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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

意匠設計から設備設計へ “i”をつなぐBIM設計とは

2020年7月28日

 

はじめに

現状、各社においてBuilding Information Modeling(BIM)を用いて作図、シミュレーション、コストなどさまざまな用途に上手く活用する方法を模索している段階である(図-1、図-2)。
 
しかし、設備設計者目線でBIMを考えた場合、誰しもが日々の業務においてBIMとの関わりが深いとは言い難いのも事実である。 
 
その背景には、BIMがより複雑な設備配管を有するプラント設計の分野で導入したことが普及の発端とも言われており、設備機器、配管類の干渉チェックを含めた3次元納まりを設計段階で深度化することにより、施工段階での検討手間をできる限り減らすことを背景に普及したのに対し、ビル系の設計は、施工図に比べ深度化するにも、建築情報が実施設計段階にまとまることが多く、作図レベルを2次元で検討せざるを得ない。
 
理由として、意匠・構造モデルは基本設計では2次元が主流であったこと、そして最も大きな要因は作図するための建築情報(面積、天高など)がアナログデータのため、負荷計算・換気計算などの技術計算に多くの時間を費やし、3次元図面に避ける時間が少なかったことが挙げられる。
 
こうした状況がしばらく続く中、世界は、社会はBIM普及への動きが加速しているが、どうすれば設備設計者がBIMの恩恵を受けられるか、考えた一つの答えが「i:Information」、を如何に部門間でつなげるかであった。
 
社内発表時によく使う言葉としてBIMと い う 言 葉 は、B(I BuildingInformation)とM(Modeling)の複合用語であると説明し、設計者が最も重要なのは「Building Information」、つまり設計情報「i」が意匠・構造・設備でコンカレントにつながっていることがBIMを活用する最大のメリットであり、これを上手く使えないと「M」、3次元図作成のためのBIMツールとなってしまい、設計者は益々BIMと深くない関係になってしまう恐れがある。
 
本稿では、「i」を設計に生かすための取り組み、データ連携の先に見えてくる課題と展望について、1,000床を超える大規模病院での設計事例をベースに紹介したい。
 

図-1 当社のBIM活用イメージ

図-2 BIM検討例




 

そもそも設計手順がBIMの課題?!

日建設計だけの問題とは限らないが、これまでのBIMは、各部門内の狭い範囲で最適化を図ってきたといってもよい。部門ごとに適したBIMソフトを選択して使い続けることで、部門内の標準化を図り、それぞれのBIMソフトの特長を生かした効率的な設計を可能にしてきた。
 
その一方で部門を超えた連携はなかなか進められてこなかった。基本設計を例にすると、第3図に示すワークフローがどこかで止まってしまい、結果として部門間連携が進まなかった。その問題は以下と考える。
 
①連携するモデルの作り方が統一されていないため、一つのモデルに統合することが困難または非常に手間がかかる。
 
②意匠、構造で”正確”に整合されたBIMがないため、設備側で個々の情報をBIMへ入力する作業が習慣化し、統合モデルを作成する意義を共有できていない。
 
③最も大きい問題と感じたのは、意匠・構造を整合したモデルの作成時期・手順と、設備が欲しい情報を入手したいタイミングがずれていることが大きな要因であると考えている。
 

図-3 ワークフローイメージ


 
一例を挙げると、基本設計作成段階では意匠がプランを作る際に機械室・シャフトなどの面積を整理する必要があるが、基本設計段階でその回答を出すには、階高、天高、梁伏、床下げレベルなどの情報を踏まえ、納まりなど検討し回答するが、入手できるものは一部BIMがあったとしても、多くは手書き図面などメモでの情報伝達といった2次元でのワークフローを踏襲した部門間の連携を行っている。さらにそうしたメモ書きの情報が出てくるのは基本設計中盤~後半になりがちであるが、設備が欲しいのは初期~中盤である(図-4)。
 

図-4 基本設計段階でのデータ連携項目とスケジュール


 
こうした現状を認識しつつ、意匠・構造・設備が密に連携できる総合設計事務所の強みをBIMと融合させられていない点が課題であった。
 
 

コンカレントエンジニアリングへ

設計手順の在り方が課題とするなか、2019年以降のいくつかのプロジェクトではこの課題を乗り越えるような取り組みが進められるようになってきた。
 
例えば図-5に示すように、意匠・構造が構築するBIMモデルに含まれる建築諸元情報をExcelに取り出し、シームレスに引き継いで設備検討に反映させることで、これまでより早く正確に検討サイクルを回すことができるようになった。その結果を意匠・構造と共有することで、密に部門間連携を図ることができつつある。
 
誰がどこまでのデータをどのタイミングで入力するかというワークフローを、総合設計事務所の強みが発揮できるようにBIMをプラットフォームとして再構築することで、意匠・構造・設備が早い段階から連携するコンカレントエンジニアリングへシフトにシフトし始めようとている。
 
一方、各部門でデータ連携するには、入力する内容によっては意匠ではなく設備が入力した方が良い項目もある。今回検討した病院設計では、意匠側がRevitモデルで進めているのに対し、Excelで書き出した諸元データに清浄度、室圧、空調与条件などをExcelに入力し、Revitへ戻すのではなく、設備がRevitモデルへ直接諸元情報を入力した。One ModelでRevitを操作した例は本件が初めての試みであったが、設備プロット図作成後の建築プラン変更への追従性、部門間の不整合防止、諸元情報の色塗り平面図作成などトータルで設計プロセスを考えるとOne Modelでの作業は効率的であったといえる。
 

図-5 BIMと連携した建築設備諸元の整合確認ツール




 

Revitを使った「i」

前項では、意匠・構造・設備が早い段階から連携するコンカレントエンジニアリングのツールとしてRevitを使った取り組み例を紹介したが、部門間連携の潤滑油としては非常に有効であったが、設備の作図ツールとしては一切使っていない。
 
それでも、設備がRevitを使いOnemodelに拘ったのは「i」をコンカレントにつなげたことで、基本設計→実施設計→確認申請→施工→運用を一貫したデータ管理により、部門間連携の強化、設計・施工の効率化、LCCの縮減とった点が挙げられる。そうなることを期待しOne Modelでの入力がもたらした効果を紹介する。
 

(1)データ受領方法
現状、設備の実施図面では建築と同じBIMソフトを使うことが少ないため、ifcファイル形式をベースとした連携となっている。一方、ifcデータによるデータ連携の課題もあるが、正確に意匠と構造データが整合していれば、ソフト互換については、あまり重要ではないと考えている。
 
そうした視点のもと、まず意匠・構造でのデータ連携は、意匠、構造が同じソフト系なのか否かでアプローチが変わってくるが、第6図で示すようにRevitデータによるデータ連携方法をタイプA、タイプB1、B2の3つに区分した。
 
 

a)タイプA
意匠で梁伏、床下げ情報などを入れる方式である。基本設計初期において、設備がBIMによる納まり検討をするにはなるべく早い段階で梁伏、床下げ情報が欲しいがこの方式の場合、納まりが厳しそうなエリアについて意匠との調整だけで可能となる。
 
ただし、意匠側で構造情報を入れるため、モデルが古くなった場合のアップデートタイミング、入力ミス、構造変更が構造設計者へ伝わるかなど課題もある。
 
 

b)タイプB1、B2
構造が作成するモデルを反映するので図面の精度が上がる。B2はさらに発展し、意匠と構造が別のモデルで作成しリンクするため、より精度が高いが、構造解析モデルでは床下げ、ブレースなどの情報が実施設計後半まで反映しないまたはBIMでは作成しないなど使えないモデルとなる可能性があるため、設計図としてはタイプB1からB2へ移行していくのが多くの流れと考える。
 

図-6 意匠・構造データ連携のパターン分け


 
 

(2)データ連携による便利機能
今回取組んだ病院では防水対応の二重床や医療機器の床下げなど仕上げレベルが複雑なため、梁高さ、床下げレベル、天井高などバラバラな図面を重ねてどこが設備の納まりが悪いのか検討するのは、多大な労力を要する。
 
こうした状況を打破するためにタイプB1の手法で意匠情報と構造モデルを重ね、“DynamoとExcel”を使い梁下から天井までの有効懐が500mm下回る個所を平面図に表記させた(図-7)。
 

図-7 天井内有効寸法確認


 
この機能により、梁下500mmを切る場所は納まり上リスクがある場所と考え、BIMによる納まり対象場所が絞れるため、従来手書きで断面図を書いて検討に比べ、よりスピーディーに、効率的に納まり検討を行うことができた。
 
 

(3)データ連携を活用するには
今回、BIMを活用するために最も重要視したのは、複雑な設計条件や設備から意匠・構造への要求条件を如何に部門間で「i」を共有するかであった。病院設計を通じて感じた成功への秘訣は以下である。
 
・基本設計初期に設備検討用の意匠・構造BIMデータを意匠が作成し、さらに階高、天高など建築条件変更要望をBIMで随時意匠が修正し、データで建築図を供給できたこと。
 
・Revitモデルをifc、PDF、Autocadへの変換を定期的に実施し、図面変更箇所を共有。
 
・意匠のRevitモデルに設備が設備プロット、設計条件(室圧、空調・消火範囲等)を同じデータにて行うために、Revitの同時作業許可、設備のファミリー、ビューテンプレート作成協力。
 
上記内容は、コンカレントにデータ連携するために必要な対応ではあるが、実際の設計では(現場も同じであろうが)、部門間(会社間)の壁、お互いが必要とする作業内容の理解度、時間的制約などさまざまな要因から意匠側が同様の対応をする例は多くないと思われるが、本件ではみんなでRevitを使うと決めた段階で従来とは違ったアプローチをプロジェクトメンバーで進めていった。
 
余談になるが、社内に手戻りが少なく効率的に設計を進める設計フローが示されているが、BIMを使う前提でフローを考えた場合、思った以上にこれまでの設計手法を修正すべき点があることが分かった。今後、BIMを推進するために必要な設計フローがどうあるべきか、より深く考える必要があると思われる。
 
 

「i」から技術計算へ

これまで意匠・構造・設備がデータ連携を進めることを書いてきたが、みんなで苦労したけど、その先に設備は何をしたいのか?と聞かれることがあるが、答えは「技術計算」に尽きる。 
 
空調設計の例となるが、技術計算を進めるには図-8の建築情報が必要となる。このデータが意匠よりルールに沿った形で設備へデータ提供されることで基本設計段階であっても精度が高い検討が可能となる。次に、そのデータをもとに空調側では技術計算に移行させ、換気計算、負荷集計をまとめ、図-9の例に示すように外調機、室内空調機器選定までを自動化させようと試みている。そこからさらに機器表へ展開し動力リストを電気設計側に渡すことで、設備間のコンカレント強化を目指している。初期段階はプランが動くため、どこから自動計算化を進めるか判断に悩むが、いったん技術計算の骨組みを作ると実施設計、現場段階での変更にも柔軟に対応ができるため、トータルで考えた場合効率化になると考えている。
 

図-8 建築→設備へのデータ連携


 

図-9 設備内での技術計算フロー




 

おわりに

今回紹介した病院におけるBIM取り組み事例は、これまで多くのBIM取り組み紹介では作図という視点が多かったが本稿では作図については紹介していない。私自身3次元による作図は10年以上前から取り組んできたが、ずっと感じていたのは、BIMによる恩恵が大きいのは作図より情報、すなわち「i」をコントロールすることではないかと。
 
RevitをOne Modelで操作することでその第一歩を踏み出した段階ではあるが、データ連携もたらす未来は非常に明るいと考えており、今後もさらに「i」を生かすための研究を進めていく次第である。
 
 
 

株式会社 日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ 浅川 卓也
吉永  修

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



地方自治体におけるi-Construction・BIM/CIM事例 -3次元点群データの収集・利活用の取り組み-

2020年6月29日

 

はじめに

本県では、 国土交通省が推進するi-Constructionの取り組みを受けて、平成28年度に、トップランナー施策として位置付けられたICT活用工事の試行を開始し、これを契機に3次元点群データの収集・利活用を積極的に進めています。
 
近い将来、3次元点群データが社会インフラのひとつとして、建設生産プロセスだけでなく社会全体で活用されることを想定して、取り組みを展開しています。
 
他分野での活用も推進するため、データをオープンデータとして公開することとし、具体的な活用手法のひとつとして、自動運転への活用に取り組んでいます。今年度は、さらに他分野での活用を想定したモデル事業を展開することとしています。
 
本稿では、本県における3次元点群データの収集・利活用に関するこれまでの取り組みと今後の展開について紹介します。
 
 
 

静岡県3次元データ保管管理システム

本県では、ICT活用工事の試行導入に際して、施工の各プロセスにおいて3次元データを活用することに着目し、従来の工事完成図に相当するデータとして、出来形管理の3次元計測とは別に工事完成時に3次元計測を実施し、3次元点群データを納品することを求めることとしました(図-1)。

図-1 ICT活用工事の実施プロセス


 
ICT活用工事の実施に当たっては、i-Constructionの取り組みの開始時に国土交通省の電子納品要領において、電子媒体としてBlu-rayでの納品が採用されましたが、本県職員が利用する端末では、Blu-rayに対応したドライブが装備されていないため、大容量データを納品するためには別の手法が必要となりました。また、既存の電子納品・保管管理システムは、庁内利用を前提としており、施設の維持管理や災害時の状況把握など迅速にデータ提供ができないことが課題となることが想定されました。
 
そこで、3次元データの収集・利活用の推進を図るため、インターネット経由でクラウド上に3次元データを登録・公開する「静岡県3次元データ保管管理システム(Shizuoka PointCloud DB)」(以下、「PCDB」という)を構築し、平成29年3月に試行運用を開始しました(図-2)。
 
①PCDBにアクセスし、「閲覧・DL」を選択  ②DLする箇所のピンを選択      ③データを選択しDL

図-2 静岡県3次元データ保管管理システム(PCDB)の利用イメージ


 

このシステムを用いてICT活用工事を実施する場合には、工事完成時の3次元計測のデータのオンライン納品を行う運用としています。また、全国に先駆けて3次元点群データのオープンデータサイトとして公開し、登録データは、クリエイティブ・コモンズ表示4.0国際パブリックライセンス(CCBY4.0)により誰でも二次利用することが可能です。
 
これまでにICT活用工事完成時の計測データに加えて、県及び管内市町の各種業務で取得したデータが収集され、平成30年度末時点で道路延長1,000km以上、航空測量面積20㎢以上のデータを公開しています。
 
PCDBの運用開始から多くの反響をいただいていますが、プロトタイプとして構築したシステムであり、データ提供の機能は、分割した3次元点群データファイルをダウンロードすることしかできないため、データをブラウザ上で閲覧できないことや属性情報を提供できないなど、改善の要望もいただいています。
 
 
 

しずおか自動運転ShowCASEプロジェクト

路線バス利用者の減少傾向が続く中、県内のバス事業者においては、運転手の約5割が50歳以上であり、人件費などの費用の増大、運転手不足が深刻な状況です。また、バス路線の約4割が行政の財政負担により運行しており、県内の公共交通の維持、地域の生活交通手段の確保が喫緊の課題となっています。
 
現在、全国各地で自動運転の実証実験が行われており、自動運転はその課題を解決する有効な手段として期待されます。
 
自動運転では、ダイナミックマップが重要とされる技術と言われており、国内主要自動車メーカーや地図会社などが出資して設立したダイナミックマップ基盤株式会社が、その基盤として、全国自動車専用道路における自動走行向け高精度3次元地図データの生成・提供を行っています。そこで、本県は、県内の地域交通の課題対応を目的として、平成29年11月にダイナミックマップ基盤株式会社と、3次元データの相互利用を前提とした「自動走行システムの実現に向けた連携・協力に関する協定」を締結しました。
 
この協定に基づき、県が保有する3次元点群データの高精度3 次元地図データへの活用と県内企業の技術開発を支援するため、自動運転の実証実験を進めていくこととしました(図-3)。
 
平成30年度には、袋井市が実施しているエコパドリームプロジェクトと連携し、袋井市の県営小笠山総合運動公園内及び公園周辺道路において、行政が保有する3次元点群データを自動運転に活用した全国初の実証実験を実施しました。
 
今年度は引き続き、県営小笠山総合運動公園において実証実験を行うほか、地域性の異なる都市部(沼津港)、過疎地(松崎町)及び郊外部(下田市)において、交通事業者や地元自治体研究開発企業と連携し、高精度3次元地図を用いた走行技術の検証と次世代モビリティサービスの導入検討を行っています。
 

図-3 プロジェクトの実施スキーム




 

スマートガーデンカントリー“ふじのくに”の形成に向けて

本県においても、他の地方と同様に人口減少や少子高齢化が進み、担い手不足など社会的課題が顕在化しています。これらを解決するためには、近年目覚ましく進展しているAIやロボットなどの先端技術を積極的に導入することが必要となります。
 
そこで、これまでの3次元点群データの収集・利活用の取り組みをさらに拡大し、今年度から県土の面的なデータを取得し、災害復旧や観光などのあらゆる分野への活用を図る「スマートガーデンカントリー“ふじのくに”モデル事業」を開始しました。
 
「スマートガーデンカントリー“ふじのくに”」とは、人口減少などの社会的課題に対して、美しい景観などの本県の「場の力」を活かしながら、先端技術をあらゆる分野に活用することで、誰もが安全・安心で利便性が高く快適に暮らせるスマートな社会の形成を目指すものです。
 
モデル事業のエリアは、災害時における孤立地域の早期解消に向けた施設管理や災害復旧工事への活用に加え、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催に向けた自転車の聖地づくり、ジオパークなどの観光振興、高齢化率が高い地域の移動手段の確保など、地域の魅力発信や課題対応への活用が期待できる東部・伊豆地域を選定しました。
 
事業の推進に当たっては、庁内に関係部局で構成するWGを設置し、全庁を挙げて多種多様なデータの利活用(図-4)に取り組んでいきます。
 

図-4 3次元点群データの利活用イメージ



モデル事業では、エリア全域でベースとなる面的な3次元点群データを航空レーザ測量により全域のデータを取得する予定です。
 
次に、利活用の取り組みへの環境整備として、静岡県GISの機能改良の実施を予定しています。まずは、PCDBのブラウザ上でデータ閲覧ができないことへの課題対応として、3次元点群データの表示機能を開発することとし、これまでに試行版を一般公開しました(図-5)。また、庁内利用においては、これまでも各種台帳との連携を行ってきましたが、この機能強化についても検討していくこととしています。
 

図-5 静岡県GISの点群表示



具体的な利活用の取り組みのひとつとして、施設管理の効率化・高度化を図るためには、3次元点群データの特性を活かした手法が有効であると考えられます。そこで、点群データを活用した施設の維持管理について、今年度より大阪経済大学 中村健二教授、法政大学 今井龍一准教授、摂南大学 塚田義典講師、関西大学 田中成典教授、株式会社日本インシーク、日本工営株式会社と共同研究を開始しました。
 
大阪経済大学の中村教授らは、道路分野における3次元点群データの属性管理仕様の研究において、これまでに県が取得したデータを利用して、道路法面の点群データの差分抽出による変状検出の検証を行っており(図-6)、共同研究では点群データの利活用環境を現場に試行導入し、その適用効果の検証を行っています。
 

図-6 道路法面の変状検出




 

おわりに

3次元点群データの収集・利活用は、本県の取り組みのほか、さまざまな検討が行われているところですが、現在発展途上であり、標準化に向けては、多くの方々のお力添えが必要であると考えています。このため、これまでに取り組みを実施している産学官の連携に加えて、今後も多業種の民間企業の参画を促進するとともに、国土交通省や国土地理院などのご指導、ご支援をいただきながら、積極的に取り組みの拡大を図ってまいります。
 
・静岡県3 次元データ保管管理システム
 https://pointcloud.pref.shizuoka.jp/
 
・静岡県GIS
 https://www.gis.pref.shizuoka.jp/
 
 
 

静岡県 交通基盤部 建設支援局 建設技術企画課

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 



東北地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みについての紹介

2020年6月26日

 

東北地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みについて

図-1 令和元年度 東北地方整備局におけるBIM/CIM活用の方針



東北地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みは、全国と歩調を合わせ平成24年度から開始し、平成28年度末の「CIM導入ガイドライン」策定を契機に新基準に従った取り組みを積極的に進め、平成30年度は設計業務、工事合わせて39件で活用を行ったところである。
 
東北地方は、他地域に比べて少子高齢化の進行が速く、生産年齢人口が今後一層早い速度で減少していく状況にあり、建設分野における生産性向上は待ったなしの状況にある。また東日本大震災からの復旧・復興現場では、橋梁やトンネルといった多くの構造物の整備が急ピッチで進められており、ほぼ同時期に完成を迎えることとなる。これらの構造物は将来、一斉に老朽化し、補修が必要となってくる可能性が高く、こうした中で構造物の長期的な維持管理の効率化や、メンテナンス費用の抑制・平準化などの課題を解決する”切り札”の一つとしてBIM/CIMに期待する機運が高い。
 
東北地方整備局では、全国の動向も踏まえながら、毎年独自のBIM/CIM活用方針を打ち出し、その普及に努めている。
 
東北地方整備局の大まかな方針としては、大規模な構造物の詳細設計業務、工事、それに設計業務段階でBIM/CIMを実施した工事では「発注者指定型」の取り組みを原則とし、それ以外の構造物の設計業務、工事では「施工者希望型」にて行う方針としている。
 
平成30年度に実施した、39件のBIM/CIMの設計業務や工事の別、また構造物別の内訳は以下の通りである(図-2)。
 

図-2 平成30年度 東北地方整備局BIM/CIM実施状況


 
また昨年度末に全国一斉に設定された「i-Constructionモデル事務所(3次元情報活用事業)」「i-Constructionサポート事務所」であるが、東北地方整備局では以下の通り設定した(図-3)。
 

図-3 i-Constructionの貫徹に向けたモデル事務所の決定(東北地整)




 

鳴瀬川総合開発事業におけるBIM/CIM活用方針(案)

東北地方整備局が「i-Constructionモデル事務所(3次元情報活用事業)」に設定した「鳴瀬川総合開発事業」は、鳴瀬川流域の治水安全度向上、流水の正常な機能の維持、かんがい用水の補給、発電を目的とする多目的ダム建設事業であり、一級河川鳴瀬川の支川筒砂子川に筒砂子ダム(台形CSGダム)を新たに建設し、併せて、鳴瀬川本川の既設漆沢ダム(S56.3 竣工・中央コア型ロックフィルダム・現宮城県管理)を再開発により治水専用化するものである。
 
現在、環境影響評価法に係る手続き、ダム建設に関する基本計画の検討、ダム本体および関連施設等の設計などを行っている段階である(図-4、5)。鳴瀬川総合開発事業におけるBIM/CIMの大まかな活用方針(案)は以下の通りである。


  • 図-4 鳴瀬川総合開発事業の概要


  • 図-5 鳴瀬川総合開発事業 事業工程



1)図- 6、7に示す「統合モデル(筒砂子ダム、漆沢ダム)」を整備し、事業実施中は「事業監理CIM」と位置付け、事業進捗状況の可視化と情報共有を図る。(※モデルは事業の進捗に合わせて、適宜、追加、変更等を重ねていく)


  • 図-6 統合CIMモデルの作成


  • 図-7 統合CIMモデルの作成(2)



2)工事完成後、試験湛水の開始以降は、その位置付けを「ダム管理CIM」へと変更し、効率的な維持管理を目指す。
 
 
「事業監理CIM」および「ダム管理CIM」の各モデル(3次元モデルおよび属性情報等の関連するデータ)の作成、更新、活用等に当たって留意する視点は次の通りである。
 
1)CIMモデルは、それ以降の事業工程で利活用することを視野に入れて、効率的に更新が可能であること。
 
2)CIMモデルが、全体の事業工程を俯瞰し、適切な時期に適切な詳細度により必要な属性情報を付与して作成・更新され、目的に応じて有効に利活用されること。
 
3)各事業段階にわたって、統合CIMモデルに付与され更新・蓄積される大量で多岐に渡る情報を、適切に管理して関係者間で共有し円滑に活用すること(図-8)。

図-8 事業段階ごとの活用目的・内容



 
平成30年度に「事業監理CIM」「ダム管理CIM」のベースとなるCIMモデルを作成した。現時点では、詳細度100~300の概略的なモデルを用いて、事業全体の位置関係・構造物形状の把握を行う程度の活用に留まっているが、今後、事業の進捗に合わせ、詳細度を上げ必要な属性情報を付与して「事業監理CIM」として有効に活用していくこととしている(図-9)。

図-9 平成30(2018)年度作成のCIMモデル


鳴瀬川総合開発事業のBIM/CIMについては、今後の長い事業工程、施設の維持管理の中で、それぞれの段階で求められるさまざまな技術的なニーズに応え、事業に携わる受発注者の負担軽減に寄与し、事業の進捗、維持管理の生産性の向上に資するよう、今後とも追加、更新等を重ねながら活用していくことを考えている。
 
 

BIM/CIM活用上の課題

受発注者から聞こえてくる疑問や課題等には主に次のようなものがある。
 
①上流工程である設計段階等で作成した3次元モデルが、その後の下流工程となる建設生産プロセスの各段階で十分に活用できるのか。構造物完成後の維持管理の段階で十分に(機能をフルに)活用できるのか。現段階で実施している作業(モデルの作成や属性情報の付与等)が無駄にならないのか疑問や不安がある。
 
②定期的に人事異動が生じる職場環境につき、作成したCIMモデルを確実に引き継いでいくための仕組みづくりが必要。また、BIM/CIMを初めて担当する職員であってもスムーズに更新・活用が可能となるよう、職員全体の習熟度を向上させる必要がある。


 

BIM/CIM活用の今後について

「生産性革命のエンジン」と称されるBIM/CIMの活用は、i-Construction推進の眼目であり、BIM/CIMの契約図書化等の試行が始まろうという現段階では、早々に受発注者ともその取扱いを経験し、習熟していく必要があると考える。
 
このBIM/CIMが早く受発注者間に浸透し、普段使いのツールとして、ストレスなく、当たり前に活用され、建設生産プロセスの各段階における生産性の向上に大いに寄与してくれることを強く願っている。
 
 
 

国土交通省 東北地方整備局 技術管理課

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 



国土交通省におけるBIM/CIMの普及・促進の取り組み

2020年6月4日

 

はじめに

BIM/CIMの導入には、設計品質の確保や効率的な施工計画に基づく人材・資材の最適配置、最新技術の導入による監督・検査の効率化等が期待されています。また、建設全体を見通した施工計画、管理などコンカレントエンジニアリング、フロントローディングの考え方を実践していくことが可能となり、一連の建設生産・管理システムの品質確保並びに生産性の向上が可能となります。
 
このため国土交通省では、BIM/CIMの普及・定着、効果の把握やルール作りに向けて、2012年度より試行を進めてまいりました。
 
本稿では、BIM/CIMに関する基準・要領等の整備状況と、適用拡大に向けた今後の取り組みについて紹介します。
 
 

BIM/CIMの実施状況

国土交通省では、業務については2012年度から、工事については2013年度からBIM/CIMの試行を進めており、これまで、設計業務で291件、工事で339件の合計630件で実施しています(表-1)。
 
特に2018年度は、大規模構造物詳細設計においてBIM/CIMを原則適用することとし、200件を目標にBIM/CIMの積極的な活用を推進した結果、設計業務で147件、工事で65件の合計212件でBIM/CIMの活用がなされています。
 

表-1 BIM/CIM活用業務・工事の実施状況等



 

基準要領等の整備

国土交通省では、BIM/CIMの効率的かつ効果的な活用に向け、基準・要領等の整備を進めています(表-2)。
 

表-2 国土交通省におけるBIM/CIMに関する基準/要領等の整備状況



(1)CIM導入ガイドライン(案)
国土交通省では、これまでのBIM/CIM活用モデル事業で得られた知見やソフトウェアの機能水準を踏まえ、公共事業に携わる関係者(発注者、受注者等)がBIM/CIMを円滑に導入できることを目的に、現時点でBIM/CIMの活用が可能な項目を中心に、受発注者の役割、基本的な作業手順や留意点とともに、BIM/CIMモデルの作成指針(目安)、活用方法(事例)を参考として記載した「CIM導入ガイドライン(案)」を作成しています。
 
ガイドラインは、共通編と構造物ごとの各分野編で構成しており、各編を組み合わせて使用することを想定しています。2019年度版には、新たに、下水道編、地すべり編を追加し、BIM/CIMの適用範囲の拡大を図っているところです。
 
一方で、現行のガイドラインは内容が重複している部分があるなど課題もあることから、2019年度は共通編を全面的に見直しすとともに、発注者がBIM/CIMを活用する観点から実施すべき事項を別途マニュアルとして整理するなど、より分かりやすいガイドラインとなるよう改定し、BIM/CIMの効果的な活用が図られるよう検討を進めています。
 
 
(2)3次元モデル表記標準(案)
建設生産・管理システムで一貫したCIMモデルを流通・利活用し、各プロセスで発生した情報を連携していくことで、より一層の生産性向上が見込まれます。このため、契約図書におけるCIMモデルを契約図書に位置付けることを企図した「3次元モデル表記標準(案)」を整備しています。
 
設計図書として活用するBIM/CIMモデルの寸法や注記および管理情報の表記・表示の方法を定めたものであり、2次元図面からBIM/CIMモデルへの円滑な移行を補助するため、3Dモデルから切り出した2次元図面に従来のCAD製図を踏襲した方法で詳細な寸法・注記を加える方法も記載しています。
 
従来の2次元図面によらない、契約図書としてBIM/CIMモデルを活用する際の規定であることから、一般的なBIM/CIM活用業務では作成する必要はありませんが、本標準をBIM/CIM活用事業に適用し、実践して得られた課題に対応するとともに、関連する基準類の整備と連携しながら、本標準を継続的に改善・拡充していくこととしています。
 
BIM/CIMモデルでは構造物の寸法や注記をモデル内から取得可能であることから、改善・拡充に当たっては従来の2次元での製図法にとらわれない、より効率的な表記・表示の方法を検討し、建設生産・管理システムの効率化に向けて制を進めています。
 
 
(3) 土木工事数量算出要領(案)
国土交通省では、CADソフト等による体積の算出結果等の自動算出された数量をそのまま積算に活用できるよう「土木工事数量算出要領」に反映しています。
 
2018年度末の改定で、土木工事数量算出要領の全ての工種において3次元モデルから自動算出される数量を活用することが可能となりましたが、一部不明確な部分があったことから、2019年度は内容の精査を実施するとともに、モデル作成に当たっての留意事項や具体的な算出手順を整理し、効率的な積算が可能となるよう手引きを整備する予定です。
 
 
(4)BIM/CIM成果品の検査要領(案)
建設生産・管理システム全体を通じてBIM/CIMを活用していくためには、成果品として引き継ぐBIM/CIMモデルが適切に作成されていることが必要です。
 
そこで、まずは橋梁分野の詳細設計を対象に発注者による検査に必要な事項を整理し、受注者が実施すべき照査に必要な事項を「BIM/CIM設計照査シート」として取りまとめ、BIM/CIMモデルの品質確保を図ることとしました(図-1)。
 
2019年度は、対象工種を拡大し適切な照査・検査が実施できる環境を整備するとともに、ソフトウェアを活用した自動チェック機能などの拡充により、効率的な照査が可能となるよう、さらなる検討を進めているところです。
 
また、実務において想定される課題に対応するため、BIM/CIMを活用した設計照査の実施手順などを取りまとめた手引きを整備する予定です。
 

図-1 BIM・CIM設計照査シートの適用範囲



(5)BIM/CIM活用における「段階モデル確認書」作成マニュアル【試行版】(案)
BIM/CIMを活用したフロントローディングを実現するためには、手戻りを防止するため、事業の各段階で発注者が確認する時期と求めるBIM/CIMモデルの達成度を明確にすることが重要であることから、「段階モデル確認書」を作成するための「BIM/CIM活用における「段階モデル確認書」作成マニュアル【試行版】(案)」を整備しています。
 
段階モデル確認書は、業務・工事を実施する際の一連のプロセスにおいて、データ連携のプロセス(データ連携の場面)と確認すべき情報やその要件を示したものであり、「プロセスマップ」および「情報確認要件」で構成されるものです。
 
入札公告時にあらかじめ段階モデル確認書を提示し、業務・工事の開始時に受発注者で共有・確認することにより、CIMモデルの活用目的を明確化し、受発注者双方の作業負担を軽減することが期待されます(図-2)。
 

図-2 段階モデル確認書の活用イメージ



(6) 要求事項(リクワイヤメント)
国土交通省では、2018年度から発注者が受注者にBIM/CIMモデルの導入・活用に関する要求事項(リクワイヤメント)を設定し、事業を実施しています。
 
この要求事項に基づき、受発注者がそれぞれ知見やノウハウを出し合い、課題の抽出および解決策を検討することで更なるBIM/CIMの効果的な活用に向けた環境整備を進めているところです。
 
2019 年度は、これら要求事項について必須項目と選択項目に分けて見直すとともに、選択項目の実施にあっては課題抽出および解決策の検討が主たる目的であることを明確化しました。
 
2019年度に設定した要求事項は表-3の通りです。基準・要領等を定めたことにより実施が可能となったBIM/CIM活用項目を選択項目として設定し、BIM/CIM活用業務・工事で試行および検証を実施することで今後の基準・要領等の改定に向けた課題解決に活用を図る予定です。
 
今後、BIM/CIMの活用項目について必須項目を充実させることで、後工程で活用可能なBIM/CIMモデルの標準化が図られることから、引き続き、選択項目として実施する要求事項の課題解決を図り、必須項目の拡充に向けて検討を進めてまいります。
 

表-3 2019年度のリクワイヤメント一覧



BIM/CIMを取り巻く環境の整備

BIM/CIMをより効率的、効果的に活用していくためには、基準・要領等の整備を進めるだけでなく、それらを活用する環境についても整備していく必要があります。国土交通省では、BIM/CIM活用のための基準要領等だけでなく、データ交換等の環境整備も推進しています。
 
 
(1)BIM/CIMポータルサイト
BIM/CIMを効率的に活用するためには、必要な情報へのアクセシビリティを高める必要があります。特に、BIM/CIMに関連する基準・要領等について作成者ごとに公開されており、「何が、どこにあるのか」を整理し、共有することが急務となっています。
 
そこで、まずは国土交通省が公開しているBIM/CIMに関連する情報を取りまとめ、BIM/CIMポータルサイト【試行版】として公開しました(図-3)。
 
今後、関連する団体の情報等について充実させ、BIM/CIMに関する情報へのアクセシビリティを確保できる環境整備を進めてまいります。
 

図-3 BIM/CIMポータルサイト【試行版】
URL:http://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/bimcimindex.html



(2)ソフトウェア確認要件
BIM/CIMモデルを建設生産・管理システムで一貫して活用していくためには、異なるソフトウェア間でも支障なく情報交換が可能となるよう互換性を確保することが重要です。特に、BIM/CIMの共通フォーマットであるIFC形式およびJ-LandXML形式について、個々のBIM/CIMソフトウェアで問題なく作成・表示が可能であるかについてあらかじめ確認できることは、BIM/CIMを継続的に活用するうえで非常に重要となっています。
 
そこで、国土交通省では、前述の基準要領等において国内で独自に定めた要件を含め、国土交通省としてBIM/CIMソフトウェアに求める機能を機能要件として公開することしました。
 
ソフトウェア検定は、building-SMART JAPANやOCF等の民間団体において実施されていますが、2019年度以後これらの機能要件を満足しているかについて検定を実施され、国内のBIM/CIM基準等に合致するソフトウェアが活用されるよう環境整備を進めてまいります(図-4)。
 

図-4 ソフトウェア検定のイメージ



(3)情報共有システム機能要件
BIM/CIMをより効率的に活用するためには、同一のデータに関係者が同時にアクセス可能となる環境が必要です。このため、国土交通省では情報共有システムを活用することで3次元データを確認できるよう機能要件を見直し、2018年度に「工事施工中における受発注者間の情報共有システム機能要件Rev5.0」として改定するとともに、業務における機能要件を整備しています。
 
2019年版では、3次元モデルの表示等の一部機能について必須機能から外すとともに、外部システムを活用することが可能となるよう解説編を新たに公開しています。また、機能要件の整備とあわせ、ISO19650に準じた共有データ環境(CDE)に対応するよう「土木工事の情報共有システム活用ガイドライン」も改定しています。
 
今後、これら機能を満足する情報共有システムを活用することで、BIM/CIMの効率的な活用が可能となることが期待されます。
 
 
(4)「オンライン電子納品」の実装
BIM/CIMに限った課題ではありませんが、複雑化・大容量化する電子成果品の納品に当たり、現行の電子納品要領ではCD等の電子媒体に格納することを必須としています。しかしながら、複数枚の電子媒体に分割して提出する場合など、電子成果品の作成には少なからず受注者の負担となっている部分があるとともに、成果品が正しく格納されていないなどのミスが発生する要因ともなっていました。
 
そこで、国土交通省では情報共有システムを活用したオンライン電子納品について検討し、2020年度中の運用開始に向けて、シームレスな情報の共有・交換が可能となるよう環境整備を進めています(図-5)。
 

図-5 オンライン電子納品のイメージ



今後の取り組みについて

国土交通省では、i-Constructionの普及拡大により、2025年までに建設現場の生産性2割向上を目指しています。特に、BIM/CIMを生産性革命のエンジンと位置付け、2017年に「3次元データ利活用方針」を策定し、建設生産・管理システム全体における3次元データの利活用に向けた取り組みを進めてきました。
 
今後、さらなるi-Constructionの普及拡大を図るためには、3次元データの原則活用が可能となる環境を整備していく必要があることから、2019年度中に3次元データの利活用に関する新たなロードマップを作成することとしました。
 
新たなロードマップについては、これまでの「いつまでに何をするのか」という表現から、「いつ何が可能となるとなるのか(どのような効果が期待されるのか)」という表現に改め、国土交通省の役割だけでなく、業界団体の果たすべき役割についても記載し、誰が何をすべきなのかを明確にしたいと考えています。
 
 
(1)規格・技術の一元化
BIM/CIMの共通フォーマットであるIFCの規格化については、ソフトウェア確認要件として公開したところですが、作成するBIM/CIMモデルの標準化については作成者の判断に委ねられている部分が多いのが実情です。また、関連する基準要領等やガイドライン等についても整理されておらず、全体像を把握することが困難となっています。
 
今後、BIM/CIMをより効果的に活用していくためには、国際規格であるISOを導入するだけでなく、BIM/CIMに関する国内における規格・技術の一元化を目指すことが必要です。
 
そこで、2019年度は、まずは国内におけるBIM/CIM関連の用語を整理し国内の共通認識を深めるとともに、BIM/CIMに関連する基準・要領・ガイドライン等の文書について、誰でも容易にアクセスが可能となるよう、ポータルサイトの拡充を図る予定です。
 
 
(2)BIM/CIM適用事業の拡大
国土交通省では、2018 年度から大規模構造物詳細設計において原則適用を打ち出すとともに、目標を200件と定めてBIM/CIMの適用拡大を図っています。2019 年度は、詳細設計のBIM/CIM成果品がある工事についても原則適用するとともに、概略・予備設計においてもBIM/CIMの導入を積極的に推進することで、年間400件のBIM/CIM事業の実施を目指します。
 
今後、全事業でBIM/CIMの原則適用を目指すためには、CIM導入ガイドラインの各編を拡充するだけでなく、これまで対象としてこなかった工種(地下埋設物等)についても対応が可能となるよう、ガイドライン等のさらなる拡充について検討を進めます。
 
 
(3)BIM/CIMの高度利活用の推進
BIM/CIMを活用することで、建設生産・管理システムにおける情報の集約化・可視化が可能となります。また、クラウドコンピューティング等の新技術を導入することにより、業務等の効率化・高度化につながります。さらに、これらのデータは建設生産・管理システムの外でも活用されることが期待されています。
 
2019 年度は、i-Constructionモデル事務所において後工程で利用することを前提としたBIM/CIMモデルの構築について検討するとともに、BIM/CIM技術者による発注者支援についても検討し、さらなる高度利活用に向けた検討を進めてまいります。
 
 
(4)BIM/CIMの普及促進
BIM/CIMを建設産業全体で活用していくためには、大企業における先導的な取り組みを進めるだけでなく、中小企業を含めた全建設産業で3次元データを活用できる環境整備が必要です。
 
国土交通省では、2018年度から発注者に対するBIM/CIM研修を開始しましたが、BIM/CIMのさらなる普及・啓蒙が図られるよう、体制構築を進めてまいります。
 
また、モデル作成にかかる作業負担を軽減するため、数字を入力することで必要最低限のオブジェクトを作成可能なパラメトリックモデルの作成ルールや、プレキャスト製品等の汎用品ついてはメーカーに依存しないジェネリックオブジェクトの供給方法等についても検討してまいります。

表-4 BIM/CIMロードマップ案



おわりに

建設現場の生産性向上を図るためには、3次元データ等の導入を国の直轄工事以外にも拡大していくことが必要です。このため、 i-Constructionサポート事務所を各都道府県に1事務所以上決定し、地方公共団体や地域企業における取組をサポートするための相談窓口を設置しました。
 
また、発注関係者の集まる発注者協議会や土木部長会議等の場において、国土交通省における取り組みについて周知を図りつつ、発注者間で連携して取組みを進めてまいりたいと考えています。
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐 那須 大輔

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 



施工BIMによる業務効率化から働き方改革へ向けた取り組み -Informationの活用-

2019年7月26日

 

施工BIMの目的

当社でのBIM活用の主な目的は、業務効率化・生産性の向上である。2017 年よりICT技術を活用した現場支援プロジェクトを立ち上げ、全社一丸となって働き方改革に向けた取り組みを進めている。BIMは「形状」と「情報」の2つの側面を持っていることから、それらを活用するICT技術との親和性が非常に高いと感じている。施工フェーズでBIMを活用することで、ICT化の促進につながっている。
 
施工BIMの中でも、仮設計画においてBIMを実施することの目的は、大きく3つ、Visualization(視覚化)、Simulation(模擬)、Information(情報)だと考える。仮設計画は、どのように建物を作るかというプロセスを表現するものであるため、計画の手順を3次元化するだけで、Visualization(視覚化)、Simulation(模擬)の目的は達成される。しかし作成に手間がかかるわりには、イメージの共有程度の活用にとどまってしまい、効率的とは言えない。BIMモデルのInformation(情報)を有効活用することが、施工BIMを効率的かつ効果的に運用するためのキーワードである。
BIMによる鉄骨建方計画



 

Information=パラメトリック

構造モデルは、幅・高さ・長さなどの形状情報と、材質などの情報をパラメーター化し部材を構成しており、その情報をタグで出力、数値を集計することで、図面化を効率的に行うことができている。設計変更があった場合は、おのおののパラメーターを変更するだけで、部材形状が追随して変形するなど修正対応が容易である。パラメトリックにモデルが変形可能であることは、業務改善にダイレクトにつながってくる。従って、施工BIMでもパラメトリックなモデリングを行うことが重要な目的となる。つまりInformationを有効活用することが、業務効率化への必要条件となる。
 
 

仮設計画BIMの環境整備とワークフロー

BIMで仮設計画を取り入れる際に、BIMを追加業務にするのではなく、これまで行っていた業務をBIMで置き換え、さらに効率よく行えることが重要だ。そのためには、業務フローとそれに即した仮設コンポーネントの整備が必要である。
 
(1)鉄骨建方計画
鉄骨建方計画は手順を検討するものであるので、BIMとの相性が非常に良い。シミュレーションのプロセスがそのまま図面となると言ってもよい。そのためには操作性が高いクレーンコンポーネントが必須となる。




クレーンコンポーネントは、旋回やブームの上げ下げによる建物等との干渉をシミュレーションできるように、BIMモデル上のマウス操作でフックの先端を動かせるようにしている。さらにブームの長さ・角度・作業半径などの条件取得により「定格荷重」を決定し、自動的に算出できる機能を付加している。



鉄骨建方計画に使用する鉄骨モデルは、鉄骨ファブが作成したモデルをIFC形式で取り込んだものでは不十分である。鉄骨建方計画において重要な情報である「ピース重量」が引き継がれないからだ。鉄骨専用BIMソフト(すけるTON、FAST Hybrid)とRevitがダイレクト連携することで、ピース重量の情報を持った鉄骨BIMモデルを取得できるようになった。このモデルとクレーンに時間軸(フェーズ)情報を加えることで鉄骨建方ステップ図が作成でき、かつ高精度な鉄骨建方計画が可能となった。
 
 
(2)山留計画
山留計画における業務フローは、敷地条件・地盤レベル・基礎床付けレベルなどから山留めの必要可否を検討し、山留めを配置、数量を積算し見積りを行うという流れであった。ファミリー内に山留めで使用する数値を全てパラメーターとして入力することで、モデリングを行うだけで、集計・概算金額算出まで行えるようにした。モデリングについても、山留めを配置する範囲に線を引くだけで、自動割り付けするようになっている。基礎形状は計画時に変更が多く、複数のパターンを短時間で検討する必要があるため、変更追従性が高く、数量をリアルタイムに把握しながら計画できることは、BIM活用における最大のメリットである。

山留計画の業務フロー




(3)外部足場組立図
外部足場の計画においては、まず平面的な足場の割り付けを行うが、建物形状によりさまざまな調整を行っている。そこで、足場の設置範囲に線を引くだけで足場の割り付けを自動的に行うツールを開発した。入隅・出隅部などの詳細な調整は、全てパラメーターに置き換えパラメトリックに変更できる。これにより平面割付作業時間を5割削減した。この割り付けに合わせ、コンポーネントを配置するのだが、足場材は同じ部材を繰り返し配置するため、カーテンシステムとの相性が良い。縦・横のグリッドを移動することで、足場の割り付けが変わり、パネルのW×Hや配置条件によって内蔵された部材が切り替わるようにパラメーターを組み込んでいる。部材には品番や重量が組み込まれているので、足場の集計まで可能となっている。労働基準監督署に提出する88申請図は、テンプレートを割り当てて、注釈を入れるだけで簡単に作成可能となっている。



 

BIMモデルを測量に活用

ある物流施設では、着工時から施工BIMモデルを一貫して活用した。外部足場計画、工程検討、基礎コンクリート躯体図・配筋納まり図、鉄骨建方計画図、平面詳細図と、各施工フェーズに合わせ徐々にBIMモデルを詳細化し、施工レベルまで精度を上げた。BI Mの「情報」と「形状」という側面からも、施工図にするためには、正確な「形状入力」が必須となる。



施工図レベルに押し上げたBIMモデルを、Autodesk社の墨出しシステム「Point Layout(ポイントレイアウト)」により、現場での墨出し測量に活用した。BIMモデル上に測量点を配置し、クラウドサービスと連携させて測量機に転送する。タブレット上でポイントを指定すると、位置をナビゲーションしてくれるシステムだ。これまで3人で行っていた傾斜路の墨出し作業が、BIM 360 Layout導入後は1人で可能となった。BIMモデルおよびICT技術と連携させることで、現場の生産性向上を実現した。



 

BIMモデルから配筋チェックシートを作成

建物を建築する際、設計図どおりに鉄筋が配置されているかを確認するために「配筋チェックシート」を作成している。これまでは設計図から配筋情報を転記してチェックシートを作成し、検査前にチェックシートに間違いがないか再確認する必要があり、現場技術者に多大な負担をかけていた。そこで、構造BIMモデルの配筋情報から、図面上でワンクリックするだけで、配筋チェックシートを自動的に作成するプログラムを開発した。これにより、従来と比較して約90%の作業時間削減を実現した。
 
本プログラムには断面リスト自動作成機能も有している。従来のものは、BIMモデル→断面リストの一方向のみの連携であったが、断面リストを更新すればBIMモデルの配筋情報が更新される双方向連携が可能となっている。修正による作業時間を従来と比較し約20%短縮できることに加え、BIMモデル内に鉄筋情報が正確に保持されるため高品質な設計が可能となった。この機能により、構造BIMモデルを配筋チェックシートへ活用するための、モデルにおける「配筋情報の正確性」が担保されている。



 

まとめ

これまでのBIMは、使っている人が最も効果を得られるエンジニアリングツールであった。当社も、使うプロセスに合わせてツールを整備することで、確実に生産性を向上させてきている。しかし、これからは現場全体の業務効率化を目指す活動をさらに進めなければならない。BIMの情報を現場に持ち出してさまざまなフェーズに活用していくことが、キーワードとなる。それらを加速するためには、BIM技術者がその重要性を認識し、情報活用の業務フローを新たに見出していかなければならない。BIM情報をツールとして扱えるように意識を改革することこそ、働き方改革であり、われわれの役目となる。誰もがBIMデータを有効に活用することができるようになれば、必然的に働き方改革は進んでいく。
 
 
 

矢作建設工業株式会社 建築事業本部 施工本部 施工部 工務グループ
グループマネージャー 伊藤 篤之/ BIM推進担当 太江 慎吾

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



 


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