建設ITガイド

トップ >> 特集記事 特集記事

書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

近畿地方整備局におけるBIM/CIMの取り組み― BIM/CIM取り組み内容と人材育成について ―

2025年6月26日

はじめに

生産年齢人口の減少、災害の激甚化・頻発化、社会資本の老朽化という社会的背景を受け、生産性向上の取り組みをこれまで以上に加速することが必要となってきました。
そこで国土交通省は今後2040年度までに少なくとも省人化3割、すなわち1.5倍の生産性向上を目指す新たな取り組みを「i-Construction2.0」としてとりまとめ、省人化、持続的なインフラ整備、建設施工プロセスの自動化などを推進していくことを決定しました。
その取り組みにおいてBIM/CIMは必要不可欠な技術であり、今後も引き続き活用方法について検討いたします。
 
近畿地方整備局ではインフラDXをさらに推進していくため、2024年3月に個別施策の目指す姿、工程などを「近畿インフラDXアクションプログラム」(図-1)としてとりまとめました。
本稿では、アクションプログラムに策定した近畿地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みについて紹介します。

図-1 近畿インフラ DX アクションプログラム
図-1 近畿インフラ DX アクションプログラム

 
 

BIM/CIMの取り組み

これまでは、紙図面や手作業により事業(調査・設計・測量、施工、維持・管理)を実施してきましたが、BIM/CIM(3次元モデル活用、DS(Data-Sharing )の実施)を活用することで、建設生産システムの効率化・高度化を図る取り組みを実施しています(図-2)。

図-2 BIM/CIM 活用の目指す姿
図-2 BIM/CIM 活用の目指す姿

 

BIM/CIM原則適用

2023年度より全ての詳細設計、工事でBIM/CIM原則適用となり、業務・工事で 3次元モデルの活用を推進しています。
3次元モデルについては、発注者が活用目的を明確にし、受注者がモデルを作成することで、業務・工事での活用を推進します。
 
BIM/CIMを有効に活用するためには、各段階での検討事項などをしっかりと次の工程に共有していくことが重要です。
「電子納品保管管理システム」を活用して受注者が希望する参考資料を発注者が速やかに貸与、DXデータセンターを活用して有償ソフトウエアを安価に利用できる仕組みの提供、事業全体にまたがる情報を地図上で検索・表示できるプロジェクト監理ツール(図-3)の試行運用(浪速国道:淀川左岸延伸部)、これらDSを実施することにより、将来の本格的なデータマネジメント実現に向けた第一歩として、発注者が受注者に確実に前段階のデータを共有できるよう取り組んでいます。

図-3 プロジェクト監理ツールイメージ
図-3 プロジェクト監理ツールイメージ

 

3次元データの活用

設計段階で構築された3次元モデルを活用し、ICT土工の工事発注時の効果的な活用手法を検討しています。
具体的には3次元モデルにリンクした2次元図面の抽出、工区分割後の概算数量の自動算定、さらには工事積算データへの変換などを検討しておりBIM/CIMモデル活用が進むことで、発注者としての工事発注の効率化、円滑化が期待できます。
 
近畿地方整備局のi-Constructionモデル事務所である豊岡河川国道事務所においては、台帳附図の代わりとなる3次元モデル(通称:豊岡モデル)の検討を行っています。
豊岡モデルは、将来の維持管理およびデータ一元管理を目的としています。
 
一般的な3次元モデルはデータ容量が大きく、高性能なPCなどの環境が必要だという課題がありますが、豊岡モデル(図-4)では現場で使いやすい3次元の線で構成される軽量な3次元モデル(Dラインデータ※)で作成しています。
またモデルを統合プラットフォームとして活用するために、点群・3Dラインデータと維持管理に必要な情報を納めたフォルダーを一元管理することで、3Dラインデータのモデル(橋梁など)をクリックすると、ひも付けられたフォルダーが立ち上がり、効率的に維持管理データを取得できるようモデル検討を進めています。
 
※3Dラインデータ:点群データのうち、橋梁・擁壁・法面などの道路施設を3次元の線データで表現し、データ容量を小さくしたもの

図-4 豊岡モデル
図-4 豊岡モデル

 
 

人材育成

近畿地方整備局では2020年に「近畿地方整備局インフラDX推進本部会議」を設置し、インフラ分野のDXの推進に取り組んでいます。
 
その中でインフラ分野のDXに関する人材育成として人材育成支援部会を設置し、ICT活用、無人化施工などと合わせてBIM/CIMに関する各種研修などを開催し人材育成に努めています。
 

BIM/CIM研修

BIM/CIMによる建設現場の生産性向上について理解を深めるとともに、3次元モデルの基本操作、業務および工事での活用に関する知識を習得することを目的として2022年度から整備局職員、地方自治体職員を対象として実施し、3年間で209名が研修を受講しています。
 
研修は近畿インフラDX推進センターに設置している高性能PCを用いて3次元モデルを操作し、実際に監督・検査・納品などの各場面での3次元モデルの活用方法を実習形式で習得しました。
 

BIM/CIM施工研修

BIM/CIMは、調査・設計段階から3次元モデルを導入し、その後の工事施工、維持管理の各段階においてもデータを引き継ぎ、さらに各段階での情報を付加し、後工程で活用することで建設分野の生産性向上を目指すものですが、現状として各段階での活用にとどまっており、次工程への引き継ぎが十分に行われていません。
 
近畿地方整備局では2022年度の試行を皮切りに、建設分野でBIM/CIMを取り扱う施工者、設計者、発注者を対象とした設計から施工へのデータ受け渡しに着眼した人材育成のための「BIM/CIM施工研修」を実施しています。
 
研修では設計段階で作成した設計成果(BIM/CIMモデル)をICT施工に活用するため、3次元モデルの編集方法を習得するとともに、設計者、施工者、発注者など各立場でのBIM/CIMの展望や課題について議論を行い認識の共有に取り組んでいます。
2024年度においては95名が研修を受講しました。
 
研修に参加した地域建設業の技術者からは、「設計データ作成の内製化によって生産性向上が期待できる」「発注者から提供された3DモデルがICT施工に活用できることが分かった」など好評を得ています。
 
 

おわりに

近畿地方整備局においては、今回紹介した取り組み以外にも、管内各事業におけるBIM/CIM活用推進、関連基準改定に向けた検討、3次元データ・デジタル技術を活用できる人材育成などに取り組んでいます。
 
今後もBIM/CIM活用に向けた取り組みを推進し、事業の各段階に3次元モデルを導入していくことで、建設生産システム一連における効率化・高度化を図り、品質確保とともに受発注者双方の生産性向上を実現していきます。

 
 
 

国土交通省 近畿地方整備局 企画部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



国土交通省におけるBIM/CIMの取り組みについて― i-Construction2.0「データ連携のオートメーション化」の実現に向けて ―

2025年6月23日

はじめに

BIM/CIMとは

BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)とは、建設事業で取り扱う情報をデジタル化することにより、調査・測量・設計・施工・維持管理などの建設事業の各段階に携わる受発注者のデータ活用・共有を容易にし、建設事業全体における一連の建設生産・管理システムの効率化を図ることである。
情報共有の手段として、3次元モデル(3次元形状+属性情報)、点群データ、2次元図面、GISデータなどの各種のデータを使用する(図-1)。
 
国土交通省では、受発注者の生産性向上を目的に、直轄土木業務・工事にBIM/ CIMを適用し、取り組むこととしている。
本稿では、これまでのBIM/CIMの実施 状況、国土交通省が推進しているインフラ分野のDX・i-Construction2.0、およびこれらの実現に向けた最近のBIM/CIMの取り組みについて紹介する。

図-1 BIM/CIMで使用する主なデータ
図-1 BIM/CIMで使用する主なデータ

 
 

BIM/CIMの実施状況

これまでの実施状況

国土交通省では、業務については2012年度から、工事については2013年度からBIM/CIMの試行を進め、段階的にBIM/ CIM適用の対象を拡大してきた。
また2018年度には、i-Constructionモデル事務所を設置して、各地方整備局などのうちのリーディング事務所として先導的なBIM/CIMなどの取り組みを実施している(図-2)。

図-2 i-Constructionモデル事務所の取り組み
図-2 i-Constructionモデル事務所の取り組み

 

2023年度からのBIM/CIM原則適用

国土交通省では、2023年度から、原則として全ての直轄土木工事・業務において、BIM/CIMを適用している。
(1)原則適用では活用目的に応じた3次元モデルの作成・活用と、(2)DS(Data-Sharing)の実施にそれぞれ取り組むこととしている。
 
(1) 活用目的に応じた3次元モデルの作成・活用
業務・工事ごとに発注者が3次元モデルの活用内容を明確にした上で、受注者が3次元モデルを作成し、受発注者で活用する。
活用内容は「義務項目」「推奨項目」に分けて設定している。
 
義務項目については、出来上がり全体イメージの確認など、視覚化による効果を中心に未経験者でも取り組み可能なものとして内容を設定しており、全ての詳細設計で義務項目を活用することとしている。
また工事についても、過年度の詳細設計業務で作成された3次元モデルがあれば、施工ステップの確認、関係者の理解促進など、義務項目を活用することとしている(表-1、図-3)。

表-1 3次元モデルの活用 義務項目
表-1 3次元モデルの活用 義務項目
図-3 義務項目の例(出来あがり全体イメージの確認)
図-3 義務項目の例(出来あがり全体イメージの確認)

 
推奨項目については、3次元モデルによる解析などの高度な内容を含むものであり、業務・工事の特性に応じて活用することとしている(表-2、図-4)。
 
ただし、これらに限ることなく、生産性向上に資すると考えられるその他の活用内容についても、積極的に検討し実施に努めることとしている。
また、3次元モデルの作成に当たっては、活用内容を満たす必要十分な程度の範囲・精度で作成するものとし、活用内容以外の箇所の作成を受注者に求めないものとしている。

表-2 3次元モデルの活用 推奨項目の例
表-2 3次元モデルの活用 推奨項目の例
図-4 推奨項目の例(施工数量算出)
図-4 推奨項目の例(施工数量算出)

 
(2)DS(Data-Sharing)の実施
業務・工事の契約後速やかに、発注者が受注者に設計図書の作成の基となった情報を説明し、受注者が希望する参考資料(電子データを含む)を貸与する。
最新のデータを漏れなく後段階の受注者に確実に共有することは発注者の責務であり、貸与資料ダウンロードシステムによるオンラインでの成果品の貸与など、円滑にDSが実施できる環境を整えている。
 
 

インフラ分野のDX、i-Construction2.0とBIM/CIM

インフラ分野のDX(Digital-Transformation)

国土交通省では、インフラ分野においてデータとデジタル技術を活用して、国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、文化・風土や働き方を変革することを目的として、インフラ分野のDXの取り組みを進めている。
インフラ分野のDXは、「インフラの作り方」「インフラの使い方」「データの活かし方」の変革を分野網羅的・組織横断的に進めることとしている。
これまで取り組みを進めてきたi-Construction、および今後取り組みを進めていくi-Construction2.0は、インフラ分野のDXで示す目指すべき将来像のうち、建設現場における取り組みであり、「インフラの作り方」の変革に位置付けられるものである。
 

i-Constructionからi-Construction 2.0へ

国土交通省では、2016年度から、建設現場の生産性向上の取り組みとして、ICT施工や設計・施工におけるデジタル技術の積極的な活用などの、i-Constructionを進めてきた。
 
一方で、今後さらなる生産年齢人口の減少が予測されており、かつ災害の激甚化・頻発化、社会資本の老朽化など、社会資本整備を取り巻く状況は厳しさを増している。
 
このような背景を踏まえて、2024年度から、これまで進めてきたi-Constructionの取り組みを深化し、さらなる抜本的な建設現場の省人化対策を「i-Construction 2.0」として、「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」に取り組むことで、建設現場のオートメーション化の実現を目指すこととなった(図-5)。

図-5 i-Construction 2.0 建設現場のオートメーション化
図-5 i-Construction 2.0 建設現場のオートメーション化

 
 

データ連携のオートメーション化に向けた取り組みについて

調査・測量、設計、施工、維持管理といった建設生産プロセス全体をデジタル化、3次元化し、必要な情報を必要な時に加工できる形式で容易に取得できる環境を構築するBIM/CIMにより「データ連携のオートメーション化」を推進する。
これにより同じデータを繰り返し手入力することをなくし、不要な調査や問い合わせ、復元作業を削減するとともに、資料を探す手間や待ち時間の削減を進める。
 
建設生産プロセスにおいて作成・取得するデータは多量にある一方、現時点ではデータを十分に活用できていないことから、各段階で必要な情報を整理した上で、関係者間で容易に共有できるよう、情報共有基盤を構築し、円滑なデータ連携を進める。
 
データの活用に当たっては、設計データを施工データとして直接活用することや、デジタルツインの構築による施工計画の効率化など、現場作業に関わる部分の効率化に加え、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールなどの活用により、紙での書類は作成せず、データを可視化し、分析や判断ができるよう真の意味でのペーパーレス化(ASP(情報共有システム)の拡充といった現場データの活用による書類削減)など、バックオフィスの効率化の両面から進めていく。
 
データ連携のオートメーション化に向けて、国土交通省では現在次のようなBIM/ CIMの取り組みを進めている。
 

3次元モデルと2次元図面の整合

2023年度からBIM/CIM原則適用を開始し、3次元モデルの活用を本格的に開始しているものの、3次元モデルと2次元図面の整合性を確認していないことから、3次元モデルは参考資料として活用している。
 
将来的な3次元モデルの工事契約図書としての活用に向け、詳細設計業務において、主構造について3次元モデルと整合した2次元図面を作成する試行に着手している(図-6)。

図-6 3次元モデルと2次元図面の整合のイメージ
図-6 3次元モデルと2次元図面の整合のイメージ

 

属性情報の積算への活用(BIM/CIM積算)

今後、設計の効率化や施工の自動化を目指す上ではデータのさらなる活用が必要不可欠であるが、各段階において、どのようなデータが必要か明確に決まっていないため、データを効果的に活用できていない。
 
データのさらなる活用に向け、まずは必要なデータが明確になっている積算において、データの活用を進めることとしている。
詳細設計業務において、属性情報(3次元モデルから自動的に算出される数量)を積算に活用するBIM/CIM積算の試行にも着手している(図-7)。

図-7 RC橋脚のコンクリート躯体に積算に必要な属性情報を設定した例
図-7 RC橋脚のコンクリート躯体に積算に必要な属性情報を設定した例

 

設計データの施工での活用

設計データをICT建設機械や工場製作など、施工段階で活用する取り組みも進めている。
 
ICT建設機械での設計データ活用については、詳細設計業務において、ICT建設機械に搭載するデータの作成に必要となる、土工の中心線形と横断形状データを成果物として納品することとしている。
鋼橋の工場製作での設計データ活用については、鋼橋の設計は自動設計システムを活用して行われている一方、工場制作の際に使う自動原寸システムには図面から手入力しており、設計・施工間のデータ連携がスムーズに行われておらず非効率である。
設計データを工場制作に直接活用するため、2023年度から、中間ファイルを活用したデータ連携の試行工事を実施している(図-8)。
 
試行の結果、工場製作データの作成において1割弱の作業時間の短縮効果が確認されたが、いくつかの課題も判明し、それらに対応することでさらに3割程度以上の作業時間短縮が可能であるとの見通しが示されている(図-9)。
今後は、さらに試行を重ねて課題の対応に取り組むとともに、データ連携を推進するために、鋼橋の詳細設計業務において、自動設計のオリジナルデータ、中間ファイルなどを成果物として納品することとしている。

図-8 鋼橋のデータ連携の流れ
図-8 鋼橋のデータ連携の流れ
図-9 工場製作データ作成時間の比較
図-9 工場製作データ作成時間の比較

 

デジタルデータを活用した監督・検査などの実施

デジタル技術の進展は日進月歩で進んでおり、施工管理、監督・検査などにおいても、3次元モデルの活用やARなど、 i-Construction 2.0の柱のひとつである「データ連携のオートメーション化(ペーパーレス化)」につながるさまざまな技術が導入されている(図-10)。
 
このような新技術を積極的に活用し、監督・検査業務の効率化を進めるため、現行の基準・手法とは異なるが、デジタル技術を活用して簡素化・効率化などを図ることができる新たな施工管理、監督・検査の手法の活用について、施工者から提案があった場合は、従来方法との比較により監督・検査などに支障が生じないことを確認し、新たな手法の活用を可能とするよう、直轄土木工事の監督職員および業界団体向けに周知を行っている。

図-10 デジタルデータを活用した出来形検査の例(ARの活用)
図-10 デジタルデータを活用した出来形検査の例(ARの活用)

 

好事例の横展開

好事例の横展開を目的として、BIM/ CIMにより生産性が向上した事例を「BIM/CIM事例集」としてまとめ、BIM/ CIMポータルサイトに掲載している(図-11、12)。
 
事例の概要、BIM/CIMの具体的な方法と課題、業務・工事の概要について整理しており、キーワード検索などにより、探したい情報を検索できる。
掲載事例については今後拡充予定である。

図-11 BIM/CIM事例集 トップページ
図-11 BIM/CIM事例集 トップページ
図-12 BIM/CIM事例集 事例の閲覧
図-12 BIM/CIM事例集 事例の閲覧

 
 

おわりに

BIM/CIMは、i-Construction 2.0で掲げる「データ連携のオートメーション化」の中核となるものである。
今後は、BIM/CIMのいろいろな取り組みを進め、各段階間でのデータの連携・活用を図ることで、建設生産プロセスにおける各種作業の自動化、効率化を目指していきたい。
 
 
〈参考〉
・国土交通省BIM/CIM関連
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000037.html
・国土交通省 インフラ分野のDX
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000073.html
・i-Construction 2.0
https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/content/001738240.pdf
・BIM/CIM事例集
https://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/bimcimusecase.html
 
 
 

国土交通省 大臣官房参事官(イノベーション)グループ 課長補佐
髙橋 典晃

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



地方建設会社の現場におけるBIMとデジタルツインの実践的活用-「建設DX」としての点群データ活用と測量業務を低コストかつ内製化するMatterportソリューション活用の取り組み-

はじめに

当社は山陰地方の建設業界で売上規模1位のゼネコンです。
創業66年、ダイヤモンド社調べの「勢いのある建設会社」ランキングでは44位のご評価をいただいております。
 
地方ゼネコンの中では、当社はBIM導入に早い時期から取り組んでいます。
Autodesk Revitの日本での販売開始がその契機でした。
2018年にはBIM戦略部を発足させ、設計・施工におけるBIMのさらなる活用を模索しています。
ISO 19650認証も取得済みです。
 

デジタル技術活用の狙いと目的

当社では「分かりやすい情報を顧客へ提供すること」は建設会社の使命であると考えており、その目的達成を目指して建設DXに積極的に取り組んでいます。
建設業のプロ同士であれば平面図のみで通じる会話も、非専門家である顧客側の担当者への説明ではそうはいきません。
情報を視覚的に分かりやすくする(可視化する)ことで意思疎通やコミュニケーションの質が劇的に向上します。
当社ではBIM戦略部が中心となって、BIMデータの活用を推進しています。
 
 

改修工事でのBIM活用における課題

BIMは新築だけでなく、改修工事においても効力を発揮します。
しかし、竣工以後に発生した改修がBIMデータに反映されていなかったり、図面/データが現況と異なっていたりすることも少なくありません。
つまり、改修工事案件では竣工当時の図面やBIMデータをそのまま使えないケースが多いのです。
 
当社では改修工事案件の際は現場を測量し、新たにBIMモデルを作成する工程を入れています。
とはいえ測量・採寸の作業には移動費や人件費といったコストに加え、手作業での測量による誤差や作業漏れといった問題も生じます。
一方で高精度なレーザースキャナーは非常に高価かつ、運用者のスキル習熟も必要です。
測量専門会社へ依頼するにしても地方都市では出張費・滞在費といったコストが発生しますし、各種の調整による業務負荷の増大も避けられません。
 
上記の論点を整理すると、当社が求めているのは①安価な導入・運用コスト、②自分たちで扱えるシンプルな操作性、③点群データを取得できる性能といった要件を満たすソリューションであったといえます。
さまざまな製品・サービスを比較検討した結果、当社の課題解決が可能なソリューションとしてMatterport(マーターポート)を採用しました。
現在では、当社案件の8割以上の現場でMatterportを利用しています(図-1)。

図-1 当社が採用しているMatterport Pro3カメラ
図-1 当社が採用しているMatterport Pro3カメラ

 
 

1日がかりの測量も2時間で完了

具体的な効果を列挙すると、下記のような点が当社での実際のケースです。
費用対効果の面では特に優れていると言えます。
 

  • 実機の操作に高度な専門スキルは不要です。
    30分~1時間ほどの練習で、デジタル機器に詳しくないスタッフでも扱えました。
    直感的に操作できるなど、UI/UXの点でも洗練されています。
  • Matterportの使い方を覚えたスタッフは、OJTで他のスタッフに使い方を説明できます。
    本社側のIT部門が機器操作のレクチャーを行う必要がなく、手間は最小限で済みます。
  • Matterportのコストは、高機能なレーザースキャナーの5分の1程度でした。
  • 従来の方法で測量した場合は丸1日を要する現場(約160平米の旅館の改築工事)も、Matterportを使ったところ約2時間で完了。
    原則として撮り漏れが発生しないため、追加撮影・測量のための再訪問が起こりません。
  • 従来の測量では、意匠担当や電気工事担当、設備工事担当など、専門別の担当者がチームとなって訪問する必要がありました。
    しかしMatterportは写真と点群データで3Dのデジタルツインを作成するため、現場を訪問するのは撮影担当者1名のみで済みます。
  • 建物内部を写真データとしても残すため、施工前と施工後の両方を視覚化できます。
    施工による変化を説明しやすく、顧客からも「分かりやすい」と高評価です。
    例えば上記の旅館改装工事の案件では、Matterportでの撮影(3Dスキャン)に2時間、モデリング作業に約3日を掛けました。
    配管も点群データを使用してモデリングしています。
  • Matterportは、データを直接インポート可能なAutodesk Revitプラグインを提供しており、データ連携もスムーズです(図-2、3、4)。
図-2 米子市内でのリフォーム現場をデジタルツイン化
図-2 米子市内でのリフォーム現場をデジタルツイン化
図-3 Matterportの点群データと画像を元にデータ化
図-3 Matterportの点群データと画像を元にデータ化
図-4 測量・寸法測定も高精度
図-4 測量・寸法測定も高精度

 
 

BIMで業務効率化を実現

BIMの導入や活用へのハードルとして、BIM作成には時間や手間がかかるといった声も少なくありません。
しかし当社では、かけたコスト・時間・手間以上の大きなリターンを得ていると実感しています。
 
BIMを使うことで平面図だけではイメージしにくい箇所も確認が容易になります。
既存の建物がある案件(改修工事など)では、スキャンした3D画像(デジタルツイン)によって施工方法の検討も行いやすくなります。
単なるモデリングだけでなく、デジタルツインと掛け合わせることで、メリットを何倍にも拡大できるといえます。
 
 

デジタルツインは若手育成に有効

当社に限らず、若手人材の不足や技能継承の問題は業界全体の構造的課題です。
平面図を見るだけで、頭の中で立体化してイメージできるようになるには何十年という経験が必要でしょう。
しかし当社では、BIMで作成した3DとMatterportで作成したデジタルツインを組み合わせて可視化したことで、若手社員の理解や技能習熟も早くなりました。
 
 

デジタル化で人々の思い出・地域の記憶を残す

当社では、BIMに関連するデータや機器の管理をBIM戦略部にて一元化しています。
現況写真はMatterportで作成したデジタルツインがあれば完了でき、正しい情報・データの現場提供もリンクURLを送るだけで可能となっています。
 
天井や床下なども隠蔽前にスキャンしておけば、後日の保守工事を検討する際に利用できます。
また、解体する建物もスキャンしておくことで、デジタルツインの中で恒久的な保存が可能になります。
 
ある小学校校舎の解体工事を受注した際も、足場配置や動線確認のために作成したデジタルツインを保存して自治体や卒業生に提供しました。
「校舎は取り壊されたが、自分たちの思い出が保存されていて、いつでも見られるのでうれしい」とお喜びいただけました(図-5、6)。

図-5 取り壊し前にデジタルツイン化された校舎の内部
図-5 取り壊し前にデジタルツイン化された校舎の内部
図-6 地域の人々の思い出を恒久的に保存
図-6 地域の人々の思い出を恒久的に保存
デジタルツイン化した「啓成小学校 管理教室棟」へのアクセス↑
↑デジタルツイン化した「啓成小学校 管理教室棟」へのアクセス

 
 

おわりに

当社では「BIM+M(マネジメント)」を提唱しています。
これは、設計・施工を含めた建築プロセスの包括的なマネジメントをBIMと融合させて利用しようという考え方です。
特に、現場が求める正しい情報を、着工前に提供できることが重要です。
当社では「BIM×デジタルツイン」こそが、建設DXにおける具体的なアプローチ方法の1つであると考えています。
 
 
 

美保テクノス株式会社 建築本部BIM戦略部 主任
寺本 弘志

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



現場に重点を置いたBIM推進策-現場作業に直結した講習会と3Dモデルの提供による効率化-

2025年6月18日

松村組のBIM推進を担う大阪支店に取材

株式会社松村組は、1894年の創業から130年の歴史を刻む建設会社。
パナソニック株式会社、トヨタ自動車株式会社、三井物産株式会社の出資で設立されたプライム ライフ テクノロジーズ株式会社のグループ企業の建設会社として、「これまでにないまちづくり」を担う。
 
今回取材したのは、同社大阪本店。
同社のBIM推進の中核となって活動する建築部BIM推進課の3名(小松 哲幸・大阪本店建築部建築課担当課長兼BIM推進課担当課長、東田 雅夫・同見積課担当課長兼BIM推進課、中西 裕輝子・建築部BIM推進課)に、これまでの経緯と課題について伺った。
 
 

時代の流れを捉えたBIM推進課の創設

同社では2017年に大阪本店建築部建築課および設計課にてBIM導入を開始。
当初はパースの作成や仮設計画などにArchicadを使用していた。
 
BIM推進課の創設は2022(令和4)年、国土交通省が直轄の業務・工事でのBIM/CIMの原則適用を開始する前年で、BIM推進の流れが業界全体でますます高まっていた。
そうした流れに乗るため、BIMの本格活用を進めるべく設置された。
現在、大阪本店が専属2名と兼務による7名体制。
東京本店も専属と兼務を合わせて7名、これとは別に建築本部に3名が在籍する。
兼務でBIMに携わる人員がいることで、各部署でのBIM活用に波及することも考えられている。
大阪本店は、本店内での浸透はもちろん、建築課と連携することで特に現場でのBIM活用に重点を置いて活動中だ。

松村組におけるBIM推進体制の変遷
松村組におけるBIM推進体制の変遷

 
 

現場に直結したテーマでBIM講習会を実施

BIM推進課の主な役割は、現場でのBIM活用の推進と、業務サポートによる現場作業の省力化や現場監督の負担軽減である。
 
現場でのBIM活用を進めるには、まずその操作を知ってもらう必要がある。
そのためにスタートしたのが講習会だ。
その内容は、「Archicad」の基本操作に始まり、仮設計画をはじめ現場寄りのテーマを掲げる。
小松課長は「受講のみを目的に強制する のではなく、例えば現場で掘削が始まる前に掘削工事計画図の描き方を学ぶとか、コンクリート打設前にBIMでコンクリートの数量を拾ってみるなど、実際の現場の工程に合わせて実施し実効性を高めるのを狙いとしています。やはり必要に迫られないと覚えないですからね。まずは基本操作の5プログラムの受講を目標に、具体的な現場を想定して講習テーマを設定しています」と語る。
 
中西氏は「Archicad」の活用が進まなかった時期に、「Archicad」経験者として途中入社した。
実は現場管理の経験はないのだが、他業務を行いながら現在は講師も務める。
 
「最初は、初心者のための入門書『Archicad Magic』を使って行っていたのですが、現場で使われる操作に結び付きにくいため単なる勉強会のようになって、関心の高まりを感じられませんでした。
そこで課内で相談し現場寄りの方針に変更しました。
 
例えば『smartCON Planner』を使って『こんな足場が置けて、立面・断面も見られる』と提示し、次に実際に操作してもらうことで興味を持ってもらい、さらには今動いている現場で実際に使ってもらうことで、より実務的なスキルに磨きをかけてもらう3ステップをイメージして行っています。
そのため練習用のモデルではなく、現場に即したモデルで行うのが必須になります」
 
講習会の効果は、入社4~5年の若手社員を中心に徐々に表れている。
現場でBIMを活用し、それで得た成果や疑問を先輩社員にぶつけてみる動きも見られるようになった。
講習を受けた社員から、中西氏に質問が寄せられるケースも多く、確かな反響を感じている。
 
「やはり『1回、講習が終わってノルマ完了』のように思われては困りますし、逆に週1回の講習会で操作を自分のものにするのは困難です。
従って講習後に訪れる実作業を逃さず『すぐに現場で使って覚えて、分からない点はどんどん聞いてください』と伝えています。
 
現場作業と講習テーマを合致させながら行うので、定期的に開催できない課題があるが、確かな手応えも感じている。
小松課長は「講習会開始当初は、『忙しいから、できない』という声もありましたし、現場所長 が『どんどん使って覚えろ』と言ってくれる現場と、そうでない現場との差が生じていました。
でも現在は、現場所長もBIMの存在は認識しているので、現場間の格差もなくなりつつあります。
最近は『色決めしたいから、パースを作って』など、現場からの依頼も多くなっていて、当初と比べれば着実に理解は進んできていますね」と語る。
これを受けて中西氏は「『Archicad』の講習も、若手社員にはしっかりと操作方法を身に付けてほしいのですが、中堅以上のキャリアの社員は基本操作や全体の仕組みを理解してもらった上で部下に指示したり、課の方にBIMモデルを依頼したりできるようになるなど、階層別に講習内容を変えてもいいと思っています」と構想を語る。
 
現場へのBIM理解の推進には、まだまだ試行錯誤が続くが、現場からの反応が浸透度を実感させてくれている。

BIM講習会の変遷
BIM講習会の変遷
BIM講習会の様子
BIM講習会の様子
BIM講習会で使用したモデル(掘削)
BIM講習会で使用したモデル(掘削)
BIM講習会で使用したモデル(鉄骨建方)
BIM講習会で使用したモデル(鉄骨建方)

 
 

AI StructureとBI Structureの連携

一方、現場の業務サポートには課題もある。
 
「3Dモデルを現場に提供するスピードがなかなか間に合わないのが実情です。
施工の案件では、BIMモデルを提供するのが理想なのですが、専属が2名という状況の中で、なかなか思うようにできていません」と小松課長は語る。
 
そこでスピードアップという課題の解決に向けて期待を寄せるのが、株式会社U‘s Factoryの「AI Structure」と「BI Structure」だ。
実際に業務で使用する中西氏は、その利便性を次のように語る。
 
「構造3Dモデル(RC・S・SRC)を作成する専用ツールである『BI Structure』を使っていたのですが、まず部材を定義するために部材リストの鉄筋径・本数などを手打ちで行う作業をしなければならず、かなりストレスを感じていました。
『AI Structure』を使えるようになってからは、PDFの図面データの配筋リストなどを、AIが自動的に読み取ってくれるので、手作業の時間が約3分の1以下に削減されました。
そのまま『BI Structure』で統合して鉄筋モデルを作成できるので、現在は仮に見積り案件であっても最初から『AI Structure』で情報を読み取って簡単に『Archicad』に変換して提出することが多いです。
受注できればそれ以降もスムーズに進行できます。
 
U’s Factoryのプレゼンテーション時に『簡単に使いこなせます』と言われていて、『それなら活用しなければ』と思ったのですが、神経を使っていた図面を読み込む作業も減って実際その通りだなと思います」前述の通り、建築現場経験のない中西 氏であるが、操作を覚えるだけで3Dモデルが作成できる「AI Structure」のメリットを十分に感じている。
 
それだけでなく、「AI Structure」と「BI Structure」「BI for ac」の連携が業務になくてはならない利便性を生んでいる背景には明らかな差別化があるからだ。
小松課長は他ソフトとの違いを次のように語る。
「いま分かっている範囲では、鉄筋の仕様や本数が自動で正確に出せるのは『BI for ac』だけです。
同種の他社ソフトでは結局、部材リストを見ながら梁1本1本を入力し、定着も自動で出ないので、自分で計算する必要があるなど手間もかかりますね。
また、一度『BI for ac』でBIMモデルを作成すればライセンスをたくさん持たなくても「Archicad」によって共有できるので、その点でも活用しやすいです」

AI StructureとBI Structureの連携 「AI」が図面内容を読み取り自動で部材定義作業を行ってくれるため、手作業の時間が半分以下に短縮
AI StructureとBI Structureの連携
「AI」が図面内容を読み取り自動で部材定義作業を行ってくれるため、手作業の時間が半分以下に短縮
BI for acとの連携 AI Structureが自動作成したデータはBIにインポートされ、さらにBI for acで鉄筋を自動発生させることができる
BI for acとの連携
AI Structureが自動作成したデータはBIにインポートされ、
さらにBI for acで鉄筋を自動発生させることができる

 
 

「BI for ac」も現場サポートで活用

BIM推進課創設時には、設計から見積り、施工までBIMによる一気通貫が話題に上がっていたと言うが、現在は目標を一つひとつ設定しながら進んでいる状況だ。
見積り作業には、今のところ「BI for ac」を使用するに至っていない。
東田課長に、その理由を伺った。
 
「『BI for ac』はどちらかと言えば、現場の施工寄りのソフトで、施工用の実施数量が正確に出てくるのですが、見積り用に使用する以上に細部まで計算し過ぎてしまっているため、再度見直す必要も生じてしまうのです。
ただし、部材の発注時など現場での見積りには有効であろうと考えています」小松課長は、見積り業務の仮設計画に関連して「仮設の配置は『smartCON Planner』が、課内ではこのほか「BI for ac」も活用しています」と述べた。
中西氏に現場サポートでの活用状況について聞いた。
 
「現在使用しているソフトではライセンスがないと3Dモデルが見られなかったのですが、『BI for ac』は『Archicad』で3Dモデルを出せば現場に送って共有できる点が便利です。
ライセンスは現在、一つしかないので操作は課内でしかできませんが、操作性の面でも『Archicad』で一からモデリングするよりはスムーズなのでスピードアップにもつながります。
ただ、本来は現場で配筋検討ができる施工図が望ましいのですが、現在は図面を3D化して現場に渡している段階ですね。
まずはできる範囲で、構造図ベースのモデルを全現場に提供するという目標を立てています」。
これに対し小松課長は「3D化することで干渉している箇所がチェックできるので手戻りも減ります」と現段階での効果を語った。
 
 

着実な成果を踏まえてさらなるBIM活用へ

「BI for ac」をはじめとするBIMソフトに対する要望も聞いた。
最も使用する立場にある中西氏は、次のような体験を語る。
 
「現場からの掘削図の依頼に、どう出せばいいのか分からず自動発生させた寸法で作図して送ったところ寸法を全てチェックされて返ってきました。
依頼者に確認すると『その寸法は必要なかったのです。そのために私が図面を修正しました』と言われてしまったことがあります。
私の建築知識の不足もありますが、仕様をカスタマイズできる機能があればと思いました」
東田課長も「現在、非常に多くの機能が搭載されているのですが、例えば簡単なモデリングで足りる人もいれば、詳細なモデルが欲しい人もいる。
何が欲しいかユーザー側のニーズやレベルが違うので、不要な機能を排除したシンプルなメニューがあるといいですね」と、やはり使う側の選択肢が増えることを希望した。
 
発足からの2年間でさまざまな試みを行い、BIM推進課の活動が大阪本店のBIM活用を徐々に広げている。
小松課長に次の目標について聞いた。
 
「効率化を見据えながら、これまで進めてきた成果を伸ばしていくことはもちろん、全現場でのBIMデータ活用による現場効率化を目指します」
松村組大阪本店のBIM活用は着実に進化していく。

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



脱炭素化に向けた積算データの活用について-BIM対応建築積算システム「ΗΕΛΙΟΣ」の新たな挑戦-

2025年6月16日

はじめに

株式会社日積サーベイでは、BIM対応建築積算システム「ΗΕΛΙΟΣ(ヘリオス)」を開発・提供しており、2024年12月には、最新版「ΗΕΛΙΟΣ 2025」をリリースした。
この「ΗΕΛΙΟΣ 2025」では、「高速化・省力化・新機能」を3本柱として全25項目の機能追加・機能改良を実装している。
主に「高速化」では、「PDFデータ取り込みの高速化」、「起動時の高速化」、「Excel出力時の高速化」の3つを改良している。
次に「省力化」では、「自動計上項目の追加」をはじめ、操作性の向上を目的とした「初期値設定機能」、「ショートカットキーの追加」、「範囲配置機能の追加」を実装している。
最後に「新機能」として、ペーパーレス化に向けた取り組みの一つとして「PenPlus」との連携機能(オプション機能)、今回の主題となる「One Click LCA」との連携機能を実装している。
ここで「PenPlus」とは、株式会社プラスソフトが開発・販売しているソフトウエアである。
今回の連携は、このソフトウエア上で、PDFデータの計測を行い、計測したデータをΗΕΛΙΟΣへ取り込む機能になる。
「PenPlus」の主な特長として、動きが軽く、操作性に優れている点、複数ページ含まれているPDFファイルに対して計測作業が可能である点である。
次に、「One Click LCA」とは、住友林業株式会社が2021年にフィンランドのOne Click LCA社と日本市場における単独販売代理店契約を締結した、建物が一生涯に排出するCO2などを見える化するソフトウエアである。
今回、住友林業株式会社が提供する「One Click LCA日本版」との連携を実現している。
 
 

「One Click LCA」との連携に至った背景

今回の連携に至った主な背景として、CO2排出量の算定において、内訳書を基に資材数量を把握していることから積算業務との親和性が高い点、CO2排出量の算定を今後、積算技術者が担うことが想定される点である。
また、国土交通省が2022年12月に「ゼロカーボンビル推進会議」を設置、2023年5月の報告書にて、「2030年エンボディドカーボン算定義務化」について言及したこともあり、建設時CO2排出量の算定に向けた取り組みも今後増えてくることが想定される。
 
 

エンボディドカーボン算定とは?

現在、世界のCO2の約37%が建設セクターから排出されている。
建設セクターの内訳として、約70%が居住時・使用時に発生する(オペレーショナルカーボン)、約30%が一連の建設プロセスで発生する(エンボディドカーボン)になる(図-1)。
 
オペレーショナルカーボンについては、ZEHやZEBにより削減が進んでいるが、エンボディドカーボンの削減については今後重視される傾向にある。
そのため、エンボディドカーボンの算定が必要になる(図-2)。

図-1 出典:住友林業株式会社提供資料
図-1
出典:住友林業株式会社提供資料
図-2 出典:住友林業株式会社提供資料
図-2
出典:住友林業株式会社提供資料

 
 

「One Click LCA」の特長

「One Click LCA」は世界170カ国以上で導入され、11カ国語に対応しているソフトウエアである。
主な特長として、「CO2排出量の精緻な算定を実現」、「国際認証との高い適合性」、「効率的なデータ算定が可能」の3点である。
「CO2排出量の精緻な算定を実現」では、ISO準拠の汎用データ、環境認証ラベルEPD、プライベートデータの利用が可能であり、輸送・施工など実データに基づき算定し、さまざまな企業努力を結果に反映することが可能である。
「国際認証との高い適合性」では、国際規格ISOや70以上の世界のグリーンビルディング認証に適合している。
「効率的なデータ算定が可能」では、資材データはBIMをはじめ、Excelから取り込むことが可能であり、ライフステージごとのCO2を自動計算で効率よく算定できる。
 
 

「One Click LCA連携」の全体図

「One Click LCA連携」の流れとしては、まず、住友林業株式会社が提供している原単位コード一覧表をΗΕΛΙΟΣへ取り込む。
 
次に、従来どおりΗΕΛΙΟΣで数量算出を行い、ΗΕΛΙΟΣの内訳書内で原単位コードの仕分け作業、単位換算作業を行う。
最後に「One Click LCA取込用フォーマット」に出力を行い、「One Click LCA」に取り込むことでCO2を見える化することが可能になる(図-3)。

図-3
図-3

 
 

「One Click LCA連携」機能の特長

今回の機能の特長として、「原単位コードの仕分け作業の省力化」、「単位換算作業の省力化」、「出力除外設定機能」の3点になる。
「原単位コードの仕分け作業の省力化」では、原単位コードを検索する機能をはじめ(図-4)、科目に応じた可能性のある原単位コードを初期表示する機能を実装している。

図-4
図-4

また、原単位コードとして「コンクリート」を選択する場合において、摘要表現からコンクリート強度を取得し、可能性の高い原単位コードを初期表示する機能も併せて実装している(図-5)。

図-5
図-5

次に「単位換算作業の省力化」では、明細上の単位「ton」、原単位コードの単位「kg 」の場合に換算値を自動入力する機能、ΗΕΛΙΟΣで数量算出を行っている場合において、建具本体のW寸法、H寸法を換算値として自動入力する機能を実装している(図-6)。

図-6
図-6

最後に「出力除外設定機能」では、「One Click LCA取込用フォーマット」へ出力したくない項目(CO2算定除外項目)について、科目単位、明細項目単位で設定できる機能も実装している。
 
 

CO2算定における今後の展開

「One Click LCA連携」においては、「原単位コードの仕分け作業」、「単位換算作業」の省力化につながる機能開発を進める予定である。
「原単位コードの自動入力機能」を最終目標として、今後も継続して取り組みたいと考えている。
また、別ツール製品との連携も状況に応じて前向きに検討していきたい。
「One Click LCA」でのCO2算定業務の際には、ぜひこの「One Click LCA連携」機能をご利用いただきたい。
 
 
会社概要
会社名:株式会社日積サーベイ
所在地:大阪市中央区大手前1-4-12大阪天満橋ビル8F
創業:1964年(昭和39年)10月
URL:https://www.nisseki-survey.co.jp/
資本金:2,000万円
従業員数:47名(2024年4月現在)
主な事業内容:建築積算、コスト算出、コンピューターシステムの開発
 
 
 

株式会社日積サーベイ システム開発部
田川 彰

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025



 


新製品ニュース

図面の修正差分をAIで自動検出・可視化する技術「revisio」を公開図面の修正差分をAIで自動検出・可視化する技術「revisio」を公開


建設ITガイド 電子書籍 2025版
建設ITガイド2025のご購入はこちら

サイト内検索

掲載メーカー様ログインページ



  掲載をご希望の方へ


  土木・建築資材・工法カタログ請求サイト

  けんせつPlaza

  積算資料ポケット版WEB

  BookけんせつPlaza

  建設マネジメント技術

  一般財団法人 経済調査会