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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

CIMにおける3DPDF活用法

2017年6月30日

 

はじめに

平成24 年に始まったCIM試行も5年が経過し、この春からは本格導入が予定されています。この期間に、施工会社は効率的なモデリング方法や共有方法、また費用対効果の高い実施方法などを試行錯誤してきました。
 
また設計ソフトから自動で橋梁3Dモデルを作成するシステム「BeCIM」(JIPテクノサイエンス)、「C-modeler」(伊藤忠テクノソリューションズ)など、ソフトベンダーより3Dモデルを効率的に作成するアプリケーションの提供も増えてきました。弊社が開発・販売している2次元の設計図面から橋梁3Dモデリングを行うツール「Click3D」もおかげさまで、国交省発注工事で40件を超える利用実績を数えるまでになりました。
 
一方でその3Dモデルを操作して現場で活用している人はまだまだ一部の方に留まっているのではないでしょうか。そもそも現場の方は、3DCADの専門家ではありませんし、3DCADへの心理的な抵抗感、ハードルが高いようです。
 
そこで現場の方にも3Dモデルを使ってもらう方法として、3DCADデータを無償のPDFリーダで閲覧が可能な3DPDFに変換して利用するシーンが少しずつ増えています。今回はCIMにおける3DPDFの活用の可能性についてご紹介いたします。
 



 
 

3DPDFとは

3DPDFは、3Dモデルを画像やテキストと同様にひとつの情報としてPDF内に埋め込んだもので、無償のPDFリーダで閲覧、操作可能なPDFファイルです。また3DPDFは特定の企業のフォーマットではなく、国際標準化機構(ISO)が認証した国際規格ですので、長期保存を前提とした納品データとしても安心感があります(図-1)。
 

図-1 スマートスケープ社のHPより




 
 
特長としてその扱いやすさがあります。Windowsパソコンにおいて世界でもっともインストールされている無償の文書閲覧ソフト AcrobatReaderで動作するので、3Dモデルを閲覧操作するために特定のソフトウェアをインストールする必要がありません。また3DCADのネイティブファイルに負けず劣らず「軽量」のため操作性も良いです。
 
最近は3DCADから3DPDFに出力できたり、3DCADにアドオンインストールして利用するアプリケーションもサードパーティーからリリースされています。
 
アドオンソフトのひとつ、スマートスケープ社が提供する「3DPDF forNavisworks」はその製品名のとおり、オートデスク社の3Dモデル統合ソフトウェアNavsiworksから3DPDFに変換できるアプリケーションです。Navisworks側で保存したビューや属性情報も3DPDFに変換されるためCIMモデルの納品データとして利用可能です。
 
Navisworksのネイティブファイル(nwd)はオートデスク社のHPから無償のフリーダム版をインストールすれば誰でも利用可能ですが、特に発注者は無償とはいえ特定のソフトウェアをダウンロード・インストールすることは簡単ではありません。3DPDFだと発注者のパソコンにインストールされているAcrobat Readerで閲覧できるので手軽に利用が可能です。
 
3DPDFファイルを開くとビュー画面に図のようなメニューが表示されます。その中にある「3Dものさしツール」を使うと3Dモデルに対して各種計測を行うことができます(図-2)。
 

図-2 3Dものさしツール




 
 
計測を行う前に、スナップ設定と測定タイプを選択します。選択可能な【スナップ設定】は画面左から、①エッジの終点 ②線のエッジ ③円のエッジ ④シルエット ⑤面、【測定タイプ】は左から、①3D ポイント間計測 ②3D 垂直寸法 ③3D 円形寸法 ④3D 角度測定、となります。それぞれ複数の選択が可能です。
 
もはや計測機能としては、3DCADと同等の機能と言ってもよいのではないでしょうか(図- 3)。
 

図-3




 
 
スナップ設定と測定タイプを選択したら、3D画面で対応する点や面を指定するだけです。寸法線は3DPDF内の視点に登録されますので、一度PDFを保存すれば次に開いた時にも数値を確認することができます。
 
橋梁3Dモデルの場合、図-4のように(1) 2 点間距離、(2) 排水管の中心と主桁との距離、(3) 橋台の橋座面の角度、(4) 落橋防止装置のキャップの直径、(5) 桁端の遊間などの計測が行えます。
 

図-4




 
 
設計部門で作成した3Dモデルを施工部門で利用する場合に、ちょっとした寸法の確認をするのも簡単に行えます。
 
 

CIMモデルとしての3DPDF

3DPDFをCIMモデルとして利用するためには属性情報を扱えることが必須です。「3DPDF for Navisworks」を利用すると、Navisworksで付与された属性情報も3DPDFに変換されますが、属性の確認方法としては3Dモデルから部材をクリックすることになり、検索機能もありません。
 
維持管理で3DPDFを利用するためには任意のキーワードで属性情報を検索したいシーンがあるはずです。また維持管理段階では点検した結果を属性情報として3Dモデルに登録したいはずです。
 
そこで、弊社オフィスケイワンはAcrobat Readerで属性検索や属性の追加が可能な3DPDFテンプレートを用いた「CIMモデル管理システムCIM-PDF」を開発しました。次章ではその属性編集機能付き3DPDF「CIMPDF」をご紹介いたします。
 



 
 

CIM-PDFでは何ができるのか?

CIMモデル(3D形状+属性)を3DPDFに変換したデータで、無償のAcrobat Readerで閲覧、属性検索が可能な、属性編集機能&オンラインヘルプ機能付の3DPDFファイルです。
 
(1)機能概要
・CIM-PDFは Acrobat Reader で閲覧、属性検索ができて、外部参照ファイルにもアクセス可能です。
・施工記録や維持管理の点検記録などの属性情報を Acrobat Reader で追加保存が可能です。
 
(2)特長
無償のPDFビューワ(Acrobat Reader)でCIMモデルに対し、設計情報・施工情報などの属性の閲覧、検索、属性の追加保存が可能となります。またCI MPDFの操作方法を解説したヘルプサイトがインターネット上に用意されているので、初めて作業する人も安心して
扱うことができます。
 
(3)期待される効果
無償のPDFビューワ(Acrobat Reader)でCIMモデルを運用できるため、施工現場で市販の3Dモデル統合管理ソフトウェアを用意する必要がなくなるため、運用コストを大幅に削減することが可能です。
 
また、設計情報や施工管理記録が属性情報として付与されたCIMモデルが無償のPDFビューワ(AcrobatReader)で利用できることで、インフラ管理者にとって市販のソフトウェア導入費の負担がなく、将来の維持管理の高度化、効率化への貢献が期待されます(図- 5)。
 

図-5




 
 

CIM-PDFの使い方

CIM-PDFの作成はNavisworksで行います。アドオンソフトの「3DPDFfor N avisworks」を実行して、今回開発したテンプレートPDFファイルを指定するだけです(図-6)。
 

図-6




 
 
作成したCIM-PDFをAcrobat Readerで起動すると下図のように、画面右側に専用のメニューが表示されます。これを「CIM-PDFメニュー」と呼称します(図-7、8)。
 

図-7




 

図-8




 
 
CIM-PDFではアニメーション再生、属性情報の表示、検索、属性情報の追加などが可能です。順に解説していきます。
 
(1)アニメーション再生
アニメーション再生ボタンを押すと、登録されている視点を先頭から順に2秒間隔で表示します。
点検動線として視点を登録しておくと、ウォークスルーアニメーションとして利用できます(図- 9)。
 

図-9




 
 
(2)属性参照(部材クリック)
部材選択ボタンを押下して、3D画面上で部材をクリックすると登録済みの属性情報をポップアップ画面に表示します(図- 10)。
 

図-10




 
 
(3)属性参照(検索)
検索条件を設定後にボタンを押下すると、検索結果が3Dモデルにハイライト表示されます。マウスでハイライトされた部材をクリックすると登録済みの属性情報がポップアップ画面に表示されます。例えば鋼橋の場合、板厚や材質ごとに検索が可能になります(図- 11)。
 



 

図-11




 
 
ポップアップ画面の属性値にファイル名がある場合は、クリックすると該当ファイルが起動します。3Dモデルにひも付けられた設計図面や施工管理の帳票や写真などがクリックするだけで開きます(図- 12)。
 

図-12




 
 
下図(図-13)は属性管理ソフトとCIM-PDFの属性を比較した例です。
 

図-13




 
 
(5)属性の追加保存
施工管理や現場で得られた出来形記録などをAcrobat Readerを利用して3Dモデルに紐付けることが可能です。3Dモデルの名称と紐付けるファイル名(PDFや画像ファイルなど)を
CSVにまとめてCIM-PDFメニューにある属性追加ボタンで指定するだけです。追加された属性名と属性値はその後の検索にもヒットします(図-14)。
 

図-14




 
 
(6)検索結果のCSV保存
Acrobat Pro DCでCIM-PDFを開いて、属性検索(板厚、材質)を行った場合、同じCIM-PDF内に添付ファイルとして検索結果のCSVファイルが保存されます(Acrobat ReaderではCSVの保存はされません)。検索結果のCSVファイルは属性を新規追加するときの下敷きとして利用すると便利です(図- 15)。
 

図-15




 
 
属性モデルの専用ソフトウェアとCIMPDFの機能比較は下表(表-1)の通りです。
 

表-1




 
 
CIM-PDFの機能面での課題として、
・道路中心線(3Dポリライン)、テキスト、テクスチャ(地形等)対応
・属性のCSV一括出力機能の追加などがあります。これらは今後順次対応予定です。
 
また、CIM-PDFはCIMモデル管理システムとしてNETIS登録を申請中(執筆時点)で、橋梁以外の構造物(コンクリート橋、土工、ダム、河川、トンネルテンプレート)の対応は検討中です。
 
 

おわりに

CIM-PDFは弊社のCIM支援サービスのひとつとして提供を行っていますが、テンプレートの販売も開始する予定です。CIMモデルは設計、施工、維持管理の各工程で活用されてこそ効果を発揮するものです。無償のPDFリーダで利活用できるCIM-PDFを新たなCIMツールとしてご提案していければ幸いです。
 



 
 
では3DPDFのモデル自体を編集したい場合はどうしたらよいのか?その答えとして、有償ソフトにはなりますがAcrobat Pro DCとTetra4Dを使うと、3DPDFのモデルを追加編集できます。他工区とのモデル統合や、維持管理段階でのモデル修正などが必要な場合でも編集作業が可能です。
 



 
 
属性情報を用いたより高度なシミュレーションなどは対応する専用アプリケーションで行い、単純な属性閲覧作業などは3DPDFを利用するなど、CIM活用シーンに応じて使い分けることで、CIMモデルを扱える対象人口が増え、費用対効果の高い『持続可能なCIM』が可能になるのではないでしょうか。最後まで読んでいただきありがとうございました。
 



 
QRコードをスマホなどのリーダーで読むと、CIM-PDFのWEBサイトが表示されます。
 
 
 

オフィスケイワン株式会社 保田 敬一

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集1「i-Construction時代の到来とCIM」



 
 



建設業界におけるVR活用の現状と将来-デジタル空間を人間に伝える再生装置はここまで進化した-

2017年6月24日

 
建物や街並みなどの3D映像を、まるで現実のように体験できるVR(バーチャルリアリティー)が一般に普及し始めた2016年は“VR元年”と呼ばれた。BIMやCIMが普及しつつある建設業界でも、これらのデータをVR化して設計の検証や現場での施工管理、営業などさまざまな活用例が生まれた。その活用例を紹介しよう。
 
 
高性能のHMDがVRの普及を加速
 
BIMやCIMのソフトで作成した建物や構造物の3Dモデルは、レンダリングして写真のようなCG(コンピューターグラフィックス)画像にしたり、ウォークスルー機能で建物などの内外を歩き回ったりして見ることができる。
 
しかし、普通のモニター画面を通して見ると最終的には平面のスクリーンを見ているので、リアリティーには限界がある。
 
その点、3Dスクリーンやヘッドマウントディスプレー(HMD)を通して3D映像を見るVRは、実際の建物のサイズ感や奥行きなども感じられ、まるで現実の空間に立っているかのように見られる。
 
さらに顔を上下左右に向けたり、後ろを振り返ったりすると、全天全周、360°の映像が見られるのだ。
 
従来、こうしたVR映像を見るためには、大きなスクリーンと3Dプロジェクター、そして映画館で使われているような3Dメガネを使ってみる必要があった。
 
ところが最近は高画質の映像を再現できる高性能のHMDが数万円~十数万円で発売されたり、スマートフォンをはめてHMDのように使えるVRゴーグルが数千円で発売されたりした。リアルなVR体験を手ごろな価格で実現できるようになったのだ。
 
では、建設業界ではどのようなVR活用がされているのか、最近の事例を見てみよう。
 
 

施工管理での活用

HMDで仮設の安全管理
《一二三北路》

 
札幌市の建設会社、一二三北路(ひふみきたみち)は同市南区の定山渓温泉で施工した水管橋新設工事で、大規模な足場を組んだ。この現場の状況をあらゆる角度から事前に確認し、”フロントローディング”で問題点を事前に解決するため、現場の地形や足場、重機などの現場全体を3Dでモデル化した。
 
一二三北路ではさらに、この3Dモデルを見るために、ゴーグル型のヘッドマウントディスプレー「Oculus(オキュラス)」を導入した。Oculusには重力センサーなどが付いており、VRを見ている人が頭を上下や左右に向きを変えると、画面の角度も同じように変わる。
 

ヘッドマウントディスプレーを装着した技術者(写真・画像:一二三北路)




 
 
現場では、作業を担当する職人がOculusを着けて現場内をさまざまな角度で見回し、危険個所や危険作業がないかを作業前に確認している。視点の移動は自由自在だ。足場の下から内部をチェックしたり、上空から見下ろしたりと、まさにあらゆる角度から現場をチェックできる。
 

実際に組まれた足場




 
 

実物大で立体視できる仮設材




 
 
また、施工段階に応じて水管橋の架設状態を変えたり、クレーンでの架設作業を再現したりすることも可能だ。

VRの作成に使われた3Dモデル




 
 
VRの作成には、ゲーム開発ソフト「Unity」を使う。BIMやCIMのソフトだと、データが重くなるため、Oculusの動きにスムーズに追従できないためだ。VRの制作作業は岩崎(札幌市)が協力した。このVRシステムは工事関係者の間で話題となり、現場には多くの見学者が訪れたという。
 
 

流体解析結果の確認

VRで風の流れを体感
《日建設計、アドバンスドナレッジ研究所》

 
目に見えない風の流れや温熱環境を、設計段階で見える化する熱流体解析(CFD)ソフトは、快適で環境に配慮した建物を設計するのにとても役立つ。
 
特にBIMソフトで設計した建物の場合は、BIMモデルの3 次元形状をCFDソフトに読み込むと、解析の手間が大幅に減り、結果も短時間で分かるので、設計の最適化を実現できる。
 
日建設計とC F D ソフト「Flow Designer」を開発・販売するアドバンスドナレッジ研究所は、同ソフトで解析した結果をVR化し、風の流れを体感できるようにした。
 

CFDソフト「FlowDesigner」で都市内を流れる風の動きを解析し、見える化した例 (資料:日建設計、アドバンスドナレッジ研究所)




 
 
これまでもオフィスの室内での温度や風の流れは、CFD解析で求めることができたが、実際にそのオフィスで働いてみると、吹き出し口の付近が冷房で寒すぎることが分かり、風の流れを変える板を後付けしている例をよく見かける。
 
その点、VRを使ってオフィス内をウォークスルーしながら、風が強い場所はないか、寒すぎる場所はないかと確かめたり、その風はどこの吹き出し口から来るのかをイメージしたりしながら検討できる。
 

オフィス内の温熱環境を見える化した例

寒すぎる場所があったとき、その空気はどこから流れてきたのかもVRなら実感しやすい




 
 
さらに面白い機能として、3次元の街並みの中を風になって飛ぶ気分も味わえる。VRコンテンツの視点を、“空気粒子”とともに動くようにしたものだが、VRならではのユニークな飛行体験ができそうだ。
 
 

改装工事のシミュレーション

点群の中を実物大でウォークスルー 
《ラティス・テクノロジー》

 
ラティス・テクノロジーは、大容量の3Dモデルを軽快に扱える同社のXVL技術を利用した新ソリューション「XVL Studio Hybrid for M REAL」を開発し、キヤノンITソリューションズから発売した。
 
既存の建物や設備を3Dレーザースキャナーで計測した点群データと、これから改装する設備などを合体した仮想空間の中を実物大でウォークスルーすることができるものだ。
 
このシステムを使うと、既存の工場設備の横に新しい設備を置いたときの作業員の動きや安全性を、未来の工場にいったような感覚で検証することができる。ヘッドマウントディスプレーを着けて、この仮想空間を見ると、まるでその世界に入り込んだかのような没入感が味わえる。
 

ヘッドマウントディスプレーを着けると、仮想空間の中を実物大でウオークスルーできる(写真、資料:ラティス・テクノロジー)




 
 
例えば頭を左に向けると左の景色が、上を向くと天井が見えるといった具合だ。そして、設備の足場を上ると、眼下には工場の風景が広がる。仮想の手すりごしに下をのぞき込むと、どのくらいの高さなのかも実感できる。
 
さらに実感的なのが、現実と仮想空間の融合だ。AR(拡張現実感)用マーカーを張り付けた荷物を積んだ台車を用意しておくと、それと同じ大きさの台車が目の前に映し出される。実物の台車の取っ手と、仮想の台車の取っ手は、同じ高さ・大きさで見えるようになっており、仮想の取っ手をつかむと実物の感触や重さを感じることができるのだ。
 
まさに現実と仮想が融合した世界だ。そして実物の台車を押していくと、目の前には工場の床や障害物となる柱の補強材などが見えて、どれくらいの余裕で台車が通過できるのかを、本物の建物に行ったかのように体感することができる。
 

障害物の中を通過する仮想の台車。通過する際の余裕を実感できる

点群とリアルサイズで表示した作業員




 
 

施工管理の教育システム

VRで施工ミスを再現 《大林組》
 
大林組では数年前から、社内に鉄筋や型枠を組んだ教育用の躯体モックアップを作り、鉄筋配置の不具合個所を探す体験型研修を行ってきた。しかし、同じ受講者が繰り返し受講するためには、定期的にモックアップを作り替えたり、受講者がその場所に集まったりと、コストと手間がかかっていた。
 
そこで大林組は、BIMモデルとVRを使って同様の研修が行えるシステムを開発した。「VRie(l ヴリエル)」というもので、HMDやコントローラー、センサーなど、市販の機器で構成される。
 

パソコンやHMD、コントローラーなどからなる「VRiel」のシステム




 
 
実物のモックアップの代わりに、BIMソフトで作ったデジタルモックアップを使い、不具合箇所を再現した。受講者はHMDを装着し、VR画面上に表れる鉄筋配置の不具合などを探すことで、実物同様の研修ができる。
 

VRで再現した鉄筋のモックアップ




 
 
受講者は工事現場を巡回して不具合個所をチェックするのと同じように、VR上を移動したり、首を上下左右に動かして見回したりすることで、工事現場と同じように検査する感覚が身に付く。
 
実際の施工管理では、構造図や細かい仕様が書かれた標準配筋図と、現場とを見比べたり、寸法を確認したりしながら、不具合個所を発見するスキルが必要だ。こうした作業を再現するため、施工管理用の図面や計測用のコンベックスなども全てVR上で使えるようなっている。
 

施工管理用の図面もVR画面上に表示できる(資料:大林組)




 
 
2m四方ほどのスペースがあれば設置できるので、会議室や現場事務所などさまざまな場所で研修を受けることができるのも便利だ。鉄筋工事の他、仕上や設備などの品質管理、安全管理など、幅広い教育にも使える。
 
 

住宅のバーチャル展示場

壁と床のスクリーンに未来の住宅を再現
《コンピュータシステム研究所》

 
コンピュータシステム研究所は、バーチャル展示場システム「ALTAf or VR」を開発し、工務店やリフォーム会社向けに展開している。住宅展示場などにこのシステムを設置すると、その“感動”がクチコミで広がり、抜群の集客力を発揮するそうだ。
 
このシステムは、同社の住宅プレゼンシステム「ALTA」で作った住宅の3Dプランを作成し、その映像をVR技術で部屋の床や壁に投影するものだ。
 

壁や床にスクリーンを設置する(写真:コンピュータシステム研究所)

そこに住宅の3Dプランを映写すると住宅展示場に早変わり




 
この映像を、3Dメガネを着けて見ると、目の前には住宅の内装やシステムキッチン、家具や家電などが実寸大の大迫力で広がる。
 

3Dメガネを着けると、コントローラーで住宅内部を自由にウオークスルーできる




 
 
手を伸ばすと触れるのではないかと思うほど抜群の臨場感があり、お施主さんもビックリする。コントローラーを使って、ゲーム感覚で住宅内をウォークスルーできる楽しさもある。
 

まるで触れるのではないかと思うほどのリアリティーが味わえる




 
 
同社は2016 年6 月、大阪市天王寺区にある大阪営業所に「ALTA forVR」を設置したショールームをオープンさせた。スクリーンは4面タイプを備えたよりリアルで本格的なシステムを設置している。
 

4面スクリーンを備えた本格バージョンの「ALTA for VR」




 
 

未来のVRはどうなるのか?

人間にあらゆる体験を提供するマシンとして進化
 
VRはコンピューターで作り出された仮想空間のデータを、人間に対して出力するための究極の再生装置といっても過言ではない。人間には昔から視角、聴覚、触覚、味覚、嗅(きゅう)覚の五感があると言われるが、現在のVRは視角と聴覚程度しか再現しておらず、今後、人間の感覚に対応するための、さまざまな再生装置が登場するだろう。
 
実際、高層ビルが立ち並ぶ市街地のビル風解析結果を、実際に風を感じながら見られるVR装置も開発されている。
 

気流解析と連動し、上に付けたファンにより実際に風を感じられるVR装置の例。フォーラムエイト東京本社にて




 
 
また、人間の反応を、VRの世界にフィードバックするための入力装置も、さまざまなものが開発されてくるだろう。よりリアルになったVRの用途としては、(1)めったに起こらない事故や災害の疑似体験マシン、(2)リスク回避のためのトレーニングマシン、(3)未来や昔の生活環境を体験するタイムマシン、(4)現実ではなかなか味わえない夢をかなえるマシンなど、無限の使い方ができそうだ。
 
VRは人間の予知能力を高め、現実社会にうまく対応する力を磨き、想像力を育てるマシンとして発展していくことを願っている。
 
 

筆者プロフィール

家入龍太(いえいり・りょうた)
BIM/CIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける日本でただ1人の建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」で、建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。関西大学非常勤講師として「ベンチャービジネス論」の講義も担当している。公式サイトは「建設ITワールド」(http://ieiri-lab.jp/
 
 
 

建設ITジャーナリスト  家入 龍太



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集3「建設ITの最新動向」



 
 



現場から始まった維持管理CIMの推進

2017年6月16日

 

はじめに

M-CIM 研究会は任意団体として、2015 年10 月に株式会社 補修技術設計 中馬勝己代表取締役をはじめとして国内の中小調査設計5 社で発足した。
 
橋梁構造物の維持管理において3次元計測および3次元データのプロダクトモデリング化が今後重要な課題となる。活動期間は1年と短いものの、会員各社においては橋梁構造物の3次元計測による維持管理調査において合理性や正確性において、より確かな効果を持ちえてきている。またM-CIM研究会の意義に賛同する法人も加わり2016年10月には会員会社は9社になった。本編においてはM-CIM研究会の活動や活用事例の紹介をするとともに研究会活動の中で調査現場での有効なツールとして開発した製品を紹介する。
 
 

研究会の活動

3次元計測現場トレーニング活動
 
M-CIM研究会会員は橋梁構造物の点検、調査、補修設計の業務を通して3 次元データの活用については高い関心を持っている。M-CIM研究会の初年度活動は主として会員会社に対し3 次元計測技術についてのオペレーショントレーニングを主たる活動とした。
 
まず3次元レーザースキャナーを利用した構造物の実計測の現場講習会(写真- 1)。
 

写真-1 現場講習会状況




 

表-1 会員対象3次元レーザースキャナー講習会




 
取得した3 次元点群データの処理について専用ソフトウエアを操作し3次元CADデータの制作、2次元CAD図の制作等の社内講習会を実施した。概ね本講習会を通して会員会社は3次元レーザースキャナーを使用した既設橋梁構造物の計測を習得することができた。
 
 
技術研修会
 
技術研修会は初年度3回、東京にて実施した。講習会のテーマは3次元計測、3次元モデリングの制作から会員会社が独自に取り組んでいる技術等の紹介までをテーマとして会員相互のCIMや建設ロボット関連情報の技術交流を図った。
 
第1回
・3次元レーザースキャナーType1の紹介およびデモ
 
第2回
・3次元レーザースキャナーType2の紹介
・デジタル画像から3次元モデル制作
 ソフトContext Captureの紹介※1
・リアルタイム通信システムの紹介
 
第3回
・橋梁点検ロボット
・ドローンを使用した土工計測
・ターゲット方式デジタルカメラ3次
 元計測
・その他
 M-CIM研究会は構造物計用3次元レーザースキャナーを2 機種管理している。
 表-2は各機種の概略仕様であり、それぞれの長所短所を理解した上で使用している。
 

表-2 3次元レーザースキャナー概略仕様




 
 

3次元計測と3Dモデリングの活用事例

・3次元レーザースキャナー計測
 
橋梁構造物を中心とした構造物調査において、3次元レーザースキャナーを使用した計測は初年度において約100件の実績があり、会員会社の技術者は3次元レーザースキャナーのオペレーティングから3次元点群処理を通して3次元CADを使用し3次元プロダクトモデル作成までスムースに処理できるよう情報交換している。M-CIM研究会は構造物調査において3 次元データの活用から3次元計測や3次元CADを自由にオペレートできる技術者養成もその一つである。図- 1は3次元の点群データから3次元プロダクトモデル作成過程のイメージである。
 

図-1 3次元点群データから 3次元プロダクトモデル作成過程  提供 会員会社:山陽ロード工業株式会社(岡山)




 
 
・デジタル画像に3 次元モデルの自動生成
 
デジタルカメラの普及に伴い、デジタル画像を活用したアプリケーションが多く開発されている。M-CIM研究会では前述の仏国ベントレーシステム社製Context Captureを活用している。本製品は構造物の損傷部等を複数撮影し2次元画像から3次元モデルを作成するアプリケーションソフトウエアである。本ソフトウエアで作成した橋梁支承部劣化部位イメージを図-2に記す。
 

図-2 デジタル画像による3次元モデルイメージ




 
 
このモデルを3次元ビューワーにて観察することにより、よりリアルな状態で損傷状況をみることができる。またこのモデルに座標を属性化することにより3次元プロダクトモデルとして利用することも可能である。
 
 

開発製品

M-CIM研究会活動を通して業務改善や生産性向上を図るツールのニーズが求められる。M-CIM研究会の代表でもある補修技術設計では新たなツールを開発したのでここに概要紹介する。
 
 
・データ変換ソフトの開発
 
 M-CIM研究会では現在用途に応じて、2 種類の3 次元レーザースキャナーを管理しているが計測した点群データ形式は互換性がない。各社が提供するアプリケーションソフトもオペレーターの使い勝手では一長一短がある。研究会メンバーは橋梁調査に適したものとして操作性においてFARO社SCENEを選択した。従ってZ+F社IMAGE5010Cで取得した3次元データをFARO社SCENEでオペレートできる形式に変換するソフトを開発した。本製品によりオペレーターは1種類のソフトウエアをマスターすることで学習効率を上げることができ、かつ便宜性の良いソフトで統一した作業環境が確保できた。今後計測機種に捉われず点群データの標準化が望まれる。
 
 
・リアルタイム通信システム
 
老朽化が進む社会基盤構造物は今後増え続ける一方で、熟練した橋梁技術者の絶対数は限られている。M-CIM研究会の会員は橋梁を中心とした維持管理分野をフィールドとしているが複数現場を担当することは多々ある、このような環境化において現場と事務所、現場と現場をリアルタイムで映像を共有化する要求がある。これは熟練した技術者不足により現場対応が困難になっている。モバイル通信システムの高度化を利用し遠隔地間をリアルタイムで通信するシステムを開発した写真-2は本システムの運用状況である。①は現場状況、②は事務所側でありチャンネル数は4チャンネルで事務所から複数現場状況リアルタイムで確認でき適切な現場指示等ができ熟練技術者の業務効率化を図ることができる。
 



 

写真-2 リアルタイム通信システム運用状況  提供 会員会社:株式会社 補修技術設計




 
 

その他の会員活動

会員会社の内、数社はドローン(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)を利用した測量を実施している。現在橋梁点検・調査において、その利用は少ないが今後その利用において期待が持てるツールである。ドローン飛行可能地域では生産性の高い方法として期待できる。
 
ここに紹介する事例はドローンを使用した計測であるが、会員会社はi-コンストラクション等土木情報技術を利用した最新テクノロジーについてM-CIM研究会内にて闊達な情報交換ができる。
 
 
会員事例紹介1
(旭建設株式会社:宮崎県)

 
ドローン測量は現場での測量時間が短い点、また人が容易に立ち入れない場所での測量で効果を発揮できる。旭建設の自社が施工する工事等で盛土の土量管理や状況確認の3次元モデル化が可能となる。
 
・土木工事現場の進捗度把握
・工事完成後の水利ダム運用状態確認
 



 

図-3 ドローン利用空中測量成果イメージ




 
 
会員事例紹介2
(技建開発株式会社:長野県)

 
本業務は、砂防設備・地すべり対策施設の損傷や渓流および地すべり地域の状況を把握することを目的として、砂防設備、地すべり対策施設、渓流等の状況を点検および確認するものである。
 
・砂防施設の点検
・砂防施設台帳の写真更新
 

写真-3 ドローンで撮影した砂防施設例 提供 天竜川上流河川事務所




 
 
ドローンを利用した本施設の点検は当域場所において危険性の伴うものである。また自身や台風等の自然災害発生後に実施する緊急点検ではより危険度が高くなる。ドローンによる点検では人口密集地域等の飛行制限区域を除けば高い安全性向上が確保できる方法となる。
 
 

まとめと課題

 M-CIM研究会発起人である中馬勝己代表は当研究会が目的とするニーズは高く評価されていると感じている。これは研究会の会員活動での会員の積極的な取り組みや対外に対しても多くの質問やディスカッションから3次元データを利用した構造物維持管理の経済的な有効性が得られる確信を持ちえている。また遠隔計測による3次元計測やその成果を利用することにより、橋梁維持管理現場調査での安全性を確保した業務遂行ができる点も重要である。構造物維持管理業務を通して、より多くの技術者が3次元計測技術や3次元データ処理のオペレーションを習得することにより技術発展の環境が醸成される。その上で中馬代表は3次元データ利用に当たり重要な課題も認識している。以下は克服しなければならない課題である。
 
1. 維持管理業務を通して3 次元点群データ等のプロダクトデータが標準的な成果物として公認される必要がある。同意する関連団体との連携も含め啓蒙活動の推進が必要となる。本件については欧米が先行しており、日本国内での需要換起が急がれる。
 
2. 3次元CADソフト等、3次元点群データ処理についてソフトウェアメーカーと積極的な技術的な意見交換をし、より操作性の良い製品を提供してもらう。
 
 

おわりに

M-CIM研究会では構造物調査において3次元レーザースキャナーやデジタル画像による3次元モデルを作成・利用し調査技術の新たな展開を図る賛同者を会員として募集しています。 また技術研修会では定員枠内にて非会員の参加対応をしています。本趣旨に関心を持つ方は法人および個人を問わず本部事務局へ問い合わせいただきたくお願いします。
 
M-CIM研究会事務局
(株式会社 補修技術設計内)
〒134-0088
東京都江戸川区西葛西6-24-8
e-mail ire@ire-c.com
電話03-3877-4642
 
最後に本稿執筆に当たり、各情報を提供していただいた会員各位に心より御礼申し上げます。
〈情報提供会員〉
山陽ロード株式会社 岡山県津山市 
技建開発株式会社 長野県飯田市
旭建設株式会社 宮崎県日向市
 
 
 

M-CIM研究会 事務局 小出 博

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集1「i-Construction時代の到来とCIM」



 
 



発注者としてのBIM/CIMデータの有効活用

2017年6月14日

 

はじめに

下水道の役割は、トイレの水洗化、生活環境の改善、公衆衛生の向上、浸水被害の軽減等である。トイレの水洗化や生活環境の改善の指標となる人口普及率(平成27年度末)は、下水道が約78%、汚水処理全体が約90%となっている(図- 1)。
 

図-1 汚水処理人口普及率




 
 
下水道は、処理場、ポンプ場、管路等の施設により構成されている。それらのストックは、処理場が約2,200カ所、ポンプ場が約3,600カ所、管路が約46万kmと膨大である。処理場については、機械・電気設備更新の目安となる15年以上経過している処理場が全体の約70%に達している。また、土木・建築構造物更新の目安となる50年以上経過している処理場はまだ少数であるが、今後の20 年のうちには、20%を超えることになる(図-2)。
 

図-2 供用開始年別処理場数率




 
 
処理場やポンプ場の設計・施工においては、土木、建築、建築機械設備、建築電気設備、機械設備、電気設備の6工種が必要であり、設計調整や工程調整等の工種横断的な業務が比較的多い。また、維持管理においては、機械・電気設備の日常の保守・点検等が非常に重要である。
 
このような特徴から、処理場やポンプ場は、BIM/CIM(形状データだけでなく性能や仕様等の属性データも含んだもの)をライフサイクル全体で活用することにより大きな効果が期待できる施設といる。日本下水道事業団(JS)は、平成26年度から処理場やポンプ場でのBIM/CIM活用に取り組んでいるところである。
 
 

JSの概要

JSは昭和47 年11月に国および地方公共団体の出資により下水道事業センターとして設立された。下水道技術者の不足問題に対応するための下水道技術者のプール機関であり、技術援助を主たる業務として実施した。その後、水質環境基準の設定が全国に及び、下水道の整備が国家的課題となったことから、昭和50 年8月にJSが発足し、下水道施設の建設を主たる業務とするようになった。その後、平成15年10月に地方公共団体のみの出資となる地方共同法人に移行し現在に至っている。
 
JSは、事業主体・発注者側の立場から、プロジェクトをマネジメントする役割を担っている(図-3)。
 

図-3 JSの役割




 
 

今までの取り組み

1)下水道特有の機器の作成
 
処理場には、散気装置、水中撹拌機、汚泥掻き寄せ機等の機器が設置されているが、これら下水道特有の機器については、BIM/CIMソフトに用意されていないので、独自にモデルを作成した(図-4、5)。
 

図-4 反応タンク設備の例

 

図-5 汚泥掻き寄せ機の例




 
 
まずは形状を忠実に再現する方針でモデル化を試みたが、実務での活用においては、形状表現のより簡素化も可能と思われた。
 
 
2)標準図の3次元化
 
設計業務の効率化や品質確保等を目的として整備してきた2 次元標準図等の3 次元化を行った。対象としたものは、オキシデーションディッチ(処理水量700 ~ 2,500m3/日、覆蓋有および覆蓋無、全38 種類、図-6、7)、円形最終沈殿池(処理水量700 ~2,500m3/日、懸垂型または支柱型、全19 種類、図- 8、9)、プレハブ式オキシデーションディッチ(処理水量300 ~ 1,200m3/日、覆蓋有および覆蓋無、全20種類、図-10、11)である。
 

図-6 ODモデルの例(2D表示)

 

図-7 ODモデルの例(3D表示)




 
 

図-8 終沈モデルの例(2D表示)

 

図-9 終沈モデルの例(3D表示)




 
 

図-10 PODモデルの例(2D表示)

 

図-11 PODモデルの例(3D表示)




 
 
3)下水道用プロパティセット
 
機械設備標準仕様書(JS)や設備IFCデータ利用標準(bSJ設備FM分科会)を参考に下水道用プロパティセット案を作成した(表- 1、2)。プロパティセットは、下水道共通、機器共通、各機器の3階層の構成としている。
 

表-1 下水道プロパティセットの例




 
 

表-2 下水道プロパティセット属性の例




 
 
4)点群データの活用
 
更新事業では、まず既存施設・設備の調査を行うが、完成図書の紛失や補修等による完成図書と既存施設・設備との相違等が調査の効率性を低下させている。そこで、効率性向上のため3Dレーザースキャナーによる計測とそれにより得られる点群データの活用に着目した。
 
JSでは昨年度から、(株)エリジオンのInfi Pointsによる点群データの活用手法(位置合わせ、ノイズ処理、距離測定、干渉確認等)の評価・検証を行っている。今後は、処理場やポンプ場に適した3Dレーザースキャナーの計測手法(測定点の配置、配置密度、ハンディスキャナーの併用等)の確立、点群データからBIM/CIMへのデータ連携手法についての検討を行っていく予定である。
 
 
5)職員の研修
 
若手職員を中心にARCHICADの操作研修を実施した。昨年度は建築物のモデリング研修をグラフィソフトジャパン(株)主催のスクールで行い、今年度はJSオリジナルのテキストを作成し、処理場のモデリング研修を行った。テキスト作成と講師は(株)CADネットワークサービスに依頼した。
 
 

LODについて

1)全体LOD
 
LODについては、Level of Develop-ment、もしくは、Level of Detailの2つの考え方、さらには、属性データに着目したLOI( Level of Information)との考え方も提唱されている。LODは関係者間の共通認識を得るために必要なものであり、JSとしては何らかの取り決めを作成する必要がある。そこで、DevelopmentとDetailの違いは考えずに単なるLOD(エル・オー・ディ)として、プロジェクトのフェーズに関連付けることにした(表-3)。
 

表-3 プロジェクトフェーズとLOD




 
下水道の標準的業務においては、この取り決めで関係者間での大きなズレは生じないと考えている。
 
 
2)機器LOD
 
基本的な考え方は、全体LODと同じであるが、機器については、形状と属性を明確にすることが実務上有効であるので、まず吸込スクリュ付汚泥ポンプの機器LODをサンプルとして作成した(表- 4)。
 

表-4 部品LODの例




 
 

BIM/CIMデータの活用

 
1)BIM/CIMデータの流れ
 
更新事業では、まず、調査フェーズにおいて完成図書や点群データ等から現状基本モデルを作成する。次に、設計フェーズにおいて、テンプレートを基にして設計モデルを作成する。機器についてはライブラリーからダウンロードしモデルに配置する。以降、フェーズの進行に合わせてモデルを更新し、工事完了段階で完成モデルから維持管理初期データを作成する(図- 12)。
 

図-12 データの流れ(全体)




 
 
また、JS全体で活用すべきBIM/CIMデータは、JS共通マスターデータに取り込む。( 図-13)。
 

図-13 JS共通マスターデータとの連携




 
 
例えば、LOD100 ~ 200の全体モデルに含まれる処理場やポンプ場の施設構成のデータについては、最初沈殿池、反応タンク等の施設毎に系列等を加味した番号(例:A系2 列2 組目の最初沈殿池の場合はA22A361)をモデルのゾーン情報(IfcSpace)に設定し、JS共通マスターデータに取り込むことで、他システムからも利用できるようにする。
 
 
2)プロジェクトマネジメントでの活用
 
JSでは平成11年度に日揮情報システム(株)(現富士通エンジニアリングテクノロジーズ(株))と開発したプロジェクトマネジメントシステムPURE(Project management system for Upgrading and Realizing Earned value concept)によりプロジェクトマネジメントを行っているが、ユーザインターフェース(UI)についてはほとんど変更を行っていないため、陳腐化が進んでいる。これが、業務効率に影響を及ぼしつつあるため、現在、抜本的なUI改善を検討している(図- 14)。
 

図-14 PUREのUIイメージ




 
 
ARCHICADやExcelでは、ツールボックスからツール(柱や梁等の建築要素、図形)をワークシートに配置することでモデル等を作成するが、PUREにおいても、プロジェクト計画要素(発注計画、ワークパッケージ、協定等)をプロジェクトカレンダーに配置することでプロジェクト計画を立案できるようなUIとする方向である。プロジェクト計画の基本となるワークパッケージは、モデルからJS共通マスターデータを経由して、PUREに配置されるので、PUREとモデルの一体的な運用が可能となる。
 
 
3)維持管理での活用
 
JSでは属性データを中心とした活用を検討しており、効率的に維持管理初期データを作成すること、すなわち、工事完成から短期間で機器台帳を作成することを目的としている(図-15)。
 

図-15 データの流れ(工事完成後)




 
 
データ変換には、(株)データ・アプリケーションのRACCOONの利用を検討している(図- 16)。
 

図-16 データ連携の例




 
 
機器台帳は、機番、機器名称、機器仕様(吐出量、口径、揚程他)等のデータが必要であるが、そのほとんどをモデルの属性データから登録することが可能である(図-17)。
 

図-17 機器台帳画面の例




 
 
日常点検や設備保全等の維持管理では、これら機器データを基にすることで効率的で質の高い点検・保全計画の立案が可能になると思われる。
 
 

今後の取り組み

JSのBIM/CIMへの取り組みは、検討段階から実施段階に移りつつあるところである。今後は、実プロジェクトでの試行等実務レベルでの検証を進めていくとともに、部品ライブラリーやテンプレートの整備、変換システムの実装等、BIM/CIMが機能するような仕組みづくりに取り組んでいく予定である。
 
問い合わせ先 jscim@jswa.go.jp
 
データ出所
図-1:国土交通省「平成27年度末の汚水処理人口普及状況について 平成28年9月5日」
図-2:日本下水道協会「平成26年度版下水道統計」からグラフ化
 
 
 

地方共同法人 日本下水道事業団 情報システム室 室長 富樫 俊文

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



施工BIMの今 -新菱冷熱工業のBIM-

2017年6月4日

新菱冷熱工業株式会社(以下「当社」)では、30年前より3次元CADの研究に取り組み、3次元建築設備CAD「S-CAD」を全面採用し、建築に関する情報をBIM*1で統合的に扱うことにより生産性を向上させ、お客様のさまざまなニーズにお応えして参りました。
 
当社のBIMを、①建物のライフサイクルマネジメントに3次元CADを含むICTを活用する、②「生産性の向上」「高品質」「低環境負荷」を追求する、③顧客・サプライチェーンを構成するメンバーとwin-winの関係を築く、④時代のニーズに対応していくもの、と定義し、BIMソリューションサービスとしてお客様に提供しております。
 
 

BIMソリューション1「スペーススキャニングシステム」

3次元レーザースキャナにより取得した点群データを「S-CAD」に直接読み込み、正確に3次元モデル化することで施設空間を把握し、改修計画などに活用できるBIMツールです。
 

現地写真




 
 

点群データ




 
 

3次元CAD




 
 

BIMソリューション2「スペースマネジメント」

「S-CAD」により建物・設備の情報を素早く3次元モデルに統合します。3次元モデルで「見える化」することによって、発注者やプロジェクトメンバーとも、図面ではなく立体的なモデルでイメージの共有が図れます。
 

共有




 
 

確認




 
 

計画




 
 

BIMソリューション3「環境シミュレーション」

「S-CAD」のデータと、業界トップクラスを誇るCFD*2 技術とのデータ連携により、空調の室内環境への効果を計画段階で検証し、快適環境や最適な省エネルギー提案を行います。
 

S-CADで形状・条件入力




 
 

CFDで室内環境を予測




 
 

ニーズに合わせた空調空間を実現




 
 

BIMソリューション4「維持管理」

BIMが持つ資機材の仕様などの属性情報をFMS*3にシームレスに移行し、竣工後すぐにFMSを運用いただけます。今までは、FMS運用の立上げ時に膨大なデータを入力するため、運用開始までに相当の時間と労力を要していました。BIMの属性情報をFMSのフォーマットで出力することで、FMSの各項目に関連付けてインポートしていただけます。
 



 
*1.Building Information Modeling
*2.Computational Fluid Dynamics(数値流体シミュレーション)
*3.Facility Management System
 
 
 

新菱冷熱工業株式会社 技術統括本部 BIMセンター



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「B I M による生産性向上」



 
 



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