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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

「維持管理」新時代の到来見えてきた課題に対して、新技術を導入して試すことが最初の第一歩

2024年7月22日

はじめに

5年に一度の点検業務も2024年度で3巡目に突入する。
1巡目、2巡目と実施され、順々に多くの橋梁やトンネルの延命措置が行われてきた。
しかしながら、維持点検における課題点は非常に多い。
2014年より始まった定期点検だが、いまだに打音調査がマストの状態にあるのもその一つだ。
確かにうきの有無の顕在化や位置確認に関して、現地で打音すること以上の技術はない。
しかし、多くの企業がアイデアを出しているにもかかわらず、打音調査をやらずに済むような点検はいまだ皆無であるのだ。
 

維持管理の方向性=新技術の活用

国土交通省では、これからの維持管理について「定期点検における新技術活用の方向性(案)」を2020年に提示している。
これは1巡目、2巡目を経過して分かってきた課題点から、次世代の新技術開発のヒントを示した形だ。
 
内容としては、「部位、部材の状態把握は目的に応じて最適な技術を組み合わせて効率的に実施すること」「健全性の診断は AIなどの技術を活用しつつ、人(知識と技能を有する者)が実施すること」が挙げられており、具体的には「AIによる診断の仕組みづくりと定量化」「どこがどれだけ変わったか、壊れた損傷部の動きの変化の可視化」「現場における点検の効率化と状態把握の質の向上」の3つのポイントについて注目していることが分かる。
このことからも今までの維持点検の業務が大きく革新され、技術的にも飛躍することが期待されていることは明白だ。
維持点検の需要が高まる中、これから始まる第3巡目以降の道筋、すなわち新技術の活用が、維持管理の本流となることは間違いない。

現在の定期点検における技術活用
現在の定期点検における技術活用

 

新技術の現在地

もちろん1巡目、2巡目の間にまったくの技術革新がなかったわけではない。
遠望目視および近接調査としては赤外線サーモグラフィー画像解析が浸透し、打音調査を支援する技術として多くの現場やインフラ現場の点検に使用されている。
これは浅い内部の空洞部やうきを検出するには最適な技術である反面、現場の気温や環境の影響を受けやすいという弱点もある。
計測時の対策等が必要であることを考えても、状況や人員に左右されないさらなる新技術の登場が求められているのは想像に難くない。
 
 

現在の課題を考える

ここで、今までの点検現場に立ち返り、長年点検の現場でその苦労を味わってきた一人としての視点から、どのような課題があったのかを検証してみたい。
初めに結論を言ってしまえば、課題とは時間制約と作業者の技術格差によって肝心の作業のクオリティーが低下する懸念があることだ。
その原因を大きく二つの観点から見ていこう。
 
まず前提として、点検を必要とするインフラ構造物は大量にある。
そのため発注規模として1業務当たりの構造物の施設点検数が多くなる。
一つの現場にかけられる時間は限られており、慌ただしく作業が行われ、危険が伴うこともある。
現場環境や交通事情によっては、夜間しか作業が行えない場合もあり、常に現場は緊迫感に満ちあふれていた。
一つ一つ慎重に点検することが絶対条件となるが、正直なところ特徴も違えば損傷の程度も異なる構造物を一つ見るだけでも大変な作業である。
 
そして最盛期に比べればわずかではあるが新設構造物も増えており、点検はやってもやっても終わらないというのが実情なのだ。

 

熟練でも難しい打音調査

このような状況下で、まず現場で特に注意を払われてきた印象が強い作業は、打音調査である。
なぜなら叩き漏れがあった場合、その後にうきが進行して剥離し、第三者被害を招いたという事例が少なくないからだ。
加えて音の変化でうきや内部空洞の有無を判断する技術でもあるが、熟練でも経験が浅い者でも、うきの領域判定をすることは極めて難しい。
触診して常に健全部の音で耳をリセットするなど細心の注意を払った点検を行う姿勢が求められている。
これだけでも簡単にできる業務ではないことは明らかで、特に時間を要する作業であることは否めない。
 
この点検をおろそかにするとインフラの長寿命化はおろか、私たちの生活も保障されないことにつながっていく。
だからこそ、この作業の背景に、私たちの生活やライフラインが常に表裏一体の状態であることを忘れてはならない。

 

損傷図作成における落とし穴

また現場から帰ってきてからの資料整理も大変な苦労を要する作業だ。
その中でも損傷図の作成については、地域性があるため必要がない都道府県があるのも事実だが、記録に残している自治体の方が依然として多い現状としては、注目すべき作業であろう。
 
まず、帰社後に資料をまとめ上げるには、打音検査の合間を縫って損傷図や写真撮影などの記録作業を行う必要がある。
これはただでさえ忙しい現場では大きな負担だ。
しかし記録がおざなりであれば、残せる資料も精度の低いものとなってしまう。
 
さらに記録者によって精度にばらつきが出ることも大きな問題点である。
この作業はただスケッチするだけではなく、寸法や長さ、位置関係がとても重要な情報となる。
しかし実寸とは言いにくいアバウトな損傷図となってしまっているのが現実である。
実はこれが正確に書かれていないため、
1巡目と2巡目の定期点検を行った際の損傷図を比較することは困難とされている。
一部では1巡目のデータに追記するケースがあると言われているが、1巡目のデータが正しく書かれていなかった場合、2巡目で修正しようとしても、時間も手間もかかるため、実用化された現場は少ないと聞く。
ここから読み解くと過去の損傷図の正確さと精度については二の次であった感は否めない。
これから始まる3巡目やその後の維持管理においても何らかの措置が必要であり、抜本的な改革が必要だ。
 
 

維持管理の未来は

これらの現状に加え、実際にはこれから間違いなく到来する人手不足や点検施設量の増加に伴い、作業面と内業の負担軽減をもたらす新技術の登場が必要なことは明白だ。
冒頭で述べた赤外線技術の他にも、最近ではロボットやAIを用いた点検支援技術で手間や時間短縮につなげる技術が多く開発されている。
これによりヒューマンエラーや人手の確保の必要性が改善されたのも事実だ。
今後もAI学習の効果が進めば、さらに業務改善につながることは確実だろう。

新技術 差分解析システム(写真データベース)
新技術 差分解析システム(写真データベース)

 

新技術の積極的な導入は不可欠

新技術はいまだ発展途上にある。
その中で今できることは、積極的に新しい技術を取り入れていくことだ。
どんな些細な技術であっても現場の効率化や作業の能率アップが図れるものであれば、まずは試していかなくては始まらない。
例えばいきなり「3次元化」といわれても、対応できるかどうかはやってみなくては分からないからだ。
もちろんそれを実行するためには人材確保や教育、計測機材の導入など前準備が必要となってくる。
すぐに人は育たないし、計測技術もすぐに上がるものでもない。
また何が有用な技術であるかは各会社の体制によっても違ってくるだろう。
自社に当てはまるものはどれか、どんな技術であっても自分たちで試してみて現場で使えるかどうかを検証することが必要不可欠なのである。
 
やってみて業務改善につながればそれが維持管理の答えなのだと私は考えている。
まずは、昔の技術にとらわれず、新しい技術があれば積極的にとりいれながら業務を改善していく。
その繰り返しこそが維持管理にとってのベストアンサーである。
われわれもソフト開発メーカーとして新技術開発に微力ながら貢献できるように、現場の声と業界の動きに注目しながらイノベーションを加速させていきたい。
 
 
 

株式会社アイ・エス・ピー 代表取締役

波場 貴士

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 

最終更新日:2024-07-22



 


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