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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

施工BIMの今-横森製作所のBIM-

2018年7月5日

 

はじめに

建物ごとに一品生産となる鉄骨階段の作図から製作の効率化を図るために開発した、鉄骨階段専門CADシステムの開発とその背景、専門工事会社におけるBIM活用の取り組みについて紹介する。
 
 

鉄骨階段専門CADシステムの変遷

当社は1993年より8年間、自社開発した鉄骨階段専門の2DCADシステムを使用した後、2001年よりAutoCADをプラットフォームとした自社開発のCADシステムを現在まで使用している。
 
このシステムはAutoCADの3D機能を利用して、鉄骨階段モデルを構築した後に、施工図、工作図(部材加工図)を2Dに投影して出力する、いわば現在のBIMに近い概念のシステムを使って、鉄骨階段、階段用受け鉄骨、手すりという各製品の作図を行ってきた。
 
2017年後半からは、ARCHICADをプラットフォームにした新システムの運用を開始した。
 
※以降Aut oCADのシステムを「旧システム」、ARCHICADのシステムを「新システム」と表現。
 

図-1 鉄骨階段専門CADの変遷




 

システム開発の背景

2DCADの時代から作図精度の向上および効率化と、製作工場の加工機械とCADから出力されるNCデータ連携を行い、作図と製造の生産性向上を図ってきた。しかし2DCADである以上、平面図、立面図、その他各種詳細図の編集は、線の1本1本を手動で行うため、施工図、工作図で図面間の不整合が多く発生した。また階段は必ず勾配が絡んでくるが、階段に絡む干渉物との回避や、ヘッドクリア確保などの確認も複雑になる。
 
旧システムではパラメータによる階段3Dモデルの自動組み上げ機能や、部品同士の干渉チェック機能を実装し、作図の段階で干渉を確認できるようにした。また工作図は、施工図との不整合や形状などの間違いが製品の誤作に直結するため、3Dモデルから工作図を自動で出力し、階段の骨格となるササラ桁からボルト1本まで正確に出力できるシステムを開発した。
 

図-2 鉄骨階段モデルの自動組み上げ




 

新システムの開発

旧システムは、鉄骨階段モデル編集に必要な機能を全てカスタマイズにより実装している。これまで最新のAutoCADへ載せ替えをしなくてもそれほど不都合がなかったことと、カスタマイズ機能の多さから、載せ替えには時間とコストがかかることもあり、プラットフォームはAutoCADのバージョン2006のまま運用してきた。しかし2015 年頃から最新のOSでは動作が不安定になる現象や、32ビットのパソコンでなければ動作しないといった問題が徐々に発生してきたため、最新環境で動作するシステムの開発に至った。プラットフォームの選定を行い、建築で利用されているBIMツールの中からARCHICADを選択し、新たな鉄骨階段BIM-CADシステムの開発を行った。
 
建築用BIMツールにはあらかじめフロア(階)の概念があること、建築用の作図機能や3D部品が実装されているので、その部分をそのまま利用できるというメリットがある。また設計事務所、ゼネコンとは、IFC形式でBIMデータの連携が行える部分も選定の理由である。
 

図-3 編集中のモデル




 
作図上重要となるルールは「モデルを使って作図をする」ということである。3Dなのでモデルを使うことがそもそも当たり前だが、客先とのやり取りで図面修正を行う際に、操作に長けていないスタッフが、2D出力された図面だけを修正してしまうということがある。この場合、承認の段階で2D図面は最新状態だが、モデルは古い状態のままとなる。しかし工作図作業ではモデルが必要になるため、社内ではモデル修正から工作図だけを行う専任者が生まれる。そこで承認後の2D施工図面を見てモデルを後から修正するという無駄な作業が発生する。また施工図担当者と工作図専任者間のやりとりで、伝達漏れや、工作図専任者の図面理解不足によるミスが発生する。
 
新システムはそれらを踏まえ、編集作業の軽減や自動化を多く実装し、作図者の負担を減らせるような機能を取り入れた。
 
また製作工場からの要求で、工作図に手動で加筆する項目が多く発生していたが、この部分についても自動化を図り加筆作業を軽減させた。
 
ただしシステムが高機能でも、正しい方法で利用しなければ効果は出ないため、現在は社内の操作教育と、運用方法の改善を並行して進めている。
 

図-4 鉄骨階段施工図と工作図




 

製造連携

製作工場ではCADから出力したNCデータによる加工を行っている。NCデータは厚板の切断と孔明けを行う厚板加工ライン、踏板と踊場板などを製作する薄板加工ライン、階段受け鉄骨などの型鋼材加工ラインといった部分で使用している。3Dモデルを直接取り込める機械も出ているが、その中で手すり製作工場では3Dモデルを取り込める3Dレーザー加工機を導入している。現在加工データは手入力しているが、今後は新システムからモデルデータを渡し、複雑な形状の部材加工を行えるようにする準備を進めている。
 

図-5 工場の踏板加工ライン




 

今後の課題と展望

社外とのBIM連携として、鉄骨製作業者(FAB)のモデルを取り込んで、鉄骨階段モデルの編集に利用したいと考えている。現在は鉄骨階段が取り合う部分は、2Dの構造図、鉄骨図面を参照して、受け鉄骨のモデルを当社のCADで配置し、ササラ桁と梁の接続部の取り合いを、階段モデルで編集を行っている。
 
将来FABなどのモデルデータが利用できれば、構造図、鉄骨図の読み違い防止と、階段を受ける鉄骨モデルの配置を省くことが可能になる。
 
その他では、設計事務所やゼネコンが使用している、汎用BIMツールで作成されたモデルから、階段オブジェクトの情報を取り込んで、当社の鉄骨階段モデル構築に必要なパラメータ情報(階段の各部寸法等)をインポートしてモデルの自動組み上げのようなことも思案している。
 
BIMを活用して作業の省力化と、製品の品質向上につなげていきたいと考えている。
 

図-6 屋外階段モデル




 
 
 

株式会社 横森製作所
技術部設計技術課 課長 島崎 建輔

 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集1「i-Construction×CIM」



 



建設業におけるAI活用の可能性

2018年6月5日

 

はじめに

近年のICT(情報通信技術)の技術的トレンドとして、IoT(Internet of Things)で取得したデータを、クラウド環境にビッグデータとして蓄積し、AI(人工知能)を駆使して分析する、いわゆる広義のIoTが注目されている。当小委員会では、この広義のIoTを中心に先端的情報技術の動向調査を行い、社会インフラ分野への適用可能性に関する研究を行っている(図- 1)。その中で、AIについては、今後、建設業界に大きな変革をもたらすものと考え、主要なテーマとして位置付けている。
 

図-1 広義のIoTの技術領域




 
 

AIの動向

第3次AIブームの到来
 
ここ数年、AI(人工知能)を用いた技術により、従来では考えられなかったような成果が次々と成し遂げられ、第3次AIブームが到来したといわれている。このブーム到来のきっかけとなったのは、機械学習の一手法である深層学習(ディープラーニング)である。
 
深層学習は、学習対象となるモノの特徴量を事前に与えることなく、対象物を自動的に識別することができるため、例えば犬と猫のような、一言で言い表せない違いを識別することができる。これは、いわば機械が目を持った(人間の目を使うような仕事を任せられるようになった)ともいえる大変なブレークスルーであるといわれている。
 
深層学習以外の手法についても急速に発展してきている。英Deep Mind Technologies LimitedのAlphaGoは、深層強化学習により、囲碁で世界棋士レーティング1位のプロ棋士に勝っている。米IBM CorporationのWatsonは、コグニティブ(認知)コンピューティングにより、東京大学医科学研究所のがん診断支援の研究で、8割近くの症例で診断や治療に役立つ情報を提示している。株式会社日立製作所のHitachi Technology/Hは、強化学習を発展させた跳躍学習により、学習データを用いずに最適解を導くことができ、多彩な分野での業務改革サービスに適用されている。
 
この他にも、さまざまなAI手法を駆使することによって、AIコールセンター、AI投資、AI自動運転車など、実生活に直結した成果が次々に現れており、AIによる社会の飛躍的発展への期待が高まっている。この期待感は、平成29年版の情報通信白書において、IoT/AI/ビッグデータが、経済成長シナリオで日本のGDPを132 兆円押し上げるという衝撃的な予想にも現れている。
 
 
見えてきた課題
 
一方で、AIは発展途上であり、特に深層学習では、以下に挙げるような課題が認識されるようになってきた。これらの現状の深層学習の性質により、専門知識や経験が必要であるにもかかわらずその人材が少ないことや適用可能な領域が限られてしまうことが、さらなる普及の妨げとなっている。
 
・ハイパーパラメータの調整が難しい
特徴量の抽出は自動化されても、良い結果を出すためのハイパーパラメータ(人間があらかじめ設定するパラメータ)の設定が難しく、データを投入すれば自動的に最適な結果が出力されるわけではない。
 
・大量の教師データが確保しにくい
目的に合った教師データを大量に集めるのが難しい。大量な学習データを持ち得る一部の巨大企業だけがAIサービスを提供でき、世の中を牛耳ってしまう恐れがある。
 
・ 結果の根拠がブラックボックス
導き出された結果は、なぜそのようになるのか根拠の把握が困難なブラックボックス状態であり、想定外の出力結果を得た場合の原因解析が難しい。
 
・ 専門家の知見を取り込めない
特徴量の抽出は自動的に行われるため、逆に、専門家の知見を取り入れることが難しくなっている。
 
 

建設業の動向

建設業においては、ゼネコンや建機メーカーなどの個々の取り組み、およびSIP(内閣府戦略的イノベーション創造プログラム)による産学連携研究などで、AIの活用が始まっているものの、現時点では研究段階や試験導入の段階であるものが多い。ただし、この分野では、高度な経験に基づく人間の判断が多く必要とされるため、今後、AIが活躍する余地が大きい分野として期待される。
 
国土交通省の動きとしては、2017年3月に「第4期国土交通省技術基本計画」において、同省の技術政策の基本方針を示し、2017 ~ 2021年度の5年間で実施するべき、重要な取り組みを公表している。その計画の3本柱の1番目として、「人を主役としたIoT、AI、ビッグデータの活用」をうたっている。人を主役として、IoT/AI/ビッグデータを技術政策の全てにおいて徹底活用することで、「人間の力」を高め、「新たな価値」を創造しようとしている。また、同省が取り組むi-Constructionにおいては、2025 年までに、建設現場の生産性を2割向上させることを目標としている。このことから、今後、i-Constructionにおいても、IoT/AI/ビッグデータを徹底活用する流れになることが想定される。
 
i-ConstructionでのAIの活用の鍵となるのがCIMである。i-Constructionは、現場・工程のICT化を幅広く行う施策であるが、さまざまなデータがCIMデータとして流通しないとICT化することができない。
 
一方、AIは、IoTにより集められたビッグデータを分析して、処理結果をCIMデータにフィードバックする自動処理API(Applicat ion Programming Interface)として活用される。このようなことから、i-Construction、CIM、IoT/AI/ビッグデータがそれぞれ進化しながら、三位一体となることで、建設業における超スマート社会が実現するのである(図-2)。
 



 
 

施工でのAI活用

施工では、建機や人の稼働データによる作業認識、施工現場の画像認識などにAIが活用されている。この分野では、ある程度の学習データを集められる、ゼネコン各社や建機メーカーなどが先進的に取り組んでいる。株式会社大林組では、社内で30を超えるAI関連技術の研究開発が進行中である。また、コマツ(株式会社小松製作所)では、AIを含めた次世代技術の開発に研究開発費の15 ~ 20%を充て、東京工業大学や米MIT(マサチューセッツ工科大学)と共同研究を行っているという。
 
 
山岳トンネルの切羽評価システム
 
日本の山岳トンネル工事では、NATM(New Austrian Tunneling Method)が標準工法として採用されている。NATMでは、支保工の規模を事前の地質調査に基づいて計画しているが、計画地点における実際の切羽(掘削面)の強度、風化変質、割目間隔、割目状態、走向傾斜、湧水量および劣化度合の7項目を、現場技術者が評価し、その結果によって計画を逐次見直している。
 
株式会社大林組では、MathWorks Japan(マスワークス合同会社)の協力の下、AIを用いて地質学の専門家と同等の評価を可能にする切羽評価システムの開発を進めている。
 
本システムでは、深層学習を活用し、切羽の画像と専門家の評価結果の学習を通じて、地質状況を早く、高精度に評価することを可能とする。従来は切羽の画像を上方、左右の3領域に分割して平均的な評価をしていたが、本システムでは、画像の領域を227×227ピクセルごとに分割し、1000万画素の場合、約130領域に細分化して深層学習で即座に評価するため、切羽の変状や崩落に対応するための局所的な手当てができるようになる(図-3)。これにより、工事の安全性、経済性が向上する。
 

図-3 従来の切羽の評価領域(上)とAIによる切羽の評価領域(下)




 
 

維持管理でのAI活用

維持管理では、点検現場でのひび割れの画像認識や、打音・漏水音の音認識などにAIが活用されている。この分野では、SIPの研究開発による社会実験が進んでいる。SIP課題の「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」では、10件以上のAI 関連技術を用いた産学連携のプロジェクトが進行している。
 
 
舗装路面の異状検出システム
 
道路管理者は、利用者の安全・安心を確保し、維持管理費用を抑えるために、路面計測を行い、異状箇所から補修すべき箇所を判断し、早期に補修することが重要である。しかし、現状の路面計測は、高価な専用車両を用いてひび割れ、わだち掘れ、平たん性に関するデータを収集する必要があり、実施範囲、頻度ともに十分行われていないのが実状である。
 
JIPテクノサイエンス株式会社では、東京大学と共同で、SIPにおいて、AIを用いて舗装路面の異状検出を行うシステムの研究開発に取り組んでいる。
 
本システムでは、深層学習を活用し、車両から撮影した路面の動画像から、ひび割れなどの損傷のほか、パッチング、ジョイント、マンホールなどの平たん性を損ねる状態(異状)を識別し、道路上の位置を認識する(図-4)。
 

図-4 路面の動画像からAIでひび割れを検出




 
この結果に、同じく車両に搭載したスマートフォンを用いた道路性状簡易評価システム「DRIMS(ドリムズ)」で収集したIRI(国際ラフネス指数)の推定結果を組み合わせた劣化診断を行う。これにより、道路管理者の点検を省力化するとともに、補修に係る意思決定を高度に支援できるようになる。
 
 

その他のAI活用

建設業におけるその他のAI活用状況としては、施設運用の一環として、AIを活用したスマートエネルギーシステムの導入が挙げられる。この分野では、施設の建設に関わるゼネコン、エネルギーを供給する電力・ガス会社、機器を導入する電機メーカーなどが取り組んでいる。
 
 
スマートエネルギーシステム(AHSES)
 
省エネルギーの推進はわが国にとって喫緊の課題となっており、高度な省エネルギー性能を有する建築物として、ZEB(Net Zero Energy Building)の実現・普及が求められている。ZEBの実現には、建築物・設備の大幅な省エネ化と再生可能エネルギーの導入に加え、天候に左右される太陽光発電や容量に限りがある蓄電池の電力を、変動する需要に対して効率的・効果的に供給できるEMS(Energy Management System)の構築が不可欠となっている。
 
安藤ハザマ(株式会社安藤・間)では、株式会社Mirror Life、株式会社サイテック・ジャパン、株式会社アバール長崎、および株式会社ファーストリリーの協力の下、AIを活用した新たなEMSを含むスマートエネルギーシステムAHSES(Adjusting to HumanSmart Energy System)を開発した。
 
本システムは、①電力需要を予測し最適な運転計画を作るプログラム、②創エネ設備、③蓄エネ設備、④電力変換装置および⑤エネルギーの運用状況を確認する「見える化」画面から構成されている。このうち、①のプログラムにおいて、建物の利用や気象の情報を基に、機械学習と数理手法により電力需要予測および最適運転計画を行い、創エネ設備と蓄エネ設備から最適なタイミングで電力をアシストしている。これにより、電力負荷のピークカット効果が期待される(図- 5)。
 

図-5 一般的なエネルギーの運用例(左)とAHSESによるエネルギーの運用例(右)




 
 

AIを活用するための共通プラットフォーム

今後、AIの適用範囲を広げていくためには、多様なデータを統合して活用することが求められる。そのためには、共通のDB、データモデル、APIなど、データ流通のためのソフトウェアプラットフォームの整備が不可欠である。また、業務で活用しながら運用することを考えると、これらのプラットフォームには柔軟性が必要である。この分野では、自社で管理している施設のあらゆるデータを集めることができる、高速道路の道路管理者や鉄道事業者などが先進的に取り組んでいる。
 
 
スマートメンテナンスハイウェイ(SMH)
 
NEXCO東日本(東日本高速道路株式会社)では、高速道路の長期的な「安全・安心」の確保のために、ICTや機械化を積極的に導入するとともに、それらが技術者と有機的に融合したメンテナンスに関わる業務基盤を再構築することで、生産性を飛躍的に向上するためのプロジェクト「スマートメンテナンスハイウェイ(SMH)」に取り組んでいる。
 
社内で保有する高速道路管理のためのデータは、資産管理、点検管理、橋梁管理など、多様な業務ごとに構築された15の個別システムがそれぞれ管理する、多種多様なデータベースに格納されており、またその管理データ数も膨大である。インフラの健全性を長期的に維持していくためには、これらのデータを横断的に把握し、業務横断的なアセットマネジメントの最適化が重要である。本プロジェクトでは、「高速道路管理のAI化」を見据え、SIPにおいて産学連携により開発された成果を活用して、センサーなどのIoT技術やビッグデータ解析なども取り入れられるシステムを構築している。そのシステムの主な技術的特徴は、以下の通りである。
 
・多種多様な道路維持管理データを識別し、その関係性を把握しやすくするために、ITU-T(国際通信連合 電気通信標準化部門)の国際標準となっている番号体系であるucodeを、個々の道路維持管理データに付与した。
 
・多様なデータベース間の横断的な検索や、目的に応じたアプリケーション拡張、さらにAIやビッグデータ解析への適用を可能とするため、管理データを外部のシステムから取得するためのAPIを規定し、全ての管理データをこのAPIを利用して取得できるようにした。また、このAPIを用いて、多様かつ大量のデータから位置情報や属性をキーとして容易に目的のデータを検索できるようにした。
 
・APIを介して交換される道路維持管理データがもつ意味(セマンティクス)をアプリケーションが共通して理解できるようにするために、RDF(Resource Description Framework)モデルを用いて道路維持管理データを表現・交換できるようにした。RDFモデルは、主語・述語・目的語の3 要素を基本として、データの属性や意味を記述する枠組みであり、セマンティックWebやオープンデータの分野で広く利用されている。さらに、近年のWebアプリケーションとの親和性を高めるために、APIを介して交換するデータのフォーマットとして、JSON(JavaScript Object Notation)を採用した。
 
こうした技術の実装は、維持管理や建設の実務により日々生成される多様なビッグデータを横断的に取得し、機械可読な形式で扱いAI応用を実現するために必須となる基盤整備ある(図- 6)。
 

図-6 AIを活用するための共通プラットフォームの構成




 
 

今後の展望と課題

建設業における高度なAI活用の展望として、以下の5つのフェーズがあると考えられ、これらのフェーズが、段階的に、あるいは一部並行して進んでいくものと思われる。現在はフェーズ1が主流であると考えられ、フェーズ5 のSociety 5.0 の世界に向けて、さまざまな課題を克服していく必要がある。
 
①作業主体単独データへのAI活用
建設業では、建機や人の作業認識、施工現場の画像認識、点検現場の画像・音認識など、各種の認識をする工程にAIを活用する取り組みが進んでいる。これにより、従来は人間が記録していた作業の自動化や、人間では把握しきれない情報の処理が可能になり、省力化や品質向上が期待されている。
 
これらの認識系の工程については、データの取得が作業主体単独で可能であるという特徴があり、現状では、個々の作業主体が独自の取り組みとしてデータの収集と分析を行っている。今後は、基準類の見直しにより、施工時や点検時に必ず構造物に長寿命のセンサーを取り付けるなど、社会インフラとしてのIoT情報収集基盤を整備する必要がある。
 
②データ共有の進展
建設業でAIをより高度に活用していくためには、作業主体がアクセス可能なあらゆるデータを複合して利用し、複雑な判断による意思決定支援のような機能を目指す必要がある。このために、道路管理者や鉄道事業者が進めているような共通APIの仕組みが広く採用され、作業主体の範囲を超えた横断的なデータの流通が可能になることが求められる。
 
なお、データ共有基盤が整備されたとしても、ただ単にデータが流通しただけでは、後工程で使えない可能性がある。例えば維持管理で上流データを活用するためには、施工段階で維持管理での利用を想定した施工記録が必要となる。このため、特に上流のデータは、その記録方法を十分に検討する必要がある。
 
③検索用AIの進展
データ共有基盤に各工程のデータが十分に蓄積された時、その活用のためには、多様で複雑なデータから目的のデータを素早く見つける必要がある。このデータ収集の工程では、必要となるデータを検索する技術、類似データを検索する技術、関連データを検索する技術が必要であり、ここにもAIの活用が想定される。
 
建設業では、現場によってさまざまな条件が異なり、必要なデータもその都度異なる。また、過去のデータは、整備されないまま蓄積される可能性がある。このような条件の下、利用者の意図をAIが忖度し、期待通りの結果を得ることが求められる。
 
④意思決定を支援するAIの進展
多様なデータがそろった時、それらのデータを分析するAIがさらに発達し、人を高度に支援するシステムが実用化される。建設業では、高度な自動設計、施工計画の支援、アセットマネジメントの支援などに活用される。
 
高度な支援システムが利用可能になると、AIの誤った判断を人間が信じて施工ミスしたり、自律制御しているAIが事故を起こしたりすることにより、損害が発生することも考えられる。このような新たな問題に対して、未然の防止策や発生後の対応策など、システム的な対応や社会制度の整備などを進めていく必要がある。
 
⑤異業務・異業種間のAI連携
 
おのおのの業務でAIによる最適化が進んだ後は、今度は、業務や業種の壁を超えてAIが連携し、最適化が始まる。これにより、業種を超えた全く新しい価値と需要が次々と生み出される、Society 5.0の社会になる(図-7)。
 

図-7 異業種間のAI連携のイメージ


 
上記のフェーズ4までの取り組みにより、人間は、インターネットを得たことで知識を補強したように、AIを得て技術を補強できるようになる。その結果、担当業務の作業効率向上や、担当可能な業務の幅の拡大が見込まれる。しかし、AIをより少ない人数で多くの業務をこなす効率化のみに活用していると、ある時点で効率化の限界に達してしまうと思われる。
 
従って、建設業は、フェーズ5により異業種や一般利用者へ新しい価値を提供することを、AI活用の主目的とすることを提言する。AIによる効率化は、人間がイノベーションに注力するために行うという位置付けである。これにより、建設業界の構造を変革し、社会インフラの健全な維持・発展へつなげることができるものと考えている。
 
新しい価値とは、異業種をも巻き込む難題である。常日頃、新しい価値とは何かを考える、これこそが、AIが真似できない人間の創造力なのである。
 
 

土木学会 土木情報学委員会 IoT活用研究小委員会

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集3「建設ITの最新動向」



 



国土交通省における3次元データの利活用

2018年5月24日

 

はじめに

建設現場の生産性向上を図るためには、3次元データを測量・調査段階から導入し、その後の設計、施工、維持管理の各段階において情報を流通・利活用させることが、より一層の生産性向上に不可欠です。2次元図面から3次元データへの移行により、業務変革やフロントローディングがもたらされ、合意形成の迅速化、業務効率化、品質の向上、ひいては生産性の向上等の効果が期待されます。
 
国土交通省では、3次元データの利活用の取り組みの一つとして、CIMモデルを活用するモデル事業を進めており、これらモデル事業の結果も踏まえ、2017年3月に「CIM導入ガイドライン(案)」を策定しました。
 
本稿では、これまでのCIM導入に向けた取り組みとガイドラインの概要、今後の3次元データ導入に向けた取り組みについて紹介します。
 
 

CIM活用モデル事業で確認された効果と課題

国土交通省では、CIMの本格的な導入に向けて、CIM導入効果の把握やルール作りの検討のため、業務については2012 年度より、工事については2013 年度よりCIMの試行を進めており、これまで、設計業務で90 件、工事で196 件の合計286 件で実施しています(表-1、表-2)。
 



 
これらの業務等の受発注者に対し、以下のとおりアンケート調査を実施しました。
 

・ 調査項目:CIMの導入により効率化が図られた利活用項目、CIMの導入に当たっての課題
・ 時  期:2017年1月
・ 対  象:2016年度に実施中
(2015 年度からの繰越を含む)のCIM活用業務37件、工事101件の受発注者
・ 回  答:発注者回答…79件(57%)
      受注者回答…103件(75%)
 
アンケート調査の結果は、以下のとおりです。
 
(1) CIMの導入により効率化が図られた利活用項目(図-1)
 

図-1 CIMモデルにより効率化が図られた項目




 
CIMモデル導入により効率化が図られた項目は、可視化された構造物モデルを活用して住民説明や関係者間協議を実施したり、周辺環境、景観などのシミュレーションの実施結果を活用し発注者等と打合せすることにより「合意形成の迅速化」が図られるという回答が229 件(30%)と最も多く、意思伝達ツールとしての有用性が確認されました。一方で、「監督・検査」では44件(6%)、「数量算出」では30件(4%)、「事業スケジュールの把握」では6件(1%)と、CIMモデルの効果として期待されているものの、その機能が必ずしも生かしきれていない項目もあることが確認されました。
 
(2)CIMモデルの利活用に当たっての課題(図-2)
 

図-2 CIMモデル導入における課題




 
CIMモデルの利活用に当たっての課題は、モデル作成の手順・手法に関する「基準類、ルールの未整備」が149件(40%)で、今後、速やかに対応することが必要との調査結果となりました。次いで、「費用の増加」が86件(23%)、CIMに対応できる「人材の不足」が55件(14%)、「ソフトウェアの機能不足」等が47件(12%)となっています。
 
 

CIM導入ガイドライン等の策定

(1)ガイドラインの概要
 

国土交通省では、これまでのCIM活用モデル事業で得られた知見やソフトウェアの機能水準を踏まえ、現時点でCIMモデルの活用が可能な項目を中心に、受発注者の役割、基本的な作業手順や留意点とともに、CIMモデルの作成指針(目安)、活用方法(事例)を参考として記載した「CIM導入ガイドライン(案)」を2017年3月に策定しました。CIM導入ガイドライン(案)は、公共事業に携わる関係者(発注者、受注者等)がCIMを円滑に導入できることを目的に作成しています。
 

将来的には2次元図面から3次元モデルへの移行による生産性向上等が期待されるものの、2017年度版では「現行の契約図書に基づく2次元図面による発注・実施・納品」を前提にしています。
 
(2)ガイドラインの構成と対象工種

 

ガイドラインは、共通編(第1編)と各分野編(土工編、河川編、ダム編、橋梁編、トンネル編)の全6編で構成されており、各編を組み合わせて使用することを想定しています。なお、土工編(第2編)については「ICT土工」の要領・基準類に基づき、発注者・受注者が行うべき事項を示しています。
 
(3)CIM導入ガイドライン 共通編

 

CIMおよびCIMモデルの作成・活用の基本的な考え方や、各分野共通で行う測量、地質・土質のモデルの考え方を示しています。
 

1)CIMモデル詳細度
 

詳細度とは、CIMを活用する目的、場面、段階等に応じた3次元モデルの形状、属性情報に関する作り込みレベル(目安)を示すものです。CIMモデルをどこまで詳細に作成するかは、CIMモデル作成や活用の目的により異なりますが、詳細度といった指標がない場合には、3次元モデルを構築・納品した際に、作成者ごとにモデルの作り込み内容が異なる等によって、無駄、手戻り等の発生や混乱が生じます。このため、受発注者間で事前に確認協議の上、決定しておく必要があり、本ガイドラインでは共通編および各分野編で各工種の詳細度を示しています(図-3)。
 

図-3 CIMモデルの詳細度(橋梁の例)




 
2) CIMモデルの定義・構成
 
CIMモデルとは「対象とする構造物等の形状を3次元で表現した『3次元モデル』と『属性情報』を組み合わせたもの」と定義しています。また、構造物モデル、地形モデル等の各要素単位のCIMモデルと、それらCIMモデルを統合して活用する「統合モデル」の考え方を示しています。
 
(4)CIM導入ガイドライン(案)各分野編(図-4)
 

図-4 CIM導入ガイドラインの目次構成




 
各分野編では、各段階において発注者、受注者それぞれが取り組むべき内容を示し、作業の流れと対応した目次構成としています。対象は、測量、地質・土質、調査・設計、施工、維持管理までの段階について記載しています。また、別途、各要領・基準等で規定されている作業も含め、受発注者がやるべきことの概略を把握できるようにしています。
 
 

3次元データの利活用シーン

建設現場の生産性向上を図るためには、3次元データを測量・調査段階から導入し、その後の設計、施工、維持管理の各段階において情報を流通・利活用することが、より一層の生産性向上に不可欠です。
 
このため、CIM活用モデル事業における分析等を踏まえ、今後、各段階において以下のとおり利活用を推進していきます。
 
なお3次元データの利活用に当たっては、発注者と受注者が情報を共有しながら進めることで、合意形成の迅速化等について、より一層の効果が期待できるため、事業実施時における効率的な情報共有の方法についても検討し、利活用を推進することとしています。
 
(1)測量・調査段階

 
3次元化された公共事業の測量データと周辺の土地利用データとの重ね合わせにより、河川氾濫シミュレーション等、各種シミュレーションへの活用や都市部における土木・建築構造物の景観検討に利活用することが可能です。
 
特に、ボーリングデータ等の地盤情報については、国や地方公共団体の公共工事のみならず、ライフライン工事、民間工事も含めて可能な限り広い範囲について収集・共有し、3次元データ化された情報を利活用できる仕組みを構築することで、地震・液状化シミュレーション等の各種シミュレーションに活用できるほか、不確実な地盤情報に起因する事故発生の低減に活用できるなど、地下工事における安全性や効率性の向上が期待できます。
 

(2)設計段階

 
住民説明や関係者間協議等において、可視化された3次元データを活用し計画内容等を説明することで、合意形成の迅速化を図ります。また、図面間の不整合の解消、鉄筋同士の干渉部分を自動で判別する干渉チェックにより設計品質の向上を図るとともに、施工段階での手戻りの防止を図ります。
 
また、周辺環境、景観などのシミュレーションの実施や、仮設・施工計画や維持管理段階に係る事前検討、いわゆるフロントローディングにより設計成果の品質向上・公共工事の効率化に資する活用を図ります。
 
さらに、3次元データからの数量の自動算出による積算および経済比較の効率化、ライフサイクルコストを考慮した多様な設計手法の開発、工期の自動算出による週休2日を前提とした工期設定などにも利活用が可能です。また、既存の施工・維持管理段階で得られたデータを分析・加工することで更新時の概略設計への活用が期待できます。
 

(3)施工段階

 
3次元データにより仮設・施工計画の可視化や工程情報を付与した施工ステップモデルを作成することで、建設現場の安全対策や最適となる人材や資材の確保への活用を図ります。また、設計段階から施工段階へ3 次元データを引き継ぐことで、施工着手時の図面の照査等の効率化、3次元データとUAV写真測量、レーザースキャナー、マルチビーム等による3次元計測を連携し施工の実施状況の把握および出来形管理の効率化、3次元データからの数量の自動算出による最適調達の実現、工期の自動算出による最適な施工工程の実現が可能となります。また、3次元データに部材の工場製作のため必要となる属性情報を付与することで、工場の生産ラインの効率化が図られるとともに、出来形などの情報を建設現場に早期に伝達することにより、建設現場の効率化が可能です。
 

(4)維持管理段階

 

維持管理段階においては、3次元化された施工段階の出来形計測データを活用することにより、構造物の変位把握の効率化が可能です。特に災害時に発生した地形等を経年的に計測することにより、変位把握の効率化が可能です。
 
また、施工時の機械の稼働履歴のデータ、資材の製造・供給元や品質のデータ、発生土・搬入土の移動履歴データにも3次元位置情報を付与し、CIMモデルに連携させて保管することで、変状発生時や災害被災時における原因究明や復旧対策の効率化が可能です。
 
 

データの利活用に向けた取り組み

建設現場の生産性向上を図るためには、3次元データの普及・拡大が不可欠であることから、今後、以下の取り組みを進めていきます。
 
(1)G空間情報センターとの連携

 
G空間情報センターは、国、地方公共団体、大学、民間等が保有するオープンデータ、有償・無償データ、独自データなどの多様なデータ等を提供しており、これらを活用することにより、電子地図上で必要な情報を確認することが可能です。
 
3次元データの普及・拡大に当たっては、G空間情報センターが保有する情報等と併せて活用することで、さまざまな利活用モデルの実用化を図ることが可能となることから、積極的に連携を図ります。
 
(2)3次元データの仕様の標準化

 
データの標準的な仕様での納品を徹底することにより、測量・調査から設計、設計から施工に移行する際に、大幅な修正や追加が生じることなくデータの利活用が可能となることから、異なる事業者等が作成したデータでも、誰もが等しく利活用できるようになるものと期待しています。
 
このため2017年度は橋梁および土工について、2018年度はトンネル、ダム、河川構造物(樋門・樋管)におけるデータの標準的な仕様を策定します。またファイル形式については、国際標準化に向けた検討情報を適時把握し、標準化されたファイル形式が日本での3次元データの利活用の支障とならないよう、必要な提案を行いながら、順次、国際標準の適用を進めます。
 
さらに3 次元データの利活用に当たっては、既存の2次元データも活用しつつ、測量、調査、設計、施工、維持管理で一気通貫の流通・利活用を目指しています。このため、「CIM導入推進委員会」 において、既存の電子納品保管管理システム等と連携し、各段階のプレイヤーが効率的にデータを利活用できるシステムの検討を進め、2018年度までにシステムの仕様等をとりまとめ、2019 年度からシステムの構築を開始します。
 
(3)既存データの利活用(既存構造物等の3次元化)

 
これまで国土交通省が発注する業務および工事では、2次元図面等の成果品は電子データで納品され、これらを格納する電子納品保管管理システムに蓄積されています。
 
今後、早期に維持管理段階に3次元データを利活用できるようにするためには、格納データも活用し3次元化する必要があります。
 
このため、さらに成果品の的確かつ確実な格納を進めるとともに、2019年度までに電子納品保管管理システムに格納されている2次元図面を活用し、既存構造物等を効率的に3次元化する方法を策定し、順次転換を図ります。
 
(4)3次元データ利活用モデルの実現の支援

 
国土交通省が持つ公共事業に関するデータと、国や地方公共団体等が所有する地形・地盤・気象・交通情報などのデータを連携して利活用することで、さまざまなモデルの構築が可能です。
 
このため、国等の安全、データ改ざん等のセキュリティ対策、データ所有権の明確化、利活用の目的に応じたデータの評価等の解決すべき課題を整理し、国土交通省が持つ公共事業に関するデータのオープン化などの3次元データの利活用が促進される環境整備を目指します。
 
 

推進体制

今後、上記の取り組みや目指すべき3次元データの共有方法や利活用ルールについて、「i-Construction推進コンソーシアム」 と「CI M導入推進委員会」が連携しながら議論を継続的に推進します。
 
また、2次元データ等の3次元化や各種データを統合して分析することなどを目指しており、そのためには産が持つ3次元データの活用ニーズや保有するデータを分析する技術と、学が持つ3次元データの活用の見識を連携させて研究を進めることが重要です。このため、民間企業と大学が連携した研究体制と国が連携することにより、オープンデータ化などの3次元データの利活用が促進される環境整備を目指します。
 
さらに、3次元データ活用を加速するためには発注者の知識向上も重要であることから、地方整備局や都道府県等職員向けの3次元データに関する研修を充実するとともに、3次元データの活用効果等をとりまとめた事例集を作成し、事業実施の際に活用します。
 
 

おわりに

建設現場の生産性向上を図るためには、3次元データ等の導入を国の直轄工事以外にも拡大していくことが必要です。このため、地方自治体に対して、発注関係者の集まる発注者協議会や土木部長会議等の場において、国土交通省における取り組みについて周知を図りつつ、連携して取り組みを進めてまいりたいと考えています。
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐 城澤 道正

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集1「i-Construction×CIM」



 



施工BIMの今 -戸田建設のBIM-

2017年7月28日

 

はじめに

今回のテーマである施工BIMの本題に入る前に、当社におけるBIMの位置付けについて話をしたい。
 
当社は現在、会社全体として「フロントローディング」による生産性向上の取り組みを進めている。この取り組みを実現するために必要なものとして、①ワークフローの全体最適化、②そのワークフローを実行可能にするための体制と役割分担、③全体を取りまとめるマネジメント思考(統合マネジメント思考)、④BIMの活用、を挙げている。
 
当社はBIMをワークフローと密接に関係する、生産性向上のための一つの要素として捉えている。具体的にはプロジェクトの客先要件とリスクの見える化を行い、スケジュールおよびタスク(作業/業務内容)管理により課題を先行して解決するためのツール、またこれらのリスクや課題などの情報を統合するプラットフォームとして捉えている。
 
 

施工BIMの考え方/進め方

当社が考える施工BIMは、着工前に生産設計や施工側でフロントローディングを実践し、その中でいかにBIMを利用するかである。これを「プレコンストラクション」と称しているが、具体的な進め方は、まずプロジェクトの客先要件とリスク、特性からBIMの利用目的を特定する。次に生産設計視点による設計図のチェックを行うことによって、リスクを洗い出すとともにタスクを整理し、そのタスクの内容に基づいたBIMモデルを構築する。そして、これらの流れの中で抽出された課題を、BIMモデル中心の打合せによって調整や解決を図っていくという流れである。この進め方は2D図面の質疑により、繰り返し訂正を行う従来の流れよりも、作図のロスタイムやロスコストを抑えることが可能と考えている(図- 1、2、3)。
 

図-1 プレコンストラクションにおける生産設計ワークフロー




 
 

図-2 BIMモデルの流れと成果物




 
 

図-3 モデル中心の打合せ(BIMマネジメント会議)の様子




 
 

プレコンストラクションの取り組み内容

①生産設計業務のフロントローディング
 
当社は従来の2D作図先行による訂正を繰り返し行う課題解決の進め方からBIMと2Dを併用した課題を先行して解決する進め方に転換することを進めている。従来の2Dに加えて、設計内容や課題の見える化にBIMの3D情報を活用する進め方である。この方法を実施した事例では、関係者に対して分かりやすく伝わり、回答のスピード化につながった(図-4)。
 

図-4 課題の見える化の一例




 
 
また課題を「課題シート」という形でまとめている(図- 5)。
 

図-5 課題シートの例




 
 
ビジュアル的に見やすく、伝わりやすいものにし、経過や回答状況も併せて記すことで履歴管理のドキュメントとしても活用している。
 
次に取り組む体制だが、初動期支援を行うためのフロントローディング推進体制の構築を進めている。参画時期が従来と変わって前倒しとなってくるため、生産設計リソースの割り当てや役割の分化が必要である(図-6)。
 

図-6 生産設計のフロントローディング体制とその参画時期




 
 
現状は各部門への役割の割り当てやタスク工程の策定を推進部門であるBIMCM室が担っている。来期から本社以外の支店にも同様な推進部門を展開する予定である。
 
また設備のBIMモデル統合による調整の早期化や早期の課題解決を図るべく、専門工事会社との協働も進めている。図-7は従来2Dにて重ね合わせを行っていたものをBIMモデルによる統合確認を行うことで、課題解決のスピード化につながった事例である。
 

図-7 設備施工図と建築モデルの統合確認




 
 
このような取り組みの中で、設備会社を始め、さまざまな専門工事会社との連携を開始しており、製作図作成も視野に入れている。また施工図に関しても、現状はBIMから下図として出力し、2Dにて仕上げる流れで進めているが、将来的にはBIMモデルから直接施工図の作成ができるような手法の検討も行っている。
 
 
②施工計画のフロントローディング
 
施工計画の取り組みとして、生産設計や技術、工事の視点による施工上の課題を抽出するためにBIMモデルを利用している。これは2Dによる事前検討資料では気が付かない課題を3Dでより詳細に検討を行うためであり、施工計画におけるステップ図の作成も行っている(図- 8)。
 

図-8 仮設計画の検証




 
 

施工部門におけるBIM対応力およびマネジメント教育の強化

プレコンストラクションをより推進していくために施工部門のBIM対応力やマネジメント教育を強化することも重要である。4つの取り組みについて紹介する。
 
①BIM利用環境の整備
 
生産設計や施工側で利用できるBIMのネットワークライセンス環境を昨年末までに整備した。ハード環境に関しては、今期中に現場社員に対してVDI環境(BI Mをサーバー側で稼働し、画面をPCに転送する仕組み)を整備する予定である。
 
②BIM基本操作教育の実施
 
生産設計課や設備課、技術課、工事課に対してBIMの基本操作教育を行い、その上で推進部門であるBIMCM室にて、実務としての施工計画や施工管理におけるBIMの活用方法の研修を必要に応じて行っている。
 
③スターターBIMモデルの供給
 
上記2項目により、環境が整い、操作スキルが身についても、実際に自分が担当する案件でBIMモデルを利用しなければ本当の意味でのフロントローディングの部門展開は進まないと考えている。そこでスターターBIMモデルと称する、躯体モデルをベースとしたモデルを各作業所へ供給することで、日常的にBIMモデルが活用できる環境の整備を始めている。
 
④PM(プロジェクトマネジメント)教育
 
フロントローディングを進めていく上での協業作業を取りまとめることができる中心的な人材を育成するためにPM教育を行っている。対象者はフロントローディングの推進担当者やプレコンストラクション案件のプロジェクトマネージャ、生産設計課員、現場工務などである。この教育を行うことでゼネコン内部に根付く部門間の縦割りの考え方が少なくなることを期待している。
 
 

最後に

ここまで「施工BIMの今」として話を進めてきたが、途中、アウトプットとしての成果物や社内の体制、専門工事会社との体制など今後に向けた話も行ってきた。
 
今後はフロントローディングによる社内改革の動きを会社全体へより迅速に進めていくため、推進部門としてのBIM-CM室主導から各支店主導へ移行していきたいと考えている。
 
 
 

戸田建設株式会社 建築本部BIM-CM室 北川 剛司



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



施工BIMの今 -竹中工務店における設計施工のメリットを生かした施工BIM-

2017年7月18日

 

はじめに

竹中工務店における施工BIM事例の第1号は、1988 年竣工のドーム建築であり、大規模な屋根を精緻に施工するため、3次元データで光波測量機を制御した事例である。当初は、このように特殊な施工条件へ対応する手段としての活用が主であったが、近年は、条件に関わらず広く施工BIMに取り組んでいる。特に設計施工案件のメリットをより生かす手段として、施工段階におけるゼネコン・専門工事会社の調整等での活用が進んでおり、本報では事例と、実施するための基盤整備状況を紹介する。
 
 

施工BI Mの事例(1)専門工事会社連携によるBIMモデル合意

当社では、「BIMモデル合意」と呼ばれる手法を活用した事例が多い。BIMモデル合意とは、日建連「施工BIMのスタイル」1)で定義された表現で、異工種間調整をゼネコンと専門工事会社がそれぞれ作成したBIMモデルの重ね合せによって実施することである。従来、打合せのためだけに作成していた2次元図面の削減や、課題の早期解決といった効果が期待できる。
 
当社におけるBIMモデル合意の運用としては、作業所に社内外関係者が集まり、重ね合せたBIMモデルをプロジェクター等で表示しながら、その場で課題解決する、もしくはビューア上で記録する打合せ(以下、重ね合せ会という)を定期的に開催する方法が多い。特に、設計施工案件では、設計段階から施工関係者を交えた重ね合せ会を実施し、生産情報を早期に反映させていくことで、課題解決の効率化を図っている。重ね合せ会の様子を図-1に、レポートの例を図-2に示す。
 

図-1 作業所における重ね合せ会の様子




 
 

図-2 ビューア上で作成する課題レポート




 
 
現状、BIM対応が可能な専門工事会社は鉄骨・設備・鉄骨階段・ELV・外部建具が主であり、その他の工種については当社が2次元の製作図を取りまとめ、適切にBIMモデルへ反映していく。重ね合せ会では、データマネジメントを行う担当者自身が課題抽出・解決を行う必要があるため、作業所の施工図担当者が務めると、うまく運用できているケースが多い。活用事例では、躯体と空調設備との重ね合せによるスリーブ調整における事例が多く、関係者全てでメリットが得られている取り組みである。例えば図-3のように、RCモデル上で梁貫通可能な範囲を視覚的に自動表示させることで、調整作業が大幅に効率化されている。
 

図-3 RC梁貫通箇所の検討例




 
 
さらに、自社開発の鉄筋BI Mツール「RCS」を活用し、鉄筋専門工事会社と連携した加工図・加工帳作成の取り組みも始まっている(図-4)。
 

図-4 自社開発の鉄筋BIM ツール「RCS」を活用した施工BIM




 
 

施工BIMの事例(2)BIMモデル承認の取り組み

先端的な取り組みとしては、合意だけでなく、承認までBIMモデル上で行う「BIMモデル承認」にも取り組んでいる。対象は鉄骨承認が多く、鉄骨モデルのプロパティに確認記録を残すツールを活用する等、エビデンスの残し方に工夫をしている。BIMモデル承認を実施することで、体裁が細かく決められている2次元承認図が不要となり、ファブの作図労力・ゼネコンのチェック工数が削減される。ただし、関係者間での確認や、工場における鉄骨製作、現場での施工では2次元図面が必要となる。それらでは、鉄骨製作のために工場で必ず作成される単品図を使っている。省略した承認用の詳細図と、製作用の単品図の違いは、図-5に示す通り、通り心や寄り・下がり寸法の記載有無等が主である。これらは製作上必要ないが、ゼネコン承認のためだけにファブが手間をかけて作成しているものである。
 

図-5 省略する承認用詳細図と、必ず作成される製作用単品図の違い




 
 
このように、BIMによって省略できるもの、できないものを事前に仕分けすることで、施工BIMによる効果をより享受できる。
 
なお、BIMモデル合意・承認におけるポイントは、BIMモデルの信頼性に尽きる。2次元図面が正になってしまうと、BIMモデルでの合意内容に意味がなくなってしまうためである。信頼性確保のためには、作業所長のリーダーシップが不可欠となる。途中で2次元図面を作成せず、プロジェクトとしてBIMモデル合意に取り組む体制、雰囲気作りが重要である。
 
 

施工BIMの事例(3)図面・モデル支給を実現する施工BIM

設計施工のメリットのひとつは、先述した通り、設計段階から早期に生産情報を盛り込むことができる点である。また、BIMモデル合意の効果として、2次元よりも早期に課題抽出・解決が可能となる点がある。この2点が組み合さることで、納まり調整のみに留まらず、ゼネコン・専門工事会社の作業範囲・責任範囲を、より合理的に変革することが可能となってきている。具体的な例として、他製作物との取り合いまで調整した製作図基図、もしくはそのまま製作可能なレベルのBIMモデルまでを当社が責任を負って作成し、工場へ支給する取り組みを始めている。
 
図-6に、鉄骨製作を題材に、従来と新手法の違いを示す。
 

図-6 従来手法と新手法の責任範囲の違い




 
 
従来は、製作図作成と他製作物調整が並行して発生するため、ファブがモデル・図面の変更修正作業で多大な工数を要していた。そこで、当社ではBIMモデル合意によって早期に附帯鉄骨との取り合いを確定させることで、ファブへ変更のないモデル・図面を支給する取り組みを始めている。
 
適用対象として、S造の大規模曲面屋根、および「燃エンウッド」という木材の柱部材で実施した際に支給したBIMモデルと製作図の例を図-7、8に示す。
 

図-7 屋根鉄骨部材の支給モデルとパネル図

図-8 燃エンウッド部材の支給モデルと加工図




 
 
特に、S造の大規模曲面屋根の事例では、BIMモデルからのCAM連動が可能な鋼材メーカーと連携することで、1次加工までの作図手間を最小限に削減した鋼材を、当社からファブに支給する取り組みまで実施している。
 
 

推進体制と基盤整備

先述のような施工BIMの取り組みを始め、当社では全社的にBIMを推進していく方針である。2015 年7月に「BI M 推進チーム」(2016 年12 月現在)という本社の推進組織が発足するとともに、設計・施工両職能の専任社員も配備した。具体的な基盤整備施策として、(1)ハード(2)ソフト(3)教育の3点を挙げる。(1)(2)では作業所への64bitPC配備、作業所ファイルサーバーのクラウド化、BIMモデルの部品整備、ソフトウェア開発等を実施している。(3)では施工BIMで先進的に取り組んでいる全国の作業所長同士の交流会を企画するなど、プロジェクトをマネジメントする人材の育成、ノウハウの展開を図っている。
 
 

今後の展開と期待

本報ではゼネコン・専門工事会社の調整における施工BIMを中心に、設計施工のメリットを生かした事例を紹介した。今後は、施工BIMの効果をさらに享受するためにも、業界全体へ施工BIMを広めるためにも、BIM対応が可能な専門工事会社・工種が増加することに期待している。
 
他産業では、製造業を中心にICT技術が鍵となってIoT・Industry4.0と言われるものづくり革新が進んでいる。同じように、建設業ではBIMが鍵となり、ものづくりの仕組み自体を変革する、産業革命につながる可能性を秘めていると言っても過言ではないだろう。当社の施工BIMが、その一助となれば幸いである。
 
参考文献
1)日本建設業連合会:「施工BIMのスタイル施工段階における元請と専門工事会社の連携手引き2014」、2014.1
 
 
 

株式会社 竹中工務店 BIM推進室 主任 生産担当 染谷 俊介



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



 


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