建設ITガイド

トップ >> 特集記事 特集記事

書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

東北地方整備局における インフラDX推進の取り組み

2023年8月21日

はじめに

建設業は「地域の守り手」、「地域振興の担い手」として重要な役割を担う基幹産業であるが、東北地方においては進行著しい少子高齢化や、冬季の厳しい自然環境などから担い手の確保が大きな課題となっている。
 
本稿では、東北地方整備局において官民が連携して取り組んでいる「東北復興『働き方・人づくり改革プロジェクト』」など、建設業を取り巻くさまざまな課題の解決に向けた取り組みを紹介する。
 
 

東北地方整備局におけるインフラDX推進に向けた取り組み

①東北復興「働き方・人づくり改革プロジェクト」

東北地方整備局では、2016年度から「働き方改革の推進」、「生産性向上の推進」、「担い手の育成・確保」の三本柱からなる「東北復興『働き方・人づくり改革プロジェクト』」を官民連携で取り組んでいる(図-1)。
 
取り組みの事例としては、2022 年4月からi-Constructionの推進を後押しする「ICTサポーター制度」による支援を開始した。
デジタル技術への豊富な経験や知見、ノウハウを持つさまざまな分野の61社を「ICTサポーター」として認定し、新たに導入を考えている企業などが指導やアドバイスを受けられる仕組みで、約6カ月での活用が260 件程度と地元企業の関心の高さをあらためて感じた。
さらなる本制度の積極的な活用を期待しているところである(図-2)。

図-1 東北復興「働き方・人づくり改革プロジェクト」
図-2 「ICTサポーター制度」の概要
図-2 「ICTサポーター制度」の概要

 
また、ICT施工導入の投資メリットを地元中小規模の経営者クラスの方に直接理解いただくための「地元経営者向けセミナー」(写真-1)や、次世代を担う若手技術者の育成を図るため、中・高・大学生に対して「i-Construction 新技術体験学習会」(写真-2)を、官民連携により各県で展開中である。

写真-1 地元経営者向けセミナー
写真-1 地元経営者向けセミナー
写真-2 i-Construction 新技術体験学習会(中学生)
写真-2 i-Construction 新技術体験学習会(中学生)

 

②インフラDXの推進体制

2021 年11月には、整備局全体が一体で取り組む「東北地方整備局インフラDX推進本部」を設置した(図-3)。
DXの推進に当たっては、現状の働き方における3つの課題(既成概念・場所・ペーパー)に着目し、課題解決に向けて「離れた空間をデジタルで共有」、「誰でもすぐに現場で活躍」、「オフィスに現場を再現」、「ワンチームでDXを推進」の4つの挑戦テーマ(図-4)を設定して、データとデジタル技術を活用した社会資本整備や公共サービスの提供、除雪作業の効率化に向けた技術開発、人材育成や担い手確保などさまざまな取り組みにチャレンジしているところである。

図-3 東北地方整備局DX推進の体制
図-3 東北地方整備局DX推進の体制
図-4 DX推進の4つの挑戦テーマ
図-4 DX推進の4つの挑戦テーマ

 

③3次元データの利活用(BIM/CIM)について

i-Constructionモデル事務所である鳴 瀬川総合開発工事事務所では、3次元情報活用モデル事業である「鳴瀬川総合開発事業(宮城県加美郡加美町)」において、大規模かつ長期にわたるダム事業の特性を踏まえ、調査・設計段階からBIM/CIMモデルを活用した事業監理に取り組んでいる。
 
GIS情報共有基盤ベースの流域モデル(流域全体の地形・地質モデル)上に、地すべりモデル、原石山・残土受入地モデル、構造物モデルなどのBIM/CIMモデルを統合し、情報共有プラットフォームを構築して、事業監理をしていくこととしている(図-5)。
また、2021 年には、BIM/CIMモデル を用いた臨場感ある事業完成イメージを、スマートフォン端末でVR体験できる「QRコードを用いたVR」を作成し、調査・設計段階から対外的な事業説明や広報などで広く活用している(図-6)。
 
また、東北地方整備局では、独自の取り組みとして、2021 年度より3次元情報活用モデル事業を5事務所・5事業を追加し、 2022 年度にはさらに2事務所・3事業を追加し、管内で横断的な3次元データなどの利活用推進を図っているところである。

図-5 鳴瀬川総合開発事業プラットフォームのイメージ
図-5 鳴瀬川総合開発事業プラットフォームのイメージ
図-6 鳴瀬川総合開発事業の「QRコードを用いたVR」
図-6 鳴瀬川総合開発事業の「QRコードを用いたVR」

 

④インフラDX推進の環境整備などについて

2022 年度からは東北地域におけるDX 推進に向けた環境整備・研修内容の充実を図っていくとともに、県・市町村などの職員や民間企業の技術者に拡大していくこととしている。
 
具体的には、インフラDX推進に向けた人材育成を図るため、発注者(自治体含む)および受注者に対する3次元データ・デジタル技術の知識習得(研修・実習など)を目的とした「(仮)東北インフラDXセンター」を東北技術事務所に、またインフラDX推進の拠点として、高速通信網の整備とルーム内のWi-Fi化により、映像や3次元データなどの共有を効率化するとともに高い臨場感で業務遂行するなど、新たな働き方を先導し、3次元データの利活用やイノベーションの創出を推進することを目的とした「(仮)東北インフラDXルーム」を東北地方整備局に2022 年度に整備することとしている(図-7)。

図-7 (仮)東北インフラDXセンター・ルームの機能案(左)と、DXセンターの設備イメージ(右)1
図-7 (仮)東北インフラDXセンター・ルームの機能案(左)と、DXセンターの設備イメージ(右)2

図-7 (仮)東北インフラDXセンター・ルームの機能案(左)と、DXセンターの設備イメージ(右)
 
 

おわりに

建設業の新3K(給与がよい・休暇がとれる・希望がもてる)の実現に向けては、長きにわたって積み上げ築いてきた経験と技術にデジタルという新たな技術をいかに融合させていくかが鍵になると考えている。
 
東北地方整備局ではICT施工のさらなる普及・拡大やBIM/CIM(3次元データ化)原則適用に向けて、これまで述べた取り組みを着実に推進させながら、官民連携による担い手の育成・確保や次世代を担う若手技術者の育成にも取り組んでいく。
 
 

国土交通省 東北地方整備局 企画部

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2023


 



北陸地方整備局における BIM/CIMの取り組み

はじめに

国土交通省では、建設現場の生産性向上を図るi-Constructionの取り組みにおいて、これまで3次元モデルを活用し社会資本全体の整備、管理を行うCIM(Construction Information Modeling,Management)を導入することで受発注者双方の業務の効率化・高度化を推進してきました。
 
一方で、国際的なBI M( Building Information Modeling )の 動向などは近年顕著な進展を見せており、土木分野での国際標準化の流れを踏まえ、 Society5.0 における新たな社会資本整備を見据えた3次元データを基軸とする建設生産・管理システムを実現するためBIM/ CI M( Building/ Construction Information Modeling,Management)という概念において産官学一体となって再構築し、BIM/CIMの取り組みを推進しています。
 
今回は、主に北陸地方整備局のBIM/ CIM活用業務および工事の取り組み実績と令和4年度のBIM/CIMの活用・普及に向けた取り組みを紹介します。
 
 

北陸地方整備局のBIM/ CIM 取り組み実績

北陸地方整備局では、平成24 年度からCIMの導入検討や試行を行っています。
平成28年度から本格的に詳細設計などの業務を実施しており、年々取り組み件数が増加し令和3年度では業務85件、工事20件を実施しました(図-1)。

図-1 BIM/CIM活用工事・業務実施件数
図-1 BIM/CIM活用工事・業務実施件数

 
 

北陸地方整備局の BIM/CIM 取り組み方針

令和4年度北陸地方整備局のBIM/CIMの取り組み方針は、国土交通省の実施方針である「令和5年度までに小規模を除く全ての公共事業についてBIM/CIMを活用」を踏まえ、さらなるBIM/CIMの活用・普及を図るため、適用可能な範囲から発注者自らBIM/CIMを活用していくこととしています。
 
原則、測量・調査段階から3次元データを導入するとともに、設計、施工、維持管理の各段階での活用を推進するため、過年度までに実施した「ICTを活用した測量」、「土工・舗装工の3次元設計」、「BIM/CIM活用業務による設計」の成果などについては、全て後工程に引き継ぐものとしています。
 
 

地元企業参入拡大の取り組み

北陸地方整備局におけるBIM/CIMの推進を図る上で、発注者はもとより地元企業の技術力向上も不可欠となるが、これまでのBIM/CIM活用業務実施件数のうち、地元企業の受注割合は1割程度となっています(図-2)。

図-2 BIM/CIM業務実施件数(企業別)
図-2 BIM/CIM業務実施件数(企業別)

 
地元企業の参入拡大の取り組みとして、試行的に実施している簡易(特別)型を利用した発注、ICT普及促進型工事について紹介します。
 

(1)簡易(特別)型を活用した発注

地元企業の受注機会を創出するため、入札参加の地域要件を「当該県内に本店を有すること」とする簡易(特別)型を活用した概略・予備設計などの発注および、要求事項(リクワイヤメント)の選択項目を2項目以内とする取り組みを令和2年度より試行し、地元企業への普及促進を図っています。

(2)ICT普及促進型工事

ICT普及促進型工事は、ICT土工の起工測量から納品まで3次元データを活用する一連の技術を、実際のICT活用工事現場をフィールドに実技講習で習得するモデル工事であり、令和4年度より試行しています。
モデル工事に配置する技術者(監理技術者、担当技術者)の少なくとも1名以上はICT未経験者とし、受注者がICT未経験の立場から講習会を企画立案し、試行工事周辺の工事・測量業者、自治体職員などを対象に現地講習会を開催します(図-3)。

図-3  ICT普及促進型工事の概要
図-3  ICT普及促進型工事の概要

 
 

BIM/CIM人材育成の取り組み

(1)職員向け研修の実施

北陸地方整備局では、職員のBIM/CIMに対する知識習熟などの取り組みとして3次元CADソフトの操作実習などを含めた BIM/CIM研修を実施しています。
 
研修内容

  • 生産性革命などの動向(i-Constructionの概要)
  • インフラDX概論・BIM/CIM関係の最近の動向
  • 3次元測量演習(計測から地形モデルの作成まで)
  • BIM/CIM活用工事現場実習(朝日温海道路トンネル事業)
  • BIM/CIMソフト実習・BIM/CIM設計実習
  • ICT活用工事について(起工測量から納品、検査まで)
  • BIM/CIM活用に関する意見交換
写真-1 BIM/CIM研修実施状況
写真-1 BIM/CIM研修実施状況

 

(2)官民連携によるBIM/CIM講習会の実施

令和5年度からのBIM/CIM本格運用 に向けて、官民連携による人材育成を図るため、受発注者共有ルールの理解促進や、 BIM/CIM知識の習得に向けたWeb講習(録画配信)を令和4年2月18日~4月28日まで実施し、さらに令和4年5月25日~8月31日まで再配信を行いました。
 
配信方法
(一社)建設コンサルタンツ協会北陸支部ホームページ(http://hr-jcca.jp/)からWeb 録画配信。
 
配信プログラム内容

  • BIM/CIMの概要
  • 国土交通省が推進するBIM/CIMと i-Constructionの動向
  • BIM/CIMで利用する技術
  • BIM/CIMで利用するソフトウエア
  • BIM/CIM設計活用事例

 
 

おわりに

建設現場の生産性向上を図る取り組みであるBIM/CIMの推進については、毎年、基準類やガイドラインなどが制定、改訂されるなど、令和5年度までの小規模を除く全ての公共工事におけるBIM/CIMの原則適用に向け、その環境整備が進められています。
 
北陸地方整備局管内においてもBIM/ CIM活用の取り組みは着実に広まっており、引き続き生産性向上、業務の効率化を図るべく、発注者としてもさらなるBIM/ CIM活用普及に向けた取り組みを推進していきます。
 
 

国土交通省 北陸地方整備局 企画部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2023


 



国土交通省におけるBIM/CIMの取り組みについて-令和5年度BIM/CIM 原則適用に向けた動き-

2023年8月11日

はじめに

BIM/CIMとは

BIM/CIM( Building/Construction Information Modeling, Management )とは、建設事業をデジタル化することにより、関係者の情報共有などを容易にし、事業全体における一連の建設生産・管理システムの効率化を図る思想である。
情報共有の手段として、3次元モデルや参照資料を使用する(図-1)。

図-1 BIM/CIMとは
図-1 BIM/CIMとは

国土交通省では、BIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling, Management )の普及、定着、効果の把握やルール作りに向けて、2012年度から取り組みを進めている。
 
2020年は新型コロナウイルス感染症を契機とし、建設現場における新たな働き方への転換、デジタル技術を駆使したインフラ分野の変革が急速に進み、政府を挙げてデジタル化による社会の変革が求められているところである。
国土交通省においても2022年3月に「インフラ分野のDXアクションプラン」を取りまとめ、インフラ分野のデジタル化・スマート化をスピード感を持って強力に推進している。
 
なお、建設業界では、i-Constructionの推進を通じて、ICT建設機械や無人航空機(UAV)等を活用したICT施工など、設計・施工におけるデジタル技術の積極的な活用を進めてきたところである。
インフラ分野のDXは、これまでの i-Constructionの取り組みを中核とし、インフラ関連の情報提供やサービス(各種許認可など)を含めてDXによる活用を推進していく「インフラの利用・サービスの向上」と、建設業界以外(通信業界、システム・ソフトウエア業界など)や占用事業者を含め業界内外がインフラを中心に新たなインフラ関連産業として発展させる「関連する業界の拡大や関わり方の変化」の2つの軸により、i-Constructionの目的である建設現場の生産性の向上に加え、業務、組織、プロセス、文化・風土や働き方を変革することを目的とした取り組みである。
 
その施策の一つであるBIM/CIMは、 2023年度までに小規模なものを除く全ての公共工事について、BIM/CIM活用への転換を目指す。
 
本稿では、これまでのBIM/CIMの導入に向けた取り組みと、今後の取り組みについて紹介する。
 

BIM/CIM実施状況

国土交通省では、業務については2012年度から、工事については2013年度から BIM/CIM活用の試行を進めている。
2021年度のBIM/CIM活用実績は757件(業務483件、工事274件)となり、前年度の515件(業務389件、工事126件)を大きく上回り、BIM/CIMの活用が進んでいることが分かる(図-2)。

図-2 BIM/CIM活用業務・工事の推移
図-2 BIM/CIM活用業務・工事の推移

さらなるBIM/CIMの活用に向けて、2019年3月、i-Constructionモデル事務所を10 事務所、i-Constructionサポート事務所( i-Constructio nモデル事務所を含む)を53事務所設置した。
i-Constructio nモデル事務所においては先導的に3次元モデルを活用し、各地方整備局等内のリーディング事務所として 3次元情報活用モデル事業を推進しており、i-Constructionサポート事務所では地方自治体からの相談対応などを行っている。
2020年度にはi-Constructionモデル事務所として新たに3事務所追加し、取り組みを進めている。
各事務所におけるBIM/CIMの活用事例は「BIM/CIM事例集」として活用効果や課題をとりまとめ、公開している(図-3)。

図-3 i-Constructionモデル事務所
図-3 i-Constructionモデル事務所

 
 

令和5年度BIM/CIM原則適用の実施内容について

前述のとおり、2023(令和5)年度までに小規模なものを除く全ての直轄公共土木工事で、原則としてBIM/CIMを活用することとしており、取り組む内容を紹介する。
 

3次元モデルの活用について

BIM/CIMといえば、3次元モデルを思い浮かべる方も多いと思う。
これまでのBIM/CIMの取り組みにおいても試行事業などを通じて、3次元モデルの活用を中心として、検討を重ねてきている。
3次元モデルを有効に活用するに当たっては、活用目的を見据えた上で、3次元モデルを作成・活用することが効率的である。
令和5年度原則適用においては、3次元モデルの活用目的を「義務項目」と「推奨項目」に分け実施する。
「義務項目」については、視覚化による効果を中心に未経験者も取り組み可能な内容を設定し、詳細設計、工事において取り組むことを義務化する。
「推奨項目」については、より高度な活用を例示し、取り組んだ場合には、費用計上や成績評定による加点などにより推進する方針である。
 
なお、設計図書は従来どおり2次元図面を使用し、3次元モデルは2次元図面を理解しやすくするための参考資料として取り扱うものである。
 

義務項目の概要(詳細設計)について

詳細設計においては、「出来上がり全体イメージの確認」、「特定部の確認」を活用目的として3次元モデルを作成・活用する。
「出来上がり全体イメージの確認」は、住民説明、関係者協議などの説明機会での利用や景観検討において、設計対象の全体の完成イメージを確認することを目的とするものである(図-4、5)。

図-4 遊水地完成イメージ
図-4 遊水地完成イメージ
図-5 砂防堰堤完成イメージ
図-5 砂防堰堤完成イメージ

「特定部の確認」は、一言でいうと2次元図面では分かりづらい箇所を3次元モデルで作成することにより、設計内容を確認するものである。
特定部とは例えば、複雑な立体形状の部分、地下埋設物・構造物や電線などの近接施工の部分、土木工事と設備工事など複数工種の取り合い部分などが該当する。
なお、鉄筋などの内部構造の干渉については、3次元モデル作成の手間が大きくなることから義務項目の対象からは除いている(図-6)。
 
3次元モデルの作成に当たっては、詳細度200(構造形式が分かるモデル)から詳細度300(主構造の形状が正確なモデル)を目安に活用目的に応じて必要な精度とする。
また、3次元モデルに付与する属性情報(部材等の名称、規格、仕様等の情報)についても、作成者の任意で入力することとしている(図-7)。
 
前述のとおり、3次元モデルは参考資料という位置付けであり、活用目的の部分以外の箇所は、重要ではなく、受発注者ともに3次元モデル作成に過度な労力をかけないように留意して取り組んでもらいたい。

図-6 電線との離隔確認
図-6 電線との離隔確認
図-7 3次元モデルの詳細度
図-7 3次元モデルの詳細度

 

義務項目の概要(工事)について

工事における活用は、設計段階で作成された3次元モデルを閲覧することにより、2次元図面の照査、施工計画の検討に役立てるほか、現場作業員などへの説明に利用する。
なお、義務項目においては、3次元モデルの閲覧のみを対象とし、作成・加工などを伴うものは推奨項目としている。
 
特に、工事においては中小企業が多く、BIM/CIM(3次元モデル)に初めて取り組む者も多い。
3次元モデルの活用の第一歩として、義務項目を設定している。
 

推奨項目の概要について

推奨項目については、義務項目より発展した項目として、以下のようなものを例示する予定である。
 
【視覚化による効果の例】

  • 歩行者、車などの視点からの視認性の確認(図-8)
  • 図-8 交差点の視認性確認
    図-8 交差点の視認性確認
  • 維持管理、保守点検などの作業スペース、点検通路などの確認
  • 官民境界、建築限界、地質(支持層、湧水帯)等を重ね合わせての位置関係の確認(図-9、10、11)
  • 図-9 桁下の建築限界の確認
    図-9 桁下の建築限界の確認
    図-10 トンネルと地質の確認
    図-10 トンネルと地質の確認
    図-11 杭と支持層の位置確認
    図-11 杭と支持層の位置確認
  • 3次元モデル上に重機等を配置し、近接物の干渉など、施工に支障がないか確認(図-12)
  • 図-12 重機の施工範囲の確認
    図-12 重機の施工範囲の確認
  • AR、VRなどを用いて、現地に完成形状等を投影して比較・確認(図-13、14)
  • 図-13 ARと重ね合わせて確認
    図-13 ARと重ね合わせて確認
    図-14 埋設物を表示させて確認
    図-14 埋設物を表示させて確認
  • 一連の施工工程のステップごとの3次元モデルにより施工可能かどうか確認
  • 3次元モデルで複数の設計案を作成し、最適な事業計画の検討

 
【省力化・省人化の効果の例】

  • 3次元モデル上で体積、面積、員数などの自動数量算出(図-15)
  • 3次元モデルとGNSSなどの位置情報を組み合わせた施工位置の確認(図-16)
  • コンクリートなどの打設日ごとに色分けし、施工手順の明確化や進捗確認に活用(図-17)
図-15 盛土の数量自動算出
図-15 盛土の数量自動算出
図-16 配筋位置の重ね合わせ
図-16 配筋位置の重ね合わせ
図-17 護岸工の打設日で色分け
図-17 護岸工の打設日で色分け

 
【精度の向上の効果の例】

  • 3次元モデルで日影、騒音等をシミュレーションによる解析(図-18)
図-18 日影の確認
図-18 日影の確認

 
【情報収集などの容易化の例】

  • 3次元モデルに写真、品質情報などを紐付け、情報を探しやすくする(図-19)
  • アンカー、埋設物などの施工後不可視となる部分を3次元モデルで可視化
図-19 3次元モデルに情報紐付け
図-19 3次元モデルに情報紐付け

 
例示したもの以外にも、多様な活用方法があり、推奨項目を発展させていくことを予定している。
 

発注者によるデータ引き継ぎ

ここまで3次元モデルの活用を中心に記載しているが、3次元モデルに関わらず前工程のデータを後工程に引き継ぐことが重要である。
建設事業においては、事業期間が長く、また、調査・測量、設計、施工などの多数の関係者が協力し進めている。
その中心には発注者がおり、発注者が各44建設DX、BIM/CIM 受注者の成果を管理し、別の受注者に必要なデータを提供するなどデータマネジメントを担っている。
 
そこで、令和5年度BIM/CIM原則適用に合わせて、発注者が受注者に設計図書の作成の基となった情報の説明を実施することとした。
また、成果品を一元管理する「電子納品保管管理システム」が、令和4年11月から受注者もアクセスできるようになり、オンラインによる成果品の貸与が可能となった。
これにより、CDなどの電子媒体の受け渡しの手間・時間が削減されるとともに、発注者が渡しそびれたとしても受注者による成果品の検索により、受注者が必要な成果品を利用することが可能となった(図-20)。

図-20 電子納品保管管理システム概要
図-20 電子納品保管管理システム概要

 
 

今後に向けた検討

令和5年度のBIM/CIM原則適用については、中小企業などへの3次元モデルの裾野の拡大という観点と確実に効果が見込めるものの有効活用という観点で義務的に実施することとしている。
しかしながら、これで終わりというわけではなく、さらなる活用の高度化や維持管理も含めた段階での利用など、大規模事業や試行事業などを通じて得られた知見を一般化し、より効率的な事業実施を目指している。
また、令和5年度では推奨項目としているものを令和6年度以降に義務項目に移行するなど段階的なレベルアップを図りたいと考えている。
 

中小企業などへの普及拡大

これまでBIM/CIM(3次元モデル)の活用は、大企業を中心に活用されており、だんだんと中小企業にも裾野が広がっているところであるが、まだまだ未経験者も多く、令和5年度原則適用をきっかけに初めて取り組む者も多くいる。
未経験の者も円滑に取り組めるように、国土交通省では研修資料を公開したり、各業団体などの講習会要請に応じたり、普及拡大に努めたいと考えている。
また、地方公共団体などに対して、発注関係者の集まる発注者協議会などの場を通じて国土交通省の取り組みを紹介するなど、連携して進めたいと考えている。
 
 

おわりに

本原稿の執筆は、令和4年11月に行っており、その際の最新情報を基に記載している。
令和5年度のBIM/CIM原則適用について、細部を微調整している段階であり、表現・用語などが掲載時点と異なる可能性がある。
 
最後に、インフラDX、i-Construction、BIM/CIMの取り組みの普及、進展を図ることで建設現場における生産性向上をより一層実感できる環境の整備を進めていきたい。
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐
近藤 裕介

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2023


 



インフラ分野のDX推進に向けた取り組み- ネクスト・ステージへの「挑戦」-

はじめに

わが国は、現在、人口減少社会を迎えており、働き手の減少を上回る生産性の向上などが求められている。
そこで、国土交通省では、2025年度までに建設現場の生産性2割向上を目指して2016年度より「i-Construction」の取り組みを推進している。
具体的には、①建設現場における調査・測量、設計、施工、検査などのあらゆる建設生産プロセスにおいてICT(情報通信技術)を活用すること、②設計、発注、材料の調達、加工、組立などの一連の生産工程や、維持管理を含めたプロセス全体の最適化が図られるよう、全体最適の考え方を導入し、サプライチェーンの効率化、生産性向上を目指すこと、③国庫債務負担行為などの活用により年度末に集中する工事量を平準化することの3つの施策をトップランナー施策として推進する他、BIM/CIMなどの3次元データの利活用促進などさまざまな取り組みを推進してきた。
 
また、政府を挙げたデジタル社会への変革が求められる中、今般の新型コロナウイルス感染症も踏まえ、国土交通省においてもこれまでのi-Constructionの取り組みを中核に、さらに発展させ、データとデジタル技術を活用し、建設現場の生産性向上のみならず職員自身の働き方改革なども含めた変革に取り組む「インフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)」を推進しているところである(図-1)。

図-1 i-Constructionとインフラ分野のDXの関係
図-1 i-Constructionとインフラ分野のDXの関係

 
 

インフラ分野のDXの取り組み状況

インフラ分野のDXの加速化に向け、国土交通省では、省横断的に取り組むべく、2020年7月に「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」を設置した。
 
国土交通省では「インフラ分野のDX」を「デジタル技術の活用でインフラまわりをスマートにし、従来の『常識』を変革」するものであると位置付け、具体的な施策を「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」「コミュニケーションをよりリアルに」「現場にいなくても現場管理が可能に」の3つの観点で整理している(図-2)。

図-2 インフラ分野のDXの全体像
図-2 インフラ分野のDXの全体像

まず1点目の「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」であるが、これはインフラに関係する諸手続きやサービスについて、その利便性向上を図るもので、例えば、特殊車両通行手続きの効率化や民間事業者・港湾管理者における手続きの効率化・非接触化、キャッシュレス化・タッチレス化などが挙げられる。
 
次に2点目の「コミュニケーションをよりリアルに」については、対象者の内外を問わず、より理解しやすいコミュニケーショ図-1 i-Constructionとインフラ分野のDXの関係ンを図るもので、例えば、3次元によるリアルな水害リスク情報の提供、官庁営繕事業におけるBIM活用などが挙げられる。
 
続いて3 点目の「現場にいなくても現場管理が可能に」であるが、「i-Construction」に包含されるICT施工のさらなる拡大のイメージとなる。
受注者・発注者を問わず、建設現場の省人化や効率化のさらなる追求を図るものであり、例えば建設施工における自動化・自律化の促進やAI・ICT・新技術の導入による道路の点検・維持管理の高度化・効率化などが挙げられる。
 
また、上記3つの観点に加え、位置情報の共通ルール(国家座標)の推進やDXデータセンターの整備などといった、「インフラ分野のDXを支える仕組みや基盤の整備」も重要である。
 
2021年11月5日に開催した第4回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議では、上記の「インフラ分野のDX」の概念についての認識共有と、主な施策の進捗について紹介を行った。
 
 

インフラ分野のDX「挑戦の年」-インフラ分野のDXアクションプランの策定-

国土交通省では、インフラ分野のDXの推進に向け、2022 年をDXによる変革に果敢に取り組む「挑戦の年」と位置付け、取り組みを一層加速化させている。
 
2021年度には、インフラ分野のDX施策を具体的に進めるべく「インフラ分野のアクションプラン」の策定に着手し、第5回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議を踏まえ、国土交通省が所管する各分野における施策ごとの取り組み概要や具体的な工程表で構成される「インフラ分野のDXアクションプラン」を、2022 年3月30日に策定・公表した(図-3、4)。
アクションプランは、以下の3つの柱から構成されている。

図-3 インフラ分野のDXアクションプラン
図-3 インフラ分野のDXアクションプラン
図-4 各施策の取り組みの掲載例
図-4 各施策の取り組みの掲載例

 
1)行政手続きのデジタル化
インフラ分野に係る各種手続きのデジタル化を推進することにより、例えば、24 時間365日ウェブシステムなどにより申請・許可取得を実現、「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」できることを目指す取り組みである。
 
2)情報の高度化とその活用
3次元データ等によるコミュニケーションを促進することによる受発注者や地域住民等との理解促進・合意形成の効率化・円滑化を図ることにより「コミュニケーションをよりリアルに」するとともに、国土交通省を含めた関係機関などが有するインフラデータを公開し、利用促進を図ることによるサービスの向上や新たなサービス創出などの促進・発展を目指す取り組みである。
 
3)現場作業の遠隔化・自動化・自律化
建設現場にいなくても建設機械の遠隔操作や出来型・品質検査などを可能とすることで、省人化・効率化により「現場にいなくても現場管理が可能に」なることを目指し、生産性の向上や現場環境の改善につなげる取り組みである。
 
アクションプランでは、各施策の実現に向けた実行計画に加え、利用者目線で実現できる事項を盛り込んだ。
さらに、国土交通省におけるインフラ整備・維持管理に最前線で携わる各地方整備局等における主な取り組みについても取りまとめた(図-5、6)。

図-5 荒川3D河川管内図
図-5 荒川3D河川管内図
図-6 VR橋梁点検研修
図-6 VR橋梁点検研修

 
 

アクションプランのネクスト・ステージ

国土交通省では、2022 年4月に国土交通省第5期技術基本計画の策定を行い、新たな取り組みとして「20~30年後の将来の社会イメージ」を示した。
同計画で描く将来の社会イメージの実現を目指し、2022年8月24日に開催した第6回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議では、アクションプランのネクスト・ステージを公表し、取り組みの深化、分野網羅的、組織横断的な取り組みへの挑戦を開始し、国土交通省の各部局においても取り組みを推進していくことを確認した(図-7、8)。
分野網羅的な取り組みとして、インフラ 分野全般を網羅してDXを推進するため、「インフラの作り方」の変革、「インフラの使い方」の変革、「インフラまわりのデータの伝え方」の変革という3つの視点から取り組みを進めていくこととしている。

図-7 ネクスト・ステージ概要
図-7 ネクスト・ステージ概要
図-8 3つの挑戦
図-8 3つの挑戦

一方で、組織横断的な取り組みとは、業界内外、産学官連携による施策展開を図ることを示した。
アクションプランは、各施策での実行計画としているが、部局が異なっていても共通の技術を使っていれば、その技術の横展開をすることで、技術開発の労力を削減できる。
また、利用対象者が共通であれば、統合して表示することで格段に分かりやすくなるなど、シナジー効果も期待される。
 
1)「インフラの作り方」の変革
建設現場(調査・測量、設計、施工)の生産性を飛躍的に向上させるとともに、安全性の向上、手続きなどの効率化を実現するための挑戦である。
具体的に、建設機械施工の自動化・自律化、デジタル化による工事関係協議・手続きの効率化などの実現に向けた観点から取り組みを進める。
 
2)「インフラの使い方」の変革
インフラ利用申請のオンライン化に加え、デジタル技術を駆使して利用者目線でインフラの潜在的な機能を最大限に引き出す(Smart)とともに、安全(Safe)で、持続可能(Sustainable)なインフラ管理・運用を実現するための挑戦である。
例えば、ハイブリッドダムの取り組みによる治水機能の強化やVRを用いた検査支援・効率化、空港の地上支援業務の自動化・効率化によるサービス提供などの実現に向けた取り組みである。
 
3)「インフラまわりデータの伝え方」の変革
インフラに関連したデータ提供による新 たな民間サービスの創出、利用者に分かりやすい情報伝達や行政利用による施策判断の高度化につなげていくものである。
 
アクションプランの施策の具体化・実現化、ネクスト・ステージに向けた組織横断的・分野横断的な取り組みを推進するためには、関係者との連携、協働が必要である。
社会の変革スピードが加速化している状況下において、社会ニーズや要請に対する施策展開を、従来の「常識」にとらわれず柔軟に対応していくことが求められている。
アクションプランに基づき国土交通省が一丸となって取り組みを進めていくことが求められている。
ネクスト・ステージの推進
2022 年10 月7日にはi-Construction推進コンソーシアム第8回企画委員会(委員長:(株)三菱総合研究所 小宮山宏理事長)を開催し、i-Construction、インフラ分野のDXの推進状況を報告、アクションプランのネクスト・ステージの取り組みに向けて、各委員との意見交換を実施した。
 
各委員からは、i-Constructionからイ ンフラ分野のDXに拡げることは社会情勢を踏まえた取り組みの深化であるが、生産性向上などの目標(指標)を明確にし、計測・評価ができることが必要があるとの意見が出された。
また、普及拡大に向けてスタートアップや企業内でのi-Construction、インフラ分野のDX推進の功労者に対しての表彰やマッチングなど、継続的な広報活動による支援についても意見が寄せられた。
人材育成については、特に大学教育においてi-ConstructionやDXの最新分野について、大学間や産学での連携が必要になるとの意見も頂いた。
加えて、DX推進の取り組み全体に対しては、発注者や企業、利用者など、さまざまな目線で変革によるメリットを追求する必要性も挙げられた。
本委員会における有識者からの意見も参考に、さらなるインフラ分野のDX推進に向け、取り組みを加速化させていく所存である。
 
 

おわりに

本稿では、国土交通省が推進しているインフラ分野のDXについて紹介した。
新型コロナウイルス感染症の発生を契機に時代の転換点を迎える中、陸海空のインフラの整備・管理により国民の安全・安心を守るという使命と、より高度で便利な国民サービスの提供を担う国土交通省が、学界や民間と連携・協調を図りつつ、インフラ分野のDXの先導役を果たしていきたい。
 
注意)本稿は執筆時点( 2022年11月初旬)での情報である。
インフラ分野のDXの最新状況については、国土交通省ホームページなども適宜、参照されたい。
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 建設情報高度化係長
小泉 陽彦

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2023


 



地方で進むBIM-地場ゼネコンによる設計事務所とのBIM連携-

2022年11月8日

はじめに

わが社は沖縄県に本社を置く総合建設業、いわゆる地場ゼネコンである。
私は建築積算と工事部支援が主な業務の工務部に所属している(写真-1)。
 
工務部では2016年からBIMを施工に使用するために導入し、事業計画の迅速化、施工計画の効率アップ、問題の早期解決を目的に活用している。
私が管理し、他5名のメンバーがBIM入力を担当している。
 
BIM専門の部署はなく、設計部では福井コンピュータアーキテクト(株)の「GLOOBE」を、工務部ではグラフィソフトジャパン(株)のBIMソフト「Archicad」を導入し業務に活用している。

金秀建設株式会社 BIM入力メンバー

写真-1 BIM入力メンバー



 

設計事務所とのBIM連携に至る経緯

グラフィソフトジャパン(株)が公認したArchicadユーザーグループが全国各エリアにある。
その全国ユーザーが集まるイベントが2019年に開催され、施工分野での実行委員として参加した(写真-2)。
 
私はそれまで、設計と施工ではBIM活用の目的の違いもあり、BIM連携はメリットがないのでは…という視野の狭い考えを持っていた。
実際に全国のBIM活用実状を体験したことで、BIM連携の効果と重要性を学ぶことができた。
以降、管理者である私の無知がBIM推進を妨げていたことを反省し、設計とのBIM連携を率先して行うようにしている。

Archicadユーザーイベント「USERFEST2019志賀島」

写真-2 Archicadユーザーイベント「USERFEST2019志賀島」



 

BIM連携事例:保育園改修工事

前項のイベントにて出会った鹿児島県の設計事務所(株)ixreaの吉田氏より、沖縄県那覇市での保育園改修工事のご依頼をいただいた。
 
テナントビル2Fの元居酒屋を保育園に改修する工事で、補助金の関係で短工期、施主は東京と問題が多々あった。
工程を調整し、本見積を経て別途内装解体も目処が見えてきた頃、新たな問題が発生した。
 
①内装解体後、現場を確認すると、柱・窓開口などの位置や形状が図面と違う
②天井裏からさまざまな配管・配線が出てきた(写真-3
③東京・沖縄に緊急事態宣言発令。設計・施主ともに沖縄への来県が困難に
 
30年程前に完成した建物で、竣工図と建物でくい違いが多く、30年の間に改修された可能性もあった。
鹿児島県~沖縄県と距離があり、確認しながらの作図には限界があるので、竣工図を元に作図するしかなかったと考えられる。
 
工期:71日間(図面受取から102日間)という短工期で、くい違いの確認~変更提案~承認を施主・設計共現場立会が困難な中で対応する必要があり、早期の問題解決が急務だった(図-1)。
 
そこで、引き継いだ設計BIMデータを活用し、早期の問題解決を行った。

 
 

①現場と図面の食い違いの把握
喫緊の対応が必要な状況で、図面を見ながら現場を確認するのは非効率的で、計測間違いによる手戻りの恐れもあった。
そこで、BIMモデルにiPadProのLiDAR機能で撮影した現場の点群データを「重ね合わせ」ることでくい違いの把握を行うことにした(図-2、3)。
 
問題発覚から点群取得、BIM化までを2日で行い、翌日に鹿児島の設計へ送信。
その後、設計より東京の施主へ問題の説明~提案することで、早期の回答を得ることができた。

 
 

②既設配管の把握および新設配管のBIM納品
貸主側の配管を取り除くことは不可で、引き渡し後に隠蔽部での不具合があった場合に責任範囲が不明確になる恐れがあった。
そこで、新設配管を隠蔽前に点群取得し、BIM化し竣工データとして納品した。
既設天井配管は細く、点群取得が困難だったため、360°カメラにて撮影し納品した。
 
竣工図で、隠蔽前の写真と点群+BIMデータを並べて納品した(図-4)。
無料BIMビューアソフト「BIMx」に設計図BIM・施工図BIM・隠蔽写真類をまとめて納品したことで、竣工後、BIMソフトがなくても施設管理に活用することが可能になった。

柱の形状違い・既設配管類

写真-3 柱の形状違い・既設配管類

柱の形状違い・既設配管類

図-1 全体工程表



 

丸柱が廊下に飛び出る

図-2 丸柱が廊下に飛び出る

完成時丸柱

図-3 完成時丸柱



 

隠蔽前写真+BIM

図-4 隠蔽前写真+BIM



 

BIM連携の効果

1.設計BIM引き継ぎのメリット
・設計時に3Dで細かな範囲まで施主合意を得られたため、スイッチ位置などを総合図での確認が不要(図-5)。
 とても分かりやすい展開図で、現場からも好評だった。
 これは今回短工期で工事を完成させられた主な要因である。
・設計BIMデータを元に、数量算出や点群重ね合わせなど、目的に応じて活用できる。
 
現在、自社設計部がGLOOBEでモデリングしたBIMデータをIFCに変換し引き継ぎ、数量算出に活用している。
別ソフトでもBIM連携することは十分に可能である。
 
ArchicadではIFCデータに含まれる「情報」を検索~集計するのが容易で、他BIMソフトデータでも目的に活用することができる。

設計展開

図-5 設計展開



 

2.施工BIM納品の重要性
・設計BIMを引き継いで施工図化し納品することで、現場とのくい違いや修正範囲を記録し共通認識するとこができる。
・明細な施工図(竣工図)が、実際に施工された隠蔽部の配管位置の根拠にはならない。
 隠蔽部の配管を点群にして取り込むことで、確実な配管位置が分かる。

 
 

BIMを実務に活用するための参考

私が実務でBIMを活用してきた中での重点項目をまとめたので、僭越ながら掲載させていただく。
参考になれば幸いです。
 
1.モデリングは目的を明確に
「全部BIMで」は危険。
「とりあえずモデリング」はムダになる。
 
2.モデリングする時間がない?→スタートを早めればよい
資料が全て揃うのを待つ必要はない。
現段階・目的を把握し、必要な資料のみを受け取りモデリングを開始する。
 
3.アウトプットが重要。結果が出なければ結局ムダに
目的を持ったBIMは、承認につながる。
BIMだけにこだわらない。
BIM+αでうまく提案。
 
4.育成は入力者も大事だが、BIM管理者が重要である
若い担当に責任と権限を持たせる。
管理者と入力者が「共育」できる体制づくり。
 
5.プレイングマネジャーは避けた方がよい
本人が入力した物が「正」と考える心理が働く。
客観的な判断が必要。
 
6.全体の物件(現在、過去、今後の物件)を把握し、今後を見据えた管理が必要
ソフト・アドオンの進化を取り込む技術が必要。
ユーザー会で情報収集。
 
7.入力者は「オペレーター」にせず「エンジニア」を見据えた育成を
「物件の目的」に対し、どう入力するか、どのBIM効果を活用するかを一緒に考える。
講習会などに行かせるだけでは受け身になる。
習ったことをすぐ実践で試させる。
OJTが効果的。概算物件は生きた教材。
 
8.難しい物件こそBIM導入するべき。無難な物件で試しても効果は出ないし分からない
 
9.まず、やってみる姿勢が大切

 
 

さいごに

今回、保育園改修工事が短期間で納期内に完成できたのは、設計者をはじめ、現場代理人と技術員の技術力、協力業者の協力や施主の対応のおかげだと考えている。
その上で、BIM連携による問題の早期解決や遠距離間での早期合意が、現場の負担を軽減させ、業務の効率化に貢献できたと実感している。
普段から問題解決にBIMを活用していたからこそ、喫緊の問題にもBIMを活用して解決できたと思う。
 
物件規模の小さな、小回りがきく地場ゼネコンこそBIMを活用し、効率化を図り、地域に根差した進化を目指すべきだと考えている。

 
 
 

 

金秀建設株式会社 工務部 課長
大木 篤史

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



 


新製品ニュース

木造建築物構造計算システム「KIZUKURI Ver9.0」をリリース木造建築物構造計算システム「KIZUKURI Ver9.0」をリリース


建設ITガイド 電子書籍 2024版
建設ITガイド2024のご購入はこちら

サイト内検索

掲載メーカー様ログインページ



  掲載をご希望の方へ


  土木・建築資材・工法カタログ請求サイト

  けんせつPlaza

  積算資料ポケット版WEB

  BookけんせつPlaza

  建設マネジメント技術

  一般財団法人 経済調査会