建設ITガイド

トップ >> 特集記事 特集記事

書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

BIMによるデジタルツインの実現

2021年10月4日

はじめに

現在、わが国ではSociety5.0の実現に向けたさまざまな取り組みが進められており、仮想空間上に現実空間の事象をリアルタイムに再現する「デジタルツイン」への関心が高まっている。
 
このたび、当社のBIM推進モデルプロジェクトにおいて、企画・設計から竣工後の維持管理に至る一貫した建物情報のデジタル化、すなわち、デジタルツインを構築し、次世代型生産システムを視野に入れたBIM活用を積極的に推進した。
 
本稿では、「全てのプロセスをデジタルに」をコアコンセプトとした、企画・設計から建物管理までの各フェーズにおける取り組みの一端を紹介する。
 
 

企画・設計フェーズ

本件は設計・施工プロジェクトの特性を生かし、デザインビルドの協業をより効率的、かつ迅速的に行うため、施工部門、維持管理部門も参画したスーパーフロントローディングを実施した。
 
企画・設計フェーズにおけるバトンタッチ型の作業スキームから脱却し、関係者が同時並行で共同作業を行う座談会型の「コンカレントエンジニアリング」(図-1)を採用することで、短期間で高精度な検証を行うことが可能となるため、着工時にはバーチャル空間上で建物が竣工を迎える、いわゆる「着工時仮想竣工」を目標とした。
 

コンカレントエンジニアリング

図-1 コンカレントエンジニアリング

 

各種シミュレーションによる検証

「着工時仮想竣工」を達成するためには、バーチャル空間でのさまざまなシミュレーションが有効となる。
 
本計画は、市街地における高層建築であるため、ビル風の検証を目的として、風環境を数値解析するシミュレーションを実施した。
 
ビル近傍建物のBIMモデルを基に、従来から採用されている本技術を採用することで、より高精度な検証が可能となった(図-2)。
 

また、近年の防災に関する関心の高まりもあり、火災時の熱や煙が人の避難行動に与える影響を考慮したマルチエージェント型の避難シミュレーションを実施した(図-3)。
 
避難者を単なる「流体」ではなく、意思や性格を持つ「人間」として設定し、動きや相互作用を再現することで、「建物のデジタルツイン」に加え、建物内での「人のデジタルツイン」が可能となる。
 
さらに、建物竣工後に発生する設備機器の更新に関して、BIMを活用した工事計画のシミュレーションを実施し、建物の仮想運用を行うことで、短時間でローコストな改修となる設備プランを計画し、顧客への付加価値へつながる検証を行った(図-4)。
 

風環境シミュレーション

図-2 風環境シミュレーション


 
火災時の避難人流シミュレーション

図-3 火災時の避難人流シミュレーション 

屋上設備機器の更新シミュレーション

図-4 屋上設備機器の更新シミュレーション



着工時仮想竣工へ向けたもの決めの推進

顧客への「もの決め」を促進し、合意形成の精度を向上させることも、着工時仮想竣工の重要な要素となる。
 
一般的なBIMモデルの表現力は、内装プランの「もの決め」に活用できるレベルに達していない。
 
そこで、仕上げ材の画像およびその反射率、照明器具の配光や調光、昼光条件をモデルに付与し、レンダリング処理を行うことで、極めて精細な空間シミュレーションが実現する。
 
さらに、VRやMR技術との連携により、バーチャル空間へ没入することで、デジタルツイン活用による「もの決め」の推進が可能となる(図-5、6)。
 

BIMモデル

図-5 BIMモデル


 
BIMモデルのレンダリング処理

図-6 BIMモデルのレンダリング処理


 

モジュールプランニングと製造設計

工事背景として、建設業界全体の繁忙の影響を受け、深刻な労務不足、資材・人件費の高騰が懸念された。また、昨今の「働き方改革」の推進により、生産現場でのさらなる業務効率化を求められる状況であった。
 

(1)オフィスエリアにおける取り組み
本プロジェクトは、商業、オフィス、ホテルの複合高層建築ということもあり、高層階への人と資材の搬送を最小限にすることを目的として、オフィスエリア空調システムの徹底的なモジュールプランニングを行った(図-7)。
 

オフィスエリアのモジュールプランニング

図-7 オフィスエリアのモジュールプランニング


 
さらに、以下記載の製造・施工フェーズにおける高効率生産の軸となるプレファブ・ユニット化へのスムーズな連携のために、製造を見据えたモジュールの最適化、すなわち製造設計へのデータ展開・利活用を促進した。
 
BIMモデルを用いた気流シミュレーション評価により、最適な制気口位置を検証し、その結果を基にBIMの「数量拾い機能」を使い、複数パターンのモジュールモデルの中から材料ボリュームが最少となるものを設計へ反映させた(図-8、9)。
 
気流シミュレーション評価

図-8 気流シミュレーション評価


 
モジュールプランニングから製造設計へ

図-9 モジュールプランニングから製造設計へ


 
(2)ホテルエリアにおける取り組み
客室シャフトは、狭小な空間で多工種の作業が発生するため、非効率で労災リスクが伴う作業となることが多い。
 
そこで、デジタルモックアップによるメンテナンス性の確認を行うのと同時に、モジュールプランニングによるシャフト全体のユニット化を計画した(図-10)。
 
客室シャフトのモジュールプランニング

図-10 客室シャフトのモジュールプランニング

 
 

製造・施工フェーズ

今後の建設業は、入職者や熟練工の減少により、工程の逼迫や、施工品質の低下が懸念されている。
 
そのため、生産プロセスの再構築により、現場労務を低減させ、「工程の安定化」と「品質の標準化」を行うことが、喫緊の課題である。
 
建設業のプロセスは、「ものを運び、取り付ける」といった、非常にシンプルなものであるが、材料を現場に搬入し、多くの労務で加工・組付けの現地作業を行うため、常に「人」が介在し、結果としてさまざまなリスクの発生を招き、生産性の低下をもたらしている。
 
そこで、前述した「製造設計」による製造への連携を行い、プレファブ・ユニット化、すなわち「現場の工業化」を促進し、非効率な現場作業を効率的な工場作業へ転換することで、生産性向上を図ることが重要である。

 

オフィスエリアにおける取り組み

企画・設計フェーズで行ったモジュールプランニングと製造設計を基に、現場でのプレファブ・ユニット化を推進した。

 
これにより、現場での労務人工、労災リスクの高い高所作業、発生する産業廃棄物の削減に大きく寄与し、施工品質の標準化につながった(図-11)。
 

モジュールコンストラクション

図-11 モジュールコンストラクション


 
(1)工事プロセスのデジタル化ならびに進捗管理

資機材に設置したQRコードとBIMデータの属性情報を連携させることで、工事進捗をリアルタイムに見える化し、デジタルツインを活用した工事プロセスのデジタル化を行った(図-12)。
 

工事プロセスのデジタル化

図-12 工事プロセスのデジタル化


 
(2)施工アシスト
現場における品質管理は、個人の技術力に左右されるのが現状である。
 
そこで、施工BIMモデルとMR(複合現実)技術を連携させた「施工管理アシスト」の試行を実施した。
 
施工BIMモデルには、各種の属性情報を付与しているため、さまざまな情報を呼び出し、現地出来形と施工BIMモデルとの照合や、納入仕様書の確認、耐震支持の設置状況等、MR画像にて迅速に確認することが可能となる。
 
さらに、同技術を応用し、躯体工事中のスリーブチェックにも試行し、その有効性が確認された(図-13、14)。
 
モジュールモデルどおりの施工実現

図-13 モジュールモデルどおりの施工実現


 
MR技術との連携/スリーブチェック

図-14 MR技術との連携/スリーブチェック


 

ホテルエリアにおける取り組み

企画・設計フェーズで行った客室シャフトのモジュールプランニングとデジタルモックアップを基に、客室シャフト全体のユニット化を計画した。
 
現場低層階にユニット工場を設え(図-15)、客室盤や配管類のユニット化、資材管理や各種品質検査を効率的に実施し、人と物の移動を低層階で集約管理した。
 
フロアごとの内装工事進捗に合わせ、シャフトユニットを搬入据え付けする計画としたため、FRPフレームを採用し、ユニットの軽量化を図った(図-16)。
 
電気設備に関しても分電盤二次側ケーブルを盤結線しコネクタ接続することにより、全工種のシャフト内作業は、ユニット工場への効率作業へ転換された。
 

現場内のユニット工場

図-15 現場内のユニット工場


 
FRPフレームによる軽量化

図-16 FRPフレームによる軽量化



(3)リアルタイム現場管理システム
現在稼働中のプロジェクトにおいて、当社開発の資機材位置や稼働状況、人の位置やバイタル情報等をリアルタイムに3次元で表示するリアルタイム現場管理システム「3D K-Field」を展開し、建設現場のデジタルツイン活用を推進している(図-17)。
 

建設現場のデジタルツイン/3D K-Fiel

図-17 建設現場のデジタルツイン/3D K-Field




 

維持管理・運営フェーズ

本件では、企画・設計フェーズから継続して醸成させたBIMモデルに、建物の維持管理・運営で必要な属性情報を付与することで、FM用BIMデータベースを構築し、一気通貫のFM連携を達成することを目標とした(図-18)。
 
維持管理・運営フェーズにおけるデジタルツイン活用の基盤はBIM-FMシステムである(図-19)。
 

FMプラットフォームとBIMデータの連携

図-18 FMプラットフォームとBIMデータの連携


 

FMプラットフォームへのデータ集積

図-19 FMプラットフォームへのデータ集積


 
FMプラットフォームへBIMデータベースを連携させることで、①設備台帳作成の効率化、②メンテナンス情報の一元管理、③スマートデバイスによる現地作業の効率化、④顧客デジタル資産の付加価値機能の向上等、従来の維持管理業務の効率化・高度化が達成される。
 
さらに、当社開発のスマートBMを連携させ、クラウドに蓄積されたビッグデータをAI解析することで、設備の最適チューニングや省エネルギー支援によるランニングコストの削減、機器の異常や故障の早期把握等、ライフサイクルマネジメントが可能となる(図-20)。
 
スマートBM


 

おわりに

本稿では、従来からの生産プロセスを見直し、企画・設計から維持管理・運営フェーズにおけるデジタルツイン活用による次世代型生産システムの構築を目指した取り組み事例を紹介した。
 
企画・設計フェーズでの「着工前仮想竣工」、製造・施工フェーズでのモジュールコンストラクション、さらには、維持管理・運営フェーズでの建物ライフサイクルコストの低減に向けたトータルソリューションを創出すべく、取り組みを行った。
 
今後は、BIMデータの利活用範囲をさらに拡大し、建築プロジェクトにおけるさまざまな業務の効率化を図っていくとともに、デジタルツインの集合体となるスマートシティの社会実装を視野に入れ、建設および建物運用時に得られたビッグデータを循環させることで(図-21)、建物オーナーや利用者の課題・目的の解決と建物資産価値の向上に寄与していきたいと考える。
 

デジタルデータの循環

図-21 デジタルデータの循環



 

鹿島建設株式会社 加藤 誠

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 



オープンBIMによる建設デジタルツイン 構築への挑戦 buildingSMARTバーチャルサミット2020レポート

はじめに

2020年10月末、世界各地のBIM関係者が集い、建設産業におけるデジタル化についての標準化や実用化に向けての情報共有、議論を行うbuildingSMART International(以下bSI)サミット会議がオンライン会議形式で開催された。今年の世界的COVID-19拡大の影響を受け、これまで世界各地の会議場で開催されていた形式を、今年度はバーチャルサミットと称して約2週間にわたるオンライン形式へと完全に切り替えての開催となった。
 
bSIサミット会議において、建設ライフサイクルにおけるBIMワークフロー、BIMのデジタルツインへの展開、建築からインフラへのBIMの拡張などの議題を中心に、標準化、最新事例の共有、BIM実務者のネットワーキングが行われてきている。
 
本稿では、bSI バーチャルサミット2020秋での主要テーマ、およびbSIバーチャルサミット期間中に発表されたオープンBIMの国際アワード bSI Award 2020の概要について報告する。

 
 

buildingSMARTバーチャルサミット2020

bSIでは、建築・土木、スマートシティ、法規、教育などの各分野において、それぞれRoomと呼ばれている分科会活動が行われている。今回のサミットでは、53のRoomセッション、104のプレゼンテーション、196名の発表者、80時間以上の発表コンテンツ量となった。今回のバーチャルサミットにおける各Roomと、BIM個人能力認証プログラムにおける主なセッション概要を以下に示す。
 
建築分科会(Building Room):
建築分野における、BIMデータ連携の要件定義であるIDM(InformationDelivery Manual)、IDMに 基 づ いたIFC使用範囲の定義であるMVD(Model View Defi nition)など、BIM活用に必要な標準、レポート、技術仕様などの策定を行っている。今回のサミットでは、FM(ファシリティマネジメント)、防災・避難シミュレーション(人流解析)、エネルギーシミュレーション、空間ゾーン(Spatial Zone)のユースケース・IDM策定、建物性能シミュレーション(BIM2SIMプロジェクト)、鉄骨モデル分野のMVD策定、研究施設設計へのBIM・IFC活用などについて議題が設定された。
 
インフラ分科会(Infrastructure Room):
 道路、橋梁、鉄道、トンネル、港湾分野へのIFC拡張を行っている。現在進行中のIFC拡張プロジェクトの最新のロードマップが確認された(図-1)。IFC5へ到達するまでの、インフラストラクチャー分野のIFC拡張バージョンIFC4.3リリース候補版(ReleaseCandidate)の進捗状況、トンネル分野のIFC拡張プロジェクト、港湾施設・水路(Ports&Waterways)分野のIFC拡張プロジェクトの活動状況報告があった。
 

インフラストラクチャー分野のIFC策定ロードマップ

図-1 インフラストラクチャー分野のIFC策定ロードマップ(Infrastructure Room資料から)

 
製品情報分科会(Product Room):
BIMに関連する用語、分類体系コード など を、 国 際 標 準(ISO 12006)に基づく建築デジタル辞書サービスbSDD( building SMART Data Dictionary)により、BIMライブラリや、デジタルサプライチェーンなどへの展開を検討している。製品識別コード(GTIN: Global Trade ItemNumber)の標準化・普及展開を行っている国際組織GS1との協調活動、建設サプライチェーンにおける資材、製品情報の流通プラットフォームに関連するテーマが増加してきている。
鉄道分科会(Railway Room):鉄道分野の軌道、エネルギー、信号設備、通信設備などへのIFC拡張作業を行っている。中心となっている鉄道事業者企業は、フランス、イタリア、スイス、オーストリア、北欧、中国などとなっている。
 
建築確認分科会(Regulatory Room):
建築申請分野におけるユースケース、自動チェックシステム活用に必要な要件整理、建築確認分野のIDM、MVDやガイドラインの策定を目指している。今回のサミットではEU、およびエストニア政府からのBIMによる建築確認プロセスの試みが紹介された。また、buildingSMART Japan(以下bSJ)からは、意匠設計小委員会における建築確認へのIFC活用の検討作業から、法規情報モデルRIM(RegulationInformation Model)という概念を具体的なイメージで説明した(図-2)。
 

法規情報モデルRIMのイメージ

図-2 法規情報モデルRIMのイメージ

 
技術専門分科会(Technical Room):
IFCの拡張、メンテナンスおよびセマンティックWebへのIFC活用手法、API活用などの検討を行っている。共通データ環境CDE(CommonDataEnvironment)のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)標準に関しての提案が行われた。

 
施工技術分科会(Construction Tech Room):
施工段階における、製造業(ファブ)、流通(ロジスティクス)などのサプライチェーンと連携するため、BIMデータをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)によって他システムと連携する仕組みについて、現状と今後の方向性について発表が行われた。取り上げられたテーマとしては、4D/5D BIM、CDEのAPI標準openCDE API、デジタルツイン、IoTプラットフォームFIWAREおよびそのデータモデル・API仕様であるNGSI(Next Generation Service Interface)などが挙がっている。
 
空港分科会(Airport Room):
空港分野の資産管理、運用管理の視点から空港施設ライフサイクルへのBIM活用に必要なIDM 、MVD、ガイドラインなどの策定を行っている。今回はデータのセキュリティに関する設計、施工、維持管理者など各分野におけるシナリオ分析について報告があった。そのほか、ウィーン空港におけるBIMデータとCADデータの連携プロセスの実証実験結果の分析、空港のデジタルツインについての議論が行われた。

 
BIM個人能力認証(buildingSMARTProfessional Certifi cation Program):
bSIでは、国際的なBIMの個人能力認証制度の展開を進めている。建設産業における情報共有の重要性、BIMの背景や利点、BIMデータの国際標準であるIFC、BIM情報管理に関する国際標準ISO 19650など、bSIが推進してきているオープンBIMに関する基本知識テキストに基づいた教育コースおよび個人能力の認定が2018年から開始されている。これまでにオンラインテストによって3000人弱へ認定証明書を発行した。現時点でドイツ、スイス、オーストリア、ノルウェー、スペイン、イタリア、ロシア、中国などがこの認証制度を開始しており、それぞれの言語での教育コース、オンラインテストが実施されている。日本国内でも、bSJがこのBIM個人能力認証の仕組みを導入する準備を進めている。
 
 

bSI Awards 2020にみるオープンBIM活用

bSIでは、IFC、IDM、MVD、BCF(BIM Collaboration Format)などbuildingSMART標準を活用したオープンBIMの普及促進を目的に、2014年からbuildingSMART Awardを年一回実施している。春に応募を開始して、秋のサミット国際会議において設計、施工、運用・維持運営、学生、研究などの部門ごとの審査、表彰式を行っている。2020年度も、全世界から100以上の応募があり、10の分野別Awardが発表された(図-3)。また、今回のAwardプログラムには各buildingSMART支部から111名の審査員(内3名が日本支部から)が参加した。

 

bSI Award 2020各カテゴリー優秀賞

図-3 bSI Award 2020各カテゴリー優秀賞(bSIホームページから)

 
□設計:パナマ運河第4ブリッジプロジェクト(中国)
□施工:プロジェクトCelsius (JohannesRis)(スウェーデン)
□ハンドオーバー:Tonsberg病院プロジェクト(ノルウェー)
□資産管理:オークランド空港プロジェクト(ニュージーランド)
□学生研究:スマートBCF(フランス)
□社会人研究:BIMによる安全・健康分野検証(英国)
□テクノロジー: openBIMデータパイプラインツールキット開発(オーストラリア)
□イノベーション:Novo Brdo共同住宅プロジェクト(スロベニア)
□テクノロジーリーダーシップ:IFCモデルサーバusIFCserver (イタリア)
□発注者リーダーシップ:マシンリーダブル分類体系マニュアル(ノルウェー)

 
 

建設デジタルツイン関連の動向

建設プロセスをデジタル化する過程で、BIMが提供する3次元空間情報、4D(時間軸)、5D(コスト情報)はさまざまな情報をつなげる重要な要素となる。製造業から生まれた「デジタルツイン」のコンセプトが、建設業においても建設デジタルツインとして注目されている。2019年の開催されたbSIサミット・ドイツデュッセルドルフ会議以降、製造業で進展してきているデジタルツインの概念がBIMへと拡張されてきており、今回のバーチャルサミット会議においても、デジタルツインに関連する話題が多数発表された。
 
元来製造業におけるデジタルツインは、実際に存在する製品とその製品のデジタルデータ、実空間の状態をセンサーデータ(IoT)として取り込み、製品ライフサイクルを通してデータ解析、シミュレーション、機械学習などを活用して全体最適を図る概念である。bSIにおける建設産業へのデジタルツイン推進の旗振り役の一企業として、独シーメンス社がある。製造業のデジタル化を目指しているIndustrie4.0(インダストリー 4.0)の本拠地ドイツにおいて、シーメンス社のこれまでの製造業におけるデジタルツインは、以下のように定義されている。

 
製品デジタルツイン:
新製品の効率的な設計のためのデジタルツインの活用
 
生産デジタルツイン:
製造と生産計画におけるデジタルツインの活用
 
パフォーマンスデジタル・ツイン:
デジタルツインを活用した運用データの取得、分析、および対処
 
これらのデジタルツインの概念は、BIMにおける設計段階の各種シミュレーション、施工段階における建設現場におけるIoT、3次元点群データとBIMデータ連携、維持管理段階における建物維持管理システム、IoTセンサー情報などとBIMデータ連携と一致している。さらに、運用段階において蓄積されたデジタルツインデータを、新たな設計、施工段階への改善にフィードバックしていくことが、デジタルツインの特徴として挙げられている。
 
これまでのbSIサミットにおいて、建設分野におけるデジタルツインについて、従来の製造業における概念から、以下のような展開が始まってきている。建設デジタルツインの具体的な構成については、第一にBIMが提供する建物のデジタル表現としての3次元モデル情報、第二に建物・インフラを構成する建材・設備などの製品情報、第三に建設中および運用中の建物・インフラ構造物の状況がどのようになっているかというセンサー情報・シミュレーションデータ、という3つの要素から成り立つといえる。このようなデジタルツインにより、その時点での現実空間の状態が把握され、さらに解析、シミュレーションにより現実世界がどのような状態になるかを予測し、その情報に基づいて対処、現実空間の状況を変更していくことが可能となるとされる(図-4)。
 

デジタルツイン全体像

図-4 デジタルツイン全体像(bSIバーチャルサミット2020秋会議資料から)


 
英国では、英国政府のBIMタスクグループのBIM導入の延長線上において、インフラ・建設業をはじめとしたサービスバリューチェーンと資産ライフサイクル全体をデジタル化し、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を目指すため、「デジタル・ビルト・ブリテン(Digital Built Britain)」プログラムを2016年に開始した。この取り組みを推進するためにケンブリッジ大学に設置された Centre forDigital Built Britain(CDBB)が、BIM Level 3以降 を目指すための戦略として、BIM をスマートシティ・デジタルツインの基盤として位置付け、産官学連携のDX推進活動を行っている(図-5)。
 
デジタルツイン構築のための情報管理原則

図-5 デジタルツイン構築のための情報管理原則(英国CDBBのGemini Principles資料から)

 
 

おわりに

本稿では、オンライン会議形式で開催されたbSIバーチャルサミット会議2020秋の概要を紹介した。BIMの展開は、設計、施工フェーズを超えて、製造業、サプライチェーン、インフラストラクチャー、運用・維持管理、スマートシティなどの領域に広がってきている。今回のbSIサミットにおいて、建設分野におけるデジタルツインについての議題がさまざまな分科会で取り上げられ、bSIとデジタルツインコンソーシアムとの協調活動の合意が署名された。今後、BIMとデジタルツイン間の連携についての検討、実証が加速していく状況である。
 
2021年には、3月下旬にbSIサミットがスイス支部の支援によりオンラインカンファレンス形式で開催される予定となっている。bSJでは、bSIサミットにおいて発表された基調講演、分科会(Room)、アワードなどの資料を各委員会やWG活動で分析し、今後の活動に役立てていく予定である。ご興味のある方は、ぜひこれらの活動の原動力となっているbuildingSMARTJapanへ参加し、世界の大きなオープンBIMの潮流へ加わっていただきたい。
 

【参考文献】
●buildingSMART International and DigitalTwin Consortium Sign Memorandum ofUnderstanding:
https://www.buildingsmart.org/buildingsmart-international-and-digital-twin-consortium-sign-memorandum-of-understanding/
 
●buildingSMART Professional Certifi cation:
https://education.buildingsmart.org/
 
●デジタル・ツイン(SIEMENS):
https://www.plm.automation.siemens.com/global/ja/our-story/glossary/digital-twin/24465
 
●Centre for Digital Built Britain:
https://www.cdbb.cam.ac.uk/
 
●buildingSMART International Awards2020:
https://www.buildingsmart.org/bsi-awards-2020
 
 
 

一般社団法人 buildingSMART Japan 理事・技術連携委員会委員長 buildingSMART Fellow
足達 嘉信 博士(工学)

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



BIMデータを活用した建築確認申請について

2021年9月27日

 

はじめに

2016年度の政府成長戦略でi-constructionが掲げられ、主に公共土木建築の中でBIM/CIMの推進が進められてきた。その後、2018年度にはデータ駆動型社会、Society 5.0の施策が示され、民間公共問わず建築分野のBIM推進が位置付けられたことを受け、2019年4月、建築BIM推進会議がこの目標を達成するために設置された。また、2019年6月に閣議決定された、成長戦略実行計画の中の「令和元年度革新的事業活動に関する実行計画」では、図-1に示すように、建築確認審査に対しても、2022~2025年度に「BIMによる建築確認申請の推進」が位置付けられ、BIMによる建築確認の実現が必須となった。このようなBIM推進に対応する施策が続々と打ち出される中、あらためてBIMデータを活用した建築確認申請の開発の現状と展望について説明したい。
 

令和元年度革新的事業活動に関する実行計画

図-1 令和元年度革新的事業活動に関する実行計画
(令和元年6月21日閣議決定)におけるBIM/CIM等の普及拡大の工程表 1)


 
 

成長戦略におけるロードマップとその対応

建築確認におけるBIMの活用は、日本建築行政会議指定機関委員会を事務局とする「建築確認におけるBIM活用推進協議会」(以下、協議会)で検討が進められており、建築BIM推進会議における「BIMを活用した建築確認検査の実施検討部会(部会3)」に位置付いている。
 
具体的な検討内容は、協議会の事業計画の中で次の3つを定めている。
 
(1)BIMモデルを利用して作成する確認申請図面の標準化を図るため、BIMモデルから作成する建築確認に必要な図面表現の標準(以下、「確認図面の表現標準」という)の作成と、種々のBIMソフトウエアにおいて確認図面の表現標準を作成するために必要な入出力情報を定めるための解説書(以下、「解説書」という)の作成を行い、それらの普及を推進する。
 
(2)BIMモデルデータを建築確認の事前審査の際に利用する場合に、審査者が使用する、確認審査に適したBIMビューアーソフトウエアの仕様(機能、性能等を定めたもの。以下同じ)を策定し、その円滑な開発に向けた環境を整える。
 
(3)上記(1)、(2)のほか、これらの共通事項として、法令改正等に伴う解説書・BIMビューアーソフトウエア仕様の見直しなどの継続的運用の確保や、国際情勢の把握と日本の情報発信による国際協調の推進などを行う。
 
このうち(1)は、建築設計のBIM作業環境における、確認申請図書の作成基準の確立を目指すものである。これは、シンガポール政府の建築確認における業務標準(Code of Practice)に相当するものであり、BIMによる確認申請図書の作成が一定の規範に基づいて作成できることを担保することで、申請者側が確認審査図書作成の追加的な作業を強いることがないようにするとともに、BIMソフトウエアに確認審査図書作成のための付加的機能を装備されることを期待することで、確認審査手続きがBIM普及の支障とならないようにするという期待が込められている。
 
2019年度は、協議会の前身である、「BIMを活用した建築確認における課題検討委員会」(委員長 松村秀一東京大学大学院特任教授)の成果を拡張し、建物用途の異なる3つの建築設計によるBIMモデルを作成し、確認図面の表現標準、および、確認図面の表現標準の作成に必要な入出力情報(意匠、構造、設備)の整理とその解説書を作成した。解説書については、確認図面を構成する図書ごと、部位ごとに必要とされる入出力情報と必要な表現を得るためにBIMソフトウエアの機能を使って表現できたかどうかについても整理を行い、表-1に示す、「審査項目別のBIM活用課題一覧表」にまとめた。さらに、その内容の理解を深めることを目的として意匠・構造・設備の分野ごとにテーマを設定し、図-2のような、「課題別検証シート」としてまとめた 2)
 

審査項目別のBIM活用課題一覧表

表-1 審査項目別のBIM活用課題一覧表 2)


 
課題別検証シートの例(意匠 課題1、3、4)

図-2 課題別検証シートの例(意匠 課題①、③、④) 2)

 
審査項目別のBIM活用課題一覧表は、BIMソフトウエアを用いて確認図書を作成する際に、加筆や表現方法の工夫を必要とするといった、共通の課題となるテーマが抽出されたものである。各課題に対する表現、とりわけ、BIMの特性を生かした「BIMならでは」の表現方法の具体的な解決方法について、課題別検証シートに整理されている。
 
2019年度の協議会成果が想定する技術段階は、図-3の開発ステップでStep1+に相当するものとなる。BIMを活用した確認図書の作成については、図書作成上の課題と各課題に対する表現方法を、一覧表やシートにより理解を深めることで、これからBIMを活用して確認図書を作成する方に対する一助となること、あるいは、BIMソフトウエアに、これらの課題を解決するような機能等の搭載を期待したい。

 

BIM建築確認の開発ステップ概要

図-3 BIM建築確認の開発ステップ概要(建築研究所2015) 3)


 
 

確認審査におけるBIMデータの活用

しかし、Step1+は、BIMによる設計環境下で、効率的に作成された、従前の申請図書を審査者が審査することを示しており、在来審査のBIM対応の水準にとどまると言える。2019年度の協議会の検証においても、確認の試審査は、BIMソフトウエアから出図した図書イメージであり、審査者としては、申請者側が「BIMならでは」の作図をしていることについて意識していないため、分かりやすい図書の表現をしている設計者側の意図が十分伝わっていないという指摘がなされている。言い換えれば、図書の生成元となる、BIMデータから出図されているという背景の理解の不足が、設計側の図書表現の意図の理解の支障となっているということである。
 
このような状況を打開し、BIMによる確認図書の作成をより効果的にするために、協議会では、2020年度に、前述の事業計画の(2)に当たる課題について、審査者のBIMモデルと申請図書の供覧による理解度の変化、事前相談における確認審査のBIMビューアーソフトウエアの仕様の検討を行うこととしている。
 
また、BIMによる設計が、属性情報の活用などにより合理化が進められるに従い、BIMモデルが内包する数的情報を活用して、審査対象項目を漏れなく抽出し表現する、あるいは、算式による法適合の判定を自動で行い、審査に活用したいという申請者側のニーズが生じることとなる。諸外国のBIM建築確認の発展の過程を見ていると、建築許可、建築確認においてBIMを試行する段階で、起こりがちな状況のようである。このような状況において、審査者側は、「BIMは本当に信用に足るのか?」という疑念を持つこととなる。図-4は、buildingSMARTの法 規 部門(Regulatory Room)の議論に供されたものであるが、申請者側はBIM利用が増えるにつれ申請作業を一元化したい要求が強くなる一方、審査者側(規制側)とすると、「信用のおけない技術導入に向けた規制緩和はけしからん」、というわけである。しかし、設計者側が持つ、効率化の体験を審査者側で追体験し、一種の成功体験を経ることにより、BIMの活用に向かうものと理解されている。
 

申請者と審査者(規制側)との間のBIMの意識の違い

図-4 申請者と審査者(規制側)との間のBIMの意識の違い 4)

 
わが国においてもその状況は変わらず、事前相談段階におけるBIMモデルの供覧は、一種の成功体験を醸成するものとして期待されるが、BIMデータを活用した建築確認申請に至るためには、Step2+やStep3-、3のBIMデータに直接アクセスする審査が実現されなければならないが、「法適合判定がモデルのデータを使って確認ができれば良い」というだけでは審査実務に適用するには不十分である。
 
 

BIMデータの活用に向けた課題

まず、現行の建築確認審査においては、設計者が建築基準法施行規則に従って表現した明示すべき事項を図に表現し、その表現を基に、審査者側は、規則により申請者が審査項目の内容について明示した事項について、審査者側はその内容について確認処分を行うものであるのに対し、BIMデータによる審査の場合は、明示すべき事項が容易に確認することができず、BIMデータから審査者が審査項目に当たるデータを能動的に検索して、その内容の確認処分をすることとなる。つまり、BIMデータによる審査の場合に、申請者側の明示義務を果たすこととなるかという懸念である。これについては、私見ではあるが、BIMモデル閲覧における明示すべき事項の要件と、当該事項の有無や内容の確認にかかる確認処分行為の業務方法について規定を定め、コンセンサスを得ることで対応しうるのではないかと考えている。
 
また、審査後のデータの取り扱いについても、申請用データの検証性や真正性などを確保する技術が必須である。特に、確認審査手続きで審査機関側に求められる15年間の図書保存に対して、BIMデータの見読性や検証性を担保できる技術的裏付けが現時点でないのが実情である。
 
長期にわたる検証性を確保するためには、データフォーマットが規格等で定義されていて、仮にデータ作成時の規格が古いものとなった場合にでも、旧の規格に基づいてそのデータの確からしさが検証できることが望まれる。Step1+の場合、図面データはISOで定義されるPDFとして保存することでその要件を満たすことができる。そのため、Step2+以降でBIMデータを取り扱うためには、ISOで定義されるIFCによることが想定される。建築確認審査でBIMデータを取り扱うためには、全ての情報をIFCとして受領することはすぐには難しく、データとして審査する内容をIFC、その他の図面表現により審査する内容をPDFとして、双方を併せて確認するケースが想定される。その場合、審査の対象となるデータファイルがIFCとPDFと分離するため、相互の整合を確認するために、PDF図面表現とIFCモデルビューを重ね合わせる技術の開発が必要となる。
 
データの真正性確保の考え方については、建築確認手続きで提出する図書の押印が廃止される運びとなっているが、真正性の内の本人性の確認手段が、電子署名に代わる方法で行って良いということであり、長期にわたるデータの完全性や原本性について、電子署名あるいはタイムスタンプといった措置を不要とするものではないと考えている。PDFについては、すでに電子申請のファイルとして電子署名に対応しているが、IFCについては、XMLファイルに対する電子署名が応用できると見込まれているが、取り扱うIFCファイルのサイズに対して、署名の処理時間が実用的であるかなど、その知見がまだ不足しており、検証が必要である。また、BIMデータを、審査機関で取り扱うための基盤のあり方についても、検討が必要である。BIMのデータマネジメント手法については、ISO19650で定めるCDE(共通データ環境)の方法に準拠することが望ましいと考えられる。
 
 

建築確認BIMデータの活用の将来

確認審査時にBIMデータを受領して建築確認を行った場合、提出されたBIMデータは正本としての位置付けとなると考えられ、着工後の中間工程検査、完了時検査において、正本としてのデータに対して検査が行われることが考えられる。例えばStep3のような、BIMデータのみで確認がされている場合、確認済みのBIMデータに対して施工の結果を検査することになるということである。その場合、確認済みBIMデータと遠隔臨場技術と組み合わせたリモート検査の実現など、withコロナ時代に対応する新しい検査の方法の開発も近い将来に開発されるかもしれない。
 
また、実際の建築物の形状や性能を高精度でBIMモデルに表現し、建築物のオンデマンドあるいはリアルタイムの制御をBIMモデルで行おうとする、Digital Twinの議論が活発となっているが、少なくとも、オンデマンドの法適合確認ができるようなモデリング手法の開発も行われることになるだろう。
 
欧米では、図-5のような、建築許可の段階で、地理情報(GIS)と連携したデータの取り扱いが行われており、Virtual Cityへの展開など、ビッグデータとして活用する取り組みも現れてきている。わが国においても、単に審査機関のみの情報基盤というだけでなく、構造計算適合判定や消防同意などの外部の審査・同意行為との連携や、建築確認概要書等の特定行政庁へのデータ連携など、データによる審査の効率化、Smart City構築につながるような、データの高度利用のためのプラットフォームとして機能するための設計も必要であろう。
 

ノルウェーのBygglett(簡易な建築許可)

図5 ノルウェーのBygglett(簡易な建築許可)システムデモ画面 5)




 
 


図表出典、参考資料等
1)令和元年度革新的事業活動に関する実行計画(令和元年6月21日閣議決定)、p36
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ps2019.pdf
 
2)建築確認におけるBIM活用推進協議会HP
https://www.kakunin-bim.org/
 
3)武藤正樹:「BIMと建築確認検査業務への応用」、 えぴすとら73号、 2016.4、建築研究所
https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/epistura/pdf/73.pdf
 
4)Ma s aki MUTO: e-submissioncommon guidelines for introduce BIM to building process、 Fig.10 Difference in consciousness of BIM between applicant and regulators、 p12、 buildingSMART International Technical Report No. RR-2020-1015-TR、 2020.10
https://www.buildingsmart.org/standards/bsi-standards/standards-library/#reports
 
5)https://bygglett.catenda.com/
 
 

国立研究開発法人建築研究所 上席研究員 武藤 正樹

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



課題解決に向けたBIM活用の取り組み

 

はじめに

日本郵政グループでは、数千を超える施設を所有している。内訳としては約95%が郵便施設であり、その他にはオフィスビル、宿泊施設、集合住宅(社宅)、データセンターと多岐にわたっている。日本郵政施設部は、持株会社である日本郵政株式会社内の一級建築士事務所として、郵政グループ所有施設の企画・設計から工事発注・工事監理、維持・保全、中長期保全計画の策定までを業務の対象とし、いわば建築物のライフサイクル全般にわたる業務を行っている。
本稿では、これまでのBIMへの取り組み状況と、インハウスの設計事務所として発注者に寄り添った視点からのBIMの活用方法について紹介する。
 
 

BIMの導入

日本郵政グループは、2012年の東京駅前JPタワーを皮切りに不動産事業を経営の柱の一つとして力を入れ始め、駅前にある比較的規模の大きな郵便局、社宅跡地などを対象とし、コンバージョン・建て替えなどの不動産施設を再活用する検討を開始した。
 
弊社ではそれら多数の検討案件に対応するため、企画提案の可視化や比較、容積率や法規などの技術的なチェックに適したBIMソフトウエアを導入することとし、2014年度よりBIMの活用検討を開始した。具体的には、検討する内容を「部内の活用・普及促進」、「ソフトウエア間の連携」、「ガイドライン作成」、「維持・保全業務に活用する手法」の4つのパートに分け、設計、工事監理、維持保全の各部署において検討を進めた。
 
またBIMソフトウエアの選定条件としては、容積率等の法規チェックの機能があること、さらに基本計画まで作成ができること、BIMに不慣れな社員でも直感的に操作できること、などが挙げられた。
 
国内外の複数のソフトウエアを検証した結果、国内法規対応に優れ、容積率チェックも比較的容易に行うことが可能な福井コンピュータアーキテクト株式会社の「GLOOBE」を採用することとした。
 
以来、福井コンピュータアーキテクト社には、新入社員のBIM研修や、新機能の説明会の実施、また、実装してほしい機能についての要望・提案を行い、国内のソフトウエアならではのきめ細かいサポートを頂いている。

 
 

BIMの活用方針

BIMの特徴と弊社の業務範囲を踏まえ、新築設計時とファシリティマネジメントの2分野に対し、それぞれBIMの活用方針を掲げることとした。特にファシリティマネジメントの分野では、BIMモデルの属性情報をデータベースの一つとして位置付け、各種のファシリティマネジメントツールと連携させることで、紙図面と設備機器台帳で行っている従来の維持管理業務をデジタル化し、BPRを進め、業務の高精度化と高効率化の検討を行うこととした(図-1)。
 

図-1 BIM活用の方針




 

設計上の課題と解決策

(1)設計プロセスの変化

新築プロジェクトの企画からBIMにより設計を進めるプロセスは、今までのCADによる2次元での設計プロセスとは大きく異なることが分かった。
 
BIMによる設計では、企画の初期段階からある程度の精度を持った3次元モデルを作成するため、設備スペースやダクトルートの確保等、従来よりも早い段階から設備担当を巻き込んだフロントヘビーな業務にならざるを得ない。従来の設計プロセスに合わせて組織した人員配分のままプロジェクトを進捗させた場合、初期段階の設計時間が増大し、意匠設計者以外の社員に大きな負荷がかかることとなった(図-2)。
 

図-2 設計ツールの変化による設計プロセスの違い(イメージ)




 

(2)BIMモデルの詳細度

いくつかの新築案件でBIMモデルを企画・設計の初期段階から試行作成した結果、設計進捗の各段階においてBIMモデルに求められるデータ量および種類が異なることが判明した。よって、それぞれの設計段階における入力データ詳細度とデータ分類の整理が必要なことが分かった。
 

(3)課題の解決策

フロントヘビーの問題は、それと引き換えに享受できるメリットも大きいことが分かった。
 
①法令規制内のボリューム検討、複数プランの作成と概略コストの比較、完成イメージなどがおのおの連動した形で可視化され、発注者とのイメージ共有が早期に可能な分、意思疎通不足による後戻りが少なくなり、迅速な関係者間の合意形成・意思決定がなされた。
 
②意匠・構造と設備の調整が上流段階で整理がつくため、基本設計以降の調整がスムーズに移行するなど、従来の設計手法では下流側で明るみになるようなメンテナンスを含む設備スペース確保などの諸問題を初期段階で解決でき、プロジェクト全体における検討時間の余裕が生まれ、より品質の高い設計となった。
 
問題の解決としては、設計プロセスの変化に追従する形で、設計に携わる社員に対し全体最適への理解を求め、組織形態を徐々に変化させていくこと。また、実践には時間を要するが、将来的にはOne Modelによるコンカレントエンジニアリングを実現し、多様なワークスタイルを取り入れ、効率の良い設計業務体制を確立したいと考えている。

 
 

維持管理上の課題と解決策

(1)維持管理で使用するBIMモデルの課題

いくつかの新築物件において、維持管理で使用するBIMモデルを作成するプロセスを試行した。設計BIM・施工BIMをもとに、施工段階で変更される建具位置や取り合い、メーカー、仕様、機器型番等、維持管理に役立つと考えられる情報を維持管理用BIMモデルへ入力したところ、情報量が過多となり、起動に時間がかかることに加え、スムーズに欲しい情報にたどり着かない「維持管理業務に使えないBIMモデル」となってしまった。そこで設備機器の表現や曲面部分を簡素化するなど、維持管理上では不要な部分の簡略化を試みたが、実質的にモデルの作り直しになってしまい、非常に時間と手間がかかった。
 
この教訓から、維持管理で使用するBIMモデルは、「維持管理に使う」という目的を明確にし、モデルをどのように作り、どのような情報を持たせるのか、作成初期から決める必要があることが分かった。また維持管理業務は、BIMモデルが手元に存在しない現状でもビジネスとして成立しており、BIMモデルが追加導入されることで、モデルの構築費など、その投資に見合うだけの業務品質の向上・省コスト化が図れるのか、という問題も挙げられた。
 

(2)課題の解決策

①情報レベルの明確化
維持管理業務で必要となる設備機器表、中長期保全計画の策定、改修工事プランの策定など、おのおのの業務目的により必要なBIMデータの詳細度が異なること、また、建物の種類により必要な部材・設備項目が異なることから、「目的」、「建物種類」、「情報が必要なタイミング」の観点で、モデルに搭載すべき「BIMモデル搭載情報(150項目程度)」を整理した。
 
この150項目は、施設を問わず共通的に使われる基本的な部材・設備であり、設計から維持管理業務まで現状の業務で使用する情報になるため、業務遂行のための最低限必要な情報として、設計BIMモデルの段階からジェネリックモデル等の簡易モデルとして表現するルールとした。
 
その後、施工段階で建築部材、設備メーカー等の仕様が決定された際、BIMモデルへ部材情報を付加することにより、実際の建物とBIMモデルの情報が合致し、完成後の維持管理業務で生かされることになる。
 
一方、150項目以外の情報は、施設の特徴や目的に合わせ、適宜追加するオプション情報の位置付けとし、必要に応じ項目数を増やすこととした(図-3)。
 

図-3 BIMモデル搭載情報の例




 
②FM-BIM®モデルの定義
BIMモデルの使用を設計から維持保全業務まで拡大すること、使用する端末上でストレスなく動作することを目的として、上記の「BIMモデル搭載情報」に従い、維持保全業務に必要十分なデータ詳細度に抑えたFM-BIM®モデルを定義した。
 
前述の「BIMの活用方針」を時系列的に表したイメージグラフ(図-4)をもとに、FM-BIM®モデルの作成手法とメリットを以下に示す。
 

図-4 JP-BIM®モデルの定義




設計時のBIMモデルを有効に活用するため、設計が進捗し、実施設計時点のある地点から発注コスト算出用とは別に、維持管理に使用するモデルとしてBIMモデルを分岐・派生させておく。そして施工段階で決まる建設情報のうち、維持管理業務に関連する情報をFM-BIM®モデルへ付加する。竣工後は、このFM-BIM®モデルを活用し、維持保全業務を行うこととする。この作成手法により、設計段階から維持管理段階へ途切れなくBIMモデルを活用でき、維持管理用BIMを新たに構築する手間・コストが縮小される。
 
 

検証

(1)維持管理用BIMモデル検証

2018年度より、上記に示す維持管理で使用するBIMモデルの課題について各種検証に取り組んでいるが、2020年6月に国土交通省が主催する建築BIM推進会議における「令和2年度 BIMを活用した建築生産維持管理プロセス円滑化モデル事業」の一環である連携事業に、「維持管理BIMモデルの維持管理業務への効果検証・課題分析」と題し、参画している。
 
本事業における検証のポイントは、①既存建物の維持管理用BIMモデルの提案、②維持管理業務へのBIMモデル活用検証、③維持管理業務を行う際の「使いやすいBIM」にするためのBIMモデル構築ルールの策定、という3点である。
 
築45年を経過している事務所ビルを題材として検証しており、いずれのポイントも維持管理業務にBIMモデルを導入する際の課題解決策として、建物を複数所有されている企業や団体がBIMを導入・活用する際の参考になると考える(図-5)。
 

図-5 国土交通省モデル事業(連携事業)の概要



(2)データ連携

今回の連携事業で力を入れている項目は、BIMモデルの格納情報と中長期保全計画の連携である。
 
維持管理用BIMモデルに搭載した情報から、仕様および数量データを抽出し、中長期保全計画策定ツールへ情報を取り込むことで、精度の高い中長期保全計画を策定できると考えている。
 
BIMモデルの各種データを中長期保全計画策定ツールへ取り込む際、中長期保全計画の各項目に、BIMモデルのデータを適切な単位と部材の組み合わせで取り込めるよう、BIMモデルの部材情報と中長期保全計画の項目とをひも付ける辞書(BIM-FMコンバートツール[(株)FMシステム])を用意し、自動的にBIMモデルの部材・数量情報が中長期保全計画策定ツールへ取り込めるようにした。連携の仕組みを示す(図-6)。
 

図-6 BIMモデルとFMツールの連携の仕組み



2020年10月の時点では、建物基準階部分の建築・電気設備・空調衛生設備統合モデルの作成と同時に、刊行物単価を参考にした単価一覧表データを作成している。この部分的なBIMモデルを用い、BIM-FMコンバートツールにて連携IDで突合し、単価・数量一覧の精度を検証したところ、比較的良い数値が出ており、年度末の報告に向け、全体的なBIMモデルにて検証を行う予定である。

 
 

さいごに

BIMを導入し6年が経過したが、ようやく社内的にも若い世代を中心に理解と習熟が進み、「まずはBIMでモデルを作ってみる」、「BIMの方が事業者との合意形成が早い」というような声が聞こえてくるようになった。また、国土交通省連携事業への参画は、ファシリティマネジメント分野のBIM活用の事例として注目される良いきっかけとなっている。
 
新築案件へのBIM活用はもとより既存建物へのBIM活用に対し、若い世代のマインドチェンジと国土交通省の連携事業の成果をうまく軌道に乗せ、将来的には数千を超える施設ごとに作成したFM-BIM®モデルを維持保全に活用し、既存建物への付加価値向上と維持保全業務の効率化を目標としたい。
 

日本郵政株式会社 施設部 担当部長 土田 真一郎

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



わが国の建築BIM推進会議における検討状況について

 

はじめに

(1)Society5.0の社会へ

デジタル技術がもたらす社会像として「Society 5.0」があります。
「Society 5.0」は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として平成28年に提唱されたものです。これまでの狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とされています。
 
Society 5.0で実現する社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合える社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。」とあり、AI、IoT化といったデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性について提唱されています。

(2)i-Constructionの推進

わが国は、現在、人口減少社会を迎えており、潜在的な成長力を高めるとともに、働き手の減少を上回る生産性の向上が求められています。また、産業の中長期的な担い手の確保・育成等に向けて、働き方改革を進めることも重要であり、この点からも生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、平成28年を「生産性革命元年」と位置付け、社会全体の生産性向上につながるストック効果の高い社会資本の整備・活用や、関連産業の生産性向上、新市場の開拓を支える取り組みを加速化し、生産性革命プロジェクトを実施してきました。この生産性革命プロジェクトの中にICTの活用等により調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指す「i-Construction」の取り組みを進めています。
 
「成長戦略フォローアップ」(令和元年6月21日閣議決定)では、i-Constructionの貫徹やBIMを国・地方公共団体が発注する建築工事で横展開し、民間発注工事へ波及拡大させていくこと、BIMによる建築確認申請の普及に向けた検討、国・地方公共団体、建設業者、設計者、建物所有者などの広範な関係者による協議の場を設置し、直面する課題とその対策や官民の役割分担、工程表等を2019年度中に取りまとめることが盛り込まれました。
 
これを踏まえ、i-Constructionのエンジンとして平成30年度から先行して土木分野で重要な役割を担ってきた「BIM/CIM推進委員会」において、令和元年度から建築分野のBIMについて拡充を図るため、BIM/CIM推進委員会の下にWGとして、後述する「建築BIM推進会議」を設置し、建築分野におけるBIM活用に向けた市場環境の整備について具体的な検討が開始されました。

 
 

建築分野におけるBIMの活用状況と課題

現在、諸外国では土木分野だけでなく、建築分野においてもBIMの活用が進んでいますが、わが国での建築分野におけるBIMの活用については、設計、施工の各分野がそれぞれのプロセスの最適化を目指して活用する段階に止まっており、さらなる生産性向上等のポテンシャルがあると考えられる、各プロセス間で連係した建築物のライフサイクルを通じたBIMの活用が進んでいない状況にあります。この結果、維持管理段階のBIMの活用は低調となり、またBIMの利用効果も限定的となっています。
 
また、国土交通省が平成29年12月~平成30年2月の期間で設計や施工の関係団体に対して調査したところ、設計分野でBIMの導入実績がある建築士事務所は3割程度ですが、半数以上の事務所がBIMの導入に関心をあることが示されています。しかし、特に設備設計事務所でのBIMの活用はかなり限定的で、導入に興味を持つ事務所も少ない状況です。施工分野については、大手ゼネコン等においてBIMは相当程度活用されていますが、中小建設会社ではほとんど使われていない状況です。
 
 

建築BIM推進会議の設置(令和元年6月)

国土交通省では、前述の「成長戦略フォローアップ」に基づき、建築物のライフサイクルにおいて、BIMを通じデジタル情報が一貫して活用される仕組みの構築を図り、建築分野での生産性向上を図るため、官民が一体となって「建築BIM推進会議」(以下「推進会議」という。)を令和元年6月に設置しました。
 
推進会議では、官民が連携し、建築業界全体が一丸となって今後の建築BIMの活用・推進について幅広く議論し、対応方策をとりまとめていくラウンドテーブルとなり、次の1~4の順で検討が進められました。
①各分野におけるBIMの検討状況の共有
②BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスやBIMのもたらす周辺環境の「将来像」の検討・策定
③当該「将来像」を実現するための「ロードマップ」(官民の役割分担と工程表等)の検討・策定
④当該「ロードマップ」に基づく官民それぞれでの検討
なお、推進会議は、松村秀一東京大学大学院工学系研究科特任教授を委員長とし、学識者のほか、建築分野の設計、施工、維持管理、発注者、調査研究、情報システム・国際標準に係る幅広い関係団体により構成されています。国土交通省においても、住宅局建築指導課、不動産・建設経済局建設業課、大臣官房官庁営繕部整備課の3課で事務局を務めています。

 
 

「建築BIMの将来像と工程表」の策定(令和元年9月)

令和元年6月13日に第1回推進会議が開催され、国および関係団体等におけるBIMの活用・推進に係る検討状況等の報告・確認(①)が行われた後、7月に第2回、9月に第3回の推進会議が開催され、「建築BIMの将来像と工程表」(②・③)が了承されました。
 
特に「将来像」として、「いいものが」(高品質・高精度な建築生産・維持管理の実現)、「無駄なく、速く」(高効率なライフサイクルの実現)、「建物にも、データにも価値が」(社会資産としての建築物の価値の拡大)、の3つの視点で整理されるとともに、その将来像を実現するための「ロードマップ」が、次の(1)~(7)の7項目に整理されました。
 
(1)BIMを活用した建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
(2)BIMモデルの形状と属性情報の標準化
(3)BIMを活用した建築確認検査の実施
(4)BIMによる積算の標準化
(5)BIMの情報共有基盤の整備
(6)人材育成、中小事業者の活用促進
(7)ビックデータ化、インフラプラットフォームとの連携
 
これら7項目については、それぞれ連携しつつ検討していくこととしています。また、これらに取り組む基本的な戦略として、以下の3点を掲げています。
 
・マーケットの機能を生かしながら、官・民が適切な役割分担の下で協調して進める
・先行的な取り組みを進め、その後に一般化を図る(PDCAサイクルによる精度の向上)
・可能な限り国際標準・基準に沿って進める
 
特に1点目の役割分担に留意し、(1)のワークフローの検討など、さまざまな業界間の調整が必要な部分については国が主体的に事務局を行う部会「建築BIM環境整備部会」を設置することとし、(2)~(5)については既に民間の関係団体等において検討が進められていることから、それらの各団体の活動を部会と位置づけ、個別課題に対する検討等を進めることとされました。(令和元年10月~)
 
なお、当面は(6)と(7)を念頭に置きながら、(1)~(5)の取り組みを先行して行うこととされています。
 
今後、これら部会においてさらに官民が一体となってBIMに関する議論が深まることが期待されます(図-1)。
 

建築BIMの将来像と工程表

図-1 「建築BIMの将来像と工程表」~7つの取組と工程表~

 
 

建築BIM環境整備部会の設置(令和元年10月)とガイドライン(第1版)の策定(令和2年3月)

(1)の検討を行う「建築BIM環境整備部会」は、志手一哉芝浦工業大学建築学部建築学科教授を部会長とし、推進会議と同様に幅広い関係団体等により構成されています。
 
特に、令和元年10月から、年度内に計4回の部会を開催し、BIMのプロセス横断的な活用に向け、関係者の役割・責任分担等の明確化等をするため、標準ワークフロー、BIMデータの受け渡しルール、想定されるメリット等を内容とする「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(以下「ガイドライン」という)の案の検討が行われました。
 
ガイドラインは建築BIM推進会議での承認を経て、令和2年3月に策定、公表されましたが、「第1版」として、今後新たな内容の追加も検討しつつ、継続的な見直しを前提としています。
 
特にガイドラインでは、「維持管理BIM作成業務」と「ライフサイクルコンサルティング業務」の2つについて言及されています。
 
維持管理BIM作成業務は、設計段階のBIMをベースとしつつ、施工段階で決まる設備施工情報や設備機器の品番、耐用年数等の必要な情報を入力・情報管理し、竣工後、維持管理段階にBIMを引き継ぐ役割です。
 
また、ライフサイクルコンサルティング業務は、維持管理段階に必要と想定されるBIMおよびそのモデリング・入力ルールを、設計者との契約前に事前に検討し、設計者・維持管理BIM作成者・施工者に共有する業務です。
 
これら業務を組み合わせることで、設計、施工、維持管理段階をBIMで効率的につなげ、デジタル情報を一貫して活用することが可能となるとしています(図-2)。
 

建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン

図-2 建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン

 
 

モデル事業の実施等(令和2年4月~)

令和2年度においては、第1版であるガイドラインの実証等を行うため、ガイドラインに沿って試行的にBIMを導入し、コスト削減・生産性向上等のメリットの定量的把握・検証や、運用上の課題抽出を行う、「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」を実施しています。本事業では、ガイドラインの実証だけでなく、BIMを活用した場合の具体的メリットを明らかにするとともに、BIM実行計画書(BEP(BIMExecution Plan))、BIM発 注 者 情報要(EIR(Employer’s InformaionRequirements))を含む検討の成果物を公表することとしています。
 
本事業は令和2年4月27日から6月1日にかけて募集を行い、40件の応募の中から、8件を「採択事業」に選定し、6月30日に公表しました。これら採択事業については、建築BIM環境整備部会において、検討の進捗状況や成果について報告いただき、議論いただく予定です(令和2年度は既に8月、11月に同部会を開催)。
 
また、試行的な建築プロジェクトにおけるBIM導入の効果等を検証する取り組みをさらに拡大するため、「連携事業」14件を選定し、6月10日に公表を行いました。これは、モデル事業に採択されなかった提案のうち、推進会議と連携し検討内容の熟度を高めることで、今後成果物が公表された場合
に当該成果物の発展性・波及性等が見込まれるものとして学識経験者等により評価されたものです。これら連係事業についても、採択事業と同様、建築BIM環境整備WGにおいて、検討の進捗状況や成果について報告いただき、議論いただく予定です(令和2年度は既に10月に同部会を開催)。
 
さらに、官庁営繕事業でも、BIMの活用拡大に向け、試行、課題の整理、対応方策の検討等が行われる予定です。
 
今年度は、これら官民の事業が推進会議と連携し、同会議において検討内容が議論・公表されることで、さらにBIMの検討が加速することが期待されます。
 
なお、前述の「採択事業」および「連係事業」については、今年度末に報告書が広く公表されるだけでなく、成果報告会を開催する予定です(図-3)。
 

BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業

図-3 BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業

 
 

各部会のさらなる連携(令和2年6月~)

令和元年度においては、既に民間の関係団体等において進められていた検討を部会と位置付け、個別に検討を進めてきましたが、令和2年度においては、それらの部会間の連携をさらに深め、共通する課題への取り組みをさらに進めていきます。
 
部会間での連携の内容と連携時期をとりまとめ、令和2年6月に公表したほか、7月より、部会間の連携を図る連絡会議を開催し、共有を図ることとしました。
 
また、各部会だけでなく、例えば設計三団体((公社)日本建築士会連合会、(一社)日本建築士事務所協会連合会、(公社)日本建築家協会)では、設計プロセスについてさらに深掘りした「設計BIM標準ワークフローガイドライン(案)」を策定すべく検討する等、建築BIM推進会議に参加している各団体もガイドラインを踏まえ、検討を進めています。
 
これら各部会・関係団体の活動について、引き続き建築BIM推進会議の下で適切に連携を図ってまいります(建築BIM推進会議は令和2年度は12月に既に開催、次回は年度末を予定)(図-4)。
 

建築BIM推進会議と連携する事業(連携事業)について

図-4 建築BIM推進会議と連携する事業(連携事業)について

 
 

今後の展開と展望

「成長戦略フォローアップ」(令和2年7月17日閣議決定)では、「官民が発注する建築設計・工事に試行的にBIMを導入し、効果検証や運用上の課題抽出等、BIMの普及に向けた方策の検討を進める」旨規定されています。
 
今後、推進会議では、前述の官民の事業を進めつつ、部会間・関係団体間で連携し、官民一体となってさらに検討が行われる予定です。
 
特に建築BIM環境整備部会では今後、BEP・EIRの策定、竣工モデルの定義、部品メーカーとのかかわり方の整理、契約や業務報酬、著作権等について盛り込むべく検討が行われる予定です。
 
こうした継続的な取り組みにより、マーケットのさまざまな事業でBIMが広く活用され、関係団体の検証も進み、将来的にはさまざまな人材の育成や幅広い事業者への普及、さらにはビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携等に広がっていくことを期待します。
 
 

国土交通省 住宅局 建築指導課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



前の10件
 


新製品ニュース

BIMモデルを活用した体験型施工管理教育システム「現場トレーナー」を開発BIMモデルを活用した体験型施工管理教育システム「現場トレーナー」を開発


建設ITガイド 電子書籍 2023版
建設ITガイド2023のご購入はこちら

サイト内検索

掲載メーカー様ログインページ


おすすめ新着記事

 



  掲載をご希望の方へ


  土木・建築資材・工法カタログ請求サイト

  けんせつPlaza

  積算資料ポケット版WEB

  BookけんせつPlaza

  建設マネジメント技術

  一般財団法人 経済調査会