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2017年7月30日
はじめに:IoTの定義と市場動向すっかり身近な言葉となったIoT(Internet of Things)は、モノのインターネットと訳される。IoTとは、一言で言えば、センサーで集めた情報を、ネットワーク経由でクラウドに上げ、情報を人工知能などで解析・処理する仕組みである。 建設業界でのIoT活用:2つの方向性一方で本稿で言及したい建設業界でのIoT活用は、2つの方向性に大別できる。 ![]() 図-1 建設業界におけるIoT活用・2つの方向性 一つは、「現場のためのIoT」、つまり、建設に関わる工事や作業そのものの可視化や効率化、省人化を目的としたIoTの利用である。センサーやICタグを用いてヒトや建設機械、資材などのリソースの位置や状態を管理・把握するケースや、作業員の入退室管理、点検・検査や設備の監視などもこちらに分類できる。 国内での実現例としては、竹中工務店が取り組む次世代建物管理システム「ビルコミ」による建物情報の可視化と自動制御(http://www.takenaka.co.jp/news/2014/11/01/images/20141106.pdf)や、東急建設の建機の稼働状況のリアルタイム監視(http://www.tokyu-cnst.co.jp/topics/864.html)などが例として挙げられる。 さらに、建設業界では、BIM(BuildingInformation Modeling)が浸透し、急速に部品を含む3次元データが普及し、活用への取り組みが進んでいる。そこへ、センサーを用いて取得した各種の情報と、人やモノの流れを統合し、3次元データをマスターデータとして活用するアイディアもある。マスターデータとしての3次元データは、工事の効率化、現場作業の安全性向上、リソース・スペースの管理や可視化、さらには部材制作・加工にも活用ができるだろう。 もう一つの方向性は、「利用者のためのIoT」である。建物はもちろん、建築物を含む街区全体の付加価値を高めるスマートビルディング、スマートシティ、スマートコミュニティ構築の取り組みを通じ、利用者に新しい価値を与えるサービスを提供する。ビルや街の専用アプリを作り、利用者の位置情報やプロファイルと結びつけ、商業施設の案内や、旅行者向けの案内を行うといったアプローチや、防災、エネルギーマネジメントへの応用も考えられる。こちらは、多くの場合、既存の建築物も広く対象とするため、建設業に携わる企業のみならず、地域の住民、自治体を含む幅広い連携が必要になる。 例えば、スペイン・バルセロナ市の取り組みもこちらに分類される。市内に整備されたWi-Fi網を基盤とし、スマートパーキング、スマートライティング、スマートゴミ箱、鉄道やバスなどの交通機関のスマート化など、先進的なIoT活用に取り組んでいる。 ![]() 図-2 バルセロナのIoTゴミ箱、スマート地下鉄 IoTプロジェクトの構築ステップIoTは、それ自体が目的ではなく、課題解決の手段であることは忘れてはならない。IoTプロジェクトに取り組む際は、初めに解決すべき課題を整理し、IoTを活用して、どのようにそれを解決し、ビジネスにインパクトをもたらすか、コンセプトを明確にする。つまり、IoTを活用したビジネスモデルの構築とKP(I 評価基準)を明確に定義しておくことが必要である。例えば、現場の効率化であればコストや工数削減などのインパクトを、スマートコミュニティであれば、エネルギー消費量や、新しいサービス提供によるマネタイズなどの目標を十分に検討する。 ![]() 図-3 IoTビジネスの基本的なアプローチ つまり、初期構築した成功したテストベッドが重要である。成功したテストベッドは、当初の目的である自社での運用はもちろん、それをスケールして実装したり、横展開することで、グローバルビジネスの基礎となり、新たな価値を生み出す可能性がある。これこそが、業界のイノベーションにつながっていく。次章では、国内外における建設・建築向けのテストベッドの構築の状況について、解説する。 IOT Solution World Congress 2016に見るテストベッド2016年10月、スペイン・バルセロナにて、IIoT (Industrial Internetof Things)をテーマとしたイベントが開催された。全世界から、24 カ国、8,000 人を超える参加者を集めるIOT Solution World Congress2016である。 ![]() 図-4 IOT Solution World Congress 2016 このイベントでは、展示会で展示可能な規模のものを中心に、米国のIIC(Industrial InternetConsortium)のリファンレンスアーキテクチャに合致した10のテストベッドが展示され、建設・建築分野でのIoT活用に関わるテストベッドも多く見られた。 IICは、2014年に設立されたインダストリアル・インターネットのデファクト化と産業向けの実装を目的に、AT&T、シスコシステムズ、ゼネラル・エレクトリック、インテル、IBMが立ち上げた団体で、現在では30カ国250組織以上が加盟して活動を行っている。日本企業では、日立、東芝、富士フィルム、富士通、三菱電機、NEC、オリンパスなどが参画している。 IICが承認する27のテストベッドのうち、建設業に密接に関係するスマートシティ分野では、2つの承認されたテストベッド構築が進んでいる。一つは、Infosys(インド)、PTC(アメリカ)とSchneider Electric(ドイツ)が率いるエネルギーマネジメント、そして、もう一つは、中国広西チワン族自治区にある欽州市を舞台とした水の供給、品質、信頼性を確保するための都市部向け給水マネジメントのためのテストベッドである。IICのテストベッドプロジェクトは、参加社がグローバルに連携し、スピーディにビジネス化を見据えた協力体制を構築して推進するのが特徴である。 スマートコミュニティ・スマートシティに関連したテストベッドとして、音が都市環境に与える影響の研究のためのモニタリングシステムのテストベッドが展示されていた。 ![]() 図-5 FIWARE、FI-Sonic、ETConceptのテストベッド これは、FIWARE(EU)、Fi-Sonic(ポルトガル)、ET-Concep(t ポルトガル)が合同で出展しており、環境騒音の評価と、都市部で起こる事故や犯罪の検知や抑止を目的に、360度集音可能なマルチチャンネルマイクを街に設置する。そして、集音した音の解析と処理を行うことで、事故や銃声、悲鳴などの特徴的な音を、その他の環境音などから区別して、継続的に監視する仕組みである。街の安全性向上、犯罪率低下、事故などのアクシデントを即座に検知するシステムとして、特に暗い場所や視認性の悪い場所などでの効果が期待できる。現状では、異常音が検知されたエリアの特定は行えるものの、 正確な位置や詳細な状況を把握する必要性がある時は、360度をカバーする監視カメラなどとの併用も効果的だろう。 また、Schneider ElectricとPTCが構築するスマートグリッドのテストベッドでは、PTC社のAR(AugmentedReality)技術を活用したソーラーパネルのコントロールを模したデモを行っていた。 ![]() 図-6 Schneider Electric、PTCのテストベッド 専用のアプリケーションを入れたタブレットで、実空間に設置した六角形のマーカーを参照すると、3DのバーチャルモデルをAR表示させることができる。ソーラーパネルの角度や向きは、バーチャルモデル上に数値で表示されているが、実際にタブレット上で数値を変更して、実物の角度や向きを制御することができる。 ここで、ソーラーパネルの実物を専用のアプリケーションを通して見ると、現在の発電量など、IoTで取得した情報を参照することもできる。すでにこうした技術が確立されていることから、建設業界でも、IoTで取得した情報とBIMモデルとの情報連携、設備・機器のメンテナンスに応用ができるだろう。 さらに、Intelは大気の状態を監視するテストベッドを展示しており、PM2.5、PM10、酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄などの大気中の物質を、手の平サイズの大きさの基盤に複数のセンサー類を設置し、リアルタイムに監視するデモを実施していた。 ![]() 図-7 Intelの大気の状態のマネジメント向けテストベッド スマートシティ・スマートコミュニティのプロジェクトにおいては、安全性、快適性、フローの最適化、エネルギーマネジメント、環境の評価など、さまざまな指標があるため、こうした取り組みを応用することが期待されるだろう。 一方で、SAPは、中国の南京市をターゲットとした商用車のトラッキングによる「Live Connected City」と題した渋滞回避のスマートシティソリューションを、Huawe(i ファーウェイ)は、6LowPAN(Bluetooth上でIPv6を利用する規格)を活用したスマートライティングソリューションのコンセプト展示を行っていた。 注目すべきは、開発するIoTソリューションのターゲットは、自国を必ずしもメインの対象としていないことである。日本国内でのテストベッド構築プロジェクトは、主として自社、そして国内をターゲットとしていることが多い点からみると、大きな違いであると言える。国外のプロジェクトを手がけることも多い建設業においては、海外での実装や運用を念頭に置いたIoTソリューションの構築とサービス化を視野に入れて活動する必要がある。 こうしたところからも、各社のスマートビルディング・スマートシティ・スマートコミュニティを対象としたソリューションへの興味度の高さと期待が伺える。 さらに、これらのテストベッドを用いた実証実験が、国際的な協業をベースにワールドワイドに始まり、結果が共有されるのも、もう間もなくであろう。 成功したテストベッドは、標準化され、市場の拡大とともに全世界をターゲットに広く市場に流通するようになる。つまり、初期の段階からテストベッド構築に関わった企業・団体は、現在の収益モデルとは異なる新たなビジネスとして、恩恵を受けることができるようになる。建設業においても、テストベッドの企画・積極的な参加が望まれる。 ![]() 図-8 テストベッドに積極的に参加する意義 一方で、海外で開発・展開されるテストベッドは、開発コストの削減や期間の短縮の点から考えれば、国内のプロジェクトへの応用も考えていく必要がある。 国内のIoTを取り巻く状況国内では、経済産業省と総務省が、産官学が参画・連携し、IoT推進に関する技術の開発・実証、新たなビジネスモデルの創出を推進するために「IoT推進コンソーシアム(ITAC)」を2014年に立ち上げた(http://www.iotac.jp/)。 ![]() 図-9 このように、日本国内で生まれたテストベッドや取り組みの内容を、世界に市場を広げて勝負できるようにするための活動も始まっている。実際のテストベッドの構築と、標準化、そして世界市場へのチャレンジを目的に、2016年6月、IICの事務局を務める日本OMGはi3(Industrial Internet Institute)を設立し、インダストリー、アグリカルチャーの2分野でワーキンググループの活動がスタートしている(http://omg.or.jp/i3/)。 ここでは、IICのリファレンスアーキテクチャに沿ってソリューション構築を進めているために、ソリューションを海外展開する際の理解度向上が期待できる。最初は自社向け、国内向けにスタートしたIoTソリューションをグローバルな視点でビジネスにつなげる土壌が生成されつつある。 建設分野でも、リーダーシップを発揮できる企業が、こうしたコンソーシアムをなどの組織へ参加・連携しながら、IoTの取り組みを進めていくことで、建設業の課題の解決に向けたIoTソリューションの構築と標準化、新しいサービスやビジネスモデルの創出につなげることが期待される。 建設業向けIoTプロジェクト推進の課題と提言建設業は、多数の規模・役割の異なる会社が協力体制の下で、建設プロジェクトを遂行する。特にIoTソリューションの適用に向け、大企業と中小企業の連携で課題の一つにとして挙げられるのは、構築費用の配分である。 株式会社 ウフル IoTイノベーションセンター
マネージャー 松浦 真弓
建設ITガイド 2017 特集3「建設ITの最新動向」 ![]() |
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2017年7月29日
はじめに最近の建設業界では、施工段階のBIM(以下、施工BIM)に注目が集まっている。いままでのBIMは、どちらかといえば設計者が活用するものと考えられがちだったが、施工BIMでは現場の職員が活用するものとして位置付けられている。国土交通省では、2016年度を「生産性革新元年」と呼んでおり、ICTを積極的に活用して建設現場の生産性向上に向けた取り組みを進めていることも関係しているであろう。 ![]() 写真-1 ICTを活用した施工管理 ②施設管理のICT化により、施設所有者に対して、施設のライフサイクルコスト低減を支援すること。 そこで本稿では【TPMs】の中から施工BIMに関する取り組みを紹介することで、建設業における生産性向上を考えたい。 施工BIMの概要施工BIMの考え方と狙い ![]() 写真-2 机のまわりは図面だらけ BIMでは施工図・製作図レベルのBIMモデルを統合し空間を把握する。数百枚の図面を見なくてもXYZの位置関係を直観的に把握でき、多くの担当者と空間を共有することが容易になる(図- 1)。 ![]() 図-1 統合されたBIM そこで、前田建設工業が施工BIMに取り組む狙いは主に以下の3項目である。 ①【図面】施工図・製作図の調整業務の効率化 ②【品質】品質不具合の防止 ③【安全】作業安全性の向上 すでにさまざまな施工BIMの取り組みを行ってきたが、ここでは上記の3つの狙いからひとつずつ適用事例を紹介する。 ①図面】施工図・製作図の調整業務の効率化 今までの図面調整と施工BIMによる図面調整の手順の違いを示す(図- 2)。BIMにより効率的に図面調整を進めるポイントは以下である。 ![]() 図-2 図面承認までの作業手順 ①専門工事会社を早期選定し、BIMモデルを作成する ②作業所は基準となるBIMモデルを各業者に提供する(躯体、仕上のモデル) ③変更履歴などの最新版をきちんと管理する ④最新のBIMモデルを共有できるクラウドなどの情報一元化ツールを活用する(設計者・専門工事会社も閲覧可能) ⑤BIM調整会議を開催する(隔週程度の開催。設計者も参加が望ましい) ⑥BIMモデル合意後、スムーズに2次元図面を作成し承認する 業務の進め方はBIMモデルで異工種間の調整を行い、関係者間で合意をしてから図面を作成し図面承認を行う。合意するまでは、作業所のBIM担当者と専門工事会社のBIM窓口が参加する調整会議を開催し、整合性が確保されたBIMモデルを更新する(図-3)。 ![]() 図-3 統合された施工BIM これらの取り組みは「BIMモデル合意(※1)」と呼ばれている。場合により2次元図面を先行させてBIMモデルを作成する場合もあるが、いずれにしても避けなければいけないことは、BIMと2次元図面の作成を同時にすることだ。 取り組みを確実に実施するためには、社内事前打合せで目的を設定することが大事である。それと同時に参画する専門工事会社との協創によりBIMモデル合意に取り組む方針を立案する。 その際は全てのBIMモデルを専門工事会社が作成するのではなく、作業所側でも各社にBIMモデルの提供やモデルを統合する体制を整備しておく必要がある。 BIMモデル合意に期待できる大きな効果としては、逸失利益の低減がある。また検討時間の短縮(20 ~ 30%の低減)や検討するための2次元検討図の枚数低減などの効果もある。それらの効果を享受するためには、作業所のBIM担当者のリーダーシップと専門工事会社のBIM窓口がお互いにBIMにより作業を効率化させる目的を共有し、実際の仕事の流れに組み込むことだ。 BIMモデル合意では、BIM調整会議を概ね隔週で開催している場合が多い(写真-3)。 ![]() 写真-3 BIM調整会議の開催 参加者は作業所のBIM担当者と専門工事会社のBIM窓口の方々だ。必要に応じて設計者も参加する。 BIM調整会議の開催前には、参加者間で最新版の情報共有ツールを通じて検討課題を共有し、対応可能な範囲で各社が新たな質疑や回答を用意する運用が望ましい(写真-4)。 ![]() 写真-4 検討項目のリスト ②【品質】部分の検討 施工BIMでは、必ず対象物件の建物をすべてBIM化する必要はない、と考えている。 例えば作業所から必ずと言っていいほど依頼される項目の一つに鉄筋の納まり検討がある(図- 4)。 ![]() 図-4 鉄筋の納まり検討 建物全ての鉄筋を入力するのではなく、部分的でも十分な検討時間の短縮効果がある。さらに鉄筋を組み立てる職人さんとの作業手順の確認もできる。 また、物流倉庫ではランプ部分のPCa手摺壁と鉄骨との関係をBIMにより調整する場合もある(図-5)。 ![]() 図-5 鉄骨と腰壁PCaの干渉確認 初めての施工BIMでは、確実に作業所のニーズがあるこのような場所から 取り組んでも立派な施工BIMの一つと言えるだろう。 作業所長からは「分かりやすい」「施工図や製作図の進捗状況の確認が容易」「安心感がある。おかしいと思うところを施工前に指摘できる」「若手職員のOJTに活用した」などの評価が得られた。このような評価が建物全体のBIMモデル合意への取り組みに挑戦する素地となる。 所長の感想が口コミで広がり、「今の施工BIMは以前に話を聞いたBIMとは違う。施工でも活用するメリットがある」と認識が変わりつつある。 ③【安全】施工手順の「見える化」 施工図や製作図の図面調整に活用したBIMモデルをそれだけで終わらせるのはもったいない。このようなBIMモデルは現実にこれから施工する完成形に近い精度で作成されていることもあり、付加価値として施工手順や安全設備の検討にも活用できれば同じく精度の高い施工手順を職員、職長や作業員と共有することができる。 施工BIMに取り組んでいる作業所では、本支店の支援部門が参加する施工検討会や専門工事会社を交えた作業手順の説明(写真-5)などへの活用も始まっている。 ![]() 写真-5 BIMを活用した施工検討会 特に鉄骨建方手順の「見える化」による事前検討(図-6)では、主に以下の関係性が分かりやすいことを確認している。 ![]() 図-6 鉄骨建方のステップ図 ①作業工区分けと重機・荷取りヤードとの関係 ②先行取り付け鉄骨と後取り付け鉄骨・仮設材との関係 ③取り付け手順と材料積込順との関係 ④外部足場せり上げと鉄骨組上げの関係 ⑤鉄骨組立とデッキ材の荷上げの関係 現場内の「見える化」ボードには、工事工程表と一緒に時間軸で表した建方 手順などの現場状況を貼り出している現場もある。作業員が作業の開始前に出来形をイメージすることで、安全作業への啓蒙にもつながっていると思われる(写真-6)。 ![]() 写真-6 「見える化」ボードへの掲示 施工BIMに関する教育先日、作業所職員向けの施工BIMに関する研修会を開催した(写真-7)。 ![]() 写真-7 施工BIMの社内研修会 開催場所は実際に施工BIMを実践している作業所である。参加者は今後施工BIMに取り組む予定の全国から集まった職員だ。年齢層は所長から若手の担当者まで幅広く集まった。 研修はBIMツールの操作教育ではなく、BIMモデル合意や施工計画への適用などBIMの活用事例を社内で共有できるような内容を企画した。 講師は施工BIMの支援部門だけでなく、作業所のBIM担当者も担った。実務の担当者が工事概要を説明するように実際の施工BIMの取り組みを説明したことで、参加者の多くが施工BIMを身近に感じることができたようだ。 作業所で施工BIMに取り組む予定の担当者からは、具体的な作業所の体制づくりやBIMモデル作成のタイミング、期間などの質問があり、質疑応答の時間は活発な情報交換の場となった。 このような地道な活動が、施工BIMの社内展開や取り組みの改善などには必要と改めて感じた。 今後も作業所で開催する施工BIMの研修会は続ける予定である。 今後の展開本稿では施工図や製作図の図面調整を中心として取り組みを紹介してきたが、施工BIMの可能性は、図面調整だけではない。作業所におけるその他のICTとの連携にも期待できる。例えば墨出し作業の効率化、写真測量による数量把握などのような測量技術との連携が思い浮かぶ。また、自動施工をするための要素技術には施工BIMが必要になるに違いない。 おわりに施工BIMのひとつの進め方として、工事が始まってから専門工事会社とBIMモデルを連携しながら作業を進める手法は、作業所における図面調整業務を大きく変える可能性があることを確認した。今後はBIMを建物全体や部分とかという議論ではなく2次元CADによる図面作図が一般化してきたように、どのような用途・構造の建物であっても当たり前のように作業所においてBIMが活用できる環境が整備されてゆくと思われる。 ![]() 図-7 BIMを活用した維持管理 IOTやAIなどの技術の進歩により、建物に合った修繕や改修を計画するところにもBIMの技術が活用されるのも近い。 今後もいろいろな取り組みを通じて、施工BIMの確立を進める予定である。 (※1) 一般社団法人日本建設業連合会BIM専門部会:『施工BIMのスタイル 施工段階における元請と専門工事会社の連携手引き2014』、2014.11、一般社団法人日本建設業連合会 (※2) 曽根巨充、他:維持管理システムの実績からニーズを的確に反映-BIMと連携し、3次元の“見える化”を簡単に実現-、『建設ITガイド2016』、2016.2、一般財団法人経済調査会 前田建設工業株式会社 建築技術部 TPM推進グループ長 曽根 巨充
建設ITガイド 2017 特集2「BIMによる生産性向上」 ![]() |
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2017年7月28日
はじめに今回のテーマである施工BIMの本題に入る前に、当社におけるBIMの位置付けについて話をしたい。 施工BIMの考え方/進め方当社が考える施工BIMは、着工前に生産設計や施工側でフロントローディングを実践し、その中でいかにBIMを利用するかである。これを「プレコンストラクション」と称しているが、具体的な進め方は、まずプロジェクトの客先要件とリスク、特性からBIMの利用目的を特定する。次に生産設計視点による設計図のチェックを行うことによって、リスクを洗い出すとともにタスクを整理し、そのタスクの内容に基づいたBIMモデルを構築する。そして、これらの流れの中で抽出された課題を、BIMモデル中心の打合せによって調整や解決を図っていくという流れである。この進め方は2D図面の質疑により、繰り返し訂正を行う従来の流れよりも、作図のロスタイムやロスコストを抑えることが可能と考えている(図- 1、2、3)。 ![]() 図-1 プレコンストラクションにおける生産設計ワークフロー ![]() 図-2 BIMモデルの流れと成果物 ![]() 図-3 モデル中心の打合せ(BIMマネジメント会議)の様子 プレコンストラクションの取り組み内容①生産設計業務のフロントローディング ![]() 図-4 課題の見える化の一例 また課題を「課題シート」という形でまとめている(図- 5)。 ![]() 図-5 課題シートの例 ビジュアル的に見やすく、伝わりやすいものにし、経過や回答状況も併せて記すことで履歴管理のドキュメントとしても活用している。 次に取り組む体制だが、初動期支援を行うためのフロントローディング推進体制の構築を進めている。参画時期が従来と変わって前倒しとなってくるため、生産設計リソースの割り当てや役割の分化が必要である(図-6)。 ![]() 図-6 生産設計のフロントローディング体制とその参画時期 現状は各部門への役割の割り当てやタスク工程の策定を推進部門であるBIMCM室が担っている。来期から本社以外の支店にも同様な推進部門を展開する予定である。 また設備のBIMモデル統合による調整の早期化や早期の課題解決を図るべく、専門工事会社との協働も進めている。図-7は従来2Dにて重ね合わせを行っていたものをBIMモデルによる統合確認を行うことで、課題解決のスピード化につながった事例である。 ![]() 図-7 設備施工図と建築モデルの統合確認 このような取り組みの中で、設備会社を始め、さまざまな専門工事会社との連携を開始しており、製作図作成も視野に入れている。また施工図に関しても、現状はBIMから下図として出力し、2Dにて仕上げる流れで進めているが、将来的にはBIMモデルから直接施工図の作成ができるような手法の検討も行っている。 ②施工計画のフロントローディング 施工計画の取り組みとして、生産設計や技術、工事の視点による施工上の課題を抽出するためにBIMモデルを利用している。これは2Dによる事前検討資料では気が付かない課題を3Dでより詳細に検討を行うためであり、施工計画におけるステップ図の作成も行っている(図- 8)。 ![]() 図-8 仮設計画の検証 施工部門におけるBIM対応力およびマネジメント教育の強化プレコンストラクションをより推進していくために施工部門のBIM対応力やマネジメント教育を強化することも重要である。4つの取り組みについて紹介する。 最後にここまで「施工BIMの今」として話を進めてきたが、途中、アウトプットとしての成果物や社内の体制、専門工事会社との体制など今後に向けた話も行ってきた。 戸田建設株式会社 建築本部BIM-CM室 北川 剛司
建設ITガイド 2017 特集2「BIMによる生産性向上」 ![]() |
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2017年7月20日
![]() 齊藤 計介氏 本町の災害査定の件数は、最終的に管きょ施設27 件と処理場施設5 件の計32 件となった。これは隣接する熊本市(39件)に次ぐ、県下2番目の件数であったが、下水道課の技術系職員は数名しかいなかったことから、支援自治体やコンサルタント、関係業界団体の協力を得ながら早期に災害査定を完了することができた。 本報告では、維持管理データと損傷度調査データを融合した3次元情報の利活用により、災害査定図書を作成した経緯を紹介する。 はじめに益城町の位置および地勢益城町は、図-1に示すように熊本県のほぼ中央北よりで阿蘇山の麓、熊本市の東側に位置し、豊かな水と緑に恵まれ、農村部と都市部が融和した自然豊かな町である。 ![]() 図-1 益城町の位置 町内には“阿蘇くまもと空港”があり、交通の要所となっている。 平成27 年度末の人口は約34,000人と県下45市町村中、13 番目と上位に位置し、人口減少社会の中で、熊本市のベッドタウンとして人口が増加してきた都市である。 益城町の下水道益城町の下水道は、公共下水道1処理区(益城処理区)、特定環境保全公共下水道2処理区(飯野処理区・津森処理区)から成り、特定環境保全公共下水道の2処理区は公共下水道の処理場である“益城町浄化センター”へ接続して処理を行っている。 ![]() 表-1 下水事業の概要 熊本地震の発生と被害熊本地震の概要4月14日21時26 分、熊本県熊本地方を震央とする震源の深さ11km、気象庁マグニチュード6.5 の地震(前震)が発生し、益城町では震度7を観測した。 下水道の被害地震発生後、益城町職員で0次調査(発災後の緊急点検)を行ったところ、14日の前震では秋津川周辺の地域や処理場の流入幹線等で被害が確認された。16日の本震後は、被害の範囲と規模がさらに拡大していた。 ![]() 図-2 本震前後の被害状況(撮影日:上4月15日、下4月16日) 下水道施設の被害は処理場施設、管きょ施設の両方に見られ、そのうち管きょ施設の被害は最も早くから整備を開始した益城処理区に多く見られた。 1次調査において目視による点検を行った結果、テレビカメラ調査による2次調査が必要な管きょ延長は総延長の約4割近くとなる約37kmとなった。本稿では、これら管きょ施設の災害査定について述べることとする。 地震発生から査定までの流れ4月16日の本震以降から災害査定完了までの流れを時系列で整理したものを表-2に示した。 ![]() 表-2 地震発生以降の流れ 地震発生後、1次調査を完了させるまでには10日間程度しかなく、さらに2次調査においては、対象延長が非常に長いにもかかわらず、5月25日には完了させる必要があった。 2 次調査の完了後は、査定対象施設を抽出し、査定設計、積算、査定資料の作成という手順となる。下水道の査定は3次査定から始まることとなり、甚大な被害を受けた益城町は3次査定から臨んだ。実に本震発生から2カ月後には査定受験、資料提出〆切(目論見書提出)までは発災から1カ月半、テレビカメラ調査の報告が上がってから3日後となるタイトな作業を余儀なくされた。 情報の活用事業計画情報の活用災害査定設計を進める上では、既存の管きょが現状からどのように被害を受けているかを確認し、被害状況を明確にする必要があることから、既設管きょの縦断図の作成が第一歩となる。 台帳情報の活用平成17年度以降の拡大区域については縦断図作成が容易に行えるが、地震による被害が大きかった益城処理区は、平成17年以前に事業計画が立案された区域であり、管きょ設計支援ソフトを用いていなかったことから、縦断図の作成には多くの時間がかかることが想定された。しかしながら、益城町では下水道台帳をGISで構築しており、平成25 年度末のデータまで整備を行っていたことが査定設計の効率化に当たっては功を奏した。 ![]() 図-3 全路線の管きょネットワーク 災害査定図書作成災害査定延長災害査定を受ける延長は最終的には約14.4kmとなった。この内訳を表-3に示す。 ![]() 表-3 復旧延長 災害復旧方針災害復旧方針は、熊本県下である程度の統一を図る必要があることから、熊本県、熊本市、被災自治体、支援自治体、(社)全国上下水道コンサルタント協会(水コン協)現地対策本部(熊本市)と連携しながらベースを作成した。その後、益城町の支援自治体並びに町に設置した水コン協現地対策本部とともに益城町の状況へ適合したものに補正を行った。 図化作業の効率化①図化作業の煩雑さ Pipe Rapidを用いた図面作成Pipe Rapidを用いた具体的な縦断図の作図方法を以下に紹介する。 ![]() 図-4 Excelにて入力情報シートを作成(損傷データの抽出・損傷データの入力) ![]() 図-5 入力情報をCSV出力 ⇒ CSVをPipe Rapidへ取り込み (損傷データの抽出・損傷データの入力) 管きょネットワークと損傷データが融合されたので、これら異常情報を含んだ縦断図を図-6のように自動的に作図し、補足事項の記入、写真の貼り付けを行い、図-7のような最終的な災害査定図書とした。 ![]() 図-6 縦断図出力(縦断図データのCAD化) ![]() 図-7 細部修正(最終形) (補足事項の記入・写真の貼り付け) おわりにこれまで、“九州には大きな地震が発生しない”という認識があったことから、熊本地震の発生とその被害の甚大さに改めて自然の驚異を再認識させられた。 熊本県益城町 下水道課 工務係 係長 齊藤 計介
株式会社 東京設計事務所 九州支社 宮崎 宗和 建設ITガイド 2017 特集1「i -Construction時代の到来とCIM」 ![]() |
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2017年7月18日
はじめに竹中工務店における施工BIM事例の第1号は、1988 年竣工のドーム建築であり、大規模な屋根を精緻に施工するため、3次元データで光波測量機を制御した事例である。当初は、このように特殊な施工条件へ対応する手段としての活用が主であったが、近年は、条件に関わらず広く施工BIMに取り組んでいる。特に設計施工案件のメリットをより生かす手段として、施工段階におけるゼネコン・専門工事会社の調整等での活用が進んでおり、本報では事例と、実施するための基盤整備状況を紹介する。 施工BI Mの事例(1)専門工事会社連携によるBIMモデル合意当社では、「BIMモデル合意」と呼ばれる手法を活用した事例が多い。BIMモデル合意とは、日建連「施工BIMのスタイル」1)で定義された表現で、異工種間調整をゼネコンと専門工事会社がそれぞれ作成したBIMモデルの重ね合せによって実施することである。従来、打合せのためだけに作成していた2次元図面の削減や、課題の早期解決といった効果が期待できる。 ![]() 図-1 作業所における重ね合せ会の様子 ![]() 図-2 ビューア上で作成する課題レポート 現状、BIM対応が可能な専門工事会社は鉄骨・設備・鉄骨階段・ELV・外部建具が主であり、その他の工種については当社が2次元の製作図を取りまとめ、適切にBIMモデルへ反映していく。重ね合せ会では、データマネジメントを行う担当者自身が課題抽出・解決を行う必要があるため、作業所の施工図担当者が務めると、うまく運用できているケースが多い。活用事例では、躯体と空調設備との重ね合せによるスリーブ調整における事例が多く、関係者全てでメリットが得られている取り組みである。例えば図-3のように、RCモデル上で梁貫通可能な範囲を視覚的に自動表示させることで、調整作業が大幅に効率化されている。 ![]() 図-3 RC梁貫通箇所の検討例 さらに、自社開発の鉄筋BI Mツール「RCS」を活用し、鉄筋専門工事会社と連携した加工図・加工帳作成の取り組みも始まっている(図-4)。 ![]() 図-4 自社開発の鉄筋BIM ツール「RCS」を活用した施工BIM 施工BIMの事例(2)BIMモデル承認の取り組み先端的な取り組みとしては、合意だけでなく、承認までBIMモデル上で行う「BIMモデル承認」にも取り組んでいる。対象は鉄骨承認が多く、鉄骨モデルのプロパティに確認記録を残すツールを活用する等、エビデンスの残し方に工夫をしている。BIMモデル承認を実施することで、体裁が細かく決められている2次元承認図が不要となり、ファブの作図労力・ゼネコンのチェック工数が削減される。ただし、関係者間での確認や、工場における鉄骨製作、現場での施工では2次元図面が必要となる。それらでは、鉄骨製作のために工場で必ず作成される単品図を使っている。省略した承認用の詳細図と、製作用の単品図の違いは、図-5に示す通り、通り心や寄り・下がり寸法の記載有無等が主である。これらは製作上必要ないが、ゼネコン承認のためだけにファブが手間をかけて作成しているものである。 ![]() 図-5 省略する承認用詳細図と、必ず作成される製作用単品図の違い このように、BIMによって省略できるもの、できないものを事前に仕分けすることで、施工BIMによる効果をより享受できる。 なお、BIMモデル合意・承認におけるポイントは、BIMモデルの信頼性に尽きる。2次元図面が正になってしまうと、BIMモデルでの合意内容に意味がなくなってしまうためである。信頼性確保のためには、作業所長のリーダーシップが不可欠となる。途中で2次元図面を作成せず、プロジェクトとしてBIMモデル合意に取り組む体制、雰囲気作りが重要である。 施工BIMの事例(3)図面・モデル支給を実現する施工BIM設計施工のメリットのひとつは、先述した通り、設計段階から早期に生産情報を盛り込むことができる点である。また、BIMモデル合意の効果として、2次元よりも早期に課題抽出・解決が可能となる点がある。この2点が組み合さることで、納まり調整のみに留まらず、ゼネコン・専門工事会社の作業範囲・責任範囲を、より合理的に変革することが可能となってきている。具体的な例として、他製作物との取り合いまで調整した製作図基図、もしくはそのまま製作可能なレベルのBIMモデルまでを当社が責任を負って作成し、工場へ支給する取り組みを始めている。 ![]() 図-6 従来手法と新手法の責任範囲の違い 従来は、製作図作成と他製作物調整が並行して発生するため、ファブがモデル・図面の変更修正作業で多大な工数を要していた。そこで、当社ではBIMモデル合意によって早期に附帯鉄骨との取り合いを確定させることで、ファブへ変更のないモデル・図面を支給する取り組みを始めている。 適用対象として、S造の大規模曲面屋根、および「燃エンウッド」という木材の柱部材で実施した際に支給したBIMモデルと製作図の例を図-7、8に示す。 ![]() 図-7 屋根鉄骨部材の支給モデルとパネル図 ![]() 図-8 燃エンウッド部材の支給モデルと加工図 特に、S造の大規模曲面屋根の事例では、BIMモデルからのCAM連動が可能な鋼材メーカーと連携することで、1次加工までの作図手間を最小限に削減した鋼材を、当社からファブに支給する取り組みまで実施している。 推進体制と基盤整備先述のような施工BIMの取り組みを始め、当社では全社的にBIMを推進していく方針である。2015 年7月に「BI M 推進チーム」(2016 年12 月現在)という本社の推進組織が発足するとともに、設計・施工両職能の専任社員も配備した。具体的な基盤整備施策として、(1)ハード(2)ソフト(3)教育の3点を挙げる。(1)(2)では作業所への64bitPC配備、作業所ファイルサーバーのクラウド化、BIMモデルの部品整備、ソフトウェア開発等を実施している。(3)では施工BIMで先進的に取り組んでいる全国の作業所長同士の交流会を企画するなど、プロジェクトをマネジメントする人材の育成、ノウハウの展開を図っている。 今後の展開と期待本報ではゼネコン・専門工事会社の調整における施工BIMを中心に、設計施工のメリットを生かした事例を紹介した。今後は、施工BIMの効果をさらに享受するためにも、業界全体へ施工BIMを広めるためにも、BIM対応が可能な専門工事会社・工種が増加することに期待している。 株式会社 竹中工務店 BIM推進室 主任 生産担当 染谷 俊介
建設ITガイド 2017 特集2「BIMによる生産性向上」 ![]() |
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