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大阪・関西万博工事のBIM活用-建設事業の情報基盤としてのBIMの成熟とその後の「あるべき姿」を目指して-

2025年7月14日

はじめに

2008年の研究開発チーム発足から始まった大林組のBIMの取り組みは、今や全国のプロジェクトにおいて、設計から生産段階までの一貫利用が通常となっている。
本報では、大林組が考えるBIMの「あるべき姿」と、大阪・関西万博プロジェクトにおけるBIM利活用の実例、そして将来展望についてご紹介する。
 
 

大林組のBIM

BIMの「あるべき姿」

大林組のBIMは、「正しい情報で建設を行う」という基本的な理念に基づき「ワンモデル」を目指して始まった。
この「正しい情報」を作るために、全ての関係者がBIMを理解できるように、標準化されたモデリングルール「Smart BIM Standard(SBS)」を開発した。
 
BIM自体を目的とするのではなく、「業務プロセスの変革」が目的である、という考えに基づき、「鉄骨デジタル承認」や「次世代型生産設計図)、ビジュアルプロジェクト管理システム「プロミエ®」などのデジタル情報の連携手法やツールを開発・推進し「生産情報」の向上を図ってきた。
 
最近では、BIMから得られる「生産情報」とプロジェクトの進行から得られる「プロジェクトレベルの経営情報」を基に、データウエアハウス(DWH)の構築を進めている。
また、地図情報や気象情報、自治体が公開しているソーシャルデータなどの「オープンデータ」を統合し、コンピューターが自動で作業する「自働化」や、デジタルインサイト技術による「インフォームド・ディシジョン」(意思決定のための情報提供)を目指している。
これらの取り組みは、BIMの「あるべき姿」と考えており、BIMを基盤にした建設情報を中心とした建設業のあり方を追求している。
次に、大阪・関西万博工事での実例を紹介する。

大林組が目指す「あるべき姿」
大林組が目指す「あるべき姿」

 
 

大阪・関西万博工事

工事の概要

大阪・関西万博は2025年、大阪湾を望む夢洲で開催される。
甲子園球場40個分の敷地に100を超える建設プロジェクトが同時進行し、2023年6月から2025年3月まで工事が行われる。
大林組は個々の施設を建設するとともに、内林隆文所長のもとPW北東工区の幹事会社ならびに万博工事全体の安全やルールを統括する全体統括管理会社の役割も担っている。

大阪・関西万博における大林組の施工範囲(赤枠部)と大林組施工パビリオン
大阪・関西万博における大林組の施工範囲(赤枠部)と大林組施工パビリオン

 
 

大屋根リング

プロミエの活用

プロミエはBIMモデルが持つ情報を施工段階で活用するために自社開発したツールである。
Webブラウザ上で稼働するWebアプリケーションで、BIMモデルとモデルに付随する情報をクラウド上でリアルタイムに共有できる。
パソコンからスマートフォンまでさまざまな端末で利用でき、施工現場だけでなく、発注者、設計者、工事支援部門、専門工事会社も利用可能である。
 
施工段階におけるBIM利用の一つとして、モデルを部材単位に展開しそれぞれに工程情報をひも付け、工事のプロセスを4D表示するニーズがある。
プロミエではこの機能をタイムラインと呼び、施工計画と工事実績を並べて比較することができる。
施工完了部分の出来高数量や割合のグラフ表示や帳票出力機能も備えている。
また、外部アプリと連携するためのAPI(Application Programming Interface)を備えており、クレーンの挙動データから部材の取り付けを検出してプロミエに自動登録する、などの応用が可能である。

プロミエ4D表示(大屋根リング)
プロミエ4D表示(大屋根リング)

 

製作工場の製作状況管理

大屋根リングは109ユニットの木架構を円形につなぐ。
大林組はそのうち北東部35ユニットの施工を担当した。
主要部の柱・梁・根太だけでも、全部で1万個以上の部材で構成されている。
 
部材は福島県の製造工場で製作され、海路で運ばれて和歌山県のストックヤードに保管される。
部材をタイムリーに施工現場に搬入し、部材の製作・保管の状況を管理するために、プロミエを導入した。
製造工場やストックヤードでは、製造管理システムからプロミエのAPIを呼び出し製作・保管実績データを登録する。
これによって施工現場では、部材の製作・保管の状況をリアルタイムで確認できた。

プロミエによる製造工場での製作管理
プロミエによる製造工場での製作管理

 

現場施工進捗管理

プロミエは、大屋根リングの施工進捗の管理にも活用した。
各ユニットを、施工手順を考慮した複数工区に分類し、工区単位で施工日を管理した。
BIMモデルから抽出した部材の体積から重量を算出し、プロミエ上でこれを毎月の施工数量の把握に利用した。
 
 

東ゲート施設

デジタルモックアップと合意形成

東ゲート施設大屋根部は船底のような形をしており、木製のパネルで構成されている。
断面の切断箇所ごとに形状が異なっており、部位ごとに詳細に部材寸法を検討する必要があった。
また、設計図に記載の断面図や外形寸法を頼りに、部材を制作するための詳細な断面図などを作成しなければならなかった。
そこで設計モデルを基に検討モデルを作成し部材の製作に必要な検討を行うことにした。

デジタルモックアップ 調整前(左)と調整後(右) 調整前は調整後に比べ目地部の段差が目立つ
デジタルモックアップ 調整前(左)と調整後(右) 調整前は調整後に比べ目地部の段差が目立つ

 
まずは舟底を形成するパネルを960×2000のグリッドに切り分け、各グリッドにパネルを一つずつ配置し、製作するパネルをパターン分けした。
外形の通りに配置を行うと、数ミリずつサイズが異なる平行四辺形のパネルが数百パターン出来上がった。
部材の製作パターンは少ない方が、効率よく製作・施工をすることができる。
そこで製作パターンを減らしたモデルを作成し、デジタルモックアップとして外観の違いを確認できるようにした。
パターンを減らすほどパネル間の段差が大きくなり、目地部分が目立つようになってしまう。
モデル上で外観を確認しながら、部材の製作パターン数を検討し、製作・施工効率の調整を行い、最終的には数十パターンまで減らすことができた。

パネル寸法検討時の当初案
パネル寸法検討時の当初案

 

BIMを利用した足場数量算出と発注

東ゲート施設の形状は場所によって断面形状が異なり、施工用の足場を計画するのは簡単ではなかった。
そこで、足場のモデルを作成し納まりを確認した。
また、外部のシステムを利用し、モデルから足場材の数量を算出した。
このシステムでは、モデル上で範囲を選択すると、その範囲に必要な足場材の数量と重量をすぐに計算でき、そのまま足場材の発注ができるため、足場材の数量計算から部材発注までの時間を大幅に短縮できた。
足場の計画と発注は、BIMを活用することで従来の作業フローに大きな変化をもたらし、労力の削減が期待できる分野である。

船底の足場施工図
船底の足場施工図
システムでの足場数量算出
システムでの足場数量算出

 
 

パナソニックグループパビリオン「ノモの国」

Mixed Realityを活用した現地確認

パナソニックグループパビリオン「ノモの国」のファサードは、金属繊維をコーティングした布を、蝶の羽のような形をしたパーツに張り付けたものを積み重ねて構成されている。

© パナソニック ホールディングス株式会社パナソニックグループ
© パナソニック ホールディングス株式会社
パナソニックグループ

 
完成後のイメージをスケッチやモデルで想像することはできるが、特殊な形状のため、他のパビリオンとの関係や青空の下での印象など、実際に建物が完成するまで分からないことが多かった。
そこで、完成した建物のイメージを設計者等と共有するために、大林組が開発したMixed Realityアプリ「holonica®」を使用した。
このアプリでは、施工場所にBIMモデルを重ねて表示できる。
設計者が作成したBIMモデルを基にMR用のモデルを作成し、外装のフレームが完成した段階で、「holonica」を使って布部分のBIMモデルを重ね合わせた。
 
建物の躯体が完成した状況で設計者と現地確認することで、従来のワークフローより具体的に「蝶の羽のような形の布」のイメージを確認できた。

holonicaでのBIMデータ重畳
holonicaでのBIMデータ重畳

 
 

ウーマンズ パビリオンin collaboration with Cartier

QRコードを利用した部材の仕分け

ウーマンズ パビリオンの外装は、2020年ドバイ万博の日本館で使用された組子ファサードを再利用している。

© Cartier ウーマンズ パビリオン外観
© Cartier
ウーマンズ パビリオン外観

 
ファサードは、骨組みとなる棒状のチューブとそれらをつなぐ球状のノードで構成されており、そこに白い膜を取り付けて完成する。
ウーマンズ パビリオンのファサードは約4500本のチューブ、約1500個のノード、約1000枚の膜を使用している。
 
真田久親所長はドバイ万博の日本館建設工事にも従事しており、その経験がウーマンズ パビリオンの工事にも生かされている。

所長のチェック状況
所長のチェック状況

 
ノードは、自身の大きさやチューブを差し込む穴の位置・サイズが一つ一つ異なり、識別のために固有の番号が刻印されている。
ドバイ万博日本館で解体されたノードは倉庫で管理されていたが、今回の工事のために整理する必要があった。
そこで倉庫から施工現場への搬入に先立って、ノードごとに固有番号を確認し、施工順に並び替えて搬入日ごとに仕分けを行うことにした。
 
プロミエにはQRコード連携機能があり、デバイスのカメラでQRコードを読み取ることで、部材に関連付けられた情報の確認や実績の入力、3D表示での部材の取り付け位置の確認が可能である。
これらの機能を活用し、全てのノードにQRコードを貼り付け、管理することにした。
 
BIMモデル上のノードに工区と位置情報を与え、倉庫内で全てのノードの固有番号を確認し、対応するQRコードを貼り付けた。
その後プロミエのQRコード読み取り・情報表示機能を使用してノードの使用場所を確認する手順で仕分けを実施した。
プロミエとQRコードの使用によって従来方法に比べて、25%程度の労力削減となった。

QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です 組子ファサード部材とQRコードを使用した部材仕分け状況
QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です
組子ファサード部材とQRコードを使用した部材仕分け状況

 

図面チェック時のプロミエ利用

ウーマンズ パビリオンの設計データはRhinocerosモデルで提供されており、施工図の整合チェックを行う必要があった。
この整合チェックを簡便かつ正確に実施するため、設計データをプロミエに取り込み管理した。
取り込みに際しては、事前にGrasshopperを用いて膜部材の追加生成などを行った。
その後、プロミエに取り込んだモデルと施工図を見比べながら図面のチェックを行い、かつ同時にチェック作業の進捗管理を行った。

Rhinocerosモデルを取り込んだプロミエの操作画面
Rhinocerosモデルを取り込んだプロミエの操作画面

 

QRコードを利用した施工進捗記録入力および品質記録作成

ノードとチューブを組み立てる際には、ノードの向きや膜取付金物の数と向きを正確に管理する必要があった。
 
そこで、仕分け時に貼り付けたQRコードを活用した。
プロミエでQRコードを読み取ることで部材を特定し、設計図どおりに金物が取り付けられているか確認し、施工の進捗を記録した。
またチューブとノード取り付け部の品質記録書もプロミエから出力した。
このQRコードは、仕分けから施工進捗管理、品質管理、書類作成まで、何度も活用され、生産情報を利用したBIMによる一貫した施工管理が実現した。

BIM上のファサード部材情報
BIM上のファサード部材情報

 
 

全体統括管理

広大な敷地管理に自律飛行ドローンを採用

万博工事では約160haという広大な敷地で、数多くの工事会社が個々の工事を担当している。
 
全体統括管理会社である大林組は、日々進行している敷地内の工事状況や車両動線・安全通路の確保など効率的に行うため、敷地全体の現況をデジタル情報として取得することを目的に、完全自動型の自律飛行ドローンを採用した。

自律飛行ドローンとドック
自律飛行ドローンとドック

 

日々の写真や点群データを取得

ドローンは毎日定刻にドックから離陸し、プログラムされたルートに沿って地上を撮影する。
帰還すると撮影データをサーバーにアップロードし、点群データを生成する。
離陸から撮影、データのアップデート、バッテリー充電まで全て自動で行われるため、現場管理職員の手間をかけることなく広大な敷地全体を把握できた。
また、常に最新の画像や点群データを共有することにより、現場管理職員だけでなく遠隔地からの進捗確認や寸法計測も可能であった。
 

CONNECTIA®による大容量モデルや点群データを重ね合わせ

現実世界から収集したさまざまなデータを、双子のようにコンピューター上で再現する技術をデジタルツインと呼ぶ。
大林組は、BIMの情報だけでなくその他の建築情報の融合を図り、意思決定に資する情報提供を可能とする環境の構築=「あるべき姿」を目指して、デジタルツイン基盤「CONNECTIA」を開発した。
 
万博工事では、自律飛行ドローンで取得した点群データと3次元設計したBIMモデルをCONNECTIA上で重ね合わせることで、最新のデジタルツインを構築した。
CONNECTIAは複数のBIMモデルや点群データを重ね合わせても操作しやすいように設計されている。
そのため万博工事の複数のモデルにとどまらず、広大な敷地の点群データや敷地境界線情報なども同時に表示することができる。

CONNECTIA 上での重ね合わせと施工計画検討
CONNECTIA 上での重ね合わせと施工計画検討

 

CONNECTIAで効率的施工管理を実施

このCONNECTIAを用い、敷地モデル上にクレーンやダンプトラックなどの重機モデルを配置し、搬送経路の設定や揚重計画など工事の正確なシミュレーションを実施した。
 
またプロミエとも連携しており、プロミエ上の施工予定や実績情報をCONNECTIAに取り込みタイムライン表示することで、施工段階ごとの計画立案に役立てた。
 
大阪・関西万博では自社だけでなく複数の施工会社が同じ敷地内で工事を行っているため、CONNECTIAを利用して日々変わる車両の動線を検討し、効率的な施工管理を実現した。
 
 

今後の展望

万博後の展開と大林組の未来

ウーマンズ パビリオンで使用された組子ファサードは万博終了後さらなる転用が検討されており、今回使用されたQRコードやプロミエ上のデータも再利用が期待されている。
情報のプロジェクト単位でのサイクルを確立させたい。
 
万博工事では、プロミエやQRコードの利用、足場の数量算出から発注まで、BIMの情報を活用することで「業務プロセスの変革」を実践した。
 
大林組は今後もDWHを活用して建設情報を広く集め、デジタルツインなどを通じた情報の利活用を進化させ、BIMの「あるべき姿」を目指して取り組みを続けていく。
 
 
 

株式会社大林組DX本部iPDセンター制作第三部 制作第二課 主任
小山 洋登
生産デジタル部 生産第一課 副課長
西田 拓也

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



沖縄総合事務局におけるBIM/CIMの取り組み

はじめに

国土交通省では、令和5年度より、BIM/CIMの原則適用(図-1)を進めており、国土交通省職員だけでなく、国土交通省の業務や工事を受注する民間企業などもBIM/CIMを活用できるように環境整備を図っています。
 
BIM/CIMの活用に当たっては、測量・調査・設計などの各段階から3次元データを導入し、施工や維持管理などの各段階への3次元データの連携が重要となります。
これにより、事業段階ごとの関係者との情報共有が容易になります。

図-1 BIM/CIM の原則適用
図-1 BIM/CIM の原則適用

 
 

沖縄総合事務局における取り組み状況

沖縄総合事務局での取り組みとして、モデル事務所を中心に進めてきましたが、令和5年度より業務・工事でのBIM/CIMの原則適用を受け、管内の他事務所でもBIM/CIMのさらなる活用を図っています。
BIM/CIMを効果的に活用し、建設生産システムの効率化を図るためには、発注者および受注者双方の人材の育成が不可欠です。
 
沖縄総合事務局では、BIM/CIMの適用が十分に浸透していない現状を踏まえ、受発注者を対象としたWebや対面での講習会を開催(図-2)し、効果的に活用を推進しています。
 
また、人材育成の拠点として沖縄総合事務局開発建設部に「沖縄インフラDXルーム」の整備し、令和4年12月20日より運用を開始しました。
 
インフラDXの推進に向けて、VRコンテンツなどの体験が可能なDX技術を活用しています。
 
今後、DXルームで体験できるコンテンツの充実と人材育成に向けた環境整備に取り組んでまいります。

図-2 令和6年度 BIM/CIM 講習会
図-2 令和6年度 BIM/CIM 講習会図-2 令和6年度 BIM/CIM 講習会

 
 

デジタルツインの作成および活用1)

沖縄総合事務局では、令和元年10月に発生した火災により焼失した首里城の復元整備を進めており、それに併せて復元作業の見える化「見せる復興」に取り組んでいます。
 
BIM/CIMを軸とする「首里城デジタルツイン」を作成し、復元までの首里城正殿の可視化を図ることで、工事関係者間での工事中・完成後のイメージを共有するツールとしての活用、また、一般の方への復元整備に関する理解を促進する情報発信ツールなどとして活用しています(図-3)。

図-3 デジタルツイン取り組み事例
図-3 デジタルツイン取り組み事例

 
 

フロントローディングの取り組み事例

BIM/CIMモデル事務所において、BIM/CIMの原則適用を受け、調査・測量・設計・施工の各段階でのフロントローディングの取り組みを進めています(図-4)。
 
特に施工段階においては、ICT活用工事に際し起工測量時にUAVレーザー測量を行い、設計データと点群データを合成した統合モデルを作成し、当初設計と施工計画作成時に手戻りを防ぐ意味でフロントローディングで活用するなどの取り組みを進めています。

図-4 フロントローディング取り組み事例
図-4 フロントローディング取り組み事例

 
 

おわりに

建設現場の生産性向上を図るためには、インフラDX、i-Construction、BIM/CIMなどの取り組みを普及・推進することが重要です。
これらの取り組みが社会全体に浸透し、一般化することで、魅力ある建設業へつなげていくことが期待されます。
 
 
〈参考文献〉
1)勝美 直光、新垣 博愛:首里城公園におけるBIM/CIMを活用したインフラDXの推進
-首里城デジタルツインの効果と課題-、令和5年度国土交通省国土技術研究会概要論文集 ~イノベーションⅡ部門~、2023
 
 
 

内閣府 沖縄総合事務局 開発建設部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
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建築BIM推進会議における検討や建築BIMの推進に向けた取り組みの状況について

2025年7月7日

はじめに

Society5.0の社会へ

デジタル技術がもたらす社会像として「Society 5.0」が あります。
「Society 5.0」は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として平成28年に提唱されたものです。
Society 5.0の社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。
また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。
社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります」とあり、これらデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性について提唱されています。
 

i-Constructionの推進

わが国は、現在、人口減少社会における働き手の減少への対応や潜在的な成長力の向上、産業の担い手の確保・育成などに向けた働き方改革の推進などの観点から、生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、ICTの活用などにより調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指す「i-Construction」の取り組みを進めています。
また、令和6年4月には、2040年度までに生産性を1.5倍向上することを目指し、「i-Construction 2.0」が取りまとめられています。
 
さらに、「成長戦略フォローアップ」(令和元年6月21日 閣議決定)において国・地方公共団体、建設業者、設計者、建物所有者などの広範な関係者による協議の場を設置し、直面する課題とその対策や官民の役割分担、工程表などを令和元年度中に取りまとめることとされたことを踏まえ、i-Constructionのエンジンとして先行して土木分野で重要な役割を担ってきた「BIM/CIM推進委員会」の下に、建築分野のBIMについて拡充を図るため、令和元年度からWGとして、後述する「建築BIM推進会議」を設置し、建築分野におけるBIM活用に向けた市場環境の整備について具体的な検討が開始されました。
 
 

建築BIM推進会議の設置と取り組み状況

建築BIM推進会議の設置(令和元年6月)国土交通省では、前述の「成長戦略フォローアップ」に基づき、建築物のライフサイクルにおいて、BIMを通じデジタル情報が一貫して活用される仕組みの構築を図
り、建築分野での生産性向上を図るため、官民が一体となって「建築BIM推進会議」(以下、推進会議)を令和元年6月に設置しました。
 
推進会議では、官民が連携し、建築業界全体が一丸となって今後の建築BIMの活用・推進について幅広く議論し、対応方策をとりまとめていくラウンドテーブルとなり、BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスなどの「将来像」とそれを実現するための「ロードマップ」(官民の役割分担と工程表など)の検討・策定、当該「ロードマップ」に基づく官民それぞれでの検討などが進められました。
 
なお、推進会議は、松村秀一神戸芸術工科大学学長を委員長とし、学識者のほか、建築分野の設計、施工、維持管理、発注者、調査研究、情報システム・国際標準に係る幅広い関係団体により構成されています。
国土交通省においても、住宅局建築指導課、不動産・建設経済局建設業課、大臣官房官庁営繕部整備課の3課で事務局を務めています。
 

「建築BIMの将来像と工程表」の策定

令和元年6月に第1回推進会議が開催され、同年9月の第3回の推進会議において、「建築BIMの将来像と工程表」が了承されました。
特に「将来像」として、「いいものが」(高品質・高精度な建築生産・維持管理の実現)、「無駄なく、速く」(高効率なライフサイクルの実現)、「建物にも、データにも価値が」(社会資産としての建築物の価値の拡大)の3つの視点で整理されるとともに、その将来像を実現するための「ロードマップ」が、次の①~⑦の7項目に整理され、連携しつつ検討していくこととされました。
 
①BIMを活用した建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
②BIMモデルの形状と属性情報の標準化
③BIMを活用した建築確認検査の実施
④BIMによる積算の標準化
⑤BIMの情報共有基盤の整備
⑥人材育成、中小事業者の活用促進
⑦ビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携
 
①のワークフローの検討など、さまざまな業界間の調整が必要な部分については国が主体的に事務局を務める部会「建築BIM環境整備部会」を設置することとし、②~⑤については既に民間の関係団体などにおいて検討が進められていることから、それらの各団体の活動を部会と位置付け、個別課題に対する検討などを進めることとされました(令和元年10月~)。
 
現在も、これら部会において官民が一体となってBIMに関する議論を進めています(図-1)。

図-1
図-1

 

ガイドライン(第1版)の策定(令和2年3月)

①の検討を行う「建築BIM環境整備部会」(以下、環境整備部会)は、志手一哉芝浦工業大学建築学部建築学科教授を部会長とし、推進会議と同様に幅広い関係団体などにより構成されています。
令和元年10月から環境整備部会において、BIMのプロセス横断的な活用に向け、関係者の役割・責任分担などの明確化などをするため、標準ワークフロー、BIMデータの受け渡しルール、想定されるメリットなどを内容とする「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(以下、ガイドライン)の検討が行われ、推進会議での承認を経て、令和2年3月にガイドラインが策定、公表されました。
 

モデル事業の実施・ガイドラインの改訂

令和2年度から、第1版であるガイドラインの実証などを行うため、ガイドラインに沿って試行的にBIMを導入し、コスト削減・生産性向上などのメリットの定量的把握・検証や、運用上の課題抽出を行う、「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」を実施しました。
本事業では、ガイドラインの実証だけでなく、BIMを活用した場合の具体的メリットを明らかにするとともに、BIM実行計画書(BEP(BIM Execution Plan))、 BIM発注者情報要件(EIR(EMployer’s InforMation RequireMents))を含む検討の成果物を公表することとしています。
 
特に令和3、4年度は、「先導事業者型」、「パートナー事業者型」、中小事業者BIM試行型」の3つの枠に分けています。
 
「先導事業者型」は、発注者メリットを含む検証など過年度に検証されていない、もしくは発展させた事業、「パートナー事業者型」は、推進会議に連携・提言を行っていただく事業、「中小事業者BIM試行型」は、BIMの普及に向けた取り組みの一環として、中小事業者が事業者間でグループを形成し、試行的にBIMを活用し、 BIMの普及に向けた課題解決策の検証などを行う事業を応募の要件として募集を行いました。
 
これらの事業などによる検証の結果、標準ワークフローの大きな枠組みについては、汎用的に各プロジェクトで適用され、標準ワークフローに基づく運用上の留意点などや、BIMの定量的な活用メリットなどが提言されました。
 
これを受け、環境整備部会において議論を行い、令和4年3月にガイドライン(第2版)への改訂を行いました。
改訂のポイントとしては、これまでの建築BIM推進会議の活動成果、モデル事業の成果などから得られた知見を盛り込むとともに、実務者の意見を踏まえた記載順整理などの構成の改善、以下の8点についての記載の充実化などが挙げられます。
 
①発注者メリットと発注者の役割
②EIRとBEP
③ライフサイクルコンサルティング
④維持管理・運用BIM
⑤各ステージの業務内容と成果物
⑥標準ワークフローのパターン
⑦データの受け渡しの方法
⑧各部会などの取り組み
 
また、モデル事業の取り組みについては検証・分析事例集として取りまとめを行い、国土交通省HPで公開しています。
事例集では、各事業者の取り組みを総覧でき、読み手にとって知りたいことと各事業の実施内容がひも付くように、BIMガイドライン(第2版)の節に沿ったキーワードによるカテゴライズ・マッピングを行い、一覧表として記載しています。
 

将来像と工程表の改定

令和4年6月に閣議決定された新しい資本主義実行計画グランドデザイン・フォローアップ(令和4年6月7日閣議決定)において、「ガイドライン(第2版)に基づき官民が発注する建築設計・工事などにBIMを試行的に導入するとともに、建築物のライフサイクルを通じたBIMデータの利用拡大に向けて、2022年度中にロードマップを取りまとめる」とされたことを踏まえ、「建築BIMの将来像と工程表」の改定について、環境整備部会で検討しました。
 
改定に当たっては、これまでの推進会議各部会における検討やモデル事業の成果を踏まえ、BIMの普及により目指す姿とその実現に向けた取り組みの全体像および将来像の実現に必要な検討事項や現在の到達イメージについて、現状に合わせた見直しを行うとともに、社会実装に向けたさらなる成果を生むために、部会間の連携や調整を図り、BIM推進に係る具体的なロードマップとして取りまとめることを基本方針としました。
具体的には、直面する社会課題に対して建築BIMにより生産性・質の向上を実現し、さらには、BIMデータを他分野のデータと連携して活用できる社会の構築を見据えたとき、3つの重要課題に取り組む必要があると位置付けました。
 
1つ目は、設計から施工へ至る際に必ず通る確認申請を建築BIMを用いて行えるようにすること。
2つ目は、設計・施工段階において建築BIMデータを円滑にやり取りして横断的に活用するための環境整備を行うこと。
3つ目は、BIMデータを他分野のデータなどと連携させていくことを目指して維持管理・運用段階の高度化を図ることです。
 
これら3点について、いつまでに何に取り組むかについて、ロードマップとして取りまとめました。
また、これらを具体化していくためには、部会を横断した取り組みが必要になることから、アウトプットを明確にしたTF(タスクフォース)において取り組むこととし、工程表に沿ったTFの取り組みに関する進捗管理を行うために、環境整備部会に戦略WGを設け、必要な調整や方針決定を行うことで、全体として工程表に沿った取り組みが進められる体制を新設しました。
 
さらに、2023年度予算より、建築BIMの社会実装を加速化するための基盤を整備する取り組みに対する支援措置として、建築BIM活用総合支援事業を創設したところです(図-2、3、4)。

図-2
図-2
図-3
図-3
図-4
図-4

 

建築BIM加速化事業の実施

「建築分野のBIMの活用・普及状況の実態調査」(令和3年1月国土交通省調べ)によると、1,000人以上の企業におけるBIM導入率は7割以上である一方、10人以下の企業では3割以下となっており、特に中小事業者にとっては、導入・運用に係る初期投資や習熟人材の不足といった課題がBIM導入の障壁として挙げられます。
 
そこで、国土交通省では、建築BIMの社会実装のさらなる加速化を図ることを目的に、中小事業者が建築BIMを活用する建築プロジェクトについて建築BIMモデル作成費を上限として支援する「建築BIM加速化事業」が令和4年度第二次補正予算にて成立しました。
令和5年度補正予算における建築BIM加速化事業では、小規模プロジェクトや改修プロジェクトも対象に加えるほか、下請けとなる事業者に対する支援を強化しており、さらなる建築BIMの普及に寄与することを期待しています。
 

今後の展開・展望

建築BIMの推進においては、官民一体となって個別課題に対する検討などを進めるとともに、共通する課題に横断的に取り組むことが重要となります。
このため、部会間の連携をさらに深め、共通する課題への取り組みを進めるとともに、各部会だけでなく、推進会議に参加している各団体においても、ガイドラインを踏まえた検討が進められています。
さらに、建築分野にとどまらず、PLAETEAU・不動産IDと連携し、建築・都市・不動産分野の情報と他分野(交通、物流、観光、福祉、エネルギーなど)の情報が蓄積・連携・活用できる社会の構築を目指した検討も行っているところです。
 
こうした継続的な取り組みにより、マーケットのさまざまな事業でBIMが広く活用され、関係団体の検証も進み、将来的にはさまざまな人材の育成や幅広い事業者への普及、さらにはビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携などに広がっていくことを期待します。
 
 
 

国土交通省 住宅局 建築指導課 係長
平牧 奈穂

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



「BIM概算ガイドブックI」の発刊について-BIMデータとコスト情報の融合によって生まれる新たな可能性-

BIM概算ガイドブック

建設業界において、BIMを活用した積算は、もはや必須のスキルとなりつつあります。
そこで、日本建築積算協会情報委員会は、「BIM概算ガイドブックI」を作成し、公開しました。
 
本ガイドブックは、設計段階における概算積算に焦点を当て、BIMデータとコスト情報の融合によって生まれる新たな可能性を提示しています。
 
本稿では、この「BIM概算ガイドブック I」の一部を引用しつつ、その概要を紹介いたします。
 

はじめに

デジタル化の波が押し寄せる建設業界において、BIMは、設計・施工だけでなく、コストマネジメントの領域にも変革をもたらしています。
特に、2020年3月に国土交通省が発行した「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン」を契機に、BIMの活用と積算業務の標準化に向けた取り組みが加速しています。
 
公益社団法人日本建築積算協会に設置する情報委員会(志手一哉※1委員長、以下、BSIJ情報委員会)では、こうした流れを汲み、BIM時代における積算の在り方についてさまざまな議論を重ねてきました。
そして2024年10月、その検討成果を「BIM概算ガイドブックI」として公開するに至りました。
本ガイドブックは、設計段階における概算積算に焦点を当て、BIMデータとコスト情報の融合によって生まれる新たな可能性を提示し、BIMがもたらす効率化、透明性向上、そして協働促進への基礎的な考え方や道筋を示す内容としています。
本ガイドブックは、BIMを活用した積算の基礎編として、多くの皆さまにご活用いただきたいと考えております。
ガイドブックは下記に記載の当協会ホームページから、pdf形式でどなたでもダウンロードいただけます。
まずはお手に取っていただき、ぜひご意見ご感想などをお寄せいただけますよう、お願い申し上げます。

 


※1 志手一哉(芝浦工業大学教授)
 
 

ガイドブックの構成

BIMは、建築物の多様な属性情報を統合的に管理できる情報モデルであり、建築ライフサイクル全体で活用されるデータ基盤として、建築確認申請の効率化や生産性向上に貢献するツールです。
 
BSIJ情報委員会は、BIMデータと建築コストの有機的な連携を実現するためのカギとして、建設情報分類体系に着目し、調査・研究に取り組んできました。
特に、イギリス発の建築情報分類体系である「Uniclass」に注目し、その活用の可能性を模索しています。
Uniclassは、建築物の部位、部分、設備などを体系的に分類しており、日本の建築工事における「部分別内訳明細」の構成に近い考え方です。
本ガイドブックでは、こうした分類体系の考え方を整理し、BIMデータと建築コストの有機的な連携を検討しながら、その活用方法を皆さまと一緒に考えていきます。
具体的には、設計の途中段階でコストを見積る「概算積算」に焦点を当て、BIMの活用による効率的なコストマネジメント手法を検討しています。
設計の早い段階からコストを管理することで、設計変更による手戻りを抑え、プロジェクト全体のコストを最適化し、TVD(ターゲットバリューデザイン)を実現できると考えます。
 
BIMは普及が進む一方で、そのメリットを十分に生かせていない現状や、BIM概算積算の標準化が進んでいない課題も存在します。
本ガイドブックは、BIM概算積算の可能性を示すとともに、建設情報分類体系の説明や活用方法、BIM概算積算における課題を整理することを目的として、本ガイドブックを作成しました。
BIMデータの活用を通じて、これまでブラックボックス化されがちだった建築コストに、透明性と客観性をもたらし、関係者全員が協働してコストマネジメントに取り組む、そんな建築プロジェクトが増えることを目指しています(図-1)。

図-1
図-1

 

第1章:分類体系

第1章では、建設プロジェクトにおける情報管理の効率化に不可欠な「分類体系」の基礎知識と重要性を解説しています。
 
適切な分類体系を用いることで、建設情報のデジタル化を促進し、データの検索性や活用性を向上させることができます。
特にBIMデータにおいては、オブジェクトに分類体系を適用することで、そのオブジェクトが何を意味するのかを明確に伝えることができるようになり、プロジェクト関係者間のコミュニケーションを円滑にする役割を果たします。
 
建設情報分類体系の国際規格であるISO12006-2:2015は、建物の建設に関する情報を整理するための枠組みを提供し、本ガイドブックでは、ISO12006-2に対応した具体的な分類体系として、アメリカのOmniClassとイギリスのUniclassを紹介しています。
OmniClassはファセット型、UniclassはBIMオブジェクトをハブとした情報連携に適した構造を備えています。
 
建設業界における分類体系の必要性として、コード化との違い、不動産・BIMデータの視点、設計意図の伝達、工事仕様との関係などを解説しています。
統一された分類体系は、不動産(建物)の評価やBIMデータの効率的な活用に不可欠であり、異なる種類の情報を同じクラスに分類することで、データの再利用や相互運用が容易になります。
 
さらに、設計者はBIMオブジェクトに分類体系の番号を付与することで、設計意図を関係者に明確に伝えることができ、プロジェクト関係者間での誤解や手戻りを防ぐことができます。
また、物理的な構成要素と製品の関係を分類体系で明確に定義することで、積算や調達などの業務も効率化できます。
 
BIMの導入は、デザインビルドやIPD(Integrated Project Delivery)のような多様な発注方式を加速させ、同時にそれらを支える多様な推進手法(例:TVD(ターゲットバリューデザイン)、プレコンストラクション)の発展につながります。
BIMデータは、これらの手法において、設計情報、コスト情報、工程情報などを統合的に管理するためのプラットフォームとしての役割を果たすことになります。
 

第2章:従来の概算手法の振り返り

第2章では、従来の概算積算手法を改めて整理し、その基準を示しています。
 
概算積算は、実施設計終了後に行われる精積算とは異なり、各社ごとに手法や内訳が異なるため、工事費内訳明細書ほど相互理解が容易ではありません。
そのため、概算積算における数量の「客観性」と「透明性」が低く、TVD(ターゲットバリューデザイン)の障壁になっていると考えられます。
 
本章では、まず積算の目的と重要性を再考します。
積算は、設計図や仕様書から必要な工事量を算出し、工事費用を見積る業務ですが、本ガイドブックでは、積算を単なる数値計算として捉えるのではなく、建築生産活動全体におけるコストに関わり、機能と経済性のバランスを図ることで、価値ある建築物の創造に貢献する重要な業務として位置付けます。
 
次に、「工事費内訳明細書」について解説します。
これは、建築工事費用を詳細に分類・集計したもので、建築プロジェクトにおける共通言語としての役割を果たします。
本ガイドブックでは、「建築工事内訳書標準書式」を取り上げ、その構成や各項目の意味について確認します。
特に、「細目」の標準化に焦点を当て、複合単価の概念や、材料費と労務費の分離などを再確認しています。
 
また、「構成」の標準化についても、部分別書式と工種別書式のメリット・デメリットを比較しながら解説しています。
部分別書式は設計段階のコストコントロールに優れ、工種別書式は専門工事業者との連携に適しているなど、それぞれの特性を理解することで、プロジェクトの状況に応じた適切な書式を選択できます(図-2)。

図-2
図-2
図-2,2

 
概算積算は、実施設計前の段階で概略の工事費を算出するプロセスであり、設計段階におけるコストコントロールを可能にします。
本章では、設計段階別の概算積算手法を解説し、設計の進捗状況に合わせて適切な粒度と精度で概算積算を行うことの重要性を示しています。
 
特に、BSIJ情報委員会が提唱する「LOC(Level of Costing )」という新しい概念を導入し、設計情報とコスト情報の連携を強化するための具体的な方法論を提示しています。
LOCは、設計情報の粒度と確定度をコストマネジメントの視点で評価するための尺度であり、設計者とコストマネジャーが同じ視点でプロジェクトを進めることを可能にします。
 
さらに、概算積算に必要なインプット情報とアウトプット情報について解説しています。
インプット情報の確定度が高まるにつれて、アウトプット情報の信頼性も向上します。
また、アウトプット情報の内容を関係者間で共有し、その解釈を統一することで、透明性と客観性のあるコストマネジメントを実現できます(図-3)。
 
コストマネジメントは、発注者、設計者、コストマネジャーなど、プロジェクト関係者全員の協働によって実現されます。
本章では、それぞれの役割と責任について考え、円滑なコストマネジメントのために必要なコミュニケーションと情報共有の重要性を検討しています。

図-3
図-3

 

第3章:BIMを用いた概算手法

第3章では、BIMデータの活用が設計プロセス、特にコストマネジメントにもたらす変革と、その具体的な手法を考えます。
 
BIMデータが持つ形状情報や属性情報を活用することで、従来の概算積算プロセスを効率化し、設計段階におけるコスト管理の精度を高めることができます。
 
本章では、1章で解説した分類体系と、2章で説明した積算の基本概念を統合し、BIMデータとコスト情報の有機的な連携を実現するための方法論を提示しました。
BIMデータと設計図書の関係性を整理し、BIMデータの特長を「オブジェクト単位の情報」「コラボレーションの促進」「一貫性のある基準の必要性」の3つのポイントで検討しています。
 
LOD(Level of Development)は、BIMモデルの詳細度と信頼性を評価するための指標であり、BIM Forumが定義するLODの6段階それぞれにおけるBIMモデルの特性と活用方法を説明しています。
 
BIMデータから数量情報を抽出する具体的な方法を、建築工事と設備工事それぞれに焦点を当てて解説しています。
建築工事では、躯体工事や内装仕上げ工事などを例に、BIMオブジェクトから数量情報を抽出する4つのパターンを説明しています。
設備工事では、電気設備や機械設備における積算項目と数量の対応関係、空間情報付与の重要性、自動設計技術との連携など、設備分野におけるBIM活用の最新動向を紹介しています。
 
さらに、BIMデータを用いた概算積算の具体的な流れと仕組みを解説し、BSIJ情報委員会が開発した「LOCシート」を紹介しています。
LOCシートは、概算積算に必要な情報を整理し、設計者とのコミュニケーションを円滑に進めるための有効なツールです。
LOCシートについては、本ガイドブックに参考例を掲載していますので、ぜひ本編をダウンロードの上、皆さまの業務にお役立てください。
 

第4章:実例(建築-設備)

第4章では、具体的な事例を通して、 BIMデータを用いた概算積算の実践方法を解説しています。
 
建築工事と設備工事のそれぞれについて、BIMデータから数量情報を抽出し、コストを算出するまでのプロセスを説明しています。
 
建築工事の事例として、BSIビル(本ガイドブック説明用の仮想BIMモデル)を題材に、外部工事、内装工事(間仕切り工事)、内装工事(事務室仕上げ工事)の3つの事例を取り上げ、設計段階ごとにBIMデータから数量情報を抽出する方法や、LOCシートの活用方法を検討しています。
特に、各設計段階における概算積算の粒度の変化や、BIMオブジェクトと積算項目の対応関係など、実務的な視点からの解説に力点を置いています。
 
設備工事の事例として、平面図の情報から空間情報やUniclassの分類コードを設備オブジェクトに付与し、建築物のBIMデータを詳細に作成することなく、資材を正確に分類して概算積算を行う方法を紹介しています。
さらに、Revitの「マス」機能やDynamoプログラムを活用して、空間情報を作成・付与する手順、設備モデルを配置・編集する手順、そして集計表機能を使って設備モデルをカテゴリごとに拾い出す手順などを紹介しています(図-4)。
 
BIMを用いた設備コストマネジメントにおける考察として、積算対象の「もの」と「こと」の考え方、BIM設備積算におけるデータの信頼性確保、自動設計技術との連携、そして環境規制への対応など、今後のBIM活用における重要な視点を提示しています。

図-4

 
 

本ガイドブックの活用方法

この「BIM概算ガイドブックI」は、BIMを活用したコストマネジメントという建設業界の喫緊の課題に取り組むための実践的な指針を示したものです。
特に、設計段階における概算積算に焦点を当て、BIMデータとコスト情報の融合による効率化、透明性向上、そして協働促進を具体的な手法や事例を通して解説している点が特長です。
 
タイトルにある“I”が示す通り、今回は基礎編として皆さまにご活用いただけるよう構成しました。
具体的には、次のような点を重視した内容としています。

  1. BIM概算積算の基礎知識
    BIMを用いた積算の基礎知識から、最新の活用事例、さらに今後の展望までを検討し、BIM初心者から経験者まで幅広い層にとって有益な情報源となることを目指しました。
  2. 実践的な手法と事例
    具体的な事例を通して、BIMデータの作成から数量拾い、コスト算出までのプロ
    セスを説明しており、皆さまがBIM概算積算をスムーズに実践に移すことができるよう考えました。
  3. 建設情報分類体系の解説
    国際標準規格ISO12006-2やUniclassといった分類体系を解説し、BIMデータとの連携方法を示すことで、BIMデータの活用価値を高めるための具体的な指針を提供しました。
  4. LOCシートの活用
    BSIJ情報委員会が開発したLOCシートは、設計段階に応じた適切な粒度と精度で概算積算を行うための強力なツールです。
    設計者とのコミュニケーションを円滑にし、皆さまのコスト管理におけるDX化に貢献できることを期待します。

 
私たちBSIJ情報委員会は、本ガイドブックがBIM技術を活用した建築コストマネジメントの新時代を切り開くための羅針盤となることを夢見ています。
BIMの導入を検討している企業だけでなく、建設業界全体のDXやBIMの進化に関心のある全ての方々に、本ガイドブックをお手に取っていただければ、大変うれしく思います。
 
また、本ガイドブックに関しまして、皆さまからのご意見・ご感想を賜れましたら幸甚に存じます。
皆さまからの貴重なご意見を参考に、本ガイドブックのさらなる改善・充実を図って参りたいと存じますので、今後とも変わらぬご支援・ご協力を賜りますようお願いいたします。
 
 
 

公益社団法人日本建築積算協会 副会長
森谷 靖彦

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



BIM/CIM原則適用化、うまくいく会社とそうでない会社の違いとは?― 土木分野において3次元に対応するために知っておいてもらいたいこと ―

2025年7月3日

はじめに

BIM/CIM原則適用化が令和5年度にスタートして、まもなく2年が経とうとしています。
弊社は2013年度の実証実験段階からBIM/CIMモデル作成の業務委託を行っている会社ですが、令和2年頃に基準が策定されてから現在までの間、さまざまな変化を見てきました。
 
今回、われわれがお客さまとともにさまざまな試行錯誤を行ってきた中で、ともに成長してきた理由を整理して、BIM/CIMがまだ思うように進んでいない会社の方々へのこれからの一助になればと思い、執筆します。
 
 

柔軟なツール選定と運用

2000年初頭の手書きからCAD化への変革の時代(2次元図面だけの時代)では、どのソフトを選定すれば自社にとって費用対効果があるかを考えればよく、一つのCADソフトウエアを選定すればよいという時代がありました。
 
BIM/CIMが始まった数年前は、2次元CADと3次元CADでは、運用の違いがあるという知識が足りず、うまくいく会社とそうでない会社の違いは、かつての2次元CAD選定と同様に一つのCADに絞り込もうとしていたという差があったように思います。
 
私はコンサルタント時代に、2次元CADにおいても、必要に応じて別のソフトでも便利な機能があったら一部でもそれを使い、データ変換によって自分の使っているCADへ取り込む、ということを意識して作業をしてきました。
それはなぜか、自分の作業を早く終わらせたかったからです。
 
ソフトウエアはあくまでツールであり、やりたいことが全てできるものではありません。
やりたいのは業務を正確にかつ迅速に終わらせることなので、今で言う、生産性向上の視点で見たときに、必要に応じてソフトを使い分けるのは、必須だと思っています。
 
分かりやすく言うと、Microsoft製品でも、Word、Excel、PowerPointなどの複数のソフトがあります。
どのソフトでも表を作成できますが、計算式を入れて随時計算する際はExcelで行い、発表資料を作成するためにはPowerPointを使います。
発表資料に挿入する表はExcelで作成してからPowerPointへ貼った方が修正することを考えると便利です。
このように以前は全てExcelなんていうこともやっていたりしたと思いますが、必要に応じてソフトを使い分けた方が生産性は向上するのは皆さんも認識していると思います。
 
3次元モデルも同様にすべきです。
さまざまなソフトウエアを知って、必要に応じてソフトを使い分けることができる会社はBIM/CIMに対してもうまくいきます。
 
必要に応じて使い分ける、ということに関して、もう少し掘り下げます。
 
土木の現場は、土工事がメインの現場、下部工の現場、橋梁上部工の現場、トンネルの現場、道路や河川の現場というように多岐にわたります。
 
現場によって効率化が図れるソフトウエアも異なるのです。
そのため、会社として一つ軸のソフトウエアを決めることも必要ですが、ここでも「必要に応じて選定すること」が大切だということです。
 
 

現実的な視点と段階的な導入

セミナーなどでBIM/CIMの概要や事例を聞くと、BIM/CIMは3次元モデルを作成することにより今まで見えてこなかったものが見えてきたり、効率化や効果があったりすることが頭の中でイメージはつかめます。
 
しかし自分の会社に当てはめた場合、実際はどこから手をつければよいか分からないというのが現状だと思います。
 
うまくいく会社は、スモールスタートによって成功体験を積み重ねていきます。
 
その第一歩としては、具体的に「自分の現場」で、「簡単そうなこと」を整理して実行します。
 
自分の現場だと施工前に現場を見た際に問題となりそうな部分は、頭の中に描かれていますが、自分の頭の中にはあっても、他人は気付いていなかったり、認識のズレがあったりします。
 
そこで現況地形の点群を取得し、まずは自分の現場を3次元化します。
 
設計分野においては、現況図ではなく、現場の点群があることにより、周辺道路の高低差や橋梁の位置関係を事前に正確に確認でき、現地に行かなくてもデータを3次元で閲覧することにより、調査漏れもなく、延長や高さを測って確認することができます。
 
施工段階においては、設計された3次元モデルがあれば、施工手順を事前に重機の稼働や資材の配置をシミュレーションすることで最適化することが可能になります。
 
頭の中で浮かんでいることを言葉だけで関係者に説明するよりも3次元データも同時に利用することで、注意点を記載したり、その情報を残したりすることができるようになります。
何度も測量を行う必要もなくなり、図化の必要もなくなるため協議用の資料を作成するのも非常に楽になります。
 
さらには施工途中の状況を点群化することにより、施工した路面の高さや平坦性の確認、簡単な仮置土の土量計算、変状観測にも役立てることができます。
これらを実現するには、点群上で情報を扱えるソフトウエアが必要になってきます。
 
これから施工する構造物に関しても同様です。
最も簡単なのは、取得した現況の点群データ上に重機を配置して施工計画を立てるだけでも十分です。

BIM/CIM事例集Ver2国総研より抜粋
BIM/CIM事例集Ver2国総研より抜粋

 
これを実現するには、点群データを読み込み、ソフトウエアに登録されている重機を必要な位置に配置するだけで済みます。
構造物を3次元化する場合、スモールスタートとして最適なのは、杭施工や橋梁下部工です。
作成するモデルは単純な形状ですので、モデリングも簡単に行えますし、矢板や山留は部品として配置する程度で済むからです。
 
以上のように単純に設計や施工の前に3次元モデルがあることだけでもメリットがあります。
 
そうしていくうちに、やりたいことや効果がありそうなことが次々と自然に見つかるようになります。
このように段階的な導入を行えば、スキル向上し、徐々にターゲットを拡大することが可能です。
 
「そう言われても、いきなり3次元ソフトを触るなんて無理だからできない」と自分でハードルを上げてしまう方がほとんどです。
 
そこで私はよく「実は3次元CADの(構造物作図は)2次元CADより簡単です」と言います。
2次元CADはもう皆さんが使えるのが普通になっていると思いますが、初めの頃は寸法や引出線のきれいな書き方、レイヤ分けなど2次元CADの機能を覚える際は相当な苦労をしたと思います。
 
それに比べて3次元は構造物外形線だけ描ければよいし、(現状では)寸法表記は必須ではありません。
ですので、2次元図面があれば、外形線を利用して高さ情報だけ与えれば3次元モデルを作成することができます。
 
操作もブロックを組み立てるようなゲーム感覚で3次元化されていきます。
 
ガラケーからスマホに移行した時に多少操作に手間取ったのも思い出してください。
感覚が違うだけで、すぐにできるようになりましたよね?便利になって、なくてはならないものになりましたよね?3次元モデルもこれからそうなっていきます。
 
ぜひ簡単なことからチャレンジをしてみてください。
 
BIM/CIMは、3次元設計という要素が含まれており、新たな設計条件(図面には出てこない現場条件)なども加味して現場を作るという新しい技術であるという見方が必要です。
 
 

経営層の理解とサポート

部署を作って取り組んでいるけど、うまくいかない会社の例として、「上司が指示できないにもかかわらず、3次元CADのオペレーションを誰かに押し付けようとしたり、派遣会社に3次元ができるオペレーターを紹介してもらい、オペレーターさえいればできると思ったりしている」ということが挙げられます。
 
一番良くないのは、上司が部下に、会社として取り組まなければならないから、PCが得意そうだから任せるね、という一言だけでスタートしている場合です。
それは(裏命題で)BIM/CIMをやって効果までしっかり出してねと言って、作業から責任まで全てを押し付けているのと同じです。
 
現実にそのような状況になってしまっている会社では、最初は若手が頑張ってやるものの、そのうち面倒を見てくれないことが分かった時に、退職して独立しているパターンが非常に多くなってしまっています。
 
私は50代ですが、会社に入った頃はPCがやっと一人一人に与えられた時代でした。
その時代の人たちは、2次元CADの操作はできるけど、3次元CADまでは取り組めないという方がほとんどだと思いますし、現在の役職では、もっと重要な職務を担っているので、3次元モデルを自由自在に作成することまでは必要はないと思います。
 
ただし上長は、部下が作成した3次元モデル、発注者から受領した3次元モデルを「ソフトで開いて見ることができない」ことは大きな問題だということに気付かなければなりません。
 
3次元モデルは可視化することで事前の検証や認識を合わせることができるツールなので、データができた後の活用が重要となります。
 
上長は、データができた後の「指示」ができることが重要なのです。
 
担当している現場で、現場の指示ができない上司がいたら、仕事が回らないのと同じです。
 
うまくいく会社は、部長以上の役職でも 3次元モデルの「閲覧」ができるのです。
 
受領したファイルをどのソフトで開くか知っていて、開いた後に3次元空間をぐるぐる回して閲覧することができます。
 
そうすると、部下が作った3次元空間上で、現場の問題点(例えば、危険予知の場所を伝えるとか、段取り確認)などの指摘もできますし、ここの施工はこうした方が良いという指示ができるようになります。
上司が、部下の作成した3次元モデルを活用してくれれば、部下もやる気も出ますし、3次元で育っている世代は喜んで夢中になって対応してくれるはずです。
 
 

ソフトウエア利用の勘違い

上記のメリットを実現する際に勘違いしてはいけないのは、ソフトウエアさえ導入すればよいという感覚です。
 
例えば、形状が同じで寸法だけが異なる場合に、寸法だけ変えれば自動的に形状が変わる「パラメトリック処理」という機能によって3次元モデルが簡単に作成できるソフトウエアがあります。
 
確かにパラメトリック処理は楽になる構造物もありますが、そうでない場合もあるのです。
 
形状が同じパターンが数百回あればパラメトリック化の意味がありますが、数回しか出てこないパターンの場合は設定する作業の方が大変なので、効果を発揮できませんし、形状が「ほぼ同じ」は自動化にはなりません。
 
要するにそのような機能を持ったソフトが必要な現場もあれば、不要な現場もあるのです。
 
また、点群の場合は、点群データさえあれば、ソフトウエアで自動的に3次元モデルができるとしているソフトウエアなどもあります。
 
かつて紙図面からスキャニングして画像データ(ラスターデータ)からCADデータに自動処理をしてくれるソフトができた時代、とても便利だと話題になりました。
しかしこれも実際にやってみるとソフトで全て思ったような自動処理ができるわけではありませんでした。
 
それはなぜかというと、直線の途中に分岐点がある場合に、途中の分岐点を無視して直線にしてほしいのに、分岐点でデータが意図しない方に曲がってしまったり、管渠を自動トレースしても管渠という認識ではないので、両サイドの線が平行に描けなかったりするのです。
 
結局のところ手動で作図した方が正確だし、実際は寸法どおり書きたいので、自動でトレースした線のチェックが必要になるのです。
 
最近ではAIも登場し、AIにより利用する直径を登録して近い値で修正するようなソフトウエアもありますが、これも同様にチェックは必要になります。
 
このようにソフトウエアは、作業を効率化するツールであって、全てのことに使えるわけではないのです。
 
これらの事例は一部にしか過ぎませんが、これに気付けるのは作業担当者であり、理論でしか考えていないと、ソフトを導入すれば対応できると思ってしまうことに注意が必要です。
 
理論と実務の違いまで理解して推進していないと、BIM/CIMがうまくいく会社にはなれないと思っています。
 
 

3次元は目的で使い分ける

BIM/CIMがうまくいっていそうでも、実際はそうでない事例もあります。
 
一つの事例としては、BIM/CIMにおいて一般的には、3次元モデルに属性が入っていれば、維持管理の際の情報抽出や損傷箇所の解析、維持管理計画は、検索・着色などをして利用でき、BIM/CIMにより生産性向上が図れるといったことが言われています。
 
これを実際に作業する立場ごとに考えると、コンサルの場合は、概略検討の複数案の作成が容易になり、受発注者間のイメージの共有に効果を発揮しますが、施工会社の場合は、出来上がりの形状の3次元モデルよりも施工途中の施工計画や配置計画のために作ることが有効な活用になります。
 
発注者の場合は施工計画や配置計画は不要で、維持管理や発注時の積算を容易にして生産性向上を図ろうとしています。
これらの活用の視点で見ると、発注者のためのBIM/CIM対応と自分たちのための3次元モデリングは活用目的にバラつきがあるため、データという視点で考えた場合、詳細度や作り方、利用するソフトの視点で言うと、必ずしも一緒にできない状態になっていて、同じレベルのモデル作成・活用の考え方でデータの共有が実現可能かどうかを整理して考えるべきです。
例えば、BIM/CIMモデルが細かい詳細度でデータを作成して全ての部品に属性が入っていたとします。
延長が長いものをPCの画面で見たときに、道路幅が100mある場合でも、十数kmを表示すれば「線」にしか見えません。
 
属性の「検索」した際には該当範囲はクローズアップできますが、属性検索の結果から「着色」をした際も、色すら分からないのです。
さらに、高低差は延長よりも微小なものですので、もっと分からないのです。
 
もちろん、拡大すれば色が分かるようになりますが、分かるようになるのは、せいぜい延長数百mの表示になったときになります。
 
広大な範囲を管理する場合に注意する事項は、地図を想像すればすぐに分かります。
地図は、日本全体を表示する場合は、道路でいうと主要な高速道路すら極細の線で描かれます。
 
拡大率によって徐々に情報が見えてきます(下図)。

 
このように大切なのは、範囲の大きさによって管理する情報(表示する情報)を変えていくことが必要だということです。
ただでさえ3次元モデルはデータサイズが膨大なので、なおさらのこと3次元モデルの活用方法をよく考える必要があるのです。
 
GoogleEarthは、誰でもインターネットがあれば、全世界を3次元で見るという目的のものだと思います。
これはモデルの詳細度を落とすことにより、目的を果たしています。
もしこれが詳細に作成されて、全ての属性が見えるものになったら、目的が果たせなくなってしまうのは容易に想像がつきます。
 
私個人の考えですが、BIM/CIMにおける属性管理は3次元モデルに直接付与するのではなく、位置情報を持ったポイントデータを平面の地図上にプロットしてデータベース管理をして、必要な場合のみ3次元モデルで確認するなどの運用とするなどの工夫が必要になるのではないでしょうか。
 
 

積算と2次元図面抽出問題

もう一つの事例としては、3次元モデルに属性を入れれば今までと同様の積算ができ、2次元図面も切り出せるという理屈を前面にしてBIM/CIMを推進しようとしている場合です。
確かに理論的にはできますが、実際には問題点が多くあります。
まず属性に関していえば、建築のように窓、ドア、スイッチ、というような部品の場合は、部品に種別が入っている場合は、3次元モデルに配置すれば積算が可能です。
土木で部品のような素材があるとすれば、鉄筋やL型側溝、転落防止柵などです。
これらは、鉄筋を除けば積算上で10m当たりの個数、本数などで積算しています。
さらに10m当たりといっても実際は縦断勾配がある箇所に設置するのが普通ですが、その10mとは、平面投影された平面図上の距離であり、実際の傾斜なりの長さではありません。
そのような理由で理屈上では建築と同様の積算ができそうですが、まだまだ議論が必要です。

 
2次元図面の切り出しも同様です。
土木の現場は地形なりに施工するので、橋梁下部工や樋門などの構造物を除き、常に縦断方向も横断方向も傾斜があります。
断面図は傾斜なりでなく鉛直方向に切る図面ですが、実際の図面は舗装厚で言えば、傾斜に対して垂直に切った場合の断面が記載されています。
 
3次元モデルから単に切り出すことをすれば、設計された厚さより厚く表示されてしまいます。

 
これらは一つの例でしかありませんが、投影して表現している例はまだまだ多くあり課題といえます。
 
簡単に3次元モデルから2次元図面を抽出するというのが現状の目的であるのならば、もう少し時間がかかる要素だといえます。
 
3次元モデルから寸法線を自動生成するのも問題点があります。
 
寸法線は必要な部分に必要な寸法を記載するのですが、構造物が複雑になると2段3段と寸法線を描く必要があります。
2段目の寸法線は、どこをまとめて表示するべきかは、定石はあっても決まりがありませんので、自動化は今のところ困難です。
 
 

まとめ

以上の通り、BIM/CIMにおける3次元モデルに関しては、さまざまな課題が多く残っています。
とはいえ、全ての課題が解決してから取り組むのでは業界から取り残されてしまいます。
 
この時代、3次元モデルを利用してリモートでの施工ができるようになったり、LiDARの活用が進んだり、OpenAIが出現して点検などが可能になったり、情報の変化はとても激しいのは皆さんもお分かりだと思います。
 
情報取得も全員体制でいくことがとても大切なことだと思います。
 
BIM/CIMを推進する際に、勘違いしてほしくないこととしては、3次元モデルは、あくまでもツールであって、全てのことに使えるわけではありませんし、2次元図面も情報量の多さ、扱いやすさという観点から、なくなることもないと思います。
既存の技術とともに今までになかった視点を加え、ツールを活用することによって生産性の向上が図れるものにしていっていただければ幸いです。

 
 
 

株式会社デバイスワークス 代表取締役
加賀屋 太郎

 
 
【出典】


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