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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

意匠設計から設備設計へ “i”をつなぐBIM設計とは

2020年7月28日

 

はじめに

現状、各社においてBuilding Information Modeling(BIM)を用いて作図、シミュレーション、コストなどさまざまな用途に上手く活用する方法を模索している段階である(図-1、図-2)。
 
しかし、設備設計者目線でBIMを考えた場合、誰しもが日々の業務においてBIMとの関わりが深いとは言い難いのも事実である。 
 
その背景には、BIMがより複雑な設備配管を有するプラント設計の分野で導入したことが普及の発端とも言われており、設備機器、配管類の干渉チェックを含めた3次元納まりを設計段階で深度化することにより、施工段階での検討手間をできる限り減らすことを背景に普及したのに対し、ビル系の設計は、施工図に比べ深度化するにも、建築情報が実施設計段階にまとまることが多く、作図レベルを2次元で検討せざるを得ない。
 
理由として、意匠・構造モデルは基本設計では2次元が主流であったこと、そして最も大きな要因は作図するための建築情報(面積、天高など)がアナログデータのため、負荷計算・換気計算などの技術計算に多くの時間を費やし、3次元図面に避ける時間が少なかったことが挙げられる。
 
こうした状況がしばらく続く中、世界は、社会はBIM普及への動きが加速しているが、どうすれば設備設計者がBIMの恩恵を受けられるか、考えた一つの答えが「i:Information」、を如何に部門間でつなげるかであった。
 
社内発表時によく使う言葉としてBIMと い う 言 葉 は、B(I BuildingInformation)とM(Modeling)の複合用語であると説明し、設計者が最も重要なのは「Building Information」、つまり設計情報「i」が意匠・構造・設備でコンカレントにつながっていることがBIMを活用する最大のメリットであり、これを上手く使えないと「M」、3次元図作成のためのBIMツールとなってしまい、設計者は益々BIMと深くない関係になってしまう恐れがある。
 
本稿では、「i」を設計に生かすための取り組み、データ連携の先に見えてくる課題と展望について、1,000床を超える大規模病院での設計事例をベースに紹介したい。
 

図-1 当社のBIM活用イメージ

図-2 BIM検討例




 

そもそも設計手順がBIMの課題?!

日建設計だけの問題とは限らないが、これまでのBIMは、各部門内の狭い範囲で最適化を図ってきたといってもよい。部門ごとに適したBIMソフトを選択して使い続けることで、部門内の標準化を図り、それぞれのBIMソフトの特長を生かした効率的な設計を可能にしてきた。
 
その一方で部門を超えた連携はなかなか進められてこなかった。基本設計を例にすると、第3図に示すワークフローがどこかで止まってしまい、結果として部門間連携が進まなかった。その問題は以下と考える。
 
①連携するモデルの作り方が統一されていないため、一つのモデルに統合することが困難または非常に手間がかかる。
 
②意匠、構造で”正確”に整合されたBIMがないため、設備側で個々の情報をBIMへ入力する作業が習慣化し、統合モデルを作成する意義を共有できていない。
 
③最も大きい問題と感じたのは、意匠・構造を整合したモデルの作成時期・手順と、設備が欲しい情報を入手したいタイミングがずれていることが大きな要因であると考えている。
 

図-3 ワークフローイメージ


 
一例を挙げると、基本設計作成段階では意匠がプランを作る際に機械室・シャフトなどの面積を整理する必要があるが、基本設計段階でその回答を出すには、階高、天高、梁伏、床下げレベルなどの情報を踏まえ、納まりなど検討し回答するが、入手できるものは一部BIMがあったとしても、多くは手書き図面などメモでの情報伝達といった2次元でのワークフローを踏襲した部門間の連携を行っている。さらにそうしたメモ書きの情報が出てくるのは基本設計中盤~後半になりがちであるが、設備が欲しいのは初期~中盤である(図-4)。
 

図-4 基本設計段階でのデータ連携項目とスケジュール


 
こうした現状を認識しつつ、意匠・構造・設備が密に連携できる総合設計事務所の強みをBIMと融合させられていない点が課題であった。
 
 

コンカレントエンジニアリングへ

設計手順の在り方が課題とするなか、2019年以降のいくつかのプロジェクトではこの課題を乗り越えるような取り組みが進められるようになってきた。
 
例えば図-5に示すように、意匠・構造が構築するBIMモデルに含まれる建築諸元情報をExcelに取り出し、シームレスに引き継いで設備検討に反映させることで、これまでより早く正確に検討サイクルを回すことができるようになった。その結果を意匠・構造と共有することで、密に部門間連携を図ることができつつある。
 
誰がどこまでのデータをどのタイミングで入力するかというワークフローを、総合設計事務所の強みが発揮できるようにBIMをプラットフォームとして再構築することで、意匠・構造・設備が早い段階から連携するコンカレントエンジニアリングへシフトにシフトし始めようとている。
 
一方、各部門でデータ連携するには、入力する内容によっては意匠ではなく設備が入力した方が良い項目もある。今回検討した病院設計では、意匠側がRevitモデルで進めているのに対し、Excelで書き出した諸元データに清浄度、室圧、空調与条件などをExcelに入力し、Revitへ戻すのではなく、設備がRevitモデルへ直接諸元情報を入力した。One ModelでRevitを操作した例は本件が初めての試みであったが、設備プロット図作成後の建築プラン変更への追従性、部門間の不整合防止、諸元情報の色塗り平面図作成などトータルで設計プロセスを考えるとOne Modelでの作業は効率的であったといえる。
 

図-5 BIMと連携した建築設備諸元の整合確認ツール




 

Revitを使った「i」

前項では、意匠・構造・設備が早い段階から連携するコンカレントエンジニアリングのツールとしてRevitを使った取り組み例を紹介したが、部門間連携の潤滑油としては非常に有効であったが、設備の作図ツールとしては一切使っていない。
 
それでも、設備がRevitを使いOnemodelに拘ったのは「i」をコンカレントにつなげたことで、基本設計→実施設計→確認申請→施工→運用を一貫したデータ管理により、部門間連携の強化、設計・施工の効率化、LCCの縮減とった点が挙げられる。そうなることを期待しOne Modelでの入力がもたらした効果を紹介する。
 

(1)データ受領方法
現状、設備の実施図面では建築と同じBIMソフトを使うことが少ないため、ifcファイル形式をベースとした連携となっている。一方、ifcデータによるデータ連携の課題もあるが、正確に意匠と構造データが整合していれば、ソフト互換については、あまり重要ではないと考えている。
 
そうした視点のもと、まず意匠・構造でのデータ連携は、意匠、構造が同じソフト系なのか否かでアプローチが変わってくるが、第6図で示すようにRevitデータによるデータ連携方法をタイプA、タイプB1、B2の3つに区分した。
 
 

a)タイプA
意匠で梁伏、床下げ情報などを入れる方式である。基本設計初期において、設備がBIMによる納まり検討をするにはなるべく早い段階で梁伏、床下げ情報が欲しいがこの方式の場合、納まりが厳しそうなエリアについて意匠との調整だけで可能となる。
 
ただし、意匠側で構造情報を入れるため、モデルが古くなった場合のアップデートタイミング、入力ミス、構造変更が構造設計者へ伝わるかなど課題もある。
 
 

b)タイプB1、B2
構造が作成するモデルを反映するので図面の精度が上がる。B2はさらに発展し、意匠と構造が別のモデルで作成しリンクするため、より精度が高いが、構造解析モデルでは床下げ、ブレースなどの情報が実施設計後半まで反映しないまたはBIMでは作成しないなど使えないモデルとなる可能性があるため、設計図としてはタイプB1からB2へ移行していくのが多くの流れと考える。
 

図-6 意匠・構造データ連携のパターン分け


 
 

(2)データ連携による便利機能
今回取組んだ病院では防水対応の二重床や医療機器の床下げなど仕上げレベルが複雑なため、梁高さ、床下げレベル、天井高などバラバラな図面を重ねてどこが設備の納まりが悪いのか検討するのは、多大な労力を要する。
 
こうした状況を打破するためにタイプB1の手法で意匠情報と構造モデルを重ね、“DynamoとExcel”を使い梁下から天井までの有効懐が500mm下回る個所を平面図に表記させた(図-7)。
 

図-7 天井内有効寸法確認


 
この機能により、梁下500mmを切る場所は納まり上リスクがある場所と考え、BIMによる納まり対象場所が絞れるため、従来手書きで断面図を書いて検討に比べ、よりスピーディーに、効率的に納まり検討を行うことができた。
 
 

(3)データ連携を活用するには
今回、BIMを活用するために最も重要視したのは、複雑な設計条件や設備から意匠・構造への要求条件を如何に部門間で「i」を共有するかであった。病院設計を通じて感じた成功への秘訣は以下である。
 
・基本設計初期に設備検討用の意匠・構造BIMデータを意匠が作成し、さらに階高、天高など建築条件変更要望をBIMで随時意匠が修正し、データで建築図を供給できたこと。
 
・Revitモデルをifc、PDF、Autocadへの変換を定期的に実施し、図面変更箇所を共有。
 
・意匠のRevitモデルに設備が設備プロット、設計条件(室圧、空調・消火範囲等)を同じデータにて行うために、Revitの同時作業許可、設備のファミリー、ビューテンプレート作成協力。
 
上記内容は、コンカレントにデータ連携するために必要な対応ではあるが、実際の設計では(現場も同じであろうが)、部門間(会社間)の壁、お互いが必要とする作業内容の理解度、時間的制約などさまざまな要因から意匠側が同様の対応をする例は多くないと思われるが、本件ではみんなでRevitを使うと決めた段階で従来とは違ったアプローチをプロジェクトメンバーで進めていった。
 
余談になるが、社内に手戻りが少なく効率的に設計を進める設計フローが示されているが、BIMを使う前提でフローを考えた場合、思った以上にこれまでの設計手法を修正すべき点があることが分かった。今後、BIMを推進するために必要な設計フローがどうあるべきか、より深く考える必要があると思われる。
 
 

「i」から技術計算へ

これまで意匠・構造・設備がデータ連携を進めることを書いてきたが、みんなで苦労したけど、その先に設備は何をしたいのか?と聞かれることがあるが、答えは「技術計算」に尽きる。 
 
空調設計の例となるが、技術計算を進めるには図-8の建築情報が必要となる。このデータが意匠よりルールに沿った形で設備へデータ提供されることで基本設計段階であっても精度が高い検討が可能となる。次に、そのデータをもとに空調側では技術計算に移行させ、換気計算、負荷集計をまとめ、図-9の例に示すように外調機、室内空調機器選定までを自動化させようと試みている。そこからさらに機器表へ展開し動力リストを電気設計側に渡すことで、設備間のコンカレント強化を目指している。初期段階はプランが動くため、どこから自動計算化を進めるか判断に悩むが、いったん技術計算の骨組みを作ると実施設計、現場段階での変更にも柔軟に対応ができるため、トータルで考えた場合効率化になると考えている。
 

図-8 建築→設備へのデータ連携


 

図-9 設備内での技術計算フロー




 

おわりに

今回紹介した病院におけるBIM取り組み事例は、これまで多くのBIM取り組み紹介では作図という視点が多かったが本稿では作図については紹介していない。私自身3次元による作図は10年以上前から取り組んできたが、ずっと感じていたのは、BIMによる恩恵が大きいのは作図より情報、すなわち「i」をコントロールすることではないかと。
 
RevitをOne Modelで操作することでその第一歩を踏み出した段階ではあるが、データ連携もたらす未来は非常に明るいと考えており、今後もさらに「i」を生かすための研究を進めていく次第である。
 
 
 

株式会社 日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ 浅川 卓也
吉永  修

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



 


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