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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

橋梁建設における VR・MRの活用について

2020年8月26日

 
国土交通省は、2025年までに建設現場の生産性を20%向上させる目標を立てて、建設業界全体でi-Constructionを推進しています。その実現にはICT技術の活用は必須となっています。「CIMモデルをどう作るか?」から「どう使うか?」に課題が進展している昨今、CIMモデルを活用した仮想現実(VR)技術や複合現実(MR)技術の現場導入が進められています。ここでは、オフィスケイワンが取り組んでいる橋梁の設計・施工におけるVR・MR技術事例についてご紹介していきます。
 
 


 

橋梁施工におけるVR技術の活用事例

VRとは Virtual Reality (バーチャルリアリティー)の略で、仮想現実と訳されます。コンピューターや身体に装着する機器を用いて人間の視覚や触覚などの五感を刺激し、あたかも現実かのように体感させる概念や技術を指します。コンシューマー向けに安価なデバイスが発売された2016年はVR元年といわれ、建設業でもVR導入事例が発表されるようになりました。オフィスケイワンは2016年後半にHTC社のVIVEというヘッドマウントディスプレイ(ヘッドセット)を導入し、橋梁向けコンテンツの研究開発に取り組みました。その成果のうち、3つのVR事例をご紹介します。
 
 
(1)安全教育ツールへの適用
ベテラン技術者のノウハウ伝達、技術継承のツールとしてVR技術の利用が効果的といわれています。例えば現実世界では実習が難しい労働災害事例を体験できるのはVR技術ならではです。
 
その労働災害で高い比率を占めるのが、玉掛作業、クレーン、高所作業などによる、挟まれ・巻き込まれ、墜落・転落、転倒です。どのようなシーンに労働災害の芽が潜んでいるかを体験できるのが「橋梁工事VR安全教育システム」です。プレイヤーはヘッドセットを頭部に装着し、バーチャル空間に再現された橋梁工事の現場で、アナウンスに従って作業を進める中でこれらの労働災害を体験することが可能です(図1-1)。このシステムは、高い臨場感と没入感の中で被災体験をすることで、実際の現場での危険予知レベルの向上、安全意識の向上に役立てることを目的としており、実際の工事現場で利用されています(図1-2)。またプレイヤーが被災状況を俯瞰して振り返る機能を持たせることで安全学習の効果を高める工夫もあります。本システムは2017 年より橋梁メーカーとオフィスケイワンが共同開発に着手し、災害事例を10シーン体験できるシステムです。なお、この技術は国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)にも登録(KK-180029-A)が完了しています。
 
 
図1-1 橋梁工事VR安全教育システムのコンテンツイメージ

 
図1-2 現場事務所でのVR安全教育事例 (写真提供:株式会社駒井ハルテック)


(2)溶接施工シミュレーション
鋼橋の工場製作において部材が密集した狭隘部の溶接施工には慎重な事前検討が行われます。従来は発泡スチロールで実寸大のモックアップを作成して、実施工の前に溶接部が目視可能であるかや、溶接姿勢がとれるかなどの施工性を検証していました(図-2)。この検証手法は確実ではありますが、モックアップ制作に時間を要し、保管場所などが課題でした。その代替手法としてVR技術に着目し、狭隘部のCIMモデルをVRデータに変換して、仮想現実空間で溶接施工シミュレーションを行うシステムを開発しました(図-3)。頭部に装着したヘッドセットや身体に装着したトラッカーセンサーと、CIMモデルが干渉した場合は、警告音を出して体験者に知らせる機能があります。トラッカーセンサーの装着に時間を要するためどうやって簡素化できるかが課題ですが、動作解析などに利用されているモーションキャプチャー技術の適用検討など、引き続き研究を進めています。
 

図-2 従来のモックアップによる施工性検証
(写真提供:宮地エンジニアリング株式会社)

 
図-3 VR技術を用いた溶接シミュレーション
(写真提供:株式会社駒井ハルテック、宮地エンジニアリング株式会社


(3)見学会イベントなどでのVR活用
場所を選ばないVR技術は職業体験にも有効です。将来の担い手に向けた建設業の働き方をVR空間で見せることで、仕事のイメージ理解や共感作り、業界のイメージアップにも優れた効果を発揮します。例えば会議室で橋梁の施工シーンをVR体験する「バーチャル現場見学会」の開催が可能となります(図-4)。またVR空間で長大なアーチ橋のタワー最上部に立って現場を見渡したり、高所からのバンジージャンプなどのアトラクションを入れたコンテンツを学生さんに体験してもらうことで、イベントも盛り上がり、建設業の壮大さを体感してもらえます。
 
 
図-4 学生向けイベントでのVR活用事例


これまでVRには高性能なグラフィックボードを搭載したパソコンとヘッドセット、赤外線センサースタンドの機材が必要でした。最近はデバイスの技術革新が進み、頭部に装着するヘッドセットのみでプレイが可能なオールインワン型のヘッドセットが発売されるようになりました(図-5)。これまでのパソコンを利用するVRよりも解像度は落ちますが、大きなパソコンや赤外線センサースタンドが不要という手軽さは、VR運用担当者や操作説明員の労力が減り、VRコンテンツの体験機会創出も容易になりそうです。
 

図-5 スタンドアロン型ヘッドセットによる安全教育システム


 

橋梁施工現場におけるMR技術の活用事例

VR技術は360度が全て仮想空間ですが、一方のMR(Mixed Reality)技術は現実世界に仮想モデルを映し出す技術です。バーチャルな設計図や3Dモデルと現実空間を同一空間上に重ね合わせるものです。MR デバイスはWindows10で動くCPUを搭載しているホログラフィックコンピュータで、場所の位置や視野の向きは、MRデバイスに搭載された「デプスセンサー」という赤外線を利用し、作業場所をリアルタイムに3D スキャナーで割り出す仕組みがあります。産業分野では航空機エンジンのメンテナンス訓練など、自分の手とバーチャルモデルの距離感を測りながら体感できるメリットを生かした使い方が提案されています。
 
オフィスケイワンでは2017年初夏にマイクロソフト社のHoloLensというMRデバイス、インフォマティクス社の「GyroEye Holo」というMRソフトを導入し、橋梁工事での利活用方法の研究を開始しました。ここでは、橋梁の施工現場での活用事例を中心にご紹介いたします。
 
 
(1)鋼橋におけるMR技術の活用事例(品質管理)
鋼橋の施工において、排水装置や検査路、伸縮装置など付属物の部材は製作工場ではなく、現場に直接搬入される場合が多いため、現場で不具合が発見される可能性が潜在的にあります。現場で不具合が発生すると工程遅延、コスト増など大きな影響を与えます。そこで現場での不具合発覚を防ぐために、工場での仮組み立て時に付属物(例えば排水装置)のCIMモデルを鋼桁に投影表示して干渉の有無、本体ピースの取り付け位置確認などを試行しました(図-6)。
 
 
図-6 鋼橋仮組み立てにおける付属物をMR表示した事例

このように完成形の干渉チェックや取付部品のチェック等、日常業務への本格運用が検討されています。現状はMRデバイスを装着した作業者が見回して不具合箇所を発見する仕組みですが、将来は画像処理やAI技術の進化により不具合箇所の自動検出機能が期待されます。
 
 
(2)PCコンポ橋の施工現場におけるMR活用事例(生産性向上)
この現場では桁架設完了後の床版施工時に、MRデバイスに投影された配筋CIMモデルに合わせて鉄筋を配置する作業を試行しました(図-7)。前出の品質チェックではなく施工作業そのものにMRを活用した事例です。従来、配筋図面とメジャーを使って鉄筋の位置を現場型枠上に墨出ししてから、配筋作業を行っていました。これに代わる作業としてMR技術を使うことで、必要本数が配筋されているか一目で把握でき、また生産性の向上が期待できることを確認しました。このように従来作業方法の革新は配筋作業後に行う品質検査の必要性そのものも議論できるかもしれません。一方で、ヘルメット越しにMRデバイスを装着する作業者に聞くと「一日中頭に着けて作業するのは疲れそう」とのことだったので、将来はMRデバイスのさらなる軽量化、スマート化が期待されます。
 
 
図-7 MRデバイスによる配筋作業


【MR配筋作業手順】
①MRデバイス画面に投影される情報を計画
②配筋CIMモデルを作成し、GyroEyeHoloを使ってクラウド経由でHoloLensに取込む
③作業者にHoloLensの装着、操作方法を指導
④現場に原点(ARマーカー)を用いてCIMモデルの位置合わせを行う
⑤HoloLensと工事事務所のパソコンをインターネットで接続し、リアルタイム映像により品質検査
 
 
HoloLensで見ている映像をインターネット経由で遠隔地のパソコン画面に映して品質検査も試行しました(図-8)。現場は山手にあり当時のインターネット環境(4G)では映像が途切れることがありましたが。将来、通信速度が100倍になるといわれる5Gが普及すれば、ストレスなく映像情報を発注者と現場間で行うことが可能になると思われます。
 
 
図-8 MRを活用した遠隔検査の風景

(3)保全工事でのMR技術の適用
今後、社会資本整備において新設工事が漸減する一方で、補修工事は増加傾向にあります。補修工事へのMR技術の取り組みのひとつに、補修履歴のMRスケッチ(手の動きをデバイスセンサーで捉えて図化する方法)があります。従来は、補修箇所・範囲の図面化のために、複数人でメジャーを使って野帳にスケッチを行い、後日事務所でCADに清書していました。MR技術を使えばデバイスを装着した作業者が一人で補修箇所のスケッチができ、その場でスケッチ情報をクラウドにアップできます(図-9)。一連の作業を帳票の自動作成まで行うことで大幅な生産性向上が可能となります。従来のように手書きのスケッチを見ながらCAD図を清書する必要がなくなるため、働き方改革にも貢献できます。
 
 
図-9 保全工事における野帳による従来作業とMRスケッチ作業イメージ


 

今後について

施工現場でMRデバイスを活用する課題として、過酷な環境下での使用性にあります。具体的には精密機器であるMRデバイスは放熱性が悪く炎天下での連続使用に制限があります。気温30度を超えるとデバイス本体に熱がこもって数分でシャットダウンしてしまいます。そこでMRソフトを開発するインフォマティクス社は、水冷式の保冷装置を開発して、炎天下での連続使用を実現しています(図-10)。またコンビニでも入手できる市販の吸熱材(=熱さまシート)をMRデバイスの本体に貼り付けることで本体の温度上昇を抑える方法もあります(図-11)。
 

  • 図-10 水冷式の保冷装置

  • 図-11 熱さまシートによる保冷置


そのほか現場利用の課題に、位置合わせ精度やマーカーからの移動距離に応じて悪くなる重ね合わせ精度の問題があります。MRデバイスを装着して原点から離れるとその距離に比例してズレ量が増える現象です。その解決策のひとつとしてインフォマティクス社はTS測量器とMRデバイスを連携させるオプション機能の提供により、従来の20倍もの重ね合わせ精度の向上が実現しています(図-12)。MR施工の実用化に大きな一歩となりました。
 

図-12 MRデバイスとTS測量器の連携


 
建設現場での利用が増えてくると新たな課題も出てくると思われますが、VR・MR技術は社会的要請である「生産性向上」「働き方改革」を実現する手段としてはとても有益かつ将来性があると言えます。オフィスケイワンも微力ながら貢献していきたいと考えております。最後までお読みいただきありがとうございました。
 
 
 

オフィスケイワン株式会社 代表取締役 保田 敬一

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集3「建築ITの最新動向」



 
 
 



BIMモデルの自動化は、設計と施工をつなぐ新たな可能性

2020年8月20日

 

これまでのBIM

BIMを2DCADから3D設計ツールに変えることだと思う人がまだまだ多い。ツールを置き換えるだけでは設計業務の省力化も効率化もできない。3Dが早く作れたから図面やパース作成などの作業が減るわけではなく、設計者の要望が増えてしまう。BIMソフトを使っても図面から3D化を指示するような仕事では作業が増えるだけだ。3D情報は見える情報量が違い、平面、断面、立面の情報が1度に見れているだけで、その構成や項目を管理できるのが属性情報である。図面、3D、属性情報をマネジメントしなければ後工程へと情報がつながらない。情報を活用するとコンカレント型に変わり設計では、設計検討、図面作成、パース作成などが同時並行で進めることができる。弊社では200 床の病院設計のプレゼン資料(図面、パース、ムービー)作成に、3名で10日間で対応できたのもコンカレント型のBIMであり、今までの10倍は速い。
 

コンカレント型プロジェクト


 
それは、設計の判断が早くなり面積や図面、デザインを同時並行に進められるからだ。成果物としての図面レイアウト、パースアングル、ムービーパスなどもラフモデルで作成してしまう。後は担当作業を進めて精度を上げれば完成する。最後のまとめに無駄な時間がとられない。BIMの3Dを図面や属性、数量などと同じ情報の一つと考えると、BIMモデルの作り方や進め方が変わる。弊社では情報量の基準をiD(Intelligence Data)として定義している。仕事のやり方を変えようとしなければBIMをうまく活用できなかった。
 

iDモデル




 

BIMの課題と自動化

実務の中でBIMを活用しようとすると、今までの進め方ではいろいろな問題に直面する。BIMソフトで平面図を作成すると、3Dモデルや立面図、断面図も同時に作成されるため判断も同時に必要となる。設計者が自分で作業していれば問題ないが、多くの場合は設計者の判断が間に合わずオペレータへの指示が追いつかない。そこで、設計者はオペレータや外注任せで作業をお願いしてしまうので、チェックバックの手戻りが増えて作業も減らない。建築知識とBIMソフトの技術も合わせ持ったオペレータや外注先は少ないだろう。
 
ルールや仕様に基づいた成果が出せる自動化は問題解決の手段になると考えて自動化の開発を始めた。BIMソフトで2D図面から3Dモデルの自動化を行うことが重要だと気付いた。2Dから自動化で作成された3Dモデルには、壁や床が二重に入っていることや指定外の壁タイプなどで作成されていることがない。
 

2Dから3D自動モデル化


 
人がBIMソフトで3Dモデルを作成するとオペレータの技術レベルもあり仕様や間違いのチェック作業は必要になる。
 
このように自動化は、作業を効率化するだけでなく成果の正確性が確保され、重要な判断へのリスクを減らせる。人が不得意な大量の繰り返し作業を自動化することで、人がイレギュラーな対応に集中できれば仕事の精度も上げられる。
 
 

プログラミングの可能性

BIMソフトをプログラミングによるカスタムすることが一般化しつつある。DynamoやGrasshopperなどのプラグ型で簡単にプログラミングできるユーザー向けのカスタマイズや、BIMをソフトが公開しているAPIによるカスタマイズでアドインソフトを開発することもできる。
 

Dynamoによる型枠自動作成


 
BIMソフトの標準ツールでは限界があり、プロジェクト単位でカスタマイズすることも増えている。カスタマイズは大きく3つある。標準ツールにない作業ができる便利ツールのカスタマイズ。繰り返し作業をするためのカスタマイズ。前の2つを合わせた自動処理のカスタマイズだ。カスタマイズが必要になるのは複雑な条件を判断するのに有効だ。弊社で最初に開発したのはExcelとの連携ツールだ。BIMソフトで作成したプランから各部屋の面積を集計して、専有や共用面積を分類したExcelに書き出すことができる。これがあれば日本仕様の桁処理をした面積集計を電卓を叩いてExcelに入力しなくて良いだけでなく、集計ミスがないのでコマンド一つで多くの効率化が行えた。面積集計を自動化することで、初期段階のプランニング効率が3倍になった。この小さな効率化が設計モデルの自動化へとつながって行った。
 
 

設計モデルの自動化

いろいろと作業を効率化するツールの開発を行ったが“キレイなBIMモデル”を作成するには人の能力とプロジェクトでの構成や作成のルールが必要になってしまう。そこで設計モデルの自動化について考えた。BIMソフトを使ってきたが、10年経ってやっと気付いたことがある。仕上表に書かれている下地や仕上げの情報は、図面や3Dモデル作成の仕様が“文字”で記載されていることだ。文字情報から3Dモデル化すれば図面にも反映され整合性を確保した”キレイなBIMモデル”が作成できる。そこで、仕上表で記載されている下地と仕上げ情報を一覧にした「スタイルリスト」を作成して、仕上表での“表記名称”とモデル化するための“マテリアル”と“厚さ”、数量を算出するための“工種”や“部位”などの情報を定義した。
 

スタイルリスト

スタイルリスト パラメータ


 
まずは仕上表、建具表、展開図という3大手戻り図面を自動化した。部屋情報には仕上表の情報を属性情報として入力しているので、仕上表作成コマンドでは部屋名称を並べるだけで、仕上表を自動で作成する。仕上表を属性情報を追加修正するときは「スタイルリスト」から選ぶだけでよいので建築知識がなくても表記名称を間違えることがない。
 
建具表も同様に建具名称を並べるだけで建具表を作成できる。
 

仕上表自動作成

建具表自動作成

展開図自動作成


 
展開図は部屋を選択して実行するだけ自動的に各面のビューを作成し、仕上げタグを配置し必要範囲にトリミングする。それをシートに並べるコマンドも作成している。
 
この手戻りの多い図面だけに従来は後回しにしていたものを簡単に作成できるので、初期段階で作成できるため手戻りを大幅に削減できる。
 
次に詳細図を自動化した。実際には詳細3Dモデルの自動化である。それを2D表現で見ることで詳細図の自動化を実現する。壁は部屋と部屋の間にあるため接する部屋情報から下地と仕上げ情報を取得してモデル化を行う。部屋情報で「LGS+PB12.5+ビニルクロス」となっていれば「スタイルリスト」を見ることでマテリアルや厚みの情報が分かるので、自動で3Dモデルを変更し壁のタイプも自動で作成する。壁スタイルコマンドで、部屋情報を取り込むだけで詳細化した壁を作成できる。
 

壁構成自動作成

天井・床・巾木・廻り縁の自動作成


 
床と天井、巾木、廻り縁は、部屋情報から取得できるので、自動で3Dモデル化できる。手作業では巾木や廻り縁をモデル化することなど考えられない手間のかかる作業だが、手動で床を1枚作成するよりも早く床、天井、巾木、廻り縁を作成できる。BIMソフトなので展開図にも反映される。「スタイルリスト」は設計情報の材料の仕様定義だけでなく、材料名など文字や言葉の定義になるため社内仕様を自動的にBIMモデルに反映し図面化している。設計仕様を情報化したリストともいえる。
 
部屋の属性情報である仕上、下地、構造、天井高さなどから自動でモデル化することはBIMソフトだから発想できたことだ。
 
正しくきれいなモデルからは、簡単に数量を拾うこともできる。「スタイルリスト」から作成しているので、逆に「スタイルリスト」で使っているマテリアルを検索して集計すれば簡単に数量を確認できる。
 

スタイルへ数量取込 前

スタイルへ数量取込 後


 
手動で作成するとマテリアルが分かれていなかったり、同じ名称でも半角か全角が違うだけでも異なるマテリアルとなり正しい数量を集計することができない。
 
自動化は、作業性の効率化だけでなく情報精度の確度が上がることのメリットは大きい。精度が高いからこそ設計の判断も早くなる。特に数量を把握してコストを予測できることは、設計業務にとって未来を予測することになる。それが基本設計段階で、実施設計レベルの詳細度で数量を把握することの意味は大きい。自社開発したAReXというツールで同じRevitによる実施設計モデルを検証してみると、従来2カ月かかった作業が2週間で同じレベルまで作成できた。それもRevitも建築知識レベルも高くないまだ3カ月程度のオペレーターで対応できた。自動化によるBIMオペレーションにも新たな可能性が見えてきた。
 
 

構造モデルの自動化

構造モデルは、通り芯とレベル情報から柱、梁、床を自動作成する機能と、Excelから3Dモデル化と断面リストを自動作成する機能がある。構造の簡易モデルは意匠設計者が初期段階で構造モデルを意識して設計するためのものだ。共有しているモデルに構造フレームが入っていれば自然と意識して設計も進められる。Excelからの自動モデル化は、構造計算ソフトから書出された情報をExcelに変換し、構造計算ソフトでは入力されていない基礎や杭の情報を追加して自動モデル化する。断面リストも同様に構造計算ソフトで入力されていないフープや巾止筋などの情報をExcelに追加して自動作成する。自動で作成された3Dモデルから伏図、軸図も自動で作成する。指定したレベルの伏図には部材のタグ情報などを自動配置される。軸図も指定した通り芯に軸図作成する。日本の図面仕様になるように直行部材のみ非表示する自動処理を行い図面が正確に作成される。構造は、詳細度としても簡易的なモデルと詳細モデルの2つのフェーズを管理すればよく、意匠モデルよりシンプルだ。正確な構造モデルは、躯体数量の算出や設備モデルとの干渉調整が早期に対応できる。今後は、ST-Bridgeにも対応する予定で2次部材にも対応していく。意匠と構造の設計者が連携できるようにしたい。
 

構造簡易モデル


Excelから自動モデル化(RC造)

Excelから自動モデル化(S造)


Excelから自動リスト化

3Dモデルからの伏図・軸図の自動化




 

施工モデルの自動化

設計BIMデータは、施工BIMデータとしてはそのまま使うことができない。設計では確認申請に必要なレベルで開口位置の寸法を決めているが、施工では法的条件を満たした上でタイルや目地の割付に合わせて開口位置や躯体フカシなどを調整する必要があるからだ。そのため一般的には設計BIMデータを参照するが、施工BIMデータは新たに作成する必要がある。他にも設計BIMデータの信頼度が低いことや、設計データを使って施工図を描いた場合の責任区分などの問題もある。
 
これが自動化による設計BIMデータでは、信頼度が高いだけでなく人ではできない詳細レベルまで3Dモデル化することができる。設計BIMデータから施工データに更新するイメージに変わる。
 
実際に施工ツールとして開発したのは、LGSの自動配置、下地パネルの自動配置、タイルの割付と目地モデル自動作成機能だ。これも設計段階で利用した「スタイルリスト」を活用して作成する。施工情報の属性を更に付加することで設計データと連携して施工モデルを作成できる。
 

LGSの自動モデル化

タイルと目地の自動モデル化

下地パネルの自動モデル化


 
設計時の「スタイルリスト」では、LGSはマテリアルと厚みの情報だけでよかった。施工時ではLGSの部材情報と配置ルールを属性情報を追加する。スタッドやランナーのオブジェクトや配置寸法などを定義しておく。その情報から3Dモデルを自動作成する。設計情報をどのように利用するかが明確になり責任区分も明確になる。数量も設計では壁の面積として集計したものが、部材の本数や長さを集計できる。施工レベルの詳細度にすることで数量やコストを確認できるだけでなく、材料の発注数量や配置、搬入などの現場レベルの計画を検討できる。
 
今後、設備BIMデータの自動作成も可能になれば意匠、構造、設備、施工での統合モデルの検討が早期に対応できる。建築の透明性を確保することで日本でもIPDを実現できると期待している。
 
 

これからのBIM

BIMソフトの進化は続いている。BIMだけでなくアプリケーションがパッケージ販売からサブスクリプション型のサービス販売へと変わり始めている。BIMデータもメールでやりとりできる容量ではないので、クラウドサーバーの利用が必須になりつつある。そのためデータのアクセス権限さえあれば、いつでもどこでもつながり仕事ができる。自社の物理サーバーに保存しておくよりもクラウドサーバーに保存をしておく方が災害時のリスクも低い。「海外にあるデータサーバーに設計や施工情報を保存するなどありえない」と言われていた大手企業も最近では使えるようになってきた。海外案件では必須となっていることや、最近では管理レベルでも自社サーバーよりもクラウドサーバーの信頼度が高くなり、コストメリットも大きいからだ。BIMソフトがWEBブラウザで使えるようになるのも遠い話ではない。
 

FORGE ビュアーイメージ


 
AutodeskのFORGEでは、WEBベースのアプリケーションの開発ができる。WEBベースのアプリケーションになると実はいろいろな課題を解決できる。1つは高額のBIMソフトとハイスペックなパソコンがなくともBIM業務ができる。WEBベースでの作業処理はクラウド上のCPUを使うためスペックの高い環境が必要ない。企画から基本設計用や実施設計用、施工用と専門性のあるアプリケーションにすることで作業を限定し機能も限定することができるため利用コストを抑えられる。FORGEでは、処理の種類と使用時間によって課金されるので、機能を限定することでRevitよりも安いソフト(サービス)として提供できる。自動処理やオペレータ用のアプリケーションには最適だ。
 
また、BIMデータは共通化してWEBアプリケーションの違いでアクセス権を変えられれば、設計、施工、運用で同じBIMデータを管理できる可能性もあると考えている。BIMデータを共通化できるとデータ連携のメリットだけでなく、建物の資産価値がBIMデータによって生まれる可能性もある。BIMデータがあることで建物の環境情報を評価やエネルギー管理など、運用時のビジネスにも展開できる。この分野での発展に期待し、展開を楽しみにしている。
 
 

情報の意味と価値の変化

BIMの“I”は「Information」であるが、情報という意味が「Intelligence」に変わる。
 
“Information”はデータそのものの“情報”に対し、“Intelligence”は客観的な評価や解析、知識から導きだされた“情報”を意味する。
 
情報の価値がただの情報から何か知性的な情報へと変化していくだろう。BIMでもジェネレーティブデザインが人の創造を超える答えを導き出す可能性は高い。AI、BIGデータの活用も同様であり、人の作業の置き換えと考える意味はなくなる。人の価値は、判断にあると考えれば、人の創造を超えても判断はできる。BIMモデルの自動化で、自動設計を目指している訳ではなく、より高いレベルの設計判断を行うためのプロセスになればよいと思っている。
 
society5.0の超スマート社会を目指すなら建築も進化しなければならない。BIMの次の言葉が生まれるかもしれないが、今は実務でのBIM活用を自動化によって変えて新しい建築プロセスを考えてみたい。
 
 
 

株式会社 ビム・アーキテクツ 代表取締役 山際 東

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



今なぜ 『建築BIM推進会議』なのか 国と民間が一体で進めるデジタル生産革新

2020年8月17日

 

はじめに

(1)Society5.0の社会へ
デジタル技術がもたらす社会像として「Society 5.0」があります。「Society 5.0」は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として平成28年に提唱されたものです。これまでの狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とされています。
 
これまでの情報社会(Society 4.0)では、社会での情報共有が不十分であったが、Society 5.0で実現する社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。」とあり、AI 、IoT化といったデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性について提唱されています。
 
一方、内閣府の新しい経済政策パッケージ(平成29年12月8日 閣議決定)では、Society 5.0の社会実装を進めるため、建設分野の制度改革として、3次元データの活用などが位置付けられており、BIMの活用および進展が将来、Society 5.0の実現に向けた一つの契機になるものと期待されています。
 
 

(2)Society5.0の実現に向けた取組
わが国は、現在、人口減少社会を迎えており、潜在的な成長力を高めるとともに、働き手の減少を上回る生産性の向上が求められています。また、産業の中長期的な担い手の確保・育成等に向けて、働き方改革を進めることも重要であり、この点からも生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、平成28年を「生産性革命元年」と位置付け、社会全体の生産性向上につながるストック効果の高い社会資本の整備・活用や、関連産業の生産性向上、新市場の開拓を支える取り組みを加速化し、生産性革命プロジェクトを実施してきました。この生産性革命プロジェクトの中にICTの活用等により調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指すi-Constructionの取り組みがあります。
 
内閣府の「未来投資戦略2018」の(平成30年6月15日 閣議決定)では、2025年度までに建設現場の生産性の2割向上を目指すことが掲げられ、そのための具体的施策として、2019年度までに、建設プロセスにICTの全面的な活用等を推進するi-Constructionに向け、対象を建築分野に拡大することとされています。
 
 

また、民間発注を含めた建築工事全体でのBIM普及に向けて、民間事業者等と連携し、建築物の設計・施工・管理の各段階におけるBIM活用の手順や共有するモデルの属性情報の整理等について課題抽出を行うとともに、BIMの有効性等の普及啓発方策を検討し実施するものとされています。
 
さらに、「成長戦略フォローアップ」(令和元年6月21日 閣議決定)においても、i-Constructionの貫徹やBIMを国・地方公共団体が発注する建築工事で横展開し、民間発注工事へ波及拡大させていくこと、BIMによる建築確認申請の普及に向けた検討、国・地方公共団体、建設業者、設計者、建物所有者などの広範な関係者による協議の場を設置し、直面する課題とその対策や官民の役割分担、工程表等を2019年度中に取りまとめることが盛り込まれています。
 
このような状況を踏まえ、平成30年度にi-Constructionのエンジンとして、先行して土木分野で重要な役割を担ってきた、BIM/CIM推進委員会では、令和元年度から建築分野のBIMについて拡充を図るため、BIM/CIM推進委員会の下にWGとして、建築BIM推進会議が新しく設置され、建築BIM活用に向けた市場環境の整備について具体的な検討が進められています(図-1)。
 

図-1 建築BIMの推進に係る取り組み:官民一体の推進体制の構築




 

BIMの活用状況および課題

現在、諸外国では土木分野だけでなく、建築分野においてもBIMの活用が進んでいますが、わが国での建築分野におけるBIMの活用については、設計、施工の各分野がそれぞれ個別に活用するにとどまっており、BIMの特徴である情報の一貫性が確保できていない状況にあります。この結果、維持管理段階のBIMの活用は低調となるなど、建築物のライフサイクルを通じたBIMの活用につながっておらず、またBIMの活用効果も限定的となっております。
 
また、国土交通省が平成29年12月~平成30年2月の期間で、設計や施工の関係団体に対して調査したところ、設計分野でBIMの導入実績がある建築設計事務所は3割程度でとどまるものの、半数以上の事務所がBIMの導入に関心をあることが示されています。また、建設分野でBIMを導入した大手ゼネコン等の7割以上がBIMの導入実績があり、高い関心も示されています。一方で、設備設計事務所や中小建設会社でのBIMの活用はかなり限定的で、ほとんど使われていない状況にあります。
 
 

建築BIM推進会議の設置

国土交通省では、建築の設計、施工、維持管理に至る建築物の生産・維持管理プロセスで一貫してBIMを活用することによって、業務効率化や生産性向上を図り、最適な建物のライフサイクルの実現を目指すとともに、建築BIM(図-2)や新技術がもたらす理想的な社会像を創造する取り組みを図るため、官民が一体となって「建築BIM推進会議(以下、「推進会議」という)」を設置(令和元年6月)しました。
 
推進会議では、今後の建築BIMの活用・推進について官民のさまざまな観点で幅広く議論し、わが国にBIMが根付くために何をしたらよいか、建築業界全体が一丸となって対応方策を検討し、とりまとめていくラウンドテーブルとなり、次の①~④の検討を進めています。
 
①建築物の生産・維持管理プロセスに係る各分野におけるBIMの活用・推進に係る検討状況の共有
②BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスやBIMのもたらす周辺環境の将来像の検討・策定
③BIMの活用促進、将来像の実現に係るロードマップ(官民の役割分担、工程表等)の検討・策定
④その他BIMの活用を図るための個別課題の抽出、対応方策の検討
 
具体的には、各分野で進んでいる検討状況の共有やBIMを活用した建築物の生産・維持管理プロセスやBIMのもたらす周辺環境の将来像を議論するとともに、将来像に向けた官民の役割分担・工程表(ロードマップ)を議論し、令和元年度中にとりまとめます。
 
なお、推進会議は、松村秀一東京大学大学院工学系研究科特任教授を委員長とし、学識者の他、建築分野の設計、施工、維持管理、発注者、調査研究、情報システム・国際標準の関係団体により構成されています。国土交通省においても、オブザーバーに加えて、住宅局建築指導課、土地・建設産業局建設業課、大臣官房官庁営繕部整備課の3課で事務局を努めています(図-3)。
 

  • 図-2 建築BIMとは

  • 図-3 建築BIM推進会議の検討体制



 

BIM活用による将来像の策定

令和元年6月13日に第1回推進会議が開催され、国および関係団体等におけるBIMの活用・推進に係る検討状況等の報告・確認が行われた後、BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスや将来像の検討、将来像の実現に係るロードマップ(官民の役割分担、工程表)の検討等が開始されました。その後、7月に第2回、9月に第3回の推進会議が開催され、将来像・工程表が概ね了承されました。
 
建築物の生産・維持管理プロセスの将来像は「いいものが」つくれ(高品質・高精度な建築生産・維持管理の実現)、「無駄なく、速く」作業でき(高効率なライフサイクルの実現)、「建物にも、データにも価値が」付与される(社会資産としての建築物の価値の拡大)の3つの視点で整理されるとともに、その将来像を実現するための建築業界に必要な取り組みが、次の①~⑦の7項(必要に応じて随時追加)に集約、整理されました。
 
①BIMを用いた建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
②BIMモデルの形状と属性情報の標準化
③BIMを用いた建築確認検査の実施
④BIMによる積算の標準化
⑤BIMの情報共有基盤の整備
⑥人材育成、中小事業者の活用促進
⑦ビックデータ化、インフラプラットフォームとの連携
 
必要な取り組みの7項目については、それぞれ連携して具体的に検討していく必要がありますが、当面、⑥と⑦を念頭に置きながら、①~⑤の取り組みを先行して行うこととなっています(図-4)。
 

図-4 建築BIMの活用による将来像と実現に向けた必要な取り組み(ロードマップ)




具体的な検討作業については、推進会議の下にそれぞれの項目に対して検討部会で行うこととし、①のワークフローの整備に関しては、建築生産・維持管理プロセスで一貫したBIMの活用を可能とするための環境整備に向け、建築生産・維持管理プロセスに関わる全ての関係者間の調整を要することから、国土交通省が中心となる部会(建築BIM環境整備部会)を設置しました。また②~⑤については、既に民間の関係団体等において検討が進められていることから、それらの各団体の活動を部会と位置付け、個別課題に対する検討等が進められています(図-5)。
 
今後、これら部会においてさらに官民が一体となってBIMに関する議論が深まることが期待されます。
 

図-5 建築BIM推進に係る各部会の取組 官民一体の推進体制の構築




 

建築BIM環境整備部会の設置

建築BIM環境整備部会では、BIMを用いた建築生産・維持管理に係るワークフローの整備、企画・設計・施工・維持管理等の各段階で必要となるBIMモデルの形状と属性情報の程度等(標準フォーマット)の検討等を進め、標準的なBIMの活用方法を示したBIM標準ガイドライン(以下、「ガイドライン」という)の策定、BIM実行計画書(BEP※1)およびBIM発注者情報要件(EIR※2)の標準ひな型の策定等を行うことになっています(図-6)。
 

図-6 建築BIM環境整備部会での検討事項




令和元年10月4日に志手一哉芝浦工業大学建築学部建築学科教授を部会長とする第1回建築BIM環境整備部会が開催され、事務局側から提示したガイドラインの構成の素案とともに、業務区分の考え方と役割分担、維持管理段階へ引き継ぐべき情報の考え方等について議論され、令和元年度内に3回部会を開催し、ガイドラインの原案を策定・とりまとめることが確認されました。
 
ガイドラインの策定は、建築物の生産プロセスや維持管理を含めた建築物のライフサイクルにおいて、異なる幅広い主体がBIMを利活用した効率的な手順等を共有でき、BIMを通じ情報が一貫して利活用される仕組みの構築を目指しています。
 
 

今後の展開と展望

令和元年度末に開催予定の第4回推進会議において、各部会における検討結果の報告、関係団体の活動状況の確認等を行った上、BIM標準ガイドラインが策定される予定です。その後はさらに、本ガイドラインにおいてはBEP・EIRの策定、竣工モデルの定義、部品メーカーとのかかわり方の整理、BIMの契約・業務報酬のあり方、著作権等の整理を盛り込むべく検討を行うとともに、関係団体の検討・取り組みとも連携し、官民一体となってさらに検討を行っていく予定です。
 
こうした継続的な取り組みにより、市場のさまざまな事業でBIMが広く活用されることで、関係団体の検証も進み、将来的にはさまざまな人材の育成や幅広い事業者への普及、さらにはビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携等に広がっていくことが期待されています。
 
 
建築BIM推進会議、建築BIM環境
整備部会の詳細については、国土交通省ホームページの「建築BIM推進会議」のページ
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/kenchikuBIMsuishinkaigi.html)をご覧ください。
 
〈用語の解説〉
※1 BEP:BIM Execution Planの略。BIM実行計画書。特定のプロジェクトにおいてBIMを利用するために必要な設計情報に関する取り決め、業務契約書の一部。BIMを活用する目的、目標、実施事項とその優先度、詳細度(LOD)と各段階の精度、情報共有、管理手法、業務体制、関係者の役割、システム要件等を定めて文書化したもの。プロジェクトの関係者間で事前に協議の上、合意し、要件書として作成します。
 
※2 EIR:Employer’s InformationRequirementsの略。BIM発注者情報要件。発注者によって、社内チームとプロジェクト開発のサプライヤーと完成後施設の運用者から要求される情報。発注者からの情報要件の関連概要は、アドバイザー、コンサル、請負者等の調達文書に含まれます。
 
 
 

国土交通省 住宅局 建築指導課 課長補佐 飯田 和哉 / 課長補佐 田伏 翔一

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



『見える地域連携』をアシストするBIM-鹿児島第3地方合同庁舎での活用事例-

2020年8月11日

 

地域と連携して整備する鹿児島第3地方合同庁舎

鹿児島第3地方合同庁舎が、いま鹿児島(鶴丸)城跡の東に隣接する敷地において建設中です。この敷地は鹿児島の歴史・文化・観光を代表するエリアであり、日本の近代化の歴史の舞台ともなった「歴史と文化の道地区」内にあります。市の景観形成重点地区に指定されており、電線類が地中化され、石張り歩道、親水水路、イヌマキの植栽、ガス灯が整備され、潤いと安らぎのある街路空間が創出されています。さらに向かいの鶴丸城跡では、鹿児島の新たなシンボルとして高さ20mもの御楼門が復元整備中です。
 
こうした背景から、鹿児島県、鹿児島市と国(九州地方整備局、九州財務局)とで連携して、景観形成に配慮し、観光振興やまちづくりに貢献すべく、庁舎の整備内容を検討しています。本庁舎の外装デザインは気候・風土を活かした風格のあるものとし、さらに街並みに対して開放感を持つエントランスモールを設置したり、御楼門を展望できるよう既存のポケットパークをリニューアルしたりすることとしています(図-1、2)。
 
こうした地域連携を推進していくためには、地域の関係者との合意形成が不可欠です。関係者は必ずしも建築の専門家であるわけではないため、丁寧でかつ分かりやすい説明をしていくことが公共建築を発注する者には求められます。本事業ではBIM(BuildingInformation Modeling)で作成した動画を使用し、地域の関係者に寄り添った説明を行うことで、関係者の皆さまから高い評価を得ることができ、ひいては事業の必要性や地域に対する貢献について深い理解を示していただくことができましたので、ここにご報告します。
 

  • 図-1「歴史と文化の道」に面する鹿児島第3地方合同庁舎

  • 図-2 地域との連携策



 

設計段階での活用

(1)BIMのメリット
設計期間の中で、合意形成に要する時間は大きなウェイトを占めます。BIMは、街並みレベルからヒューマンスケールまで多様なレベルの空間情報を視覚で提供できるため、地域の方々に短時間でプロジェクトの内容をご理解いただき、的確なご意見をいただくことができます。さらに、ご意見を迅速に設計内容に反映させることで、設計の時間を短縮するとともに、設計の品質を大きく高めることができます。
 
 
(2)地域連携検討分科会でのBIM活用
鹿児島県、鹿児島市と国(九州地方整備局、九州財務局)で設立した「鹿児島市における国公有財産の最適利用推進検討会」の下に「鹿児島第3地方合同庁舎地域連携検討分科会」を設置し、地域連携方策を検討・決定しました。
 
敷地の向かいの鶴丸城跡では、鹿児島の新たなシンボルとして御楼門を建設する計画が進んでおり、その門を展望し、写真撮影などができる場所を設置してほしいという要望が地元からありました。そこで、公表資料から御楼門の各部寸法を推定し、現地調査により道路や標識、ガス灯、樹木などのデータをBIMモデルに入力して、展望スペースを検討し、既存のポケットパークをリニューアルする提案をしました(図-3)。御楼門を背景に記念撮影をするということは、ガス灯などの存在や、撮影者と被写体の位置も考慮しなければならないことにシミュレーションで気づき、ベストアングルとなる位置を展望スペースとして選定しています。
 

図-3 敷地内のポケットパークから御楼門を展望




(3)鹿児島市景観審議会でのBIM活用
景観設計に当たっては、鶴丸城との「見る、見られる」の関係を大切にし、地元の方がとても大切にしている「歴史と文化の道」に開かれた空間となっているか、BIMを使用して検討を行いました。
 
鶴丸城から「見られる」ことについては、城の中庭に立ったときに圧迫感を感じない建物高さであるかを確認しています。鶴丸城を「見る」ことについては、降灰や強い日差しへの対策として、エントランスモールを街路沿いに設置する計画としましたが、そこを通行する際に連続する柱の間から、御楼門や石垣が十分に見えるほどの開放感があるか、庇が御楼門の姿を隠すことがないかを検証しています(図-4)。
 
さらに、BIMを使用して、時刻の経過によって変わる街と庁舎の表情を確認しながら、色彩、階調、陰影、素材などを探求し、風格・安定感と繊細さ・上品さを併せ持つファサードを創りあげました(図-5)。
 
審議会では、BIMで作成したパースや動画を用いることで、委員の理解も深まり、コンセプトを強化するさまざまな具体の意見をいただき、デザインをより洗練されたものにすることができました。
 

  • 図-4 エントランスモールから見える御楼門や石垣

  • 図-5 ファサードのコンセプト


(4)ユニバーサルデザインレビュー
障がいを持つ方を含めさまざまな方に設計内容を確認していただき、ご意見をいただくユニバーサルデザインレビューを開催しました。
 
BIMモデルにより、建物や各施設へのアプローチでリアルな疑似体験をしていただくことができたことは、レビューを行う上での大きな進歩でした。
 
初めて訪れる人にとって、エントランスの位置はわかりにくいものです。エントランスはモール上に2カ所設置していますが、玄関前の天井を下げて、段差を付けることにより、出入り口の位置が視認しやすく、迷わず玄関へ向かえることを確認しました。
 
一方、自動ドアは当初、木の良さをアピールするために木製のフラッシュ戸としていましたが、視覚障がい者から対面の歩行者と衝突する危険性が指摘されましたので、透明ガラスへ変更しました。
 
その他、エレベータやトイレの位置が分かりやすいこと、誘導・案内サインが適切な位置・高さ・表現となっていることをBIMモデルの疑似体験により確認しています。
 
 

着工・事業経過報告会での活用

本事業は鹿児島市民の心のよりどころである鶴丸城の向かいに建設するため、地域の方々の関心が高く、さらに約4年強もの長期間の工事を行うことから、完成を待たずに事業内容を関係者や市民に説明する必要がありました。そのため、着工式に併せて、事業の経過を詳しく報告する場を設けることとしました。
 
報告のポイントは、「歴史と文化の道地区の景観を守る」ためにさまざまな工夫をしていることと、観光振興やまちづくりに貢献するために「地域との連携」に取り組んでいることの2点です。
 
前者については、本敷地は一帯の景観風致を一体的に維持・保全し、後世に継承するために、高さ20mの高度地区が設定されています。敷地内に高層の建物をつくることができないので、工事を二期に分け、新庁舎を建てて、入居官署を移転し、旧庁舎を壊すというプロセスを2回繰り返す計画としています。そのため、企画段階では事務室面積の整合を図りつつ、官署の移転順を決めるという複雑な検討をすることとなりました。
 
さらに、庁舎は5階建てであり、階高に厳しい制限があるなか、天井高さと柱間寸法を確保するためには、建物の構造と設備を総合的に検討する必要がありました。結果、鉄筋コンクリート造と鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造の3種の構造を、柱梁の部分部分できめ細かく使い分けるようにしています。
 
こうした企画・設計時に凝らした工夫を分かりやすく伝えるためにBIMを活用して、スライドや動画を作成しました。
 
二期に分けての整備については、施工の手順を解体も含めてステップごとに、動画で説明することにしました(図-6)。建築工事受注者が本社に体制を構築し、設計者からBIMデータを引き継いで、動画を作成しました。構造体や外装などの各部位がデータ化されていたため、例えば鉄骨建て方段階、コンクリート打設段階などのステップ図を作成する手間が省力化できたとのことです。
 

図-6 施工のステップ




厳しい高さ制限を技術的な工夫によりクリアしたことについては、BIMモデルより3種の構造を色分けした俯瞰と内部の構造フレームの透視図を作成し、「ハイブリッド構造により、執務空間を損なうことなく、建物の高さを抑えることを実現した」と説明するようにしました(図-7)。
 
 
図-7 構造フレーム SRC造グレー、S造 黄色・緑色、RC造 ピンク


2点目の「地域との連携」については、地域の歴史を踏まえて計画していることを示すために、紹介する動画の冒頭に、本敷地が鶴丸城下の馬場、火除地であった江戸時代から、官庁施設、文化施設、教育施設が形成されていく変遷を古地図や航空写真を利用して説明するようにしました(図-8)。
 

図-8 航空写真による「歴史と文化の道」地区周辺の変遷 (「空中写真データ(国土地理院)」部分 一部加筆)




地域連携方策のひとつであるエントランスモールについては、モールを歩いたときに庁舎のエントランスや御楼門がどのように目に映るのかをウォークスルー動画で表現しています。次に、観光客の視点でこの一帯をそぞろ歩きしたり、ポケットパークで立ち止まったりしたときに見える光景の動画を挿入し、最後には、庁舎をぐるりと空から一周見まわしたときのシーンを描くことで、ファサードが、地域の景観と調和していることを示して終わりとしています(図-9)。
 

図-9 地域連携方策を紹介する動画




こうして作成した動画は、着工式の最後にナレーションを加えて、参加者に見ていただきました。三反園鹿児島県知事からは、「御楼門を展望できるポケットパークが整備されることは鹿児島の観光振興に寄与することになるので感謝する」との言葉を賜りました。鶴丸城御楼門復元実行委員会の玉川委員長からは、「整備局は私たちの要望を真摯に受け取っていただき、かなり苦労したかもしれないが、地域の歴史を尊重し、地域に寄り添った庁舎としていただいた。今後のまちづくりにも貢献するものとしていただき、整備局には心から御礼を申し上げたい」との感謝の言葉をいただきました。
 
 

設計段階での活用

本事業では先述の建築工事受注者のほか、電気・機械の工事受注者もBIMを活用しております。鹿児島ではBIMモデルを作成できる技術者が少ないため、建築工事受注者は大阪の本社でモデルを作成し、ビデオ会議システムを通して、本社と現場でコミュニケーションをとって、施工の検討を行っています。2次元で施工図を検討する場合はA1版程度の大きさが必要ですが、3次元モデルでは問題箇所が把握しやすいため、ディスプレイ越しでも担当者間の意思疎通は十分にとれています。こうすることで、BIMモデラーが不足する地方の施工現場でもBIMの成果が十分に得られています。
 
建築・電気・機械のデータをひとつのBIMモデルに結合させ、干渉チェックを実施しています。梁下配管スペースの不足、配管の構造体への貫通、配管同士の交差、ダクトと配管の接触、配管の天井面への露出、コンクリート躯体と機器の近接など施工上支障となる部分を立体的に把握し、建築・電気・機械工事受注者間で対処案の協議をし、施工の手戻りを最小限としています。(図-10、11、12
 
また、本躯体はハイブリット構造のため、柱まわりには鉄骨・鉄筋・鋼製デッキ等が錯綜しており、複雑なものとなっています。BIMを使用していない躯体下請け施工者へは、施工手順を示す動画を作成し、関係者間で確認をし合っています。
 
施工状況が進みましたら、こうして作成したBIMモデルを現場見学会などさまざまな機会で活用していくことも考えています。
 

  • 図-10 天井裏(配管と鉄骨梁の干渉)

  • 図-11 源機械室の断面確認

  • 図-12 総合図(配管・配線・機器インプット)



 

おわりに

地域の関係者が同じ理解の下、意見を交換することにより、関係者間で良好な関係が築かれ、満足度の高い地域連携となります。連携により、発注者が想像のつかないような地域関係者の思い入れや、地域ならではの意見が得られ、整備内容がよりよいものに昇華され、最終的には関係者間の心の理解や共感につながります。
 
建築専門技術者ではない地域の関係者に我々と同じ理解をしていただくためには、完成した姿をイメージしていただくことが重要であり、BIMはそのための有効なツールであることを改めて実感しました。
 
今回、BIMモデルを作成したのは、設計者や工事受注者ですが、地域の関係者や入居官署に理解をしていただける資料を作成していくためには、発注者も「伝え方」を十分に磨いていく必要があり、BIMの使いこなし方についてある程度習熟しなければならないと感じています。
 
 
 

国土交通省 九州地方整備局 営繕部

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



BIMとMR技術を活用した中間検査と完了検査の実施について

2020年8月6日

 

はじめに

プロジェクトにおけるBIM活用が進む中で、BIMをどのように活用するかを工夫することは、生産性の向上や品質確保にとって重要なことです。近年は、建築確認におけるBIM活用も進んでいます。日本建築センター(以下、「BCJ」という)と竹中工務店も、2017年に日本で初めて省エネ適合性判定の対象となる規模の建築物の建築確認と省エネ適合性判定においてBIMを活用した事前審査を実施し、その有効性や課題を整理するなど、建築確認へのBIM活用に積極的に取り組んできました。
 
2018年は次のステップとして、建築確認で活用したBIMモデル情報を中間検査や完了検査にも有効活用し、かつ、施工時の監理等にも応用の可能性があるMR(Mixed Reality:複合現実)技術を取り入れた検査手法で検査を実施し、その有効性や課題を整理、検討しました。それまで、中間検査や完了検査でのBIM活用の実施事例は、他では公表されていませんでした。建築確認の事前審査で活用したBIMモデルを検査にも活用するのは、初めての試みです。
 
 

検査の概要

(1)検査対象建築物
今回の検査対象建築物の「EQ House」は、竹中工務店とメルセデス・ベンツ日本株式会社の共同プロジェクトであり、設計・施工において、デジタル情報を効率よく連携させるデジタル デザイン ビルドを採用しています。
 
約1,200枚の外装パネルのデザインでは、プログラムによって形態を生成するコンピュテーショナルデザインを採用し、最適な形状と配置を決定しました。また、デジタルデータは施工においても活用しました。各パネルは個別のIDで管理し、工場加工の効率化はもとより、現地での組み立てにおいても、スマートグラスなどのウェアラブルデバイスを通して、設置場所などの必要な情報をタイムリーに提供して作業を支援するなど、生産性の向上を実現しました。
 
このような取り組みの一環として、「EQ House」の建築確認や検査でも、積極的にBIMやその他のICTを活用することにしました。
 
「EQ House」の概要
・建設地:東京都港区六本木
・規 模:延べ面積 88.08㎡、地上1階
・構 造:鉄骨造
・主用途:展示場(従用途:旅館・ホテル)
 
 
(2)検査手法と活用したICT
検査にあたり、BCJと竹中工務店は、検査の効率化と検査の的確性の向上を両立させるために、目的に合わせた次の三つのICTを活用する検査手法を構築しました。
 
①検査用BIMモデル
検査においてBIMモデルをより有効に活用するために、建築確認の事前審査で活用したBIMモデルそのものではなく、検査内容及び検査方法に合わせて色分けや情報を付加した検査用BIMモデルを作成しました。各検査の検査用BIMモデルの詳細は後述します。
 
②MR(Mixed Reality)技術
検査の効率化と的確性の向上を目的とし、現実の空間に存在するモノに合わせてCGを配置して映像化する「MR技術」を活用しました。検査では、検査者と受検者の双方がBIMモデルを投影させたMR用のヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し、BIMモデルと実際の検査対象建築物(現実世界)を重ね合わせて見ながら検査しました。
 
③共有クラウド
情報の一元化と迅速な情報共有のために、関係者のみがアクセスできる「共有クラウド」を利用しました。この共有クラウドは、建築確認の事前審査の段階からBCJが管理を行い、竹中工務店を招待しているもので、BIMデータのViewer機能やBIMデータへの書き込み機能などを有するものです。検査中の質疑も共有クラウドのBIMモデルに書き込むことで、関係者で迅速に情報共有できるようにしました。
 
 
(3)対象とした検査
BIM及びMR技術を活用した検査(以下、「BIM・MR検査」という)は、中間検査の鉄骨の建て方工事の検査と、完了検査の建築設備の検査において実施しました。
 
今回の建築物は、法定の中間検査は不要な建築物であったため、実施した中間検査は任意の検査でしたが、今回の取り組みを法定の中間検査に応用できるように、検査項目や検査内容は法定の中間検査と同一としました。
 
完了検査は、建築基準法に基づく法定検査です。
 
 
(4)BIM・MR検査の位置付け
建築基準法に基づく中間検査と完了検査は、「工事監理の状況の写真及び書類による検査並びに目視、簡易な計測機器等による測定又は動作確認その他の方法により、確認に要した図書及び書類(以下、「確認図書」という)のとおりに工事が実施されたものであるかどうかを確かめる」ものです。
 
今回の取り組みは、従来の現場検査における「目視検査」の一部を、「BIM及びMR技術を活用した目視検査」に置き換える試みです。
 
 
(5)検査の流れ
中間検査も完了検査も、検査の準備から検査の実施までの流れは次のとおりです。なお、BIM・MR検査は、前述のとおり、目視検査の一部を置き換えるものです。BIM・MR検査による検査項目以外の項目は、従来と同じ検査方法で実施しました。
 
①BCJが管理している共有クラウドに竹中工務店を招待。
 
②BCJと竹中工務店で協議し、検査ごとにBIM・MR検査を実施する検査項目を決め、検査項目及び検査目的に合わせた検査用BIMモデルを作成(各検査の検査項目や検査用BIMモデルの詳細は後述のとおり)。
 
③竹中工務店が検査申請と併せて共有クラウドに検査用BIMモデルをアップ。
 
④BCJが、検査実施前に、共有クラウドにアップされたBIMモデルが確認図書と同じであることを確認。
 
⑤BCJ(検査者)と竹中工務店(受検者)の双方がBIMモデルを投影させたHMDを着用し、BIMモデルと検査対象建築物を重ねて見ることにより、BIM・MR検査を実施。
 
⑥検査中の質疑は、BCJが検査時に携帯している端末タブレットを利用して共有クラウドの検査用BIMモデルに入力。
 
⑦検査後、竹中工務店がBCJの質疑に対する回答を共有クラウドに入力し、BCJが回答を確認。
 
 

BIM・MR検査の方法

(1)中間検査
①検査項目
中間検査におけるBIM・MR検査の検査項目は次のとおりです。これらは、鉄骨の建て方工事の検査において、現場で行う主要な検査項目です。
1)構造耐力上主要な部分の部材の位置の確認
2)構造耐力上主要な部分の仕口の構造方法の確認
3)構造耐力上主要な部分の部材の寸法の確認(検査箇所の選定)
4)構造耐力上主要な部分の部材の種別の確認(検査箇所の選定)
 
②中間検査用BIMモデルの特徴中間検査では、検査対象の構造部材が設計図書(確認図書)どおりに施工されていることを確認する必要があります。そのため、①に掲げたいずれの検査項目でも、まずは検査対象の構造部材の設計条件(断面寸法や使用材料等)を確認する必要があります。
そこで、中間検査の検査用BIMモデルとしては、検査項目や検査内容に合わせて、次の「部材断面BIMモデル」と「使用材料BIMモデル」の二つのモデルを作成しました。
 
1)部材断面BIMモデル
EQ House(検査対象建築物)の構造部材は、断面寸法が複数種類あり、かつ、それらが複雑に架構を構成しています。通常のBIMモデルは各構造部材の断面寸法を常時表示しているわけではないため、各構造部材の設計上の断面寸法を確認するためには部材のプロパティ情報を確認する必要があります。そこで、検査の効率化のために、構造部材の断面寸法ごとに色分けした「部材断面BIMモデル」を作成しました。
 
2)使用材料BIM モデル
検査では、各構造部材の材料が設計どおりであることを確認する必要がありますが、1)同様、通常のBIMモデルは各構造部材の材料を常時表示しているわけではありません。そこで、構造部材の材料種別(SS400材、SM490材)の確認の効率化のために、材料種別ごとに色分けした「使用材料BIMモデル」を作成しました。
 
③検査の実施
中間検査では、検査項目ごとに検査用BIMモデルを切り替えながらBIM・MR 検査を実施しました。
①の1)構造耐力上主要な部分の部材の位置と2)構造耐力上主要な部分の仕口の構造方法の確認は、部材断面BIM
モデルを利用し、投影されるBIMモデルとHMD越しの鉄骨架構を目視することにより実施しました。
 
3)構造耐力上主要な部分の部材の寸法の確認も、部材断面BIMモデルを利用し、HMD越しに各部材の設計上の断面寸法を確認した上で、部材断面ごとに数箇所選定して、部材断面寸法をスケールにて測定することにより実施しました。
 
4)構造耐力上主要な部分の部材の種別の確認は、使用材料BIMモデルを利用し、HMD越しに各部材の設計上の材料種別を確認した上で、材料種別ごとに数箇所選定して、材料種別をサムスチールチェッカーにて確認することにより実施しました(図-1)。
 

図-1 中間検査の流れ(構造耐力上主要な部分の部材の種別の確認)



また、検査中の質疑は、現場の写真データも添えて共有クラウドのBIMモデルの該当部分に記録することで、質疑内容がより明確になるように工夫しました。質疑に対する回答(是正報告)も、回答文書に是正後の現場の写真データも添えて共有クラウドのBIMモデルの該当部分に記録することで、検査の経過が明確になるようにしました(図-2)。
 

図-2 BIMモデルに記録した検査の質疑回答




(2)完了検査の方法
①検査項目
完了検査(建築設備の検査)におけるBIM・MR検査の検査項目は次のとおりです。
1)空調・換気機器の設置状況の確認
2)配管・ダクトの各系統の接続状況の確認
3)延焼の恐れのある部分の位置の確認(延焼の恐れのある部分と設備開口の離隔の確認)
4)自動火災報知設備の感知器の感知区域や法定離隔距離の監理状況の確認
 
②完了検査用BIMモデルの特徴
完了検査の検査用BIMモデルとしては、検査の効率化と的確性の向上のために、検査項目及び検査目的に合わせて以下の表示等をしたモデルを作成しました。
 
1)建築設備の種別や系統による色分け
建築設備は、外見が同じ又は似ている機器・器具や配管・ダクト等が多いため、外見のみで種別や系統を判別するのは困難です。そこで、空調・換気機器の設置状況の確認(①1))や配管・ダクトの各系統の接続状況の確認(①2))の効率化と視認性の向上を目的として、BIMモデルの建築設備を種別や系統ごとに色分けしました。
 
2)設計図書における補助線の表示
設計図書では、法適合の確認の効率化のために、延焼の恐れのある部分などの補助線を明示しています。しかし、実際の建築物や敷地には補助線は明示されていないため、通常の検査では、現場と設計図書を見比べたり、距離を測定しながら、各設備の設置位置の確認や妥当性の確認を行います。BIMモデルも、通常は補助線が明示されていませんが、今回は、BIMモデルにも補助線を明示し、実際の建築物に補助線を投影して確認できるようにすることで、検査ポイントの見える化と法適合性の判断の効率化を図りました。
 
3)監理値や監理記録の表示
完了検査は、工事監理者による工事監理の状況を確認することが検査方法の一つです。そのため、検査では、工事監理者の監理記録を確認したり、現場検査における測定や作動状況の確認等の結果と監理記録を比較することで、監理状況の妥当性を確認します。通常は監理記録と設計図書は別の図書ですが、今回は、自動火災報知設備の感知器の感知区域や離隔距離を監理記録としてBIMモデルに記録・表示することで、監理状況の確認の効率化を図りました(図-3)。
 

図-3 モデル化した感知器の感知区域と離隔距離




③検査の実施
完了検査では、BCJ(検査者)と竹中工務店(受検者)の双方が検査用BIMモデルを投影させたHMDを装着し、受検者がBIMモデルをもとに設計(確認図書)内容や監理状況を説明しながらBIM・MR検査を実施しました。
 
検査者や受検者が見ているMR情報は、現場内の大型ディスプレイや持ち運び可能なノートPCにも表示しました。これにより、HMDを装着していない人や現場にいない人も、リアルタイムで検査箇所や検査内容を共有できるようにしました(写真-1)。
 

写真-1 感知器の感知区域や離隔距離を確認する様子
(検査者が見ているMR 情報を現場内の大型ディスプレイにも表示)




 

BIM・MR検査のメリット

BIM・MR検査の実施による、検査者と受検者それぞれにとってのメリットは次のとおりです。
 
(1)検査者にとってのメリット
検査者にとってのメリットは次の3点です。
 
一つ目は、空間把握の確度の向上による、検査の的確性の向上と効率化です。従来の検査では、検査対象の工事と確認図書の整合性や、建築基準関係規定への適合性の確認のために、検査者は複数の設計図書等をもとに、建築物の概略的な特徴の把握や確認を行いながら検査を実施しています。今回、検査用BIM モデルをMR用のHMDに投影して目視することにより、空間把握の確度が高まりました。それにより、検査の的確性の向上と効率化に繋がることが確認できました。
 
二つ目は、BIMモデルに監理記録の一部を表示したことによる、監理状況の見える化です。中間検査も完了検査も、工事監理者による工事監理の状況を確認することが、検査方法の一つとして位置付けられています。監理者が適切に監理していることが見える化されたことは、検査の的確性と効率性の向上に大きく寄与すると感じました。
 
三つ目は、共有クラウドの利用による情報の一元化と情報共有です。検査時に生じた質疑等を、共有クラウドを活用して記録データとして履歴を残すことにより、検査の経過等も含めた情報の一元化と迅速な情報共有を実現できました。また、BIMモデルと一緒に現場の写真データ等も記録できたことは、検査内容の分かりやすさに繋がり、検査者・施工者・監理者等の関係者間の正確な情報共有にも繋がることが確認できました。
 
なお、中間検査と完了検査におけるメリットの具体例は次のとおりです。
 
 
①中間検査におけるメリット
従来の検査は、複数の構造図(伏図や軸組図)をもとに、検査対象範囲の構造部材の位置を確認しています。今回は、検査用BIMモデルをMR用のHMDに投影することにより、構造部材の位置の整合確認が容易にできました。
 
また、従来の検査では、複数の構造図(伏図、軸組図や部材リスト図)をもとに、架構の特徴を把握し、部材断面寸法が異なる部材を数箇所選定する等し、確認する部材の断面寸法等の整合確認をしています。今回は、検査用BIMモデルとBIMモデルに組み込まれている BIM情報を活用することで、架構の特徴の把握が容易になり、確認する部材の効率的な選定が可能となりました。
 
 
②完了検査におけるメリット
建築設備の設計図書は設備の種類ごとに作成されているため、従来の検査では、ある1箇所の検査において複数枚の設計図書と現場を照らし合わせて確認することがあります。今回は、それら設計図書の内容が一つのBIMモデルに集約され、かつ、建築設備の種別や系統による色分けで種別や系統の把握が容易になったことで、設計内容と現場を照らし合わせる作業が容易になりました。
 
さらに、MR技術を活用し、検査用BIMモデルと現場を重ね合わせて確認することができたことにより、各設備の位置の確認が明確かつ容易になり、検査の的確性の向上と効率化に繋がりました。また、天井裏や床下のダンパーや機器等の設計上の位置を把握できたことは、天井裏や床下の検査(点検口からの目視検査)の実施箇所の選定の効率化にも繋がることが確認できました。
 
感知器に関する監理記録の一部をBIMモデルに表示したことで、工事監理者の監理状況の確認や監理記録の妥当性の確認も効率的に行えたことは、検査全体の効率化にも繋がりました。
 
 

(2)受検者にとってのメリット
①中間検査におけるメリット
従来の検査では、二次元の図面と検査対象物を照らし合わせて部材の位置を確認してから、部材の断面寸法や部材種別等の実測を行っていますが、建物の形状、部材の構成が複雑になるほど、この部材の位置確認に要する時間が増加します。これに対してMR技術を活用することで、部材の位置確認の時間が短縮され、全体として効率が良い検査になりました。さらに、検査者、受検者双方がHMDを着用することで、設計データと検査対象物、指摘内容の関係をタイムリーに共有することができるため、スピーディーに検査が行われました。
 
 
②完了検査におけるメリット
従来の検査では、二次元の図面と検査対象物を照らし合わせて配管・ダクト等の位置を確認してから、その仕様を目視確認しています。しかし、配管やダクトは複雑に交錯していることが多く、その位置確認には時間を要します。これに対してMR技術を用いて配管等の位置確認を行うことでその時間は短縮されるため、全体として効率が良い検査になりました。さらに、検査者、受検者双方がHMDを着用したことで、設計データと検査対象物、指摘内容の関係をタイムリーに共有でき、スピーディーに検査が行われました。
 
また、自動火災報知設備の感知器の感知区域や法定離隔距離も、従来の検査では二次元の図面と照らし合わせて条件を確認する必要がありましたが、MR技術を活用することでその条件確認が容易になりました。床下等の隠蔽部の検査は、従来は二次元の図面から検査箇所を特定していましたが、MR技術を用いることでその位置が実空間に投影されるため、特定に要する時間が短縮されました。さらに検査者、受検者双方が見ているMR情報を大型ディスプレイに投影することで、検査者の見ている視界をリアルタイムに他の関係者に共有することができ、多数の関係者がいる場合の検査にも適用可能な取り組みであることが確認できました。
 
 

BIM・MR検査の課題

今回実施したBIM・MR検査の課題は次のとおりです。
 
①検査用BIMモデルと確認図書の整合性確認
中間検査や完了検査は、確認図書のとおりに工事が実施されたかどうかを確認するものです。建築確認の事前審査でBIMを活用していても、現在の確認図書は二次元図面のため、検査用BIMモデルをもとに検査を実施する場合は、検査者が検査前に、検査用BIMモデルと確認図書の整合性を確認する必要があります。将来的に環境が整い、建築確認で活用したBIM モデルからBIMのプロパティ等で容易に検査用BIMモデルを作成又は表示できるようになれば、検査用BIMモデルの活用がより効果的になると思われます。
 
②データ作成や変換等の作業効率
現在は、BIMソフトで作成したデータをPCからHMDに取り込むプロセスを経る必要があります。検査の効率化のためには、このプロセスの作業効率の改善が望まれます。さらに、中間検査の鉄骨モデルの色分け、完了検査での配管、ダクト等の色分けは手動で行っているため、その作業時間も課題です。今回の検査項目以外にも適用する場合は、検査用BIMモデルの準備にさらに時間がかかる可能性があります。また、これらの色分けされたモデルは別途作成する凡例と照らし合わせて確認する必要があり、その凡例資料をタブレット端末や紙媒体で手元に控えておく必要があるため、検査中の作業手順が効率化されているとは言いがたく、今後の改善が望まれます。今後、クラウドのデータをHMDでそのまま可視化できるようになれば、PCからデータを取り込む作業が不要になり、作業工程がコンパクトになります。モデルの色分けは、プロパティに応じてIFC(Industry FoundationClasses:BIMデータ国際標準)データが自動的に色分けされ、HMDに取り込めるようになれば、作業が軽減され今回の検査項目以外にも展開しやすくなると考えられます。色分けに応じた凡例は、HMD上に断面符号や断面サイズ、材質を文字情報等で表示できるようになれば、HMD上で情報が完結するため、検査中の作業がより効率化すると考えられます。
 
③MR用HMDの位置情報の精度
今回利用したMR用HMDは、検査中の移動等により、BIMモデルと実空間の重ね合わせ位置に若干の誤差が生じてしまうことがありました。そのため、活用にあたっては、おおよその位置を確認する程度に制限されます。モデル空間と実空間との重ね合わせ精度は、重ね合わせの参照点を各所に設置することで一定以上確保できるため、将来的には施工誤差が確保されていない可能性が高い場所をハイライトさせる等の検査支援機能が期待できます。位置の情報精度がより高まれば、より一層の検査の効率化に繋がると考えられます。
 
 

まとめと今後の展望

今回の取り組みにより、BIM・MR検査は、視認性を高めることで空間把握の確度が高まり、現地確認に時間を要する箇所の検査の効率化と的確な検査に繋がることが確認できました。また、共有クラウドを活用することで情報の一元化が図られ、検査者・工事施工者・工事監理者等の迅速な情報共有に繋がりました。この検査手法は、法定検査の省力化を図るだけでなく、自主検査、建物維持管理への省人・省力化へとさらなる効率化が期待できます。
 
また、工事監理者による監理状況をBIMモデルに記録し、見える化することは、法定検査の効率化に繋がるだけではなく、品質管理の観点でも重要なことだと考えられます。そのため、BIMモデルを工事監理者による監理ツールに利用することについても検討が必要だと考えます。
 
建築確認で活用したBIMモデル情報が検査にも活用され、その検査の経過等も記録データとして情報管理されることは、BIM活用の望ましいあり方だと考えます。今後は、検査におけるBIM活用の実績を重ね、ルール化を検討していくことが必要になると考えます。さらに、建築物のライフサイクル全体にもBIM活用を広げ、検査の経過等も記録データとして情報管理することで、建築物の品質向上にも繋がるようにしたいと考えます。
 
 
 

一般財団法人 日本建築センター 確認検査部 設備審査課 主査  杉安 由香里
株式会社 竹中工務店 東京本店 設計部 設計第2部門 設計4(アドバンストデザイン) グループ長   花岡 郁哉

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



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