建設ITガイド

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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

国土交通省が推進するインフラ分野のDX

2022年8月25日

はじめに

わが国は、現在、人口減少社会を迎えており働き手の減少を上回る生産性の向上などが求められている。
そこで、国土交通省では、2025年度までに建設現場の生産性を2割向上することを目指して2016年度より「i-Construction」の取り組みを推進している。
具体的には、①建設現場において調査・測量、設計、施工、検査などのあらゆる建設生産プロセスにおいてICT(情報通信技術)を活用すること(図-1)、②設計、発注、材料の調達、加工、組立などの一連の生産工程や、維持管理を含めたプロセス全体の最適化が図られるよう、全体最適の考え方を導入し、サプライチェーンの効率化、生産性向上を目指すこと、③国債などの活用により年度末に集中する工事量を平準化することをトップランナー施策として推進する他、BIM/CIMなどの3次元データの利活用促進や「i-Construction」を推進するための広報など、建設現場の生産性を向上させるためのさまざまな取り組みを推進してきた(図-1)。
 
また、今般の新型コロナウイルス感染症を踏まえ、政府を挙げたデジタル社会への変革が求められる中、国土交通省においてもデジタルを積極的に活用し、これまでの建設現場の生産性向上はもとより職員自身の働き方改革なども含めたインフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進しているところであり、建設ITガイド2021に掲載された拙稿にてその取り組み状況を紹介した。
 
本稿では、その後の進展などを含めた、国土交通省におけるインフラ分野のDXに関する最新状況を紹介する。

建設生産プロセスを3次元でつなぐ

図-1 建設生産プロセスを3次元でつなぐ



 

インフラ分野のDXの取り組み状況(令和2年度)

インフラ分野のDXの加速化に向け、国土交通省では、省横断的に取り組みを進めるべく、「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」を令和2年7月29日に設置するとともに、第1回本部会議を開催した。
その後、令和2年10月19日に第2回本部会議、令和3年1月29日に第3回本部会議を開催した。
 
第2回本部会議では、インフラ分野のDX施策概要を議論し、その中で、大きく4つの方向性で取り組みを推進することとした。
 
1点目は、「行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革」である。
これは、デジタル化による行政手続きなどの迅速化や、データ活用による各種サービスの向上を図る取り組みである。
具体的には、特殊車両通行手続きなどの迅速化や港湾関連データ基盤の構築等による行政手続きの迅速化に加え、ITやセンシング技術などを活用したホーム転落防止技術の活用やETCによるタッチレス決済の普及などに取り組むこととしている(図-2)。

行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革

図-2 行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革

 
2点目は、「ロボット・AI等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上」である。
これは、ロボットやAIなどの活用により危険作業や苦渋作業の減少を図るとともに、経験が浅くても現場で活躍できる環境の構築や、熟練技能の効率的な伝承などに取り組むこととしている。
具体的には、無人化・自律施工による安全性・生産性の向上やパワーアシストスーツ等による苦渋作業の減少による安全で快適な労働環境の実現、AIなどによる点検員の判断支援やCCTVカメラ画像を用いた交通障害自動検知等によるAIなどを活用した暮らしの安全確保、人材育成にモーションセンサーなどを活用するなど熟練技能をデジタル化した効率的な技能習得などの取り組みである(図-3)。

ロボット・AI等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上

図-3 ロボット・AI等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上


 
3点目は、「デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革」である。
これは、調査・監督検査用務における非接触・リモートの働き方の推進や、データや機械の活用により日常管理や点検の効率化・高度化を図る取り組みである。
具体的には、衛星を活用した被災状況把握等による調査業務の変革、画像解析や3次元測量などを活用した監督検査の効率化やリモート化に加え、AI活用や技術開発により点検・管理業務の効率化などを図る取り組みである(図-4)。

デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革

図-4 デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革



 
4点目は、「DXを支えるデータ活用環境の実現」である。
これは、スマートシティなどと連携し、データの活用による社会課題の解決策の具体化に加え、その基盤となる3次元データの活用環境を整備する取り組みである。
具体的には、都市の3次元モデルを構築し、各種シミュレーションによるユースケースの開発に加え、データ活用の共通基盤となる位置情報の基盤整備、さらには3次元データの保管・活用や通信環境の整備などを進める取り組みである(図-5)。

DXを支えるデータ活用環境の実現

図-5 DXを支えるデータ活用環境の実現



 
第3回本部会議では、インフラ分野のDX施策概要のそれぞれに紐付く個別施策の整理や将来的な取り組みの方向性を議論し、それに基づき、令和3年2月9日にインフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)施策を公表した(図-6)。

インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要

図-6 インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要



 
 

インフラ分野のDXの取り組み状況(令和3年度)

さて、上述の通り、インフラ分野のDX施策を公表したところであるが、令和3年度からは、それをより具体的に進めるべくアクションプランの策定に着手することとした。
また、国土交通省の内外に「インフラ分野のDX」をより分かりやすく説明するため、その概要をあらためて整理した。
 
まず、「インフラ分野のDX」とは端的に言うと、「デジタル技術の活用でインフラまわりをスマートにし、従来の『常識』を変革」する、ということとした。
また、具体的な施策を「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」「コミュニケーションをよりリアルに」「現場にいなくても現場管理が可能に」の3つの観点から整理した(図-7)。

インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要

図-7 インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要



 
その3つについて、以下で具体的に述べる。
 
まず1点目の「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」であるが、これはインフラに関係する諸手続きやサービスについて、その利便性向上を図るもので、例えば、特殊車両通行手続きの効率化や民間事業者・港湾管理者における手続きの効率化・非接触化、高速道路やその他多様な分野におけるETC等によるキャッシュレス化・タッチレス化などが挙げられる。
 
次に2点目の「コミュニケーションをよりリアルに」については、対象者の内外を問わず、より理解しやすいコミュニケーションを図るもので、例えば、水害リスク情報の3次元での提供によるリアルに認識できるリスク情報の提供や、官庁営繕事業におけるBIM活用などが挙げられる。
 
続いて3点目の「現場にいなくても現場管理が可能に」であるが、これは本誌の読者であれば容易に理解できるであろう。
すなわち、従来から進めている建設現場の生産性向上を図る取り組みである「i-Construction」に包含されるICT施工について、そのさらなる拡大、といったイメージとなる。
具体的には、受注者・発注者を問わず、建設現場の省人化や効率化のさらなる追求を図るものであり、例えば建設施工における自動化・自律化の促進やAI・ICT・新技術の導入による道路の点検・維持管理の高度化・効率化などが挙げられる。
 
また、上記3つの観点に加え、位置情報の共通ルール(国家座標)の推進やDXデータセンターの整備などといった、「インフラ分野のDXを支える仕組みや基盤の整備」も重要である。
 
令和3年11月5日に開催した第4回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議では、上記の「インフラ分野のDX」の概念について認識共有をするとともに、主な施策の進捗紹介や、年度内のアクションプラン策定に向けた今後のスケジュールについて議論を行った。

 
 

事例紹介(DXデータセンター、国土交通データプラットフォームの構築)

それぞれのDXに関する取り組みを推進することは重要であるが、こうした取り組みで得られたデータなどの利活用促進や、データを連携し横断的に活用することにより新たな価値を創造していくことも重要な取り組みである。
その事例を紹介する。

①DXデータセンター

国土交通省では、2023年度までの小規模なものを除く全ての公共工事でBIM/CIMを原則適用する予定であり、調査・計画・設計・施工・維持管理の一連のプロセスにおいてBIM/CIMなどの3次元データを積極的に活用していくことを目指している。
各事業段階でBIM/CIMを活用していくためには、調査・計画・設計の段階からBIM/CIMを導入し、その後の施工・維持管理の段階においてもBIM/CIMを連携、発展させ、事業プロセス全体にわたって関係者がBIM/CIMを活用して情報共有を行うためのシステムを構築する必要がある。
また、このシステムを利用してBIM/CIMなどの3次元データを活用していくためには、大容量データの蓄積、表示、編集、受け渡し、検索などを円滑に行えることが不可欠である。
そこで、国土技術政策総合研究所では、BIM/CIMなどの3次元データを一元的に保管し、活用するためのシステムとして、DXデータセンターの構築を進めている。
 
DXデータセンターの構築により、国土交通省の直轄事業の業務や工事で作成されるBIM/CIMを一元的に保管し、保管したデータの表示や検索、BIM/CIMを共有したWEB会議などを行うことが可能となる。
今後は、施工管理と検査、構造物点検、災害対応などの現場においてBIM/CIMをさらに広く活用できる環境を整備するために、現場で使用するタブレット端末などを介してDXデータセンターに接続し、BIM/CIMを容易に取り扱うことができるアプリケーションソフトを開発し、実装していく予定である。

②国土交通データプラットフォームの構築

上記BIM/CIMなどの3次元データを含む各種データを連携する基盤として、「国土交通データプラットフォーム」の構築にも取り組んでいるところである。
これまで、国・地方自治体の保有する橋梁やトンネル、ダムや水門などの社会インフラ(施設)の諸元や点検結果に関するデータ約8万件、全国のボーリング結果などの地盤データ約25万件、平成30年度の発注の直轄工事のBIM/CIMデータ10件と3次元点群データ約570件、地方公共団体の電子納品データ約200件、さらに、全国幹線旅客純流動調査のデータや浸水想定区域などの防災に関するデータなどの表示・検索・ダウンロードが可能となっている。
 
今後は、3次元データを含む電子成果品のほか、他省庁や民間、地方公共団体などが保有するデータとの連携拡大に取り組んでいく予定である。

 
 

おわりに

本稿では、国土交通省が推進しているインフラ分野のDXの取り組みについて紹介した。
新型コロナウイルス感染症の発生を契機に時代の転換点を迎える中、陸海空のインフラの整備・管理により国民の安全・安心を守るという使命と、より高度で便利な国民サービスの提供を担う国土交通省が、学界や民間と連携・協調を図りつつ、インフラ分野のDXの先導役を果たしていきたいと考えている。

 
 

注意)
本稿は執筆時点(令和3年11月中旬)での情報である。
インフラ分野のDXの最新状況については、国土交通省HPなども適宜、参照されたい。

 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 建設情報高度化係長
小泉 陽彦

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年



熱海市伊豆山土石流災害における点群データ活用

2022年8月17日

はじめに

静岡県では、2019年度から現実空間をレーザースキャナーなどで広範囲に測量し、バーチャル空間に点群データで仮想県土を創る「VIRTUALSHIZUOKA」構想を推進しています(図-1)。
 
本稿では、2021年7月3日(土)に発生した静岡県熱海市伊豆山地区の土石流災害において、本県がオープンデータとして公開していた点群データを活用し、産学官の有志による「静岡点群サポートチーム」が、短時間で崩壊の原因となった盛土の存在確認や崩壊土砂量の算定など、速やかな初期対応を実現できた背景を紹介します。

VIRTUAL SHIZUOKA構想

図-1 VIRTUAL SHIZUOKA構想



 

点群データの蓄積とオープンデータ化

本県では、南海トラフ巨大地震など、「明日起こるかもしれない災害への備え」として、被災前の点群データを取得・蓄積しております。
 
点群データは三次元の位置情報(x,y,z)を持った点の集まりで、さらに色情報(RGB)や反射強度、クラスコード(建物or地面)が一点一点に含まれています。
色情報を含む点群を使えば立体的景観が再現でき、地表面データからは精密な地形図を作成することができます。
 
蓄積した点群データは、G空間情報センターなどでオープンデータとして公開されており、クリエイティブコモンズライセンス(CC-BY4.0)のもと、誰もが自由に二次利用できることから、3Dハザードマップや自動運転用の地図、観光やゲームなどにも活用されています。

 
 

災害対応における点群データ活用

土砂災害が発生すると、被災関連の各種の情報を集約するとともに地図上に被災場所や発災原因となった事象の特定が行われます。
発災時は救助活動が最優先される一方で、二次災害を防ぐ視点から救助隊員や測量作業員の安全確保も重要な課題です。
 
2019年に面的なデータを取得したことにより、2020年度に発生した災害においては、被災後にドローン等による計測を行うことで、被災前後のデータの重ね合わせが可能となりました。
被災対応として災害査定や復旧工事に必要となる測量作業に点群データを活用することにより、従来の現地計測と比較して、作業時間の短縮や安全性の向上などの効果が得られました(図-2)。

災害対応におけるデータ活用効果

図-2 災害対応におけるデータ活用効果



 

熱海市伊豆山地区で発生した土石流災害の概要

梅雨前線による大雨に伴い、2021年7月3日(土)の10時30分頃に静岡県熱海市伊豆山の逢初川(あいぞめがわ)で土石流が発生しました。
この土石流は逢初川源頭部の標高400m付近で発生した崩壊土砂が、伊豆山港付近の海まで、約2km逢初川を流下し、死者26名、行方不明者1名(2021年11月19日時点)、被害建物数128棟(135世帯)の甚大な被害をもたらしました。

 
 

静岡点群サポートチームとその活動

発災後、直ちに有志で「静岡点群サポートチーム」を結成して、土石流の流下経路や崩壊箇所の特定などの分析を独自に始めました。
チームのメンバーは、多種多様な知見と技術を持った産学官の16名の集まりですが、以前から本県と一緒に、点群データの可能性や利活用手法を検討してきた同志であり、普段からコミュニケーションを取っていたメンバーです。
チーム内の情報交換はSNSのグループチャットやオンラインで行い、「命懸けで救援・救助活動を行う救助隊員の二次災害を防ぐため、点群データを活用して災害の全体像を把握する」ことをチームの共通認識として取り組みました。
 
ここからは、「VIRTUAL SHIZUOKA」の点群データ(図-3)を用いた地形の分析内容を紹介します。

G空間情報センター:静岡県富士山南東部・伊豆全域点群データ

図-3 G空間情報センター:静岡県富士山南東部・伊豆全域点群データ


(1)地形判読に用いた点群データ

災害の全体像を把握するために、以下に示す3時期の点群を用いています。
 
①2009年データ:国土交通省(沼津河川国 道事務所)による航空レーザー計測データ
航空レーザー計測で作成した1mメッシュの標高データで、時期的に盛土前の地形データに相当します。

 

②2019年データ:静岡県による富士山南東部・伊豆全域航空レーザー計測データ
点群データはG空間情報センターで公開しています。
地形差分解析のため、点群から不整三角網(TIN:Triangulated Irregular Network)内挿により10cm解像度のメッシュデータを作成しました。

 

③災害後のデータ:UAVレーザーによる計測データ
災害後に、(株)ウインディーネットワークの自主計測による7月5~6日のUAVレーザー測深データ(UAVALB点群)と、静岡県との災害協定による(株)東日の7月6日のUAVレーザーデータ(UAVLP点群)が取得されました。
両データとも7月7日にG空間情報センターからオープンデータとして公開しています。
地形解析では逢初川源頭部から中流域はUAV LP点群、中流域から下流域は濡れた地表面も計測されているUAV ALB点群を用いて、TIN内挿により10cm解像度のメッシュデータを作成しています。

(2)点群データを活用した地形診断

①2009年データと2019年データを用いた盛土範囲の抽出と盛土量算出
発災当日の22時30分頃までに、報道による逢初川源頭部の崩壊地の空撮が行われ、SNSでは特定された崩壊発生場所の過去の空中写真などから人工改変(谷埋め盛土)地での崩壊の可能性が指摘されていました。
そこで、盛土範囲の抽出と盛土量を算出するため、2009年と2019年の地形差分図(図-4)を作成しました。
解析作業は発災から約11時間後の23時22分に完了し、結果はチーム内で共有・検証された後に、現地対応中の県の幹部職員に共有しました。
翌日の早朝から行われた現地踏査では、この解析結果を踏まえて、盛土の崩壊という視点から現地確認されています。
 
その後、さらに検証を進め、詳細な差分図(図-5)から逢初川源頭部付近の谷部には高さ10mを越えるプラスの地形変化と整地された階段状の地形が確認され、この部分が2009年から2019年までの間に盛土された地形と判断されました。
盛土の体積をメッシュ法で算出し、その土量が約54,000m³と判明したのは災害発生翌日の7月4日(日)の9時22分でした。

地形差分図(2009年と2019年の地形差分による地形変化)

図-4 地形差分図(2009年と2019年の地形差分による地形変化)


地形差分図(2009年と2019年の地形差分による盛土厚の計測)

図-5 地形差分図(2009年と2019年の地形差分による盛土厚の計測)


 

②2019年データと災害後のデータを用いた地形変化の抽出と崩壊規模の算出
月7日に公開された災害後のUAV計測と2019年地形データとの差分を行いました(図-6)。
 
源頭部崩壊地と砂防堰堤付近での土砂の変化量(図-7)をメッシュ法で算出した結果、約55,500³が崩壊し、約7,500³が流下途中で砂防堰堤に捕捉され、その残りが下流の市街地に流出したと推定され、この結果は、7月8日の9時頃にチーム内での検証を経て、県の担当部局に共有され即日公表されました。

地形差分図(被災前の2019年と被災後の2021年の地形差分)

図-6 地形差分図(被災前の2019年と被災後の2021年の地形差分)


崩壊前後の地形差分により、崩壊土砂量を約55,000m3と算出

崩壊前後の地形差分により、
崩壊土砂量を約55,000m3と算出

崩壊前後の地形差分により、堰堤に捕捉された土砂量を約7,500m3と算出

崩壊前後の地形差分により、
堰堤に捕捉された土砂量を約7,500m3と算出



図-7 地形差分図(左)逢初川源頭部付近、(右)逢初川中流砂防堰堤付近
 

③未崩壊盛土の抽出と対応
点群データによる地形差分結果や現地写真から、源頭部の右岸側には未崩壊の盛土が残存していることが判明しました。
この土量(図-8の領域A+領域B)は約20,000³で、特に多くの亀裂が認められる不安定な領域Aの土量は約9,400³でした。
これらの情報もチームの検証を経て県の担当部局に共有され、7月13日に公表されています。
一方、二次災害を防ぐ観点から、国土交通省により速やかに現地に伸縮計などが設置され、エリアメールやサイレン・回転灯などを組み合わせた監視警戒態勢が構築されました。

崩壊後に残存している盛土の抽出(背景図は2019年地形)

図-8 崩壊後に残存している盛土の抽出(背景図は2019年地形)


(3)まとめ

今回の災害では、点群データを活用し、崩壊の原因となった盛土の存在や、崩壊した土砂量や流下経路の砂防堰堤で捕捉された土砂量の算定などを行い、災害の全体像に関わる情報を迅速に提供することができましたが、これを可能にした背景には次のような要因があると考えています。
 
① 発災前から、点群データの蓄積とオープンデータ化を進めていた
② 発災前から、点群データを活用する取り組みが行われていた
③ 発災後、直ちに有志による「静岡点群サポートチーム」が機能した
④ チームによる多面的分析がオンラインで実施され、情報共有と検証が迅速に実施された
⑤ チームの情報が県の担当者に迅速に共有される環境が整っていた

 
 

おわりに

今回は、被災前の点群データがオープンデータとして公開されていたからこそ、多くの方々の支援を受けて迅速に被害状況を把握することができましたが、大容量のデータに自由かつ迅速にアクセスできる「G空間情報センター」のクラウド環境やSNS、Web会議システムなどのオンライン環境がなかったら、このような対応は不可能であったと思われます。
 
いつ、どこで発生するか分からない災害に備え、速やかな初動対応を実現するためには、国土の基礎データとして全国規模で高精細な地形データが整備され、オープンデータとして自由に活用できる環境の整備が必要であると考えます。
 
点群データの収集・利活用の取り組みはさまざまな検討が行われているところですが、いまだ発展途上であり、標準化に向けては、多くの方々のお力添えが必要であると考えています。
このため、本県ではこれまでに取り組みを実施している産学官の連携に加えて、今後も多業種の民間企業の参画を促進するとともに、国土交通省や国土地理院などのご指導、ご支援をいただきながら、「VIRTUAL JAPAN」構築につながるよう、積極的に取り組みの拡大を図って参ります。

 
 

●VIRTUALSHIZUOKAイメージ動画(3次元点群データでめぐる伊豆半島)
https://youtu.be/dbRRwQje9Fo 
●G空間情報センター(富士山南東部・伊豆全域)
https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/shizuoka-19-20-pointcloud 

 

 

静岡県 交通基盤部 政策管理局 建設政策課+静岡点群サポートチーム

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 



BIMデータを活用した建築確認申請について

2021年9月27日

 

はじめに

2016年度の政府成長戦略でi-constructionが掲げられ、主に公共土木建築の中でBIM/CIMの推進が進められてきた。その後、2018年度にはデータ駆動型社会、Society 5.0の施策が示され、民間公共問わず建築分野のBIM推進が位置付けられたことを受け、2019年4月、建築BIM推進会議がこの目標を達成するために設置された。また、2019年6月に閣議決定された、成長戦略実行計画の中の「令和元年度革新的事業活動に関する実行計画」では、図-1に示すように、建築確認審査に対しても、2022~2025年度に「BIMによる建築確認申請の推進」が位置付けられ、BIMによる建築確認の実現が必須となった。このようなBIM推進に対応する施策が続々と打ち出される中、あらためてBIMデータを活用した建築確認申請の開発の現状と展望について説明したい。
 

令和元年度革新的事業活動に関する実行計画

図-1 令和元年度革新的事業活動に関する実行計画
(令和元年6月21日閣議決定)におけるBIM/CIM等の普及拡大の工程表 1)


 
 

成長戦略におけるロードマップとその対応

建築確認におけるBIMの活用は、日本建築行政会議指定機関委員会を事務局とする「建築確認におけるBIM活用推進協議会」(以下、協議会)で検討が進められており、建築BIM推進会議における「BIMを活用した建築確認検査の実施検討部会(部会3)」に位置付いている。
 
具体的な検討内容は、協議会の事業計画の中で次の3つを定めている。
 
(1)BIMモデルを利用して作成する確認申請図面の標準化を図るため、BIMモデルから作成する建築確認に必要な図面表現の標準(以下、「確認図面の表現標準」という)の作成と、種々のBIMソフトウエアにおいて確認図面の表現標準を作成するために必要な入出力情報を定めるための解説書(以下、「解説書」という)の作成を行い、それらの普及を推進する。
 
(2)BIMモデルデータを建築確認の事前審査の際に利用する場合に、審査者が使用する、確認審査に適したBIMビューアーソフトウエアの仕様(機能、性能等を定めたもの。以下同じ)を策定し、その円滑な開発に向けた環境を整える。
 
(3)上記(1)、(2)のほか、これらの共通事項として、法令改正等に伴う解説書・BIMビューアーソフトウエア仕様の見直しなどの継続的運用の確保や、国際情勢の把握と日本の情報発信による国際協調の推進などを行う。
 
このうち(1)は、建築設計のBIM作業環境における、確認申請図書の作成基準の確立を目指すものである。これは、シンガポール政府の建築確認における業務標準(Code of Practice)に相当するものであり、BIMによる確認申請図書の作成が一定の規範に基づいて作成できることを担保することで、申請者側が確認審査図書作成の追加的な作業を強いることがないようにするとともに、BIMソフトウエアに確認審査図書作成のための付加的機能を装備されることを期待することで、確認審査手続きがBIM普及の支障とならないようにするという期待が込められている。
 
2019年度は、協議会の前身である、「BIMを活用した建築確認における課題検討委員会」(委員長 松村秀一東京大学大学院特任教授)の成果を拡張し、建物用途の異なる3つの建築設計によるBIMモデルを作成し、確認図面の表現標準、および、確認図面の表現標準の作成に必要な入出力情報(意匠、構造、設備)の整理とその解説書を作成した。解説書については、確認図面を構成する図書ごと、部位ごとに必要とされる入出力情報と必要な表現を得るためにBIMソフトウエアの機能を使って表現できたかどうかについても整理を行い、表-1に示す、「審査項目別のBIM活用課題一覧表」にまとめた。さらに、その内容の理解を深めることを目的として意匠・構造・設備の分野ごとにテーマを設定し、図-2のような、「課題別検証シート」としてまとめた 2)
 

審査項目別のBIM活用課題一覧表

表-1 審査項目別のBIM活用課題一覧表 2)


 
課題別検証シートの例(意匠 課題1、3、4)

図-2 課題別検証シートの例(意匠 課題①、③、④) 2)

 
審査項目別のBIM活用課題一覧表は、BIMソフトウエアを用いて確認図書を作成する際に、加筆や表現方法の工夫を必要とするといった、共通の課題となるテーマが抽出されたものである。各課題に対する表現、とりわけ、BIMの特性を生かした「BIMならでは」の表現方法の具体的な解決方法について、課題別検証シートに整理されている。
 
2019年度の協議会成果が想定する技術段階は、図-3の開発ステップでStep1+に相当するものとなる。BIMを活用した確認図書の作成については、図書作成上の課題と各課題に対する表現方法を、一覧表やシートにより理解を深めることで、これからBIMを活用して確認図書を作成する方に対する一助となること、あるいは、BIMソフトウエアに、これらの課題を解決するような機能等の搭載を期待したい。

 

BIM建築確認の開発ステップ概要

図-3 BIM建築確認の開発ステップ概要(建築研究所2015) 3)


 
 

確認審査におけるBIMデータの活用

しかし、Step1+は、BIMによる設計環境下で、効率的に作成された、従前の申請図書を審査者が審査することを示しており、在来審査のBIM対応の水準にとどまると言える。2019年度の協議会の検証においても、確認の試審査は、BIMソフトウエアから出図した図書イメージであり、審査者としては、申請者側が「BIMならでは」の作図をしていることについて意識していないため、分かりやすい図書の表現をしている設計者側の意図が十分伝わっていないという指摘がなされている。言い換えれば、図書の生成元となる、BIMデータから出図されているという背景の理解の不足が、設計側の図書表現の意図の理解の支障となっているということである。
 
このような状況を打開し、BIMによる確認図書の作成をより効果的にするために、協議会では、2020年度に、前述の事業計画の(2)に当たる課題について、審査者のBIMモデルと申請図書の供覧による理解度の変化、事前相談における確認審査のBIMビューアーソフトウエアの仕様の検討を行うこととしている。
 
また、BIMによる設計が、属性情報の活用などにより合理化が進められるに従い、BIMモデルが内包する数的情報を活用して、審査対象項目を漏れなく抽出し表現する、あるいは、算式による法適合の判定を自動で行い、審査に活用したいという申請者側のニーズが生じることとなる。諸外国のBIM建築確認の発展の過程を見ていると、建築許可、建築確認においてBIMを試行する段階で、起こりがちな状況のようである。このような状況において、審査者側は、「BIMは本当に信用に足るのか?」という疑念を持つこととなる。図-4は、buildingSMARTの法 規 部門(Regulatory Room)の議論に供されたものであるが、申請者側はBIM利用が増えるにつれ申請作業を一元化したい要求が強くなる一方、審査者側(規制側)とすると、「信用のおけない技術導入に向けた規制緩和はけしからん」、というわけである。しかし、設計者側が持つ、効率化の体験を審査者側で追体験し、一種の成功体験を経ることにより、BIMの活用に向かうものと理解されている。
 

申請者と審査者(規制側)との間のBIMの意識の違い

図-4 申請者と審査者(規制側)との間のBIMの意識の違い 4)

 
わが国においてもその状況は変わらず、事前相談段階におけるBIMモデルの供覧は、一種の成功体験を醸成するものとして期待されるが、BIMデータを活用した建築確認申請に至るためには、Step2+やStep3-、3のBIMデータに直接アクセスする審査が実現されなければならないが、「法適合判定がモデルのデータを使って確認ができれば良い」というだけでは審査実務に適用するには不十分である。
 
 

BIMデータの活用に向けた課題

まず、現行の建築確認審査においては、設計者が建築基準法施行規則に従って表現した明示すべき事項を図に表現し、その表現を基に、審査者側は、規則により申請者が審査項目の内容について明示した事項について、審査者側はその内容について確認処分を行うものであるのに対し、BIMデータによる審査の場合は、明示すべき事項が容易に確認することができず、BIMデータから審査者が審査項目に当たるデータを能動的に検索して、その内容の確認処分をすることとなる。つまり、BIMデータによる審査の場合に、申請者側の明示義務を果たすこととなるかという懸念である。これについては、私見ではあるが、BIMモデル閲覧における明示すべき事項の要件と、当該事項の有無や内容の確認にかかる確認処分行為の業務方法について規定を定め、コンセンサスを得ることで対応しうるのではないかと考えている。
 
また、審査後のデータの取り扱いについても、申請用データの検証性や真正性などを確保する技術が必須である。特に、確認審査手続きで審査機関側に求められる15年間の図書保存に対して、BIMデータの見読性や検証性を担保できる技術的裏付けが現時点でないのが実情である。
 
長期にわたる検証性を確保するためには、データフォーマットが規格等で定義されていて、仮にデータ作成時の規格が古いものとなった場合にでも、旧の規格に基づいてそのデータの確からしさが検証できることが望まれる。Step1+の場合、図面データはISOで定義されるPDFとして保存することでその要件を満たすことができる。そのため、Step2+以降でBIMデータを取り扱うためには、ISOで定義されるIFCによることが想定される。建築確認審査でBIMデータを取り扱うためには、全ての情報をIFCとして受領することはすぐには難しく、データとして審査する内容をIFC、その他の図面表現により審査する内容をPDFとして、双方を併せて確認するケースが想定される。その場合、審査の対象となるデータファイルがIFCとPDFと分離するため、相互の整合を確認するために、PDF図面表現とIFCモデルビューを重ね合わせる技術の開発が必要となる。
 
データの真正性確保の考え方については、建築確認手続きで提出する図書の押印が廃止される運びとなっているが、真正性の内の本人性の確認手段が、電子署名に代わる方法で行って良いということであり、長期にわたるデータの完全性や原本性について、電子署名あるいはタイムスタンプといった措置を不要とするものではないと考えている。PDFについては、すでに電子申請のファイルとして電子署名に対応しているが、IFCについては、XMLファイルに対する電子署名が応用できると見込まれているが、取り扱うIFCファイルのサイズに対して、署名の処理時間が実用的であるかなど、その知見がまだ不足しており、検証が必要である。また、BIMデータを、審査機関で取り扱うための基盤のあり方についても、検討が必要である。BIMのデータマネジメント手法については、ISO19650で定めるCDE(共通データ環境)の方法に準拠することが望ましいと考えられる。
 
 

建築確認BIMデータの活用の将来

確認審査時にBIMデータを受領して建築確認を行った場合、提出されたBIMデータは正本としての位置付けとなると考えられ、着工後の中間工程検査、完了時検査において、正本としてのデータに対して検査が行われることが考えられる。例えばStep3のような、BIMデータのみで確認がされている場合、確認済みのBIMデータに対して施工の結果を検査することになるということである。その場合、確認済みBIMデータと遠隔臨場技術と組み合わせたリモート検査の実現など、withコロナ時代に対応する新しい検査の方法の開発も近い将来に開発されるかもしれない。
 
また、実際の建築物の形状や性能を高精度でBIMモデルに表現し、建築物のオンデマンドあるいはリアルタイムの制御をBIMモデルで行おうとする、Digital Twinの議論が活発となっているが、少なくとも、オンデマンドの法適合確認ができるようなモデリング手法の開発も行われることになるだろう。
 
欧米では、図-5のような、建築許可の段階で、地理情報(GIS)と連携したデータの取り扱いが行われており、Virtual Cityへの展開など、ビッグデータとして活用する取り組みも現れてきている。わが国においても、単に審査機関のみの情報基盤というだけでなく、構造計算適合判定や消防同意などの外部の審査・同意行為との連携や、建築確認概要書等の特定行政庁へのデータ連携など、データによる審査の効率化、Smart City構築につながるような、データの高度利用のためのプラットフォームとして機能するための設計も必要であろう。
 

ノルウェーのBygglett(簡易な建築許可)

図5 ノルウェーのBygglett(簡易な建築許可)システムデモ画面 5)




 
 


図表出典、参考資料等
1)令和元年度革新的事業活動に関する実行計画(令和元年6月21日閣議決定)、p36
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ps2019.pdf
 
2)建築確認におけるBIM活用推進協議会HP
https://www.kakunin-bim.org/
 
3)武藤正樹:「BIMと建築確認検査業務への応用」、 えぴすとら73号、 2016.4、建築研究所
https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/epistura/pdf/73.pdf
 
4)Ma s aki MUTO: e-submissioncommon guidelines for introduce BIM to building process、 Fig.10 Difference in consciousness of BIM between applicant and regulators、 p12、 buildingSMART International Technical Report No. RR-2020-1015-TR、 2020.10
https://www.buildingsmart.org/standards/bsi-standards/standards-library/#reports
 
5)https://bygglett.catenda.com/
 
 

国立研究開発法人建築研究所 上席研究員 武藤 正樹

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



いまさら聞けない BIM/CIMの始め方

2021年9月13日

 

BIM/CIMの状況

周知の通り、国土交通省は令和2年9月の第4回BIM/CIM推進委員会にて、「令和5年度(2023年度)までに小規模を除く全ての詳細設計・工事においBIM/CIMを原則適用」という方針を示しました。
 
また、CIM導入ガイドライン(案)は、「設計業務等共通仕様書」の構成に合わせて、より業務内容との関係性を明確にして参照しやすくするために、BIM/CIM活用ガイドライン(案)への再編が行われ、共通編については、令和2年3月に公開されました。令和3年度には河川編、砂防および地すべり対策編、ダム編、道路編などが公開されます。
 
このようにBIM/CIMの世界は毎年急速にバージョンアップしていますので、常に情報を把握することが重要です。
 
弊社が受託しているBIM/CIMモデル作成の依頼では、昨年度よりモデリング相談が漸増し、本年度はさらに新たな顧客からの相談が急増している状況から、業界全体が大きく変わってきているのが手に取るように分かります。
 
新たな相談の中で最も多いのが、「BIM/CIM活用業務ではないけれど、会社として取り組みをしていきたいが、どうすれば良いでしょうか」という相談です。今までも国土交通省の発表や各種団体のセミナーなどで情報を把握していたけれど、いざ具体的な取り組み方についてとなると経験がないので分からないということです。
 

BIM/CIMの詳細設計・工事への適用のロードマップ(案)

国土交通省 第4回BIM/CIM推進委員会資料より抜粋



弊社もCIMという言葉が出てきた平成24年度あたりの時点では、取組順序も分からず、何が正解かも分からずやってきましたが、さまざまな経験から得たものがあり、今回ここにこれから取り組む際に知っておくべきことを紹介したいと思います。
 
 

まずは3次元データの特徴を把握する

BIM/CIMを始めようとすると、すぐにどのソフトを選定すれば良いかとか、後述するリクワイヤメントを満たすには、どうすれば良いかと考えがちですが、ソフトを買えばできる訳でもなく、単に3次元化するだけでは、自分たちの生産性向上は図ることはできません。
 
まず、初めに必要なのは、土木で利用する3次元データの特徴を把握する必要があります。土木で利用する3次元データには、下記の3種類のデータがあります。3Dポリラインなどの線(ワイヤーフレーム)は今回除いて考えます。
 
・ソリッドモデル
・サーフェスモデル
・点群データ
 
ソリッドモデルは、中身の詰まったデータで、豆腐のようなものです。土木では「構造物」で利用します。単体で体積を算出したり、形状に属性を付与することが可能です。

 
土木で利用する3次元データの特徴


サーフェスモデルは、表面だけのデータで、ブルーシートのようなものとなります。
 
土木では「現況地形」「造成後の法面」などに利用します。
 
単体だと表面積しか算出できませんが、複数のサーフェスデータがあれば、差分計算により土量計算に活用できます。
 
中にはソリッドモデルに見えるサーフェスモデルというものもありますが、今回の解説は省略します。
 
土木で利用する3次元データの特徴

点群データは、集合体で見ると地形や建物が3次元に見えますが、1点につきXYZの座標を持つデータです。
 
点群単体で、「現況」の状況が見えるだけでなく、必要な個所をデータ上で計測が行える他、点群からサーフェスを作成することも可能です。
 
また点群を削除することで、新しい景観を見ることが可能となります。
 
土木で利用する3次元データの特徴

これら3種類のデータは、複合的に利用しても単体で利用してもBIM/CIM活用をしているといえます。ただし、どの工種にも使えるわけではないということに加え、異なる特性のデータなので、扱うソフトウエアが異なるということに、気付いていただきたいのです。
 
対象の工事でどのデータが必要になるかを先に知ることが重要であったりします。
 
例えば、起工測量時に点群をとっておけば、施工計画書作成にも利用できますし、これから施工する3次元モデルを配置する3次元の現況図を別途作成する手間が省けてBIM/CIM活用にもなり、生産性向上にもつなげられたりするからです。
 

土木で利用する3次元データの特徴

福井コンピュータ株式会社提供



工種によるデータの違いとソフトウエア選定

2次元CADもソフトウエアによって特徴がありますが、3次元は次元が増えた分、当然ながら倍以上のソフトウエアの種類や特徴があります。
 
3次元CADは、自動車業界、映像・ゲーム業界、建築業界などで発展してきました。
 
これらの業界では、作成するモデルは自動車業界ならクルマ、建築業界なら建物といったように作るものは一貫性があり、形状が異なるだけなので複数のソフトウエアを利用する必要がありません。
 
一方、土木業界は多種多様な工種があるので、異なる3次元データを混在させたり、使い分けたりする必要があります。
 
では土木業界で必要な3次元モデルは工種によってどのように分類されるのでしょうか。
 
3Dデータと工種のポジショニング

上図のようにサーフェスとソリッド、地形を含む工種と単体で成り立つ構造物で分類すると、多種多様なのが分かります。
 
この図からも分かるように、当然、利用するソフトウエアも異なってきます。
 
・ 地形が絡む工種(現況地形、計画地形、道路、河川)
 
地形が絡む工種(現況地形、計画地形、道路、河川)

・単体で成り立つ工種(構造物、仮設)
単体で成り立つ工種(構造物、仮設)

ここで重要なのは、BIM/CIM対応するためには、数種の3DCADを利用しなければならないことです。
建築と土木は同じ建設業界ですが、考え方が大きく異なることを知っておくべきです。
 
構造物は地形上に存在し、施工段階の状況(土工事や地形なりの構造物)を複合的に表示したりしますので、サーフェスデータとソリッドデータを同じ空間で表示する、いわゆる統合モデルを作成する必要が生じることもあります。
 
上記のような理由から、会社全体で統一したソフトウエアを選定するのではなく、工種ごと(担当部署ごと)に選定し、複数のソフトウエアを組み合わせて利用することを推奨します。
 
 

詳細度によるデータの違い

工種により作成するデータやソフトウエアが異なることを理解しただけでは不十分です。
 
BIM/CIMに対応するためには、詳細度(LOD:Level Of Detailsの略)を考慮したデータを作成する必要があります。
 
詳細度は、LOD100 ~ LOD400まで4段階あり、3次元モデルの利用シーンによって、どこまで詳細に作成すべきかを決めて作成します。
 
3次元をやったことない方が最初に壁となるのは、この詳細度といっても過言ではありません。
 
全ての構造物データを一番詳細なモデルであるLOD400で作成すれば、積算も可能になってきますので(積算については他の問題点もありますが)、これでなければBIM/CIM活用ではないと思っていないでしょうか。
 
図-1のように鋼構造物は重要となる場合がありますが、どのような工種でもいつも必ずその詳細度は必要があるでしょうか?
 

詳細度によるデータの違い

図-1
LOD400の例:オフィスケイワン株式会社提供



例えば、道路工事の場合、L型街渠を1本ずつ作る必要があるでしょうか?そこまではほとんどすることはないので、大げさな話ですが、LODを詳細にすると当然作業時間も膨大になるということです。
 
国土交通省は2023年度までに小規模を除く全ての公共工事でBIM/CIM化と言っていますが、詳細度については指定していません(図-2)。
 

土木分野におけるモデル詳細度標準(案)

図-2
出典:土木分野におけるモデル詳細度標準(案)
【改訂版】平成30年3月 社会基盤情報標準化委員会 特別委員会



詳細度は下図のように定義されていて、BIM/CIMをどのシーンでどのように活用し、どのような効果が得られるのかによってLODを決めてやっていくことも重要なポイントだと思います。3次元から少し離れた話になりますが、地図情報においてこの詳細度について考えてみてください。
 
都道府県を表示している時は主要な道路くらいしか表示されていないのに対し、自分の住んでいる地域を表示している時には主要道路に加え、街区道路や住宅が表示されています。
 

尺度による表示内容の違い

尺度による表示内容の違い:地理院地図より引用



つまりエリアが広範囲の場合は街区道路があっても見えないため、詳細度を下げ、エリアが狭い場合は詳細な情報が必要なため、詳細度が高くなっています。
 
BIM/CIMも同様に利用シーンによって詳細度は変えるべき(常に詳細に作る必要はない)と私は思っています。生産性向上、問題点の解決など、意味のある3次元モデルを作成することを強くお勧めします。
 
 

2次元CADの使い方と異なる点

現在は3次元での設計までは実現できていないことが多く、設計された2次元図面から3次元モデルを作成することがほとんどです。
 
その際に必要な知識としては、2次元図面では1工事単体で図面の役割を成していましたが、土木における3次元の場合は、地理空間上の構造物として管理するために単位を合わせる必要があり、m単位、少数点以下第3位までの管理となります。
 
平面図においては、図面枠内に作成していたのに対し、方位や座標をCADデータそのものに与えることに加え、測地座標系を設定する必要が生じます。
 
そのため、測地座標系は世界測地系(測量成果2011)とし、平面直角座標系を用い、m単位で統一することになります(管理する数値は小数点以下第3位まで)。
 
さらには、基準水準面については、T.P.(東京湾中等潮位)を標準とするので、A.P.やO.P.は変換した高さに変換しなければなりません。
 
構造図の場合は、現状ではmm単位で作図されていることが多いと思いますが、3次元ではm単位で作図して小数点以下第3位の精度でモデリングします。
 
3次元データに取り組む際に、2次元図面の描き方も変化を求められているのです。
 
さらに3次元図面を作図するためには、画面を上から下からまたは左右からと動かしながら作図します。画面表示の変化が激しいため、PCのスペックが乏しいと動かなくなってきます。
 
 

必要なハードの環境

BIM/CIMに取り組む際によく聞かれる項目の一つがPC環境です。そしていつも回答することは、作成する3次元データによって異なるということです。点群を扱う際や3次元モデル作成の範囲が広ければ、情報量が多いため相当なスペックが求められます。単体の構造物で配筋などが入らないLODが低いデータであれば、それほど高スペックでなくても良いこともあります。全員のPCを高スペックにするのではなく、作成するモデルによってPCを使い分けるのも手です。
 
推奨スペックは扱う3Dモデルによって異なります。
・点群処理、広範囲の場合やVRの場合
・単体のモデリング程度の場合
(表-1)
 

BIM/CIMに取り組む際に必要なハードの環境

表-1



人材育成

土木業界では今まで3次元に取り組んでいませんでしたので、BIM/CIM作成ができる人材はほとんどいないのが実情です。他の業界(建築や機械業界)でモデリングできる人を探す方法もありますが、構造物のモデリングはすぐにできるようになる一方、サーフェスモデルは土木の図面を読み取る力が必要なので、特に時間がかかります。メーカー各社の研修を積極的に受講することをお勧めします。
 
 

事例

 

CIM導入ガイドライン 下水道編

CIM導入ガイドライン 下水道編 R1.5 国土交通省抜粋




施工計画の例

施工計画の例:福井コンピュータ株式会社提供




点群活用の例

点群活用の例:株式会社デバイスワークス



要求事項(リクワイヤメント)について

BIM/CIM活用の実施方針として、要求事項(リクワイヤメント)という言葉があります。
 
これは、BIM/CIMモデル作成に関する発注者の要求事項ということですが、必須項目としては、
・CIMモデルの作成・更新
・属性情報の付与
・CIMモデルの照査
・CIMモデルの納品

選択項目としては、表-2から5項目
を選択することになっています。
 

要求事項(リクワイヤメント)選択項目

表-2



要約すると、
・CIMモデルの共有、確認
・情報共有システムによる情報連携
・後工程で活用できる必須項目以外の
属性情報
・施工ステップの確認、工程連携
・モデルからの自動数量抽出
・2次元図面との整合性を確認する3DAモデル作成
・3次元モデルおよび属性を活用した照査
・ICTによる3次元計測と3次元モデルでの検査
・CIMモデルを活用した仮設計画、施工計画
を選択することになっています。
 
リクワイヤメント必須項目で出てくる属性情報について、どんな属性を入れれば良いかという議論が必ず出てきます。
 
例えば、今回の案件が道路設計だとします。
 
道路設計には、サーフェスモデルで作成される道路線形や法面に加え、BOXカルバートのようなソリッドモデルが共存することが多いと思います。
 
ここで重要なのは、リクワイヤメントを対象範囲全体でやる必要はないということです。この例で言えば、属性としては道路の中心線形はJ-LandXMLによって属性情報が入ります。道路線形情報は、施工者側にデータが渡る際に非常に重要な役割を果たしますので、この属性情報を作成すれば良いのです。
 
このデータがあるとMG(マシンガイダンス)で利活用でき、施工者側が生産性向上を図れるのです。BIM/CIMはデータが活用できなければ意味がありません。自分たちが便利になることも重要ですが、業界全体がトータル的に生産性向上に図れるように考えるべきだと思います。
 

構造物モデルは、施工者側でコンクリート打設リフトの情報などの属性を入れるなど完成形状にだけ属性を入れるなど、作業途中の情報を入れることも可能です。
 
BIM/CIMを行うに当たって、見栄えの良い実績となる配筋のモデリングを望む声が多く聞こえます。しかし私は必ずしも重要だと考えていません。設計図どおりに作成すると継ぎ手は重なってしまいますので、干渉チェックをする際にはわざわざ動かしておかなければなりません。
 

継手部分の重なり

継手部分の重なり



確かに数量は算出できますが、2次元図面から作っているだけなので、数量は分かっています。設計ミスを見つけることはできるかもしれませんが、作業ボリュームに対する費用対効果があまりないと思います。
 
鉄筋の取り合い(補強筋など)を確認する箇所だけ作成すれば良いと思います。
 
属性を利用して数量を算出する際に、3次元モデルを作成すれば本数などを計上することができ、効果的になると考えて、鉄筋の属性を入れることが挙げられますが、鉄筋が全て入っていなくても参照による属性管理をすることが許されていますので、参照(リンク)による対応も考える方が得策かもしれません。参照情報のデータベースがあれば積算につなげられますので、3次元モデルとは別途作成して管理することも考えてみてはいかがでしょうか(図-4)。
 

BIM/CIM活用ガイドライン(案)

図-4 BIM/CIM活用ガイドライン(案)共通編 R2.3 国土交通省



鉄筋の例のように、全てを3次元化しようとするのではなく、費用対効果を考えて協議すべき箇所についてBIM/CIM化をすべきだと考えています。
 
BIM/CIMを始める際に、最初から難しいことをやろうと考えると非常に大変です。できるところから取り組んで、そこから飛躍していっていただければ幸いです。
 
最後にBIM/CIMは1年ごとに進展しています。常に最新の情報を取得していくこと
が大切です。
 
国土交通省のBIM/CIMポータルサイトを確認して実施方針やガイドラインを確認するようにしましょう。
http://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/bimcimindex.html
 
 

問い合わせ先

株式会社デバイスワークス
東京都中央区日本橋茅場町2-14-7
日本橋テイユービル1F
03-6661-7771
代表取締役 加賀屋 太郎
Email:consul@deviceworks.co.jp

株式会社 デバイスワークス 代表取締役 加賀屋 太郎

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



大学におけるBIM教育の先進事例 「広島工業大学 建築デザイン学科」 -アナログとデジタルの両端から建築のリアルを捉える-

2021年9月4日

 
広島工業大学 建築系学科


広島工業大学の建築系学科は、工学部につくられた建築学科に始まり、同学部で発展した建設工学科と、環境学部の環境デザイン学科に派生している。われわれが所属する建築デザイン学科は、建築系学科創設50年の節目に、約20年間続いた環境デザイン学科の改編に伴いスタートした新しい学科である。前身である環境デザイン学科では、広島を代表する建築家・村上徹が中心となり、現在の設計教育の土台を築いた。建築デザイン学科は、この設計教育を母体とし、より幅広いものづくりを視野に入れたカリキュラムが特徴である。
 
 

カリキュラムの新たな柱

建築デザイン学科では、「建築」を軸とし、「インテリア・木工」と「デジタルデザイン」を新たな柱として加えた。これら2つの柱を加えた理由は、現在の建築教育において、木材などのリアルな材料に触れるものつくりが少なくなっていること、また日本の建築教育におけるデジタル技術の導入が、海外と比べ著しく遅れていることが挙げられる。今後建築業界にロボットやAIなどが浸透していく段階においては、伝統的な技術を含めた既存のやり方と、最先端の技術の両方を理解し、それぞれの良さを尊重させながら、うまく組み合わせていく人材が重要になってくる。新カリキュラムでは、そのような建築の未来像を見据えた内容といえる。
 
広島工業大学のカリキュラムの新たな柱 広島工業大学のカリキュラムの新たな柱


広島工業大学のカリキュラムの新たな柱 広島工業大学のカリキュラムの新たな柱


全ては手から始まる

「インテリア・木工」ではこれまでの伝統的なものつくりを学ぶために、本格的な木工機械を取りそろえた「木工房」を整備し、そこで1年生の最初の設計演習として『デザインワークショップ』をスタートする。この授業の初回は、入学直後の1年生を対象とした新入生オリエンテーションにて実施する。同オリエンテーションでは、広島県木材組合連合会や広島の家具メーカー協力の下、午前中に広島近郊の山林に行き、間伐材の伐採を体験する。午後は製材所を訪れて丸太が製材に変わる過程を、夕方には家具工場で製材が木製家具になる過程を学び、日ごろ何気なく使っている椅子や机などが、山林からどのようなプロセスを経てわれわれの手に届いているのかを体験する。そこから3カ月かけて、木製ベンチのデザイン・設計、ならびに制作を行う内容となっている。
 
この授業は専任教員が全員で担当しており、各教員が5人1組のグループを2つずつ受け持つ。意匠だけでなく、構造や環境、生産や木材加工を専門とする教員が一堂に会して学生を指導することで、形態や座り心地だけでなく、耐久性や生産性といったさまざまな視点からデザインを検討することを目指している。またこのベンチつくりには1脚当たりの予算と工期を設定しており、学生は、木材の使い方や、加工の方法、さらには木取図の作成を通しての積算など、建築の設計においても最低限必要な意識を植え付ける。
 
 

世界との溝を埋めるデジタルデザイン教育

本学科のデジタルデザイン教育は、『コンピュテーショナルデザイン(1年後期)』『デジタルファブリケーション(2年前期)』『BIM実習(2年後期)』の、「デジタルファブリケーションラボ」にて実施する3つの授業が中心となっている。日本の建築教育においては、まだまだデジタルvsアナログの議論が収束しそうにないが、そんな間にも海外の大学との差が大きくなりつつある。また、建築業界はBIMへのシフトが加速しており、絶対的な人材の不足が大きな課題になっている。今後の変化に対応すべく、建築を学ぶ学生はデジタルとアナログを横断するコンピュテーショナルな思考を養い、つくりながら考える力を身に付ける必要がある。そのような力を伸ばすために『コンピュテーショナルデザイン』では、国際的なデファクトスタンダードの3DCADとなりつつあるRhinocerosを使い、3 次元で考え、3 次元でデザインする基礎スキルを身に付けるとともに、Grasshopperを使ったパラメトリックモデリングでプログラミングを通したモデリングを学ぶ。その後、『デジタルファブリケーション』では、レーザーカッターやNC加工機といったデジタル加工機を使い、3DCAD上に作られたモデルを模型やモックアップに具現化するスキルを学ぶ。これらデジタル加工機を使ったプロトタイピングを繰り返すことで、コンピューターの中では見えてこない問題を見つけ出すと同時に、材料の特性に触れながら構造的な検討や実際の組み立て方などを考える。そういったデジタルデザインの土台の上にBIMやプログラミングを武器に、日本国内に限らず、世界に飛び出していける技術者を育てる設計教育を目指している。
 

広島工業大学のデジタルデザイン教育



広島工業大学のデジタルデザイン教育 広島工業大学のデジタルデザイン教育


多角的な視点から建築デザインにトライする

また3年生後期の授業に『デザインスタジオ』がある。これは3年前期の研究室配属以降、研究室ごとに専門的な学びを深めている3年生最後の設計演習である。『デザインスタジオ』では、各教員の専門領域を活動対象にすることで、建築デザイン学科の幅の広さを象徴する授業を目指している。
 
この『デザインスタジオ』では、3年間継続される「共通テーマ」に沿い、各ゼミで「ゼミテーマ」を設定して課題に取り組む。ちなみに2018~2021年の共通テーマは「TRANSITION(移行、変遷、変わり目)」である。われわれの生活自体が大きく変化する時代である今こそ、あらためて「過去」から「現在」を見つめ直し、「現在」から「未来」をデザインすることを目指し、各研究室の専門領域において思考するとともに、「社会実践的なものつくり」にトライしている。
 
 

設計教育の設計

ここまで、わが学科の方針や主要科目について概説したが、「設計の科目は?」と思われた方もいると思う。最後に、わが学科における「設計教育の設計」についてまとめたい。
 
建築デザイン学科の設置にはさまざまなサブテーマを持って取り組んだが、その一つに「学生の設計離れ」があった。他大学の現状について数校にヒアリングを実施したが、この傾向はわが校だけの現象ではなかった。ヒアリングの過程において、教員らの多くは「学生のレベル低下」「根性の無さ」「安定志向」などなど、学生に対して攻撃的な意見は耳をふさいでも聞こえてきたが、これは外的要因に他ならない。われわれは、学生の設計離れの要因を大学における「設計教育」にあると捉え、その解決の一環として「さまざまな設計演習」を取り入れることとした。『デザインワークショップ』や『デザインスタジオ』など、前述した一連の設計演習に加え、HEΛIOΣ(ヘリオス)アカデミック版を活用したコストプランニング(自身が考えた建築コストをリアルタイムで体感する)などもこれにあたる。
 
広島工業大学の設計教育の設計 広島工業大学の設計教育の設計


広島工業大学の設計教育の設計


HEΛIOΣ(ヘリオス)アカデミック版を活用したコストプランニング教育

建築教育においてコストプランニングの教育が非常に遅れていることは周知の事実である。この原因の一つは、設計教育が構造や材料、設備などと連携が図られていないことに尽きると筆者らは考えている。設計=意匠といった教育を実施している学校・大学は少なくない。
 
このような状況を鑑み、わが学科では設計教育におけるBIM導入をにらみ、設計教育とコスト教育を連携した「コスト感覚の養成」を「建築積算演習(3年後期)」で試みている(今年で3年目)。
 
本演習では、HEΛIOΣ(ヘリオス)アカデミック版を使用しているが、市販のHEΛIOΣとアカデミック版の大きな違いは、数量ではなく値入れまでを自動演算してくれる点である。つまりアカデミック版では、学生が柱や壁、基礎や屋根を配置すれば造った部位ごとのコストが順に加算され『ここまで造るのにいくらかかるのか?』がリアルに体感できる。また本演習では、同一床面積の建物であっても、平面形状の違いにより壁長が変わればコストが変わること、地下1階地上2階と地上3階ではコストが変わること、すなわち「何によりコストが変わるのか?」をリアルに体感できる。
 
導入当初は学生の飲み込みを心配したが、『BIM実習(2年後期)』を学んだ後の学生はゲーム感覚でHEΛIOΣアカデミック版を活用してさまざまなパターンの設計にチャレンジしている。今後は建設費だけではなく、維持管理費を含めたライフサイクルコストの算出にもチャレンジしたい。引き続き、株式会社日積サーベイにご協力をお願いしたい。
 
 

さいごに

建築デザイン学科では、従来の設計演習における設計対象を拡大し、展開する全ての設計演習において「リアル」というキーワードを大切に教育に取り組んでいる。
 
建築業界のみならず、社会全体で急激にデジタル化が進む今だからこそ、われわれはアナログとデジタルの両端から建築のリアルを捉えて教育に取り組む必要があると考えている。
 
 
杉田 洋 Hiroshi Sugita
広島工業大学教授/1971 年広島生まれ。大阪芸術大学卒業。芝浦工業大学大学院修了。広島大学大学院博士課程後期修了。博士(工学)。建築保全。株式会社杉田三郎建築設計事務所、広島大学助手を経て2005年より現職。
 
杉田 宗 So Sugita
広島工業大学准教授/1979 年広島生まれ。パーソンズ美術大学卒業。ペンシルバニア大学大学院修了。広島大学大学院博士課程後期修了。博士(工学)。建築設計。米国や中国の設計事務所勤務の後、株式会社杉田三郎建築設計事務所、東京大学G30コースアシスタントを経て2015年より現職。

 
 

広島工業大学 環境学部 建築デザイン学科 教授 杉田 洋/准教授 杉田 宗

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



 


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