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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

CIMにおける3DPDF活用法

2017年6月30日

 

はじめに

平成24 年に始まったCIM試行も5年が経過し、この春からは本格導入が予定されています。この期間に、施工会社は効率的なモデリング方法や共有方法、また費用対効果の高い実施方法などを試行錯誤してきました。
 
また設計ソフトから自動で橋梁3Dモデルを作成するシステム「BeCIM」(JIPテクノサイエンス)、「C-modeler」(伊藤忠テクノソリューションズ)など、ソフトベンダーより3Dモデルを効率的に作成するアプリケーションの提供も増えてきました。弊社が開発・販売している2次元の設計図面から橋梁3Dモデリングを行うツール「Click3D」もおかげさまで、国交省発注工事で40件を超える利用実績を数えるまでになりました。
 
一方でその3Dモデルを操作して現場で活用している人はまだまだ一部の方に留まっているのではないでしょうか。そもそも現場の方は、3DCADの専門家ではありませんし、3DCADへの心理的な抵抗感、ハードルが高いようです。
 
そこで現場の方にも3Dモデルを使ってもらう方法として、3DCADデータを無償のPDFリーダで閲覧が可能な3DPDFに変換して利用するシーンが少しずつ増えています。今回はCIMにおける3DPDFの活用の可能性についてご紹介いたします。
 



 
 

3DPDFとは

3DPDFは、3Dモデルを画像やテキストと同様にひとつの情報としてPDF内に埋め込んだもので、無償のPDFリーダで閲覧、操作可能なPDFファイルです。また3DPDFは特定の企業のフォーマットではなく、国際標準化機構(ISO)が認証した国際規格ですので、長期保存を前提とした納品データとしても安心感があります(図-1)。
 

図-1 スマートスケープ社のHPより




 
 
特長としてその扱いやすさがあります。Windowsパソコンにおいて世界でもっともインストールされている無償の文書閲覧ソフト AcrobatReaderで動作するので、3Dモデルを閲覧操作するために特定のソフトウェアをインストールする必要がありません。また3DCADのネイティブファイルに負けず劣らず「軽量」のため操作性も良いです。
 
最近は3DCADから3DPDFに出力できたり、3DCADにアドオンインストールして利用するアプリケーションもサードパーティーからリリースされています。
 
アドオンソフトのひとつ、スマートスケープ社が提供する「3DPDF forNavisworks」はその製品名のとおり、オートデスク社の3Dモデル統合ソフトウェアNavsiworksから3DPDFに変換できるアプリケーションです。Navisworks側で保存したビューや属性情報も3DPDFに変換されるためCIMモデルの納品データとして利用可能です。
 
Navisworksのネイティブファイル(nwd)はオートデスク社のHPから無償のフリーダム版をインストールすれば誰でも利用可能ですが、特に発注者は無償とはいえ特定のソフトウェアをダウンロード・インストールすることは簡単ではありません。3DPDFだと発注者のパソコンにインストールされているAcrobat Readerで閲覧できるので手軽に利用が可能です。
 
3DPDFファイルを開くとビュー画面に図のようなメニューが表示されます。その中にある「3Dものさしツール」を使うと3Dモデルに対して各種計測を行うことができます(図-2)。
 

図-2 3Dものさしツール




 
 
計測を行う前に、スナップ設定と測定タイプを選択します。選択可能な【スナップ設定】は画面左から、①エッジの終点 ②線のエッジ ③円のエッジ ④シルエット ⑤面、【測定タイプ】は左から、①3D ポイント間計測 ②3D 垂直寸法 ③3D 円形寸法 ④3D 角度測定、となります。それぞれ複数の選択が可能です。
 
もはや計測機能としては、3DCADと同等の機能と言ってもよいのではないでしょうか(図- 3)。
 

図-3




 
 
スナップ設定と測定タイプを選択したら、3D画面で対応する点や面を指定するだけです。寸法線は3DPDF内の視点に登録されますので、一度PDFを保存すれば次に開いた時にも数値を確認することができます。
 
橋梁3Dモデルの場合、図-4のように(1) 2 点間距離、(2) 排水管の中心と主桁との距離、(3) 橋台の橋座面の角度、(4) 落橋防止装置のキャップの直径、(5) 桁端の遊間などの計測が行えます。
 

図-4




 
 
設計部門で作成した3Dモデルを施工部門で利用する場合に、ちょっとした寸法の確認をするのも簡単に行えます。
 
 

CIMモデルとしての3DPDF

3DPDFをCIMモデルとして利用するためには属性情報を扱えることが必須です。「3DPDF for Navisworks」を利用すると、Navisworksで付与された属性情報も3DPDFに変換されますが、属性の確認方法としては3Dモデルから部材をクリックすることになり、検索機能もありません。
 
維持管理で3DPDFを利用するためには任意のキーワードで属性情報を検索したいシーンがあるはずです。また維持管理段階では点検した結果を属性情報として3Dモデルに登録したいはずです。
 
そこで、弊社オフィスケイワンはAcrobat Readerで属性検索や属性の追加が可能な3DPDFテンプレートを用いた「CIMモデル管理システムCIM-PDF」を開発しました。次章ではその属性編集機能付き3DPDF「CIMPDF」をご紹介いたします。
 



 
 

CIM-PDFでは何ができるのか?

CIMモデル(3D形状+属性)を3DPDFに変換したデータで、無償のAcrobat Readerで閲覧、属性検索が可能な、属性編集機能&オンラインヘルプ機能付の3DPDFファイルです。
 
(1)機能概要
・CIM-PDFは Acrobat Reader で閲覧、属性検索ができて、外部参照ファイルにもアクセス可能です。
・施工記録や維持管理の点検記録などの属性情報を Acrobat Reader で追加保存が可能です。
 
(2)特長
無償のPDFビューワ(Acrobat Reader)でCIMモデルに対し、設計情報・施工情報などの属性の閲覧、検索、属性の追加保存が可能となります。またCI MPDFの操作方法を解説したヘルプサイトがインターネット上に用意されているので、初めて作業する人も安心して
扱うことができます。
 
(3)期待される効果
無償のPDFビューワ(Acrobat Reader)でCIMモデルを運用できるため、施工現場で市販の3Dモデル統合管理ソフトウェアを用意する必要がなくなるため、運用コストを大幅に削減することが可能です。
 
また、設計情報や施工管理記録が属性情報として付与されたCIMモデルが無償のPDFビューワ(AcrobatReader)で利用できることで、インフラ管理者にとって市販のソフトウェア導入費の負担がなく、将来の維持管理の高度化、効率化への貢献が期待されます(図- 5)。
 

図-5




 
 

CIM-PDFの使い方

CIM-PDFの作成はNavisworksで行います。アドオンソフトの「3DPDFfor N avisworks」を実行して、今回開発したテンプレートPDFファイルを指定するだけです(図-6)。
 

図-6




 
 
作成したCIM-PDFをAcrobat Readerで起動すると下図のように、画面右側に専用のメニューが表示されます。これを「CIM-PDFメニュー」と呼称します(図-7、8)。
 

図-7




 

図-8




 
 
CIM-PDFではアニメーション再生、属性情報の表示、検索、属性情報の追加などが可能です。順に解説していきます。
 
(1)アニメーション再生
アニメーション再生ボタンを押すと、登録されている視点を先頭から順に2秒間隔で表示します。
点検動線として視点を登録しておくと、ウォークスルーアニメーションとして利用できます(図- 9)。
 

図-9




 
 
(2)属性参照(部材クリック)
部材選択ボタンを押下して、3D画面上で部材をクリックすると登録済みの属性情報をポップアップ画面に表示します(図- 10)。
 

図-10




 
 
(3)属性参照(検索)
検索条件を設定後にボタンを押下すると、検索結果が3Dモデルにハイライト表示されます。マウスでハイライトされた部材をクリックすると登録済みの属性情報がポップアップ画面に表示されます。例えば鋼橋の場合、板厚や材質ごとに検索が可能になります(図- 11)。
 



 

図-11




 
 
ポップアップ画面の属性値にファイル名がある場合は、クリックすると該当ファイルが起動します。3Dモデルにひも付けられた設計図面や施工管理の帳票や写真などがクリックするだけで開きます(図- 12)。
 

図-12




 
 
下図(図-13)は属性管理ソフトとCIM-PDFの属性を比較した例です。
 

図-13




 
 
(5)属性の追加保存
施工管理や現場で得られた出来形記録などをAcrobat Readerを利用して3Dモデルに紐付けることが可能です。3Dモデルの名称と紐付けるファイル名(PDFや画像ファイルなど)を
CSVにまとめてCIM-PDFメニューにある属性追加ボタンで指定するだけです。追加された属性名と属性値はその後の検索にもヒットします(図-14)。
 

図-14




 
 
(6)検索結果のCSV保存
Acrobat Pro DCでCIM-PDFを開いて、属性検索(板厚、材質)を行った場合、同じCIM-PDF内に添付ファイルとして検索結果のCSVファイルが保存されます(Acrobat ReaderではCSVの保存はされません)。検索結果のCSVファイルは属性を新規追加するときの下敷きとして利用すると便利です(図- 15)。
 

図-15




 
 
属性モデルの専用ソフトウェアとCIMPDFの機能比較は下表(表-1)の通りです。
 

表-1




 
 
CIM-PDFの機能面での課題として、
・道路中心線(3Dポリライン)、テキスト、テクスチャ(地形等)対応
・属性のCSV一括出力機能の追加などがあります。これらは今後順次対応予定です。
 
また、CIM-PDFはCIMモデル管理システムとしてNETIS登録を申請中(執筆時点)で、橋梁以外の構造物(コンクリート橋、土工、ダム、河川、トンネルテンプレート)の対応は検討中です。
 
 

おわりに

CIM-PDFは弊社のCIM支援サービスのひとつとして提供を行っていますが、テンプレートの販売も開始する予定です。CIMモデルは設計、施工、維持管理の各工程で活用されてこそ効果を発揮するものです。無償のPDFリーダで利活用できるCIM-PDFを新たなCIMツールとしてご提案していければ幸いです。
 



 
 
では3DPDFのモデル自体を編集したい場合はどうしたらよいのか?その答えとして、有償ソフトにはなりますがAcrobat Pro DCとTetra4Dを使うと、3DPDFのモデルを追加編集できます。他工区とのモデル統合や、維持管理段階でのモデル修正などが必要な場合でも編集作業が可能です。
 



 
 
属性情報を用いたより高度なシミュレーションなどは対応する専用アプリケーションで行い、単純な属性閲覧作業などは3DPDFを利用するなど、CIM活用シーンに応じて使い分けることで、CIMモデルを扱える対象人口が増え、費用対効果の高い『持続可能なCIM』が可能になるのではないでしょうか。最後まで読んでいただきありがとうございました。
 



 
QRコードをスマホなどのリーダーで読むと、CIM-PDFのWEBサイトが表示されます。
 
 
 

オフィスケイワン株式会社 保田 敬一

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集1「i-Construction時代の到来とCIM」



 
 



建設業界におけるVR活用の現状と将来-デジタル空間を人間に伝える再生装置はここまで進化した-

2017年6月24日

 
建物や街並みなどの3D映像を、まるで現実のように体験できるVR(バーチャルリアリティー)が一般に普及し始めた2016年は“VR元年”と呼ばれた。BIMやCIMが普及しつつある建設業界でも、これらのデータをVR化して設計の検証や現場での施工管理、営業などさまざまな活用例が生まれた。その活用例を紹介しよう。
 
 
高性能のHMDがVRの普及を加速
 
BIMやCIMのソフトで作成した建物や構造物の3Dモデルは、レンダリングして写真のようなCG(コンピューターグラフィックス)画像にしたり、ウォークスルー機能で建物などの内外を歩き回ったりして見ることができる。
 
しかし、普通のモニター画面を通して見ると最終的には平面のスクリーンを見ているので、リアリティーには限界がある。
 
その点、3Dスクリーンやヘッドマウントディスプレー(HMD)を通して3D映像を見るVRは、実際の建物のサイズ感や奥行きなども感じられ、まるで現実の空間に立っているかのように見られる。
 
さらに顔を上下左右に向けたり、後ろを振り返ったりすると、全天全周、360°の映像が見られるのだ。
 
従来、こうしたVR映像を見るためには、大きなスクリーンと3Dプロジェクター、そして映画館で使われているような3Dメガネを使ってみる必要があった。
 
ところが最近は高画質の映像を再現できる高性能のHMDが数万円~十数万円で発売されたり、スマートフォンをはめてHMDのように使えるVRゴーグルが数千円で発売されたりした。リアルなVR体験を手ごろな価格で実現できるようになったのだ。
 
では、建設業界ではどのようなVR活用がされているのか、最近の事例を見てみよう。
 
 

施工管理での活用

HMDで仮設の安全管理
《一二三北路》

 
札幌市の建設会社、一二三北路(ひふみきたみち)は同市南区の定山渓温泉で施工した水管橋新設工事で、大規模な足場を組んだ。この現場の状況をあらゆる角度から事前に確認し、”フロントローディング”で問題点を事前に解決するため、現場の地形や足場、重機などの現場全体を3Dでモデル化した。
 
一二三北路ではさらに、この3Dモデルを見るために、ゴーグル型のヘッドマウントディスプレー「Oculus(オキュラス)」を導入した。Oculusには重力センサーなどが付いており、VRを見ている人が頭を上下や左右に向きを変えると、画面の角度も同じように変わる。
 

ヘッドマウントディスプレーを装着した技術者(写真・画像:一二三北路)




 
 
現場では、作業を担当する職人がOculusを着けて現場内をさまざまな角度で見回し、危険個所や危険作業がないかを作業前に確認している。視点の移動は自由自在だ。足場の下から内部をチェックしたり、上空から見下ろしたりと、まさにあらゆる角度から現場をチェックできる。
 

実際に組まれた足場




 
 

実物大で立体視できる仮設材




 
 
また、施工段階に応じて水管橋の架設状態を変えたり、クレーンでの架設作業を再現したりすることも可能だ。

VRの作成に使われた3Dモデル




 
 
VRの作成には、ゲーム開発ソフト「Unity」を使う。BIMやCIMのソフトだと、データが重くなるため、Oculusの動きにスムーズに追従できないためだ。VRの制作作業は岩崎(札幌市)が協力した。このVRシステムは工事関係者の間で話題となり、現場には多くの見学者が訪れたという。
 
 

流体解析結果の確認

VRで風の流れを体感
《日建設計、アドバンスドナレッジ研究所》

 
目に見えない風の流れや温熱環境を、設計段階で見える化する熱流体解析(CFD)ソフトは、快適で環境に配慮した建物を設計するのにとても役立つ。
 
特にBIMソフトで設計した建物の場合は、BIMモデルの3 次元形状をCFDソフトに読み込むと、解析の手間が大幅に減り、結果も短時間で分かるので、設計の最適化を実現できる。
 
日建設計とC F D ソフト「Flow Designer」を開発・販売するアドバンスドナレッジ研究所は、同ソフトで解析した結果をVR化し、風の流れを体感できるようにした。
 

CFDソフト「FlowDesigner」で都市内を流れる風の動きを解析し、見える化した例 (資料:日建設計、アドバンスドナレッジ研究所)




 
 
これまでもオフィスの室内での温度や風の流れは、CFD解析で求めることができたが、実際にそのオフィスで働いてみると、吹き出し口の付近が冷房で寒すぎることが分かり、風の流れを変える板を後付けしている例をよく見かける。
 
その点、VRを使ってオフィス内をウォークスルーしながら、風が強い場所はないか、寒すぎる場所はないかと確かめたり、その風はどこの吹き出し口から来るのかをイメージしたりしながら検討できる。
 

オフィス内の温熱環境を見える化した例

寒すぎる場所があったとき、その空気はどこから流れてきたのかもVRなら実感しやすい




 
 
さらに面白い機能として、3次元の街並みの中を風になって飛ぶ気分も味わえる。VRコンテンツの視点を、“空気粒子”とともに動くようにしたものだが、VRならではのユニークな飛行体験ができそうだ。
 
 

改装工事のシミュレーション

点群の中を実物大でウォークスルー 
《ラティス・テクノロジー》

 
ラティス・テクノロジーは、大容量の3Dモデルを軽快に扱える同社のXVL技術を利用した新ソリューション「XVL Studio Hybrid for M REAL」を開発し、キヤノンITソリューションズから発売した。
 
既存の建物や設備を3Dレーザースキャナーで計測した点群データと、これから改装する設備などを合体した仮想空間の中を実物大でウォークスルーすることができるものだ。
 
このシステムを使うと、既存の工場設備の横に新しい設備を置いたときの作業員の動きや安全性を、未来の工場にいったような感覚で検証することができる。ヘッドマウントディスプレーを着けて、この仮想空間を見ると、まるでその世界に入り込んだかのような没入感が味わえる。
 

ヘッドマウントディスプレーを着けると、仮想空間の中を実物大でウオークスルーできる(写真、資料:ラティス・テクノロジー)




 
 
例えば頭を左に向けると左の景色が、上を向くと天井が見えるといった具合だ。そして、設備の足場を上ると、眼下には工場の風景が広がる。仮想の手すりごしに下をのぞき込むと、どのくらいの高さなのかも実感できる。
 
さらに実感的なのが、現実と仮想空間の融合だ。AR(拡張現実感)用マーカーを張り付けた荷物を積んだ台車を用意しておくと、それと同じ大きさの台車が目の前に映し出される。実物の台車の取っ手と、仮想の台車の取っ手は、同じ高さ・大きさで見えるようになっており、仮想の取っ手をつかむと実物の感触や重さを感じることができるのだ。
 
まさに現実と仮想が融合した世界だ。そして実物の台車を押していくと、目の前には工場の床や障害物となる柱の補強材などが見えて、どれくらいの余裕で台車が通過できるのかを、本物の建物に行ったかのように体感することができる。
 

障害物の中を通過する仮想の台車。通過する際の余裕を実感できる

点群とリアルサイズで表示した作業員




 
 

施工管理の教育システム

VRで施工ミスを再現 《大林組》
 
大林組では数年前から、社内に鉄筋や型枠を組んだ教育用の躯体モックアップを作り、鉄筋配置の不具合個所を探す体験型研修を行ってきた。しかし、同じ受講者が繰り返し受講するためには、定期的にモックアップを作り替えたり、受講者がその場所に集まったりと、コストと手間がかかっていた。
 
そこで大林組は、BIMモデルとVRを使って同様の研修が行えるシステムを開発した。「VRie(l ヴリエル)」というもので、HMDやコントローラー、センサーなど、市販の機器で構成される。
 

パソコンやHMD、コントローラーなどからなる「VRiel」のシステム




 
 
実物のモックアップの代わりに、BIMソフトで作ったデジタルモックアップを使い、不具合箇所を再現した。受講者はHMDを装着し、VR画面上に表れる鉄筋配置の不具合などを探すことで、実物同様の研修ができる。
 

VRで再現した鉄筋のモックアップ




 
 
受講者は工事現場を巡回して不具合個所をチェックするのと同じように、VR上を移動したり、首を上下左右に動かして見回したりすることで、工事現場と同じように検査する感覚が身に付く。
 
実際の施工管理では、構造図や細かい仕様が書かれた標準配筋図と、現場とを見比べたり、寸法を確認したりしながら、不具合個所を発見するスキルが必要だ。こうした作業を再現するため、施工管理用の図面や計測用のコンベックスなども全てVR上で使えるようなっている。
 

施工管理用の図面もVR画面上に表示できる(資料:大林組)




 
 
2m四方ほどのスペースがあれば設置できるので、会議室や現場事務所などさまざまな場所で研修を受けることができるのも便利だ。鉄筋工事の他、仕上や設備などの品質管理、安全管理など、幅広い教育にも使える。
 
 

住宅のバーチャル展示場

壁と床のスクリーンに未来の住宅を再現
《コンピュータシステム研究所》

 
コンピュータシステム研究所は、バーチャル展示場システム「ALTAf or VR」を開発し、工務店やリフォーム会社向けに展開している。住宅展示場などにこのシステムを設置すると、その“感動”がクチコミで広がり、抜群の集客力を発揮するそうだ。
 
このシステムは、同社の住宅プレゼンシステム「ALTA」で作った住宅の3Dプランを作成し、その映像をVR技術で部屋の床や壁に投影するものだ。
 

壁や床にスクリーンを設置する(写真:コンピュータシステム研究所)

そこに住宅の3Dプランを映写すると住宅展示場に早変わり




 
この映像を、3Dメガネを着けて見ると、目の前には住宅の内装やシステムキッチン、家具や家電などが実寸大の大迫力で広がる。
 

3Dメガネを着けると、コントローラーで住宅内部を自由にウオークスルーできる




 
 
手を伸ばすと触れるのではないかと思うほど抜群の臨場感があり、お施主さんもビックリする。コントローラーを使って、ゲーム感覚で住宅内をウォークスルーできる楽しさもある。
 

まるで触れるのではないかと思うほどのリアリティーが味わえる




 
 
同社は2016 年6 月、大阪市天王寺区にある大阪営業所に「ALTA forVR」を設置したショールームをオープンさせた。スクリーンは4面タイプを備えたよりリアルで本格的なシステムを設置している。
 

4面スクリーンを備えた本格バージョンの「ALTA for VR」




 
 

未来のVRはどうなるのか?

人間にあらゆる体験を提供するマシンとして進化
 
VRはコンピューターで作り出された仮想空間のデータを、人間に対して出力するための究極の再生装置といっても過言ではない。人間には昔から視角、聴覚、触覚、味覚、嗅(きゅう)覚の五感があると言われるが、現在のVRは視角と聴覚程度しか再現しておらず、今後、人間の感覚に対応するための、さまざまな再生装置が登場するだろう。
 
実際、高層ビルが立ち並ぶ市街地のビル風解析結果を、実際に風を感じながら見られるVR装置も開発されている。
 

気流解析と連動し、上に付けたファンにより実際に風を感じられるVR装置の例。フォーラムエイト東京本社にて




 
 
また、人間の反応を、VRの世界にフィードバックするための入力装置も、さまざまなものが開発されてくるだろう。よりリアルになったVRの用途としては、(1)めったに起こらない事故や災害の疑似体験マシン、(2)リスク回避のためのトレーニングマシン、(3)未来や昔の生活環境を体験するタイムマシン、(4)現実ではなかなか味わえない夢をかなえるマシンなど、無限の使い方ができそうだ。
 
VRは人間の予知能力を高め、現実社会にうまく対応する力を磨き、想像力を育てるマシンとして発展していくことを願っている。
 
 

筆者プロフィール

家入龍太(いえいり・りょうた)
BIM/CIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける日本でただ1人の建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」で、建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。関西大学非常勤講師として「ベンチャービジネス論」の講義も担当している。公式サイトは「建設ITワールド」(http://ieiri-lab.jp/
 
 
 

建設ITジャーナリスト  家入 龍太



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集3「建設ITの最新動向」



 
 



i-Constructionのための3次元設計データ交換標準

2017年5月2日

 

はじめに

国土交通省では、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入する取り組みであるi-Constructionを進めている。これまで、情報化施工で利用するために施工段階で3次元データを作成してきたが、i-Constructionでは、調査・設計段階で作成した3次元データを施工、検査、維持管理等のあらゆる建設生産プロセスで活用し、土工における抜本的な生産性の向上を図ることを目指している。
 
施工段階では、MC・MG(MachineControl・Machine Guidance)やTS(Total Station)を用いた出来形管理などの3次元データを用いた情報化施工技術が一般化し、定着しつつある。また、測量・設計段階ではCIM(Construction Information Modeling/Management)の取り組みが加速しており、UAV(Unmanned AerialVehicle)や地上レーザスキャナー等を用いた3次元測量、構造物同士の干渉チェック、景観検討や関係者協議のための3次元設計等が行われている。
 
こうした背景を踏まえて、i-Constructionでは、建設生産プロセスの各段階で個別に取り組んできたこれらの3次元データを建設生産プロセス内で積極的に流通させ、各段階の業務で横断的に活用していくことを目指している。しかし、現状の測量・設計段階と施工段階では、3次元データを取り扱うシステムが異なりデータの互換性がないことから、横断的な活用は容易ではない。測量・設計段階で作成した3次元データを施工段階で利用するためには、建設生産プロセス全体での利用を念頭に置いたi-Constructionのための3次元設計データ標準を定める必要がある。ここでは、国土交通省が平成28 年3月から新たに導入した15の新基準および積算基準の1つである「LandXML1.2 に準じた3 次元設計データ交換標準(以下、「データ交換標準」という)」と、その「運用ガイドライン」の概要を紹介する。
 

LandXML1.2に準じた3次元設計データ交換標準の概要

LandXML1.2は、土木・測量業界におけるオープンなデータ交換フォーマットとして米国にて提起された、国内外で多数のCADやソフトウェアに対応したデータ形式である。データ交換標準は、表-1に示すLandXML1.2を構成する要素から8 種類を用いて道路分野および河川分野におけるICT土工で必要な3次元形状を表現する。
 

表-1 LandXML1.2の主な要素と内容




 
 
3次元形状をコンピュータ上で表現する主な方法としては、「ワイヤーフレームモデル」、「サーフェスモデル」、「ソリッドモデル」の3つがある。このうちデータ交換標準では、道路中心線形や横断形状を組み合わせた、ワイヤーフレームモデルの一種である3次元の骨組み形状モデル(以下、スケルトンモデルという)および道路形状や地形等を面で表したサーフェスモデルを対象としている。そこで、データ交換標準では、i-Constructionのための納品要領として道路設計で作成するスケルトンモデルとサーフェスモデルを規定した(図- 1)。
 

図-1 スケルトンモデルとサーフェスモデル




 
 
スケルトンモデルは、道路中心線形と横断形状を組み合わせたモデルで、3次元形状を表現するための設計情報(設計パラメータ)を持つ。そのため、設計変更の際には変更箇所の設計情報を修正すれば、修正結果を基に全体の3次元形状を表現できる。このことから、施工段階で設計変更が生じても、データの修正が容易であり、施工者への負担が最小限になると考えられる。一方、サーフェスモデルは、表面の3次元データで、可視化した時に立体的な形状となる。また、i-Constructionでは、3 次元数量算出や点群データの出来形管理に用いるデータとなる。ただし、設計変更の際には変更箇所を含めたモデル全体の作り直しが必要となるため、サーフェスデータを直接修正するのではなく、スケルトンモデルでデータ修正を行い、スケルトンモデルからサーフェスモデルに変換することが合理的と考えられる。
 
LandXML1.2は、米国で提案された道路の3次元モデルであるため、わが国の道路設計に当てはめて考えた場合、標準のLandXML1.2 のままでは不足する属性情報がある。例えば、測点が線形の開始点からの累加距離でしか扱えず、わが国で一般的な測点番号と追加距離を組み合わせた表現ができないこと、横断設計の基準となる標準横断面が規定できないことや、横断設計を行った管理断面を設定する情報がないこと等がある。LandXML1.2に定義されていない情報をモデル化する場合、LandXML1.2に用意されたユーザ定義の属性情報(Feature要素)を利用することができる。そこで、わが国の道路設計に合わせ、不足する情報はユーザ定義の属性情報を用いて追加した。また、道路を構成する要素名といった属性についても、システムによって異なることのないように、標準的な属性情報を規定した。
 
データ交換標準は、主にCADベンダー向けとしてXML形式のデータ構造とそれを解説した資料であり、CADベンダーはデータ交換標準を参照してソフトウェアを開発することになる。そのため、CADオペレーターはデータ交換標準で規定したデータ構造の詳細を理解する必要がなく、次に説明する運用ガイドラインを参照してデータ作成を行うことになる。
 
 

LandXML1.2に準じた3次元設計データ交換標準の運用ガイドライン

データ交換標準の運用ガイドラインは、データ交換標準に基づいた3次元データの作成・流通などの運用を規定した資料である。運用ガイドラインの内容を図-2に示す。
 

図-2 運用ガイドラインの目次構成




 
 
図で示すように、運用ガイドラインでは、適用する事業、3次元設計データの作成範囲や作成方法、照査方法、電子納品、工事発注時の取り扱いなど、具体的な事業フェーズでの運用を規定した。これらの内容について以下に説明する。
 
(1)適用する事業
 
適用する事業では、ICT土工が対象とする工事の設計業務に適用することを記載している。具体的には道路、築堤、護岸の予備設計および詳細設計に適用する。
 
(2)3次元設計データの作成範囲、作成方法
 
3次元設計データの作成範囲では、利用目的に応じて適切なモデルが作成できるよう作成範囲を記載している。スケルトンモデルの作成範囲は、情報化施工での利用を想定し、道路では道路中心線、横断形状、舗装のそれぞれのデータを、河川では堤防法線、横断形状のデータを、地形では縦断地形線、横断地形線を作成する(図-3)。
 

図-3 完成形および土工工事段階の横断形状(道路面、路体面の例)




 
 
また、道路の横断形状では、完成形の横断形状だけでなく、路床面、路体面の土工工事の完成形も合わせて作成する(図-4)。
 

図-4 完成形および土工工事段階の横断形状(道路面、路体面の例)




 
 
さらに、横断面を作成する位置が3次元モデルの精度に影響することから、測点間隔20mごとの管理断面、線形の変化点、道路の幅員、横断勾配の変化点、法面形状の変化点で横断面を作成することを運用ガイドラインで規定した。また、法面形状は地形とのすり付けや構成物の接続に関連して横断勾配の変化点が多数発生することから、対応する盛土と切土の境界、構造物との接合部での横断面の作成を規定した。しかし、地形とのすり付けで法面の段数が変わるような断面変化点では、設計段階で段数を特定できないため、設計段階では想定される最大段数の法面で横断形状を設計し、施工段階でデータを修正し完成する方針とした。
 
(3)照査方法
 
照査方法では、3次元モデルが正しく作成されているかを照査するために以下の2つの方法を記載した。
 
●3次元設計データを3次元ビューアで表示し外観を目視確認
●2次元の設計図書や線形計算書と照合して確認
 
前者は、作成した3次元モデルが全体として正しくできているかを確認するためのものである。この確認方法では、ビューポイントを変えながら3次元ビューアで表示し、3次元モデル全体をパソコン画面上で目視確認する。また、後者は、3次元モデルを構成する要素の寸法や基準高等の細部を確認するためのものである。この確認方法では、3次元設計データの中心線形や横断面と設計図書(平面図、縦断図、横断図等)や線形計算書の数値とを照合して確認する。これらの照査は、施工段階でもデータ交換標準を修正した際には実施することが、正しいデータを流通する上で肝要である。
 
(4)電子納品
 
電子納品では、納品する電子データの種類、電子媒体への格納、ファイル名を規定している。納品する電子データは、3次元設計データの他、設計照査で確認した3 次元の画像データ、および設計照査のチェックシートを納品する。また、電子媒体への格納は、平成29年2月現在では、平成28年3月に改定した土木設計業務等の電子納品要領に従いICONフォルダに格納する。
 
(5)工事発注時の取り扱い
 
工事発注時の取り扱いでは、設計段階で作成した3次元設計データは、貸与資料として、契約図書の2次元図面とともに施工業者に貸与するものとした(図- 5)。
 

図-5 設計から施工への3次元データの流通イメージ




 
 

おわりに

 
i-Constructionの発表に伴い、国や地方公共団体等の発注者はもとより、ゼネコンやコンサルタント等の受注者も含めてICTの活用により土工における業務のあり方が大きく変化してきている。本稿で紹介したデータ交換標準やその運用ガイドラインに従い、建設生産プロセス全体で共通した3次元設計データが電子納品されることで、データ作成の効率化や入力ミスの防止、生産性の向上が期待されている。平成28年11月現在では、道路土工の設計や施工を利用場面としたソフトウェアベンダー等の8社から本成果へ対応したソフトウェア20種が公開されており、実際の建設生産サイクルへの導入が試行され始めている。この動きは今後、CIMの取り組みと合わせ、建設生産システムの全体を通して活発になっていくと考えられる。また、ICTの適用範囲が拡大するとともに、建設生産システムに関わるあらゆるプロセス、あらゆる現場で、当たり前のように3次元データが活用される時代が間もなくやってくると考えられる。
 
現在、土木業界は大きな変革の中にある。国総研では、今後、データ交換標準に則った機械的なチェックによるデータ信頼性を確保するための検討や、3次元設計データの利用を前提とした3次元数量算出の可能性について検討を進めるなど、データの標準化や基準類の整備等に向けた検討を進めていく予定である。
 
 
 

国土交通省 国土技術政策総合研究所
社会資本マネジメント研究センター 社会資本情報基盤研究室(現 同 土佐国道事務所 工務課長

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集1「i-Construction時代の到来とCIM」



 
 



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