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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

BIMモデルを有効活用する解析・シミュレーションソフトガイド《後編》

2014年2月5日

 

建設ITジャーナリスト 家入 龍太

《前編》を読む
 

解析・シミュレーションソフト一覧

オートデスクのRevitシリーズ、グラフィソフトジャパンのArchiCAD、福井コンピュータのGLOOBE、そしてエーアンドエーのVectorworksにおける主な解析・シミュレーションソフトを紹介します。
 

日影/逆日影/斜線/天空率計算

ADS-BT
斜線制限や日影規制、天空率、そして用途地域などを考慮して高精度に建物の高さ制限を解析するシステム「ADS-win」をBIMツール化したもの。Revit Architecture用のプラグインシステム「ADS-BTfor Revit」と、ArchiCAD(含むSolo)用のプラグインシステム「ADS-BT for ArchiCAD」がある。
 
生活産業研究所株式会社
TEL 03-5723-6460
http://www.tokyo.epcot.co.jp/
 
 
Shadow Planner for ArchiCAD
ArchiCAD(含むSolo)上で建物の計画時に日影規制チェックを行うアドオンソフト。日影規制に対する判定の色分け表示や、日照定規による日影影響範囲の確認、時刻日影計算、等時間日影計算、日影規制ライン作成を行う。複数の日影規制条件にまたがる建物も領域ごとに設定できる。
 
生活産業研究所株式会社
TEL 03-5723-6460
http://www.tokyo.epcot.co.jp/
 
 
TP-PLANNER
プロジェクトを管理する「TP-MENU」、日影規制(逆日影)、斜線、採光斜線、天空率など建築可能空間を検証、確保するための解析を中心とした「TP-LAND」、建築可能空間から容積チェック、プランニング企画図作成を行う「TP-LIGHT」の3つのシステムから構成される。
 
株式会社 コミュニケーションシステム
TEL 03-3207-8211
http://www.com-sys.co.jp/
 
 
A&A SHADOW
日影計算機能を付加するVectorworks用のプラグインソフト。傾斜面の日影や複合日影(島日影)、高さの異なる複数の評価面での日影測定も可能だ。日影図を3次元で表示する3D日影図も作成できる。
Vectorworks2012対応版には新たに「平均地盤面計算」などを新搭載。
 
エーアンドエー株式会社
TEL 03-3518-0121
http://www.aanda.co.jp/
 
 
A&A VOLUME
逆日影計算機能を付加するVectorworks用のプラグインソフト。日影規制や斜線制限の下で最大限の容積を計算する基本機能のほか、「決まった日時の決まった場所に太陽が当たる」シミュレーションなど、画期的な機能を搭載している。Vectorworks2012対応版では新たに「みなし境界線を作成」、「計算範囲を作成」、「建物を作成」などの機能を新搭載。
 
エーアンドエー株式会社
TEL 03-3518-0121
http://www.aanda.co.jp/
 
 
A&A 天空定規
天空率計算機能を付加するVectorworks用のプラグインソフト。天空率による緩和制度に対応した設計や申請に必要な各種図面の計算や作成を支援する。計算建物、適合建物それぞれを天空率計算し、ワークシート上に結果を表示することができ、1つの天空図に計算建物、適合建物両方を表示することもできる。
 
エーアンドエー株式会社
TEL 03-3518-0121
http://www.aanda.co.jp/
 
 

熱流体解析(CDF)/通風シミュレーションなど

Flow Designer
簡単、シンプルな操作で流体・温熱・環境の3次元シミュレーションを行うソフト。オプションモジュールで輻射・日射・SET(米国の快適性指標)、音響解析、64bit無制限メッシュ、結果表示専用モジュール「FdViewer」が用意されている。上記の機能を持つ「プロフェッショナル版」のほか、逆解析機能を搭載した「エンタープライズ版」がある。
 
株式会社アドバンスドナレッジ研究所
TEL 03-3225-9800
http://www.akl.co.jp/
 
 
Wind Perfect DX/e-flowDX
建築・土木業界向けの3次元熱流体解析プログラム。風環境や風荷重のほか 空調・換気、港湾・橋梁など構造物周辺の気流解析の得意とする。インターフェースはマウス操作を主体としており、直感的で分かりやすい。姉妹ソフトのe-flowDXには津波の動的解析を行える津波荷重解析バージョンがある。
 
株式会社環境シミュレーション
03-5823-3561~3
http://www.env-simulation.com/
 
 
STREAM
汎用の3次元熱流体解析ソフトウエア。構造格子(直角・円筒座標系)を採用し、高速演算と高い安定性、簡便な操作性が特徴。室内の温熱環境や部材変更による省エネルギー効果の把握から、屋外の風環境、ヒートアイランド予測、洪水やダム放水などの土木分野まで、広い範囲で利用されている。Revit用のアドオンソフト「Revit2STREAM」を使うとRevitのBIMモデルデータをSTREAM用に変換することができる。
 
株式会社ソフトウェアクレイドル
TEL 06-6343-5641(本社)
http://www.cradle.co.jp/
 
 
Simulation CFD
流体の定常/非定常の流れ、熱の伝導・伝達・ふく射や対流など、包括的なCFD (数値流体力学)ツールを搭載したソフト。Autodesk Simulation CFD 2013では、Revitとのデータ交換機能が強化されているため、モデルの関連付けを維持したままシミュレーション用のBIMデータをやり取りすることができる。
 
オートデスク株式会社
オートデスク認定販売パートナー
www.autodesk.co.jp/reseller
 
 

エネルギー解析・シミュレーション

PAL for ArchiCAD
非住宅の省エネルギー計算(PAL計算)が可能なArchiCAD用のプラグインソフト。プラグインソフトのため、設計者がすぐに利用でき、プランニング時からPAL値を考慮した設計が可能。 PAL値のほか、ペリメーターゾーンの面積算出 、外皮の熱貫流率・日射侵入率、日除けによるη値の補正、外皮各部位の熱貫流率・面積計算、日射侵入率の計算も可能。
 
生活産業研究所株式会社
TEL 03-5723-6460
http://www.tokyo.epcot.co.jp/
 
 
SAVE-建築
住宅以外の建築物について省エネルギー性能をシミュレーションするソフト。「外壁・窓を通しての熱の損失の防止」、「設備機器の効率的利用」について計算を行い、必要書類の作成を支援する。評価項目ごとに性能基準(PAL/CEC)や仕様基準(ポイント法、簡易ポイント法)を切り替え、それらを組み合わせた書類を作成する。
 
株式会社建築ピボット
03-6821-1641
http://www.pivot.co.jp/
 
 
サーモレンダー4 Pro
屋外熱環境と屋内熱負荷計算を持つVectorworks用の屋内外統合熱環境シミュレーションツール。戸建て住宅から街区規模までの屋内外統合熱環境シミュレーションが可能だ。ヒートアイランド現象や生活環境に影響を与える、建物や地表面の表面温度を算出し、ビジュアルに表現。さらに「MRT(平均放射温度)やHIP(ヒートアイランドポテンシャル)の算出」「建物の熱負荷計算」「CO2排出量の計算」も行える。
 
エーアンドエー株式会社
TEL 03-3518-0121
http://www.aanda.co.jp
 
 

照明・採光シミュレーション

INSPIRER
さまざまな空間内における照明の設計や解析ができる3次元照明シミュレーション用ソフトウェア。建物内の照度分布や室内の照明器具からの光による視覚的効果の検討、自然光を採り入れて照明設備を最適化した建築構造の設計などが行える。照明の効果は光の物理的な挙動に基づいて再現しているため、設計者にデータとしての裏付けを提供する
 
株式会社インテグラ
TEL 03-6712-8886
http://www.integra.jp/
 
 

火災・避難シミュレーション

PyroSim
計算エンジンに米国標準局(NIST)の「Fire Dynamics Simulator」を使用し、計算流体力学(CFD)による火災シミュレーションを行うソフト。ストーブから石油備蓄タンクにいたる規模の火災に適用できるほか、建物の換気のような、火災を含まない気流解析などにも適用できる。
 
株式会社CAEソリューションズ
TEL 03-3514-1506
http://www.cae-sc.jp/
 
 
building EXODUS
非常時・常時の人々の動き・行動をシミュレーションするソフト。単なる避難モデルではなく、人と人、人と火災、人と構造物の相互作用も再現する。英国グリニッジ大学における先駆的研究開発を通して火災安全工学グループ(FSEG)で開発された。熱、煙、有毒ガス等の影響を受け室内から避難する各個人の経路を追跡、評価できる。
 
株式会社フォーラムエイト
TEL 03-5773-1888
http://www.forum8.co.jp/
 
 
SimTread
人の流れや群集の波を「見える化」するVectorworks用の歩行者シミュレーションソフト。建築物や構造物、大型イベントなどにおける空間計画や誘導計画から、商業地における季節催事計画、船舶,旅客機などの避難シミュレーションなど、「人の歩み」が存在する用途であれば、幅広く活用できる。
 
エーアンドエー株式会社
TEL 03-3518-0121
http://www.aanda.co.jp
 
 

構造解析・シミュレーション/構造モデル変換

Robot Structural Analysis Professional
大規模で複雑な構造物向けの高度な建築解析機能を持つ構造設計者向けのソフト。Revit Structureとの双方向
リンク機能があり、BIMで実施設計図書の整合性が図られるため、精度の高い構造解析や設計の結果をモデル全体に反映できる。40以上の国際鋼構造規格と30以上の鉄筋コンクリート規格に準拠した、鉄筋コンクリート設計モジュールと鋼構造設計モジュールが搭載されている。
 オートデスク株式会社
オートデスク認定販売パートナー
www.autodesk.co.jp/reseller
 
 
SSCシリーズ
各種一貫構造計算データやSIRCADで作成した躯体情報をBIMモデルに変換する構造躯体変換ソフト。アドインソフトとして提供されており、Revit用(ArchitectureおよびStructure)とArchiCAD用がある。BIMソフト上ではじめから躯体情報を入力、配置する場合に比べてモデル化の手間が省ける。変換可能な部材は杭、基礎、RC柱、RC柱鉄筋、S柱、RC梁、RC梁鉄筋、S梁、RCスラブ、ブレース、壁(開口含む)。
 
株式会社ソフトウェアセンター
TEL 03-3866-2095
http://www.scinc.co.jp/
 
 
SuperBuild SS3 Data link for Autodesk Revit Structure
ユニオンシステムの一貫構造計算ソフト「Super Build/SS3」から、建物形状データや柱部材・梁部材の定義/配置情報を抽出しRevit Structure に取り込むソフト。逆にRevit StructureのデータをSuper Build/SS3 に取り込むこともできる双方向のデータ連携も可能。オートデスクのサブスクリプションユーザー向けに無償提供されている。
 
オートデスク株式会社
http://www.autodesk.co.jp/
 
 
SIRCAD
BUS(構造システム)、SEIN La CREA(NTTデータ)、Build.一貫(構造ソフト)、Super Build/SS3(ユニオンシステム)、BRAIN(TIS)、ADAM(TIS)、BUILD-1(NTTデータ)などの一貫構造計算プログラムの入力データを読み込み、SSCシリーズを経由してBIMソフトにデータを受け渡すことができる。
 
株式会社ソフトウェアセンター
TEL 03-3866-2095
http://www.scinc.co.jp/
 
 
ASCAL
入力の容易性と自由形状入力の両方の利点を兼ね備えた一貫構造設計プログラム。荷重伝達のできるスラブや小梁があればどんな任意形状でも、自動的に荷重計算を行う。ビル建物からプラント構造物、橋梁といったあらゆる構造種別について一貫計算が可能。Revitで生成したBIMモデルをアドオンソフトで取り込むことができる。
 
株式会社アークデータ研究所
TEL 03-5901-9450
http://www.archdata.co.jp/
 
 

クラウドシミュレーション

Simulation 360
高性能のコンピューターとさまざまな解析ソフトを利用できるクラウドサービス。大きな設備投資をしなくても高度なシミュレーション機能を使用できる。複数種類の解析作業を同時並行で実行することも可能。提供される機能は流体解析、伝熱解析、強度解析、空調の気流解析、熱解析など。
 
オートデスク株式会社
http://www.autodesk.co.jp/
 
 
 
BIMモデルを有効活用する解析・シミュレーションソフトガイド《前編》
 
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



もし3年目の女子社員がBIMを始めたら~中小設計事務所のBIM奮闘記~

2013年11月27日

 

株式会社 山設計工房

 
 

BIM導入前夜

入社3年目の女子社員
私が勤務する事務所は集合住宅の意匠設計を主な業務としている。
会社規模はそれほど大きくないものの、延床面積1万㎡超のプロジェクトを扱うこともしばしばある。
 
2011年まで私が使っていたCADは1998年発売のVectorWorks ver.8。
私が入社するずっと以前から先輩たちがおよそ14年間愛用し続けてきたソフトだ。
そんなわが社の歴史と伝統が詰まったソフトを駆使して日々の仕事に励んでいたが、時折不都合があった。
 
高いバージョンのCADを使用している協力事務所とのデータのやり取りに手間がかかる(その度に相手方にバージョンを下げてもらう必要がある)、着色やハッチングといった図面表現の機能が乏しいため力技による図面レイアウトを行うこともしばしば…操作感に多少のストレスを感じてはいたものの、業務上は致命的な問題とまでは至らず、「まあこんなものかな、まだこのソフトも十分使えるかな」と少しの不都合を感じながらも仕事に励んでいた。
 

図面データが開けない!

2011年の秋、苦心の末にプロポーザルで勝ち取った某団地建て替えのプロジェクトで、それまでの「些細な不都合」が突然「致命的な問題」へと変わってしまった。
 
敷地面積が数ヘクタールと広大なその団地は、既に先行して他の複数の街区が建て替えられており、他の設計事務所がそれらの膨大なデータを統合した配置図を作成していた。
そのデータを引き継いで、いざ業務に取り掛かろうとした時だった。
 
データが開かないのだ。
 
大容量のそのデータは同じVectorWorksで作成されていたもののバージョンが遥かに高く、データを作成した設計事務所にバージョンを下げてもらおうにもver.8まで下げることはできなかった。
それならば、とDXFデータに変換してもらったのだが、変換したことによりデータ容量がさらに大きくなってしまい、当時使用していたスペックのPCは完全にフリーズ。 仕事に支障が出るというレベルではない。
 
このままでは仕事ができない。
 
とうとう私たちは、膨大な容量のデータが動くハイスペックなPCと最新版のソフトを購入せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。
 

…BIM?

上司の指示で、最新のPCとソフトの現状についてすぐに情報収集を始めた。
特にソフトについてはメーカーのホームページを隅々まで調べた。
 
「クリエイティブな2D表現力」「縮小された取り込み時ファイルサイズ」などなど…そこには私が日々少なからず不都合に感じていたことを丸ごと解決してくれそうな心躍る魅力的なフレーズと画像がいくつも並んでいた。さらに上位製品になると美しいパースも描け、BIMも使えるそうだ。
 
 
…BIM?
 
 
3つのアルファベットによる見慣れない単語が目に飛び込んできた。
読み進めると「スラブツール」「壁オブジェクト」「窓オブジェクト」といった機能が搭載されているようなのだが、なんだかよくわからない。
気になったので今度はインターネットで「BIM」なるものを調べ始めた。
Wikipediaから始めて建設ITまでたくさんのサイトを見たけれど、なんとなくわかったような、わからないような…ひとつだけ確かなのは、どうやら「BIM」は「ビム」と読むらしく、ここ数年で日本でも普及し始めているそうだ。
 

先輩、BIMって知ってます?

新しモノ好きな私は一気に興味が湧いたので、インターネットで集めた資料を持って先輩のもとへ駆けつけた。
先輩にもBIMに興味を持ってもらい、一緒に上司を説得してBIM機能を搭載したソフトを導入してもらおうと考えたのだ。
 
「先輩、BIMって知ってます!?」
 
かき集めた資料を手に何とか先輩に理解してもらおうと一生懸命説明した。
しかし私自身がBIMをしっかり理解しておらず、断片的な知識しかないため説明はしどろもどろ。
それでも先輩は黙って最後まで説明を聞いてくれて、最後に一言ポツリと言った。
 
「要するに、BIMというのはPCの中で仮想の建物を実際と同様につくるという概念なんじゃないかな」
「複雑な構成の建物を設計する場合なら有効かもしれないけど、僕らが設計するシンプルな構成の建物には必要ないんじゃないかな」
 
と、冷静かつ否定的な感想が返ってきた。
 
私自身がきちんと理解できていないのだから、先輩に興味を持ってもらえるような説明ができるはずがない。
しばらく考えて、意を決してVectorWorksを取り扱うエーアンドエー社に電話した。
餅は餅屋だ。
自分で調べて人に説明するよりも、メーカーの方に分かりやすく説明してもらって本物のBIMを見せてもらった方がはるかに理解しやすいはずだし、先輩や上司にも同席してもらえば同じ情報を共有できる。
BIMに興味があり導入を検討している旨を電話口で伝え、BIMの説明とソフトのデモンストレーションをしてもらえないかお願いしたところ、快諾してくれた。
 
 

ツールを求めて

数日後、エーアンドエー社の担当者の方に来所いただき、先輩と上司にも同席してもらった。
BIMについての知識はほぼゼロであることを伝え、BIMとは何か、BIMで設計することでこれまでと何が変わるのか、どのようなメリットがあるのか、といった内容で、分かりやすい初心者向けのプレゼンテーションをしていただいた。
 

BIMとCADの違いに戸惑い

BIMはCADと異なり「線を引く」のではなく、柱や壁を「立てる」、窓を「取り付ける」ことで3次元空間に建物を建設し、そこから図面を作り出すことが分かった。
これまで使っていたCADとはまるで違う概念であることに正直かなり戸惑った。
本当に私たちに使いこなせるのか…不整合の回避やプロジェクト初期段階でのパース確認といったBIMのメリットに対して大きな魅力と可能性を感じつつ、同時に不安も大きくなっていった。
 
先輩も同じ不安を持っていたのだろう。
BIMで設計を進めていて途中で挫折してしまった場合はどうなるのか、一度BIMで設計を始めたら詳細図レベルまでBIMでやり切らなければならないのか、と矢継ぎ早に質問していた。
 
確かに、慣れないBIMで設計を始めてしまったがばかりに、もし途中でうまくいかなくなってBIMを諦めざるを得ないことになってしまったら、もう一度これまでのCADでやり直すことになってしまうのか…?そう考えるとBIMを導入することがリスキーなことに思えてきてしまった。
しかし、メーカーの方がおっしゃった一言でその不安は解消された。
 
「全ての図面をBIMで作成する必要はありません。3次元モデルを基にこれまでと同じように2次元で作図することができますよ」
 
それを聞いて先輩も安心したようだ。最初は無理をせず、少しだけBIMを取り入れてみる。
慣れてきたら少しずつBIMの割合を増やしていくことができる(これを「BIM度を上げる」と表現されていた)。
つまり私たちのペースで、私たちのやり方でBIMに取り組むことができ、私たちなりのBIMを目指していけば良いのだ。
途中で3次元から2次元へ移行できるということが大きな安心につながり、BIM機能を搭載したVectorWorksを購入することで満場一致した。
 

ワクワクとドキドキ

BIM導入を決めた時、もう少し待てばさらに新しいバージョンが発売される状況だった。
「どうせなら少しでも新しいものを」という上司の言葉もあり、発売までBIMは少しお預けとなった。
 
発売までBIMについての興味がどんどん膨らみ、ネットや書籍で周辺情報をあれこれ夢中で調べた。
BIMを華麗に操り、どんどん図面を作る自分を妄想していたのだが、調べていくとひとつ気付いたことがあった。
 
メディアに登場するBIMを本格的に使って設計された建物の設計者を調べていくと、決まって一部の大手設計事務所の名前が目に付いた。
そのうちに「デモンストレーションではメーカーの人は簡単そうに操作していたけど、実はBIMはとても難しいんじゃないか?星の数ほどある設計事務所の中でも、BIM導入に成功しているのは一握りなのかもしれない…」そんな不安が少しだけ頭をよぎった。
 
大きな期待とほんの少しの不安を抱きながら、最新版のBIMソフトを手にし、慣れ親しんだVectorWorks ver.8に別れを告げた。
 
 

BIM入門

とにかく使ってみよう!

愛用のBIM実践講座

愛用のBIM実践講座


私が担当していた当時進行中のプロジェクトに含まれる自転車置場と小さな付属棟設計でBIMを試してみることにした。
 
エーアンドエー社のホームページから事前にダウンロードしていたVectorWorksのためのBIM参考書『BIM実践講座』を横に置きながら、まずはRC壁式造の付属棟から始めた。
参考書の手順通りに壁ツールで壁を立てて、スラブツールで屋根を架けて、アクソメで確認しながら修正して…シンプルな形状だったので比較的スムーズにモデリングできた。
モデリングが終わるといよいよ図面を生成してみる。
こちらも参考書を見ながら平面図、立面図、断面図、ついでにパースも生成した。
 
 
思ったより簡単かも!
 
 
始める前の不安は吹き飛び、しばらくの間、意味もなく壁を動かしてみて、全ての図面が連動して自動に変更されていることに一人で驚き歓喜する私。
 

早速つまずいた!

ひとしきりBIMの基本機能を堪能したところで、次に自転車置場の設計に取りかかる。
こちらはS造で設備棟よりさらに小さかったのだが、ここで大きくつまずいてしまった。
 
参考書のモデルはRCの壁式造だったため、H鋼の柱や梁のモデリングの仕方が載っていないのだ。
インターネットで散々検索してみたものの、具体的な解説が載っているサイトは見当たらなかった。
困り果ててあれこれツールをいじって何とかH鋼を作ることができた。
 
実はさまざまな形状の鋼材が簡単に作れるツールがあるのだが、そのツールを知らなかったため、柱1本モデリングするのに結局半日かかってしまったのだ。
試行錯誤の末に、何とか自転車置場の平面図、立面図、断面図、パースを生成したが、このアウトプットに対する作業時間を考えるとそれぞれの図面を通常の2次元CADで描いてしまった方が早かったかもしれない。
部材をひとつずつモデリングし、必要ならば属性を与えていかなければならず、2次元CADで作図するよりも遥かに時間がかかるのだ。
 
とにかくそれが私の初めてのBIMで、残念ながらこの付属棟の計画は結局取り止めとなってしまったのだが、以降のプロジェクトでは部分的にでもBIMで設計するよう努めた。
 
早速つまづいた
 

いよいよBIMを全面導入! ところが…

さまざまな機能を試しながら少しずつBIMに慣れてきた頃、新しいプロジェクトを担当することになった。
 
そのプロジェクトは延床面積5000㎡弱の比較的小規模の集合住宅だった。
 
 
いよいよ本格的にBIMで設計できるチャンスが来た!
 
 
上司と先輩に相談し、初めてプロジェクトの初期から全面的にBIMを導入してみようということになった。
この頃にはモデリングも大分スムーズに行えるようになり、図面とパースで確認しながらいくつも検討案を作った。
 
自分のスキルが確実に上がっていることをひしひしと実感しながらプロジェクトが進み、計画の大きな方針が決まってそろそろ構造や設備といった他の職種と調整する必要が出てきた頃に悩ましい問題が発生した。
 
私たちの事務所では意匠設計のみを行い、他の職種については外部の設計事務所に協力を仰いでいる。
協力事務所がBIMを導入していない場合、図面データ渡す際にDXFデータに変換する必要があるのだが、これがなかなかうまくいかないのだ。
 
DXF変換したはずのファイルを相手が開けなかったり文字化けしたりとまともな状態のデータを送ることができず、最終的にはデータを送付するたびに力技でBIMモデルを線データに壊すことで何とか送ることができた。
 
結局、このやりとりが手間になり、途中でBIMでの設計を諦めて2次元CADの設計に切り替えてしまった。
他職種の協力事務所とのやり取りが不可欠な私たちにとってスムーズなデータのやり取りができない以上、BIMで設計することが逆に足枷になってしまう可能性もあるかもしれない。
思いもよらない課題を突き付けられつつも、今もBIMのスキルアップに励んでいる。
 

新しい感覚

BIMの操作に慣れ始めてから感じている新しい感覚がある。
 
図面とパースがリアルタイムで連動することで検討案を複数作成する作業が格段に早くなった。
今までは2次元CADで図面を作成し、それを基に別ソフトでモデリングするというステップでパースを作成していたためパースを作るのに時間がかかったが、BIMはひとつのモデルからパースと図面を作るため、これらを同時に生成することができる。
 
このリアルタイム感がこれまでのCADにはなかった感覚だ。
また、ある種の「融通が効かなさ」に表れるデジタル感だ。
 
BIMの入力作業は、作図をするというよりもPC上で実際に建物を建てるという感覚がある。
例えば鉄骨造の自転車置場では仕上材の下地をきちんとモデリングしないと、アクソメやパースで表示したときに仕上材が浮いている状態になる。
これまでは二重線で何となく表現してしまっていたところが、BIMで設計する際にはまるでPC上のモデルからさまざまな質問を投げかけられるような感覚になる。
 
「ここの納まりはどうなっているの?」
「ここはどんな下地がどれくらいのピッチで入っているの?」
 
などと問われ、明確な答えをモデリングしなければ、平面図表示では納まっているように見えても、断面図表示では納まっていなかったというようなことがある。
つまり、BIMで設計する上では建築一般についてしっかりとした知識が必要となり、経験が浅く知識の少ない私は所々で手が止まってしまうのだ。
 
BIMとは正直である。
BIMには「現場合わせ」なんていうアナログ的言語は通用しないのだ。
 
 

私たちのBIMを求めて

テンプレート=財産

木製建具、アルミサッシ、キッチン、椅子、テーブル、壁仕上げ、床仕上げ等建築に関わる材料、部品を挙げるときりがないが、それらがある程度テンプレート化されているとモデリング等の時間は格段に短縮できる。
またそれらの積み重ねは設計事務所の仕様、つまり意思ともいうべきものになっていくはず。
 
しかし、それらを構築するには膨大な時間と労力が必要とされる。
 
大手組織事務所やゼネコンでの取り組みは数々のメディアにて取り上げられていて、その完成度の高さに舌を巻くけれど、彼らも膨大な時間や人工を浪費した上でシステムを完成させたはずなのだ。
つまり弱小事務所がBIMを取り入れ、それをフル活用するには時間も金もノウハウも足りない。
これからは実際のプロジェクトの中でBIMを取り入れていき、少しずつでも着実にテンプレートを作りため、事務所の財産を増やしていければと思う。
 

実務レベルの情報が足りない

今も少しずつではあるがBIMのスキルを上げている実感はある。
もっと上達して、近いうちに建築雑誌に載っているようなBIMモデルを利用した風や光、熱環境などのシミュレーションをどんどん試したいと思っているが、そのステップに辿り着くにはもう少しスキルアップが必要だ。
 
ところが、BIM入門者向けの手引き的な情報がまだまだ少なく、雑誌の紙面を飾る華やかなBIM情報と入門者の実力の間には大きな隔たりを感じる。
BIMで設計した最先端の事例やBIMの可能性といったBIMそのものの情報はインターネットや書籍でたくさん存在しているのだが、ツールの操作方法や機能といった実務レベルでの情報となると少ないのだ。
 
目標へたどり着くための地図がないため、日々ひたすらあがいて試行錯誤を繰り返しながら何とか少しずつ前に進んでいるような感覚だ。
 

将来の私を夢見ながら

BIMは2DCADと同様に標準的なツールとして広く浸透していくことだろう。
 
「ウチは小さい事務所で今も業務に支障はないからBIMなんて関係ない」
 
なんてことを言っていてはもったいない。
BIMというツールを大手組織事務所やゼネコンだけのものではなく、私たち中小事務所も積極的に取り入れていくべきだ。
その時、建築設計がどのような変革を迎え、何を魅せてくれるのか。
またその時、私たち設計者は何を見据えて設計業務に取り組んでいるのか。
非常に楽しみな世界が待っているのは間違いない。
 
いつの日か、自由自在にBIMを操りどんどん図面を作り出す自分の姿を夢見ながら、私は今日もあがき続ける。
 
将来の私を夢見ながら
 
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



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