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ICT建築土工への取り組み-掘削BIMモデルとICT建機のデータ連携-

2019年6月28日

 

はじめに

国土交通省は平成30(2018)年4月に「営繕工事において施工合理化技術の更なる活用推進~i-Constructionの建築分野への拡大を踏まえて活用方針を策定~」を報道発表した※1。報道発表では「施工BIM(試行)」、「情報共有システム(活用)」、「ICT建築土工(試行)」、「電子小黒板(試行)」の4つの施工合理化技術が示されている。
 
今回、建築工事において掘削BIMモデルとICT建機が連携した「ICT建築土工」に関する取り組みを試行する機会があった。そこで本稿ではBIMモデルとICT建機とのデータ連携の話題を中心として、取り組みの概要を報告する。
 
 

ICT建築土工の概要

「ICT建築土工」は「ICT土工の省力化施工技術を建築工事における根切り・土工事に活用するもの」※2と定義され、掘削工事などでICT建機を活用し、土工事の合理化を推進しようとするものである。
 
ICT建機にはMG(マシンガイダンス)とMC(マシンコントロール)の2種類がある。MGはオペレーターが設計面の横断形状を常にキャビン内のモニターで確認しながら作業を進めるため、設計面付近の仕上げ精度はオペレーターの技量に左右される。一方MCでは設計面に接地した段階で作業機自体に制御(コントロール)がかかり、設計面を侵さず計画したとおりの掘削工事ができる。
 
ICT建機(MG/MC)のオペレーターは、写真-1に示すようにモニター画面に表示された掘削平面や掘削レベルを参照し掘削を進めるため、従来のように掘削範囲や掘削レベルを都度確認する作業員を配置する必要がない。いずれの場合でもICT建機がGNSS(衛星測位システム)により捕捉した座標を読み取り、正確に自分の位置を把握することで制御している。そのためICT建機にはGNSSアンテナ、高精度センサ付油圧シリンダーやIMU(慣性センサー)を搭載している。
 

写真-1 オペレーター目線




 
MGやMCを機能させるためには掘削形状(位置・深さ)に関するデータをICT建機にインプットさせる必要がある。専用のソフトウェアで制御されているため、連携するデータ形式により対応できる内容が異なる。
 
2次元の掘削図データしか用意できない場合は、MCを活用しても水平方向の位置は無制御となり、垂直方向のみあらかじめ設定した高さ(GL/FL基準)で作業機は制御される。MGではモニター画面に表示のみとなる。
 
3次元データ(掘削範囲と掘削レベルを数値化)とICT建機(MG/MC)を連携させると、オープンカットの整形など3次元で座標が変化する面にも制御がかかり、より均一的な掘削の出来形になる。
 
 

BIMモデルとICT建機の連携

建築工事においてICT建機を3次元座標で制御するためには、従来と同様に総合建設会社(ゼネコン)が基礎躯体図をベースとして2次元の掘削図の作成と同時に掘削BIMモデルを準備してICT建機側のソフトウェアとデータ連携する必要がある。
 
今回の試行では当社と機器等の提供者間で、連携に必要となるBIMモデル作成の標準化を写真-2に示すように行った。ICT建機(MG/MC)が必要とするデータはTINデータ※3のため、BIMモデルと連携する際は、データ形式の違いに配慮する必要がある。
 

写真-2 連携の手引き




 
以下にその要点を示す。
 
①データはサーフェスにする
②データは土工の仕上面のみにする
③側面は外側に10mmの傾きを持たせる(図-1)
④法の勾配は70度以下にする
⑤一番底の面をつくる
⑥杭頭、構台杭などの掘削に関係ないデータは削除しておく
⑦尺度はメートル基準にする(土木ではmm単位で作成しない)
 
BIMモデルからTINデータへの変換作業は施工面の面積、変化点数によって前後するが、平均的に1週間程度の作業工程を見込む必要がある。
 

図-1 側面は傾きをつくる




 

BIMを活用したICT建築土工

(1)掘削工事概要
敷地条件:GNSS(GPS等)の捕捉が難しい市街地(写真-3)
工事期間:2018年9月~11月
掘削面積:約3,300㎡
最大掘削深さ:GL-8.5m
ICT建機:コマツ製。BIMモデルと連携することでMCを適用
その他:現場打杭+鋼管杭+山留
 

写真-3 現場の状況




 
(2)作業の進め方
当社で図-2に示す掘削BIMモデルをRevitにて作成した。作成期間は約2週間である。BIMモデルはデータ連携だけでなく、職員や作業員との情報共有にも活用するため、杭や構台杭なども入力した。
 

図-2 掘削BIMモデル




 
作成したBIMモデルは、当社でサーフェスのみをDWG形式でコマツカスタマーサポート株式会社に渡し、データ変換した。変換作業は2日ほどで完了した。
 
掘削工事にICT建機を使用するため配慮したことは、構台を架設する作業工程を掘削が完了してからにしたことである。ICT建機がGNSSから現在地を取得する必要があるため、構台が先に架設されると電波が届かなくなり、作業が進まないことによる。また、毎日の作業開始前にはICT建機のバケットの刃先の座標位置を確認した。基準点は従来通りの現場の逃げ杭があればよい。
 
(3)効果と今後の課題
掘削の出来形はバックホー各作業機のシリンダーを自動制御しているため、掘りすぎることがなく図-3に示すBIMモデルと同等の出来形となった(写真-4)。掘削作業後に測位誤差を確認したところ、水平精度で5mm~10mm、垂直精度で10mm~ 15mmとなった。砕石敷き作業は従来と同様に作業員が敷き均しを行い、誤差を調整した。
 

図-3 掘削出来形(BIM)




写真-4 掘削出来形(実際)




 
掘削の作業開始前にBIMモデルの作成などの作業手間が増えているが、掘削工事中は以下の効果が確認できたことから、「ICT建築土工」の適用を今後も進めることができると考えられる。
 
①職員による掘削位置出しや床付面のレベル確認が不要
②バックホーの手元作業員が不要となり、重機との接触事故が防止
③手元作業員が不要となることでバックホーのオペレーターの待ち時間がなくなり、作業の効率が向上
④掘削BIMモデルをタブレット端末で閲覧し、作業員間での出来形イメージを共有することで意思伝達が効率的
 
今後の課題としては近隣で高い建物に遮蔽されGNSSが捕捉できないことで位置情報の精度が確保できないことが挙げられる。どの場所でも適用することができないため、「ICT建築土工」の採用を計画する際は、事前にGNSSの捕捉状況を確認してから採用の可否を考える必要がある。
 
 

おわりに

土木分野におけるICT土工の取り組みに関してはさまざまな報告がなされているが※4、民間工事が中心である建築分野ではこれから適用の検討が加速すると思われる。
 
 
謝辞
今回の取り組みでは、コマツカスタマーサポート株式会社にお世話になりました。また当社関東支店の遠藤聡作業所長には有意義なご助言をいただき、お世話になりました。御礼申し上げます。
 
 


※1 国土交通省HP、「ホーム>報道・広報>報道発表資料」平成30年4月12日
※2 ※1の【参考】p1に掲載
※3 TIN(ティン、triangulated irregular network)は不規則三角形網のことで、三角形の網からなるデータのこと
※4 例えば、以下の事例が報告されている。株式会社大林組土木本部本部長室情報技術推進課、「i-Constructionの先進的な取り組み事例」、建設ITガイド2018、p.66-69、一般財団法人経済調査会、2018.2
 
 
 

前田建設工業株式会社 建築技術部 TPM推進グループ グループ長 曽根 巨充
主任 藤井 周太

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



点群データの内製化-戸田建設のBIM-

2019年6月7日

 

はじめに

点群データとは計測対象にレーザーを放射状に照射して得られる表面形状の3次元座標のことで、3Dレーザースキャナー(以下、「スキャナー」とします。)は点群データを計測する機材の一種です。当社では工事部門でもスキャナーを導入していますが、ここでは設計部内でBIMや最新技術の推進を担当している、BIM設計部の点群データの内製化について紹介していきます。
 
 

内製化への経緯

当社設計部では、以前から点群データを設計検討に利用していた実績があり、設計検討における点群データの有用性は認知されていました。点群データの有用性は認知されていたものの、計測を外部に委託していたためにスケジュール調整や費用の面から、実際に3Dレーザー計測(以下、「計測」とします。)を実施するには、至らないことが多いのが実情でした。
 
BIM設計部における点群データ内製化への取り組みは、イニシャルコストの低いスキャナー「BLK360」が発売されたことが発端です。検証の結果、点群データについての一連の作業が内製化可能と判断し、機材を導入しました。
 
 

導入機器、ツールについて

・「BLK360」(図-1)
Leica社スキャナーです。
この製品の特長として、本体が非常に小型かつ軽量で取り扱いが簡単な上に計測時間が短く、カラー撮影にも対応しています。上位機種に比べると計測性能では劣りますが、イニシャルコストが低く非常にコストパフォーマンスに優れた製品です。
 

図-1 BLK360




 
・「ReCap Pro for mobile」(図-2)
iPadから「BLK360」を操作するツールです。
 
単なるリモコンではなく、各スキャンの状況を現地で確認しながら計測を進めることができる優れたツールとなっています。従前のツールでは、計測時にスキャンデータを確認できなかったのに対して、このツールではiPad上で計測結果を現地で確認できるため、初心者でも安心して確実なデータ作成することができます。
 

図-2 ReCap Pro for mobile




 
・「ReCap Pro」(図-3)
点群データを編集するツールです。前述の「ReCap Pro for mobile」と連携するための必須ツールとなっています。
 

図-3 ReCap Pro




 
点群編集ツールとしては非常にコストが低いにもかかわらず、点群データ部分削除、レイヤー分け、メッシュ化、データ変換など多彩な機能を搭載している優れた製品です。
 
・「Cyclone REGISTER 360」(図-4)
点群データをつなぎ合わせる作業(合成)に使用するツールです。
 

図-4 Cyclone REGISTER 360




 
点群編集ツールとして定評のある「Cyclone」の合成機能に限定したツールであり、ReCapに比べて高価で操作の難易度も高いですが、合成作業には欠かせないツールとなっています。
 
 

内製化について

内製化を実現できたのは、低コストのスキャナーが発売されたほかに、機材の携帯性が向上したことも要因となっています。以前は、スキャナーは重く大きく、合成に使用するターゲットも多数必要であったために計測には大荷物が必要でしたが、「BLK360」がバッグ一つに納まり、「ReCap Pro」「Cyclone REGISTER 360」が現場でのターゲットの設置を不要としたことで、設計部員が現地へ電車で移動して計測できる手軽さが実現し、内製化へとつながりました。
 
 

計測の事例の紹介

約17,000㎡の敷地について、BLK360で計測を実施した事例を紹介します(図-5)。
 

図-5 BLK360での計測例




 
新築の対象範囲は5,000㎡程度でしたが、BLK360による広範囲計測の実施検証も兼ねて計測を実施しました。
 
BLK360は計測の有効距離がカタログスペックで60mと比較的短いために、対象範囲を網羅するには延べ約24時間、107カ所の計測(図-6)が必要になりました。計測は2回に分け、1回目の不足部分を2回目の計測で補う形で実施しました。各計測日が50日間ほど空いてしまった間に解体工事が進み、現場の風景が大きく変わってしまったことから、多くのスキャンを削除、追加しなければなりませんでした。
 
合成作業については、そもそもスキャン数が多い上に、現場風景の変化によるやり直しもあり、非常に苦労しましたが、結果的にはBLK360でも広範囲の計測に使用できる実例とすることができました。
 

図-6 計測点の状況




 

点群データの位置合わせ

BIM設計部では、点群データを配置図や測量図と位置を合わせて使用するために測量を併用しています。今回は、点群に世界測地系の座標を盛り込む検証も併せて行うために、GNSS測量(図-7)と計測を同日に行い位置合わせの資料としています。
 

図-7 GNSS測量




 

今後の課題

今回の計測結果についてGNSS測量の結果や境界杭の位置から誤差を検証した結果、一部に想定外の誤差があることが判明し、調整が必要になりました。
 
点群データの精度は、スキャナーの性能のほかに合成作業に、大きな誤差が生じます。合成による誤差は、合成数が多ければ多いほど累積して誤差は大きくなるほか、今回の計測では、事例で記載した「現場風景の変化」も原因となっている可能性があります。この合成による誤差を、いかに小さくしていくかが課題となっています。
 
また、点群データは非常にデータサイズが大きいために、保存場所やバックアップなどのファイル管理についても、今後計測が蓄積されていく中で、早急に解決しなければならない課題となっています。
 
 

最後に

点群データ内製化によって、点群データは設計部内では身近なものとなり、実施数は拡大しています。
 
今後はさらなる点群データの設計利用を提案できるよう技術の向上を図るとともに、新技術にも目を向けながら、点群データの運用を推進していきたいと考えています。
 
 
 

戸田建設株式会社 建築設計統轄部 BIM設計部 BIM設計室 主管 西尾 和剛

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



昇降機設備のBIM -三菱エレベーターの取り組みと事例の紹介-

2019年5月31日

 

はじめに

近年、BIMを利用した建築物の設計・施工業務の効率化が推し進められている。設計段階ではレイアウト検討を行うために簡易的なBIMモデルを利用し、施工段階では工種間の調整を行うために詳細なBIMモデルを利用している。それらの業務において、昇降機設備のBIMモデルも必要になるケースが増加している。
 
昇降機設備は製品・オプションが多岐にわたり、建物により採用される仕様も異なる。また、建築との位置関係も物件ごとに違うため、全く同じ寸法・仕様のエレベーターを納入することは稀である。そこで、BIMモデルにおいても仕様や寸法を変更できることが必要となる。
 
ここでは当社のエレベーターのBIM取り組みの現状と活用事例について紹介する。昇降機設備にはエスカレーターや小荷物専用昇降機も含まれるが、今回はエレベーターについて紹介する。
 
 

昇降機BIMモデルの構成

当社のエレベーターBIMモデルの構成を図-1に示す。乗場三方枠や乗場機器、支持部材は建物により異なる。そこで、ライブラリを昇降路内機器・乗場三方枠・乗場機器・支持部材ごとに分類し、各パーツの整備を行っている。
 
特に施工BIMにおいては現場のスケジュールの都合上、エレベーターBIMモデルにおいてもタイムリーな作成が必要となるケースが多い。そこで、あらかじめ基となる各種パーツを整備することにより、BIMモデルが必要になった場合は各ライブラリのパーツを組み合わせて物件用のBIMモデルを作成し、対応に要する時間の短縮化を図っている。さらに、基となるパーツがあれば、熟達したBIMオペレーターでなくとも一定の水準のエレベーターBIMモデルを作成できるため、品質面でのメリットもある。
 

図-1 エレベーターBIMモデルの構成




 

寸法のパラメーター化

建物により採用されるエレベーターの各寸法は異なる。例えば乗場三方枠などは、建築物の壁仕上厚によって枠巾が変化する。そこで図-2に示すように、変更が想定される箇所についてはパラメトリックなデータ(パラメーターで指定可能なデータ)として、BIMモデルを整備している。乗場三方枠であれば、出入口巾・出入口高さ・枠奥行などをパラメーター化しており、数値的に指定できる。このようなBIMモデルとすることで、パラメーターの変更のみで枠形状を変更することができ、関連する2次元図面を修正していた従来の方式と比較し、効率的に修正に対応することが可能となる。
 



図-2 パラメーターによるモデル修正


 
 

建築構造(鉄骨工事)との連携例

エレベーターは立柱やファスナー等を介して建物で支持する必要がある。このような支持部材は鉄骨工事で加工・施工するため、昇降機工事から鉄骨工事に対して必要な支持部材の位置や部材について具体的に伝えなければならない。そのため、BIM導入後も伝達手段として2次元図面が必要になる。鉄骨工事との連携例について、図-3に示す。BIMモデルを使って連携する具体的なメリットは以下の3つが挙げられる。
 
①2次元図面作成の効率化
②BIMモデルと2次元図面間の差異防止
③関係者間での打合せの効率化
 
①2次元図面作成の効率化
鉄骨工事から提供された鉄骨モデルを、BIMソフト上でエレベーターBIMモデルと重ね合わせを行った。重ね合わせたモデルはBIMソフト上の2次元図面にも表示されるため、昇降機設備工事では鉄骨を作図する必要がなくなった。
 
②BIMモデルと2次元図面間の差異防止
BIMソフト上で作成された2次元図面は、BIMモデルを修正した際に図面にも自動的に反映される。そのため、図面側に修正内容を反映し忘れてしまうミスを予防することができる。
 
③関係者間での打合せの効率化
他工種工事箇所を示す際、従来の2次元図面打合せでは蛍光マーカー等で色を付けて他工種に提示していたが、BIMモデルならば色分けした表示が容易で、確認しやすい。また、鉄骨工事でもリンク可能なBIMソフトを使用している場合は、エレベーターBIMモデルを鉄骨工事に提供すれば、鉄骨側にエレベーターBIMモデルの内容が反映される。
 
従来は各業者にて図面化し、お互いに確認し合うという業務を行っていたが、このようにBIMモデルを提供し合うことで、重複して図面化する必要がなくなり、作成した図面をおのおの確認する作業を削減することができた。
 

図-3 鉄骨工事との連携例




 

問題点の早期抽出・共有化

実際に作成した資料例を図-4に示す。BIM導入前は、問題となる箇所を明示するためにいくつかの図面やスケッチ等を作成していたが、エレベーターBIMモデルや受領したモデルを使うことで、それらの作成作業を削減することができた。加えて、図面よりもイメージが容易なため、社内・社外関係者間で共通認識を持てる点でも有用であった。結果的に、問題点の確認・方向性の確認を早期に行うことができた。
 

図-4 モデルを活用した資料例




 

今後の課題

これまでの取り組みにより、エレベーターBIMモデルの構造やパラメーターについて検討を進め、関係者間調整の効率化や資料削減時間の短縮に効果があることを確認できた。今後は、BIMモデルの整備と2次元図面化の2点について進めていきたいと考えている。
 
BIMモデルの整備については、まだBIMモデルが整備できていない製品も多く、そのような製品のBIMモデル要求があった場合には一から作成しなければならないため、作成に時間を要する。まずは、製品のBIMモデルを拡充することで、要求があった場合の対応時間短縮化を図りたい。
 
2次元図面化については、BIMモデルから打合せ図レベルの図面を作成することはできるものの、現状の詳細な2次元図面レベル(施工図レベル)の図面を生成するためには不足している点も多く、別途2次元図面を作成しているのが現状である。そのため、2次元図面とBIMモデルの二重管理になってしまい、BIMモデルで打合せした内容を2次元図面に反映し忘れてしまう可能性がある。今後はBIMモデルをそのまま施工図として使い、モデルと2次元図面間の整合性を確保する方法について検討する。
 
 
 

三菱電機株式会社 昇降機営業技術部 営業技術支援第一課 梅木 偉斗

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



施工BIMの今 -竹中工務店における鉄筋工事の専門工事会社BIM連携事例-

2019年5月10日

 

はじめに~施工BIM以前

竹中工務店としては、BIMをベースとした業務のデジタル化・高度化を進めており、設計施工の強みを生かし、業務プロセスを通じた生産性の向上を図っている。その中で、施工BIMにおいて生産性を向上させるためには、専門工事会社とのBIM連携が不可欠である。例えば鉄骨工事や設備工事などではBIMに取り組む環境が整備されつつあるため事例が増えつつある。一方、鉄筋工事もBIM連携のニーズが多い工種だが、鉄筋の加工に直結するような機能を有した市販BIMツールがないなど課題も多く、事例が少なかった。そこで本稿では鉄筋工事に着目し、自社開発によってツール上の課題解決を図るとともに、実プロジェクトにおいて専門工事会社とのBIM連携を試行したので紹介する。
 
 

鉄筋工事における専門工事会社とのBIM連携方法

従来鉄筋工事において施工者は躯体図の発行までが仕事であり、その後職長が構造図と躯体図を読み込み、配筋の納まり検討を実施している。そこから加工図・加工帳を作成し、鉄筋加工工場にて加工帳を基にして加工を実施している。
 
鉄筋加工工場では工場担当者が手作業で加工帳から専用ソフトへ数値を転記することが一般的であり、入力手間やヒューマンエラーの可能性がある。また一部の鉄筋加工機では曲げ角度や切寸法を表すQRコードを読み取ることで加工の自動化が可能な機種がある。そのQRコードは絵符を作成する専用ソフトから発行されており、生産性向上が図れている。そこで本稿では、自社開発によって鉄筋のBIMモデルからQRコードを直接発行するシステムを開発することで、配筋検討から鉄筋加工までの一貫したデータ連携を図った。
 
自社開発ソフトRCSは構造計算時に作成されたデータST-Bridgeを活用し、当社の配筋標準に適合した3Dモデルを自動作成、鉄筋加工図・カットリストの作成までを行うプログラムとなっている(図-1)。RCSは構造データと連動していることで、間違いのない鉄筋本数と鉄筋間隔によって配筋納まり検討が可能である。また納まり検討実施したモデルにて加工図を出力することが可能である。
 

図-1




 
しかしながら以前まではRCSから出力された加工帳から手作業で加工用に数値を転記しており、データが鉄筋加工まで連動していなかった。そこで主要鉄筋加工機メーカーが対応している仕様のQRコードを直接RCSから出力することを今回開発した。
 
使用者は当社の生産設計部署および作業所だけでなく、鉄筋工事協力会社の職長へも広めるため、操作教育・展開を現在進めている。両者が使用することで、構造計算時から鉄筋加工までBIM連携で一貫した業務の実現を目指している。
 
 

実プロジェクトへの適用事例

先述した開発を以下の実プロジェクトにより適用した(図-2)。
 

図-2




 
建築地:埼玉県草加市
建築用途:独身寮、事務所
建物規模:RC造、地上3階
工期:2018年3月~2019年3月今回の開発は約2 年前からQRコード出力の開発を実施しており実プロジェクトでの適用を実現させた。範囲としては基礎工事(基礎梁4本)部分を対象範囲として以下の手順(図-3)にて試験的に実施した。
 

図-3




 
STEP1:構造データを読み込んだRCSにて鉄筋BIMモデルを生産設計部署にて作成した。
 
STEP2:鉄筋BIMモデルを用いて生産設計部署・作業所・専門工事会社の関係者にて配筋納まりを確認、合意をした。
 
STEP3:関係者にて合意したBIMモデルよりQRコード絵符付き鉄筋加工図を出力した。
 
STEP4:QRコード絵符を鉄筋加工機にて読み込み鉄筋加工を実施した。
 
以上のような流れは従来の鉄筋工事における流れと全く異なり、新たな生産体制を構築できたと考える。
 
今回当プロジェクトにてRCSから出力したQRコード付絵符にて鉄筋自動加工を実施した。その結果は通常の鉄筋工事加工と比較して約50%向上することができた。また今回の開発に携わった専門工事会社の意見では、職長、工場作業員の鉄筋加工図作成工数が今後RCSを活用していき習熟することで従来から約20%低減が見込めるとの見解を得られた。今回の開発効果を鉄筋工事全体で考えると約7.4%のコスト削減効果がある(図-4)。今後減少が予想される熟練技能労働者減少による生産力確保は建設業界の大きな課題の一つである。今回の開発はその問題の解決策の一つとして期待できると考える。
 

図-4




 

今後の展開と将来展望

本稿では鉄筋工事における自社開発BIMソフト活用におけるBIM連携を生かした事例を紹介した。しかし、今回は部位を限定した試行であり、広く展開するためにはツール・体制両面で課題がある。今後は、業界への働きかけと技術開発の2手段でさらなる生産性向上へ寄与したい。建築のリーディングカンパニーとして鉄筋業界へのBIM連携の働きかけを継続していく。技術的には、データ連携の汎用性向上とともに、加工材の出荷管理・生産計画等、工場側で効果の大きい業務とのデータ連携も図り、生産効率の向上を推進していく。
 
建設業におけるBIM連携はゼネコンだけでなく、関わる専門工事会社も含めてメリットを享受する必要がある。また、より多くの専門工事会社がBIMに取り組むことでよりメリットを享受しやすくなるので、今回の鉄筋工事だけでなく、他の工種にも広めていきたい。ゼネコン側も建設業界として足並みを揃える必要があるので、他社とも協力して規格化・標準化を進めていきたい。
 
 
 

株式会社 竹中工務店 東京本店 調達部 く体グループ 中村 健二

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



BLC BIMオブジェクト標準の合意とBIMライブラリー構築に向けて

2019年3月7日

 

はじめに

BIMライブラリーコンソーシアム(代表:奥田修一 建築保全センター理事長)では、2018年10月にBLC BIMオブジェクト標準を76企業等で合意し、その後BIMライブラリー構築に向けて着実な活動を進めている。
 



図-1 BLC BIMオブジェクト標準合意の臨時総会と英国NBS会長の祝賀メッセージ




 

BLCのこれまでの取り組み

(1)BLC活動の概要
※設立時の詳細については、拙稿「建設ITガイド2016」を参照
 
①初年度(2015年10月~2016年3月)
・4月に建設業振興基金からStem等を承継
・各部会の役割の明確化、活動の論点整理
・英国NBS オブジェクト標準と関連基準類の学習
・今後の活動に関する調査実施
 
②2年度、3年度目(2016年4月~2018年3月)
・在り方部会:問題点の洗い出し、ビジネスモデルの検討、利用者負担等に関する検討
・建築部会:建築系BIMオブジェクト標準、建具(窓・ドア)、壁・床・天井、ユニット類(ユニットバス等)、搬送機器(ELV、ESC)のオブジェクトの検討
・設備部会:Stemを基に設備系BIMオブジェクト標準の検討、NBSBIMオブジェクト標準との比較・対応、CI-NETコードとUniclass2015、OmniClassとの比較等の検討
・運用部会:オブジェクト受け入れ時、運用時等のモニタリングの問題点の検討、また利用規約(案)、提供規約(案)、構築・運用規約(案)の検討・作成
・オーストラリア空調衛生工事業協会(AMCA)との会議(2016年6月)
・「オブジェクト標準の確立のための技術的な合意(2017年3月)」(その後一部修正)
 
③4年度(2018年4月~2018年10月)
・BLC標準の関係者での合意の手順の確立、BLC BIMオブジェクト標準・素案の提示と意見募集
・76企業等によるBLC BIMオブジェクト標準version1.0の合意
・建築研究所によるPRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)との研究連携
 
(2)BIMオブジェクトの標準化と集約化(ライブラリー化)のメリット
効率的に3次元で設計を行う手法としてBIMは一般的にメリットがある。特にオブジェクトの標準化と集約化には次のメリットがある。
 
・BIMを利用する際に繰り返し利用する部材・製品等を、あらかじめ作成してライブラリーとして共通に利用できる形式にしておくことは、作業の効率化につながる。
 
・オブジェクトに格納する情報の内容、配列が共通化・標準化していれば、建築物のライフサイクルにわたるプロセスで、技術計算、資産管理等の幅広い業務で効率化が図られ、また異なる組織間での情報伝達が円滑に進む。
 
・情報の内容、配列が共通化・標準化していれば、設計・生産の各業務におけるBIMを中核としたソフトウェア利用が進みICT活用の活性化が期待できる。
 
(3)オブジェクト標準の確立のための技術的な合意
建築部会、設備部会での検討を整合させて、BIMオブジェクトの標準化を図るために、2017年3月に両部会の主要メンバーによる合同会議を開催し、プロジェクトの段階、情報の内容等に関する合意事項を作成し、了解した。その後若干の修正はあるが、基本的にはこれに基づいている。合意事項は、
 
①オブジェクトには、メーカーに依存しないジェネリックオブジェクトとメーカーオブジェクトがある。
②形状、情報の詳細度は図-3に示すものを標準とする。
③情報は、必須項目、推奨項目、その他項目(メーカーのこだわり情報)に分類し、記載する(表-1)。
④海外対応は、英語表記、分類のOmniClass等との対応、用語定義の共通化(bSDD)等である。
 



図-2 プロジェクト段階とBIMオブジェクト標準(形状、情報の詳細度)




図-3 BLC標準の基本的なデータ構造




 

BLC標準

(1)目的 
この標準は、日本国内のプロジェクトで使用されているBIMオブジェクトのデータ構造を標準化して、プロジェクト、企業の枠組みを超えて活用できることを図ったものであり、BIM活用の効率化によってi-Constructionで提唱する建設生産性の向上に寄与するとともに、将来のデジタル・ガバメント(電子政府)、デジタル社会(Society5.0)の構築に貢献することを目的とする。
 
(2)適用範囲、形状情報の詳細度、データの基本的な構造
BLC BIMライブラリーで利用を予定する、建築物と敷地を含む付帯施設を構成する材料、機器、製品、什器等を対象とする。具体的な対象について下表に示す。
 






 
BLC BIMライブラリーに使用されるBIMオブジェクトに関するBLC標準のデータの基本的な構造を図-3に示す。なおデータ構造以外のNBS BIMオブジェクト標準に示される内容は、基本的には、NBSのBIMオブジェクト標準version2.0によるものとする。
 
なおBIMオブジェクトは、ジェネリックオブジェクト、メーカーオブジェクトがあり、さらに製品のタイプにより、製品等のコンポーネントタイプと建築の床・壁等のレイヤードタイプもある。
 
(3)BLC標準の特徴
BLC標準の特徴を次に示す。

 
a) 3D(BIM)だけでなく、2D CADへも対応できる
b) 属性によるオブジェクト検索が可能
c) データ構造が国際的な対応が可能
 
a)は、Stemの特性を承継したことにより、BIMだけでなく、2D CADへの対応も可能である理由を、図-4に示すが、形状と属性とはIDにより関係付けられているため、属性情報をオブジェクトに内蔵するオブジェクトはBIMだけで利用するが、形状と属性とが別々でIDによって結ばれたStemの延長のオブジェクトがあり、結果的に2D CADでも利用可能となる。
 

図-4 Stemでの形状と属性との関係




 
b)は、a)と同じ理由であるが、オブジェクト情報を外部にも置き、ジェネリックオブジェクトとメーカーオブジェクトが同じ情報構造を持つことで可能になっている。これはExcelでの検索と同じである。
 
c)は、当初から技術的には国内に合わせるが、オブジェクトは将来国際的にも適用できることを視野に開発を進めてきたところである。このためデータ構造は対応可能であるが、今後の検討課題として、用語の定義が同じかを確認する作業が必要であり、これはbuildingSMART Internationalで検討が始まっているbSDD( buildingSMARTData Dictionary)の議論である。
 
 

BIMライブラリー構築に向けての活動

今後のスケジュールの主要な内容は、
 
・BLC標準に基づくオブジェクトの作成(現在あるものの改良を含む)
・BIMライブラリー構築に向けた基本要件の設定
 
の2点である。これらの活動を「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」「BIM オブジェクトライブラリの運用システムの試作検討業務」を通して建築研究所と連携を取りながら実施するとともに、別途議論されている建築確認へのBIM活用とオブジェクトレベルでどのような連携を図れるかが、今後のBIMの社会実装に重要な要素であり、またBLC BIMオブジェクトを核とした情報プラットフォームの構築が、建設生産性向上への鍵となると考えている。
 

図-5 今後のスケジュール



 
 

(一財)建築保全センター保全技術研究所長(兼)BIMライブラリーコンソーシアム事務局長 
寺本英治 

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



 


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