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施工BIMの今 -竹中工務店における鉄筋工事の専門工事会社BIM連携事例-

2019年5月10日

 

はじめに~施工BIM以前

竹中工務店としては、BIMをベースとした業務のデジタル化・高度化を進めており、設計施工の強みを生かし、業務プロセスを通じた生産性の向上を図っている。その中で、施工BIMにおいて生産性を向上させるためには、専門工事会社とのBIM連携が不可欠である。例えば鉄骨工事や設備工事などではBIMに取り組む環境が整備されつつあるため事例が増えつつある。一方、鉄筋工事もBIM連携のニーズが多い工種だが、鉄筋の加工に直結するような機能を有した市販BIMツールがないなど課題も多く、事例が少なかった。そこで本稿では鉄筋工事に着目し、自社開発によってツール上の課題解決を図るとともに、実プロジェクトにおいて専門工事会社とのBIM連携を試行したので紹介する。
 
 

鉄筋工事における専門工事会社とのBIM連携方法

従来鉄筋工事において施工者は躯体図の発行までが仕事であり、その後職長が構造図と躯体図を読み込み、配筋の納まり検討を実施している。そこから加工図・加工帳を作成し、鉄筋加工工場にて加工帳を基にして加工を実施している。
 
鉄筋加工工場では工場担当者が手作業で加工帳から専用ソフトへ数値を転記することが一般的であり、入力手間やヒューマンエラーの可能性がある。また一部の鉄筋加工機では曲げ角度や切寸法を表すQRコードを読み取ることで加工の自動化が可能な機種がある。そのQRコードは絵符を作成する専用ソフトから発行されており、生産性向上が図れている。そこで本稿では、自社開発によって鉄筋のBIMモデルからQRコードを直接発行するシステムを開発することで、配筋検討から鉄筋加工までの一貫したデータ連携を図った。
 
自社開発ソフトRCSは構造計算時に作成されたデータST-Bridgeを活用し、当社の配筋標準に適合した3Dモデルを自動作成、鉄筋加工図・カットリストの作成までを行うプログラムとなっている(図-1)。RCSは構造データと連動していることで、間違いのない鉄筋本数と鉄筋間隔によって配筋納まり検討が可能である。また納まり検討実施したモデルにて加工図を出力することが可能である。
 

図-1




 
しかしながら以前まではRCSから出力された加工帳から手作業で加工用に数値を転記しており、データが鉄筋加工まで連動していなかった。そこで主要鉄筋加工機メーカーが対応している仕様のQRコードを直接RCSから出力することを今回開発した。
 
使用者は当社の生産設計部署および作業所だけでなく、鉄筋工事協力会社の職長へも広めるため、操作教育・展開を現在進めている。両者が使用することで、構造計算時から鉄筋加工までBIM連携で一貫した業務の実現を目指している。
 
 

実プロジェクトへの適用事例

先述した開発を以下の実プロジェクトにより適用した(図-2)。
 

図-2




 
建築地:埼玉県草加市
建築用途:独身寮、事務所
建物規模:RC造、地上3階
工期:2018年3月~2019年3月今回の開発は約2 年前からQRコード出力の開発を実施しており実プロジェクトでの適用を実現させた。範囲としては基礎工事(基礎梁4本)部分を対象範囲として以下の手順(図-3)にて試験的に実施した。
 

図-3




 
STEP1:構造データを読み込んだRCSにて鉄筋BIMモデルを生産設計部署にて作成した。
 
STEP2:鉄筋BIMモデルを用いて生産設計部署・作業所・専門工事会社の関係者にて配筋納まりを確認、合意をした。
 
STEP3:関係者にて合意したBIMモデルよりQRコード絵符付き鉄筋加工図を出力した。
 
STEP4:QRコード絵符を鉄筋加工機にて読み込み鉄筋加工を実施した。
 
以上のような流れは従来の鉄筋工事における流れと全く異なり、新たな生産体制を構築できたと考える。
 
今回当プロジェクトにてRCSから出力したQRコード付絵符にて鉄筋自動加工を実施した。その結果は通常の鉄筋工事加工と比較して約50%向上することができた。また今回の開発に携わった専門工事会社の意見では、職長、工場作業員の鉄筋加工図作成工数が今後RCSを活用していき習熟することで従来から約20%低減が見込めるとの見解を得られた。今回の開発効果を鉄筋工事全体で考えると約7.4%のコスト削減効果がある(図-4)。今後減少が予想される熟練技能労働者減少による生産力確保は建設業界の大きな課題の一つである。今回の開発はその問題の解決策の一つとして期待できると考える。
 

図-4




 

今後の展開と将来展望

本稿では鉄筋工事における自社開発BIMソフト活用におけるBIM連携を生かした事例を紹介した。しかし、今回は部位を限定した試行であり、広く展開するためにはツール・体制両面で課題がある。今後は、業界への働きかけと技術開発の2手段でさらなる生産性向上へ寄与したい。建築のリーディングカンパニーとして鉄筋業界へのBIM連携の働きかけを継続していく。技術的には、データ連携の汎用性向上とともに、加工材の出荷管理・生産計画等、工場側で効果の大きい業務とのデータ連携も図り、生産効率の向上を推進していく。
 
建設業におけるBIM連携はゼネコンだけでなく、関わる専門工事会社も含めてメリットを享受する必要がある。また、より多くの専門工事会社がBIMに取り組むことでよりメリットを享受しやすくなるので、今回の鉄筋工事だけでなく、他の工種にも広めていきたい。ゼネコン側も建設業界として足並みを揃える必要があるので、他社とも協力して規格化・標準化を進めていきたい。
 
 
 

株式会社 竹中工務店 東京本店 調達部 く体グループ 中村 健二

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



BLC BIMオブジェクト標準の合意とBIMライブラリー構築に向けて

2019年3月7日

 

はじめに

BIMライブラリーコンソーシアム(代表:奥田修一 建築保全センター理事長)では、2018年10月にBLC BIMオブジェクト標準を76企業等で合意し、その後BIMライブラリー構築に向けて着実な活動を進めている。
 



図-1 BLC BIMオブジェクト標準合意の臨時総会と英国NBS会長の祝賀メッセージ




 

BLCのこれまでの取り組み

(1)BLC活動の概要
※設立時の詳細については、拙稿「建設ITガイド2016」を参照
 
①初年度(2015年10月~2016年3月)
・4月に建設業振興基金からStem等を承継
・各部会の役割の明確化、活動の論点整理
・英国NBS オブジェクト標準と関連基準類の学習
・今後の活動に関する調査実施
 
②2年度、3年度目(2016年4月~2018年3月)
・在り方部会:問題点の洗い出し、ビジネスモデルの検討、利用者負担等に関する検討
・建築部会:建築系BIMオブジェクト標準、建具(窓・ドア)、壁・床・天井、ユニット類(ユニットバス等)、搬送機器(ELV、ESC)のオブジェクトの検討
・設備部会:Stemを基に設備系BIMオブジェクト標準の検討、NBSBIMオブジェクト標準との比較・対応、CI-NETコードとUniclass2015、OmniClassとの比較等の検討
・運用部会:オブジェクト受け入れ時、運用時等のモニタリングの問題点の検討、また利用規約(案)、提供規約(案)、構築・運用規約(案)の検討・作成
・オーストラリア空調衛生工事業協会(AMCA)との会議(2016年6月)
・「オブジェクト標準の確立のための技術的な合意(2017年3月)」(その後一部修正)
 
③4年度(2018年4月~2018年10月)
・BLC標準の関係者での合意の手順の確立、BLC BIMオブジェクト標準・素案の提示と意見募集
・76企業等によるBLC BIMオブジェクト標準version1.0の合意
・建築研究所によるPRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)との研究連携
 
(2)BIMオブジェクトの標準化と集約化(ライブラリー化)のメリット
効率的に3次元で設計を行う手法としてBIMは一般的にメリットがある。特にオブジェクトの標準化と集約化には次のメリットがある。
 
・BIMを利用する際に繰り返し利用する部材・製品等を、あらかじめ作成してライブラリーとして共通に利用できる形式にしておくことは、作業の効率化につながる。
 
・オブジェクトに格納する情報の内容、配列が共通化・標準化していれば、建築物のライフサイクルにわたるプロセスで、技術計算、資産管理等の幅広い業務で効率化が図られ、また異なる組織間での情報伝達が円滑に進む。
 
・情報の内容、配列が共通化・標準化していれば、設計・生産の各業務におけるBIMを中核としたソフトウェア利用が進みICT活用の活性化が期待できる。
 
(3)オブジェクト標準の確立のための技術的な合意
建築部会、設備部会での検討を整合させて、BIMオブジェクトの標準化を図るために、2017年3月に両部会の主要メンバーによる合同会議を開催し、プロジェクトの段階、情報の内容等に関する合意事項を作成し、了解した。その後若干の修正はあるが、基本的にはこれに基づいている。合意事項は、
 
①オブジェクトには、メーカーに依存しないジェネリックオブジェクトとメーカーオブジェクトがある。
②形状、情報の詳細度は図-3に示すものを標準とする。
③情報は、必須項目、推奨項目、その他項目(メーカーのこだわり情報)に分類し、記載する(表-1)。
④海外対応は、英語表記、分類のOmniClass等との対応、用語定義の共通化(bSDD)等である。
 



図-2 プロジェクト段階とBIMオブジェクト標準(形状、情報の詳細度)




図-3 BLC標準の基本的なデータ構造




 

BLC標準

(1)目的 
この標準は、日本国内のプロジェクトで使用されているBIMオブジェクトのデータ構造を標準化して、プロジェクト、企業の枠組みを超えて活用できることを図ったものであり、BIM活用の効率化によってi-Constructionで提唱する建設生産性の向上に寄与するとともに、将来のデジタル・ガバメント(電子政府)、デジタル社会(Society5.0)の構築に貢献することを目的とする。
 
(2)適用範囲、形状情報の詳細度、データの基本的な構造
BLC BIMライブラリーで利用を予定する、建築物と敷地を含む付帯施設を構成する材料、機器、製品、什器等を対象とする。具体的な対象について下表に示す。
 






 
BLC BIMライブラリーに使用されるBIMオブジェクトに関するBLC標準のデータの基本的な構造を図-3に示す。なおデータ構造以外のNBS BIMオブジェクト標準に示される内容は、基本的には、NBSのBIMオブジェクト標準version2.0によるものとする。
 
なおBIMオブジェクトは、ジェネリックオブジェクト、メーカーオブジェクトがあり、さらに製品のタイプにより、製品等のコンポーネントタイプと建築の床・壁等のレイヤードタイプもある。
 
(3)BLC標準の特徴
BLC標準の特徴を次に示す。

 
a) 3D(BIM)だけでなく、2D CADへも対応できる
b) 属性によるオブジェクト検索が可能
c) データ構造が国際的な対応が可能
 
a)は、Stemの特性を承継したことにより、BIMだけでなく、2D CADへの対応も可能である理由を、図-4に示すが、形状と属性とはIDにより関係付けられているため、属性情報をオブジェクトに内蔵するオブジェクトはBIMだけで利用するが、形状と属性とが別々でIDによって結ばれたStemの延長のオブジェクトがあり、結果的に2D CADでも利用可能となる。
 

図-4 Stemでの形状と属性との関係




 
b)は、a)と同じ理由であるが、オブジェクト情報を外部にも置き、ジェネリックオブジェクトとメーカーオブジェクトが同じ情報構造を持つことで可能になっている。これはExcelでの検索と同じである。
 
c)は、当初から技術的には国内に合わせるが、オブジェクトは将来国際的にも適用できることを視野に開発を進めてきたところである。このためデータ構造は対応可能であるが、今後の検討課題として、用語の定義が同じかを確認する作業が必要であり、これはbuildingSMART Internationalで検討が始まっているbSDD( buildingSMARTData Dictionary)の議論である。
 
 

BIMライブラリー構築に向けての活動

今後のスケジュールの主要な内容は、
 
・BLC標準に基づくオブジェクトの作成(現在あるものの改良を含む)
・BIMライブラリー構築に向けた基本要件の設定
 
の2点である。これらの活動を「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」「BIM オブジェクトライブラリの運用システムの試作検討業務」を通して建築研究所と連携を取りながら実施するとともに、別途議論されている建築確認へのBIM活用とオブジェクトレベルでどのような連携を図れるかが、今後のBIMの社会実装に重要な要素であり、またBLC BIMオブジェクトを核とした情報プラットフォームの構築が、建設生産性向上への鍵となると考えている。
 

図-5 今後のスケジュール



 
 

(一財)建築保全センター保全技術研究所長(兼)BIMライブラリーコンソーシアム事務局長 
寺本英治 

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



BIM 次の進化に向けて

2018年8月3日

 

Information-BIMへの取り組み

BIMには「3D」と「情報=Information」の二つの側面がある。二つの側面を設計フローに即して捉えると、「3D」の側面は、設計が進むにつれて進化していく「形状」のフローであり、「Information」の側面は、設計の初期段階で行われる「性能」に関わるフローといえる(図-1)。日本ではBIMの「3D」の側面が主である。BIMの「Information」の側面について言及されたとしても、主に形態の寸法や仕上げ情報に留まっている。
 

図-1 日本設計のIntegrated-BIMワークフロー




 
BIMの本質は、建物の「データベース」化にある。「BIM」の持つ「データベース」すなわち「情報」の側面が、Information-BIMである。日本では、BIM「情報」活用がなかなか進んでいなかったが、その理由の一つには、意匠・構造・設備がそれぞれ別のソフトを使うところにあると思われた。異ソフト間での連携については、年々改善されており、「形状」に関してはかなり連携が改善されてきているものの、「情報」に関しての連携はまだ十分ではない。日本設計では、意匠・構造・設備が全て同一のBIMソフト「Autodesk Revit(以下、Revit)」を使う。そのため、セクション間での連携の問題が最初からない。後述するように、例えば、建築の面積や窓面積やその仕様、荷重条件、空調条件といった情報が、セクション間でスムーズに共有できる。このことが、日本設計において、Information-BIMの活用が大きく進むことにつながっている。
 
 

Integrated-BIMの推進

意匠・構造・設備の共通プラットフォーム「Revit」を中心にして、さまざまなツールがダイレクトに連携する。これが、日本設計の考える「Integrated-BIM」の骨格となる。特筆すべきは2点、「アルゴリズム設計」と「ダイレクト連携」である。具体事例は後ほど紹介するが、セクション間を横断するアルゴリズム設計は、共通プラットフォームである「Revit」とアドインソフトであるビジュアルプログラミング「Autodesk Dynamo(以下、Dynamo)」があってはじめて可能になる。また、環境シミュレーションの「ダイレクト連携」は、環境設計を重視し、取り組んできた日本設計の設計思想に非常にマッチしている。「Rhinoceros+Grasshopper+ 環境シミレーション」の可能性も、日本設計が開発した「Rhinoceros-Revit」のダイレクト連携ツール「ant sat」があることでさらに拡がる。日本設計の構造解析ソフトとBIMをつなぐ、「NASCA-Revit」の連携、Dynamoを使った情報連携も効果を発揮している。今後も日本設計は「Integrated-BIM」を進化させていく(図-1)。
 
 

Connection-BIMに向けて

BIMは、設計から、施工、さらには維持管理段階における建物「データベース」となる。だからこそ日本設計では、BIMを単なるツールではなく「ワークフロー」そのものとして捉えている。そして上述のとおり、「Revit」は設計の共通プラットフォームである。
 
一方、施工段階で加わる「形状」や「情報」には、非常に細かいディテールの形状であったり、その後の維持管理段階では使わない「情報」もある。例えば、カーテンウォールの詳細形状を「データベース」となる統合BIMモデルに全て反映する必要はない。統合BIMモデルから切り離すかたちで、ディテール検証するためのモデルを作成すればよい。鉄骨ディテール、配管ディテールなどもBIMソフトで作成する必要はなく、3D¬CAD作成すれば十分である。つまり、施工段階のかなり多くのモデルは、BIMモデルから一方通行の連携でよい。維持管理段階でも同様の話がある。例えば日々の修繕情報は、FMにおいては非常に重要な情報であるが、それを統合BIMソフトの属性で管理するのは全く現実的ではない。維持管理段階の関係者が、おのおの、高性能のパソコンを所有し、BIMソフトを装備し、BIMをフルに使いこなすという、現実離れした想定が必要となる。 つまり、施工や維持管理段階から考えると、設計のプラットフォームとは別に、より上位のプラットフォームがあると、さらに便利であるという発想が生まれる。
 
設計のプラットフォームには、全てのセクションが使えるツールであることが望まれる。同じBIMモデルにアクセスして、皆で一つの統合BIMモデルをつくり上げるからである。一方、施工や維持管理段階においても使える共通プラットフォームには、より多くのツールで、多方面から簡単にアクセスできるという、アクセシビリティの良さが求められる。そのためにクラウドテクノロジーは欠かせない。
 
こうしたクラウド・プラットフォーム活用としては、例えば、BIM-FM連携がある。「Integrated-BIM」モデルデータが、日々の修繕記録と並置し、アクセシビリティに優れた形でクラウド上に管理されている状態をイメージしてみれば、その使い勝手の良さが分かる。
 
いま日本設計では、クラウド・プラットフォームとして「Autodesk Forge(以下Forge)」を据え、「Integrated-BIM」のさらなる活用を考えている。施工段階、維持管理段階へも可能性は拡がっていく。
 
 

BIMの「情報」を設備設計に生かす

ここからは、「設備BIM」の具体例を紹介する。これまで、日本の設備BIMは、納まり検討や干渉チェックなどでの利用に偏り、建築計画が固まった後の実施設計後半や施工段階での活用に留まってきた。
 
日本設計では、Information-BIMに着目し、設備の「性能」決定に利用することで、設計の初期段階からのBIM導入を図っている。設備設計では、室諸元情報や機器情報、部材情報などさまざまな情報を、BIMの「Information」の側面に持たせて、「性能」決定に利用している(図-2)。その際、モデリング(形態)を、建物の階高や天高、梁背などを決定するためのクリティカルな部分に留めることがポイントである。最小限のモデリングを作成した後は、Revitにおいて「スペース」と呼ばれるエリアから室諸元情報を読み込み、情報が付随した機器をプロットする。ここまで入力されたモデルがあれば、詳細モデリングを行わなくても、セクション間の調整は可能であり、設備性能を決めることができる(図-3)。建築セクションの詳細モデリングが出来上がるのを待っていたのでは、設計初期段階での設備BIM活用は難しくなる。
 

図-2 BIMの「Information」




 

図-3 設備設計でのBIM活用方法




 
 

アルゴリズム設計によるルーティン自動化

ビジュアル・プログラミングでアルゴリズム設計を実現する「Dynamo」を活用した、設備設計の自動化にも取り組んでいる。例えば、スペース情報を集計し、機器の合計容量を自動的に計算して結果を戻すという一連の作業や、機器プロットまでモデル化した後は、「情報」活用により、負荷計算結果の数値を元に、機器を自動選定したり大きさを変えるといった自動化を可能にしている。今まで、時間と労力を費やしていたルーティンワークの自動化により、さらに深度化した検討が可能になる(図-4、5)。
 

図-4 アルゴリズムを利用した設備設計の自動化




 

図-5 アルゴリズム設計による自動化




 

スペースと部材情報を活用した設備の自動積算

BIMモデルから、BIMソフトのデフォルト機能を用いた数量算出は可能であるが、積算基準と異なる集計になるため、そのまま積算に活用できない。
 
そこで、日本設計では、積算基準に合致した長さ計上に則り算出できるようBIMソフトの集計方法をカスタマイズした。自動的に拾い書・集計書、さらには拾い図を作成することが可能になっている。この積算活用においても、積算を行う上で、可能な限りモデリング作業を最省力化することが実践的に大事であり、モデル上の部材やスペースへの「Information」の持たせ方にはいろいろと工夫を凝らしている(図-6)。
 

図-6 スペースと部材情報を活用した設備の自動積算




 
 

設備設計でのBIMワークフロー

BIMを設計フローに取り入れる際に重要なことは、BIM作業を追加業務にするのではなく、今までの業務を、BIMで置き替えていくことだと考えている(図-7)。
 

図-7 設備設計のBIMワークフロー




 
ただし全てをBIMに置き替えるのではなく、汎用ソフトやExcelシートなどの便利なものは残しつつ、それらをBIMと情報連携させ、BIMを情報の中心に据えることが最も有効である。
 
日本設計では、各セクションの情報をロスなく共有できるRevitを中心に据えて情報の体系化を行い、全ての情報をRevitにつなげることで、今までバラバラだった情報を一元的に管理可能にしている。これにより、設計の過程でしか利用されていなかった貴重な情報を、「3D」利用に限られていた施工段階や、さらには運用段階へ引き継ぐことを見据えている。
 
なお、Revit(MEP)は設備の「性能」を決定する段階で活用し、最終的なアウトプット(実施設計図)は「Autodesk AutoCAD(以下、AutoCAD)」や、Revitとのダイレクト連携を開発したRebroを併用している。建築同様、アウトプットの実践的工夫により、実用化を図っている。
 
 

NASCAと構造BIMモデル

次に「構造設計BIM」について概説しておきたい。日本設計では、構造解析プログラムは、自社開発の一貫構造計算プログラムNASCAを使用し、BIMソフトはRevitを使用している。それらを利用して、効果的にBIM活用を行うために、NASCAの構造データからRevitへのデータ変換を行うプログラムを開発し、現在運用中である(図-8)。
 

図-8 システムの全体図




 

BIMモデルの使用

現在、NASCAからのデータ変換によって作成された構造のBIMモデルは、①建築・設備などの他セクションのBIMデータとの干渉チェック(図-9)、②構造図(伏図、軸組図)の作成などで活用している。このBIMモデルから作成された構造図は、相互の図面間で整合性が確保されるため、図面の確認作業が軽減されている。
 

図-9 構造図作成の自動化




 

構造図作成の自動化

Revitを用いて自社の製図基準に適合した構造図を作成するためには、多くの手間がかかる。そして、その作業の一部は単純作業の繰り返しであり、かつ、どの案件に対しても共通である。今後BIMによる設計を継続的に行っていく上で、このような作業を自動化することは非常に効果的であり、構造図の品質向上および作業効率の向上につながる。そこで、NASCAからRevitへの変換時に自社仕様の伏図・軸組図の自動生成も同時に行うようにさらなる開発も完了している(図-8、9)。
 
 

二次部材の設計

小梁などの二次部材の設計においては、ビジュアルプログラミングツールであるDynamoを用いてRevitとExcelを連携させる仕組みを構築した。それにより、計算に必要となるRevit内の情報の抽出、Excelへの自動入力、そして計算結果に基づき修正された結果の反映を一連の流れで行うことを可能とした。以前と比較してExcelへのデータ入力や計算結果に基づく図面修正の作業時間を大幅に短縮することが可能になった。
 
 

情報の整理と共有

部門間の調整においては、さまざまな構造情報の中から各部門(意匠・設備など)の設計者が必要とする情報を整理した検討図(伏図・軸組図・断面リストなどとは異なる資料)が必要となる。これまで、検討図の作成は主に構造設計者が手作業で行っていたため、部門間の調整事項に変更が生じた場合、検討図の再作成作業が大きな負担となっていた(図-10-a)。そこでDynamoを活用して必要となる情報をRevitデータから抽出・視覚化することで、検討図作成の支援を行うツールを開発した。それにより、検討図作成の負荷が大幅に削減された(図-10-b)。また、このツールにより部門間の情報連携がより強固となり、設計全体の高品質化にもつながっている。
 

図-10-a 従前のワークフロー




 

図-10-b BIMを用いたワークフロー
(時間短縮が可能となる)




 

Information-BIMとBIMFM連携の可能性

Connection-BIMについても、具体例に触れておきたい。海外では、BIMは設計や施工のための効率化ツールというよりは、FMでの活用にこそ価値があると認知されつつある。だが、日本での活用例は非常に少ない。
 
繰り返し述べているように、BIMは3Dの「Visual BIM」の側面と属性情報の「Information-BIM」の側面を併せ持つ。BIMを建物の仕様・性能情報を統合管理できるデータベースとして活用することで、よりその可能性を広げることが可能になる。特に運用段階で必要としているのは、「3D」というよりもほとんどが情報の「I」つまりデータベースであり、BIM¬FM連携で肝心なのはBIMの「Information」を活用することにある。運用段階に必要とされるデータベースには設計段階から引き継ぐべき「情報」がかなり多くを占め、施工段階では品番や製造番号などメーカー情報を付与するくらいで十分なはずである、施工段階のものづくりのための詳細な3Dデータは改修工事では再利用できるとしても、FMの日常管理には細か過ぎてとてもハンドリングできるものではない。
 
ただし、運用段階の3Dのニーズは限定的という事実は受け止めておく必要があるものの、3Dというリッチなデータによりもたらされるメリットは少なからずあるはずである。われわれは、このFMでの3Dのニーズを、①インデックスとしての活用、②部屋と機器・機器と機器の関連を視覚化(図-11)、③3DによるFMデータベースの見える化、の3点に集約できるのではないかと考えている。
 

図-11 機器の親子関係の視覚化




 
そして、その活用を汎用化するため、FM段階では、直接BIMを扱うのはハードルが高いため、クラウド・プラットフォームである「Forge」を活用することを提案している。既存のさまざまなFMシステムの利点を生かしたまま、「Forge」を介したBIM¬FM連携こそ、付加価値を高めていく現実的なアプローチである。FMサービス会社「プロパティデータバンク」との連携も進めているところである(図-12)。

 

図-12 BIMとFMシステムの連携




 
現在、「Forge」の活用開発も進み、運用段階へつなぐ環境が整い、ライフサイクルでのBIM活用が具体化している。実プロジェクトでの活用も、今後急速に増えていくものと予想される。
 
さらにこの先へは、AI、IoTの活用が間違いなく進み、AIの「判断」には、「定量化」が当然の前提となる。そして、AIの「経験」には、IoT による「情報」の一元的蓄積を必要とする。さらに、この「情報」に、単体のBIMデータベース情報だけではなく、クラウド・プラットフォームに並置されたさまざまな情報、それは複数のIntegrated-BIMの並置であったり、都市的環境情報であったり、事業採算予測情報であったりするわけだが、さまざまな情報が加わることにより、「判断」は都市レベルに、経済レベルにも適用されることとなる。それは部分最適化からより広い視点での全体最適化へつながる道である(図-13)。
 

図-13 部分最適化から全体最適化へ




 

株式会社 日本設計 プロジェクト管理部 BIM室 
岩村 雅人/吉原 和正/田畑 健

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集1「i-Construction×CIM」



 



BIM coordinatorの業務紹介 -BIMマネジメントのキーパーソン-

2018年7月31日

 

BIM普及に伴う新しい役割

BIMの普及に伴い、設計業務に新しい役割りが必要とされている。「BIMマネージャー」「BIMファシリテーター」「BIMオペレーター」等の肩書きを持つ人材が、チームの一員として設計業務に参入するようになった。現段階ではそれら新しい役割の呼称は統一されておらず、各社各様に扱われているものの、呼称が何であれ、重要なのは、それらの人材が担う業務内容をチームが理解していることである。彼らあるいは彼女らが担うのは、チーム全体のデジタル・スキルを底上げするだけではカバーできない、プロジェクトの重要な側面である。
 
筆者は、設計プロセスを円滑にするワークフローの提案、それに伴うソフトウェアのトレーニング、BIM導入を推進するプロジェクトリーダーへの技術サポートを専門としている。設計業務においてその重要性は認識されながらも、依然日本では従事者が少ない「BIM coordinator」が担当する業務を、設計段階のBIMに携わる筆者の経験をもとに紹介する。
 
 

プロジェクト開始時の役割

1.施主の要求を理解する
 
BIM coordinatorがプロジェクトを担当する際の最初の仕事は、BIM成果品に対する施主の要求を理解することだ。英国では、施主の要求を「EIR:Employers Information Requirements」と呼び、設計者および施工者を選定する際に、施主が一定のフォーマットに従って提示すべきドキュメントとして位置付けている。しかし日本では、BIM成果品の要求方法に特定のガイドラインは存在しない。例えば、プロジェクトの各フェーズではどの程度の情報を要求するのが適切かといったことも、施主側の担当者が手さぐりで定めている場合がほとんどである。
 
施主が「BIM成果品」を要求する場合、その意図はさまざまだ。ファシリティー・マネジメントに利用するために積極的に投資している施主もいれば、各設計チームの整合性を高めることが目的なので、3Dモデル自体は参考資料としての提出で構わないという施主もいる。設計チームと意見交換しながら成果品の内容を調整したいという施主もいる。BIM coordinatorは上記どの場合でも、まず施主にヒアリングを行い、提示された「BIM成果品リスト」の根拠や、施主側チーム担当者のBIM実情を知っておく必要がある(図- 1)。
 

図-1 施主要望として提示された多様なBIMモデル活用の例 ©Arup




 
施主の要求が現実的ではないと思われる場合には、BIM coordinatorから代替案を提示することも視野に入れながら施主へのサポートを行う。そうすることで双方の混乱を防ぐことができ、活用される可能性が低い成果品のために作業のハードルを不要に上げてしまうこともなくなる。BIMへの取組みが日本国内では自発的なものである以上、施主の意図と立ち位置を理解した上でBIM成果品の内容を調整する余地、あるいは行き違いを修正する余地は必ずあると思っている。
 
 
2.BIM実行計画を作成する
 
成果品を調整した後、BIM coordinatorが担当するのが「BIM実行計画(BEP:BIM Execution Plan)」の作成だ。BIM実行計画は、施主要望に対する設計チームからの返答である。成果品の内容、コーディネーションミーティングの頻度、情報共有の方法等を、設計チームがどのように実現するのかを示すことが目的だ。設計チームを選定する際に発行するものと、契約後に発行するものの2種類があるが、後者は、チーム編成や業務のマイルストーンをより具体的に示して前者の精度を上げたものと考えて問題ない。
 
BIM実行計画は本来、チーム全体のBIMプロセスの方向性を定めるためのものである。意匠、構造、設備、ファサード等、分野別に作成するものではない。従って、BIM coordinatorは各専門分野の設計業務からは独立していることが望ましい。自身が担当する図面やモデルを作成しながら、他チームの進行状況を把握し、集めたモデルの干渉チェックをレポートにまとめることは、主要な図面提出直前になるほど難しくなる。英国では、各専門分野のプロダクションに携わる人を「BI Mauthor(BIM作成者)」と呼んで「BIM coordinator」と区別することが通常であり、BIM実行計画にもその点を明記する。
 
BIM実行計画の中で筆者が最重要視しているのは、モデルの活用目的を示す箇所だ。モデルは、「この目的のために使用してほしい」という作成者の積極的な意図を前提として参照するものであって、百科辞典のように完成度が高いモデルを目指すことは現実的ではない。設計チームが図面作成の目的で作った3Dモデルを、施主が積算やファシリティー・マネジメントに利用するつもりだったというような行き違いを防ぐためにも、モデルの活用目的については、早い段階で施主と設計チームの合意を取る必要がある。
 
 
3.共有データ環境を管理する
 
次に担当するのは「共有データ環境(CDE:Common Data Environment)」の構築と管理だ。共有データ環境とは、プロジェクト進行中にやり取りする情報を一元管理するクラウド環境のことだ。組織を限定せず、施主、設計者、施工者、コンサルタント等、多様なプロジェクト参加者間で利用する。この共有データ環境の構築と管理が、BIM coordinatorにとって一番肝心な仕事だと思う。なぜなら、施主がBIMデータを要求しない場合や、設計チームがBIM実行計画を正式には発行しない場合でも、プロジェクトチームが情報共有をする限り、共有データ環境は必要なはずだからだ(図-2)。
 

図-2 共有データ環境の例。アップロード通知、データにコメントを残す機能、アクセス制限を備えている。 ©Arup




 
BIM coordinatorとして優先すべきは、必要なデータを個別に送り合う状況の打開だ。ドキュメントマネジメントに特化したプラットフォームサービスの種類は多岐にわたり、建築業界で利用されているものだけでもAconex、Asite、Autodesk BIM360、 Bentley ProjectWise、Flux、Panzura、Sharefile、SharePoint、Viewpoint4Projects(アルファベット順 2017年1月)等が挙げられる。最終的にはデータを施主に提出することを考えると、具体的なプラットフォームは施主が指定することが望ましいが、指定がない場合にはBIM coordinatorから提案する。また、これらのサービスに準ずる機能がなくとも、GoogleDrive、Dropbox、OneDrive等のファイルシェアサービスを利用することで、データを個別に送り合うことは防げる。そもそも個々のファイルを別送パスワードで守るよりも、データをやりとりする環境全体にセキュリティをかける方が効率的である。
 
BIMとは一見、手の込んだ3Dモデルのことを指しているようだが、モデルはあくまでプロジェクトに関係するデータの一部である。BIMcoordinatorが担当するのは、モデルを含むデータ環境全体のマネジメントだ。モデルに必要な情報を詰め込むのではなく、モデルも、適切なバージョン管理を行った上でその他のドキュメントと同様に共有データ環境に保存し、参照されて初めて有益なものとなる。
 
 
4.モデルの詳細度を設定する
 
モデルの詳細度とは、成果品として提出するモデルに含まれるデータ量の目安である。専門分野別に設定はするものの、設計チーム全体で合意し、作業計画を立てる前提にする。モデルの詳細度は「LOD:Level of Detail/Development」と呼ばれ、LOD100~ 500 の指標で表されており、数字が大きいほどモデル内の要素数が増え、データ量も多くなる。
 
モデルの詳細度に関する仕様書としては、BIMフォーラム(builingSMART インターナショナル)による仕様書と、AIA(米国建築家協会)による仕様書の2種が、国内外で広く参照されている。ただし、それらの仕様書が、より詳細に各専門分野の対象要素の種類を定めているわけではない。例えば、設備系の配管に注目すると、給水配管、雑用水配管、給湯配管、排水管、雑排水管など、複数の要素が存在し、それらをいつの提出までに(基本設計終了時、あるいは実施設計終了時)どの程度(立て管のみ表す、あるいは横引き管も表す)作成するのかについては比較的自由に決められる。BIM coordinatorは各分野の設計者と共働し、プロジェクトに応じてその目安をコントロールする。具体的には、「BIM実行計画」あるいは「BIMスタンダード」という実務用文書の中に(図-3)に類する表を示し、各チームの作業を進めるマイルストーンとして共有する。
 

図-3 モデルの詳細度の例。横軸に設計フェーズを、縦軸に設備のモデル要素をリストアップした。 ©Arup




 
フェーズによって本来の利用目的が異なるBIMモデルを、フェーズを超えて引き継ぐためには多くの課題がある。モデル内の要素数やデータ量を増やすだけでは、モデルを、設計BIMモデル → 施工BIMモデル → 運用管理BIMモデル、と進化させていくことは難しい。実際のところは、設計BIMモデルに含まれるデータの一部なら施工BIMモデルにも利用できるという程度ではないだろうか。専門分野間、組織間、フェーズ間で共有されるモデルは、現段階ではシンプルなものであることを踏まえて、BIM coordinatorはモデルの詳細度を設定する必要がある。
 
 

プロジェクト進行中の役割

本章では、プロジェクトが順調にスタートした後、BIM coordinatorが設計業務とどのように関わるかを紹介する。主に担当するのは、1)定期的に専門分野のモデルを統合する、2)干渉チェック(図-4)、3)コーディネーションレポートの作成、4)アニメーションやVR環境の作成、の4つである。どの場合にも共通するのは、施主と設計者がコミュニケーションの手段としてBIMモデルを利用しやすいように、モデル内の情報を展開することだ。
 

図-4 干渉チェックの例 ©Arup




 
統合モデルには情報が多い。特定のソフトウェアを使用して図面やモデルを作成する人材は増えてきたものの、それらBIMオペレーターは各分野専任であるため、プロジェクト進行中に本人の専門分野以外のモデルの更新内容に随時気を配ることは難しい。だからこそ、統合BIMモデルから汎用性のあるデータを取り出す、あるいはソフトウェアの初心者にとっても参照しやすいコンテンツを作成してチーム全体と共有するのは、BIM coordinatorの業務だと筆者は考えている。
 
例えば、コーディネーションミーティングで使用したモデルを、その時のキャプチャや解決に至った経緯とともに共有データ環境内に保存する。または、発行図面と対応する統合モデルのバージョン管理を徹底するといったことによって、BIMデータはより多くの人にとって扱いやすくなる。このように、統合モデルそのものにアクセスしなくても各設計担当者が必要な情報を得られる環境を整えた上で、干渉チェックやコーディネーションレポートをチームに展開することが望ましい。
 
 

プロジェクト終了後の役割

プロジェクトで得た経験を、後続するプロジェクトに生かすためのフィードバックの時間を設けることも、BIMcoordinator の業務に含まれる。アラップでは半年に一度、その期間内に進展があった設計プロジェクトに対して、世界中の全事務所で「BIMMaturity Measure(BIM成熟度評価)」(図- 5)の提出を必須としている。
 

図-5 アラップ「BIM成熟度評価」 ©Arup




 
専門分野別に、BIMに関する複数の項目に対して5 段階評価を行ったものを集積し、プロジェクト全体のBIM成熟度(%)を測定する形式だ。ここで評価の対象となるのは、いかにモデルや共有データ環境を介して「設計プロセス」を円滑にコントロールしたかであり、3Dモデルの情報量や完成度が問われているわけではない。
 
例えばプロジェクトのBIM実行計画(BEP)に関する項目は次のように評価する。評価1)BEPなし→ 2)アラップ社内用BEPあり→ 3)設計チーム全体用BEPあり→ 4)施主要望に対応するBEPあり→ 5)契約文書にBEPを含む。このような評価をプロジェクトに関わる各専門分野から集積し、プロジェクト全体におけるBIMマネジメントのさまざまな側面を定量化することで、より具体的な目標を立てやすくなる。プロジェクト単位で得たデータは事務所単位で集計し、それを世界中の全事務所で集計して、アラップ全体のBIMマネジメント向上の指標としている。
 
BIM成熟度評価の項目には、プロジェクト専任のBIM coordinatorがいることが前提のものがある。「プロジェクト開始時のBIM coordinatorの役割」に示したように、施主要望を反映してBIM関連成果品の調整を行う、BIM実行計画を作成する、共有データ環境を管理する、モデルの詳細度を設定する等は、従来の設計チーム編成のままでは対応することが難しい項目である。各項目の理想的な姿(評価5)を意識することによって担当プロジェクトで挑戦すべき課題を明確にし、プロジェクト終了時には、上手く進められた点・反省点を含めた経験をフィードバックし、他プロジェクトに生かしていこうと思う。
 
 

まとめ

以上、「BIM coordinator」の業務内容を、設計段階のBIMマネジメントに携わる筆者の経験をもとに紹介した。BIMデータを作成するための環境は、参加者たちがそこで本来の創造性を自在に発揮するためにこそ設けるものである。そのようなコラボレーションの環境を整える場面では、専任のBIM coordinatorが重要な役割を担う。プロジェクト関係者のデジタル・スキルを考慮して情報の流れを整理し、共有データ環境にアクセスするための手続きが煩雑にならないよう管理する。多様なソフトウェアを扱う人材の育成に携わりながら、そうでないメンバーにも随時情報を展開する。このようなBIM coordinatorがチームにいることで、プロジェクト関係者はより自由にBIM環境に参加できるようになるのではないだろうか。本記事が、若手の育成を急ぐプロジェクトリーダー、手探りでBIM成果品の内容を定めている施主側の担当者、BIM推進リーダーに任命された方、その他、BIM coordinatorを目指す若手の参考になれば幸いである。
 
 

Arup BIM/CADテクニシャン 平島 ゆきえ

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集2「BIM」



 



施工BIMのデータ連携による現場の図面調整業務の省力化

2018年7月15日

 

はじめに

施工BIMの中で活用事例が多いのは鉄骨と設備で、干渉チェックと納まり確認である 1)。ところが鉄骨は鉄骨専用CAD、設備は設備専用CADで描かれるため、合成した統合モデルで干渉や納まりを検討するには、IFCが広く用いられている。
 

表-1 梁貫通孔要求CSVに対応している各種ツール
*)保守契約しているユーザーには常に最新バージョンへの更新がなされている




 
一方で、設備側からの梁貫通孔要求に対する成立性検討の作業は、大量の梁貫通孔要求図を基に一つずつ鉄骨CADへ入力する単調な入力を強いられる。そこで、データ連携により単純作業にかかる労力を大幅に低減させるべく、設備専用CADと鉄骨専用CADや汎用BIMツールを結ぶ「設備-梁貫通孔連携中間ファイル」を定義 2)して展開している。
 
さらに既製リング補強計算ソフトへの入力まで連携させると、梁貫通要求に対して即座に可否計算ができることになるが、計算ソフトはBIMに対応していない。そこで、鉄骨梁貫通孔既製リング補強の成立性検討ソフトを結ぶ中間ファイルの定義も行った。
 
本報では、データ連携による新しい業務の進め方(図-1)について解説する。
 

図-1 BIMを活用した新しい鉄骨と設備の調整業務の流れ




 

鉄骨BIMの作成要領

鉄骨BIMは、構造計算ファイルから変換したり、構造設計図の元になった設計BIMを使った例がみられるが、設備との干渉や納まり調整に活用する場合、柱・大梁・ブレースという主架構だけでは十分とはいえない。小梁位置を決定した上で接合部、ガセットプレート、火打材、方杖材、スティフナー、フランジ拡幅、デッキ受材を配置し、正確に表現することにより、現場で手戻りがなくなる干渉チェックが可能となる(図-2、図-3)と言っても過言ではない。鉄骨BIM作成には細部にわたる知識と経験が必要なので、構造計算ファイルや設計BIMをベースにしても、鉄骨ファブリケーターの技術を投入しなければならない。
 

図-2 設備との干渉チェック・納まり調整に用いる鉄骨モデルの例
(KAPシステム)




 

図-3 鉄骨を正確に表現した精度の高い干渉チェックの事例
(鉄骨:KAPシステム+実寸法師、設備:Tfas、統合:Solibri Model Checker)




 
鉄骨BIMからIFCを出力して設備サブコンに提供するのであるが、構造設計者が定める梁貫通孔の設置可否ゾーンにより梁を色分けしたIFCが出力できる機能はまだ認知度が低いようである。IFCを読み込んだ設備専用CAD上にも設置可否ゾーンが明示されるため、初回の調整時点から、設置不可領域に梁貫通孔が要求されるケースがなくなる(図-4)。
 

図-4 鉄骨モデルのIFCに梁貫通孔設置可否ゾーンを表示し、不可ゾーンを避けた納まり確認
(鉄骨:KAPシステム+実寸法師、設備:Tfas、統合:Solibri Model Checker)




 
 

設備BIMの作成要領

設備専用CADに正確に表現された鉄骨をIFCで参照し、鉄骨と3次元上の原点(共通原点)を合わせて、鉄骨と干渉しないようにダクト・配管・ケーブルトレイ等の配置をする。フロアごとに設備BIMを作成する場合には、フロアごとの原点と共通原点の関係に常に注意しておかなければならない。
 
必要な梁貫通孔を鉄骨に要求するに当たり、空調設備・衛生設備・電気設備・防災設備は、設備同士で納まりを調整する。梁貫通孔要求する際には隣接するダクトや配管をまとめて一つの梁貫通孔にして要求する工夫が、鉄骨製作の生産性を上げ、コスト的にも有利になる(図-5)。
 

図-5 複数の設備配管をまとめて、一つの梁貫通孔を要求している例




 

設備-貫通孔連携中間ファイル

「設備-梁貫通孔連携中間ファイル」は、将来IFCになるまでの暫定的な位置付けとして、カンマで区切られたテキストデータ(CSVファイル)である。
 
設備施工図がフロアごとに描かれる場合、慣習で見上図と見下図が使い分けられているので、共通原点1カ所を定義した場合とフロアごとに原点を定義した場合で使い分けることができるよう工夫している。
 
「設備-梁貫通孔連携中間ファイル」の諸元を表-2に、データ例を表-3、4に、解説図を図-6に示す 2)
 

表-2 設備-梁貫通孔連携中間ファイルの諸元




 
 

表-3 CAD上で3次元原点を定義して、見下げで作図した場合のデータ例




 
 

表-4 CAD上で2次元原点を定義して、見上げで作図した場合のデータ例




 
 

図-6 建物の共通原点と設備CADでのフロア別原点のイメージ




 
 
なお、「設備-梁貫通孔連携中間ファイル」は鉄筋コンクリート造の梁に設ける矩形の梁貫通孔要求にも対応させているが、鉄骨梁の場合は隅角部の応力集中を避けるため、円形の梁貫通孔にする。設備側から角型のダクトを貫通させる場合でも包絡する円形貫通孔とするので、注意が必要である。
 
 

梁貫通孔要求を鉄骨専用CADへ

「設備-梁貫通孔連携中間ファイル」を読み込んだ鉄骨専用CADは、鉄骨BIM上に梁貫通孔を「仮配置」する。これは設備側からの一方的な要求であって構造的な成立性が検討されていないからである。
 
補強方法によって検討内容が異なるため、元請と構造設計者はあらかじめ、梁貫通孔の補強が必要になった際、どの補強方法を採用するかを決めておかなければならない。
 
1フロア5,000㎡規模のオフィスビルになると、図-7に示すように1フロア当たりの設備梁貫通孔要求数は500個以上の数になる。一つずつ手作業で鉄骨専用CADに配置し、入力間違いをチェックするには早くて1日かかるが、それが一瞬にして正確に配置されるほど、省力化の効果がある。また、梁貫通孔要求の修正があった場合にも効果がある。
 

図-7 1フロア5,000㎡規模の事務所ビルの天井内設備と鉄骨の調整




 
従来は、設備サブコンは梁貫通孔要求図(スリーブ要求図)を設備専用CADにて図面出力し、設計者・監理者まで打合図を回覧していた。新しい業務の流れでは、設備専用CADから「設備-貫通孔連携中間ファイル」を鉄骨側に渡せば鉄骨CAD上で仮配置される。
 
設計者と監理者の理解が得られれば、最終形だけ作図して承認図とする省力化が可能となる。
 
 

梁貫通孔の構造成立性検討

仮配置した貫通孔が補強を含めて構造的に成立するかどうかを、貫通孔の径、位置、間隔と鉄骨形状の関係で検討する「仕様規定」と、梁に作用する長期荷重、短期荷重と梁断面性能である終局耐力時の健全性を検討する「性能規定」で検証を行う。仕様規定と性能規定は4種類の既製品リング補強で定められている。EGリングの仕様規定は図-8に、性能規定は図-9に示す通りであり、ハイリング、OSリング、フリードーナツにも同様の規定が設けられている。 
 

図-8 梁貫通孔既製リング補強の仕様規定の例




 

図-9 梁貫通孔既製リング補強の仕様規定の例(EGリング:日本ファブテック(株)提供)




 
4種類の既製品リング補強を対象に、仕様規定の検討に必要な情報と性能規定で必要な情報を整理したものが表-5である。今後、これを整理して「リング補強計算用CSV」と定義し、鉄骨CADと補強リングメーカーと協力しながら、データ連携による作業効率化を図る。
 

表-5 鉄骨専用CADから既製リング補強計算への連携用データ




 

成立性結果の出力

現在の既製品リング補強の成立性計算ソフトからの出力は、全てのスリーブ要求に対して合否判定がリスト形式で出力されるので、これを見ながら設備側に梁貫通孔要求に対する成否を連絡していた。また、設備側が描いた梁貫通孔要求の伏図に赤で×印で連絡する場合に、否の理由まで書き入れるのは手間がかかっていた。
 
そこで、梁貫通孔補強の成立性可否を、梁貫通孔リング補強メーカーの計算ツールから標準化された表-6に示す「貫通孔成立性結果CSV」データで出力することを目論んでいる。
 

表-6 既製リング補強計算結果から鉄骨専用CADへのデータ




 
 
この出力を、鉄骨専用CADや設備専用CADで読み込めば、BIMモデルやそこから生成される図面にも成立可否が、表-7あるいは図-10のように記されると予想している 3)
 

表-7 判定理由の簡易表記方法




 

図-10 判定理由の簡易表記方法の例




 
 

まとめ

鉄骨専用CADと設備専用CADを用いた納まり検討や干渉チェックはIFC連携により可能だが、梁貫通孔要求とその構造成立性検討は現状のIFCではデータ連携ができないため、3種類の中間ファイルを定義して、広く公開して標準化を行った。
 
1)「設備-梁貫通孔連携中間ファイル」
2)「リング補強計算用CSV」
3)「 貫通孔成立性結果CSV」
 
日本国内で多用されている設備専用CAD、鉄骨専用CAD、既製リング補強の相互のデータ連携が、業務フローになるのはそう遠くない。
 
 

おわりに

鉄骨専用CADにKAPシステムを用いて、貫通孔補強をEGリングとした場合には、設備専用CADがCADEWA、DesignDraft、Rebro、Tfasで描かれていれば、既にデータ連携による効率化が可能であった 4)。しかしながら、鉄骨ファブリケーターが使い慣れた鉄骨専用CADは他にも複数あり、既製リング補強も4種にわたっている。このため、(一社)buildingSMART Japanの構造設計小委員会の下部組織である、鉄骨梁貫通補強ワーキンググループを2018年1月に発足して、展開する予定である。
 
参考文献
1) 室井一夫、染谷俊介「BIM連携の最新技術紹介」2017年8月 一般社団法人 日本 建設業連合会
2) 室井一夫、三戸景資「設備と梁スリーブのBIMデータ連携 中間ファイルの共通フォーマット化」日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)2016年8月 No.1503
3) 室井一夫、鹿島孝、金子智弥、安井好弘、大越潤、染谷俊介、三戸景資、佐脇宗生「BIM連携による鉄骨梁貫通孔補強の自動計算 その1~その3」日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)2017年8月 No.1654~ No.1657
4) 熊谷和彦「KAPシステムの紹介(24)-BIM設備設計との連携」2014年片山技報 No.33
 
 

清水建設株式会社 生産技術本部 生産計画技術部 主査 室井 一夫

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集1「i-Construction×CIM」



 



 


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