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「工事写真レイヤ化」の活用事例

2021年8月10日

 

はじめに

デジタル工事写真の高度化に関する協議会(2021年4月に法人化予定)では、一般社団法人 日本建設業連合会から、「工事写真レイヤ化」の要望を受け、技術的な検討を進めてきた。度重なる検討の結果、工事写真レイヤ化のファイルフォーマットとして、SVG(「Scalable Vector Graphics」JIS X4197:2012)を採用した。デジタル写真管理情報基準(2020年3月)では、写真のファイル形式が、日本産業規格(JIS)に示される形式であれば納品可能と緩和され、SVGは今後活用が期待される技術である。
 
本稿では具体的な活用事例として、当協議会の会員企業から3製品を紹介したい。
 
 

配筋検査アプリ SiteBox配筋検査  株式会社 建設システム

■配筋検査における工事写真レイヤ化

橋梁下部工における工事写真レイヤ化の試行事例(図-1、図-2)を紹介する。
 
工事写真レイヤ化を活用することで、電子的なマーカーを設置でき、従来の配筋検査における準備作業や、マーカーの回収作業等の後片付けを効率化することができる。建設システムの工事写真レイヤ化の対応は、配筋検査に特化した機能として提供している。
 
試行した株式会社桑原組(滋賀県高島市)の玉村氏からは、「特に天端の配筋検査では、型枠が組み上がってし まってからの検査となり、マーカーを落とすと回収作業に非常に手間がかかるため、マーカーレスは非常に有効で ある」と評価されている。
 
また、SiteBox配筋検査独自の機能である「連続マーカー」機能を利用すれば、鉄筋間隔に合わせて電子マーカーを簡単に描画することが可能である。電子マーカーは、信ぴょう性確認の対象ではないため、まずは大まかに配置しておき、隙間時間等を活用し調整することも可能となり、現場の生産性向上が期待できる。
 

配筋検査における工事写真撮影

図-1 配筋検査における工事写真撮影




レイヤを使った電子マーカー

図-2 レイヤを使った電子マーカー



■電子黒板、電子マーカーのオンオフ機能

 
その他にも、工事写真レイヤ化に対応した写真は、写真管理ソフトで電子黒板、および電子マーカー等の注釈を非表示にすることができる(図-3)。これにより、従来では黒板により隠れていた鉄筋の不可視部を確認することも可能になった。
 
写真管理ソフト「写管屋」では、SVGファイルであればアルバム貼付後に、レイヤの表示/非表示を切り替えることが可能である。例えば、図-3のように、同じ写真から、黒板有無、注釈有無を切り替えて表示可能であり、写真としてより幅広い利活用が期待できる。
 

「工事写真レイヤ化」により配筋検査業務を効率化できる事例を紹介した。建設システムでは、配筋検査業務の効率化を目指し機能をアップデートしていくとともに、配筋検査以外にも活用できるシーンを拡大し、建設業の生産性向上に寄与していくという。
 

写真管理ソフトで電子黒板や電子マーカー等の注釈表をオンオフできる

図-3 写真管理ソフトで電子黒板や電子マーカー等の注釈表をオンオフできる



【工事専用タブレット 蔵衛門pad】 株式会社 ルクレ

 
株式会社ルクレの「蔵衛門Pad」は、電子小黒板付き写真の撮影ができる工事専用タブレット。防水・防 塵・耐衝撃で、特に高堅牢な「蔵衛門 PadTough(タ フ)」では 、-2 0度から60度下での動作を保証しており、建築・土木をはじめ、幅広い業種で導入されている。
 
工事写真のレイヤ化には2020年10月に対応。工事写真に電子的なマグネットや補助線を描画できる「電子マー カー」機能を搭載した。ここでは実際に「蔵衛門Pad」を導入している風越建設株式会社での活用状況を紹介する。
 

■撮影の手間が半減

従来、配筋写真などの撮影には、カメラ以外に木製黒板や、配筋を目立たせるためのマーカーが必要だったが、「蔵衛門Pad」では、電子小黒板を画面に投影しながらの撮影が可能だ。さらに、工事写真に「電子マーカー」を描画できるため、「蔵衛門Pad」だけで配筋写真の撮影をすることができる。
 
「電子マーカー」は画面上をタップするだけで設置でき、現場でマーカーを取り付け、回収する手間を省ける。また、マーカーを回収し忘れることにより、異物として残ってしまう危険性がなくなり、施工品質の向上が期待できる(図-4)。
 

マーカーの設置方法の比較

図-4 マーカーの設置方法の比較



■より発注者へ伝わる工事写真に

 
手で取り付けるマーカーは、手が届かない下筋などには設置できなかった。また、無理をして手を伸ばして設置しようとすると、マーカーを落としてしまう恐れもある。「蔵衛門Pad」の場合 は撮影後に電子マーカーを設置できるため、今までは付けられなかった箇所にも電子マーカーを設置し、どの配筋を指しているのか分かりやすい工事写真を撮ることができる(図-5)。
 

手が届かなかった下筋にも電子マーカーの設置ができる

図-5 手が届かなかった下筋にも電子マーカーの設置ができる



パソコン用の工事写真管理ソフト「蔵衛門御用達 2021」では、電子マーカー付きの工事写真(SVG形式)と、通常の工事写真(JPEG形式)を 同じ工事写真台帳に取り込むことができる。さらに工事写真台帳では、電子マーカーの表示をオンオフで切り替えられるため、より施工品質が分かりやすく、信ぴょう性のある工事写真台帳の提出が可能だ(図-6)。
 

工事写真台帳上で電子マーカー表示のオンオフ切り替えが可能

図-6 工事写真台帳上で電子マーカー表示のオンオフ切り替えが可能



【デジタル野帳 eYACHOforBusiness】株式会社 MetaMoJi

 

■概要

 
次版のデジタル野帳「eYACHOforBusiness(以下eYACHO)」では一般財団法人日本建設情報総合センター(J A C I C)の工事写真作成基準改定に伴い工事写真作成機能にレイヤ化を導入し、注釈(アノテーション)を付与する機能を追加する。これにより電子納品向け工事写真の解釈・説明コス トを低減して業務効率化を促進する。

■レイヤ化による工事写真へのアノテーション

 
eYACHOはすでに、JACICの工事写真作成基準に準拠し、電子納品に利用できる工事写真の作成機能を提供し
ている。プリセットされた帳票上で項目を選択・記入するだけで工事計画に沿った工事黒板や工事写真票をノート上にあらかじめ、あるいはその場で直接準備することができ、現場での工事写真撮影をスムーズに進められる。(図-7)。
 

プリセットされた帳票に項目を選択・記入して電子黒板を自動作成

図-7 プリセットされた帳票に項目を選択・記入して電子黒板を自動作成



eYACHOにはもともとノートに追加した写真上に手書きによる説明を加える機能があるが、工事写真の撮影後に画像を編集すると改ざん検知機能のチェック対象となるため、工事写真については書き込みを許しておらず、検品する側は証明される現場情報を画像そのものから読み取るしかなかった。工事写真レイヤ化に伴い、次版のeYACHOでは写真撮影と信ぴょう性適用処理の間に注釈(アノテーション)を作成する機能を追加(図-8)。電子納品向け工事写真そのものに補助線や説明文、どこが注目箇所かを書き込むことができ、納品側・検品側双方のコミュニケーションコストを低減する。
 

工事写真レイヤー化によりアノテーション機能を実現

図-8 工事写真レイヤー化によりアノテーション機能を実現



■「写真にそのまま書ける」手書きの直感性

 
eYACHOの工事写真アノテーショ ン機能では、紙に書く感覚で直線や円形・矩形、手書きの囲い線や文字を写真上に直接書き込むことができる。証明する鉄筋がどこにあるかを示すリボンの着脱など写真の視認性を高めるための手間をかけなくても、検品側に見るべき場所と内容をはっきりと示せる。ペントレイ上の複数のペン(豊富な色・太 さ・ペン先を搭載:図-9)を用途に合わせて選び、短時間に意図どおりのアノテーションを完成することができる。
 

豊富な色・太さ・ペン先で意図どおりの手書きアノテーション

図-9 豊富な色・太さ・ペン先で意図どおりの手書きアノテーション



■確認したいレイヤだけを表示

 
信ぴょう性適用処理の完了後は「被写体画像」レイヤと「黒板画像」レイヤに改ざん検知機能が適用され、工事写真の信ぴょう性を保証する。従来は被写体と黒板を一体の画像として保持したが、今後はこの2層と「アノテーション」レイヤの画像をeYACHO上で個別に選択して表示でき(図-10)、納品後にも黒板部分や注釈が重なる部分の被写体写真を確認することができる。
 

確認したいレイヤーだけを選択して表示

確認したいレイヤーだけを選択して表示




 

デジタル工事写真の高度化に関する協議会

 

【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 



デジタル写真管理情報基準の改定について -工事写真のレイヤが可能に-

2021年8月5日

 

はじめに

国土交通省の土木工事においては、工事着手前および工事完成、また、施工管理の手段として各工事の施工段階および工事完成後目視できない箇所の施工状況、出来形寸法、品質管理状況、工事中の災害写真等を写真管理基準(案)に基づき撮影し、提出するものとされている。
 
工事写真は、古くはフィルムカメラにより撮影されたものを印刷して提出するものであったが、技術の進歩に伴いデジタルカメラで撮影した写真原本を電子媒体で提出することが一般的となり、平成29年2月より、ICT技術の活用による、電子小黒板の使用や映像による提出もできることとしている。
 
このようにデジタルカメラの画像に情報を付加する技術が進歩し、作業の効率化が図られることから、令和2年3月には「デジタル写真管理情報基準」を改定し、工事写真のレイヤ化の技術を活用できるようしたものであり、本稿において概要を紹介する。
 
 

工事写真のレイヤ化について

工事写真のレイヤ化とは、撮影した写真の映像データに黒板の画像や注釈画像を個々に別レイヤとして重ね合わせることにより、写真に情報を重ね合わせることができる技術である。なお、工事写真および電子小黒板についてはおのおの異なるレイヤとすることにより、それぞれの信ぴょう性を確保するものとし、注釈画像のレイヤのみ変更可能な領域とする。
 
実際の使用例として、施工中の配筋の確認においては、写真撮影時に目印となるマグネットやロッドを設置する必要があり、現場作業が煩雑になるが、注釈画像のレイヤ上にこれらの情報を表示することにより、現場における目印の設置が不要になり、作業時間の大幅な短縮による生産性向上効果が期待される(図-1)。
 

工事写真のレイヤ化

図-1 工事写真のレイヤ化




 

「デジタル写真管理情報基準」の改定

デジタル写真管理情報基準においては、従来は写真ファイルの記録形式は「JPEG」とされていたが、令和2年3月の改定により、写真のファイル形式を「J PEGやTI FF形式等」と変更した。これにより、レイヤ化した工事写真のファイル形式(SVG)による提出を可能とした(表-1)。
 

R2.3におけるデジタル写真管理情報基準の改定

表-1 R2.3におけるデジタル写真管理情報基準の改定


 

おわりに

今回の「デジタル写真管理情報基準」の改定においてはファイル形式による制限をなくすことにより、工事写真のレイヤ化を可能とした。 今後も同様にICTを活用した新たな技術の実装化が進み、工事における生産性向上や品質確保に寄与することを期待する。また、今後は画像データの活用に加え、映像データの活用や3次元点群データの活用、BIM/CIMとの連携により、より一層の建設現場における生産性革命が進むことを期待したい。
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



国土交通省が推進するインフラ分野のDX

2021年7月26日

 

はじめに

インフラ分野においては、今後深刻な人手不足が進むと懸念される一方で、災害対策やインフラの老朽化対策の必要性は高まっている。こうした課題に対応するため、国土交通省では、ICT技術の活用等による建設現場の生産性向上を目指すi-Constructionに、2016年度から取り組んできた。
 
加えて、新型コロナウイルス感染症を踏まえ、建設現場においても、3密を避けた新たな働き方へ転換していくことが求められている。
 
このため国土交通省では、データとデジタル技術を活用し、国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革することで、インフラへの国民理解を促進し、安全・安心で豊かな成果を実現することを目指し、インフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進している。
 
本稿では、国土交通省におけるインフラ分野のDXに関する最新の取り組み状況を紹介する。
 
 

Society5.0の実現による新たな日常の構築

新型コロナウイルス感染症の流行は、その中心地を、中国から米国・欧州、中南米・アフリカへと移しながら世界規模に拡大しており、この影響は広範で長期にわたる。感染症が収束したポストコロナの世界は、新たな世界、いわゆる「ニューノーマル」へと移行するとの見方が強い。
 
わが国においても、テレワーク、住まいに関するニーズの変化等、社会経済の変化が発生している。感染症拡大の先行き等が確実でない中、今回の感染症で顕在化した課題を克服した後の経済社会の基本的方向性として、「新たな日常」を通じた「質」の高い経済社会の実現を目指すこととしている。1)
 
また、令和2年9月に発足した菅新内閣において、行政の縦割りを打破し、大胆に規制改革を断行するための政策として、行政のデジタル化を強力に推進するデジタル庁の設置が進められている。菅総理大臣からは、国民が当たり前に望んでいるサービスを実現し、デジタル化の利便性を実感できる社会を作るという方針が示されている。
 
このように政府を挙げ、デジタル化による社会の変革が求められる中、国土交通省においても、国民目線に立ち、インフラ分野のデジタル化・スマート化を、スピード感を持って強力に推進していく必要がある。
 
 

データとデジタル技術を活用したインフラ分野の変革~インフラ分野のDX~

インフラ分野におけるデータとデジタル技術の活用は、2016年度より建設現場の生産性を高めるため、ICT施工やBIM/CIM(Building/Construction Information ModelingManagement)をはじめとする3 次元データの活用等、i-Constructionを推進してきた。将来的には、測量から設計、施工、維持管理に至る建設プロセス全体を3次元データでつなぎ、新技術、新工法、新材料の導入、利活用を加速化することを目指している。さらに、事業全体にわたる関係者間で情報を共有することにより、一連の建設生産システムにおける受発注者双方の業務効率化・高度化が期待される(図-1)。
 

建設生産プロセスを3次元でつなぐ

図-1 建設生産プロセスを3次元でつなぐ




i-Constructionに関する工種拡大

図-2 i-Constructionに関する工種拡大




 

これまでの成果として、例えば、調査・測量、設計、施工、検査等のあらゆる建設生産プロセスにおいてICTを全面的に活用する取り組み(ICT活用工事)では、国土交通省において、図-2のように必要な積算や技術基準等の整備を進めてきた。令和元年度の取り組み状況は、令和元年度末時点において、直轄工事におけるICT活用工事の公告件数2,397件のうち1,890件の、約8割で実施している。ここに、ICT活用工事とは、以下に示すICT活用における施工プロセスの各段階においてICTを全面的に活用する工事である。
 
【施工プロセスの各段階】
①3次元起工測量
②3次元設計データ作成
③ICT建設機械による施工
④3次元出来形管理等の施工管理
⑤3次元データの納品
 
加えて、今般の新型コロナウイルス感染症を踏まえ、感染症リスクに対しても強靱な経済構造の構築を加速することが喫緊の課題である。このため、インフラ分野においても、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の加速化に着手したところである。デジタル・トランスフォーメーションは、単なるデジタル化ではなく、これまでの常識にとらわれることなく、公共サービスの変革や、業務、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革し、国民、業界、職員への貢献を目指す取り組みである。
 
このDXの基盤として、調査・測量・設計から施工、維持管理に至る建設生産プロセスを3 次元データ(BIM/CIM)でつなぐ取り組みを推進する必要がある。BIM/CIMを導入することで、建設生産・管理システム全体を見通した施工計画、管理などのコンカレントエンジニアリング、フロントローディングの考え方を実施していくことが可能となる。国土交通省は、平成24年度から橋梁やダム等を対象に導入し、令和元年度は、大規模構造物の詳細設計において、BIM/CIMを原則適用とする等、適用拡大に取り組んできたところである。こうした中、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機として、国土交通省では、強靭な社会経済構造の構築に向け、公共工事の現場のデジタル化を進め、非接触・リモート型の働き方への転換等を強力に推進しており、一つの目標として、2023年度までに小規模なものを除く全ての公共工事でBIM/CIM活用に転換することとしている。
 
インフラ分野のDXの加速化に向け、国土交通省では、省横断的に取り組みを進めるべく、「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」を令和2年7月29日に設置したところである。
 
 

インフラ分野のDXの具体的取り組み

去る令和2年10月19日に第2回インフラ分野のDX推進本部を開催し、インフラ分野のDX施策概要を公表した。この中で、大きく4つの方向性で取り組みを推進することとしている(図-3)。
 

インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーションで実現するもの

図-3 インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーションで実現するもの




1点目は、「行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革」である。
 
これは、デジタル化による行政手続き等の迅速化や、データ活用による各種サービスの向上を図る取り組みである。
 
具体的には、特車通行手続き等の迅速化や港湾関連データ基盤の構築等による行政手続きの迅速化に加え、ITやセンシング技術等を活用したホーム転落防止技術の活用やETCによるタッチレス決済の普及等に取り組むこととしている(図-4)。
 
行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革

図-4 行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革




2点目は、「ロボット・AI 等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上」である。
 
これは、ロボットやAI等の活用により危険作業や苦渋作業の減少を図るとともに、経験が浅くても現場で活躍できる環境の構築や、熟練技能の効率的な伝承等に取り組むこととしている。
 
具体的には、無人化・自律施工による安全性・生産性の向上やパワーアシストスーツ等による苦渋作業の減少による安全で快適な労働環境の実現、AI等による点検員の判断支援やCCTVカメラ画像を用いた交通障害自動検知等によるAI等を活用した暮らしの安全確保、人材育成にモーションセンサー等を活用するなど熟練技能をデジタル化した効率的な技能習得等の取り組みである(図-5)。
 
ロボット・AI等活用で人を支援し、現場や暮らしの安全性を向上

図-5 ロボット・AI等活用で人を支援し、現場や暮らしの安全性を向上




3点目は、「デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革」である。
 
これは、調査・監督検査用務における非接触・リモートの働き方の推進や、データや機械の活用により日常管理や点検の効率化・高度化を図る取り組みである。
 
具体的には、衛星を活用した被災状況把握等による調査業務の変革、画像解析や3次元測量等を活用した監督検査の効率化やリモート化に加え、AI活用や技術開発により点検・管理業務の効率化等を図る取り組みである(図-6)。
 
デジタルデータを活用し仕事のプロセスや働き方を変革

図-6 デジタルデータを活用し仕事のプロセスや働き方を変革




4点目は、「DXを支えるデータ活用環境の実現」である。これは、スマートシティ等と連携し、データの活用による社会課題の解決策の具体化に加え、その基盤となる3次元データの活用環境を整備する取り組みである。
 
具体的には、都市の3次元モデルを構築し、各種シミュレーションによるユースケースの開発に加え、データ活用の共通基盤となる位置情報の基盤整備、さらには3次元データの保管・活用や通信環境の整備等を進める取り組みである(図- 7)
 
DXを支えるデータ活用環境の実現

図-7 DXを支えるデータ活用環境の実現




 

おわりに

以上、国土交通省が推進しているインフラ分野のDXの取り組みについて紹介した。コロナを契機に時代の転換点を迎える中、陸海空のインフラの整備・管理により国民の安全・安心を守るという使命と、より高度で便利な国民サービスの提供を担う国土交通省が、省横断的に取り組みを進め、社会を変革する先導役となることを目指していきたい。
 
一方、それぞれの取り組みを推進することは重要だが、こうした取り組みで得られたデータ等を連携し、横断的に活用することにより新たな価値を創造していくことも重要な取り組みである。このため、各種データを連携する基盤として、「国土交通データプラットフォーム」の構築にも取り組んでいるところである(図-8)。
 

国土交通データプラットフォームで実現を目指すデータ連携社会

図-8 国土交通データプラットフォームで実現を目指すデータ連携社会




国土交通省における所管分野のDXの推進と合わせて、省内各分野のデータとの連携を進めるとともに、官民からさまざまな提案を募り、利活用方策を具体化して発信を行うことにより、プラットフォームを活用した価値の創造にも取り組んでいきたい。
 
データとデジタル技術の活用により、インフラ分野における変革を加速すべく、部局の垣根を越え、省一丸となり取り組みを進める所存である。
 
 
[参考文献]
1)経済財政運営と改革の基本方針2020
 (令和2年7月17日閣議決定)
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐 中西 健一郎

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



国土交通省直轄土木工事における遠隔臨場の試行について

2021年7月19日

 

はじめに

人口減少社会を迎えた現在、建設産業は働き手の減少を上回る生産性の向上等が求められている。また、建設業就業者数の高齢化が進行し、中長期的な担い手の確保・育成等に向けての、働き方改革を進めることも重要な施策となっている。
 
このような現状を打破するために、国土交通省では、平成28年より「建設現場の生産性革命」に向け、i-Constructionを推進しており、ICT(情報通信技術)の活用やコンクリート工の規格の標準化、施工時期の平準化をトップランナー施策として位置付けている。また令和元年6月には公共工事の品質確保の促進に関する法律が改正され、災害時の緊急対応の充実強化、調査・設計の品質確保とともに、情報通信技術の活用等による生産性向上への取り組みや働き方改革の推進が位置付けられた。このように発注者の責務として、現在および将来にわたり、より良い品質のインフラを国民に提供するため監督・検査内容の充実、体制の確保と生産性向上が必要とされている。
 
一方で、令和2年には新型コロナウイルス感染症拡大防止を目的とし、建設現場においても人と人が密になる環境を避けるための非接触・リモート化を推進しているところである。
 
本稿は、ICT技術の活用により、建設現場の生産性向上とともに、公共工事の品質確保、品質確保の高度化の取り組みとなり、また非接触・リモート化の促進が期待される施策の1つである「建設現場における遠隔臨場の試行」について紹介する。
 
 

改正品確法と情報通信技術の活用

公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)は、公共工事の品質確保に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、 公共工事の品質確保の促進に関する基本的事項を定めることにより、公共工事の品質確保の促進を図り、国民の福祉の向上および国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている。
 
平成26年の改正では発注者の責務として、「工事中及び完成時の施工状況の確認及び評価を適切に実施すること」が盛り込まれ、また、工事に関する技術基準の向上に資するために必要な技術検査を行うとともに、要領や技術基準を策定することが盛り込まれ、これまで各地方整備局が制定していた要領等が厳格に法律に位置付けられた。
 
令和元年の改正では、建設業・公共工事の持続可能性を確保するため、働き方改革の促進とともに、生産性の向上が急務として、発注者の責務として「公共工事等の監督及び検査並びに施工状況等の確認及び評価に当たっては、情報通信技術の活用を図る」ことが、受注者においては「情報通信技術を活用した公共工事等の実施の効率化等による生産性の向上」と盛り込まれた。
 
改正品確法を受けて、現状における、受・発注者ともに限られた人員の下で監督・検査のさらなる充実を図るため、①合理的で不正の抑制に効果的な監督・検査方法、②受発注者相互による新たな品質管理マネジメントのあり方について、情報通信技術の活用の検討を進めている(図-1)。
 

情報通信技術の活用(品確法より抜粋)

図-1 情報通信技術の活用(品確法より抜粋)




 

監督検査における情報通信技術の活用の検討

施工データの改ざんなど不正行為を抑制・未然に防ぐとともに、現場での確認作業の効率化に寄与することを期待できるものとして、施工状況の映像記録の保存、施工データの自動計測やクラウド管理等のICT(IoT)の導入を検討している。
 
ビデオ撮影による施工状況を記録・保存することで、見られていることによる不正行為の抑止効果や工事現場の見える化による不安全行動の抑止、さらには、近景での撮影により、映像の解析技術などを併用することで映像記録・保存したデータを出来形確認に活用し、監督・検査業務の効率化へも寄与することが期待できる。
 
これらの技術の導入により「不可視部分の施工状況把握の充実」「不正行為の抑制」「確認作業の効率化」「工事書類の削減」の効果も発揮されると考える。
 
こうした技術の活用に当たり、実現場での試行工事を行い、「映像のみで施工状況を把握する方法」「データ改ざん等を防止する技術の確立」「ICT導入に関する基準類の整備」などの考えられる課題に対応検討していく。
 
また、検証に当たっては政府が科学イノベーションの創出に向けて平成30年度に創設した「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」の制度を活用して、建設現場の生産性を飛躍的に向上するプロジェクトにより選定されたコンソーシアムによる建設現場等でのさまざまなICT(IoT)の活用の検証を実施しており、令和2年度においても検証を実施している。
 
 

建設現場における遠隔臨場の試行

『遠隔臨場』とは、ウェアラブルカメラ等による映像と音声の双方向通信を使用して「段階確認」、「材料確認」と「立会」を行うものである。遠隔臨場の効果としては、発注者は事務所・出張所・詰め所等から施工現場への往復の移動時間を削減することができる。また、受注者は監督員の臨場における日程調整や立会待ちによる施工時間のロスを防ぐことができるため、両者にとっての業務効率化に寄与すると考えられる。図-2、3に概要と効果のイメージを示す。
 

遠隔臨場の概要

図-2 遠隔臨場の概要




遠隔臨場の効果

図-3 遠隔臨場の効果




遠隔臨場については、平成29年度から東北地方整備局において一部の工事で試行を開始し、平成30年度からは中部地方整備局においても試行を実施している。その結果、受注者における「段階確認に伴う手待ち時間の削減や確認書類の簡素化」や発注者(監督員)における「現場臨場の削減による効率的な時間の活用」等の有用性が確認されたため(図-4)、令和2年3月に「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)」(以下、「試行要領」という)、「建設現場における遠隔臨場に関する監督・検査試行要領(案)」(以下、「監督要領」という)を策定し、直轄土木工事の「段階確認」、「材料確認」と「立会」において、遠隔臨場を試行ができるようにした。
 
本要領は、遠隔臨場を適用するにあたり、受発注者の作業効率化を図るとともに、契約の適正な履行として施工履歴を管理するために、以下の事項について適用範囲や具体的な実施方法と留意点等を示したものである。
・適用の範囲
・遠隔臨場に使用する機器構成と仕様
・遠隔臨場による段階確認等の実施および記録と保管
過年度の遠隔臨場試行における意見

図-4 過年度の遠隔臨場試行における意見



1)適用範囲

遠隔臨場の機器を用いて、『土木工事共通仕様書(案)』に定める「段階確認」、「材料確認」と「立会」を実施する場合に適用する。
 
受注者がウェアラブルカメラ等により撮影した映像と音声を監督職員等へ同時配信を行い、双方向の通信により会話しながら確認し、試行内容に応じて録画するものである。
 
ウェアラブルカメラとは、ヘルメットや体に装着や着用可能(ウェアラブル;Wearable)なデジタルカメラの総称であり使用製品を限定するものではない。一般的なAndroidやi-Phone等のモバイル端末を使用することも可能である。
 
ウェアラブルカメラ等の機器を用いて、映像と音声の同時配信と双方向の通信を行うことにより、監督職員等が確認するのに十分な情報を得ることができた場合に、臨場に代えることができるものとする。監督職員等が十分な情報を得られなかったと判断する場合には、受注者にその旨を伝え、通常どおりの段階確認を実施する。
 
なお、録画を必要とする場合は、確認実施者が現場技術員の場合であり、監督職員が実施する場合は、録画や写真は不要として、提出書類の削減に資する配慮も行っている。 
 
1)適用範囲

2)使用機器と仕様

遠隔臨場に使用するウェアラブルカメラ等の機器は受注者が準備、運用するものとする。
 
(1)映像と音声の「撮影」に関する仕様
本試行に用いるウェアラブルカメラ等による映像と音声の「記録」に関する仕様を次に示す。なお、映像と音声は、別々の機器を使用することができるものとし、夜間施工等における赤外線カメラや水中における防水カメラ等の使用や固定カメラの使用なども妨げるものではない。
 
機器の仕様については試行した現場においてはズーム倍率では画像が粗くなり配筋状況を確認する上からハイスペックを望む声を反映している。ただし、令和2年度の試行工事においては、機器の仕様の運用を一部変更している(後述)。
2)使用機器と仕様
※令和2年度の試行における仕様については「6)令和2年度における遠隔臨場の試行」参照
 
(2)映像と音声の「配信」に関する仕様
ウェアラブルカメラ等にて撮影した映像と音声の「配信」に関する仕様を次に示す。ただし、令和2年度の試行においては、機器の使用と同様に、転送レートの運用を一部変更している。
(2)映像と音声の「配信」に関する仕様
※令和2年度の試行における仕様については「6)令和2年度における遠隔臨場の試行」参照
 

映像と音声を送信しモニターで確認するシステムは、複数の通信機器などのメーカーがクラウドも含めたシステムを構築しているので、受注者がどの会社を選定するかは自由である。また、試行ではウェアラブルカメラと撮影状況の確認用に手元にモニターをセットしている事例がある。

3)実施

段階確認等を行う箇所については、受注者がウェアラブルカメラ等により撮影した映像と音声を監督職員等へ同時配信を行い、双方向の通信により会話しながら監督職員が指定して確認する。
 
受注者は、「工事名」、「工種」、「確認内容」、「設計値」、「測定値」や「使用材料」等の必要な情報について適宜黒板等を用いて表示する。記録に当たり、必要な情報を冒頭で読み上げ、監督職員等による実施項目の確認を得ること。また、終了時には、確認箇所の内容を読み上げ、監督職員等による実施結果の確認を得ること。

4)記録と保存

受注者は、遠隔臨場の映像と音声を配信するのみであり、記録と保存を行う必要はないとして書類の省力化を図っている。
 
ただし、確認実施者が現場技術員の場合は、映像と音声の録画を必要とする。

5)留意事項 

工事記録映像の活用に際しては、画面や音声に移るプライバシーに関しての特有の問題があるので留意する必要がある。
 
・被撮影者である当該工事現場の作業員に対して、撮影の目的、用途等を説明し、承諾を得ること。
・作業員のプライバシーを侵害する音声情報が含まれる場合があるため留意すること。
・施工現場外ができる限り映り込まないように留意すること。
・受注者は、公的ではない建物の内部等見られることが予定されていない場所が映り込み、人物が映っている場合は、人物の特定ができないように留意すること。

6)令和2年度における遠隔臨場の試行

令和2年度においては、遠隔臨場の試行拡大と新型コロナウイルス感染拡大防止のため、遠隔臨場により取り組みやすくなるように「建設現場における遠隔臨場の令和2年度の試行方針」(以下、「令和2年度方針」という)を策定した。
 
令和2年度試行方針においては、試行における費用負担の考え方について、発注者指定型として試行するものについては、試行にかかる費用の全額を技術管理費に積み上げ計上し、発注者が負担することとした。また、新型コロナウイルス感染拡大防止対策として試行する場合は、発注者指定型として試行することとしており、感染症対策としても積極的に試行できるようにした(図-5)。
 

令和2年度における遠隔臨場の費用負担の考え方

図-5 令和2年度における遠隔臨場の費用負担の考え方


 

また、“映像と音声の「撮影」に関する仕様”および“映像と音声の「配信」に関する仕様”については、それぞれ試行要領に示す仕様から変更することを可としており、より試行に取り組みやすくなるようにした(表-1)。

表-1 令和2年度方針における各仕様

表-1 令和2年度方針における各仕様


 

令和2年度においては、全国の直轄工事現場で560件程度の試行工事を実施する予定(令和2年9月末時点)であり、全国的に積極的に、遠隔臨場の試行に取り組まれている。
 

  • 写真-1 監督員の確認状況

    写真-1 監督員の確認状況

  • 写真-2 撮影者

    写真-2 撮影者

  • 写真-3 現場の状況

    写真-3 現場の状況


 

おわりに

令和2年は、新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言時に河川や道路などの公物管理、公共工事については事業の継続が求められ、受発注者双方においてテレワークの推進や「三つの密」の回避等の感染防止対策を徹底することとして対応しているが、建設現場におけるリモート・非接触といった視点では、遠隔臨場の活用は有効であり、引き続き積極的な活用を求めている。
 
今後、令和2年度における多くの試行結果を元に試行要領他の内容を見直し、早期の社会実装に向けて取り組んでまいりたい。あわせて、「段階確認」、「材料確認」と「立会」のみでなく、中間検査や完成検査においての活用も見据えて、検討を続けたいと考えている。
 
遠隔臨場の全国的な試行は開始したばかりであり、機器の確保や通信回線、費用負担の考え方等の課題も考えられるが、今後もますますの取り組み拡大により、建設現場の生産性向上・効率化、また感染症改題防止を進めていく。
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



橋梁建設における VR・MRの活用について

2020年8月26日

 
国土交通省は、2025年までに建設現場の生産性を20%向上させる目標を立てて、建設業界全体でi-Constructionを推進しています。その実現にはICT技術の活用は必須となっています。「CIMモデルをどう作るか?」から「どう使うか?」に課題が進展している昨今、CIMモデルを活用した仮想現実(VR)技術や複合現実(MR)技術の現場導入が進められています。ここでは、オフィスケイワンが取り組んでいる橋梁の設計・施工におけるVR・MR技術事例についてご紹介していきます。
 
 


 

橋梁施工におけるVR技術の活用事例

VRとは Virtual Reality (バーチャルリアリティー)の略で、仮想現実と訳されます。コンピューターや身体に装着する機器を用いて人間の視覚や触覚などの五感を刺激し、あたかも現実かのように体感させる概念や技術を指します。コンシューマー向けに安価なデバイスが発売された2016年はVR元年といわれ、建設業でもVR導入事例が発表されるようになりました。オフィスケイワンは2016年後半にHTC社のVIVEというヘッドマウントディスプレイ(ヘッドセット)を導入し、橋梁向けコンテンツの研究開発に取り組みました。その成果のうち、3つのVR事例をご紹介します。
 
 
(1)安全教育ツールへの適用
ベテラン技術者のノウハウ伝達、技術継承のツールとしてVR技術の利用が効果的といわれています。例えば現実世界では実習が難しい労働災害事例を体験できるのはVR技術ならではです。
 
その労働災害で高い比率を占めるのが、玉掛作業、クレーン、高所作業などによる、挟まれ・巻き込まれ、墜落・転落、転倒です。どのようなシーンに労働災害の芽が潜んでいるかを体験できるのが「橋梁工事VR安全教育システム」です。プレイヤーはヘッドセットを頭部に装着し、バーチャル空間に再現された橋梁工事の現場で、アナウンスに従って作業を進める中でこれらの労働災害を体験することが可能です(図1-1)。このシステムは、高い臨場感と没入感の中で被災体験をすることで、実際の現場での危険予知レベルの向上、安全意識の向上に役立てることを目的としており、実際の工事現場で利用されています(図1-2)。またプレイヤーが被災状況を俯瞰して振り返る機能を持たせることで安全学習の効果を高める工夫もあります。本システムは2017 年より橋梁メーカーとオフィスケイワンが共同開発に着手し、災害事例を10シーン体験できるシステムです。なお、この技術は国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)にも登録(KK-180029-A)が完了しています。
 
 
図1-1 橋梁工事VR安全教育システムのコンテンツイメージ

 
図1-2 現場事務所でのVR安全教育事例 (写真提供:株式会社駒井ハルテック)


(2)溶接施工シミュレーション
鋼橋の工場製作において部材が密集した狭隘部の溶接施工には慎重な事前検討が行われます。従来は発泡スチロールで実寸大のモックアップを作成して、実施工の前に溶接部が目視可能であるかや、溶接姿勢がとれるかなどの施工性を検証していました(図-2)。この検証手法は確実ではありますが、モックアップ制作に時間を要し、保管場所などが課題でした。その代替手法としてVR技術に着目し、狭隘部のCIMモデルをVRデータに変換して、仮想現実空間で溶接施工シミュレーションを行うシステムを開発しました(図-3)。頭部に装着したヘッドセットや身体に装着したトラッカーセンサーと、CIMモデルが干渉した場合は、警告音を出して体験者に知らせる機能があります。トラッカーセンサーの装着に時間を要するためどうやって簡素化できるかが課題ですが、動作解析などに利用されているモーションキャプチャー技術の適用検討など、引き続き研究を進めています。
 

図-2 従来のモックアップによる施工性検証
(写真提供:宮地エンジニアリング株式会社)

 
図-3 VR技術を用いた溶接シミュレーション
(写真提供:株式会社駒井ハルテック、宮地エンジニアリング株式会社


(3)見学会イベントなどでのVR活用
場所を選ばないVR技術は職業体験にも有効です。将来の担い手に向けた建設業の働き方をVR空間で見せることで、仕事のイメージ理解や共感作り、業界のイメージアップにも優れた効果を発揮します。例えば会議室で橋梁の施工シーンをVR体験する「バーチャル現場見学会」の開催が可能となります(図-4)。またVR空間で長大なアーチ橋のタワー最上部に立って現場を見渡したり、高所からのバンジージャンプなどのアトラクションを入れたコンテンツを学生さんに体験してもらうことで、イベントも盛り上がり、建設業の壮大さを体感してもらえます。
 
 
図-4 学生向けイベントでのVR活用事例


これまでVRには高性能なグラフィックボードを搭載したパソコンとヘッドセット、赤外線センサースタンドの機材が必要でした。最近はデバイスの技術革新が進み、頭部に装着するヘッドセットのみでプレイが可能なオールインワン型のヘッドセットが発売されるようになりました(図-5)。これまでのパソコンを利用するVRよりも解像度は落ちますが、大きなパソコンや赤外線センサースタンドが不要という手軽さは、VR運用担当者や操作説明員の労力が減り、VRコンテンツの体験機会創出も容易になりそうです。
 

図-5 スタンドアロン型ヘッドセットによる安全教育システム


 

橋梁施工現場におけるMR技術の活用事例

VR技術は360度が全て仮想空間ですが、一方のMR(Mixed Reality)技術は現実世界に仮想モデルを映し出す技術です。バーチャルな設計図や3Dモデルと現実空間を同一空間上に重ね合わせるものです。MR デバイスはWindows10で動くCPUを搭載しているホログラフィックコンピュータで、場所の位置や視野の向きは、MRデバイスに搭載された「デプスセンサー」という赤外線を利用し、作業場所をリアルタイムに3D スキャナーで割り出す仕組みがあります。産業分野では航空機エンジンのメンテナンス訓練など、自分の手とバーチャルモデルの距離感を測りながら体感できるメリットを生かした使い方が提案されています。
 
オフィスケイワンでは2017年初夏にマイクロソフト社のHoloLensというMRデバイス、インフォマティクス社の「GyroEye Holo」というMRソフトを導入し、橋梁工事での利活用方法の研究を開始しました。ここでは、橋梁の施工現場での活用事例を中心にご紹介いたします。
 
 
(1)鋼橋におけるMR技術の活用事例(品質管理)
鋼橋の施工において、排水装置や検査路、伸縮装置など付属物の部材は製作工場ではなく、現場に直接搬入される場合が多いため、現場で不具合が発見される可能性が潜在的にあります。現場で不具合が発生すると工程遅延、コスト増など大きな影響を与えます。そこで現場での不具合発覚を防ぐために、工場での仮組み立て時に付属物(例えば排水装置)のCIMモデルを鋼桁に投影表示して干渉の有無、本体ピースの取り付け位置確認などを試行しました(図-6)。
 
 
図-6 鋼橋仮組み立てにおける付属物をMR表示した事例

このように完成形の干渉チェックや取付部品のチェック等、日常業務への本格運用が検討されています。現状はMRデバイスを装着した作業者が見回して不具合箇所を発見する仕組みですが、将来は画像処理やAI技術の進化により不具合箇所の自動検出機能が期待されます。
 
 
(2)PCコンポ橋の施工現場におけるMR活用事例(生産性向上)
この現場では桁架設完了後の床版施工時に、MRデバイスに投影された配筋CIMモデルに合わせて鉄筋を配置する作業を試行しました(図-7)。前出の品質チェックではなく施工作業そのものにMRを活用した事例です。従来、配筋図面とメジャーを使って鉄筋の位置を現場型枠上に墨出ししてから、配筋作業を行っていました。これに代わる作業としてMR技術を使うことで、必要本数が配筋されているか一目で把握でき、また生産性の向上が期待できることを確認しました。このように従来作業方法の革新は配筋作業後に行う品質検査の必要性そのものも議論できるかもしれません。一方で、ヘルメット越しにMRデバイスを装着する作業者に聞くと「一日中頭に着けて作業するのは疲れそう」とのことだったので、将来はMRデバイスのさらなる軽量化、スマート化が期待されます。
 
 
図-7 MRデバイスによる配筋作業


【MR配筋作業手順】
①MRデバイス画面に投影される情報を計画
②配筋CIMモデルを作成し、GyroEyeHoloを使ってクラウド経由でHoloLensに取込む
③作業者にHoloLensの装着、操作方法を指導
④現場に原点(ARマーカー)を用いてCIMモデルの位置合わせを行う
⑤HoloLensと工事事務所のパソコンをインターネットで接続し、リアルタイム映像により品質検査
 
 
HoloLensで見ている映像をインターネット経由で遠隔地のパソコン画面に映して品質検査も試行しました(図-8)。現場は山手にあり当時のインターネット環境(4G)では映像が途切れることがありましたが。将来、通信速度が100倍になるといわれる5Gが普及すれば、ストレスなく映像情報を発注者と現場間で行うことが可能になると思われます。
 
 
図-8 MRを活用した遠隔検査の風景

(3)保全工事でのMR技術の適用
今後、社会資本整備において新設工事が漸減する一方で、補修工事は増加傾向にあります。補修工事へのMR技術の取り組みのひとつに、補修履歴のMRスケッチ(手の動きをデバイスセンサーで捉えて図化する方法)があります。従来は、補修箇所・範囲の図面化のために、複数人でメジャーを使って野帳にスケッチを行い、後日事務所でCADに清書していました。MR技術を使えばデバイスを装着した作業者が一人で補修箇所のスケッチができ、その場でスケッチ情報をクラウドにアップできます(図-9)。一連の作業を帳票の自動作成まで行うことで大幅な生産性向上が可能となります。従来のように手書きのスケッチを見ながらCAD図を清書する必要がなくなるため、働き方改革にも貢献できます。
 
 
図-9 保全工事における野帳による従来作業とMRスケッチ作業イメージ


 

今後について

施工現場でMRデバイスを活用する課題として、過酷な環境下での使用性にあります。具体的には精密機器であるMRデバイスは放熱性が悪く炎天下での連続使用に制限があります。気温30度を超えるとデバイス本体に熱がこもって数分でシャットダウンしてしまいます。そこでMRソフトを開発するインフォマティクス社は、水冷式の保冷装置を開発して、炎天下での連続使用を実現しています(図-10)。またコンビニでも入手できる市販の吸熱材(=熱さまシート)をMRデバイスの本体に貼り付けることで本体の温度上昇を抑える方法もあります(図-11)。
 

  • 図-10 水冷式の保冷装置

  • 図-11 熱さまシートによる保冷置


そのほか現場利用の課題に、位置合わせ精度やマーカーからの移動距離に応じて悪くなる重ね合わせ精度の問題があります。MRデバイスを装着して原点から離れるとその距離に比例してズレ量が増える現象です。その解決策のひとつとしてインフォマティクス社はTS測量器とMRデバイスを連携させるオプション機能の提供により、従来の20倍もの重ね合わせ精度の向上が実現しています(図-12)。MR施工の実用化に大きな一歩となりました。
 

図-12 MRデバイスとTS測量器の連携


 
建設現場での利用が増えてくると新たな課題も出てくると思われますが、VR・MR技術は社会的要請である「生産性向上」「働き方改革」を実現する手段としてはとても有益かつ将来性があると言えます。オフィスケイワンも微力ながら貢献していきたいと考えております。最後までお読みいただきありがとうございました。
 
 
 

オフィスケイワン株式会社 代表取締役 保田 敬一

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集3「建築ITの最新動向」



 
 
 



 


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