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BIMモデルデータ活用- 長谷工版BIMモデルからのコンクリート数量拾い-

2023年9月7日

長谷工版BIMモデルの活用

長谷工では、BIMに取り組み始めた当初から“BIMはCADの代替えではない”という方針で、BIMデータを設計・施工・サプライチェーンで活用することをテーマに取り組んできた。
設計施工比率が高いこともあり、設計施工一貫のASEPL統合モデルで推進してきている。
 
長谷工版BIMのデータ活用例としては、数量や大きさ・形状・位置情報などをBIMモデルからCSVデータで出力しサプライチェーンと共有することで、今まで図面や紙資料で共有していた情報がデジタル化され、チェック業務の削減など業務フロー改革につながっている。
また、紙などの情報は印刷した段階から情報の劣化が始まるがデジタルデータでの共有は常に最新情報を共有することが可能となる。
 
このようなデータ活用ができているのは、設計段階でのBIMモデル作成時に施工段階でどのようにデータ活用するのかを明確にすることで、施工情報をフロントローディングしてBIMモデルを作成しているからである。
どのようなことにデータを活用するかによって、設計段階でのBIMモデルの作成方法が変わる。
設計段階からデータの活用方法を決め、ファミリやBIMモデルの作成に反映することで、施工段階でのデータ活用が可能となることが、設計施工一貫モデルの利点である。
設計図書を作成するためのBIMモデルデータの場合、施工段階では活用できる範囲が限られる。

長谷工版BIMモデル
長谷工版BIMモデル

 
 

施工情報の入ったBIMモデル

設計段階から施工段階で活用できる精度の高いBIMモデルを作成することで、着工前にDynamoによるコンクリート数量拾いが可能となった。
 
今回のコンクリート数量拾いの場合、作業所から“範囲を指定して数量を拾えないか”との依頼を受けて開発に着手した経緯がある。
想定されるのは、施工計画・打設計画策定時やコンクリートの発注時での活用である。
発注で活用する場合、数量拾いと実施数量との差の精度を求められるので、従来の施工図からの数量拾いと同等以上の精度が必須となる。
同時に計画変更などの情報もリアルタイムにBIMモデルに反映する必要がある。
そこで従来行っていたCADでの変更作業を止め、全てBIMモデル上で変更作業を行うことで、リアルタイムの情報をBIMモデルに反映した。
PCaやフカシ・スリーブなどの情報も入力されているため、実際にコンクリートを打設する部位だけの数量の算出が可能となった。

抽出された躯体BIMモデル
抽出された躯体BIMモデル
BIMモデルから出力される躯体施工図
BIMモデルから出力される躯体施工図

 

Dynamoを活用した積算

長谷工版BIMモデルからコンクリート数量拾いに必要な情報だけを表示したBIMモデルビューを作成し、Dynamoで平面図上の範囲の指定と高さを入力するだけで、数十秒後には計算結果が表示され数量拾いが完了する。
作業所所員が施工図から数量を算出していたときには約2時間かかっていた作業が、Dynamoを活用することによりわずか数十秒で完了でき、BIMモデルからコンクリート数量拾いに必要な情報を抽出する作業時間を足しても約30分と、作業時間が75%削減された。

Dynamo イメージ図
Dynamo イメージ図
1フロアの躯体BIMモデル
1フロアの躯体BIMモデル

 
 

実施数量との比較

実際に発注シーンで活用するためには、作業所で実際に使用される数量との差異をいかに少なくできるかが重要となる。
Dynamoを活用したこのシステムは、施工情報(変更やフカシ・スリーブなど)の入力されたBIMモデルからコンクリートを打設する部位のみの詳細な数量を算出するため、実際の施工で使用したコンクリート数量との誤差1%未満を実現している。
変更された情報が正確に反映されているBIMモデルデータを活用できていることも誤差1%未満の実現に大きく寄与している。
また、変更などが入力される前の設計段階でのBIMモデルから集計した数量も、従来の設計図面から積算した結果との誤差1%未満を実現している。
 
 

活用状況

施工計画の際や、作業所でのそれぞれの実務に合わせ、打ち継ぎ位置や高さ方向の範囲を指定して数量拾いを活用している。
活用を始めた頃はBIMモデルから抽出した数値の信頼度が低く、従来どおり施工図から数量を算出していた作業所もあったが、実際に使用される数量との差異が従来のやり方と変わらない、もしくは向上していることを実感できたことで活用するようになっている。
また、精度が高いことで計画どおりに施工ができ品質向上にもつながっているほか、抽出範囲を自由に指定できることで、建物全体の数量やフロアごとの数量など作業に合った数量が短時間で取得できることも、発注などへの活用促進を後押ししている。
また、BIMモデルからデジタルで数量を拾うことで集計ミスなどのヒューマンエラーがないことから、作業精度の向上とともに、コンクリート廃棄量・CO2の削減にも寄与している。

BIMモデル上で数量拾い範囲を選択
BIMモデル上で数量拾い範囲を選択

 
 

まとめ

今回の長谷工版BIMモデルを用いたコンクリート数量拾いが活用できている一番の要因は、BIMモデル自体の精度が高いことが挙げられる。
Dynamoを活用し作業時間の短縮とヒューマンエラーの削減に効果が出てはいるが、何よりも重要なのは施工情報の入った正確なBIMモデルがあり、正確な数量拾いが可能となっている点である。
 
 

今後の展開

設計図書や施工図を出力している長谷工版BIMモデルには、設計や施工に関わるさまざまな情報が入力されている。
ただ図面を出力するツールではなく入力データを効率的に活用することで、コンクリート以外の数量拾いやDynamoなどを活用した単純作業のシステム化・自動化などにより、業務フローを改革していく。
また、長谷工版BIMを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することで、建設作業所における生産性向上と働き方改革を実現していきたい。
 
 
 

株式会社長谷工コーポレーション 建設部門 建設BIM推進部
原 英文

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 



大規模スタジアム現場のBIM活用

2023年9月5日

はじめに

コロナの影響で長らくBIMによる成果の発信がWEB等のデジタル空間での事例説明に限って行われてきた。
2022年11月末都内で開催されたBIMイベントで発信された内容をトピックでお知らせしたいと思う。
BIMを実施することの効果や実現場で行われたBIMマネジメントで工夫した事例が建設会社、設備専門会社で発表された。
今まで当たり前であった対面での発表に際して、実際に携わった人の顔を見て、生の声を聞く機会の大切さを感じた。
CDEによる建設プロセスに起こり得る課題解決、コミュニケーション、承認が元請建設会社のリードにより実施された内容である。
嬉しいことにその場で発信したメンバーの一人として参加させていただいた説明の抜粋をWEB等で公開されているものを集約して報告する。
 
 

全体BIMの体制

全体BIMの体制は、合意形成のためにモデリングをした建築モデル、構造モデル、Revitモデルを基に実施設計モデルを行い、確認申請や現場発行時に主要な設計図をモデルから切り出した。
また、各範囲の複数ファイルをRevitリンクで一つの統合モデルとした。
CDE環境はISO19650に基づき大林組BIM360環境下を利用し、発注者様を含めた多方面関係者間で統合モデルを共有、全体に関わる課題解決、合意形成を行った。

全体 BIM 体制
全体 BIM 体制

 
 

全体工事の把握

スタジアムの工事は、屋根スライド工法の採用やガーダー架構の早期構築など全体工程として複雑に組み合わされている一方、調整工事が場内の至るところで絶えず行われているため、工事動線や重機配置など場内計画と合わせた全体の計画を厳密に調整する必要があった。
そこでRevitの機能により作成した工事のSTEPモデルとArchicadで作成した工事造成地盤モデル、仮設モデルをIFC変換してRevit上で合体、関係者へ共有することで全体の理解と施設ごとの工事検討利用へつなげた。

全体工事 STEP図
全体工事 STEP図
工区割りモデル
工区割りモデル
大規模スタジアム外観パース
大規模スタジアム外観パース

 
 

躯体数量積算

Revitの集計機能を利用し、現場打ちのコンクリートとなるエリアにおいては、設計モデルから工区別のパーツモデルを作成し、工区割の妥当性を検討した。
 
ガーダー架構は、巨大な躯体の短期間施工を実現するために、柱の外殻や梁底を分割PC化し、現場打ちコンクリートと組み合わせた施工計画となっている。
これらのPCをRevit上でパーツ化し、各パーツにPC設置日やコンクリート打設日のパラメータを追加し、管理することで進捗状況の見える化や打設数量の検討に活用した。

基礎版工区別数量
基礎版工区別数量
ガーダー躯体 工事進捗把握
ガーダー躯体 工事進捗把握

 
 

ビジュアル工程管理システム(プロミエ)

固定屋根と可動屋根の鉄骨工事を対象とし、現場施工管理者が出来高を管理するのに、大林組開発システムをプラットフォームとして、情報を共有し、連携管理を試行した。
このシステムは、名前のとおり、計画工程や実際の進捗状況を色別にビジュアル化し確認ができ、タイムライン表示も行うことができる。
これにより、誰でも工程の前倒しや遅延状況の把握が容易になった。
また、実績登録日と製品重量情報から、全体の出来高をグラフ化して表示させる機能があり、システム内で自動表示、出力した情報を詳細グラフ化し活用した。

現場内で使用
現場内で使用
【進捗管理】建方表示
【進捗管理】建方表示
出来高算出機能
出来高算出機能

 
 

システム連携実例

ドローン、点群活用

土木班の土量管理と全体工事状況確認を目的に導入し、生成された現況の地盤点群データをRevit上で計画モデルと重ね合わせ、計画・現況の比較や仮設工事の計画に利用した。
 
実際には、点群の誤差が数cm程度あるため正確な精度管理を求められる検討には向いていなかった。
しかし、広範囲の敷地とモデルの関係を早く把握する手法としては十分な利用価値があり、測量の手軽さと短時間でデータを取得・利用できる点を考えると、タイムリーな検討には、十分生産性の向上ができた。

点群と BIM 重ね合わせ
点群と BIM 重ね合わせ

 
 

4D管理システム

実証実験の取り組みとして、4D施工管理支援システムにBIMを活用した。
BIMを基にした建築物の施工状況に、ドローンの点群データを重ね合わせることで現場の現地盤を再現した。
そのデジタル空間をプラットフォームとし、IoT化した重機の位置や稼働状況、監視カメラの映像、作業員の出面情報など、現場管理に必要な情報を連携させることで、リアルタイムに現場の状況を反映させるものである。
 
デジタル空間上で一元的に管理することで、従来そこに行かなければ分からなかった情報を遠隔から確認でき、施工管理の効率を向上させようと取り組んだ。

リアルタイムに現場稼働状況を反映
リアルタイムに現場稼働状況を反映

 
 

関係各社に関わる課題解決

施工確定には、施工が実現可能な詳細度の作成が必要で、なおかつ、同時並行の限られた時間内で関係各社との課題解決を求められる。
また、当たり前とされた紙資料で確認、改善提案、決定方針の共有は人間の受け止め方による齟齬が発生する。
関係者と関わっていく、モノ決めをCDE活用のBIM360内で解決を試行した。
 
以下に実例を挙げる。

 

意匠と設備

意匠とダクトの納まり確認では、電光掲示版と後ろに設置の設備ダクトをそれぞれに組み込まれている情報を連携しBIM360で確認をした。

 

揚重機検討・搬入計画

Revit建築モデルをCDE・BIM360へリアルタイムで共有していただくことで、信憑性のある建築データを基に、搬入時の揚重機検討、搬入機設置、ルート選定計画が可能となった。
クレーンのパラメータ情報が信憑性のあるデータとなり、確実なものとして荷重計算の課題を解決することで、関係者間で円滑に搬入を計画することが可能であった。

建築データを基に搬入計画
建築データを基に搬入計画

 

お客様と合意形成

テクスチャーというパラメータを用いて、お客様に見せる努力、ISO19650で必要不可欠な承認行為へ活用し、設置をした。
これは、工事関係者のみならず、お客様に十分に理解を得て、モノ決めをする流れもCDE活用だから円滑に行うことが可能であった。

 

海外設計事務所・他拠点との意思伝達

海外の設計事務所や他拠点の意思決定者へBIM360のCDE内でデータを届け、見える化以上の意思決定の活用をした。
BIM360上で差出人や宛先の明確な指摘事項などを用いて、信憑性のあるモデルに対して、リアルタイムで意思伝達をすることで訴求力のある意思決定の促しを実施することが可能となった。

大型機器の外観確認
大型機器の外観確認

 
 

ダクトファブリケーション

新菱冷熱工業㈱は、BIMモデルから部材を抽出し、製造製作・加工データとして工場に渡すファブリケーションに取り組んだ。
工場新設の際、Revitデータをそのまま製作につなげるという仕組みをもたらしたダクト専門工事会社との連携により、現場内で加工・切断をしているダクト業者さんの多くの作業を事前に解決することを可能とした。
 
Revitデータには、高精度の製造情報がデータとして内包され、今まで製造データに手を加えるのに、ダクト1ピース当たり20分程度入力していた労力が一瞬のうちに、加工機までつなげることができる。
協力会社の後工程の作業を解決することで、省力化・省資源化を図り、働き方の転換にもつながった。
また、工場制作率を高めることにより品質の安定化とともに廃棄物抑制にも貢献できた。

ファブリケーションのフロー
ファブリケーションのフロー

 
 

ステータス管理システム

現場施工管理者が管理していく上で、オブジェクトの状態を把握することが大切である。
Revitで作成したBIMモデルに、発注から検査までのステータスにパラメータ付与し、新菱冷熱工業(株)が開発したクラウド上のステータス管理ツールと連携した。
現場施工管理者が直接ステータスを変更したり、進捗写真を遠隔操作担当者へ送ることで、現場内の部材管理を行うことを可能とし、全体の進捗をエリア選択し集計をすることで出来高のパーセンテージを表示し、現場進捗状況の可視化も可能である。
 
形のみならずと、いつ頃までに搬入がされていないといけないのかという、資材フェーズ情報とクラウド上のステータス管理システムを連携し、みんなで把握・管理することで、施工管理作業の利便性を試行することができた。

ステータス管理システム
ステータス管理システム

 
 

風量測定・制気口リスト

モデル内に設置している制気口を利用し、現場内検査として必要不可欠な風量測定の利便性向上を試行した。
設置済みの制気口のファミリに対し、サイズや有効面積、設計風量といった風量測定の指定書式に必要なパラメータを準備し、制気口の集計表を出力。
そのデータを指定書式と連携することで、一つ一つ手作業で行っていた作業を自動化することを行った。
また、この書式を、測定風速の結果として出てきた数値と連携させることで、手入力の手間を省き、人為的ミスも削減することが可能であった。

風量測定のフロー
風量測定のフロー

 
 

課題と対策

今回の大規模スタジアム建設のBIM活用から生まれた今後の課題と対策について述べる。
 
BIM人材確保の課題として、マネジメント、モデリング、利用者ともに不足していると感じられる。
この課題には、各々のスキルアップと、プロジェクトごとに適切な要因配置をしていく必要がある。
 
次に、大規模データの扱いの課題としては、ハンドリングの悪さや共有しづらい面が多くの場面で生じ、対処できるよう工夫を迫られた。
今後は、データの軽量化、ハードソフトの整備が強化される
ことを期待しつつ、最適なデータを組み合わせて運用する手法を初期段階でにらむ工夫が必要であると感じる。
 
最後に、システム一元化としては、利用する側がどう利用して生産性向上につなげられるか具体的なビジョンをさらに明確にする必要があり、利用者意見を反映したシステムDXの開発推進がさらに求められると思われる。
 
 

今後への期待

全体に関わる課題をCDE活用し解決することに関して、ISO19650もしくはEIRに準ずるBIMデータ利用環境により、課題解決を軌道に乗せていきたいと期待する。
 
次に、ファブリケーション、プレファブ、オフサイト施工を通して現場作業を減らす動きがある中、どのように行うのか。
情報の正確さ、信憑性を高める管理手法体制を整備していくことで現場の生産性向上へつながることに期待する。
 
最後に、ステータス・出来高管理をBIM情報で行うことに関して、正確なステータス情報の共有があることで、遅れや不具合が大きな課題につながることを未然に防ぎ、関係者間の影響低減につながると期待を込めている。

課題と対策

 
 

おわりに

元請建設会社である(株)大林組が準備したCDEの環境が全体最適をもたらし、関係者間で利用をしていこうと提案し、活用していった。
このことが今回の大規模スタジアム建設におけるBIM運用のポイントであり、重要であったと感じる。
 
現場はリアルな空間での出来事である。
リアルな事例説明に接して、使い分けバランスが大切であることを再確認した。
 
 
参考文献:施工BIMのインパクト2022
 
 
 

BIMチーム 
谷内 秀敬

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 



BIMによる設計と積算の連携へ組織横断的なチームで挑む!

株式会社アーキテクト・ディベロッパー(architect developer,Inc.)

創業2008年10月1日。
アパート・マンションなど集合住宅の企画・立案から設計、施工、その後の運営、物件管理、コンサルティングまで賃貸用集合住宅に関わる全機能を備えた総合力で成長を続ける。
売上高は450億8,300万円(2022年3月期)。
また、2022年3月末時点で管理戸数3,436棟・41,565戸の管理実績を誇り、管理物件における入居率は99.2%で実に10年連続99%以上という驚異的な割合を維持している。
 
 

全社的なBIMを視野に

これは、BIM導入と同時に積算との連携をワンモデルで成功させた、ある会社の挑戦の物語だ。
 
その会社の名は、株式会社アーキテクト・ディベロッパー。
同社がチーム編成など約3カ月の準備期間を経てBIM導入のための検証プロジェクトをスタートさせたのは2022年1月。
ただ、これは単に設計にBIMを導入するという話ではなかった。
 
賃貸用集合住宅に関わる全領域を手掛ける同社は、最終目標を“設計と積算の連携”をワンモデルで実現した上で、全部門を一気通貫させたBIMプロセスの確立に置いたのだった。
具体的に検証プロジェクトに挑むチームの編成にも、目標を全うする強い意志が現れていた。
本プロジェクトを現場で指揮した建築本部設計開発部設計システム課の課長・石井宗弘氏は次のように語った。
 
「最終目標を見据えて、組織横断的に各部門の代表を入れて編成しました。もちろん、当初は設計と原価(積算)の2部門がメインになるため、その他の部門はオブザーバー的な参加になりましたが、全社的な活用に向けてBIM知識の浸透と理解を全部門に広げる目的があったからです。社員が同じ方向を向くことが重要でした」
 
このプロジェクトには、BIMソフト「Archicad 」上で動くアドオンソフト「BI For ArchiCAD」が重要な役割を担ったが、本ソフトウエアを擁してBIMの活用スタイルを提案する株式会社U’sFactory(ユーズファクトリ)もメンバーの一員として参画した。
通常、コンサルタントとして指導する側にある同社を各部門の代表と同列にしたチーム編成に、アーキテクト・ディベロッパー自身の、並々ならぬ変革への意志が感じられた(図-1)。

図-1 BIM検証プロジェクトチーム
図-1 BIM検証プロジェクトチーム

 
 

ワンモデルでの積算

検証プロジェクトの第一関門は3月の役員プレゼンだった。
プロジェクトを本格的に始動させるためには、その大前提であったワンモデルでの“設計と積算の連動”が、BIMで可能なことを役員に納得してもらうことが第一だった。
同社ではこれまで原価計算にExcelを使っていたが、役員たちが見守る中、設計モデルのデータは、Excelの積算フォーマットに見事に出力された。
ここに本プロジェクトは、実用化に向けた本格的な検証段階に入ったのである(図-2)。
 
一般的にBIMによる設計と積算の連携は、BIMツールによる設計モデルを作成した後で別の積算ソフトを使って行われるが、これでは真の意味の連携とは言えない。
なぜなら積算担当者による代用入力が必須な上、手拾いでの入力、単価入力などの作業が避けられず、非効率なだけでなく誤入力や重複入力など人為的ミスが発生しやすく手戻りも多いからだ。
 
従って、積算精度は担当者の力量に左右されてしまう。
同社の場合、設計と積算のズレは、利益率低下に直結する。
石井氏は、同社にとっての設計と積算の連携の意味をこう語る。
 
「弊社は、一棟の単価が約1.0億~1.2億円の物件が多く、適正な利益を得るためには、積算額の誤差を最小限に抑える努力が欠かせません。従って、積算の精度向上は社内でも以前から課題となっていました」
そうした社内の意識を、BIMの導入とともに一気に次に進める契機となったのは、一人の新入社員の「BIMというソフトがありますよ」という一言だった。
この声を受けた設計部は、すぐに部内プレゼンを行いBIMの大いなる可能性を感じた。
そして設計部発による全社的なプロジェクトが始まったのだった(図-3)。

図-2 BIM導入スケジュール
図-2 BIM導入スケジュール
図-3 ワンモデルの構築とBIMプロセスの確立
図-3 ワンモデルの構築とBIMプロセスの確立

 
 

設計データの情報不足

BIM導入のための検証プロジェクトは、第1から第3までの3フェーズで行われた。
第1フェーズでは、敢えて設計部門と原価(積算)部門それぞれに別々のモデルを作成した。
文字通りゼロからのBIM導入で当たったため、一般的に行われている状況を再現するプロセスとなったが、設計部門が一つのデータであったのに対し、原価部門は躯体・内部部屋・外面仕上げの3データとなった(図-4)。

図-4 設計/原価 各部門による検証
図-4 設計/原価 各部門による検証

当然ながらデータ不整合、入力手間、部材重複登録などが生じ、むしろこれまでより人工がかかるという事態になった。
このとき設計部門が検証用に選んだのは、同社の鉄骨造(パネル工法)のブランド「逸鉄/ITTETSU」の既存物件だ。
決して容易ではないタイプを選んだ効果を石井氏はこう振り返る。
 
「構造が複雑な鉄骨造でしかも60分準耐火という3階建の集合住宅です。設計面では手間がかかりましたが、むしろこの構造でBIM導入をスタートできたことで、結果的にはその後の自信につながりました」
 
6月には第2フェーズに入った。
ここでは設計モデルのみでどこまで積算できるかをテストした。
結果は発注項目数184に対し積算出力できた項目がわずか11、全体の6%に過ぎなかった(図-5)。
 
「クロスや長尺シートなど、この11項目はたまたま偶然出た、という感じです。実は『Archicad』を入れてモデルを作りさえすれば積算できると思っていたのですが、できなくて当然でしたね。積算に必要な情報が図面に書かれていなかったのです。もっと細かな箇所まで作り込んでいく必要があったと痛感しました」
石井氏は、目標を見据えた実質的なスタートである第2フェーズの展開をこう省みた。
そして、まさにこの言葉に、ワンモデルでの“設計と積算の連携”成功のキーがあったのだ。

図-5 設計/原価検証結果図
図-5 設計/原価検証結果図

 
 

積算を考えた設計モデル

アーキテクト・ディベロッパーのBIM導入プロジェクトは、積算精度の結果を受けて第3フェーズに入っていった。
ここでの目標は、石井氏の発言とも結び付く“積算を考慮した設計モデル”の作成だった。
こうしてワンモデルでの積算精度を上げていくチャレンジが、繰り返されていった。
しかし、設計と積算の連動はなかなかスムーズに進まなかった。
 
「『Archicad』で複雑な断面形状を作成してオブジェクト配置しても、図面表現は満足できるクオリティなのですが、積算と連動できない。そんなケースが数多く発生しました。その都度、ユーズファクトリさんに相談し、積算用の専用オブジェを作成してもらいました。例えば一つ配置するだけで矩計図の表現が可能になる折板屋根やサイディングなどです。
内部で言えば、積算を考えなければ表現する必要のない巾木や壁紙のオブジェクトなども作成されました。これらによってパーツを一つひとつ描く必要がなくなり、手間も削減されました」
 
石井氏がこう語る専用オブジェクトとは、例えば設計者が床の形を描きさえすれば、必要に応じて積算に必要な部材がセットされたオブジェクトが自動発生するイメージだ。
第3フェーズでは、積算との連携をスムーズにするため、こうした専用オブジェクトが次々に作られていった(図-6)。
 
そのための意見交換を円滑にするために、プロジェクトチームの定例会議は月2回、不定期の個別打合せは半年で15回というペースで実施され、設計部側からの要望に対する検討が行われた。
ユーズファクトリには施工マニュアルも手渡された。
このほかExcel上で質疑応答が行える「質疑相談シート」をCloudを用いてメンバーで共有し、出来上がったオブジェクトの不具合にはすぐに修正依頼が寄せられた。
そうした要望の数は週50件にも上り、ユーズファクトリ側の対応状況は定例会議で改めて共有された。
トライ&エラーの繰り返しは、BIMのみで積算できる割合を徐々に上げていった(図-7)。

図-6 一枚の屋根を配置すれば積算に必要な情報を持つオブジェクトが自動発生する
図-6 一枚の屋根を配置すれば積算に必要な
情報を持つオブジェクトが自動発生する
図-7 トライアンドエラーにより改良されたオブジェクト等
図-7 トライアンドエラーにより改良されたオブジェクト等

 
 

縦割り体制が変わる

第2フェーズで全体の6%に過ぎなかった積算出力項目数は、10月の時点で184の発注項目数に対し積算出力項目
137と全体の74.5%に上昇、実用化への目処が立ちつつあった(図-8)。
こうして本プロジェクトが当初の目標に手が届く位置になった背景には、第3フェーズで述べたような各担当者の努力の積み重ねがあった。
しかし、それ以前に根本的な成功要因を挙げるとすれば、最終ゴールに「全部門を一気通貫させたBIMプロセスの確立」を置いて部門間の垣根を壊すことを試みたプロジェクトの精神だったと言えよう。
同社には「UP(アップ)」という誰でも提案できる公募制度がある。
これに象徴されるオープンな社風が本プロジェクトを押し進めたのは間違いない。
 
BIMを導入しても、なかなか社内に浸透しない、という声をよく聞く。
それは、言葉を変えれば縦割り体制が邪魔して組織を挙げてのムーブメントにつながりづらいからだ。
アーキテクト・ディベロッパーでは、組織横断的なプロジェクトの精神を理解することで現場スタッフの考え方も変わっていった。
設計図書の作成が仕事だと思っていた設計システム課の担当者も「積算に配慮した図面を書けば、原価に直結する」ことを意識し始めた。
また、2次元上で自分が描いた線が実際の建築でどう納まるかを、BIMの3Dモデルを通し自らの目で確かめることで積算への理解はさらに進んだ。
全部門を一気通貫させるという最終ゴールに向けても、社内の関心は徐々に高まっている(図-9)。
 
「営業部門から『BIMx』を使ってプレゼンテーションしたいという要望が寄せられています。また、“Webでの内覧など物件を借りたい人向けに家具が置かれた状態を3Dで見せられたら”というアイデアも出ていますね。積算との連携は実用化まであと一歩ですが、来年度にはBIMによるワンモデルでの意匠設計と積算の本格稼働や、弊社の他の工法での検証も進めたいと思っています」
 
石井氏はプロジェクトの進行に自信をのぞかせながら、実用化の先にある組織のさらなる活性化も視野に入れているように見えた。

図-8 設計/原価検証結果
図-8 設計/原価検証結果
図-9 積算を考えた設計モデル
図-9 積算を考えた設計モデル

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 



設計初期段階でのコストマネジメントに「COST-CLIP」を-BIM概算ツールに求められる役割とは?-

はじめに

株式会社日積サーベイでは、BIM活用積算の普及を目指し、BIM対応建築積算システム「ΗΕΛΙΟΣ(ヘリオス)」を開発、提供しており、2023年1月には、新3Dビューワ機能などを搭載した最新版「ΗΕΛΙΟΣ2023」をリリースした(図-1)。
このΗΕΛΙΟΣは、BIMソフトとの連携として、2011年にはIFCファイルを中間ファイルとした「IFC連携」を、2016年にはBIMソフトのデータを直接ΗΕΛΙΟΣのデータ形式に変換する「ダイレクト連携」を実現した。
 
これらのBIM連携機能をリリースして以降、多くの方々に活用いただいており、弊社でもBIMを活用した積算業務を行っている。
 
そして、2022年1月には、BIMソフト上で利用可能なアドイン概算システム「COST-CLIP(コストクリップ)」の初弾となるバージョン1.0をリリースし、同年8月には機能追加版となるバージョン1.5をリリースした。
さらに、2023年2月にはバージョン2.0をリリースする。
 
今回は「COST-CLIP」に求められているBIM概算ツールとしての役割に触れた上で、新バージョン(Ver.2.0)の主要機能を紹介する。

図-1 ΗΕΛΙΟΣ 2023
図-1 ΗΕΛΙΟΣ 2023

 
 

「COST-CLIP」の概要

「COST-CLIP」は「ΗΕΛΙΟΣ」のBIM連携機能をリリース以降、多くの方々から要望いただいた「設計初期段階のBIMモデルの活用の幅を広げたい」、「BIMモデルによって概算の効率化を図りたい」、「コストを意識したBIM設計を推進したい」などといったニーズに対応するべく開発、提供しているシステムである。
 
また、「COST-CLIP」は、国内でよく使われている「Archicad(グラフィソフトジャパン株式会社)」や「Revi(tオートデスク株式会社)」上で動作し、設計初期段階の概算コストが把握できる。
これにより、設計プランを変更した際にも、リアルタイムに、建築工事全体の概算コストを把握できる。
 
企画段階からの利用に配慮し、最低限必要なBIMモデルを「部屋」のみとし、仕上情報の取得は表計算ソフトで作成した「仕上表」にも対応している。
また、ΗΕΛΙΟΣでのノウハウを生かし、「帳票出力」や「数量集計」に対応し、表計算ソフトで作成した「単価表」により、金額まで埋め込まれた、部分別内訳書が作成できる。
 
 

BIM概算ツールの役割

BIMモデルを活用して概算するために最低限求められる役割は大きく4つあると考えている(図-2)。

図-2 BIM概算ツールの役割
図-2 BIM概算ツールの役割

 
そのうち、役割1.「BIMモデルの数量算出」は、BIMソフトが標準装備する「数量集計機能」でも対応可能である。
一方で、役割2.~4.は、BIMソフト単体では対応が難しい。
 
 

役割1.「BIMモデルの数量算出」

BIMモデルに描かれた数量を単に集計するだけでなく、“概算数量”として集計することが求められる。
 
「COST-CLIP」では、一般的な概算で用いられる「部分別集計」に対応している。
 

役割2.「BIMにない数量算出」

概算に必要な部材が、必ずしもBIMモデルに描かれているとは限らない。
しかし、描かれていない部材(例えば、仮設、構造体や雑物)も、概算上無視できない。
そのため、BIMモデルに描かれていない数量も算出できることが求められる。
 
「COST-CLIP」では、BIMにない概算項目の「自動計上」機能の追加で、各種床面積やBIMモデルからの数量をベースに直接仮設、構造体や雑物を含む、建築工事全体の概算コスト算出に対応している(図-3)。

図-3 COST-CLIP「自動計上」
図-3 COST-CLIP「自動計上」

 

役割3.「単価データの連携」

単価情報は、理論的にはBIMモデルの各部材に入力できるが、現実的な話ではない。
単価は永久に同じではないからである。
そのため、単価の変動に対応できることが求められる。
 
「COST-CLIP」では、表計算ソフトで作成した「単価表」との連携に対応している。

 

役割4.「算出したコストのチェック」

BIM概算ツールには、単に概算コストを算出するだけでなく、算出した概算コストの妥当性や、設計変更の必要性をチェックしやすいことが求められる。
 
「COST-CLIP」では、二次利用(編集)が容易でシンプルな概算表である「総括表」出力機能の追加により、数量やコストのチェック、検討をしやすくしている(図-4)。

図-4 COST-CLIP「総括表」
図-4 COST-CLIP「総括表」

 
 

「COST-CLIP」の深化

「COST-CLIP」は、BIM概算ツールの役割を果たすことを重視し、BIMソフトの標準機能にはない付加価値の提供を心掛け、日々機能改良を進めている。
新バージョン(Ver.2.0)でも、ユーザーからの意見を多く反映しながら、BIM概算ツールとしての役割を深化させている。
ここでは、主要な2つの機能について紹介する。
 

1.「BIMモデルの数量算出」の深化

-全てのBIM部材への対応-
前バージョン(Ver.1.5)までは、意匠BIMモデルの主要部材である「部屋」、「壁」、「建具」に特化して対応していたが、新バージョン(Ver.2.0)ではBIMモデルに描かれた全ての部材(例えば、構造体や雑物)の数量算出に対応した。
 
BIMモデル化されたものは、そのまま全て計上できるようになったことで、コスト担当者だけではなく、設計者にとっても、より概算が「見える化」しやすくなった。
 

2.「BIMにない数量算出」の深化

-構造計算ソフトの数量対応-
新バージョン(Ver.2.0)では、構造計算ソフト(Super Build/SS7など)から出力した数量データについて、「COST-CLIP」への取り込み、集計に対応した。
これによって、設計段階やBIMモデルの入力状況に応じて、構造体の数量の算出を、以下の3つから選択できるように
なった。
 
①各種床面積ベースの「自動計上」
②構造計算ソフトの数量データ活用
③構造BIMモデルからの数量算出
 
 

今後の展開

2019年に国土交通省が設置した「建築BIM推進会議」では、BIMを活用した概算やコストマネジメントが、主要なテーマに位置付けられており、「BIM活用概算/積算」の流れは広まりつつある。
 
リリースして2年目を迎える「COST-CLIP」も、この流れをさらに加速させる存在となるべく、今後もユーザーに積極的なヒアリング調査や提案を行っていく。
特に、リアルタイムでコストの変化を確認できる機能や、「積算資料(経済調査会)」等の刊行物の単価データを連動できる機能など、さまざまな機能追加や改良を加えることで、よりいっそうBIM概算ツールの役割を担っていけるよう取り組んでいくことを約束する(図-5)。

図-5 COST-CLIPの今後

 

会社概要

会社名:株式会社日積サーベイ
所在地:大阪市中央区大手前1-4-12大阪天満橋ビル8F
創業:1964年(昭和39年)10月URL:https://www.nisseki-survey.co.jp/
資本金:2,000万円
従業員数:43名(2022年4月現在)
主な事業内容:建築積算、コスト算出、コンピューターシステムの開発
 
 
 

株式会社日積サーベイ BIMソリューション部
高橋 肇宏

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 



地方発!BIM/CIM・ICTチャレンジ事例 3Dモデル活用と3次元設計のススメ、特殊条件下でのICT活用

2023年9月1日

工事特性として3D活用

i-Construction施策により、3Dモデルを活用していくことは、これからの土木技術者にとって必要なスキルである。
 
今から10年ほど前、弊社が受注した宮崎県発注の耳川河口部護岸工事は、工事特性として地元住民の合意形成を図りながら施工していくことをプロセスとして組み込まれた工事であった。
しかし、施工前に工事の完成形をイメージすることは地元住民の方々には容易なことではないため、工事の説明手段として3DCADを使って現場をモデリングすることがよいのではないかと考え、当時インターネット上で無料配布されていたSketchUPというアプリを使い現場を3Dモデリングしたことが3D活用を始めたきっかけであった。

護岸工事

 
 

3Dモデルを使った施工管理の魅力

3Dモデル制作は、自己学習の範囲で帰宅後の夜2~3時間程度、週末は1日中没頭し10日~1カ月程かけて制作していたが、これが全く苦ではなかった。
逆に、PC上で現場が出来上がっていくことが楽しくて仕方がないという状況であり、現在まで10年間で10現場の3Dモデルを制作した。
 
これまでの実績を踏まえ既出とは思うが、メリットをいくつか挙げてみたい。
 
①自分自身の理解が深まる。
②利害関係者(地元住民・発注者)との協議などにおける合意形成が容易。
③設計図書の照査が容易。特に、異なる構造物の整合性が明確に判別できる。

例:L型擁壁と軽量盛土の接続部を協議
例:L型擁壁と軽量盛土の接続部を協議

④施工計画書における説明図として活用。

橋梁耐震補強工事
橋梁耐震補強工事
橋梁耐震補強工事

⑤完成予想図として活用

完成予想図として活用

⑥新工法の説明看板に活用

新工法の説明看板に活用

このように良いことずくめな3Dモデル活用であるがいくつか課題もあると考える。
 
 

ラーンカルチャー・学ぶ文化

全社員の活用促進につなげていく方法をどうするかが課題の一つである。
 
弊社には、若手社員が中心となって実施している「旭ドボク塾」という勉強会がある。
 
社員は県内各地の現場に配属されているため、誰でも気軽に参加できるように短時間で毎週火曜日の17時05分~20分間とし、WEBで実施している。
 
勉強会のテーマは多岐にわたり、従来技術や新技術、BIM/CIMやICT施工と仕事に関することはなんでもメニューに取り上げ、お互いに技術研鑽をしている。
1年ほど前になるが、3Dモデル制作に長けた先輩社員を講師として1カ月(4週)の3Dモデル制作訓練を行った。
3Dモデル制作にはそれなりのスキルを要し、まとまった時間も必要となるため敬遠している社員がいるように感じられた。
しかし旭ドボク塾での操作訓練を経て3Dモデル制作ができる人が増えた。
 
目標は全社員活用である(写真-1)。

写真-1
写真-1

 
 

3Dモデルをもっと活用

せっかく時間をかけ苦労して制作した 3Dモデル。
外部の人への説明に活用してこそ生きると考える。
 
その都度PCを開いて3Dモデルを起動してもよいが、世の中には3Dプリンターという画期的な機器があるので使わない手はないだろう。
 
工事目的物は分かりやすく!もっと簡単に!を追求した方が、利害関係者への説明が容易となり、最終的には自分のためになるのである。
 
 

3D 模型活用事例

橋梁耐震補強工事における活用事例

耐震補強用の部材がどのような形状をしていて、どのように取り付くのか、模型化することでよく分かる。
部材の寸法違いや形状違いがあった場合は当然のことながら模型の段階で設置できないことが分かる。
 
データ変換は必要だが制作した3Dモデルを3Dプリンターで流用可能なので便利である。

 

砂防堰堤工事における活用事例

全国ニュースにも取り上げられた台風災害の発生した場所で、県内の注目度が高く、無人化施工の取り組みも実施していることから外部の人が多く訪れる現場であった。
このため現場説明を行う際に3Dプリンター模型による説明で現場をイメージしやすくした。
 
特に、発注者による現場視察7回、現場見学会は、県内の建設会社、リース会社、土木事務所職員、地元の工業高校土木科生徒と4回の現場見学会を実施し説明用に大いに活用できた。

 
 

無人化施工への挑戦

宮崎県椎葉村にて2020年9月7日台風 10号により地元建設会社が被災した箇所に砂防堰堤工が計画された工事で、砂防堰堤背面に直高200mの崩壊法面を背負う環境下において施工される工事である。
 
この条件下、当初設計段階で無人化バッ クホウによる砂防掘削作業が計画されていた(写真-2)。
 
弊社として初めての施工方法であったが、掘削工事において人を介在しないで施工できるのであればと、さらなる安全対策を協議し工事を開始した。

写真-2
写真-2

 
 

3D設計のススメ

掘削に際し事前に砂防堰堤工および砂防背面の掘削形状を3Dモデル化。
その結果、左下のような複雑な形状であることが発覚。
また、現地土質調査の結果、背面の掘削勾配が3分勾配⇒6分勾配へと変更となり、それに伴い砂防堰堤本体形状も変更になった。
この機会に掘削形状をシンプルな形状へと弊社で3D設計し発注者に提案した(図-1)。

図-1
図-1

 
 

安全は全てに優先する

私自身、現場の施工効率をアップさせるには、安全施工であることは必須条件だと考えている。
 
掘削工事に無人化バックホウを使い、人を介在させずに施工を進めるという基本方針を厳格に履行することがこの工事の本質である。
 
しかし、掘削形状がシンプルになり丁張数が大幅に減ったとはいえ、丁張2本の設置に半日を要するような環境では、作業員が現場内に常時とどまる状況となるため、危険リスクは高いままだ(図-2、写真-3)。

図-2
図-2
写真-3
写真-3

 
 

現代の土木工事はICT施工

i-Constructionの施策に従いICTを活用すれば、安全施工が可能ではと考えたが、現在の市販技術ではICTモニターは車載式のため、無人化バックホウ技術とトレードオフの関係が成立する。
 
土砂崩壊地における土砂撤去などの単純作業であれば丁張など必要ないため無条件で無人化バックホウによる無人化が実現できるが、建設工事での無人化施工はICTと組み合わせなければ本当の無人化施工は不可能だと気付いた。
 
木杭、ぬき板、大ハンマー、削岩機などを持って危険な場所を歩かせられないし、自分も歩きたくない。
 
何とかしてバックホウの外でICT技術が使えないか試行錯誤が始まった。

 
 

試行錯誤の遠隔ICT

キャビン内のモニターを外部のタブレットで見ることができれば、遠隔でICTが可能ではないかと考え、カメラを設置しモニターに照準を合わせ、インターネット回線を使用してiPadで見られるようにした(写真-4)。

写真-4-1
写真-4-2

写真-4
 
しかし、以下の問題点が確認された。
 
①山間部のためインターネット環境が悪く映像遅延が発生。
最悪フリーズして固まる。
②施工中のバックホウ振動により、カメラが動き、モニターを30分以上捉えられない。
固定方法を工夫したが解決できず、カメラ調整のため現場内に立ち入らなければならなかった。
 
 

どこでもICT誕生

試行錯誤を繰り返しながら、弊社とタッグを組んで無人化施工に協力してくれた㈱アクティオへ技術開発要請をしており、一緒に検討を行っていたが、ついに外部タブレットにICT操作モニターを映し出すことに成功した。
 
この現場で生まれたこの技術を「どこでもICT」と名付けさせていただいた。
 
これにより、本当の意味での無人化施工が実現した(写真-5、図-3)。

写真-5
写真-5
図-3
図-3

 
 

創意工夫に終わりなし

砂防堰堤の掘削工事は、完全無人化を実現し、災害ゼロから危険ゼロを達成し無事完了した。
 
文中にも書いたが、「安全は全てに優先」とは安全施工こそが生産性向上のカギであると考えているからである。
安全対策に関する創意工夫に終わりなし。
乾いた雑巾をさらに絞って水を絞り出すが如く、知恵を絞ってさらなる挑戦をしていきたい。
 
 
 

旭建設株式会社 工事統轄部門 土木部長
河野 義博

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2023


 



 


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