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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

AutoCADの互換CAD複数の製品からベストの選択 現在、IJCAD 170ライセンスが稼働中。

2017年8月4日

 
奥村組では2014年以降、インテリジャパン製のDWG互換CAD「IJCAD」を導入している。作図ソフトの維持管理を検討する中、2次元CADはDWG互換CADを利用していくことが同社のコスト削減・業務効率化につながると判断。IJCADは当初10ライセンスでスタートし、2016年11月現在、約170ライセンスとなっている。
 

DWG互換CAD導入に足掛け3年の検討期間を要した。「ここまでの 道のりは決して平坦ではありませんでした」 (右:生産技術課長 吉原 宏和氏 左:課長代理 平井 崇氏)




 
 

施工BIMモデル (奥村組 九州支店)




 

施工CIMモデル (阪神電鉄 青木駅付近高架橋)ステップ




 
 

免震技術のパイオニア トンネル工事のフロントランナー

奥村組は「堅実経営」、「誠実施工」を社是に創業来(1907年創業)、関西はもとより日本の建築・土木を牽引、免震技術やトンネル施工技術に強みを持つ準大手ゼネコンである。建築では今ほど関心が高くなかった1980年代から免震技術の研究を開始し、日本初の実用免震ビルを設計・施工するなど『免震のパイオニア』として名高い。土木においては、得意とするトンネル工事の中でもシールド工事に強みを発揮、従来の2倍以上の施工速度を可能にした六角形の”ハニカムセグメント”を用いた施工法を開発するなどトンネル工事のフロントランナーとしての信頼は厚い。また、昨今では、建設業界において、建設現場における生産性を向上させ、魅力ある建設現場を目指す取り組み“i-Construction(アイ・コンストラクション)”が推し進められる中、同社では、現場におけるスマートデバイスの活用、CIM・BIMの導入加速などICT(情報通信技術)を積極的に活用して生産性向上につなげる取り組みにも力を入れている。同社のICT推進の中心的な役割を担う管理本部情報システム部の生産技術課長 吉原宏和氏と課長代理 平井崇氏にDWG互換CAD導入の経緯と効果について聞いた。
 
 

必要に迫られDWG互換CADを検討

同社のDWG互換CADの導入は2012年に遡る。当時、2次元CADの大半がAutoCAD。AutoCADから互換CADに変える必要性はあったのだろうか。当時の状況を吉原課長は、「当時、ネットワークライセンス版(以下NL 版)の” Aut oC A D C i v i l 3D 2006″を60 ライセンスと、スタンドアロン版の”AutoCAD LT”を数百ライセンス利用していました。AutoCAD LTにはNL版がなく、利用する全てのパソコンにAutoCAD LTのライセンスを購入しインストールしていました」と話す。利用者全てが常時AutoCADを利用しているわけではなく、スタンドアロン版のAutoCAD LTでは利用効率も低く、また、管理面でも支障が出ていた。
 
「ライセンス管理は各支社店の管理者が行っていましたが、利用する作業所の開設・閉所があり、利用者の異動やパソコンの置換えも多く、バージョンやライセンス管理は、非常に手間もかかり煩わしいものでした」(平井課長代理) 互換CADのウリの一つがイニシャルコスト、ランニングコスト、いずれについてもAutoCADより廉価であることだ。また、NL版であれば、利用状況の把握・管理が容易に行え、システム管理そのものの簡素化につながる。もう一つ、DWG互換CAD移行へと後押しされたのが、WindowsXPからWindows7へのOSバージョンの変更である。「AutoCAD Civil 3D 2006 はXPまでの対応でWin7での動作保障がなく、バージョンアップには多額の費用が必要でした。XPのサポートが終了となる2014 年4 月までにWin7 への対応を考える必要がありました」(平井課長代理) 今も昔もOSのバージョン変更は、企業にとって大きな負担となる。ここがスムーズに運ばなければ事業にもマイナスだ。同社では、”AutoCAD LT”、”AutoCAD Civil3D 2006″のいずれについてもDWG互換CADへ移行すべきとの機運は高まっていった。
 

「われわれの業務においては生産性向上が 大きな課題となっています。そのためにも DWG互換CADへの移行は欠かせないもの でした」(吉原課長)




 
 

AutoCADと同等なDWG互換CADは存在するのか?

「互換CADはいくつかありましたが、われわれが必要としたのはAutoCADに慣れた利用者がストレスなく作業ができることです。業界ですでにある程度の評価を得ていた数社のソフトを検討しました」互換CADは廉価であるがゆえに機能性だけを見ればAutoCADより劣ることは否めない。しかしながら、現業部門で使えないものを導入できない。必要とされる機能・性能・操作性全てを備えた互換CADを選択する必要があった。「情報システム部で検討を開始し、候補のソフトを現業部門の利用者に試験的に使ってもらいました。まずAutoCADとの相違点を明らかにし、業務への影響がないか、レスポンスや操作性、印刷設定など機能を比較検討しました。検討を開始した頃は、どの互換CADも現業部門から必要とされるレベルには達していないというものでした」(平井課長代理)「AutoCADの機能はかなり成熟しており、多種多様な機能が搭載されていますが、利用者の多い施工部門ではそれら全ての機能が必要とされていたわけではありませんでした。そこで必要な機能、操作感など限定して検討を進めていきました」(吉原課長)
 
ライセンス管理で必要な適正数の把握についても検討が行われた。「ネットワークライセンスの適正数を予測するのも大変でした。想定の利用者は約1,000人。これらの利用者が待機なくCADを動かせるにはどの程度のライセンスが必要なのか。ライセンス数の想定は思った以上に難しい作業でした」(平井課長代理)
 
 

最初の互換CAD導入はB社製のCADに

このような中、2012年にAutoCADの機能には及ばないものの、施工部門で必要となる最小限の機能を備えていると評価されたB社製互換CAD(以下BCAD)が30ライセンス導入され、AutoCADから互換CADへの移行が開始された。評価の結果、IJCADは要求レベルに達しておらず落選していた。BCADはその後機能的に大幅に改善されることはなかったものの2014年1月には70ライセンスとなっていたが、同社はバージョンアップの都度、粘り強くIJCADを紹介してきた。「2013年にIJCADの新バージョン2013を紹介されましたが、すでにBCADを使っていたのであまり興味はありませんでした。過去3度、バージョンアップごとに試してはいましたが、満足いくものでなかったので、”2013″もあまり期待していませんでした」ところが以前に比べ”IJCAD 2013″の操作性が格段に向上していた。「これには驚きました。AutoCADとほぼ同様の操作で作図でき、基本的な機能は備わっていたのです」(平井課長代理)
 
また、当時のBCADのライセンス管理では、ライセンスを自動解放できないという問題点があった。作業所などでは作図中に急な業務が入り、CADソフトを起ち上げたままで無駄にライセンスを専有することがしばしばあり、一定時間操作のない場合、自動的にライセンスを開放する機能が必要であった。「B社には以前からその要望を伝えていましたがなかなか実現されませんでした。ところがIJCADではすぐに対応するとの回答をもらいました。CADソフトの良し悪しはもちろん大切ですが、迅速な対応、スピード感もビジネスには重要なものです」(吉原課長)
 

「IJCAD 2013がAutoCADと同じ感覚で 業務に利用できるレベルに達したと感じまし た」(平井課長代理)




 
 

IJCADへの乗り換えは、間違いではなかった

現在、導入から2 年余りでIJCADのライセンス数は170を超えた。他社製互換CADとの入れ替えとともに、多くの利用者からAutoCADと同じレベルの操作性が好評を得た。「導入以前からの経過は決して平たんな道のりではありませんでした。ただ、満足いかないときでもシステムメトリックス社は何度も何度も機能・操作性アップにトライしてくれました。熱意は強く感じましたね」(吉原課長)
 
IJCADを導入して奥村組の2 次元CADに費やすコストはそれまでの7分の1程度に抑えられた。さらに、ライセンス管理作業も簡素化されました。同社ではiPadの導入に伴いモバイルCADソフトとして”IJCADMobile”を採用した。「2015 年からiPadを作業所に配備していますが、同時にCADデータ閲覧ソフトとして”IJCAD Mobile”を導入しています」(吉原課長)
 
iPad+IJCAD Mobileで工事現場のシーンががらりと変わる。大きな紙の図面を持ち歩いて、担当技術者が頭を寄せて図面を覗き込む工事現場のどこにでもあった風景はなくなった。携帯性に優れ、なおかつ、簡単なチェック・修正ポイントをメモ表記しておけば、事務所に戻ってその修正点をPCのCADソフトで確認できる。「2016年に入ってさらに利用が広がり、現在200 本以上のIJCAD Mobileが稼働しています。建築現場の若手職員を中心にiPadの携行を勧めていますが、さらに利用範囲を広げていく予定です」(吉原課長)
 

導入後わずか2年でIJCADは170ライセ ンスを超えた。「今後、他社でもDWG互換 CADは検討されていくでしょう」(吉原課長)




 
 
現段階での利用法は、「現場で図面をみること」が大半だということだが、モバイルCADの可能性は無限に広がっている。「今から思えば、2010年前後はDWG互換CADの黎明期だったのではないでしょうか。注目はされていましたがどのソフトにもパーフェクトといえるものはありませんでした。そのなかで”IJCAD 2013″はDWG互換CADが抱えていた問題点の大部分をクリアしていました。一度BCADを導入してからIJCADに変更したのは、回り道したともいえますが、今では、当社にとってベストの選択をしたと思っています」吉原課長のI JCAD導入に対する評価である。奥村組で始まったDWG互換CADへの移行は、2 次元CADの性能向上とともに、3 次元CADの時代を堅固に下支えしている。
 

「すでに200人以上の作業所職員がiPad+ IJCAD Mobileを活用しています」 (吉原課長)




 
 


株式会社 奥村組
所在地:大阪市阿倍野区、東京都港区
創業:1907年2月
資本金:198億円
従業員数:2,072名(2016年4月1日現在)
主な事業内容:総合建設業
http://www.okumuragumi.co.jp/


 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集3「建設ITの最新動向」



 
 



施工BIMの今 -三谷産業グループのBIM-

2017年8月1日

 

はじめに

三谷産業株式会社は首都圏、北陸地区、ベトナムを拠点に6つの事業領域を展開する総合商社である。本稿では、6事業領域のうちの1つである空調設備工事部門と、22 社の連結子会社がある中でベトナムを拠点とし建築関係会社からの受託業務を主体とするACSD社(Auroel ConstructionSoftware Development Inc.)との業務連携について紹介する。
 
三谷産業では、近年、建築業界でニーズが高まってきているBIM技術の活用および習得を目的とする専門部署(BIM推進室)を今年度(H28 年度)発足し、社内へのBIMの浸透や社内外への情報発信に注力する体制を整え、弊社施工物件に展開するとともにBIMモデリングの受託業務も開始した。
 
三谷産業とACSD社は、設計および積算業務(主に拾い出し)の業務連携においては15年の実績があり、この経験をベースにBIMモデリングの業務連携を展開している。共通のプラットフォームとしては、株式会社 NYKシステムズが開発・販売している設備3D-CADのRebro(以下、レブロ)を採用している。三谷産業では、19 年前にドラフターを一斉撤去し、手書き施工図からCADへの転換を決断した際に選択した設備CADがU/KITであり、当時としては高性能すぎた(時代を先取りし過ぎた)3D-CADとしての精巧かつ実直なコンセプトがよく似ているレブロに、とても馴染みやすかったことも選択の理由の1つだと思っている。三谷産業の3Dへの思いはここから始まっている。
 
 

取り組み事例の紹介

三谷産業とACSD社のBIMモデル構築の実際の業務連携は、三谷産業からの基本的な作図指示に基づきACSD社が3Dモデルを構築するのが基本スタイルである。
 
過去(ACSD設立時)にACSD社へ現場施工図の作成依頼(いわゆるアウトソーシング化)を進めた時期があったが、当時は現場からの指示や要望事項の伝達手段や通信手段の脆弱さ、言葉の壁などの理由から、結果として数年で収束してしまった経緯がある。今回はその過去の反省点を十分踏まえて取り組んでいる。
 

業務分担フロー




 
 
1つは伝達(コミュニケーション)手段である。業務の指示やレビューの際にはベトナムとの専用回線(XVDコミュニケーションシステム※1)を活用し、お互いの顔を見ながら会話するスタイルをとった。
 



 
 
また、ACSD社(ベトナム側)の大画面に資料を映し出し、ポイントを指し示して指示することで、スムーズなコミュニケーションが図られ、意思疎通を格段に高めることができた。資料の受け渡しや情報共有については、当社が開発したグループウェアである“POWER EGG”を活用し、業務が滞ることがないようにタイムリーに進めている。POWEWREGGの機能を活用することで、プロジェクトに関わる全ての関係者に、情報がリアルタイムで発信されるような仕組みを構築できた。
 



 

グループウェア“POWER EGG”の活用2




 
 
もう1つは言葉である。三谷産業とACSD社の共通語は日本語である。ACSD社では、日本語能力試験N2を取得したチーフが窓口となって現地スタッフに指示を出しており、直接指示では理解が難しい内容についても、現地スタッフをフォローできるような仕組みを構築した。また、三谷産業における研修を繰り返し実施することにより、会話力の上達はもとより技術の習得も図られ、大幅の改善ができている。
 
現在は、プロジェクトごとにキックオフミーティング→中間レビュー→最終レビューのサイクルを実行し、品質レベルの向上につなげている。
 
また、このスキームを活用したBIMモデル構築の取り組みとして3Dスキャナーの活用がある。3Dスキャナーを使用し、三谷産業で撮影した点群データを基にACSD社でCADデータ(レブロ)への変換業務を行う。これには、点群処理ソフトと強化されたレブロの連携機能を有効に活用しており、正確性と作図スピードを高めることを目的に取り組みを始めたのだが、ここで問題が発生した。点群データの情報量の多さである。撮影の仕方(設定)にもよるが、撮影した点群データは1カ所当たり110 ~ 150MB程度の容量があり、全箇所分のデータを送信すると数GBとなる。データやり取りを繰り返すことは決して不可能ではないが、膨大な時間を要する。大容量データの送受信方法の改善が業務効率向上には欠かせない課題として、仕組みの構築に取り組み中である。
 

点群データ~CAD化までの流れ




 
 

今後の展望

BIMというキーワードで建築業界自体が動き出したことを実感している今だからこそ、三谷産業グループの強みとして海外BIM連携を推進していきたい。過去のインフラやハード/ソフトがまだ成熟しておらず、業界自体の3Dの必要性も認識されていない時期に取り組んだ経験をしっかりと反映していかなければならないと考えている。
 
今後は、前述した取り組みに改良を重ね、より効率的に、かつ新たなICT技術なども取込みながら最善策を探っていくことに注力する。また、三谷産業にACSD社の現地社員を継続的に受け入れて育成していくことにより、その業務連携を強固なものにしていく方針である。
 
いずれにしても、国内では技術者、技能者の数が減っていく中、BIMやICT技術、海外の人材の活用は必須であり、これらの技術をベースとしたフロントローディングやコンカレントエンジニアリングが必要不可欠な課題だと理解し、今後も取り組んでいく。
 

ACSD社のベトナム人技術者たち




 
 

三谷産業株式会社



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



建設業を変えるIoT -世界で戦う競争力をつけるために-

2017年7月30日

 

はじめに:IoTの定義と市場動向

すっかり身近な言葉となったIoT(Internet of Things)は、モノのインターネットと訳される。IoTとは、一言で言えば、センサーで集めた情報を、ネットワーク経由でクラウドに上げ、情報を人工知能などで解析・処理する仕組みである。
 
デバイスとオブジェクトが相互につながることで、データが蓄積される。さらに、そのデータを解析し、可視化することで改善のヒントが得られるようになる。そして、プロセスを最適化し、解析・処理したデータを適切な形で、ヒトやマシンに自動的にフィードバックするようになると、リアルタイムでの情報活用が可能になる。本稿でのIoTは、モノだけではなく、結果としてコトやヒトもつなぐ、「ものごとのインターネット」であると定義する。
 
では、IoTの企業における導入率は、どの程度かを見てみたい。IDCJapanの調査によると、従業員規模100 名以上の日本におけるIoTの利用率は2016 年時点で5.4%であるという調査結果が出ている。話題になるIoTではあるが、国内企業での導入・普及・活用はこれからの段階であることが分かる。
(http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20160913Apr.html)
 
ここで海外の情勢に目を向けてみる。2016 年10 月にスペイン・バルセロナで開催されたIoTにフォーカスした展示会、「IOT SOLUTIONWORLD CONGRESS 2016」において、HCL 社のSukamal Banerjee氏は、「2015 年のIoTビジネスの状況は、例えるならば、胎児の段階であり、2016 年になってようやく立って歩けるようになった幼児の段階に進んだ、つまり、2016 年になって、ようやく“Ready t o Run”の状態になったといえる」と述べている。さらに、IntelのJonathan Ballon氏のゼネラルセッションにおける講演の表題は「IoTFrom Hype to Reality」、つまり、期待の高さから過大な期待がされていたIoTがようやく現実のものへ、といったニュアンスが読み取れる。
 
このように、現在、世界規模で着実に企業での利用率は向上しているものの、IoTの市場これから急激に成長していくことが見込まれる。つまり、IoTへの取り組みは、積極的に早い段階でアクションを起こし、早く成果を得て、さらに国際社会で勝負できる仕組みを構築することが大切である。
 
 

建設業界でのIoT活用:2つの方向性

一方で本稿で言及したい建設業界でのIoT活用は、2つの方向性に大別できる。
 

図-1 建設業界におけるIoT活用・2つの方向性




 
 
一つは、「現場のためのIoT」、つまり、建設に関わる工事や作業そのものの可視化や効率化、省人化を目的としたIoTの利用である。センサーやICタグを用いてヒトや建設機械、資材などのリソースの位置や状態を管理・把握するケースや、作業員の入退室管理、点検・検査や設備の監視などもこちらに分類できる。
 
国内での実現例としては、竹中工務店が取り組む次世代建物管理システム「ビルコミ」による建物情報の可視化と自動制御(http://www.takenaka.co.jp/news/2014/11/01/images/20141106.pdf)や、東急建設の建機の稼働状況のリアルタイム監視(http://www.tokyu-cnst.co.jp/topics/864.html)などが例として挙げられる。
 
さらに、建設業界では、BIM(BuildingInformation Modeling)が浸透し、急速に部品を含む3次元データが普及し、活用への取り組みが進んでいる。そこへ、センサーを用いて取得した各種の情報と、人やモノの流れを統合し、3次元データをマスターデータとして活用するアイディアもある。マスターデータとしての3次元データは、工事の効率化、現場作業の安全性向上、リソース・スペースの管理や可視化、さらには部材制作・加工にも活用ができるだろう。
 
もう一つの方向性は、「利用者のためのIoT」である。建物はもちろん、建築物を含む街区全体の付加価値を高めるスマートビルディング、スマートシティ、スマートコミュニティ構築の取り組みを通じ、利用者に新しい価値を与えるサービスを提供する。ビルや街の専用アプリを作り、利用者の位置情報やプロファイルと結びつけ、商業施設の案内や、旅行者向けの案内を行うといったアプローチや、防災、エネルギーマネジメントへの応用も考えられる。こちらは、多くの場合、既存の建築物も広く対象とするため、建設業に携わる企業のみならず、地域の住民、自治体を含む幅広い連携が必要になる。
 
例えば、スペイン・バルセロナ市の取り組みもこちらに分類される。市内に整備されたWi-Fi網を基盤とし、スマートパーキング、スマートライティング、スマートゴミ箱、鉄道やバスなどの交通機関のスマート化など、先進的なIoT活用に取り組んでいる。
 

図-2 バルセロナのIoTゴミ箱、スマート地下鉄




 
 

IoTプロジェクトの構築ステップ

IoTは、それ自体が目的ではなく、課題解決の手段であることは忘れてはならない。IoTプロジェクトに取り組む際は、初めに解決すべき課題を整理し、IoTを活用して、どのようにそれを解決し、ビジネスにインパクトをもたらすか、コンセプトを明確にする。つまり、IoTを活用したビジネスモデルの構築とKP(I 評価基準)を明確に定義しておくことが必要である。例えば、現場の効率化であればコストや工数削減などのインパクトを、スマートコミュニティであれば、エネルギー消費量や、新しいサービス提供によるマネタイズなどの目標を十分に検討する。
 
次のステップでは、PoC(Proof ofConcept)の設計と実施を行う。これは、実運用の前に小規模なテストベッド(試験用のプラットフォーム)を構築し、実地での検証を行うことで、IoTソリューションがもたらす効果と課題を明確にするわけだ。
 
PoCで想定通りの結果が得られた場合は、実環境での大規模導入と実運用の開始に向け、さらに基盤や技術を選定し、運用に耐えうる環境構築に向けて設計・開発・導入を実行する。導入後、運用が開始した後も、運用の中から上がってきた要望やアイディアを基に、新たなビジネスモデルの構築、マネタイズのモデルづくりなどのマーケティング視点を持った施策を打ち、テストベッドを標準化して横展開することで、新たなビジネスチャンスを生むことが期待できる。
 

図-3 IoTビジネスの基本的なアプローチ




 
 
つまり、初期構築した成功したテストベッドが重要である。成功したテストベッドは、当初の目的である自社での運用はもちろん、それをスケールして実装したり、横展開することで、グローバルビジネスの基礎となり、新たな価値を生み出す可能性がある。これこそが、業界のイノベーションにつながっていく。次章では、国内外における建設・建築向けのテストベッドの構築の状況について、解説する。
 
 

IOT Solution World Congress 2016に見るテストベッド

2016年10月、スペイン・バルセロナにて、IIoT (Industrial Internetof Things)をテーマとしたイベントが開催された。全世界から、24 カ国、8,000 人を超える参加者を集めるIOT Solution World Congress2016である。
 

図-4 IOT Solution World Congress 2016




 
 
このイベントでは、展示会で展示可能な規模のものを中心に、米国のIIC(Industrial InternetConsortium)のリファンレンスアーキテクチャに合致した10のテストベッドが展示され、建設・建築分野でのIoT活用に関わるテストベッドも多く見られた。
 
IICは、2014年に設立されたインダストリアル・インターネットのデファクト化と産業向けの実装を目的に、AT&T、シスコシステムズ、ゼネラル・エレクトリック、インテル、IBMが立ち上げた団体で、現在では30カ国250組織以上が加盟して活動を行っている。日本企業では、日立、東芝、富士フィルム、富士通、三菱電機、NEC、オリンパスなどが参画している。
 
IICが承認する27のテストベッドのうち、建設業に密接に関係するスマートシティ分野では、2つの承認されたテストベッド構築が進んでいる。一つは、Infosys(インド)、PTC(アメリカ)とSchneider Electric(ドイツ)が率いるエネルギーマネジメント、そして、もう一つは、中国広西チワン族自治区にある欽州市を舞台とした水の供給、品質、信頼性を確保するための都市部向け給水マネジメントのためのテストベッドである。IICのテストベッドプロジェクトは、参加社がグローバルに連携し、スピーディにビジネス化を見据えた協力体制を構築して推進するのが特徴である。
 
スマートコミュニティ・スマートシティに関連したテストベッドとして、音が都市環境に与える影響の研究のためのモニタリングシステムのテストベッドが展示されていた。
 

図-5 FIWARE、FI-Sonic、ETConceptのテストベッド




 
これは、FIWARE(EU)、Fi-Sonic(ポルトガル)、ET-Concep(t ポルトガル)が合同で出展しており、環境騒音の評価と、都市部で起こる事故や犯罪の検知や抑止を目的に、360度集音可能なマルチチャンネルマイクを街に設置する。そして、集音した音の解析と処理を行うことで、事故や銃声、悲鳴などの特徴的な音を、その他の環境音などから区別して、継続的に監視する仕組みである。街の安全性向上、犯罪率低下、事故などのアクシデントを即座に検知するシステムとして、特に暗い場所や視認性の悪い場所などでの効果が期待できる。現状では、異常音が検知されたエリアの特定は行えるものの、 正確な位置や詳細な状況を把握する必要性がある時は、360度をカバーする監視カメラなどとの併用も効果的だろう。
 
また、Schneider ElectricとPTCが構築するスマートグリッドのテストベッドでは、PTC社のAR(AugmentedReality)技術を活用したソーラーパネルのコントロールを模したデモを行っていた。
 

図-6 Schneider Electric、PTCのテストベッド




 
 
専用のアプリケーションを入れたタブレットで、実空間に設置した六角形のマーカーを参照すると、3DのバーチャルモデルをAR表示させることができる。ソーラーパネルの角度や向きは、バーチャルモデル上に数値で表示されているが、実際にタブレット上で数値を変更して、実物の角度や向きを制御することができる。
 
ここで、ソーラーパネルの実物を専用のアプリケーションを通して見ると、現在の発電量など、IoTで取得した情報を参照することもできる。すでにこうした技術が確立されていることから、建設業界でも、IoTで取得した情報とBIMモデルとの情報連携、設備・機器のメンテナンスに応用ができるだろう。
 
さらに、Intelは大気の状態を監視するテストベッドを展示しており、PM2.5、PM10、酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄などの大気中の物質を、手の平サイズの大きさの基盤に複数のセンサー類を設置し、リアルタイムに監視するデモを実施していた。
 

図-7  Intelの大気の状態のマネジメント向けテストベッド




 
 
スマートシティ・スマートコミュニティのプロジェクトにおいては、安全性、快適性、フローの最適化、エネルギーマネジメント、環境の評価など、さまざまな指標があるため、こうした取り組みを応用することが期待されるだろう。
 
一方で、SAPは、中国の南京市をターゲットとした商用車のトラッキングによる「Live Connected City」と題した渋滞回避のスマートシティソリューションを、Huawe(i ファーウェイ)は、6LowPAN(Bluetooth上でIPv6を利用する規格)を活用したスマートライティングソリューションのコンセプト展示を行っていた。
 
注目すべきは、開発するIoTソリューションのターゲットは、自国を必ずしもメインの対象としていないことである。日本国内でのテストベッド構築プロジェクトは、主として自社、そして国内をターゲットとしていることが多い点からみると、大きな違いであると言える。国外のプロジェクトを手がけることも多い建設業においては、海外での実装や運用を念頭に置いたIoTソリューションの構築とサービス化を視野に入れて活動する必要がある。
 
こうしたところからも、各社のスマートビルディング・スマートシティ・スマートコミュニティを対象としたソリューションへの興味度の高さと期待が伺える。
 
さらに、これらのテストベッドを用いた実証実験が、国際的な協業をベースにワールドワイドに始まり、結果が共有されるのも、もう間もなくであろう。
 
成功したテストベッドは、標準化され、市場の拡大とともに全世界をターゲットに広く市場に流通するようになる。つまり、初期の段階からテストベッド構築に関わった企業・団体は、現在の収益モデルとは異なる新たなビジネスとして、恩恵を受けることができるようになる。建設業においても、テストベッドの企画・積極的な参加が望まれる。
 

図-8 テストベッドに積極的に参加する意義




 
 
一方で、海外で開発・展開されるテストベッドは、開発コストの削減や期間の短縮の点から考えれば、国内のプロジェクトへの応用も考えていく必要がある。
 
 

国内のIoTを取り巻く状況

国内では、経済産業省と総務省が、産官学が参画・連携し、IoT推進に関する技術の開発・実証、新たなビジネスモデルの創出を推進するために「IoT推進コンソーシアム(ITAC)」を2014年に立ち上げた(http://www.iotac.jp/)。
 
ITACは、前述の米国のIIC、そして端末側に近いところで情報処理を行うフォグ・コンピューティングを推進する団体である米国のオープンフォグコンソーシアムと、2016 年10 月にIoT分野での連携を行い、グローバルに協調した活動を展開している。
 
一方、国内の組織においても、テストベッド構築と実証実験のはじめの一歩を踏み出した事例がある。現在、40 社ほどが加盟するIoTパートナーコミュニティ(http://iot.uhuru.co.jp/partner/)のスマートビルディングワーキンググループにでは、多数の機器の監視の効率化を目的に、安価なセンサーや機材を用いた簡易的なIoTソリューションを構築し、振動と電流のデータの相関性を可視化して分析する実証実験を行った。簡単に、そして安価に、監視の仕組みの構築が可能になれば、多数の機器の状態をほぼリアルタイムに監視できるようになる。今後は、予兆保全や効率的なメンテナンスの実施につなげていく考えである。
 

図-9




 
このように、日本国内で生まれたテストベッドや取り組みの内容を、世界に市場を広げて勝負できるようにするための活動も始まっている。実際のテストベッドの構築と、標準化、そして世界市場へのチャレンジを目的に、2016年6月、IICの事務局を務める日本OMGはi3(Industrial Internet Institute)を設立し、インダストリー、アグリカルチャーの2分野でワーキンググループの活動がスタートしている(http://omg.or.jp/i3/)。
 
ここでは、IICのリファレンスアーキテクチャに沿ってソリューション構築を進めているために、ソリューションを海外展開する際の理解度向上が期待できる。最初は自社向け、国内向けにスタートしたIoTソリューションをグローバルな視点でビジネスにつなげる土壌が生成されつつある。
 
建設分野でも、リーダーシップを発揮できる企業が、こうしたコンソーシアムをなどの組織へ参加・連携しながら、IoTの取り組みを進めていくことで、建設業の課題の解決に向けたIoTソリューションの構築と標準化、新しいサービスやビジネスモデルの創出につなげることが期待される。
 
 

建設業向けIoTプロジェクト推進の課題と提言

建設業は、多数の規模・役割の異なる会社が協力体制の下で、建設プロジェクトを遂行する。特にIoTソリューションの適用に向け、大企業と中小企業の連携で課題の一つにとして挙げられるのは、構築費用の配分である。
 
その点については、IOT SolutionWorld Congress 2016で講演したドイツのState Secretary at the federal Ministry for Economic Affairs and EnergyのMatthias Mac hinig 氏も、「International Cooperation to Accelerate theFuture of Manufacturing」と題した講演の中で、Industrie 4.0における課題の一つとして、「われわれは、デジタルフューチャーの実現に向けて、 中小企業を支援しなければならない」と述べ、中小企業の支援がドイツ政府としても重要な観点であることを述べていた。
 
また、われわれが実施したIICの幹部へのインタビューでも、テストベッドの構築や実証実験に中小企業が参画するケースでは、大企業がプロジェクトにかかる資金をカバーするケースや公的資金を活用するケースがあると述べている。特徴のあるソリューションや得意分野を持つ中小企業の参画を増やすためには、元請けやデベロッパー、そしてIoTプロジェクトに関わる大企業や、活動を支援する団体が資金面での支援を考えていく必要があるだろう。
 
最後に、建設業でのIoTの活用促進のために、5つの提言を行いたい。まず、早く決断して、早くデータを収集すること。これは着手が早ければ、データが時系列で蓄積され、さまざまな分析を通じて活用することができるようになるためである。2番目に、的確なパートナーを見つけて協業すること。1社では決して実現できないIoTビジネスについて、コンソーシアムへの参画などを通じたコラボレーションモデルで実現する必要があることだ。3つ目は、これまで日本が得意としてきた生産性改革では縮小均衡にしかなり得ないため、IoTへの取り組みによってビジネスモデルを変革し、イノベーションを起こすことを目指そうということだ。4つ目はグローバルに展開するケースであっても、日本ならではの「夢」のあるサービス、おもてなし感のあるIoTビジネスの実現を視野に入れて容易にまねされなくする必要があるということだ。5つ目に、ビジネスが成長するにつれてコストが逓増しないよう、さまざまなパートナー、顧客も含めたエコシステムを構築していくことが大切であるということだ。
 



 
2020年のオリンピックイヤー、そしてその後に続く将来の建設事業のIoT化を見据え、日本発の建設業向けのIoTソリューションの実現と発展に向けてのメッセージとしたい。
 
 
 

株式会社 ウフル IoTイノベーションセンター
マネージャー 松浦 真弓



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集3「建設ITの最新動向」



 
 



施工BIMの今 -前田建設工業における施工BIMへの取り組み-

2017年7月29日

 

はじめに

最近の建設業界では、施工段階のBIM(以下、施工BIM)に注目が集まっている。いままでのBIMは、どちらかといえば設計者が活用するものと考えられがちだったが、施工BIMでは現場の職員が活用するものとして位置付けられている。国土交通省では、2016年度を「生産性革新元年」と呼んでおり、ICTを積極的に活用して建設現場の生産性向上に向けた取り組みを進めていることも関係しているであろう。
 
このような動きに呼応するかたちで、一般社団法人日本建設業連合会は、2016年4月に『生産性向上推進要綱』を策定した。その中では「施工段階におけるBIM、ICTの啓発、普及促進」と具体的に記載している。生産性を向上させる武器として、それらは必要不可欠と宣言したのだ。
 
前田建設工業では、すでに2007年より設計、施工そして維持管理にわたりICTやBIMを活用する新しい建設生産システム【TPMs(ティピーエムエス)】の構築を行い、運用を始めている。【TPMs】の推進は、まさしくこれらを先取りした活動であったと言えるであろう。【TPMs】による取り組みの主な目的は以下の通りである。
 
①設計や施工段階のBIM化、施工管理のICT化(写真-1)により、職員や協力会社担当者の生産性を向上させること。
 

写真-1 ICTを活用した施工管理




 
 
②施設管理のICT化により、施設所有者に対して、施設のライフサイクルコスト低減を支援すること。
 
そこで本稿では【TPMs】の中から施工BIMに関する取り組みを紹介することで、建設業における生産性向上を考えたい。
 
 

施工BIMの概要

施工BIMの考え方と狙い
 
施工BIMは、作業所を中心とした取り組みである。そのため社内の調達部門、支援部門や専門工事会社が施工BIMに取り組む目的、作業手順や作業工程などを共有するところから始まる。
 
たとえ設計段階が従来型の2 次元であっても、工事を着工する前後からBIMに取り組んでも良いとする。もちろん設計者から整合性が確認された設計BIMと連携ができればなお良い。その際に目指すことは、作業所と専門工事会社のお互いの担当者の業務を楽にすることだ。また、作業所長をはじめとする作業所の基本方針を「この現場はBIMに取り組む!」として、取り組む目的を明確にすることも重要になる。
 
BIMにはいろいろなメリットが考えられるが、「見える化」が何と言ってもメリットの一番である。これを施工段階でも活用しない手はない。
 
施工段階からBIMを始めた場合、仕事を進める情報のスタート地点は設計図であるが、設計変更などの作業により情報が更新されると、それらは施工図や製作図に盛り込まれる。つまり工事を進めるためには、作業所において設計図の情報から施工図(総合図、躯体図、割付図など)を作成し、専門工事会社は担当工事部分の製作図を作成することになる。工事の進捗は施工図や製作図の承認工程に左右されると言っても過言ではない。
 
ところが施工図の担当者は、それらの図面類を調整するために、多ければ数百枚の2次元図面をひたすら見比べ自分の頭の中で空間を想像しながら調整業務をするのが一般的だ。そのため、机の上は図面だらけになる場合が多い(写真-2)。
 

写真-2 机のまわりは図面だらけ




 
 
BIMでは施工図・製作図レベルのBIMモデルを統合し空間を把握する。数百枚の図面を見なくてもXYZの位置関係を直観的に把握でき、多くの担当者と空間を共有することが容易になる(図- 1)。
 

図-1 統合されたBIM




 
 
そこで、前田建設工業が施工BIMに取り組む狙いは主に以下の3項目である。
 
①【図面】施工図・製作図の調整業務の効率化
②【品質】品質不具合の防止
③【安全】作業安全性の向上
 
すでにさまざまな施工BIMの取り組みを行ってきたが、ここでは上記の3つの狙いからひとつずつ適用事例を紹介する。
 
 
①図面】施工図・製作図の調整業務の効率化
 
今までの図面調整と施工BIMによる図面調整の手順の違いを示す(図- 2)。BIMにより効率的に図面調整を進めるポイントは以下である。
 

図-2 図面承認までの作業手順




 
 
①専門工事会社を早期選定し、BIMモデルを作成する
②作業所は基準となるBIMモデルを各業者に提供する(躯体、仕上のモデル)
③変更履歴などの最新版をきちんと管理する
④最新のBIMモデルを共有できるクラウドなどの情報一元化ツールを活用する(設計者・専門工事会社も閲覧可能)
⑤BIM調整会議を開催する(隔週程度の開催。設計者も参加が望ましい)
⑥BIMモデル合意後、スムーズに2次元図面を作成し承認する
 
業務の進め方はBIMモデルで異工種間の調整を行い、関係者間で合意をしてから図面を作成し図面承認を行う。合意するまでは、作業所のBIM担当者と専門工事会社のBIM窓口が参加する調整会議を開催し、整合性が確保されたBIMモデルを更新する(図-3)。
 

図-3 統合された施工BIM




 
 
これらの取り組みは「BIMモデル合意(※1)」と呼ばれている。場合により2次元図面を先行させてBIMモデルを作成する場合もあるが、いずれにしても避けなければいけないことは、BIMと2次元図面の作成を同時にすることだ。
 
取り組みを確実に実施するためには、社内事前打合せで目的を設定することが大事である。それと同時に参画する専門工事会社との協創によりBIMモデル合意に取り組む方針を立案する。
 
その際は全てのBIMモデルを専門工事会社が作成するのではなく、作業所側でも各社にBIMモデルの提供やモデルを統合する体制を整備しておく必要がある。
 
BIMモデル合意に期待できる大きな効果としては、逸失利益の低減がある。また検討時間の短縮(20 ~ 30%の低減)や検討するための2次元検討図の枚数低減などの効果もある。それらの効果を享受するためには、作業所のBIM担当者のリーダーシップと専門工事会社のBIM窓口がお互いにBIMにより作業を効率化させる目的を共有し、実際の仕事の流れに組み込むことだ。
 
BIMモデル合意では、BIM調整会議を概ね隔週で開催している場合が多い(写真-3)。
 

写真-3 BIM調整会議の開催




 
 
参加者は作業所のBIM担当者と専門工事会社のBIM窓口の方々だ。必要に応じて設計者も参加する。
 
BIM調整会議の開催前には、参加者間で最新版の情報共有ツールを通じて検討課題を共有し、対応可能な範囲で各社が新たな質疑や回答を用意する運用が望ましい(写真-4)。
 

写真-4 検討項目のリスト




 
 
②【品質】部分の検討
 
施工BIMでは、必ず対象物件の建物をすべてBIM化する必要はない、と考えている。
例えば作業所から必ずと言っていいほど依頼される項目の一つに鉄筋の納まり検討がある(図- 4)。
 

図-4 鉄筋の納まり検討




 
 
建物全ての鉄筋を入力するのではなく、部分的でも十分な検討時間の短縮効果がある。さらに鉄筋を組み立てる職人さんとの作業手順の確認もできる。
 
また、物流倉庫ではランプ部分のPCa手摺壁と鉄骨との関係をBIMにより調整する場合もある(図-5)。
 

図-5 鉄骨と腰壁PCaの干渉確認




 
 
初めての施工BIMでは、確実に作業所のニーズがあるこのような場所から
取り組んでも立派な施工BIMの一つと言えるだろう。
 
作業所長からは「分かりやすい」「施工図や製作図の進捗状況の確認が容易」「安心感がある。おかしいと思うところを施工前に指摘できる」「若手職員のOJTに活用した」などの評価が得られた。このような評価が建物全体のBIMモデル合意への取り組みに挑戦する素地となる。
 
所長の感想が口コミで広がり、「今の施工BIMは以前に話を聞いたBIMとは違う。施工でも活用するメリットがある」と認識が変わりつつある。
 
 
③【安全】施工手順の「見える化」
 
施工図や製作図の図面調整に活用したBIMモデルをそれだけで終わらせるのはもったいない。このようなBIMモデルは現実にこれから施工する完成形に近い精度で作成されていることもあり、付加価値として施工手順や安全設備の検討にも活用できれば同じく精度の高い施工手順を職員、職長や作業員と共有することができる。
 
施工BIMに取り組んでいる作業所では、本支店の支援部門が参加する施工検討会や専門工事会社を交えた作業手順の説明(写真-5)などへの活用も始まっている。
 

写真-5 BIMを活用した施工検討会




 
 
特に鉄骨建方手順の「見える化」による事前検討(図-6)では、主に以下の関係性が分かりやすいことを確認している。
 

図-6 鉄骨建方のステップ図




 
 
①作業工区分けと重機・荷取りヤードとの関係
②先行取り付け鉄骨と後取り付け鉄骨・仮設材との関係
③取り付け手順と材料積込順との関係
④外部足場せり上げと鉄骨組上げの関係
⑤鉄骨組立とデッキ材の荷上げの関係
現場内の「見える化」ボードには、工事工程表と一緒に時間軸で表した建方
 
手順などの現場状況を貼り出している現場もある。作業員が作業の開始前に出来形をイメージすることで、安全作業への啓蒙にもつながっていると思われる(写真-6)。
 

写真-6 「見える化」ボードへの掲示




 
 

施工BIMに関する教育

先日、作業所職員向けの施工BIMに関する研修会を開催した(写真-7)。
 

写真-7 施工BIMの社内研修会




 
 
開催場所は実際に施工BIMを実践している作業所である。参加者は今後施工BIMに取り組む予定の全国から集まった職員だ。年齢層は所長から若手の担当者まで幅広く集まった。
 
研修はBIMツールの操作教育ではなく、BIMモデル合意や施工計画への適用などBIMの活用事例を社内で共有できるような内容を企画した。
 
講師は施工BIMの支援部門だけでなく、作業所のBIM担当者も担った。実務の担当者が工事概要を説明するように実際の施工BIMの取り組みを説明したことで、参加者の多くが施工BIMを身近に感じることができたようだ。
 
作業所で施工BIMに取り組む予定の担当者からは、具体的な作業所の体制づくりやBIMモデル作成のタイミング、期間などの質問があり、質疑応答の時間は活発な情報交換の場となった。
 
このような地道な活動が、施工BIMの社内展開や取り組みの改善などには必要と改めて感じた。
 
今後も作業所で開催する施工BIMの研修会は続ける予定である。
 
 

今後の展開

本稿では施工図や製作図の図面調整を中心として取り組みを紹介してきたが、施工BIMの可能性は、図面調整だけではない。作業所におけるその他のICTとの連携にも期待できる。例えば墨出し作業の効率化、写真測量による数量把握などのような測量技術との連携が思い浮かぶ。また、自動施工をするための要素技術には施工BIMが必要になるに違いない。
 
スマートデバイスの活用によるフィールドでのBIMモデルを活用した作業員への分かりやすい作業指示などへの活用にも展開できる。すでにタブレット端末を活用した各種検査での活用が始まっており、それらの検査情報との連携も考えられる。
 
ようやくBIMに「見える化」だけを期待するのではなく、BIMに付加されている情報(information)を現場で活用する環境が整い始めたと言える。
 
施工BIMを活用した取り組みはさらに広がるであろう。
 
 

おわりに

施工BIMのひとつの進め方として、工事が始まってから専門工事会社とBIMモデルを連携しながら作業を進める手法は、作業所における図面調整業務を大きく変える可能性があることを確認した。今後はBIMを建物全体や部分とかという議論ではなく2次元CADによる図面作図が一般化してきたように、どのような用途・構造の建物であっても当たり前のように作業所においてBIMが活用できる環境が整備されてゆくと思われる。
 
過去を振り返って見てもBIMやICTの活用を挑戦する機会は何度かあったが、今の社会背景を考えると今回が最後のチャンスではないか。施工BIMの確立には、発注者や設計者・監理者がどのように施工BIMに参画してゆくのかも視野に入れた運用方法を確立させる必要がある。
 
設計からの一気通貫を実現させるのもまさしく今であろう。施工段階でのBIMの活用方法が見えるようになったことで、情報を設計者にフィードバックさせることができるようになりつつある。
 
維持管理段階では前田建設が独自開発したアイクロアとBIMが連携(※2)して施設やインフラの管理が実務で始まっている(図-7)。
 

図-7 BIMを活用した維持管理




 
 
IOTやAIなどの技術の進歩により、建物に合った修繕や改修を計画するところにもBIMの技術が活用されるのも近い。
 
今後もいろいろな取り組みを通じて、施工BIMの確立を進める予定である。
 
 
(※1) 一般社団法人日本建設業連合会BIM専門部会:『施工BIMのスタイル 施工段階における元請と専門工事会社の連携手引き2014』、2014.11、一般社団法人日本建設業連合会
 
(※2) 曽根巨充、他:維持管理システムの実績からニーズを的確に反映-BIMと連携し、3次元の“見える化”を簡単に実現-、『建設ITガイド2016』、2016.2、一般財団法人経済調査会
 
 
 

前田建設工業株式会社 建築技術部 TPM推進グループ長 曽根 巨充



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



施工BIMの今 -戸田建設のBIM-

2017年7月28日

 

はじめに

今回のテーマである施工BIMの本題に入る前に、当社におけるBIMの位置付けについて話をしたい。
 
当社は現在、会社全体として「フロントローディング」による生産性向上の取り組みを進めている。この取り組みを実現するために必要なものとして、①ワークフローの全体最適化、②そのワークフローを実行可能にするための体制と役割分担、③全体を取りまとめるマネジメント思考(統合マネジメント思考)、④BIMの活用、を挙げている。
 
当社はBIMをワークフローと密接に関係する、生産性向上のための一つの要素として捉えている。具体的にはプロジェクトの客先要件とリスクの見える化を行い、スケジュールおよびタスク(作業/業務内容)管理により課題を先行して解決するためのツール、またこれらのリスクや課題などの情報を統合するプラットフォームとして捉えている。
 
 

施工BIMの考え方/進め方

当社が考える施工BIMは、着工前に生産設計や施工側でフロントローディングを実践し、その中でいかにBIMを利用するかである。これを「プレコンストラクション」と称しているが、具体的な進め方は、まずプロジェクトの客先要件とリスク、特性からBIMの利用目的を特定する。次に生産設計視点による設計図のチェックを行うことによって、リスクを洗い出すとともにタスクを整理し、そのタスクの内容に基づいたBIMモデルを構築する。そして、これらの流れの中で抽出された課題を、BIMモデル中心の打合せによって調整や解決を図っていくという流れである。この進め方は2D図面の質疑により、繰り返し訂正を行う従来の流れよりも、作図のロスタイムやロスコストを抑えることが可能と考えている(図- 1、2、3)。
 

図-1 プレコンストラクションにおける生産設計ワークフロー




 
 

図-2 BIMモデルの流れと成果物




 
 

図-3 モデル中心の打合せ(BIMマネジメント会議)の様子




 
 

プレコンストラクションの取り組み内容

①生産設計業務のフロントローディング
 
当社は従来の2D作図先行による訂正を繰り返し行う課題解決の進め方からBIMと2Dを併用した課題を先行して解決する進め方に転換することを進めている。従来の2Dに加えて、設計内容や課題の見える化にBIMの3D情報を活用する進め方である。この方法を実施した事例では、関係者に対して分かりやすく伝わり、回答のスピード化につながった(図-4)。
 

図-4 課題の見える化の一例




 
 
また課題を「課題シート」という形でまとめている(図- 5)。
 

図-5 課題シートの例




 
 
ビジュアル的に見やすく、伝わりやすいものにし、経過や回答状況も併せて記すことで履歴管理のドキュメントとしても活用している。
 
次に取り組む体制だが、初動期支援を行うためのフロントローディング推進体制の構築を進めている。参画時期が従来と変わって前倒しとなってくるため、生産設計リソースの割り当てや役割の分化が必要である(図-6)。
 

図-6 生産設計のフロントローディング体制とその参画時期




 
 
現状は各部門への役割の割り当てやタスク工程の策定を推進部門であるBIMCM室が担っている。来期から本社以外の支店にも同様な推進部門を展開する予定である。
 
また設備のBIMモデル統合による調整の早期化や早期の課題解決を図るべく、専門工事会社との協働も進めている。図-7は従来2Dにて重ね合わせを行っていたものをBIMモデルによる統合確認を行うことで、課題解決のスピード化につながった事例である。
 

図-7 設備施工図と建築モデルの統合確認




 
 
このような取り組みの中で、設備会社を始め、さまざまな専門工事会社との連携を開始しており、製作図作成も視野に入れている。また施工図に関しても、現状はBIMから下図として出力し、2Dにて仕上げる流れで進めているが、将来的にはBIMモデルから直接施工図の作成ができるような手法の検討も行っている。
 
 
②施工計画のフロントローディング
 
施工計画の取り組みとして、生産設計や技術、工事の視点による施工上の課題を抽出するためにBIMモデルを利用している。これは2Dによる事前検討資料では気が付かない課題を3Dでより詳細に検討を行うためであり、施工計画におけるステップ図の作成も行っている(図- 8)。
 

図-8 仮設計画の検証




 
 

施工部門におけるBIM対応力およびマネジメント教育の強化

プレコンストラクションをより推進していくために施工部門のBIM対応力やマネジメント教育を強化することも重要である。4つの取り組みについて紹介する。
 
①BIM利用環境の整備
 
生産設計や施工側で利用できるBIMのネットワークライセンス環境を昨年末までに整備した。ハード環境に関しては、今期中に現場社員に対してVDI環境(BI Mをサーバー側で稼働し、画面をPCに転送する仕組み)を整備する予定である。
 
②BIM基本操作教育の実施
 
生産設計課や設備課、技術課、工事課に対してBIMの基本操作教育を行い、その上で推進部門であるBIMCM室にて、実務としての施工計画や施工管理におけるBIMの活用方法の研修を必要に応じて行っている。
 
③スターターBIMモデルの供給
 
上記2項目により、環境が整い、操作スキルが身についても、実際に自分が担当する案件でBIMモデルを利用しなければ本当の意味でのフロントローディングの部門展開は進まないと考えている。そこでスターターBIMモデルと称する、躯体モデルをベースとしたモデルを各作業所へ供給することで、日常的にBIMモデルが活用できる環境の整備を始めている。
 
④PM(プロジェクトマネジメント)教育
 
フロントローディングを進めていく上での協業作業を取りまとめることができる中心的な人材を育成するためにPM教育を行っている。対象者はフロントローディングの推進担当者やプレコンストラクション案件のプロジェクトマネージャ、生産設計課員、現場工務などである。この教育を行うことでゼネコン内部に根付く部門間の縦割りの考え方が少なくなることを期待している。
 
 

最後に

ここまで「施工BIMの今」として話を進めてきたが、途中、アウトプットとしての成果物や社内の体制、専門工事会社との体制など今後に向けた話も行ってきた。
 
今後はフロントローディングによる社内改革の動きを会社全体へより迅速に進めていくため、推進部門としてのBIM-CM室主導から各支店主導へ移行していきたいと考えている。
 
 
 

戸田建設株式会社 建築本部BIM-CM室 北川 剛司



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



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