建設ITガイド

トップ >> 特集記事 特集記事

書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

四国地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みについて

2022年9月12日

はじめに

四国地方整備局では平成24年度からBIM/CIMを活用し、これまでに業務52件、工事23件で活用を行っています(図-1)。
業務では道路予備設計や測量・地質調査、橋梁・トンネルの詳細設計などにおいて、本体の鉄筋・付属物の干渉チェックや橋梁構造の比較検討、地元説明などで活用、工事では鋼橋上部工事やトンネル工事において施工計画の検討や干渉チェック(図-2)、関係者協議、危険予知活動(写真-1)、出来型計測などに活用しています。
今後は令和5年度からの小規模を除く全ての公共事業におけるBIM/CIM原則適用に向け、3次元設計ストックを順次拡大し、施工段階で活用していく予定です。
これらを本格的に進めるために、四国地方整備局では令和2年度に各事務所に高性能PCを導入するとともに発注者の役割を担うための人材育成を本格化させたところです。
 
また、BIM/CIM原則化を効率的に進めるためには、それぞれの役割を担っている発注者、設計コンサルタント、建設会社の全てが一体となって取り組む必要があり、人材育成などの体制整備が課題の一つといえます。
 
この課題に対応するため、四国地方整備局においても人材育成センター整備に向け、令和3年度から検討を本格化する考えです。

BIM/CIMの実施状況(四国直轄工事・業務)

図-1 BIM/CIMの実施状況(四国直轄工事・業務)



 

【施工段階】効率的な設計照査(R2-4外環余戸南第1橋上部P35-P41工事)

図-2 【施工段階】効率的な設計照査(R2-4外環余戸南第1橋上部P35-P41工事)


【施工段階】現場における危険作業の周知に活用(R1-2外環空港線洗地川橋(下り)上部工事)

写真-1 【施工段階】現場における危険作業の周知に活用(R1-2外環空港線洗地川橋(下り)上部工事)



 

モデル事務所の取り組みについて

松山河川国道事務所は平成30年度に『i-Constructionモデル事務所』に認定されており、計画段階からBIM/CIMを活用する全国でも数少ない事例として、「松山外環状道路インター東線」事業において予備設計から「3次元データを活用」し効率化・省力化を推進しています。
 
BIM/CIMの活用で、フロントローディングを推進し、後工程に必要な情報を事務所内の測量設計・用地買収・施工・管理など関係者で意見交換を行いながら取りまとめを行っています。
 
また、クラウドで各フェーズの情報共有を行うだけでなく、測量設計・用地買収・施工・管理など複数の関係課のデータをとりまとめ、それらの3次元データに時間軸を含めた「4次元データ」として「情報プラットフォーム構築」を進めており、これにより事業全体の最新情報がステップごとに可視化できると考えています。
このほか、事業の地元説明会などにおいてBIM/CIMモデルを活用し、「見える化」することによって地域住民の事業への理解や協力がより深まり合意形成が効率的に行えるようになりました(図-3)。
 
発注者のBIM/CIM活用のポイントは、実現したい内容を明確にして設計コンサルタントの技術支援を得ながら目的を達成することと考えます。
BIM/CIMモデル作成を目的化することなく、ここで得たBIM/CIMマネジメントの知見を水平展開し、発注者の人材育成のみならず、地域のコンサルタントとともに進み、裾野を広げていくことでBIM/CIMの原則化につなげていきたいと考えています。
 
また、i-Constructionをより一層促進し、魅力ある建設現場を創出するためには、官・学が相互支援を行いながら取り組む必要性があることから、令和2年7月2日に愛媛大学と「i-Construction推進のための連携・協力に関する協定」を結んで、相互協力を進めております。
 
その一環として、3Dデータの利活用と事務所の若手技術職員と今後の担い手となる学生の育成を目的とした「連携講義」を開催しており、令和3年度は、松山河川国道事務所からi-Constructionを取り入れた事業(図-4)を設定し、講義の中で3Dデータの活用方法を習得するほか、活用した事業上の課題解決について議論を行うことで、BIM/CIMの有効性の把握や課題抽出能力など、さらなる効率化の取り組みについて考えることを学ぶとともに、担い手の技術習得に貢献する取り組みも計画しています。

【設計段階】地元説明会での活用(3D映像)(松山河川国道事務所松山外環状道路インター東線)

図-3 【設計段階】地元説明会での活用(3D映像)(松山河川国道事務所松山外環状道路インター東線)


愛媛大学と連携した講義(案)

図-4 愛媛大学と連携した講義(案)



 

インフラDXの取り組みについて

四国地域において、地域住民のニーズを基にデータとデジタル技術を活用し、社会資本整備や公共サービスの改革を推進するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、建設業や四国地方整備局の文化・風土や働き方を改革し、建設業の生産性の向上を図るとともに、インフラへの国民理解を促進し安全・安心で豊かな生活を実現するため、各部局が横断的に連携してインフラ分野のDXを推進することを目的に、「四国地方整備局インフラDX推進本部会議」を設置しました(図-5)。
令和3年度の取り組みとしては、令和3年8月24日に四国地整全体として取り組む「インフラDX推進計画」を策定し、中でも、地域の建設業および国・県・市町村の技術者のために、「インフラDX人材育成センター」の整備計画(案)および研修など計画(案)を策定や関係業界団体、大学などおよび県・市町村と連携し、方向性を検討していきたいと考えています。

四国地方整備局におけるインフラDX推進体制

図-5 四国地方整備局におけるインフラDX推進体制



 

おわりに

四国地方整備局においては、中長期的な担い手確保・育成の重要性を鑑み、モデル事務所で得られた知見を四国内に水平展開し、またインフラDXの取り組みを進めることで、BIM/CIM活用をより一層推進し、建設現場を魅力的でスマートな職場へと改革していきたいと考えています。

 
 

国土交通省 四国地方整備局 企画部 技術管理課 技術検査官
阿部 浩之

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 
 



3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト(Project PLATEAU)

2022年8月25日

はじめに

現在、政府では、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムを構築することにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会「Society5.0」を実現すべく取り組んでいる。
 
Society5.0の実現は、都市の問題を扱う都市政策にとっても重要な課題であり、スマートシティの取り組みをはじめとして、都市政策の領域においても、データや新技術を活用し、人間中心のまちづくりをさらに進めていくことが喫緊の課題となっている。
 
このような問題意識のもと、国土交通省都市局では、2020年度から「Project PLATEAU(プラトー)」を新たにスタートさせ、「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション(UDX:Urban Digital Transformation)」に取り組んできた。
その目的は、都市空間を「3D都市モデル」と呼ばれるデータによって再現し、これを活用してまちづくりに新たな価値をもたらすことにある。
このため、2020年度のPLATEAUでは、全国56都市を対象に、面積約10,000km²、建物約1千万棟という世界的にも前例のない規模で3D都市モデルを整備し、さらに、これを活用して40以上の実証実験やフィージビリティスタディを展開した。
 
また、3D都市モデルはオープンイノベーションの観点から、オープンデータ化を前提として整備しており、2021年3月から「G空間情報センター」において順次データを公開し、2021年8月に全国56都市のオープンデータ化を完了した。
データについては、政府標準利用規約などのオープンライセンスを採用することで二次利用を可能としており、各分野における研究開発や商用利用の活性化を狙っている。
 
本書では、Project PLATEAUの概要と今後の展開について紹介する。

 
 

Project PLATEAUの概要

(1)「3D都市モデル」とは何か

PLATEAUでは、都市空間のデジタルツインあるいはまちづくりのDXを実現するための中核となる概念として、「3D都市モデル」を定義している。
 
3D都市モデルとは、単なる“都市空間の3Dモデル”ではない。
既に商用サービスやオープンデータとして提供されている一般的な“都市空間の3Dモデル”は、都市を構成する建物や橋、道路などのさまざまなオブジェクトをCADソフトなどを用いてモデリングし、サイバー空間上で表示する。
つまり、都市空間の“幾何形状”をサイバー空間上で再現するものであり、いわゆる「ジオメトリモデル(Geometry Model)」と呼ばれるものである。
 
PLATEAUが整備を進める3D都市モデルは、このような幾何形状(ジオメトリモデル)に、「建物」、「壁」、「屋根」などの地物定義や、「用途」、「構造」、「築年」、「災害リスク」などの活動的な意味(属性情報)―つまりヒトにとっての都市空間の意味―を付加した形で構築される点に最大の特長がある。
このような“都市空間の意味”は「セマンティクス(Semantics)」と呼ばれており、3D都市モデルとは「ジオメトリとセマンティクスの統合モデル」と呼ぶことができる(図-1)。
 
このような統合モデルを可能とするデータ形式として、「CityGML」が国際的な標準規格として定められており、今回整備した3D都市モデルもCityGMLを採用したものである。
PLATEAUでは、「3D都市モデル」を「CityGML形式により都市スケールで整備されたジオメトリとセマンティクスの統合モデル」と定義している。
 
3D都市モデルのセマンティクスを用いることで、ジオメトリモデルのみではできなかった高度な分析、可視化、シミュレーションを都市スケールで実現することが可能となる。
 
例えば、「屋根(roof)」の属性値が含まれたジオメトリを抽出し、角度や傾き、日陰などを入力することで、都市スケールで太陽光発電シミュレーションが可能とな
る。
また、屋内外の歩行可能な「床(floor)」や「歩道(sidewalk)」を抽出すれば、屋内外を含む立体的な避難シミュレーションを行うこともできるようになる。
他にも、建築物の「壁面(wall)」の位置や材質(material)情報を活用することで、騒音や電波の拡散・減衰シミュレーションなども可能となる。
 
このように、ジオメトリとセマンティクスの統合モデルは、都市空間の再現を限りなく緻密に行うポテンシャルを有している。
換言すれば、コンピューター/プログラムが認識する3D都市モデルのデータを限りなく現実に近づけることが可能となる、このようなデータの“マシンリーダブル(machine readable:機械可読性)”こそが、まちづくりのDX/都市空間のデジタルツインの実現に向けた3D都市モデルのポテンシャルであるといえる。
 
3D都市モデルのセマンティクスを生かしたユースケース開発はまだ萌芽的ではあるものの、国外ではCityGMLを採用する
動きが広がっており、今後のユースケース拡大が期待されている。
 
PLATEAUでは、3D都市モデルの整備とともに、これを用いたユースケースの開発、3D都市モデルの整備・利活用ムーブメントの惹起、オープンデータ化に取り組むことにより、まちづくりのDXを推進し、「全体最適・持続可能なまちづくり」、「人間中心・市民参加型のまちづくり」、「機動的で機敏なまちづくり」を実現していくことを目指している。

3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)

図-1 3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)


(2)「3D都市モデル」の整備

前述のとおり、2020年度のProject PLATEAUでは、東京23区をはじめ全国56都市を対象に3D都市モデルのデータ整備を実施した。
 例え
3D都市モデルは、都市計画のために作成されている都市計画基本図などの都市の図形情報、航空測量などによって取得される建物・地形の高さや形状情報、都市計画基礎調査などによって取得された建物・土地の利用現況や災害リスク情報などの属性情報を用いて整備される。
すなわち、3D都市モデルの整備は、地方公共団体が保有する既存データを利用して作成することを基本としており、新規測量や新規データの取得は補完的に行われる。
このような方法によって、比較的低コストで3D都市モデルを整備することが可能となる(図-2、3)。

3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)

図-2 3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)


3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)

図-3 3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)



 
また、CityGML形式によって作成される3D都市モデルは、建物などの地物の表現に関して、LOD(Level of Detail)と呼ばれる概念を定義している。
LODとは、モデルの「詳細さの度合い(詳細度)」であり、一つのオブジェクトの幾何をその利用や可視化の目的に応じて、複数の段階に抽象化することを可能とする、マルチスケールなモデリングの仕組みである。
例えばLOD1は、建物図形に高さを与えた単純なモデルであり、低コストで都市スケールの3D都市モデルを整備するのに適している。
他方、LOD4は建物の屋内や付属物を含めたモデルであり、建物内外を含めた高精度のシミュレーションに利用可能である。
 
この仕組みにより、3D都市モデルは同じ地物に関する詳細度の異なるさまざまな情報を統合的に管理・蓄積・利用することが可能である。
例えば、投影縮尺に応じた適切な詳細度での可視化やユースケースに応じた最適なモデルの適用が可能となるなど、多様なアプリケーションで柔軟な利用が可能となる(図-4)。

3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)

図-4 3D都市モデルの導入ガイダンス(国土交通省都市局)



 

(3)ユースケース開発

Project PLATEAUでは、多様な領域での活用ポテンシャルを実証するため、各種実証実験やフィージビリティスタディ(実証可能性調査)を実施している。
うち建設関係のユースケースとしては、BIMモデルとの連携がある。
bSI(buildingSMART International)が策定した三次元モデルデータ形式である「IFC」を介して「CityGML」に再変換を試み、そこで得られた知見を令和3年3月末に「3D都市モデル整備のためのBIM活用マニュアル」として公表している。
同マニュアルにおいては、建築情報が財産的な価値を有することがあることなどについて例示するとともに、特に機密情報や安全性に関わる可能性のある情報の取り扱いなどについては利用権限について当事者間の合意が必要であることについて記載している。
 
現在、具体のユースケースとして2つ紹介する。
一つ目は屋内外をシームレスにつなぐ避難訓練シミュレーションである。
東京都港区虎ノ門ヒルズのBIMデータを用いて作成した細密な屋内モデルと3D都市モデルをシームレスにつなぐバーチャル空間を構築。
建物内から建物外への避難の動きを再現・検証できる避難シミュレーションツールと徒歩出退社訓練を支援するツールを開発した。
これにより、屋内外をシームレスにつなぐシミュレーションを可能とし、ビル管理者やワーカー向けの訓練や安全な避難経路の検証に活用することができた。
 
二つ目はエリアマネジメントのデジタルツイン化である。
東京ポートシティ竹芝のBIMデータをベースとしたLOD4の3D都市モデルを作成し、周辺エリアの3D都市モデルと統合した『バーチャル竹芝』を構築した。
システム上ではエリア来訪者向けのルート案内表示サービスや、ビル管理者向けの混雑状況監視・要注意者検知・警備員オペレーション支援などのファシリティマネジメントサービスを提供し、3D都市モデルと設置された多数のセンサーから取得されるデータを用いてビル管理の業務効率化やエリア来訪者の利便性向上を検証するなどの取り組みを行った。
それぞれの取り組みについては、同マニュアルにおいて、目的に応じて異なるデータ形式間で引き継いで活用した具体のデータタイプや、データの取り扱いに関する合意などの概要についても紹介している(図-5、6)。

屋内外をシームレスにつなぐ避難訓練シミュレーション

図-5 屋内外をシームレスにつなぐ避難訓練シミュレーション


エリアマネジメントのデジタルツイン化

図-6 エリアマネジメントのデジタルツイン化


(4)ムーブメントの惹起

PLATEAUでは、官民の幅広いプレーヤーや技術ホルダに関心を持っていただき、3D都市モデルの整備・活用のムーブメントを全国へと広げていくため、プロジェクトに関する情報発信に力を入れている。
 
情報発信の一環として、ウェブサイトの開設や、各種イベント開催などを行っている。
また、ウェブサイトでは、ユースケースの紹介記事の配信、コンセプトムービー・ユースケースムービーの公開、有識者インタビュー記事の掲載など豊富なコンテンツを発信している(図-7)。

Project PLATEAUウェブサイト

図-7 Project PLATEAUウェブサイト



 
3D都市モデルのビューアとして、「PLATEAU VIEW」を開発・公開している。
PLATEAU VIEWは、3D都市モデルをインターネットブラウザ上で閲覧可能とするシステムであり、専門的な開発環境がなくてもPLATEAUの成果を体感することができる。
また、属性情報やユースケース(人流・環境など)のデータを重畳して表示する機能や、BIMモデルの可視化機能も搭載している(図-8)。

PLATEAU VIEW

図-8 PLATEAU VIEW



 

おわりに-今後の展開

PLATEAUの取り組みはまだ始まって間もない黎明期にあり、今後は、全国の地方公共団体等と連携し、整備・更新の動きを活性化していく必要がある。
 
このため、2020年度の取り組みの成果を取りまとめる形で、地方公共団体の職員向けの「3D都市モデルの導入ガイダンス」や、民間企業、研究機関、エンジニア向けの技術資料など、10編の「3D都市モデル導入のためのガイドブック」をウェブサイト上で公開している(https://www.mlit.go.jp/plateau/libraries/)。
 
今後も、国土交通省都市局では、ウェブサイトやSNSなどを通じてPLATEAUの成果を紹介するとともに、さらなる取り組みの深化を図っていく。
そのメインスコープは、3D都市モデルの整備・更新・活用のエコシステムの構築である。
3D都市モデルを全国に展開し、スマートシティをはじめとするまちづくりのDX基盤としての役割を果たしていくため、BIMモデルから必要なデータを統合しての活用も柱の一つとしつつ、3D都市モデルの整備都市の拡大、簡易・効率的な整備・更新手法の開発、自動運転やロボット運送などのユースケース開発の深化、街路空間や街路樹・標識など緻密なスケールの地物のデータ仕様定義などに取り組んでいく。

 

 

国土交通省 都市局 都市政策課 再構築政策企画係長
菊地 駿志

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 
 



国土交通省が推進するインフラ分野のDX

はじめに

わが国は、現在、人口減少社会を迎えており働き手の減少を上回る生産性の向上などが求められている。
そこで、国土交通省では、2025年度までに建設現場の生産性を2割向上することを目指して2016年度より「i-Construction」の取り組みを推進している。
具体的には、①建設現場において調査・測量、設計、施工、検査などのあらゆる建設生産プロセスにおいてICT(情報通信技術)を活用すること(図-1)、②設計、発注、材料の調達、加工、組立などの一連の生産工程や、維持管理を含めたプロセス全体の最適化が図られるよう、全体最適の考え方を導入し、サプライチェーンの効率化、生産性向上を目指すこと、③国債などの活用により年度末に集中する工事量を平準化することをトップランナー施策として推進する他、BIM/CIMなどの3次元データの利活用促進や「i-Construction」を推進するための広報など、建設現場の生産性を向上させるためのさまざまな取り組みを推進してきた(図-1)。
 
また、今般の新型コロナウイルス感染症を踏まえ、政府を挙げたデジタル社会への変革が求められる中、国土交通省においてもデジタルを積極的に活用し、これまでの建設現場の生産性向上はもとより職員自身の働き方改革なども含めたインフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進しているところであり、建設ITガイド2021に掲載された拙稿にてその取り組み状況を紹介した。
 
本稿では、その後の進展などを含めた、国土交通省におけるインフラ分野のDXに関する最新状況を紹介する。

建設生産プロセスを3次元でつなぐ

図-1 建設生産プロセスを3次元でつなぐ



 

インフラ分野のDXの取り組み状況(令和2年度)

インフラ分野のDXの加速化に向け、国土交通省では、省横断的に取り組みを進めるべく、「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」を令和2年7月29日に設置するとともに、第1回本部会議を開催した。
その後、令和2年10月19日に第2回本部会議、令和3年1月29日に第3回本部会議を開催した。
 
第2回本部会議では、インフラ分野のDX施策概要を議論し、その中で、大きく4つの方向性で取り組みを推進することとした。
 
1点目は、「行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革」である。
これは、デジタル化による行政手続きなどの迅速化や、データ活用による各種サービスの向上を図る取り組みである。
具体的には、特殊車両通行手続きなどの迅速化や港湾関連データ基盤の構築等による行政手続きの迅速化に加え、ITやセンシング技術などを活用したホーム転落防止技術の活用やETCによるタッチレス決済の普及などに取り組むこととしている(図-2)。

行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革

図-2 行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革

 
2点目は、「ロボット・AI等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上」である。
これは、ロボットやAIなどの活用により危険作業や苦渋作業の減少を図るとともに、経験が浅くても現場で活躍できる環境の構築や、熟練技能の効率的な伝承などに取り組むこととしている。
具体的には、無人化・自律施工による安全性・生産性の向上やパワーアシストスーツ等による苦渋作業の減少による安全で快適な労働環境の実現、AIなどによる点検員の判断支援やCCTVカメラ画像を用いた交通障害自動検知等によるAIなどを活用した暮らしの安全確保、人材育成にモーションセンサーなどを活用するなど熟練技能をデジタル化した効率的な技能習得などの取り組みである(図-3)。

ロボット・AI等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上

図-3 ロボット・AI等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上


 
3点目は、「デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革」である。
これは、調査・監督検査用務における非接触・リモートの働き方の推進や、データや機械の活用により日常管理や点検の効率化・高度化を図る取り組みである。
具体的には、衛星を活用した被災状況把握等による調査業務の変革、画像解析や3次元測量などを活用した監督検査の効率化やリモート化に加え、AI活用や技術開発により点検・管理業務の効率化などを図る取り組みである(図-4)。

デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革

図-4 デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革



 
4点目は、「DXを支えるデータ活用環境の実現」である。
これは、スマートシティなどと連携し、データの活用による社会課題の解決策の具体化に加え、その基盤となる3次元データの活用環境を整備する取り組みである。
具体的には、都市の3次元モデルを構築し、各種シミュレーションによるユースケースの開発に加え、データ活用の共通基盤となる位置情報の基盤整備、さらには3次元データの保管・活用や通信環境の整備などを進める取り組みである(図-5)。

DXを支えるデータ活用環境の実現

図-5 DXを支えるデータ活用環境の実現



 
第3回本部会議では、インフラ分野のDX施策概要のそれぞれに紐付く個別施策の整理や将来的な取り組みの方向性を議論し、それに基づき、令和3年2月9日にインフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)施策を公表した(図-6)。

インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要

図-6 インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要



 
 

インフラ分野のDXの取り組み状況(令和3年度)

さて、上述の通り、インフラ分野のDX施策を公表したところであるが、令和3年度からは、それをより具体的に進めるべくアクションプランの策定に着手することとした。
また、国土交通省の内外に「インフラ分野のDX」をより分かりやすく説明するため、その概要をあらためて整理した。
 
まず、「インフラ分野のDX」とは端的に言うと、「デジタル技術の活用でインフラまわりをスマートにし、従来の『常識』を変革」する、ということとした。
また、具体的な施策を「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」「コミュニケーションをよりリアルに」「現場にいなくても現場管理が可能に」の3つの観点から整理した(図-7)。

インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要

図-7 インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要



 
その3つについて、以下で具体的に述べる。
 
まず1点目の「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」であるが、これはインフラに関係する諸手続きやサービスについて、その利便性向上を図るもので、例えば、特殊車両通行手続きの効率化や民間事業者・港湾管理者における手続きの効率化・非接触化、高速道路やその他多様な分野におけるETC等によるキャッシュレス化・タッチレス化などが挙げられる。
 
次に2点目の「コミュニケーションをよりリアルに」については、対象者の内外を問わず、より理解しやすいコミュニケーションを図るもので、例えば、水害リスク情報の3次元での提供によるリアルに認識できるリスク情報の提供や、官庁営繕事業におけるBIM活用などが挙げられる。
 
続いて3点目の「現場にいなくても現場管理が可能に」であるが、これは本誌の読者であれば容易に理解できるであろう。
すなわち、従来から進めている建設現場の生産性向上を図る取り組みである「i-Construction」に包含されるICT施工について、そのさらなる拡大、といったイメージとなる。
具体的には、受注者・発注者を問わず、建設現場の省人化や効率化のさらなる追求を図るものであり、例えば建設施工における自動化・自律化の促進やAI・ICT・新技術の導入による道路の点検・維持管理の高度化・効率化などが挙げられる。
 
また、上記3つの観点に加え、位置情報の共通ルール(国家座標)の推進やDXデータセンターの整備などといった、「インフラ分野のDXを支える仕組みや基盤の整備」も重要である。
 
令和3年11月5日に開催した第4回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議では、上記の「インフラ分野のDX」の概念について認識共有をするとともに、主な施策の進捗紹介や、年度内のアクションプラン策定に向けた今後のスケジュールについて議論を行った。

 
 

事例紹介(DXデータセンター、国土交通データプラットフォームの構築)

それぞれのDXに関する取り組みを推進することは重要であるが、こうした取り組みで得られたデータなどの利活用促進や、データを連携し横断的に活用することにより新たな価値を創造していくことも重要な取り組みである。
その事例を紹介する。

①DXデータセンター

国土交通省では、2023年度までの小規模なものを除く全ての公共工事でBIM/CIMを原則適用する予定であり、調査・計画・設計・施工・維持管理の一連のプロセスにおいてBIM/CIMなどの3次元データを積極的に活用していくことを目指している。
各事業段階でBIM/CIMを活用していくためには、調査・計画・設計の段階からBIM/CIMを導入し、その後の施工・維持管理の段階においてもBIM/CIMを連携、発展させ、事業プロセス全体にわたって関係者がBIM/CIMを活用して情報共有を行うためのシステムを構築する必要がある。
また、このシステムを利用してBIM/CIMなどの3次元データを活用していくためには、大容量データの蓄積、表示、編集、受け渡し、検索などを円滑に行えることが不可欠である。
そこで、国土技術政策総合研究所では、BIM/CIMなどの3次元データを一元的に保管し、活用するためのシステムとして、DXデータセンターの構築を進めている。
 
DXデータセンターの構築により、国土交通省の直轄事業の業務や工事で作成されるBIM/CIMを一元的に保管し、保管したデータの表示や検索、BIM/CIMを共有したWEB会議などを行うことが可能となる。
今後は、施工管理と検査、構造物点検、災害対応などの現場においてBIM/CIMをさらに広く活用できる環境を整備するために、現場で使用するタブレット端末などを介してDXデータセンターに接続し、BIM/CIMを容易に取り扱うことができるアプリケーションソフトを開発し、実装していく予定である。

②国土交通データプラットフォームの構築

上記BIM/CIMなどの3次元データを含む各種データを連携する基盤として、「国土交通データプラットフォーム」の構築にも取り組んでいるところである。
これまで、国・地方自治体の保有する橋梁やトンネル、ダムや水門などの社会インフラ(施設)の諸元や点検結果に関するデータ約8万件、全国のボーリング結果などの地盤データ約25万件、平成30年度の発注の直轄工事のBIM/CIMデータ10件と3次元点群データ約570件、地方公共団体の電子納品データ約200件、さらに、全国幹線旅客純流動調査のデータや浸水想定区域などの防災に関するデータなどの表示・検索・ダウンロードが可能となっている。
 
今後は、3次元データを含む電子成果品のほか、他省庁や民間、地方公共団体などが保有するデータとの連携拡大に取り組んでいく予定である。

 
 

おわりに

本稿では、国土交通省が推進しているインフラ分野のDXの取り組みについて紹介した。
新型コロナウイルス感染症の発生を契機に時代の転換点を迎える中、陸海空のインフラの整備・管理により国民の安全・安心を守るという使命と、より高度で便利な国民サービスの提供を担う国土交通省が、学界や民間と連携・協調を図りつつ、インフラ分野のDXの先導役を果たしていきたいと考えている。

 
 

注意)
本稿は執筆時点(令和3年11月中旬)での情報である。
インフラ分野のDXの最新状況については、国土交通省HPなども適宜、参照されたい。

 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 建設情報高度化係長
小泉 陽彦

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年



熱海市伊豆山土石流災害における点群データ活用

2022年8月17日

はじめに

静岡県では、2019年度から現実空間をレーザースキャナーなどで広範囲に測量し、バーチャル空間に点群データで仮想県土を創る「VIRTUALSHIZUOKA」構想を推進しています(図-1)。
 
本稿では、2021年7月3日(土)に発生した静岡県熱海市伊豆山地区の土石流災害において、本県がオープンデータとして公開していた点群データを活用し、産学官の有志による「静岡点群サポートチーム」が、短時間で崩壊の原因となった盛土の存在確認や崩壊土砂量の算定など、速やかな初期対応を実現できた背景を紹介します。

VIRTUAL SHIZUOKA構想

図-1 VIRTUAL SHIZUOKA構想



 

点群データの蓄積とオープンデータ化

本県では、南海トラフ巨大地震など、「明日起こるかもしれない災害への備え」として、被災前の点群データを取得・蓄積しております。
 
点群データは三次元の位置情報(x,y,z)を持った点の集まりで、さらに色情報(RGB)や反射強度、クラスコード(建物or地面)が一点一点に含まれています。
色情報を含む点群を使えば立体的景観が再現でき、地表面データからは精密な地形図を作成することができます。
 
蓄積した点群データは、G空間情報センターなどでオープンデータとして公開されており、クリエイティブコモンズライセンス(CC-BY4.0)のもと、誰もが自由に二次利用できることから、3Dハザードマップや自動運転用の地図、観光やゲームなどにも活用されています。

 
 

災害対応における点群データ活用

土砂災害が発生すると、被災関連の各種の情報を集約するとともに地図上に被災場所や発災原因となった事象の特定が行われます。
発災時は救助活動が最優先される一方で、二次災害を防ぐ視点から救助隊員や測量作業員の安全確保も重要な課題です。
 
2019年に面的なデータを取得したことにより、2020年度に発生した災害においては、被災後にドローン等による計測を行うことで、被災前後のデータの重ね合わせが可能となりました。
被災対応として災害査定や復旧工事に必要となる測量作業に点群データを活用することにより、従来の現地計測と比較して、作業時間の短縮や安全性の向上などの効果が得られました(図-2)。

災害対応におけるデータ活用効果

図-2 災害対応におけるデータ活用効果



 

熱海市伊豆山地区で発生した土石流災害の概要

梅雨前線による大雨に伴い、2021年7月3日(土)の10時30分頃に静岡県熱海市伊豆山の逢初川(あいぞめがわ)で土石流が発生しました。
この土石流は逢初川源頭部の標高400m付近で発生した崩壊土砂が、伊豆山港付近の海まで、約2km逢初川を流下し、死者26名、行方不明者1名(2021年11月19日時点)、被害建物数128棟(135世帯)の甚大な被害をもたらしました。

 
 

静岡点群サポートチームとその活動

発災後、直ちに有志で「静岡点群サポートチーム」を結成して、土石流の流下経路や崩壊箇所の特定などの分析を独自に始めました。
チームのメンバーは、多種多様な知見と技術を持った産学官の16名の集まりですが、以前から本県と一緒に、点群データの可能性や利活用手法を検討してきた同志であり、普段からコミュニケーションを取っていたメンバーです。
チーム内の情報交換はSNSのグループチャットやオンラインで行い、「命懸けで救援・救助活動を行う救助隊員の二次災害を防ぐため、点群データを活用して災害の全体像を把握する」ことをチームの共通認識として取り組みました。
 
ここからは、「VIRTUAL SHIZUOKA」の点群データ(図-3)を用いた地形の分析内容を紹介します。

G空間情報センター:静岡県富士山南東部・伊豆全域点群データ

図-3 G空間情報センター:静岡県富士山南東部・伊豆全域点群データ


(1)地形判読に用いた点群データ

災害の全体像を把握するために、以下に示す3時期の点群を用いています。
 
①2009年データ:国土交通省(沼津河川国 道事務所)による航空レーザー計測データ
航空レーザー計測で作成した1mメッシュの標高データで、時期的に盛土前の地形データに相当します。

 

②2019年データ:静岡県による富士山南東部・伊豆全域航空レーザー計測データ
点群データはG空間情報センターで公開しています。
地形差分解析のため、点群から不整三角網(TIN:Triangulated Irregular Network)内挿により10cm解像度のメッシュデータを作成しました。

 

③災害後のデータ:UAVレーザーによる計測データ
災害後に、(株)ウインディーネットワークの自主計測による7月5~6日のUAVレーザー測深データ(UAVALB点群)と、静岡県との災害協定による(株)東日の7月6日のUAVレーザーデータ(UAVLP点群)が取得されました。
両データとも7月7日にG空間情報センターからオープンデータとして公開しています。
地形解析では逢初川源頭部から中流域はUAV LP点群、中流域から下流域は濡れた地表面も計測されているUAV ALB点群を用いて、TIN内挿により10cm解像度のメッシュデータを作成しています。

(2)点群データを活用した地形診断

①2009年データと2019年データを用いた盛土範囲の抽出と盛土量算出
発災当日の22時30分頃までに、報道による逢初川源頭部の崩壊地の空撮が行われ、SNSでは特定された崩壊発生場所の過去の空中写真などから人工改変(谷埋め盛土)地での崩壊の可能性が指摘されていました。
そこで、盛土範囲の抽出と盛土量を算出するため、2009年と2019年の地形差分図(図-4)を作成しました。
解析作業は発災から約11時間後の23時22分に完了し、結果はチーム内で共有・検証された後に、現地対応中の県の幹部職員に共有しました。
翌日の早朝から行われた現地踏査では、この解析結果を踏まえて、盛土の崩壊という視点から現地確認されています。
 
その後、さらに検証を進め、詳細な差分図(図-5)から逢初川源頭部付近の谷部には高さ10mを越えるプラスの地形変化と整地された階段状の地形が確認され、この部分が2009年から2019年までの間に盛土された地形と判断されました。
盛土の体積をメッシュ法で算出し、その土量が約54,000m³と判明したのは災害発生翌日の7月4日(日)の9時22分でした。

地形差分図(2009年と2019年の地形差分による地形変化)

図-4 地形差分図(2009年と2019年の地形差分による地形変化)


地形差分図(2009年と2019年の地形差分による盛土厚の計測)

図-5 地形差分図(2009年と2019年の地形差分による盛土厚の計測)


 

②2019年データと災害後のデータを用いた地形変化の抽出と崩壊規模の算出
月7日に公開された災害後のUAV計測と2019年地形データとの差分を行いました(図-6)。
 
源頭部崩壊地と砂防堰堤付近での土砂の変化量(図-7)をメッシュ法で算出した結果、約55,500³が崩壊し、約7,500³が流下途中で砂防堰堤に捕捉され、その残りが下流の市街地に流出したと推定され、この結果は、7月8日の9時頃にチーム内での検証を経て、県の担当部局に共有され即日公表されました。

地形差分図(被災前の2019年と被災後の2021年の地形差分)

図-6 地形差分図(被災前の2019年と被災後の2021年の地形差分)


崩壊前後の地形差分により、崩壊土砂量を約55,000m3と算出

崩壊前後の地形差分により、
崩壊土砂量を約55,000m3と算出

崩壊前後の地形差分により、堰堤に捕捉された土砂量を約7,500m3と算出

崩壊前後の地形差分により、
堰堤に捕捉された土砂量を約7,500m3と算出



図-7 地形差分図(左)逢初川源頭部付近、(右)逢初川中流砂防堰堤付近
 

③未崩壊盛土の抽出と対応
点群データによる地形差分結果や現地写真から、源頭部の右岸側には未崩壊の盛土が残存していることが判明しました。
この土量(図-8の領域A+領域B)は約20,000³で、特に多くの亀裂が認められる不安定な領域Aの土量は約9,400³でした。
これらの情報もチームの検証を経て県の担当部局に共有され、7月13日に公表されています。
一方、二次災害を防ぐ観点から、国土交通省により速やかに現地に伸縮計などが設置され、エリアメールやサイレン・回転灯などを組み合わせた監視警戒態勢が構築されました。

崩壊後に残存している盛土の抽出(背景図は2019年地形)

図-8 崩壊後に残存している盛土の抽出(背景図は2019年地形)


(3)まとめ

今回の災害では、点群データを活用し、崩壊の原因となった盛土の存在や、崩壊した土砂量や流下経路の砂防堰堤で捕捉された土砂量の算定などを行い、災害の全体像に関わる情報を迅速に提供することができましたが、これを可能にした背景には次のような要因があると考えています。
 
① 発災前から、点群データの蓄積とオープンデータ化を進めていた
② 発災前から、点群データを活用する取り組みが行われていた
③ 発災後、直ちに有志による「静岡点群サポートチーム」が機能した
④ チームによる多面的分析がオンラインで実施され、情報共有と検証が迅速に実施された
⑤ チームの情報が県の担当者に迅速に共有される環境が整っていた

 
 

おわりに

今回は、被災前の点群データがオープンデータとして公開されていたからこそ、多くの方々の支援を受けて迅速に被害状況を把握することができましたが、大容量のデータに自由かつ迅速にアクセスできる「G空間情報センター」のクラウド環境やSNS、Web会議システムなどのオンライン環境がなかったら、このような対応は不可能であったと思われます。
 
いつ、どこで発生するか分からない災害に備え、速やかな初動対応を実現するためには、国土の基礎データとして全国規模で高精細な地形データが整備され、オープンデータとして自由に活用できる環境の整備が必要であると考えます。
 
点群データの収集・利活用の取り組みはさまざまな検討が行われているところですが、いまだ発展途上であり、標準化に向けては、多くの方々のお力添えが必要であると考えています。
このため、本県ではこれまでに取り組みを実施している産学官の連携に加えて、今後も多業種の民間企業の参画を促進するとともに、国土交通省や国土地理院などのご指導、ご支援をいただきながら、「VIRTUAL JAPAN」構築につながるよう、積極的に取り組みの拡大を図って参ります。

 
 

●VIRTUALSHIZUOKAイメージ動画(3次元点群データでめぐる伊豆半島)
https://youtu.be/dbRRwQje9Fo 
●G空間情報センター(富士山南東部・伊豆全域)
https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/shizuoka-19-20-pointcloud 

 

 

静岡県 交通基盤部 政策管理局 建設政策課+静岡点群サポートチーム

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 



BIMデータを活用した建築確認申請について

2021年9月27日

 

はじめに

2016年度の政府成長戦略でi-constructionが掲げられ、主に公共土木建築の中でBIM/CIMの推進が進められてきた。その後、2018年度にはデータ駆動型社会、Society 5.0の施策が示され、民間公共問わず建築分野のBIM推進が位置付けられたことを受け、2019年4月、建築BIM推進会議がこの目標を達成するために設置された。また、2019年6月に閣議決定された、成長戦略実行計画の中の「令和元年度革新的事業活動に関する実行計画」では、図-1に示すように、建築確認審査に対しても、2022~2025年度に「BIMによる建築確認申請の推進」が位置付けられ、BIMによる建築確認の実現が必須となった。このようなBIM推進に対応する施策が続々と打ち出される中、あらためてBIMデータを活用した建築確認申請の開発の現状と展望について説明したい。
 

令和元年度革新的事業活動に関する実行計画

図-1 令和元年度革新的事業活動に関する実行計画
(令和元年6月21日閣議決定)におけるBIM/CIM等の普及拡大の工程表 1)


 
 

成長戦略におけるロードマップとその対応

建築確認におけるBIMの活用は、日本建築行政会議指定機関委員会を事務局とする「建築確認におけるBIM活用推進協議会」(以下、協議会)で検討が進められており、建築BIM推進会議における「BIMを活用した建築確認検査の実施検討部会(部会3)」に位置付いている。
 
具体的な検討内容は、協議会の事業計画の中で次の3つを定めている。
 
(1)BIMモデルを利用して作成する確認申請図面の標準化を図るため、BIMモデルから作成する建築確認に必要な図面表現の標準(以下、「確認図面の表現標準」という)の作成と、種々のBIMソフトウエアにおいて確認図面の表現標準を作成するために必要な入出力情報を定めるための解説書(以下、「解説書」という)の作成を行い、それらの普及を推進する。
 
(2)BIMモデルデータを建築確認の事前審査の際に利用する場合に、審査者が使用する、確認審査に適したBIMビューアーソフトウエアの仕様(機能、性能等を定めたもの。以下同じ)を策定し、その円滑な開発に向けた環境を整える。
 
(3)上記(1)、(2)のほか、これらの共通事項として、法令改正等に伴う解説書・BIMビューアーソフトウエア仕様の見直しなどの継続的運用の確保や、国際情勢の把握と日本の情報発信による国際協調の推進などを行う。
 
このうち(1)は、建築設計のBIM作業環境における、確認申請図書の作成基準の確立を目指すものである。これは、シンガポール政府の建築確認における業務標準(Code of Practice)に相当するものであり、BIMによる確認申請図書の作成が一定の規範に基づいて作成できることを担保することで、申請者側が確認審査図書作成の追加的な作業を強いることがないようにするとともに、BIMソフトウエアに確認審査図書作成のための付加的機能を装備されることを期待することで、確認審査手続きがBIM普及の支障とならないようにするという期待が込められている。
 
2019年度は、協議会の前身である、「BIMを活用した建築確認における課題検討委員会」(委員長 松村秀一東京大学大学院特任教授)の成果を拡張し、建物用途の異なる3つの建築設計によるBIMモデルを作成し、確認図面の表現標準、および、確認図面の表現標準の作成に必要な入出力情報(意匠、構造、設備)の整理とその解説書を作成した。解説書については、確認図面を構成する図書ごと、部位ごとに必要とされる入出力情報と必要な表現を得るためにBIMソフトウエアの機能を使って表現できたかどうかについても整理を行い、表-1に示す、「審査項目別のBIM活用課題一覧表」にまとめた。さらに、その内容の理解を深めることを目的として意匠・構造・設備の分野ごとにテーマを設定し、図-2のような、「課題別検証シート」としてまとめた 2)
 

審査項目別のBIM活用課題一覧表

表-1 審査項目別のBIM活用課題一覧表 2)


 
課題別検証シートの例(意匠 課題1、3、4)

図-2 課題別検証シートの例(意匠 課題①、③、④) 2)

 
審査項目別のBIM活用課題一覧表は、BIMソフトウエアを用いて確認図書を作成する際に、加筆や表現方法の工夫を必要とするといった、共通の課題となるテーマが抽出されたものである。各課題に対する表現、とりわけ、BIMの特性を生かした「BIMならでは」の表現方法の具体的な解決方法について、課題別検証シートに整理されている。
 
2019年度の協議会成果が想定する技術段階は、図-3の開発ステップでStep1+に相当するものとなる。BIMを活用した確認図書の作成については、図書作成上の課題と各課題に対する表現方法を、一覧表やシートにより理解を深めることで、これからBIMを活用して確認図書を作成する方に対する一助となること、あるいは、BIMソフトウエアに、これらの課題を解決するような機能等の搭載を期待したい。

 

BIM建築確認の開発ステップ概要

図-3 BIM建築確認の開発ステップ概要(建築研究所2015) 3)


 
 

確認審査におけるBIMデータの活用

しかし、Step1+は、BIMによる設計環境下で、効率的に作成された、従前の申請図書を審査者が審査することを示しており、在来審査のBIM対応の水準にとどまると言える。2019年度の協議会の検証においても、確認の試審査は、BIMソフトウエアから出図した図書イメージであり、審査者としては、申請者側が「BIMならでは」の作図をしていることについて意識していないため、分かりやすい図書の表現をしている設計者側の意図が十分伝わっていないという指摘がなされている。言い換えれば、図書の生成元となる、BIMデータから出図されているという背景の理解の不足が、設計側の図書表現の意図の理解の支障となっているということである。
 
このような状況を打開し、BIMによる確認図書の作成をより効果的にするために、協議会では、2020年度に、前述の事業計画の(2)に当たる課題について、審査者のBIMモデルと申請図書の供覧による理解度の変化、事前相談における確認審査のBIMビューアーソフトウエアの仕様の検討を行うこととしている。
 
また、BIMによる設計が、属性情報の活用などにより合理化が進められるに従い、BIMモデルが内包する数的情報を活用して、審査対象項目を漏れなく抽出し表現する、あるいは、算式による法適合の判定を自動で行い、審査に活用したいという申請者側のニーズが生じることとなる。諸外国のBIM建築確認の発展の過程を見ていると、建築許可、建築確認においてBIMを試行する段階で、起こりがちな状況のようである。このような状況において、審査者側は、「BIMは本当に信用に足るのか?」という疑念を持つこととなる。図-4は、buildingSMARTの法 規 部門(Regulatory Room)の議論に供されたものであるが、申請者側はBIM利用が増えるにつれ申請作業を一元化したい要求が強くなる一方、審査者側(規制側)とすると、「信用のおけない技術導入に向けた規制緩和はけしからん」、というわけである。しかし、設計者側が持つ、効率化の体験を審査者側で追体験し、一種の成功体験を経ることにより、BIMの活用に向かうものと理解されている。
 

申請者と審査者(規制側)との間のBIMの意識の違い

図-4 申請者と審査者(規制側)との間のBIMの意識の違い 4)

 
わが国においてもその状況は変わらず、事前相談段階におけるBIMモデルの供覧は、一種の成功体験を醸成するものとして期待されるが、BIMデータを活用した建築確認申請に至るためには、Step2+やStep3-、3のBIMデータに直接アクセスする審査が実現されなければならないが、「法適合判定がモデルのデータを使って確認ができれば良い」というだけでは審査実務に適用するには不十分である。
 
 

BIMデータの活用に向けた課題

まず、現行の建築確認審査においては、設計者が建築基準法施行規則に従って表現した明示すべき事項を図に表現し、その表現を基に、審査者側は、規則により申請者が審査項目の内容について明示した事項について、審査者側はその内容について確認処分を行うものであるのに対し、BIMデータによる審査の場合は、明示すべき事項が容易に確認することができず、BIMデータから審査者が審査項目に当たるデータを能動的に検索して、その内容の確認処分をすることとなる。つまり、BIMデータによる審査の場合に、申請者側の明示義務を果たすこととなるかという懸念である。これについては、私見ではあるが、BIMモデル閲覧における明示すべき事項の要件と、当該事項の有無や内容の確認にかかる確認処分行為の業務方法について規定を定め、コンセンサスを得ることで対応しうるのではないかと考えている。
 
また、審査後のデータの取り扱いについても、申請用データの検証性や真正性などを確保する技術が必須である。特に、確認審査手続きで審査機関側に求められる15年間の図書保存に対して、BIMデータの見読性や検証性を担保できる技術的裏付けが現時点でないのが実情である。
 
長期にわたる検証性を確保するためには、データフォーマットが規格等で定義されていて、仮にデータ作成時の規格が古いものとなった場合にでも、旧の規格に基づいてそのデータの確からしさが検証できることが望まれる。Step1+の場合、図面データはISOで定義されるPDFとして保存することでその要件を満たすことができる。そのため、Step2+以降でBIMデータを取り扱うためには、ISOで定義されるIFCによることが想定される。建築確認審査でBIMデータを取り扱うためには、全ての情報をIFCとして受領することはすぐには難しく、データとして審査する内容をIFC、その他の図面表現により審査する内容をPDFとして、双方を併せて確認するケースが想定される。その場合、審査の対象となるデータファイルがIFCとPDFと分離するため、相互の整合を確認するために、PDF図面表現とIFCモデルビューを重ね合わせる技術の開発が必要となる。
 
データの真正性確保の考え方については、建築確認手続きで提出する図書の押印が廃止される運びとなっているが、真正性の内の本人性の確認手段が、電子署名に代わる方法で行って良いということであり、長期にわたるデータの完全性や原本性について、電子署名あるいはタイムスタンプといった措置を不要とするものではないと考えている。PDFについては、すでに電子申請のファイルとして電子署名に対応しているが、IFCについては、XMLファイルに対する電子署名が応用できると見込まれているが、取り扱うIFCファイルのサイズに対して、署名の処理時間が実用的であるかなど、その知見がまだ不足しており、検証が必要である。また、BIMデータを、審査機関で取り扱うための基盤のあり方についても、検討が必要である。BIMのデータマネジメント手法については、ISO19650で定めるCDE(共通データ環境)の方法に準拠することが望ましいと考えられる。
 
 

建築確認BIMデータの活用の将来

確認審査時にBIMデータを受領して建築確認を行った場合、提出されたBIMデータは正本としての位置付けとなると考えられ、着工後の中間工程検査、完了時検査において、正本としてのデータに対して検査が行われることが考えられる。例えばStep3のような、BIMデータのみで確認がされている場合、確認済みのBIMデータに対して施工の結果を検査することになるということである。その場合、確認済みBIMデータと遠隔臨場技術と組み合わせたリモート検査の実現など、withコロナ時代に対応する新しい検査の方法の開発も近い将来に開発されるかもしれない。
 
また、実際の建築物の形状や性能を高精度でBIMモデルに表現し、建築物のオンデマンドあるいはリアルタイムの制御をBIMモデルで行おうとする、Digital Twinの議論が活発となっているが、少なくとも、オンデマンドの法適合確認ができるようなモデリング手法の開発も行われることになるだろう。
 
欧米では、図-5のような、建築許可の段階で、地理情報(GIS)と連携したデータの取り扱いが行われており、Virtual Cityへの展開など、ビッグデータとして活用する取り組みも現れてきている。わが国においても、単に審査機関のみの情報基盤というだけでなく、構造計算適合判定や消防同意などの外部の審査・同意行為との連携や、建築確認概要書等の特定行政庁へのデータ連携など、データによる審査の効率化、Smart City構築につながるような、データの高度利用のためのプラットフォームとして機能するための設計も必要であろう。
 

ノルウェーのBygglett(簡易な建築許可)

図5 ノルウェーのBygglett(簡易な建築許可)システムデモ画面 5)




 
 


図表出典、参考資料等
1)令和元年度革新的事業活動に関する実行計画(令和元年6月21日閣議決定)、p36
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ps2019.pdf
 
2)建築確認におけるBIM活用推進協議会HP
https://www.kakunin-bim.org/
 
3)武藤正樹:「BIMと建築確認検査業務への応用」、 えぴすとら73号、 2016.4、建築研究所
https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/epistura/pdf/73.pdf
 
4)Ma s aki MUTO: e-submissioncommon guidelines for introduce BIM to building process、 Fig.10 Difference in consciousness of BIM between applicant and regulators、 p12、 buildingSMART International Technical Report No. RR-2020-1015-TR、 2020.10
https://www.buildingsmart.org/standards/bsi-standards/standards-library/#reports
 
5)https://bygglett.catenda.com/
 
 

国立研究開発法人建築研究所 上席研究員 武藤 正樹

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



 


新製品ニュース

木造建築物構造計算システム「KIZUKURI Ver9.0」をリリース木造建築物構造計算システム「KIZUKURI Ver9.0」をリリース


建設ITガイド 電子書籍 2024版
建設ITガイド2024のご購入はこちら

サイト内検索

掲載メーカー様ログインページ



  掲載をご希望の方へ


  土木・建築資材・工法カタログ請求サイト

  けんせつPlaza

  積算資料ポケット版WEB

  BookけんせつPlaza

  建設マネジメント技術

  一般財団法人 経済調査会