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3次元部品データの利活用について -これからの部品データ利活用のあり方を探る-

2022年10月12日

CUGが行う部品データの整備について

CUGとはどんな活動団体なのかを最初にご紹介する。
 
2007年、土木分野への3次元モデルの導入推進を目的に、Civil 3D User Groupを発足し、その後、2012年に、設計者・施工者をはじめとした土木技術者の集まりとしてCivil User Group(略称:CUG)へと発展してきた。
 
時同じく2012年度より開始された国土交通省のCIM活動への対応も、3次元部品の公開や、CIMインストラクターの認定など、人材育成と環境整備に力を入れている。
3次元部品の公開については、以下のサイトで長年にわたり公開してきた。
 
実はこのサイトは、現在までに以下の図のような変遷をたどっている(図-1)。
 
2015年から整備をスタートし、2016年に公開した当初は主に自分たちがBIM/CIMを進める上で、部品として配置することにより、より現実的な施工現場や設計段階での計画シミュレーションを行うために整備してきたものであった。
CUGには実務を行っているメンバーが集まっているため、CUGの3次元部品WGに参加した有志の集まりで作成され、自らの業務で作成したものを公開している程度であった。 
 
CUGのWebサイトで公開しているものを少しでも永続的、かつ、より多くの人が利用しやすいようにと、部品サイトでは世界的に有名なBIMobject(図-2)の日本法人と協力し公開を試みるも、当時のBIMobjectの公開規則は、製造メーカーが自身の製品の部品を公開することが原則であり、いわゆるジェネリックモデルとして作成した部門を公開することは許されていなかった。
そのため、このBIMobjectサイトを利用するための条件をBIMobject社と協議をした結果、CUG会員という有志で登録されている部品の意味を理解している人のみ利用できるという条件で、CUGサイトに登録した会員のみにしか土木関連部品が利用できないという流れとなった。
限定されたメンバーへの公開となったが、それでもこの世界最大の3次元部品プラットホームのBIMobjectサイトを利用し、日本の土木部品を公開できることは、部品サイトの永続性を考えると大きな転換点になったと思われる。


CUGが整備してきた部品サイトの変遷

図-1 CUGが整備してきた部品サイトの変遷


BIMobjectが公開している部品サイト

図-2 BIMobjectが公開している部品サイト(https://www.bimobject.com/ja



 

世界の状況

さて、このような3次元部品サイトの状況ではあるが、日本以外のサイトはどのような整備が進んでいるのか、米国、欧州、アジアの様子を以下にまとめた。
 
● 米国ウィスコンシン州では、発注機関からソフト、部品、テンプレート、マニュアルなど全て提供されている。
● イギリス王立建築協会が運営しているサイトで、主にメーカーが作成したBIM用の部品が登録されている。
● シンガポールは、BIMが進んではいる。
 しかし、建築確認申請時に3Dモデルが必要ではあるものの、部品サイトは存在していない。
● 韓国は、建築分野のライブラリーは民間団体が配布している状態である。
 土木分野のライブラリーは国土交通部と政府の研究機関、韓国建設技術研究院(以下、KICT)が100%運営をしている。
 設計・積算に主眼を置いているため、3D部品に限らず、アセンブリ(組立図)の登録もされているが、政府機関が必要なものに限られている感がある。
●スウェーデンのベンチャー企業のBIMobject社は、世界最大のBIMデータライブラリーサイトを全世界向けに運営している。2017年にはBIMobjectJapanが設立されている。

 
 

このようにほとんどが建築向けの部品サイトとなっており、インフラ分野での部品サイト構築はないに等しい。
 
しかしながら、韓国では、唯一、土木分野における「ライブラリー」が存在する。
 
韓国でのインフラ分野におけるライブラリーは、ライブラリーの利用者は、民間業者ではなく、発注者および発注者業務を実施する設計コンサルであり、道路建設における業務プロセスを大幅に短縮するために利用している。
計画はもとより、積算業務などへの取り組みが積極的であり、その取り組み内容はKICTのムン博士やジュ所長(2017年当時)から聞いたわれわれも、本来国としてあるべき取り組みであると、感嘆の声を上げざるを得ない内容だった。
 
この件については、詳細はこちらをご覧いただきたい(https://www.jacic.or.jp/hyojun/2016shouiinnkai-01.html)。

 
 

日本の部品データの整備状況

このような状況において、では日本は建築分野、土木分野においてどのような状況なのかを今一度整理してみたい。
 
BIM(建築系)では、2015年秋に設立されたBIMライブラリーコンソーシアムが、(一財)建築保全センターに事務局を置き、117者の会員企業・団体から成るコンソーシアムとして、BIMライブラリーの構築・提供を目標として活動を開始し、2019年8月23日付で国土交通省に技術研究組合として認可され、法人格を持つBIMライブラリ技術研究組合に移行した。
 
BIMによる円滑な情報連携の実現のため、BIMオブジェクトを標準化し、その提供や蓄積を行うBIMライブラリを構築・運用するとともに、現在BIM導入を検討・開発中でその効果が大きい領域との連携を図ることにより、効率的な建築物のプロジェクト管理などの実用化に関する試験研究を実施することを目的として活動を継続している(図-3)。
 
建築分野における情報連携を進めるための属性情報の入力規則や内容を統一するための活動や、建築プロセスを通じて利用するための基準統一などの活動がここでは行われている。 
 
翻って、土木分野に目を転じると、国土交通省は2018年3月、効率的に3D設計を進める一つの手法として、3Dモデルを構成するパーツを作成・提供する「3次元部品データライブラリ」の構築に乗り出すということで、2020年度の運用を目指し、CIMライブラリー構築の検討が始まっていた(図-4)ものの、現在もこのライブラリ構築は行われていない。
 
国が整備するライブラリ構築については、単なる部品ライブラリではなく、韓国のような考え方を基にライブラリを構築しなければ、公共工事におけるライブラリ利活用は意味がない。
現在、国土交通省がパラメトリックモデル構築の取り組みを進めているが、単なるモデルのデータ交換やモデル構築を楽にするための方法ではなく、このモデルが設計・積算のみならず、さらなる土木施工を効率化させるためのプレキャストへの展開と誘う流れにしてほしい(図-5)。

BIMライブラリ技術研究組合

図-3 BIMライブラリ技術研究組合(https://blcj.or.jp/


3次元オブジェクトの供給に関する検討資料(2017年資料より)

図-4 3次元オブジェクトの供給に関する検討資料(2017年資料より)


パラメトリックモデルの考え方(素案)

図-5 パラメトリックモデルの考え方(素案)
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001395569.pdf



 

今後の整備と展開について

このように、日本での部品整備は、建築分野、土木分野における利用の違いによって、整備状況も方針も変わってくるが、CUGとしては実際のモデルを構築する土木技術者が少しでも手間をかけずに利用できる部品サイトの構築に力を入れていきたい。
 
また部品整備を進めるに当たり、Webサイト基盤整備においてコストと時間をかけ、利用環境を常に最新の物にすることが望まれるが、CUGとしての活動はそもそも慈善活動でまかなわれていることもあり、これらを実現することは難しい状況であった。
BIMobject社と再度協議を重ねる中で、「CUG×BIMobjectブランド」として、通常のメーカーの公開方法に近い立場で情報を公開できることになった。
CUGサイトを通じれば、カテゴリ別・部品種類別での絞り込みは可能であり、さらにCUGの会員登録をしなくてもダウンロードが可能となる。
 
その環境構築をBIMobject社とともに進めた結果、2021年12月24日に正式公開の運びとなった(図-6)。
 
今後は、BIMobjectの無料会員登録をすれば、CUGサイトの埋め込まれたライブラリから、誰でも利用が可能となる(図-7、図-8)。
 
BIMobjectのプラットホームを利用した部品公開ができたことにより、ダウンロードした日時やダウンロード数のデータが分析できる。
なお、CUGは幅広いユーザーに利用してもらうため、個人情報に該当するユーザー名などは、CUG側では管理できない仕様とし、サイトの運用をBIMobjectとともに行っていく。
どのような部品を皆が好んで利用しているのか、またどんな部品を欲しているのかなど、利用者と提供者の間において利用履歴を活用した意思疎通も図ることができそうである。
ぜひ、CUGのフォーラムで意思疎通を図ってもらいたい。
 
現在われわれCUGの3D部門活動有志メンバーだけで今後の部品を増やしていくことは難しい状況でもあるため、ぜひこの活動に参画し、一緒に部品を増やし、また、利用しやすい環境を構築するために手伝ってもらえる方々を募集している。
また部品についても、こんな部品が欲しいなどの声も併せて募集している。
 
国土交通省をはじめ行政機関には、部品という単純なものを整備するのではなく、その活用や運用を含めた対応を実施していただき、われわれCUGのメンバーは、自身も含めて土木技術者が「簡単・便利・使いやすい」ものを提供することに主眼を置きながら、今回のような世界的に展開している関係者との協調体制を構築し、土木技術者が土木技術者のために必要な環境を整備していくために力を発揮していきたいと考えている。
 
本件への対応に関して、問い合わせがある方はサブリーダである加藤氏もしくは小島氏に連絡いただきたい(図-9)。

 
 

※活動参加者一覧
3D部品WG(継承略)
リーダ:杉浦伸哉(大林組)
サブリーダ:加藤 俊(ヒロセ)
サブリーダ:小島文寛(東急建設)
メンバー:長谷川充(水都環境)
     石川信恵(水都環境)
     石倉博司(水都環境)
     新 良子(CTC)
     田中和恵(CUG)
     後藤直美(大林組)
     糸田川由美(東急建設)
     林 美幸(ティーネットジャパン)
     山村洋平(ソフトバンク)
     椎葉 航(EARTHBRAIN)

パラメトリックモデルの考え方(素案)

図-6 CUGサイトにおけるBIMobject基盤を使った公開イメージ


部品一覧表示内容

図-7 部品一覧表示内容


部品詳細情報表示内容

図-8 部品詳細情報表示内容


連絡先

図-9 連絡先


 

 

CUG 3次元部品WGメンバー
代表 杉浦 伸哉
CUG 3次元部品WGメンバー 代表 杉浦 伸哉


 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 



地方発!i-Constructionチャレンジ事例i-Con第2世代を育て、生産性向上の裾野を広げる

はじめに

弊社は静岡県袋井市に本社を置く、昭和 34 年創業の土木・建築を業とする建設会社です。
社員は 19 名と小さな会社ですが、近年ICTの活用は社内でも特別なものではなくなってきました。
今後の工種拡大やスタッフの活用に差ができないよう、ICTの普段使いと裾野拡大に向けて取り組みを進めています。
 

株式会社 内田建設 株式会社 内田建設


 

ICT活用工事の今

2016年よりi-Constructionが始まり6年目に突入し、ICT活用工事も浸透してきました。
工種もどんどん増え、ICTは聞き慣れた言葉となり、ICT活用工事は中部地方整備局管内では1企業(Cランク以上)当たりのICT(土工)受注率は90%程度と、複数回受注も50%を超えているようです。
 
資料では「みんながICTに取り組んでいるようだけれど、自分はおいていかれているだろうか」と思われる読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
 
しかし当初の目標、生産性20%UP(2025年)、そして人材不足の解消は、もっと普及していかないと達成できないのではと感じています。

ICT活用工事(土工)の受注実績分析

ICT活用工事(土工)の受注実績分析



 

i-Con第1世代が活躍のこれまで

ICT活用工事の伸びは主に積極的に進めてきたi-Con第1世代が繰り返し施工することで、工事件数が増加しています。
内田建設でも、第1世代は繰り返しICT活用工事に取り組むことができました。
しかし裾野拡大が進まないと生産性が停滞してしまいます。
そこで弊社では推進係を設置してi-Con第2世代の積極的な育成をしており、活躍の場を広げています。

弊社の3年前の状況(習熟度と施工件数)
と現在の状況

弊社の3年前の状況(習熟度と施工件数)と現在の状況
※赤は現場作業員 青は現場監督
2人が牽引よりも第2世代全員で生産性UPを目指す



 

i-Con第2世代へインタビュー

裾野拡大の成果が出てきたところで、第2世代の方へ取り組んで良かったこと、苦労した点や今後の抱負などを聞きました。

i-Con第2世代の監督 自ら構造物を3D化し現場説明会を行った松浦氏

i-Con第2世代の監督 自ら構造物を3D化し現場説明会を行った松浦氏



 

3Dに取り組む上での苦労と今後への抱負

今回は自主的なICT活用で地元説明会や協議資料、土量算出などを行いました。
3Dは分かりやすく十分効果があったと思います。
 
取り組み当初は気持ち的なハードルが高かったのですが、食わず嫌いになっていたと思います。
今後は、若手が伸びているので、新機能はサポートを受けつつ、これまでの現場経験がある分、適材適所で便利なツールを使っていきたいと思います。
 
メリットは昇降が少なくなることと、丁張がなく1日の疲労度が下がるとかですかね。
初めてICT工事のオペになったときは操作をよく聞いていましたが、最近は別のオペレーターにもICTの癖を教えています。
選手寿命を延ばしてできるだけ長く働きたいですね。
 
CADも初めてで戸惑うところは多かったのですが、一般的なPCスキルからでもなんとかICT施工の管理ができるようになりました。
まずはICT現場が円滑に回るようサポートをして、今後BIM/CIMや通常の現場管理を身に付けたいです。
メリットは、ICTがないときは大変だったんだなぁと(笑)

還暦後ICTオペレーターとして成長著しい小栗氏

還暦後ICTオペレーターとして成長著しい小栗氏


第2世代の成長を支援するICT推進係の佐藤氏

第2世代の成長を支援するICT推進係の佐藤氏

第2世代の成長を支援するICT推進係の佐藤氏



 

たどり着いた『普段使いの』ICTサポート体制

実は、社内でもなかなかICTの普及が進まない時期があったため、ICT推進係を設置しサポート体制・機材の拡充を行いました。

杭ナビショベル操作を説明する推進係(右2名)

杭ナビショベル操作を説明する推進係(右2名)


いつでも誰でも確認できる環境をつくる

中小企業のICTは推進者の頭の中、そんな感じではありませんか?そこで今回の体制では推進係が研修後の復習も兼ねてマニュアル作りも行うことで知識の定着と第2、第3世代へとつないでいます。
また、スキルアップのため、監督総出でKENTEMさんへ3D設計合宿も行いました。

社内マニュアル

社内マニュアル

監督全員KENTEM合宿

監督全員KENTEM合宿


普及への障害だったこと

会社のICT工事件数が伸びても普及が進まないのは、支援・育成のどちらの人材も通常業務が忙しいからです。
ICT活用工事以外でのICT活用は「不要不急」と誤認してしまい、ICT化が進まないサイクルに陥ります。
加えて、ツールの変化が大きく、使いこなすための指導と体験も必要でした。

普及への障害だったこと


成長した要因

今回、推進係という専任が入り、ICTで困ったときにサポートできる体制ができたことで、ICTの操作の受け皿が大きくなり少しずつ成長が進んだのだと思います。

成長した要因



 

今後の展望と新たな挑戦!!3Dデータ利活用

その1:ICT建機を全ての現場で挑戦へ

活用工事以外の現場へもICT重機の活用を進めています。
衛星の入る現場、入らない現場、小規模な現場でも対応できるようGNSS用、TS用、小型重機と、どんな現場でも効率的な施工を目指して、挑戦を進めています。

ICT建機を全ての現場で挑戦へ

ICT建機を全ての現場で挑戦へ


その2:現場の見える化へ挑戦

作成した3Dデータの設計見える化にも力を入れて挑戦しています。
現在はHololens2とiPadでのMR/ARを関係者との打合せに活用しています。

現場の見える化へ挑戦

現場の見える化へ挑戦


今後の発展に向けて

今後も、ICTの普段使いが浸透するまで、継続的に育成や挑戦を続けていきます。
ICTが全てを解決するのではありませんが、生産性向上の大きな手段として今後も進めていきたいと思っています。

 

株式会社 内田建設 専務取締役
内田 翔

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 



設計初期段階でのコストマネジメントにBIM活用を建築-アドイン概算システム『COST-CLIP』のご提案-

2022年10月8日

はじめに

(株)日積サーベイでは、BIM活用積算の普及を目指し、BIM対応建築積算システム『ΗΕΛΙΟΣ(ヘリオス)』を開発、提供しており、2021年12月には、『ΗΕΛΙΟΣ2022』をリリースした(図-1)
 
また、ΗΕΛΙΟΣは、BIMソフトとの連携として、2011年にIFCファイルを中間ファイルとした「IFC連携」を、2016年にはBIMソフトのデータを直接、ΗΕΛΙΟΣのデータ形式に変換する『HeliosLink』により、「ダイレクト連携」を実現した。
 
これらのBIM連携機能をリリースして以降、多くの方々に活用いただいており、弊社でもBIM活用積算の実務を行っている。
 
そして、2022年1月には、BIMソフト上で使用するアドイン概算システム『COST-CLIP』をリリースする。
 
そこで、今回は、『COST-CLIP』の特長を、開発経緯も交えながら、紹介する。

ΗΕΛΙΟΣの画面

図-1 ΗΕΛΙΟΣの画面



 

『COST-CLIP』開発経緯

ここでは、『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携機能をリリースしてから、『COST-CLIP』の開発に至るまでの経緯について触れていく。

『ΗΕΛΙΟΣ』でのBIM連携

『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携では、①『Helios Link』を介して「ΗΕΛΙΟΣのデータ形式」を出力、②それを『ΗΕΛΙΟΣ』上で開き、積算モデルとして確認、③建築数量積算基準に則って数量を算出、内訳明細書を作成という、「設計用BIMソフト」や積算用の『ΗΕΛΙΟΣ』の、各ソフトの専門性を生かせる方式をとっている。
 
これにより、積算技術者は、紙図面を基に『ΗΕΛΙΟΣ』上でゼロから再配置(Reモデリング)をすることなく、積算を開始できるため、積算業務の効率化を図ることができる。
また、『ΗΕΛΙΟΣ』に標準搭載の帳票出力機能により、数量算出根拠が確認できる。

『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携による概算

『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携機能のリリース以降、設計初期段階から概算コスト算出に活用したいという要望を多くいただいた。
しかし、『ΗΕΛΙΟΣ』は実施設計段階の詳細積算が主な対応フェーズであるため、スピード感が重要な概算コスト算出に求められる機能と、相反する部分があった。
 
例えば、『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携では、前述の通り、2つのソフトの専門性を重視していることもあり、それらに対する習熟が必要となる点である。
 
そこで、設計初期段階の概算コスト算出を対象としたBIMソフト上で動作する新システムとして、アドイン概算システム『COST-CLIP』の開発をスタートさせた(図-2)。

ΗΕΛΙΟΣの画面

図-2 ΗΕΛΙΟΣの画面



 
 

『COST-CLIP』の特長

特長1.BIMソフト上で概算コスト算出

『COST-CLIP』は、設計用BIMソフト上で動作し、概算コストが算出できる。
これにより設計プランを変更した際にも、リアルタイムに概算コストを把握することができる(図-3)。

COST-CLIP画面イメージ

図-3 COST-CLIP画面イメージ


特長2.設計初期のBIMモデルに対応

『COST-CLIP』は、第1弾の対応オブジェクトを「部屋」、「壁」、「建具」とすることで、既往の概算コスト算出において一番手間の掛かる「内外装」に対応した。
 
最低限必要なBIMオブジェクトは「部屋」のみとし、仕上情報は表計算ソフトで作成した「仕上表」からの取得にも対応した。
 
設計初期段階で作成されるBIMモデルには、一般的に多くのBIMオブジェクトや属性情報は入力されていないからである(図-4)。
 
入力された「部屋」の情報を基に、シンプルな操作で、内装(床・巾木・壁・天井・廻縁)、外装(屋根・外壁)の概算コストの算出が可能である。
 
さらに、設計段階が進み、「壁」や「建具」が入力されることに応じて、間仕切や建具(窓、ドア、カーテンウォール)の概算コストも算出可能となる(図-5)。

COST-CLIP活用の流れ

図-4 COST-CLIP活用の流れ



 

COST-CLIP(第1弾)対応状況

図-5 COST-CLIP(第1弾)対応状況


特長3.明細や各種帳票出力に対応

『COST-CLIP』は、『ΗΕΛΙΟΣ』の専門分野である「数量集計・明細出力」、「帳票出力」に対応している。
 
「数量集計・明細出力」では、表計算ソフトで作成した「単価表」により、金額まで埋め込まれた、部分別内訳明細書が作成できる。
 
また、「帳票出力」では、『ΗΕΛΙΟΣ』と同様に数量算出根拠が確認できる。

対応BIMソフト

『COST-CLIP』に対応する設計用BIMソフトは、国内でよく使われている『Archicad(グラフィソフトジャパン株式会社)』と『Revit(オートデスク株式会社)』の2製品とした。

 
 
 

概算/積算でのBIM

2019年6月に国土交通省により設置された「建築BIM推進会議」では、BIMを活用した概算やコストマネジメントは、主要なテーマに位置付けられており、「BIM活用概算/積算」の流れは広がりつつある。
 
『COST-CLIP』は『ΗΕΛΙΟΣ』とともに、その流れをさらに加速させる存在となるべく、今後ユーザーに積極的なヒアリング調査や提案を行い、集まった意見も踏まえながら、継続して、機能追加や改良をしていく。
 
また、設計初期段階の『COST-CLIP』は、実施設計段階の『ΗΕΛΙΟΣ』とはターゲットが異なるが、いずれも建設プロセスにおいてBIMを活用することには変わりはない。
 
今後の展望として、『COST-CLIP』と『ΗΕΛΙΟΣ』の間で、互いに単価情報などを共有することで建築ライフサイクルが循環するように取り組んでいく(図-6)。

COST-CLIPとΗΕΛΙΟΣの連携

図-6 COST-CLIPとΗΕΛΙΟΣの連携



 

会社概要
会社名:株式会社日積サーベイ
所在地:大阪市中央区大手前1丁目4番12号 大阪天満橋ビル8F
創業:1964年(昭和39年)10月
URL:https://www.nisseki-survey.co.jp/
資本金:2,000万円
従業員数:45名(2021年4月現在)
主な事業内容:建築積算、コスト算出、コンピューターシステムの開発

 
 
 

株式会社日積サーベイ BIMソリューション部
高橋 肇宏

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



施工BIMのワークフローとロードマップ

2022年10月2日

はじめに

一般社団法人日本建設業連合会(以下、日建連)のBIM部会は、前身のBIM専門部会時代から『施工BIMのスタイル』シリーズの発刊などを通じて施工BIMに関する情報の公開を進め、基盤づくりの一つを担ってきた。
 
2021年3月には、建築生産プロセス内でBIMモデルを活用する業務の進め方(以下、ワークフロー)やBIM部会が考えるロードマップに着目した『施工BIMのスタイル施工段階におけるBIMのワークフローに関する手引き2020』(※1)(以下、『スタイル2020』)を発表し、施工BIMに関する最新情報を公開した(図-1)。
本文ではBIMの動向や基本的な考え方などを網羅しており、施工BIMの教科書として活用いただくことも想定している。
 
本稿では『スタイル2020』で取り上げた項目の中から施工BIMのワークフローの考え方と施工BIMのロードマップの概要を紹介することで、今後の施工BIMの方向性を考えたい。

施工BIMのスタイル2020



 

ワークフローの必要性

BIMの基盤づくりは3分野に整理できる。
一つはBIMモデルの作成を標準化する分野、もう一つはBIMを活用するワークフローを標準化する分野、そして最後は標準化された業務を展開する人材を育成する分野である。
これら3分野は密接なつながりがあり、どれひとつ欠けてはいけない。
 
BIMを単に可視化させる目的の場合では、ワークフローをそれほど意識しなくてもよいが、実際の生産プロセス内で専門工事会社とデータ連携して施工図・製作図の調整業務を効率化する「BIMモデル合意」などに取り組むと、いやが上にもワークフローを意識した計画立案が必要不可欠となる。
 
ワークフローの確立は、言うことは簡単だが、実現を目指そうとすると案外難しい。
工事内容などに合わせた目的設定や体制構築などを決めるスタート地点から、想定した最終成果を享受するゴール地点までを、どのコースを選択してどのような技を繰り出すのかを決めるのである。
コースの選択には、綿密な計画と不測事態における判断力が必要だ。
そのため、BIMの取り組みのハードルがたちまち上がってしまい、推進のスピード感や享受する成果が滞る場面も多くなるだろう。
 
現在の施工BIMはこの壁を乗り越える時期にきているのではないか。
『スタイル2020』の執筆では、施工BIMのワークフローを再検討することから着手したのは、このような背景がある。

 
 

ワークフローの考え方

施工BIM全体のワークフローは、工事工程とBIM実施作業工程の関係性を理解し、計画することから始まる。
『スタイル2020』では「施工BIM取組み内容・実施作業工程」のイメージを共有するために、施工BIMの活用目的を以下に示す7項目に分類し、仮想の工事工程にプロットを試みた(図-2)。
 
1. 事前準備
2. 施工計画BIM
3. 施工図BIM
4. 製作図BIM
5. 総合図・プロットBIM
6. ICT建築土工
7. 周辺技術(3D計測、xR)
 
プロットした活用目的は、さらに細分化して17パターンのワークフローとして具体的に解説をしている。
その中から鉄骨関連の製作図BIMのワークフローを示す(図-3)。
ポイントは一般図の作成段階で鉄骨専用CADを使用し、設備専門工事会社や外装仕上材、ACW、鉄骨階段、エレベーターなどから受領したBIMモデルを統合、または重ね合わせることで、設備スリーブや各専門工事会社の施工図・製作図の整合調整を完了させるワークフローとした。

施工BIMの目的別ワークフロー


製作図BIMのワークフロー



 

ロードマップが示す将来像

『スタイル2020』の冒頭には図-4に示すBIM部会が考える「施工BIMのロードマップ」を3分野(①施工計画、②施工管理、③啓蒙活動)に分けて掲載し、総合建設会社と専門工事会社の視点からそれぞれの将来像を示した。

施工BIMのロードマップ


①施工計画分野の取り組み

『スタイル2014』において「BIMモデル合意」の手法が提示されたことにより、製作図の調整業務は効率的になってきた。
しかし、承認・承諾行為がいまだ図面であるため、調整作業の途中から最新情報の更新はBIMモデルではなく図面になってしまう傾向が見られる。
これではBIMによる正しい生産情報が流通しなくなるため、デジタル化された生産情報の価値を見つけにくい。
そのため、正しく作成されたBIMモデルの座標情報や属性情報を活用して、図面を補助的に運用する「BIMモデル承認」の検討を元請け側が主に図面作成している躯体図から検討を開始する(※2)。
 
一方、元請けと専門工事会社間でデータ連携をしてお互いメリットを享受する視点を忘れてはいけない。
専門工事会社は元請けにBIMモデルのデータを提供するだけの受け身では労力を費やす割に効果は出にくい。
正しいBIMモデルが流通する時代が来る前に、例えば属性情報を製造につなげる取り組みなどを準備する時期にきていると言えよう。
「BIMモデル承認」の取り組みは、施工側だけでなく設計側の参画も必要不可欠ではあるが、まずは施工側から取り組みの可能性を考え始めた意義は大きい。

②施工管理分野の取り組み

施工BIMの適用範囲を拡大する上で取りこぼしてはいけない視点である。
施工BIMは工務部門(図面や計画)を中心として推進が進んだため、工事部門(施工管理)が現場のフィールドでBIMを活用する事例はいまだ少ないと思われる。
そのためBIMの属性情報を工程管理や品質管理などのソフトウエアと連携して活用することも視野に入れておきたい。
工事現場でのBIMの活用は、携帯情報端末でBIMモデルを閲覧して、情報共有することから始まる場面が多いが、所長から若手の技術者までの立場により活用したい目的が異なる。
BIM部会では工事現場の役職に合わせた活用方法の体系化も進める予定だ。

③啓蒙活動の取り組み

日建連BIMセミナーや会員企業における動向調査、BIM事例発表会などを通じてBIMの周知活動を進め、建設業界として人材教育や育成の一端を担う計画である。
本年度は6月30日に『スタイル2020』を解説するWEBセミナーを開催し、日建連会員企業内外から493名が受講し、参加者の約9割がセミナー内容に満足をしていただいた。
参加者からは事例を知りたい、などの意見が寄せられており、次回以降の企画の参考にさせていただき、実務に近いBIMに関する情報を引き続き発信する予定である。

 
 

おわりに

本稿では『スタイル2020』で解説した施工BIMのワークフローとロードマップの一部を紹介した。
詳細な内容は『スタイル2020』をぜひご一読いただければ幸いである。
施工BIMの取り組みが多様化するにともない、ますます実務での活用に準拠したBIMモデルの作成手順や作業のワークフローを整備することが急務となってきた。
今回、建築業界として初めて施工BIMの活用目的別にワークフローの体系化を試みたが、検討作業は緒に就いたばかりだ。
正しいBIMモデルの情報が当たり前に流通する先には、データを活用した自動化やロボット分野との連携が視野に入ってくるだろう。
 
今後は施工BIMに関する情報発信に加え、設計施工一貫発注における設計BIMから維持管理BIMまでを包含したワークフローやロードマップについても検討を進め、情報を開示する予定である。

 
 


(※1)日建連BIM部会のホームページにおいて入手方法を案内している(有償配布)。
https://www.nikkenren.com/kenchiku/bim/zuhan.html
(※2)BIMモデル承認の検討プロセスは活動成果として、日建連BIM部会のホームページにおいて公開している(無償)。
https://www.nikkenren.com/kenchiku/bim/pdf/report_bmsswg_202103.pdf
 
 
 

 

国土交通省 大臣官房技術調査課 工事監視官
栗原 和彦

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



設備BIMにおけるIFC活用-ワークフローを変革する7つのポイント-

はじめに

2021年度、建築推進会議の発足から標準化の取り組みが加速して本年で3年目です。
モデル事業が採択されて各チームで標準化に向けた取り組みのレポートを作成している段階です。
 
今回、モデル事業における設備分野でも、設備の情報や設備のプレイヤーが建設業界全体に果たす役割が非常に大きなものであることがクローズアップされました。
建築分野における施工技術コンサルタントもしくはBIMマネジャーの職能に設備のナレッジがどうしても必要であると期待され、多方面で展開されています。
 
今回、設備環境小委員会では、これまでのIFC設備利用標準の策定のみならず、ワークフローの策定にも取り組みました。
その特定項目として7分野を定め、設備セミナーイベントで情報公開しております。
本編では、その7つの特定項目の目的と成果を簡単にお示ししたいと思います。

 
 

設備設計におけるIFCなどBIM活用

設備設計におけるBIM活用と、どのようなシーンでIFCが活用されているか

設備設計のBIMにおいては、従来のモデルを3Dで入れるという活用から、情報をつなぎ渡すことにより、業務のフロー改善を図る段階に入っている。
 
設備システムの多様化、建築形状の複雑化・大規模化・超高層化に伴い設備設計はますます複雑となっており、設備設計には高い調整能力と手間がかかっている。

BIMワークフローの重要性
BIMワークフローの重要性



 

一般的にBIM連携するとは、モデルとモデルの交換によるコーディネーションであり、建物の形状だけではなく建物情報の交換や循環がどのように行うのかが求められる。
 
形状以外にも、お互いにどのような情報が必要で、どのようなタイミングで受け渡しを行うのかを設計初期に決めておく必要がある。
受け取りのルールを早期に決めておくのがとても重要になる。
 
これらを実現する手法の検討として、各関係者でBIMが持つ共有すべき情報を外部のデータベース(Excelなど)で連携させ、必要な情報の構築を行うことである。
現在、BIMツールは前回からどこが変更されたかの差分伝達がしづらい状況だが、外部データベースを使用し時系列で差分の見える化ができる。
設計プロセスにおいて、どの段階でどのように内容が変わっていったかを将来的にトレーサビリティできると、より信憑性が高くなる。
 

 
 

空間と設備、スペースと設備を構成するもの

概要

近年のBIM活用では、企画・設計・施工・維持管理など各関係者がデジタルで情報を取り扱い、他分野にまたがるデジタル情報の活用がなされている。
 
共同設計アプローチにおいては、他工種・他工程の利用するスペースをデジタル化して情報共有する必要がある。
建築・設備の取り合い、工事スペース、メンテスペースなどに必要な空間の割り当てを確保しておくことを「空間利用のデジタル化を空間予約する」という。
 
今までは空間情報を意味する同様なIFCエンティティ(Ifc Space、Ifc Zone)はあったが、空間予約(割り当て)には適さない。
今回IFC4でIfc Spatial Zoneが規定されて、部屋とは区別できる空間情報(ゾーン)が表現可能となり、Ifc Space、Ifc Zoneとさまざまな空間定義と併用して活用することによって設計段階における他分野とのデジタルコラボレーションや効率的な計画の実現が期待できるようになった。

BIMワークフローの重要性
BIMワークフローの重要性


プロジェクトの取り組み

取り組み内容について、IFCのベストプラクティスの共有、ソフトウエアベンダーによる実装状況や事例紹介の実施予定、ワークショップと並行して設計初期段階のユースケースの整理を行っていく。
最終的にはIfc Spatial Zoneの活用方法やユースケースを整理して、使用する際のガイドラインの提供を行い、プロジェクトが進展していく際は、内容発信も行っていく。

Ifc Spatial Zoneの活用案(想定活用事例)

(1)施工計画想定の例
(2)資材管理想定の例
(3)特定機能(貫通)への対応例
(4)照明制御のゾーニング例
(5)セキュリティゾーンの例
(6)無線電波の空間予約の例
 
空間予約は、さまざまなシーンでの活用があり、今後ユースケースをまとめていく段階で有効な情報については適宜、発信する。

Ifc Spatial Zoneは、設計者から施工者への活用伝達

施工者間での取り合い、施工計画調整、設計者・施工者から維持管理者への情報伝達など、さまざまな場面での活用が期待できると見込まれるbSIのプロジェクト活動を通して、IFCを活用するメリットやそれに当たってのガイドラインの情報提供によるIfc Spatial Zoneの認知向上や利用拡大を継続する。

BIMワークフローの重要性



 

オブジェクト標準とIFC4によるストックデータ整備に向けて~意構設連携を見据えて~

BLCJオブジェクト標準

属性項目一覧やカテゴリー別パラメータ一覧を基に、ジェネリックオブジェクトのサンプル作成やメーカーオブジェクトの確認を2018年度からプリズムを活用して実施している。
 
2020年度はサンプルオブジェクトを使用して、実際にジェネリックオブジェクトやメーカーオブジェクトがBIMソフトにどのように取り込まれ振る舞うのか、オブジェクト標準がどの程度反映できているのかの検証を行った。

RUGの取り組み

Revit User GroupはAutodeskと連携して、各部会で標準化されたパラメータや意匠構造設備で最低限共通化を図るパラメータをRevitで対応できるように整備を進めている。
 
RUGの取り組み:ファミリ仕様書
RUGの取り組み:MEPテンプレート
RUGの取り組み:意構設連携

BIMワークフローの重要性


タスクフォース活動

RUGでは、意匠・構造・設計間における連携活動も活発に進められている。
 
一例として、設備構造間連携では、設備荷重の情報の受け渡し(MEP→S)、貼り感通貨の範囲(S→MEP)、梁貫通情報(MEP→S)をRevitで直接受け渡す手法の検証を行い、具現化を図っている。

将来を見据えたストックデータ整備に向けて

未定義のものから整備をしていき、IFC4として社会基盤データ構築を含め、国内のBIM普及を進めていくべきではないかとの問いかけがある。

 
 
 

IFC4で広げる建築設備設計

IFCとは

IFCはbuildingSMARTInternationalが策定したBIMの規格となり、2013年に国際標準化された。
IFCの目的として建設・FMのデータ共有となっている。
現在では、ISOの審査の元2018年にIFC4.3がリリースされた。

空調ダクトシステムにおける設備要素のIFCデータ構成、属性情報およびシステムの解析手順

IFCの技術仕様書はbSIの公式のHPで確認でき、全てのエンティティと各エンティティの定義と属性などが記されている。
 
空調設備IFCクラス定義がIFC2x3とIFC4では、表現がより具体的に設備の要素が定義されていると考える。
 
昨年の論文で使用した空調ダクトシステムのBIMモデルは、ダクトをIfc Duct Segment、制気口はIfcFlow Segment、継手はIfc Duct Fitting、として定義される。その他消音ボックスダンパなどはIfcBuilding Element ProxyではなくIfc Energy Conversion Deviceと定義されIFC4の仕様と一致している。
 
IFCではIfcPropertySetという属性定義がされ、BIMソフトからはそれら属性は簡単に出力できる。
例えばダクトの属性としてサイズや動圧、流量、風速、圧力損失を出力でき、これらのIFC属性を利用してダクトの設計結果を出すことができる。

空調ダクトシステムにおける設備要素のIFCデータ構成、属性情報およびシステムの解析手順
空調ダクトシステムにおける設備要素のIFCデータ構成、属性情報およびシステムの解析手順


空調ダクトシステムにおける設備要素のIFCデータ構成、属性情報およびシステムの解析手順


IFCデータビューアの開発

ダクトシステムの情報解析、活用研究、そしてPythonを使用してIFCスキーマーを解析しながらIFCWebExploreを共同開発した。
IFC4/IFC2x3両方対応する。
特長としてスキーマーファイルはツールの中で解析、属性の表示でシステムのつながりの確認ができ、Python、Flask、JavaScriptで構成されたWebアプリとなる。

IFCデータビューアの開発


IFCを用いた設備設計

BIMモデルとダクトシステムの圧力変化を連携できるIFC Pressure Viewerも開発中。
このツールでは、システムごとのダクトやメイン経路の表示、圧力損失が確認できる。
 
IFCはBIMデータの国際標準となっているが建築設備設計への活用はまだかと思う。
これからはIFC4の応用を広げていき、ユーザーの利便性について向上させる取り組みになると思われる。

 
 
 

スマートシティへのIFC活用へ向けて:IFCとIoTデータモデル連携の可能性

デジタルツイン・スマートシティに関する動向~IFCとIoT(建物OS・都市OS)データモデルの関係

都市OS・建物OSは共通のデータ連携が可能となり、屋内屋外情報を活用してBIMで高度な都市デジタルツインのインフラ構築が実現可能となる。
 
国内外における、建設デジタルツインが推し進められ、bSIとデジタルコンソーシアムの協調活動や内閣府からスマートシティ活用のためのホワイトペーパーが公開された。
 
3D都市モデル構築に関しては、ヘルシンキの3Dモデルがセマンティック(属性有)3D都市モデルへと進化している。
属性情報を有するモデルは、IoTやロボット、AIなどがより理解しやすいものとなり、機械化属性の高いアセットとなる。
 
国内においても国土交通省が3D都市モデルPLATEAUプロジェクトにおいて、都市空間情報をオープンデータとして公開している。

デジタルツイン・スマートシティに関する動向~IFCとIoT(建物OS・都市OS)データモデルの関係
デジタルツイン・スマートシティに関する動向~IFCとIoT(建物OS・都市OS)データモデルの関係


都市デジタルツインについて:IFCと都市OSに共通なMVD策定へ

都市デジタルツインを構築するには、IFCで示す都市空間情報とスマート化に必要な連携情報が課題の一つとなる。
 
都市OS・建物OSに関連するFIWARENGSIやAzure Digitalなどを含む空間データ情報をIFCに連携させるためスマートシティ対応したMVDの策定が今後の進む方向と考える。

都市デジタルツインについて:IFCと都市OSに共通なMVD策定へ


スマート化に対応したIDM検討に関する報告

スマート化に対応した技術連携委員会・PFI協会との連携活動、施設をスマート化する際、どのようなBIMデータを構築すればいいのか、IDM案としてプロセスマップと情報交換要件のたたき台を検討した。
今後は各小委員会やWGで検証改定をしていきたい。
 
建物運用フェーズにおける都市OS・建物OSに必要なAIM資産情報モデルの内容は、発注者側が要件定義をしていく必要がある。
 
今回のIDMの策定について、スマート化が必要な場面において、どのような空間情報・設備情報をAIMへ渡せばいいのかがとても重要と考える。

スマート化に対応したIDM検討に関する報告


スマート化IDM案-スマート化のデータ連携シナリオ-

発注者・受注者、建物OS都市OS、スマート化アプリケーションの提供者、維持管理フェーズにおける各種データ連携に関わるシナリオとなる。
 
今回のIDMスコープは赤い枠となる。
検証・議論をして整理をしていく。
 
今後もIFCとIoT、スマートシティの活動について各小委員会とWGで活性化させていきたい。

スマート化IDM案-スマート化のデータ連携シナリオ-



 

bSJにおける設備分野の検定

国内における設備IFCデータ交換の実現まで

BIMの活用には、データ自体の信憑性が問われる。
オーサリングツールから他のオーサリングツールへとBIM運用を行う背景がある。
 
2010年初めに海外でのIFC活用事例紹介から2010年頃に建築IFC提供が可能となり設備CADが読込対応を開始した。
 
同じ年に設備FM分科会(現設備環境小委員会)で海外設備CADのIFC出力の調査を行った。
設備CAD間での互換性が取れていないため、2011年に設備FM分科会で「設備IFCデータ利用標準」というIFCの扱い方の標準化を行った。
 
設備CAD3社でデータ交換実証試験を実施、そして2014年にIAI(現bSJ)のIFC検定第一号として検定を実施した。

国際的な認証の経緯

IFCの認証や検定に関しては国際的にはかなり前から行われており、2001年から2002年IFCR2.0認証ワークショップ、2002年から2009年IFC2x認証、2010年から国際IFC認証という、意匠・構造・設備設計のBIMモデル間の調整を主目的としたMVDをベースに認証を行ってきた。
現在はIFC4対応の認証ソフトも出ている。
これらの結果は、BSIのサイトに公開されている。
 
IFCR2.0認証ワークショップをIAI日本支部主催で2002年10月27日から28日で開催し、4社8プロダクトがIFCR2.0対応のアプリケーションとして国際認証を得た。

本年度より開始した新たな実施内容について紹介

IFCによって目的に応じた情報連携が可能なソフトウエアの検証とその技術的内容の公開、日本の建設業界における情報連携による業務効率化、ソフトウエアのIFCデータ取り扱いに関する機能の品質向上。

本年度より開始した新たな実施内容について紹介


《出力検定について》
MVD検定は、提供したMVDコンセプトに対応した出力ができているかを確認する。
図形・座標検定は、検定課題で指示されてサイズ、位置が正しいかを確認する属性検定は、設備IFC利用標準の属性項目に合致していることを確認する。

入出力共通課題について

図面が提供されて、受験するCADベンダーは自社ソフトでモデルの形や位置に従って入力する。
入力した結果モデルからIFCを出力して、出力検定を受ける。
 
《入力検定について》
検定側がモデルを作成し、出力したIFCのモデルを受検者に提供し、ソフトウエアで読み込み、それぞれのオブジェクトが機能しているか確認する。
 
2021年度の検定については「IFC検定ガイドライン」に対応した検定とする。
IDMに基づいた課題作成・検定を行い、出力・入力検定を実施する。
積算可能な情報の入出力を行う。
 
今後の検定に向けて、検定作業の自動化促進や多用途へのIFC利用拡大への対応をする。

入出力共通課題について



 

設備BIMにおける属性データ利用の現状と課題

建設業界では、以前から生産性が悪いと言われてきた。
それを改善するためにデジタル技術を利用すること。
IFCデータもデジタル技術を利用する一つの形態である。
 
IFCデータを有効に活用することで、建設業務のプロセスを大幅に効率化することが期待されている。
 

設備の設計・施工・運用・他業種連携に関わる計算、計画や実施などあらゆる業務の必要とする情報を定義し、全ての関係者がIFCを利用することで総合性の高い情報交換を可能にすることを目指している。
 

設備BIMにおける属性データ利用の現状と課題


積算における課題

積算を対象とした検定課題を作成する過程でIFCからの自動積算の可能性を検討した結果、多くの課題があることが明らかになっている。

積算における課題


IFCデータ活用の現状とあるべき姿のギャップをどのように解決していくのか~今後の取り組みとして~

CAD以外のソフトウエア(積算、技術計算、FMなど)との連携強化をしていく。
具体的には、未定義部材への対応とIFC4への移行を進めていくこととなる。
未定義部材の整備と分類コードの拡張により、対応可能な部材を増やし網羅性を向上させる。
 
IFCの対応としては、「2×3」から「4」に移行して、拡張された系統やゾーンなどの空間情報の活用を検討していく。
 
手法については、アジャイル開発手法を参考にプロセスの優先順位を決め、小さな開発を繰り返しながら順次リリースしていく。
 
必要に応じてBE-Bridgeの中の仕様を拡張して他団体との連携を強化していく。
さらには、積算情報を含むIFCデータを見える化するツール開発を検討している。

まとめ

オープンなBIMフォーマットであるIFCを中核としたデータ連携により、建設業界の業務効率化を推進していきたい。
そのために、bSJ設備環境小委員会では、IFCデータ活用の現状とあるべき姿のギャップを解決していく。

 
 

おわりに

以上7つの特定項目をご覧いただくと、BIMの中で一番効率化が図られる分野は、設備が多く絡んでいるという声をいただきます。
ご覧いただいたように、建築と設備の分野を横断して統合されたソリューションの動き、もしくはその中に設備のナレッジを持った人たちがどのような役割を果たすのかが非常に重要なことは読み取れるような内容であったと思います。
 
設備環境小委員会としては、今回の取り組みをさらに加速させ、建築BIM推進会議全般の中、そして建築ワークフローの中で有用なIFCの利用標準と標準ワークフローの策定に関与できるべく、各活動を継続していきたいと思っております。
活動にご協力いただいた皆さんに感謝いたしまして、2021年度の報告とさせていただきます。

 
 

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一般社団法人 buildingSMART Japan 設備環境小委員会
谷内 秀敬

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



 


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