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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

施工BIMの今 -ISエンジニアリングのBIM

2019年7月19日

 

BIMに取り組むきっかけ

当社の内外装部はALC(軽量気泡コンクリートパネル)・ECP(押出成形セメント板)・金属パネル・PC等の設計施工を主たる業務としております。
 
BIMに本格的に取り組んだのは2016年からです。ゼネコン主導による「施工図のBIM化を図るように」との働きかけを受ける形で当社の施工BIMはスタートしました。また、そもそも施工業者としてどんなメリットがあるのか、BIMで何ができるのかを考えると同時に、施工上の取り合いの視認性の良さだけでなく、取り組むなら2Dではできない部分をBIMで設計品質・作業効率を向上できないかとの考えが背景としてありました。
 



 

施工業者として改善すべき問題

ALC・ECP等の施工図は、パネル割り付けと同時にパネルの厚み、長さ(支点間距離)、開口補強、スリーブ検討といった計算を個別に計算ソフトへ手入力しチェックしています。これらの作業は物件ごとに荷重条件(風荷重・層間変位等)が違い、大型物件になればそのチェックは膨大な数になります。
 
また、設計担当者の経験にもバラつきがあり作業処理にかかる時間を考え、これを平準化・省力化できないかということに注力し、これらの計算ソフトに改良を加えたりしておりました。
 
これまでパネル割り付けは既存の2D自動割付ソフトを使用しております。このソフトは効率よく自動割り付け・変更修正と建材メーカーへのパネル発注明細が作成できます。しかし、2Dから3Dとなりますと作図システムの変更が必要です。ARCHICAD、RevitといったBIMソフトを施工BIMとして使うには、オブジェクト・ファミリ作成・自動割り付けプログラム化、また発注明細作成となると建材メーカーとの連携も重要です。
 
しかしそれ以上にBIMを推進するに当たって、いろいろなアイデアが社内・設計協力会社からたくさん出てきています。BIMのパラメータ情報を計算式にインポートすることで、これらの計算にかかる作業が、オブジェクトを割り付けするだけで支持スパンの確認ができそうだということ、そしてスリーブ開口も解決できるのではないか等、施工BIMの可能性を最大限引き出すための課題と方向性が明確になってきました。
 
 

BIMパネル自動割り付けシステムの開発

開発コンセプトとしては「設計品質・作業効率の向上」と「意匠BIMデータを活用」ということです。開発に当たっては当社のBIM担当と設計協力会社とで協議し、今まで以上の作業効率と強度的な設計品質を遵守できるよう開発項目をリストアップしました。



オブジェクト(パネル形状・仕様)はパネルサイズ・パネル加工・パネル種別(フラットパネル・デザインパネル・タイルパネル等)等、種類が多岐にわたり、これらを作成した上でAPIにて制御しパネルを自動で割り付けていきます。また、パネルの情報としてはパネル重量・断面係数や断面二次モーメント・留付ボルト強度等もマスターテーブルとして作成し、パネルの強度計算に対応できるようにしました。



施工業者として意匠BIMモデルそのものを活用し、また他業種ともデータ連携できるようにしたいと考えました。この自動割り付けシステムは意匠BIMモデルを下地に平面配置をトレースし、パネルのモジュールで割り付けし、両端部で均等に割り付け・寸法指定割り付け・コーナーパネル配置など効率よくモデリングできます。また、意匠BIMモデルの階高情報がそのまま使えますので、面として同じであれば必要な階まで一度にパネルをモデリングすることもできます。



そして意匠BIMモデルのAW・SD等の開口情報(サイズ・位置)をパネル自動割り付けシステムへそのまま連動させることで入力ミスをなくし、また意匠BIMモデル変更にも即座に対応できます。パネル割り付けにおいては割り付けモジュールと開口情報が最も重要ですし、変更追加が多いのが開口情報です。この情報を意匠BIMモデルと連動すればお互いの確認作業が省力化されます。
 
パネル自動割り付け・パネル発注明細はもちろんのこと、鉄骨一次ピース割り付け・開口アングル検討・パネル計算・スリーブ検討までもプログラムしていく予定です。



鉄骨一次ピース割り付けの目的は鉄骨製作者(FAB)へのデータ受け渡しをスムーズに行い、先付ピースの漏れをなくすことです。これまで2D図での図面指示では情報が分かりにくく、記入漏れ・転記漏れなどが多くありましたが、現在BIMデータでの受け渡しに移行してからは、現場での先付ピース漏れはほとんどありません。できればこのBIMデータを先方(TEKLA等)へのネイティブデータに変換できればと思案しているところです。
 
 

今後の展望

施工BIM推進に当たって直面している問題はチェック・承認の方法です。他業種との取り合い・干渉等を確認するため、現場ではBIM重ね合わせ会等が開かれますが、短い工期の現場も多く、施工BIMモデルのチェック日程はなかなか厳しいものがあります。できる限り早期に着手しBIMモデルの検証作業に十分な期間を確保しなければと考えます。
 
意匠BIMモデルとパネルBIMモデルの重ね合わせ、鉄骨や躯体・建具との重ね合わせ、モデルの検証を十分行うことで寸法確認の手間もかなり省力化できます。施工業者の足並みもまだそろっているとは言えませんが、早急にBIMの確認業務フローの確立が重要であると考えます。
 
最後に、施工BIMは他業種との連携を図ることで作業環境は大きく改善・発展するでしょう。今後ともBIM関連業者の相談会・連絡会等で情報交換しながら、施工BIM推進に尽力したいと考えております。
 




 
 

ISエンジニアリング株式会社 技術設計部 金 尚之

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



施工BIMの今 -日建リース工業のBIM-

2019年7月12日

 

はじめに

当社の設立は1967年。まだレンタルという言葉が一般化していない時代から、仮設資材のレンタルを中心に、52年にわたってその経験とノウハウを磨いてきました。「仮設事業」として仮設資材をレンタルするとともに、これまでの建枠に替わって建築現場で主流となってきた、クサビ緊結式足場「NDシステム(通称:ダーウィン)」のメーカーでもあります。
 
自社開発の足場CADシステムで業務を行っていますが、これまでに2回、3次元での運用にチャレンジしてうまく活用できなかった苦い経験を持っています。
 
 

BIMへの取り組みのきっかけ

そんな当社が再び3次元に取り組むことになったのは、社長の「今後のCADシステムはBIMを視野に入れて考えてほしい」という一言からです。そのときは、「また3次元をやるのか…」というネガティブな思いが浮かんできましたが、あらためてBIMについて調べてみて、すぐに「今からやっておくべきで今回は失敗しない」という思いに変わりました。
 
●なぜ、「今からやっておくべき」と考えたのか。
 
それはBIMの「企画」→「設計」→「施工」→「維持管理」のサイクルにあります。
 
当時のBIMはまだ「設計」での活用が中心だったので、それならば次は「施工」になるはず、「施工」となれば足場仮設計画になるはずと思いました。そうなれば必ず当社にもBIMでできないかと声が掛かる。声が掛かった頃に始めても遅いと考えたのです。
 
●なぜ、「今回は失敗しない」と思えたのか。
 
理由は明確で、BIMであれば躯体モデルをお客さまが作ってくれているからです。
 
これまでの3次元取り組みの失敗の原因は、担当者自身がお客さまから頂く2次元図面を見ながら、躯体モデルをワイヤーフレームで作っていたことにあります。そんなことをしている間に、最初から2次元で作図していればとっくに図面は完成しています。
 
それがBIMであればお客さまが躯体モデルを作ってくれており、ワイヤーフレームとは違って視覚的に分かりやすい完成されたBIMモデルに、自分のスキルを思う存分生かして足場仮設計画に専念できるのですから、当社にとってこんなにラッキーなことはありません。
 
 

施工BIMへの本格的取り組み

社長の一声でBIMに取り組むことになり、やるぞ!と意気込んではいたものの、そもそもお客さまがBIMでの足場仮設計画を必要と考えているのだろうかという疑問がありました。既に幾つかの仮設材パーツは試験的に製作しておりましたが、BIMは設計での活用が中心だったので、BIMをやったことのないわれわれには施工でBIMを活用するイメージが浮かばなかったからです。
 
そこで営業の力を借りて、行く先々で「BIMでの足場仮設計画の重要性」についてアンケートを行いました。2013年10月~12月頃のことで、その結果が図-1です。
 
BIMを推進している(BIMのことを知っている)本社や支店の方々からは、ある程度期待されているものの、実際に施工する現場となると「あってもなくても困らない」的な回答が多い結果でした。出鼻をくじかれテンションが下がったことは否めませんが、それでも当時はBIMについて尋ねると「何のビーム?どこの開口部?」と、冗談のようなリアクションが多かったときですから、ここは現場さんの話は置いておき、本社支店さんのことを信じてBIMを推し進めることにしました。
 
そんな折、2014年1月に日本建設業連合会(以下、日建連)から『施工BIMのスタイル』が発刊されました。「施工BIM」というキーワードを目にしたのは、そのときが初めてだったと思います。そしてどこの新聞かは失念しましたが、鹿島建設様の新聞記事(2015年5月頃)で、「建築全現場にBIM」「ライセンス貸出で協力会社と連携」「足場などをモデル化」などの記事を読んだときに、「いよいよ来たんじゃない?」と思ったことを覚えています。
 
こうした経緯で当社は本格的にBIMでの足場仮設計画に取り組み始めます。
 

図-1 「BIMでの足場仮設計画の重要性」
アンケート結果




 

具体的な取り組み

(1)仮設材パーツの製作
仮設材パーツの製作はBIMの取り組み当初から行っており、次の2点を方針として取り組んでいます。
 
①お客さまがARCHICADとRevitのどちらを使用していても対応できるように両方で製作する。
②当社カタログの基本部材は全てモデル化する。
 
製作当初はARCHICADのGDLを勉強しつつ、まずは簡単に作成できるRevitで研究がてら製作して、試行錯誤しながら4~5回作り直して今のLODと属性になっています。
 
現時点では目標の1/3程度の部材しかできていませんが、LODや属性に関しては、「こうあるべき」と、はっきりした結論はまだ出ていません。実案件を通してお客さまからのご意見を伺い、これからも妥協することなく、修正を続けて進化させていきます。
 
また、ありがたいことにパーツ提供のご依頼をよく頂きますが、当社はクサビ緊結式足場「NDシステム」(図-2)と「S造関連部材」(図-3)についてはメーカーとしての立場でもありますので、この2点については、日建連の『施工BIMのスタイル2014』に掲載されていた「BIMモデルの取扱いに関する覚書」をベースとした独自の「覚書」を作成し、内容合意の下ご提供しています。
 

図-2 NDシステム

図-3 S造関連部材




(2)BIM担当者の育成
将来的には海外にBIMオペレーターを配置して、件数をこなせるようにしていく必要があります。しかし今は、国内で将来のBIMマネージャーを育成していく段階と考えており、現時点で全国に10名ほどいます。
 
BIMマネージャーとなるためには、まずはオペレーターとして実案件を複数経験し、直接現場とBIM調整会議を行い、2次元図面とは違うBIMならではの打合せ内容や、お客さまからどのような要望があるのかを知る必要があります。仮設材配置だけのBIMオペレーターであればすぐに育成できますが、当社はただ配置して終わりにしたくありません。重要なのはBIM担当者全員がBIMに取り組む目的や、この物件はどう進めるべきか、どうしたら問題解決できるのかをご提案できることであり、当社の全国に70人近くいる技術スタッフの中から、ある意味選ばれたこの10名は、今後の当社の「施工BIM」での立ち位置をより高めていかなければいけない人材です。
 
 
(3)仮設計画モデリングの請け負い
当社の仮設材を現場で採用していただくことが大前提ですが、2018年からは本格的にBIMでの足場仮設計画モデリングを請け負っています(図-4)。
 
2016年、2017年もご依頼がなかったわけではありませんが、試行的に年2~3件ほどしかなく、少し不安になるくらいでしたが、2018年に入ってからは急激にご依頼が増え、常に数件は重複して作業している状況です。施工BIM元年は2015年といわれていますが、当社のBIM元年は2018年だと考えています。
 
作業内容としては先ほどご紹介したように、ただ仮設材を配置して終わりにしたくありませんので、事前打合せ(キックオフ)→基本配置→社内BIM検討会(写真-1)→現場でのBIM調整会議1回目→修正→BIM調整会議2回目 と、このような工程を基本として作業しています。「工区ごとの数量を拾いたい」(図-5)ですとか、「危険箇所を可視化して対処したい」(図-6)というご要望もよくありますので、必要に応じて対応しております。
 

図-4 足場仮設計画モデリング

写真-1 社内BIM検討会


図-5 工区ごとの数量拾い


図-6 危険箇所の可視化



 

現状の大きな課題

実は課題を挙げればきりがないので、ここでは現状悩んでいる「大きな課題」を2点だけ挙げておきます。
 
(1)図面化の難しさ
BIMによって2次元作図や修正の業務負荷は軽減されているといわれていますが、足場仮設計画図に関していえば決してそうではありません。BIMによって見えてほしくない所が見えてしまうためです。
 
全てができないわけではありませんが、まだまだ研究が必要ですので、これからも試行錯誤していきます。
 
 
(2)現場にBIM担当者がいない
現場にBIMアプリに精通している人が、まだまだ少ないのが現状です。そういう方が居るのと居ないのとでは、工程確認や数量抽出の生産性に大きな違いが出てきます。
 
ただこれは施工BIMが広がっていくことによって時が解決するような気もしますが、当社でも可能な限りご協力してまいります。

 

最後に

BIMは施工から始めても効果は抜群です。2次元図面だけのときとは大きく打合せ内容が変わり、初期の打合せにかかる時間は増えたかもしれませんが、施工BIMで先行して検討することで、工事中に発生しそうな不具合が確認でき、事前に対処したり、対処できなくても解決策を考えておくことができるようになったことは素晴らしいと思います。一度BIMに携わった現場関係者さんは、次も必ずBIMでやりたいと仰います。
 
これからも各社のBIM推進部門、管理部門の方々とも一緒になって、施工BIMを推進していきます。
 
持ち分のページ数では説明したいことがあまり説明できませんでした。もし足場仮設計画のモデリングをご検討中でしたらご連絡ください。ぜひ一度、意見交換させていただきたいと思います。
 
 
 

日建リース工業株式会社 技術安全本部 技術システム部 部長 小川 浩

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



ICT建築土工への取り組み-掘削BIMモデルとICT建機のデータ連携-

2019年6月28日

 

はじめに

国土交通省は平成30(2018)年4月に「営繕工事において施工合理化技術の更なる活用推進~i-Constructionの建築分野への拡大を踏まえて活用方針を策定~」を報道発表した※1。報道発表では「施工BIM(試行)」、「情報共有システム(活用)」、「ICT建築土工(試行)」、「電子小黒板(試行)」の4つの施工合理化技術が示されている。
 
今回、建築工事において掘削BIMモデルとICT建機が連携した「ICT建築土工」に関する取り組みを試行する機会があった。そこで本稿ではBIMモデルとICT建機とのデータ連携の話題を中心として、取り組みの概要を報告する。
 
 

ICT建築土工の概要

「ICT建築土工」は「ICT土工の省力化施工技術を建築工事における根切り・土工事に活用するもの」※2と定義され、掘削工事などでICT建機を活用し、土工事の合理化を推進しようとするものである。
 
ICT建機にはMG(マシンガイダンス)とMC(マシンコントロール)の2種類がある。MGはオペレーターが設計面の横断形状を常にキャビン内のモニターで確認しながら作業を進めるため、設計面付近の仕上げ精度はオペレーターの技量に左右される。一方MCでは設計面に接地した段階で作業機自体に制御(コントロール)がかかり、設計面を侵さず計画したとおりの掘削工事ができる。
 
ICT建機(MG/MC)のオペレーターは、写真-1に示すようにモニター画面に表示された掘削平面や掘削レベルを参照し掘削を進めるため、従来のように掘削範囲や掘削レベルを都度確認する作業員を配置する必要がない。いずれの場合でもICT建機がGNSS(衛星測位システム)により捕捉した座標を読み取り、正確に自分の位置を把握することで制御している。そのためICT建機にはGNSSアンテナ、高精度センサ付油圧シリンダーやIMU(慣性センサー)を搭載している。
 

写真-1 オペレーター目線




 
MGやMCを機能させるためには掘削形状(位置・深さ)に関するデータをICT建機にインプットさせる必要がある。専用のソフトウェアで制御されているため、連携するデータ形式により対応できる内容が異なる。
 
2次元の掘削図データしか用意できない場合は、MCを活用しても水平方向の位置は無制御となり、垂直方向のみあらかじめ設定した高さ(GL/FL基準)で作業機は制御される。MGではモニター画面に表示のみとなる。
 
3次元データ(掘削範囲と掘削レベルを数値化)とICT建機(MG/MC)を連携させると、オープンカットの整形など3次元で座標が変化する面にも制御がかかり、より均一的な掘削の出来形になる。
 
 

BIMモデルとICT建機の連携

建築工事においてICT建機を3次元座標で制御するためには、従来と同様に総合建設会社(ゼネコン)が基礎躯体図をベースとして2次元の掘削図の作成と同時に掘削BIMモデルを準備してICT建機側のソフトウェアとデータ連携する必要がある。
 
今回の試行では当社と機器等の提供者間で、連携に必要となるBIMモデル作成の標準化を写真-2に示すように行った。ICT建機(MG/MC)が必要とするデータはTINデータ※3のため、BIMモデルと連携する際は、データ形式の違いに配慮する必要がある。
 

写真-2 連携の手引き




 
以下にその要点を示す。
 
①データはサーフェスにする
②データは土工の仕上面のみにする
③側面は外側に10mmの傾きを持たせる(図-1)
④法の勾配は70度以下にする
⑤一番底の面をつくる
⑥杭頭、構台杭などの掘削に関係ないデータは削除しておく
⑦尺度はメートル基準にする(土木ではmm単位で作成しない)
 
BIMモデルからTINデータへの変換作業は施工面の面積、変化点数によって前後するが、平均的に1週間程度の作業工程を見込む必要がある。
 

図-1 側面は傾きをつくる




 

BIMを活用したICT建築土工

(1)掘削工事概要
敷地条件:GNSS(GPS等)の捕捉が難しい市街地(写真-3)
工事期間:2018年9月~11月
掘削面積:約3,300㎡
最大掘削深さ:GL-8.5m
ICT建機:コマツ製。BIMモデルと連携することでMCを適用
その他:現場打杭+鋼管杭+山留
 

写真-3 現場の状況




 
(2)作業の進め方
当社で図-2に示す掘削BIMモデルをRevitにて作成した。作成期間は約2週間である。BIMモデルはデータ連携だけでなく、職員や作業員との情報共有にも活用するため、杭や構台杭なども入力した。
 

図-2 掘削BIMモデル




 
作成したBIMモデルは、当社でサーフェスのみをDWG形式でコマツカスタマーサポート株式会社に渡し、データ変換した。変換作業は2日ほどで完了した。
 
掘削工事にICT建機を使用するため配慮したことは、構台を架設する作業工程を掘削が完了してからにしたことである。ICT建機がGNSSから現在地を取得する必要があるため、構台が先に架設されると電波が届かなくなり、作業が進まないことによる。また、毎日の作業開始前にはICT建機のバケットの刃先の座標位置を確認した。基準点は従来通りの現場の逃げ杭があればよい。
 
(3)効果と今後の課題
掘削の出来形はバックホー各作業機のシリンダーを自動制御しているため、掘りすぎることがなく図-3に示すBIMモデルと同等の出来形となった(写真-4)。掘削作業後に測位誤差を確認したところ、水平精度で5mm~10mm、垂直精度で10mm~ 15mmとなった。砕石敷き作業は従来と同様に作業員が敷き均しを行い、誤差を調整した。
 

図-3 掘削出来形(BIM)




写真-4 掘削出来形(実際)




 
掘削の作業開始前にBIMモデルの作成などの作業手間が増えているが、掘削工事中は以下の効果が確認できたことから、「ICT建築土工」の適用を今後も進めることができると考えられる。
 
①職員による掘削位置出しや床付面のレベル確認が不要
②バックホーの手元作業員が不要となり、重機との接触事故が防止
③手元作業員が不要となることでバックホーのオペレーターの待ち時間がなくなり、作業の効率が向上
④掘削BIMモデルをタブレット端末で閲覧し、作業員間での出来形イメージを共有することで意思伝達が効率的
 
今後の課題としては近隣で高い建物に遮蔽されGNSSが捕捉できないことで位置情報の精度が確保できないことが挙げられる。どの場所でも適用することができないため、「ICT建築土工」の採用を計画する際は、事前にGNSSの捕捉状況を確認してから採用の可否を考える必要がある。
 
 

おわりに

土木分野におけるICT土工の取り組みに関してはさまざまな報告がなされているが※4、民間工事が中心である建築分野ではこれから適用の検討が加速すると思われる。
 
 
謝辞
今回の取り組みでは、コマツカスタマーサポート株式会社にお世話になりました。また当社関東支店の遠藤聡作業所長には有意義なご助言をいただき、お世話になりました。御礼申し上げます。
 
 


※1 国土交通省HP、「ホーム>報道・広報>報道発表資料」平成30年4月12日
※2 ※1の【参考】p1に掲載
※3 TIN(ティン、triangulated irregular network)は不規則三角形網のことで、三角形の網からなるデータのこと
※4 例えば、以下の事例が報告されている。株式会社大林組土木本部本部長室情報技術推進課、「i-Constructionの先進的な取り組み事例」、建設ITガイド2018、p.66-69、一般財団法人経済調査会、2018.2
 
 
 

前田建設工業株式会社 建築技術部 TPM推進グループ グループ長 曽根 巨充
主任 藤井 周太

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



点群データの内製化-戸田建設のBIM-

2019年6月7日

 

はじめに

点群データとは計測対象にレーザーを放射状に照射して得られる表面形状の3次元座標のことで、3Dレーザースキャナー(以下、「スキャナー」とします。)は点群データを計測する機材の一種です。当社では工事部門でもスキャナーを導入していますが、ここでは設計部内でBIMや最新技術の推進を担当している、BIM設計部の点群データの内製化について紹介していきます。
 
 

内製化への経緯

当社設計部では、以前から点群データを設計検討に利用していた実績があり、設計検討における点群データの有用性は認知されていました。点群データの有用性は認知されていたものの、計測を外部に委託していたためにスケジュール調整や費用の面から、実際に3Dレーザー計測(以下、「計測」とします。)を実施するには、至らないことが多いのが実情でした。
 
BIM設計部における点群データ内製化への取り組みは、イニシャルコストの低いスキャナー「BLK360」が発売されたことが発端です。検証の結果、点群データについての一連の作業が内製化可能と判断し、機材を導入しました。
 
 

導入機器、ツールについて

・「BLK360」(図-1)
Leica社スキャナーです。
この製品の特長として、本体が非常に小型かつ軽量で取り扱いが簡単な上に計測時間が短く、カラー撮影にも対応しています。上位機種に比べると計測性能では劣りますが、イニシャルコストが低く非常にコストパフォーマンスに優れた製品です。
 

図-1 BLK360




 
・「ReCap Pro for mobile」(図-2)
iPadから「BLK360」を操作するツールです。
 
単なるリモコンではなく、各スキャンの状況を現地で確認しながら計測を進めることができる優れたツールとなっています。従前のツールでは、計測時にスキャンデータを確認できなかったのに対して、このツールではiPad上で計測結果を現地で確認できるため、初心者でも安心して確実なデータ作成することができます。
 

図-2 ReCap Pro for mobile




 
・「ReCap Pro」(図-3)
点群データを編集するツールです。前述の「ReCap Pro for mobile」と連携するための必須ツールとなっています。
 

図-3 ReCap Pro




 
点群編集ツールとしては非常にコストが低いにもかかわらず、点群データ部分削除、レイヤー分け、メッシュ化、データ変換など多彩な機能を搭載している優れた製品です。
 
・「Cyclone REGISTER 360」(図-4)
点群データをつなぎ合わせる作業(合成)に使用するツールです。
 

図-4 Cyclone REGISTER 360




 
点群編集ツールとして定評のある「Cyclone」の合成機能に限定したツールであり、ReCapに比べて高価で操作の難易度も高いですが、合成作業には欠かせないツールとなっています。
 
 

内製化について

内製化を実現できたのは、低コストのスキャナーが発売されたほかに、機材の携帯性が向上したことも要因となっています。以前は、スキャナーは重く大きく、合成に使用するターゲットも多数必要であったために計測には大荷物が必要でしたが、「BLK360」がバッグ一つに納まり、「ReCap Pro」「Cyclone REGISTER 360」が現場でのターゲットの設置を不要としたことで、設計部員が現地へ電車で移動して計測できる手軽さが実現し、内製化へとつながりました。
 
 

計測の事例の紹介

約17,000㎡の敷地について、BLK360で計測を実施した事例を紹介します(図-5)。
 

図-5 BLK360での計測例




 
新築の対象範囲は5,000㎡程度でしたが、BLK360による広範囲計測の実施検証も兼ねて計測を実施しました。
 
BLK360は計測の有効距離がカタログスペックで60mと比較的短いために、対象範囲を網羅するには延べ約24時間、107カ所の計測(図-6)が必要になりました。計測は2回に分け、1回目の不足部分を2回目の計測で補う形で実施しました。各計測日が50日間ほど空いてしまった間に解体工事が進み、現場の風景が大きく変わってしまったことから、多くのスキャンを削除、追加しなければなりませんでした。
 
合成作業については、そもそもスキャン数が多い上に、現場風景の変化によるやり直しもあり、非常に苦労しましたが、結果的にはBLK360でも広範囲の計測に使用できる実例とすることができました。
 

図-6 計測点の状況




 

点群データの位置合わせ

BIM設計部では、点群データを配置図や測量図と位置を合わせて使用するために測量を併用しています。今回は、点群に世界測地系の座標を盛り込む検証も併せて行うために、GNSS測量(図-7)と計測を同日に行い位置合わせの資料としています。
 

図-7 GNSS測量




 

今後の課題

今回の計測結果についてGNSS測量の結果や境界杭の位置から誤差を検証した結果、一部に想定外の誤差があることが判明し、調整が必要になりました。
 
点群データの精度は、スキャナーの性能のほかに合成作業に、大きな誤差が生じます。合成による誤差は、合成数が多ければ多いほど累積して誤差は大きくなるほか、今回の計測では、事例で記載した「現場風景の変化」も原因となっている可能性があります。この合成による誤差を、いかに小さくしていくかが課題となっています。
 
また、点群データは非常にデータサイズが大きいために、保存場所やバックアップなどのファイル管理についても、今後計測が蓄積されていく中で、早急に解決しなければならない課題となっています。
 
 

最後に

点群データ内製化によって、点群データは設計部内では身近なものとなり、実施数は拡大しています。
 
今後はさらなる点群データの設計利用を提案できるよう技術の向上を図るとともに、新技術にも目を向けながら、点群データの運用を推進していきたいと考えています。
 
 
 

戸田建設株式会社 建築設計統轄部 BIM設計部 BIM設計室 主管 西尾 和剛

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



昇降機設備のBIM -三菱エレベーターの取り組みと事例の紹介-

2019年5月31日

 

はじめに

近年、BIMを利用した建築物の設計・施工業務の効率化が推し進められている。設計段階ではレイアウト検討を行うために簡易的なBIMモデルを利用し、施工段階では工種間の調整を行うために詳細なBIMモデルを利用している。それらの業務において、昇降機設備のBIMモデルも必要になるケースが増加している。
 
昇降機設備は製品・オプションが多岐にわたり、建物により採用される仕様も異なる。また、建築との位置関係も物件ごとに違うため、全く同じ寸法・仕様のエレベーターを納入することは稀である。そこで、BIMモデルにおいても仕様や寸法を変更できることが必要となる。
 
ここでは当社のエレベーターのBIM取り組みの現状と活用事例について紹介する。昇降機設備にはエスカレーターや小荷物専用昇降機も含まれるが、今回はエレベーターについて紹介する。
 
 

昇降機BIMモデルの構成

当社のエレベーターBIMモデルの構成を図-1に示す。乗場三方枠や乗場機器、支持部材は建物により異なる。そこで、ライブラリを昇降路内機器・乗場三方枠・乗場機器・支持部材ごとに分類し、各パーツの整備を行っている。
 
特に施工BIMにおいては現場のスケジュールの都合上、エレベーターBIMモデルにおいてもタイムリーな作成が必要となるケースが多い。そこで、あらかじめ基となる各種パーツを整備することにより、BIMモデルが必要になった場合は各ライブラリのパーツを組み合わせて物件用のBIMモデルを作成し、対応に要する時間の短縮化を図っている。さらに、基となるパーツがあれば、熟達したBIMオペレーターでなくとも一定の水準のエレベーターBIMモデルを作成できるため、品質面でのメリットもある。
 

図-1 エレベーターBIMモデルの構成




 

寸法のパラメーター化

建物により採用されるエレベーターの各寸法は異なる。例えば乗場三方枠などは、建築物の壁仕上厚によって枠巾が変化する。そこで図-2に示すように、変更が想定される箇所についてはパラメトリックなデータ(パラメーターで指定可能なデータ)として、BIMモデルを整備している。乗場三方枠であれば、出入口巾・出入口高さ・枠奥行などをパラメーター化しており、数値的に指定できる。このようなBIMモデルとすることで、パラメーターの変更のみで枠形状を変更することができ、関連する2次元図面を修正していた従来の方式と比較し、効率的に修正に対応することが可能となる。
 



図-2 パラメーターによるモデル修正


 
 

建築構造(鉄骨工事)との連携例

エレベーターは立柱やファスナー等を介して建物で支持する必要がある。このような支持部材は鉄骨工事で加工・施工するため、昇降機工事から鉄骨工事に対して必要な支持部材の位置や部材について具体的に伝えなければならない。そのため、BIM導入後も伝達手段として2次元図面が必要になる。鉄骨工事との連携例について、図-3に示す。BIMモデルを使って連携する具体的なメリットは以下の3つが挙げられる。
 
①2次元図面作成の効率化
②BIMモデルと2次元図面間の差異防止
③関係者間での打合せの効率化
 
①2次元図面作成の効率化
鉄骨工事から提供された鉄骨モデルを、BIMソフト上でエレベーターBIMモデルと重ね合わせを行った。重ね合わせたモデルはBIMソフト上の2次元図面にも表示されるため、昇降機設備工事では鉄骨を作図する必要がなくなった。
 
②BIMモデルと2次元図面間の差異防止
BIMソフト上で作成された2次元図面は、BIMモデルを修正した際に図面にも自動的に反映される。そのため、図面側に修正内容を反映し忘れてしまうミスを予防することができる。
 
③関係者間での打合せの効率化
他工種工事箇所を示す際、従来の2次元図面打合せでは蛍光マーカー等で色を付けて他工種に提示していたが、BIMモデルならば色分けした表示が容易で、確認しやすい。また、鉄骨工事でもリンク可能なBIMソフトを使用している場合は、エレベーターBIMモデルを鉄骨工事に提供すれば、鉄骨側にエレベーターBIMモデルの内容が反映される。
 
従来は各業者にて図面化し、お互いに確認し合うという業務を行っていたが、このようにBIMモデルを提供し合うことで、重複して図面化する必要がなくなり、作成した図面をおのおの確認する作業を削減することができた。
 

図-3 鉄骨工事との連携例




 

問題点の早期抽出・共有化

実際に作成した資料例を図-4に示す。BIM導入前は、問題となる箇所を明示するためにいくつかの図面やスケッチ等を作成していたが、エレベーターBIMモデルや受領したモデルを使うことで、それらの作成作業を削減することができた。加えて、図面よりもイメージが容易なため、社内・社外関係者間で共通認識を持てる点でも有用であった。結果的に、問題点の確認・方向性の確認を早期に行うことができた。
 

図-4 モデルを活用した資料例




 

今後の課題

これまでの取り組みにより、エレベーターBIMモデルの構造やパラメーターについて検討を進め、関係者間調整の効率化や資料削減時間の短縮に効果があることを確認できた。今後は、BIMモデルの整備と2次元図面化の2点について進めていきたいと考えている。
 
BIMモデルの整備については、まだBIMモデルが整備できていない製品も多く、そのような製品のBIMモデル要求があった場合には一から作成しなければならないため、作成に時間を要する。まずは、製品のBIMモデルを拡充することで、要求があった場合の対応時間短縮化を図りたい。
 
2次元図面化については、BIMモデルから打合せ図レベルの図面を作成することはできるものの、現状の詳細な2次元図面レベル(施工図レベル)の図面を生成するためには不足している点も多く、別途2次元図面を作成しているのが現状である。そのため、2次元図面とBIMモデルの二重管理になってしまい、BIMモデルで打合せした内容を2次元図面に反映し忘れてしまう可能性がある。今後はBIMモデルをそのまま施工図として使い、モデルと2次元図面間の整合性を確保する方法について検討する。
 
 
 

三菱電機株式会社 昇降機営業技術部 営業技術支援第一課 梅木 偉斗

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



 


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