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官庁営繕事業におけるBIM試行 ~見えてきた成果と課題~

2013年12月2日

 

国土交通省関東地方整備局 営繕部整備課

 

はじめに

官庁営繕事業におけるBIM導入プロジェクトについては、国土交通省が策定した「国土交通省CALS/ECアクションプログラム2008」における目標の一つである「③調査・計画・設計・施工・管理を通じて利用可能な電子データの利活用」のうち、具体的な実施項目として掲げられている「3次元データを活用したモデル設計・施工の実施」の一環として実施するものであり、BIM導入の効果・課題等を検証することを目的としています。
 
官庁営繕部では、設計・施工から維持管理に至る過程で一貫してBIMを活用することが、施設整備・保全に関わる行政コストの削減、官庁施設の品質確保、および官庁施設における顧客満足度の向上に資すると考えており、BIMによるメリットが営繕業務のもたらす可能性として、以下の①~③に着目し、これら三つの観点から、BIM導入の効果・課題等について検証することとしました。
 
①設計内容の可視化による変化
 設計の透明性・説明性が高まり、関係者間における意思決定の迅速化。
②建物情報の入力・整合性確認による変化
 官庁施設に必要な性能水準と合致した設計の効率的・効果的な実施。
③建物情報の統合・一元化による変化
 設計・施工を通じて、施設管理者による施設の運営・管理や、官庁施設のファシリティマネジメントに活用可能な建物情報モデルの
 構築。
 

図-1想定されるメリット

図-1 想定されるメリット


 
 

設計段階におけるBIM導入の試行内容

国土交通省における初のBIM試行プロジェクト「新宿労働総合庁舎外設計業務」では、設計段階におけるBIM導入の試行を実施しました。
設計者は、公募型プロポーザル方式にて選定を行いました。
構造・規模は、RC-6/1で延べ面積が約3,500㎡の、労働基準監督署他が入居する標準的な規模の事務庁舎であり、主に建築および構造分野を対象として、以下の項目について試行を行いました。
 
●設計与条件の可視化
●設計図書の作成に必要な情報が入力されたBIMモデルの作成
●通常の設計とBIMによる設計との業務プロセスの違い等の検証
●BIMモデルを活用した配置・立面計画等の比較検討
●BIMモデルを活用した工事費概算の実施
 
これを基に実際にプロセスごとに行った設計者提案を含めた業務実施内容と、その考察について紹介します。
 
 

各プロセスにおける業務実施内容

与条件把握段階

【実施内容】
1.法規制等による建築可能範囲の可視化モデルを作成する
2.敷地および周辺環境の情報を含むモデルを作成する
3.周辺風環境解析により周辺から受ける影響を可視化し、建物のボリューム・配置検討等に反映させる
 
【考察】 
ここでは、BIMモデルを活用してスタディ段階の的確なボリュームや配置計画等の比較検討、日影や風等のシミュレーションを行うことにより基本的な錯誤が避けられ、後工程での検討で留意すべき事項を的確に把握することができました。
 
また、従来業務では2次元で法規制などの整理を行うため、建築可能範囲について立体的に捉えにくいというような問題が、モデルによる可視化情報を用いることで関係者間の意思決定が確実かつ迅速になりました。
 
当初、地上5階地下2階建ての計画でしたが、法規制の中ボリュームの比較検討において、地上6階建てを検討し、地下は1階に抑えてコスト縮減を図りました。一方、設計業務受注者からは敷地周辺を含めたデータ入力になるので高低差や道路状況など正確な情報が必要となり、またモデルの作成には時間がかかるといった課題もあったところです。 
 

図-2風環境シミュレーション
図-2 風環境シミュレーション
図-3法規制の可視化とボリューム検討
  図-3 法規制の可視化とボリューム検討

 

基本設計方針策定段階

【実施内容】

1.敷地形状、建物ボリュームをBIMモデルに入力する
2.ボリュームモデルによる空間ゾーニングを行う
3.冬至、夏至における日影シミュレーションを行い、配置検討に反映させる
4.BIMモデルより、数量算出機能を用いて算出した数量によりコスト概算を行う
5.BIMモデルを活用して配置計画・立面計画等の比較検討を行う。比較検討に当たっては、BIMモデルによる算出数量等を活用して、外壁・窓形状等の全体工事費への影響が大きい要素を考慮したコスト比較も併せて行う
6.建物ボリュームが周辺に与える風・温熱・景観の影響シミュレーションを行い検討する
 
【考察】
ここでは、入居官署との初期打ち合わせの中で、面積表と平面プラン等が連動する計画案を提示できるため関係者間の意思疎通も図られ、それが業務の効率化につながったと感じています。
また、基本計画の段階からコストコントロールができるので、早い段階での概算精度の向上に期待できます。これは以降の予算過不足による大幅な設計変更を避けることができ、コスト縮減案の提示についても迅速に数量の拾い出しが可能なため、併せて業務の効率化につながるとの結果が出ています。
 

図-4ゾーニング計画の可視化
図-4 ゾーニング計画の可視化
図-5自然換気シミュレーション
  図-5 自然換気シミュレーション

 

基本設計段階

図-6自然採光シミュレーション

図-6 自然採光シミュレーション


【実施内容】
1.各部材を入力した一般図(1/100)程度のBIMモデルを作成する
2.意匠モデル、構造モデルを重ね合わせて整合性を確認する
3.BIMモデルより、数量算出機能を用いて算出した数量によりコスト概算を行う
4.環境シミュレーション(採光・通風)を行い、開口の検討に反映させる
5.意匠、構造、設備モデル相互の干渉チェックを行う
 
【考察】
ここでは、設計の初期段階から各分野間で綿密な意思疎通や調整が可能となるなどフロントローディングのメリットがありました。
これは、容易にシミュレーションが可能なため計画にフィードバックさせやすく、採光や通風等の影響が可視化されることからさまざまなパターンが検討可能で、担当者間の共通認識が図られやすかったためです。
 
例えば、自然採光を執務室内へ取り込むためのライトシェルフ採用の可否については、シミュレーション結果により効果が少ないことを確認しこれを取りやめています。
自然換気に関しては、取り入れを南面窓のみとしてシミュレーションを行いましたが、これも効果がないために西面窓からも自然換気を取り入れています。
 
また、外部からの階段室の見え方とリフレッシュスペースの位置取り等、モデルを自由に動かしながら討論し、最適解を導き出したことも可視化がもたらしたメリットでした。
一方で干渉チェックに関しては、建築、構造、設備の干渉している部分が表示されるため、容易に把握ができ迅速な対応が可能となりましたが、設備モデルに関しては作成に手間がかかり負担が大きいことが分かりました。
 
また、構造モデルは一貫計算ソフトからモデルを生成可能ですが、構造計算上のモデルと実際の躯体形状との整合をとる必要があり、調整に時間がとられることもわかりました。
 
図-7干渉チェック

図-7 干渉チェック


 

実施設計段階

【実施内容】
1.基本設計で作成したBIMモデルに各種詳細情報(1/50程度)を入力する
2.可視化による仕様ディテールの確認を行う
3.意匠モデル、構造モデルを重ね合わせて整合性を確認する
4.BIMモデルより各種実施設計図(各種申請図共)を出力する。出力の調整はBIMモデル内で行う
5.BIMモデルより、数量算出機能を用いて算出した数量によりコスト概算を行う
6.輝度、照度、気流シミュレーションを行い、建具形状や照明計画、空調計画等にフィードバックする
7.BIMモデルを用いた場合の効率のよい共通原図フォーマットを提案する
 
【考察】
全建築図面の70~80%をBIMで作成し、部分詳細図等はBIMモデルから切り出して2次元で作成しています。
ここでは、基本設計からのBIMモデルデータを実施設計においても連携させて使用することができるので、作図の作業時間が減少しています。
 
また、その一つのモデルから各図面を出力することが可能なため、図面間の不整合が起こりにくくチェック時間の短縮にもつながっています。
これは、修正があった場合でもモデルを修正することで、各図面も同時に修正されることになり手戻りも少ない結果になりました。一方、ディテール等の詳細情報をどの程度まで入力するかをあらかじめ当事者間で検討しておく必要があることがわかりました。
 

図-8実施設計モデルからのパース切り出し

図-8 実施設計モデルからのパース切り出し


 

積算段階

【実施内容】
1.BIMモデルより、数量算出機能を用いて算出した数量と通常積算業務による数量との比較および考察を行う
 
【考察】
建築数量積算基準での「拾い」数量とBIMモデルからの数量において比較でき、間違いがあった場合において追求しやすいものとなりました。
図面の修正に数量も連動して変更されるため、数量の間違いもありません。
しかし、今回使用したソフトでは各部位の数量拾い出しの仕方が基準とは異なるため、部位ごとの比較はできないなどの問題点もありました。
また、実際の比較においては大きな差異はなかったとの結果が出ています。
 

図-9モデルから数量切り出し

図-9 モデルから数量切り出し


 
 

試行結果まとめ

以上、試行を通じて見えてきたBIMのメリットについて、「可視化」「整合性」に関するポイントをまとめます。
 
①設計初期段階における効果や性能の確認
一般に、建物が完成後に期待した通りの性能や効果が発揮できるかどうかは、設計段階ではあくまで想定の域を出せん。
そこでこれらを検証するための手段として施工段階でのモックアップの作成や試験施工等を実施することがありますが、効果が期待通りでない場合には、設計変更等の手戻りが生じてしまいます。
一方、設計段階でシミュレーションを行えば、早い段階で効果を机上で確認できます。
新宿労働総合庁舎の設計においても、環境シミュレーション等を基本設計段階から活用し、効果を数値的に確認しながら進めました。
これは施設整備全体の手戻りのリスク低減につながる大きなメリットであると考えています。
 
②情報共有・コミュニケーション
新宿労働総合庁舎の設計では、設計者と設計業務の発注者である営繕技術者との打ち合わせは、作成されたBIMモデルをプロジェクタでスクリーンに映しながら行いました。
打ち合わせ中に出された提案は、その場でBIMモデルに反映され、改善案として具体的に示されます。
このため、多様な提案を素早く検討することができ、限られた時間の中でより良い設計を行うことが可能となります。
 
さらに、関係者一同がモデルを囲んで議論することで、新たな気付きやさまざまなアイデアが出てくることが期待できます。
また言葉での情報共有は人によって捉え方が異なる恐れがありますが、BIMでは具体的に目で確認できることから、確実な情報共有が可能となります。
これにより、設計関係者の間での情報共有はもちろん、入居予定官署の担当者等建築の専門家ではない関係者に対しても具体的で理解が容易なプレゼンテーションが可能になります。
このようにBIMはコミュニーションツールとしても有効であると考えられます。
 
③業務管理が容易になる
今回の業務では、建築分野の主要な図面については単一のBIMモデルから出力しているため、図面間の不整合が生じることがありません。
図面間の食い違い等の確認など、あまり生産的でない作業が軽減され、設計の本質的部分に労力を注ぐことができます。
また、作成途中のBIMモデルからでも2次元の図面を出力することができますので、これを利用して図面作成の進捗状況を実施設計の途中段階で確認することにより、発注者にとっても業務の管理がより容易になると考えられます。
 

図-10BIMを使った打ち合わせの様子
図-10 BIMを使った打ち合わせの様子
図-11アプローチ廻り外観
 図-11 アプローチ廻り外観

 
 

見えてきた課題

このようにBIMを活用することにより、発注者と受注者の双方にメリットがある一方で、設計段階での作業の進行が従来よりもスピーディになり、意志決定の段階が前倒しになることから、発注者側の設計与条件の整理が不十分だったり判断が遅くなったりすると作業が滞ってしまいます。
つまり、BIM導入のメリットであるフロントローディングを実現するためには、初期段階での適切な与条件整理や企画立案、提案に対する迅速な判断が重要なポイントであり、その意味ではBIMの活用は設計者のみならず、発注者の企画力・判断力も問われるものであると考えます。
 
また、BIMモデルはさまざまな建築部材、設備機器等の形状・属性情報から構成されていますが、これらのデータを「設計のどの段階で、どのような内容を、どのくらい詳細に入力するか」といったデータ入力に関する最低限の条件を関係者間であらかじめ決めておく必要があるということが分かりました。
これは、今回新宿の試行施行に関しては基本的に「発注図が欲しい」としか業務として要求していないため、以降の施工や維持管理段階につなげるための情報については、必要のない情報まで入力されていて、それがデータの一元化に対して問題となっており、これも今後の検討が必要となることが分かりました。
 
 

施工段階におけるBIM導入の試行

平成23年末から着工している新宿労働総合庁舎建築工事において、設計段階で作成されたBIMモデルを活用し、以下の項目について施工段階における試行を行い、設計段階での試行と同様にプロセスの違いやBIM導入の効果・課題を検証しています。
 
●設計段階で作成されたBIMモデルを活用した基準階施工図の作成
●基準階天井内、主要設備室および地下ピット内の建築・設備等の干渉チェックによる整合性確認
 
現在、地下における干渉チェックを終え有効性を確認しているところです。
 
 

おわりに

営繕部は設計・工事の発注者としてだけでなく、官庁施設の企画・計画、設計監理、施工監理・検査、保全指導等を通じ、建築物のライフサイクル全般に関わることができる立場にあります。
こうした立場を生かして、設計業務におけるBIM導入について引き続き試行等による検証を進めていくとともに、施工・維持管理・運営を含む建築生産プロセス全般においても、BIMがどのように活用できるのか今後、検討していきたいと考えています。
 
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



もし3年目の女子社員がBIMを始めたら~中小設計事務所のBIM奮闘記~

2013年11月27日

 

株式会社 山設計工房

 
 

BIM導入前夜

入社3年目の女子社員
私が勤務する事務所は集合住宅の意匠設計を主な業務としている。
会社規模はそれほど大きくないものの、延床面積1万㎡超のプロジェクトを扱うこともしばしばある。
 
2011年まで私が使っていたCADは1998年発売のVectorWorks ver.8。
私が入社するずっと以前から先輩たちがおよそ14年間愛用し続けてきたソフトだ。
そんなわが社の歴史と伝統が詰まったソフトを駆使して日々の仕事に励んでいたが、時折不都合があった。
 
高いバージョンのCADを使用している協力事務所とのデータのやり取りに手間がかかる(その度に相手方にバージョンを下げてもらう必要がある)、着色やハッチングといった図面表現の機能が乏しいため力技による図面レイアウトを行うこともしばしば…操作感に多少のストレスを感じてはいたものの、業務上は致命的な問題とまでは至らず、「まあこんなものかな、まだこのソフトも十分使えるかな」と少しの不都合を感じながらも仕事に励んでいた。
 

図面データが開けない!

2011年の秋、苦心の末にプロポーザルで勝ち取った某団地建て替えのプロジェクトで、それまでの「些細な不都合」が突然「致命的な問題」へと変わってしまった。
 
敷地面積が数ヘクタールと広大なその団地は、既に先行して他の複数の街区が建て替えられており、他の設計事務所がそれらの膨大なデータを統合した配置図を作成していた。
そのデータを引き継いで、いざ業務に取り掛かろうとした時だった。
 
データが開かないのだ。
 
大容量のそのデータは同じVectorWorksで作成されていたもののバージョンが遥かに高く、データを作成した設計事務所にバージョンを下げてもらおうにもver.8まで下げることはできなかった。
それならば、とDXFデータに変換してもらったのだが、変換したことによりデータ容量がさらに大きくなってしまい、当時使用していたスペックのPCは完全にフリーズ。 仕事に支障が出るというレベルではない。
 
このままでは仕事ができない。
 
とうとう私たちは、膨大な容量のデータが動くハイスペックなPCと最新版のソフトを購入せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。
 

…BIM?

上司の指示で、最新のPCとソフトの現状についてすぐに情報収集を始めた。
特にソフトについてはメーカーのホームページを隅々まで調べた。
 
「クリエイティブな2D表現力」「縮小された取り込み時ファイルサイズ」などなど…そこには私が日々少なからず不都合に感じていたことを丸ごと解決してくれそうな心躍る魅力的なフレーズと画像がいくつも並んでいた。さらに上位製品になると美しいパースも描け、BIMも使えるそうだ。
 
 
…BIM?
 
 
3つのアルファベットによる見慣れない単語が目に飛び込んできた。
読み進めると「スラブツール」「壁オブジェクト」「窓オブジェクト」といった機能が搭載されているようなのだが、なんだかよくわからない。
気になったので今度はインターネットで「BIM」なるものを調べ始めた。
Wikipediaから始めて建設ITまでたくさんのサイトを見たけれど、なんとなくわかったような、わからないような…ひとつだけ確かなのは、どうやら「BIM」は「ビム」と読むらしく、ここ数年で日本でも普及し始めているそうだ。
 

先輩、BIMって知ってます?

新しモノ好きな私は一気に興味が湧いたので、インターネットで集めた資料を持って先輩のもとへ駆けつけた。
先輩にもBIMに興味を持ってもらい、一緒に上司を説得してBIM機能を搭載したソフトを導入してもらおうと考えたのだ。
 
「先輩、BIMって知ってます!?」
 
かき集めた資料を手に何とか先輩に理解してもらおうと一生懸命説明した。
しかし私自身がBIMをしっかり理解しておらず、断片的な知識しかないため説明はしどろもどろ。
それでも先輩は黙って最後まで説明を聞いてくれて、最後に一言ポツリと言った。
 
「要するに、BIMというのはPCの中で仮想の建物を実際と同様につくるという概念なんじゃないかな」
「複雑な構成の建物を設計する場合なら有効かもしれないけど、僕らが設計するシンプルな構成の建物には必要ないんじゃないかな」
 
と、冷静かつ否定的な感想が返ってきた。
 
私自身がきちんと理解できていないのだから、先輩に興味を持ってもらえるような説明ができるはずがない。
しばらく考えて、意を決してVectorWorksを取り扱うエーアンドエー社に電話した。
餅は餅屋だ。
自分で調べて人に説明するよりも、メーカーの方に分かりやすく説明してもらって本物のBIMを見せてもらった方がはるかに理解しやすいはずだし、先輩や上司にも同席してもらえば同じ情報を共有できる。
BIMに興味があり導入を検討している旨を電話口で伝え、BIMの説明とソフトのデモンストレーションをしてもらえないかお願いしたところ、快諾してくれた。
 
 

ツールを求めて

数日後、エーアンドエー社の担当者の方に来所いただき、先輩と上司にも同席してもらった。
BIMについての知識はほぼゼロであることを伝え、BIMとは何か、BIMで設計することでこれまでと何が変わるのか、どのようなメリットがあるのか、といった内容で、分かりやすい初心者向けのプレゼンテーションをしていただいた。
 

BIMとCADの違いに戸惑い

BIMはCADと異なり「線を引く」のではなく、柱や壁を「立てる」、窓を「取り付ける」ことで3次元空間に建物を建設し、そこから図面を作り出すことが分かった。
これまで使っていたCADとはまるで違う概念であることに正直かなり戸惑った。
本当に私たちに使いこなせるのか…不整合の回避やプロジェクト初期段階でのパース確認といったBIMのメリットに対して大きな魅力と可能性を感じつつ、同時に不安も大きくなっていった。
 
先輩も同じ不安を持っていたのだろう。
BIMで設計を進めていて途中で挫折してしまった場合はどうなるのか、一度BIMで設計を始めたら詳細図レベルまでBIMでやり切らなければならないのか、と矢継ぎ早に質問していた。
 
確かに、慣れないBIMで設計を始めてしまったがばかりに、もし途中でうまくいかなくなってBIMを諦めざるを得ないことになってしまったら、もう一度これまでのCADでやり直すことになってしまうのか…?そう考えるとBIMを導入することがリスキーなことに思えてきてしまった。
しかし、メーカーの方がおっしゃった一言でその不安は解消された。
 
「全ての図面をBIMで作成する必要はありません。3次元モデルを基にこれまでと同じように2次元で作図することができますよ」
 
それを聞いて先輩も安心したようだ。最初は無理をせず、少しだけBIMを取り入れてみる。
慣れてきたら少しずつBIMの割合を増やしていくことができる(これを「BIM度を上げる」と表現されていた)。
つまり私たちのペースで、私たちのやり方でBIMに取り組むことができ、私たちなりのBIMを目指していけば良いのだ。
途中で3次元から2次元へ移行できるということが大きな安心につながり、BIM機能を搭載したVectorWorksを購入することで満場一致した。
 

ワクワクとドキドキ

BIM導入を決めた時、もう少し待てばさらに新しいバージョンが発売される状況だった。
「どうせなら少しでも新しいものを」という上司の言葉もあり、発売までBIMは少しお預けとなった。
 
発売までBIMについての興味がどんどん膨らみ、ネットや書籍で周辺情報をあれこれ夢中で調べた。
BIMを華麗に操り、どんどん図面を作る自分を妄想していたのだが、調べていくとひとつ気付いたことがあった。
 
メディアに登場するBIMを本格的に使って設計された建物の設計者を調べていくと、決まって一部の大手設計事務所の名前が目に付いた。
そのうちに「デモンストレーションではメーカーの人は簡単そうに操作していたけど、実はBIMはとても難しいんじゃないか?星の数ほどある設計事務所の中でも、BIM導入に成功しているのは一握りなのかもしれない…」そんな不安が少しだけ頭をよぎった。
 
大きな期待とほんの少しの不安を抱きながら、最新版のBIMソフトを手にし、慣れ親しんだVectorWorks ver.8に別れを告げた。
 
 

BIM入門

とにかく使ってみよう!

愛用のBIM実践講座

愛用のBIM実践講座


私が担当していた当時進行中のプロジェクトに含まれる自転車置場と小さな付属棟設計でBIMを試してみることにした。
 
エーアンドエー社のホームページから事前にダウンロードしていたVectorWorksのためのBIM参考書『BIM実践講座』を横に置きながら、まずはRC壁式造の付属棟から始めた。
参考書の手順通りに壁ツールで壁を立てて、スラブツールで屋根を架けて、アクソメで確認しながら修正して…シンプルな形状だったので比較的スムーズにモデリングできた。
モデリングが終わるといよいよ図面を生成してみる。
こちらも参考書を見ながら平面図、立面図、断面図、ついでにパースも生成した。
 
 
思ったより簡単かも!
 
 
始める前の不安は吹き飛び、しばらくの間、意味もなく壁を動かしてみて、全ての図面が連動して自動に変更されていることに一人で驚き歓喜する私。
 

早速つまずいた!

ひとしきりBIMの基本機能を堪能したところで、次に自転車置場の設計に取りかかる。
こちらはS造で設備棟よりさらに小さかったのだが、ここで大きくつまずいてしまった。
 
参考書のモデルはRCの壁式造だったため、H鋼の柱や梁のモデリングの仕方が載っていないのだ。
インターネットで散々検索してみたものの、具体的な解説が載っているサイトは見当たらなかった。
困り果ててあれこれツールをいじって何とかH鋼を作ることができた。
 
実はさまざまな形状の鋼材が簡単に作れるツールがあるのだが、そのツールを知らなかったため、柱1本モデリングするのに結局半日かかってしまったのだ。
試行錯誤の末に、何とか自転車置場の平面図、立面図、断面図、パースを生成したが、このアウトプットに対する作業時間を考えるとそれぞれの図面を通常の2次元CADで描いてしまった方が早かったかもしれない。
部材をひとつずつモデリングし、必要ならば属性を与えていかなければならず、2次元CADで作図するよりも遥かに時間がかかるのだ。
 
とにかくそれが私の初めてのBIMで、残念ながらこの付属棟の計画は結局取り止めとなってしまったのだが、以降のプロジェクトでは部分的にでもBIMで設計するよう努めた。
 
早速つまづいた
 

いよいよBIMを全面導入! ところが…

さまざまな機能を試しながら少しずつBIMに慣れてきた頃、新しいプロジェクトを担当することになった。
 
そのプロジェクトは延床面積5000㎡弱の比較的小規模の集合住宅だった。
 
 
いよいよ本格的にBIMで設計できるチャンスが来た!
 
 
上司と先輩に相談し、初めてプロジェクトの初期から全面的にBIMを導入してみようということになった。
この頃にはモデリングも大分スムーズに行えるようになり、図面とパースで確認しながらいくつも検討案を作った。
 
自分のスキルが確実に上がっていることをひしひしと実感しながらプロジェクトが進み、計画の大きな方針が決まってそろそろ構造や設備といった他の職種と調整する必要が出てきた頃に悩ましい問題が発生した。
 
私たちの事務所では意匠設計のみを行い、他の職種については外部の設計事務所に協力を仰いでいる。
協力事務所がBIMを導入していない場合、図面データ渡す際にDXFデータに変換する必要があるのだが、これがなかなかうまくいかないのだ。
 
DXF変換したはずのファイルを相手が開けなかったり文字化けしたりとまともな状態のデータを送ることができず、最終的にはデータを送付するたびに力技でBIMモデルを線データに壊すことで何とか送ることができた。
 
結局、このやりとりが手間になり、途中でBIMでの設計を諦めて2次元CADの設計に切り替えてしまった。
他職種の協力事務所とのやり取りが不可欠な私たちにとってスムーズなデータのやり取りができない以上、BIMで設計することが逆に足枷になってしまう可能性もあるかもしれない。
思いもよらない課題を突き付けられつつも、今もBIMのスキルアップに励んでいる。
 

新しい感覚

BIMの操作に慣れ始めてから感じている新しい感覚がある。
 
図面とパースがリアルタイムで連動することで検討案を複数作成する作業が格段に早くなった。
今までは2次元CADで図面を作成し、それを基に別ソフトでモデリングするというステップでパースを作成していたためパースを作るのに時間がかかったが、BIMはひとつのモデルからパースと図面を作るため、これらを同時に生成することができる。
 
このリアルタイム感がこれまでのCADにはなかった感覚だ。
また、ある種の「融通が効かなさ」に表れるデジタル感だ。
 
BIMの入力作業は、作図をするというよりもPC上で実際に建物を建てるという感覚がある。
例えば鉄骨造の自転車置場では仕上材の下地をきちんとモデリングしないと、アクソメやパースで表示したときに仕上材が浮いている状態になる。
これまでは二重線で何となく表現してしまっていたところが、BIMで設計する際にはまるでPC上のモデルからさまざまな質問を投げかけられるような感覚になる。
 
「ここの納まりはどうなっているの?」
「ここはどんな下地がどれくらいのピッチで入っているの?」
 
などと問われ、明確な答えをモデリングしなければ、平面図表示では納まっているように見えても、断面図表示では納まっていなかったというようなことがある。
つまり、BIMで設計する上では建築一般についてしっかりとした知識が必要となり、経験が浅く知識の少ない私は所々で手が止まってしまうのだ。
 
BIMとは正直である。
BIMには「現場合わせ」なんていうアナログ的言語は通用しないのだ。
 
 

私たちのBIMを求めて

テンプレート=財産

木製建具、アルミサッシ、キッチン、椅子、テーブル、壁仕上げ、床仕上げ等建築に関わる材料、部品を挙げるときりがないが、それらがある程度テンプレート化されているとモデリング等の時間は格段に短縮できる。
またそれらの積み重ねは設計事務所の仕様、つまり意思ともいうべきものになっていくはず。
 
しかし、それらを構築するには膨大な時間と労力が必要とされる。
 
大手組織事務所やゼネコンでの取り組みは数々のメディアにて取り上げられていて、その完成度の高さに舌を巻くけれど、彼らも膨大な時間や人工を浪費した上でシステムを完成させたはずなのだ。
つまり弱小事務所がBIMを取り入れ、それをフル活用するには時間も金もノウハウも足りない。
これからは実際のプロジェクトの中でBIMを取り入れていき、少しずつでも着実にテンプレートを作りため、事務所の財産を増やしていければと思う。
 

実務レベルの情報が足りない

今も少しずつではあるがBIMのスキルを上げている実感はある。
もっと上達して、近いうちに建築雑誌に載っているようなBIMモデルを利用した風や光、熱環境などのシミュレーションをどんどん試したいと思っているが、そのステップに辿り着くにはもう少しスキルアップが必要だ。
 
ところが、BIM入門者向けの手引き的な情報がまだまだ少なく、雑誌の紙面を飾る華やかなBIM情報と入門者の実力の間には大きな隔たりを感じる。
BIMで設計した最先端の事例やBIMの可能性といったBIMそのものの情報はインターネットや書籍でたくさん存在しているのだが、ツールの操作方法や機能といった実務レベルでの情報となると少ないのだ。
 
目標へたどり着くための地図がないため、日々ひたすらあがいて試行錯誤を繰り返しながら何とか少しずつ前に進んでいるような感覚だ。
 

将来の私を夢見ながら

BIMは2DCADと同様に標準的なツールとして広く浸透していくことだろう。
 
「ウチは小さい事務所で今も業務に支障はないからBIMなんて関係ない」
 
なんてことを言っていてはもったいない。
BIMというツールを大手組織事務所やゼネコンだけのものではなく、私たち中小事務所も積極的に取り入れていくべきだ。
その時、建築設計がどのような変革を迎え、何を魅せてくれるのか。
またその時、私たち設計者は何を見据えて設計業務に取り組んでいるのか。
非常に楽しみな世界が待っているのは間違いない。
 
いつの日か、自由自在にBIMを操りどんどん図面を作り出す自分の姿を夢見ながら、私は今日もあがき続ける。
 
将来の私を夢見ながら
 
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



 


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