建設ITガイド

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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

建築BIM推進会議における検討や建築BIMの推進に向けた取り組みの状況について

2022年10月14日

はじめに

(1)Society5.0の社会へ

デジタル技術がもたらす社会像として「Society5.0」があります。
「Society5.0」は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として平成28年に提唱されたものです。
これまでの狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とされています。
 
Society5.0の社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。
また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要なときに提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。
社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合える社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。」とあり、これらデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性について提唱されています。

(2)i-Constructionの推進

わが国は、現在、人口減少社会における働き手の減少への対応や潜在的な成長力の向上、産業の担い手の確保・育成などに向けた働き方改革の推進などの観点から、生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、平成28年を「生産性革命元年」と位置付け、社会全体の生産性向上につながるストック効果の高い社会資本の整備・活用や、関連産業の生産性向上、新市場の開拓を支える取り組みを加速化し、生産性革命プロジェクトを実施してきました。
本プロジェクトの中で、ICTの活用などにより調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指す「i-Construction」の取り組みを進めています。
 
「成長戦略フォローアップ」(令和元年6月21日 閣議決定)において、i-Constructionの貫徹やBIMを国・地方公共団体が発注する建築工事で横展開し、民間発注工事へ波及拡大させていくこと、国・地方公共団体、建設業者、設計者、建物所有者などの広範な関係者による協議の場を設置し、直面する課題とその対策や官民の役割分担、工程表などを令和元年度中に取りまとめることが盛り込まれたことを踏まえ、i-Constructionのエンジンとして先行して土木分野で重要な役割を担ってきた「BIM/CIM推進委員会」の下に、建築分野のBIMについて拡充を図るため、令和元年度からWGとして、後述する「建築BIM推進会議」を設置し、建築分野におけるBIM活用に向けた市場環境の整備について具体的な検討が開始されました。
 
 

建築分野におけるBIMの活用状況と課題

現在、諸外国では土木分野だけでなく、建築分野においてもBIMの活用が進んでいますが、わが国での建築分野におけるBIMの活用については、設計、施工の各分野がそれぞれのプロセスの最適化を目指して活用する段階に止まっており、さらなる生産性向上などのポテンシャルがあると考えられる、各プロセス間で連係した建築物のライフサイクルを通じたBIMの活用が進んでいない状況にあります。
この結果、維持管理段階のBIMの活用は低調となり、またBIMの利用効果も限定的となっています。
 
国土交通省が令和2年12月~令和3年1月の期間で設計や施工の関係団体に対して調査したところ、活用状況としては、導入率は全体として46%で、設計分野は、総合設計事務所が約8割、専門設計事務所が約3割、施工分野は、総合建設業、専門工事会社のいずれも約5割となっています。
一方、企業規模別では、1,000人以上の企業が7割以上となっている一方で、10人以下の企業では3割以下といった状況となっています。
特に中小事業者にとっては、導入・運用には多額の設備投資が必要である上に、習熟した人材が不足しているといった課題もあります。
 
 

建築BIM推進会議の設置と昨年度までの取り組み状況

(1)建築B I M 推進会議の設置(令和元年6月)

国土交通省では、前述の「成長戦略フォローアップ」に基づき、建築物のライフサイクルにおいて、BIMを通じデジタル情報が一貫して活用される仕組みの構築を図り、建築分野での生産性向上を図るため、官民が一体となって「建築BIM推進会議」(以下、推進会議)を令和元年6月に設置しました。
 
推進会議では、官民が連携し、建築業界全体が一丸となって今後の建築BIMの活用・推進について幅広く議論し、対応方策をとりまとめていくラウンドテーブルとなり、BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスなどの「将来像」とそれを実現するための「ロードマップ」(官民の役割分担と工程表など)の検討・策定、当該「ロードマップ」に基づく官民それぞれでの検討などが進められました。
 
なお、推進会議は、松村秀一東京大学大学院工学系研究科特任教授を委員長とし、学識者のほか、建築分野の設計、施工、維持管理、発注者、調査研究、情報システム・国際標準に係る幅広い関係団体により構成されています。
国土交通省においても、住宅局建築指導課、不動産・建設経済局建設業課、大臣官房官庁営繕部整備課の3課で事務局を務めています。

(2)「建築BIMの将来像と工程表」の策定(令和元年9月)

令和元年6月に第1回推進会議が開催され、同年9月の第3回の推進会議において、「建築BIMの将来像と工程表」が了承されました(図-1)。
 
特に「将来像」として、「いいものが」(高品質・高精度な建築生産・維持管理の実現)、「無駄なく、速く」(高効率なライフサイクルの実現)、「建物にも、データにも価値が」(社会資産としての建築物の価値の拡大)、の3つの視点で整理されるとともに、その将来像を実現するための「ロードマップ」が、次の(1)~(7)の7項目に整理され、連携しつつ検討していくこととされました。
 
① BIMを活用した建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
② BIMモデルの形状と属性情報の標準化
③ BIMを活用した建築確認検査の実施
④ BIMによる積算の標準化
⑤ BIMの情報共有基盤の整備
⑥ 人材育成、中小事業者の活用促進
⑦ ビックデータ化、インフラプラットフォームとの連携
 
また、これらに取り組む基本的な戦略として、以下の3点を掲げています。
 
・マーケットの機能を生かしながら、官・民が適切な役割分担の下で協調して進める
・先行的な取り組みを進め、その後に一般化を図る(PDCAサイクルによる精度の向上)
・可能な限り国際標準・基準に沿って進める
 
特に1点目の役割分担に留意し、①のワークフローの検討など、さまざまな業界間の調整が必要な部分については国が主体的に事務局を行う部会「建築BIM環境整備部会」を設置することとし、②~⑤については既に民間の関係団体などにおいて検討が進められていることから、それらの各団体の活動を部会と位置付け、個別課題に対する検討などを進めることとされました。(令和元年10月~)
 
なお、当面は①~⑤の取り組みを先行して行うこととされていましたが、令和3年度から⑥と⑦の取り組みにも着手したところです。
 
現在も、これら部会において官民が一体となってBIMに関する議論を進めています。

建築BIMの将来像と工程表-7つの取り組みと工程表-

図-1 建築BIMの将来像と工程表-7つの取り組みと工程表-


(3)ガイドライン(第1版)の策定(令和2年3月)

①の検討を行う「建築BIM環境整備部会」(以下、環境整備部会)は、志手一哉芝浦工業大学建築学部建築学科教授を部会長とし、推進会議と同様に幅広い関係団体などにより構成されています。
 
令和元年10月から環境整備部会において、BIMのプロセス横断的な活用に向け、関係者の役割・責任分担等の明確化などをするため、標準ワークフロー、BIMデータの受け渡しルール、想定されるメリットなどを内容とする「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(以下、ガイドライン)の検討が行われ、推進会議での承認を経て、令和2年3月にガイドラインが策定、公表されました(図-2)。
 
特にガイドラインでは、「維持管理BIM作成業務」と「ライフサイクルコンサルティング業務」の2つについて言及されています。
 
維持管理BIM作成業務は、設計段階のBIMをベースとしつつ、施工段階で決まる設備施工情報や設備機器の品番、耐用年数などの必要な情報を入力・情報管理し、竣工後、維持管理段階にBIMを引き継ぐ役割です。
 
また、ライフサイクルコンサルティング業務は、維持管理段階に必要と想定されるBIMおよびそのモデリング・入力ルールを、設計者との契約前に事前に検討し、設計者・維持管理BIM作成者・施工者に共有する業務です。
 
これら業務を組み合わせることで、設計、施工、維持管理段階をBIMで効率的につなげ、デジタル情報を一貫して活用することが可能となるとしています。

建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)

図-2 建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)


(4)モデル事業の実施など(令和2年度)

令和2年度から、第1版であるガイドラインの実証などを行うため、ガイドラインに沿って試行的にBIMを導入し、コスト削減・生産性向上などのメリットの定量的把握・検証や、運用上の課題抽出を行う、「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」を実施しています。
本事業では、ガイドラインの実証だけでなく、BIMを活用した場合の具体的メリットを明らかにするとともに、BIM実行計画書(BEP(BIM Execution Plan))、BIM発注者情報要件(EIR(Employer’s Information Requirements))を含む検討の成果物を公表することとしています。
 
令和2年度は、本事業について40件の応募から8件を採択するとともに、別途、モデル事業に採択されなかった提案のうち、推進会議と連携し検討内容の熟度を高めることで、今後成果物が公表された場合に当該成果物の発展性・波及性等が見込まれるものとして学識経験者などにより評価されたものを「連携事業」として14件選定しました。
各事業で検討が進められ、環境整備部会において、検討の進捗状況や成果について報告・議論されました。
 
これらの事業等による検証の結果、標準ワークフローの大きな枠組みについては、汎用的に各プロジェクトで適用され標準ワークフローに基づく運用上の留意点などや、BIMの定量的な活用メリットなどが提言されました。

 
 

令和3年度の取り組みと今後の展開・展望

(1)ガイドラインの改訂

令和3年6月に閣議決定された成長戦略フォローアップ(令和3年6月18日 閣議決定)において、ガイドラインに基づき、官民などが発注する建築設計・工事などにBIMを試行的に導入し、コスト削減・生産性向上などの効果検証や、運用上の課題抽出を行い、その結果を踏まえ、令和3年度中にガイドラインの改定に向けた検討を行うとされました。
 
これを踏まえ、本年度中の改定(第2版の策定)を見据え、検討をしています。
 
第2版については、モデル事業などの試行プロジェクトに基づいた具体的な修正案などの意見を踏まえ、環境整備部会などにおいて議論・調整を行い、改定することを基本方針として検討・作業を進めています(図-3)。

ガイドライン改定の検討方針について

図-3 ガイドライン改定の検討方針について


(2)モデル事業の実施など(令和3年度)

令和3年度は、昨年度の成果なども踏まえ、「先導事業者型」、「パートナー事業者型」、中小事業者BIM試行型」の3つの枠に分けて募集をしています(図-4)。
 
「先導事業者型」は、昨年度のモデル事業と同様のものとして、発注者メリットを含む検証など昨年度に検証されていないもの、もしくは発展させたものであることを応募の要件として募集を行い、16件の応募から7件を採択しました。
 
また、「パートナー事業者型」は、昨年度の「連携事業」と同様の位置付けで、推進会議に連携・提言を行っていただく事業として募集を行い、5件を選定しました。
 
最後に、「中小事業者BIM試行型」は、BIMの普及に向けた取り組みの一環として、中小事業者が事業者間でグループを形成し、試行的にBIMを活用し、BIMの普及に向けた課題解決策の検証などを行うものであることを応募の要件として募集を行い、24件の応募から9件を採択しました。
 
これらの事業については、本年度から新たに設置したBIMの活用による生産性向上などのメリットや課題の検証を行うWG(先導型BIMモデル事業WG)と、BIMの導入や普及に向けた課題解決策の検証などを行うWG(中小型BIMモデル事業WG)において、検討の進捗状況や成果について報告・議論いただく予定です(本年度は既に10月に同WGを開催)。
 
これら官民の事業が推進会議と連携し、同会議において検討内容が議論・公表されることで、さらにBIMの検討が加速することが期待されます。
 
なお、これらの事業については、昨年度と同様、本年度末に報告書が広く公表されるだけでなく、成果報告会を開催する予定です。

令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業

図-4 令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業


(3)今後の展開・展望

建築BIMの推進においては、官民一体となって個別課題に対する検討などを進めるとともに、共通する課題に横断的に取り組むことが重要となります。
このため、昨年度から、それまで①~⑤の課題に対し個別に検討を進めてきた各部会について、部会間の連携をさらに深め、共通する課題への取り組みを進めています。
 
また、各部会だけでなく、例えば設計三団体((公社)日本建築士会連合会、(一社)日本建築士事務所協会連合会、(公社)日本建築家協会)では、設計プロセスについてさらに深掘りした「設計BIMワークフローガイドライン建築設計三会(第1版)」を令和3年10月に策定するなど、推進会議に参加している各団体においても、ガイドラインを踏まえ、検討を進められています。
 
引き続き推進会議の下で部会間・関係団体間で連携し、官民一体となってさらに検討を行ってまいります。
 
特に環境整備部会では、前述のガイドラインの改定に係る議論を通して、発注者メリットと発注者の役割や、BEP・EIRの策定、維持管理BIMの作成方法、ライフサイクルコンサルティング等に係る検討を行う予定です。
また、今後も継続して、契約や業務報酬、竣工モデルの定義、著作権などについても議論を進めていきたいと考えています。
 
こうした継続的な取り組みにより、マーケットのさまざまな事業でBIMが広く活用され、関係団体の検証も進み、将来的にはさまざまな人材の育成や幅広い事業者への普及、さらにはビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携などに広がっていくことを期待します。

 

国土交通省 住宅局 建築指導課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



橋梁維持管理における複合的3次元計測

2022年10月13日

はじめに

ここ数年来、構造物維持管理において3次元点群データや3次元モデルはその活用についてめざましい発展を遂げている。
とりわけ橋梁維持管理においては、損傷などが多様にわたり従来の2次元データでは実現できないような劣化状況を表現することができる。
3次元データを取得する場合さまざまな計測機器および技術が市場に提供されており、本稿においては地上型レーザースキャナー、ハンディースキャナー、およびSfMを活用した橋梁損傷部の3次元計測について報告する。
また本計測では名古屋大学内橋梁長寿命化推進室教育施設N2U-BRIDGEを計測対象とした。

 
 

橋梁維持管理における課題

橋梁定期点検は基本的に近接目視にて行い、損傷図や損傷写真、部材ごとの健全度を評価し調書として記録することとなっているが、現状では以下の課題がある。
 
・点検調書の損傷図は部材の形状や損傷を正確に表現したものではないことから、定量的に活用することは難しく、その後の追跡調査や工事に活用しにくい
・損傷の進展を確認するには、点検調書の限られた写真と現状の目視によるピンポイントの比較となるため、損傷の全体像や経年変化を把握することが難しい
・架橋条件によっては、交通規制を伴う橋梁点検車や高所作業車が必要であるため、近接目視作業が非効率なものとなり、点検に多くの日数や費用が必要となる
 
以上の課題を解決するため、現地作業の効率化、既設構造物形状や損傷情報の定量的な把握、および損傷の全体像や進展性の確認が可能な方法として、損傷を含めた橋梁全体の3次元データ取得を行うこととした。

 
 

計測対象(国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学 橋梁長寿命化推進室N2U-BRIDGE)

N2U-BRIDGE(ニュー・ブリッジ)は国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学、中日本高速道路株式会社、中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社が共同管理する施設であり、さまざまな劣化・損傷が生じ撤去された橋梁の部材を全国から集めた実橋モデルである。
名古屋大学橋梁長寿命化推進室(室長 名古屋大学大学院 中村光教授)は、N2U-BRIDGEを活用し臨床型の橋梁維持管理技術者の養成・研修などの事業を行っている。
今後急速に増加していく供用後50年以上となる老朽化した橋梁の点検・診断には、3次元データの効率的な活用が期待されることから、名古屋大学橋梁長寿命化推進室の協力を得てN2U-BRIDGEの3次元計測によるデータ取得を実施した(写真-1)。

N2U-BRIDGE全景

写真-1 N2U-BRIDGE全景


計測方法1 地上型レーザースキャナー

橋梁の形状計測において、地上型レーザースキャナーは既設形状の3次元データ取得をする上で欠かせないツールである。
完成図が存在しない橋梁や、また完成図にはない添架物の追加や改修による補修補強部材の設置など、供用のうちに形状が変化していることがあるため、既存図面では得られない構造物の最新状況を把握することが可能となる。
さらに周辺状況も3次元データ化されるため、将来の補修補強工事の際の仮設計画や施工計画の立案も容易となる。
また計測対象物に近接せずに離れた位置からの計測が可能なため、危険箇所などに立ち入ることなく安全な場所からの計測作業(データ取得)が可能となる(写真-2)。

地上型レーザースキャン状況

写真-2 地上型レーザースキャン状況


計測方法2 ハンディースキャナー

地上型レーザースキャナーは広範囲の3次元形状の把握に適しているものの、小型構造物や狭隘な部位など、死角となりやすい形状を有する場合はデータに欠落を生じることがある。
この点はハンディースキャナーを用いてデータを補完することができる。
対象物をスキャンしながらリアルタイムで計測中の3次元モデルを確認ができ、撮り残しがあれば追加でスキャンを行えばよい。
また3次元カラーカメラを搭載しているため、3次元モデルに写真データを元にしたテクスチャを貼り付けることで、形状だけでなく色調も正確にモデル化される。
 
ハンディースキャナーは機械製品や人体などの医療分野、文化財など幅広い分野で利用されており、橋梁においては支承や鋼橋の部材単位での形状計測においても有効なツールとなる。
なお今回の計測ではパソコンレス仕様のハンディースキャナーを使用した。
現場にパソコンを持ち運ぶ必要がないため、従来モデルに比べ操作性、利便性が飛躍的に向上している(写真-3)。

ハンディスキャン状況

写真-3 ハンディスキャン状況


計測方法3 UAVの活用

高所にある橋梁や、広範囲の径間・部材を有する橋梁の場合、損傷部位へのアクセスや作業効率が悪いため、調査時には多大な労力を必要とする。
UAV(Unmanned Aerial Vehicle)は人が移動することなく動画や写真による情報収集が可能なことから、損傷調査作業の効率化が期待できるものの、鋼橋などの複雑な構造を有する構造物に適用する場合、UAVの特性を理解した上での機種選定が必要となる。
 
通常のUAVは橋梁下面など非GPS下となる電波の届かない場所では手動の操縦となるため、機体が障害物に接触して墜落する恐れがある。
一方、今回使用したUAVは機体上下にある計6個の魚眼レンズによる「VisualSLAM」技術を搭載しているため、全方位の3次元地図を作成し自機と障害物との全方位の距離を把握できる。
さらに機体のAIが周囲の形状を認識して自動で障害物を回避するため、非GPS下においても安定した飛行が可能となる。
このように熟練の操作技術や経験を必要としないことは、橋梁の維持管理におけるUAV調査手法の普及を促進する点において大きな利点といえる(写真-4)。

UAV調査状況

写真-4 UAV調査状況


計測方法4 SfMの活用

SfM(Structure from Motion)とは大量に撮影された写真から特徴点を抽出し、撮影時のカメラの位置および向きを推定することで撮影対象の3次元形状を復元する技術である。
SfMにより作成された3次元モデルからメッシュデータ(objなど)、点群データ(lasなど)、オルソ画像(jpgなど)の出力が可能なため、近年では簡易地形測量や概略土量計算など、土木分野においても活用事例を増やしつつある。
 
N2U-BRIDGEにおいては、舗装や小部材は一眼レフによる静止画撮影(写真5-1)、高所にある床版下面や下部工はUAVによる動画撮影(写真5-2)を行った。
これらのデータをSfM処理して橋梁の部材ごとに3次元モデル化を行い、各出力データを作成した。
これにより損傷した部材はパソコン上で再現ができ、かつ3次元モデル上で計測が行える。
また床版下面などのコンクリート面は格間単位で1枚のjpgデータにて作成できるため、画像処理機能を持つひび割れトレースソフトを活用することで、ひび割れなどの損傷をリアルに再現(写真5-3)した状態で広範囲の損傷記録として保存が可能となる。

一眼レフ写真撮影状況(舗装面)

写真-5-1 一眼レフ写真撮影状況(舗装面)

UAV動画撮影状況(床版下面)

写真-5-2 UAV動画撮影状況(床版下面)



 

床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録

写真-5-3 床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録



 

橋梁維持管理マネジメントシステム

橋梁の維持管理は、点検結果のほか、対象物の諸元や補修履歴などの多くの情報集約を必要とする。
現在これらは橋梁台帳、点検調書、補修補強設計図などとして紙ベースで管理されているものの、複数の書類が年度別に存在し、情報の一元管理が難しい。
この点は点群データ上に2次元、3次元のさまざまなデータを展開できるソフトウエア「Arena4D DataStudio-J」(以下、Arena4D-J)を活用することで解決できる。
これにより橋梁全体の維持管理情報の一元化ができ、次の点検や補修工事に役立てることが可能となる。
N2U-BRIDGEの3次元データ取得においても、これまで紹介した計測手法のデータを点群上に集約するためArena4D-Jを活用した。
なおデータの配布方法としては、紹介動画作成のほか成果物をデータパッケージ化することで、事前にソフトをインストールしていない場合でも閲覧可能な無償ビューワーを提供できる(写真-6)。

床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録

写真-6 床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録



 

複合的3次元計測の効果

今回の計測ではN2U-BRIDGEの全ての部材の3次元データ化を行うことで、従来の2次元の成果に対し、より現実的な3次元のアウトプットで表現することができた。
また複数の3次元技術を活用することで効率的な調査が可能となり、予定より早く調査を終えることができた。
N2U-BRIDGEのような鋼・コンクリート橋、また大小の部材で構成された施設を3次元データ化するには、複数の技術についてそれぞれの技術の長所を生かし適材適所で活用することが重要と考える。
 
なお今回の3次元データ取得は調査員4人が1日半で行い、3次元データ処理はひび割れの画像処理を含め1カ月であった。
本計測結果として3次元データイメージを約5分にて閲覧できる動画を作成している写真7はその動画タイトルである(写真-7)。

床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録

写真-7 3次元データイメージ動画タイトル



 

今後の課題とまとめ

今回のN2U-BRIDGEでの3次元計測を通じ、現地作業の効率化、既設構造物形状や損傷情報の定量的な把握、および損傷の全体像や進展性の確認という現状の課題を解決し得る成果が得られた。
現場作業の効率化が見込める点においては特に有効と考えている。
以下の課題を挙げたい。
 
1.3次元データは容量が大きく処理時間を要するため、高性能なパソコンは必須である。
2.3次元による損傷の表現の仕方が見えてきたことから、次の段階として損傷判定の適切な表現方法を考えていく必要がある。
 
 

今回使用機材、ソフトウエア
・地上型レーザースキャナー:FARO Focus3D S120
・ハンディースキャナー:Artec Leo
・UAV:Skydio J2
・一眼レフカメラ:Nikon D7500
・SfMソフト:Context Capture
・3次元データ総合マネジメントソフト:Arena4D DataStudio-J
・コンクリート構造物劣化調査支援ソフト:Crack Imager

 
 

あとがき

株式会社補修技術設計が主導するM-CIM研究会では構造物調査において3次元技術を活用し調査技術の新たな展開を図る賛同者を会員として募っている。
また技術研修会では会員中心に3次元データの取得および活用での技術情報ミーティングを実施している。
本趣旨に関心を持つ方は法人および個人を問わず本部事務局へ問い合わせいただきたくお願いします。
 
M-CIM研究会事務局(株式会社補修技術設計内)
〒134-0088
東京都江戸川区西葛西6-24-8尚伸ビル5F
e-mail ire@ire-c.com
電話 03-3877-4642
 
最後になりますが、本稿執筆に当たり3次元データ取得のため施設を提供していただいた、名古屋大学長寿命化推進室中村光教授ならびに橋梁長寿命化推進室関係各位に心より御礼申し上げます。

 

 

株式会社補修技術設計 兼M-CIM研究会
小出 博/斎藤 雅信

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 



3次元部品データの利活用について -これからの部品データ利活用のあり方を探る-

2022年10月12日

CUGが行う部品データの整備について

CUGとはどんな活動団体なのかを最初にご紹介する。
 
2007年、土木分野への3次元モデルの導入推進を目的に、Civil 3D User Groupを発足し、その後、2012年に、設計者・施工者をはじめとした土木技術者の集まりとしてCivil User Group(略称:CUG)へと発展してきた。
 
時同じく2012年度より開始された国土交通省のCIM活動への対応も、3次元部品の公開や、CIMインストラクターの認定など、人材育成と環境整備に力を入れている。
3次元部品の公開については、以下のサイトで長年にわたり公開してきた。
 
実はこのサイトは、現在までに以下の図のような変遷をたどっている(図-1)。
 
2015年から整備をスタートし、2016年に公開した当初は主に自分たちがBIM/CIMを進める上で、部品として配置することにより、より現実的な施工現場や設計段階での計画シミュレーションを行うために整備してきたものであった。
CUGには実務を行っているメンバーが集まっているため、CUGの3次元部品WGに参加した有志の集まりで作成され、自らの業務で作成したものを公開している程度であった。 
 
CUGのWebサイトで公開しているものを少しでも永続的、かつ、より多くの人が利用しやすいようにと、部品サイトでは世界的に有名なBIMobject(図-2)の日本法人と協力し公開を試みるも、当時のBIMobjectの公開規則は、製造メーカーが自身の製品の部品を公開することが原則であり、いわゆるジェネリックモデルとして作成した部門を公開することは許されていなかった。
そのため、このBIMobjectサイトを利用するための条件をBIMobject社と協議をした結果、CUG会員という有志で登録されている部品の意味を理解している人のみ利用できるという条件で、CUGサイトに登録した会員のみにしか土木関連部品が利用できないという流れとなった。
限定されたメンバーへの公開となったが、それでもこの世界最大の3次元部品プラットホームのBIMobjectサイトを利用し、日本の土木部品を公開できることは、部品サイトの永続性を考えると大きな転換点になったと思われる。


CUGが整備してきた部品サイトの変遷

図-1 CUGが整備してきた部品サイトの変遷


BIMobjectが公開している部品サイト

図-2 BIMobjectが公開している部品サイト(https://www.bimobject.com/ja



 

世界の状況

さて、このような3次元部品サイトの状況ではあるが、日本以外のサイトはどのような整備が進んでいるのか、米国、欧州、アジアの様子を以下にまとめた。
 
● 米国ウィスコンシン州では、発注機関からソフト、部品、テンプレート、マニュアルなど全て提供されている。
● イギリス王立建築協会が運営しているサイトで、主にメーカーが作成したBIM用の部品が登録されている。
● シンガポールは、BIMが進んではいる。
 しかし、建築確認申請時に3Dモデルが必要ではあるものの、部品サイトは存在していない。
● 韓国は、建築分野のライブラリーは民間団体が配布している状態である。
 土木分野のライブラリーは国土交通部と政府の研究機関、韓国建設技術研究院(以下、KICT)が100%運営をしている。
 設計・積算に主眼を置いているため、3D部品に限らず、アセンブリ(組立図)の登録もされているが、政府機関が必要なものに限られている感がある。
●スウェーデンのベンチャー企業のBIMobject社は、世界最大のBIMデータライブラリーサイトを全世界向けに運営している。2017年にはBIMobjectJapanが設立されている。

 
 

このようにほとんどが建築向けの部品サイトとなっており、インフラ分野での部品サイト構築はないに等しい。
 
しかしながら、韓国では、唯一、土木分野における「ライブラリー」が存在する。
 
韓国でのインフラ分野におけるライブラリーは、ライブラリーの利用者は、民間業者ではなく、発注者および発注者業務を実施する設計コンサルであり、道路建設における業務プロセスを大幅に短縮するために利用している。
計画はもとより、積算業務などへの取り組みが積極的であり、その取り組み内容はKICTのムン博士やジュ所長(2017年当時)から聞いたわれわれも、本来国としてあるべき取り組みであると、感嘆の声を上げざるを得ない内容だった。
 
この件については、詳細はこちらをご覧いただきたい(https://www.jacic.or.jp/hyojun/2016shouiinnkai-01.html)。

 
 

日本の部品データの整備状況

このような状況において、では日本は建築分野、土木分野においてどのような状況なのかを今一度整理してみたい。
 
BIM(建築系)では、2015年秋に設立されたBIMライブラリーコンソーシアムが、(一財)建築保全センターに事務局を置き、117者の会員企業・団体から成るコンソーシアムとして、BIMライブラリーの構築・提供を目標として活動を開始し、2019年8月23日付で国土交通省に技術研究組合として認可され、法人格を持つBIMライブラリ技術研究組合に移行した。
 
BIMによる円滑な情報連携の実現のため、BIMオブジェクトを標準化し、その提供や蓄積を行うBIMライブラリを構築・運用するとともに、現在BIM導入を検討・開発中でその効果が大きい領域との連携を図ることにより、効率的な建築物のプロジェクト管理などの実用化に関する試験研究を実施することを目的として活動を継続している(図-3)。
 
建築分野における情報連携を進めるための属性情報の入力規則や内容を統一するための活動や、建築プロセスを通じて利用するための基準統一などの活動がここでは行われている。 
 
翻って、土木分野に目を転じると、国土交通省は2018年3月、効率的に3D設計を進める一つの手法として、3Dモデルを構成するパーツを作成・提供する「3次元部品データライブラリ」の構築に乗り出すということで、2020年度の運用を目指し、CIMライブラリー構築の検討が始まっていた(図-4)ものの、現在もこのライブラリ構築は行われていない。
 
国が整備するライブラリ構築については、単なる部品ライブラリではなく、韓国のような考え方を基にライブラリを構築しなければ、公共工事におけるライブラリ利活用は意味がない。
現在、国土交通省がパラメトリックモデル構築の取り組みを進めているが、単なるモデルのデータ交換やモデル構築を楽にするための方法ではなく、このモデルが設計・積算のみならず、さらなる土木施工を効率化させるためのプレキャストへの展開と誘う流れにしてほしい(図-5)。

BIMライブラリ技術研究組合

図-3 BIMライブラリ技術研究組合(https://blcj.or.jp/


3次元オブジェクトの供給に関する検討資料(2017年資料より)

図-4 3次元オブジェクトの供給に関する検討資料(2017年資料より)


パラメトリックモデルの考え方(素案)

図-5 パラメトリックモデルの考え方(素案)
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001395569.pdf



 

今後の整備と展開について

このように、日本での部品整備は、建築分野、土木分野における利用の違いによって、整備状況も方針も変わってくるが、CUGとしては実際のモデルを構築する土木技術者が少しでも手間をかけずに利用できる部品サイトの構築に力を入れていきたい。
 
また部品整備を進めるに当たり、Webサイト基盤整備においてコストと時間をかけ、利用環境を常に最新の物にすることが望まれるが、CUGとしての活動はそもそも慈善活動でまかなわれていることもあり、これらを実現することは難しい状況であった。
BIMobject社と再度協議を重ねる中で、「CUG×BIMobjectブランド」として、通常のメーカーの公開方法に近い立場で情報を公開できることになった。
CUGサイトを通じれば、カテゴリ別・部品種類別での絞り込みは可能であり、さらにCUGの会員登録をしなくてもダウンロードが可能となる。
 
その環境構築をBIMobject社とともに進めた結果、2021年12月24日に正式公開の運びとなった(図-6)。
 
今後は、BIMobjectの無料会員登録をすれば、CUGサイトの埋め込まれたライブラリから、誰でも利用が可能となる(図-7、図-8)。
 
BIMobjectのプラットホームを利用した部品公開ができたことにより、ダウンロードした日時やダウンロード数のデータが分析できる。
なお、CUGは幅広いユーザーに利用してもらうため、個人情報に該当するユーザー名などは、CUG側では管理できない仕様とし、サイトの運用をBIMobjectとともに行っていく。
どのような部品を皆が好んで利用しているのか、またどんな部品を欲しているのかなど、利用者と提供者の間において利用履歴を活用した意思疎通も図ることができそうである。
ぜひ、CUGのフォーラムで意思疎通を図ってもらいたい。
 
現在われわれCUGの3D部門活動有志メンバーだけで今後の部品を増やしていくことは難しい状況でもあるため、ぜひこの活動に参画し、一緒に部品を増やし、また、利用しやすい環境を構築するために手伝ってもらえる方々を募集している。
また部品についても、こんな部品が欲しいなどの声も併せて募集している。
 
国土交通省をはじめ行政機関には、部品という単純なものを整備するのではなく、その活用や運用を含めた対応を実施していただき、われわれCUGのメンバーは、自身も含めて土木技術者が「簡単・便利・使いやすい」ものを提供することに主眼を置きながら、今回のような世界的に展開している関係者との協調体制を構築し、土木技術者が土木技術者のために必要な環境を整備していくために力を発揮していきたいと考えている。
 
本件への対応に関して、問い合わせがある方はサブリーダである加藤氏もしくは小島氏に連絡いただきたい(図-9)。

 
 

※活動参加者一覧
3D部品WG(継承略)
リーダ:杉浦伸哉(大林組)
サブリーダ:加藤 俊(ヒロセ)
サブリーダ:小島文寛(東急建設)
メンバー:長谷川充(水都環境)
     石川信恵(水都環境)
     石倉博司(水都環境)
     新 良子(CTC)
     田中和恵(CUG)
     後藤直美(大林組)
     糸田川由美(東急建設)
     林 美幸(ティーネットジャパン)
     山村洋平(ソフトバンク)
     椎葉 航(EARTHBRAIN)

パラメトリックモデルの考え方(素案)

図-6 CUGサイトにおけるBIMobject基盤を使った公開イメージ


部品一覧表示内容

図-7 部品一覧表示内容


部品詳細情報表示内容

図-8 部品詳細情報表示内容


連絡先

図-9 連絡先


 

 

CUG 3次元部品WGメンバー
代表 杉浦 伸哉
CUG 3次元部品WGメンバー 代表 杉浦 伸哉


 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 



地方発!i-Constructionチャレンジ事例i-Con第2世代を育て、生産性向上の裾野を広げる

はじめに

弊社は静岡県袋井市に本社を置く、昭和 34 年創業の土木・建築を業とする建設会社です。
社員は 19 名と小さな会社ですが、近年ICTの活用は社内でも特別なものではなくなってきました。
今後の工種拡大やスタッフの活用に差ができないよう、ICTの普段使いと裾野拡大に向けて取り組みを進めています。
 

株式会社 内田建設 株式会社 内田建設


 

ICT活用工事の今

2016年よりi-Constructionが始まり6年目に突入し、ICT活用工事も浸透してきました。
工種もどんどん増え、ICTは聞き慣れた言葉となり、ICT活用工事は中部地方整備局管内では1企業(Cランク以上)当たりのICT(土工)受注率は90%程度と、複数回受注も50%を超えているようです。
 
資料では「みんながICTに取り組んでいるようだけれど、自分はおいていかれているだろうか」と思われる読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
 
しかし当初の目標、生産性20%UP(2025年)、そして人材不足の解消は、もっと普及していかないと達成できないのではと感じています。

ICT活用工事(土工)の受注実績分析

ICT活用工事(土工)の受注実績分析



 

i-Con第1世代が活躍のこれまで

ICT活用工事の伸びは主に積極的に進めてきたi-Con第1世代が繰り返し施工することで、工事件数が増加しています。
内田建設でも、第1世代は繰り返しICT活用工事に取り組むことができました。
しかし裾野拡大が進まないと生産性が停滞してしまいます。
そこで弊社では推進係を設置してi-Con第2世代の積極的な育成をしており、活躍の場を広げています。

弊社の3年前の状況(習熟度と施工件数)
と現在の状況

弊社の3年前の状況(習熟度と施工件数)と現在の状況
※赤は現場作業員 青は現場監督
2人が牽引よりも第2世代全員で生産性UPを目指す



 

i-Con第2世代へインタビュー

裾野拡大の成果が出てきたところで、第2世代の方へ取り組んで良かったこと、苦労した点や今後の抱負などを聞きました。

i-Con第2世代の監督 自ら構造物を3D化し現場説明会を行った松浦氏

i-Con第2世代の監督 自ら構造物を3D化し現場説明会を行った松浦氏



 

3Dに取り組む上での苦労と今後への抱負

今回は自主的なICT活用で地元説明会や協議資料、土量算出などを行いました。
3Dは分かりやすく十分効果があったと思います。
 
取り組み当初は気持ち的なハードルが高かったのですが、食わず嫌いになっていたと思います。
今後は、若手が伸びているので、新機能はサポートを受けつつ、これまでの現場経験がある分、適材適所で便利なツールを使っていきたいと思います。
 
メリットは昇降が少なくなることと、丁張がなく1日の疲労度が下がるとかですかね。
初めてICT工事のオペになったときは操作をよく聞いていましたが、最近は別のオペレーターにもICTの癖を教えています。
選手寿命を延ばしてできるだけ長く働きたいですね。
 
CADも初めてで戸惑うところは多かったのですが、一般的なPCスキルからでもなんとかICT施工の管理ができるようになりました。
まずはICT現場が円滑に回るようサポートをして、今後BIM/CIMや通常の現場管理を身に付けたいです。
メリットは、ICTがないときは大変だったんだなぁと(笑)

還暦後ICTオペレーターとして成長著しい小栗氏

還暦後ICTオペレーターとして成長著しい小栗氏


第2世代の成長を支援するICT推進係の佐藤氏

第2世代の成長を支援するICT推進係の佐藤氏

第2世代の成長を支援するICT推進係の佐藤氏



 

たどり着いた『普段使いの』ICTサポート体制

実は、社内でもなかなかICTの普及が進まない時期があったため、ICT推進係を設置しサポート体制・機材の拡充を行いました。

杭ナビショベル操作を説明する推進係(右2名)

杭ナビショベル操作を説明する推進係(右2名)


いつでも誰でも確認できる環境をつくる

中小企業のICTは推進者の頭の中、そんな感じではありませんか?そこで今回の体制では推進係が研修後の復習も兼ねてマニュアル作りも行うことで知識の定着と第2、第3世代へとつないでいます。
また、スキルアップのため、監督総出でKENTEMさんへ3D設計合宿も行いました。

社内マニュアル

社内マニュアル

監督全員KENTEM合宿

監督全員KENTEM合宿


普及への障害だったこと

会社のICT工事件数が伸びても普及が進まないのは、支援・育成のどちらの人材も通常業務が忙しいからです。
ICT活用工事以外でのICT活用は「不要不急」と誤認してしまい、ICT化が進まないサイクルに陥ります。
加えて、ツールの変化が大きく、使いこなすための指導と体験も必要でした。

普及への障害だったこと


成長した要因

今回、推進係という専任が入り、ICTで困ったときにサポートできる体制ができたことで、ICTの操作の受け皿が大きくなり少しずつ成長が進んだのだと思います。

成長した要因



 

今後の展望と新たな挑戦!!3Dデータ利活用

その1:ICT建機を全ての現場で挑戦へ

活用工事以外の現場へもICT重機の活用を進めています。
衛星の入る現場、入らない現場、小規模な現場でも対応できるようGNSS用、TS用、小型重機と、どんな現場でも効率的な施工を目指して、挑戦を進めています。

ICT建機を全ての現場で挑戦へ

ICT建機を全ての現場で挑戦へ


その2:現場の見える化へ挑戦

作成した3Dデータの設計見える化にも力を入れて挑戦しています。
現在はHololens2とiPadでのMR/ARを関係者との打合せに活用しています。

現場の見える化へ挑戦

現場の見える化へ挑戦


今後の発展に向けて

今後も、ICTの普段使いが浸透するまで、継続的に育成や挑戦を続けていきます。
ICTが全てを解決するのではありませんが、生産性向上の大きな手段として今後も進めていきたいと思っています。

 

株式会社 内田建設 専務取締役
内田 翔

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 



設計初期段階でのコストマネジメントにBIM活用を建築-アドイン概算システム『COST-CLIP』のご提案-

2022年10月8日

はじめに

(株)日積サーベイでは、BIM活用積算の普及を目指し、BIM対応建築積算システム『ΗΕΛΙΟΣ(ヘリオス)』を開発、提供しており、2021年12月には、『ΗΕΛΙΟΣ2022』をリリースした(図-1)
 
また、ΗΕΛΙΟΣは、BIMソフトとの連携として、2011年にIFCファイルを中間ファイルとした「IFC連携」を、2016年にはBIMソフトのデータを直接、ΗΕΛΙΟΣのデータ形式に変換する『HeliosLink』により、「ダイレクト連携」を実現した。
 
これらのBIM連携機能をリリースして以降、多くの方々に活用いただいており、弊社でもBIM活用積算の実務を行っている。
 
そして、2022年1月には、BIMソフト上で使用するアドイン概算システム『COST-CLIP』をリリースする。
 
そこで、今回は、『COST-CLIP』の特長を、開発経緯も交えながら、紹介する。

ΗΕΛΙΟΣの画面

図-1 ΗΕΛΙΟΣの画面



 

『COST-CLIP』開発経緯

ここでは、『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携機能をリリースしてから、『COST-CLIP』の開発に至るまでの経緯について触れていく。

『ΗΕΛΙΟΣ』でのBIM連携

『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携では、①『Helios Link』を介して「ΗΕΛΙΟΣのデータ形式」を出力、②それを『ΗΕΛΙΟΣ』上で開き、積算モデルとして確認、③建築数量積算基準に則って数量を算出、内訳明細書を作成という、「設計用BIMソフト」や積算用の『ΗΕΛΙΟΣ』の、各ソフトの専門性を生かせる方式をとっている。
 
これにより、積算技術者は、紙図面を基に『ΗΕΛΙΟΣ』上でゼロから再配置(Reモデリング)をすることなく、積算を開始できるため、積算業務の効率化を図ることができる。
また、『ΗΕΛΙΟΣ』に標準搭載の帳票出力機能により、数量算出根拠が確認できる。

『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携による概算

『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携機能のリリース以降、設計初期段階から概算コスト算出に活用したいという要望を多くいただいた。
しかし、『ΗΕΛΙΟΣ』は実施設計段階の詳細積算が主な対応フェーズであるため、スピード感が重要な概算コスト算出に求められる機能と、相反する部分があった。
 
例えば、『ΗΕΛΙΟΣ』のBIM連携では、前述の通り、2つのソフトの専門性を重視していることもあり、それらに対する習熟が必要となる点である。
 
そこで、設計初期段階の概算コスト算出を対象としたBIMソフト上で動作する新システムとして、アドイン概算システム『COST-CLIP』の開発をスタートさせた(図-2)。

ΗΕΛΙΟΣの画面

図-2 ΗΕΛΙΟΣの画面



 
 

『COST-CLIP』の特長

特長1.BIMソフト上で概算コスト算出

『COST-CLIP』は、設計用BIMソフト上で動作し、概算コストが算出できる。
これにより設計プランを変更した際にも、リアルタイムに概算コストを把握することができる(図-3)。

COST-CLIP画面イメージ

図-3 COST-CLIP画面イメージ


特長2.設計初期のBIMモデルに対応

『COST-CLIP』は、第1弾の対応オブジェクトを「部屋」、「壁」、「建具」とすることで、既往の概算コスト算出において一番手間の掛かる「内外装」に対応した。
 
最低限必要なBIMオブジェクトは「部屋」のみとし、仕上情報は表計算ソフトで作成した「仕上表」からの取得にも対応した。
 
設計初期段階で作成されるBIMモデルには、一般的に多くのBIMオブジェクトや属性情報は入力されていないからである(図-4)。
 
入力された「部屋」の情報を基に、シンプルな操作で、内装(床・巾木・壁・天井・廻縁)、外装(屋根・外壁)の概算コストの算出が可能である。
 
さらに、設計段階が進み、「壁」や「建具」が入力されることに応じて、間仕切や建具(窓、ドア、カーテンウォール)の概算コストも算出可能となる(図-5)。

COST-CLIP活用の流れ

図-4 COST-CLIP活用の流れ



 

COST-CLIP(第1弾)対応状況

図-5 COST-CLIP(第1弾)対応状況


特長3.明細や各種帳票出力に対応

『COST-CLIP』は、『ΗΕΛΙΟΣ』の専門分野である「数量集計・明細出力」、「帳票出力」に対応している。
 
「数量集計・明細出力」では、表計算ソフトで作成した「単価表」により、金額まで埋め込まれた、部分別内訳明細書が作成できる。
 
また、「帳票出力」では、『ΗΕΛΙΟΣ』と同様に数量算出根拠が確認できる。

対応BIMソフト

『COST-CLIP』に対応する設計用BIMソフトは、国内でよく使われている『Archicad(グラフィソフトジャパン株式会社)』と『Revit(オートデスク株式会社)』の2製品とした。

 
 
 

概算/積算でのBIM

2019年6月に国土交通省により設置された「建築BIM推進会議」では、BIMを活用した概算やコストマネジメントは、主要なテーマに位置付けられており、「BIM活用概算/積算」の流れは広がりつつある。
 
『COST-CLIP』は『ΗΕΛΙΟΣ』とともに、その流れをさらに加速させる存在となるべく、今後ユーザーに積極的なヒアリング調査や提案を行い、集まった意見も踏まえながら、継続して、機能追加や改良をしていく。
 
また、設計初期段階の『COST-CLIP』は、実施設計段階の『ΗΕΛΙΟΣ』とはターゲットが異なるが、いずれも建設プロセスにおいてBIMを活用することには変わりはない。
 
今後の展望として、『COST-CLIP』と『ΗΕΛΙΟΣ』の間で、互いに単価情報などを共有することで建築ライフサイクルが循環するように取り組んでいく(図-6)。

COST-CLIPとΗΕΛΙΟΣの連携

図-6 COST-CLIPとΗΕΛΙΟΣの連携



 

会社概要
会社名:株式会社日積サーベイ
所在地:大阪市中央区大手前1丁目4番12号 大阪天満橋ビル8F
創業:1964年(昭和39年)10月
URL:https://www.nisseki-survey.co.jp/
資本金:2,000万円
従業員数:45名(2021年4月現在)
主な事業内容:建築積算、コスト算出、コンピューターシステムの開発

 
 
 

株式会社日積サーベイ BIMソリューション部
高橋 肇宏

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 



 


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