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BIMで積算が変わる!-BIM連携積算への取り組みと双方向連携への実現に向けて-

2024年9月10日

はじめに

株式会社日積サーベイでは、BIMを活用した積算の普及を目指し、BIM対応建築積算システム「ΗΕΛΙΟΣ(ヘリオス)」を開発・提供しており、2023年12月には、最新版「ΗΕΛΙΟΣ 2024」をリリースした(図-1)。
 
この「ΗΕΛΙΟΣ 2024」では、イメージ入力・3次元表示のスピードアップ、配置画面などを大きくして確認できる拡大鏡、複雑な計算式をポップアップで直感的に作成する補助機能など、全26項目において機能改良を実装している。
 
また、このΗΕΛΙΟΣは、各種BIMソフトとの連携として、2011年にはIFCファイルを中間ファイルとした「IFC連携」を、2016年にはBIMソフトのデータを直接ΗΕΛΙΟΣのデータ形式に変換する「ダイレクト連携」を実現している。
これらのBIM連携機能をリリースして以降、多くの方々に活用いただいており、弊社でもBIMを活用した積算業務を行っている。
 
さらに2022年1月には、BIMソフト上で利用可能なアドイン概算システム「COST-CLIP(コストクリップ)」を販売開始し、2024年2月にはバージョン3.0をリリース予定である。
 
今回は、国土交通省官庁営繕部が2023年度から試行したBIM連携積算に伴う弊社の取り組みと、現在開発を進めている各種BIMソフトとの双方向連携への挑戦を紹介する(図-1)。

図-1 ΗΕΛΙΟΣ 2024
図-1 ΗΕΛΙΟΣ 2024

 
 

国土交通省BIM試行に伴う弊社の取り組み

ご存じの方も多いかと思われるが、本年4月「官庁営繕のBIM連携積算、試行業務を複数件発注」と題する記事が掲載された。
近年、大手ゼネコンを中心に、BIMモデルを積算業務に活用する動きが活発化しているが、今回の施行により、さらにΗΕΛΙΟΣでのΒΙΜ活用に関するお問い合わせを多くいただくようにもなった。
 
そこで、弊社では8月31日に「BIM連携積算セミナー」と題してWebセミナーを実施。
その中で、BIM連携積算の概要や、始め方・取り組み方法、今までの積算との違いなどを説明した。
特に、BIM連携積算のワークフローとして、BIMを全く知らない方でも理解できるように弊社なりの図解を付け加えて丁寧に説明するように心掛けた(図-2)。
 
その結果、600名以上もの方が視聴され、大きな反響をいただいた。
またアンケートにおいても、多くのお客様からBIM連携積算への支援を望まれる声をいただいている。
弊社では、これからもBIM連携積算に関する情報を発信していき、BIM活用に関する相談にも積極的に対応していく予定である。

図-2 BIM連携積算のワークフロー
図-2 BIM連携積算のワークフロー

 
 

双方向連携へのニーズ

そんな中、今度はΗΕΛΙΟΣから各種BIMソフトに戻す案が浮上した。
これはデータ連携を双方向にさせることにより、さらなる業務負担を減らして生産性を向上させる狙いがある。
つまり、積算システム側でのモデルの修正や補正作業を設計ツール側にも生かすことで、設計モデルそのものの精度向上につなげられると考えた。
近年、積算業務における設計者への質疑や訂正作業は年々増加傾向にあり、積算工程へ流れてくる図面や設計モデルは完成版ではない場合が多い。
逆に積算者が扱うモデルは、質疑や変更を盛り込まれた最終形態であるため、より正確なモデルであると言える。
当然であるが、そのモデルを戻してほしいというニーズは自然な流れである。
 
また、この積算者が扱うモデルは施工図にも利用可能と考える。
特に、躯体のフカシや増し打ちに関しては、設計段階ではまだまだ考慮されていないこともあり、設計者が扱うモデルより積算者が扱うモデルの方が、施工図として利用するには、より正確で現実的だと考えられる(図-3)。

図-3 双方向連携の運用イメージ
図-3 双方向連携の運用イメージ

 
 

双方向連携の開発

そこで、弊社では、まずはオートデスク社のBIMツール「Revit」に絞り、ΗΕΛΙΟΣのデータを戻せないか、2022年から研究開発を実施してきた。
「Revit」では、ぶつかり合う部材同士のレベルが合わないなど、整合性が取れていないだけでエラーが表示されてしまうこともあり、試行錯誤の連続ではあったが、ようやくリリースできうるレベルにこぎ付けた。
当機能は、2024年春リリース予定の「HeliosLink2024」に搭載予定。
ただし、この機能はあくまでも初弾であり、柱・梁・壁・スラブ・基礎・建具に限られる。
また、配筋情報もマッピングテーブルを利用して変換させることも可能である(図-4)。
 
弊社では、今後もこの機能を継続的に開発し、グラフィソフト社「Archicad」、福井コンピュータ社「GLOOBE」にも展開させる予定。
また、対象部位に関しても前述の部材だけでなく、部屋や間仕切壁などにも順次対応させていく。
さらには、現在提供中の連携機能と組み合わせて、差分連携にもつなげられるよう模索中である。

図-4 逆変換のイメージ図
図-4 逆変換のイメージ図

 
 

今後の展開

2019年に国土交通省が設置した「建築BIM推進会議」では、BIMを活用した概算やコストマネジメントが、主要なテーマに位置付けられており、「BIM活用概算/積算」の流れは広まりつつある。
弊社もそれに呼応し続けていくことが重要であり、今後もΗΕΛΙΟΣのBIM連携を拡張させていくことは言うまでもない(図-5)。
 
また、今回の双方向連携に関しては、積算事務所側にとっても大きな付加価値を生み出せるツールになり得ると考える。
従来、積算事務所からの成果物は積算結果だけであったが、その積算結果を算出させるために使用した積算モデルも価値のある成果物と言える。
ただし、この成果物はΗΕΛΙΟΣの配置(モデリング)拾いを使用した場合のみに限られ、現在、表形式による拾い方(ΗΕΛΙΟΣでは個別拾いと呼ぶ)をされている積算事務所様には、ぜひ配置およびこのBIM連携機能をご使用していただきたい。

図-5 HELIOSのBIM連携図
図-5 HELIOSのBIM連携図

 
 

会社概要

会社名:株式会社日積サーベイ
所在地:大阪市中央区大手前1-4-12大阪天満橋ビル8F
創業:1964年(昭和39年)10月
URL:https://www.nisseki-survey.co.jp/
資本金:2,000万円
従業員数:43名(2023年4月現在)
主な事業内容:建築積算、コスト算出、コンピューターシステムの開発
 
 
 

株式会社日積サーベイ システム開発部
辻尾 勇人

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



NTTファシリティーズの「ライフサイクルBIM」戦略 既存多施設のライフサイクルマネジメントへのBIM導入

2024年9月2日

はじめに

NTTファシリティーズでは、「ライフサイクルBIM」のコンセプトの下、既存多施設のライフサイクルマネジメントへのBIM導入に取り組んできました。
ライフサイクルBIMは2013年頃にコンセプト設定して以降、約10年になりますが、基本的な考え方は一貫しつつ、活用の具体化、社会のBIMに対するアプローチの変化を見据えながら軌道修正を重ね、現在に至っています。
 
今回は、当社のライフサイクルBIMに対するアプローチ、取り組みと課題、今後の方向性についてご紹介いたします。
 

NTTファシリティーズの紹介

当社は、1992年に日本電信電話株式会社より分社化し、株式会社NTTファシリティーズとして設立されました。
 
現在はNTTアーバンソリューションズグループ4社の一員として、NTTグループにおける街づくり事業推進に携わっております。
 
当社は、100年以上にわたりNTTの通信施設を建物維持管理の視点から守ってまいりました。
今後は、多様化する社会課題に対し「環境経営に答える」「新しい働き方を作る」「企業の不動産価値を守る」「不測の事態に備える」という4つの視点から価値を創造し、お客様の事業課題の解決に貢献してまいります。
 

通信事業における通信建物の位置付け

通信建物は、公共性の高い通信サービスを支えるための建築であるため、それ自体が社会的に重要なインフラとしての役割を担っています。
 
通信ビルは、1950年頃~ 1970年代までに多くが建設され、その間大量の通信施設群の建設に対応するため、技術水準の維持・品質確保・効率化のための標準化技術やプレファブ化などの生産技術を開発・導入してきました。
 
これらの標準化は大量建設の効率化・品質確保を目的としていましたが、同時に通信ビルの本質的な性能の追及につながる、当社の建築技術の蓄積になっていると言えます。
 
しかしながら、大量建設されたこれらの通信建物群は、長期利用による老朽化・通信事業の変化に合わせた利用の変化など、さまざまな課題に直面しております。

図1-1 標準局舎
図1-1 標準局舎
図1-2 通信建物の年度別建設面積
図1-2 通信建物の年度別建設面積

 

構築・保守業務における建物情報デジタル化の取り組み

当社は、通信建物の建設・維持管理と並行し、通信建物の情報化についても取り組んでまいりました。
 
そのひとつである「図面のデジタル化」として、平成初頭から現況図をCAD化する取り組みを行いました(現況図の概説は「現況BIM」(当社現況図管理の変遷)を参照)。
 
当初CADデータは本社・各支店で個別に管理されていましたが、1995年の阪神淡路大震災の際、通信建物現況図を入手できないという問題が発生し、この反省から当時の先端であるインターネット+Webを活用し、どこでも現況図データが入手できる仕組みを実現しました。
その後もFM図やCAFM(Computer Aided Facility Management)の概念を追加しながら、大量の既存施設の情報化が取り組みの基となっています。
 
 

ライフサイクルBIM

ライフサイクルBIMの方向性

冒頭にも述べましたが、当社はBIM活用のアプローチとして「ライフサイクルBIM™」をコンセプトとしています(特にBIMのMを「Management」の意としている)。
 
従来のBIMといえば、設計・施工などの分野を中心に、建物を高度にデジタル化する手法として認知されております。
一方ライフサイクルBIMは、BIMを建物のデータベースととらえ、施設維持管理におけるさまざまな業務情報をBIMに収集・集約、それを業務プラットフォームとして活用するプロセスの構築、それによる施設維持管理業務のDX化を目指しています。

図2-1 ライフサイクルBIMのコンセプト
図2-1 ライフサイクルBIMのコンセプト

 

BIMを用いた施設データプラットフォームの概要

施設維持管理業務においてBIMを業務プラットフォームとして考える際、当社では図のようにデータベースの周りを業務が循環するイメージで捉えております(図2-2)。
 
通信建物は、長期間の利用を想定していること、比較的使い方が画一的であることなどから、その運用ルールが標準化されています。
それを効率的に維持するため、全国約10,000ビルのNTT関連施設約を「建物群」としてとらえ、同一の手順・サイクルで改修設計と維持管理を循環させる業務の仕組みが最も適しているといえます。
このデータ循環サイクルを重視し、日常 点検・整備計画と改修設計に必要な情報が集約されたBIMが業務の基点として重要となります。

図2-2 BIMによる施設維持管理業務の情報循環
図2-2 BIMによる施設維持管理業務の情報循環

 

「現況BIM」(当社現況図管理の変遷)

現況BIMとは、当社が従来運用している「現況図」をBIMに置き換えたものです。
現況図とは、言葉のとおり建物の現在状態を示した図のことになりますが、一般的な設計図や施工図・竣工図とは異なり、施設の現在状態に合わせ、常にデータを修正・長期間管理し利用し続けるという点が特長です。
当社はBIMを導入する以前から、この現 況図を更新管理し、改修設計・点検整備計画などの情報起点として利用してきました(「構築・保守業務における建物情報デジタル化の取り組み」項参照)。
 
しかしながら、従来の図面管理手法では建築・設備の図情報・属性情報の整合性や情報更新の作業性に課題があったため、 BIMが持つ図・属性の統合管理機能に着目し、BIMを用いて現況図を再整備することとしました。

図2-3 現況図から現況BIMへの移行
図2-3 現況図から現況BIMへの移行

 

「現況BIM」のコンセプト

BIMを用いて現況図を再整備するにあたり、改修設計や点検・整備計画などさまざまな業務利用者が想定されること、データの長期利用や将来的な活用領域が活用される可能性を踏まえ、以下3つのコンセプトを設定しました。
 
1.だれもが運用しやすいこと(不必要に高粒度化しない)
2.データが標準化されていること(RPA・ AIなど導入が将来的に可能)
3.将来にわたって情報が長期維持できること(陳腐化させない仕組みづくり)

図2-4 現況BIMのコンセプト
図2-4 現況BIMのコンセプト

 
なお、現況BIMは全ての建物・設備情報をBIMモデルで立体的に再現するということではなく「図情報・属性情報・空間情報」という3つの情報要素を、例えばCADやExcelデータ、画像情報など、従来から使われているデータ形式もうまく活用しながら、合理的な方法で構成しています。
 
次項からは、当社のライフサイクルBIM実現に向けた取り組みの進捗・課題について、大きく「BIMデータベース・プラットフォームの構築の取り組み」「それを活用した改修設計業務・維持管理業務など各業務活用の取り組み」の2点から、ご紹介いたします。
 
 

プラットフォーム構築の取り組み・課題

「現況BIM」データの整備

まずは「現況BIM」初期構築についてご紹介します。
 
現況図として管理していたNTT関連施設約10,000ビルについて、従来のCAD現況図を流用する形で、現況BIMのベースを立ち上げました。
 
当然その時点では建築設備各部位のモデル化はされてはいませんが、施設維持管理においては管理する全ての施設が同じルールで情報利用できることが重要であるため、まずはBIMに情報管理を移行した点が大きいかと思います。
 
現在はこれらのベースデータに対し、特に重要な約1,500ビルについて、建物のモデル化を行っております。
現況BIM化の取り組みは2020年度から構築を開始、 2023年度末の完成を目指しています。
 
今後の運用として、改修・維持管理の業務サイクルにより得られた業務情報を基に、徐々に現況情報が整備され、建物全体としてモデル・属性情報が適正に作り込まれた形になっていきます。
 
既存建物はBIMモデル化の初期構築作業が大変であるという課題がありますが、当社では運用と並行しながら常に最新化しながら情報粒度が上がっていくという手法で、これを実現しています。
 
しかしながら、既存建物を後からBIM化するには特有の課題があります。
大量に作成するBIMのデータ品質を一定にそろえる難しさ、既存の建物情報が十分に得られないことによるモデル化の難易度上昇などが挙げられます。
モデル作成の効率化と品質向上は今後継続の課題と考えています(図3-1)。

図3-1 現況BIM初期構築の取り組み
図3-1 現況BIM初期構築の取り組み

 

共有システム導入

次に、現況BIMを含む施設データの現況情報を格納・運用するシステムの構築についてご紹介します。
 
NTTグループの施設維持管理においては「大量の施設データ」を「一定の品質」で「長期間」安定的に保つ必要があります。
当社では現況図の管理手法として、当社ではCADをベースに「CAFM」システムを導入し、統一的に現況図の管理・更新を行ってきました(「構築・保守業務における建物情報デジタル化の取り組み」項参照)。
現況図をBIM化するとともに、それに対応する新たなプラットフォームを構築、改修設計業務における情報更新効率化を狙うとともに、改修設計と維持管理・オペレーションでの情報を相互に交換できることを目指しています。

図3-2 システム群の構成
図3-2 システム群の構成

 

情報管理・業務フローの社内ルールとドキュメント整備

次に、現況BIMを構築・運用・維持するための社内ルール・ドキュメントの整備についてご紹介します。
 
当社のBIMに関するマニュアルは、「ライフサイクルBIM実現のガイドライン」「現況BIMの仕様」「現況BIMの作成・情報更新の手順」「現況BIMの設計等業務利用の手順」の4つのレイヤに分かれており、テンプレート・ファミリを含む社内の標準フォーマット類は、上記のドキュメントに従って整備されています(図3-3)。
 
しかしながら設計の現場は思いのほか俗人的・可視化されていないルールが多く存在し、それが業務の共通ルール化を妨げているとも言えます。
 
マニュアルは存在しても守られなければ意味がないため、現在は共通ルールの社内研修や、ルールに沿った業務フローを整備することにより「ルールを守る仕組みの構築」を試行中という段階です。

図3-3 BIMの社内ドキュメント体系
図3-3 BIMの社内ドキュメント体系

 

社内BIMオペレーション体制構築

当社は、設計維持管理業務一貫でのBIM活用のため、2019年にBIMオペレーション専担組織を立ち上げました。
 
それから約4年となりますが、オペレーターの完全テレワーク実現なども相まって、現在は本社・全国組織を統合する、約120名のBIMオペレーターが在籍する組織へと成長しております。
 
特長としては、現況BIMを設計利用する「設計BIM作成支援」と現況BIMの情報を常に最新状態に更新する「現況BIM更新整備」の2つの主力業務を統合し、現況BIMに関わるオペレーションをシームレスに循環できるようにしていることです。
合わせて、これらBIM関連の必要業務を専担集約化することで、オペレーター稼働を全体最適化するという側面もあります。
 
一方で、オペレーターの専担組織集約化は、設計現場における設計者とオペレーターの業務連携がしにくいなどの課題があります。
 
今後は稼働効率化と現場との連携の両立を目指した改善を進めていく予定です(図3-4)。

図3-4 社内のBIMオペレーション体制
図3-4 社内のBIMオペレーション体制

 

「BIM人材」の育成

BIMオペレーション専担組織の役割としては、現況BIMの管理と提供、設計BIMの作成支援が主な内容となりますが、それ以外にも、環境シミュレーション、数量の算出、デジタルデザインなど「設計情報提供」という切り口から、設計者との新たな分業体制を模索しています。
その中で欠かせないのは「BIM人材」になります。
 
当社BIMオペレーション専担組織の社員は「BIMマネジャー」の役割として、設計者・プロジェクトの関係者・オペレーターとの間を取り持ち、施設・設計情報の観点から業務を回す独立した立場で業務を行っています。
 
しかしながら、BIMマネジャーという職能は、建設とICTの両方を兼ね備えた思考性と知識が必要であり、適正がある人員数が非常少ない状況です。
BIM人材の育成が今後の課題となっています。
 
 

業務運用の取り組み・課題

改修設計業務への活用

業務活用の取り組み1点目は改修設計の活用事例をご紹介します。
 
通信用建物の改修設計は、維持管理業務の一つとして、点検・整備計画と情報がつながっている点、既存建物の現状把握が重要になる点から、情報取得や設計検討の方法においても、独特の難しさがあります。
 
これを踏まえ、当社では現況BIMを起点とした独自の改修設計図作図フローを導入しています。
 
改修設計では、必ず現況BIMを用いて設計を進めます。
基本設計・実施設計の内容を検討し、現況BIMから「設計BIM」を作成、その情報を設計・工事契約に活用します。
 
工事が完成すると、工事完成情報を施工会社から入手し、現況BIMを最新に更新するという流れになります(図4-1)。
 
改修設計の実務においては、現況BIMを加工し設計BIMを作成するというアプローチをさらに進化させ、現況BIMに改修内容をデータインプットするだけで、システマチックに設計アウトプットを完了させるような手法を試行しており、改修設計業務のさらなるDX化を目指しております。

図4-1 改修設計における情報循環
図4-1 改修設計における情報循環
図4-2 BIMを用いた改修設計のDX化
図4-2 BIMを用いた改修設計のDX化

 

維持管理・点検業務への活用

業務活用の取り組み2点目として、現況BIMを利用した施設日常点検図・帳票などへの活用をご紹介します。
 
「BIMを用いた点検業務」という発想は以前からもありましたが、主に3Dを使った点検ツールの高度化というアプローチでした。
しかしながら、このアプローチは維持管理業務における真の必要性について社内でも疑問があったことも事実です。
これまでの「点検手法の高度化」から、維持管理情報が確実に蓄積される「仕組みの構築」を重点に見直しました。
 
点検手法が変わらない時点ではBIM導入の効果はないのではないかという意見もありますが、例えば蓄積されたデータを基に、RPAを使用して分析やリポートを行うことで、関連業務の稼働が大幅に削減するなど、労働力の補助としての活用の可能性があると考えています。

図4-3 点検業務へのBIM導入の視点
図4-3 点検業務へのBIM導入の視点

 

FM情報管理業務への活用

業務活用の3点目として、建物の資産情報管理・整備運用計画への活用をご紹介します。
 
従来、建物の施設維持は維持管理会社に任せ、建物情報を直接オーナーが把握管理するような考えは少なかったと認識しておりますが、今後はオーナーが施設情報も保持、それにより維持管理の透明化・オープン化を図るべきだと言われています。
 
ただ実際のところは、オーナーがまだ施設情報を保持する具体的なメリットを見い出せていない点、小規模施設のオーナーは施設情報を構築・管理するコストがネックであるという課題があります。
 
施設情報をオーナー目線で「見える化」するという考え方は継続しながらも、もっとオーナーが十分にメリットを感じられるような付加価値の提供を模索しています。
 

通信事業アセット管理への活用

特に、通信施設の施設情報管理においては、施設オーナーであるNTTの通信事業におけるスペース利用の高度化が期待できます。
 
通信事業の根幹である通信装置を高度に管理するため、通信機械室の空き状況や装置の増設可否を瞬時に把握できるなど、施設の状況把握に用いることができるのではないかと考えています。

図4-4 施設情報透明化の重要性
図4-4 施設情報透明化の重要性

 
 

今後の展望

当社でのライフサイクルBIMの取り組みは、2023年度で初期構築・導入準備完了というひと区切りを迎え、2024年度からは本格運用を開始し、さらに次のステップを模索しています。
 
ライフサイクルBIMのアプローチは、当初設計・維持管理での利用者=受注者目線が基点でありましたが、現在はオーナーの事業課題の解決、付加価値創出が主なテーマとなっています。
 
NTTのサービスは、通信インフラの安定的な供給維持、自然災害への対応、既存ストックの活用、地球環境への配慮など、さまざまな事業運営上の課題に直面しています。
またそれはNTT事業のみならず、多くの施設保有における課題に共通するものであると考えます。
 
当社がこれまで培った通信施設維持管理のノウハウ、さらに通信事業におけるライフサイクルBIMの大きなデータプラットフォームを活用し、今後は施設オーナーの事業成長につながるサービス展開・事業貢献をしていくことを、今後の目標と掲げています。
 
 
 

株式会社NTTファシリティーズNTT本部 サービス推進部 エンジニアリング部門 設計情報管理センタ
窪田 将希

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



中堅ゼネコンにおけるBIM推進正確に自動化されたシステムがBIM省力化のパートナーに

2024年8月27日

共立建設株式会社は、1956年、公衆電気通信事業を担う電電公社の外郭団体である電気通信共済会の職員宿舎建設・保守・運営事業を請け負う建設会社として誕生。
 
職員宿舎以外に基地局をはじめ電話局舎・庁舎・保養所・病院・集合住宅まで領域を広げている。
 
今回は、より正確でスムーズな工程管理で建設現場の効率化を目指す同社「i-Construction」の取り組みにおけるBIMへの対応について、i-コンストラクション推進室でBIM活用を担う伊東瑠那・課長代理に訊いた。
 
 

現場での打合せにBIMモデルを活用

共立建設株式会社のBIM導入の歴史は、2015(平成27)年、当時の技術部による日本製BIMソフトウエアの使用開始に始まる。
このとき唯一「Archicad」を使える人材だったのが伊東瑠那氏だ。
当時は社内のBIM認知がある程度向上したものの操作性の面では課題があった。
その後、より効果的なBIMの活用を目指した取り組みが継続して行われ、i-コンストラクション推進室の活動につながる。
 
現在は、人員や時間が限られる現場でのBIMモデル作成は行わず、伊東氏が作成して提供し、現場の打合せなどで活用するスタイルを基本としている。
当然ながらBIMの効果は2D図面では表現しきれない内容を分かりやすく立体化することで、設計者と現場はもちろん施主とも完成イメージを共有しやすくなる点にある。
だからこそ伊東氏は「3Dモデルを見ながら打合せを行うだけでも違いが分かるはずなので、そこから現場の担当者が『自分でもやってみたいな』と関心を持ってくれればいいなと思います」と期待する。
一般的に「デスクで腰を据えて建設工事の勉強をしたかったが、現場でずっと作業していては勉強ができない」という思いを抱えている若手社員は多い。
そうした層がBIMを知ることで「自分が現場で学んできたことが、果たして建築の基準に則っているのか確かめたい」というモチベーションになれば、人材の質的向上にも期待できる。
 
 

モデル作成の効率を上げる「BI Structure」

BIM活用を主導する伊東氏の具体的な作業は、受注が決まって図面が来た段階でBIMモデルの作成を開始し、基礎周りの配筋検討と仮設の山留め計画など考えられるモデルを順次、作成していくことにある。
 
「『BI Structure』で入力するのがスタートとなっています。例えば、かぶり厚だけ図面で確認し入力しておけば、勝手に段取り筋まで組み上げてくれて、必ず基準を満たすモデルができます」と伊東氏。
それだけ高い信頼を寄せる「BI Structure」とは、部材配置を行いながら3Dモデルを作成できる「BI for Archicad」内専用の構造モデル作成ツールで、株式会社U’sFactoryが開発・販売する。
 
伊東氏の作業を劇的に変えたのは、その画期的な操作性である。
「配筋検討には時間がかかると言われていますが、『BI Structure』を使うことでBIMモデルの作成が圧倒的にスムーズに、しかも大幅な省力化と時間短縮ができました。これまでは自分が今どの部分の鉄筋を扱っているのか分かりにくかったのですが、例えば2段目の何本目を触っていると把握しながら作業でき、確認と指示操作するだけですぐモデルに反映されます」。
 
i-コンストラクション推進室には現在6名が在籍するが、他の現場支援ソフトも使われていて担当が分かれるため、BIMを進めるのは伊東氏を含め2名(内1名は設備)のみだ(取材時)。
同社全支店をトータルすると年間約30物件が動くので、当然のことながら業務の大幅な省力化や効率化が実現できなければ、とても業務をこなすことはできず、BIM推進も絵に描いた餅で終わってしまう。
配筋検討を行わない場合や躯体の数量検討をしない案件など、外注も適宜行っているが、後述する構造計算データの入力などは、構造計算をある程度理解していないと行えないため自力による作業が中心となる。

 
 

鉄筋専門工の技術を再現する正確性

これまで人間が行っていた面倒な作業が自動化されるメリットも大きい。
「設計変更があった場合は、コンクリートの位置がずれてしまいますが、このとき、コンクリートが動いた箇所を自分で探して鉄筋を動かすとミスが生じてかねません。『BI Structure』では、どのコンクリートから鉄筋が発生しているか全て紐付いていますので、コンクリートの始点と終点に合わせて鉄筋の始点と終点が違う箇所をボタン一つで検索できます。また、同一径だと鉄筋を1本につなげてくれるので、ずれの見落としもありません。これを人間が行うと個人差も生じますしミスの可能性に常に悩まされますが、(鉄筋コンクリート造)配筋指針通りにさえ正しく入力すればコンピュータが行うので間違いがないです」。
ちなみに「BI Structure」には最低限の指針が網羅されているので、現場ごとの状況に合わせて必要な指針の入力だけでよい。
 
伊東氏が“間違いがない”と言い切る正確性は、鉄筋専門工がそのノウハウをもって頭脳をフル回転させて行っていた、言わば目に見えないプログラムコードを書くような作業が、実際にロジカルなプログラムで再現されているからと言えよう。
 
同様に干渉チェックも人間が行う作業に影響を与えそうだ。
伊東氏は「BIMモデルチェックソフトを使うと5~10mm当たっても検知されて多数のチェックリストが挙がってきますが、実際の現場にはほとんど関係ありません。実際の現場ではミリ単位の配筋は難しく、例えば主筋と主筋の間に何本通るかが分かればいいのです。
『BI Structure』はその判断を数字でコントロールし、指定すれば鉄筋を通す位置を示してくれるので干渉チェックも任せられます」と語る。
 
ときに数十人規模で行われる干渉チェック確認会も見かけるが、今後はそのための時間とコストも見直しが図られるかもしれない。
「BI Structure」によるモデルを参考に、鉄筋をかわすための調整を該当する現場の数名で話し合えば解決することになるからだ。
これだけでも相当の業務時間削減や省力化を実現できる。
 
ほとんどの鉄筋施工図ソフトは、フックの位置や継ぐ位置などを大まかな段階で留めている。
これは、あまり詳細にするとデータ量が大きく、重くなるからだが、「BI Structure」は「鉄筋だから全部組み上げるのが当たり前」という思想で、まさに鉄筋専門工が行う精緻な作業まで想定して開発されている。
「以前は鉄筋検討を行う場合、1本1本組み立てていましたが、『BI Structure』を使うと本当に一部分だけの作業で全て行えます。しかも最上階まで作りましたが、データは本当に軽かったです。最初の入力さえ間違わなければ正確なモデルができます」と伊東氏。
そうした正確性が、高い信頼を生み出している。

 
 

手間のかかる構造データ入力作業

構造計算データは提供されるのが当然のように思われているが、実際は提供されない場合の方が多い。
伊東氏は「提供されるまで待つ時間や他者が作業した入力データにある誤りをチェックする手間を考えたら、私が入力した方が速いのです。結局チェックが欠かせないのであれば、自分で入力した方が情報の正確性の担保が取れるので進行してしまいます」と語る。
 
また、BIMを導入すれば作業が簡素化されるという誤解もまだあるが、2次元の構造図からExcelへの入力作業は、相当な労力を要していた。
伊東氏は、その状況を次のように語る。
「構造図のリストを見ながら入力すると自分が今、建物全体のどの階のどの部位を入力しているのか分からず、迷子のような気持ちになってしまうのがストレスでした。また、断面寸法や上端筋などの数値、あるいは鉄筋の本数、通り芯ごとに符号が異なる場合など、一度数字を頭に入れてから入力先を探して入力する煩わしさを常に感じていました。階数によって数字が異なれば1階から最上階まで全て入力しなければならず、どの階を入力したかが分かるように紙へ出力してマーカーで色分けするなど多くの労力を費やしていました」。
 
こうした入力の手間には、1週間程度はかかっていた。
もちろん入力の誤りがないようチェックもしなければならず、物件によっては300行という膨大な入力作業を行うケースもあり、相当な負担となっていた。
 
 

入力作業を大幅に省力化&効率化

多くの時間を占めていた入力作業から伊東氏を解放したのは、同じくU’sFactoryから2023年に発売された「AI Structure」である。
「このソフトを使い始めてから、1週間かかっていた入力作業が15~20分で終わるようになりました。しかもマニュアルすら不要の簡単さでした」と伊東氏は笑顔でその効果を伝えた。
 
「AI Structure」は構造部材リスト図をまず登録し、基礎梁や大梁、柱などがそれぞれ何ページにあるかを登録すれば、直ちにAIが解析し始めて20分弱で入力が完了する。
ラベル表示もあるので作業もスムーズだ。
万が一、読み漏れがある場合はカラー表示で知らせてくれるので、そこだけ手入力すればよい。
その後「BI Structure」へのインポートが可能になっていて、BIMモデルの作成が始められる。
少数精鋭で業務をこなす共立建設にとって、これだけの省力化の実現は非常に重要な要素だ。
また、注目すべきはそのインターフェイスで、紙の帳票で行うのと同じ感覚でオペレーションができる。
同タイプの製品で、いきなり最終画面を出すシステムも見られるが、それでは何が抜け落ちたかは分からないし、そもそもどのデータから抽出されたのかも理解できない。

 
 

おわりに

Archicadのデータをそのまま使って見積書を短時間で作成できる「BI For ARCHICAD」を伊東氏が知ったのが2018年。
このとき以来、U’sFactoryから「BI Structure」「AI Structure」の提供を受けつつ、改善ポイントの要求を送り対応してもらう関係が続いている。
毎日のように更新が行われるU’sFactory社製品は、1週間アクセスしないとそのバージョンアップに頭が追いつけないほどだが、そこに魅力を感じてもいる。
 
現場におけるBIM活用を広げるために、共立建設i-コンストラクション推進室でBIMモデルを作り続ける伊東氏は、誰よりもその効果を知る人の一人でもある。
 
「現場が大事だと言われますが、BIMモデルを作っていても現場の勉強はできるのです。現場経験だけではBIMは扱えないので、むしろ知識量では上回っているのかもしれないとも思います。建築基準法もよく見ますし、配筋指針を見ないと配筋を設定できません。現場に出ていれば分かることも、現場に出なくても自分で調べています。BIMモデルで建築物を一から建てているので、現場に必要な理解はできていると思っています」。
BIMの素晴らしさをこれほど実感している伊東氏は、BIMのより効果的な活用を進めるのに最適な存在だと言えるだろう。

 
 
共立建設株式会社
所在地: 東京都渋谷区
創業:1956年8月
資本金:10億円
事業内容: 建設、土木ならびに附帯設備工事、建築物および附帯設備の修繕・保守ほか
https://www.kyoritsu-con.co.jp/
 
 
 

共立建設株式会社

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



BIMを超えた建設DXの実現とデジタルデータの標準化

2024年8月26日

BIMとDXの関係

建設データの標準化とプロセス改革

当社では標準化された建設データの構築およびプロセス変革を実現するために、BIMの推進を行っている。
 
建設データの標準化とは、プロジェクトで発生するデータをマスター化されたデータベース構造にすることに他ならない。
BIMはマスター化されたデータベースを構築することを主眼においた場合、最も優位性のあるプラットフォームであるといえる。
 
当社では2017年よりBIMツールをRevitで統一し、デジタルデータからものづくりをする「作るBIM」、作成したデータを次工程に連携し、施工計画に使う「使うBIM」として日々拡大をしている。
これらデジタルデータを「使う」には、共通のルールにのっとって入力する“標準化された建設データ”が必要である。
 
なお、”標準化”は”詳細化”とは異なることを先にお伝えしておく。
設計段階から詳細度を高めた重いデータを作成しようとすると、特にBIM導入期に生産性を落としてしまう。
当社では導入期の施策として、部門に合わせたBIM標準の整備と教育、または作業性を上げる便利ツール開発を行い、大幅に生産性を落とすことなくBIM活用期へ進めてきた(図-1)。

図-1 BIM導入期と活用期の生産
図-1 BIM導入期と活用期の生産

 

当社のデジタル戦略

当社のデジタル戦略を表すメビウスループを紹介する。
設計BIMから始まり、施工・製造・維持管理とデータをつなぎ、共通データ環境であるCDEでデータを管理。
デジタルなモノづくり(デジタルコンストラクション)へつなぎ自動設計・自動施工へ進める。
 
これらのデータをBIMへフィードバックし、循環させていく。
この「BIM」と「デジタルコンストラクション」の両輪で当社は建設DXへ向かっている(図-2)。

図-2 建設プロセスにおけるデジタル戦略のメビウスループ
図-2 建設プロセスにおけるデジタル戦略のメビウスループ

 

「守りのDX」と「攻めのDX」の両立

「2024年問題」、将来的な人員の不足など、建築業界で解決すべき多くの課題がある。
当社ではこれらの課題解決策の一つとしてDXを重視しており、「守りのDX」と「攻めのDX」を両立することを目指している(図-4)。
 
「守りのDX」は社内の業務効率化・標準化と位置付けている。
BIMにおいてはすでに全関係者が標準ルールに準拠した中でBIMを活用し、作図時間や確認作業の短縮を図っている。
 
現在、蓄積されたデジタル情報を活用して収益向上やサプライチェーンの向上などに結び付ける「攻めのDX」にも取り組んでいる。
 
攻めに転じるためのデジタルデータの連携には利活用する仕組みに適した属性情報の格納や現実に即した形状情報の担保が必要であり、それらの情報を手入力だけで行うことはかえって設計者への負荷になってしまう(図-3)。
 
「利活用するためにモデルを作る」という考えだけでなく、設計作業の延長でスムーズに利活用できる情報の器を整備し、連携の仕組みを構築することが重要なポイントであり、当社は川上の業務効率化を前提にツール開発を行っている。
川上から川下まで利活用できるモデルを作ることと、利活用範囲を広げることで「攻めのDX」を実現していく。

図-3 設計モデル≠利活用できるモデル
図-3 設計モデル≠利活用できるモデル
図-4 「守りのDX」と「攻めのDX」の両立
図-4 「守りのDX」と「攻めのDX」の両立

 

データの一元管理

デジタル戦術のメビウスループの中心に据えているCDE環境について、データ保管場所として当社では適切な場所に適切なアクセス権限を有した者がデータを共有し管理するために、「BIM360」を採用し、BIMをはじめとした各種データの一元管理を行っている。
 
さらに2021年からはBIM360の承認機能を強化しデータを「いつ」「だれが」「なにを」「何の目的で」、承認したかを管理する仕組みとして当社独自の機能を付加した「BIM360Extension」(以下、Ext)の運用を開始した。
Extは「守りのDX」に位置付けられ、「攻めのDX」を下支えする仕組みとして展開を進めている。
従来業務に潜在していたリスクの排除や業務時間の削減、セキュリティー強化も同時に実現している。
 
Extは確実にデジタルエビデンスを残し、後工程に正しいデータを共有するために当社にとって不可欠となっている。
適切なデータ提供、データ交換の礎を盤石とするためISO19650の認証取得を行っている。
 

当社のISO19650認定取得状況

ISO19650とは、BIMを使用して構築された資産のライフサイクル全体にわたって情報管理を行うための国際規格であり、デジタルデータ管理の仕方が世界標準として明確化されている。
ISO19650で定義されているものを簡単にまとめると、以下の3つとなる。
 
①施主要求事項と受託組織の実行計画
②情報生産の5W1H
③情報納品の5W1H

 
上記それぞれに含まれるべき事項と、実際に情報交換をした記録が残っていることが定義されている。
 
このISO19650の認証を取得することで、国際規格レベルで自社のBIMが正しく運用できていることを証明し、改善していくための道しるべとなる。
当社がISO19650の認証取得へ取り組む理由も当社の目指す「攻めと守りのDX」の実現とお客さまを含めた情報マネジメント体制を整えていくためには取得が必要と判断したためである(図-5)。
 
当社の現在までの認証取得状況は、2020年度にISO19650-1&2の認証を日本で初めて取得して以降、毎年認証を継続している。
2022年度にはプロジェクト関係者間の情報セキュリティーに関するISO19650-5についても日本で認証が可能になったことから既存認証に加え、追加取得した。
3年連続で認証取得を継続する中で新たな知見を得ることができ、BIM実施体制をより盤石なものへと強化している(図-6)。

図-5 ISO19650の活用
図-5 ISO19650の活用
図-6 ISO19650の取得ステップアップ
図-6 ISO19650の取得ステップアップ

 
 

設計部門

デジタルデータ標準化の取り組み

設計部門では意匠・構造・設備BIMを統合し、見積り・工場・工事などへBIMデータを連携してその部門で必要な情報を付加して活用している(図-7)。
 
BIMは建設業界の中でも市民権を得つつあるが、BIMデータの活用に関してはさまざまな解釈や方策が生まれており、今後のデジタルジャーニーはますます分かりづらくなっている。
社内の経営層にも理解できる伝え方や現場の人にも新たなチャレンジを進めてもらう分かりやすいビジョンが必要である。
 
そこで、どのようにしてBIMのプラットフォームをよりシンプルでクリアにできるかを「つくる」「ためる」「活用する」の3つのキーワードで定義した。
BIMを作るだけでなく、どのようにためて、どのように使うかまで見据え、BIM標準化のフェーズへと挑戦を進めている。
 

BIMの標準化

BIMの標準化を説明するため、ここでは構造部門の鉄骨梁の情報を例に挙げる。
鉄骨梁の情報を属性情報と位置情報に分けたとき、構造部門に必要な情報は図-7の左に記載しているパラメータがあれば定義することが可能である。
ただし、部門連携する際は図-7右に記載しているように部門ごとに必要とする情報が別に必要となる。
現状では、当社の構造BIMを各部門へ連携後、部門ごとに構造BIMデータを適宜加工して使用している(図-8)。

図-7 鉄骨梁の情報
図-7 鉄骨梁の情報
図-8 建築系BIMの連携フロー
図-8 建築系BIMの連携フロー

 
「構造BIMのココに情報がこう入っていれば、こういった結果を返す」というマスターやマッピングを組んでいるが、構造BIMの仕様が少しでも変わると情報が紐付かなくなるため各部門マスターも変更が必要となる。
また、対応に時間と人手がかかり、既存の仕様との共存も難しくなる。
そのため「連携する情報とは何か」が定義できたら、次はそれらの扱い方が必要となり、各部門間で部門連携が定着すれば「情報の扱い方」が定まってくる。
部門ごとの「情報の扱い方」を合体すればデータの統合管理(情報マネジメント)は可能である。
 
つまり、BIM普及後の次のステップとしてBIMデータを活用するための「情報マネジメント」体制を整えることが標準化への道筋となる。
BIMに情報マネジメントが合わさることで「BIMの標準化」が実現できる。
 
この情報マネジメントは、次に示す5つの要素で構成される。
 
① BIM監視:BIM品質を一定化する
② コード化:BIMの部品構成の定義化
③ データ加工:マスタ化、ロジック化
④ データベース化:データを蓄積する
⑤ BI化:データを分析、可視化する

BIMの標準化
BIMの標準化2

 
この5つの要素をそれぞれ構築し実務で使用可能とすれば、BIMの標準化が達成できると考える。
 
当社では、この情報マネジメント体制を「つくる」「ためる」「活用する」システムと同義と考え、BIMをキーとして各部門が必要とする情報の形へ加工、可視化しようとしている。

 
BIMをルービックキューブ(マス=情報、色=部門)に例えてみると、各部門が欲しい情報を整えようとすると非常に苦労する(図-9)。
情報マネジメントは各部門が欲しいタイミングで欲しい色に組み替えて表示するプロセスを定義・自動化するイメージである。
 
ここで、構造部門の実現例として情報マネジメントを構成する1つ目の要素である
「①BIM監視:BIM品質を一定化する」を紹介する。
BIMでは2017年のスタート以降、年次ごとに品質改善の取り組みを行い、2020年には商業施設、事業施設の設計におけるBIM実施率100%を達成した。
次ステップとしてルービックキューブの中の「マス」を埋めるため、構造BIM情報の品質を連携前にチェックし各部門に対して一定以上の品質を担保するため構造BIMの精度レポート運用を始めた(図-10左)。
本取り組みにより、連携先による構造BIMの精度評価が35%から95%へ向上した(図-10)。
 
精度品質は常に同じ品質であることが重要であり、連携先が活用できる構造化データをそろえることがBIM品質の一定化といえる。
 
ここで、この精度確認を設計者の手作業で行っていては現状より負担が増加してしまうため、当社では自動モデルチェックツールを開発し、自動でBIMを点数化できるようにした(図-11)。
建物の特徴はそれぞれ異なるため、レポートの点数は決して100点満点でなくてもよい。
重要なことは、モデルのどこに注意すべきか申し送り事項を伝え担当者間のコミュニケーションを促すことにある。
 
BIMを標準化することは、全社DX実現への足がかりとなると考えている。
デジタルデータをBIMソフトの中で扱うだけでなくデータベース化し、プラットフォーム化することでさまざまなデータ活用の道を開いていくことができる(図-12)。

図-9 BIMをルービックキューブで表現
図-9 BIMをルービックキューブで表現
図-10 部門連携における構造BIMの品質向上の取り組み
図-10 部門連携における構造BIMの品質向上の取り組み
図-11 自動モデルチェックツールの開発
図-11 自動モデルチェックツールの開発
図-12 情報マネジメントを踏まえたプラットフォーム
図-12 情報マネジメントを踏まえたプラットフォーム

 
 

施工部門

施工のデジタル化

設計から始まる「つくる」「ためる」「活用する」デジタルデータは、施工部門においても同様に適用される。
 
図-13は当社施工部門がDXに向かうためのデジタル情報の関連性を表現している。
白い矢印であるDXを実現するにはデジタルデータが必要なことは明白である。
しかしながら、特に施工管理においては 有象無象の紙ファイルがあり、その整理に右往左往させられている現状がある。
まずはデジタルシフトを巻き起こす際のデジタルアレルギーを抑え、分かりやすい効果を示す必要がある。
その観点ではペーパーレスは効果的なアプローチであるといえるが、単にデジタルファイルにするだけではその先のDXにつながるデジタルデータにはならない。
デジタルジャーニーの実現にはデジタルデータこそが重要である。

図-13 コンストラクションデータの基本コンセプト
図-13 コンストラクションデータの基本コンセプト

 
初期段階ではデジタルシフトはブレークスルーの第一歩である。
しかし、デジタルシフトとデジタルデータの間には大きな壁があり、デジタルファイル化はDXにつながらない。
デジタルデータをどう集めていくかのみがデジタルジャーニーを成功させるポイントである。
 
ここでは「つくる」「ためる」「活用する」の3原則を現場巡視の「Autodesk Build」活用例で紹介する。
 
「つくる」に関して、現場巡視をする場合、従来はあらかじめ図面をPDF変換しExcel巡視シートを準備する必要があり多くの時間を浪費していたが、「Autodesk Build」では必要なデータは既にDocsの中で管理されている。
そのデータにモバイルデバイスからアクセスするだけで現場巡視に必要な情報を取得できる。
指摘事項は図面上の地点をタップして追加し、現場写真を撮影し、担当業者、期日、ステータスなどをその場で入力する。
これら全ての情報は「Autodesk Build」内で関連付けられ一元管理されている。
従来のように現場巡視の後に、Excelシートに整理する作業も必要ない。
これらのデータはクラウド上で管理されているため、現場事務所、オフィス、外出先であっても最新の正しい情報で打合せを行い、その場で出た指示伝達事項があれば追加して、すぐに関係者と情報共有することができる。
 
レポート書出機能を利用すれば、図面、図面上の位置、指摘内容、ステータス、写真といった情報が一括で書き出すことができ、専門工事業者への作業指示、作業報告として活用することも可能である。
さらに「Autodesk Construction Cloud」(以下、ACC)(図-14)を使用することでデータが蓄積され、ダッシュボードで視覚化して活用することができる。
未達事項の数、期限超過、担当業者ごとといった情報をプロジェクト全体に確認することも可能である。
 
続いて「ためる」に関しては、先述したCDE同様に設計のコンストラクションデータもACCにためている。
設計のエンジニアリングデータと施工のコンストラクションデータが同じ環境に蓄積されていることが重要である。
 
「活用する」については、データを集めることにより、未達事項の割合、問題発生件数の多い原因を見つけたり、プロジェクトタイプごとの傾向を判断したりすることができる。
 
また、直接ダッシュボードから該当する「Autodesk Build」の指摘事項に飛び、作業を継続することも可能となる(図-15)。
つくり、集めたデータは「見える化」の先に「分析、予測、対策」といった本社部門から工事現場にデータの効果を還元することができるようになる。
重要なことは明確な視点を持ち、デジタルジャーニーの中で「その部分最適のデジタル化は有効か、それは次につながるデータか」ということを判断することにある。

図-14 ACCダッシュボード
図-14 ACCダッシュボード
図-15 ACCによる複数ツールデータの集約
図-15 ACCによる複数ツールデータの集約

 

注釈
Autodesk Build:現場施工とプロジェクト管理の施工管理ソフトウエア
Autodesk Construction Cloud:建設業者向けの幅広く、奥深い、業務に関連したツールのセットを提供する包括的な現場管理およびプロジェクト管理ソフトウエア
Docs:Autodesk Construction Cloudでドキュメントを管理できるクラウドベースの共通データ環境

 

BIM活用の拡がり

「つくる」「ためる」「活用する」プラットフォームとデジタルデータ標準化の整備を進めることで今後さらなるデータ活用へ挑戦することができる。
 
データ活用の事例を2つ紹介する。
 
1つ目の事例は建材データベース(以下、建材DB)の活用である。
当社はメーカー横断の総合Webカタログである「truss」を建材DBとして採用し、BIMとインタラクティブに連携可能な建材DBがあることにより循環型のワークフローの構築と+αのメリットが出てきている。
環境配慮設計を例として紹介する。
 
当社としては中期経営計画で2030年度には、バリューチェーン全体で2015年度比40%以上のCO2の削減に加え、国内ではZEB・ZEH率100%を目指すとともに、原則全ての新築する建物の屋根上に太陽光発電システムを設置し、再生可能エネルギーの普及拡大に貢献する計画としている。
 
この中のZEB率100%に向けて現状設計部門はBEI計算手法を原則標準入力法で行い、ZEB率を向上させているが、設計者へ負荷がかかる。
 
BIMを建材DBと連携することでBEI計算に必要な情報がデータとしてしかるべき器にしかるべき形で自動入力されるため、標準入力法による計算結果をスピーディーに取得することができる。
ケーススタディーにも活用でき、提案の質も向上している。
さらにはコスト情報と紐付けることにより、コストと環境配慮を見える化し、顧客への提案の質も向上させている(図-16)。
 
2つ目の事例は超概算システムである。
初期計画段階では建築計画粒度の粗い状態から事業計画を立てるためのコストを算出しなければならない。
そのような業務を効率化および平準化すべく、当社の過去のBIMやシステムに登録されたデジタルデータを活用し、工種別になっている見積り項目をAIにより部位別に分類し、粒度の粗い計画段階でも過去データを活用し仕様などの調整を容易にした概算算出を可能にした。

図-16 建材DB+BIMで実現する将来像
図-16 建材DB+BIMで実現する将来像

 

まとめ

ここまで、BIMの先にあるものを定義してきたが、当社がこの視座に立つことができたのは、2017年からBIM全社導入を合言葉に日々自分事として旗を振る経営層とそれを実行した技術者集団、建設プロセスに革命を起こす使命を持ったDX推進集団の三位一体のたまものである。
新しいプロセスを定着するにはこの三位一体も重要なカギとなる。
 
前述した建材DB、超概算見積や3D設計・施工レビューによる業務効率化を推進しており、最終的にはグループ企業を含んだ集中購買の取り組みへと接続し、全ての建設プロセスおける革命とバリューチェーンで社会貢献を図っていく(図-17)。

図-17 建築系BIM活用の広がり
図-17 建築系BIM活用の広がり

 
 
 

大和ハウス工業株式会社 技術統括本部建設DX推進部 次長
宮内 尊彰

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



生成AIによる建築デザインの可能性 建築設計アシストAIツール「AiCorb」の開発を通して

2024年8月19日

はじめに

建築設計の初期段階では、設計者は複数のデザイン案を用意した上で発注者との合意形成の場に臨むのが一般的である。
発注者はこの合意形成を通して自身の要望を明確化しながら、理想の形に近づけることができる。
これは発注者にとっては望ましい状況であるのに対し、設計者にとっては望ましい合意形成の在り方にならないケースもある。
設計者は、合意形成を円滑に進めるために、合意形成の場で提示する設計案以上にさまざまなパターンを検討する必要がある。
また、合意形成の場で提示した複数のデザイン案のうち選ばれるのは多くて2つであり、次の合意形成の場では発注者から選ばれたデザイン案をベースにしたバリエーションを提示する、というプロセスを繰り返す。
用意した提案が採用されず、別の切り口でデザインを検討し直すということも少なくない。
 
建築設計初期段階における合意形成は、このように発注者が求めるデザインの探索が目的であり、最終的に採用する設計方針が見つかるまでは非常にやり直しの多いプロセスである。
当然のことながらこのプロセスには時間の制約がある上、設計のやり直しやバリエーションの作成は非常に時間を要する。
結果として、求められる要求に対し、考えられる時間が少ないというアンバランスな関係となっている。
 
大林組では上記のような課題の解決に向け、建築設計業務をアシストするAI「AiCorb」の開発に2018年から取り組んでいる(図-1)。
本プロジェクトでは、探索できるデザインの幅や深さを広げるために生成AIの活用を検討している。
ここでは、AiCorbの紹介と、建築設計における生成AI活用の課題・展望について述べる。

図-1 AiCorbで生成したファサードデザイン案
図-1 AiCorbで生成したファサードデザイン案

 
 

設計業務における生成AIへの期待

設計業務の分類

設計にはさまざまな段階があり、大きく分けると概念設計・基本設計・実施設計に分類できる。
概念設計では敷地条件などを満たす範囲で、いくつかの設計案を素早く検討し、施主の要求に応える案を提案することが優先される。
ここでは大まかな建物形状、間取り、外観のデザインが要求される。
これに対して、基本設計以降では設計案を一つに絞り込んだ上で徐々に各要素を具体化し、仕様を確定しながら細部の検討へと移る。
また、建築法規や構法、各種製品への知見が重要となり、これらを参照しながら設計案を最終的に施工できる形まで具体化していく。
 

建築設計における生成AI利用の現状

2022年を境に生成AIの利用は急速に一般化し始めており、今では話題にならない日はないほどである。
チャット形式でAIと対話できるChatGPTやテキスト入力に沿った画像を生成できるMidjourneyなどさまざまなサービスが既に提供されており、建築設計でもファサードデザインや設計コンセプトの検討のほか、建築パース作成の補助ツールなどへの応用が進んでいる。
 

現在の生成AIの課題

急激な成長を遂げている生成AIではあるが、現状ではまだ概念設計までの段階が適していると思われる。
その理由として、今のAIはまだ具体的な寸法や形状の扱いに課題があり、さまざまな条件を考慮する必要がある基本設計以降では適用が難しいことが多いことが挙げられる。
また、説明性の面でもまだ課題がある。
ChatGPTをはじめとするLLM(Large Language Models)は会話形式の学習をしているため、説明を求めれば回答として説明文が得られる。
問いの投げかけ方にもよるが理論立てた正確な回答が得られることも多く、一見すればAIが説明性を獲得としたとも解釈できる。
しかしながら、実際のふるまいとしては問いに続くもっともらしい説明文を生成しているに過ぎず、どのような前提知識があり、何の情報を参照した上でその回答が得られたかを正確に把握することは難しい。
 

本プロジェクトにおける生成AI利用

これらの課題は、業務への生成AIの組み込み方によってその影響が大きく変わってくるため、一概に基本設計以降で生成
AIの利用ができないということではない。
また、現状の生成AIでも命令の仕方により得たい回答に近づけることもできるため、今後もさまざまな作業への応用提案が続くと思われる。
 
本プロジェクトではこれまでに述べてきた技術的課題なども考慮した上で、以下の2つの実現に生成AIを活用することが有効であると考えた。
 
①設計者が探索できるデザインの幅と深さを広げる手助け
②合意形成において発注者が言語化できていないデザインの要望を明らかにする手助け

 
上記から、AiCorbを設計者をアシストするツールとして位置付けている。
 
 

建築設計アシストAI「AiCorb」

開発の経緯

大林組は2017年にシリコンバレーにオープンイノベーションを活性化することを目的とした新拠点Obayashi SVVL( Silicon Valley Ventures and Laboratory)を創設し、Obayashi Challengeと称したイベントを実施した
(写真-1)。

写真-1 開発着手前のワークショップ
写真-1 開発着手前のワークショップ

ここでは建設業が解決すべき課題に対して現地スタートアップなどからソリューションを募集し、「AIを活用した自動設計」という課題に対して選ばれたのが本プロジェクトである。
大林組とシリコンバレーを拠点とする研究機関SRI Internationalとの共同開発としてスタートし、実現可能性の検証が終わった段階で建築設計向けWebプラットフォームを提供しているHyparも加わり、3社で共同開発に取り組んできた。
2018年の開発着手時点では生成AIという言葉もなく、「AIは創造性を持つのか」というのが最初の問いであった。
そこで、図-2のような完成形のモックアップを最初に作成しメンバー間で目標を共有した上で、研究開発をスタートした。

図-2 開発着手時に作成したモックアップ
図-2 開発着手時に作成したモックアップ

 

AiCorbの使い方

本プロジェクトでは、AiCorbと名付けた建築設計アシストAIツールを開発している。
AiCorbは2つのAIで構成されており、それぞれファサードデザイン案の検討とそのデザイン案の3Dモデル化する補助を行う。
 
図-3にAiCorbを利用する場合のワークフローを示す。

図-3 AiCorb利用時のワークフロー
図-3 AiCorb利用時のワークフロー

現在構築しているAiCorbを取り入れた設計業務としては、顧客からの要望を受けた後、まずHyparでボリュームスタディーを行う。
これが完了したのち、AiCorbを利用してファサードデザインを検討する。
これを補助するAI(Designer AI)では、スケッチでデザインのベースとなる形状的特徴を指示し、さらにテキストで作風や仕上げなどを指示することで、瞬時にさまざまなファサードデザイン案を生成できる。
図-4にさまざまスケッチ・建物用途に対する生成結果を示す。
意図したデザイン案が得られたところで、3Dモデル化を補助するAI(Modeler AI)で、そのデザインの窓の大きさや配置などの特徴を読み取り、Hypar上のボリュームモデルのファサードに反映する。
これにより、設計者は画像のみではなく3Dモデルとしても設計案を提示できるようになる(図-5)。

図-4 さまざまなスケッチ・建物用途に対する生成バリエーション
図-4 さまざまなスケッチ・建物用途に対する生成バリエーション
図-5 入力画像のファサード特徴を3Dモデルに反映するAIの結果例
図-5 入力画像のファサード特徴を3Dモデルに反映するAIの結果例

 

AiCorbに期待する効果

以上のようなプロセスにより、設計者は効率よくさまざまな案を可視化しながら検証することができ、発注者側も具体的な形として設計案を確認できるようになるため、従来よりも早期に発注者の具体的な要望を引き出すことができる。
これにより、従来ではやり直しにかけていた時間を最終案のブラッシュアップのためのデザイン作業に利用できるようになり、品質の高い設計案の提案につながると考えている。
 
また、多くの生成AIは画像生成までを対象としているが、AiCorbではBIMデータ化までを対象としている。
BIMデータには各部材の具体的な寸法や材質などの情報を付与することができるため、これを利用した各種性能評価などの活用も視野に入れている。
 
 

実用に向けた課題と今後の展望

建築設計利用における生成AIの課題

生成AIは急速な発展を遂げており、今後も継続的な性能向上が実現されていくことが予想される。
しかしながら、汎用的な目的で学習された生成AIでは、建築設計における微細なニュアンスを伝えるのが難しいなどといった課題は今後も残ると考えている。
もちろん、現在公開されているサービスでもアイデア検討は可能であり、既に多数の利用報告がある。
一方で、現在の技術では任意の結果を得るためには非常に多くの試行錯誤が必要である。
画像生成AIはChatGPTなどと同様、入力するプロンプトにより得られる結果が大幅に変わるため、ユーザーは利用するAIごとの生成傾向を探るところからスタートする必要がある。
加えて、ある程度そのAIの特性がつかめたとしても、最終的に得られる結果をユーザーが完全にコントロールすることは困難であり、くじ引きのように運任せとなる側面もある。
この偶発性をセレンディピティとして好意的に見ることもできるが、設計者の創造性を引き出すために利用するのであれば、より意図した通りの生成を可能とした上で偶発性をコントロールできるようにすることが望ましい。
 
また、ある程度コントロール性が高まったとしても、生成AIはこれまでのペンやCADなどといった手の延長にあったツールとは異なる性質を持つ。
実用に向けては、このような生成AIの特性を理解した上で最も高い利用効果が得られるような新たな建築設計のワークフローを確立することも重要だろう。
 

AiCorbの今後の展望

本プロジェクトでは、建築設計特化の生成AIを開発しており、現在のところ特にスケッチからさまざまなデザインを提案することに主眼を置いている。
詳細なスケッチだけではなくラフスケッチからでも設計の意図を読み取れるようにAIを独自に学習したほか、スケッチを忠実に読み取るAIや忠実性よりも生成結果の品質を重視したAIなど複数のAIモデルを用意するなどし、設計者の利用目的に応じた使い方ができるようなツールを目指している。
 
また、建築設計特化ではあるが、適宜汎用型AIの利用も必要だと考える。
汎用型AIと特化型AIのどちらが高い性能が得られるのかについては議論されているところではあるが、建築設計においては歴史・文化・慣習・地域などさまざまな事柄が設計案に影響を与えることから、汎用型AIが持つ知識の上に建築的な専門性を与えるべきである。
このような考えから本プロジェクトでは、汎用型AIの統合も検証しながら開発に取り組んでいる。
 
2023年7月には社内試験利用を開始した。
既に社内で延べ70名以上の設計者がAiCorbを試用しており、現在は課題やニーズの収集を行っている。
先に述べた生成結果のコントロール性は社内試行を通して得られた代表的な要望であり、コントロール性とセレンディピティのトレードオフに関する懸念も一部では見られたものの、総意としては既存をサービス含め、より任意の結果が得やすくなることが望ましいとの意見であった。
今後は収集した意見を反映しながら、早期に実用できるよう改良を続けていく。
 
 

おわりに

ChatGPTなど一部の生成AIは既に企業で活用されるまでになったが、画像生成AIに端を発した高性能な生成AIの一般公開は、始まってからまだ1年程度しかたっていない。
わずか1年で生成AIの実用方法が日々議論されるまでに至ったことは驚異的ではあるが、今後も「従来ではできなかったこと」の常識が次々と覆される状況が続くと予想される。
 
生成AIだけでなく、AIの活用は建設業の生産性向上における中核をなす。
建築設計におけるAI活用はまだ萌芽段階であり、試行錯誤を経て徐々に一般化が進むと思われる。
今後も本プロジェクトを通じ、積極的に試行結果を共有し、建築設計でのAI活用の発展に貢献していきたい所存である。
 
 
 

株式会社大林組 技術研究所 生産技術研究部 副課長
中林 拓馬
設計本部 アジア建築設計 部長
辻 芳人

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



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