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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

海外のCIM事情《その3》

2014年4月20日

 

大阪大学 大学院工学研究科
環境・エネルギー工学専攻 教授 矢吹 信喜

 

OpenINFRA:土木用プロダクトモデルの新開発母体

OpenINFRAが生まれるまで

2007年にIFC-Bridgeに関しては、前述のように日仏二国間共同研究SAKURAが終了し、これより他の資金が獲得できなかったことから、開発・推進が止まってしまった。しかし、フランス国内では大手建設コンサルティング・エンジニアリング会社EGISと大手建設会社BouyguesがIFC-Bridgeに関心を示し、10社を集めて、COMMUNIC(Collaboration par la Maquette Multi-UsageNumerique et l’Lingenierie Concourante:共有デジタルモデルとコンカレント工学による協調)と称するグループを作り活動を実施した。その結果、buildingSMART(IAIは発音がしにくく意味がわかりにくい等の理由から、この名称に変更となった)に対して、道路や橋梁などの社会基盤(インフラストラクチャ)のプロダクトモデルを開発するコンソーシアムを形成し、認めてもらうように運動することとなった。そこで、2011年7月、パリでIFC-Infra会議が開催され、同調する主にヨーロッパの国々の技術者や研究者が参加した。この会議で、IFC-Bridge、LandXML、日本のIFC-ShieldTunnelなどを対象とすることとなった。同年10月の会議では、コンソーシアムの名称をIFC-InfraからOpenINFRAに改名し、運営会議を毎月行うことになった。筆者はWebExによるインターネット会議で参加していたが、2012年2月に別途用事があったことからフランスへ出張し、パリ郊外のEGIS Internationalでの運営会議に出席した。同年3月のbuildingSMARTの国際全体会議へOpenINFRAのプロポーザル(提案書)を提出し、正式にbuildingSMARTの下部コンソーシアムとして活動することが認められた。OpenINFRAでは、社会基盤(インフラストラクチャ)のプロダクトモデルを開発するためにIFCの拡張、IDM(Information Delivery Manual)やMVD(Model View Defi nition)などを策定することとなった。
 

OpenINFRA東京Meeting

写真-3 OpenINFRA東京Meeting(JACIC撮影)

写真-3 OpenINFRA東京Meeting(JACIC撮影)


2012年10月に、ISOとbuildingSMARTの国際会議が東京で開催された際、専門小委員会のような形で、JACICの会議室にて、OpenINFRA東京Meetingが開催された(写真-3)。海外からは英国、米国、フランス、フィンランド、ノルウェー、韓国が参加し、日本からは国土交通省、JACIC、土木学会関係者が参加し、総勢30名を超える盛況であった。この会議では、国際的な活動としてLandXML、IFCBridge、IFC-Geotechnica(l IFC-Tunnel)およびProcess Mapの4つのワーキンググループを作り、buildingSMARTに認可してもらうことと各国の独自の取り組みとしてbuildingSMART Nordic ChapterのInfraBIM、フランスのMINND、ヨーロッパとしてのV-Con(Virtual Constructionfor Roads)の概要紹介が行われた。
 
この中で、buildingSMART Internationalの事務局長であるChristopher Groome氏から「IFCはISOの国際標準となることが、今回の東京でのISOの会議でほぼ完全に決定したので、今後3年間は、インフラストラクチャへのIFCの拡張に注力していきたい」という支援の発言があった。これまで、IAI、buildingSMARTに対して10年近くにわたって、橋梁やトンネルのプロダクトモデルをIFCの拡張として認めてくれと言っても、建築のIFCをISOの国際標準にすることで忙しいし、資金を持ってこないと駄目だと言われ続けてきた筆者やフランスの仲間達にとっては、やっとここまで来たと感慨ひとしおであった。
 

LandXML

LandXMLは前述のように既にLandXML.orgのWEBサイトが閉鎖されたため、心配しているCADユーザーも多いと思われる。しかし、フィンランドの国立技術研究所VTTが中心となって、OpenINFRAを通じてbuildingSMARTに対して、LandXML Version 1.2のMVD(Model ViewDefi nition)を開発するプロポーザルを2012年10月に提出した。このプロジェクトは、フィンランド政府やフィンランドの企業が研究資金を投入しており、2013年の1月から12月のわずか1年間でMVDを開発し、IFCにマッピングを行うというものである。buildingSMARTはこれを既に認可し、他の国や地域のbuildingSMARTの支部はこれに参加し支援するよう促した。既に、英国、フランス、ドイツなどが参加しており、日本からは筆者が参加することになった。他に参加を希望される方は、筆者に連絡をされたい。
 

IFC-BridgeL

IFC-BridgeはOpenINFRAの最重要ワーキンググループの一つである。フランスを中心に、日本、ドイツ、フィンランド、ノルウェー、英国、米国などが参加している。日仏共同研究以来、なかなか支援が得られなかったが、現在はOpenINFRAの中で活動し、土木版IFCの第一として認められるよう努力したい。
 

IFC-GeotechnicalまたはIFC-Tunnel

これまでに筆者らが開発してきたIFC-Tunnelを土木版IFCとするワーキンググループである。OpenINFRAのリーダーであるフランスEGISのChristophe Castaing氏はIFC-Tunnelの地層と空洞の表現に強い関心を持ち、これはトンネルだけでなく、他の地盤を掘削したり盛土する全ての構造物に関係するから、IFC-Geotechnicalとした方がいいと提案しているが、われわれとしては、IFC-Tunnelとして進めていきたいところである。
 

Process Map

Process Mapのワーキンググループは、ドイツを中心として、英国、フランスが参加して、事業のプロセス、特に施工のプロセスを中心に、IFC等を用いてマッピングを施すことを目指している。
 
 

CIMに関する大学や国際会議

CIMのような技術革新を伴う事業を成し遂げるためには、産官のみならず、基礎的な学理を追究する大学の参画が重要である。冒頭に記したように、欧米では日本の土木と建築の区分の仕方と異なっていることから、BIMも日本でいうCIMも一緒に行われていることが多い。CIMに関する研究や教育に力を入れている大学は、米国ではカーネギーメロン大学、スタンフォード大学、テキサス大学オースチン校、バージニア工科大学、ジョージア工科大学など複数ある。カナダでは、ブリティッシュ・コロンビア大学、アルバータ大学、コンコーディア大学などが挙げられる。ヨーロッパでは、英国のノッティンガム大学、ティーズサイド大学、ドイツのミュンヘン工科大学、ルール大学ボーフム校、ワイマール大学、ダルムシュタット工科大学、スイスのETH、EPFLなどである。ヨーロッパは大学以外では、国立研究所が強く、フィンランドのVTT、フランスのCSTB、ルクセンブルクのLippmanなどで実施している。アジアについては、既に紹介した大学で意欲的に進めている。日本の大学の土木、建築いずれの学科でも、BIM、CIMを研究・教育しているところは少ない。なお、筆者は環境・エネルギー工学専攻(学科)の所属である。
 
CIMやBIMに関する研究成果を発表する国際的な主な場としては以下の国際会議が挙げられる。
ICCCBE(International Conference on Computing in Civil and Building Engineering):2年に一度で、2014年は米国フロリダ州オーランドー、2016年は日本の大阪で開催される。
ASCE(米国土木学会)IWCCE(International Workshop on Computing in Civil Engineering):ほぼ毎年で、2013年はロサンジェルスで開催される。
ECPPM(European Conference on Product and Process Modeling):ほぼ毎年で欧州で開催される。さらに、2013年11月7日~8日、東京国際交流館で第1回ICCBEI(International Conference on Civil and Building Engineering Informatics:土木建築情報学国際会議)を、新たに設立したAGCE(I Asian Group for Civil Engineering Informatics:アジア土木情報学グループ)と土木学会土木情報学委員会で主催する(http://www.iccbei.com)。
ぜひ、論文投稿、企業による事例紹介、スポンサーなど、いろいろな形で参加して、盛り上げていただければ幸いである。
 
 
 
海外のCIM事情《その1》
海外のCIM事情《その2》
海外のCIM事情《その3》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



海外のCIM事情《その2》

 

大阪大学 大学院工学研究科
環境・エネルギー工学専攻 教授 矢吹 信喜

 

プロダクトモデルの開発略史(図形からBIMまで)

IGES

BIMやCIMの概念を実現するためには、種々の異なるソフトウェア間でデータがスムーズに共有できることが必要条件となる。そのためには、個々のソフトウェア同士でデータ互換用プログラムを作るよりは、標準化されたデータモデルを介する方が、はるかに効率的である。プロダクトモデルの歴史は1970年代まで遡り、種々の2次元あるいは3次元CADソフトウェア間で図形データや文字データを有するファイルを交換できるようにするためにIGES(Initial GraphicsExchange Specification:アイジェスと読む)が開発された。IGESは、CAD上の、点、線分、円、円弧、多角形、直方体、円筒、球、角錐、円錐などの幾何形状の他、文字やハッチングパターン等のデータの仕様を標準化したものである。
 

オブジェクト指向

1980年代に入ると、3次元CADが商用化され、航空機や自動車業界では競って、3次元CADを導入した。同時に機械工学の分野で、Feature-based(フィーチャー・ベース)あるいはModel-based(モデル・ベース)という概念が生まれた。これは、3次元CADでモデル化されたパイプやカム、ギアなどの部品をバラバラな幾何形状の単なる集合体という位置付けではなく、パイプならパイプの持つ属性、例えば、内径、外形、延長、材料、強度、ヤング率などの特質(フィーチャー)を有する一つのオブジェクトとして捉え、モデリングする際にもフィーチャーに基づいて、形状や属性を入力してパラメトリックに設計する方法である。
 
この概念の基になっているのが「オブジェクト指向」である。オブジェクト指向は、人工知能の分野で生まれたFrame(フレーム)という概念とプログラミング言語の発展から生まれたObjec(t オブジェクト)という概念が合体したもので、1960年代から萌芽が生まれ、70年代にSmalltalk言語がゼロックス・パロアルト研究所(PARC)で開発されて、コンピュータサイエンスの分野で広がり始め、80年代にC++等の言語が開発されると、オブジェクト指向プログラミングが広く採用されるようになった。
 
さて、フィーチャーベースに話を戻すと、機械系CADでは、パイプやカムといった部品や部材(オブジェクトあるいはエンティティ)の名称、属性、関係などを標準化する必要性が生まれた。なぜなら、数多くのCAD会社が当時、勝手に部品や部材のデータモデルを作り始めたからである。なお、IGESは単なる幾何形状の標準であるからオブジェクトの標準にはなり得なかった。
 

ISO-STEP

1984年、ヨーロッパでは、ISOの中の技術委員会TC184の分科会SC 4がデータの標準である国際規格、略称STEP(Standard for the Exchange of Product Model Data)の策定を始めた。同じ頃、米国ではPDES(Product Data Exchange Specification)を対抗して策定したが、1990年代にISO-STEPに吸収された。
 
ISO-STEPでは、プロダクトモデルを表現するための言語仕様を標準化し、EXPRESS、EXPRESS-Gが決められた。さらに、機械、電子、製造、自動車などの分野のプロダクトモデルの規格化が進んだ。
 

IAI-IFC

ところが、建築や土木分野では、3次元CADそのものをプレゼンテーションなどの目的以外ではほとんど使わなかったことから、プロダクトモデルの策定は進まなかった。そこで、苛立った米国のCADベンダー等の数社がIA(I Industry Alliance for Interoperability)というコンソーシアムを1994年に立ち上げた。当時の最初の「I」はIndustryであった。主にビルディングのプロダクトモデルの標準であるIFC(Industry Foundation Classes)を策定し始めた。1996年に、IAIの最初のIをInternationalに改称し、国際的なコンソーシアムとなった。各国や地域は支部(Chapter)という形をとり、日本も1996年からIAI日本として加盟している。IFCは、非常にシンプルなプロダクトモデルであったが、次第にエンティティ(部材)の数が増え、その後、度重なるバージョンアップ(upgradingが正しい英語の用語)により、部材だけでなく、人間(Actor)、施工過程(Process)などが加わり、エンティティの関係を表した図をプロットアウトすると、畳2畳分くらいになってしまい、2005年ごろには全てのエンティティを一つの図で表現することをIAIでは止めてしまった。その代りにHTMLを使って、コンピュータ上でハイパーメディアとして閲覧できるようにしている。
 
IAIでは、2005年ごろまでは、創設した米国は実はあまり力を入れず、ヨーロッパが中心となってモデル策定を進めていたのであるが、2005年ごろから急に米国でBIMと言い始めて、トップダウンでBIMを推進することになった。そうすると、それまでIFCに対して、それほど積極的とは言えなかったCADベンダー達は、IFCとの互換性を持たせるようになり、そのおかげで、世界中でBIMが話題となり、今のような状態となったのである。
 
 

CIMのためのプロダクトモデル開発略史

前述のように、ISO-STEPではプロダクトモデルの開発に大幅に出遅れた土木分野であるが、わが国においても、鋼橋分野や一部の大学や団体などで、研究的ではあるが、プロダクトモデルの開発は行われてきている。また、海外においても、一部で橋梁や道路などのプロダクトモデルの開発が行われてきている。
 

橋梁

わが国の鋼橋製造会社のいくつかは、船舶製造とのつながりもあったことから、1980年末から3次元CADを使用し始め、数値制御(NC)による鋼板の罫書きやボルトの穴開けなどCAMまで進めていた。90年代末には、数社でコンソーシアムを作り、鋼橋のプロダクトモデルを民間CADソフトウェアベースに策定しようという動きがあったが、その後の公共工事の大幅削減等により、そうした活動はなくなってしまったようである。
 
筆者は、2000年から建築分野のIFCをベースに橋梁に必要なエンティティのみを新たに加えて、鋼桁橋のプロダクトモデルYLSG-Bridgeを作成し、その後、2002年にプレストレスト・コンクリート建設業協会との共同研究により、PC/RC橋梁のプロダクトモデルYLPC-Bridgeを開発した(図-3、図-4)。

  • 図-3 鋼桁橋のプロダクトモデルの例

    図-3 鋼桁橋のプロダクトモデルの例

  • 図-4 PC中空床版橋のプロダクトモデル図

    図-4 PC中空床版橋のプロダクトモデル図

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ちょうど同じころ、フランスの国立建築土木研究所CSTBが中心となって活動しているIAIフランス語圏支部では、SETRA(日本の国総研に相当)が1998年に開発したOA-EXPRESSと呼ばれる橋梁のプロダクトモデルをIFCを拡張するという方法で翻訳し、IFC-Bridgeという名称でIAIの国際会議で発表した(図-5)。筆者と似たアプローチであったため、別々に開発するより、2つのモデルを合わせて、共同で開発する方が、国際的に展開できると考え、2004年フランスに行き、共同開発することで合意した。さらに、日本学術振興会(JSPS)とフランス外務省による日仏二国間国際共同研究SAKURAに申請したところ、幸運にも採択され、2005年から2007年にかけての2年間、共同で新IFCBridgeを開発した(写真-2)。IAI Internationa(IAIの親組織)に新IFC-BridgeをIFCの拡張として認めてもらうように申請を行ったが、資金不足から途中でストップした。また、すぐには国際標準になったり、IAIで認められることにはなりそうもない、とCADベンダーに判断されてしまったため、互換性を持たせるようなアクションを取った会社はない。その後の経緯については、後に記す。

  • 図-5 IFC-Bridgeによる橋梁モデル図

    図-5 IFC-Bridgeによる橋梁モデル図

  • 写真-2 IFC-Bridgeの会議

    写真-2 IFC-Bridgeの会議
    (フランスCSTB、ソフィア・アンティポリスにて)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

道路

道路については、旧道路公団が、高速道路のエンティティの関係を示したプロダクトモデルJHDMを2005年に開発したが、公団の分割民営化に伴い、利用されてこなかった。ただし、最近、土木学会土木情報学委員会道路業務プロセス小委員会で、見直しを始めている。
 
道路の線形形状と地表のモデルとしては、LandXMLが世界各地で利用され、Autodesk社のCivil 3Dと互換性があることから、道路モデルのデファクトスタンダードになると期待されたが、コンソーシアムであるLandXML.orgは2012年、WEBサイトを閉鎖した。LandXMLの現状と今後については、後に記す。
 
わが国の国総研では、道路の中心線形標準データモデルとしては、LandXMLは用いず、XMLで別途開発し、道路の情報化施工に利用できるように整備されている。
 
この他、ドイツではOKSTRAと呼ばれる道路のネットワークモデルがあるが、ドイツ語でのみ記述されているため、内容については不明である。
 

シールドトンネル

シールドトンネルについては、2005年から2007年にかけて、筆者と日本建設情報総合センター(JACIC)との共同研究により、プロダクトモデルIFC-ShieldTunnelを開発した。
 
当時、シールドトンネルを選択したのは、世界のシールドトンネルの総延長の約半分が日本にあったから、日本でプロダクトモデルを作成することは世界にとっての責務であり、今後の世界展開を考えた場合、有利であるとも考えたからである。IFCを拡張することによって、シールドトンネルのプロダクトモデルを実装したのは、IFC-Bridgeの際と同じ理由である。IFC-ShieldTunnelは2007年に完成したのであるが、IFCBridgeと同様、CADベンダーはどこも互換性を持たせるような行為はしなかった。
 
その後、IFC-ShieldTunnelの開発は、筆者とIAI日本土木分科会および土木学会土木情報学委員会国土基盤モデル小委員会によって引き継がれ、2009年に全体的にエンティティの追加と修正を施し、ドキュメントも整備した(図-6)。
さらに、2010年には、開削トンネルのプロダクトモデルIFCCut&CoverTunnel(図-7)を、2011年には、山岳トンネルのプロダクトモデルIFC-MountainTunnel(図-8)を開発し、2012年に以上3つのトンネルのプロダクトモデルを統合化して、IFC-Tunnelを完成させた。
 
なお、IFC-ShieldTunnelについては、2009年から2011年にかけて株式会社大林組の古屋氏らによって東京の大井トンネルの建設現場でセグメントリングのモデリングなどに活用された。いまだCAD等のソフトウェアがIFC-ShieldTunnelとの互換性を持たせていないのに、利用することができたのは、IFCの中にあるIfcBuildingElementProxyと呼ばれる「代理エンティティ」による「読み替え」を行ったことによる。

  • 図-6 IFC-ShieldTunnelによる地層、空洞、セグメント

    図-6 IFC-ShieldTunnelによる
    地層、空洞、セグメント

  • 図-7 IFC-Cut&CoverTunnelによる土留め支保工と開削トンネル

    図-7 IFC-Cut&CoverTunnelに
    よる土留め支保工と開削トンネル

  • 図-8 IFC-MountainTunnelによる山岳トンネル

    図-8 IFC-MountainTunnelによる山岳トンネル

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
海外のCIM事情《その1》
海外のCIM事情《その2》
海外のCIM事情《その3》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



海外のCIM事情《その1》

 

大阪大学 大学院工学研究科
環境・エネルギー工学専攻 教授 矢吹 信喜

 

BIMからCIMと建築と土木

図-1 日本と欧米の土木・建築の分け方の違い

図-1 日本と欧米の土木・建築の分け方の違い


2005年頃から建築分野で世界的にBIM(Building Information Modeling)という言葉が広まり、先進各国で本格的にBIMの導入に取り組んでいる。わが国においても、国土交通省が2010年度からBIMの試行プロジェクトを開始した。一方、土木分野では、2012年度にBIMの土木版であるCIM(Construction Information Modeling)を国土交通省が提唱し、試行プロジェクトを全国で展開している。
 
日本では土木と建築を対象とする構造物ではっきりと分けている。すなわち、道路、鉄道、橋梁、トンネル、河川、港湾などの社会基盤施設が土木分野で、ビルディングや家屋は建築分野となっている。しかし、欧米に目を転ずると、実はCivil EngineeringとArchitectureは日本の土木と建築とは相当に分け方が異なるということに気付く。図-1に示すように、構造物の種類に関わらず、構造、水理、土質、材料、施工、環境、設備といったサイエンスのうち、主に力学(熱力学を含めて)に立脚している学問分野がCivil Engineeringであり、意匠設計や景観といった美学や感覚といった職人的な教育を行うのがArchitectureである。従って、Civil Engineeringの方がより広い範囲をカバーしているため、大体どこの大学にもCivil Engineeringの学科はあるが、Architectureは数多く学科を作ってしまったら就職先がなくなるので少ないだけでなく、工学部の中にはなく、建築学部として独立しているか美術系や生活系の学部に属していることが多い。また、通常の4年教育ではなく、5年教育を課していることがある。
 
筆者は昔、米国のスタンフォード大学のCivil Engineering学科で構造工学の授業を受けた時、ビルディングの構造と基礎に関することばかりだったので大いに面食らったが、欧米では当然ということだった。
 
従って、BIMというのは、欧米の場合、Architectureを学んだ建築設計者とCivil Engineeringを学んだ構造・地盤、設備、生産、施工技術者が、フロントローディング(設計の前倒し)によって、同じ土俵でプロジェクトを進めようとする相当に果敢なチャレンジをしているとも見ることができる(図-2)。
一方、日本の建築分野は意匠設計者も、構造・地盤、設備、生産、施工技術者も建築を一緒に学んだ「仲間」がBIMをやっているという見方もできるのである。
図-2 BIMによる異なる技術者らによる協調的作業

図-2 BIMによる異なる技術者らによる協調的作業


 
日本では土木と建築の区分は極めて強く、構造や土質などはほとんど同じようなことを扱っているのに、会社や役所では縦割りになっている。学の世界でも、多少はクロスオーバーがあっても、土木で使う、死荷重、活荷重、照査などの用語は建築では使っていない。従って、BIMからCIMへの水平展開は、日本の方が欧米よりもハードルが高く、より多くの努力を要するかも知れない。また、CIMというと欧米では、土木建築両方の構造物の施工(Construction)段階のみを対象としていると捉えられる可能性があり、国土交通省が提唱するCIMはBIMを含むという概念には首をかしがれる可能性がある。なお、CIMという言葉は、機械や情報の分野ではComputer Integrated Manufacturing(コンピュータ統合生産)を意味し、あちらの方が歴史があるので使用する際は注意が必要である。
 
しかしながら、筆者は国土交通省がCIMを提唱し、推進していることを非常に喜んでいるのである。なぜなら、3次元モデルを中心としてライフサイクルを通じて上流から下流の技術者が協力しながらプロジェクトを進めていくというビジネスプロセス変革は筆者のライフワークだからである。
 
 
 
 

アジアのCIM事情

写真-1 第8回アジア建設IT円卓会議記念講演会(JACIC撮影)

写真-1 第8回アジア建設IT円卓会議記念講演会(JACIC撮影)


スタンフォードでの構造工学の講義はビルディングの構造と基礎が多かったと前述したが、これは米国の建設事業の8割から8割5分くらいがビルや家屋などで、社会基盤施設の建設は少なかったことに由来する。最近は、オバマ大統領は社会インフラの建設は重要だと力説し、予算も割くようになったので増えているかもしれないが、およそ、先進国は社会インフラの建設はどこかで頭打ちになってしまう。一方、近年、経済発展が著しいアジアの国々では、社会基盤建設は国造りの上で重要であるから、CIM、すなわち「土木版BIM」にどう取り組んでいるかを知ることは価値があると考えらえる。以下、2012年8月に開催されたアジア建設IT円卓会議記念講演会(写真-1)における講演内容とその後の情報収集によって得られた情報を記す。
 

中国

中国は、大規模な社会インフラ建設プロジェクトが数多くあり、今後も広大で未開発な内陸部の開発が済むまでかなり長い期間、建設投資は増え続け、経済をけん引すると予想される。これらの大規模建設プロジェクトを推進していく上で、新技術、イノベーションが要求され、国家技術進歩賞などを目標とするため、行政が企業に対して情報化やBIM推進を要求しているのが現状である。政府の力は非常に強いので、企業は採算度外視で3次元CADや3次元構造解析ソフトウェアの導入や利用を進めている。例えば、2007年に建設部(日本の国土交通省に相当)は、特級ゼネコンに対して、2010年までに、特級として要求される情報化水準を満足しなければ「特級」資質を剥奪すると通達し、264個のゼネコンが情報化を始め、金融危機で2年間延期になったが、ほぼ全て合格したという。
 
「2011-2015建設業情報化発展計画要綱」では、企業情報化管理システムとして、システムの統合化・知能化・自動化、ERP、E-Commerceなど、最新情報技術の適用として、BIM、HPC、VR、自動測量、RFID、SHMなどが、情報化標準として、分類とコーディング、データ交換、電子図面、電子納品などが挙げられている。
 
一方、行政は、計画経済情報化やBIMを推進するために、研究プロジェクトを立ち上げ、研究予算を配分している。国レベルの研究プロジェクトとしては、都市の計画・設計・施工・管理のデジタル化、建設業の情報化、グリーン施工、等がテーマとなっている。こうした研究の成果を実際のプロジェクトに応用することを行政が要求することから、全体として情報化が推進することにつながっている。
 
中国におけるBIMに関する情報は、主に清華大学土木工学科のZhiliang Ma教授によるものである。
 

韓国

韓国では国土海洋部(日本の国土交通省に相当)が2009年に国家BIMロードマップを制定したことから、建築分野においてBIM採用の気運が高くなった。同年に国家BIMガイドラインを、2010年に国家建築BIMガイドを策定した。調達庁では、短期、中期、長期にわたるBIM採用計画を立て、2012年には、調達庁が発注する約34億円(日本円に換算)を超えるターンキー契約(設計・施工一括)のプロジェクトにはBIMを適用させることが義務付けられ、2013年から全ての34億円以上のプロジェクトにBIM採用を指導し、2016年から建築、土木問わず、全ての調達庁発注プロジェクトはBIMを採用する、という計画になっている。
 
BIMは建築分野で採用することは規定路線であるが、公共土木構造物に適用するとなると、便益はあるものの、
BIMに関する知識の不足、ソフトウェアが未対応であること、標準化されたパーツの不足といった障害も予測されている。こうした課題に対して、延世大学土木工学科のSang-Ho Lee教授は、新たにIFCに土木用のエンティティ(部品)を加える方法とは別に、既存のIFCを利用しつつ、属性情報(Property Set)だけ土木用に変更する方法が当面、現実的であると提案している。韓国では、大手建設会社や建設コンサルタント会社では既に実際の公共土木プロジェクトに3次元あるいは4次元モデルを適用させている。
 
以上の情報は、上述のSang-Ho Lee教授の資料によるものである。
 

香港

香港では、2007年に10大インフラストラクチャ・プロジェクトを開始した。これらには香港地域内の鉄道、高速道路や土地開発の他、中国との境界線上の橋梁や道路などが含まれている。特筆すべきなのは、香港では、こうした公共建設工事は、極めて大きな経済効果をもたらし、付加価値が高く、25万人の新たな雇用も生み出す効果もある、と政府が高らかに宣言していることである。日本のように、公共事業というと「無駄」、「箱モノを作っても経済や雇用に効果はない」、「コンクリートより人」などと言っている国とは大違いである。
 
香港でも、建築分野ではBIMに力を入れており、官民双方でBIM化に取り組んでいるが、公共土木工事の方は、意外に保守的でBIM(日本で言うところのCIM)は検討中とのことである。
 
香港は土地が狭く、人口が大きいため、3個の埋立地にゴミなどの廃棄物が捨てられているが、2018年までに順次2年ごとに満杯になってしまうため、廃棄物削減は喫緊の課題となっている。同時に、二酸化炭素(CO2)排出削減も重要な課題である。しかしながら、前述のように大型社会インフラ工事が目白押しであることから、建設廃棄物とCO2排出の増加が懸念されている。そこで、香港では、BIMを使って新しく建設するビルと既設のビルに対して、ライフサイクルを通じて、廃棄物とCO2排出に関する管理を行うこととしている。こうした動きは、土木構造物にも適用されるであろう。
 
以上の情報は、香港科学技術大学土木工学科のJ.S.Kuang教授によるものである。
 

台湾

台湾でも、建築分野でBIMが盛んに採用されつつあるが、中国と異なり、政府はあまり熱心ではなく、むしろ民間会社と国立台湾大学などの産学が各々BIMセンターを2009年から2011年にかけて設立し、BIMを広めようと努力している。
特に国立台湾大学のNTU BIMセンターでは、実習ワークショップ、個別課題短期コース、BIM四半期レビューフォーラム、月例BIM朝食会議などを産業界の技術者らに提供するとともに、各種マニュアルや雑誌を発行している。大学教育においても、国立台湾大学土木工学科では、「工業図学(2単位)」で2次元AutoCADと3次元SketchUp、アニメーションBlenderを教え、「工業情報マネジメント(3単位)」、「BIM技術の応用(3単位)」の各教科目を提供している。
 
政府はBIMに対して戦略的な計画や標準化をしようといった動きも特にないが、研究資金を提供したり、台北市のMRT(地下鉄)プロジェクトにBIMを使うことを認めたりしている。
 
MRTのLG05駅のプロジェクトでは、Sino Tech社がBIMモデルを使うことによって、地下の上下水道配管と地下構造物との干渉チェックや、空調や電気設備の配置検討などを行い、効果を挙げた。
 
これらの情報は、主に国立台湾大学土木工学科のPatrick Hsieh教授によるものである。
 

シンガポール

シンガポールの建設事情は、安全性が第一ということで、ビルディングの構造設計は、政府以外の認定された第三者的な検査技術者によって検定が実施されるとともに、構造設計基準を欧米の状況を見ながら常に最新式のものにしている。第二が生産性であり、BIMによる建設プロジェクトの統合化に官民挙げて取り組んでいる。BIMの戦略については、政府主導で進められ、BIM資金振興、トレーニングなどを展開している。2011年には、BIM 電子納品システムによる3次元モデルデータの政府への提出が始まっている。また、国立シンガポール大学土木環境工学科では、BIMのセミナーを学生に対して提供している。
 
シンガポールも香港同様、国土の面積が小さいこともあり、構造物の解体撤去に伴う廃棄物処理が喫緊の課題になっている。建設廃材を将来的にリサイクルするために、Designed for Disassembly(分解のために設計:DfDと略す)というコンセプトを推進している。DfDを実現するために、このコンセプトに合致する「標準的な」材料、部材、形式(主にプレキャスト部材)などを技術者や建築設計者が熟知する必要があることから、DfDデータベースが提供されている。
 
これらの情報は、国立シンガポール大学土木環境工学科のSomsak教授によるものである。
 
 
 
海外のCIM事情《その1》
海外のCIM事情《その2》
海外のCIM事情《その3》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



建設現場のクラウド活用-“スマートデバイス”と“Field Pad”-《後編》

2014年4月15日

 

大成建設株式会社
建築本部建築部 田辺 要平

 

利用形態の多様性とセキュリティ

現場風景
「Field Pad」の利用対象者には、アプリの企画段階から当社の役職員だけでなく、協力会社等の工事関係者の方々も含まれていた。
「建設サイト」を利用して、工事ごとのプロジェクトサイトで情報共有を行っている当社の工事関係者5,700社、3万人以上のユーザーも利用できるアプリであることが大切であった。
しかし、そのほとんどが当社以外の工事も多く請け負っている企業である。
「建設サイト」を利用しない工事でも「Field Pad」を活用できるようアプリの対応クラウドサービスに「Dropbox」も追加できるようにした。
 
次に、アプリのセキュリティと配布方法が大きな課題となる。
建設業全体が情報漏洩防止策を重視している中で、スマートデバイスはある意味「悪」でもある。
しかし、特別なセキュリティ対策を施した端末による企業導入を正式に実施するには、そのコストと似合うメリットを見出す必要があるのだ。
「Field Pad」は、「建設サイト」を利用しているユーザーに対して高セキュリティなアプリへと切り替わる。
アプリ起動時に4桁のパスコードを求められ、5回間違えるとアプリ内のデータが消去されるローカルワイプ機能と、端末を紛失した際に「建設サイトヘルプデスク」へ連絡することで、アプリ内のデータに対して遠隔削除の信号を流せるリモートワイプ機能が三菱商事から提供されるのだ。
 
端末所有者のセキュリティに対する意識と関係なく、「Field Pad」がアプリ単体で情報漏洩を防止できるようになっている。
このようにして、「Field Pad」は、特別な端末管理システムを導入した会社貸与のiPhone/iPadでも、既に所有している私物のiPhone/iPadであっても同様のセキュリティレベルを実現している。
 
またアプリの配布は、当社役職員や5,700社の工事関係者へリーチしなければならいことから、ビジネスコンシューマー向けのアプリとしてApple社の「App Store」を利用している。
手続きの手間はかかるものの、この「App Store」で公開し販売することで、アプリの不具合修正やバージョンアップ時の配布手間を簡素化できているのも事実である。
 
 

「Field Pad」の主な機能

図-5 アドオン設定画面

図-5 アドオン設定画面


あらためて「Field Pad」の主な機能を挙げると次の通りである。
1.クラウドサービス「Dropbox」や有料アドオンとして三菱商事株式会社が運営するASPサービス「建設サイト」などの閲覧機能
 
2.設計図などのマルチページPDFでもストレスなく利用できるよう配慮された各種形式のファイルにも対応したドキュメン卜ビューア
 
3.図面や文書内の特定箇所へのピンドロップし、コメントやタグ、写真などを添付できるメモ機能
 
4.パスコードによるローカルワイプ、リモー卜ワイブなどのセキュリティ機能(建設サイト利用時)
 
5.コクヨS&T株式会社による有料アドオン「伝票@Tovas」(別途申し込みが必要)と連携し、ピンに添付された情報を使った報告書や品質記録書類などの自動書類化機能
 
 
 
 
 
 
 

より多くの工事関係者と企業に

このような生い立ちで生まれた「Field Pad」は、iPhone/
iPadの利便性をできるだけ損なわず、業務利用で問題視されるセキュリティに関する課題を克服(建設サイト利用者に限る)したアプリとして多くのユーザーに活用してもらえることを狙いとしている。
 
また本稿を通して、社外の関係者との情報共有が重要な建設業において、「Field Pad」のようなアプリを活用するためには、クラウド上で業務を行うことが重要であり、その発展性を改めてご理解いただけたと思う。
 
「Field Pad」は、まだ始まったばかりである。本稿の執筆段階では最新バージョンは 1.1.8 だが、すぐに 1.1.9 を公開する予定だ。
ともに大きな機能変更はなく、不具合修正がメインのバージョンとなる。
これから先のロードマップによると、機能追加の実装は1.2.x系から開始する予定となっている。
 
 

付記

Field Pad サポートページ http://www.fieldpad.jp
iPhone/iPadで動作するユバーサルアプリとして1,500円で販売中
 
●「Field Pad」は、大成建設株式会社の登録商標
●「建設サイト」は、三菱商事株式会社の登録商標
●その他、記載されているシステム名、製品名は各社および商標権社の商標登録あるいは商標である
 
 
 
建設現場のクラウド活用-“スマートデバイス”と“Field Pad”-《前編》
建設現場のクラウド活用-“スマートデバイス”と“Field Pad”-《後編》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設ITの最新動向」
建設ITガイド2013
 
 



建設現場のクラウド活用-“スマートデバイス”と“Field Pad”-《前編》

 

大成建設株式会社
建築本部建築部 田辺 要平

 

時代の流れの中のスマートデバイス

図-1 使い勝手にこだわったユーザインターフェース(iPhoneの場合)

図-1
使い勝手にこだわった
ユーザインターフェース
(iPhoneの場合)


携帯できる端末を持ち歩きながら建設現場で業務を行うという試みは、タブレット型のPCが流通するようになった1990年の中頃から徐々に行われてきた。
その後、Windows CEなどの組み込み汎用OSの端末も市場に登場していたが、初代iPhoneがアメリカで発売された翌2008年に日本でもiPhone3Gが入手・利用できるようになり状況が一気に変化した。
これまで発売されてきたWindows系のOSやPalm OSを搭載したPDA端末、SymbianやBlackBerryを代表する電話用OSによる既存の携帯端末とは、全く異なるアプローチのデバイスであった。
いわば、何年もかけて徐々に作られていくはずの理想的なスマートデバイスがいきなり究極解の形で登場したのだ。
常時インターネットに接続された携帯端末とはどうあるべきなのか…カメラ機能、GPSに加速度センサー、高精細のマルチタッチ液晶パネルの組み合わせによる驚くべきインターフェース。
はじめてiPhoneのデモストレーションを見た時、多くの人が「通話機能でさえ、ひとつの単なるアプリケーションにしか過ぎない」と気がついたはずである。
 
このような脅威的なデバイスが、iTunesとiPodで作り出してきた「コンテンツ、流通、デバイスと周辺機器、そしてユーザーに構成される壮大なる生態系」に投入されたのだ。
(筆者は、iPodで音楽を聴く=パソコンから音楽ファイルを転送するというスタイルが、これだけ多くの人たちに3~5年で受け入れられたことに驚いている)
 
一方、その間、インターネット上ではASP・SaaS・Paasなどが生まれ、2006年にGoogleのエリック・シュミットによる発言で「クラウド」という表現でくくられるようになり、さらに一般化していった。
 
その「クラウド」上のサービスは、人とのコミュニケーションというファンデーションな部分から台頭し、今ではTwitterやFacebookなどのソーシャルネットワークは社会の一部となってきている。
そして、それを決定付けたのもスマートデバイスの普及であったことを忘れてはならない。
TwitterもFacebookもPC向けのWEBサービスだけでは、今のような状況はあり得なかったといえる。
 
これらの事実は、1990年代からiPhone前までにわれわれがやってきた「建設現場での携帯端末活用」の時代とは全く異なる土壌が育ったことを示し、その要素を取り入れることが重要であると強く考えている。
過去に行ってきた特定業務の専用携帯端末としてではなく、携帯電話の普及に近いものとして捉えるべきであると。
 
 

情報共有を助ける「現代の野帳」

図-2 建設サイトとの利用イメージ

図-2 建設サイトとの利用イメージ


建設現場で働く技術者は、測量結果や調査結果を記入するために「野帳」と呼ばれる小型の丈夫な手帳を常に持ち歩いている。
野帳は建設現場で昔から広く使われてきた代表的なデバイスの1つである。
 
「Field Pad」 は、建設現場でのさらなるクラウド活用を目指して開発したiPhone/iPad用アプリで、「インターネットに常時接続された現代の野帳」を実現させることを目標としている。
 
それは、何か特定業務を対象としたものではなく、さまざまなシーンで利用されるものでなければならず、業務システムというより電子文房具に近いアプローチである。
このコンセプトを具現化するためにアプリ開発のパートナーとして、iPhoneアプリや国産ブラウザ「Sleipnir」で有名なフェンリル株式会社を迎えて業務システムとは異なる使い勝手を実現している。
 
当社は、2003年から三菱商事株式会社が運営するASPサービス「建設サイト」を全面採用しており、常時1,000ヵ所以上の工事ごとに専用のプロジェクトサイトを持ち、本社や支店と各工事間の社内共有だけでなく、協力会社や発注者、そして設計事務所との情報共有を行っている。
それぞれの工事規模に関係なく、インターネット上では同じ仕事のやり方を「建設サイト」の中で行っているのだ。
結果、図面関係のファイルだけを取り上げても、月間50万枚以上の図面がセキュリティの高い「建設サイト」からダウンロードされながら全国の建築工事を行っている。
 
図-3 ピンに添付された情報(iPadの場合)

図-3 ピンに添付された情報(iPadの場合)


このようにクラウドへ依存した施工管理業務では、現場で見たい図面を、現場事務所の自席にあるパソコンまで戻り、クラウドへログインし、ダウンロードしてから印刷、そして現場へ戻るよりも、スマートデバイスでクラウドにある最新ファイルを閲覧する方が便利だと感じるのも自然の流れといえる。
それはまるで電話をかけるために事務所に戻らなくても、その場で話せる携帯電話が便利だと感じた「あのとき」と似た感覚なのだ。
 
また「野帳」に書き込む内容には、場所や箇所情報を含むものが多い。
そこで「Field Pad」には、クラウドからダウンロードした図面の任意の箇所にピンをドロップし、さまざまな情報を添付できる機能がある。
テキストやタグ、写真/動画/音声メモなどが記録できるようになっているのだ。
もちろん、テキスト入力ではiPhoneやiPadに標準で備わっている「Siri」を使うことも可能。
 
これらは全て汎用的な機能として提供されるため、ピンを立てる図面の種類によって、現地調査から始まり、現場場内の安全管理や品質管理までさまざまな業務シーンで利用できるアプリに仕上がっている。
 
図-4「伝票@Tovas」による帳票出力例

図-4「伝票@Tovas」による帳票出力例


またコクヨS&T株式会社の帳票作成サービス「伝票@Tovas」(別途有償)との連携により、撮影した現場写真や記入したデータを「伝票@Tovas」に送って、工事記録写真台帳などの報告書を自動作成できるようになっている。
しかも、この「伝票@Tovas」では、ウイングアーク株式会社の「SVF」をPDF化エンジンに採用しており、各企業ごとの独自レイアウト書類への出力にも対応できるサービスとなっている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
建設現場のクラウド活用-“スマートデバイス”と“Field Pad”-《前編》
建設現場のクラウド活用-“スマートデバイス”と“Field Pad”-《後編》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設ITの最新動向」
建設ITガイド2013
 
 



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