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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

モーションキャプチャを活用した没入型安全教育システムの開発

2018年8月10日

 

はじめに

建設産業の労働災害は、業界の懸命な努力により死傷者数、死亡者数とも長期的視点では減少傾向を示しているものの、2016 年も1年間で15,000名超の死傷者が発生している。これら労働災害の原因要素分析を行うと、労働災害は、複数の原因が重なり合って発生している傾向にあり、その原因には必ず当該作業関係者の不安全行動が含まれている。この不安全行動を防止するため、建設現場では「人間がエラーすることを前提とした対策」、「人間のエラー発生を抑止する対策」などさまざまを講じるものの、さらなる「対策の不備」や「想定外のエラー」の発生は否めない。これらに対し、当該作業関係者の「作業に潜む危険」への「気づき」があれば、「対策の不備」や「想定外のエラー」を補完でき、労働災害を大幅に減少させることができる。この「気づき」は、知識や体験から生まれるものであり、その根源は、現場における「ヒヤリハット」である場合も多い。この「ヒヤリハット」を安全にかつ数多く体験し、「気づく能力」を身に着ける仕組みとして「モーションキャプチャを活用した没入型安全教育システム」を開発した。本稿では、この安全教育システムについて報告する。
 
 

没入型安全教育システムという新しい試み

従来より労働災害を防止するため、安全教育が実施されてきた。この安全教育は、定期開催に加えて、雇い入れ時、送り出し時、新規入場時などさまざまな局面で実施されている。一般には、講師による当該現場に相応する過去の災害事例や映像を用いた一方通行型教育が主流である。一方通行型教育の特徴として、同時に多数の受講者に教育を実施できるが、その理解度は受講に臨む個人の意欲や能力差の影響を受ける。また教育による理解度を測り、学習効果の検証を実施していないのが一般的である。一方、グループ学習などで写真や図面を見ながら安全上問題となる点などをグループで意見交換を行う相互通行型教育も実施されている。しかしグループ学習では、グループ内の誰かが解答すれば他の参加者は何もすることなく済む場合が多く、結果として限られた参加者のみが学習しているにすぎない。これらの現象の背景には、教材として用いる災害事例への受講者の「当事者感の欠落」や受講者のモチベーションを向上させない「教育方法の恒常化」などが考えられる。これらに対し、いかに受講者の集中力を高め、学習効果を得るかが重要である。本開発は、安全教育の教材にバーチャルリアリティ(VR)に関する技術を導入し、安全教育受講者に労働災害の当事者として体験させることで従来型安全教育の課題を解決することを目的としている。
 
 

モーションキャプチャの導入

1 没入体験により集中力を向上させる
 
モーションキャプチャとは、現実の人物や物体の動きをデジタル的に記録する技術である。このモーションキャプチャを活用することで、VR被験者の行動を仮想空間内で瞬時に再現できるようになる(図-1)。
 

図-1 安全教育システム「リアルハット」の体験状況




 
これにより人間の脳は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)で展開される仮想空間内の出来事を現実として捉え、VR被験者自身がその仮想空間内にあるように錯覚する。その際、VR被験者は仮想空間内で再現される映像や音に集中し、その世界に浸った感覚となっている(図-2)。
 

図-2 思わず避けるVR被験者




 
この体験を「没入体験」という。この「没入体験」を伴う「新しい教育方法」により、VR被験者すなわち安全教育受講者の集中力を高め、学習教材に取り組む環境を整えることができた。
 
 
2「気づき」を引き出す
 
「気づき」は、自分を取り囲む環境内でそれまで意識しなかった事柄に注意が向き、その事柄を問題として認識することである。人間は、この「気づき」を得た後、認識した問題(気づいた事柄)に自分なりの価値観を設定(評価)し、その価値観に基づく行動を起こす。よって、教育には「気づき」を引き出すことが重要であり、より多くの「気づき」を引き出せる安全教育システムを構築できれば、不安全行動の抑止に大いに貢献できる。そこで、本安全教育システムの開発と履修に当たっては、効果的に「気づき」が得られるよう内省・洞察できる仕掛け(イベント)を盛り込んでいる。またVRは、画像と言語や文章によるあいまいな説明を受けるよりも直感的に理解できる特徴がある。さまざまな視点から何度でも繰り返し体験することで「気づく力」を鍛え、その結果、作業に携わる関係者の自主的、自発的な安全行動を誘発できる。
 
 

「モーションキャプチャを活用した没入型安全教育システム」の概要

1「気づき」を引き出すためには
 
本システムは、VR被験者が仮想空間で労働災害を体験することで自然に「気づき」が得られる仕組みではあるが、効果的な安全教育を実施するためにシラバス作成とそのシラバスに適合したVRシナリオ作成を行っている(図- 3)。
 

図-3 安全教育システム「リアルハット」のコンテンツ




 
バックホウ編では、労働災害が発生する前に講師がVR被験者に対し「ここを安全に通行するには何をしたらよいか?」と声をかける(図-4)。
 

図-4 講師による声掛け




 
するとVR被験者は、さまざまな行動を試し被災を繰り返しながらも、最終的に「安全に通行する」ために必ずしなければいけない事柄に気づく。仮想空間の中で「気づき」を実践することで労働災害を回避し、終了する仕組みとした(図-5)。
 

図-5 バックホウ編のスタート画面




 
一方、クレーン編では、労働災害の概要説明を行った後、VR被験者に対し「被災者のあなたは、周囲を見て労働災害が発生した理由に気づかないか?」などの問いを与える(図-6)。
 

図-6 「気づき」の指導




 
これに対しVR被験者は、キョロキョロと周囲を見渡したり(図-7)、自らが仮想空間の中を移動して「死角の存在」「合図員の立哨位置」など複数の労働災害発生要因に気づく(図- 8)。
 

図-7 被災場所から望む




 

図-8 関係者の立場で被災場所を望む




 
さらに講師は「では、どうすれば回避できただろうか?」とさらに声をかけ、VR被験者に具体的な対策を考えさせ、深い「気づき」に至らせる。
 
本システムでは、仮想空間の中でVR被験者が労働災害の被災者となって労働災害を体験できることに加えて、労働災害発生時の関係者に立場を変えて被災状況を第三者的に見ることもできる機能を持たせた。被災者から関係者へと立場を変えて複数回体験することで、VR被験者は、労働災害の発生状況を俯瞰的に感じつつ、「被災者の私は、相手側にこう見えるのであれば、こう配慮しよう」「関係者の私は、このようなところにも気をつけながら作業の進捗を監視しよう」などと多くの「気づき」を得ることができる。
 
シラバスと適合したVRシナリオによりVR被験者の「気づき」を容易に引き出すことが可能となった一方で、被災体験の反復による精神的外傷の発生が懸念された。このため、被災時の映像表現は、過度にならぬよう配慮した。また、本システムで構築した仮想空間は、実際に発生した災害事例を再現している。これは労働災害の発生状況にリアリティを持たせ、多くの「気づき」を誘発させるためである。この試みにより、風化させたくない労働災害を新鮮な形で記録するという副産物も生み出した。
 
 
2「気づき」「学び」「成長」のスパイラル方式
 
VR体験は、VR被験者にとって最初の体験が最も新鮮かつ衝撃的である。同VRシナリオを繰り返し体験することで、その新鮮さや衝撃度は急速に失われ、「気づき」を得ることは難しくなる。こうしたシステムでは、頻繁なVRシナリオの更新や追加が必要とされるため、開発費が膨大に膨らむことが予想され、長く使用できる教材としての価値を失うこととなる。そこで、これらの課題に対し、VRシナリオに階層性を設けた「スパイラル方式」を導入している(図-9)。
 

図-9 スパイラル方式の概念




 
「スパイラル方式」は、①作業員を対象とした「危険を基本的に理解できるレベル」、②現場管理者を対象とした「安全の法規を含めて理解できるレベル」、③事業者を対象とした「総合的な安全対策を理解できるレベル」の複数段階に設定している。ひとつのVRシナリオにおいて作業員個人が安全対策を行える、職長クラスが安全対策を指導できる、元請会社が安全パトロールできる状況に対応させている。
 
足場点検編では、仮想空間に設置された足場をVR被験者が点検するシチュエーションとなっている。点検する足場には異なる難易度のイベント(安全対策違反)が多数設定されており、VR被験者は実際の安全点検と同様に仮想空間内をウロウロしながら、隠されたイベントを探す(図-10、11)。
 

図-10 仮想空間内で足場点検




 

図-11 仮想空間で寸法計測




 
VRシナリオの中に、異なる難易度のイベントを構築することにより、VR被験者の能力に応じた「気づき」を得ることができる上に、反復体験することで新たなる「気づき」を得、「学び」「成長」へとスパイラルアップすることができる。特に難易度の異なるイベントは、階層ごとに解答集としてまとめているため、学習効果の確認も容易にできる。さらに、足場点検編では、体験型教材も製作した。この体験型教材は、安全帯(胴ベルト・ハーネス)で宙づりになったという設定で、救助者が到着するまでの間、自分でできるレスキュー訓練を行うものである(図-12)。
 

図-12 体験型教材「レスキュー体験」




 
不幸にも宙づりとなってしまった場合、宙づり時間が長くなると安全帯によって締め付けられた体は、呼吸困難、血栓障害等を発症する。これら体の異常を緩和するためのレスキュー動作を、体験することができる。
 
 
3 使用するシステム機器の構成 
 
本システムでは、立体映像処理と3次元インターフェース等を用いることで、従来よりもリアル感を体験できるVRを実現するシステムを構築している。
 
(1)ワークステーションの構築
ワークステーションは、下記の仕様によるシステムで構築している。通常のPCでは動作性が乏しくなるため、最低限以下のスペックが必要となる(表- 1)。
 



 
(2)ヘッドマウントセットの選定
現在、ヘッドマウントセットは数種類販売されているが、プログラム映像への没入感や仮想空間における自由度を重視し、「HTC VIVE(以下、「VIVE」)」を選定した。
 
VIVEは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)・コントローラー・ベースステーションにより構成されている(図- 13)。
 

図-13 ヘッドマウントセットの構成




 
①HMD
VIVEのHMDは非透過型であり、外部の視覚情報を遮断し、HMD特有の高解像度グラフィックスで見ることで、一瞬にして“没入する体験”が可能である。タイムレスかつ自分の意思で360度周囲を見渡すことができる。
 
②コントローラー
コントローラーはワイヤレスであり、VR用に特別に設計されていることから、リアルな触覚フィードバックが可能となる。
 
③ベースステーション
2つのベースステーションを設置することにより、体験者を360度動作追跡し、優れた没入感が得られる。また、ベースステーションの設置範囲を設定することで、シャペロンガイダンスシステム(プレイエリア外に出そうになると警告される)により、設定された
範囲内で安全に教育を受講することができる。
 
 

VR技術の活用時における課題と今後の方向

今回、「モーションキャプチャを活用した没入型安全教育」の開発をおこなったことで、従来型安全教育の課題を解決できたと考える。しかしその一方で、VR技術を採用するがゆえの課題が明確となった。安全教育を実施する場合、一般的には工事現場の作業を一時中断させて教育会場に大人数を集めて実施する。これは、コストや工事工程を理由としたものであり、これらの実施方法にも対応する必要がある。しかし、現在のVR技術では、複数の被験者による同時体験は難しい。VR技術を活用した教育手法の学習効果がいかに高くとも、大人数の受講者を効率よくさばくことができなければ、その価値は高まらない。よって今後は、複数の被験者が同時に仮想空間の中で労働災害を体験できるソフトやデータの開発が必要である。また、土木建築工事において多く発生しやすい労働災害をモデルとした教材や専門工事向けの教材の作成も必要である。さらに、本システムでは、「気づき」を引き出す講師の存在が極めて重要である。この「気づき」を引き出す講師育成を行うため、 シラバスの充実、運用DVDの作成などを実施しなければならない。
 
 

西武建設株式会社

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集3「建設ITの最新動向」



 



施工BIMの今−大林組のBIM・米国グループ会社との比較の観点から−

2018年8月5日

 

はじめに

施工BIMと一口に言っても、日本の施工BIMと諸外国のそれとでは異なっている点が多々ある。ツールとしてのBIMは、やがては進んでいる方に追い付くように思えるが、文化の違いを反映しがちなマネジメントのプラットフォームとしてのBIMでは、そう簡単ではない。
 
ソフトベンダーやコンサルの方々が成功例として紹介する海外の施工BIMに違和感を覚える人は多いのではないか?「工期が**%短縮された」「費用が**%削減された」と言われてもにわかには信じがたい。比較の元は何?そこをあえて追求しないのは「ま、海外と日本では違うからね」ということであろう。デザインの分野はそこそこインターナショナルだが、施工は規模が大きくても、まだまだ地場産業だということでもある。
 
 

Webcor社

海外の建設会社の事例として、米国のWebcor社を取り上げる。Webcor社はサンフランシスコエリアを中心に事業を展開している建設会社で、2007年に大林グループの一員となった。現在はカリフォルニア州の大手建設会社の一つにまで成長している。興味のある方はホームページ(http://www.webcor.com/)を参照してください。
 
Webcor社は以前から3Dツールの活用に積極的であり、大林組がBIMを正式に導入する2010年以前からBIMを活用していた。導入前にはWebcor社を視察し、導入後には東京にBIM担当者を招きワークショップを開催するなどして交流を図っている。
 
 

自社設計・他社設計・プレコンストラクション

施工BIMの入り口は発注・契約方式によって異なる。
 
設計施工の場合は、社内でフロントローディングが可能である。生産側がコーディネーションミーティング(写真-1)に参加することにより、コンカレントにモデルづくりを協働できる。この場合、施工BIMの入り口は実施設計プロセスの中にある。当社では設計部門と施工部門の協働をよりスムーズに行うために、2017年11月からBIMマネジメント課を本支店に設置し、設計BIMマネージャーと、施工BIMマネージャーを配属した。BIMマネージャーは設計・施工合わせて65名が認定され、BIMの活用方針の策定と運用の監視に当たることにした。
 

写真-1 コーディネーションミーティング




 
設計施工分離の場合、設計が完了してから施工が始まるという従来型のプロセスとなり、施工BIMの入り口は着工時である。この時に設計側から使えるBIMモデルが提供されれば問題ないが現状それは難しい。使えるという条件の一つは、モデルファーストで設計図面がBIMモデルから切り出されているということである。
 
BIMソフトを使って設計する設計事務所は増えてはいるが、それは設計行為に留まっており、BIMモデルが存在していても多くはレファレンスの域を出ない。確認申請にBIMモデル提出を義務化しているシンガポールでも、設計モデルの整合性が保証されているわけではなく、現段階では施工側にとって設計モデルを作り直して使うより、一から施工モデルを作った方が効率的という報告1)もある。
 
海外では設計施工分離の場合、その協働を促すために、プレコンストラクションというプロセスがあることは珍しくない。これは実際の施工が始まる前に、設計事務所と協働して工期や予算を発注者の要望に合わせて実施設計を行うプロセスで、フロントローディングという行為が契約の形を取っている。日本では公共工事の発注で時折見られるECI方式がこれに近い。
 
Webcor社では戦略的に、プレコンストラクション付きのプロジェクトに力を入れている。米国では一般的なことであるが、Webcor社は施工専門会社であり、設計部門を持っていない。また、日本のゼネコンが行う生産設計は設計の範疇である。従ってWebcor社では3Dモデルの作成は行わず、プレコンストラクションにおいても、施工側の要望を盛り込んだBIMモデルを設計側が作成する。モデルは設計事務所やサブコンが作るもので、当社をはじめ日本のゼネコンが工夫して作成している生産設計モデルやその図面化は、基本的に彼らの課題ではない。
 
 

施工におけるBIMの活用

専門業者との協業が進んでいる分野は設備工事で、これは洋の東西を問わぬところである。設備サブコンの参加しないBIMは価値が半減する。当社でも建築モデルと設備モデルの統合や、免震層のチェックなどは施工BIMの定番メニューである。また、属性を付与された設備モデルは維持管理段階の主役となるので、これを見据えた施工BIMのありようが研究開発のテーマとなっている。
 
Webcor社においても設備BIMに重点を置いており、一定規模以上のプロジェクトについては、建築モデルと設備モデルの統合・整合性の確保は必ず実施している。図-1は天井内の設備モデルである。モデルが確定しサブコンの承認を得た後、現場ではモデルから位置情報を取得し、天井インサートやスリーブ、箱抜きの位置出し(写真-2)に利用している。写真-3はノルウェーの例であるがBIMデータから座標情報を取り込み、後打ちインサートを施工するロボットも開発されている。
 

図-1 天井内設備モデル




 

写真-2 天井インサート等の位置出し




 

写真-3 天井インサート施工ロボ




 
躯体工事では、鉄骨ファブとのデータ連携が課題の一つである。固い部品の集まりである鉄骨はBIMとよくなじむので、鉄骨ファブが使用している鉄骨専用CADに対して、構造設計モデルとのデータ連携が可能である。現状、条件次第で鉄骨生産モデルを使い関係者の合意を得て、一般図や単品図が生成可能なところにきている(図-2)。
 

図-2 鉄骨生産モデル




 
一方、Webcor社ではRC躯体工事での3Dモデル活用が盛んである。Webcor社にはself-performing workの伝統があり、社内にRC躯体工事専門部署を持っていることも、これを後押ししている。RC造の多くはコア部分とフラットスラブ+独立柱部分で構成されており、構造要素が合理化、単純化されている(写真-4)。そのため、PC工法でなくとも1フロア最短3日の施工サイクルを可能にしている。1フロア2週間はかかる日本の在来工法と比べると驚きの速さである。躯体の形状が合理化、単純化されていることは、型枠支保工もシステム化が容易であり、すなわちモデル化が容易であるということでもある(図-3)。
 

写真-4 RC建築物の施工




 

図-3 型枠支保工モデル




 
仕上げ工事のデータ連携も製作までつながることが望まれる。当面のターゲットは複雑な形状をしたカーテンウォールや金属パネルなどである(図-4)。製作工場では以前から図面からデータを読み取り、人力でNC機械に入力し加工することは行われているが、BIMモデルからのデータ一貫利用の事例は限られている。加工機の機能の問題もあるが、前提として、信頼のおける建築モデルを提供する必要がある。
 

図-4 カーテンウォール製作用モデル




 
Webcor社の例としてサンフランシスコ近代美術館(SFMoMA)の外装パネルを挙げる(写真-5)。このパネルはFRP製で波打った表面が特徴である。BIMモデルで作成した形状データを使い、FRPパネル製作のための型枠をNC機械で製作した。
 

写真-5 SFMoMAの外装パネル




 

施工BIMとICT技術

近年、IoT、点群、画像認識、VR/MR/ARなどのICT技術の開発が進んでいる。これらとの連携はBIMの価値を大きく高めることになるため、当社でも社内外のリソースを活用し積極的に取り組んでいる。特に施工フェーズでは改修工事を中心に、点群利用の機会が増加している。2016年の熊本大地震で被災した熊本城飯田丸五階櫓の緊急倒壊防止工事では、石垣に接近することなく3Dレーザースキャナーを使って現況を測量し、一刻を争う工事計画の立案に大いに貢献した。
 
ICT技術の活用フィールドの多くはバーチャル空間の建築物である。ICT技術があっても、建物モデルがなければ使えず、そのためだけにモデルを作るのは無駄である。施工BIMをあまねく普及させることが肝要といえる。
 
 
参考文献
1)田村、金多、Deng、古阪:シンガポールでのBIM導入の現状に関する一考察、日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)、2016年8月
 
 

株式会社 大林組 建築本部 PDセンター所長 宮川 宏

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集1「i-Construction×CIM」



 



BIM 次の進化に向けて

2018年8月3日

 

Information-BIMへの取り組み

BIMには「3D」と「情報=Information」の二つの側面がある。二つの側面を設計フローに即して捉えると、「3D」の側面は、設計が進むにつれて進化していく「形状」のフローであり、「Information」の側面は、設計の初期段階で行われる「性能」に関わるフローといえる(図-1)。日本ではBIMの「3D」の側面が主である。BIMの「Information」の側面について言及されたとしても、主に形態の寸法や仕上げ情報に留まっている。
 

図-1 日本設計のIntegrated-BIMワークフロー




 
BIMの本質は、建物の「データベース」化にある。「BIM」の持つ「データベース」すなわち「情報」の側面が、Information-BIMである。日本では、BIM「情報」活用がなかなか進んでいなかったが、その理由の一つには、意匠・構造・設備がそれぞれ別のソフトを使うところにあると思われた。異ソフト間での連携については、年々改善されており、「形状」に関してはかなり連携が改善されてきているものの、「情報」に関しての連携はまだ十分ではない。日本設計では、意匠・構造・設備が全て同一のBIMソフト「Autodesk Revit(以下、Revit)」を使う。そのため、セクション間での連携の問題が最初からない。後述するように、例えば、建築の面積や窓面積やその仕様、荷重条件、空調条件といった情報が、セクション間でスムーズに共有できる。このことが、日本設計において、Information-BIMの活用が大きく進むことにつながっている。
 
 

Integrated-BIMの推進

意匠・構造・設備の共通プラットフォーム「Revit」を中心にして、さまざまなツールがダイレクトに連携する。これが、日本設計の考える「Integrated-BIM」の骨格となる。特筆すべきは2点、「アルゴリズム設計」と「ダイレクト連携」である。具体事例は後ほど紹介するが、セクション間を横断するアルゴリズム設計は、共通プラットフォームである「Revit」とアドインソフトであるビジュアルプログラミング「Autodesk Dynamo(以下、Dynamo)」があってはじめて可能になる。また、環境シミュレーションの「ダイレクト連携」は、環境設計を重視し、取り組んできた日本設計の設計思想に非常にマッチしている。「Rhinoceros+Grasshopper+ 環境シミレーション」の可能性も、日本設計が開発した「Rhinoceros-Revit」のダイレクト連携ツール「ant sat」があることでさらに拡がる。日本設計の構造解析ソフトとBIMをつなぐ、「NASCA-Revit」の連携、Dynamoを使った情報連携も効果を発揮している。今後も日本設計は「Integrated-BIM」を進化させていく(図-1)。
 
 

Connection-BIMに向けて

BIMは、設計から、施工、さらには維持管理段階における建物「データベース」となる。だからこそ日本設計では、BIMを単なるツールではなく「ワークフロー」そのものとして捉えている。そして上述のとおり、「Revit」は設計の共通プラットフォームである。
 
一方、施工段階で加わる「形状」や「情報」には、非常に細かいディテールの形状であったり、その後の維持管理段階では使わない「情報」もある。例えば、カーテンウォールの詳細形状を「データベース」となる統合BIMモデルに全て反映する必要はない。統合BIMモデルから切り離すかたちで、ディテール検証するためのモデルを作成すればよい。鉄骨ディテール、配管ディテールなどもBIMソフトで作成する必要はなく、3D¬CAD作成すれば十分である。つまり、施工段階のかなり多くのモデルは、BIMモデルから一方通行の連携でよい。維持管理段階でも同様の話がある。例えば日々の修繕情報は、FMにおいては非常に重要な情報であるが、それを統合BIMソフトの属性で管理するのは全く現実的ではない。維持管理段階の関係者が、おのおの、高性能のパソコンを所有し、BIMソフトを装備し、BIMをフルに使いこなすという、現実離れした想定が必要となる。 つまり、施工や維持管理段階から考えると、設計のプラットフォームとは別に、より上位のプラットフォームがあると、さらに便利であるという発想が生まれる。
 
設計のプラットフォームには、全てのセクションが使えるツールであることが望まれる。同じBIMモデルにアクセスして、皆で一つの統合BIMモデルをつくり上げるからである。一方、施工や維持管理段階においても使える共通プラットフォームには、より多くのツールで、多方面から簡単にアクセスできるという、アクセシビリティの良さが求められる。そのためにクラウドテクノロジーは欠かせない。
 
こうしたクラウド・プラットフォーム活用としては、例えば、BIM-FM連携がある。「Integrated-BIM」モデルデータが、日々の修繕記録と並置し、アクセシビリティに優れた形でクラウド上に管理されている状態をイメージしてみれば、その使い勝手の良さが分かる。
 
いま日本設計では、クラウド・プラットフォームとして「Autodesk Forge(以下Forge)」を据え、「Integrated-BIM」のさらなる活用を考えている。施工段階、維持管理段階へも可能性は拡がっていく。
 
 

BIMの「情報」を設備設計に生かす

ここからは、「設備BIM」の具体例を紹介する。これまで、日本の設備BIMは、納まり検討や干渉チェックなどでの利用に偏り、建築計画が固まった後の実施設計後半や施工段階での活用に留まってきた。
 
日本設計では、Information-BIMに着目し、設備の「性能」決定に利用することで、設計の初期段階からのBIM導入を図っている。設備設計では、室諸元情報や機器情報、部材情報などさまざまな情報を、BIMの「Information」の側面に持たせて、「性能」決定に利用している(図-2)。その際、モデリング(形態)を、建物の階高や天高、梁背などを決定するためのクリティカルな部分に留めることがポイントである。最小限のモデリングを作成した後は、Revitにおいて「スペース」と呼ばれるエリアから室諸元情報を読み込み、情報が付随した機器をプロットする。ここまで入力されたモデルがあれば、詳細モデリングを行わなくても、セクション間の調整は可能であり、設備性能を決めることができる(図-3)。建築セクションの詳細モデリングが出来上がるのを待っていたのでは、設計初期段階での設備BIM活用は難しくなる。
 

図-2 BIMの「Information」




 

図-3 設備設計でのBIM活用方法




 
 

アルゴリズム設計によるルーティン自動化

ビジュアル・プログラミングでアルゴリズム設計を実現する「Dynamo」を活用した、設備設計の自動化にも取り組んでいる。例えば、スペース情報を集計し、機器の合計容量を自動的に計算して結果を戻すという一連の作業や、機器プロットまでモデル化した後は、「情報」活用により、負荷計算結果の数値を元に、機器を自動選定したり大きさを変えるといった自動化を可能にしている。今まで、時間と労力を費やしていたルーティンワークの自動化により、さらに深度化した検討が可能になる(図-4、5)。
 

図-4 アルゴリズムを利用した設備設計の自動化




 

図-5 アルゴリズム設計による自動化




 

スペースと部材情報を活用した設備の自動積算

BIMモデルから、BIMソフトのデフォルト機能を用いた数量算出は可能であるが、積算基準と異なる集計になるため、そのまま積算に活用できない。
 
そこで、日本設計では、積算基準に合致した長さ計上に則り算出できるようBIMソフトの集計方法をカスタマイズした。自動的に拾い書・集計書、さらには拾い図を作成することが可能になっている。この積算活用においても、積算を行う上で、可能な限りモデリング作業を最省力化することが実践的に大事であり、モデル上の部材やスペースへの「Information」の持たせ方にはいろいろと工夫を凝らしている(図-6)。
 

図-6 スペースと部材情報を活用した設備の自動積算




 
 

設備設計でのBIMワークフロー

BIMを設計フローに取り入れる際に重要なことは、BIM作業を追加業務にするのではなく、今までの業務を、BIMで置き替えていくことだと考えている(図-7)。
 

図-7 設備設計のBIMワークフロー




 
ただし全てをBIMに置き替えるのではなく、汎用ソフトやExcelシートなどの便利なものは残しつつ、それらをBIMと情報連携させ、BIMを情報の中心に据えることが最も有効である。
 
日本設計では、各セクションの情報をロスなく共有できるRevitを中心に据えて情報の体系化を行い、全ての情報をRevitにつなげることで、今までバラバラだった情報を一元的に管理可能にしている。これにより、設計の過程でしか利用されていなかった貴重な情報を、「3D」利用に限られていた施工段階や、さらには運用段階へ引き継ぐことを見据えている。
 
なお、Revit(MEP)は設備の「性能」を決定する段階で活用し、最終的なアウトプット(実施設計図)は「Autodesk AutoCAD(以下、AutoCAD)」や、Revitとのダイレクト連携を開発したRebroを併用している。建築同様、アウトプットの実践的工夫により、実用化を図っている。
 
 

NASCAと構造BIMモデル

次に「構造設計BIM」について概説しておきたい。日本設計では、構造解析プログラムは、自社開発の一貫構造計算プログラムNASCAを使用し、BIMソフトはRevitを使用している。それらを利用して、効果的にBIM活用を行うために、NASCAの構造データからRevitへのデータ変換を行うプログラムを開発し、現在運用中である(図-8)。
 

図-8 システムの全体図




 

BIMモデルの使用

現在、NASCAからのデータ変換によって作成された構造のBIMモデルは、①建築・設備などの他セクションのBIMデータとの干渉チェック(図-9)、②構造図(伏図、軸組図)の作成などで活用している。このBIMモデルから作成された構造図は、相互の図面間で整合性が確保されるため、図面の確認作業が軽減されている。
 

図-9 構造図作成の自動化




 

構造図作成の自動化

Revitを用いて自社の製図基準に適合した構造図を作成するためには、多くの手間がかかる。そして、その作業の一部は単純作業の繰り返しであり、かつ、どの案件に対しても共通である。今後BIMによる設計を継続的に行っていく上で、このような作業を自動化することは非常に効果的であり、構造図の品質向上および作業効率の向上につながる。そこで、NASCAからRevitへの変換時に自社仕様の伏図・軸組図の自動生成も同時に行うようにさらなる開発も完了している(図-8、9)。
 
 

二次部材の設計

小梁などの二次部材の設計においては、ビジュアルプログラミングツールであるDynamoを用いてRevitとExcelを連携させる仕組みを構築した。それにより、計算に必要となるRevit内の情報の抽出、Excelへの自動入力、そして計算結果に基づき修正された結果の反映を一連の流れで行うことを可能とした。以前と比較してExcelへのデータ入力や計算結果に基づく図面修正の作業時間を大幅に短縮することが可能になった。
 
 

情報の整理と共有

部門間の調整においては、さまざまな構造情報の中から各部門(意匠・設備など)の設計者が必要とする情報を整理した検討図(伏図・軸組図・断面リストなどとは異なる資料)が必要となる。これまで、検討図の作成は主に構造設計者が手作業で行っていたため、部門間の調整事項に変更が生じた場合、検討図の再作成作業が大きな負担となっていた(図-10-a)。そこでDynamoを活用して必要となる情報をRevitデータから抽出・視覚化することで、検討図作成の支援を行うツールを開発した。それにより、検討図作成の負荷が大幅に削減された(図-10-b)。また、このツールにより部門間の情報連携がより強固となり、設計全体の高品質化にもつながっている。
 

図-10-a 従前のワークフロー




 

図-10-b BIMを用いたワークフロー
(時間短縮が可能となる)




 

Information-BIMとBIMFM連携の可能性

Connection-BIMについても、具体例に触れておきたい。海外では、BIMは設計や施工のための効率化ツールというよりは、FMでの活用にこそ価値があると認知されつつある。だが、日本での活用例は非常に少ない。
 
繰り返し述べているように、BIMは3Dの「Visual BIM」の側面と属性情報の「Information-BIM」の側面を併せ持つ。BIMを建物の仕様・性能情報を統合管理できるデータベースとして活用することで、よりその可能性を広げることが可能になる。特に運用段階で必要としているのは、「3D」というよりもほとんどが情報の「I」つまりデータベースであり、BIM¬FM連携で肝心なのはBIMの「Information」を活用することにある。運用段階に必要とされるデータベースには設計段階から引き継ぐべき「情報」がかなり多くを占め、施工段階では品番や製造番号などメーカー情報を付与するくらいで十分なはずである、施工段階のものづくりのための詳細な3Dデータは改修工事では再利用できるとしても、FMの日常管理には細か過ぎてとてもハンドリングできるものではない。
 
ただし、運用段階の3Dのニーズは限定的という事実は受け止めておく必要があるものの、3Dというリッチなデータによりもたらされるメリットは少なからずあるはずである。われわれは、このFMでの3Dのニーズを、①インデックスとしての活用、②部屋と機器・機器と機器の関連を視覚化(図-11)、③3DによるFMデータベースの見える化、の3点に集約できるのではないかと考えている。
 

図-11 機器の親子関係の視覚化




 
そして、その活用を汎用化するため、FM段階では、直接BIMを扱うのはハードルが高いため、クラウド・プラットフォームである「Forge」を活用することを提案している。既存のさまざまなFMシステムの利点を生かしたまま、「Forge」を介したBIM¬FM連携こそ、付加価値を高めていく現実的なアプローチである。FMサービス会社「プロパティデータバンク」との連携も進めているところである(図-12)。

 

図-12 BIMとFMシステムの連携




 
現在、「Forge」の活用開発も進み、運用段階へつなぐ環境が整い、ライフサイクルでのBIM活用が具体化している。実プロジェクトでの活用も、今後急速に増えていくものと予想される。
 
さらにこの先へは、AI、IoTの活用が間違いなく進み、AIの「判断」には、「定量化」が当然の前提となる。そして、AIの「経験」には、IoT による「情報」の一元的蓄積を必要とする。さらに、この「情報」に、単体のBIMデータベース情報だけではなく、クラウド・プラットフォームに並置されたさまざまな情報、それは複数のIntegrated-BIMの並置であったり、都市的環境情報であったり、事業採算予測情報であったりするわけだが、さまざまな情報が加わることにより、「判断」は都市レベルに、経済レベルにも適用されることとなる。それは部分最適化からより広い視点での全体最適化へつながる道である(図-13)。
 

図-13 部分最適化から全体最適化へ




 

株式会社 日本設計 プロジェクト管理部 BIM室 
岩村 雅人/吉原 和正/田畑 健

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集1「i-Construction×CIM」



 



わが社におけるCIM推進の取り組みとその効果について

2018年8月1日

 

はじめに

平成24年度から国土交通省によるCIMの導入が開始されて6年目となり、CIMの概念自体は、建設業界全体に広くに普及したのではないだろうか。
 
当社においても、平成24年度のCIM導入開始当時から、CIMへの取り組みの必要性は認識していたものの、一昨年までは、全社的組織活動には至れていなかったのが実情であった。
 
本稿では、平成28年度から、本格的にCIM推進に取り組み始めた当社のCIM推進活動、およびその効果と今後の展望について紹介する。
 
 

当社のCIM推進組織の経緯

当社においては、図-1に示すように、平成27年度まで、社内委員会制による「CIM研究会(準備会)」が設置されていたものの、具体的活動を行う部署を組織するための準備活動としての情報収集・整理を主としており、年間目標・工程を有する具体的活動を開始したのは、平成28年度に組織された「CIM推進研究会」の発足からであった。
 
さらに今年度からは、「CIM推進研究会」を発展的に解消し、独立の専門部署である「CIM推進室」を設立するとともに、これと協働する全社特命メンバーで構成される「CIM推進委員会」を組織して、一層のCIM推進に取り組んでいる。
 

図-1 当社のCIM推進組織




 

当社のCIM推進への取り組み姿勢

本来CIMは、3次元モデルを用いた事業全体での一連の建設システムの効率化、高度化を図るものであり、建設コンサルタントにとっては、計画・設計フェーズでのフロントローディングを担うことになるため、負荷の増加と捉えられがちではないだろうか。
 
しかしながら、当社においては、われわれが担う調査・計画・設計フェーズ単独の工程においても、CIMを活用することによる生産性と品質の向上を図ることができるのではないかと考え、その方法を検討・試行することとした。
 
われわれの取り組みは、品質・生産性向上のための使えるツールとしてのCIM活用であり、CIMを利用したい技術者全員の普遍的な技術とすることを目指している。
 
 

CIM推進方針

平成29年度は、「CIM導入ガイドライン(案)」が公開され、さらにCIM導入の動きが活発化するものと想定していたが、調査−設計−施工−維持管理に一貫して活用できるモデルの導入には、まだ解決すべき課題が多いようであり、その解決には、もう少し時間が掛かりそうな印象である。
 
このようなCIM推進状況や当社の現状を踏まえ、当社では、早期にCIM導入効果を発現させるため、CIM推進を、以下に示す「トップランナー施策」と「ユニバーサル施策」に大きく分けて取り組む方針とした。
 
【トップランナー施策】
現時点で利活用できる状態にないが、今後のCIMの高度利用・活用充実に向けたCIM技術の開発を行う施策。
対象者を限定して実施する。
・属性情報の付与方法
・CIMモデルによる数量・工事費・工期算出
・施工での利活用を考慮したCIMモデル開発
・CIMモデルデータ共有方法の開発
 
【ユニバーサル施策】
現時点で利活用可能なCIM技術を用いて、調査・計画・設計フェーズにおける品質・生産性の向上を図る施策。
全社員を対象として実施する。
・3Dモデリングによる検討の深化、省力化への取り組み
・可視化による合意形成の迅速化、ミス・エラーの防止
・施工計画、条件の確認
 
当社において、トップランナー施策と位置付けたCIM技術の多くは、実用化に向けては、今後の技術開発に負うところが多く、現時点で直ちに、当社における普遍的な技術とするには、負荷が大きいと考えている。
 
また、これらの技術は、建設システム全体での効率化には寄与するものの、当社が携わるフェーズにおける生産性向上には、つながりにくいといえる。
 
これに対して、ユニバーサル施策と位置付けたCIM技術は、これまで3Dモデリングに関わったことのない技術者でも、比較的短い教育期間で習得し、実業務へ活用することが可能で、建設システムの中で、当社が携わるフェーズでの品質・生産性向上に寄与できると判断したものである。
 
よって、当面は「ユニバーサル施策」に注力し、技術者全体への基礎的CIM技術の普及とこれによる品質・生産性向上を図ることとしている。
 
無論、トップランナー施策に掲げた将来的なCIMの高度利用、活用充実に向けた技術開発も行っていくが、これらの技術開発は、先行投資的であり、当社の技術者全体を対象とする段階にはないと考えている。
 
また、トップランナー施策の開発者育成、および開発した技術の普及のためにも、3Dモデリングを行える技術者数を増やし、社員全体のCIM技術の底上げを行うことが最優先事項であり、早期のCIM導入効果発現と会社全体最適につながるものと考えている。
 
 

CIM推進活動

社内のCIM推進を図っていくためのCIM推進施策の具体的活動として、「CIM実施環境の整備」、「CIM技術の普及」、および「CIM技術の実践」が重要と考え、CIM推進活動の初年度は、主に以下の活動を実施することとした。
 
【CIM推進環境の整備】
・ハードソフトの整備
 
【CIM技術の普及】
・CIM関連講習会の実施
 
【CIM技術の実践】
・CIM推進プロジェクトの実施
 
 

ソフトウェアの選定

CIMに関連するソフトウェアは、その目的に応じて多岐にわたり、その選定は、CIM推進活動におけるポイントの一つになると考えられる。
 
当社では、基本的にソフトウェアの統一は行わず、個人の特性、対象工種・目的への適性のあるソフトウェアを柔軟に利用することにより、技術的達成を効率的に図る方針とした。
 
特に、当社内での利用頻度が高くCIM推進における基幹となるCAD系ソフトの利用状況は、AutoCAD Civil 3DとV-nas Clairユーザーに2分されており(図-2)、CIM推進活動は、この状況に留意して実施していくこととした。
 

図-2 CIM関連ソフトの利用状況




 

CIM推進環境の整備

CIM推進を円滑に進めていくためには、CIMソフトの動作環境の整備が必要である。このため、ハード・ソフト両面での環境整備を行うこととした。
 
ハードウェアについては、一定のスペックを有するPCであれば、もちろんCIMソフト使用上の問題はないが、CIMの有効性を表現するためには、画面上でのプレゼンテーションが必須と考えられたため、モバイル機能を有するノート型の高性能機をCIM用PCとし配備することとした。
 
ソフトウェアについては、現在の利用状況を考慮し、当面の基幹ソフトとして、AutoCAD Civil 3Dとその関連ソフト、V-nas Clairとその関連ソフトを配備することとした。
 
CIM関連ハード・ソフトの整備状況、および整備計画は、図-3に示す通りであり、CIM推進活動に支障がない環境を準備できたと判断している。
 

図-3 ハード・ソフト整備状況




 

CIM講習会の実施

CIM技術を社内に普及するためのCIM講習会は、「CIM概念に関する知識を得るための講習」と「CIMソフトを利用するためのハンズオン講習」を行った。特にハンズオン講習については、AutoCAD系とV-nas系について、それぞれ2回実施し、延べ56名が受講することができた。これは、当社の技術系職員の約8%に相当し、初年度としては十分な成果と考えている。
 

図-4 ハンズオン講習実施状況




 

CIM推進プロジェクト

新しい技術を獲得するためには、実践が最も効果的であることは、CIMにおいても同様である。当社では、CIM技術を実業務において試行的に導入する「CIM推進プロジェクト」を実施することとし、初年度は、図-5に示す4件のプロジェクトを実施した。
 
いずれも3Dモデリングに初めて取り組む担当者によるチームで実施したが、一定の成果を達成し、基本的な技術を習得することができた。
 

図-5 CIM推進プロジェクト一覧




 

図-6 砂防堰堤検討例(InfraWorks)




 

図-7 土留矢板検討例(V-nas Clair)




 
 

CIM活用の有効性

検討段階におけるCIM導入が、現時点で最も効果的となるのは、土工計画であろう。CIM推進プロジェクトを実施する過程で、土工計画においてCIMを活用した3次元的検討を行ってみた。
 
例えば、図-8に示すような道路計画をCIMを用いて検討してみると、図-9に示すように、従来の2次元検討と比較して、3次元的検討の方が効率的に実施することができた。また、3次元検討では、地形モデルさえ作ってしまえば、後続する検討作業の負荷が減るため、検討ケースが増えるほど、3次的検討の効率性はより増していくこととなる。
 

図-8 道路線形の3次元検討イメージ




 

図-9 道路線形における3次元検討の効果




 
一方で、図-10に示すような複雑な形状を有する砂防堰堤堆砂量の検討を行ったところ、現時点の技術では、従来の2次元的検討と比較して、あまり効率的に実施することができなかった。
 

図-10 砂防堰堤堆砂量3次元検討イメージ




 
このように、同じ土工計画においても、CIMの活用が検討の効率化につながる場合とそうでない場合があり、試行の結果を踏まえて、CIM活用の対象を取捨選択していくことが、CIMの効率的活用の一つの方法ではないだろうか。
 
 

今後の取り組み

昨年度一年間の上記の取り組みにより、当社内におけるCIM推進を図ることができたと考えており、同様の活動を継続していくことにより、当社全体のCIM推進を進めていくことを基本的方針と考えている。
 
一方、インフラの計画・設計だけではなく、地質・地盤分野、測量分野、維持管理・保全分野を含む総合力を生かした“ワンストップサービス”を提供できることが、当社の“強み”と考えており、CIM分野においても、この“強み”を生かした新たな取り組みを行っていく予定である。特に、CIMにおいて欠かせない地形情報の取得技術の確立が喫緊の課題と考えている。
 
 

3次元計測技術の開発

UAVによる測量は、急速に普及が進んでいるが、当社でも現在、UAVを用いたレーザー測量の導入を計画しており、植生等の阻害物がある場合にも、広域な地表面情報の効率的な取得が可能な技術の開発に取り組んでいる。
 
また、UAVは広域の地形情報を短時間で取得するために優れたツールであるが、水域(水面下)の情報は取得することができない。そこで、当社ではAUV(Autonomous Under water Vehicle-自律型水中ロボット《i3XO EcoMapper AUV-YSI社製》)を導入する計画であり、現在その運用方法を試験中である。
 
AUVは、開始指令を与えるだけで、潜水型自律航行を行い、探査目的を自動的に達成することが可能であり、さまざまなセンサー・機器を必要に応じて装着することにより、水底地形だけなく、水質や流速分布等の水中の多様な情報を取得することができる。
 
今後は、これらの計測機器の組み合わせによって、陸域と水域を有する広域地形の情報を効率的に取得することが可能となる。
 

図-11 AUVと各種計測機器




 

図-12 AUVによる水底データ取得イメージ




 

図-13 UAVとAUVによる観測データ統合イメージ




 
 

災害対応への活用

このような3次元的計測技術とモデリング技術の活用は、災害対応に非常に有効と考えられ、当社では、CIM技術を活用して、計測・調査から解析・計画・設計・モニタリングまでをワンストップサービスで解決できる生産体制の確立を急いでいるところである。
 
災害対応において、一連の工程をワンストップサービスで行えることは、コミュニケーションにおけるミス防止や速度・密度の向上につながり、工程全体の品質向上と時間短縮が期待できると考えている。
 
もちろん、無人機器による広域の計測作業は、災害直後の危険性の高い現場において、安全性確保の観点からも非常に有効である。
 
例えば、近年、降雨の強度・量は増加傾向にあり、これに伴う大規模土砂移動現現象や河道閉塞現象の発生も増えつつあり、今後もその傾向が続くことが懸念される。当社が推進する総合的CIM技術は、このような現象による災害の対応に効果を発揮すると考えており、「危険箇所における複雑で広域な地形情報の把握」、「陸域と水域が混在する地表面データの取得」、「3次元的地形の視覚的把握と土量の算定」、「複数の対策案の策定」といった工程を、効率的かつ高品質に実施することができると考えている。
 

図-14 大規模土砂移動現象への活用




 

おわりに

昨年度一年間のCIM推進活動を踏まえ、社員意識のアンケート調査(図-15)を行ったところ、社員の90%近くがCIM導入効果を感じており、社員の65%が自らの業務に活用したいと考えていることがわかった。
 



図-15 社員アンケート結果


 
 
また、昨年度4件であったCIM推進プロジェクトは、今年度は公募の結果13件に増やして実施中である。
 
このように、当社のCIM推進の取り組みにより、社員のCIM推進意識は、徐々に高まりつつある。
 
今後も、できるだけ多くの技術者が、多様な分野で活用できるCIM利用方法を模索し、われわれの業務プロセス全体の品質向上・生産性向上につながるようなCIM推進に取り組んでいく予定である。 
 
 

株式会社 エイト日本技術開発 技術本部 CIM推進室 室長 田中 栄吾

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2018
特集1「i-Construction×CIM」



 



 

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