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施工BIMの今 -鹿島建設の施工BIM-

2017年7月14日

 

はじめに

当社の施工部門では、現在、全現場にて施工BIM導入を目指して展開中である。当社の施工BIMでは、着工前に設計図をベースとした「基本モデル」と活用目的に合わせて基本モデルに情報を追加した「詳細モデル」の2段階でモデルを作成している。この基本モデルは、複数の海外モデリング会社を活用したグローバルなモデリング体制にて実施している。こうしたモデリング体制を実現する上で、クラウド上の共有サーバーである「GlobalBIM®」を構築した(図-1)。
 

図-1




 
 
このメリットとしては、複数オペレーターのコンカレントな分業によるモデリング期間の短縮とモデルデータの一括管理、情報セキュリティの確保が挙げられる。現在は、「Gl obal BI M®」上のみ使用可能なARCHICADライセンスを提供し、BIMソフトを持たない専門工事会社でも、モデルの閲覧および追加・修正が可能となった。
 
作成した基本モデルは、現場ごとの活用目的に応じて、必要な情報を追加し、業務効率化を図っている(図- 2)。
 

図-2




 
 
その活用方法は、工事の条件に応じてさまざまである。中でも、BIMを用いた施工計画は、多くの現場で取り組まれており、定番化している。その他、建築設備間の総合調整や発注者・設計者との合意形成も多くの現場で実施している。また、BIMからの施工図作成に取り組む現場も増えており、着実に施工BIMが現場業務に定着しつつある。
 
 

施工計画での活用事例

施工計画におけるBIM活用の目的は、「施工計画のPDCAを早く、正確に回す」ことで生産性と品質を向上することにある。入手後直ちに設計図ベースの基本モデルを作成、これに構台や足場など仮設計画をモデル化した「施工計画モデル」を利用し、計画の精度を高めている。
 
図-3は、大規模超短工期の生産施設における施工BIM事例である。
 

図-3




 
 
初期検討では、モデル上に最適なクレーンの選定・配置、隣接工区との工事調整などを行い、大きな施工順序を決定し、また、掘削土量の把握や建方工区単位の部材ピース数をBIMモデルから集計することで、計画でのPDCAを回し、最適な工程・工区割などを素早く検討できた。
 
初期検討での施工方針決定後は、さらに詳細な施工ステップをモデルにより可視化しながら計画を進めた。複数工区を同時施工する工程であったため、クレーンなどの配置計画に加え、各工区間の動線およびヤードの確保をモデル化しつつ詳細検討している。さらに、詳細な作業手順・仮設を可視化することで安全面での不備がないかも確認している。
 
それぞれのフェーズでは、作成した「施工計画モデル」を常に現場事務所内、専門工事会社と共有し確認することが重要である。本事例でも、施工時の手戻りがないように全員が容易にイメージを共有でき、手順の改善を図る具体的な意見も出やすくなった。また、作成したステップを朝礼看板などに掲示することで、結果的に、翌日の段取りが良くなり工程の前倒しが可能となった事例も見られる(図-4)。
 

図-4




 
 
施工計画にBIMを活用する場合、モデリングの時間をいかに短縮し、反対に考え検討する時間を確保できるかが重要である。当社では、より簡易にモデル化できるよう仮設材のライブラリを整備している(図-5)。
 

図-5




 
 
このライブラリでは単に絵として配置するだけでなく、モデル内で各種の検討ができるような機能を盛り込んでいる。例えば、クレーンについては揚重姿勢に応じた定格荷重を表示することで、クレーンの配置検討や機種選定を効率化している。足場については、マウス操作による効率的なモデリングが可能である。
 
 

BIM施工図

施工計画BIMに加え、ARCHICADを利用したBIM施工図の作成事例も増加している。作成する施工図も、躯体図や平面詳細図、天井伏図、展開図などに加え、総合仮設計画図、配筋納まり図、掘削計画図などの施工計画図など多岐に渡っている。図-6は、掘削計画図をBIMから作成した事例である。
 

図-6




 
 
ここでは、躯体モデルを利用することで掘削範囲を自動作図するアドオンを開発し利用している。複雑な掘削形状も簡易にモデリング可能で、掘削計画図の作図手間を大きく低減可能である。今後は、さらに表現を工夫し作図効率を上げたBIM施工図として展開していく計画である。
 
 

ITツールとの連携

近年、VRツールなど最新IT技術が手頃に活用できるようになってきており、今後活用がより一般化すると考えられる。当社でも発注者や設計者との合意形成に、積極的にVRツールや3Dプリンターの活用を進めている。特にVRツールは、より直感的に空間を理解する上で有効なツールである(図- 7)。
 

図-7




 
 

おわりに

2010 年より、施工部門を中心にBIMを展開し、特に、事前の綿密な検討によるリスクの回避と関係者間での合意形成力の向上に効果を挙げてきた。BIMのメリットを理解し、活用目的とモデリング内容を上手くコントロールしている現場も増加している。今後、ステップアップした施工BIMを展開するためには、現場におけるBIMマネージャの存在が必須となってくる。当社では、施工系社員のBIM教育として、若年層へはARCHICADの基本操作教育、中堅社員へは自現場のモデルを使った施工計画研修を開催している。特に、自現場のモデルを使った施工計画研修は、操作習得の上で非常に有効である。
 
今後は、施工段階において、専門工事会社とのデータ連携の輪を広げ、施工BIMによる業務効率・生産性向上を推進していく。また、設計や維持管理などとも情報連携することで建築生産プロセスの合理化、生産性向上へとつなげていく。
 

図-8




 
 

図-9




 
 

鹿島建設株式会社 建築管理本部 BIM推進室 Gr長 安井 好広
課長 吉田 知洋



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



BIMによる積算業務の実運用へ向けて-その課題と今後の展望について-

2017年7月10日

 

BIM連携積算の現状

まず、最初は筆者の知る限りにおいてBIMによる積算連携の現状から話を始めたいと思う(※BI Mによる積算連携を以降「BIM連携積算」と呼ぶ)。
 
実は、この誌面でBIM連携積算のことを述べる機会を得たのは二度目である。前回は、5年前の2012年であった。その折には、弊社がBIM連携積算システムの開発に至った経緯やIFC連携を中心にそのメリットや作業効率のUP、さらに最も重要なこととして積算業務のルーチンワークが大幅に減る可能性について述べた。
 
現在でもこれらが実現できれば、さまざまな恩恵が積算技術者にもたらされると確信している。また、今後も社をあげてBIM連携積算の条件整備に取り組んでいく気持ちは今でも全く変化はないが、当初考えていたスピードよりもかなり進展が遅いと感じている。以降、これらに関係する原因や課題点および解決策の提案など思うところを述べてみたいと思う。しかしながら、当然異なる考え方を持たれている方々もおられると思うが、あくまでも筆者個人の見解であることを前置きする。
 
 

BIM連携積算を積算業界や積算技術者から見た場合

・積算事務所の場合
 
積算事務所に勤められている技術者の方々や経営側の立場の方々にとって、多くの割合で現状の積算業務のあり方がベストだと思っている方はいないと思う。それは、積算業界の黎明期から今でも変わらず、紙の図面を見ながらコツコツとひらいを行い内訳書を作成し値入をして業務が完成する。この流れは積算システムの進歩はあれども、半世紀以上なんら変わっていない。
 
弊社も積算業務の売り上げが全体の65 ~ 70%を占める積算事務所であるが、最近の新入社員の諸君は大学で4年間建築を学んできた若者や、大学院を経て入社してくれる若者もいる。
 
彼ら彼女らが最初に建築コスト部に配属されて行う作業は、例えばRC積算を担当した場合、紙図面の躯体断面リストを見ながら、「D-25 10 本」と、まるでトレースするようにキーボードを叩いて転写入力することが作業の大半になる。こういう単純作業は積算業務の宿命と言われればそれまでだが、日々の業務の随所に同様な作業が存在する。
 
筆者はこの作業自体が悪いと言うわけではないが、将来を見据えて継続的に優秀な若手技術者を積算業界に取り込むためには、あまりにも今まで工夫がなかったと先輩諸氏に言われても致し方ないのではないか・・と強く感じている。
 
前述の問題を解決する一つの手段が、BIM連携積算であることは間違いないと思うが、さまざまな課題点などがあり、なかなか実務では利用できていない。
 
・建設会社の積算部や見積部の場合
 
インハウスで積算をしている建設会社では、積算事務所と同様な問題点や課題点があると思われるが、最近は外部に積算業務を依頼することが圧倒的に多いので、そのような会社の大多数では、外注先の積算数量の精度さえ良ければ、Excel表計算のようなシステムであろうが、BIM連携であろうがどちらでも良いわけである。これは致し方ないことではあるが、積算業務を外注している場合、BIM連携積算のメリットと言えば積算期間の短縮や外注費の低減が主な内容となる。視点を変えて自社設計の場合などの設計データ有効活用や連携積算ではケアレスミスが発生しにくいなどのメリットは、現実にはなかなか論じられることはない。
 
 

BIM連携積算実運用への課題点とメリット

以下に実運用へ移行していくための主な課題点を列記する。
 
(課題点)
 
・外的な要因
 
①BIMによるデータの提供が少ない
(紙図面かPDFが圧倒的に多い)
②BIMデータが入手できても不備な内容が多い
(BIMデータの入力不足や紙図面との間に差異がある)
③発注側の見積部や積算部などがBIM連携積算に否定的
(使えるところから使う発想がない・使えないところだけ指摘する)
 
・内的な要因
 
①BIMに関する知識が不足している
(特にベテランは新しいことにチャレンジしにくい)
②BIM連携積算に対応できるシステム環境がない
(ハードとソフト双方・経済的な理由)
③経営陣など上層部の意志が統一できていない
④BIM担当スタッフに権限がない
(経営陣などからバックアップがない)
⑤設計部門と見積や積算部門の連携が取れていない
(特に自社設計の場合、設計情報を有効活用する視点に欠ける)
 
上記以外にも、現実には多くの課題点があると思うが、全てではなくとも主たる何点かが解決・改善できれば、BIM連携積算にはかなりのメリットがある。ただ、立場立場で感ずるメリットには見方が分かれる部分もあると思うが、大きな目で積算業務や積算技術者を捉えた場合、以下のようなメリットが挙げられる。
 
(メリット)
 
①ルーチンワークが激減する
(かなりの効率化が可能になる)
②ケアレスミスがセーブできる
③時代に即した新たな手法により、若手技術者を取り込む可能性が高まる
④特に概算には有効なツールとなる=多段階の概算も行いやすい
(フロントローディングによるコストコントロールが可能となる)
⑤積算技術者が関連した他部門へトライできるチャンスが増える=業務の効率化により新たな時間が生まれる
(コストマネジメント・CM・FM)
 
 

BIM連携積算でよくあるモデリングの問題点

以降、実務でよく見られるモデリングの問題点など実例をもとにいくつか挙げてみる。
 
・代用入力
 
この言葉は造語かもしれないが、本来使用すべきオブジェクトに他の内容を入力している場合のことで、まだまだ実務ではよく見受けられる。例えば、梁のオブジェクトにカーテンボックスやノンスリップを入力している例などが挙げられる。これは、なにも積算連携だけではなく、モデルチェックツールを活用する干渉チェックなど他のシステムと連携する場合にも大きな障害となり得る。
 
BIMツールの操作などに慣れるまでは大変だと思われるが、モデリングの結果だけ見ていると、代用入力があっても、あたかも設計意図にそって自動的に判断し修正されるか、入力不足は自動的に補完されると思われている…としか考えられないモデリングも散見される。
 
BIMモデルが外見上さえ表現できていれば良いとの考えで入力すれば、後々予期せぬ不具合が発生する。また、最も大きな問題点は、せっかくのBIMモデルが、他のシステムとの連携などで活用できなくなることがある。全てのモデリングを完璧にとまでは言わないが、主要な一部の内容だけでも注意して入力してもらえれば、設計データの有効活用の観点からも、また本来のBIM連携の観点からも、かなりの改善がはかれるものと思われる。これら代用入力のよくある事例を以下に示す。
 

(代用入力:例)




 



 
以上の内容などで代用入力の回避方法は、そんなに手間がかかるものではない。一例をあげれば要素分類を連携未対応で登録するなどの手法で簡単に回避できる。これらの回避方法はBIMツールごとで若干差異はあるが、代表的な回避方法を以下に示す。
 



 
 
しかしながら、設計側に積算連携などのために余分な負荷が出ることは避けなければならないので、弊社では最小限の約束ごとを取りまとめたものを事前に作成してお示ししている。これらをモデリングの開始前に説明して注意してもらえれば、かなりの割合で連携の不備が解消できる。
 
次に、これらの注意点を取りまとめた事前摺合せシートを紹介する。
 
・BIM連携積算事前摺合せシート
 
以下に示すBIM連携積算事前摺合せシートの例は、積算業務で最も処理時間がかかる内部仕上積算を対象に取りまとめたものである。モデリングの全てに対して属性情報など設定方法の約束事を決めるのは難しい面もあり、重要な内容から優先度を付けて提案している。下記の摺合せシートで、ランクAAとランクAに関しては、積算連携などにとっても重要な内容となるので、モデリングの際に必ず入力してもらいたい項目である。
 
下記に関して再度補足しておくが、これらの約束事はなにも積算連携だけを考えた場合のことではなく、他のシステムとの連携も含めてBIMツールで作成された設計データをいかに有効に活用できるかという観点から取りまとめた内容となっている。確かに欲を言えば、ランクBやランクCまで入力できていれば自動積算にかなり近づいてくるが、設計者(モデラー)側にかなり負荷が増えることとなる。
 



 
 

ダイレクトリンク機能について

冒頭に述べたが、弊社ではこれまでBIM連携積算システムを開発するに当たり、国際標準の「IFC」に対応できることを前提として開発してきた。確かに「IFC」は、国際的に一定の規約で定められた中間ファイルを使うので、デファクト・スタンダードとなり得る連携手法ではあるが、日本で開発されたものではないので、日本の建設生産にとって全てが使いやすいものではない。
 
特に情報量がかなり膨らみやすい特徴があり、連携する個々のシステムにとっては、それぞれで必要となる情報を選別するだけでも、相当の時間と労力を要することになる。
 
弊社は、「IFC」を否定する気は毛頭ないが、使用者が負荷を感じることなくスムーズに運用するには、どういう方法が良いか検討を重ねてきた。その結果として、それぞれのBIMツールと弊社の積算システムを直接連携(ダイレクトリンク)させることにより、大幅な時間短縮と連携精度の向上を実現することができた。以降、その概要を示す。
 
{なお、現状のダイレクトリンク機能は、ARCHICADおよびRevitと対応している}
 



 



 
 

今後の展望について

前述した課題点にもあるように、BIM連携積算で活用できるBIMデータを入手できる機会がまだまだ少ないので、現時点で積算事務所や積算技術者が感じるBIM連携積算に取り組む必要性はさほど大きなものではない。しかしながら、今後は干渉チェックや施工管理に使用するなど多方面での使用事例がどんどん増えてくるのは確実である。それに伴い、実務でもBIMデータが入手できる機会が増えてくるものと思われる。
 
海外の事例を見ても、規模の大きなプロジェクトは必ずと言っていいほど、BIMが利用されている。筆者や弊社の社員が参加する機会を得たいくつかの積算関係の国際会議でも、東南アジアの拠点都市では、QS(クオンティティー・サーベイヤー)が、BI Mに関して高い関心を持ち、積極的に利用している。また、いくつかの国や地域では、BIMライブラリーの構築など利用環境の整備を進めている。実務での利用がまだの国や地域でも、実運用に向けた取り組みが盛んである。
 
以下は、筆者の強い願望であるが、数量や単価情報を持っているBIM連携積算システムを積算技術者が有効利用すれば、これまでの積算業務のノウハウを生かしつつ業務の領域を広げることが可能だと考えている。現状の数量積算中心の積算業務では、なかなか明るい展望が見えてこない中で、BIM連携積算は積算事務所や積算技術者にとって、将来に向けて新たな可能性やビジネスチャンスをもたらしてくれると確信している。
 
 
 

株式会社 日積サーベイ 代表取締役 生島 宣幸

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



施工BIMの今 -高砂熱学工業 施工を変革するBIMの構築に向けて-

2017年7月4日

 

当社の情報化推進の経緯

日本で2009年に「BIM元年」と認識されてから、建設業界の設計、施工、保守運用の各段階でBIMの活用が進んでいる。各段階で使われ方はさまざまだが、当社のように設備工事を主力事業とする会社では、特に施工段階において活用範囲が多い。20世紀の初頭に建物に機械空調設備が導入された頃から、施工の源となるドキュメントは手計算の技術計算書であり、手書きの施工図であった。当社では、ワークステーションやPCが建設会社の母店だけでなく、現場に普及し始めた1980年代半ば頃から、現在の「BIM」という言葉がない時代に、それと同様なコンセプトで技術計算書や施工図を手作業から変革させるための自動計算ツールとCADの開発に取り組んできた。1990年代前半には、当社の施工する物件のほぼ全てにおいて設備CADが導入され、現在は(株)ダイテック社製のCADWe’ll Tfasを使用している。技術計算は静圧、揚程、消音計算のほぼ100%を自社開発ソフトで行っており、その他熱負荷計算、気流・温湿度シミュレーションは自社開発と市販汎用ソフトを合わせて利用している。
 

図-1 手書き図面とCAD図面

図-2 手計算とPCソフト計算




 
 

設備工事会社のBIMとは

設備工事会社の主な業務は、「設計図書の情報を基に、施工図や技術計算の作成を通じて施工内容を確定し、施工計画を立案する。この計画を基に施工管理を行い、最適な設備を提供する」ことである。課題としては、工期中の設計条件の変更対応のために、施工関連図書の修正や客先承認に時間がかかり、施工がスムーズに進まないことなどが挙げられる。従ってこれらの業務にBIMを活用する目的は、第1に顧客に対する説明力を向上することによってタイムリーな合意形成を行うこと、第2に現場での設計施工段階におけるBIMモデルの情報連携度を高めることにより、品質と業務効率を向上させること、第3に竣工引渡しの後の運用段階で活用できるモデルを提供することである。特に、施工の源となり、多くの情報量を持つ施工図=CADデータとの連携が重点課題となる。
 
 

現場でのBIM活用

①建築・設備CADデータの重ね合わせによる干渉チェック
 
設備工事では、空調・衛生・電気設備で同じCADソフトを使う場合と異なるソフトを使う場合で方法は異なる。空・衛・電3 社がTfasを使用している場合は、データの重ね合わせだけで3社の干渉チェックをTfasの機能上で実施でき、多くの現場で取合い調整が日常的になされている。仮に3社が異なるソフトを使用する場合でも、IFCやBE-Bridge変換の精度が高まっており、設備間の調整は比較的よくできている。ただ現状では、建築の構造や内装のデータを受領できる場合は少く、この場合、設備CADの建築作図機能を用いて、建築の2次元データを設備CAD上に3 次元入力することによって表現する場合が多い。
 
建築設備全てが3 次元CADで作成されている場合はGRAPHISOFT社のSolibri等のモデル合成検証ソフトを使用して取合いを実施している現場もある。
 

図-3 干渉チェック




 
 
②3D表現によるメンテナンス確認、設備配置確認などの合意形成
 
建築設備は運用後のメンテナンスが必要で、特に機械室や天井内の機器や装置、弁類やダンパー類の点検や操作性が品質に大きく影響する。設備CADには3D表現だけでなく、動画作成などの機能が豊富で、顧客、特に施設管理に携わる方への説明には非常に効果が高い。さらに日常点検だけでなく将来の機器の入れ替えなどの更新計画に対しても納得度の高い説明資料を提供できる。
 

図-4 メンテナンス性の確認




 
 

BIMモデルと業務の連携

①BIMモデルを利用した技術計算
 
設備工事において、施工図と同様に重要な計画作業の一つが、機器選定や検収条件の確認のために行われる技術計算である。当社では1987年よりPCベースで利用できる静圧や揚程計算ソフトの開発をスタートさせ、その他設備施工に関するさまざまな自社開発ソフトも合わせ、現場での技術計算を行っている。これまでは施工図に描かれている部材などの情報を手入力してから、自動計算を行う方法が主流であったが、現在では設備CADベンダーの協力やBE-Bridge、IFCでの変換技術が進み、CADデータの部材や経路情報をダイレクトに読み込んで計算できるソフトを自社開発、展開している。ラインアップとしてダクト静圧、配管揚程計算の他、ダクトと配管の数量、配管の概算金額算出、排煙ダクトの漏洩量計算等がある。
 

図-5 自社開発技術計算ソフト




 
 
②3次元レーザースキャナの活用
 
これまで土木やプラント系の施設での利用が主であったが、建築分野でも適用が進んできた。建築設備は、15年から30年の間で更新・改修されるものが多く、十数年かけて部分改修する場合もある。改修を反映した施工図が完全に整備されている事例は少なく、新たな改修計画の初段階で必要となる現況図の作成のためには、手計測による現地調査が普通であった。
 
当社では、主に改修物件での施工図作成を目的として3Dレーザー計測を2007年に初めて試行した。当時は点群処理ソフトの機能やモデル化で課題が多かったが、スキャナとソフトの性能向上に合わせ、2013 年より本格的に取り組んでいる。
 
モデル化は、点群処理ソフトの円柱抽出機能から、配管属性を持つモデルに変換するソフトを自社開発し、モデル化作業の効率化を図っている。また、機械室だけでなく天井内設備の改修にも利用しており、支持材や他設備など、通常の施工図では反映されない構造物の容易な把握により、配管やダクトルーティングの精度が増した。またBIMモデルと点群データの組み合わせで作成した3D資料は、改修計画や作業説明に非常に有効となる。
 

図-6 3次元レーザー計測と配管変換ソフト




 
 
③VR技術との連携
 
ゲームの世界等で進化しているVR技術は、住設の分野では既に商業ベースで利用されている。業務用建物でも設備の機械室メンテルートやスペースの確認、室に取り付けられるスイッチ、センサー類、制気口の位置やデザインの合意形成への利用価値は高い。当社ではVRシステムを導入し、若手社員への施工図教育、特にメンテスペースの確認や施工計画のチェックのために使用している他、客先合意のためのプレゼンツールとしても展開している。
 

図-7 VRシステム




 
 

今後の展開

企画・設計、施工、運用・保守と、BIMは建設の全てのフェーズでの利用が期待されているが、施工面においてはまだまだ発展途上にある。BIMモデルと強固に連携して施工計画書類を自動作成できる機能を持つソフトウェアと、建設作業における施工管理IT利用とBIMを結びつけるツールの開発、すなわちBIM周辺の技術変革が、施工のあり方を変革できると考えている。施工会社はここに注力していくべきである。
 

図-8 BIMの情報連携




 
 

高砂熱学工業株式会社 技術本部 プロダクトイノベーションセンター BIM推進室
室長 山本 一郎 担当部長 今野 一富 メンバー 鈴木 崇浩、伊東 匠



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



CIMにおける3DPDF活用法

2017年6月30日

 

はじめに

平成24 年に始まったCIM試行も5年が経過し、この春からは本格導入が予定されています。この期間に、施工会社は効率的なモデリング方法や共有方法、また費用対効果の高い実施方法などを試行錯誤してきました。
 
また設計ソフトから自動で橋梁3Dモデルを作成するシステム「BeCIM」(JIPテクノサイエンス)、「C-modeler」(伊藤忠テクノソリューションズ)など、ソフトベンダーより3Dモデルを効率的に作成するアプリケーションの提供も増えてきました。弊社が開発・販売している2次元の設計図面から橋梁3Dモデリングを行うツール「Click3D」もおかげさまで、国交省発注工事で40件を超える利用実績を数えるまでになりました。
 
一方でその3Dモデルを操作して現場で活用している人はまだまだ一部の方に留まっているのではないでしょうか。そもそも現場の方は、3DCADの専門家ではありませんし、3DCADへの心理的な抵抗感、ハードルが高いようです。
 
そこで現場の方にも3Dモデルを使ってもらう方法として、3DCADデータを無償のPDFリーダで閲覧が可能な3DPDFに変換して利用するシーンが少しずつ増えています。今回はCIMにおける3DPDFの活用の可能性についてご紹介いたします。
 



 
 

3DPDFとは

3DPDFは、3Dモデルを画像やテキストと同様にひとつの情報としてPDF内に埋め込んだもので、無償のPDFリーダで閲覧、操作可能なPDFファイルです。また3DPDFは特定の企業のフォーマットではなく、国際標準化機構(ISO)が認証した国際規格ですので、長期保存を前提とした納品データとしても安心感があります(図-1)。
 

図-1 スマートスケープ社のHPより




 
 
特長としてその扱いやすさがあります。Windowsパソコンにおいて世界でもっともインストールされている無償の文書閲覧ソフト AcrobatReaderで動作するので、3Dモデルを閲覧操作するために特定のソフトウェアをインストールする必要がありません。また3DCADのネイティブファイルに負けず劣らず「軽量」のため操作性も良いです。
 
最近は3DCADから3DPDFに出力できたり、3DCADにアドオンインストールして利用するアプリケーションもサードパーティーからリリースされています。
 
アドオンソフトのひとつ、スマートスケープ社が提供する「3DPDF forNavisworks」はその製品名のとおり、オートデスク社の3Dモデル統合ソフトウェアNavsiworksから3DPDFに変換できるアプリケーションです。Navisworks側で保存したビューや属性情報も3DPDFに変換されるためCIMモデルの納品データとして利用可能です。
 
Navisworksのネイティブファイル(nwd)はオートデスク社のHPから無償のフリーダム版をインストールすれば誰でも利用可能ですが、特に発注者は無償とはいえ特定のソフトウェアをダウンロード・インストールすることは簡単ではありません。3DPDFだと発注者のパソコンにインストールされているAcrobat Readerで閲覧できるので手軽に利用が可能です。
 
3DPDFファイルを開くとビュー画面に図のようなメニューが表示されます。その中にある「3Dものさしツール」を使うと3Dモデルに対して各種計測を行うことができます(図-2)。
 

図-2 3Dものさしツール




 
 
計測を行う前に、スナップ設定と測定タイプを選択します。選択可能な【スナップ設定】は画面左から、①エッジの終点 ②線のエッジ ③円のエッジ ④シルエット ⑤面、【測定タイプ】は左から、①3D ポイント間計測 ②3D 垂直寸法 ③3D 円形寸法 ④3D 角度測定、となります。それぞれ複数の選択が可能です。
 
もはや計測機能としては、3DCADと同等の機能と言ってもよいのではないでしょうか(図- 3)。
 

図-3




 
 
スナップ設定と測定タイプを選択したら、3D画面で対応する点や面を指定するだけです。寸法線は3DPDF内の視点に登録されますので、一度PDFを保存すれば次に開いた時にも数値を確認することができます。
 
橋梁3Dモデルの場合、図-4のように(1) 2 点間距離、(2) 排水管の中心と主桁との距離、(3) 橋台の橋座面の角度、(4) 落橋防止装置のキャップの直径、(5) 桁端の遊間などの計測が行えます。
 

図-4




 
 
設計部門で作成した3Dモデルを施工部門で利用する場合に、ちょっとした寸法の確認をするのも簡単に行えます。
 
 

CIMモデルとしての3DPDF

3DPDFをCIMモデルとして利用するためには属性情報を扱えることが必須です。「3DPDF for Navisworks」を利用すると、Navisworksで付与された属性情報も3DPDFに変換されますが、属性の確認方法としては3Dモデルから部材をクリックすることになり、検索機能もありません。
 
維持管理で3DPDFを利用するためには任意のキーワードで属性情報を検索したいシーンがあるはずです。また維持管理段階では点検した結果を属性情報として3Dモデルに登録したいはずです。
 
そこで、弊社オフィスケイワンはAcrobat Readerで属性検索や属性の追加が可能な3DPDFテンプレートを用いた「CIMモデル管理システムCIM-PDF」を開発しました。次章ではその属性編集機能付き3DPDF「CIMPDF」をご紹介いたします。
 



 
 

CIM-PDFでは何ができるのか?

CIMモデル(3D形状+属性)を3DPDFに変換したデータで、無償のAcrobat Readerで閲覧、属性検索が可能な、属性編集機能&オンラインヘルプ機能付の3DPDFファイルです。
 
(1)機能概要
・CIM-PDFは Acrobat Reader で閲覧、属性検索ができて、外部参照ファイルにもアクセス可能です。
・施工記録や維持管理の点検記録などの属性情報を Acrobat Reader で追加保存が可能です。
 
(2)特長
無償のPDFビューワ(Acrobat Reader)でCIMモデルに対し、設計情報・施工情報などの属性の閲覧、検索、属性の追加保存が可能となります。またCI MPDFの操作方法を解説したヘルプサイトがインターネット上に用意されているので、初めて作業する人も安心して
扱うことができます。
 
(3)期待される効果
無償のPDFビューワ(Acrobat Reader)でCIMモデルを運用できるため、施工現場で市販の3Dモデル統合管理ソフトウェアを用意する必要がなくなるため、運用コストを大幅に削減することが可能です。
 
また、設計情報や施工管理記録が属性情報として付与されたCIMモデルが無償のPDFビューワ(AcrobatReader)で利用できることで、インフラ管理者にとって市販のソフトウェア導入費の負担がなく、将来の維持管理の高度化、効率化への貢献が期待されます(図- 5)。
 

図-5




 
 

CIM-PDFの使い方

CIM-PDFの作成はNavisworksで行います。アドオンソフトの「3DPDFfor N avisworks」を実行して、今回開発したテンプレートPDFファイルを指定するだけです(図-6)。
 

図-6




 
 
作成したCIM-PDFをAcrobat Readerで起動すると下図のように、画面右側に専用のメニューが表示されます。これを「CIM-PDFメニュー」と呼称します(図-7、8)。
 

図-7




 

図-8




 
 
CIM-PDFではアニメーション再生、属性情報の表示、検索、属性情報の追加などが可能です。順に解説していきます。
 
(1)アニメーション再生
アニメーション再生ボタンを押すと、登録されている視点を先頭から順に2秒間隔で表示します。
点検動線として視点を登録しておくと、ウォークスルーアニメーションとして利用できます(図- 9)。
 

図-9




 
 
(2)属性参照(部材クリック)
部材選択ボタンを押下して、3D画面上で部材をクリックすると登録済みの属性情報をポップアップ画面に表示します(図- 10)。
 

図-10




 
 
(3)属性参照(検索)
検索条件を設定後にボタンを押下すると、検索結果が3Dモデルにハイライト表示されます。マウスでハイライトされた部材をクリックすると登録済みの属性情報がポップアップ画面に表示されます。例えば鋼橋の場合、板厚や材質ごとに検索が可能になります(図- 11)。
 



 

図-11




 
 
ポップアップ画面の属性値にファイル名がある場合は、クリックすると該当ファイルが起動します。3Dモデルにひも付けられた設計図面や施工管理の帳票や写真などがクリックするだけで開きます(図- 12)。
 

図-12




 
 
下図(図-13)は属性管理ソフトとCIM-PDFの属性を比較した例です。
 

図-13




 
 
(5)属性の追加保存
施工管理や現場で得られた出来形記録などをAcrobat Readerを利用して3Dモデルに紐付けることが可能です。3Dモデルの名称と紐付けるファイル名(PDFや画像ファイルなど)を
CSVにまとめてCIM-PDFメニューにある属性追加ボタンで指定するだけです。追加された属性名と属性値はその後の検索にもヒットします(図-14)。
 

図-14




 
 
(6)検索結果のCSV保存
Acrobat Pro DCでCIM-PDFを開いて、属性検索(板厚、材質)を行った場合、同じCIM-PDF内に添付ファイルとして検索結果のCSVファイルが保存されます(Acrobat ReaderではCSVの保存はされません)。検索結果のCSVファイルは属性を新規追加するときの下敷きとして利用すると便利です(図- 15)。
 

図-15




 
 
属性モデルの専用ソフトウェアとCIMPDFの機能比較は下表(表-1)の通りです。
 

表-1




 
 
CIM-PDFの機能面での課題として、
・道路中心線(3Dポリライン)、テキスト、テクスチャ(地形等)対応
・属性のCSV一括出力機能の追加などがあります。これらは今後順次対応予定です。
 
また、CIM-PDFはCIMモデル管理システムとしてNETIS登録を申請中(執筆時点)で、橋梁以外の構造物(コンクリート橋、土工、ダム、河川、トンネルテンプレート)の対応は検討中です。
 
 

おわりに

CIM-PDFは弊社のCIM支援サービスのひとつとして提供を行っていますが、テンプレートの販売も開始する予定です。CIMモデルは設計、施工、維持管理の各工程で活用されてこそ効果を発揮するものです。無償のPDFリーダで利活用できるCIM-PDFを新たなCIMツールとしてご提案していければ幸いです。
 



 
 
では3DPDFのモデル自体を編集したい場合はどうしたらよいのか?その答えとして、有償ソフトにはなりますがAcrobat Pro DCとTetra4Dを使うと、3DPDFのモデルを追加編集できます。他工区とのモデル統合や、維持管理段階でのモデル修正などが必要な場合でも編集作業が可能です。
 



 
 
属性情報を用いたより高度なシミュレーションなどは対応する専用アプリケーションで行い、単純な属性閲覧作業などは3DPDFを利用するなど、CIM活用シーンに応じて使い分けることで、CIMモデルを扱える対象人口が増え、費用対効果の高い『持続可能なCIM』が可能になるのではないでしょうか。最後まで読んでいただきありがとうございました。
 



 
QRコードをスマホなどのリーダーで読むと、CIM-PDFのWEBサイトが表示されます。
 
 
 

オフィスケイワン株式会社 保田 敬一

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集1「i-Construction時代の到来とCIM」



 
 



建設業界におけるVR活用の現状と将来-デジタル空間を人間に伝える再生装置はここまで進化した-

2017年6月24日

 
建物や街並みなどの3D映像を、まるで現実のように体験できるVR(バーチャルリアリティー)が一般に普及し始めた2016年は“VR元年”と呼ばれた。BIMやCIMが普及しつつある建設業界でも、これらのデータをVR化して設計の検証や現場での施工管理、営業などさまざまな活用例が生まれた。その活用例を紹介しよう。
 
 
高性能のHMDがVRの普及を加速
 
BIMやCIMのソフトで作成した建物や構造物の3Dモデルは、レンダリングして写真のようなCG(コンピューターグラフィックス)画像にしたり、ウォークスルー機能で建物などの内外を歩き回ったりして見ることができる。
 
しかし、普通のモニター画面を通して見ると最終的には平面のスクリーンを見ているので、リアリティーには限界がある。
 
その点、3Dスクリーンやヘッドマウントディスプレー(HMD)を通して3D映像を見るVRは、実際の建物のサイズ感や奥行きなども感じられ、まるで現実の空間に立っているかのように見られる。
 
さらに顔を上下左右に向けたり、後ろを振り返ったりすると、全天全周、360°の映像が見られるのだ。
 
従来、こうしたVR映像を見るためには、大きなスクリーンと3Dプロジェクター、そして映画館で使われているような3Dメガネを使ってみる必要があった。
 
ところが最近は高画質の映像を再現できる高性能のHMDが数万円~十数万円で発売されたり、スマートフォンをはめてHMDのように使えるVRゴーグルが数千円で発売されたりした。リアルなVR体験を手ごろな価格で実現できるようになったのだ。
 
では、建設業界ではどのようなVR活用がされているのか、最近の事例を見てみよう。
 
 

施工管理での活用

HMDで仮設の安全管理
《一二三北路》

 
札幌市の建設会社、一二三北路(ひふみきたみち)は同市南区の定山渓温泉で施工した水管橋新設工事で、大規模な足場を組んだ。この現場の状況をあらゆる角度から事前に確認し、”フロントローディング”で問題点を事前に解決するため、現場の地形や足場、重機などの現場全体を3Dでモデル化した。
 
一二三北路ではさらに、この3Dモデルを見るために、ゴーグル型のヘッドマウントディスプレー「Oculus(オキュラス)」を導入した。Oculusには重力センサーなどが付いており、VRを見ている人が頭を上下や左右に向きを変えると、画面の角度も同じように変わる。
 

ヘッドマウントディスプレーを装着した技術者(写真・画像:一二三北路)




 
 
現場では、作業を担当する職人がOculusを着けて現場内をさまざまな角度で見回し、危険個所や危険作業がないかを作業前に確認している。視点の移動は自由自在だ。足場の下から内部をチェックしたり、上空から見下ろしたりと、まさにあらゆる角度から現場をチェックできる。
 

実際に組まれた足場




 
 

実物大で立体視できる仮設材




 
 
また、施工段階に応じて水管橋の架設状態を変えたり、クレーンでの架設作業を再現したりすることも可能だ。

VRの作成に使われた3Dモデル




 
 
VRの作成には、ゲーム開発ソフト「Unity」を使う。BIMやCIMのソフトだと、データが重くなるため、Oculusの動きにスムーズに追従できないためだ。VRの制作作業は岩崎(札幌市)が協力した。このVRシステムは工事関係者の間で話題となり、現場には多くの見学者が訪れたという。
 
 

流体解析結果の確認

VRで風の流れを体感
《日建設計、アドバンスドナレッジ研究所》

 
目に見えない風の流れや温熱環境を、設計段階で見える化する熱流体解析(CFD)ソフトは、快適で環境に配慮した建物を設計するのにとても役立つ。
 
特にBIMソフトで設計した建物の場合は、BIMモデルの3 次元形状をCFDソフトに読み込むと、解析の手間が大幅に減り、結果も短時間で分かるので、設計の最適化を実現できる。
 
日建設計とC F D ソフト「Flow Designer」を開発・販売するアドバンスドナレッジ研究所は、同ソフトで解析した結果をVR化し、風の流れを体感できるようにした。
 

CFDソフト「FlowDesigner」で都市内を流れる風の動きを解析し、見える化した例 (資料:日建設計、アドバンスドナレッジ研究所)




 
 
これまでもオフィスの室内での温度や風の流れは、CFD解析で求めることができたが、実際にそのオフィスで働いてみると、吹き出し口の付近が冷房で寒すぎることが分かり、風の流れを変える板を後付けしている例をよく見かける。
 
その点、VRを使ってオフィス内をウォークスルーしながら、風が強い場所はないか、寒すぎる場所はないかと確かめたり、その風はどこの吹き出し口から来るのかをイメージしたりしながら検討できる。
 

オフィス内の温熱環境を見える化した例

寒すぎる場所があったとき、その空気はどこから流れてきたのかもVRなら実感しやすい




 
 
さらに面白い機能として、3次元の街並みの中を風になって飛ぶ気分も味わえる。VRコンテンツの視点を、“空気粒子”とともに動くようにしたものだが、VRならではのユニークな飛行体験ができそうだ。
 
 

改装工事のシミュレーション

点群の中を実物大でウォークスルー 
《ラティス・テクノロジー》

 
ラティス・テクノロジーは、大容量の3Dモデルを軽快に扱える同社のXVL技術を利用した新ソリューション「XVL Studio Hybrid for M REAL」を開発し、キヤノンITソリューションズから発売した。
 
既存の建物や設備を3Dレーザースキャナーで計測した点群データと、これから改装する設備などを合体した仮想空間の中を実物大でウォークスルーすることができるものだ。
 
このシステムを使うと、既存の工場設備の横に新しい設備を置いたときの作業員の動きや安全性を、未来の工場にいったような感覚で検証することができる。ヘッドマウントディスプレーを着けて、この仮想空間を見ると、まるでその世界に入り込んだかのような没入感が味わえる。
 

ヘッドマウントディスプレーを着けると、仮想空間の中を実物大でウオークスルーできる(写真、資料:ラティス・テクノロジー)




 
 
例えば頭を左に向けると左の景色が、上を向くと天井が見えるといった具合だ。そして、設備の足場を上ると、眼下には工場の風景が広がる。仮想の手すりごしに下をのぞき込むと、どのくらいの高さなのかも実感できる。
 
さらに実感的なのが、現実と仮想空間の融合だ。AR(拡張現実感)用マーカーを張り付けた荷物を積んだ台車を用意しておくと、それと同じ大きさの台車が目の前に映し出される。実物の台車の取っ手と、仮想の台車の取っ手は、同じ高さ・大きさで見えるようになっており、仮想の取っ手をつかむと実物の感触や重さを感じることができるのだ。
 
まさに現実と仮想が融合した世界だ。そして実物の台車を押していくと、目の前には工場の床や障害物となる柱の補強材などが見えて、どれくらいの余裕で台車が通過できるのかを、本物の建物に行ったかのように体感することができる。
 

障害物の中を通過する仮想の台車。通過する際の余裕を実感できる

点群とリアルサイズで表示した作業員




 
 

施工管理の教育システム

VRで施工ミスを再現 《大林組》
 
大林組では数年前から、社内に鉄筋や型枠を組んだ教育用の躯体モックアップを作り、鉄筋配置の不具合個所を探す体験型研修を行ってきた。しかし、同じ受講者が繰り返し受講するためには、定期的にモックアップを作り替えたり、受講者がその場所に集まったりと、コストと手間がかかっていた。
 
そこで大林組は、BIMモデルとVRを使って同様の研修が行えるシステムを開発した。「VRie(l ヴリエル)」というもので、HMDやコントローラー、センサーなど、市販の機器で構成される。
 

パソコンやHMD、コントローラーなどからなる「VRiel」のシステム




 
 
実物のモックアップの代わりに、BIMソフトで作ったデジタルモックアップを使い、不具合箇所を再現した。受講者はHMDを装着し、VR画面上に表れる鉄筋配置の不具合などを探すことで、実物同様の研修ができる。
 

VRで再現した鉄筋のモックアップ




 
 
受講者は工事現場を巡回して不具合個所をチェックするのと同じように、VR上を移動したり、首を上下左右に動かして見回したりすることで、工事現場と同じように検査する感覚が身に付く。
 
実際の施工管理では、構造図や細かい仕様が書かれた標準配筋図と、現場とを見比べたり、寸法を確認したりしながら、不具合個所を発見するスキルが必要だ。こうした作業を再現するため、施工管理用の図面や計測用のコンベックスなども全てVR上で使えるようなっている。
 

施工管理用の図面もVR画面上に表示できる(資料:大林組)




 
 
2m四方ほどのスペースがあれば設置できるので、会議室や現場事務所などさまざまな場所で研修を受けることができるのも便利だ。鉄筋工事の他、仕上や設備などの品質管理、安全管理など、幅広い教育にも使える。
 
 

住宅のバーチャル展示場

壁と床のスクリーンに未来の住宅を再現
《コンピュータシステム研究所》

 
コンピュータシステム研究所は、バーチャル展示場システム「ALTAf or VR」を開発し、工務店やリフォーム会社向けに展開している。住宅展示場などにこのシステムを設置すると、その“感動”がクチコミで広がり、抜群の集客力を発揮するそうだ。
 
このシステムは、同社の住宅プレゼンシステム「ALTA」で作った住宅の3Dプランを作成し、その映像をVR技術で部屋の床や壁に投影するものだ。
 

壁や床にスクリーンを設置する(写真:コンピュータシステム研究所)

そこに住宅の3Dプランを映写すると住宅展示場に早変わり




 
この映像を、3Dメガネを着けて見ると、目の前には住宅の内装やシステムキッチン、家具や家電などが実寸大の大迫力で広がる。
 

3Dメガネを着けると、コントローラーで住宅内部を自由にウオークスルーできる




 
 
手を伸ばすと触れるのではないかと思うほど抜群の臨場感があり、お施主さんもビックリする。コントローラーを使って、ゲーム感覚で住宅内をウォークスルーできる楽しさもある。
 

まるで触れるのではないかと思うほどのリアリティーが味わえる




 
 
同社は2016 年6 月、大阪市天王寺区にある大阪営業所に「ALTA forVR」を設置したショールームをオープンさせた。スクリーンは4面タイプを備えたよりリアルで本格的なシステムを設置している。
 

4面スクリーンを備えた本格バージョンの「ALTA for VR」




 
 

未来のVRはどうなるのか?

人間にあらゆる体験を提供するマシンとして進化
 
VRはコンピューターで作り出された仮想空間のデータを、人間に対して出力するための究極の再生装置といっても過言ではない。人間には昔から視角、聴覚、触覚、味覚、嗅(きゅう)覚の五感があると言われるが、現在のVRは視角と聴覚程度しか再現しておらず、今後、人間の感覚に対応するための、さまざまな再生装置が登場するだろう。
 
実際、高層ビルが立ち並ぶ市街地のビル風解析結果を、実際に風を感じながら見られるVR装置も開発されている。
 

気流解析と連動し、上に付けたファンにより実際に風を感じられるVR装置の例。フォーラムエイト東京本社にて




 
 
また、人間の反応を、VRの世界にフィードバックするための入力装置も、さまざまなものが開発されてくるだろう。よりリアルになったVRの用途としては、(1)めったに起こらない事故や災害の疑似体験マシン、(2)リスク回避のためのトレーニングマシン、(3)未来や昔の生活環境を体験するタイムマシン、(4)現実ではなかなか味わえない夢をかなえるマシンなど、無限の使い方ができそうだ。
 
VRは人間の予知能力を高め、現実社会にうまく対応する力を磨き、想像力を育てるマシンとして発展していくことを願っている。
 
 

筆者プロフィール

家入龍太(いえいり・りょうた)
BIM/CIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける日本でただ1人の建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」で、建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。関西大学非常勤講師として「ベンチャービジネス論」の講義も担当している。公式サイトは「建設ITワールド」(http://ieiri-lab.jp/
 
 
 

建設ITジャーナリスト  家入 龍太



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集3「建設ITの最新動向」



 
 



 


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