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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

BIMとMR技術を活用した中間検査と完了検査の実施について

2020年8月6日

 

はじめに

プロジェクトにおけるBIM活用が進む中で、BIMをどのように活用するかを工夫することは、生産性の向上や品質確保にとって重要なことです。近年は、建築確認におけるBIM活用も進んでいます。日本建築センター(以下、「BCJ」という)と竹中工務店も、2017年に日本で初めて省エネ適合性判定の対象となる規模の建築物の建築確認と省エネ適合性判定においてBIMを活用した事前審査を実施し、その有効性や課題を整理するなど、建築確認へのBIM活用に積極的に取り組んできました。
 
2018年は次のステップとして、建築確認で活用したBIMモデル情報を中間検査や完了検査にも有効活用し、かつ、施工時の監理等にも応用の可能性があるMR(Mixed Reality:複合現実)技術を取り入れた検査手法で検査を実施し、その有効性や課題を整理、検討しました。それまで、中間検査や完了検査でのBIM活用の実施事例は、他では公表されていませんでした。建築確認の事前審査で活用したBIMモデルを検査にも活用するのは、初めての試みです。
 
 

検査の概要

(1)検査対象建築物
今回の検査対象建築物の「EQ House」は、竹中工務店とメルセデス・ベンツ日本株式会社の共同プロジェクトであり、設計・施工において、デジタル情報を効率よく連携させるデジタル デザイン ビルドを採用しています。
 
約1,200枚の外装パネルのデザインでは、プログラムによって形態を生成するコンピュテーショナルデザインを採用し、最適な形状と配置を決定しました。また、デジタルデータは施工においても活用しました。各パネルは個別のIDで管理し、工場加工の効率化はもとより、現地での組み立てにおいても、スマートグラスなどのウェアラブルデバイスを通して、設置場所などの必要な情報をタイムリーに提供して作業を支援するなど、生産性の向上を実現しました。
 
このような取り組みの一環として、「EQ House」の建築確認や検査でも、積極的にBIMやその他のICTを活用することにしました。
 
「EQ House」の概要
・建設地:東京都港区六本木
・規 模:延べ面積 88.08㎡、地上1階
・構 造:鉄骨造
・主用途:展示場(従用途:旅館・ホテル)
 
 
(2)検査手法と活用したICT
検査にあたり、BCJと竹中工務店は、検査の効率化と検査の的確性の向上を両立させるために、目的に合わせた次の三つのICTを活用する検査手法を構築しました。
 
①検査用BIMモデル
検査においてBIMモデルをより有効に活用するために、建築確認の事前審査で活用したBIMモデルそのものではなく、検査内容及び検査方法に合わせて色分けや情報を付加した検査用BIMモデルを作成しました。各検査の検査用BIMモデルの詳細は後述します。
 
②MR(Mixed Reality)技術
検査の効率化と的確性の向上を目的とし、現実の空間に存在するモノに合わせてCGを配置して映像化する「MR技術」を活用しました。検査では、検査者と受検者の双方がBIMモデルを投影させたMR用のヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し、BIMモデルと実際の検査対象建築物(現実世界)を重ね合わせて見ながら検査しました。
 
③共有クラウド
情報の一元化と迅速な情報共有のために、関係者のみがアクセスできる「共有クラウド」を利用しました。この共有クラウドは、建築確認の事前審査の段階からBCJが管理を行い、竹中工務店を招待しているもので、BIMデータのViewer機能やBIMデータへの書き込み機能などを有するものです。検査中の質疑も共有クラウドのBIMモデルに書き込むことで、関係者で迅速に情報共有できるようにしました。
 
 
(3)対象とした検査
BIM及びMR技術を活用した検査(以下、「BIM・MR検査」という)は、中間検査の鉄骨の建て方工事の検査と、完了検査の建築設備の検査において実施しました。
 
今回の建築物は、法定の中間検査は不要な建築物であったため、実施した中間検査は任意の検査でしたが、今回の取り組みを法定の中間検査に応用できるように、検査項目や検査内容は法定の中間検査と同一としました。
 
完了検査は、建築基準法に基づく法定検査です。
 
 
(4)BIM・MR検査の位置付け
建築基準法に基づく中間検査と完了検査は、「工事監理の状況の写真及び書類による検査並びに目視、簡易な計測機器等による測定又は動作確認その他の方法により、確認に要した図書及び書類(以下、「確認図書」という)のとおりに工事が実施されたものであるかどうかを確かめる」ものです。
 
今回の取り組みは、従来の現場検査における「目視検査」の一部を、「BIM及びMR技術を活用した目視検査」に置き換える試みです。
 
 
(5)検査の流れ
中間検査も完了検査も、検査の準備から検査の実施までの流れは次のとおりです。なお、BIM・MR検査は、前述のとおり、目視検査の一部を置き換えるものです。BIM・MR検査による検査項目以外の項目は、従来と同じ検査方法で実施しました。
 
①BCJが管理している共有クラウドに竹中工務店を招待。
 
②BCJと竹中工務店で協議し、検査ごとにBIM・MR検査を実施する検査項目を決め、検査項目及び検査目的に合わせた検査用BIMモデルを作成(各検査の検査項目や検査用BIMモデルの詳細は後述のとおり)。
 
③竹中工務店が検査申請と併せて共有クラウドに検査用BIMモデルをアップ。
 
④BCJが、検査実施前に、共有クラウドにアップされたBIMモデルが確認図書と同じであることを確認。
 
⑤BCJ(検査者)と竹中工務店(受検者)の双方がBIMモデルを投影させたHMDを着用し、BIMモデルと検査対象建築物を重ねて見ることにより、BIM・MR検査を実施。
 
⑥検査中の質疑は、BCJが検査時に携帯している端末タブレットを利用して共有クラウドの検査用BIMモデルに入力。
 
⑦検査後、竹中工務店がBCJの質疑に対する回答を共有クラウドに入力し、BCJが回答を確認。
 
 

BIM・MR検査の方法

(1)中間検査
①検査項目
中間検査におけるBIM・MR検査の検査項目は次のとおりです。これらは、鉄骨の建て方工事の検査において、現場で行う主要な検査項目です。
1)構造耐力上主要な部分の部材の位置の確認
2)構造耐力上主要な部分の仕口の構造方法の確認
3)構造耐力上主要な部分の部材の寸法の確認(検査箇所の選定)
4)構造耐力上主要な部分の部材の種別の確認(検査箇所の選定)
 
②中間検査用BIMモデルの特徴中間検査では、検査対象の構造部材が設計図書(確認図書)どおりに施工されていることを確認する必要があります。そのため、①に掲げたいずれの検査項目でも、まずは検査対象の構造部材の設計条件(断面寸法や使用材料等)を確認する必要があります。
そこで、中間検査の検査用BIMモデルとしては、検査項目や検査内容に合わせて、次の「部材断面BIMモデル」と「使用材料BIMモデル」の二つのモデルを作成しました。
 
1)部材断面BIMモデル
EQ House(検査対象建築物)の構造部材は、断面寸法が複数種類あり、かつ、それらが複雑に架構を構成しています。通常のBIMモデルは各構造部材の断面寸法を常時表示しているわけではないため、各構造部材の設計上の断面寸法を確認するためには部材のプロパティ情報を確認する必要があります。そこで、検査の効率化のために、構造部材の断面寸法ごとに色分けした「部材断面BIMモデル」を作成しました。
 
2)使用材料BIM モデル
検査では、各構造部材の材料が設計どおりであることを確認する必要がありますが、1)同様、通常のBIMモデルは各構造部材の材料を常時表示しているわけではありません。そこで、構造部材の材料種別(SS400材、SM490材)の確認の効率化のために、材料種別ごとに色分けした「使用材料BIMモデル」を作成しました。
 
③検査の実施
中間検査では、検査項目ごとに検査用BIMモデルを切り替えながらBIM・MR 検査を実施しました。
①の1)構造耐力上主要な部分の部材の位置と2)構造耐力上主要な部分の仕口の構造方法の確認は、部材断面BIM
モデルを利用し、投影されるBIMモデルとHMD越しの鉄骨架構を目視することにより実施しました。
 
3)構造耐力上主要な部分の部材の寸法の確認も、部材断面BIMモデルを利用し、HMD越しに各部材の設計上の断面寸法を確認した上で、部材断面ごとに数箇所選定して、部材断面寸法をスケールにて測定することにより実施しました。
 
4)構造耐力上主要な部分の部材の種別の確認は、使用材料BIMモデルを利用し、HMD越しに各部材の設計上の材料種別を確認した上で、材料種別ごとに数箇所選定して、材料種別をサムスチールチェッカーにて確認することにより実施しました(図-1)。
 

図-1 中間検査の流れ(構造耐力上主要な部分の部材の種別の確認)



また、検査中の質疑は、現場の写真データも添えて共有クラウドのBIMモデルの該当部分に記録することで、質疑内容がより明確になるように工夫しました。質疑に対する回答(是正報告)も、回答文書に是正後の現場の写真データも添えて共有クラウドのBIMモデルの該当部分に記録することで、検査の経過が明確になるようにしました(図-2)。
 

図-2 BIMモデルに記録した検査の質疑回答




(2)完了検査の方法
①検査項目
完了検査(建築設備の検査)におけるBIM・MR検査の検査項目は次のとおりです。
1)空調・換気機器の設置状況の確認
2)配管・ダクトの各系統の接続状況の確認
3)延焼の恐れのある部分の位置の確認(延焼の恐れのある部分と設備開口の離隔の確認)
4)自動火災報知設備の感知器の感知区域や法定離隔距離の監理状況の確認
 
②完了検査用BIMモデルの特徴
完了検査の検査用BIMモデルとしては、検査の効率化と的確性の向上のために、検査項目及び検査目的に合わせて以下の表示等をしたモデルを作成しました。
 
1)建築設備の種別や系統による色分け
建築設備は、外見が同じ又は似ている機器・器具や配管・ダクト等が多いため、外見のみで種別や系統を判別するのは困難です。そこで、空調・換気機器の設置状況の確認(①1))や配管・ダクトの各系統の接続状況の確認(①2))の効率化と視認性の向上を目的として、BIMモデルの建築設備を種別や系統ごとに色分けしました。
 
2)設計図書における補助線の表示
設計図書では、法適合の確認の効率化のために、延焼の恐れのある部分などの補助線を明示しています。しかし、実際の建築物や敷地には補助線は明示されていないため、通常の検査では、現場と設計図書を見比べたり、距離を測定しながら、各設備の設置位置の確認や妥当性の確認を行います。BIMモデルも、通常は補助線が明示されていませんが、今回は、BIMモデルにも補助線を明示し、実際の建築物に補助線を投影して確認できるようにすることで、検査ポイントの見える化と法適合性の判断の効率化を図りました。
 
3)監理値や監理記録の表示
完了検査は、工事監理者による工事監理の状況を確認することが検査方法の一つです。そのため、検査では、工事監理者の監理記録を確認したり、現場検査における測定や作動状況の確認等の結果と監理記録を比較することで、監理状況の妥当性を確認します。通常は監理記録と設計図書は別の図書ですが、今回は、自動火災報知設備の感知器の感知区域や離隔距離を監理記録としてBIMモデルに記録・表示することで、監理状況の確認の効率化を図りました(図-3)。
 

図-3 モデル化した感知器の感知区域と離隔距離




③検査の実施
完了検査では、BCJ(検査者)と竹中工務店(受検者)の双方が検査用BIMモデルを投影させたHMDを装着し、受検者がBIMモデルをもとに設計(確認図書)内容や監理状況を説明しながらBIM・MR検査を実施しました。
 
検査者や受検者が見ているMR情報は、現場内の大型ディスプレイや持ち運び可能なノートPCにも表示しました。これにより、HMDを装着していない人や現場にいない人も、リアルタイムで検査箇所や検査内容を共有できるようにしました(写真-1)。
 

写真-1 感知器の感知区域や離隔距離を確認する様子
(検査者が見ているMR 情報を現場内の大型ディスプレイにも表示)




 

BIM・MR検査のメリット

BIM・MR検査の実施による、検査者と受検者それぞれにとってのメリットは次のとおりです。
 
(1)検査者にとってのメリット
検査者にとってのメリットは次の3点です。
 
一つ目は、空間把握の確度の向上による、検査の的確性の向上と効率化です。従来の検査では、検査対象の工事と確認図書の整合性や、建築基準関係規定への適合性の確認のために、検査者は複数の設計図書等をもとに、建築物の概略的な特徴の把握や確認を行いながら検査を実施しています。今回、検査用BIM モデルをMR用のHMDに投影して目視することにより、空間把握の確度が高まりました。それにより、検査の的確性の向上と効率化に繋がることが確認できました。
 
二つ目は、BIMモデルに監理記録の一部を表示したことによる、監理状況の見える化です。中間検査も完了検査も、工事監理者による工事監理の状況を確認することが、検査方法の一つとして位置付けられています。監理者が適切に監理していることが見える化されたことは、検査の的確性と効率性の向上に大きく寄与すると感じました。
 
三つ目は、共有クラウドの利用による情報の一元化と情報共有です。検査時に生じた質疑等を、共有クラウドを活用して記録データとして履歴を残すことにより、検査の経過等も含めた情報の一元化と迅速な情報共有を実現できました。また、BIMモデルと一緒に現場の写真データ等も記録できたことは、検査内容の分かりやすさに繋がり、検査者・施工者・監理者等の関係者間の正確な情報共有にも繋がることが確認できました。
 
なお、中間検査と完了検査におけるメリットの具体例は次のとおりです。
 
 
①中間検査におけるメリット
従来の検査は、複数の構造図(伏図や軸組図)をもとに、検査対象範囲の構造部材の位置を確認しています。今回は、検査用BIMモデルをMR用のHMDに投影することにより、構造部材の位置の整合確認が容易にできました。
 
また、従来の検査では、複数の構造図(伏図、軸組図や部材リスト図)をもとに、架構の特徴を把握し、部材断面寸法が異なる部材を数箇所選定する等し、確認する部材の断面寸法等の整合確認をしています。今回は、検査用BIMモデルとBIMモデルに組み込まれている BIM情報を活用することで、架構の特徴の把握が容易になり、確認する部材の効率的な選定が可能となりました。
 
 
②完了検査におけるメリット
建築設備の設計図書は設備の種類ごとに作成されているため、従来の検査では、ある1箇所の検査において複数枚の設計図書と現場を照らし合わせて確認することがあります。今回は、それら設計図書の内容が一つのBIMモデルに集約され、かつ、建築設備の種別や系統による色分けで種別や系統の把握が容易になったことで、設計内容と現場を照らし合わせる作業が容易になりました。
 
さらに、MR技術を活用し、検査用BIMモデルと現場を重ね合わせて確認することができたことにより、各設備の位置の確認が明確かつ容易になり、検査の的確性の向上と効率化に繋がりました。また、天井裏や床下のダンパーや機器等の設計上の位置を把握できたことは、天井裏や床下の検査(点検口からの目視検査)の実施箇所の選定の効率化にも繋がることが確認できました。
 
感知器に関する監理記録の一部をBIMモデルに表示したことで、工事監理者の監理状況の確認や監理記録の妥当性の確認も効率的に行えたことは、検査全体の効率化にも繋がりました。
 
 

(2)受検者にとってのメリット
①中間検査におけるメリット
従来の検査では、二次元の図面と検査対象物を照らし合わせて部材の位置を確認してから、部材の断面寸法や部材種別等の実測を行っていますが、建物の形状、部材の構成が複雑になるほど、この部材の位置確認に要する時間が増加します。これに対してMR技術を活用することで、部材の位置確認の時間が短縮され、全体として効率が良い検査になりました。さらに、検査者、受検者双方がHMDを着用することで、設計データと検査対象物、指摘内容の関係をタイムリーに共有することができるため、スピーディーに検査が行われました。
 
 
②完了検査におけるメリット
従来の検査では、二次元の図面と検査対象物を照らし合わせて配管・ダクト等の位置を確認してから、その仕様を目視確認しています。しかし、配管やダクトは複雑に交錯していることが多く、その位置確認には時間を要します。これに対してMR技術を用いて配管等の位置確認を行うことでその時間は短縮されるため、全体として効率が良い検査になりました。さらに、検査者、受検者双方がHMDを着用したことで、設計データと検査対象物、指摘内容の関係をタイムリーに共有でき、スピーディーに検査が行われました。
 
また、自動火災報知設備の感知器の感知区域や法定離隔距離も、従来の検査では二次元の図面と照らし合わせて条件を確認する必要がありましたが、MR技術を活用することでその条件確認が容易になりました。床下等の隠蔽部の検査は、従来は二次元の図面から検査箇所を特定していましたが、MR技術を用いることでその位置が実空間に投影されるため、特定に要する時間が短縮されました。さらに検査者、受検者双方が見ているMR情報を大型ディスプレイに投影することで、検査者の見ている視界をリアルタイムに他の関係者に共有することができ、多数の関係者がいる場合の検査にも適用可能な取り組みであることが確認できました。
 
 

BIM・MR検査の課題

今回実施したBIM・MR検査の課題は次のとおりです。
 
①検査用BIMモデルと確認図書の整合性確認
中間検査や完了検査は、確認図書のとおりに工事が実施されたかどうかを確認するものです。建築確認の事前審査でBIMを活用していても、現在の確認図書は二次元図面のため、検査用BIMモデルをもとに検査を実施する場合は、検査者が検査前に、検査用BIMモデルと確認図書の整合性を確認する必要があります。将来的に環境が整い、建築確認で活用したBIM モデルからBIMのプロパティ等で容易に検査用BIMモデルを作成又は表示できるようになれば、検査用BIMモデルの活用がより効果的になると思われます。
 
②データ作成や変換等の作業効率
現在は、BIMソフトで作成したデータをPCからHMDに取り込むプロセスを経る必要があります。検査の効率化のためには、このプロセスの作業効率の改善が望まれます。さらに、中間検査の鉄骨モデルの色分け、完了検査での配管、ダクト等の色分けは手動で行っているため、その作業時間も課題です。今回の検査項目以外にも適用する場合は、検査用BIMモデルの準備にさらに時間がかかる可能性があります。また、これらの色分けされたモデルは別途作成する凡例と照らし合わせて確認する必要があり、その凡例資料をタブレット端末や紙媒体で手元に控えておく必要があるため、検査中の作業手順が効率化されているとは言いがたく、今後の改善が望まれます。今後、クラウドのデータをHMDでそのまま可視化できるようになれば、PCからデータを取り込む作業が不要になり、作業工程がコンパクトになります。モデルの色分けは、プロパティに応じてIFC(Industry FoundationClasses:BIMデータ国際標準)データが自動的に色分けされ、HMDに取り込めるようになれば、作業が軽減され今回の検査項目以外にも展開しやすくなると考えられます。色分けに応じた凡例は、HMD上に断面符号や断面サイズ、材質を文字情報等で表示できるようになれば、HMD上で情報が完結するため、検査中の作業がより効率化すると考えられます。
 
③MR用HMDの位置情報の精度
今回利用したMR用HMDは、検査中の移動等により、BIMモデルと実空間の重ね合わせ位置に若干の誤差が生じてしまうことがありました。そのため、活用にあたっては、おおよその位置を確認する程度に制限されます。モデル空間と実空間との重ね合わせ精度は、重ね合わせの参照点を各所に設置することで一定以上確保できるため、将来的には施工誤差が確保されていない可能性が高い場所をハイライトさせる等の検査支援機能が期待できます。位置の情報精度がより高まれば、より一層の検査の効率化に繋がると考えられます。
 
 

まとめと今後の展望

今回の取り組みにより、BIM・MR検査は、視認性を高めることで空間把握の確度が高まり、現地確認に時間を要する箇所の検査の効率化と的確な検査に繋がることが確認できました。また、共有クラウドを活用することで情報の一元化が図られ、検査者・工事施工者・工事監理者等の迅速な情報共有に繋がりました。この検査手法は、法定検査の省力化を図るだけでなく、自主検査、建物維持管理への省人・省力化へとさらなる効率化が期待できます。
 
また、工事監理者による監理状況をBIMモデルに記録し、見える化することは、法定検査の効率化に繋がるだけではなく、品質管理の観点でも重要なことだと考えられます。そのため、BIMモデルを工事監理者による監理ツールに利用することについても検討が必要だと考えます。
 
建築確認で活用したBIMモデル情報が検査にも活用され、その検査の経過等も記録データとして情報管理されることは、BIM活用の望ましいあり方だと考えます。今後は、検査におけるBIM活用の実績を重ね、ルール化を検討していくことが必要になると考えます。さらに、建築物のライフサイクル全体にもBIM活用を広げ、検査の経過等も記録データとして情報管理することで、建築物の品質向上にも繋がるようにしたいと考えます。
 
 
 

一般財団法人 日本建築センター 確認検査部 設備審査課 主査  杉安 由香里
株式会社 竹中工務店 東京本店 設計部 設計第2部門 設計4(アドバンストデザイン) グループ長   花岡 郁哉

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



BIMモデルの維持管理での利活用

2020年8月3日

 

はじめに

日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)のBIM・FM研究部会は2012年9月に発足し、「BIM・FMガイドライン」の策定と新たなビジネスモデルの構築を目標に活動している。JFMAは、ファシリティマネジメント(FM)を「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」と定義し、「ファシリティ(土地、建物、構築物、設備等)すべてを経営にとって最適な状態(コスト最小、効果最大)で保有し、賃借し、使用し、運営し、維持するための総合的な経営活動」と説明している。FMは組織のファシリティに関する永続的な活動である(図-1)。建築に関するFMの起点は、建築をつくるかどうかを判断する段階であり、建築のライフサイクルもここから始まると考えている。
 
建築の設計段階および施工段階では、BIMは当たり前のように使われるようになってきた。しかし、設計より前の企画段階や計画段階および引き渡し後の維持管理段階では、BIMへの関心が高まりつつあるものの、利活用が進んでいるとはいえない。ライフサイクルという視点に立つことで、建築のデジタル情報の価値が認識され、BIMの利活用が進むと考えている(図-2)。
 

図-1 FMの3つのレベル(JFMAホームページより)


 

図-2 プロジェクト管理の業務プロセス( 「第四の経営基盤-日本企業が見過ごしてきたファシリティマネジメント」より)




 

ファシリティマネジメントのためのBIMガイドライン

JFMAのBIM・FM研究部会が活動を始めた頃は、FMや建築の運用に関わる人たちにとって”BIM”という言葉自体が馴染みのないものであった。まず”BIM”という単語と考え方を広めることから始める必要があると考え、2015年4月に「ファシリティマネジャーのためのBIM活用ガイドブック」を発行した。このガイドブックでは、BIMの解説と国内外の先進事例を紹介し、FMとBIMが連携する可能性を示したにすぎなかった。実際にFMでBIMを使ってみようと思っても、何をすればいいか、何から始めればいいかが分からないという声が寄せられるようになった。FMでBIMを利用しようと考える人たちには、具体的な手法を示す手引書が必要であった。
 
ガイドブック発行から4年が経過した2019年8月に「ファシリティマネジメントのためのBIMガイドライン」を発行した。ガイドラインではファシリティマネジャーの他、プロジェクトに関係する人々の役割、FMでBIMを使うためのBIM実行計画、FM業務で必要なBIMモデルなどについて解説している。またBIM実行計画のひな型や実際にFMでBIMを活用している事例を紹介するとともに、建築のデジタル情報としてのBIMの可能性を示している。BIMとFM、どちらも建築の情報を扱う。情報でつながっているにも関わらず、使っている言葉や求めている情報が微妙に異なるため、お互いの情報が有効に活用されてはいない。このガイドラインの役割は、BIMとFMの間に入りお互いの業務を通訳し情報の回路をつなぐことだともいえる。興味があればぜひ、手に取っていただきたい。
 

図-3 ファシリティマネジメントのためのBIMガイドライン




 

BIMが活用できるFM業務

先に述べたようにFMの業務は多岐にわたる。ガイドラインでは、BIMが活躍できるFM業務として以下の8つの場面を挙げ、それぞれで必要なBIMモデルと情報、進め方、効果などを説明している。
 
①FMにおける企画・提案段階での利用
建築への投資は高額になることが多い。建築の所有者や経営者など意思決定者が的確に意思決定できる情報を提供することはファシリティマネジャーの大切な役割である。同様に、利用者に対しても完成後の情報を利用者が理解できるようなかたちで提供することも重要である。多くの意思決定者、利用者は建築の専門家ではなく、図面やパースなどの従来の表現方法が十分とは言えない場合が多い。BIMモデルによる3次元形状と属性情報の表示やVR,MRとの連携による表現は意思決定者、利用者への情報提供として大いに役立つ。
 
 
②情報管理インデックス
FMで必要とする多種多様な情報のうち、3次元的な位置情報とともに管理することで情報の活用度が上がるものがある。例えば、建築のさまざまな場所に設置されている空調機器や照明器具などのBIMモデルと故障や点検の記録、マニュアルなどの情報を紐付けておくことで、必要な情報へのアクセスが早くなるだけでなく関連する情報も同時に入手できるようになる。業務の効率化やサービスの向上が効果として考えられる
 
 

③ワークプレイスづくり・区画管理
ワークプレイスづくりでは利用者の意見が大変重要であるが、図面を見ただけでその空間を想像し、評価できる利用者はほとんどいない。3次元で表示した方が利用者にとっては分かりやすく、適切な意見を得ることができる。BIMモデルをVRやMRなどの表現技術と組み合わせることで、さらに高度な表現が可能となり、ワークプレイスづくりに貢献できる。
 
建築には目に見えないさまざまな区画がある。共用部と専有部がどこで分けられているか、建築確認申請時に防火区画をどこで区切っているか、オーナーとテナントの工事区分はどこか、複数の所有者や利用者がいる場合の境界、利用用途による区分、異なる床荷重が設定されている場合の境界、空調機器・照明機器・スプリンクラーなどの受け持ち範囲など、一つの空間がさまざまに区分けされている。それらの区画は床や壁、機器などの要素と関連していることが多い。さまざま区画とそれぞれに関連する要素をBIMで管理することで、管理の質が上がり、手間が削減される。
 
 
④長期修繕更新計画
建築の経年劣化は避けられない。適切な周期で修繕や更新を行うことで、建築の性能を保ち長期間利用することができる。修繕や更新の時期を想定し、その費用をあらかじめ予算化しておくことは、事業を継続する上で必要不可欠である。BIMモデルを利用することで、正確な数量を把握することができるので、予算の精度が格段に向上する(図-4)。
 

図-4 更新時期を示すBIMモデル (提供:(株)大成建設)



⑤中期修繕・改修計画
建築を良好な状態に保つためには、定期的に中期修繕・改修の計画を見直すとともに、的確に修繕・改修を実施する必要がある。長期修繕更新計画同様、BIMモデルを利用することで予算の精度が増す。工事を実施する段階では、数量を正確に把握していることが見積もりの査定に役立つとともに、工事計画にBIMモデルを利用することで、影響の範囲や度合いを正確に把握できるとともに関係者に分かりやすく説明できる。予算精度の向上、見積もりの査定および工事計画の精度向上により、効率的な予算執行が可能となる。
 
さらに、実施内容と費用をデータベース化することでさらなる精度の向上が期待できる。
 
 
⑥設備台帳の元データ
設備機器の名称、メーカー、型番、設置場所をリスト化した設備台帳は、建築の運用、管理に不可欠なものである。BIMモデルも設備台帳と同じような情報を保持できるが、当然、分類体系が異なり情報の過不足がある。BIMモデルをそのまま設備台帳として使うには無理があるが、BIMモデルから情報を取り出し、設備台帳に取り込むことで、設備台帳への入力工数は大幅に削減される。引き渡し後、早期に設備台帳を整備できることも効果も大きい(図-5)。
 

図-5 設備台帳の例 (提供:(株)大成建設)



⑦修繕対応
修繕対応は計画的に実施される予防保全と緊急に実施しなければならない緊急対応がある。予防保全では中期修繕・改修計画と同様、費用の査定や計画の立案にBIMモデルが役立つ。緊急対応では、故障箇所の特定や対処方法の検討、設備停止時の影響範囲の把握などに、BIMモデルを活用することで大幅な時間短縮が期待できる。緊急対応は時間との勝負である。対策を検討するための情報収集に時間がかかるのは、可能な限り避けるべきである。適切なBIMモデルは、緊急対応への対応力向上に寄与する。
 
 

⑧運用管理サービス
運用管理サービスとは、建築の内部環境を快適に保つこと、利用者の動線を制御すること、安全を確保することなど、建築の利用者にさまざまなサービスを提供することである。サービス提供するためには、建築の所有者、テナント、サービス事業者の合意が必要である。またそのサービスが建築や設備に密接に関わる場合は、設計段階からそのサービスを想定し合意しておく必要があり。その合意形成にBIMモデルとシミュレーションが大いに役立つ。
 
 

維持管理でBIMモデルを活用するための必要なこと

この①~⑧の場面ごとに、ファシリティマネジャーが必要する情報は異なっている。単に設計段階や施工段階でBIMモデルを作成したからといって、それがそのまま全ての場面で利用可能なわけではない。設計を始める段階で、ファシリティマネジャーと設計者が維持管理でBIMモデルを使うことや、その際にどのようなBIMモデルと情報を必要としているかを共有しておく必要がある。また施工者を選定する段階では、そのことを施工者に伝えておかなければならない。建築の引き渡しと同時にBIMモデルも引き渡されることが理想である。そのためには、それが実現できるプロセスと関係者それぞれの役割を明確にし、文書化して合意しておく必要がある。それがBIM実行計画(BEP:BIM ExecutionPlan)と呼ばれている。
 
ガイドラインでは、JFMAのプロジェクト管理の業務プロセスに沿って、ファシリティマネジャーやBIMマネジャー等プロジェクト関係者の役割を説明し、どの段階で何を決めなければいけないかを解説している。またBEPにどのようことを記載するのかを説明し、ひな型を提示している。BEPを通してお互いの役割を理解しプロセスを共有することは、維持管理でのBIMモデル活用の第一歩である。
 
 

維持管理でBIMモデルを利活用する際の課題

要求通りのBIMモデルを受け渡され、実際に維持管理でBIMモデルを利活用していく上で、いくつかの課題がある。維持管理の期間は長い。建築が解体されるまで続く。維持管理の期間が長期にわたるからこその課題もあり、現時点で解決できないものもある。
 
①投資判断上の課題
BIM利用環境の整備および維持、BIMモデルの作成と更新には初期投資だけでなく継続的に発生する費用がある。特にBIMツールのライセンス費用やBIMモデルの更新のための費用は、運用を続けていく限り発生するものなので、BIM活用の目的と効果を明確にした上での投資判断が必要になる。
 
 
②技術的な課題
・BIMモデル連携のためのデータ変換
BIMモデルの標準ファイル形式であるIFCは、各種ソフトウェアをつなぐものとしISOとして認められているが、完璧なものではなく、情報を完璧に受け渡すためには手直し作業が必要となる。BIMモデルを受け渡しの方法をBEPの中で明記するとともに、事前に試験を実施し解決方法を定めておかなければならない。
 
・維持管理でのBIMツール
BIMツールとは、BIMモデルを作成、更新するソフトウェアのことをいう。多くのBIMツールは、BIMモデルを作成することに主眼を置いているので、モデルを作成するために必要な多彩な機能を備えている。しかし維持管理では新たにBIMモデルを作成することはほとんどなく、BIMモデルを閲覧し必要な情報を入手するための利用がほとんどである。BIMモデルの閲覧だけに特化したビューアソフトがあるが、維持管理に利用するには機能が不足している。維持管理での利用を特化した維持管理用BIMツールもしくはビューアソフトが望まれる。
 
・BIMモデルの修正
増築や大規模改修時にはBIMモデルを修正する必要がある。現状では、増築された部分や撤去された部分をどう表現するか、そのようなデータの持ち方をするかなどの標準的な手法が定まっていない。例えば、撤去された部材のデータを削除すると、BIMモデルからそのデータが消失する。撤去されたものという属性を与えて保管しておく等の手法が考えられるが、その手法や仕組みはまだ一般化されていない。維持管理用BIMツールもしくはビューアソフトと合わせて、手法の標準化が望まれる。
 
 
③運用での課題
・BIMモデルの更新
大規模改修や修繕などをBIMモデルに反映させるためにはBIMツールでの入力作業が必要となる。これにはBIMツールの操作が必須で、誰でも簡単にできるというものではない。BIMモデルが更新されないと、現状とBIMモデルが整合しなくなり、BIMモデルの信頼性が著しく低下し、それ以降使われなくなる。それまでの作業が全くの無駄になる。BIMモデルの更新を、誰がどのように行うかを想定し体制を整えておかなければならない。
 
・FMソフトへの入力
BIMツールへの入力と同様、FMソフトのデータも随時更新が必要である。入力作業の負荷が通常の維持管理業務に影響するのは本意ではない。BIMモデルの更新と合わせて、運用体制を整備しておく必要がある。
 
・BIMモデルの使用者
BIMモデルを維持管理で活用する際、その使用者が誰なのかという問題がある。賃貸オフィスビルの管理にBIMモデルを使用する時、貸す側と借りる側で立場が異なるので、BIMモデルを使用する目的が異なり、必要とする情報も異なる。この違いは、竣工後に納められるBIMモデルの内容や詳細度に影響する。使用目的を明確にし、BIMモデルの内容や詳細度を決めておく必要がある。
 
 

おわりに

JFMAのBIM・FM研究部会が活動を開始してから7年半が経過した。この間に建築生産の現場では、徐々にではあるが着実にBIMが浸透している。一方、維持管理をはじめとした建築生産以外の分野では、BIMへの関心が高まってはいるものの、活用は進んでいない。また設計・施工段階においてもFMという視点でのBIMモデルの利活用も進んでいない。巷ではAIやIoTに注目が集まり、都市レベルではさまざまな試みが行われている。次は建築がフィールドになると考えている人は多い。BIMによる建築のデジタル情報は、建築においてAI、IoTを活用する際の基盤となる。企画・計画段階から建築生産、維持管理を含めた建築のライフサイクルにわたるFM視点でのBIMモデル活用が一般化し、建築が新たな価値創造の場となることを祈っている。
 
 
 

公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会 猪里 孝司

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



意匠設計から設備設計へ “i”をつなぐBIM設計とは

2020年7月28日

 

はじめに

現状、各社においてBuilding Information Modeling(BIM)を用いて作図、シミュレーション、コストなどさまざまな用途に上手く活用する方法を模索している段階である(図-1、図-2)。
 
しかし、設備設計者目線でBIMを考えた場合、誰しもが日々の業務においてBIMとの関わりが深いとは言い難いのも事実である。 
 
その背景には、BIMがより複雑な設備配管を有するプラント設計の分野で導入したことが普及の発端とも言われており、設備機器、配管類の干渉チェックを含めた3次元納まりを設計段階で深度化することにより、施工段階での検討手間をできる限り減らすことを背景に普及したのに対し、ビル系の設計は、施工図に比べ深度化するにも、建築情報が実施設計段階にまとまることが多く、作図レベルを2次元で検討せざるを得ない。
 
理由として、意匠・構造モデルは基本設計では2次元が主流であったこと、そして最も大きな要因は作図するための建築情報(面積、天高など)がアナログデータのため、負荷計算・換気計算などの技術計算に多くの時間を費やし、3次元図面に避ける時間が少なかったことが挙げられる。
 
こうした状況がしばらく続く中、世界は、社会はBIM普及への動きが加速しているが、どうすれば設備設計者がBIMの恩恵を受けられるか、考えた一つの答えが「i:Information」、を如何に部門間でつなげるかであった。
 
社内発表時によく使う言葉としてBIMと い う 言 葉 は、B(I BuildingInformation)とM(Modeling)の複合用語であると説明し、設計者が最も重要なのは「Building Information」、つまり設計情報「i」が意匠・構造・設備でコンカレントにつながっていることがBIMを活用する最大のメリットであり、これを上手く使えないと「M」、3次元図作成のためのBIMツールとなってしまい、設計者は益々BIMと深くない関係になってしまう恐れがある。
 
本稿では、「i」を設計に生かすための取り組み、データ連携の先に見えてくる課題と展望について、1,000床を超える大規模病院での設計事例をベースに紹介したい。
 

図-1 当社のBIM活用イメージ

図-2 BIM検討例




 

そもそも設計手順がBIMの課題?!

日建設計だけの問題とは限らないが、これまでのBIMは、各部門内の狭い範囲で最適化を図ってきたといってもよい。部門ごとに適したBIMソフトを選択して使い続けることで、部門内の標準化を図り、それぞれのBIMソフトの特長を生かした効率的な設計を可能にしてきた。
 
その一方で部門を超えた連携はなかなか進められてこなかった。基本設計を例にすると、第3図に示すワークフローがどこかで止まってしまい、結果として部門間連携が進まなかった。その問題は以下と考える。
 
①連携するモデルの作り方が統一されていないため、一つのモデルに統合することが困難または非常に手間がかかる。
 
②意匠、構造で”正確”に整合されたBIMがないため、設備側で個々の情報をBIMへ入力する作業が習慣化し、統合モデルを作成する意義を共有できていない。
 
③最も大きい問題と感じたのは、意匠・構造を整合したモデルの作成時期・手順と、設備が欲しい情報を入手したいタイミングがずれていることが大きな要因であると考えている。
 

図-3 ワークフローイメージ


 
一例を挙げると、基本設計作成段階では意匠がプランを作る際に機械室・シャフトなどの面積を整理する必要があるが、基本設計段階でその回答を出すには、階高、天高、梁伏、床下げレベルなどの情報を踏まえ、納まりなど検討し回答するが、入手できるものは一部BIMがあったとしても、多くは手書き図面などメモでの情報伝達といった2次元でのワークフローを踏襲した部門間の連携を行っている。さらにそうしたメモ書きの情報が出てくるのは基本設計中盤~後半になりがちであるが、設備が欲しいのは初期~中盤である(図-4)。
 

図-4 基本設計段階でのデータ連携項目とスケジュール


 
こうした現状を認識しつつ、意匠・構造・設備が密に連携できる総合設計事務所の強みをBIMと融合させられていない点が課題であった。
 
 

コンカレントエンジニアリングへ

設計手順の在り方が課題とするなか、2019年以降のいくつかのプロジェクトではこの課題を乗り越えるような取り組みが進められるようになってきた。
 
例えば図-5に示すように、意匠・構造が構築するBIMモデルに含まれる建築諸元情報をExcelに取り出し、シームレスに引き継いで設備検討に反映させることで、これまでより早く正確に検討サイクルを回すことができるようになった。その結果を意匠・構造と共有することで、密に部門間連携を図ることができつつある。
 
誰がどこまでのデータをどのタイミングで入力するかというワークフローを、総合設計事務所の強みが発揮できるようにBIMをプラットフォームとして再構築することで、意匠・構造・設備が早い段階から連携するコンカレントエンジニアリングへシフトにシフトし始めようとている。
 
一方、各部門でデータ連携するには、入力する内容によっては意匠ではなく設備が入力した方が良い項目もある。今回検討した病院設計では、意匠側がRevitモデルで進めているのに対し、Excelで書き出した諸元データに清浄度、室圧、空調与条件などをExcelに入力し、Revitへ戻すのではなく、設備がRevitモデルへ直接諸元情報を入力した。One ModelでRevitを操作した例は本件が初めての試みであったが、設備プロット図作成後の建築プラン変更への追従性、部門間の不整合防止、諸元情報の色塗り平面図作成などトータルで設計プロセスを考えるとOne Modelでの作業は効率的であったといえる。
 

図-5 BIMと連携した建築設備諸元の整合確認ツール




 

Revitを使った「i」

前項では、意匠・構造・設備が早い段階から連携するコンカレントエンジニアリングのツールとしてRevitを使った取り組み例を紹介したが、部門間連携の潤滑油としては非常に有効であったが、設備の作図ツールとしては一切使っていない。
 
それでも、設備がRevitを使いOnemodelに拘ったのは「i」をコンカレントにつなげたことで、基本設計→実施設計→確認申請→施工→運用を一貫したデータ管理により、部門間連携の強化、設計・施工の効率化、LCCの縮減とった点が挙げられる。そうなることを期待しOne Modelでの入力がもたらした効果を紹介する。
 

(1)データ受領方法
現状、設備の実施図面では建築と同じBIMソフトを使うことが少ないため、ifcファイル形式をベースとした連携となっている。一方、ifcデータによるデータ連携の課題もあるが、正確に意匠と構造データが整合していれば、ソフト互換については、あまり重要ではないと考えている。
 
そうした視点のもと、まず意匠・構造でのデータ連携は、意匠、構造が同じソフト系なのか否かでアプローチが変わってくるが、第6図で示すようにRevitデータによるデータ連携方法をタイプA、タイプB1、B2の3つに区分した。
 
 

a)タイプA
意匠で梁伏、床下げ情報などを入れる方式である。基本設計初期において、設備がBIMによる納まり検討をするにはなるべく早い段階で梁伏、床下げ情報が欲しいがこの方式の場合、納まりが厳しそうなエリアについて意匠との調整だけで可能となる。
 
ただし、意匠側で構造情報を入れるため、モデルが古くなった場合のアップデートタイミング、入力ミス、構造変更が構造設計者へ伝わるかなど課題もある。
 
 

b)タイプB1、B2
構造が作成するモデルを反映するので図面の精度が上がる。B2はさらに発展し、意匠と構造が別のモデルで作成しリンクするため、より精度が高いが、構造解析モデルでは床下げ、ブレースなどの情報が実施設計後半まで反映しないまたはBIMでは作成しないなど使えないモデルとなる可能性があるため、設計図としてはタイプB1からB2へ移行していくのが多くの流れと考える。
 

図-6 意匠・構造データ連携のパターン分け


 
 

(2)データ連携による便利機能
今回取組んだ病院では防水対応の二重床や医療機器の床下げなど仕上げレベルが複雑なため、梁高さ、床下げレベル、天井高などバラバラな図面を重ねてどこが設備の納まりが悪いのか検討するのは、多大な労力を要する。
 
こうした状況を打破するためにタイプB1の手法で意匠情報と構造モデルを重ね、“DynamoとExcel”を使い梁下から天井までの有効懐が500mm下回る個所を平面図に表記させた(図-7)。
 

図-7 天井内有効寸法確認


 
この機能により、梁下500mmを切る場所は納まり上リスクがある場所と考え、BIMによる納まり対象場所が絞れるため、従来手書きで断面図を書いて検討に比べ、よりスピーディーに、効率的に納まり検討を行うことができた。
 
 

(3)データ連携を活用するには
今回、BIMを活用するために最も重要視したのは、複雑な設計条件や設備から意匠・構造への要求条件を如何に部門間で「i」を共有するかであった。病院設計を通じて感じた成功への秘訣は以下である。
 
・基本設計初期に設備検討用の意匠・構造BIMデータを意匠が作成し、さらに階高、天高など建築条件変更要望をBIMで随時意匠が修正し、データで建築図を供給できたこと。
 
・Revitモデルをifc、PDF、Autocadへの変換を定期的に実施し、図面変更箇所を共有。
 
・意匠のRevitモデルに設備が設備プロット、設計条件(室圧、空調・消火範囲等)を同じデータにて行うために、Revitの同時作業許可、設備のファミリー、ビューテンプレート作成協力。
 
上記内容は、コンカレントにデータ連携するために必要な対応ではあるが、実際の設計では(現場も同じであろうが)、部門間(会社間)の壁、お互いが必要とする作業内容の理解度、時間的制約などさまざまな要因から意匠側が同様の対応をする例は多くないと思われるが、本件ではみんなでRevitを使うと決めた段階で従来とは違ったアプローチをプロジェクトメンバーで進めていった。
 
余談になるが、社内に手戻りが少なく効率的に設計を進める設計フローが示されているが、BIMを使う前提でフローを考えた場合、思った以上にこれまでの設計手法を修正すべき点があることが分かった。今後、BIMを推進するために必要な設計フローがどうあるべきか、より深く考える必要があると思われる。
 
 

「i」から技術計算へ

これまで意匠・構造・設備がデータ連携を進めることを書いてきたが、みんなで苦労したけど、その先に設備は何をしたいのか?と聞かれることがあるが、答えは「技術計算」に尽きる。 
 
空調設計の例となるが、技術計算を進めるには図-8の建築情報が必要となる。このデータが意匠よりルールに沿った形で設備へデータ提供されることで基本設計段階であっても精度が高い検討が可能となる。次に、そのデータをもとに空調側では技術計算に移行させ、換気計算、負荷集計をまとめ、図-9の例に示すように外調機、室内空調機器選定までを自動化させようと試みている。そこからさらに機器表へ展開し動力リストを電気設計側に渡すことで、設備間のコンカレント強化を目指している。初期段階はプランが動くため、どこから自動計算化を進めるか判断に悩むが、いったん技術計算の骨組みを作ると実施設計、現場段階での変更にも柔軟に対応ができるため、トータルで考えた場合効率化になると考えている。
 

図-8 建築→設備へのデータ連携


 

図-9 設備内での技術計算フロー




 

おわりに

今回紹介した病院におけるBIM取り組み事例は、これまで多くのBIM取り組み紹介では作図という視点が多かったが本稿では作図については紹介していない。私自身3次元による作図は10年以上前から取り組んできたが、ずっと感じていたのは、BIMによる恩恵が大きいのは作図より情報、すなわち「i」をコントロールすることではないかと。
 
RevitをOne Modelで操作することでその第一歩を踏み出した段階ではあるが、データ連携もたらす未来は非常に明るいと考えており、今後もさらに「i」を生かすための研究を進めていく次第である。
 
 
 

株式会社 日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ 浅川 卓也
吉永  修

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



地方自治体におけるi-Construction・BIM/CIM事例 -3次元点群データの収集・利活用の取り組み-

2020年6月29日

 

はじめに

本県では、 国土交通省が推進するi-Constructionの取り組みを受けて、平成28年度に、トップランナー施策として位置付けられたICT活用工事の試行を開始し、これを契機に3次元点群データの収集・利活用を積極的に進めています。
 
近い将来、3次元点群データが社会インフラのひとつとして、建設生産プロセスだけでなく社会全体で活用されることを想定して、取り組みを展開しています。
 
他分野での活用も推進するため、データをオープンデータとして公開することとし、具体的な活用手法のひとつとして、自動運転への活用に取り組んでいます。今年度は、さらに他分野での活用を想定したモデル事業を展開することとしています。
 
本稿では、本県における3次元点群データの収集・利活用に関するこれまでの取り組みと今後の展開について紹介します。
 
 
 

静岡県3次元データ保管管理システム

本県では、ICT活用工事の試行導入に際して、施工の各プロセスにおいて3次元データを活用することに着目し、従来の工事完成図に相当するデータとして、出来形管理の3次元計測とは別に工事完成時に3次元計測を実施し、3次元点群データを納品することを求めることとしました(図-1)。

図-1 ICT活用工事の実施プロセス


 
ICT活用工事の実施に当たっては、i-Constructionの取り組みの開始時に国土交通省の電子納品要領において、電子媒体としてBlu-rayでの納品が採用されましたが、本県職員が利用する端末では、Blu-rayに対応したドライブが装備されていないため、大容量データを納品するためには別の手法が必要となりました。また、既存の電子納品・保管管理システムは、庁内利用を前提としており、施設の維持管理や災害時の状況把握など迅速にデータ提供ができないことが課題となることが想定されました。
 
そこで、3次元データの収集・利活用の推進を図るため、インターネット経由でクラウド上に3次元データを登録・公開する「静岡県3次元データ保管管理システム(Shizuoka PointCloud DB)」(以下、「PCDB」という)を構築し、平成29年3月に試行運用を開始しました(図-2)。
 
①PCDBにアクセスし、「閲覧・DL」を選択  ②DLする箇所のピンを選択      ③データを選択しDL

図-2 静岡県3次元データ保管管理システム(PCDB)の利用イメージ


 

このシステムを用いてICT活用工事を実施する場合には、工事完成時の3次元計測のデータのオンライン納品を行う運用としています。また、全国に先駆けて3次元点群データのオープンデータサイトとして公開し、登録データは、クリエイティブ・コモンズ表示4.0国際パブリックライセンス(CCBY4.0)により誰でも二次利用することが可能です。
 
これまでにICT活用工事完成時の計測データに加えて、県及び管内市町の各種業務で取得したデータが収集され、平成30年度末時点で道路延長1,000km以上、航空測量面積20㎢以上のデータを公開しています。
 
PCDBの運用開始から多くの反響をいただいていますが、プロトタイプとして構築したシステムであり、データ提供の機能は、分割した3次元点群データファイルをダウンロードすることしかできないため、データをブラウザ上で閲覧できないことや属性情報を提供できないなど、改善の要望もいただいています。
 
 
 

しずおか自動運転ShowCASEプロジェクト

路線バス利用者の減少傾向が続く中、県内のバス事業者においては、運転手の約5割が50歳以上であり、人件費などの費用の増大、運転手不足が深刻な状況です。また、バス路線の約4割が行政の財政負担により運行しており、県内の公共交通の維持、地域の生活交通手段の確保が喫緊の課題となっています。
 
現在、全国各地で自動運転の実証実験が行われており、自動運転はその課題を解決する有効な手段として期待されます。
 
自動運転では、ダイナミックマップが重要とされる技術と言われており、国内主要自動車メーカーや地図会社などが出資して設立したダイナミックマップ基盤株式会社が、その基盤として、全国自動車専用道路における自動走行向け高精度3次元地図データの生成・提供を行っています。そこで、本県は、県内の地域交通の課題対応を目的として、平成29年11月にダイナミックマップ基盤株式会社と、3次元データの相互利用を前提とした「自動走行システムの実現に向けた連携・協力に関する協定」を締結しました。
 
この協定に基づき、県が保有する3次元点群データの高精度3 次元地図データへの活用と県内企業の技術開発を支援するため、自動運転の実証実験を進めていくこととしました(図-3)。
 
平成30年度には、袋井市が実施しているエコパドリームプロジェクトと連携し、袋井市の県営小笠山総合運動公園内及び公園周辺道路において、行政が保有する3次元点群データを自動運転に活用した全国初の実証実験を実施しました。
 
今年度は引き続き、県営小笠山総合運動公園において実証実験を行うほか、地域性の異なる都市部(沼津港)、過疎地(松崎町)及び郊外部(下田市)において、交通事業者や地元自治体研究開発企業と連携し、高精度3次元地図を用いた走行技術の検証と次世代モビリティサービスの導入検討を行っています。
 

図-3 プロジェクトの実施スキーム




 

スマートガーデンカントリー“ふじのくに”の形成に向けて

本県においても、他の地方と同様に人口減少や少子高齢化が進み、担い手不足など社会的課題が顕在化しています。これらを解決するためには、近年目覚ましく進展しているAIやロボットなどの先端技術を積極的に導入することが必要となります。
 
そこで、これまでの3次元点群データの収集・利活用の取り組みをさらに拡大し、今年度から県土の面的なデータを取得し、災害復旧や観光などのあらゆる分野への活用を図る「スマートガーデンカントリー“ふじのくに”モデル事業」を開始しました。
 
「スマートガーデンカントリー“ふじのくに”」とは、人口減少などの社会的課題に対して、美しい景観などの本県の「場の力」を活かしながら、先端技術をあらゆる分野に活用することで、誰もが安全・安心で利便性が高く快適に暮らせるスマートな社会の形成を目指すものです。
 
モデル事業のエリアは、災害時における孤立地域の早期解消に向けた施設管理や災害復旧工事への活用に加え、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催に向けた自転車の聖地づくり、ジオパークなどの観光振興、高齢化率が高い地域の移動手段の確保など、地域の魅力発信や課題対応への活用が期待できる東部・伊豆地域を選定しました。
 
事業の推進に当たっては、庁内に関係部局で構成するWGを設置し、全庁を挙げて多種多様なデータの利活用(図-4)に取り組んでいきます。
 

図-4 3次元点群データの利活用イメージ



モデル事業では、エリア全域でベースとなる面的な3次元点群データを航空レーザ測量により全域のデータを取得する予定です。
 
次に、利活用の取り組みへの環境整備として、静岡県GISの機能改良の実施を予定しています。まずは、PCDBのブラウザ上でデータ閲覧ができないことへの課題対応として、3次元点群データの表示機能を開発することとし、これまでに試行版を一般公開しました(図-5)。また、庁内利用においては、これまでも各種台帳との連携を行ってきましたが、この機能強化についても検討していくこととしています。
 

図-5 静岡県GISの点群表示



具体的な利活用の取り組みのひとつとして、施設管理の効率化・高度化を図るためには、3次元点群データの特性を活かした手法が有効であると考えられます。そこで、点群データを活用した施設の維持管理について、今年度より大阪経済大学 中村健二教授、法政大学 今井龍一准教授、摂南大学 塚田義典講師、関西大学 田中成典教授、株式会社日本インシーク、日本工営株式会社と共同研究を開始しました。
 
大阪経済大学の中村教授らは、道路分野における3次元点群データの属性管理仕様の研究において、これまでに県が取得したデータを利用して、道路法面の点群データの差分抽出による変状検出の検証を行っており(図-6)、共同研究では点群データの利活用環境を現場に試行導入し、その適用効果の検証を行っています。
 

図-6 道路法面の変状検出




 

おわりに

3次元点群データの収集・利活用は、本県の取り組みのほか、さまざまな検討が行われているところですが、現在発展途上であり、標準化に向けては、多くの方々のお力添えが必要であると考えています。このため、これまでに取り組みを実施している産学官の連携に加えて、今後も多業種の民間企業の参画を促進するとともに、国土交通省や国土地理院などのご指導、ご支援をいただきながら、積極的に取り組みの拡大を図ってまいります。
 
・静岡県3 次元データ保管管理システム
 https://pointcloud.pref.shizuoka.jp/
 
・静岡県GIS
 https://www.gis.pref.shizuoka.jp/
 
 
 

静岡県 交通基盤部 建設支援局 建設技術企画課

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 



東北地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みについての紹介

2020年6月26日

 

東北地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みについて

図-1 令和元年度 東北地方整備局におけるBIM/CIM活用の方針



東北地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みは、全国と歩調を合わせ平成24年度から開始し、平成28年度末の「CIM導入ガイドライン」策定を契機に新基準に従った取り組みを積極的に進め、平成30年度は設計業務、工事合わせて39件で活用を行ったところである。
 
東北地方は、他地域に比べて少子高齢化の進行が速く、生産年齢人口が今後一層早い速度で減少していく状況にあり、建設分野における生産性向上は待ったなしの状況にある。また東日本大震災からの復旧・復興現場では、橋梁やトンネルといった多くの構造物の整備が急ピッチで進められており、ほぼ同時期に完成を迎えることとなる。これらの構造物は将来、一斉に老朽化し、補修が必要となってくる可能性が高く、こうした中で構造物の長期的な維持管理の効率化や、メンテナンス費用の抑制・平準化などの課題を解決する”切り札”の一つとしてBIM/CIMに期待する機運が高い。
 
東北地方整備局では、全国の動向も踏まえながら、毎年独自のBIM/CIM活用方針を打ち出し、その普及に努めている。
 
東北地方整備局の大まかな方針としては、大規模な構造物の詳細設計業務、工事、それに設計業務段階でBIM/CIMを実施した工事では「発注者指定型」の取り組みを原則とし、それ以外の構造物の設計業務、工事では「施工者希望型」にて行う方針としている。
 
平成30年度に実施した、39件のBIM/CIMの設計業務や工事の別、また構造物別の内訳は以下の通りである(図-2)。
 

図-2 平成30年度 東北地方整備局BIM/CIM実施状況


 
また昨年度末に全国一斉に設定された「i-Constructionモデル事務所(3次元情報活用事業)」「i-Constructionサポート事務所」であるが、東北地方整備局では以下の通り設定した(図-3)。
 

図-3 i-Constructionの貫徹に向けたモデル事務所の決定(東北地整)




 

鳴瀬川総合開発事業におけるBIM/CIM活用方針(案)

東北地方整備局が「i-Constructionモデル事務所(3次元情報活用事業)」に設定した「鳴瀬川総合開発事業」は、鳴瀬川流域の治水安全度向上、流水の正常な機能の維持、かんがい用水の補給、発電を目的とする多目的ダム建設事業であり、一級河川鳴瀬川の支川筒砂子川に筒砂子ダム(台形CSGダム)を新たに建設し、併せて、鳴瀬川本川の既設漆沢ダム(S56.3 竣工・中央コア型ロックフィルダム・現宮城県管理)を再開発により治水専用化するものである。
 
現在、環境影響評価法に係る手続き、ダム建設に関する基本計画の検討、ダム本体および関連施設等の設計などを行っている段階である(図-4、5)。鳴瀬川総合開発事業におけるBIM/CIMの大まかな活用方針(案)は以下の通りである。


  • 図-4 鳴瀬川総合開発事業の概要


  • 図-5 鳴瀬川総合開発事業 事業工程



1)図- 6、7に示す「統合モデル(筒砂子ダム、漆沢ダム)」を整備し、事業実施中は「事業監理CIM」と位置付け、事業進捗状況の可視化と情報共有を図る。(※モデルは事業の進捗に合わせて、適宜、追加、変更等を重ねていく)


  • 図-6 統合CIMモデルの作成


  • 図-7 統合CIMモデルの作成(2)



2)工事完成後、試験湛水の開始以降は、その位置付けを「ダム管理CIM」へと変更し、効率的な維持管理を目指す。
 
 
「事業監理CIM」および「ダム管理CIM」の各モデル(3次元モデルおよび属性情報等の関連するデータ)の作成、更新、活用等に当たって留意する視点は次の通りである。
 
1)CIMモデルは、それ以降の事業工程で利活用することを視野に入れて、効率的に更新が可能であること。
 
2)CIMモデルが、全体の事業工程を俯瞰し、適切な時期に適切な詳細度により必要な属性情報を付与して作成・更新され、目的に応じて有効に利活用されること。
 
3)各事業段階にわたって、統合CIMモデルに付与され更新・蓄積される大量で多岐に渡る情報を、適切に管理して関係者間で共有し円滑に活用すること(図-8)。

図-8 事業段階ごとの活用目的・内容



 
平成30年度に「事業監理CIM」「ダム管理CIM」のベースとなるCIMモデルを作成した。現時点では、詳細度100~300の概略的なモデルを用いて、事業全体の位置関係・構造物形状の把握を行う程度の活用に留まっているが、今後、事業の進捗に合わせ、詳細度を上げ必要な属性情報を付与して「事業監理CIM」として有効に活用していくこととしている(図-9)。

図-9 平成30(2018)年度作成のCIMモデル


鳴瀬川総合開発事業のBIM/CIMについては、今後の長い事業工程、施設の維持管理の中で、それぞれの段階で求められるさまざまな技術的なニーズに応え、事業に携わる受発注者の負担軽減に寄与し、事業の進捗、維持管理の生産性の向上に資するよう、今後とも追加、更新等を重ねながら活用していくことを考えている。
 
 

BIM/CIM活用上の課題

受発注者から聞こえてくる疑問や課題等には主に次のようなものがある。
 
①上流工程である設計段階等で作成した3次元モデルが、その後の下流工程となる建設生産プロセスの各段階で十分に活用できるのか。構造物完成後の維持管理の段階で十分に(機能をフルに)活用できるのか。現段階で実施している作業(モデルの作成や属性情報の付与等)が無駄にならないのか疑問や不安がある。
 
②定期的に人事異動が生じる職場環境につき、作成したCIMモデルを確実に引き継いでいくための仕組みづくりが必要。また、BIM/CIMを初めて担当する職員であってもスムーズに更新・活用が可能となるよう、職員全体の習熟度を向上させる必要がある。


 

BIM/CIM活用の今後について

「生産性革命のエンジン」と称されるBIM/CIMの活用は、i-Construction推進の眼目であり、BIM/CIMの契約図書化等の試行が始まろうという現段階では、早々に受発注者ともその取扱いを経験し、習熟していく必要があると考える。
 
このBIM/CIMが早く受発注者間に浸透し、普段使いのツールとして、ストレスなく、当たり前に活用され、建設生産プロセスの各段階における生産性の向上に大いに寄与してくれることを強く願っている。
 
 
 

国土交通省 東北地方整備局 技術管理課

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 



 


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