算

連携型とは、BIMデータから、積算に必要な部材の属性情報を取り出し、積算ソフトウエアにデータを連携する手法です。
積算ソフトウエア側で部材を配置する作業を軽減できるため、効率化が可能です。
不足情報や、BIMから連携できないデータは、積算ソフトウエアで積算者が付加します。
運搬費や整理清掃後片付けなど、部材としてBIMには入力しづらい項目も、積算に特化したソフトウエアではスムーズに入力することができますし、建築数量積算基準に基づいた数量を自動集計機能で算出することが可能です。
 
連携した後は、BIMからは分断されるため、積算フェーズで付加したデータはBIMには反映されません。
BIMで設計変更した内容も、積算ソフトウエアには同期されません。
 
また、BIMデータの精度や詳細度が低い場合、連携後のデータのチェックや補正が必要になるため、効率性が確保できない場合があります。
 
先に紹介した「官庁営繕事業におけるBIMデータを活用した積算業務」の試行要領の中で、「BIM連携積算」の定義は「官庁営繕事業においてBIMデータの全てまたは一部を活用し、『公共建築工事積算基準』などに基づき積算業務を行うことをいう。」とされています。
ここでいう「BIM連携積算」には直接型も含まれており、手法は指定されていません。
しかし、公共建築工事積算基準に準拠する積算が要求されるため、公共事業においては、連携型での積算が主流となっていくことが予想されます。

連携型 BIM積算

 
 

積算手法の選択

弊社では、積算を行う際にそのフェーズに適した手法を選択しています。
直接型と連携型、両方の手法を組み合わせて数量を算出することもあります。
 
設計フェーズごとに要求される積算を①坪単価概算、②歩掛概算、③積上げ概算、④精積算の4つに分類しています。
 
①坪単価概算、②歩掛概算では、企画、計画段階のためBIMモデルの詳細度も低くなります。
それでも直接型でのBIM積算は可能で、坪単価概算ではBIMモデルの延床面積の数量を利用し、歩掛概算ではエリア面積の数量から算出していきます。
 
③積上げ概算では、内訳形式を部分別で作成したい場合には直接型が適しています。
一般的に、床、巾、壁、天井の仕上材は、基本段階では独立したオブジェクトとしてモデリングしません。
このため、これらの仕上材の数量は、各部屋(エリア)オブジェクトの面積や周長から取得します。
この集計を手動で行う場合、BIMで部屋数量を集計した後、各部位に仕上材を対応付けていきます。
この作業は大変負荷が高く、ヒューマンエラーも発生しやすいため、弊社ではアドインツール「COST BIM S2」を開発して自動算出を可能にしました。
 
BIMで概算を出力するアドインツールは、他にもいくつか販売されています。
このようなアドインツールを活用すれば、積算の専門的な知識がなくても、設計しながら概算コストを把握することができるので大変便利です。
 
工種別の内訳書を作成する場合は、連携型が適しています。
BIMオブジェクトには工種という概念がないため、BIMから出力した数量を工種ごとに分類する作業が必要です。
この作業を積算者が手動で行うのは非常に負荷が高いため、積算ソフトウエアを使います。
 
④精積算も求められる内訳形式は工種別なので、基本的には連携型で積算します。
とくに構造はBIMデータから鉄筋や型枠の数量を取得するのが難しく、直接型では効率化が図れないため、連携型が適しています。
民間プロジェクトの場合は、建築積算基準の縛りがないため、意匠積算は直接型で行い、ハイブリッドで効率化を図ります。
意匠積算ソフトウエアに連携できる部材が限られているため、連携した後に入力する情報が多くなります。
このため、BIMモデルから取得できる数量をそのまま使う方が効率的なケースが多いです。
 
このように、BIMデータを活用した積算の手法は、どの組み合わせが最も効率的かを考えて選択することが大切です。

積算手法の選択
積算手法の選択2

 
 

BIM積算の課題

第10回建築BIM推進会議で、「BIMデータを活用した積算業務の取組推進に向けた課題」として4つの課題が提示されました。

出典:国土交通省
出典:国土交通省
出典:国土交通省
出典:国土交通省

 

[ワークフロー]役割分担の壁

いつ、どのタイミングで誰が何を入力するのか、BIM積算のワークフローが確立しておらず、設計者や積算者の対応範囲が定まっていません。
集計作業や連携作業はどちらが行うのか、設計者はどこまで情報入力するのかなどの取り決めや合意がないまま進めてしまうと、品質や数量の責任所在も曖昧になります。
 

[モデリング・入力ルール]標準化の壁

標準化の重要性は前項で述べた通りで、 BIMデータを積算で利用する上で標準化は喫緊の課題です。
現状ではBIM積算の前にBIMデータの整理体系化の工程が必要ですが、標準化が進むことでさらにBIM積算による効率化が期待されます。
 

[積算基準]積算基準の壁

従来の積算では、積算基準に基づいて数量を算出します。
例えば、間仕切下地の開口が0.5㎡以下の場合、欠除はないものとされます。
BIMはオブジェクトの形状から実数量を算出しているため、積算基準には整合しません。
 
弊社は、国土交通省 の「令和4年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」において、「BIMモデルを活用した数量積算の有効性検証と提言」に取り組みました。
その中で、公共建築数量積算基準(平成29年度改訂)に準じた従来積算の数量と、BIMモデルから算出した数量を比較して差分要因などを明らかにしました。
検証の結果、コストインパクトの観点では全体コストに影響を与える程の差分はなく、BIMの数量は可用性があると評価しました。
しかし、公共事業などで積算基準類との整合を求められる場合は、 BIMから算出した数量を、積算基準に合わせて調整する必要があります。
 

[技術力]人材不足の壁

2022年度の国土交通省調べによると、 BIMを導入している積算事務所は35%でした。
BIM積算を実施している積算事務所はまだ少ないというのが実情です。
BIMソフトウエアは、導入や維持の費用負担が大きく、普及のブレーキとなっています。
 
また、積算とBIM、両方の専門知識と技術力を習得するには、人材育成や雇用にも時間と費用がかかるため、BIM積算の担い手不足が懸念されています。
 

BIMモデル精度の壁

以上4つの他に、もう一つ加えておきたいのがBIMモデル精度の壁です。
BIMモデルの誤りは、数量やコストにも影響します。
このため、積算する前に、BIMモデルの精度(確からしさ)を誰がいつどのように担保するかを検討する必要があります。
従来の積算で、数量調書がその役割を担っているように、BIMモデルの信頼性を公的に証明する仕組みなどが確立すれば、BIMデータ利用価値はさらに高まるのではないでしょうか。
 
「建築BIMの将来像と工程表」で、2024年度に概算手法の策定、2025年には実装、試行が始まり、2026年から2027年にかけてコストマネジメント手法の確立というロードマップが提示されました。
 
将来像の実現に向けて、弊社では今後も建築BIMの推進に貢献してまいります。
 
 
 

株式会社フジキ建築事務所BIMソリューション部 部長
郡山 恵子

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



建築BIM推進会議における検討や建築BIMの推進に向けた取り組みの状況について

2024年7月1日

はじめに

Society5.0の社会へ

デジタル技術がもたらす社会像として「Society5.0」があります。
「Society5.0」は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として平成28年に提唱されたものです。
Society5.0の社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。
また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要なときに提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。
社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります」とあり、これらデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性について提唱されています。
 

i-Constructionの推進

わが国は、現在、人口減少社会における働き手の減少への対応や潜在的な成長力の向上、産業の担い手の確保・育成などに向けた働き方改革の推進などの観点から、生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、 ICTの活用などにより調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指す「i-Construction」の取り組みを進めています。
 
さらに、「成長戦略フォローアップ」(令和元年6月21日 閣議決定)において国・地方公共団体、建設業者、設計者、建物所有者などの広範な関係者による協議の場を設置し、直面する課題とその対策や官民の役割分担、工程表などを令和元年度中に取りまとめることとされたことを踏まえ、i-Constructionのエンジンとして先行して土木分野で重要な役割を担ってきた「BIM/CIM推進委員会」の下に、建築分野のBIMについて拡充を図るため、令和元年度からWGとして、後述する「建築BIM推進会議」を設置し、建築分野におけるBIM活用に向けた市場環境の整備について具体的な検討が開始されました。
 
 

建築BIM推進会議の設置と取り組み状況

建築BIM推進会議の設置(令和元年6月)

国土交通省では、前述の「成長戦略フォローアップ」に基づき、建築物のライフサイクルにおいて、BIMを通じデジタル情報が一貫して活用される仕組みの構築を図り、建築分野での生産性向上を図るため、官民が一体となって「建築BIM推進会議」(以下、推進会議)を令和元年6月に設置しました。
 
推進会議では、官民が連携し、建築業界全体が一丸となって今後の建築BIMの活用・推進について幅広く議論し、対応方策をとりまとめていくラウンドテーブルとなり、BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスなどの「将来像」とそれを実現するための「ロードマップ」(官民の役割分担と工程表など)の検討・策定、当該「ロードマップ」に基づく官民それぞれでの検討などが進められました。
 
なお、推進会議は、松村秀一早稲田大学理工学術院総合研究所研究院教授を委員長とし、学識者のほか、建築分野の設計、施工、維持管理、発注者、調査研究、情報システム・国際標準に係る幅広い関係団体により構成されています。
国土交通省においても、住宅局建築指導課、不動産・建設経済局建設業課、大臣官房官庁営繕部整備課の3課で事務局を務めています。
 

「建築BIMの将来像と工程表」の策定

令和元年6月に第1回推進会議が開催され、同年9月の第3回の推進会議において、「建築BIMの将来像と工程表」が了承されました。
特に「将来像」として、「いいものが」(高品質・高精度な建築生産・維持管理の実現)、「無駄なく、速く」(高効率なライフサイクルの実現)、「建物にも、データにも価値が」(社会資産としての建築物の価値の拡大)の3つの視点で整理されるとともに、その将来像を実現するための「ロードマップ」が、次の①~⑦の7項目に整理され、連携しつつ検討していくこととされました。
 
①BIMを活用した建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
②BIMモデルの形状と属性情報の標準化
③BIMを活用した建築確認検査の実施
④BIMによる積算の標準化
⑤BIMの情報共有基盤の整備
⑥人材育成、中小事業者の活用促進
⑦ビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携
 
①のワークフローの検討など、さまざまな業界間の調整が必要な部分については国が主体的に事務局を務める部会「建築BIM環境整備部会」を設置することとし、
②~⑤については既に民間の関係団体などにおいて検討が進められていることから、それらの各団体の活動を部会と位置付け、個別課題に対する検討などを進めることとされました(令和元年10月~)。
 
現在も、これら部会において官民が一体となってBIMに関する議論を進めています(図-1)。

図-1
図-1

 

ガイドライン(第1版)の策定(令和2年3月)

①の検討を行う「建築BIM環境整備部会」(以下、環境整備部会)は、志手一哉芝浦工業大学建築学部建築学科教授を部会長とし、推進会議と同様に幅広い関係団体などにより構成されています。
令和元年10月から環境整備部会において、BIMのプロセス横断的な活用に向け、関係者の役割・責任分担などの明確化などをするため、標準ワークフロー、BIMデータの受け渡しルール、想定されるメリットなどを内容とする「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(以下、ガイドライン)の検討が行われ、推進会議での承認を経て、令和2年3月にガイドラインが策定、公表されました。
 

モデル事業の実施・ガイドラインの改訂

令和2年度から、第1版であるガイドラインの実証などを行うため、ガイドラインに沿って試行的にBIMを導入し、コスト削減・生産性向上などのメリットの定量的把握・検証や、運用上の課題抽出を行う、「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」を実施しました。
本事業では、ガイドラインの実証だけでなく、BIMを活用した場合の具体的メリットを明らかにするとともに、BIM実行計画書(BEP(BIM Execution Plan))、BIM発注者情報要件(EIR(Employer’s Informaion Requirements))を含む検討の成果物を公表することとしています。
 
特に令和3年度からは、「先導事業者型」、「パートナー事業者型」、「中小事業者BIM試行型」の3つの枠に分けて募集をしています。
 
「先導事業者型」は、発注者メリットを含む検証など過年度に検証されていないもの、もしくは発展させたものであることを応募の要件として募集を行い、7件を採択しました。
「パートナー事業者型」は、推進会議に連携・提言を行っていただく事業として募集を行い、5件を選定しました。
「中小事業者BIM試行型」は、BIMの普及に向けた取り組みの一環として、中小事業者が事業者間でグループを形成し、試行的にBIMを活用し、BIMの普及に向けた課題解決策の検証などを行うものであることを応募の要件として募集を行い、9件を採択しました。
 
これらの事業等による検証の結果、標準ワークフローの大きな枠組みについては、汎用的に各プロジェクトで適用され、標準ワークフローに基づく運用上の留意点などや、BIMの定量的な活用メリットなどが提言されました。
 
これを受け、環境整備部会において議論を行い、令和4年3月にガイドライン(第2版)への改訂を行いました。
改訂のポイントとしては、これまでの建築BIM推進会議の活動成果、モデル事業の成果などから得られた知見を盛り込むとともに、実務者の意見を踏まえた記載順整理などの構成の改善、以下の8点についての記載の充実化などが挙げられます。
 
①発注者メリットと発注者の役割
②EIRとBEP
③ライフサイクルコンサルティング
④維持管理・運用BIM
⑤各ステージの業務内容と成果物
⑥標準ワークフローのパターン
⑦データの受け渡しの方法
⑧各部会などの取り組み
 
 

令和5年度の取り組みと今後の展開・展望

モデル事業の実施など(令和4年度)

令和4年度に、昨年度までの成果などを踏まえ、「先導事業者型」、「パートナー事業者型」、「中小事業者BIM試行型」の3つの枠に分けて募集を行い、「先導事業者型」は8件、「パートナー事業者型」は3件、「中小事業者BIM試行型」は4件を採択しました。
これらの事業については、BIMの活用による生産性向上などのメリットや課題の検証を行うWG(先導型BIMモデル事業WG)と、BIMの導入や普及に向けた課題解決策の検証などを行うWG(中小型BIMモデル事業WG)において、検討の進捗状況や成果について報告・議論いただきました。
これらの成果については、報告書として広く公表されるだけでなく、成果報告会を開催いたしました。
また、令和2・3年度の取り組みについては検証・分析事例集として取りまとめを行いました。
事例集では、各事業者の取り組みを総覧でき、読み手にとって知りたいことと各事業の実施内容が紐付くように、BIMガイドライン(第2版)の節に沿ったキーワードによるカテゴライズ・マッピングを行い、一覧表として作成し、国交省のHPで公開を予定しました。
 
令和4年度分に関しても作成しており、同じく国交省HPで公開予定です。
 

将来像と工程表の改定

令和4年6月に閣議決定された新しい資本主義実行計画グランドデザイン・フォローアップ(令和4年6月7日閣議決定)において、「ガイドライン(第2版)に基づき官民が発注する建築設計・工事などにBIMを試行的に導入するとともに、建築物のライフサイクルを通じたBIMデータの利用拡大に向けて、2022年度中にロードマップを取りまとめる」とされたことを踏まえ、「建築BIMの将来像と工程表」の改定について、環境整備部会で検討しました。
 
改定に当たっては、これまでの推進会議各部会における検討やモデル事業の成果を踏まえ、BIMの普及により目指す姿とその実現に向けた取り組みの全体像および将来像の実現に必要な検討事項や現在の到達イメージについて、現状に合わせた見直しを行うとともに、社会実装に向けたさらなる成果を生むために、部会間の連携や調整を図り、BIM推進に係る具体的なロードマップとして取りまとめることを基本方針としました。
具体的には、直面する社会課題に対して建築BIMにより生産性・質の向上を実現し、さらにはBIMデータを他分野のデータと連携して活用できる社会の構築を見据えたとき、3つの重要課題に取り組む必要があると位置付けました。
 
1つ目は、設計から施工へ至る際に必ず通る確認申請を、建築BIMを用いて行えるようにすること。
2つ目は、設計・施工段階において建築BIMデータを円滑にやり取りして横断的に活用するための環境整備を行うこと。
3つ目は、BIMデータを他分野のデータ等と連携させていくことを目指して維持管理・運用段階の高度化を図ることです。
これら3点について、いつまでに何に取り組むかについて、ロードマップとして取りまとめました。
また、これらを具体化していくためには、部会を横断した取り組みが必要になることから、アウトプットを明確にしたTF(タスクフォース)において取り組むこととし、工程表に沿ったTFの取り組みに関する進捗管理を行うために、環境整備部会に戦略WGを設け、必要な調整や方針決定を行うことで、全体として工程表に沿った取り組みが進められる体制を新設しました。
さらに、2023年度予算では、建築BIMの社会実装を加速化するための基盤を整備する取り組みに対する支援措置として、建築BIM活用総合支援事業(国費3.03億円)を創設したところです(図-2)。

図-2
図-2
図-2
図-2

 

建築BIM加速化事業の実施(令和4年度第二次補正予算)

「建築分野のBIMの活用・普及状況の実態調査」(令和3年1月国土交通省調べ)によると、1,000人以上の企業におけるBIM導入率は7割以上である一方、10人以下の企業では3割以下となっており、特に中小事業者にとっては、導入・運用に係る初期投資や習熟人材の不足といった課題がBIM導入の障壁として挙げられます。
 
そこで、国土交通省では、建築BIMの社会実装のさらなる加速化を図ることを目的に、中小事業者が建築BIMを活用する建築プロジェクトについて建築BIMモデル作成費を上限として支援する「建築BIM加速化事業」が令和4年度第二次補正予算にて成立しました。
本事業の活用により、建築BIM導入における障壁の解消に寄与することが期待されます。
 

今後の展開・展望

建築BIMの推進においては、官民一体となって個別課題に対する検討などを進めるとともに、共通する課題に横断的に取り組むことが重要となります。
 
このため、部会間の連携をさらに深め、共通する課題への取り組みを進めるとともに、各部会だけでなく、推進会議に参加している各団体においても、ガイドラインを踏まえた検討が進められています。
さらに、建築分野にとどまらず、PLATEAU・不動産ID、と連携し、建築・都市・不動産分野の情報と他分野(交通、物流、観光、福祉、エネルギーなど)の情報が連携・蓄積・活用できる社会の構築を目指した検討も行っているところです。
 
こうした継続的な取り組みにより、マーケットのさまざまな事業でBIMが広く活用され、関係団体の検証も進み、将来的にはさまざまな人材の育成や幅広い事業者への普及、さらにはビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携などに広がっていくことを期待します。
 
 
 

国土交通省 住宅局 建築指導課 係長
平牧 奈穂

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



JR東日本における建設DXの取り組み―JRE-BIMの推進―

2024年6月17日

はじめに

国土交通省では、令和5年度より小規模工事を除く全ての公共工事の詳細設計においてBIM/CIM原則適用となった。
JR東日本においても建設工事の推進において、調査・計画、設計、発注、施工、維持管理までの一連のフローを「JRE-BIMサイクル」と称し、BIM/CIMを活用することで生産性向上を図る取り組みを各種実施してきている(図-1)。
本稿では、これまでの取り組み内容とともに、今後の方向性について概説する。

図-1 JR東日本におけるBIM CIMの取り組み
図-1 JR東日本におけるBIM/CIMの取り組み

 
 

これまでの取り組み

概要

図-2に、これまでのJR東日本におけるBIM/CIMの取り組みの概要を示す。

図-2 これまでのJRE-BIMの取り組み
図-2 これまでのJRE-BIMの取り組み

2016年に受発注者相互の共通データ環境となる「BIMクラウド」を試行開始し、2018年には3Dレーザースキャナーによる地形測量の原則化、JRE-BIM研修をスタートした。
2020年には「JRE-BIM」の推進方法をまとめたJRE-BIMガイドラインを制定し、2021年には設計段階におけるBIMモデル作成の原則化などを実施してきた。
最近では、後述する三次元点群クラウド「TRANCITY」の開発と、このサービスを提供する関連会社「CalTa」の設立などを行い、点群とBIMの活用促進を図っている。
 

BIMクラウド(環境)

BIMクラウドの概要を図-3に示す。
受発注者でのデータ共有のほか、ワークフロー機能を備え、電子納品箇所としての活用を行っている。
2016年の試行開始からこれまでに33TBを超える工事関連のデータが蓄積されており、加速度的にデータ登録数も増え活用が加速している。

図-3 BIMクラウド
図-3 BIMクラウド

 

ガイドライン(ルール)

ルール面での整備も進めている。
JRE-BIMの標準的な進め方をまとめたJRE-BIMガイドラインは2020年に初版を制定以降、毎年改訂を重ねている。
2023年度は、動画から生成した三次元データでの工事写真の納品方法や、点群による構造物の計測方法などをとりまとめた施工編の拡充を主に行った(図-4)。
図-4 JRE-BIMガイドライン
図-4 JRE-BIMガイドライン
 

研修(人)

研修による社員のスキル向上も図っている(図-5)。
2018年からスタートし2022年には延べ380名以上の社員が基礎編は受講し、モデリングなどを行う応用編や実務編といったニーズに即した研修なども用意し、受講者も募っている。

図-5 JRE-BIM研修の受講者数
図-5 JRE-BIM研修の受講者数

 

主な活用事例

図-6に土木、建築、電気などの系統をまたがる工事での干渉や整合確認への活用事例を示す。
建築で施工する人工地盤鉄骨と電気で施工する電化柱の離隔の確認や、土木で施工するホーム舗装と建築で施工するエレベーターとの取り合いなどを、BIMモデル上で事前に確認することで、事後の手戻りなどを軽減させた。

図-6 主な活用事例 (干渉・整合確認)
図-6 主な活用事例 (干渉・整合確認)

 
図-7に駅改良工事での駅係員(立ち番)配置位置の検討への活用例を示す。
新設するホーム上で、駅係員(立ち番)からの見え方をVR上に再現し、駅社員などが事前に確認することで、立ち番設置位置の変更に要する合意形成の省力化などを図った。

図-7 主な活用事例 (合意形成の省力化)
図-7 主な活用事例 (合意形成の省力化)

 
図-8に線路近接作業時の安全性・施工性の確認への活用例を示す。
現地を計測した点群に、新設する構造物や重機類のBIMモデルを配置し、事前の施工検討会などで活用することで、工事関係者の理解の促進を図るとともに、安全な工事推進に役立てた。

図-8 主な活用事例 (安全性・施工性の確認)
図-8 主な活用事例 (安全性・施工性の確認)

 
さらには、線路切換工事など時々刻々変わる施工現場を、時間軸を加えた4Dのモデルで再現・検討することで、施工ステップ資料の作成時間の削減を図った事例もある(図-9)。

図-9 主な活用事例 (切換工事当夜の施工計画)
図-9 主な活用事例 (切換工事当夜の施工計画)

 
 

さらなる活用に向けた取り組み(三次元点群クラウドの活用)

これまで述べてきたようにBIMモデルの活用は積極的に進めてきたが、BIMモデル作成費に比して得られる効果が十分とは言い難い。
「3DCAD」としての活用から、「BIM(Building Information Modeling )」へ脱皮すべく、以下の取り組みを推進している。
 

デジタルツインソフトウエア「TRANCITY」の開発と活用

さまざまなBIM/CIMの活用を進めていく中で、活用推進を阻害している要因
を分析すると、「高機能なPCでなくても BIMや点群が扱える」「高度なスキルがなくても扱える」「建設関係者でない人にでも閲覧くらいはできる」というソフトウエア環境が求められていることが分かった。
そこで、BIMモデルおよび点群データを簡易に扱えるデジタルツインソフトウエア「TRANCITY」の開発に着手した。
TRANCITYの概要を図-10に示す。
ユーザーはカメラやスマートフォン、ドローンなどのデバイスで撮影した動画をWeb上にアップロードするだけで、点群や3Dメッシュデータが生成される。
Webブラウザーにアクセスできるユーザーであれば、誰でもどこでも閲覧が可能であることから、関係者でのデータ共有を容易に行うことができる。
点群や3Dメッシュと、動画から切り出された静止画が重畳表示させることができるため、画像での確認も可能な上、各箇所の寸法計測も可能である(図-11)。

図-10 デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」の概要
図-10 デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」の概要
図-11 「TRANCITY」の特徴
図-11 「TRANCITY」の特徴

 
このTRANCITYを用いて目指す工事管理のイメージを図-12に示す。

図-12 目指す姿(TRANCITYによる)
図-12 目指す姿(TRANCITYによる)

工事開始時点で作成したBIMモデルは3D地図上に地理座標を付与して配置し、工事完成時などには地上レーザースキャナーなどで作成した点群データと重ねることで設計情報との乖離箇所を視覚的に把握する。
日々の工事進捗などは、カメラやスマートフォンで撮影した動画から生成された点群と3Dメッシュを記録することで、工事着手前、工事途中などの状況を3D地図上で保存が可能である。
点群などを保持しているため必要な箇所の計測も可能であるため、従来の工事写真撮影時に配置していたメジャーやリボンテープといった計測道具も不要となる。
建設工事の着工から完成までの一連の流れが地理座標とともに保存が可能となるため、竣工後の維持管理場面での利活用にも大きく貢献するものと考えている。
現在は、従来の工事写真の代替の試行を行っているが、検測記録などの帳票類の置き換えなども視野に取り組んでいる(図-13)。
地下に埋設された貯留槽の新設工事、RC高架橋の地中梁の新設工事などに試行しており、各時点では動画の撮影とアップロードのみで従来の写真整理といった内業が軽減するとともに、完成した後でも当該箇所の施工中状況がスケールや座標値を持った高度利活用が可能なデータが蓄積できるようになった(図-14)。

図-13 工事写真の代替の試行
図-13 工事写真の代替の試行
図-14 試行例
図-14 試行例

 

点群による完成検査の推進

BIM/CIMの活用の重点的な取り組みのもう一つとして、点群データによる完成検査記録の置き換えを推進している。
構造物の完成時には、従来は手計測により帳票をまとめ、数回に渡り実施される段階的な検査を実施していた。
検査の都度、計測・確認を要するため、必要な人・時間は多く労力を要していた。
そこで、地上型レーザースキャナーで取得した点群上での計測結果を記録の代替とする取り組みを実施してきた(図-15)。
 
寸法値の確認が必要になるため精度の証明方法が重要になる。
精度については、用いるレーザースキャナー個々の精度の確認とともに、複数回に渡って取得された点群を合成して得られた点群での精度の確認の、2通りで確認することで必要な計測許容誤差内での寸法精度が確保されていることを証明した(図-16)。

図-15 点群を用いた完成検査
図-15 点群を用いた完成検査
図-16 精度の証明方法
図-16 精度の証明方法

 
図-17が、実際の点群データの一例である。
従来、現地で手計測で実施していた箇所を点群上で計測し記録することで、現地での計測や帳票への転記作業などが軽減されるとともに、高所作業や夜間作業などの軽減にもつながっている。
ただ、ここでのやり方はBIMモデルが設計図相当として作成活用できるようになるまでの過渡期の取り扱いと考えており、将来的には設計のBIMモデルと点群を、座標を合わせて重畳することで、許容値を超える箇所について自動で抽出できるような検査方法への転換をしたいと考えている(図-18)。
これによりBIMモデルの設計データとしての活用とともに、計測するという行為から脱却し、本来やりたかった確認方法が実現できるものと考えている。

図-17 実際の点群データ
図-17 実際の点群データ
図-18 点群を使った完成検査のビジョン
図-18 点群を使った完成検査のビジョン

 
 

究極のBIM/CIMの姿の実現に向けて(3Dプリンティング)

BIM/CIMが進んだ究極の姿は、調査・計画、設計、発注、施工、維持管理の全てのフェーズでBIMモデルデータのみで業務が完結することかと思われる。
せっかくBIMモデルで渡してきたデータを施工のフェーズで二次元の図面を起こし、型枠を作成したりしていてはBIMによる効果を全てのフェーズでの担当者が享受しているとは言い難い。
そこで、BIMモデルをそのまま構造物としてしまう究極の姿として、3Dプリンティングによるコンクリート構造物の構築の実現に向けて取り組みを進めている(図-19)。
3Dプリンティングの技術については、国内においてはまだ事例や技術基準も少なく、課題も多いことから土木学会等と連携しながら取り組んでいる。

図-19 コンクリート3Dプリンターの取り組み図
図-19 コンクリート3Dプリンターの取り組み図

 
取り組みの一つとして、土木学会の「3Dプリンティング技術の土木構造物への適用に関する研究小委員会(364委員会)」および東京大学等の学生と連携して、内房線の太海駅の駅舎建て替え工事に合わせて設置されるベンチのデザインからプリント、設置までの一連の流れを「ベンチプロジェクト」として実施した。
図-20は学生が考えたデザイン原案である。
3Dプリンティング技術の特長である自由な造形が可能であることを生かして、人間工学に基づき座り心地を追求した形状にするなど、従来のコンクリート工事では難しかった形状のプリントに挑んだ。
事前に耐荷性のシミュレーションなども実施するとともに、JIS基準に準じた載荷試験なども事前に行い、安全性を確認した(図-21)。
図-22に完成したベンチの設置状況を示す。
デザインから設置までの一連のフローを実施することで、3Dプリンティング技術のみならず、3Dモデルの受け渡しから始まり、寸法や設置位置の確認方法、設置箇所に合わせた形状の微修正、などさまざまは課題が抽出された。
これらは、BIMモデルのみで設計から施工までの一連の流れを実施する際に直面する課題であり、今後、改善に向けて取り組んでいかなければならない課題だと考えている。

図-20 学生のデザイン原案
図-20 学生のデザイン原案
図-21 耐荷性シミュレーションと載荷試験等による確認
図-21 耐荷性シミュレーションと載荷試験等による確認
図-22 完成したベンチの設置状況
図-22 完成したベンチの設置状況

 
 

おわりに

以上のように、さまざまなBIM/CIMに関する取り組みを実施してきたが、BIM/CIMを活用して効果を享受するためには、プロジェクトの計画段階でどのようにBIMモデルを活用しようとするかを考えて始めるのが重要だと考えている。
活用方法が明確であればBIMモデルの整備方針も明確になり、後工程で失敗を感じるようなことが少なくなる。
また、「人(スキル)」、「モノ(環境)」、「ルール」の3つの要素をバランスよく伸ばすことを心掛ける必要がある。
しかも、計画、設計、施工、維持管理、の全てのフェーズで、である。
どこかの人が頑張る、だけではダメで、全ての関係者の頑張りなくして、BIM/CIMの真の効果を享受することは難しいと考える。
ぜひ、設計者、施工者、受注者、発注者、管理者など、いろいろな立場の関係者で協力しあって推進していけたらと思う。
 
 
 

東日本旅客鉄道株式会社 東京建設プロジェクトマネージメントオフィス
企画戦略ユニット マネージャー 井口 重信

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



中部地方整備局における BIM/CIMの取り組み

2024年6月8日

はじめに

国土交通省では令和5年度よりBIM/CIMの原則適用(表-1)を進めており、国土交通省職員はもちろんのこと国土交通省の業務や工事を受注する民間企業も含めて、BIM/CIMを活用できるような環境整備を進めている。

表-1 BIM/CIM原則適用について
表-1 BIM/CIM原則適用について

 
BIM/CIMを活用するには測量・調査、設計段階から3次元モデルを導入することにより、その後の工事現場での施工、維持管理・更新の各段階においても3次元モデルを連携・発展させ、事業全体にわたって関係者の情報共有を図ることが可能となる。
 
i-Constructionモデル事務所においては、建設生産・管理システム全体の効率化に向け、BIM/CIMやi-Constructionの取り組みについて、トップランナーとして活用推進や普及拡大を図っているところである。
 
また令和5年3月に中部地方整備局の各部、建設業界をはじめ、関係機関が協調してインフラDXの取り組みを進められるよう、「中部インフラDX行動計画2023」を作成した。
 
 

中部地方整備局のi-Constructionモデル事務所の取り組み

中部地方整備局のi-Constructionモデル事務所は現在、新丸山ダム工事事務所、設楽ダム工事事務所、紀勢国道事務所の 3事務所であり、それぞれのBIM/CIMの活用状況を紹介していく。
 
新丸山ダムでは、関係者協議や広報で、地形データと堤体データ、機械設備データ、地質データなどを重ね合わせた統合モデルを活用している。
これを基に、ダム本体工事での自律施工も検討中である。
また、地質モデル(図-1)は、鉱脈硬線帯などを含めた新モデルを構築したことで、土捨て場や、本体工事に必要な骨材の選定などに活用範囲を広げた。
その他、ドローンで撮影した写真を組み合わせて3Dモデルを作成し、バーチャル見学ツアーも実施している。

図-1 地質3Dモデル(原石山)の作成【新丸山ダム】
図-1 地質3Dモデル(原石山)の作成【新丸山ダム】

 
設楽ダムでも、ダム本体と付替道路などで統合モデルを作成している。
対外向けの事業説明や、設計照査時の関連構造物との干渉確認などに活用している。
また、ダム事業の広報手法として、過去・現在・未来を映し出すプロジェクトマッピング(図-2)も作成した。

図-2 プロジェクションマッピングへの活用【設楽ダム】
図-2 プロジェクションマッピングへの活用【設楽ダム】

 
紀勢国道事務所では、国道42号熊野道路の整備で3次元データを活用している。
クリティカルパスとなる事業区間で、施工ステップの妥当性や用地内施工の確認、工事用道路の検討などを実施した。
施工ステップや事業スケジュールの照査(図-3)を行うことで、手戻りが生じない、効率的な事業執行を進めている。

図-3 工事着手段階の活用事例【紀勢国道】
図-3 工事着手段階の活用事例【紀勢国道】

 
 

中部インフラDX行動計画の策定

中部地方整備局では、これまでドローン測量やICT建機の活用など、さまざまなデジタル技術を積極的に導入・活用し、建設現場の安全確保、生産性の向上などに努めてきた。
しかし、自然災害の激甚化・頻発化、デジタル技術の急速な進展など社会経済情勢は大きく変化している。
このような状況の変化に応じたインフラ整備や公共サービスの提供を行うとともに、建設現場の生産性の向上、働き方改革を進めるためには、インフラ分野のDXの取り組みを一層加速する必要がある。
このため、中部地方整備局の各部、建設業界をはじめ、関係機関が協調して取り組みを進められるよう、①DX推進の背景、②地域住民、建設業界、職員、それぞれの観点からの目指す姿(表-2)、③おおむね5年間の主な取り組みを「中部インフラDX行動計画2023」(表-3)として整理し公表している。

表-2 中部地方整備局インフラDXの目指す姿
表-2 中部地方整備局インフラDXの目指す姿

表-3 中部インフラDX行動計画2023
表-3 中部インフラDX行動計画2023

 
 

おわりに

令和5年度よりBIM/CIMの原則適用となり、3次元情報の利活用ができる人材の育成は急務である。
 
建設現場の生産性向上を図るためには、i-Constractionの取り組みを国の直轄工事以外にも拡大していくことが重要である。
地方公共団体や地域企業の取り組みのサポートや、職員・作業員への研修も行い連携しながら取り組みを進めていく。
 
また、中部インフラDX行動計画を通して、最新のDXツールを活用して時代の変化、社会のニーズに応じた行政サービスを提供し、地域住民のQOLが高い魅力的な地域作りを目指す。
 
加えて、社会の基盤を支える重要な役割を担う建設業が持続的に発展できるよう若者や女性にも魅力的な職場環境とし、労働生産性の向上、職員の仕事とプライベートが充実するような働き方改革を進めていく。
 
 
 

国土交通省 中部地方整備局 企画部 技術管理課 建設情報係長
大鹿 貴也

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



中国地方整備局における BIM/CIMの取り組み

はじめに

中国地方整備局では、「中国地方整備局インフラDX推進計画」にBIM/CIMによる建設生産システムの効率化・高度化を位置付けて、3次元モデルの活用を推進してきたところですが、令和5年度から業務・工事においてBIM/CIM原則適用となり、さらなる活用を推進しているところです。
 
本稿では、これからの建設業界の生産性向上に欠かせないBIM/CIM の活用について、中国地方整備局の取り組みを紹介します。

 
 

中国地方整備局における取り組み状況

中国地方整備局のこれまでの取り組みとして、大規模構造物などを中心にBIM/ CIMを活用、順次対象を拡大しながら事例を収集し、「BIM/CIM活用の手引き(案)」や「BIM/CIM活用事例集」を作成・公表しています。
山陰西部国道事務所では、調査、設計、施工のプロセスを意識した3次元ベクトルデータを測量成果として作成することにより道路設計の効率化および高度化を図ることを目的に、ガイドラインを作成し運用しているところです。
令和5年度から業務・工事においてBIM/CIM原則適用を受け、この取り組みを他の事務所へ横展開し、BIM/CIMのさらなる活用推進を図っていきます。
 
受注者については、特に中小企業においてBIM/CIMがまだ十分に浸透していない現状も見られるため、中国地方整備局では、業団体が参加する講演会や勉強会などにおいてBIM/CIMに関する説明を積極的に行っています。
また、BIM/CIMを含むDXの取り組みに関する最新の事例を収集し、中国5県や業団体などへ定期的に提供するなど、外部への情報発信にも取り組んでいます。
 
BIM/CIMを効果的に活用し、建設生産・管理システムの効率化を図っていくためには、建設事業に関わる発注者および受注者における人材育成が不可欠です。
中国地方整備局では、幅広い関係者がDXに関する専門性の高い研修や技術体験ができる人材育成の拠点として、令和4年度より中国技術事務所に「中国インフラDXセンター」の整備を進めており、令和5年7月18日に暫定運用を開始したところです。
建設生産・管理システムのプロセスにおいて活用可能なDX技術のうち、AR・VRコンテンツなど(図-1)の体験が可能となっています。
今後も、DXセンターで体験できる技術メニューや研修コンテンツの充実を図り、BIM/CIM活用促進を支える人材育成の環境整備に取り組むこととしています。

図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ1
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ2
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ3
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ4
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ5
図-1 中国インフラDXセンター 体験コンテンツ

 
 

フロントローディングの取り組み事例

中国地方整備局では、早期段階から一貫したBIM/CIM導入に向けて、測量、設計、施工の各段階でフロントローディングを実践しています。
 
測量段階では、点群測量成果を単に地形図成果として使用するのではなく、道路設計の効率化および高度化を図るため、点群測量に合わせて現地補備測量を実施し、自由に縦横断地形図が作成できる3次元ベクトルデータ(図-2)を測量段階の成果とする「点群データ活用ガイドライン(案)」を作成しました。

図-2 3次元ベクトルデータ
図-2 3次元ベクトルデータ

 
令和3年度新規事業から本格的に活用を開始しており、測量段階での作業は増加するものの、自由に縦横断面図が作成可能なことから通常実施する現地縦横断測量(応用測量)を省略でき、これまでの測量設計プロセスを見直すことで一連の作業効率化が図られることが可能となっています。
 
設計段階では、道路設計で作成された CIMモデルを、後工程となる、トンネル設計や橋梁設計を実施後に再度モデルの更新(接合)を行う必要があります。
しかし、設計業者ごとにCIMモデルの着色や、モデル化範囲が異なるため(図-3)、モデル更新に時間を要していることから、令和5年度に一定のルールを作成する取り組みを実施しています。
 
施工段階では、ICT土工用データを発注者が作成し、受注者に貸与する試行を行っています。
また、地質調査の検尺で一般化されつつある遠隔臨場を発展させ、遠方から現場をリアルタイムで見学するバーチャル現場見学会を令和4年度から実施しており、令和5年度はバーチャル現場見学会を応用した用地・幅杭遠隔立会(図-4)を試行するなど、新たな取り組みにチャレンジしやすい環境整備を行っています。

図-3 CIMモデルの着色違いの事例
図-3 CIMモデルの着色違いの事例
図-4 用地・幅杭遠隔立会
図-4 用地・幅杭遠隔立会

 
 

おわりに

中国地方整備局では、建設業界の生産性向上を図りつつ、整備局職員を含めた建設業界の働き方改革を実現することを目指し、各種の取り組みを実施しています。
 
実施に当たっては、社会情勢の変化や 建設業界、職員からのニーズなどを踏まえた上で、「中国地方整備局インフラDX推進計画」を毎年度策定し、それらを実施、点検、分析・評価し、インフラ分野のDXを推進してまいります。
 
 
 

国土交通省 中国地方整備局 企画部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 



 


新製品ニュース

図面の修正差分をAIで自動検出・可視化する技術「revisio」を公開図面の修正差分をAIで自動検出・可視化する技術「revisio」を公開


建設ITガイド 電子書籍 2025版
建設ITガイド2025のご購入はこちら

サイト内検索

掲載メーカー様ログインページ



  掲載をご希望の方へ


  土木・建築資材・工法カタログ請求サイト

  けんせつPlaza

  積算資料ポケット版WEB

  BookけんせつPlaza

  建設マネジメント技術

  一般財団法人 経済調査会