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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

地方の中小事業者の挑戦、BIMの次の活用

2022年9月24日

地方で設計者のBIM連携を考える

弊社は2013年からBIMを使い始め、今年で9年目に突入した。
意匠図はBIMから書き出し、建築主との打合せもほぼ3D画面を見ながら行っている。
 
ところが、付帯する設備図、構造図は、2次元CADで書かれたものを使っており、設備配管のルート確認や干渉チェック、意匠図との整合性確認は人の目でアナログ的に行っている。
自社には設備や構造の担当者がいないため、協力事務所への依頼となり、BIMでの連携ができない状態だ。
 
意匠図をうまくBIMで扱えるようになってくると、やはり次のステップに進みたくなる。
より設計全体の効率化を図っていくために、設備や構造との連携事例と、地方設計事務所の動きをご紹介する。

 
 

地方でも施工段階での設備&構造の連携は十分可能

鉄骨造10階建て共同住宅で、意匠図は全てBIMベース、構造と設備は2次元CADでの作図を行った実施案件があった。
設計BIMデータは意匠モデルのみ。
施工段階でのチェックもほぼ2次元図面で行っていた。
 
各専門業者と打合せをする中で、鉄骨の製作所はREAL4を導入していたため、製作図のIFCを取得し意匠図との連携を図ることができた。
また設備業者はTfasで施工図を作成していたため、これもIFCを取得。
これらを設計BIMモデルにインポートして、スリーブ位置や天井納まり、配管ルートなどの確認を行うことができた。
3D上で見ると非常に分かりやすく、設計BIMモデルのデータを生かしながら施工図レベルのモデルを使って検証できた点は良かった。
 
問題だったのは、元請の施工会社がBIMデータを扱えなかったことである。
設計事務所、各下請業者は施工図レベルでBIM連携できるデータを持っているにもかかわらず、肝心の元請が使えないので、結果的にうまく有効活用できなかった。
 
鹿児島に限らず、地方ではこういう事例は多いと思う。
構造躯体と設備等との干渉は、事前に綿密に確認をしておかなければ、現場では手直し不可能である。
鉄骨製作所、設備業者とも「IFCデータを要望されたのは初めて」というリアクションで、実は施工段階で活用できる3Dデータは揃っているのに、それを扱えず、無駄になっているのが現状だ。
 
BIMデータを使えばもっと品質の良い建物が高い生産性で生み出せるはずで、ベースになるデータはほぼ揃っている。
ここに気付けば、後はうまく活用するだけなので、多くの施工会社にぜひ気付いてほしい(図-1~4)。

REAL4データ

図-1 REAL4データ

Tfasデータ

図-2 Tfasデータ



 

構造設備の統合モデル

図-3 構造設備の統合モデル

構造設備意匠の統合モデル

図-4 構造設備意匠の統合モデル



 

より連携を深める挑戦・令和3年度国交省BIMモデル事業「中小事業者BIM試行型」

設計と施工を明確に切り分けて、2次元図面を契約図面とし、図面に基づいて施工していくのが現状の商習慣だが、品質、生産性という観点からはこれが必ずしもベストだとは思わない。
かといって、全て設計施工一括で行うのが理想とも思わない。
現状の商習慣にとらわれず、生産プロセス全体の効率化を意識した上で、うまいやり方はないか?と思っていたところ、令和3年度の国土交通省BIMモデル事業の公募の話があり、鹿児島の地場施工会社とチームを組み公募に挑戦、採択に至った。
 
まずは設計の初期段階で、コストや工程などで施工上懸念される事項を洗い出し、生産プロセスの適正化を図るための取り組みを考えた。
施工コンサルという立場で、施工会社にもBIMモデルのクラウドサーバーにアクセスしてもらい、3D上で仮設計画や共有しながら情報交換、必要項目の設計への反映を行った。
仮設計画を行うための敷地状況は、iPhone12ProのLiDARで点群をスキャニングし、モデルにインポートした。
このようなやり方もBIMならではである。
 
次に、構造、設備、その他専門業者とのBIMデータ連携を考えた。
今回はRC壁式構造で、計算ソフトはWALL-1を使用、これがIFCの書き出しもST-Bridgeでの出力もできなかったため、残念ながらデータ連携はできなかった。
設備はTfasで作図し、IFCデータにて連携することができた。
金物やサッシなどの専門業者でArchicadを使っている企業があったため、クラウドサーバーにアクセスしてもらい、BIMモデルを確認してもらいながら、細かい施工納まりの打合せができた。
 
確認申請についてもBIMデータを使っての取り組みを行った。
弊社では2018年にも実施しているが、今回はBIMデータのみでの申請はかなわなかった。
これは実例があまりに少なく、審査側の人材が育っていないことも一因である。
実例が少ないという点は、設計者側の責任も大きいと考える。
また、消防についてもオンライン・電子化での対応を交渉してもらったが、受け入れられなかった。
実務で申請業務は避けて通れないが、ここがBIM化・電子化できてないのはボトルネックである。
 
積算にもBIMモデルを活用した。
数量算出の精度を確認するため、通常の手拾いと併用している。
施工段階で改めて数量の精度を確認し、最適なモデル入力、算出手法を確立していきたい。
 
次のステップは、施工モデルに変換して活用することだ。
鉄筋のモデリングや施工図の書き出し、モデルベースでの配筋検査、工程監理にチャレンジしたい。
 
通常、設計モデルと施工モデルは分けて作られることが多いが、今回は小規模建築のため、基本設計から最終的な検査完了までを一つのモデルで進めている。
これらについて、それぞれどのようなメリットがあるのか、しっかりと検証したい。

 
 

最新の取り組みは地方にある!

Archicadを使っているユーザーは、各エリアにユーザー会を結成し、定期的に情報交換や勉強会を行っている。
これが、レベルが非常に高いのだが、ほとんどが地方で活躍している設計者だ。
 
BIMはCADに比べるとかなり複雑で、規模の大きい物件をいきなりBIMで進めるのは、難易度が高いと思う。
地方での物件規模は大き過ぎず、小さ過ぎず、最初にBIMに取り組んだり、新しいアプローチでBIMを活用したりするのに最適な案件が多いと感じている。
 
その上、近年はセミナーなどもオンライン化が進み、新しい道具もすぐに手に入る。
もはや都心にいなくても、最新の情報に容易に触れることができるようになった。
 
小回りの利くチームで、ほどよい規模の物件となれば、先進的な取り組みも多くなっていく。
このような動きが各地で起きてくると、日本の建築業界も大変面白いものになってくると感じる。
 
ただ、まだまだ地方では、発注者側にBIMのメリットが伝わっていない。
そのため、発注者側からのBIMの要求は皆無である。
 
本来、BIMを使うことの最大のメリットを享受するのは「建築主」ではないだろうか。
見慣れない図面ではなく誰でもイメージしやすい3Dモデルで打合せができる。
模型とは違いイメージどおりの建物ができる。
そのデータを使って施工コストを適正化するとか、維持管理コストを簡単に管理することができる。
BIMで建物を生産することにより建築主が享受するメリットは非常に大きいものがある。
 
われわれ技術者も、技術を追求していくだけでなく、それを一般的なものとし、広く普及していくフェーズに変えていかなければならないのだろう。

仮設計画との統合

図-5 仮設計画との統合

配管モデルとの統合

図-6 配管モデルとの統合



 

周辺敷地は点群データをインポート

図-7 周辺敷地は点群データをインポート

打合せはオンラインがメイン

図-8 打合せはオンラインがメイン



 

全体ワークフロー案

図-9 全体ワークフロー案



 
 
 
 
 

吉田浩司 プロフィール

【執筆者】
吉田浩司
株式会社ixrea 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技師、認定BIMマネジャー
公益社団法人鹿児島県建築士会、一般社団法人鹿児島県建築士事務所協会 所属
 
2020年より公益社団法人建築士会連合会青年委員会九州ブロック青年委員を担当
福岡大学建築学科非常勤講師(建築情報のBIM授業担当)


【略歴】
鹿児島県出身
国立都城工業高等専門学校建築学科卒、国立大学法人鹿児島大学大学院理工学研究科建築学専攻修了。
大手組織事務所、地場設計事務所勤務を経て2013年に鹿児島にて(株)ixreaを設立。
設立当初よりArchicadを導入しBIM活用を進める。
2018年にBIMデータによる確認申請を実施。
鹿児島で設計中の案件が令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業に採択され、推進中。

 
 
 

株式会社 ixrea
代表取締役 吉田 浩司
吉田 浩司



 

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



公共土木工事における新たな技術への取り組みについて-「遠隔臨場」と「デジタルデータを活用した配筋検査」の試行の取り組み -

2022年9月17日

はじめに

人口減少社会を迎えた現在、建設産業は働き手の減少を上回る生産性の向上や、また、建設業就業者の高齢化が進行するなど多くの課題を抱えている。
 
このような現状を打破するために、国土交通省では、平成28年より「建設現場の生産性革命」に向け、i-Constructionを推進しており、ICTの活用やコンクリート工の規格の標準化、施工時期の平準化をトップランナー施策として位置付けている。
また令和元年6月に改正された公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)により情報通信技術の活用等による生産性向上への取り組みや働き方改革の推進が位置付けられ、発注者の責務として、より良い品質のインフラを国民に提供するため監督・検査内容の充実、体制の確保と生産性向上が必要とされている。
 
また、令和2年には新型コロナウイルス感染症拡大防止を目的とし、建設現場においても人と人が密になる環境を避けるための非接触・リモート化を推進しているところである。
 
本稿では、ICT技術の活用により、建設現場の生産性向上とともに、公共工事の品質確保、品質確保の高度化の取り組みとなり、また非接触・リモート化の促進が期待される施策である建設現場における「遠隔臨場」と「デジタルデータを活用した鉄筋出来形計測(配筋検査)」について紹介する。
本技術は、施工のプロセスを変革し、業界や職員の安全性や作業環境の改善につながり、建設分野のインフラDXの推進施策としており、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革し、安全・安心で豊かな生活の実現に資するものである。

 
 

改正品確法と情報通信技術の活用

品確法は、公共工事の品質確保に関して基本理念を定め、国などの責務を明らかにするとともに、公共工事の品質確保の促進に関する基本的事項を定めることにより、公共工事の品質確保の促進を図り、国民の福祉の向上および国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている。
 
令和元年の改正では、建設業・公共工事の持続可能性を確保するため、働き方改革を促進するとともに、発注者の責務として「公共工事などの監督および検査並びに施工状況などの確認および評価に当たっては、情報通信技術の活用を図る」ことが、受注者においては「情報通信技術を活用した公共工事などの実施の効率化などによる生産性の向上」が盛り込まれた。
 
改正品確法を受けて、現状における受・発注者ともに限られた人員での監督・検査のさらなる充実を図るため、①合理的で不正の抑制に効果的な監督・検査方法、②受発注者相互による新たな品質管理マネジメントのあり方について、情報通信技術の活用の検討を進めている(図-1)。

情報通信技術の活用(品確法より抜粋)

図-1 情報通信技術の活用(品確法より抜粋)



 

監督検査における情報通信技術の活用の検討

施工データの改ざんなど不正行為を抑制・未然に防ぐとともに、現場での確認作業の効率化に寄与することを期待できるものとして、施工状況の映像記録の保存、施工データの自動計測やクラウド管理などのICT(IoT)の導入を検討している。
 
施工状況をビデオ撮影により記録・保存することで、見られていることによる不正行為の抑止効果や工事現場の見える化による不安全行動の抑止となり、また、近景での撮影により、映像の解析技術などを併用することで映像記録・保存したデータを出来形確認に活用し、監督・検査業務の効率化への寄与も期待できる。
 
これらの技術の導入により「不可視部分の施工状況把握の充実」、「不正行為の抑制」、「確認作業の効率化」、「工事書類の削減」の効果が発揮されると考える。
 
こうした技術の活用に当たり、実現場で試行工事を行い、「映像のみで施工状況を把握する方法」、「データ改ざんなどを防止する技術の確立」、「ICT導入に関する基準類の整備」などの考えられる課題に対応・検討していく。

 
 

建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト

国土交通省では、内閣府の官民研究開発投資拡大プログラム(通称PRISM)の一貫として2018年度より「建設現場の生産性を飛躍的に向上させるための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」に取り組んでいる。
 
本プロジェクトは、生産性向上に資する革新的技術を公募、現場実証し、技術の導入効果などを検証することで、革新的技術の現場への導入・活用を促進する取り組みで、特に技術の公募に当たって「建設業者」と「建設業者以外の者(IOT関連企業、大学等)がコンソーシアムという形式でチームを組むことを条件付けることで、従来の発想にとらわれず、民間企業などが保有する有用な技術を発掘することを狙いの一つとしている。
 
これから紹介する「遠隔臨場」と後半紹介する「デジタルデータを活用した鉄筋出来形計測技術」は同プロジェクトで開発され、土木工事における出来形、品質管理の高度化などを図る技術の代表的な事例である。

 
 

建設現場における遠隔臨場の試行

『遠隔臨場』とは、ウエアラブルカメラ等による映像と音声の双方向通信を使用して「段階確認」、「材料確認」と「立会」を行うものである。
遠隔臨場の効果としては、発注者は事務所・出張所・詰所などから施工現場への往復の移動時間を削減することができる。
また、受注者は監督員の臨場における日程調整や立会待ちによる施工時間のロスを防ぐことができるため、両者にとっての業務効率化に寄与すると考えられる。
図-2、3に概要と効果のイメージを示す。
 

遠隔臨場の概要

図-2 遠隔臨場の概要

遠隔臨場の効果

図-3 遠隔臨場の効果


 

遠隔臨場については、各地方整備局において平成29年度から試行を継続的に実施しており、試行による受発注者の意見をアンケート調査として集約している。
直近の令和3年度に実施したアンケート調査では、「時節に関する事項(コロナ感染症予防等)」や「時間に関する効率化(監督職員などの待ち時間の削減や検査時間の調整など)」において最も効果を感じた理由であるとの結果により遠隔臨場の有用性が確認されている(図-4)。
 

令和3年度に行った試行におけるアンケート結果(効果が感じられた項目と理由)

図-4 令和3年度に行った試行における
   アンケート結果(効果が感じられた項目と理由)


 

試行における各種要領を定める上では、直近のアンケート調査結果を反映することとし、令和2年3月には初版である「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)」(以下、試行要領)、「建設現場における遠隔臨場に関する監督・検査試行要領(案)」を策定し、直轄土木工事の「段階確認」、「材料確認」と「立会」において、遠隔臨場の試行に取り組むこととした。
以後、継続した試行により試行要領を一部改定していることについても併せて述べることとする。
 
これらの試行要領は、遠隔臨場を適用するに当たり、受発注者の作業効率化を図るとともに、契約の適正な履行として施工履歴を管理するため、以下の事項について適用範囲や具体的な実施方法と留意点などを示したものである。
 
・適用の範囲
・遠隔臨場に使用する機器構成と仕様
・遠隔臨場による段階確認などの実施および記録と保管
 
 
1)適用範囲
遠隔臨場の機器を用いて、『土木工事共通仕様書(案)』に定める「段階確認」、「材料確認」と「立会」を実施する場合に適用する。
 
受注者が動画撮影用のカメラなどにより撮影した映像と音声を監督職員などへ同時配信を行い、双方向の通信により会話しながら確認するものである。
この際、監督職員などが確認するのに十分な情報を得ることができた場合に、臨場に代えることができるものとする。
監督職員などが十分な情報を得られなかったと判断する場合には、受注者にその旨を伝え、通常どおりの段階確認を実施する。
 
なお、監督職員が実施の場合は、録画や写真は不要であり、確認実施者が現場技術員の場合は、使用するPCにて遠隔臨場の映像(実施状況)を画面キャプチャなどで記録し、工事情報共有システム(ASP等)に登録して保管する(図-5)。
 

令和2年度方針における各仕様

図-5 令和2年度方針における各仕様



 

2)使用機器と仕様
遠隔臨場に使用する動画撮影用のカメラなどの機器は、受注者が準備、運用する。
 
(1)映像と音声の「撮影」に関する仕様
本試行に用いる動画撮影用のカメラなどの機器による映像と音声の「記録」に関する仕様を表-1に示す。
なお、 映像と音声は、別々の機器を使用することができるものとし、夜間施工等における赤外線カメラや水中における防水カメラなどの使用や固定カメラの使用なども妨げるものではない。
 
機器の仕様については、当初試行した現場においてはズーム倍率を上げると画像が粗くなるため、配筋状況を確認する上からハイスペックを望む声を反映していたが、令和2年度の試行工事でスペックを緩和したところ、立会や段階確認では画像による確認が可能との結果が出たことにより令和3年3月に変更した(表-1、3)。
 
 
(2)Web会議システム等に関する仕様(映像と音声の「配信に関する仕様」)
Web会議システムに関する仕様を表-2に示す。
なお、Web会議システムなどは通信回線速度により自動的に画質などを調整するため、通信回線速度を優先し、転送レート(VBR)は参考とする。
 
映像と音声を送信しモニターで確認するシステムは、Web会議システムの他、令和2年度の試行では、通信機器などのメーカーがクラウドも含めパッケージ化しているシステムや、ASP(工事情報共有システム)を活用している事例もあった。
受注者がどの会社を選定するかは自由であり、選定理由は、導入の容易さ、現場に適した機能、使用実績などが考慮され、費用面だけで選定したとは限らない。
 

令和3年3月「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領」の動画撮影用のカメラに関する仕様

表-1 
令和3年3月「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領」
の動画撮影用のカメラに関する仕様

令和3年3月「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領」のWeb会議システム等に関する仕様

表-2
令和3年3月「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領」
のWeb会議システム等に関する仕様



 

令和3年3月「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領」の各仕様の変更点

表-3
令和3年3月「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領」
の各仕様の変更点


 
3)実施
段階確認などを行う箇所については、受注者が撮影した映像と音声を監督職員などへ同時配信を行い、双方向の通信により会話しながら監督職員が指定して確認する。
 
受注者は、「工事名」、「工種」、「確認内容」、「設計値」、「測定値」や「使用材料」などの必要な情報について適宜黒板など(電子小黒板も可)を用いて表示する。
記録に当たり、必要な情報を冒頭で読み上げ、監督職員等による実施項目の確認を得ること。
また、終了時には、確認箇所の内容を読み上げ、 監督職員等による実施結果の確認を得ること。
 
 
4)記録と保存
受注者は、遠隔臨場の映像と音声を配信するのみであり、記録 と保存を行う必要はないとして書類の省力化を図っている。
 
ただし、確認実施者が現場技術員の場合は、現場技術員は使用するPCにて遠隔臨場の映像(実施状況)を画面キャプチャなどで記録する。
 
 
5)留意事項 
工事記録映像の活用に際しては、画面や音声に映る作業員のプライバシーに関して特有の問題があるので留意する必要がある。
 
・被撮影者である当該工事現場の作業員に対して、撮影の目的、用途などを説明し、承諾を得ること。
・作業員のプライバシーを侵害する音声情報が含まれる場合があるため、留意すること。
・施工現場外ができる限り映り込まないように留意すること。
・受注者は、公的ではない建物の内部など見られることが予定されていない場所が映り込んだり、人物が映っている場合は、人物の特定ができないように留意すること(写真-1~3)。
 

監督員の確認状況/撮影者/現場の状況

写真-1 監督員の確認状況        写真-2 撮影者            写真-3 現場の状況



 
6)令和2年度における遠隔臨場の試行
令和2年度においては、遠隔臨場の試行拡大と新型コロナウイルス感染拡大防止のため、遠隔臨場により取り組みやすくなるように「建設現場における遠隔臨場の令和2年度の試行方針」(以下、「令和2年度方針」という)を策定し、全国の直轄工事現場で760件の試行工事を実施した(令和3年3月末時点)。
 
試行方針においては、試行における費用負担の考え方について、発注者指定型として試行するものについては、試行にかかる費用の全額を技術管理費に積み上げ計上し、発注者が負担することとした。
また、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策として試行する場合は、発注者指定型として試行することとしており、感染症対策としても積極的に試行できるようにした。
 
また、「建設現場における遠隔臨場の令和3年度の試行方針(以下、令和3年度方針)では、上記に加え、受注者から遠隔臨場の希望があった際に受発注者間の協議を経て、受発注者双方に遠隔臨場の効果が期待される場合は機器や通信にかかる費用を発注者が負担する「発注者指定型」としている(図-6)。

 

令和2年度方針における各仕様

図-6 令和2年度方針における各仕様



 

段階確認に関する規定と課題

公共工事においては、会計法に基づき、契約の適正な履行を確保するために必要な検査を行わなければならない。
このため、工事の進捗に応じて発注者立会いによる段階確認が行われている。
例えば、土木工事監督技術(案)では、鉄筋組み立て完了時に表-4のように実施することになっている。
 
確認頻度については、目安を示しているのみで、回数などは受発注者の協議により決定される。
設計図書と現場の対比については、鉄筋径、間隔、かぶり、重ね継手長などの計測が必要であり、これらの具体的な方法については、土木工事共通仕様書(案)、土木工事施工管理基準および規格値(案)に基づいている。
工事受注者からは、段階確認のための準備(発注者が計測するための鉄筋へのマーカー設置、帳票作成等)や、発注者が計測している状況写真の撮影および写真の整理などで多大な手間と時間を要しているとの意見もある。
さらに現場では希望どおりに発注者が臨場できず、受注者の待機が発生していることや、現場への長時間の移動が発注者の大きな負担となっている。
 
また、遠隔臨場を実施していく上での課題解決については、各地方整備局の試行の中で取り組んでおり、昨年度より積極的に試行に取り組んでいる関東地方整備局の取り組み事例について、発注者・受注者の考えも取り入れながら紹介する。

土木工事監督技術基準(案)における段階確認項目

表-4 土木工事監督技術基準(案)における段階確認項目



 

関東地方整備局における建設現場の遠隔臨場

関東地方整備局では、令和2年度より建設現場の遠隔臨場に取り組んでおり、令和2年度は166工事(令和3年3月末時点)で遠隔臨場の試行を実施し、令和3年度はさらなる試行拡大に取り組んでいる。
 
 

(1)試行対象工事
令和3年度は、令和2年度の試行結果を踏まえ、原則3億円以上の工事、および3億円未満の工事においても遠隔臨場の効果が期待できる工事は発注時の特記仕様書に「発注者指定型」として試行を実施することを明記の上、試行を実施することとした。
 
加えて、その他の全ての工事においても受注者に意向を確認し、効果が期待できるもの、新型コロナウイルス感染症拡大の防止対策に寄与するものは「発注者指定型」で試行を実施することができることとし、実質、全ての工事が「発注者指定型」により建設現場の遠隔臨場の試行を実施できる体制とした。
 
令和3年度は、10月末時点で428工事で試行を実施しており、当初から発注者指定型で試行を実施したのは152工事(35%)、契約後の協議により発注者指定型で試行を実施したのは276工事(65%)となっている(図-7)。
 
なお、久慈川緊急緊急治水対策河川事務所では、発注した全15工事において試行を実施している。
 

令和3年度 遠隔臨場の試行区分(R3.10末時点)

図-7 令和3年度 遠隔臨場の試行区分(R3.10末時点)


 
(2)試行内容
1)段階確認
材料確認と立会での確認を受注者が動画撮影用のカメラ(ウエアラブルカメラ等)により撮影した映像と音声を配信システムを利用して確認する。
 
 
2)機器の準備
動画撮影用のカメラは、撮影者の安全を確保するため、ウエアラブルカメラなどの撮影者がハンズフリーで撮影可能なものを使用する。
 
配信システムは、「パッケージ化したシステム」、「情報共有システム(ASP)」、「Web会議システム(Teams、Zoom)」等、いずれのシステムを利用してもよい。
 
 
(3)受注者アンケート調査の実施
遠隔臨場の試行を実施し、令和3年9月までに完成した80工事を対象にアンケート調査を実施し、40工事から回答を得た。
 
回答者の多くが、移動時間や待機時間の削減。
新型コロナウイルス感染症対策に効果を実感していることが分かり、多数の受注者(97%)が来年度以降も遠隔臨場の実施を希望していることが分かった(図-8)。
 

令和3年度 遠隔臨場の試行区分(R3.10末時点)

図-8 来年度以降の遠隔臨場の実施について
   (受注者アンケート結果)


 
(4)現場における試行事例
関東地方整備局首都国道事務所が担当する国道357号東京湾岸道路塩浜区間では、複数の工区において橋梁下部工事を施工しているところであるが、各工区の受注者が建設現場の遠隔臨場の試行に取り組んでいる。
 
試行を実施する工事は、3億円以上の工事で「発注者指定型」として発注された工事に加え、工事契約後に発注者から受注者へ意向確認を実施し、受注者の試行の実施の意向を受けて、発注者が「発注者指定型」として指示し実施する工事も複数ある。
 
東京湾岸道路塩浜区間の現場では、主に「段階確認」既製杭工既製コンクリート(確認時期:打込時、掘削完了時、施工完了時、杭頭処理完了時)、重要構造物RC躯体工(橋脚)(確認時期:鉄筋組み立て完了時、埋戻し前)や「材料確認」土留仮締切工(鋼矢板)などにおいて建設現場の遠隔臨場の試行に取り組んでいる。
 
 
1)受注者の感想
・従来の臨場は、監督職員の現場までの移動時間を渋滞なども考慮した上で把握し、調整が必要であり、移動が遅れた場合は臨場の後の施工に影響することが常であった。
 遠隔臨場の活用により、移動時間を考慮せずに、現場の施工の段取りを優先に遠隔臨場が実施可能であるため、時間のロスを削減し、施工性を向上させることが可能。
 
・遠隔臨場の試行の機会を活用し、受発注者が遠隔臨場のいろいろな事例を経験すれば、将来的に効率的な遠隔臨場の実施が可能である(写真-4)。
 

令和3年度 遠隔臨場の試行区分(R3.10末時点)

写真-4 遠隔臨場による出来形確認(現場)



 
2)監督職員の感想(小松川監督官詰所)
・現場への移動時間の削減が大きなメリット。
 近距離でも交通渋滞を考慮した移動が必要な都市部での工事においても遠隔臨場は効果を発揮している。
 複数の工区を連続して臨場することも可能となり、受発注者ともに臨場に要する時間の削減が十分に図られている。
 
・既製杭(試験杭)は、現場において臨場する場合、現場の地質条件により臨場のタイミングが前後するため、施工開始から施工完了まで現場に張り付いている必要があったが、遠隔臨場の場合、臨場のタイミングで呼び出しを受ければよく非常に効率的である。
 
・タブレットを活用することにより執務室以外でも臨場の対応が可能である(写真-5)。
 
 
(5)今後に向けて
今後のさらなる遠隔臨場の活用拡大に向けて、関東地方整備局のホームページを活用した試行状況などの情報発信や、受発注者双方が建設現場の遠隔臨場に対する理解を深めるため勉強会を開催するなどの取り組みを積極的に行っている。
 
また、アンケート調査の結果をはじめとする受発注者の要望や意見を踏まえ、さらなる遠隔臨場の実施拡大を見据えた次年度の運用方針の策定を予定している。
 
 
▼関東地方整備局HP
「建設現場の遠隔臨場」
(HPアドレス)
https://www.ktr.mlit.go.jp/gijyutu/gijyutu00000212.html

遠隔臨場による出来形確認(監督職員)

写真-5 遠隔臨場による出来形確認(監督職員)



 

カメラ等による撮影データを活用した配筋検査などの省力化

従来の土木工事の配筋検査は、先に記載した「段階確認に関する規定と課題」に記載したとおり、対象物をスケールで計測しながら、同時に写真を撮影していく作業であり、複数人での時間や手間を要するものとなっており、また、その後の写真や帳票整理に多大な手間がかかることが課題であった。
 
こうした課題に対し、PRISMの取り組みで開発された、公共工事の段階確認の一環である「配筋検査」において、受注者の鉄筋へのマーカーやロッド設置などの準備作業や帳票作成業務の効率化への寄与が期待できる「デジタルデータを活用した鉄筋出来形計測に関する技術」について述べる。
 
本技術は対象物を撮影するだけで配筋間隔や鉄筋径、本数を計測することを可能としており、また、撮影後の計測結果はシステムの画面上にリアルタイムで表示され、計測から結果の確認まで一連の作業を撮影者単独で行うことができるようになる。
実際の試行現場では計測に必要な人員が4人から1人に減少し、計測時間が約1/3に削減されるなど、本技術が計測作業の省人化や省力化につながることを確認した(図-9)。
 
さらに、あらかじめ構造物の3次元設計BIM/CIMデータをクラウドに保存しておくことで、前述の撮影データとBIM/CIMデータを照合し、リアルタイムに合否判定を行うことを可能とする。
この判定結果は、現場事務所や発注事務所から確認を行うことができるため、監督職員や検査待ち時間がなくなることや、検査の書類作成の簡素化にもつながるなど、建設業の働き方改革に資することが期待される。
 
前述のPRISMを活用して鉄筋計測に関する技術開発を実施したコンソーシアムは5者あり、コンソーシアムの1者は、3眼カメラにより配筋撮影画像を解析し、縦・横方向の鉄筋径や間隔、本数を計測、結果をクラウド上で共有することで品質検査業務の効率化を図るもの(図-10、写真-6)や、別のコンソーシアムでは、奥行き方向を計測できるカメラ(デプスカメラ)を搭載したタブレットなどで鉄筋を計測し、鉄筋径、間隔を自動計測し、デプスカメラの画像を解析し、リアルタイムで結果をタブレットへ表示するなどといった現場での配筋検査に特化した技術の開発がされている。
 
PRISMの試行では、実現場などにおいて、発注者の段階確認時に従来方法と新技術を併用し、両者のデータから統計的に精度検証が十分だと判断できるデータ整理と計測誤差の視点では、全データが規格値内(±100%)に入っていることが必要とし、また、計測値・計測精度は鉄筋径や気象な測定角度などのさまざまな条件による違いや、毎回の計測結果にばらつきがないことないかなどの確認し、また、導入効果、実用性や汎用性の観点も考慮して、直轄現場の試行が可能と判断したものである(図-11)。 
 
なお、出来形規格値については、鉄筋コンクリート構造物であり、各デバイスの測定精度により、基準値を緩和することは考えていない(表-5)。
 
また、本プロジェクトに関わらず、民間会社独自で開発をしている既存の技術についても、デジタルカメラなどにより撮影した画像データから、鉄筋径、間隔、本数などの情報を解析する仕組みなどは複数存在しているため、それらも含めた技術が建設現場において活用できるような環境を整える予定である。
 
カメラ撮影データを活用した配筋検査に関する技術は、上記で説明した類似技術などにより現場での試行が可能となるよう、令和3年7月に「デジタルデータを活用した鉄筋出来形計測技術に関する試行要領(案)」を策定し、全国の直轄土木工事29現場において同技術の導入に向けた試行を開始した。
試行後は直轄土木工事だけでなく、幅広く工事で活用できるよう、監督および検査に関する要領(案)の策定にもつなげていく予定である。
 
本技術は現段階では試行であり、実装に向けたデータ取得・分析に関する時間を要することから、当面の間は、従来の段階確認である配筋検査と並行して、技術の精度および生産性向上への寄与度についても検証していくこととする。

カメラ撮影データを活用した配筋検査の様子 従来の配筋検査状況
タブレット画面

図-9 カメラ撮影データを活用した
   配筋検査の様子 従来の配筋検査状況

クラウドによる情報共有

図-10 クラウドによる情報共有



 

データ統計の一例

図-11 データ統計の一例



 

配筋画像取得状況

写真-6 配筋画像取得状況

PRISM試行により精度が確認された技術

表-5 PRISM試行により精度が確認された技術



 

おわりに

令和3年度も、新型コロナウイルス感染症にかかる緊急事態宣言時に、河川や道路の公物管理、公共工事については、事業の継続が求められており、また、受発注者双方においてテレワークの推進や「三つの密」の回避などの感染防止対策を徹底することとして対応しているが、建設現場におけるリモート・非接触といった観点では、「遠隔臨場」や「カメラ等による撮影データを活用した配筋検査」の活用は有効と考えられる。
遠隔臨場については、実装化に向けた要望も多くあるが、一方で配筋検査については、技術活用の拡大と、さらなる生産性向上に結びつけるためには、デバイスの普及と併せて新たな基準類の策定など現行基準の改定も必要であるとの意見もある。
 
国土交通省としては、民間の持つ技術の活用を促進するための基準類の策定や改定などの環境整備を進めることで、建設現場における省力化・省人化に資する技術を全国の工事に拡大できるよう取り組みを進め、同時に建設プロセスにおける働き方を変革し、建設分野におけるDXを推進してまいりたい。
 
 

 

国土交通省 大臣官房技術調査課 工事監視官
栗原 和彦

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 



BIMにおける国際的なプロフェッショナル認証 -buildingSMARTのBIMプロフェッショナル認証が国内で始動-

2022年9月12日

はじめに

一般社団法人buildingSMART Japan(以下bSJ)は、建設業界におけるデータ流通・相互運用の促進を目的として、国際組織buildingSMART International(bSI)の日本支部として1996年に設立され、BIMデータの国際標準規格であるIFC(Industry Foundation Classes)や、BIM推進に関連する標準化活動を、国際標準化機構(ISO)と協調しながら推進してきている。
BIM普及を業界全体に展開していくには、ワークフローや情報マネジメントを如何に体系的、組織的に実施していくかが重要な課題の一つであり、そのためにこれまで国内外においてさまざまなBIMガイドラインや標準規格が発行されてきている。
2018年には、BIMの情報マネジメントに関する国際標準(ISO19650)が発行され、国内においては、2020年3月に、建築BIM推進会議から、「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」が公開された。
 
このような業界全体のBIM推進へ対応するため、bSIはBIMの基本的な概念、用語やプロセス、関係者の役割などの定義を明確にし、BIMに携わる個人の知識、技能のレベル向上を図るため、「openBIMプロフェッショナル認証(通称、BIMプロフェッショナル認証)」を2018年に開始した。
 
本稿では、BIMプロフェッショナル認証の全体像と日本国内での展開状況、buildingSMARTが提唱するopenBIM(オープンBIM)の概念、オープンBIM推進の鍵となるBIM情報マネジメント国際標準のISO19650の概要などについて紹介する。

 
 

buildingSMARTプロフェッショナル認証とは

bSIのopenBIMプロフェッショナル認証は、一貫性のある世界共通なBIM推進環境を実現するために、bSIが策定した体系的な学習成果単元に基づくBIM関連の基本的知識、共通概念などの獲得の機会を、認定されたトレーニングプロバイダを通じて提供することを目的としている(図-1)。

buildingSMART プロフェッショナル認証の体制

図-1 buildingSMART プロフェッショナル認証の体制



 

【buildingSMARTプロフェッショナル認証のメリット】
・ISO19650シリーズ、オープンBIMなどの基礎的な理解、用語の知識の獲得
・国際標準の原則に基づいて開発された、一貫したトレーニングによる技能の向上・国際的に認知された共通の学習成果による技能の証明

 
 

【openBIMプロフェッショナル認証の構成】
openBIMプロフェッショナル認証は基礎編と実践編から構成され、技能・技術を学習する際のスキルレベルを定義しているBlooms分類法(知識・理解・応用・分析・評価・創造)との対応が定義されている(図-2)。
 
・基礎編:buildingSMARTプロフェッショナル認証の第1レベルで、主に「知識と理解」を問う形式で、基本的な理解レベルを認定する。
・実践編:基礎編に続く上位レベルのbuildingSMARTプロフェッショナル認証は、応用学習と実践的な専門知識を含む総合的なレベルのスキルを認定することを予定している。
 
2018年に基礎編の初級レベルとなるベーシック(Basic)カリキュラムの認証がドイツ支部から開始された。
続いてCOBieカリキュラムが開始され、現在、設計者(Designer)、建物オーナー・運営者(Owner/Operator)カリキュラムの策定が進んでいる(図-3)。
実践編に関しては、現時点でbSIプロフェッショナル認証委員会が検討を進めている状況である。

buildingSMART プロフェッショナル認証の体制

図-2 buildingSMARTプロフェッショナル認証の構成(基礎編・実践編)


buildingSMART プロフェッショナル認証の体制

図-3 buildingSMART プロフェッショナル認証の体制



 

【オープンBIM学習成果(Learning Outcome)について】
openBIMプロフェッショナル認証の基礎編ベーシックカリキュラム(Foundation Basic)においては、オープンBIMに対しての学習成果項目を定義している(図-4)。

buildingSMARTプロフェッショナル認証基礎編のカリキュラム構成

図-4 buildingSMARTプロフェッショナル認証基礎編のカリキュラム構成



 

【トレーニングプロバイダと国内展開について】
openBIMプロフェッショナル認証のトレーニング(講習)は、buildingSMART各支部で登録されたトレーニングプロバイダから受講することができる。
トレーニングプロバイダは、bSIが提供する学習成果フレームワーク、オープンBIM知識体系などに基づくトレーニング計画を作成し、支部の審査を通ることにより、bSIの認定トレーニングプロバイダとして登録されることになる。
bSJは2021年春からトレーニングプロバイダの募集を開始し、国内の4社からの申請があり、2021年12月時点で1社がトレーニングを開始している状況である。

 
 

【各国の状況】
openBIMプロフェッショナル認証は、オーストリア、ベネルクス、中国、フランス、ドイツ、香港、イタリア、日本、ノルウェー、ロシア、スペイン、スイス、米国の各支部において展開されている(図-5)。
各支部では、各国語のトレーニングコンテンツ、オンライン認定試験環境が準備され、トレーディングプロバイダー数、受講者と合格者数も年々伸びてきている(2021年12月時点:トレーニングプロバイダは113、合格者は5178)。

オンラインテストプラットフォーム(左下)、トレーニングプロバイダおよび合格者一覧ページ(図右)

図-5 オンラインテストプラットフォーム(左下)、トレーニングプロバイダおよび合格者一覧ページ(図右)



 

BIM情報マネジメントの国際標準ISO19650
openBIMプロフェッショナル認証の学習成果単元の一つであるISO19650について、その概要を以下に示す。
英国では、2011年のBIM導入推進政策開始により、BIMプロセスにおける発注者や受注者の役割、BIMプロセスのさまざまなタスクに関する用語や役割の整理や定義を行うため、BIM導入へのガイドライン資料を英国標準BS/PAS1192シリーズとして策定した。
PAS1192-2:2013は英国規格協会によって2013年に発行され、特にBIMプロジェクト推進に焦点を当て、情報マネジメント要件を規定した。
その後、BIMプロジェクトにおける情報マネジメントの国際標準であるISO19650-1とISO19650-2が、BS1192シリーズに基づいて2018年末に発行されることとなった。
 
ISO19650では、プロジェクト開始段階で発注者側の情報要件を規定し、その内容を受注者側がBIM実行計画(BEP)に取り込むことや、プロジェクト期間中の情報をPIM、竣工後の情報をAIMとして、発注者と受注者の情報要件・役割を明確にした概念となっていることが特長の一つである(図-6)。
 
ISO19650で導入された主要な用語を以下に示す。
 
・PIR(Project Information Requirements):プロジェクト情報要件
・AIR(Asset Information Requirements):資産情報要件
・EIR(Exchange Information Requirements):交換情報要件
・BEP(BIM Execution Plan):BIM実行計画(EIRの内容に対応)
・CDE(Common Data Environment):共通データ環境
・PIM(Project Information Model):プロジェクト情報モデル(PIRと対応)
・AIM(Asset Information Model):資産情報モデル(AIRと対応)

BIM情報マネジメントの国際標準ISO19650の概要

図-6 BIM情報マネジメントの国際標準ISO19650の概要



 
buildingSMARTが推進するオープンBIM
BIM情報マネジメントの国際標準ISO19650は、buildingSMARTが推進するオープンBIM(openBIM)においても重要な構成要素となっている。
以下にオープンBIMの特長を示す。
 
・オープンで中立的な国際標準を活用。
・多種多様なソフトウエア、ソリューションが参加できる。
・長期的かつ持続可能な相互運用性を実現する。
 
オープンBIMにおいて活用される国際標準として以下のものが挙げられる。
 
・BIM情報マネジメントの国際標準ISO19650
・BIMデータの国際標準ISO16739(IFC:Industry Foundation Classes)
・BIMデータ連携仕様記述に関する国際標準ISO29481(IDM:Information Delivery Manual)
・辞書情報デジタル表現の国際標準ISO12006(IFD:International Frameworkfor Dictionaries)
 
ISO19650で規定されているAIR,PIR,EIRなどの情報要件に対応したBIM実行計画(BEP)を作成する際、PIMを構築する各BIMデータ作成タスクや情報交換ポイントにおいて、必要なデータの内容やデータ連携仕様を記述するためにIDMを活用することができる。
BIMデータ連携の場面においては、IDMの内容を取り込んだMVD(Model View Definition:IDMの内容をIFCと対応付ける手法)に対応したBIMソフトウエアのIFCデータ入出力によって、計画された情報伝達が可能となる(図-7)。
 
今後の日本国内におけるopenBIMプロフェッショナル認証普及のため、bSJはopenBIMプロフェッショナル認証の基本テキストとして、bSIが監修した書籍(英語版)の日本語版を出版する。
bSIプロフェッショナル認証委員会関係者が執筆に関わり、学習成果内容を網羅した内容となっている(図-8)。

ISO19650とオープンBIMの接点

図-7 ISO19650とオープンBIMの接点


ISO19650とオープンBIMの接点

図-8 オープンBIMの教科書「The BIM Manager」



 

今後の展望

本稿では、2021年にbSJで開始したオープンBIMに基づくbuildingSMARTのopenBIMプロフェッショナル認証についての概要、オープンBIMと深い関係にあるBIM情報マネジメント国際標準ISO19650などの概要を説明した。
 
BIMの展開は、設計、施工フェーズを超えて、製造業、サプライチェーン、インフラストラクチャー、運用・維持管理、スマートシティなどの領域に広がってきている。
BIMデータの連携は、建設産業の関係者から、より広範囲な製造業、IoT・デジタルツインやロボット技術を伴うサービス業にも拡張していく状況である。
産業横断的な情報要求をBIMデータ連携で実現していくためには、今回紹介したISO19650や、IFC,IDMなどの国際標準に基づいたオープンBIMの手法を、より広い関係者に広げていくことが重要となる。
今後、日本のデジタルトランスフォーメーションDX実現を加速するには、オープンBIMの概念を中心に据えたbuildingSMARTプロフェッショナル認証の展開が鍵となっていくと考えている。
 
 

参考文献:
・buildingSMART Professional Certification:https://education.buildingsmart.org/
・トレーニングプロバイダ・合格者一覧:https://education.buildingsmart.org/registry/ 
・bSJオープンBIM基礎講座:https://youtu.be/0XQmU1tIt2g
・ISO19650-1:2018,BIMを使用する情報マネジメント 第1部:概念及び原則

 

 

一般社団法人 buildingSMART Japan 理事・技術連携委員会委員長 buildingSMART Fellow
足達 嘉信 博士(工学)

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



四国地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みについて

はじめに

四国地方整備局では平成24年度からBIM/CIMを活用し、これまでに業務52件、工事23件で活用を行っています(図-1)。
業務では道路予備設計や測量・地質調査、橋梁・トンネルの詳細設計などにおいて、本体の鉄筋・付属物の干渉チェックや橋梁構造の比較検討、地元説明などで活用、工事では鋼橋上部工事やトンネル工事において施工計画の検討や干渉チェック(図-2)、関係者協議、危険予知活動(写真-1)、出来型計測などに活用しています。
今後は令和5年度からの小規模を除く全ての公共事業におけるBIM/CIM原則適用に向け、3次元設計ストックを順次拡大し、施工段階で活用していく予定です。
これらを本格的に進めるために、四国地方整備局では令和2年度に各事務所に高性能PCを導入するとともに発注者の役割を担うための人材育成を本格化させたところです。
 
また、BIM/CIM原則化を効率的に進めるためには、それぞれの役割を担っている発注者、設計コンサルタント、建設会社の全てが一体となって取り組む必要があり、人材育成などの体制整備が課題の一つといえます。
 
この課題に対応するため、四国地方整備局においても人材育成センター整備に向け、令和3年度から検討を本格化する考えです。

BIM/CIMの実施状況(四国直轄工事・業務)

図-1 BIM/CIMの実施状況(四国直轄工事・業務)



 

【施工段階】効率的な設計照査(R2-4外環余戸南第1橋上部P35-P41工事)

図-2 【施工段階】効率的な設計照査(R2-4外環余戸南第1橋上部P35-P41工事)


【施工段階】現場における危険作業の周知に活用(R1-2外環空港線洗地川橋(下り)上部工事)

写真-1 【施工段階】現場における危険作業の周知に活用(R1-2外環空港線洗地川橋(下り)上部工事)



 

モデル事務所の取り組みについて

松山河川国道事務所は平成30年度に『i-Constructionモデル事務所』に認定されており、計画段階からBIM/CIMを活用する全国でも数少ない事例として、「松山外環状道路インター東線」事業において予備設計から「3次元データを活用」し効率化・省力化を推進しています。
 
BIM/CIMの活用で、フロントローディングを推進し、後工程に必要な情報を事務所内の測量設計・用地買収・施工・管理など関係者で意見交換を行いながら取りまとめを行っています。
 
また、クラウドで各フェーズの情報共有を行うだけでなく、測量設計・用地買収・施工・管理など複数の関係課のデータをとりまとめ、それらの3次元データに時間軸を含めた「4次元データ」として「情報プラットフォーム構築」を進めており、これにより事業全体の最新情報がステップごとに可視化できると考えています。
このほか、事業の地元説明会などにおいてBIM/CIMモデルを活用し、「見える化」することによって地域住民の事業への理解や協力がより深まり合意形成が効率的に行えるようになりました(図-3)。
 
発注者のBIM/CIM活用のポイントは、実現したい内容を明確にして設計コンサルタントの技術支援を得ながら目的を達成することと考えます。
BIM/CIMモデル作成を目的化することなく、ここで得たBIM/CIMマネジメントの知見を水平展開し、発注者の人材育成のみならず、地域のコンサルタントとともに進み、裾野を広げていくことでBIM/CIMの原則化につなげていきたいと考えています。
 
また、i-Constructionをより一層促進し、魅力ある建設現場を創出するためには、官・学が相互支援を行いながら取り組む必要性があることから、令和2年7月2日に愛媛大学と「i-Construction推進のための連携・協力に関する協定」を結んで、相互協力を進めております。
 
その一環として、3Dデータの利活用と事務所の若手技術職員と今後の担い手となる学生の育成を目的とした「連携講義」を開催しており、令和3年度は、松山河川国道事務所からi-Constructionを取り入れた事業(図-4)を設定し、講義の中で3Dデータの活用方法を習得するほか、活用した事業上の課題解決について議論を行うことで、BIM/CIMの有効性の把握や課題抽出能力など、さらなる効率化の取り組みについて考えることを学ぶとともに、担い手の技術習得に貢献する取り組みも計画しています。

【設計段階】地元説明会での活用(3D映像)(松山河川国道事務所松山外環状道路インター東線)

図-3 【設計段階】地元説明会での活用(3D映像)(松山河川国道事務所松山外環状道路インター東線)


愛媛大学と連携した講義(案)

図-4 愛媛大学と連携した講義(案)



 

インフラDXの取り組みについて

四国地域において、地域住民のニーズを基にデータとデジタル技術を活用し、社会資本整備や公共サービスの改革を推進するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、建設業や四国地方整備局の文化・風土や働き方を改革し、建設業の生産性の向上を図るとともに、インフラへの国民理解を促進し安全・安心で豊かな生活を実現するため、各部局が横断的に連携してインフラ分野のDXを推進することを目的に、「四国地方整備局インフラDX推進本部会議」を設置しました(図-5)。
令和3年度の取り組みとしては、令和3年8月24日に四国地整全体として取り組む「インフラDX推進計画」を策定し、中でも、地域の建設業および国・県・市町村の技術者のために、「インフラDX人材育成センター」の整備計画(案)および研修など計画(案)を策定や関係業界団体、大学などおよび県・市町村と連携し、方向性を検討していきたいと考えています。

四国地方整備局におけるインフラDX推進体制

図-5 四国地方整備局におけるインフラDX推進体制



 

おわりに

四国地方整備局においては、中長期的な担い手確保・育成の重要性を鑑み、モデル事務所で得られた知見を四国内に水平展開し、またインフラDXの取り組みを進めることで、BIM/CIM活用をより一層推進し、建設現場を魅力的でスマートな職場へと改革していきたいと考えています。

 
 

国土交通省 四国地方整備局 企画部 技術管理課 技術検査官
阿部 浩之

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 
 



3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト(Project PLATEAU)

2022年8月25日

はじめに

現在、政府では、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムを構築することにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会「Society5.0」を実現すべく取り組んでいる。
 
Society5.0の実現は、都市の問題を扱う都市政策にとっても重要な課題であり、スマートシティの取り組みをはじめとして、都市政策の領域においても、データや新技術を活用し、人間中心のまちづくりをさらに進めていくことが喫緊の課題となっている。
 
このような問題意識のもと、国土交通省都市局では、2020年度から「Project PLATEAU(プラトー)」を新たにスタートさせ、「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション(UDX:Urban Digital Transformation)」に取り組んできた。
その目的は、都市空間を「3D都市モデル」と呼ばれるデータによって再現し、これを活用してまちづくりに新たな価値をもたらすことにある。
このため、2020年度のPLATEAUでは、全国56都市を対象に、面積約10,000km²、建物約1千万棟という世界的にも前例のない規模で3D都市モデルを整備し、さらに、これを活用して40以上の実証実験やフィージビリティスタディを展開した。
 
また、3D都市モデルはオープンイノベーションの観点から、オープンデータ化を前提として整備しており、2021年3月から「G空間情報センター」において順次データを公開し、2021年8月に全国56都市のオープンデータ化を完了した。
データについては、政府標準利用規約などのオープンライセンスを採用することで二次利用を可能としており、各分野における研究開発や商用利用の活性化を狙っている。
 
本書では、Project PLATEAUの概要と今後の展開について紹介する。

 
 

Project PLATEAUの概要

(1)「3D都市モデル」とは何か

PLATEAUでは、都市空間のデジタルツインあるいはまちづくりのDXを実現するための中核となる概念として、「3D都市モデル」を定義している。
 
3D都市モデルとは、単なる“都市空間の3Dモデル”ではない。
既に商用サービスやオープンデータとして提供されている一般的な“都市空間の3Dモデル”は、都市を構成する建物や橋、道路などのさまざまなオブジェクトをCADソフトなどを用いてモデリングし、サイバー空間上で表示する。
つまり、都市空間の“幾何形状”をサイバー空間上で再現するものであり、いわゆる「ジオメトリモデル(Geometry Model)」と呼ばれるものである。
 
PLATEAUが整備を進める3D都市モデルは、このような幾何形状(ジオメトリモデル)に、「建物」、「壁」、「屋根」などの地物定義や、「用途」、「構造」、「築年」、「災害リスク」などの活動的な意味(属性情報)―つまりヒトにとっての都市空間の意味―を付加した形で構築される点に最大の特長がある。
このような“都市空間の意味”は「セマンティクス(Semantics)」と呼ばれており、3D都市モデルとは「ジオメトリとセマンティクスの統合モデル」と呼ぶことができる(図-1)。
 
このような統合モデルを可能とするデータ形式として、「CityGML」が国際的な標準規格として定められており、今回整備した3D都市モデルもCityGMLを採用したものである。
PLATEAUでは、「3D都市モデル」を「CityGML形式により都市スケールで整備されたジオメトリとセマンティクスの統合モデル」と定義している。
 
3D都市モデルのセマンティクスを用いることで、ジオメトリモデルのみではできなかった高度な分析、可視化、シミュレーションを都市スケールで実現することが可能となる。
 
例えば、「屋根(roof)」の属性値が含まれたジオメトリを抽出し、角度や傾き、日陰などを入力することで、都市スケールで太陽光発電シミュレーションが可能とな
る。
また、屋内外の歩行可能な「床(floor)」や「歩道(sidewalk)」を抽出すれば、屋内外を含む立体的な避難シミュレーションを行うこともできるようになる。
他にも、建築物の「壁面(wall)」の位置や材質(material)情報を活用することで、騒音や電波の拡散・減衰シミュレーションなども可能となる。
 
このように、ジオメトリとセマンティクスの統合モデルは、都市空間の再現を限りなく緻密に行うポテンシャルを有している。
換言すれば、コンピューター/プログラムが認識する3D都市モデルのデータを限りなく現実に近づけることが可能となる、このようなデータの“マシンリーダブル(machine readable:機械可読性)”こそが、まちづくりのDX/都市空間のデジタルツインの実現に向けた3D都市モデルのポテンシャルであるといえる。
 
3D都市モデルのセマンティクスを生かしたユースケース開発はまだ萌芽的ではあるものの、国外ではCityGMLを採用する
動きが広がっており、今後のユースケース拡大が期待されている。
 
PLATEAUでは、3D都市モデルの整備とともに、これを用いたユースケースの開発、3D都市モデルの整備・利活用ムーブメントの惹起、オープンデータ化に取り組むことにより、まちづくりのDXを推進し、「全体最適・持続可能なまちづくり」、「人間中心・市民参加型のまちづくり」、「機動的で機敏なまちづくり」を実現していくことを目指している。

3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)

図-1 3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)


(2)「3D都市モデル」の整備

前述のとおり、2020年度のProject PLATEAUでは、東京23区をはじめ全国56都市を対象に3D都市モデルのデータ整備を実施した。
 例え
3D都市モデルは、都市計画のために作成されている都市計画基本図などの都市の図形情報、航空測量などによって取得される建物・地形の高さや形状情報、都市計画基礎調査などによって取得された建物・土地の利用現況や災害リスク情報などの属性情報を用いて整備される。
すなわち、3D都市モデルの整備は、地方公共団体が保有する既存データを利用して作成することを基本としており、新規測量や新規データの取得は補完的に行われる。
このような方法によって、比較的低コストで3D都市モデルを整備することが可能となる(図-2、3)。

3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)

図-2 3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)


3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)

図-3 3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)



 
また、CityGML形式によって作成される3D都市モデルは、建物などの地物の表現に関して、LOD(Level of Detail)と呼ばれる概念を定義している。
LODとは、モデルの「詳細さの度合い(詳細度)」であり、一つのオブジェクトの幾何をその利用や可視化の目的に応じて、複数の段階に抽象化することを可能とする、マルチスケールなモデリングの仕組みである。
例えばLOD1は、建物図形に高さを与えた単純なモデルであり、低コストで都市スケールの3D都市モデルを整備するのに適している。
他方、LOD4は建物の屋内や付属物を含めたモデルであり、建物内外を含めた高精度のシミュレーションに利用可能である。
 
この仕組みにより、3D都市モデルは同じ地物に関する詳細度の異なるさまざまな情報を統合的に管理・蓄積・利用することが可能である。
例えば、投影縮尺に応じた適切な詳細度での可視化やユースケースに応じた最適なモデルの適用が可能となるなど、多様なアプリケーションで柔軟な利用が可能となる(図-4)。

3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)

図-4 3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)



 

(3)ユースケース開発

Project PLATEAUでは、多様な領域での活用ポテンシャルを実証するため、各種実証実験やフィージビリティスタディ(実証可能性調査)を実施している。
うち建設関係のユースケースとしては、BIMモデルとの連携がある。
bSI(buildingSMART International)が策定した三次元モデルデータ形式である「IFC」を介して「CityGML」に再変換を試み、そこで得られた知見を令和3年3月末に「3D都市モデル整備のためのBIM活用マニュアル」として公表している。
同マニュアルにおいては、建築情報が財産的な価値を有することがあることなどについて例示するとともに、特に機密情報や安全性に関わる可能性のある情報の取り扱いなどについては利用権限について当事者間の合意が必要であることについて記載している。
 
現在、具体のユースケースとして2つ紹介する。
一つ目は屋内外をシームレスにつなぐ避難訓練シミュレーションである。
東京都港区虎ノ門ヒルズのBIMデータを用いて作成した細密な屋内モデルと3D都市モデルをシームレスにつなぐバーチャル空間を構築。
建物内から建物外への避難の動きを再現・検証できる避難シミュレーションツールと徒歩出退社訓練を支援するツールを開発した。
これにより、屋内外をシームレスにつなぐシミュレーションを可能とし、ビル管理者やワーカー向けの訓練や安全な避難経路の検証に活用することができた。
 
二つ目はエリアマネジメントのデジタルツイン化である。
東京ポートシティ竹芝のBIMデータをベースとしたLOD4の3D都市モデルを作成し、周辺エリアの3D都市モデルと統合した『バーチャル竹芝』を構築した。
システム上ではエリア来訪者向けのルート案内表示サービスや、ビル管理者向けの混雑状況監視・要注意者検知・警備員オペレーション支援などのファシリティマネジメントサービスを提供し、3D都市モデルと設置された多数のセンサーから取得されるデータを用いてビル管理の業務効率化やエリア来訪者の利便性向上を検証するなどの取り組みを行った。
それぞれの取り組みについては、同マニュアルにおいて、目的に応じて異なるデータ形式間で引き継いで活用した具体のデータタイプや、データの取り扱いに関する合意などの概要についても紹介している(図-5、6)。

屋内外をシームレスにつなぐ避難訓練シミュレーション

図-5 屋内外をシームレスにつなぐ避難訓練シミュレーション


エリアマネジメントのデジタルツイン化

図-6 エリアマネジメントのデジタルツイン化


(4)ムーブメントの惹起

PLATEAUでは、官民の幅広いプレーヤーや技術ホルダに関心を持っていただき、3D都市モデルの整備・活用のムーブメントを全国へと広げていくため、プロジェクトに関する情報発信に力を入れている。
 
情報発信の一環として、ウェブサイトの開設や、各種イベント開催などを行っている。
また、ウェブサイトでは、ユースケースの紹介記事の配信、コンセプトムービー・ユースケースムービーの公開、有識者インタビュー記事の掲載など豊富なコンテンツを発信している(図-7)。

Project PLATEAUウェブサイト

図-7 Project PLATEAUウェブサイト



 
3D都市モデルのビューアとして、「PLATEAU VIEW」を開発・公開している。
PLATEAU VIEWは、3D都市モデルをインターネットブラウザ上で閲覧可能とするシステムであり、専門的な開発環境がなくてもPLATEAUの成果を体感することができる。
また、属性情報やユースケース(人流・環境など)のデータを重畳して表示する機能や、BIMモデルの可視化機能も搭載している(図-8)。

PLATEAU VIEW

図-8 PLATEAU VIEW



 

おわりに-今後の展開

PLATEAUの取り組みはまだ始まって間もない黎明期にあり、今後は、全国の地方公共団体等と連携し、整備・更新の動きを活性化していく必要がある。
 
このため、2020年度の取り組みの成果を取りまとめる形で、地方公共団体の職員向けの「3D都市モデルの導入ガイダンス」や、民間企業、研究機関、エンジニア向けの技術資料など、10編の「3D都市モデル導入のためのガイドブック」をウェブサイト上で公開している(https://www.mlit.go.jp/plateau/libraries/)。
 
今後も、国土交通省都市局では、ウェブサイトやSNSなどを通じてPLATEAUの成果を紹介するとともに、さらなる取り組みの深化を図っていく。
そのメインスコープは、3D都市モデルの整備・更新・活用のエコシステムの構築である。
3D都市モデルを全国に展開し、スマートシティをはじめとするまちづくりのDX基盤としての役割を果たしていくため、BIMモデルから必要なデータを統合しての活用も柱の一つとしつつ、3D都市モデルの整備都市の拡大、簡易・効率的な整備・更新手法の開発、自動運転やロボット運送などのユースケース開発の深化、街路空間や街路樹・標識など緻密なスケールの地物のデータ仕様定義などに取り組んでいく。

 

 

国土交通省 都市局 都市政策課 再構築政策企画係長
菊地 駿志

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 
 



 


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