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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

建築BIM推進会議における検討や建築BIMの推進に向けた取り組みの状況について

2024年7月1日

はじめに

Society5.0の社会へ

デジタル技術がもたらす社会像として「Society5.0」があります。
「Society5.0」は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として平成28年に提唱されたものです。
Society5.0の社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。
また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要なときに提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。
社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります」とあり、これらデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性について提唱されています。
 

i-Constructionの推進

わが国は、現在、人口減少社会における働き手の減少への対応や潜在的な成長力の向上、産業の担い手の確保・育成などに向けた働き方改革の推進などの観点から、生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、 ICTの活用などにより調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指す「i-Construction」の取り組みを進めています。
 
さらに、「成長戦略フォローアップ」(令和元年6月21日 閣議決定)において国・地方公共団体、建設業者、設計者、建物所有者などの広範な関係者による協議の場を設置し、直面する課題とその対策や官民の役割分担、工程表などを令和元年度中に取りまとめることとされたことを踏まえ、i-Constructionのエンジンとして先行して土木分野で重要な役割を担ってきた「BIM/CIM推進委員会」の下に、建築分野のBIMについて拡充を図るため、令和元年度からWGとして、後述する「建築BIM推進会議」を設置し、建築分野におけるBIM活用に向けた市場環境の整備について具体的な検討が開始されました。
 
 

建築BIM推進会議の設置と取り組み状況

建築BIM推進会議の設置(令和元年6月)

国土交通省では、前述の「成長戦略フォローアップ」に基づき、建築物のライフサイクルにおいて、BIMを通じデジタル情報が一貫して活用される仕組みの構築を図り、建築分野での生産性向上を図るため、官民が一体となって「建築BIM推進会議」(以下、推進会議)を令和元年6月に設置しました。
 
推進会議では、官民が連携し、建築業界全体が一丸となって今後の建築BIMの活用・推進について幅広く議論し、対応方策をとりまとめていくラウンドテーブルとなり、BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスなどの「将来像」とそれを実現するための「ロードマップ」(官民の役割分担と工程表など)の検討・策定、当該「ロードマップ」に基づく官民それぞれでの検討などが進められました。
 
なお、推進会議は、松村秀一早稲田大学理工学術院総合研究所研究院教授を委員長とし、学識者のほか、建築分野の設計、施工、維持管理、発注者、調査研究、情報システム・国際標準に係る幅広い関係団体により構成されています。
国土交通省においても、住宅局建築指導課、不動産・建設経済局建設業課、大臣官房官庁営繕部整備課の3課で事務局を務めています。
 

「建築BIMの将来像と工程表」の策定

令和元年6月に第1回推進会議が開催され、同年9月の第3回の推進会議において、「建築BIMの将来像と工程表」が了承されました。
特に「将来像」として、「いいものが」(高品質・高精度な建築生産・維持管理の実現)、「無駄なく、速く」(高効率なライフサイクルの実現)、「建物にも、データにも価値が」(社会資産としての建築物の価値の拡大)の3つの視点で整理されるとともに、その将来像を実現するための「ロードマップ」が、次の①~⑦の7項目に整理され、連携しつつ検討していくこととされました。
 
①BIMを活用した建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
②BIMモデルの形状と属性情報の標準化
③BIMを活用した建築確認検査の実施
④BIMによる積算の標準化
⑤BIMの情報共有基盤の整備
⑥人材育成、中小事業者の活用促進
⑦ビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携
 
①のワークフローの検討など、さまざまな業界間の調整が必要な部分については国が主体的に事務局を務める部会「建築BIM環境整備部会」を設置することとし、
②~⑤については既に民間の関係団体などにおいて検討が進められていることから、それらの各団体の活動を部会と位置付け、個別課題に対する検討などを進めることとされました(令和元年10月~)。
 
現在も、これら部会において官民が一体となってBIMに関する議論を進めています(図-1)。

図-1
図-1

 

ガイドライン(第1版)の策定(令和2年3月)

①の検討を行う「建築BIM環境整備部会」(以下、環境整備部会)は、志手一哉芝浦工業大学建築学部建築学科教授を部会長とし、推進会議と同様に幅広い関係団体などにより構成されています。
令和元年10月から環境整備部会において、BIMのプロセス横断的な活用に向け、関係者の役割・責任分担などの明確化などをするため、標準ワークフロー、BIMデータの受け渡しルール、想定されるメリットなどを内容とする「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(以下、ガイドライン)の検討が行われ、推進会議での承認を経て、令和2年3月にガイドラインが策定、公表されました。
 

モデル事業の実施・ガイドラインの改訂

令和2年度から、第1版であるガイドラインの実証などを行うため、ガイドラインに沿って試行的にBIMを導入し、コスト削減・生産性向上などのメリットの定量的把握・検証や、運用上の課題抽出を行う、「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」を実施しました。
本事業では、ガイドラインの実証だけでなく、BIMを活用した場合の具体的メリットを明らかにするとともに、BIM実行計画書(BEP(BIM Execution Plan))、BIM発注者情報要件(EIR(Employer’s Informaion Requirements))を含む検討の成果物を公表することとしています。
 
特に令和3年度からは、「先導事業者型」、「パートナー事業者型」、「中小事業者BIM試行型」の3つの枠に分けて募集をしています。
 
「先導事業者型」は、発注者メリットを含む検証など過年度に検証されていないもの、もしくは発展させたものであることを応募の要件として募集を行い、7件を採択しました。
「パートナー事業者型」は、推進会議に連携・提言を行っていただく事業として募集を行い、5件を選定しました。
「中小事業者BIM試行型」は、BIMの普及に向けた取り組みの一環として、中小事業者が事業者間でグループを形成し、試行的にBIMを活用し、BIMの普及に向けた課題解決策の検証などを行うものであることを応募の要件として募集を行い、9件を採択しました。
 
これらの事業等による検証の結果、標準ワークフローの大きな枠組みについては、汎用的に各プロジェクトで適用され、標準ワークフローに基づく運用上の留意点などや、BIMの定量的な活用メリットなどが提言されました。
 
これを受け、環境整備部会において議論を行い、令和4年3月にガイドライン(第2版)への改訂を行いました。
改訂のポイントとしては、これまでの建築BIM推進会議の活動成果、モデル事業の成果などから得られた知見を盛り込むとともに、実務者の意見を踏まえた記載順整理などの構成の改善、以下の8点についての記載の充実化などが挙げられます。
 
①発注者メリットと発注者の役割
②EIRとBEP
③ライフサイクルコンサルティング
④維持管理・運用BIM
⑤各ステージの業務内容と成果物
⑥標準ワークフローのパターン
⑦データの受け渡しの方法
⑧各部会などの取り組み
 
 

令和5年度の取り組みと今後の展開・展望

モデル事業の実施など(令和4年度)

令和4年度に、昨年度までの成果などを踏まえ、「先導事業者型」、「パートナー事業者型」、「中小事業者BIM試行型」の3つの枠に分けて募集を行い、「先導事業者型」は8件、「パートナー事業者型」は3件、「中小事業者BIM試行型」は4件を採択しました。
これらの事業については、BIMの活用による生産性向上などのメリットや課題の検証を行うWG(先導型BIMモデル事業WG)と、BIMの導入や普及に向けた課題解決策の検証などを行うWG(中小型BIMモデル事業WG)において、検討の進捗状況や成果について報告・議論いただきました。
これらの成果については、報告書として広く公表されるだけでなく、成果報告会を開催いたしました。
また、令和2・3年度の取り組みについては検証・分析事例集として取りまとめを行いました。
事例集では、各事業者の取り組みを総覧でき、読み手にとって知りたいことと各事業の実施内容が紐付くように、BIMガイドライン(第2版)の節に沿ったキーワードによるカテゴライズ・マッピングを行い、一覧表として作成し、国交省のHPで公開を予定しました。
 
令和4年度分に関しても作成しており、同じく国交省HPで公開予定です。
 

将来像と工程表の改定

令和4年6月に閣議決定された新しい資本主義実行計画グランドデザイン・フォローアップ(令和4年6月7日閣議決定)において、「ガイドライン(第2版)に基づき官民が発注する建築設計・工事などにBIMを試行的に導入するとともに、建築物のライフサイクルを通じたBIMデータの利用拡大に向けて、2022年度中にロードマップを取りまとめる」とされたことを踏まえ、「建築BIMの将来像と工程表」の改定について、環境整備部会で検討しました。
 
改定に当たっては、これまでの推進会議各部会における検討やモデル事業の成果を踏まえ、BIMの普及により目指す姿とその実現に向けた取り組みの全体像および将来像の実現に必要な検討事項や現在の到達イメージについて、現状に合わせた見直しを行うとともに、社会実装に向けたさらなる成果を生むために、部会間の連携や調整を図り、BIM推進に係る具体的なロードマップとして取りまとめることを基本方針としました。
具体的には、直面する社会課題に対して建築BIMにより生産性・質の向上を実現し、さらにはBIMデータを他分野のデータと連携して活用できる社会の構築を見据えたとき、3つの重要課題に取り組む必要があると位置付けました。
 
1つ目は、設計から施工へ至る際に必ず通る確認申請を、建築BIMを用いて行えるようにすること。
2つ目は、設計・施工段階において建築BIMデータを円滑にやり取りして横断的に活用するための環境整備を行うこと。
3つ目は、BIMデータを他分野のデータ等と連携させていくことを目指して維持管理・運用段階の高度化を図ることです。
これら3点について、いつまでに何に取り組むかについて、ロードマップとして取りまとめました。
また、これらを具体化していくためには、部会を横断した取り組みが必要になることから、アウトプットを明確にしたTF(タスクフォース)において取り組むこととし、工程表に沿ったTFの取り組みに関する進捗管理を行うために、環境整備部会に戦略WGを設け、必要な調整や方針決定を行うことで、全体として工程表に沿った取り組みが進められる体制を新設しました。
さらに、2023年度予算では、建築BIMの社会実装を加速化するための基盤を整備する取り組みに対する支援措置として、建築BIM活用総合支援事業(国費3.03億円)を創設したところです(図-2)。

図-2
図-2
図-2
図-2

 

建築BIM加速化事業の実施(令和4年度第二次補正予算)

「建築分野のBIMの活用・普及状況の実態調査」(令和3年1月国土交通省調べ)によると、1,000人以上の企業におけるBIM導入率は7割以上である一方、10人以下の企業では3割以下となっており、特に中小事業者にとっては、導入・運用に係る初期投資や習熟人材の不足といった課題がBIM導入の障壁として挙げられます。
 
そこで、国土交通省では、建築BIMの社会実装のさらなる加速化を図ることを目的に、中小事業者が建築BIMを活用する建築プロジェクトについて建築BIMモデル作成費を上限として支援する「建築BIM加速化事業」が令和4年度第二次補正予算にて成立しました。
本事業の活用により、建築BIM導入における障壁の解消に寄与することが期待されます。
 

今後の展開・展望

建築BIMの推進においては、官民一体となって個別課題に対する検討などを進めるとともに、共通する課題に横断的に取り組むことが重要となります。
 
このため、部会間の連携をさらに深め、共通する課題への取り組みを進めるとともに、各部会だけでなく、推進会議に参加している各団体においても、ガイドラインを踏まえた検討が進められています。
さらに、建築分野にとどまらず、PLATEAU・不動産ID、と連携し、建築・都市・不動産分野の情報と他分野(交通、物流、観光、福祉、エネルギーなど)の情報が連携・蓄積・活用できる社会の構築を目指した検討も行っているところです。
 
こうした継続的な取り組みにより、マーケットのさまざまな事業でBIMが広く活用され、関係団体の検証も進み、将来的にはさまざまな人材の育成や幅広い事業者への普及、さらにはビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携などに広がっていくことを期待します。
 
 
 

国土交通省 住宅局 建築指導課 係長
平牧 奈穂

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 



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