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国土交通省直轄土木工事における遠隔臨場の試行について

2021年7月19日

 

はじめに

人口減少社会を迎えた現在、建設産業は働き手の減少を上回る生産性の向上等が求められている。また、建設業就業者数の高齢化が進行し、中長期的な担い手の確保・育成等に向けての、働き方改革を進めることも重要な施策となっている。
 
このような現状を打破するために、国土交通省では、平成28年より「建設現場の生産性革命」に向け、i-Constructionを推進しており、ICT(情報通信技術)の活用やコンクリート工の規格の標準化、施工時期の平準化をトップランナー施策として位置付けている。また令和元年6月には公共工事の品質確保の促進に関する法律が改正され、災害時の緊急対応の充実強化、調査・設計の品質確保とともに、情報通信技術の活用等による生産性向上への取り組みや働き方改革の推進が位置付けられた。このように発注者の責務として、現在および将来にわたり、より良い品質のインフラを国民に提供するため監督・検査内容の充実、体制の確保と生産性向上が必要とされている。
 
一方で、令和2年には新型コロナウイルス感染症拡大防止を目的とし、建設現場においても人と人が密になる環境を避けるための非接触・リモート化を推進しているところである。
 
本稿は、ICT技術の活用により、建設現場の生産性向上とともに、公共工事の品質確保、品質確保の高度化の取り組みとなり、また非接触・リモート化の促進が期待される施策の1つである「建設現場における遠隔臨場の試行」について紹介する。
 
 

改正品確法と情報通信技術の活用

公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)は、公共工事の品質確保に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、 公共工事の品質確保の促進に関する基本的事項を定めることにより、公共工事の品質確保の促進を図り、国民の福祉の向上および国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている。
 
平成26年の改正では発注者の責務として、「工事中及び完成時の施工状況の確認及び評価を適切に実施すること」が盛り込まれ、また、工事に関する技術基準の向上に資するために必要な技術検査を行うとともに、要領や技術基準を策定することが盛り込まれ、これまで各地方整備局が制定していた要領等が厳格に法律に位置付けられた。
 
令和元年の改正では、建設業・公共工事の持続可能性を確保するため、働き方改革の促進とともに、生産性の向上が急務として、発注者の責務として「公共工事等の監督及び検査並びに施工状況等の確認及び評価に当たっては、情報通信技術の活用を図る」ことが、受注者においては「情報通信技術を活用した公共工事等の実施の効率化等による生産性の向上」と盛り込まれた。
 
改正品確法を受けて、現状における、受・発注者ともに限られた人員の下で監督・検査のさらなる充実を図るため、①合理的で不正の抑制に効果的な監督・検査方法、②受発注者相互による新たな品質管理マネジメントのあり方について、情報通信技術の活用の検討を進めている(図-1)。
 

情報通信技術の活用(品確法より抜粋)

図-1 情報通信技術の活用(品確法より抜粋)




 

監督検査における情報通信技術の活用の検討

施工データの改ざんなど不正行為を抑制・未然に防ぐとともに、現場での確認作業の効率化に寄与することを期待できるものとして、施工状況の映像記録の保存、施工データの自動計測やクラウド管理等のICT(IoT)の導入を検討している。
 
ビデオ撮影による施工状況を記録・保存することで、見られていることによる不正行為の抑止効果や工事現場の見える化による不安全行動の抑止、さらには、近景での撮影により、映像の解析技術などを併用することで映像記録・保存したデータを出来形確認に活用し、監督・検査業務の効率化へも寄与することが期待できる。
 
これらの技術の導入により「不可視部分の施工状況把握の充実」「不正行為の抑制」「確認作業の効率化」「工事書類の削減」の効果も発揮されると考える。
 
こうした技術の活用に当たり、実現場での試行工事を行い、「映像のみで施工状況を把握する方法」「データ改ざん等を防止する技術の確立」「ICT導入に関する基準類の整備」などの考えられる課題に対応検討していく。
 
また、検証に当たっては政府が科学イノベーションの創出に向けて平成30年度に創設した「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」の制度を活用して、建設現場の生産性を飛躍的に向上するプロジェクトにより選定されたコンソーシアムによる建設現場等でのさまざまなICT(IoT)の活用の検証を実施しており、令和2年度においても検証を実施している。
 
 

建設現場における遠隔臨場の試行

『遠隔臨場』とは、ウェアラブルカメラ等による映像と音声の双方向通信を使用して「段階確認」、「材料確認」と「立会」を行うものである。遠隔臨場の効果としては、発注者は事務所・出張所・詰め所等から施工現場への往復の移動時間を削減することができる。また、受注者は監督員の臨場における日程調整や立会待ちによる施工時間のロスを防ぐことができるため、両者にとっての業務効率化に寄与すると考えられる。図-2、3に概要と効果のイメージを示す。
 

遠隔臨場の概要

図-2 遠隔臨場の概要




遠隔臨場の効果

図-3 遠隔臨場の効果




遠隔臨場については、平成29年度から東北地方整備局において一部の工事で試行を開始し、平成30年度からは中部地方整備局においても試行を実施している。その結果、受注者における「段階確認に伴う手待ち時間の削減や確認書類の簡素化」や発注者(監督員)における「現場臨場の削減による効率的な時間の活用」等の有用性が確認されたため(図-4)、令和2年3月に「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)」(以下、「試行要領」という)、「建設現場における遠隔臨場に関する監督・検査試行要領(案)」(以下、「監督要領」という)を策定し、直轄土木工事の「段階確認」、「材料確認」と「立会」において、遠隔臨場を試行ができるようにした。
 
本要領は、遠隔臨場を適用するにあたり、受発注者の作業効率化を図るとともに、契約の適正な履行として施工履歴を管理するために、以下の事項について適用範囲や具体的な実施方法と留意点等を示したものである。
・適用の範囲
・遠隔臨場に使用する機器構成と仕様
・遠隔臨場による段階確認等の実施および記録と保管
過年度の遠隔臨場試行における意見

図-4 過年度の遠隔臨場試行における意見



1)適用範囲

遠隔臨場の機器を用いて、『土木工事共通仕様書(案)』に定める「段階確認」、「材料確認」と「立会」を実施する場合に適用する。
 
受注者がウェアラブルカメラ等により撮影した映像と音声を監督職員等へ同時配信を行い、双方向の通信により会話しながら確認し、試行内容に応じて録画するものである。
 
ウェアラブルカメラとは、ヘルメットや体に装着や着用可能(ウェアラブル;Wearable)なデジタルカメラの総称であり使用製品を限定するものではない。一般的なAndroidやi-Phone等のモバイル端末を使用することも可能である。
 
ウェアラブルカメラ等の機器を用いて、映像と音声の同時配信と双方向の通信を行うことにより、監督職員等が確認するのに十分な情報を得ることができた場合に、臨場に代えることができるものとする。監督職員等が十分な情報を得られなかったと判断する場合には、受注者にその旨を伝え、通常どおりの段階確認を実施する。
 
なお、録画を必要とする場合は、確認実施者が現場技術員の場合であり、監督職員が実施する場合は、録画や写真は不要として、提出書類の削減に資する配慮も行っている。 
 
1)適用範囲

2)使用機器と仕様

遠隔臨場に使用するウェアラブルカメラ等の機器は受注者が準備、運用するものとする。
 
(1)映像と音声の「撮影」に関する仕様
本試行に用いるウェアラブルカメラ等による映像と音声の「記録」に関する仕様を次に示す。なお、映像と音声は、別々の機器を使用することができるものとし、夜間施工等における赤外線カメラや水中における防水カメラ等の使用や固定カメラの使用なども妨げるものではない。
 
機器の仕様については試行した現場においてはズーム倍率では画像が粗くなり配筋状況を確認する上からハイスペックを望む声を反映している。ただし、令和2年度の試行工事においては、機器の仕様の運用を一部変更している(後述)。
2)使用機器と仕様
※令和2年度の試行における仕様については「6)令和2年度における遠隔臨場の試行」参照
 
(2)映像と音声の「配信」に関する仕様
ウェアラブルカメラ等にて撮影した映像と音声の「配信」に関する仕様を次に示す。ただし、令和2年度の試行においては、機器の使用と同様に、転送レートの運用を一部変更している。
(2)映像と音声の「配信」に関する仕様
※令和2年度の試行における仕様については「6)令和2年度における遠隔臨場の試行」参照
 

映像と音声を送信しモニターで確認するシステムは、複数の通信機器などのメーカーがクラウドも含めたシステムを構築しているので、受注者がどの会社を選定するかは自由である。また、試行ではウェアラブルカメラと撮影状況の確認用に手元にモニターをセットしている事例がある。

3)実施

段階確認等を行う箇所については、受注者がウェアラブルカメラ等により撮影した映像と音声を監督職員等へ同時配信を行い、双方向の通信により会話しながら監督職員が指定して確認する。
 
受注者は、「工事名」、「工種」、「確認内容」、「設計値」、「測定値」や「使用材料」等の必要な情報について適宜黒板等を用いて表示する。記録に当たり、必要な情報を冒頭で読み上げ、監督職員等による実施項目の確認を得ること。また、終了時には、確認箇所の内容を読み上げ、監督職員等による実施結果の確認を得ること。

4)記録と保存

受注者は、遠隔臨場の映像と音声を配信するのみであり、記録と保存を行う必要はないとして書類の省力化を図っている。
 
ただし、確認実施者が現場技術員の場合は、映像と音声の録画を必要とする。

5)留意事項 

工事記録映像の活用に際しては、画面や音声に移るプライバシーに関しての特有の問題があるので留意する必要がある。
 
・被撮影者である当該工事現場の作業員に対して、撮影の目的、用途等を説明し、承諾を得ること。
・作業員のプライバシーを侵害する音声情報が含まれる場合があるため留意すること。
・施工現場外ができる限り映り込まないように留意すること。
・受注者は、公的ではない建物の内部等見られることが予定されていない場所が映り込み、人物が映っている場合は、人物の特定ができないように留意すること。

6)令和2年度における遠隔臨場の試行

令和2年度においては、遠隔臨場の試行拡大と新型コロナウイルス感染拡大防止のため、遠隔臨場により取り組みやすくなるように「建設現場における遠隔臨場の令和2年度の試行方針」(以下、「令和2年度方針」という)を策定した。
 
令和2年度試行方針においては、試行における費用負担の考え方について、発注者指定型として試行するものについては、試行にかかる費用の全額を技術管理費に積み上げ計上し、発注者が負担することとした。また、新型コロナウイルス感染拡大防止対策として試行する場合は、発注者指定型として試行することとしており、感染症対策としても積極的に試行できるようにした(図-5)。
 

令和2年度における遠隔臨場の費用負担の考え方

図-5 令和2年度における遠隔臨場の費用負担の考え方


 

また、“映像と音声の「撮影」に関する仕様”および“映像と音声の「配信」に関する仕様”については、それぞれ試行要領に示す仕様から変更することを可としており、より試行に取り組みやすくなるようにした(表-1)。

表-1 令和2年度方針における各仕様

表-1 令和2年度方針における各仕様


 

令和2年度においては、全国の直轄工事現場で560件程度の試行工事を実施する予定(令和2年9月末時点)であり、全国的に積極的に、遠隔臨場の試行に取り組まれている。
 

  • 写真-1 監督員の確認状況

    写真-1 監督員の確認状況

  • 写真-2 撮影者

    写真-2 撮影者

  • 写真-3 現場の状況

    写真-3 現場の状況


 

おわりに

令和2年は、新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言時に河川や道路などの公物管理、公共工事については事業の継続が求められ、受発注者双方においてテレワークの推進や「三つの密」の回避等の感染防止対策を徹底することとして対応しているが、建設現場におけるリモート・非接触といった視点では、遠隔臨場の活用は有効であり、引き続き積極的な活用を求めている。
 
今後、令和2年度における多くの試行結果を元に試行要領他の内容を見直し、早期の社会実装に向けて取り組んでまいりたい。あわせて、「段階確認」、「材料確認」と「立会」のみでなく、中間検査や完成検査においての活用も見据えて、検討を続けたいと考えている。
 
遠隔臨場の全国的な試行は開始したばかりであり、機器の確保や通信回線、費用負担の考え方等の課題も考えられるが、今後もますますの取り組み拡大により、建設現場の生産性向上・効率化、また感染症改題防止を進めていく。
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



橋梁建設における VR・MRの活用について

2020年8月26日

 
国土交通省は、2025年までに建設現場の生産性を20%向上させる目標を立てて、建設業界全体でi-Constructionを推進しています。その実現にはICT技術の活用は必須となっています。「CIMモデルをどう作るか?」から「どう使うか?」に課題が進展している昨今、CIMモデルを活用した仮想現実(VR)技術や複合現実(MR)技術の現場導入が進められています。ここでは、オフィスケイワンが取り組んでいる橋梁の設計・施工におけるVR・MR技術事例についてご紹介していきます。
 
 


 

橋梁施工におけるVR技術の活用事例

VRとは Virtual Reality (バーチャルリアリティー)の略で、仮想現実と訳されます。コンピューターや身体に装着する機器を用いて人間の視覚や触覚などの五感を刺激し、あたかも現実かのように体感させる概念や技術を指します。コンシューマー向けに安価なデバイスが発売された2016年はVR元年といわれ、建設業でもVR導入事例が発表されるようになりました。オフィスケイワンは2016年後半にHTC社のVIVEというヘッドマウントディスプレイ(ヘッドセット)を導入し、橋梁向けコンテンツの研究開発に取り組みました。その成果のうち、3つのVR事例をご紹介します。
 
 
(1)安全教育ツールへの適用
ベテラン技術者のノウハウ伝達、技術継承のツールとしてVR技術の利用が効果的といわれています。例えば現実世界では実習が難しい労働災害事例を体験できるのはVR技術ならではです。
 
その労働災害で高い比率を占めるのが、玉掛作業、クレーン、高所作業などによる、挟まれ・巻き込まれ、墜落・転落、転倒です。どのようなシーンに労働災害の芽が潜んでいるかを体験できるのが「橋梁工事VR安全教育システム」です。プレイヤーはヘッドセットを頭部に装着し、バーチャル空間に再現された橋梁工事の現場で、アナウンスに従って作業を進める中でこれらの労働災害を体験することが可能です(図1-1)。このシステムは、高い臨場感と没入感の中で被災体験をすることで、実際の現場での危険予知レベルの向上、安全意識の向上に役立てることを目的としており、実際の工事現場で利用されています(図1-2)。またプレイヤーが被災状況を俯瞰して振り返る機能を持たせることで安全学習の効果を高める工夫もあります。本システムは2017 年より橋梁メーカーとオフィスケイワンが共同開発に着手し、災害事例を10シーン体験できるシステムです。なお、この技術は国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)にも登録(KK-180029-A)が完了しています。
 
 
図1-1 橋梁工事VR安全教育システムのコンテンツイメージ

 
図1-2 現場事務所でのVR安全教育事例 (写真提供:株式会社駒井ハルテック)


(2)溶接施工シミュレーション
鋼橋の工場製作において部材が密集した狭隘部の溶接施工には慎重な事前検討が行われます。従来は発泡スチロールで実寸大のモックアップを作成して、実施工の前に溶接部が目視可能であるかや、溶接姿勢がとれるかなどの施工性を検証していました(図-2)。この検証手法は確実ではありますが、モックアップ制作に時間を要し、保管場所などが課題でした。その代替手法としてVR技術に着目し、狭隘部のCIMモデルをVRデータに変換して、仮想現実空間で溶接施工シミュレーションを行うシステムを開発しました(図-3)。頭部に装着したヘッドセットや身体に装着したトラッカーセンサーと、CIMモデルが干渉した場合は、警告音を出して体験者に知らせる機能があります。トラッカーセンサーの装着に時間を要するためどうやって簡素化できるかが課題ですが、動作解析などに利用されているモーションキャプチャー技術の適用検討など、引き続き研究を進めています。
 

図-2 従来のモックアップによる施工性検証
(写真提供:宮地エンジニアリング株式会社)

 
図-3 VR技術を用いた溶接シミュレーション
(写真提供:株式会社駒井ハルテック、宮地エンジニアリング株式会社


(3)見学会イベントなどでのVR活用
場所を選ばないVR技術は職業体験にも有効です。将来の担い手に向けた建設業の働き方をVR空間で見せることで、仕事のイメージ理解や共感作り、業界のイメージアップにも優れた効果を発揮します。例えば会議室で橋梁の施工シーンをVR体験する「バーチャル現場見学会」の開催が可能となります(図-4)。またVR空間で長大なアーチ橋のタワー最上部に立って現場を見渡したり、高所からのバンジージャンプなどのアトラクションを入れたコンテンツを学生さんに体験してもらうことで、イベントも盛り上がり、建設業の壮大さを体感してもらえます。
 
 
図-4 学生向けイベントでのVR活用事例


これまでVRには高性能なグラフィックボードを搭載したパソコンとヘッドセット、赤外線センサースタンドの機材が必要でした。最近はデバイスの技術革新が進み、頭部に装着するヘッドセットのみでプレイが可能なオールインワン型のヘッドセットが発売されるようになりました(図-5)。これまでのパソコンを利用するVRよりも解像度は落ちますが、大きなパソコンや赤外線センサースタンドが不要という手軽さは、VR運用担当者や操作説明員の労力が減り、VRコンテンツの体験機会創出も容易になりそうです。
 

図-5 スタンドアロン型ヘッドセットによる安全教育システム


 

橋梁施工現場におけるMR技術の活用事例

VR技術は360度が全て仮想空間ですが、一方のMR(Mixed Reality)技術は現実世界に仮想モデルを映し出す技術です。バーチャルな設計図や3Dモデルと現実空間を同一空間上に重ね合わせるものです。MR デバイスはWindows10で動くCPUを搭載しているホログラフィックコンピュータで、場所の位置や視野の向きは、MRデバイスに搭載された「デプスセンサー」という赤外線を利用し、作業場所をリアルタイムに3D スキャナーで割り出す仕組みがあります。産業分野では航空機エンジンのメンテナンス訓練など、自分の手とバーチャルモデルの距離感を測りながら体感できるメリットを生かした使い方が提案されています。
 
オフィスケイワンでは2017年初夏にマイクロソフト社のHoloLensというMRデバイス、インフォマティクス社の「GyroEye Holo」というMRソフトを導入し、橋梁工事での利活用方法の研究を開始しました。ここでは、橋梁の施工現場での活用事例を中心にご紹介いたします。
 
 
(1)鋼橋におけるMR技術の活用事例(品質管理)
鋼橋の施工において、排水装置や検査路、伸縮装置など付属物の部材は製作工場ではなく、現場に直接搬入される場合が多いため、現場で不具合が発見される可能性が潜在的にあります。現場で不具合が発生すると工程遅延、コスト増など大きな影響を与えます。そこで現場での不具合発覚を防ぐために、工場での仮組み立て時に付属物(例えば排水装置)のCIMモデルを鋼桁に投影表示して干渉の有無、本体ピースの取り付け位置確認などを試行しました(図-6)。
 
 
図-6 鋼橋仮組み立てにおける付属物をMR表示した事例

このように完成形の干渉チェックや取付部品のチェック等、日常業務への本格運用が検討されています。現状はMRデバイスを装着した作業者が見回して不具合箇所を発見する仕組みですが、将来は画像処理やAI技術の進化により不具合箇所の自動検出機能が期待されます。
 
 
(2)PCコンポ橋の施工現場におけるMR活用事例(生産性向上)
この現場では桁架設完了後の床版施工時に、MRデバイスに投影された配筋CIMモデルに合わせて鉄筋を配置する作業を試行しました(図-7)。前出の品質チェックではなく施工作業そのものにMRを活用した事例です。従来、配筋図面とメジャーを使って鉄筋の位置を現場型枠上に墨出ししてから、配筋作業を行っていました。これに代わる作業としてMR技術を使うことで、必要本数が配筋されているか一目で把握でき、また生産性の向上が期待できることを確認しました。このように従来作業方法の革新は配筋作業後に行う品質検査の必要性そのものも議論できるかもしれません。一方で、ヘルメット越しにMRデバイスを装着する作業者に聞くと「一日中頭に着けて作業するのは疲れそう」とのことだったので、将来はMRデバイスのさらなる軽量化、スマート化が期待されます。
 
 
図-7 MRデバイスによる配筋作業


【MR配筋作業手順】
①MRデバイス画面に投影される情報を計画
②配筋CIMモデルを作成し、GyroEyeHoloを使ってクラウド経由でHoloLensに取込む
③作業者にHoloLensの装着、操作方法を指導
④現場に原点(ARマーカー)を用いてCIMモデルの位置合わせを行う
⑤HoloLensと工事事務所のパソコンをインターネットで接続し、リアルタイム映像により品質検査
 
 
HoloLensで見ている映像をインターネット経由で遠隔地のパソコン画面に映して品質検査も試行しました(図-8)。現場は山手にあり当時のインターネット環境(4G)では映像が途切れることがありましたが。将来、通信速度が100倍になるといわれる5Gが普及すれば、ストレスなく映像情報を発注者と現場間で行うことが可能になると思われます。
 
 
図-8 MRを活用した遠隔検査の風景

(3)保全工事でのMR技術の適用
今後、社会資本整備において新設工事が漸減する一方で、補修工事は増加傾向にあります。補修工事へのMR技術の取り組みのひとつに、補修履歴のMRスケッチ(手の動きをデバイスセンサーで捉えて図化する方法)があります。従来は、補修箇所・範囲の図面化のために、複数人でメジャーを使って野帳にスケッチを行い、後日事務所でCADに清書していました。MR技術を使えばデバイスを装着した作業者が一人で補修箇所のスケッチができ、その場でスケッチ情報をクラウドにアップできます(図-9)。一連の作業を帳票の自動作成まで行うことで大幅な生産性向上が可能となります。従来のように手書きのスケッチを見ながらCAD図を清書する必要がなくなるため、働き方改革にも貢献できます。
 
 
図-9 保全工事における野帳による従来作業とMRスケッチ作業イメージ


 

今後について

施工現場でMRデバイスを活用する課題として、過酷な環境下での使用性にあります。具体的には精密機器であるMRデバイスは放熱性が悪く炎天下での連続使用に制限があります。気温30度を超えるとデバイス本体に熱がこもって数分でシャットダウンしてしまいます。そこでMRソフトを開発するインフォマティクス社は、水冷式の保冷装置を開発して、炎天下での連続使用を実現しています(図-10)。またコンビニでも入手できる市販の吸熱材(=熱さまシート)をMRデバイスの本体に貼り付けることで本体の温度上昇を抑える方法もあります(図-11)。
 

  • 図-10 水冷式の保冷装置

  • 図-11 熱さまシートによる保冷置


そのほか現場利用の課題に、位置合わせ精度やマーカーからの移動距離に応じて悪くなる重ね合わせ精度の問題があります。MRデバイスを装着して原点から離れるとその距離に比例してズレ量が増える現象です。その解決策のひとつとしてインフォマティクス社はTS測量器とMRデバイスを連携させるオプション機能の提供により、従来の20倍もの重ね合わせ精度の向上が実現しています(図-12)。MR施工の実用化に大きな一歩となりました。
 

図-12 MRデバイスとTS測量器の連携


 
建設現場での利用が増えてくると新たな課題も出てくると思われますが、VR・MR技術は社会的要請である「生産性向上」「働き方改革」を実現する手段としてはとても有益かつ将来性があると言えます。オフィスケイワンも微力ながら貢献していきたいと考えております。最後までお読みいただきありがとうございました。
 
 
 

オフィスケイワン株式会社 代表取締役 保田 敬一

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集3「建築ITの最新動向」



 
 
 



BIMモデルの自動化は、設計と施工をつなぐ新たな可能性

2020年8月20日

 

これまでのBIM

BIMを2DCADから3D設計ツールに変えることだと思う人がまだまだ多い。ツールを置き換えるだけでは設計業務の省力化も効率化もできない。3Dが早く作れたから図面やパース作成などの作業が減るわけではなく、設計者の要望が増えてしまう。BIMソフトを使っても図面から3D化を指示するような仕事では作業が増えるだけだ。3D情報は見える情報量が違い、平面、断面、立面の情報が1度に見れているだけで、その構成や項目を管理できるのが属性情報である。図面、3D、属性情報をマネジメントしなければ後工程へと情報がつながらない。情報を活用するとコンカレント型に変わり設計では、設計検討、図面作成、パース作成などが同時並行で進めることができる。弊社では200 床の病院設計のプレゼン資料(図面、パース、ムービー)作成に、3名で10日間で対応できたのもコンカレント型のBIMであり、今までの10倍は速い。
 

コンカレント型プロジェクト


 
それは、設計の判断が早くなり面積や図面、デザインを同時並行に進められるからだ。成果物としての図面レイアウト、パースアングル、ムービーパスなどもラフモデルで作成してしまう。後は担当作業を進めて精度を上げれば完成する。最後のまとめに無駄な時間がとられない。BIMの3Dを図面や属性、数量などと同じ情報の一つと考えると、BIMモデルの作り方や進め方が変わる。弊社では情報量の基準をiD(Intelligence Data)として定義している。仕事のやり方を変えようとしなければBIMをうまく活用できなかった。
 

iDモデル




 

BIMの課題と自動化

実務の中でBIMを活用しようとすると、今までの進め方ではいろいろな問題に直面する。BIMソフトで平面図を作成すると、3Dモデルや立面図、断面図も同時に作成されるため判断も同時に必要となる。設計者が自分で作業していれば問題ないが、多くの場合は設計者の判断が間に合わずオペレータへの指示が追いつかない。そこで、設計者はオペレータや外注任せで作業をお願いしてしまうので、チェックバックの手戻りが増えて作業も減らない。建築知識とBIMソフトの技術も合わせ持ったオペレータや外注先は少ないだろう。
 
ルールや仕様に基づいた成果が出せる自動化は問題解決の手段になると考えて自動化の開発を始めた。BIMソフトで2D図面から3Dモデルの自動化を行うことが重要だと気付いた。2Dから自動化で作成された3Dモデルには、壁や床が二重に入っていることや指定外の壁タイプなどで作成されていることがない。
 

2Dから3D自動モデル化


 
人がBIMソフトで3Dモデルを作成するとオペレータの技術レベルもあり仕様や間違いのチェック作業は必要になる。
 
このように自動化は、作業を効率化するだけでなく成果の正確性が確保され、重要な判断へのリスクを減らせる。人が不得意な大量の繰り返し作業を自動化することで、人がイレギュラーな対応に集中できれば仕事の精度も上げられる。
 
 

プログラミングの可能性

BIMソフトをプログラミングによるカスタムすることが一般化しつつある。DynamoやGrasshopperなどのプラグ型で簡単にプログラミングできるユーザー向けのカスタマイズや、BIMをソフトが公開しているAPIによるカスタマイズでアドインソフトを開発することもできる。
 

Dynamoによる型枠自動作成


 
BIMソフトの標準ツールでは限界があり、プロジェクト単位でカスタマイズすることも増えている。カスタマイズは大きく3つある。標準ツールにない作業ができる便利ツールのカスタマイズ。繰り返し作業をするためのカスタマイズ。前の2つを合わせた自動処理のカスタマイズだ。カスタマイズが必要になるのは複雑な条件を判断するのに有効だ。弊社で最初に開発したのはExcelとの連携ツールだ。BIMソフトで作成したプランから各部屋の面積を集計して、専有や共用面積を分類したExcelに書き出すことができる。これがあれば日本仕様の桁処理をした面積集計を電卓を叩いてExcelに入力しなくて良いだけでなく、集計ミスがないのでコマンド一つで多くの効率化が行えた。面積集計を自動化することで、初期段階のプランニング効率が3倍になった。この小さな効率化が設計モデルの自動化へとつながって行った。
 
 

設計モデルの自動化

いろいろと作業を効率化するツールの開発を行ったが“キレイなBIMモデル”を作成するには人の能力とプロジェクトでの構成や作成のルールが必要になってしまう。そこで設計モデルの自動化について考えた。BIMソフトを使ってきたが、10年経ってやっと気付いたことがある。仕上表に書かれている下地や仕上げの情報は、図面や3Dモデル作成の仕様が“文字”で記載されていることだ。文字情報から3Dモデル化すれば図面にも反映され整合性を確保した”キレイなBIMモデル”が作成できる。そこで、仕上表で記載されている下地と仕上げ情報を一覧にした「スタイルリスト」を作成して、仕上表での“表記名称”とモデル化するための“マテリアル”と“厚さ”、数量を算出するための“工種”や“部位”などの情報を定義した。
 

スタイルリスト

スタイルリスト パラメータ


 
まずは仕上表、建具表、展開図という3大手戻り図面を自動化した。部屋情報には仕上表の情報を属性情報として入力しているので、仕上表作成コマンドでは部屋名称を並べるだけで、仕上表を自動で作成する。仕上表を属性情報を追加修正するときは「スタイルリスト」から選ぶだけでよいので建築知識がなくても表記名称を間違えることがない。
 
建具表も同様に建具名称を並べるだけで建具表を作成できる。
 

仕上表自動作成

建具表自動作成

展開図自動作成


 
展開図は部屋を選択して実行するだけ自動的に各面のビューを作成し、仕上げタグを配置し必要範囲にトリミングする。それをシートに並べるコマンドも作成している。
 
この手戻りの多い図面だけに従来は後回しにしていたものを簡単に作成できるので、初期段階で作成できるため手戻りを大幅に削減できる。
 
次に詳細図を自動化した。実際には詳細3Dモデルの自動化である。それを2D表現で見ることで詳細図の自動化を実現する。壁は部屋と部屋の間にあるため接する部屋情報から下地と仕上げ情報を取得してモデル化を行う。部屋情報で「LGS+PB12.5+ビニルクロス」となっていれば「スタイルリスト」を見ることでマテリアルや厚みの情報が分かるので、自動で3Dモデルを変更し壁のタイプも自動で作成する。壁スタイルコマンドで、部屋情報を取り込むだけで詳細化した壁を作成できる。
 

壁構成自動作成

天井・床・巾木・廻り縁の自動作成


 
床と天井、巾木、廻り縁は、部屋情報から取得できるので、自動で3Dモデル化できる。手作業では巾木や廻り縁をモデル化することなど考えられない手間のかかる作業だが、手動で床を1枚作成するよりも早く床、天井、巾木、廻り縁を作成できる。BIMソフトなので展開図にも反映される。「スタイルリスト」は設計情報の材料の仕様定義だけでなく、材料名など文字や言葉の定義になるため社内仕様を自動的にBIMモデルに反映し図面化している。設計仕様を情報化したリストともいえる。
 
部屋の属性情報である仕上、下地、構造、天井高さなどから自動でモデル化することはBIMソフトだから発想できたことだ。
 
正しくきれいなモデルからは、簡単に数量を拾うこともできる。「スタイルリスト」から作成しているので、逆に「スタイルリスト」で使っているマテリアルを検索して集計すれば簡単に数量を確認できる。
 

スタイルへ数量取込 前

スタイルへ数量取込 後


 
手動で作成するとマテリアルが分かれていなかったり、同じ名称でも半角か全角が違うだけでも異なるマテリアルとなり正しい数量を集計することができない。
 
自動化は、作業性の効率化だけでなく情報精度の確度が上がることのメリットは大きい。精度が高いからこそ設計の判断も早くなる。特に数量を把握してコストを予測できることは、設計業務にとって未来を予測することになる。それが基本設計段階で、実施設計レベルの詳細度で数量を把握することの意味は大きい。自社開発したAReXというツールで同じRevitによる実施設計モデルを検証してみると、従来2カ月かかった作業が2週間で同じレベルまで作成できた。それもRevitも建築知識レベルも高くないまだ3カ月程度のオペレーターで対応できた。自動化によるBIMオペレーションにも新たな可能性が見えてきた。
 
 

構造モデルの自動化

構造モデルは、通り芯とレベル情報から柱、梁、床を自動作成する機能と、Excelから3Dモデル化と断面リストを自動作成する機能がある。構造の簡易モデルは意匠設計者が初期段階で構造モデルを意識して設計するためのものだ。共有しているモデルに構造フレームが入っていれば自然と意識して設計も進められる。Excelからの自動モデル化は、構造計算ソフトから書出された情報をExcelに変換し、構造計算ソフトでは入力されていない基礎や杭の情報を追加して自動モデル化する。断面リストも同様に構造計算ソフトで入力されていないフープや巾止筋などの情報をExcelに追加して自動作成する。自動で作成された3Dモデルから伏図、軸図も自動で作成する。指定したレベルの伏図には部材のタグ情報などを自動配置される。軸図も指定した通り芯に軸図作成する。日本の図面仕様になるように直行部材のみ非表示する自動処理を行い図面が正確に作成される。構造は、詳細度としても簡易的なモデルと詳細モデルの2つのフェーズを管理すればよく、意匠モデルよりシンプルだ。正確な構造モデルは、躯体数量の算出や設備モデルとの干渉調整が早期に対応できる。今後は、ST-Bridgeにも対応する予定で2次部材にも対応していく。意匠と構造の設計者が連携できるようにしたい。
 

構造簡易モデル


Excelから自動モデル化(RC造)

Excelから自動モデル化(S造)


Excelから自動リスト化

3Dモデルからの伏図・軸図の自動化




 

施工モデルの自動化

設計BIMデータは、施工BIMデータとしてはそのまま使うことができない。設計では確認申請に必要なレベルで開口位置の寸法を決めているが、施工では法的条件を満たした上でタイルや目地の割付に合わせて開口位置や躯体フカシなどを調整する必要があるからだ。そのため一般的には設計BIMデータを参照するが、施工BIMデータは新たに作成する必要がある。他にも設計BIMデータの信頼度が低いことや、設計データを使って施工図を描いた場合の責任区分などの問題もある。
 
これが自動化による設計BIMデータでは、信頼度が高いだけでなく人ではできない詳細レベルまで3Dモデル化することができる。設計BIMデータから施工データに更新するイメージに変わる。
 
実際に施工ツールとして開発したのは、LGSの自動配置、下地パネルの自動配置、タイルの割付と目地モデル自動作成機能だ。これも設計段階で利用した「スタイルリスト」を活用して作成する。施工情報の属性を更に付加することで設計データと連携して施工モデルを作成できる。
 

LGSの自動モデル化

タイルと目地の自動モデル化

下地パネルの自動モデル化


 
設計時の「スタイルリスト」では、LGSはマテリアルと厚みの情報だけでよかった。施工時ではLGSの部材情報と配置ルールを属性情報を追加する。スタッドやランナーのオブジェクトや配置寸法などを定義しておく。その情報から3Dモデルを自動作成する。設計情報をどのように利用するかが明確になり責任区分も明確になる。数量も設計では壁の面積として集計したものが、部材の本数や長さを集計できる。施工レベルの詳細度にすることで数量やコストを確認できるだけでなく、材料の発注数量や配置、搬入などの現場レベルの計画を検討できる。
 
今後、設備BIMデータの自動作成も可能になれば意匠、構造、設備、施工での統合モデルの検討が早期に対応できる。建築の透明性を確保することで日本でもIPDを実現できると期待している。
 
 

これからのBIM

BIMソフトの進化は続いている。BIMだけでなくアプリケーションがパッケージ販売からサブスクリプション型のサービス販売へと変わり始めている。BIMデータもメールでやりとりできる容量ではないので、クラウドサーバーの利用が必須になりつつある。そのためデータのアクセス権限さえあれば、いつでもどこでもつながり仕事ができる。自社の物理サーバーに保存しておくよりもクラウドサーバーに保存をしておく方が災害時のリスクも低い。「海外にあるデータサーバーに設計や施工情報を保存するなどありえない」と言われていた大手企業も最近では使えるようになってきた。海外案件では必須となっていることや、最近では管理レベルでも自社サーバーよりもクラウドサーバーの信頼度が高くなり、コストメリットも大きいからだ。BIMソフトがWEBブラウザで使えるようになるのも遠い話ではない。
 

FORGE ビュアーイメージ


 
AutodeskのFORGEでは、WEBベースのアプリケーションの開発ができる。WEBベースのアプリケーションになると実はいろいろな課題を解決できる。1つは高額のBIMソフトとハイスペックなパソコンがなくともBIM業務ができる。WEBベースでの作業処理はクラウド上のCPUを使うためスペックの高い環境が必要ない。企画から基本設計用や実施設計用、施工用と専門性のあるアプリケーションにすることで作業を限定し機能も限定することができるため利用コストを抑えられる。FORGEでは、処理の種類と使用時間によって課金されるので、機能を限定することでRevitよりも安いソフト(サービス)として提供できる。自動処理やオペレータ用のアプリケーションには最適だ。
 
また、BIMデータは共通化してWEBアプリケーションの違いでアクセス権を変えられれば、設計、施工、運用で同じBIMデータを管理できる可能性もあると考えている。BIMデータを共通化できるとデータ連携のメリットだけでなく、建物の資産価値がBIMデータによって生まれる可能性もある。BIMデータがあることで建物の環境情報を評価やエネルギー管理など、運用時のビジネスにも展開できる。この分野での発展に期待し、展開を楽しみにしている。
 
 

情報の意味と価値の変化

BIMの“I”は「Information」であるが、情報という意味が「Intelligence」に変わる。
 
“Information”はデータそのものの“情報”に対し、“Intelligence”は客観的な評価や解析、知識から導きだされた“情報”を意味する。
 
情報の価値がただの情報から何か知性的な情報へと変化していくだろう。BIMでもジェネレーティブデザインが人の創造を超える答えを導き出す可能性は高い。AI、BIGデータの活用も同様であり、人の作業の置き換えと考える意味はなくなる。人の価値は、判断にあると考えれば、人の創造を超えても判断はできる。BIMモデルの自動化で、自動設計を目指している訳ではなく、より高いレベルの設計判断を行うためのプロセスになればよいと思っている。
 
society5.0の超スマート社会を目指すなら建築も進化しなければならない。BIMの次の言葉が生まれるかもしれないが、今は実務でのBIM活用を自動化によって変えて新しい建築プロセスを考えてみたい。
 
 
 

株式会社 ビム・アーキテクツ 代表取締役 山際 東

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



今なぜ 『建築BIM推進会議』なのか 国と民間が一体で進めるデジタル生産革新

2020年8月17日

 

はじめに

(1)Society5.0の社会へ
デジタル技術がもたらす社会像として「Society 5.0」があります。「Society 5.0」は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として平成28年に提唱されたものです。これまでの狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とされています。
 
これまでの情報社会(Society 4.0)では、社会での情報共有が不十分であったが、Society 5.0で実現する社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。」とあり、AI 、IoT化といったデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性について提唱されています。
 
一方、内閣府の新しい経済政策パッケージ(平成29年12月8日 閣議決定)では、Society 5.0の社会実装を進めるため、建設分野の制度改革として、3次元データの活用などが位置付けられており、BIMの活用および進展が将来、Society 5.0の実現に向けた一つの契機になるものと期待されています。
 
 

(2)Society5.0の実現に向けた取組
わが国は、現在、人口減少社会を迎えており、潜在的な成長力を高めるとともに、働き手の減少を上回る生産性の向上が求められています。また、産業の中長期的な担い手の確保・育成等に向けて、働き方改革を進めることも重要であり、この点からも生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、平成28年を「生産性革命元年」と位置付け、社会全体の生産性向上につながるストック効果の高い社会資本の整備・活用や、関連産業の生産性向上、新市場の開拓を支える取り組みを加速化し、生産性革命プロジェクトを実施してきました。この生産性革命プロジェクトの中にICTの活用等により調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指すi-Constructionの取り組みがあります。
 
内閣府の「未来投資戦略2018」の(平成30年6月15日 閣議決定)では、2025年度までに建設現場の生産性の2割向上を目指すことが掲げられ、そのための具体的施策として、2019年度までに、建設プロセスにICTの全面的な活用等を推進するi-Constructionに向け、対象を建築分野に拡大することとされています。
 
 

また、民間発注を含めた建築工事全体でのBIM普及に向けて、民間事業者等と連携し、建築物の設計・施工・管理の各段階におけるBIM活用の手順や共有するモデルの属性情報の整理等について課題抽出を行うとともに、BIMの有効性等の普及啓発方策を検討し実施するものとされています。
 
さらに、「成長戦略フォローアップ」(令和元年6月21日 閣議決定)においても、i-Constructionの貫徹やBIMを国・地方公共団体が発注する建築工事で横展開し、民間発注工事へ波及拡大させていくこと、BIMによる建築確認申請の普及に向けた検討、国・地方公共団体、建設業者、設計者、建物所有者などの広範な関係者による協議の場を設置し、直面する課題とその対策や官民の役割分担、工程表等を2019年度中に取りまとめることが盛り込まれています。
 
このような状況を踏まえ、平成30年度にi-Constructionのエンジンとして、先行して土木分野で重要な役割を担ってきた、BIM/CIM推進委員会では、令和元年度から建築分野のBIMについて拡充を図るため、BIM/CIM推進委員会の下にWGとして、建築BIM推進会議が新しく設置され、建築BIM活用に向けた市場環境の整備について具体的な検討が進められています(図-1)。
 

図-1 建築BIMの推進に係る取り組み:官民一体の推進体制の構築




 

BIMの活用状況および課題

現在、諸外国では土木分野だけでなく、建築分野においてもBIMの活用が進んでいますが、わが国での建築分野におけるBIMの活用については、設計、施工の各分野がそれぞれ個別に活用するにとどまっており、BIMの特徴である情報の一貫性が確保できていない状況にあります。この結果、維持管理段階のBIMの活用は低調となるなど、建築物のライフサイクルを通じたBIMの活用につながっておらず、またBIMの活用効果も限定的となっております。
 
また、国土交通省が平成29年12月~平成30年2月の期間で、設計や施工の関係団体に対して調査したところ、設計分野でBIMの導入実績がある建築設計事務所は3割程度でとどまるものの、半数以上の事務所がBIMの導入に関心をあることが示されています。また、建設分野でBIMを導入した大手ゼネコン等の7割以上がBIMの導入実績があり、高い関心も示されています。一方で、設備設計事務所や中小建設会社でのBIMの活用はかなり限定的で、ほとんど使われていない状況にあります。
 
 

建築BIM推進会議の設置

国土交通省では、建築の設計、施工、維持管理に至る建築物の生産・維持管理プロセスで一貫してBIMを活用することによって、業務効率化や生産性向上を図り、最適な建物のライフサイクルの実現を目指すとともに、建築BIM(図-2)や新技術がもたらす理想的な社会像を創造する取り組みを図るため、官民が一体となって「建築BIM推進会議(以下、「推進会議」という)」を設置(令和元年6月)しました。
 
推進会議では、今後の建築BIMの活用・推進について官民のさまざまな観点で幅広く議論し、わが国にBIMが根付くために何をしたらよいか、建築業界全体が一丸となって対応方策を検討し、とりまとめていくラウンドテーブルとなり、次の①~④の検討を進めています。
 
①建築物の生産・維持管理プロセスに係る各分野におけるBIMの活用・推進に係る検討状況の共有
②BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスやBIMのもたらす周辺環境の将来像の検討・策定
③BIMの活用促進、将来像の実現に係るロードマップ(官民の役割分担、工程表等)の検討・策定
④その他BIMの活用を図るための個別課題の抽出、対応方策の検討
 
具体的には、各分野で進んでいる検討状況の共有やBIMを活用した建築物の生産・維持管理プロセスやBIMのもたらす周辺環境の将来像を議論するとともに、将来像に向けた官民の役割分担・工程表(ロードマップ)を議論し、令和元年度中にとりまとめます。
 
なお、推進会議は、松村秀一東京大学大学院工学系研究科特任教授を委員長とし、学識者の他、建築分野の設計、施工、維持管理、発注者、調査研究、情報システム・国際標準の関係団体により構成されています。国土交通省においても、オブザーバーに加えて、住宅局建築指導課、土地・建設産業局建設業課、大臣官房官庁営繕部整備課の3課で事務局を努めています(図-3)。
 

  • 図-2 建築BIMとは

  • 図-3 建築BIM推進会議の検討体制



 

BIM活用による将来像の策定

令和元年6月13日に第1回推進会議が開催され、国および関係団体等におけるBIMの活用・推進に係る検討状況等の報告・確認が行われた後、BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスや将来像の検討、将来像の実現に係るロードマップ(官民の役割分担、工程表)の検討等が開始されました。その後、7月に第2回、9月に第3回の推進会議が開催され、将来像・工程表が概ね了承されました。
 
建築物の生産・維持管理プロセスの将来像は「いいものが」つくれ(高品質・高精度な建築生産・維持管理の実現)、「無駄なく、速く」作業でき(高効率なライフサイクルの実現)、「建物にも、データにも価値が」付与される(社会資産としての建築物の価値の拡大)の3つの視点で整理されるとともに、その将来像を実現するための建築業界に必要な取り組みが、次の①~⑦の7項(必要に応じて随時追加)に集約、整理されました。
 
①BIMを用いた建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
②BIMモデルの形状と属性情報の標準化
③BIMを用いた建築確認検査の実施
④BIMによる積算の標準化
⑤BIMの情報共有基盤の整備
⑥人材育成、中小事業者の活用促進
⑦ビックデータ化、インフラプラットフォームとの連携
 
必要な取り組みの7項目については、それぞれ連携して具体的に検討していく必要がありますが、当面、⑥と⑦を念頭に置きながら、①~⑤の取り組みを先行して行うこととなっています(図-4)。
 

図-4 建築BIMの活用による将来像と実現に向けた必要な取り組み(ロードマップ)




具体的な検討作業については、推進会議の下にそれぞれの項目に対して検討部会で行うこととし、①のワークフローの整備に関しては、建築生産・維持管理プロセスで一貫したBIMの活用を可能とするための環境整備に向け、建築生産・維持管理プロセスに関わる全ての関係者間の調整を要することから、国土交通省が中心となる部会(建築BIM環境整備部会)を設置しました。また②~⑤については、既に民間の関係団体等において検討が進められていることから、それらの各団体の活動を部会と位置付け、個別課題に対する検討等が進められています(図-5)。
 
今後、これら部会においてさらに官民が一体となってBIMに関する議論が深まることが期待されます。
 

図-5 建築BIM推進に係る各部会の取組 官民一体の推進体制の構築




 

建築BIM環境整備部会の設置

建築BIM環境整備部会では、BIMを用いた建築生産・維持管理に係るワークフローの整備、企画・設計・施工・維持管理等の各段階で必要となるBIMモデルの形状と属性情報の程度等(標準フォーマット)の検討等を進め、標準的なBIMの活用方法を示したBIM標準ガイドライン(以下、「ガイドライン」という)の策定、BIM実行計画書(BEP※1)およびBIM発注者情報要件(EIR※2)の標準ひな型の策定等を行うことになっています(図-6)。
 

図-6 建築BIM環境整備部会での検討事項




令和元年10月4日に志手一哉芝浦工業大学建築学部建築学科教授を部会長とする第1回建築BIM環境整備部会が開催され、事務局側から提示したガイドラインの構成の素案とともに、業務区分の考え方と役割分担、維持管理段階へ引き継ぐべき情報の考え方等について議論され、令和元年度内に3回部会を開催し、ガイドラインの原案を策定・とりまとめることが確認されました。
 
ガイドラインの策定は、建築物の生産プロセスや維持管理を含めた建築物のライフサイクルにおいて、異なる幅広い主体がBIMを利活用した効率的な手順等を共有でき、BIMを通じ情報が一貫して利活用される仕組みの構築を目指しています。
 
 

今後の展開と展望

令和元年度末に開催予定の第4回推進会議において、各部会における検討結果の報告、関係団体の活動状況の確認等を行った上、BIM標準ガイドラインが策定される予定です。その後はさらに、本ガイドラインにおいてはBEP・EIRの策定、竣工モデルの定義、部品メーカーとのかかわり方の整理、BIMの契約・業務報酬のあり方、著作権等の整理を盛り込むべく検討を行うとともに、関係団体の検討・取り組みとも連携し、官民一体となってさらに検討を行っていく予定です。
 
こうした継続的な取り組みにより、市場のさまざまな事業でBIMが広く活用されることで、関係団体の検証も進み、将来的にはさまざまな人材の育成や幅広い事業者への普及、さらにはビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携等に広がっていくことが期待されています。
 
 
建築BIM推進会議、建築BIM環境
整備部会の詳細については、国土交通省ホームページの「建築BIM推進会議」のページ
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/kenchikuBIMsuishinkaigi.html)をご覧ください。
 
〈用語の解説〉
※1 BEP:BIM Execution Planの略。BIM実行計画書。特定のプロジェクトにおいてBIMを利用するために必要な設計情報に関する取り決め、業務契約書の一部。BIMを活用する目的、目標、実施事項とその優先度、詳細度(LOD)と各段階の精度、情報共有、管理手法、業務体制、関係者の役割、システム要件等を定めて文書化したもの。プロジェクトの関係者間で事前に協議の上、合意し、要件書として作成します。
 
※2 EIR:Employer’s InformationRequirementsの略。BIM発注者情報要件。発注者によって、社内チームとプロジェクト開発のサプライヤーと完成後施設の運用者から要求される情報。発注者からの情報要件の関連概要は、アドバイザー、コンサル、請負者等の調達文書に含まれます。
 
 
 

国土交通省 住宅局 建築指導課 課長補佐 飯田 和哉 / 課長補佐 田伏 翔一

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



『見える地域連携』をアシストするBIM-鹿児島第3地方合同庁舎での活用事例-

2020年8月11日

 

地域と連携して整備する鹿児島第3地方合同庁舎

鹿児島第3地方合同庁舎が、いま鹿児島(鶴丸)城跡の東に隣接する敷地において建設中です。この敷地は鹿児島の歴史・文化・観光を代表するエリアであり、日本の近代化の歴史の舞台ともなった「歴史と文化の道地区」内にあります。市の景観形成重点地区に指定されており、電線類が地中化され、石張り歩道、親水水路、イヌマキの植栽、ガス灯が整備され、潤いと安らぎのある街路空間が創出されています。さらに向かいの鶴丸城跡では、鹿児島の新たなシンボルとして高さ20mもの御楼門が復元整備中です。
 
こうした背景から、鹿児島県、鹿児島市と国(九州地方整備局、九州財務局)とで連携して、景観形成に配慮し、観光振興やまちづくりに貢献すべく、庁舎の整備内容を検討しています。本庁舎の外装デザインは気候・風土を活かした風格のあるものとし、さらに街並みに対して開放感を持つエントランスモールを設置したり、御楼門を展望できるよう既存のポケットパークをリニューアルしたりすることとしています(図-1、2)。
 
こうした地域連携を推進していくためには、地域の関係者との合意形成が不可欠です。関係者は必ずしも建築の専門家であるわけではないため、丁寧でかつ分かりやすい説明をしていくことが公共建築を発注する者には求められます。本事業ではBIM(BuildingInformation Modeling)で作成した動画を使用し、地域の関係者に寄り添った説明を行うことで、関係者の皆さまから高い評価を得ることができ、ひいては事業の必要性や地域に対する貢献について深い理解を示していただくことができましたので、ここにご報告します。
 

  • 図-1「歴史と文化の道」に面する鹿児島第3地方合同庁舎

  • 図-2 地域との連携策



 

設計段階での活用

(1)BIMのメリット
設計期間の中で、合意形成に要する時間は大きなウェイトを占めます。BIMは、街並みレベルからヒューマンスケールまで多様なレベルの空間情報を視覚で提供できるため、地域の方々に短時間でプロジェクトの内容をご理解いただき、的確なご意見をいただくことができます。さらに、ご意見を迅速に設計内容に反映させることで、設計の時間を短縮するとともに、設計の品質を大きく高めることができます。
 
 
(2)地域連携検討分科会でのBIM活用
鹿児島県、鹿児島市と国(九州地方整備局、九州財務局)で設立した「鹿児島市における国公有財産の最適利用推進検討会」の下に「鹿児島第3地方合同庁舎地域連携検討分科会」を設置し、地域連携方策を検討・決定しました。
 
敷地の向かいの鶴丸城跡では、鹿児島の新たなシンボルとして御楼門を建設する計画が進んでおり、その門を展望し、写真撮影などができる場所を設置してほしいという要望が地元からありました。そこで、公表資料から御楼門の各部寸法を推定し、現地調査により道路や標識、ガス灯、樹木などのデータをBIMモデルに入力して、展望スペースを検討し、既存のポケットパークをリニューアルする提案をしました(図-3)。御楼門を背景に記念撮影をするということは、ガス灯などの存在や、撮影者と被写体の位置も考慮しなければならないことにシミュレーションで気づき、ベストアングルとなる位置を展望スペースとして選定しています。
 

図-3 敷地内のポケットパークから御楼門を展望




(3)鹿児島市景観審議会でのBIM活用
景観設計に当たっては、鶴丸城との「見る、見られる」の関係を大切にし、地元の方がとても大切にしている「歴史と文化の道」に開かれた空間となっているか、BIMを使用して検討を行いました。
 
鶴丸城から「見られる」ことについては、城の中庭に立ったときに圧迫感を感じない建物高さであるかを確認しています。鶴丸城を「見る」ことについては、降灰や強い日差しへの対策として、エントランスモールを街路沿いに設置する計画としましたが、そこを通行する際に連続する柱の間から、御楼門や石垣が十分に見えるほどの開放感があるか、庇が御楼門の姿を隠すことがないかを検証しています(図-4)。
 
さらに、BIMを使用して、時刻の経過によって変わる街と庁舎の表情を確認しながら、色彩、階調、陰影、素材などを探求し、風格・安定感と繊細さ・上品さを併せ持つファサードを創りあげました(図-5)。
 
審議会では、BIMで作成したパースや動画を用いることで、委員の理解も深まり、コンセプトを強化するさまざまな具体の意見をいただき、デザインをより洗練されたものにすることができました。
 

  • 図-4 エントランスモールから見える御楼門や石垣

  • 図-5 ファサードのコンセプト


(4)ユニバーサルデザインレビュー
障がいを持つ方を含めさまざまな方に設計内容を確認していただき、ご意見をいただくユニバーサルデザインレビューを開催しました。
 
BIMモデルにより、建物や各施設へのアプローチでリアルな疑似体験をしていただくことができたことは、レビューを行う上での大きな進歩でした。
 
初めて訪れる人にとって、エントランスの位置はわかりにくいものです。エントランスはモール上に2カ所設置していますが、玄関前の天井を下げて、段差を付けることにより、出入り口の位置が視認しやすく、迷わず玄関へ向かえることを確認しました。
 
一方、自動ドアは当初、木の良さをアピールするために木製のフラッシュ戸としていましたが、視覚障がい者から対面の歩行者と衝突する危険性が指摘されましたので、透明ガラスへ変更しました。
 
その他、エレベータやトイレの位置が分かりやすいこと、誘導・案内サインが適切な位置・高さ・表現となっていることをBIMモデルの疑似体験により確認しています。
 
 

着工・事業経過報告会での活用

本事業は鹿児島市民の心のよりどころである鶴丸城の向かいに建設するため、地域の方々の関心が高く、さらに約4年強もの長期間の工事を行うことから、完成を待たずに事業内容を関係者や市民に説明する必要がありました。そのため、着工式に併せて、事業の経過を詳しく報告する場を設けることとしました。
 
報告のポイントは、「歴史と文化の道地区の景観を守る」ためにさまざまな工夫をしていることと、観光振興やまちづくりに貢献するために「地域との連携」に取り組んでいることの2点です。
 
前者については、本敷地は一帯の景観風致を一体的に維持・保全し、後世に継承するために、高さ20mの高度地区が設定されています。敷地内に高層の建物をつくることができないので、工事を二期に分け、新庁舎を建てて、入居官署を移転し、旧庁舎を壊すというプロセスを2回繰り返す計画としています。そのため、企画段階では事務室面積の整合を図りつつ、官署の移転順を決めるという複雑な検討をすることとなりました。
 
さらに、庁舎は5階建てであり、階高に厳しい制限があるなか、天井高さと柱間寸法を確保するためには、建物の構造と設備を総合的に検討する必要がありました。結果、鉄筋コンクリート造と鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造の3種の構造を、柱梁の部分部分できめ細かく使い分けるようにしています。
 
こうした企画・設計時に凝らした工夫を分かりやすく伝えるためにBIMを活用して、スライドや動画を作成しました。
 
二期に分けての整備については、施工の手順を解体も含めてステップごとに、動画で説明することにしました(図-6)。建築工事受注者が本社に体制を構築し、設計者からBIMデータを引き継いで、動画を作成しました。構造体や外装などの各部位がデータ化されていたため、例えば鉄骨建て方段階、コンクリート打設段階などのステップ図を作成する手間が省力化できたとのことです。
 

図-6 施工のステップ




厳しい高さ制限を技術的な工夫によりクリアしたことについては、BIMモデルより3種の構造を色分けした俯瞰と内部の構造フレームの透視図を作成し、「ハイブリッド構造により、執務空間を損なうことなく、建物の高さを抑えることを実現した」と説明するようにしました(図-7)。
 
 
図-7 構造フレーム SRC造グレー、S造 黄色・緑色、RC造 ピンク


2点目の「地域との連携」については、地域の歴史を踏まえて計画していることを示すために、紹介する動画の冒頭に、本敷地が鶴丸城下の馬場、火除地であった江戸時代から、官庁施設、文化施設、教育施設が形成されていく変遷を古地図や航空写真を利用して説明するようにしました(図-8)。
 

図-8 航空写真による「歴史と文化の道」地区周辺の変遷 (「空中写真データ(国土地理院)」部分 一部加筆)




地域連携方策のひとつであるエントランスモールについては、モールを歩いたときに庁舎のエントランスや御楼門がどのように目に映るのかをウォークスルー動画で表現しています。次に、観光客の視点でこの一帯をそぞろ歩きしたり、ポケットパークで立ち止まったりしたときに見える光景の動画を挿入し、最後には、庁舎をぐるりと空から一周見まわしたときのシーンを描くことで、ファサードが、地域の景観と調和していることを示して終わりとしています(図-9)。
 

図-9 地域連携方策を紹介する動画




こうして作成した動画は、着工式の最後にナレーションを加えて、参加者に見ていただきました。三反園鹿児島県知事からは、「御楼門を展望できるポケットパークが整備されることは鹿児島の観光振興に寄与することになるので感謝する」との言葉を賜りました。鶴丸城御楼門復元実行委員会の玉川委員長からは、「整備局は私たちの要望を真摯に受け取っていただき、かなり苦労したかもしれないが、地域の歴史を尊重し、地域に寄り添った庁舎としていただいた。今後のまちづくりにも貢献するものとしていただき、整備局には心から御礼を申し上げたい」との感謝の言葉をいただきました。
 
 

設計段階での活用

本事業では先述の建築工事受注者のほか、電気・機械の工事受注者もBIMを活用しております。鹿児島ではBIMモデルを作成できる技術者が少ないため、建築工事受注者は大阪の本社でモデルを作成し、ビデオ会議システムを通して、本社と現場でコミュニケーションをとって、施工の検討を行っています。2次元で施工図を検討する場合はA1版程度の大きさが必要ですが、3次元モデルでは問題箇所が把握しやすいため、ディスプレイ越しでも担当者間の意思疎通は十分にとれています。こうすることで、BIMモデラーが不足する地方の施工現場でもBIMの成果が十分に得られています。
 
建築・電気・機械のデータをひとつのBIMモデルに結合させ、干渉チェックを実施しています。梁下配管スペースの不足、配管の構造体への貫通、配管同士の交差、ダクトと配管の接触、配管の天井面への露出、コンクリート躯体と機器の近接など施工上支障となる部分を立体的に把握し、建築・電気・機械工事受注者間で対処案の協議をし、施工の手戻りを最小限としています。(図-10、11、12
 
また、本躯体はハイブリット構造のため、柱まわりには鉄骨・鉄筋・鋼製デッキ等が錯綜しており、複雑なものとなっています。BIMを使用していない躯体下請け施工者へは、施工手順を示す動画を作成し、関係者間で確認をし合っています。
 
施工状況が進みましたら、こうして作成したBIMモデルを現場見学会などさまざまな機会で活用していくことも考えています。
 

  • 図-10 天井裏(配管と鉄骨梁の干渉)

  • 図-11 源機械室の断面確認

  • 図-12 総合図(配管・配線・機器インプット)



 

おわりに

地域の関係者が同じ理解の下、意見を交換することにより、関係者間で良好な関係が築かれ、満足度の高い地域連携となります。連携により、発注者が想像のつかないような地域関係者の思い入れや、地域ならではの意見が得られ、整備内容がよりよいものに昇華され、最終的には関係者間の心の理解や共感につながります。
 
建築専門技術者ではない地域の関係者に我々と同じ理解をしていただくためには、完成した姿をイメージしていただくことが重要であり、BIMはそのための有効なツールであることを改めて実感しました。
 
今回、BIMモデルを作成したのは、設計者や工事受注者ですが、地域の関係者や入居官署に理解をしていただける資料を作成していくためには、発注者も「伝え方」を十分に磨いていく必要があり、BIMの使いこなし方についてある程度習熟しなければならないと感じています。
 
 
 

国土交通省 九州地方整備局 営繕部

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



 


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